以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1には、本発明に係る防振装置の一実施形態としての自動車用のエンジンマウント10が、車両への装着状態で示されている。すなわち、エンジンマウント10に対してインナ側ブラケット12が固定されて、当該インナ側ブラケット12が図示しないパワーユニットに固定されるとともに、エンジンマウント10に対して、図2〜6に示されるようにアウタ側ブラケット14が固定されて、当該アウタ側ブラケット14が車両ボデー16に固定される。これにより、パワーユニットが車両ボデー16に対して、エンジンマウント10を介して弾性的に連結支持されるようになっている。特に、本実施形態では、パワーユニットが、車両ボデー16に対して吊下状態で支持されており、エンジンマウント10が、吊下タイプとされている。なお、図1には、車両装着状態におけるエンジンマウント10が示されており、エンジンマウント10に対してパワーユニットの分担支持荷重が及ぼされることで、図2〜6に示される状態よりもインナ部材18とアウタ部材20とが、本体ゴム弾性体22に圧縮変形が及ぼされる軸方向で相互に接近変位せしめられている。
また、以下の説明において、軸方向とは、インナ部材18やアウタ部材20の中心軸方向となる、図1中の上下方向をいう。また、上下方向とは、車両への装着状態において略鉛直方向となる、図1中の上下方向をいう。さらに、前後方向とは、図1や図5中の左右方向をいうとともに、左右方向とは、図6中の左右方向をいうが、車両装着時における方向は、これらの方向に限定されるものではない。
より詳細には、エンジンマウント10は、互いに所定距離を隔てて配されたインナ部材18と筒状のアウタ部材20とが本体ゴム弾性体22で相互に弾性連結された構造を備えている。
このインナ部材18は、全体として金属や硬質の合成樹脂などで形成されており、略軸直角方向に広がる平板状部24の底壁下面の略中央部分に、軸方向に延びる略矩形筒形状の固着金具26の上端が溶接等で固着された構造とされている。かかる固着金具26は、その中心孔28に雌ねじが刻設されたナット構造とされている。一方、平板状部24は、固着金具26から軸直角方向外方に突出する軸直角方向突部30を備えている。
本実施形態では、軸直角方向突部30における軸直角方向への突出寸法が周方向で異ならされており、平板状部24は、前後方向寸法D1 (図5参照)に比して、当該方向と直交する方向となる左右方向寸法D2 (図6参照)の方が大きく(D1 <D2 )されている。これにより、平板状部24が、前後方向に比して左右方向が長手方向となる、略長円乃至は略矩形の平面形状を有しており、軸直角方向突部30における突出寸法の大きい部分32,32が、左右方向両側(図6中の左右方向両側)に一対設けられているとともに、突出寸法の小さい部分34,34が、前後方向両側(図1,5中の左右方向両側)に一対設けられている。特に、本実施形態では、長手方向となる左右方向の両側端部が、径方向中間部分に設けられた段差状部を介して、中央部分よりも軸方向で上方に位置している。
また、アウタ部材20は、薄肉大径の略円筒形状を有している。このアウタ部材20は、下側部分が、軸直角方向内方に向かって延び出す内フランジ状のゴム固着部36とされている。すなわち、本実施形態では、アウタ部材20のゴム固着部36において内径寸法が小さくされており、アウタ部材20の下側開口部分において内周に向かって広がる小径部が、ゴム固着部36により構成されている。なお、ゴム固着部36の内周縁には、下方に突出する環状リブが設けられている。一方、アウタ部材20の上側部分は、ストレートな円筒形状を有する大径筒部38とされている。
なお、本実施形態では、ゴム固着部36における軸直角方向内方への突出寸法が周上で異ならされており、ゴム固着部36の内孔39(アウタ部材20の下側開口部)が略楕円形状、または略矩形状とされている。具体的には、ゴム固着部36における前後方向の内径寸法d1 (図5参照)が、左右方向の内径寸法d2 (図6参照)よりも大きく(d2 <d1 )されている。特に、本実施形態では、前後方向において、ゴム固着部36の内径寸法d1 が、平板状部24における幅寸法D1 よりも大きく(D1 <d1 )されている一方、左右方向において、ゴム固着部36の内径寸法d2 が、平板状部24における幅寸法D2 よりも小さく(d2 <D2 )されている。
さらに、アウタ部材20の上側開口部(大径筒部38の開口部分)には、径方向外方に広がる環状の段差部40が一体形成されているとともに、当該段差部40の外周縁部には、軸方向上方に延びる円筒状のかしめ部42が一体形成されている。なお、図1などに示される製品状態では、かしめ部42にかしめ加工が施されて、かしめ部42の先端が軸直角方向内方に折り曲げられている。
これらインナ部材18とアウタ部材20は、図7にも示されるように、両部材18,20の中心軸が略同軸的に位置せしめられるようにして、径方向に所定距離を隔てて位置せしめられている。すなわち、アウタ部材20の上方開口部分からインナ部材18が下方に差し入れられて配置されて、インナ部材18の固着金具26は、アウタ部材20の軸方向下側の開口部に挿通配置されて、下端部分がアウタ部材20から下方に突出されている。一方、平板状部24(軸直角方向突部30)は、大径筒部38内に配置されて、ゴム固着部36の上方(軸方向内方)に対向位置している。
そして、インナ部材18とアウタ部材20の径方向対向面間には、本体ゴム弾性体22が配されている。本体ゴム弾性体22は、軸方向上方に向かって次第に径方向寸法が小さくなるテーパ状の外周面を備えた略筒形状乃至は山形ブロック形状を呈している。本体ゴム弾性体22は、上方に突出した小径の中央部分がインナ部材18に加硫接着されているとともに、大径の外周部分がアウタ部材20のゴム固着部36に加硫接着されている。即ち、本体ゴム弾性体22は、図8に示されるように、インナ部材18とアウタ部材20を備えた一体加硫成形品44として形成されている。
これにより、インナ部材18とアウタ部材20が本体ゴム弾性体22によって相互に弾性連結されているとともに、アウタ部材20の下側開口部が、本体ゴム弾性体22とインナ部材18で流体密に閉塞されている。特に本実施形態では、平板状部24と固着金具26の上端部分とからなるインナ部材18の上側部分が、本体ゴム弾性体22の中央部分に入り込んで埋入されている。なお、平板状部24の上面を覆う被覆ゴム層50には、ゴム成形キャビティ内でインナ部材18を位置決めするための冶具による凹所が示されているが、かかる凹所は必須でない。
また、固着金具26の外周面には、本体ゴム弾性体22と一体形成されたインナゴム層46が被着されている。さらに、アウタ部材20の内周面には、本体ゴム弾性体22と一体形成されたアウタゴム層48が、略全体に亘って被着されている。
また、本実施形態では、アウタ部材20の上側開口部において、仕切部材52および後述するダイヤフラム66が配設されている。
仕切部材52は、全体として金属や硬質の合成樹脂で形成された厚肉の略円板形状とされており、仕切部材本体54と、当該仕切部材本体54の下面に重ね合わされる蓋板部材56を含んで構成されている。仕切部材本体54は、略円板形状であって、外周部分には、下面に開口して周方向に所定長さで連続して延びる周溝58が形成されている。なお、本実施形態では、仕切部材本体54の中央部分が肉抜きされて、上面および下面に開口する円形凹所60,62が形成されている。
また、蓋板部材56は、薄肉円板形状を有していると共に、中央部分には中央孔64が貫通形成されており、仕切部材本体54において周溝58の形成された厚肉の外周部分の下面に重ね合わされている。そして、仕切部材本体54の下面に蓋板部材56が重ね合わされて固定されることにより、周溝58の下側開口部が蓋板部材56で覆蓋されて、トンネル状の通路が形成されている。なお、蓋板部材56は、仕切部材本体54より大径とされており、蓋板部材56の外周部分が、仕切部材本体54から外周側に突出されている。
一方、可撓性膜としてのダイヤフラム66は、変形容易な薄肉のゴム膜からなり、略円形で外方に膨らんだ略ドーム形状とされている。さらに、ダイヤフラム66の外周縁部には、大径の略円筒形状を呈する取付筒金具68が固着されている。当該取付筒金具68の上端部には、径方向内方に広がる環状上部70が一体形成されているとともに、取付筒金具68の下端部には、径方向外方に広がる環状下部72が一体形成されている。そして、ダイヤフラム66の外周縁部が取付筒金具68の環状上部70に加硫接着されており、本実施形態では、ダイヤフラム66が、取付筒金具68を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、取付筒金具68の内周面には、ダイヤフラム66と一体形成されたシールゴム層74が略全体に亘って被着されている。
而して、仕切部材52に対して取付筒金具68が上方から重ね合わされており、蓋板部材56の外周部分と取付筒金具68の環状下部72が、アウタ部材20の段差部40に重ね合わされてかしめ部42によってかしめ固定されている。また、仕切部材本体54は、その外周面が取付筒金具68の内周面に対してシールゴム層74を挟んで嵌着されていると共に、その外周部分が蓋板部材56と取付筒金具68の環状上部70との間で軸方向に挟持固定されている。
これにより、アウタ部材20の上側開口がダイヤフラム66で覆蓋されており、アウタ部材20の内部には、本体ゴム弾性体22とダイヤフラム66との間に、外部空間と遮断されて非圧縮性流体が封入された流体室76が形成されている。また、流体室76の内部には、仕切部材52が軸直角方向で広がるようにしてアウタ部材20で固定的に支持されており、この仕切部材52で流体室76が仕切られて二分されている。
そして、流体室76における仕切部材52を挟んだ一方(図1中、下方)の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体22で構成されて、振動入力時に本体ゴム弾性体22の弾性変形に基づいて圧力変動が生ぜしめられる受圧室78が形成されている。一方、流体室76における仕切部材52を挟んだ他方(図1中、上方)の側には、壁部の一部がダイヤフラム66で構成されて、ダイヤフラム66の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される平衡室80が形成されている。
なお、流体室76に封入される非圧縮性流体としては、例えば、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油などが何れも採用可能であり、特に流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果を有効に得るためには、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体が好適に採用される。また、これら受圧室78や平衡室80を含んで構成される流体室76への非圧縮性流体の封入は、例えば、本体ゴム弾性体22の一体加硫成形品44に対する仕切部材52や取付筒金具68(ダイヤフラム66)の組付けを非圧縮性流体中で行うことによって実現される。
また、周溝58(トンネル状の通路)の一方の端部が蓋板部材56に形成された連通孔82を通じて受圧室78に連通されていると共に、他方の端部は周溝58の上底壁部に形成された図示しない連通孔を通じて平衡室80に連通されている。これにより、周溝58を利用して、受圧室78と平衡室80を相互に連通するオリフィス通路84が形成されている。なお、このオリフィス通路84は、常時、受圧室78と平衡室80を連通状態に接続している。
したがって、振動入力時には、圧力変動が惹起される受圧室78と、ダイヤフラム66の変形に基づいて容積変化が許容される平衡室80との間に、相対的な圧力変動が惹起されることとなり、それら両室78,80間でオリフィス通路84を通じての流体流動が生ぜしめられる。その結果、受圧室78と平衡室80との間でオリフィス通路84を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が、軸方向(図1中の上下方向)の振動に対して発揮されるようになっている。すなわち、本実施形態では、エンジンマウント10が、流体封入式の防振装置とされている。
また、本実施形態では、かかる形状とされたエンジンマウント10に対して、図9,10に示される、別部品である環状ゴム弾性体86が取り付けられている。この環状ゴム弾性体86は、ゴムやエラストマなどの弾性体から構成されており、全体として略筒形状とされて、中央部分には軸方向に貫通する中央孔88が設けられている。この中央孔88の内周形状は、インナ部材18における固着金具26の外周形状と略等しくされており、本実施形態では略矩形状とされて、中央孔88の口径が、固着金具26の外径に比して、前後方向及び/又は左右方向で、僅かに小さくされている。
さらに、かかる環状ゴム弾性体86の周壁において、前後方向両側(図1,5中の左右方向両側)には、外方に肉厚とされて突出する一対の膨出部90,90が設けられている。本実施形態では、膨出部90の軸方向中間部分が最も肉厚で外方に突出している。また、左右方向両側(図6中の左右方向両側)には、外方に突出する一対の段差状部91,91が設けられており、段差状部91より下方が大径でスカート状に下方に延びている。更にまた、環状ゴム弾性体86の下端には、軸直角方向に広がるプレート状の緩衝部92が一体形成されている。本実施形態では、かかる緩衝部92が、全体として薄肉の略矩形板形状とされている。
かかる形状とされた環状ゴム弾性体86は、インナ部材18の固着金具26に対して外嵌固定されている。本実施形態では、環状ゴム弾性体86の上端部分へ固着金具26の下側部分が嵌め入れられることで、環状ゴム弾性体86が弾性によりインナ部材18の固着金具26に対して非接着で仮固定されるようになっている。
なお、本実施形態では、環状ゴム弾性体86のインナ部材18への組み付けにより、固着金具26の外周面に被着されたインナゴム層46の下端と環状ゴム弾性体86の上端とが相互に当接されているとともに、固着金具26が中央孔88の軸方向中間部分まで挿入されて、膨出部90および段差状部91の下側部分と緩衝部92が、固着金具26よりも下方に外れて位置している。
さらに、上述の如き構造とされたエンジンマウント10には、インナ部材18に対してインナ側ブラケット12が取り付けられているとともに、アウタ部材20に対してアウタ側ブラケット14が取り付けられている。これらインナ側およびアウタ側のブラケット12,14の形状は何等限定されるものではないが、本実施形態では、インナ側ブラケット12は、全体として、中央部分において軸方向に貫通する挿通孔94を有する略筒形状とされており、下側部分が、軸直角方向に広がる矩形板部96とされている。特に、本実施形態では、かかる矩形板部96が、環状ゴム弾性体86の下端における緩衝部92よりも大きな平面形状を有している。
また、インナ側ブラケット12の上側部分は、環状ゴム弾性体86の中央孔88に下方から挿入されて、固着金具26の下端に当接して突き合わされている。更にまた、インナ側ブラケット12の矩形板部96は、環状ゴム弾性体86の緩衝部92に対して下方から当接状態で重ね合わされている。そして、インナ側ブラケット12の挿通孔94へ挿通された取付ボルト98が固着金具26に螺着されることで、インナ側ブラケット12がエンジンマウント10のインナ部材18へ固着されている。
一方、本実施形態のアウタ側ブラケット14は、略有底筒形状とされたカップ状部100を備えている。カップ状部100は、略筒状の周壁部102と、当該周壁部102の下側開口部から内方に広がる円環板状の底壁部104とを有している。なお、底壁部104の内周縁には、下方に突出する筒状のリブがが設けられて、リブの内孔によって、軸方向に貫通する貫通孔106が形成されている。
そして、かかる貫通孔106には、上下方向に延びる筒状当接部108が、圧入固定されており、必要に応じて溶着などで固着されている。この筒状当接部108は、カップ状部100よりも厚肉とされており、軸方向中間部分を略ストレートに延びる筒状部110に対してその上端部には、内周側に向かって突出する環状の小径突部112が設けられている。
なお、小径突部112における内周側への突出寸法は、全周に亘って等しくされているか周上で僅かに異ならされており、本実施形態では、前後方向における小径突部112の内径寸法E1 (図5参照)が、左右方向における小径突部112の内径寸法E2 (図6参照)よりも僅かに大きく(E2 <E1 )されている。特に、本実施形態では、前後方向において、小径突部112の内径寸法E1 が、インナ部材18における平板状部24の幅寸法D1 よりも大きく(D1 <E1 )されている一方、左右方向において、小径突部112の内径寸法E2 が、インナ部材18における平板状部24の幅寸法D2 よりも小さく(E2 <D2 )されている。これにより、軸方向において、平板状部24と小径突部112とが、前後方向両側では非対向状態とされているとともに、左右方向両側では相互に対向している。
一方、筒状部110の下端部には、左右方向両側に位置して外周側へ突出する大径突部114,114が形成されている。なお、図2〜6に示されるように、車両への装着前には、筒状部110(筒状当接部108)の下端部、即ち大径突部114は、環状ゴム弾性体86における緩衝部92の上面に当接しているが、図1に示されるように、車両への装着状態では、インナ部材18にパワーユニットの分担支持荷重が及ぼされてアウタ部材20に対して下方へ相対変位せしめられることから、大径突部114と緩衝部92とは軸方向で所定の距離をもって離隔している。
さらに、カップ状部100の外周面には、車両前方および車両後方(図1,5中の左方および右方)に突出する取付板部116a,116bが、溶着などの手段により固着されている。なお、これら取付板部116a,116bにはボルト挿通孔118が形成されている。
そして、図11に示されるようにアウタ側ブラケット14のカップ状部100に対して上方からエンジンマウント10のアウタ部材20が、圧入固定されて、必要に応じて溶着などの手段により固着されることで、アウタ側ブラケット14がエンジンマウント10に装着されている。かかる状態において、取付板部116a,116bが車両ボデー16に重ね合わされて、各ボルト挿通孔118に挿通される取付ボルト120により、アウタ側ブラケット14が車両ボデー16へボルト固定されるようになっている。
また、アウタ側ブラケット14における筒状当接部108の上側部分は、アウタ部材20の下側開口部(内孔39)からアウタ部材20の内部に入り込んでおり、筒状当接部108の上端部(小径突部112)がアウタ部材20のゴム固着部36と上下方向で略等しい位置にある。これにより、小径突部112が、前後方向および左右方向において、インナ部材18における固着金具26と、インナゴム層46を介して対向している、即ち筒状当接部108がインナ部材18の外周側に離隔配置されているとともに、左右方向両側において、インナ部材18における平板状部24と、インナゴム層46を介して軸方向で対向している。
さらに、図11に示される状態から、インナ部材18に対して環状ゴム弾性体86が取り付けられることで、図2〜6に示される状態となり、かかる状態では、前後方向において、環状ゴム弾性体86の膨出部90と、筒状当接部108における筒状部110とが、所定距離を隔てて相互に対向するようになっているとともに、左右方向において、環状ゴム弾性体86の段差状部91と、筒状当接部108における筒状部110とが、所定距離を隔てて相互に対向するようになっている。本実施形態では、前後方向において、膨出部90と筒状部110との離隔距離F1 (図5参照)が、小径突部112とインナゴム層46との離隔距離F2 (図5参照)よりも小さく(F1 <F2 )されているとともに、左右方向において、段差状部91と筒状部110との離隔距離f1 (図6参照)が、小径突部112とインナゴム層46との離隔距離f2 (図6参照)よりも小さく(f1 <f2 )されている。
更にまた、図2〜6に示される状態からインナ側ブラケット12が取り付けられて、図1に示される如き状態とされることで、筒状当接部108の下端部がインナ側ブラケット12における矩形板部96に対して環状ゴム弾性体86の緩衝部92を介して上下方向で相互に対向するようになっている。本実施形態では、筒状当接部108の下端部における左右方向両側において大径突部114,114が設けられていることから、筒状当接部108の下端部とインナ側ブラケット12における矩形板部96との対向部分における面積を大きく確保することができる。
ここにおいて、本実施形態のエンジンマウント10では、前述のように、インナ部材18の平板状部24とアウタ部材20の下側開口部(ゴム固着部36の内孔)とが、何れも円形状とは異なる異形状とされており、具体的には、略楕円形状または略矩形状とされている。
特に、本実施形態では、前後方向において、ゴム固着部36の内径寸法d1 が、平板状部24の幅寸法D1 よりも大きく(D1 <d1 )されていることから、インナ部材18の平板状部24(突出寸法の小さい部分34,34)とアウタ部材20のゴム固着部36とが相互に軸直角方向に外れて軸方向で対向しないようになっている。すなわち、前後方向両側における平板状部24(突出寸法の小さい部分34,34)とゴム固着部36との間に非対向部分122が形成されており、当該非対向部分122が、軸直角方向のうち、前後方向で対向して一対設けられている。
一方、本実施形態では、左右方向において、ゴム固着部36の内径寸法d2 が、平板状部24の幅寸法D2 よりも小さく(d2 <D2 )されていることから、インナ部材18の平板状部24(突出寸法の大きい部分32,32)とアウタ部材20のゴム固着部36とが相互に軸方向で対向するようになっている。すなわち、左右方向両側における平板状部24(突出寸法の大きい部分32,32)とゴム固着部36との間に対向部分124が形成されており、当該対向部分124が、軸直角方向のうち、非対向部分122,122の対向方向に対して直交する方向となる左右方向で対向して一対設けられている。
そして、かかる非対向部分122では、軸方向の荷重入力時においてインナ部材18とアウタ部材20とが軸方向で相対変位した際に、本体ゴム弾性体22が剪断変形されるようになっている。すなわち、非対向部分122に設けられる本体ゴム弾性体22、要するに、本体ゴム弾性体22における前後方向両側部分が、剪断ゴム部分126,126とされており、互いに径方向で離れたインナ部材18の平板状部24とアウタ部材20のゴム固着部36とを弾性的に連結している。
一方、対向部分124では、軸方向の荷重入力時においてインナ部材18とアウタ部材20とが軸方向で相対変位した際に、本体ゴム弾性体22が圧縮変形されるようになっている。すなわち、平板状部24とゴム固着部36との軸方向での対向部分124に設けられる本体ゴム弾性体22、要するに、本体ゴム弾性体22における左右方向両側部分が、圧縮ゴム部分128,128とされている。具体的には、アウタ部材20の下方開口部分からインナ部材18が下方へ突出する方向へ変位することで圧縮ゴム部分128,128に圧縮変形が及ぼされるようになっている。なお、本実施形態では、剪断ゴム部分126における剪断ばね特性と圧縮ゴム部分128における圧縮ばね特性を考慮して、剪断ゴム部分126が、圧縮ゴム部分128に比して薄肉とされている。
以上の如き構造とされた本実施形態のエンジンマウント10に対して軸方向(上下方向)の振動が入力された場合には、本体ゴム弾性体22における剪断ゴム部分126においては主として剪断変形が生ぜしめられるとともに、圧縮ゴム部分128においては主として圧縮/引張変形が生ぜしめられる。かかる本体ゴム弾性体22の変形に伴う受圧室78の体積変化によりオリフィス通路84を通じての非圧縮性流体の流動が惹起されて、上下方向の振動が低減されるようになっている。また、軸直角方向(前後方向および/または左右方向)の振動が入力された場合においては、剪断ゴム部分126および圧縮ゴム部分128の何れにおいても主として剪断変形が生ぜしめられることから、柔らかいばね特性が発揮され得る。特に、本実施形態では、剪断ゴム部分126及び圧縮ゴム部分128が何れも下方に広がって傾斜する弾性主軸を有していると共に、剪断ゴム部分126と圧縮ゴム部分128で異なるゴム厚さが設定されており、更に、圧縮ゴム部分128が固着された平板状部24の軸直角方向突部30に段差状部が設けられていることなどにより、軸直角方向の振動入力時の弾性変形にも圧縮/引張成分が発生することとなり、前後方向と左右方向とでばね特性が異ならされており、左右方向に比して前後方向の方が柔らかいばね特性が発揮されるようになっている。
ここで、インナ部材18の平板状部24における前後方向両側の部分と筒状当接部108における小径突部112とが上下方向で相互に対向していることから、バウンド方向の振動が入力された際に、これら平板状部24と小径突部112とがインナゴム層46を介して相互に当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が緩衝的に制限されるようになっている。すなわち、本実施形態では、これら平板状部24の前後方向両側の部分と小径突部112とを含んで、バウンド方向のストッパ機構130が構成されている。
また、筒状当接部108の下端部(特に大径突部114,114)とインナ側ブラケット12における矩形板部96とが上下方向で相互に対向していることから、リバウンド方向の振動が入力された際に、これら筒状当接部108の下端部(大径突部114,114)とインナ側ブラケット12における矩形板部96とが緩衝部92を介して相互に当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が制限されるようになっている。すなわち、本実施形態では、筒状当接部108の下端部(大径突部114,114)とインナ側ブラケット12における矩形板部96とを含んで、リバウンド方向のストッパ機構132が構成されている。
さらに、筒状当接部108と、インナ部材18における固着金具26およびインナ側ブラケット12における上側部分とが軸直角方向(前後方向および左右方向)で相互に対向していることから、軸直角方向の振動が入力された際に、これら筒状当接部108とインナ部材18及び/又はインナ側ブラケット12とが相互に当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が制限されるようになっている。
すなわち、筒状部110と膨出部90との離隔距離F1 に比して小径突部112とインナゴム層46との離隔距離F2 の方が大きくされていることから、前後方向の振動が入力された際には、先ず、筒状部110と膨出部90とが当接(筒状部110が膨出部90を介してインナ部材18及び/又はインナ側ブラケット12と当接)することで変位量が抑制される。そして、それよりも大きな荷重が入力されることで、小径突部112とインナゴム層46とが当接(小径突部112がインナゴム層46を介してインナ部材18と当接)することで変位量がより確実に制限されるようになっている。すなわち、本実施形態では、筒状部110とインナ部材18及び/又はインナ側ブラケット12とを含んで前後方向の小荷重ストッパ機構134が構成されており、これらが膨出部90を介して当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が緩衝的に制限されるようになっている。また、小径突部112とインナ部材18とを含んで前後方向の大荷重ストッパ機構136が構成されており、これらがインナゴム層46を介して当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が緩衝的に且つ確実に制限されるようになっている。
同様に、筒状部110と段差状部91との離隔距離f1 に比して小径突部112とインナゴム層46との離隔距離f2 の方が大きくされていることから、左右方向の振動が入力された際には、筒状部110とインナ部材18及び/又はインナ側ブラケット12とを含んで左右方向の小荷重ストッパ機構138が構成されており、これらが段差状部91を介して当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が緩衝的に制限されるようになっている。また、小径突部112とインナ部材18とを含んで左右方向の大荷重ストッパ機構140が構成されており、これらがインナゴム層46を介して当接することで、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量が緩衝的に且つ確実に制限されるようになっている。
すなわち、本実施形態では、上下方向(バウンド方向およびリバウンド方向)、前後方向、左右方向の各方向において、ストッパ機構130,132,134,136,138,140が構成されているとともに、各ストッパ機構130,132,134,136,138,140において、インナ部材18とアウタ部材20との相対変位量がインナゴム層46および/または環状ゴム弾性体86により緩衝的に制限されるようになっている。したがって、本実施形態では、これらインナゴム層46と環状ゴム弾性体86とを含んで緩衝ゴム142が構成されている。
以上の如き構造とされた本実施形態のエンジンマウント10では、本体ゴム弾性体22における圧縮ゴム部分128,128により、パワーユニットに対する支持ばね強度が確保される。一方、剪断ゴム部分126,126と圧縮ゴム部分128,128とで、軸直角方向の振動に対するばね特性が異ならされることから、前後方向と左右方向の直交する軸直角二方向でばね比を大きく設定することも可能となる。すなわち、本体ゴム弾性体22において、部分的に剪断ゴム部分126と圧縮ゴム部分128とをそれぞれ設けることで、軸方向や軸直角方向におけるばね特性のチューニング自由度が大きく確保され得る。
特に、本実施形態では、剪断ゴム部分126が、インナ部材18(平板状部24)における突出寸法の小さい部分34とアウタ部材20との非対向部分122に設けられているとともに、圧縮ゴム部分128が、インナ部材18(平板状部24)における突出寸法の大きい部分32とアウタ部材20との対向部分124に設けられている。すなわち、インナ部材18を、例えば円形とは異なる異形状として、突出寸法の小さい部分34と大きい部分32とを設けることで、剪断ゴム部分126と圧縮ゴム部分128とが容易に形成され得る。
また、かかる剪断ゴム部分126が、前後方向で一対設けられているとともに、圧縮ゴム部分128が、左右方向で一対設けられていることで、互いに直交する軸直角方向二方向でのばね比を大きく設定しやすい。
さらに、本実施形態では、上下方向、前後方向、左右方向の各方向における振動に対してストッパ機構130,132,134,136,138,140が設けられていることから、各方向においてインナ部材18とアウタ部材20との相対的な変位量が制限されて本体ゴム弾性体等の耐久性の向上が図られる。特に、各ストッパ機構130,132,134,136,138,140にはインナゴム層46および環状ゴム弾性体86を含んで構成される緩衝ゴム142が設けられていることから、インナ部材18とアウタ部材20との相対的な変位量が緩衝的に制限されて、これらインナ部材18とアウタ部材20との打ち当たりに伴う異音や衝撃の発生が軽減され得る。
特に、前後方向および左右方向には、小荷重ストッパ機構134,138と大荷重ストッパ機構136,140が設けられていることから、段階的なストッパ機構が構成されて、より高度な緩衝作用が発揮され得る。
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
たとえば、前記実施形態では、インナ部材18とアウタ部材20との対向部分124(本体ゴム弾性体22における圧縮ゴム部分128)が左右方向の両側で一対設けられるとともに、非対向部分122(剪断ゴム部分126)が前後方向の両側で一対設けられていたが、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、対向部分(圧縮ゴム部分)と非対向部分(剪断ゴム部分)とは周上でそれぞれ部分的に形成されていればよく、個数や周上の形成位置は何等限定されず、要求されるばね特性に応じて適宜設定され得る。
また、前記実施形態では、インナ部材18における平板状部24とアウタ部材20における小径部(ゴム固着部36)を異形状として対向部分124と非対向部分122とを設けていたが、例えばインナ部材とアウタ部材の一方を回転対称形状として、他方を異形状としてもよい。さらに、平板状部や小径部(ゴム固着部)から軸方向に突出する部分を設けて、軸方向や軸直角方向のばね特性を調節することも可能である。
更にまた、アウタ側ブラケットやインナ側ブラケットの形状は、前記実施形態に記載のものに限定されるものではなく、例えばアウタ側ブラケットにおける筒状当接部は必須なものではない。すなわち、前記実施形態では、各ストッパ機構130,132,134,136,138,140が筒状当接部108を含んで構成されていたが、これらストッパ機構は必須なものではない。また、前後方向や左右方向にストッパ機構が設けられる場合でも、前記実施形態の如き段階的なストッパ機構である必要はない。
また、前記実施形態では、インナゴム層46、アウタゴム層48、被覆ゴム層50が、本体ゴム弾性体22と一体的に形成されていたが、これらは別体として形成されて後固着されてもよい。さらに、前記実施形態では、環状ゴム弾性体86が、本体ゴム弾性体22とは別体として形成されていたが、一体として形成されてもよい。尤も、本発明において、環状ゴム弾性体は必須なものではない。
更にまた、前記実施形態では、エンジンマウント10が流体封入式とされていたが、流体封入式に限定されるものではなく、例えば前記実施形態において仕切部材やダイヤフラム、流体室を備えないソリッドタイプの防振装置としても構成され得る。また、前記実施形態では、エンジンマウント10が吊下タイプとされていたが、吊下タイプに限定されるものではなく、例えば前記実施形態に示される本体ゴム弾性体の中央部分から下方に突出するインナ部材に代えて上方に突出するインナ部材を採用し、当該インナ部材に対してパワーユニットを載置せしめて防振支持させる如き構成も採用され得る。さらに、前記実施形態では、本発明に係る防振装置として自動車用のエンジンマウントが示されていたが、本発明は、自動車用のストラットマウントやメンバマウント、ボデーマウントなどに適用されてもよいし、自動車以外の防振装置に適用されてもよい。