本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、第二の取付部材とブラケットを所定の相対位置に位置決めしながら、それら第二の取付部材とブラケットの組付性の向上を図ることもできる、新規な構造のブラケット付防振装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、該第二の取付部材にブラケットが装着されているブラケット付防振装置において、互いに向かい合わせに開口して前記第二の取付部材が差し入れられる一組の装着溝部が前記ブラケットに設けられており、該ブラケットにおける該一組の装着溝部の底壁部と側壁部の何れか一方が、前記第二の取付部材が圧入固定される固定部とされている一方、該ブラケットにおける該一組の装着溝部の底壁部と側壁部の何れか他方が、該第二の取付部材の両側に配置される受部とされていると共に、該第二の取付部材と該受部の間に突出する位置決め突部が、該第二の取付部材と該受部の少なくとも一方に対して圧入方向で部分的に設けられており、該第二の取付部材と両側の該受部とが該位置決め突部の形成部分において当接していると共に、該第二の取付部材と該受部とが該圧入方向に関して該位置決め突部の該形成部分以外の部分において離隔していることを、特徴とする。
このような第一の態様に従う構造とされたブラケット付防振装置によれば、第二の取付部材がブラケットの固定部に対して1方向で挟まれて圧入固定されていると共に、第二の取付部材とブラケットの少なくとも一方の受部とが位置決め突部を離れた部分で相互に離れている。これにより、第二の取付部材をブラケットの固定部の間に圧入する際に、第二の取付部材とブラケットの受部の全体が当接する場合に比して、第二の取付部材をブラケットに差し入れ易く、第二の取付部材とブラケットの組付作業が容易となる。
さらに、第二の取付部材とブラケットの両側の受部とが位置決め突部の形成部分において部分的に当接していることから、第二の取付部材とブラケットが位置決め突部の突出方向で相互に位置決めされており、それら第二の取付部材とブラケットの相対変位が制限される。それ故、目的とする防振性能を安定して得ることができると共に、第二の取付部材とブラケットの擦れによる異音の発生などが回避される。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記第二の取付部材が前記ブラケットの前記固定部に押し付けられる面に開口する凹部を備えているものである。
第二の態様によれば、第二の取付部材とブラケットの固定部との間に凹部による隙間が形成されることで、第二の取付部材をブラケットに圧入する際に必要な力が小さくなる。それ故、第二の取付部材とブラケットの組付作業が容易になって、製造の容易化が図られる。
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記凹部が前記圧入方向に延びる第一の凹溝を含んでいるものである。
第三の態様によれば、第一の凹溝が形成されることによって第二の取付部材とブラケットの固定部との圧入面積が調節される。更に、第一の凹溝が圧入方向に延びていることにより、第二の取付部材をブラケットの固定部に圧入する際に、第一の凹溝による案内作用が期待できて、第二の取付部材とブラケットの組付作業が容易になり得る。
本発明の第四の態様は、第二又は第三の態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記凹部が前記圧入方向とは異なる方向に延びる第二の凹溝を含んでいるものである。
第四の態様によれば、第二の凹溝を設けることによっても、第二の取付部材とブラケットの固定部との圧入面積を調節することができる。特に、第一の凹溝と第二の凹溝を組み合わせて設けることも可能であり、第二の取付部材とブラケットの固定部との圧入面積をより大きな自由度で調節することが可能となる。
本発明の第五の態様は、第四の態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記第二の凹溝が前記圧入方向と略直交して延びていると共に、該第二の凹溝における溝幅方向の両側面が該第二の凹溝の開口側に向けて拡開する傾斜面とされているものである。
第五の態様によれば、第二の凹溝を圧入方向と直交するように設けることで、圧入方向に延びる第一の凹溝と組み合わせて採用し易くなる。更に、第二の凹溝の溝幅方向の両側面が傾斜面とされていることで、隣り合う第二の凹溝の間でブラケットに圧入される部分の変形剛性が大きく確保されると共に、第二の凹溝の開口部のエッジが鈍角となって、第二の取付部材をブラケットに差し入れる際に、当該エッジがブラケットの固定部に引っ掛かるなどの不具合を防止することができる。
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか1つの態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記位置決め突部が前記第二の取付部材に形成されているものである。
第六の態様によれば、ブラケットの装着溝部内に位置決め突部を形成する場合に比して、位置決め突部を容易に形成することができる。
本発明の第七の態様は、第六の態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記位置決め突部が前記第二の取付部材における前記圧入方向の後端部に設けられているものである。
第七の態様によれば、第二の取付部材がブラケットに差し入れられて組み付けられる際に、位置決め突部がブラケットの装着溝部に最後に差し入れられることから、位置決め突部がブラケットの受部に摺接することによる摩擦抵抗などが、組付作業の妨げになり難い。
本発明の第八の態様は、第六又は第七の態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記位置決め突部における前記圧入方向の前面が、該位置決め突部の突出先端側へ行くに従って該圧入方向の後側へ傾斜する傾斜面とされているものである。
第八の態様によれば、位置決め突部の圧入方向前側のエッジが鈍角となることから、当該エッジがブラケットの受部に引っ掛かり難くなって、第二の取付部材をブラケットにスムーズに差し入れることができる。
本発明の第九の態様は、第一〜第八の何れか1つの態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記固定部が前記一組の装着溝部の底壁部で構成されていると共に、前記受部が各該装着溝部の側壁部で構成されているものである。
第九の態様によれば、一組の装着溝部が対向する方向において、第二の取付部材がブラケットに圧入固定されることから、装着溝部において比較的に設計自由度の大きい溝幅寸法を調節することで、圧入による固定力を調節することができる一方、各装着溝部の溝幅方向では、第二の取付部材がブラケットに対して位置決めされることから、装着溝部の溝深さ寸法が圧入による固定力に影響し難く、例えば装着溝部の溝深さ寸法を小さくすることで、ブラケット付防振装置の小型化を図ることができると共に、圧入時の摩擦抵抗などが小さくされる。
本発明の第十の態様は、第一〜第九の何れか1つの態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記第二の取付部材の両側に配された前記ブラケットの前記受部が、前記圧入方向の前側へ行くに従って相互に接近しているものである。
第十の態様によれば、第二の取付部材がまず受部間の距離が大きい部分へ差し入れられることから、第二の取付部材と受部の間に作用する摩擦抵抗などが小さく、第二の取付部材の受部間への差入れが容易になる。一方、第二の取付部材の受部間への差入完了後には、第二の取付部材が位置決め突部の形成部分において受部間で有効に位置決めされる。
本発明の第十一の態様は、第一〜第十の何れか1つの態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記第二の取付部材における前記一組の装着溝部が対向する方向の両端部には厚さ寸法が大きい厚肉部が設けられており、該厚肉部が前記ブラケットの該一組の装着溝部に差し入れられていると共に、厚さ寸法が該厚肉部に比して小さい薄肉部が該第二の取付部材におけるそれら厚肉部の間に一体形成されて、該第二の取付部材の厚さ方向一方の面が凹状面とされており、前記第一の取付部材が該第二の取付部材の該凹状面と対向して配されて、前記本体ゴム弾性体が該第一の取付部材と該第二の取付部材の該凹状面との間に配されているものである。
第十一の態様によれば、第二の取付部材において一組の装着溝部に差し入れられる部分が厚肉部とされることにより、例えば、厚肉部の高い変形剛性や圧入面積の確保によって、圧入による固定力を大きく得ることができる。一方、厚肉部の間に薄肉部が設けられていることにより、防振装置の大型化を防ぎながら、本体ゴム弾性体の自由長を大きく得ることができて、優れた防振性能や耐久性を実現することができる。
本発明の第十二の態様は、第一〜第十一の何れか1つの態様に記載されたブラケット付防振装置において、前記圧入方向に延びる肉抜溝が前記第二の取付部材に設けられて、前記第二の取付部材が該肉抜溝の溝幅方向で前記ブラケットの前記固定部に圧入されていると共に、該肉抜溝を横断する補強リブが該第二の取付部材に設けられているものである。
第十二の態様によれば、固定部によって挟まれる方向での第二の取付部材の変形剛性が肉抜溝によって低減されて、圧入反力と圧入に必要な力とが低減されることから、圧入による固定力の大きさと圧入作業の容易さとのバランスを適宜に調節することができる。更に、肉抜溝が開口形成されることで、肉抜溝の形成部分において圧入反力によるモーメントに対する耐荷重性が低下し易いが、肉抜溝を横断するように延びる補強リブが設けられることによって、肉抜溝の形成部分における第二の取付部材の耐荷重性の局所的な低下が軽減される。
本発明によれば、第二の取付部材がブラケットの固定部によって1方向で挟まれて圧入固定されていると共に、第二の取付部材とブラケットの少なくとも一方の受部とが、位置決め突部を外れた部分において相互に離れていることにより、第二の取付部材とブラケットの受部の全体が当接する場合に比して、第二の取付部材を一組の装着溝部に簡単に差し入れて、第二の取付部材とブラケットを固定することができる。更に、第二の取付部材とブラケットの両側の受部とが、位置決め突部の形成部分において部分的に当接していることによって、第二の取付部材とブラケットが位置決め突部の突出方向で相互に位置決めされており、目的とする防振性能を安定して得ることができると共に、第二の取付部材とブラケットの擦れによる異音の発生などが回避される。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜4には、本発明に従う構造とされたブラケット付防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、マウント本体12にブラケットとしてのアウタブラケット14が取り付けられた構造を有している。なお、以下の説明において、原則として、上下方向とは図2中の上下方向を、左右方向とは図2中の左右方向を、前後方向とは図3中の上下方向を、それぞれいう。
より詳細には、マウント本体12は、図5〜11に示すように、第一の取付部材16と第二の取付部材18が本体ゴム弾性体20によって相互に弾性連結された構造を有している。なお、本実施形態のマウント本体12は、第一の取付部材16と第二の取付部材18を備えた本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品として形成されている。
第一の取付部材16は、金属などで形成された薄肉筒状の部材であって、図10に示すように、前後方向に延びる略矩形筒状を呈する嵌合筒部22と、嵌合筒部22の下壁部の左右中央部分において下側へ突出する固着部24とを、一体で備えている。なお、固着部24は、下側に向けて左右方向で狭幅となる略V字形の断面を有している。
第二の取付部材18は、金属などで形成された高剛性の部材であって、図12〜15にも示すように、全体として略板形状を有している。より具体的には、第二の取付部材18は、左右両端部が上下方向の厚さ寸法の大きな厚肉部26,26とされていると共に、それら厚肉部26,26の間に、上下方向の厚さ寸法を厚肉部26,26よりも小さくされた薄肉部28が一体形成された構造を有している。また、本実施形態の第二の取付部材18は、左右両端部分の厚肉部26,26と左右中央部分の薄肉部28を繋ぐ中間部分の上面が、厚肉部26,26から薄肉部28に向けて次第に下傾するテーパ形状の固着面30とされて、左右方向で滑らかに連続している。これにより、第二の取付部材18の上面31は、図13にも示すように、上側に向けて開口する凹状面とされている。なお、薄肉部28には、上側へ突出するストッパ突部32が一体形成されている。
また、図15,16に示すように、第二の取付部材18の下面が前側に向けて上傾する下テーパ面33とされていると共に、図8,13に示すように、第二の取付部材18には下面の左右中間部分に開口して前後全長に亘って延びる肉抜溝34,34が形成されている。肉抜溝34,34は、それぞれ前後方向に直線的に延びており、図8に示すように互いに異なる溝幅寸法を有していると共に、図10に示すように互いに略同じ溝深さ寸法で形成されている。なお、左側の肉抜溝34と右側の肉抜溝34の形状が互いに異なっていることにより、マウント本体12の向きを把握し易くなっている。
さらに、第二の取付部材18における肉抜溝34,34の前後両端部には、図8,13に示すように、左右方向に延びて肉抜溝34,34を横断する補強リブ36,36がそれぞれ形成されている。この補強リブ36,36が設けられていることにより、肉抜溝34,34の深さ寸法が前後両端部において前後中間部分よりも小さくなっている。尤も、補強リブ36は、肉抜溝34,34の前後中間部分に設けられていても良い。
また、第二の取付部材18における肉抜溝34,34の間には、図8,10に示すように、下面に開口する複数の肉抜凹所38が形成されており、それら複数の肉抜凹所38の間がリブ状に突出している。そして、第二の取付部材18における肉抜溝34,34の間に位置する部分の変形剛性が、複数の肉抜凹所38によって調節されている。
また、図14に示すように、第二の取付部材18の左右両側面が前側に向けて左右内側へ傾斜する左右のテーパ面39,39とされていると共に、第二の取付部材18の左右両端部には、図13,15に示すように、左右側面の上下中間部分に開口して前後方向の全長に亘って延びる第一の凹溝40が形成されている。第一の凹溝40は、互いに略同じ溝断面形状でそれぞれ前後方向に直線的に延びている。
さらに、第二の取付部材18の左右両端部には、左右側面に開口する第二の凹溝42が形成されている。第二の凹溝42は、図14,15に示すように、後述する圧入方向である前後方向と略直交する上下方向に直線的に延びており、第一の凹溝40の上下両側において前後方向で相互に離れた位置に各2つが形成されている。また、第二の凹溝42は、溝幅方向(前後方向)の両側面が左右外側に向けて前後外側へ傾斜する傾斜面44とされており、溝底面から離れる開口側に向けて溝幅寸法が大きくされている。これにより、第二の凹溝42の開口縁部の前側エッジ46と後側エッジ48がそれぞれ鈍角とされている。
このように複数の第二の凹溝42が形成されていることにより、第一の凹溝40および第二の凹溝42で囲まれた部分が、左右外方へ突出する圧入部50とされている。この圧入部50は、先細の略四角錐台形状とされて、突出先端面が左右方向と略直交して広がっており、本実施形態では、6つが互いに離れて設けられている。なお、本実施形態では、前後両端の圧入部50の前後外側面が、左右外側に向けて前後内側へ傾斜しており、それら圧入部50の突出先端部の前後外側のエッジも鈍角とされている。
また、図15,16に示すように、第二の取付部材18の左右両端部を構成する厚肉部26,26の上面が、前側に向けて下傾する上テーパ面51とされて、厚肉部26,26の上下厚さ寸法が前側に向けて小さくなっている。
さらに、第二の取付部材18の厚肉部26,26には、図14〜17に示すように、上側に突出する位置決め突部52が一体形成されている。この位置決め突部52は、第二の取付部材18の前後方向で後端部分に部分的に設けられており、位置決め突部52が設けられた第二の取付部材18の後端部分は、位置決め突部52を外れた第二の取付部材18の前側部分よりも、上下方向の寸法が大きくされている。更にまた、位置決め突部52の前面は、突出先端側に向けて後傾する傾斜面54とされており、それによって位置決め突部52の前側エッジ56が鈍角とされている。
更にまた、位置決め突部52の前後方向の長さ寸法は、好適には、厚肉部26の前後方向の長さ寸法に対して、例えば10〜20%とされている。更に、後述するアウタブラケット14の受部102に当接する位置決め突部52の突出先端面の面積は、厚肉部26の上面の面積に対して、例えば8〜18%であることが望ましい。
そして、図10,11に示すように、第一の取付部材16が第二の取付部材18の上面31に対して上側に離隔して配置されて、それら第一の取付部材16と第二の取付部材18が本体ゴム弾性体20によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体20は、上下方向に延びるとともに下側へ行くに従って左右外側へ傾斜する一組の弾性連結部58,58を備えており、それら弾性連結部58,58の上端部が第一の取付部材16に加硫接着されていると共に、弾性連結部58,58の下端部が第二の取付部材18に加硫接着されている。これにより、第一の取付部材16の嵌合筒部22および固着部24の下面と、第二の取付部材18の固着面30を含む上面31との対向面間に、本体ゴム弾性体20を構成する一組の弾性連結部58,58が配設されている。
また、第一の取付部材16の表面は、弾性連結部58,58と一体形成された被覆ゴム層59によって覆われている。本実施形態の被覆ゴム層59の内周面には、前後方向に延びる凸条が複数設けられている。
また、第一の取付部材16の嵌合筒部22の左右両面には、被覆ゴム層59と一体形成された緩衝ゴム60,60が突出形成されている。そして、第一の取付部材16の嵌合筒部22が、後述するアウタブラケット14の一組の側板部84,84に緩衝ゴム60,60を介して当接することで、第一の取付部材16と第二の取付部材18の左右方向の相対変位量を制限する左右ストッパが構成される。更に、緩衝ゴム60,60は、左右外側に向けて上下寸法および前後寸法が小さくなる先細形状を有していると共に、左右方向の突出先端面には前後に延びる緩衝凹溝62が形成されていることにより、左右ストッパにおいて当接初期の打音や衝撃が緩和されるようになっている。
さらに、第一の取付部材16の嵌合筒部22の上面には、被覆ゴム層59と一体形成された緩衝ゴム64が突出形成されている。そして、第一の取付部材16の嵌合筒部22が、後述するアウタブラケット14の上板部86に緩衝ゴム64を介して当接することで、第一の取付部材16と第二の取付部材18の上下離隔方向の相対変位量を制限するリバウンドストッパが構成される。更に、緩衝ゴム64は、上側に向けて左右寸法および前後寸法が小さくなる先細形状を有しており、リバウンドストッパにおいて当接初期の打音や衝撃が緩和されるようになっている。なお、本実施形態では、左右方向で相互に離れた二箇所にそれぞれ緩衝ゴム64が設けられている。
更にまた、第一の取付部材16の固着部24の下面が、弾性連結部58,58と一体形成された緩衝ゴム66で覆われていると共に、第二の取付部材18のストッパ突部32の突出先端面は、弾性連結部58,58と一体形成された緩衝ゴム68で覆われている。固着部24とストッパ突部32は、上下に所定の距離を隔てて対向配置されており、それら固着部24とストッパ突部32が緩衝ゴム66,68を介して当接することで、第一の取付部材16と第二の取付部材18の上下接近方向の相対変位量を制限するバウンドストッパが構成される。
かくの如き構造とされたマウント本体12の第一の取付部材16には、インナブラケット72が取り付けられている。インナブラケット72は、金属などで形成された高剛性の部材であって、図1〜4に示すように、第一の取付部材16に嵌合固定される嵌合部74と、第一の取付部材16の前側へ突出して配される取付部76とを、一体的に備えている。
嵌合部74は、略矩形柱状とされていると共に、上下方向の各一方に開口する複数の凹所が形成されて、軽量化などが図られている。取付部76は、厚肉板状とされて、厚さ方向である上下方向に貫通する複数のボルト孔78を備えている。更に、取付部76の後側の側面には、左右両端部に緩衝ゴム80がそれぞれ固着されており、取付部76と後述するアウタブラケット14が緩衝ゴム80を介して当接することにより、第一の取付部材16の第二の取付部材18に対する後側への相対変位量を制限する後側ストッパが構成されるようになっている。
インナブラケット72は、嵌合部74が被覆ゴム層59によって覆われた第一の取付部材16の内周に前側から嵌め入れられることにより、第一の取付部材16に取り付けられている。なお、インナブラケット72が第一の取付部材16に取り付けられた状態において、インナブラケット72の取付部76は、第一の取付部材16の前側に突出して配置されている。
一方、マウント本体12の第二の取付部材18には、アウタブラケット14が取り付けられている。アウタブラケット14は、金属などで形成された高剛性の部材であって、図18〜20に示すように、全体として前後方向に延びる略四角筒状とされた装着筒状部82を備えている。
装着筒状部82は、左右方向に対向する一組の側板部84,84を備えており、それら側板部84,84の上端部が上板部86で相互に連結されていると共に、それら側板部84,84の下端部が底板部88で相互に連結された構造を有している。更に、装着筒状部82の下端部には、左右方向の外側へ突出する取付板部90,90が一体形成されており、各取付板部90には上下方向に貫通するボルト孔92が形成されている。
また、アウタブラケット14を構成する一組の側板部84,84には、装着溝部94がそれぞれ設けられている。装着溝部94は、一組の側板部84,84が対向する方向(左右方向)の内側に開口して前後方向に延びる凹溝であって、側板部84の下端部に形成されている。また、各側板部84に形成された装着溝部94が互いに向かい合わせに開口して対向配置されており、一組の装着溝部94,94が装着筒状部82の内周に開口して設けられている。
さらに、本実施形態の装着溝部94は、図20に示すように、上側の側壁面が前側に向けて下側に傾斜する上テーパ面95とされていると共に、下側の側壁面が前側に向けて上側に傾斜する下テーパ面96とされており、上側の側壁部と下側の側壁部が前側に行くに従って相互に接近して、装着溝部94の溝幅寸法が前側に向けて小さくなっている。更にまた、装着溝部94は、図21に示すように、底壁面が前側に向けて左右方向の内側に傾斜する左右のテーパ面97,97とされており、左右に対向して配置された一組の装着溝部94,94の底壁部が、前側に向けて互いに接近している。
また、装着筒状部82の前側の開口部には、後述するマウント本体12の前側への抜けを防止する抜止壁部98が設けられている。抜止壁部98は、装着筒状部82の下部において内周側へ突出しており、一組の装着溝部94,94の前端部において左右内側へ突出して、一組の装着溝部94,94の前側の開口部を部分的に塞いでいると共に、底板部88の前端部において上側へ突出している。なお、抜止壁部98における一組の装着溝部94,94の前端部に形成された部分と、底板部88の前端部に形成された部分とが、周方向に連続していることにより、抜止壁部98の変形剛性の向上が図られている。
そして、アウタブラケット14は、第二の取付部材18の左右両端部である厚肉部26,26が一組の装着溝部94,94の各一方に後側から差し入れられて、図22に示すように、第二の取付部材18が一組の装着溝部94,94の底壁部間で左右方向に圧入固定されることにより、第二の取付部材18に対して取り付けられている。本実施形態では、一組の装着溝部94,94の底壁部が、第二の取付部材18が押し付けられて圧入固定される固定部100とされており、第二の取付部材18の左右側面が固定部100に押し付けられる面とされている。また、本実施形態において、第二の取付部材18のアウタブラケット14に対する圧入方向は、第二の取付部材18をアウタブラケット14に差し入れる方向と同じ前後方向とされている。
このように、第二の取付部材18が一組の装着溝部94,94の対向方向である左右方向でアウタブラケット14に圧入されていることにより、アウタブラケット14におけるマウント本体12の収容スペースの確保と、アウタブラケット14の左右方向での大型化の回避とを実現しつつ、第二の取付部材18の圧入面積を大きく確保することが可能とされている。
また、第二の取付部材18の左右側面が左右のテーパ面39,39とされていると共に、一組の装着溝部94,94の底壁面が左右のテーパ面97,97とされていることにより、第二の取付部材18の左右両端部を一組の装着溝部94,94へ差し入れる際に、第二の取付部材18がアウタブラケット14に圧入されることなく隙間をもって差し入れられた後で圧入固定されることから、第二の取付部材18のアウタブラケット14への圧入作業が容易になる。
本実施形態の第二の取付部材18は、左右方向の側面に開口する凹部としての第一の凹溝40と第二の凹溝42を備えており、図22に示すように、それら第一の凹溝40と第二の凹溝42の形成部分において第二の取付部材18が一組の装着溝部94,94の底壁面から離隔している。換言すれば、第二の取付部材18は、それら第一の凹溝40と第二の凹溝42を外れた複数の圧入部50において、一組の装着溝部94,94の底壁面に当接している。これにより、第二の取付部材18とアウタブラケット14の間に作用する固定力が調節されており、第二の取付部材18をアウタブラケット14に圧入する際に必要とされる力を小さくすることができると共に、第二の取付部材18やアウタブラケット14の変形や損傷などを回避することができる。
しかも、第二の取付部材18の左右方向の変形剛性が、肉抜溝34,34および補強リブ36と肉抜凹所38によって調節されていることから、第二の取付部材18とアウタブラケット14の間で左右方向に作用する固定力を、第二の取付部材18の変形剛性によっても調節することが可能とされている。
さらに、第二の凹溝42の側壁面が傾斜面44とされていることにより、第二の凹溝42の開口縁部の前側エッジ46が鈍角とされている。これにより、第二の取付部材18を一組の装着溝部94,94の間へ圧入する際に、第二の凹溝42の前側エッジ46がアウタブラケット14に噛み込むなどして圧入し難くなるのを防ぐことができる。更にまた、第二の凹溝42の開口縁部の後側エッジ48も鈍角とされており、圧入部50が基端側である左右方向の内側に向けて前後方向で幅広となっていることから、圧入部50の変形剛性が大きく確保されて、圧入反力による圧入部50の損傷などが防止される。なお、本実施形態では、前後両端に位置する圧入部50における先端部の前後外側のエッジも鈍角とされていることから、圧入時の引っ掛かりの防止や、変形剛性の確保などがより効果的に図られている。
ここにおいて、一組の装着溝部94,94の側壁部が第二の取付部材18の厚肉部26,26の各一方に対して上下両側に配置されており、各装着溝部94の側壁部が本実施形態における受部102とされている。そして、第二の取付部材18の厚肉部26,26は、図23に示すように、一組の装着溝部94,94の下側の側壁部に対して、略全体が当接している一方、一組の装着溝部94,94の上側の側壁部に対して、位置決め突部52の形成部分である後端部分において当接していると共に、位置決め突部52を外れた前側部分で離隔している。換言すれば、第二の取付部材18の厚肉部26,26は、位置決め突部52の形成部分において上下両面が一組の装着溝部94,94の側壁部に当接している一方、位置決め突部52を前側に外れた部分において、上面が一組の装着溝部94,94の上側の側壁部に対して下側に離隔している。なお、図23では、分かり易さのために、位置決め突部52の突出高さを誇張して図示した。
特に、位置決め突部52は、第二の取付部材18の後端部に設けられていることから、第二の取付部材18が一組の装着溝部94,94に対して後側から差し入れられることで、位置決め突部52が装着溝部94へ最後に差し入れられるようになっている。従って、位置決め突部52が装着溝部94に差し入れられる前には、第二の取付部材18の厚肉部26が装着溝部94の側壁部間に隙間をもって差し入れられており、第二の取付部材18と一組の装着溝部94,94の側壁部との間における摩擦抵抗などが低減される。なお、位置決め突部52は、上側の受部102に当接していれば、圧縮力を受けない0タッチ状態で接触していても良いし、上下に圧縮された状態で受部102に押し付けられていても良い。
さらに、第二の取付部材18の厚肉部26,26の上下寸法が前側に向けて小さくなっていると共に、アウタブラケット14の一組の装着溝部94,94の上下寸法(溝幅寸法)が前側に向けて小さくなっており、厚肉部26,26の上下面と一組の装着溝部94,94の側壁面が互いに対応するテーパ面とされている。それ故、第二の取付部材18がアウタブラケット14に対して後側にずれた差入過程において、第二の取付部材18の厚肉部26が装着溝部94の側壁部に対して上下方向で隙間をもって差し入れられて、第二の取付部材18とアウタブラケット14の間に作用する摩擦抵抗などが低減される。
しかも、位置決め突部52の突出先端面と装着溝部94の側壁面も互いに対応するテーパ面とされていることによって、位置決め突部52を装着溝部94に差し入れる際にも、摩擦抵抗などが低減されて差し入れ易い。
また、位置決め突部52は、圧入方向の前面が傾斜面54とされており、前側エッジ56が鈍角とされている。それ故、位置決め突部52を装着溝部94に差し入れる際に、位置決め突部52の前側エッジ56が装着溝部94の側壁面に噛み込んだり引っ掛かったりし難く、位置決め突部52を装着溝部94にスムーズに差し入れることができる。
また、本実施形態では、位置決め突部52の前後方向の長さ寸法が、厚肉部26の前後方向の長さ寸法に対して、10〜20%とされていると共に、位置決め突部52の突出先端面の面積が、厚肉部26の上面の面積に対して、8〜18%とされている。これにより、第二の取付部材18とアウタブラケット14が、位置決め突部52と受部102の当接によって上下方向で有効に位置決めされると共に、位置決め突部52と受部102の当接が、第二の取付部材18とアウタブラケット14の圧入による組付作業に及ぼす影響を、十分に抑えることができる。
なお、エンジンマウント10は、インナブラケット72の取付部76が図示しないパワーユニットにボルト固定されると共に、アウタブラケット14の取付板部90が図示しない車両ボデーにボルト固定されることにより、第一の取付部材16と第二の取付部材18が、振動伝達系を構成する防振連結対象部材であるパワーユニットと車両ボデーの各一方に取り付けられる。このようなエンジンマウント10の車両への装着状態において、パワーユニットから車両ボデーへの振動伝達が、一組の弾性連結部58,58の減衰作用などに基づく防振効果によって低減されて、それらパワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10によって防振連結されるようになっている。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、位置決め突部は、アウタブラケット14から第二の取付部材18の圧入部50に向けて突出していても良い。具体的には、例えば、図24に示すように、アウタブラケット14における装着溝部94の前端部に位置決め突部104が形成されて、第二の取付部材18の厚肉部26が装着溝部94に差し入れられることで、位置決め突部104が厚肉部26に当接せしめられる構造を採用することもできる。また、アウタブラケット14に設けられた位置決め突部104は、圧入方向の後面が突出先端側である下側に向けて前傾する傾斜面106とされていることによって、位置決め突部104が第二の取付部材18に引っ掛かり難くなっている。なお、図24において、前記実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略した。
さらに、位置決め突部は、圧入方向で複数が設けられ得る。更に、複数の位置決め突部が設けられる場合には、第二の取付部材とアウタブラケットの何れか一方に複数の位置決め突部が設けられていても良いし、第二の取付部材とアウタブラケットの両方に少なくとも一つの位置決め突部が設けられることで、全体として複数の位置決め突部が設けられていても良い。このように複数の位置決め突部が設けられる場合には、圧入方向で隣り合う位置決め突部の間に受部から離れた領域が設定される。
更にまた、第二の取付部材に設けられた位置決め突部は、例えば第二の取付部材の前後中間部分や前端部分にも配置され得る。同様に、アウタブラケットに位置決め突部が設けられる場合には、位置決め突部をアウタブラケットの前後中間部分や後端部分に配置することもできる。なお、位置決め突部をこのように配置する場合には、位置決め突部の干渉を防いで、第二の取付部材をアウタブラケットに圧入する作業を容易にするために、第二の取付部材とアウタブラケットの受部との重ね合わせ面が実施形態の如きテーパ面であることが望ましい。
さらに、位置決め突部は、前記実施形態のように、第二の取付部材と上側の受部との間に設けられていても良いが、例えば、第二の取付部材と下側の受部との間に設けられていても良い。
また、前記実施形態では、第二の取付部材18の左右外面に形成される凹部の例として、前後方向に延びる第一の凹溝40と上下方向に延びる第二の凹溝42とを示したが、凹部は必ずしも溝形状に限定されるものではなく、例えば、特定の方向に延びていないスポット的な凹所であっても良い。また、凹部は、第一の凹溝40と第二の凹溝42の何れか一方のみによっても構成され得るし、前後方向と左右方向の両方に対して傾斜して延びる別の凹溝によっても構成され得る。
また、前記実施形態では、一組の装着溝部94,94の底壁部が固定部100とされると共に、一組の装着溝部94,94の側壁部が受部102とされて、第二の取付部材18がアウタブラケット14に対して左右方向で圧入固定される構造を例示したが、例えば、一組の装着溝部94,94の底壁部が受部とされると共に、一組の装着溝部94,94の側壁部が固定部とされて、第二の取付部材18がアウタブラケット14に対して上下方向で圧入固定される構造も採用され得る。この場合には、位置決め突部が一組の装着溝部94,94の底壁部と第二の取付部材18の左右外面との間に突出するように設けられる。更に、この場合には、肉抜溝が第二の取付部材18の左右外面に開口するように設けられると共に、補強リブが肉抜溝を横断して上下に延びるように設けられる。
さらに、前記実施形態では、アウタブラケット14がマウント本体12を収容する装着筒状部82を備えている例を示したが、このような装着筒状部82は必須ではなく、例えば、前記実施形態のアウタブラケット14において上板部86が省略された構造なども採用され得る。