以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜5には、本発明に従う構造とされたブラケット付防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、防振装置本体としてのマウント本体12に対して、アウタブラケット14とインナブラケット16が装着された構造とされている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、マウント軸方向である図1中の紙面に垂直な方向を言う。
より詳細には、マウント本体12は、第一の取付部材18と第二の取付部材20が、本体ゴム弾性体22で相互に弾性連結された構造を有している。
第一の取付部材18は、鉄やアルミニウム合金、硬質の合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、左右方向でストレートに延びる中空孔24を備えた略矩形筒形状を呈する筒状部26と、筒状部26から下方に向かって突出する有底のテーパ円筒形状を呈する固着筒部28とを、一体で備えた構造とされている。
また、第二の取付部材20は、金属製の高剛性部材とされており、中央部分をマウント軸方向に貫通する大径の透孔30が設けられた厚肉の略円環形状とされている。なお、第二の取付部材20の内周面は、上方に向かって拡径するテーパ状の傾斜面とされている。更に、第二の取付部材20の下端部分には、軸直角方向で外周側に突出する係止部32が形成されている。
さらに、第二の取付部材20には、外周面上に突出して一対の固定部33,33が一体形成されている。これら一対の固定部33,33は、それぞれ第二の取付部材20の外周面上で軸直角方向に広がる厚肉の略ブロック状とされており、第二の取付部材20の外周部分において軸直角方向で対向位置する部位に設けられている。そして、これら一対の固定部33,33のそれぞれは、第二の取付部材20の径方向一方向で対向位置する一対の外周部位からそれぞれ接線方向で略平行に延び出した外周面を有している。なお、本実施形態では、かかる一対の固定部33,33における外周面が、第二の取付部材20の径方向一方向での対向部位から接線方向に向かって延び出すに従って、相互に次第に拡開する方向に数度以下の僅かな傾斜角が付された傾斜面とされている。
そして、第二の取付部材20の中心軸上で上方に所定距離を隔てて、第一の取付部材18が配置されており、これら第一の取付部材18と第二の取付部材20が、本体ゴム弾性体22によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体22は、厚肉大径の略円錐台形状とされており、小径側の端部に第一の取付部材18が加硫接着されていると共に、大径側の端部の外周面に第二の取付部材20の内周面が加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体22は、第一の取付部材18と第二の取付部材20を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、環状とされた第二の取付部材20の軸方向一方の側に本体ゴム弾性体22が配設されて、第二の取付部材20の透孔30の上側開口部が、本体ゴム弾性体22で流体密に閉塞されている。
また、第一の取付部材18の筒状部26の内周面を覆う嵌着ゴム層34と、筒状部26の外周面を覆う被覆ゴム層36が、本体ゴム弾性体22と一体形成されている。更に、筒状部26の上壁部には、上方に向かって突出して突出先端側が左右方向で次第に狭幅となる上部緩衝ゴム層38が、被覆ゴム層36と一体形成されている。
更にまた、筒状部26の側壁部には、一組の側部緩衝ゴム層40,40が、被覆ゴム層36と一体形成されている。これらの側部緩衝ゴム層40,40は、第一の取付部材18の中空孔24の軸方向(図1中の左右方向)に直交する方向(図1中の上下方向)で、相互に反対向きに突出している。かかる側部緩衝ゴム層40,40は略横転台形の断面を有する山形とされており、図3に示されているように、エンジンマウント10の単体状態では、側部緩衝ゴム層40,40の突出先端面と後述するマウントホルダ部102の周壁内面100との対向面間に、所定距離の隙間が形成されている。
さらに、本体ゴム弾性体22には、小径側端部付近に第一の緩衝ゴム42が一体的に形成されている。第一の緩衝ゴム42は、第一の取付部材18の下壁部分から一方の側方に向かって、所定厚さの舌片状または平板状をもって延び出している。
更にまた、本体ゴム弾性体22には、大径凹所44が形成されている。大径凹所44は、逆向きの略すり鉢形状を呈する凹所であって、本体ゴム弾性体22の大径側の端面に開口している。また、本体ゴム弾性体22には、内外に貫通して延びる注入用孔46が設けられている。この注入用孔46は、本体ゴム弾性体22の上下弾性主軸上を一定の円形断面で直線的に延びており、大径凹所44の上底部の中央に設けられた内側開口部から、第一の取付部材18を貫通して中空孔24内に設けられた外側開口部にまで延びている。
さらに、本体ゴム弾性体22の大径凹所44の外周側には、シール部材としてのシールゴム48が形成されている。シールゴム48は、第二の取付部材20の下面を覆うように固着された薄肉のゴム層であって、本実施形態では本体ゴム弾性体22と一体形成されており、第二の取付部材20の下面において係止部32の内周側の略全面を覆っている。
また、本体ゴム弾性体22の一体加硫成形品を構成する第二の取付部材20には、その下側に仕切部材50と可撓性膜52が、重ね合わされて配設されている。換言すれば、第二の取付部材20におけるマウント中心軸方向で、本体ゴム弾性体22と反対の側に仕切部材50と可撓性膜52が、重ね合わされて配設されている。
仕切部材50は、全体として厚肉大径の略円板形状とされており、金属や硬質の合成樹脂等で形成されている。また、仕切部材50には、外周部分を周方向に一周弱の長さで延びる周溝54が上面に開口して形成されている。そして、仕切部材50の上面に薄肉の円板形状の蓋板56が重ね合わされて、周溝54の開口が蓋板56で覆蓋されることにより、周方向に延びるオリフィス通路58が形成されている。なお、このオリフィス通路58の周方向一方の端部は、仕切部材50を貫通して下方に開口せしめられていると共に、周方向他方の端部は、蓋板56を貫通して上方に開口せしめられている。
一方、可撓性膜52は、全体として略円板形状を有するゴム弾性体やエラストマなどの薄膜によって構成されており、径方向の中間部分に所定の弛みが設けられることで弾性変形が容易に許容されるようになっている。また、可撓性膜52の外周縁部には、厚肉とされた環状シール部60が一体的に形成されている。そして、仕切部材50の外周部分の下面に対して環状シール部60が密着状態で重ね合わされることによって、可撓性膜52が、仕切部材50の下面を全体に亘って覆うようにして配設されている。なお、仕切部材50の外周部分には、下面に開口して周方向に延びる環状の位置決め溝62が形成されており、この位置決め溝62に環状シール部60の上端が入り込むようにしてセットされている。
そして、このように互いに重ね合わされた仕切部材50と可撓性膜52には、更にそれらの外周面を覆うようにして押圧部材64が組み付けられている。
かかる押圧部材64は、全体として略円筒形状を有しており、硬質の合成樹脂や金属等によって形成されている。押圧部材64の円筒状部66は、仕切部材50の軸方向長さと略同じか僅かに小さくされており、下端開口部には内周側に広がる内フランジ状の環状当接部68が一体形成されている。
また、押圧部材64の円筒状部66の上端開口部には、外周側に広がる外フランジ状の環状板部70が形成されている。更にまた、かかる環状板部70の外周縁部には、周上の複数箇所において、上方に向かって突出すると共に、突出先端近くの内周面に係止突起72が設けられたフック状の係止片74が形成されている。
そして、押圧部材64の円筒状部66が仕切部材50に対して外挿されており、押圧部材64の環状当接部68の上には、載置された仕切部材50の下端面との間で可撓性膜52の環状シール部60が挟まれて保持されている。また、押圧部材64の環状板部70が、第二の取付部材20における係止部32の下端面に重ね合わされていると共に、各係止片74が第二の取付部材20の外周面上を上方に突出せしめられて、各係止片74の係止突起72が、第二の取付部材20の係止部32に対して、それぞれ係止されている。
このように係止片74の係止部32への係止作用で押圧部材64が第二の取付部材20に組み付けられることにより、押圧部材64の内部に収容状態で位置決めされた仕切部材50と可撓性膜52が、第二の取付部材20の下側に重ね合わされて組み付けられている。そして、本体ゴム弾性体22の大径凹所44と可撓性膜52との軸方向対向面間には、外部空間に対して流体密に封止されて非圧縮性流体が封入された流体室76が画成されている。これにより、本実施形態のマウント本体12は、流体封入式の防振装置本体とされている。
また、かかる流体室76は、仕切部材50によって仕切られており、仕切部材50の上側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体22で構成されて、第一及び第二の取付部材18,20間への略マウント軸方向の振動入力時に本体ゴム弾性体22の弾性変形に基づいて圧力変動が直接的に惹起される受圧室78が形成されている。一方、仕切部材50の下側には、壁部の一部が可撓性膜52で構成されて、可撓性膜52の変形に基づいて内部の圧力変動が吸収軽減され得る平衡室80が形成されている。
更にまた、これら受圧室78と平衡室80は、仕切部材50に形成されたオリフィス通路58を通じて相互に連通されており、受圧室78と平衡室80の相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路58を通じて封入流体が流動せしめられるようになっている。而して、オリフィス通路58を流動する流体の共振作用等を利用して、入力振動に対する防振効果が発揮されるようになっている。
なお、流体室76への非圧縮性流体の注入は、例えば本体ゴム弾性体22の一体加硫成形品に対する仕切部材50や可撓性膜52、押圧部材64の組み付けを非圧縮性流体中で行うこと等によっても実現可能であるが、本実施形態では、それら各部材の組付後に、注入用孔46を通じて非圧縮性流体を注入し、その後に、かかる注入用孔46に封止用の球体を圧入固着することによって為され得る。
ここにおいて、本体ゴム弾性体22の一体加硫成形品に対して仕切部材50や可撓性膜52、押圧部材64を組み付けた状態、即ちアウタブラケット14の下側部分へ組み付けられる前のマウント本体12単体の状態では、流体室76の外部空間に対する封止が、第二の取付部材20に対する押圧部材64の係止作用を利用した仮シールによって実現されている。
すなわち、押圧部材64は、その環状当接部68に対して可撓性膜52の環状シール部60を挟んで仕切部材50が重ね合わされており、それら環状当接部68と仕切部材50との間で環状シール部60に軸方向の押圧力を及ぼし得るようになっている。また、押圧部材64の環状板部70は、係止部32よりも内周側の第二の取付部材20の下端面に対して、シールゴム48を挟んで重ね合わされており、それら環状板部70と第二の取付部材20との間でシールゴム48に軸方向の押圧力を及ぼし得るようになっている。
これにより、これら環状シール部60とシールゴム48とを軸方向に押圧する反力が、押圧部材64の軸方向下方に向かって及ぼされている。そして、かかる押圧反力に抗して、押圧部材64の係止片74が第二の取付部材20の係止部32に係止されて、押圧部材64が第二の取付部材20に対して軸方向の接近位置に保持されている。その結果、押圧部材64の第二の取付部材20に対する係止力をもって、環状シール部60とシールゴム48とに対して軸方向のシール圧力が及ぼされているのであり、これら各シール部48,60によって第二の取付部材20と仕切部材50の間および仕切部材50と押圧部材64との間が、それぞれ流体密に仮シールされて、流体室76の流体密性が保持されるようになっている。
なお、本実施形態では、仕切部材50および蓋板56の外周縁部における第二の取付部材20との重ね合わせ面間にも、シールゴム48が挟まれることにより、仕切部材50に対する蓋板56の密着した重ね合わせ状態が保持されると共に、シール性の向上が図られている。
かくの如き構造とされたマウント本体12には、アウタブラケット14が取り付けられており、アウタブラケット14の略中央に形成された組付スペース内に、マウント本体12が側方(図5中、左方)から差し入れられるようにして組み付けられている。なお、アウタブラケット14は、鉄やアルミニウム合金などで形成された高剛性の部材であって、軽量で且つ部材厚による剛性確保も容易であって設計自由度も大きい等の理由から、アルミニウム合金製のダイキャスト成形品が好適に採用される。
詳細には、アウタブラケット14は、組付スペースを跨いで設けられた門形部82を有しており、門形部82が、一対の脚部84,84の上端部を、梁部86によって相互に連結一体化した構造とされている。また、門形部82の両脚部84,84の下端には、相互に離隔する方向に広がる平板形状をもって一対のベース部88,88が設けられている。これらのベース部88,88のそれぞれには、固定ボルトを挿通する挿通孔90が形成されており、この挿通孔90に挿通される固定ボルトにより、アウタブラケット14が車両ボデーに対してボルト固定可能とされている。なお、門形部82の両脚部84,84と各ベース部88との間には、部材幅方向の両縁をつなぐ補強リブ92,92がそれぞれ一体形成されている。
また、門形部82の下端開口部分には、一対のベース部88,88間に跨がって広がる押圧底部94が一体形成されている。押圧底部94の中央部分には、円形の透孔96が形成されており、この透孔96の内径寸法が、マウント本体12の押圧部材64の環状当接部68の内径寸法と略同じとされている。
更にまた、門形部82には、一方の側方開口の下側部分を覆うように側方竪壁98が一体形成されている。この側方竪壁98は、押圧底部94の透孔96と略同心的に略円弧状に湾曲しており、門形部82の一方の側方開口から外方に向かって突出されている。また、側方竪壁98は、上部が下部よりも厚肉となっていると共に、上端面が略軸直角方向に広がる平坦面とされている。そして、側方竪壁98は、一対の脚部84,84の下部に対して、一体的に設けられており、それら一対の脚部84,84の間に跨って周方向に延びている。
そして、かかる側方竪壁98が設けられることで、門形部82の下側部分には、周方向に半周以上の長さで延びる略円弧状の周壁内面100と、透孔96を有する押圧底部94とを備えた組付スペースとしてのマウントホルダ部102が形成されている。かかるマウントホルダ部102は、側方竪壁98と反対側に向かって開口しており、かかる開口部が、マウント本体12を差し入れられて組み付ける差入口となっている。
また、マウントホルダ部102の周壁内面100には、門形部82の一対の脚部84,84の対向内面において、押圧底部94の上面と上下方向に対向する段差状の押圧天面106が形成されている。そして、これら押圧底部94上面と押圧天面106との対向面間において、差入口に向かって開口する嵌合溝108,108が形成されている。
そして、このような構造とされたアウタブラケット14に対して、マウント本体12が、マウントホルダ部102の側方から差し入れられて組み付けられている。そして、マウント本体12の第二の取付部材20よりも軸方向下側部分が、マウントホルダ部102の差入口から嵌合溝108に嵌め入れられて、嵌合固定されている。
すなわち、第二の取付部材20が、嵌合溝108,108に対して差入口から差し入れられることにより、各固定部33,33の外周面が嵌合溝108,108の各溝底面110,110に当接せしめられる。これにより、第二の取付部材20の固定部33,33が、嵌合溝108,108の各一方に対して圧入状態で嵌着固定されている。なお、第二の取付部材20がアウタブラケット14に取付けられた状態において、第二の取付部材20の外周面の一部(図5中、右方の略半周に亘る外周側面)が、アウタブラケット14の側方竪壁98で覆われている。
さらに、マウント本体12は、アウタブラケット14の嵌合溝108に嵌め入れられることにより、第二の取付部材20と押圧部材64とに対して、軸方向で相互に接近する方向の押圧力が及ぼされている。即ち、マウント本体12の単体においては、第二の取付部材20の係止部32に対して、押圧部材64の係止片74が、仮シール状態のシールゴム48と環状シール部60の押圧反力に抗して係止作用を発揮している。かかる仮シール状態下での第二の取付部材20の上端面と押圧部材64の下端面との間のマウント軸方向距離に比して、アウタブラケット14の嵌合溝108における押圧底部94上面と押圧天面106との対向面間距離が小さく設定されている。
これにより、仮シール状態のマウント本体12がアウタブラケット14の嵌合溝108に嵌め入れられると、第二の取付部材20と押圧部材64とが、マウント軸方向で更に相互に接近方向へ相対変位せしめられ、その分だけシールゴム48と環状シール部60に対して更なる圧縮がおよぼされる。この状態でマウント本体12の第二の取付部材20がアウタブラケット14に組付固定されることで、本シール状態とされて流体室76に高度な流体密性が設定されている。
ここにおいて、本実施形態では、押圧部材64の環状当接部68に対して、アウタブラケット14の押圧底部94が、押圧部材64の下面において周上で全周に亘って押圧している。一方、第二の取付部材20の上面に対して、嵌合溝108の押圧天面106が、第二の取付部材20の周上で部分的に押圧している。
なお、本シール状態では、係止部32と係止片74との係止作用は機能する必要がない。それ故、かかる係止部32と係止片74との係止構造は、仮シール状態で要求されるシール性能を一時的に満足し得るだけの強度等の性能を有していれば足りる。
好適には、アウタブラケット14における嵌合溝108の底壁部分に潰しカシメ加工が施されることにより、アウタブラケット14の差入口に突出するカシメ係合部が設けられる。そして、カシメ係合部の固定部33への係合作用により、固定部33の嵌合溝108からの差入方向後方への抜出しが阻止されて、マウント本体12をマウントホルダ部102内において確実に組付状態で保持することができる。
また、マウント本体12には、インナブラケット16が取り付けられている。インナブラケット16は、アウタブラケット14と同様にアルミニウム合金のダイカスト成形品などで構成された高剛性の部材であって、先端部分112が略H形断面形状で直線的に延びていると共に、インナブラケット16の基端部分114は、厚肉の板状とされて、先端部分112に対して前後に広がっており、パワーユニット側への固定用ボルトの挿通孔116が複数形成されている。更に、インナブラケット16の基端部分114は、それぞれ略軸直角方向に広がる第一板状部118と第二板状部120を、傾斜部122によって相互に一体で接続した構造とされている。傾斜部122は、基端側(図5中、右側)に行くに従って上傾する傾斜形状とされており、第一板状部118と第二板状部120が傾斜部122を介して連結されることで、先端側の第一板状部118が基端側の第二板状部120よりも下方に位置している。なお、挿通孔116は、第二板状部120を上下に貫通して形成されている。
そして、インナブラケット16の先端部分112が、第一の取付部材18の筒状部26に側方から圧入状態で組み付けられて嵌着固定されており、インナブラケット16を介して、第一の取付部材18がパワーユニットに取り付けられるようになっている。即ち、第一の取付部材18の中空孔24に対して、アウタブラケット14へのマウント本体12の差入方向と反対の方向から、インナブラケット16の先端部分112が挿入される。この中空孔24の内面に嵌着ゴム層34が被着形成されていると共に、インナブラケット16の先端部分112の上下および前後の寸法が中空孔24の寸法と略等しくされていることから、インナブラケット16は中空孔24に対して、嵌着ゴム層34に当接して、または嵌着ゴム層34を圧縮して挿入される。これにより、インナブラケット16と第一の取付部材18が嵌着ゴム層34を介して密着状態で当接しており、インナブラケット16と嵌着ゴム層34との摩擦作用により、インナブラケット16の第一の取付部材18からの抜出しが効果的に防止され得る。
また、インナブラケット16の基端部分114が第一の取付部材18の筒状部26から側方に延び出しており、インナブラケット16がアウタブラケット14の梁部86と側方竪壁98との上下間を通じて側方に突出している。なお、インナブラケット16は、第一の取付部材18への装着状態において、アウタブラケット14に対して離隔して配置されている。
さらに、インナブラケット16の第一板状部118の下面に対して、第一の緩衝ゴム42が当接状態で重ね合わされていると共に、第一の緩衝ゴム42がアウタブラケット14の側方竪壁98の上端面に対して、上方に離隔して対向配置されている。
そして、図5にも示されているように、マウント本体12とアウタブラケット14とインナブラケット16とが組み付けられたエンジンマウント10では、第一の取付部材18の上側に形成されている上部緩衝ゴム層38が圧縮されて、アウタブラケット14における門形部82内面の天面に対して押し付けられている。
上記の如き構造とされたエンジンマウント10は、インナブラケット16の挿通孔116にボルトが挿通されてパワーユニットに固定される一方、アウタブラケット14の挿通孔90にボルトが挿通されて車両ボデーに固定される。これにより、パワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10により弾性連結される。なお、かかる車両装着状態では、エンジンマウント10に対してパワーユニット重量の分担荷重が及ぼされて、本体ゴム弾性体22が弾性変形せしめられる。これにより、第一の取付部材18と第二の取付部材20がマウント中心軸方向で相対的に接近方向へ変位せしめられて、所定の離隔距離をもって対向位置している。更に、上部緩衝ゴム層38が、アウタブラケット14における門形部82内面の天面に対して、下方に所定の距離を隔てて位置せしめられている。また、例えば、エンジンマウント10は、図5中の上下方向が車両の上下方向、図1中の右左方向が車両の左右方向となるように、車両に装着される。
かかるエンジンマウント10に対して、インナブラケット16を介してエンジンシェイク等の振動が入力されると、オリフィス通路58を通じて非圧縮性流体が流動することによる共振作用等により、入力振動に対する防振効果が発揮され得る。
ここにおいて、エンジンマウント10に対して下方への過大な振動が入力されると、インナブラケット16がアウタブラケット14の側方竪壁98の上端面に当接する。これにより、第一の取付部材18と第二の取付部材20のマウント中心軸方向における相対的な接近方向での変位量を制限する、バウンドストッパ手段が構成される。なお、アウタブラケット14の側方竪壁98とインナブラケット16との間には、第一の緩衝ゴム42が差し入れられて配設されており、バウンドストッパ手段におけるアウタブラケット14とインナブラケット16が、第一の緩衝ゴム42を介して緩衝的に当接せしめられるようになっている。
一方、エンジンマウント10に対して上方への過大な振動が入力されると、第一の取付部材18が上部緩衝ゴム層38を介してアウタブラケット14における門形部82の天面に当接する。これにより、第一の取付部材18と第二の取付部材20のマウント中心軸方向における相対的な離隔方向での変位量を緩衝的に制限する、リバウンドストッパ手段が構成される。
さらに、エンジンマウント10に対して車両前後方向での過大な振動が入力されると、第一の取付部材18が側部緩衝ゴム層40,40を介してアウタブラケット14における周壁内面100に当接する。これにより、第一の取付部材18と第二の取付部材20の車両前後または左右方向における相対的な変位量を緩衝的に制限する、前後方向ストッパ手段が構成される。
また、エンジンマウント10に対して車両左右方向での過大な振動が入力されると、インナブラケット16がアウタブラケット14の側面に当接する。具体的には、アウタブラケット14の梁部86の側面中央には、インナブラケット16の基端部分114に向かって側方に突出する受圧部124が形成されている。一方、インナブラケット16の傾斜部122には、先端側に突出する当接部126が一体形成されており、当接部126がアウタブラケット14の受圧部124と左右方向で対向して配置されている。そして、インナブラケット16の当接部126とアウタブラケット14の受圧部124が、対向方向で相互に当接することにより、第一の取付部材18と第二の取付部材20の左右方向における相対的な変位量を制限する、側方ストッパ手段が構成される。
なお、アウタブラケット14の受圧部124と、インナブラケット16の当接部126は、それらの対向面が、何れも、対向方向に対して略直交して広がる平面とされていると共に、それら受圧部124と当接部126の対向面間には、第二の緩衝ゴム128が配設されている。第二の緩衝ゴム128は、本体ゴム弾性体22とは別体のゴム弾性体で形成されており、略矩形板形状を有している。更に、第二の緩衝ゴム128には、厚さ方向の一方側に突出する一対の挿通突部130,130が一体形成されている。この挿通突部130は、小径の略円柱形状を有すると共に、突出方向の中間部分には突出先端に向かって縮径するテーパ形状の係合部132が一体形成されている。そして、一対の挿通突部130,130が、受圧部124に貫通形成された係合孔134,134の各一方に挿通されて、係合部132が係合孔134の開口周縁部に係止されることにより、第二の緩衝ゴム128が受圧部124に取り付けられている。本実施形態では、第二の緩衝ゴム128が、受圧部124に当接状態で重ね合わされていると共に、当接部126に対して所定の距離を隔てて対向配置されている。このような第二の緩衝ゴム128が配されることにより、側方ストッパ手段において、インナブラケット16の当接部126とアウタブラケット14の受圧部124とが、緩衝的に当接せしめられて、当接時の打音や衝撃が緩和される。
以上のように、本実施形態のエンジンマウント10では、上下および前後のストッパ手段(バウンドストッパ手段、リバウンドストッパ手段、前後方向ストッパ手段)に加えて、左右方向一方のストッパ手段(側方ストッパ手段)が設けられている。これにより、第一の取付部材18と第二の取付部材20の相対変位量が、多方向で制限されて、本体ゴム弾性体22の過大変形を防ぐことによる耐久性の向上が、より有利に図られる。なお、本実施形態において、第一の取付部材18の第二の取付部材20に対する左右方向他方(図1中、右方)への相対変位は、図示しない他のエンジンマウントによって制限されることが望ましい。
しかも、それら多方向のストッパ手段は、部品点数の少ない簡単な構造で実現されており、特に、マウント本体12がアウタブラケット14の差入口から抜けるのを防ぐ側方ストッパ手段が、インナブラケット16とアウタブラケット14との当接によって構成されることから、特別な部品を追加する必要がない。
また、大きな荷重の入力が想定されるバウンドストッパ手段および側方ストッパ手段が、マウント本体12を含むことなく、インナブラケット16とアウタブラケット14の当接によって構成されている。それ故、大きなストッパ荷重が入力されても、マウント本体12が損傷することはなく、防振性能への悪影響が防止される。特に、流体封入式のマウント本体12において、損傷による液漏れも回避されて、目的とする防振特性を優れた信頼性をもって実現することができる。
さらに、バウンドストッパ手段および側方ストッパ手段が、高剛性のブラケット同士が当接する構造とされることにより、大きなストッパ荷重が入力されても、それらストッパ手段の構成部材の損傷などが回避されて、高い耐荷重性が実現される。
また、バウンドストッパ手段を構成する第一の緩衝ゴム42が、本体ゴム弾性体22と一体形成されていることから、バウンドストッパ手段において、部品点数を増すことなく打音や衝撃の低減が図られる。
また、本実施形態では、インナブラケット16に一体形成された当接部126と、アウタブラケット14に一体形成された受圧部124とが、相互に対向して突出していると共に、それら当接部126と受圧部124の各対向面が対向方向と略直交する平面とされて、相互に略平行に広がっている。それ故、当接部126と受圧部124の当接面積や当接までの距離(ストッパクリアランス)などを精度良く設定することができて、第一の取付部材18と第二の取付部材20の側方への相対変位量が高精度に制限される。しかも、当接部126と受圧部124の対向面間に配される第二の緩衝ゴム128が、それら当接部126と受圧部124の間で圧縮されて、剪断変形量が小さくされることから、第二の緩衝ゴム128の耐久性の向上が図られる。
また、インナブラケット16の当接部126とアウタブラケット14の受圧部124との対向面間に配される第二の緩衝ゴム128は、本体ゴム弾性体22とは別体で形成されて、受圧部124に当接状態で取り付けられている。それ故、第二の緩衝ゴム128の形状や大きさ、配置などを、本体ゴム弾性体22の形状などに影響されることなく、大きな自由度で設定することができる。しかも、第二の緩衝ゴム128の形成材料を、本体ゴム弾性体22と異なるものとすることもできて、本体ゴム弾性体22と第二の緩衝ゴム128をそれぞれの要求特性に応じた材料で形成することができる。具体的には、例えば、第二の緩衝ゴム128の形成材料として、減衰性能や自己潤滑性などに優れた弾性材料を選択することにより、緩衝効果や当接打音の低減効果などを、有利に実現することができる。
加えて、本実施形態の第二の緩衝ゴム128は、受圧部124の係合孔134に挿通された挿通突部130の係合部132が、係合孔134の開口周縁部に当接係止されることで、受圧部124に取り付けられており、特別な接着処理が不要とされて、製造が容易である。
図6には、本発明に係るブラケット付防振装置の第二の実施形態として、自動車用のエンジンマウント140が示されている。エンジンマウント140は、マウント本体12にアウタブラケット14とインナブラケット16を取り付けた構造とされている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
より詳細には、マウント本体12は、第一の取付部材18と第二の取付部材20が本体ゴム弾性体22によって弾性連結された構造を有しており、本体ゴム弾性体22と一体形成された第一の緩衝ゴム42と第二の緩衝ゴム142が、一方の側方に向かって延び出している。
第二の緩衝ゴム142は、連結部144と緩衝部146を一体で備えている。連結部144は、板状のゴム弾性体であって、本体ゴム弾性体22と一体形成された上部緩衝ゴム層38から一体で側方に延び出しており、第一の緩衝ゴム42の上方に対向して配置されている。緩衝部146は、板状のゴム弾性体であって、連結部144の突出先端側に一体で設けられており、連結部144に対して屈曲して略直交する方向に広がっている。
そして、第一の取付部材18の筒状部26にインナブラケット16が嵌入保持されることにより、第二の緩衝ゴム142は、連結部144がインナブラケット16の第一板状部118の上面に当接状態で重ね合わされると共に、緩衝部146がインナブラケット16の当接部126に当接状態で重ね合わされる。これにより、第二の緩衝ゴム142の緩衝部146が、インナブラケット16の当接部126と、アウタブラケット14の受圧部124との対向面間に配設されている。なお、第二の緩衝ゴム142の緩衝部146は、アウタブラケット14の受圧部124に対して、所定の距離を隔てて対向配置されている。
これにより、側方への大荷重入力時に、側方ストッパ手段において、インナブラケット16の当接部126とアウタブラケット14の受圧部124が、第二の緩衝ゴム142の緩衝部146を介して当接するようになっている。それ故、当接部126と受圧部124の当接時の打音や衝撃が、緩衝部146の変形によって発揮される緩衝作用によって低減される。
さらに、第一の緩衝ゴム42のみならず、第二の緩衝ゴム142も本体ゴム弾性体22と一体形成されていることから、部品点数をより少なくすることができると共に、第二の緩衝ゴム142の取付け作業が不要とされて、製造が容易になる。
また、第二の緩衝ゴム142の連結部144が、インナブラケット16の第一板状部118とアウタブラケット14の梁部86との間に配されることから、第一板状部118と梁部86の第二の緩衝ゴム142を介した当接によっても、リバウンドストッパ作用が発揮されて、リバウンド方向の荷重入力に対するストッパ作用をより有利に得ることができる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、側方ストッパ手段は、アウタブラケット14の梁部86とインナブラケット16との当接によって構成されるものには限定されず、例えば、インナブラケット16とアウタブラケット14の脚部84や側方竪壁98との当接によって構成されても良い。
前記実施形態では、側方ストッパ手段を構成するアウタブラケット14の受圧部124と、インナブラケット16の当接部126が、互いに対向して設けられて、対向方向に突出しているが、アウタブラケット14とインナブラケット16の当接によって側方ストッパ手段が構成されるようになっていれば、突出する受圧部124や当接部126はなくても良い。
第一の実施形態に示すような別体の第二の緩衝ゴム128を採用する場合には、第二の緩衝ゴム128は、接着剤を用いてアウタブラケット14に接着されていても良いし、加硫接着によってより強固に固着されていても良い。同様に、第一の緩衝ゴム42は、接着や係合構造などによって、インナブラケット16に固定することもできる。
さらに、前記実施形態では、第一, 第二の緩衝ゴム42,128(142)がアウタブラケット14とインナブラケット16の何れかに当接状態で重ね合わされているが、それらブラケット14,16の両方に対して離隔して配置されていても良い。
また、第一の緩衝ゴム42は、本体ゴム弾性体22とは別体で形成されて、アウタブラケット14の側方竪壁98の上面と、インナブラケット16の下面との何れかに取り付けて配設することも可能である。これによれば、第一の緩衝ゴム42の形状や材質の選択自由度を大きくすることができて、目的とする緩衝作用を有利に得ることができる。
また、防振装置本体は、流体封入式のものに限定されず、非圧縮性流体を封入された流体室76やオリフィス通路58を持たないソリッドタイプのものも採用され得る。
また、本発明に係るブラケット付防振装置は、エンジンマウントとしてのみ用いられるものではなく、例えば、ボデーマウントやサブフレームマウント、デフマウントなどとしても好適に用いられ得る。更に、本発明の適用範囲は、自動車用の防振装置に限定されず、例えば、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などの防振装置にも適用され得る。