以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜3には、本発明の第一の実施形態としてのダイナミックダンパ10が、車両への装着状態で示されている。ダイナミックダンパ10は、マス部材12とブラケット14が一対の支持ゴム弾性体16,16によって相互に弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、前後方向とは図1中の紙面直交方向を、それぞれいう。
より詳細には、マス部材12は、マス本体18と突出部20を一体で備えた構造とされている。マス本体18は、図4〜10にも示すように、全体として略四角ブロック形状を有しており、鉄などの比重の大きな材料で形成されている。また、本実施形態のマス本体18は、前後方向の長さ寸法が左右方向の長さ寸法よりも大きくされており、特に前後方向の長さ寸法は、後述する門形部材28の側板部32の前後幅寸法よりも大きくされている。
突出部20は、図9,10に示すように、左右方向に長手状とされた厚肉板形状乃至は長手ブロック形状を有する突条であって、マス本体18の前後および左右の中央部分においてマス本体18の下面から下向きに突出している。なお、突出部20の左右方向の長さがマス本体18の左右方向の長さよりも短くされていると共に、突出部20の前後方向の長さがマス本体18の前後方向の長さよりも短くされており、突出部20の上端とマス本体18の下端の接続部分には、突出部20の周囲全周に亘ってマス本体18の下面で構成される段差が形成されている。
なお、本実施形態のマス部材12は、鋳物などの型成形品とされており、上下に組み合わされた鋳型によって成形されたマス部材12から鋳型を取外し易いように、マス本体18の外周面が上方へ行くに従って内周へ傾斜するテーパ面22を備えていると共に、突出部20の外周面が下方へ行くに従って内周へ傾斜するテーパ面24を備えている。
さらに、図9に示すように、マス本体18の左右両面において、後述する一対の側板部32,32と対向して同じく後述する一対の支持ゴム弾性体16,16が固着される前後中央部分は、上下方向に対する傾斜角度がテーパ面22よりも小さくされた固着面26,26とされている。本実施形態の固着面26,26は、上下方向に対して傾斜することなく、左右方向に対して略直交して広がっている。
ブラケット14は、図1〜3に示すように、門形部材28と取付部材30によって構成されている。門形部材28は、金属などで形成された高剛性の部材であって、図4〜6や図8〜10などにも示すように、上下および前後に広がる一対の側板部32,32の一端である上端部が、左右に延びる長手板状の連結板部34によって相互に連結された構造を有している。
側板部32は、図5,8に示すように、略一定の厚さで広がる板状とされており、下部が略一定の前後幅寸法で上下に延びていると共に、上部が上方に向けて前後で幅狭となっている。また、側板部32の上端部が連結板部34と一体的に連続していると共に、側板部32の下端部には、図4〜7などにも示すように、左右外側に向けて突出する板状の取付片36が一体形成されており、取付片36には、厚さ方向である上下方向に貫通するボルト孔38が形成されている。
連結板部34は、前後方向の幅寸法が左右方向の長さ寸法よりも小さくされて左右方向へ直線的に延びる長手板状とされており、左右両端部が一対の側板部32,32の前後中央部分の上端部に一体で連続している。したがって、本実施形態において、連結板部34による一対の側板部32,32の連結方向は、一対の側板部32,32の対向方向である左右方向とされている。また、図8に示す連結板部34の前後幅寸法dは、一対の側板部32,32の下部の前後幅寸法Dよりも小さくされている。なお、一対の側板部32,32と連結板部34を備える門形部材28は、例えばプレス金具によって形成することができる。
この門形部材28における一対の側板部32,32と連結板部34で囲まれた領域に対して、図4〜10に示すようにマス部材12が配設される。そして、マス部材12と門形部材28の一対の側板部32,32が一対の支持ゴム弾性体16,16によって相互に弾性連結されている。このようにマス部材12と門形部材28が一対の支持ゴム弾性体16,16で弾性連結された状態において、マス部材12の突出部20は、門形部材28の連結板部34に対して前後方向および左右方向で対応する位置、換言すれば連結板部34に対して上下投影で重なり合う位置において、マス本体18から連結板部34と反対側である下方に向けて突出している。
支持ゴム弾性体16は、図8,9に示すように、左右方向に延びる略円柱形状乃至は略円板形状であって、左右方向の一方の端面がマス本体18の固着面26に加硫接着されていると共に、左右方向の他方の端面が固着面26と対向する側板部32の左右内面に加硫接着されている。このように、本実施形態の一対の支持ゴム弾性体16,16は、マス部材12と門形部材28を備える一体加硫成形品40として形成されている。なお、一対の支持ゴム弾性体16,16が固着されるマス部材12の左右両面の前後中央部分(固着面26,26)と一対の側板部32,32の左右内面は、何れも、左右方向に対して略直交して広がる平面とされており、マス部材12の固着面26と側板部32の左右内面が互いに平行に広がっている。
さらに、マス本体18の表面には、一対の支持ゴム弾性体16,16と一体形成された被覆ゴム層42が略全体を覆うように固着されている。また、マス部材12と一体形成された突出部20の外周面が、被覆ゴム層42と一体形成された緩衝ゴムとしての下緩衝ゴム層44によって覆われていると共に、突出部20の先端面である下面がゴムで覆われることなく露出している。更にまた、門形部材28の連結板部34の下面は、一対の支持ゴム弾性体16,16と一体形成された上緩衝ゴム層46で覆われている。
また、一体加硫成形品40の門形部材28には、取付部材30が固定されている。取付部材30は、金属などで形成された高剛性の部材であって、下向きに開口して左右に延びる溝形状を有している。
より具体的には、取付部材30は、図1〜3や図11に示すように、前後方向で相互に対向配置された一対の側壁部48,48と、それら一対の側壁部48,48の上端部を相互に連結する上底壁部50とを一体で備えた構造を有している。側壁部48は、左右方向で上下寸法が変化しており、左右方向の中央部分が左右方向の両端部分よりも上下寸法の大きな固定部52とされている。
上底壁部50は、左右方向に長手の略四角板形状とされており、左右方向の両端部分には上下に貫通するボルト孔54がそれぞれ形成されている。これらのボルト孔54,54は、門形部材28の取付片36,36に形成されたボルト孔38,38と対応する位置に形成されている。また、取付部材30における上底壁部50の中央部分には、上下に貫通する開口部56が形成されている。開口部56は、左右寸法が前後寸法よりも大きくされた矩形乃至は長円形の孔断面形状を有しており、開口部56の左右寸法が門形部材28における一対の側板部32,32の対向面間距離よりも大きくされていると共に、開口部56の前後寸法が側板部32の下部の前後寸法よりも小さくされている。
そして、取付部材30は門形部材28に対して下方から重ね合わされており、上底壁部50の左右両端部が門形部材28の一対の取付片36,36に重ね合わされた状態で、上底壁部50のボルト孔54と取付片36のボルト孔38にボルト58が挿通されると共に、ボルト58にナット60が螺着されることによって、取付部材30と門形部材28が相互に固定される。これにより、門形部材28における一対の側板部32,32の他端である下端部が、取付部材30によって相互に連結されている。
かくの如き門形部材28と取付部材30が固定された状態において、門形部材28と支持ゴム弾性体16で弾性連結されたマス部材12が、門形部材28の連結板部34と取付部材30の上底壁部50との上下間に配設されている。これにより、マス部材12は、上下左右を門形部材28の連結板部34および一対の側板部32,32と取付部材30の上底壁部50とによって囲まれた状態で配設されている。なお、マス部材12のマス本体18は、門形部材28と取付部材30で構成されたブラケット14に対して前後両側へ突出している。
ここにおいて、マス部材12に一体形成された突出部20は、マス本体18から取付部材30に向けて突出しており、マス部材12に向けて開口する取付部材30の開口部56に差し入れられている。本実施形態では、突出部20が開口部56を貫通して挿通されており、突出部20の上下中間部分の外周面が開口部56の内周面と対向して配置されている。また、突出部20の外周面を覆う下緩衝ゴム層44の外周表面と、開口部56の内周面は、全周に亘って互いに離れて対向しており、それら下緩衝ゴム層44の外周表面と開口部56の内周面との間に隙間が形成されている。なお、下緩衝ゴム層44の外周表面と開口部56の内周面の対向面間距離は、左右方向において前後方向よりも大きく設定されている。
さらに、図3に示す突出部20の下端から取付部材30の上底壁部50の上面までの上下方向距離Aは、マス部材12と門形部材28の連結板部34との上下対向面間距離Bよりも大きくされている(A>B)。より好適には、マス部材12がブラケット14に対して独立して変位せしめられて、マス部材12とブラケット14の相対的な位置や傾きなどが変化しても、突出部20が開口部56から抜けることなく開口部56に対する挿入状態とされるように、距離Aと距離Bの差が設定される。
このような構造とされたダイナミックダンパ10は、図1〜3に示すように、アクスルハウジング62などの制振対象部材に固定される。即ち、ダイナミックダンパ10の取付部材30の固定部52がアクスルハウジング62に対して溶接などの手段で固定されることにより、ダイナミックダンパ10のブラケット14がアクスルハウジング62に固定される。これにより、ダイナミックダンパ10のマス部材12が、アクスルハウジング62に対して一対の支持ゴム弾性体16,16を介して弾性支持されており、マス部材12と一対の支持ゴム弾性体16,16を含んで構成された副振動系が、アクスルハウジング62に取り付けられる。なお、図2,3において、アクスルハウジング62に収容されているアクスルなどの部品は、図示を省略した。
かかるダイナミックダンパ10のアクスルハウジング62への装着状態において、アクスルハウジング62の振動がダイナミックダンパ10のブラケット14に入力されて、一対の支持ゴム弾性体16,16を介してマス部材12に伝達される。そして、マス部材12と一対の支持ゴム弾性体16,16で構成されるマス−バネ系の共振周波数が、アクスルハウジング62において問題となる制振対象振動の周波数にチューニングされていることにより、アクスルハウジング62からダイナミックダンパ10への振動入力に対して、マス部材12が共振状態で変位せしめられて、目的とする制振作用がアクスルハウジング62に及ぼされるようになっている。
なお、通常の振動入力によるマス部材12の変位に際して、被覆ゴム層42で覆われたマス部材12の上面と上緩衝ゴム層46で覆われた連結板部34の下面は、相互に当接することなく離隔している。更に、被覆ゴム層42で覆われたマス本体18の下面と取付部材30の上底壁部50の上面が相互に当接することなく上下に離隔していると共に、下緩衝ゴム層44で覆われた突出部20の外周面と取付部材30の開口部56の内周面も相互に当接することなく離隔している。
一方、ダイナミックダンパ10は、一対の支持ゴム弾性体16,16が万一破断しても、マス部材12がブラケット14から脱落することなく、ブラケット14の門形部材28と取付部材30の間に保持されるようになっている。
すなわち、例えば支持ゴム弾性体16,16が破断してマス部材12がブラケット14に対して独立して変位可能になったとしても、マス部材12のブラケット14に対する上下方向および左右方向の相対変位量は、門形部材28の一対の側板部32,32および連結板部34と取付部材30の上底壁部50とによって制限される。これにより、マス部材12のブラケット14に対する上下方向および左右方向への脱落が防止されている。
さらに、マス部材12のブラケット14に対する前後方向の相対変位量は、マス部材12と一体で設けられた突出部20の外周面が、取付部材30の開口部56の内周面に当接することで制限されるようになっており、マス部材12のブラケット14に対する前後方向への脱落が防止されている。なお、突出部20は、マス部材12がブラケット14に対して独立して相対変位しても、開口部56への挿入状態に保持されるようになっており、突出部20の外周面と開口部56の内周面との当接によって、マス部材12のブラケット14に対する相対的な変位量が制限される。
これらによって、マス部材12のブラケット14に対する相対変位量が前後、左右、上下の各方向において制限されており、ダイナミックダンパ10には、マス部材12のブラケット14からの脱落を各方向において防止し得るマス部材12の脱落防止機構が設けられている。
このような本実施形態に従う構造とされたダイナミックダンパ10によれば、マス部材12のブラケット14に対する前後方向の相対変位量を制限する構造が、マス部材12に設けられた突出部20がブラケット14の取付部材30に設けられた開口部56に挿通されることで構成されている。これにより、ブラケット14の門形部材28を構成する連結板部34は、マス部材12のブラケット14に対する上方への相対変位量をマス部材12との当接によって制限することが可能とされていれば、特に構造を限定されない。したがって、本実施形態の連結板部34のように、側板部32に比して前後方向の幅寸法を小さくして、ブラケット14の軽量化を図ることなども可能となる。
特に本実施形態では、側板部32に比して前後幅寸法を小さくされた連結板部34がマス部材12に対して前後方向の略中央に配置されている。これにより、前後幅寸法の小さい連結板部34にマス部材12が当接する場合に、マス部材12に回転モーメントが作用し難く、マス部材12の傾動による他部材への干渉などが生じ難くなる。
しかも、マス部材12がブラケット14に対して前後方向に移動して、マス部材12の突出部20がブラケット14を構成する取付部材30の開口部56の内周面に当接すると、マス部材12が当接に起因する回転モーメントによって傾動せしめられる場合がある。この場合に、図12に示すように、マス部材12の傾動が連結板部34に当接によって制止されて、マス部材12が傾動によって周辺の他部材に接触することを防ぐことができる。なお、本実施形態では、マス本体18の表面が被覆ゴム層42で覆われていることにより、上述のごときマス部材12の傾動時に、マス本体18と連結板部34が被覆ゴム層42を介して当接することから、打音や衝撃が緩和されている。また、図12からも理解されるように、マス部材12が傾動などしても、マス部材12の突出部20は、取付部材30の開口部56へ差し入れられた状態に保持される。
特に、連結板部34がマス部材12に対して前後方向の中央部分に配置されていることで、突出部20と開口部56の内周面との当接が前後何れの側で生じたとしても、マス部材12の傾動が連結板部34への当接によって速やかに制止されるようになっている。
さらに、本実施形態では、連結板部34が幅狭とされて門形部材28の上部の軽量化が図られていると共に、突出部20が連結板部34と反対側である下方へ向けてマス本体18から突出している。これらによって、ダイナミックダンパ10の重心位置がより下方に設定されており、ダイナミックダンパ10の車両への装着状態において車両の低重心化が図られ得る。
また、突出部20がマス本体18と一体的に設けられており、突出部20が型成形によって形成されることから、突出部20の形状を大きな自由度で設定することができる。それゆえ、突出部20の変形剛性を十分に大きく設定することができて、マス部材12のブラケット14に対する前後方向の相対変位を有効に制限することができる。
さらに、突出部20は、左右方向の長さ寸法が前後方向の長さ寸法よりも大きくされていることから、突出部20の外周面と開口部56の内周面が前後方向で当接する際に、当接面積が大きく確保されて荷重の分散化が図られる。それゆえ、当接時の荷重によって突出部20が損傷したり、取付部材30が開口部56の開口周縁部において変形したりするのを防ぐことができる。
また、開口部56に差し入れられた突出部20の上下中間部分の表面が、下緩衝ゴム層44によって覆われていることから、突出部20と開口部56の内周面との当接時に突出部20および取付部材30に作用する力が低減されて、当接時の打音の低減や変形の防止などが実現される。しかも、下緩衝ゴム層44は、支持ゴム弾性体16,16と一体形成されていることから、部品点数を増やすことなく下緩衝ゴム層44を設けることができる。
さらに、マス部材12の上面が被覆ゴム層42によって覆われていると共に、連結板部34の下面が上緩衝ゴム層46によって覆われており、マス部材12と連結板部34がそれら被覆ゴム層42および上緩衝ゴム層46を介して当接するようになっていることから、マス部材12と連結板部34の当接時の打音や衝撃が緩和される。同様に、マス部材12の下面が被覆ゴム層42によって覆われており、マス部材12と取付部材30の上底壁部50が被覆ゴム層42を介して当接するようになっていることから、マス部材12と取付部材30の当接時の打音や衝撃も緩和される。なお、被覆ゴム層42および上緩衝ゴム層46も、下緩衝ゴム層44と同様に支持ゴム弾性体16,16と一体形成されていることから、部品点数の増加が回避される。
更にまた、マス部材12の左右両面と一対の側板部32の左右内面との対向面間には、それぞれ支持ゴム弾性体16が設けられていることから、支持ゴム弾性体16が破断してマス部材12が側板部32に当接する際には、支持ゴム弾性体16の緩衝作用によって当接時の打音や衝撃が緩和される。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、マス部材12のマス本体18の具体的な形状は四角ブロック状に限定されるものではなく、球状や異形ブロック状などであっても良い。更に、マス部材12の突出部20の形状も適宜に変更可能であり、例えば左右方向で長手の突条に限定されることなく、上下に延びる柱状などとされ得る。
また、マス部材12の突出部20の前後中央とブラケット14の連結板部34の前後中央は、前後方向において互いに同じ位置であることが望ましいが、それらが互いに異なるようにマス部材12と連結板部34の相対位置を設定することもできる。要するに、突出部20の前後中央と連結板部34の前後中央は、前後方向で互いにずれていても良い。
前記実施形態では、連結板部34が一対の側板部32,32に比して幅狭とされた構造のブラケット14を例示したが、連結板部34の具体的な構造は、マス部材12の上方への相対変位を当接によって制限し得る剛性を有していれば、特に限定されるものではない。
また、取付部材30の開口部56の孔断面形状は、突出部20の形状に応じて変更され得る。更に、取付部材の開口部は、前記実施形態のような貫通孔の他、上面に開口する凹所状であっても良く、その場合には突出部20の先端部分が開口部に差し入れられる。なお、凹所状の開口部を採用する場合には、突出部20の先端面が緩衝ゴムで覆われていても良く、マス部材12のブラケット14に対する下方への変位量が、突出部20の先端面と開口部の底面との当接によって制限されるようにもできる。
さらに、取付部材30の具体的な形状は、取付対象部材の形状などに応じて適宜に変更される。更に、取付部材30の取付対象部材への固定手段は、前記実施形態で例示した溶接に限定されず、例えばボルト固定や機械的な係合による固定などであっても良い。更にまた、取付部材30と門形部材28の固定手段は、前記実施形態で例示したボルト固定に限定されず、例えば溶接や機械的な係合による固定などであっても良い。なお、取付対象部材は、アクスルハウジング62に限定されず、車両ボデーやサブフレームなどであっても良い。