本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、こじり方向の入力振動に対して、流体流動に基づく高減衰特性を発揮することができるとともに、こじり方向の入力振動に対する耐久性が向上された、新規な構造の流体封入式筒形防振装置を提供することにある。
以下、前述の如き課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材をそれらの間に配設された本体ゴム弾性体で連結した本体部と、内筒部材と外筒部材をそれらの間に配設されて、軸直方向で対向位置する一対の可撓性ゴム膜と該一対の可撓性ゴム膜の対向方向に直交する軸直方向で対向位置する一対のゴム壁部とを有する環状ゴム部材によって連結した少なくとも1つの端縁シール部を備え、前記本体部の軸方向の少なくとも一方の端部に前記端縁シール部が一体的に組み付けられており、該端縁シール部の前記内筒部材が該本体部の前記インナ軸部材に流体密に外嵌固定される一方、該端縁シール部の前記外筒部材が該本体部の前記アウタ筒部材に流体密に内嵌固定されることにより、該本体部と該端縁シール部との間に壁部の一部が前記可撓性ゴム膜で形成されて非圧縮性流体が封入された一対の流体室が前記一対のゴム壁部により互いに周方向で仕切られた状態で形成されていると共に、各前記流体室を画成する各前記可撓性ゴム膜は、その軸直方向中間部分が軸方向内方に突出する軸方向断面形状で周方向に延出しており、該軸方向内方に最も突出する屈曲部から前記内筒部材まで延び出す内方延出部と、該屈曲部から前記外筒部材まで延び出す外方延出部が、それらの延出長さと前記軸方向に対する傾斜角度の少なくとも一方が互いに異ならされていると共に、該屈曲部と本体ゴム弾性体との対向面間において狭窄流路が形成されているものである。
本態様によれば、本体部と端縁シール部との間で、且つ軸直方向で対向する位置に設けられた一対の流体室の壁部の一部が、軸方向内方に突出する特定の断面形状で周方向に延びる可撓性ゴム膜で形成されている。従って、一対の流体室がこじり方向の振動入力方向で対向するように流体封入式筒形防振装置を配設することにより、こじり方向の振動が入力されて、インナ軸部材の中心軸とアウタ筒部材の中心軸が相互に斜交するように変位する際には、各流体室において、可撓性ゴム膜と本体ゴム弾性体の形状変化により、内方延出部と内筒部材との間に画成される内周側領域と外方延出部と外筒部材との間に画成される外周側領域がそれぞれ縮小又は拡張される。この時、可撓性ゴム膜の内方延出部と外方延出部の延出長さと傾斜角度の少なくとも一方が互いに異ならされていることから、内周側領域と外周側領域の容積変化を相互に異ならせることができる。この内周側領域と外周側領域の容積変化に伴い、可撓性ゴム膜の屈曲部と本体ゴム弾性体との間に形成された狭窄流路を通じての流体流動が惹起され、かかる狭窄流路の流体流動に基づきこじり方向の振動入力に対する高い減衰特性が発揮されるのである。
要するに、本態様に従う液体封入式防振装置においては、簡単な構造でこじり方向の振動入力に対して狭窄流路を通じた流体流動に基づく高減衰特性を発揮させることができ、こじり入力に対して従来構造の防振装置では得られない優れた防振特性や車両の乗り心地を実現することができる。
しかも、可撓性ゴム膜で構成された一対の流体室がこじり方向の振動入力方向で対向するように配設されることから、こじり方向の振動入力時の引張・圧縮方向の変位に対して可撓性ゴム膜の全体が撓み変形することで大きな負荷を伴うことなくスムーズに追従することができる。従って、従来の如き本体ゴム弾性体が局所的に引張・圧縮方向に変形される場合に比して、こじり方向の振動入力に対する装置全体の耐久性を向上させることができる。
なお、一対の流体室の対向方向となる軸直方向における振動入力に対しても、狭窄流路を通じた流体流動に基づく減衰特性が発揮され得る。
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式筒形防振装置において、前記一対のゴム壁部の少なくとも一方と前記本体ゴム弾性体との間に周方向に延びるオリフィス通路が形成されており、該オリフィス通路の両端部が該一対の流体室にそれぞれ開口されていることにより、該オリフィス通路を通じて該一対の流体室が相互に連通されているものである。
本態様によれば、一対の流体室の間を連通するオリフィス通路が本体ゴム弾性体とゴム壁部との間に設けられている。従って、一対の流体室が対向する軸直方向に振動が入力された際には、一対の流体室の容積変化に伴い、オリフィス通路を通じた流体流動が惹起される。これにより、軸直方向の振動入力に対してもオリフィス通路の流体流動に基づく減衰特性が発揮される。
なお、オリフィス通路は一対のゴム壁部の両方において、本体ゴム弾性体の間にそれぞれ一対のオリフィス通路が形成されていてもよい。また、オリフィス通路は、ゴム壁部と本体ゴム弾性体の何れか一方の側に凹部を設けて何れか他方により凹部の開口を覆蓋することにより形成されていてもよく、また、両方に凹部を設けて両凹部の開口部同士を当接させることにより形成してもよい。
本発明の第三の態様は、第二の態様に記載された流体封入式筒形防振装置において、前記端縁シール部の前記一対のゴム壁部における前記本体ゴム弾性体への当接面には、前記オリフィス通路の非形成部位において径方向及び周方向の少なくとも何れかの方向に延びる複数のシール突部が突設されているものである。
本態様によれば、本体ゴム弾性体とゴム壁部との間でシール突部が圧縮されることにより、本体ゴム弾性体とゴム壁部の当接面間が強固にシールされて、当該当接面間を介したオリフィス通路の短絡を有利に防止することができる。
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか1つの態様に記載された流体封入式筒形防振装置において、前記端縁シール部の一対が前記本体部の軸方向両方の端部にそれぞれ一体的に組み付けられているものである。
本態様によれば、本体部の軸方向両側に一対の端縁シール部が組み付けられていることから、こじり入力に対して上下両側の端部を利用して一対の流体室を形成して、狭窄通路によるこじり方向の振動入力に対する高減衰効果や軸直方向の振動入力に対する狭窄通路による減衰効果、オリフィス通路による減衰効果を、一層効果的に得ることができる。
本発明の第五の態様は、第四の態様に記載された流体封入式筒形防振装置において、前記本体部の前記本体ゴム弾性体には軸方向に延びる貫通孔が貫設されており、前記本体部の軸方向両方の端部に設けられた前記流体室が、該貫通孔を通じて相互に連通されているものである。
本態様によれば、軸方向の振動入力に対して貫通孔を流通する流体流動により低動ばね効果が得られると共に、高周波数域において高減衰特性が得られる。
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか1つの態様に記載された流体封入式筒形防振装置において、前記端縁シール部の前記内筒部材の軸方向内方端部には、拡径部が設けられており、前記インナ軸部材に外嵌固定された状態で該拡径部と該インナ軸部材の間の隙間において前記本体ゴム弾性体から軸方向外方に突出するインナ側シールゴムが挟持されている一方、前記端縁シール部の外筒部材の軸方向内方端部には、縮径部が設けられており、前記アウタ筒部材に内嵌固定された状態で該縮径部と該アウタ筒部材の間の隙間において該縮径部の外周面に被着形成されたアウタ側シールゴムが挟持されているものである。
本態様によれば、端縁シール部の内筒部材と外筒部材の端縁部の径寸法を調節する一方、本体ゴム弾性体側にインナ側シールゴムを一体的に設けると共に、端縁シール部の外筒部材の外周面にアウタ側シールゴムを被着する簡単な構造で、別部品を必要とすることなく、端縁シール部と本体部の組み付け部分のシール性を向上させることができる。
本発明の流体封入式筒形防振装置によれば、可撓性ゴム膜で構成された一対の流体室をこじり方向の振動入力方向で対向するように配設させると共に、可撓性ゴム膜の内方延出部と外方延出部の延出長さと傾斜角度の少なくとも一方を互いに異ならせることにより、こじり方向の振動入力に対して狭窄流路を通じた流体流動に基づく高減衰特性を発揮させることができる。また、こじり方向の振動入力時の変位に対して、可撓性ゴム膜の全体が撓み変形することで大きな負荷を伴うことなくスムーズに追従することができ、こじり方向の振動入力に対する装置全体の耐久性を向上させることもできる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜6には、本発明の流体封入式筒形防振装置の第一の実施形態としてのサスペンションブッシュ10が示されている。このサスペンションブッシュ10は、インナ軸部材12とその外周側に離隔配置されたアウタ筒部材14とが本体ゴム弾性体16で連結された本体部18の軸方向両方の端部に対して、内筒部材20と外筒部材22をそれらの間に配設されて軸直方向で対向位置する一対の可撓性ゴム膜24,24を有する環状ゴム部材26,26によって連結した端縁シール部28が、それぞれ一体的に組み付けられることによって形成されている。このサスペンションブッシュ10は、例えば、フロントサスペンションのロアアームリンクにおける後方側ブッシュとして用いられるものであり、インナ軸部材12の中央孔30に対して車両ボデーに固設された支軸(図示せず)が挿通固定される一方、アウタ筒部材14に対してサスペンションアームに設けられたアームアイ(図示せず)が外嵌固定されることにより、自動車のサスペンションを車両ボデーに対して防振連結するようになっている。このサスペンションブッシュ10は、その軸方向をロアアームリンク平面に対して垂直に配設する、所謂縦置き配置にて装着されており、車両前後方向の振動等による外力が主に軸直角方向に及ぼされる一方、タイヤの上下揺動時にはこじり方向の変位が入力される。なお、以下の説明中、軸方向および径方向とは、原則としてインナ軸部材12またはアウタ筒部材14の軸方向および径方向を言う。また、上下方向とは図2,3,6における上下方向を言うものとする。
先ず、本体部18について詳述する。図3に示すように、本体部18を構成するインナ軸部材12は、厚肉小径の略円筒形状を呈しており、鉄鋼やアルミニウム合金等の金属材、或いは合成樹脂等の硬質材によって形成されている。インナ軸部材12は、軸方向両側部分に軸方向にストレートに延びる円筒状部32,32を有すると共に、軸方向中間部分に軸直方向外方に略矩形状に突出する環状傍出部34を有している。一方、本体部18を構成するアウタ筒部材14は、インナ軸部材12の周囲に隙間を隔てて配設し得る程度に大径の略薄肉円筒形状を呈しており、インナ軸部材12と同様に適当な硬質材によって形成されている。そして、アウタ筒部材14はインナ軸部材12の周囲に隙間を隔てて外挿されていると共に、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が同一中心軸上に配設されている。なお、本実施形態では、インナ軸部材12に比してアウタ筒部材14の軸方向長さが短くされており、アウタ筒部材14の軸方向両側からインナ軸部材12の軸方向両端部がそれぞれ所定長さで突出せしめられている。
これらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向対向面間には、本体部18を構成する本体ゴム弾性体16が配設されている。この本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉の略筒形ブロック形状を有しており、本体ゴム弾性体16の内周面36がインナ軸部材12の外周面に加硫接着されると共に、本体ゴム弾性体16の外周面38がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されることにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14がそれらの間に配設された本体ゴム弾性体16によって弾性連結された本体部18が構成されている。
図4には、本体部18の軸方向上方側の端面が示されている。本実施形態においては、本体部18の軸方向両端面は、相互に同一の形状とされていることから、以下、図4に示す軸方向上方側の端面に基づいてその構造を詳述する。図4に示すように、本体ゴム弾性体16には、第一の軸直方向(図4中左右方向)で相互に対向する位置に、本体ゴム弾性体16の端面が周方向の所定領域に亘って凹状に窪まされた、一対の窪み部40,40が形成されている。加えて、本体ゴム弾性体16を略円形状断面で軸方向に延びて上下の窪み部40に開口する一対の貫通孔42,42が貫設されている(図3参照)。なお、貫通孔42は要求特性によっては1箇所のみに設けられてもよい。
さらに、本体ゴム弾性体16には、第一の軸直方向に直交する第二の軸直方向(図4中上下方向)で相互に対向する位置に、薄肉板状且つ円弧形断面で軸方向に延びる一対の補強金具44,44が内部に埋設状態で配設されており、第二の軸直方向における本体ゴム弾性体16のばね剛性が任意の値に設定されるようになっている。この補強金具44が埋設された第二の軸直方向で対向する本体ゴム弾性体16の軸方向端面には、周方向に連続して延びる一対のオリフィス形成用凹溝46が周方向に連続して延びるように開口形成されている。そして、本体ゴム弾性体16の内部に埋設された補強金具44の軸方向両端部は、インナ軸部材12側にL字形状に曲げられており、かかる両端部が本体ゴム弾性体16の軸方向両端面に形成されたオリフィス形成用凹溝46の底面中央部分に本体ゴム弾性体16に被覆された状態で突出するように配設されている。なお、本実施形態においては、補強金具44の軸方向端面とオリフィス形成用凹溝46の開口端縁部が略面一となるようにされている(図3参照)。また、補強金具44の周方向長さが、オリフィス形成用凹溝46の周方向長さよりも短くされて、オリフィス形成用凹溝46の周方向両端部が、隣接する窪み部40に連接されている(図4参照)。
加えて、本体ゴム弾性体16には、インナ軸部材12の環状傍出部34の外周縁部から軸方向両側に設けられた円筒状部32の外周面に沿って軸方向外方に延出する薄肉のインナ側シールゴム部50,50が一体的に形成されている。インナ側シールゴム部50の外周面には、複数の突部52が形成されている。ここで、突部52の形状としては、単なる突起や周方向に延びる突条あるいはそれらの組合わせ等、任意の形状が採用され得る。また、インナ側シールゴム部50の基端部には、周方向に延びると共に軸方向外方に開口する内筒部材収容溝54が設けられている。上述の説明から明らかなとおり、本実施形態では、かかる本体ゴム弾性体16が、インナ軸部材12とアウタ筒部材14および補強金具44に対して加硫接着された一体加硫成形品として本体部18が構成されている。
次に、本体部18の軸方向両方の端部に一体的に組み付けられる端縁シール部28,28について詳述する。なお、本体部18に組み付けられる2つの端縁シール部28,28は、何れの同一形状とされていることから、以下、図3や図5等に基づいて、各端縁シール部28の構造を説明する。図5に示すように、端縁シール部28を構成する内筒部材20は、軸方向に延びる薄肉小径の中空円筒形状を呈しており、インナ軸部材12やアウタ筒部材14と同様に適当な硬質材で形成されている。本実施形態では、内筒部材20の軸方向外方端部(図3中上方)がインナ軸部材12へ外嵌固定される嵌着筒部56とされており、その内径寸法がインナ軸部材12に対して圧入等による外嵌固定が可能な値に設定されている。また、内筒部材20の軸方向内方端部(図3中下方)には、嵌着筒部56よりも大径の拡径部58が設けられており、その内径寸法がインナ軸部材12の外径よりも僅かに大きな値とされている。
一方、端縁シール部28を構成する外筒部材22は、内筒部材20よりも大径の薄肉円筒形状を呈しており、インナ軸部材12やアウタ筒部材14と同様に適当な硬質材で形成されている。外筒部材22は、内筒部材20に隙間を隔てて外挿されると共に、内筒部材20と外筒部材22が略同一中心軸上に位置されるように配設されている。本実施形態では、外筒部材22の軸方向外方端部(図3中上方)がアウタ筒部材14へ内嵌固定される嵌着筒部62とされており、その内径寸法がアウタ筒部材14に対して圧入等による内嵌固定が可能な値に設定されている。また、外筒部材22の軸方向内方端部(図3中下方)には、嵌着筒部62よりも小径の縮径部64が設けられており、その内径寸法がアウタ筒部材14の内径よりも僅かに小さな値とされている。
これら内筒部材20と外筒部材22の径方向対向面間には、環状ゴム部材26が配設されている。図5に示すように、環状ゴム部材26は、第一の軸直方向(図5中左右方向)で相互に対向位置する周方向の所定領域が一対の可撓性ゴム膜24,24によって構成されている一方、一対の可撓性ゴム膜24,24の対向方向である第一の軸直方向に直交する第二の軸直方向(図5中上下方向)で相互に対向位置する周方向の所定領域が一対のゴム壁部66,66で構成された構造とされている。
図3に示すように、一対の可撓性ゴム膜24は全体として略V字の軸方向断面形状で周方向に延びており、可撓性ゴム膜24の内周面68が内筒部材20の嵌着筒部56の外周面に加硫接着されていると共に、可撓性ゴム膜24の外周面72が外筒部材22の嵌着筒部62の内周面に加硫接着されている。可撓性ゴム膜24の外周面72は、さらに外筒部材22の縮径部64内周面および縮径部64の外周面にまで至って延び出して被着されている。これにより、外筒部材22の嵌着筒部62の外周面には、可撓性ゴム膜24と一体形成されたアウタ側シールゴム74が被着形成されている。
ここで、可撓性ゴム膜24は略V字断面形状で周方向に延びていることから、内筒部材20と外筒部材22の間における軸直方向中間部分が、軸方向内方(図2,3中下方)に突出した形状とされている。そして、軸方向内方に最も突出する屈曲部76から内筒部材20まで延び出す内方延出部78と、屈曲部76から外筒部材22まで延び出す外方延出部80が、それらの延出長さL1,L2と軸方向に対する傾斜角度α,βが互いに異ならされて形成されている(図3参照)。
一方、図3に示すようにまた、ゴム壁部66は全体として略台形状とされており、内筒部材20と外筒部材22の対向面に加硫接着されている。さらに、可撓性ゴム膜24の場合と同様に、ゴム壁部66が、外筒部材22の嵌着筒部62の外周面まで延び出して被着されている。これにより、外筒部材22の嵌着筒部62の外周面には、ゴム壁部66とも一体形成されたアウタ側シールゴム74が被着形成されているのである。ここで、アウタ側シールゴム74の外径寸法は、アウタ筒部材14の内径寸法よりも僅かに大きくされている。
さらに、図5に示すように、一対のゴム壁部66の軸方向内方の端面、即ち、本体部18への端縁シール部28の組み付け状態下における本体ゴム弾性体16への当接面には、本体ゴム弾性体16に形成されたオリフィス形成用凹溝46との対向領域82を外れた部位であり、後述するオリフィス通路90の非形成部位において、径方向及び周方向に延びる複数のシール突部84が形成されている。本実施形態においては、オリフィス通路90の内外周壁部に沿って、複数のうね状のシール突部84が周方向の適所に径方向及び周方向に延びるように配設されている。なお、シール突部84は、径方向又は周方向の一方のみに延びるように形成してもよい。
上述の説明から明らかなとおり、本実施形態では、かかる可撓性ゴム膜24とゴム壁部66を有する環状ゴム部材26が、内筒部材20と外筒部材22に対して加硫接着により弾性連結された一体加硫成形品として端縁シール部28が構成されている。
そして、本実施形態では、かかる端縁シール部28を本体部18の軸方向の両方の端部に一体的に組み付けられることにより、サスペンションブッシュ10が構成されている。具体的には、非圧縮性流体86内において、図3に示すように、本体部18の軸方向両側から、端縁シール部28が嵌め入れられる。この時、端縁シール部28の一対の可撓性ゴム膜24が、本体ゴム弾性体16に設けられた一対の窪み部40,40に対向すると共に、端縁シール部28の一対のゴム壁部66が、本体ゴム弾性体16に設けられた一対のオリフィス形成用凹溝46に対向するように、本体部18と各端縁シール部28が位置決めされる。そして、各端縁シール部28の内筒部材20の嵌着筒部56がインナ軸部材12の外周面に圧入されて流体密に外嵌固定される一方、外筒部材22の嵌着筒部62がアウタ筒部材14の内周面に圧入されて流体密に内嵌固定されることにより、一体的に組み付けられるのである。なお、このような組み付け状態下において、端縁シール部28の内筒部材20の拡径部58の先端部が、本体ゴム弾性体16に形成された内筒部材収容溝54に嵌め入れられて軸方向で位置決めされると共に、本体ゴム弾性体16の軸方向端面と環状ゴム部材26の軸方向端面が軸方向で相互に圧接されている。
また、内筒部材20の拡径部58とインナ軸部材12の間に形成された隙間においてインナ側シールゴム部50が圧接されて挟持されている一方、端縁シール部28の外筒部材22の縮径部64とアウタ筒部材14の内周面との間に形成された隙間において、アウタ側シールゴム74が圧接されて挟持されている。これにより、端縁シール部28と本体部18の組み付け部分のシール性が安定して確保されている。要するに、本実施形態においては、端縁シール部28の内筒部材20および外筒部材22に拡径部58および縮径部64を設けると共に、本体ゴム弾性体16や環状ゴム部材26に一体的に設けられたインナ側シールゴム部50およびアウタ側シールゴム74を挟持する簡単な構造で、部品点数の増加を伴うことなく、端縁シール部28と本体部18の組み付け部分の確実なシール性の向上を図ることができるのである。
このようにして構成されたサスペンションブッシュ10においては、各端縁シール部28の一対の可撓性ゴム膜24と本体ゴム弾性体16の一対の窪み部40,40の対向面間においてそれらの協働により壁部の一部が可撓性ゴム膜24で形成されて非圧縮性流体86が封入された一対の流体室88,88が形成されている。また、各端縁シール部28の一対のゴム壁部66,66と本体ゴム弾性体16に形成された一対のオリフィス形成用凹溝46,46との対向面間には、オリフィス形成用凹溝46の開口部がゴム壁部66に覆蓋されることによって画成されたオリフィス通路90が形成されている。そして、オリフィス通路90の周方向両端部が一対の流体室88,88に開口することにより、一対の流体室88,88がオリフィス通路90によって相互に連通されている。
特に、本体ゴム弾性体16に設けられたオリフィス形成用凹溝46の開口部を覆蓋するゴム壁部66には、オリフィス形成用凹溝46の周壁部分に当接される部位に、複数のシール突部84が設けられており、各シール突部84がオリフィス形成用凹溝46の周壁部分に向けて圧縮変形されている。従って、オリフィス通路90の周囲において本体ゴム弾性体16とゴム壁部66の当接面間が強固にシールされて、オリフィス通路90の短絡が有利に防止されるようになっている。なお、本実施形態では、各オリフィス通路90の周方向中間部分においては、オリフィス通路90がオリフィス形成用凹溝46の底面から突出する補強金具44の軸方向端部の両側の流路に分岐されているが、オリフィス通路90に要求されるチューニング特性に応じて、補強金具44の突出量を変更したり、補強金具44を設けることなく単一の流路とすることも勿論可能である。また、本体部18の軸方向で対向する一対の流体室88,88は、本体ゴム弾性体16に設けられた貫通孔42を通じて相互に連通されている。なお、貫通孔42はいずれか一方のみ設けられていてもよい。
さらに、一対の流体室88,88においては、図2に示すように、可撓性ゴム膜24の屈曲部76と本体ゴム弾性体16の窪み部40との対向面間において、狭窄流路92が形成されている。かかる狭窄流路92を通じて、可撓性ゴム膜24の内方延出部78と内筒部材20(インナ軸部材12)との間に画成される流体室88の内周側領域94と、可撓性ゴム膜24の外方延出部80と外筒部材22(アウタ筒部材14)との間に画成される流体室88の外周側領域96が連通された構造とされている。
このような構造とされた本実施形態のサスペンションブッシュ10は、例えば、フロントサスペンションのロアアームリンクにおける後方側ブッシュとして、軸方向を上下方向とした縦置きに配設されると共に、一対の流体室88,88の対向方向が車両前後方向となるようにして車両に搭載される。そして、図示しないロアアームリンクのボールジョイントに車両前後方向の振動が入力された際には、サスペンションブッシュ10の一対の流体室88,88が対向する軸直方向において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が相対変位されて一対の流体室88、88が圧縮・拡張されるされることにより、両流体室88,88を連通する一対のオリフィス通路90,90を通じた流体流動が生ぜしめられる。これにより、比較的低周波数域において、車両前後方向の入力振動に対するオリフィス通路90の流体流動に基づく防振特性を発揮することができる。また、車両前後方向の入力振動に対しては、比較的高周波数域において、各流体室88における内周側領域94と外周側領域96の狭窄流路92を通じた流体流動に基づく高減衰特性が発揮され得る。なお、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸直方向の相対変位の際には、インナ軸部材12の環状傍出部34がアウタ筒部材14に本体ゴム弾性体16を介して当接することにより、過大な軸直方向の相対変位が阻止されるようになっている。
また、図示しないロアアームリンクのボールジョイントに車両上下方向の振動が入力された際には、図6に示すように、サスペンションブッシュ10のインナ軸部材12とアウタ筒部材14が軸方向中間位置を中心として斜交するこじり方向に相対変位して、アウタ筒部材14が軸直方向で対向する一対の流体室88,88側に交互に傾斜するように変位することとなる。ここで、各流体室88を画成する可撓性ゴム膜24は、内方延出部78と外方延出部80の延出長さL1,L2が互いに異ならされていると共に、内方延出部78と外方延出部80の軸方向に対する傾斜角度α,βが互いに異ならされている。これにより、こじり方向のインナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位に伴い、内方延出部78と内筒部材20との間に画成される内周側領域94と、外方延出部80と外筒部材22との間に画成される外周側領域96の相対的な容積変化が確実に生ぜしめられ、内周側領域94と外周側領域96との間で狭窄流路92を通じた流体流動が効率的に惹起される。
このように、サスペンションブッシュ10にこじり方向の入力がされた際には、狭窄流路92を通じた流体流動に基づく高減衰特性を発揮することができるのである。従って、本実施形態のサスペンションブッシュ10においては、こじり入力に際して、狭窄流路92を通じた流体流動に基づく高い減衰特性を得ることができ、従来構造のサスペンションブッシュでは達成できなかった優れた車両の乗り心地を実現できるのである。特に、サスペンションブッシュ10においては、本体部18を挟んだ軸方向の両側に一対の流体室88, 88が設けられていることから、こじり入力に対して、軸方向両側のインナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位を利用した狭窄通路の流体流動に基づく防振効果を一層有利に発現させることができる。
しかも、こじり方向の繰り返しの振動入力に対しても、各流体室88の可撓性ゴム膜24が撓み変形することにより容易に追従できることから、従来構造の如きゴム弾性体が局所的に引張・圧縮変形される場合に比して、サスペンションブッシュ10のこじり入力に対する耐久性を格段に向上させることができる。
さらに、サスペンションブッシュ10においては、本体部18を挟んで軸方向両側で対向配置された流体室88,88が、貫通孔42を通じて相互に連通されていることから、軸方向の振動入力に際しても、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の軸方向相対変位に伴う流体室88,88の容積変化に伴い貫通孔42を通じた流体流動が生ぜしめられる。これにより、軸方向の振動入力に対しても広い周波数域において低動ばね効果が得られると共に、高周波数域において高減衰特性を得ることができる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、上述の実施形態においては、可撓性ゴム膜24における内方延出部78と外方延出部80が、それらの延出長さL1,L2と軸方向に対する傾斜角度α,βの両方が互いに異ならされていたが、必ずしも両方が異ならされている必要は無く、延出長さと傾斜角度の少なくとも一方が異ならされていてもよい。少なくとも延出長さと傾斜角度の一方が相互に異ならされていれば、インナ軸部材12とアウタ筒部材14がこじり方向に相対変位された際に、内周側領域94と外周側領域96の容積変化が確実に発現されて、狭窄流路92を通じた流体流動が惹起されるからである。
また、上記実施形態では、オリフィス形成用凹溝46が本体ゴム弾性体16に形成された例を示したが、オリフィス形成用凹溝46は、ゴム壁部66側に設けられていてもよく、本体ゴム弾性体16とゴム壁部66の両側にオリフィス形成用凹溝46を設けて開口部同士を当接させてオリフィス通路90を形成してもよい。また、金属材、硬質樹脂材料あるいは硬質ゴム材により別体形成されたオリフィス部材をオリフィス形成用凹溝46に嵌合することによりオリフィス通路90を形成することもできる。
上記実施形態では、一対のゴム壁部66,66の両方と本体ゴム弾性体16との間にそれぞれオリフィス通路90を一対形成した例を示したが、要求される防振特性等に応じて、いずれか一方のゴム壁部66と本体ゴム弾性体16との間に、1つのオリフィス通路90を形成するようにしてもよい。
さらに、端縁シール部28は、必ずしも本体部18の軸方向両側に設ける必要はなく、配設スペース等の関係から軸方向一方のみに設けて装置の小型化を図ることも可能である。その場合でも、こじり方向の振動入力に対する狭窄流路92の流体流動に基づく防振効果や、オリフィス通路90の流体流動に基づく軸直方向の振動入力に対する防振効果が前記実施形態と同様に発揮されることは言うまでもない。
また、要求される防振特性によっては、軸直方向に対向する一対の流体室88,88を相互に連通するオリフィス通路90を設ける必要はなく、その場合でも、各流体室88において、こじり方向の振動入力に対する狭窄流路92の流体流動に基づく防振効果は同様に発揮され得る。同様に、要求される防振特性によっては、貫通孔42を介して軸方向で対応位置する流体室88,88を連通する必要は、必ずしもない。
さらに、端縁シール部28を本体部18に対して一層強固に組み付け保持するために、アウタ筒部材14の軸方向端部にかしめ片部を設け、端縁シール部28を本体部18に対して嵌着固定した後に、かしめ片部を径方向内方に屈曲させて、端縁シール部28の外筒部材22に対してかしめ固定するようにしてもよい。
加えて、前記実施形態では、本発明の流体封入式筒形防振装置を自動車用のサスペンションブッシュに適用した例を示したが、本発明は、こじり方向の入力がされる種々の防振装置においても好適に適用され得るものである。