ところが、特許文献1に記載のダンパは、車両構造部材をバネとすることからチューニング自由度が小さく、目的とする特定の制振対象振動への制振効果を得難い。また、自動車のフロントヘッダ内の空間は小さいことから、目的とする周波数域へのチューニングを実現するのに十分な大きさのマス部材の配置さえ困難な場合が多い。そのために、特に車両ボデーのフロントヘッダ部分に要求される低周波数域の振動抑制には十分な効果を得ることが難しかった。
そこで、本発明者は、特許文献1に記載のマス部材のみからなるダンパ構造に代えて、マス部材をバネ部材で弾性支持せしめるダイナミックダンパを車両ボデーのフロントヘッダに装着することを検討した。特に、マス部材の両側をゴム弾性体で車両ボデーへ弾性連結することで、マス部材の変位の安定化と変位量の抑制を可能にする両持ちタイプのダイナミックダンパの適用を検討した。
しかしながら、本発明者が検討した結果、両持ちタイプのダイナミックダンパをフロントヘッダの制振に用いると、制振性能と耐久性を両立して実現することが難しい場合のあることが明らかになった。即ち、フロントヘッダではサイズに制限があることから、所定のマス質量のもとでの周波数チューニングに際して、サイズ条件をクリアしつつゴム弾性体のばね定数を小さくするために、ゴム弾性体の断面積を小さくするとゴム弾性体の耐久性の確保が難しいのである。
本発明の解決課題は、車両ボデーのフロントヘッダ部分に装着可能とされるコンパクトな構造によって、有効な制振効果を得ることができると共に、支持ゴム弾性体の耐久性も十分に確保することができる、新規な構造の自動車用のダイナミックダンパを提供することにある。
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
第一の態様は、車両ボデーのフロントヘッダ部分に設けられた内部スペースに収容状態で装着される自動車用のダイナミックダンパであって、矩形ブロック形状のマス部材と、該マス部材の長手方向両側にそれぞれ離隔配置されて前記車両ボデーへ固定される一対の取付ブラケットと、該マス部材の長手方向両側を各該取付ブラケットに弾性連結する一対の支持ゴム弾性体とを、有しており、該車両ボデーへの装着状態で各該支持ゴム弾性体の弾性中心軸が該マス部材の重心を通って長手方向に延びると共に、該支持ゴム弾性体の横断面形状が、該マス部材の長手方向の端面に対応した矩形状とされており、該車両ボデーへの装着状態で車両上下方向に位置せしめられる該支持ゴム弾性体の上下両側面が弾性中心軸に対して一定の傾斜角度をもった傾斜面とされることで、該支持ゴム弾性体の上下方向の幅寸法が該取付ブラケット側から該マス部材側に向かって次第に小さくされているものである。
本態様に従う構造とされた自動車用のダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体の上下方向の幅寸法が取付ブラケット側からマス部材側に向かって次第に小さくされている。即ち、ある程度の動きを許容されることで応力が緩和され易いマス部材側において、制振対象側よりも小さくされていることにより、支持ゴム弾性体のばね定数が小さくされて、より低周波の入力振動に対して有効な制振効果を得ることができる。このように、支持ゴム弾性体のばね定数を小さくすることで副振動系の共振周波数をより低周波に設定可能とすることから、マス部材の質量を大きくする必要がなく、ダイナミックダンパの軽量化と小型化が図られる。
また、支持ゴム弾性体の上下方向の幅寸法が取付ブラケット側においてマス部材側よりも大きくされていることから、車両ボデーに固定されることで振動入力時に損傷し易い取付ブラケット側において、支持ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
しかも、支持ゴム弾性体の上下方向の幅寸法を取付ブラケット側において大きくすることで耐久性が確保されることから、支持ゴム弾性体の自由長を長くする必要がなく、ダイナミックダンパの大型化が回避される。それ故、車両ボデーのフロントヘッダ部分に設けられる制限された内部スペースに対して、ダイナミックダンパを収容状態で装着することが可能とされる。
また、支持ゴム弾性体の弾性中心軸が、マス部材の重心を通って、マス部材の長手方向に延びている。それ故、振動入力時にマス部材の変位が安定して、ねじれなどの意図しない変位を防ぐことで、優れた制振性能が実現されると共に、支持ゴム弾性体の耐久性の向上も図られる。
第二の態様は、第一の態様に記載された自動車用のダイナミックダンパにおいて、前記車両ボデーへの装着状態で及ぼされる制振すべき主たる振動の入力方向が、車両上下方向とされるものである。
本態様に従う構造とされた自動車用のダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体の上下方向の幅寸法が取付ブラケット側からマス部材側に向けて小さくなっていることから、支持ゴム弾性体のばね定数が上下方向において特に小さくされる。それ故、ダイナミックダンパの車両ボデーへの装着状態で主たる振動が上下方向に入力されるようにすれば、車両ボデーに対して構成される副振動系の共振周波数をより低周波に設定しつつ、耐久性を確保することができる。
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された自動車用のダイナミックダンパにおいて、前記一対の支持ゴム弾性体において、前記車両ボデーへの装着状態で車両前後方向に位置せしめられる該支持ゴム弾性体の前後両側面が、弾性中心軸の方向に延びる互いに平行な面とされているものである。
本態様に従う構造とされた自動車用のダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体の前後方向のばね定数が上下方向に比して大きくされる。それ故、マス部材の前後方向への振れなどが防止され易くなって、上下方向の振動入力に対する制振作用をより有利に得ることができる。
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された自動車用のダイナミックダンパにおいて、前記マス部材の長手方向両側にはマス側ブラケットが取り付けられており、該マス側ブラケットを介して、各前記支持ゴム弾性体が該マス部材に対して固着されているものである。
本態様に従う構造とされた自動車用のダイナミックダンパによれば、例えば、支持ゴム弾性体にマス部材を直接的に加硫接着する場合に比して、支持ゴム弾性体の成形用金型を小さくすることができて、支持ゴム弾性体をより効率的に製造することができる。
本発明によれば、自動車用のダイナミックダンパにおいて、車両ボデーのフロントヘッダ部分に装着可能とされる軽量且つコンパクトな構造によって、より低周波の振動に対しても有効な制振効果を得ることができると共に、支持ゴム弾性体の耐久性も十分に確保することができる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1~4には、本発明の第一の実施形態としての自動車用のダイナミックダンパ10(以下、ダイナミックダンパ10)が示されている。ダイナミックダンパ10は、マス部材12と一対の取付ブラケット14,14が、一対の支持ゴム弾性体16,16によって左右方向で弾性連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、前後方向とは図4中の左右方向を、左右方向とは図1中の左右方向を、それぞれ言う。
より詳細には、マス部材12は、鉄などの比重の大きい材料で形成されており、図5~7にも示すように、略矩形ブロック形状とされている。マス部材12は、上下方向の幅寸法が前後方向及び左右方向の幅寸法よりも小さい扁平な矩形板形状とされている。マス部材12は、前後方向よりも左右方向に長い長手板形状とされている。マス部材12の左右方向の両端部分には、図6,7に示すように、上下方向に貫通するボルト孔18がそれぞれ形成されている。
さらに、マス部材12において長手方向である左右方向の中央部分には、図5に示すように、上下及び前後の4面を覆うストッパゴム20が固着されている。ストッパゴム20は、薄肉のゴム層であって、複数の緩衝突起22が上下両面に突出して一体形成されている。緩衝突起22は、略円錐形状とされており、突出先端に向けて横断面が小さくなっている。
取付ブラケット14は、上金具24と下金具26によって構成されている。上金具24は、前後方向に延びる上下逆向きの溝形状とされている。上金具24は、溝形状の開口側の端部である下端部に、左右方向の外側へ延び出す上固定片28が設けられている。上金具24の左右方向の中央部分には、後方から下方へ延び出す中間支持片30が一体形成されている。
下金具26は、上向きに開口する浅底の略矩形皿形状とされている。下金具26の開口側の端部である上端部には、略全周に亘って外周へ延び出す下固定片32が設けられている。下金具26の底壁部34には、植設ピン36が左右両端部分において下向きに突出するように植設されている。
本実施形態では、上金具24の上固定片28と下金具26の下固定片32が上下方向で相互に重ね合わされる。また、下金具26の後端部に沿って左右方向に延びる棒状の後部押え部材38と、後部押え部材38の左右方向の両端部分から前方へ延び出す側部押え部材40,40とが、下固定片32に対して溶接などの手段で固定される。そして、図4~6に示すように、上金具24の上固定片28,28が、下金具26の下固定片32と側部押え部材40,40との間で挟まれると共に、上金具24の中間支持片30が、下金具26の下固定片32と後部押え部材38との間で挟まれる。これらにより、上金具24と下金具26が相互に連結されている。
なお、本実施形態では、後部押え部材38と側部押え部材40,40とが、下固定片32に予め固定されている。そして、上金具24の上固定片28と中間支持片30が、下金具26の下固定片32と後部押え部材38及び側部押え部材40,40との間に前方から差し入れられる。更に、上金具24の上固定片28と中間支持片30が、下金具26の下固定片32と後部押え部材38及び側部押え部材40,40との間に差し入れた状態で、前側の下固定片32に棒状の抜止部材42が溶接などの手段で固定されることにより、上金具24と下金具26の分離が防止される。また、棒状の後部押え部材38と側部押え部材40,40と抜止部材42とが下金具26に設けられることで、下金具26の変形剛性が高められている。
また、取付ブラケット14の左右方向の両端部分には、上金具24の上固定片28と下金具26の下固定片32とを上下方向に貫通する複数のボルト孔44が形成されている。それらボルト孔44に挿通される図示しない取付用ボルトが車両ボデー64(後述)に固定されることによって、上金具24と下金具26がより強固に固定される。尤も、上金具24と下金具26は、溶接や嵌合、係止等の各種公知の固定手段によって、相互に固定されていても良い。
取付ブラケット14,14は、マス部材12に対して左右方向の両側に離れて配置されており、それら取付ブラケット14,14の左右方向の内側の面には、それぞれ支持ゴム弾性体16が固着されている。
支持ゴム弾性体16は、図6,7に示すように、略矩形板状とされて、マス部材12の左右方向の端面に対応する略矩形の横断面(左右方向に対して直交する断面)形状を有している。これにより、支持ゴム弾性体16の外周面は、上下方向に対する交差方向に広がる上下両面と、前後方向に対する交差方向に広がる前後両面との4つの平面を備えている。
支持ゴム弾性体16は、図7に示すように、前後方向に対する交差方向に広がる前後両面が、取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって互いに略平行に広がる平行面56とされている。平行面56は、それぞれ前後方向に対して直交して広がっており、支持ゴム弾性体16の弾性中心軸Lが延びる方向に対して略平行に延びる平面とされている。
さらに、上下方向に対する交差方向に広がる支持ゴム弾性体16の上下両面は、取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって上下方向の内側へ傾斜する傾斜面58,58とされている。換言すれば、支持ゴム弾性体16の上下両面は、取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって互いに接近する傾斜面58,58とされている。傾斜面58は、弾性中心軸Lに対して一定の傾斜角度で傾斜する平面とされている。
このように、支持ゴム弾性体16の外周面において、前後両面が平行面56,56とされていると共に、上下両面が傾斜面58,58とされていることにより、支持ゴム弾性体16の上下方向の幅寸法が、取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって小さくされている。
傾斜面58,58の左右方向の長さ寸法は、支持ゴム弾性体16の上下両面の左右方向の全長に対して、例えば、60%以上、より好適には、80%以上とされている。このように、支持ゴム弾性体16の上下両面における広い範囲が傾斜面58,58で構成されることにより、左右方向において支持ゴム弾性体16の横断面が取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって次第に小さくなる領域を広く確保できる。それ故、左右方向において支持ゴム弾性体16の横断面の面積の急激な変化を抑えつつ、支持ゴム弾性体16の横断面における最小面積と最大面積の差を大きくすることができる。
また、左右方向で傾斜面58,58が形成された領域において、支持ゴム弾性体16の横断面は、取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって、単位長さ当たり1%~5%の縮小変化割合で小さくなっていることが望ましい。支持ゴム弾性体16の横断面の縮小変化割合が5%以下とされることにより、支持ゴム弾性体16の横断面の急激な面積変化が回避されて、応力の効果的な分散化が図られる。支持ゴム弾性体16の横断面の縮小変化割合が1%以上とされることにより、支持ゴム弾性体16の横断面における最小面積と最大面積の差を大きく確保できて、支持ゴム弾性体16のばね特性の設定自由度が大きくなる。
かくの如き構造とされた支持ゴム弾性体16は、左右方向の外側の端部が取付ブラケット14に固着されていると共に、左右方向の内側の端部がマス側ブラケット46に固着されている。本実施形態の支持ゴム弾性体16は、取付ブラケット14とマス側ブラケット46を備えた一体加硫成形品とされており、取付ブラケット14とマス側ブラケット46が支持ゴム弾性体16の成形時に固着される。
マス側ブラケット46は、金属などで形成された高剛性の部材であって、支持ゴム弾性体16が固着される側壁部48と、側壁部48の上端及び下端において左右方向の内側へ延び出す上壁部50及び下壁部52と、それら側壁部48と上壁部50と下壁部52との各後端につながる後壁部54とを、備えている。マス側ブラケット46は、側壁部48が左右方向に対して略直交して広がっていると共に、上壁部50及び下壁部52が上下方向に対して略直交して広がっており、更に後壁部54が前後方向に対して略直交して広がっている。
そして、マス側ブラケット46の上壁部50が、マス部材12に対して、マス固定ボルト60によって取り付けられている。これにより、支持ゴム弾性体16の左右方向の内側の端部が、マス側ブラケット46を介して、マス部材12に固着されており、マス部材12と取付ブラケット14が、支持ゴム弾性体16によって、左右方向で相互に連結されている。マス側ブラケット46は、マス部材12の左右方向の両端部分にそれぞれ取り付けられている。これにより、マス部材12は、左右方向の両側において、支持ゴム弾性体16によってそれぞれ弾性支持されている。そして、マス部材12は、取付ブラケット14に対して、支持ゴム弾性体16の弾性変形を伴う相対変位を許容されている。なお、マス固定ボルト60が挿通されるマス側ブラケット46のボルト孔62は、上壁部50と下壁部52の両方にそれぞれ形成されており、マス部材12の左右方向の両端部に取り付けられるマス側ブラケット46,22が互いに共通の構造とされている。
マス部材12は、取付ブラケット14に対して、上下、前後、左右の各方向で相対変位を許容される。支持ゴム弾性体16が左右方向に延びており、左右方向では圧縮ばね成分による硬いばね特性が発揮されることから、マス部材12の左右方向の変位が制限されている。更に、支持ゴム弾性体16は、前後方向の幅寸法が上下方向の幅寸法よりも大きくされており、前後方向のばね定数が上下方向のばね定数よりも大きくされていることから、マス部材12の前後方向の変位は上下方向の変位よりも制限されている。要するに、支持ゴム弾性体16によって弾性支持されたマス部材12は、取付ブラケット14に対して、前後方向及び左右方向よりも上下方向に変位し易くなっている。
また、マス部材12は、取付ブラケット14の上金具24と下金具26の間に配されている。そして、マス部材12の取付ブラケット14に対する上下方向の相対変位量が、マス部材12と上金具24及び下金具26とがストッパゴム20を介して当接することで制限されている。なお、マス部材12と上金具24及び下金具26との間には、ストッパゴム20の緩衝突起22が設けられており、マス部材12と上金具24及び下金具26とがストッパゴム20を介して当接する際の打音が低減されている。
このような本実施形態に従う構造のダイナミックダンパ10は、制振対象としての車両ボデー64のフロントヘッダ部分に設けられた内部スペース66に収容状態で配設されて、車両ボデー64に取り付けられている。より具体的には、取付ブラケット14の植設ピン36が車両ボデー64に固定されると共に、上下の固定片28,32に設けられたボルト孔44に挿通される図示しない取付用ボルトによって、上下の固定片28,32が車両ボデー64に固定される。これらによって、支持ゴム弾性体16が取付ブラケット14を介して車両ボデー64に取り付けられて、ダイナミックダンパ10が車両ボデー64に取り付けられる。
ダイナミックダンパ10の車両ボデー64への装着によって、マス部材12とマス側ブラケット46,46とマス固定ボルト60,60とをマス成分とし、支持ゴム弾性体16,16をばね成分とする副振動系が、車両ボデー64に対して設けられる。副振動系のマス成分は、車両ボデー64に対して、左右の支持ゴム弾性体16,16によって弾性連結されていることから、マス成分が車両ボデー64に対して相対変位可能に設けられている。なお、マス部材12を含むマス成分と、取付ブラケット14が固定された車両ボデー64とが、支持ゴム弾性体16,16によって左右方向で弾性連結されている。また、ダイナミックダンパ10は、車両ボデー64に装着された静置状態において、各支持ゴム弾性体16の弾性中心軸Lがマス部材12の長手方向である左右方向に延びていると共に、弾性中心軸Lがマス部材12の重心Gを通っている(図6,7参照)。
車両ボデー64に装着されたダイナミックダンパ10に対して、車両ボデー64の主たる振動が上下方向に入力されると、副振動系のマス部材12が取付ブラケット14に対して振動することにより、副振動系が設けられた車両ボデー64の振動が低減される。なお、ダイナミックダンパ10の車両ボデー64への装着状態において、ダイナミックダンパ10に及ぼされる制振すべき主たる振動の入力方向は、車両の上下方向(図1,6中の上下方向)とされている。また、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数は、制振対象振動である車両ボデー64の主たる振動の周波数にチューニングされており、車両ボデー64の主たる振動に対して制振効果が有効に発揮される。
ダイナミックダンパ10は、支持ゴム弾性体16の弾性中心軸Lが、マス部材12の重心Gを通っている。それ故、マス部材12が振動入力によって上下方向に変位する際に、マス部材12の変位姿勢の安定化が図られて、捻りやこじりなどの意図しない変位が防止されて、上下方向の平行移動が安定して生ぜしめられる。それ故、支持ゴム弾性体16に意図しない力が作用することによる支持ゴム弾性体16の耐久性の低下が防止されると共に、上下方向の振動に対して、ダイナミックダンパ10による制振作用がより効率的に発揮される。
ダイナミックダンパ10は、支持ゴム弾性体16の横断面が、車両ボデー64への取付側である取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって、次第に小さくなっている。それ故、取付ブラケット14側からマス部材12側に向かって略一定の横断面で延びる支持ゴム弾性体に比して、支持ゴム弾性体16のばね定数が小さくされている。従って、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系のチューニング周波数を、より低周波に設定することが可能とされて、制振対象振動の周波数が低い場合にも、ダイナミックダンパ10の制振効果を有効に発揮させることができる。
ダイナミックダンパ10は、車両ボデー64の主たる振動の入力方向(上下方向)に対して交差方向に広がる支持ゴム弾性体16の上下両面が、それぞれ傾斜面58を有している。そして、支持ゴム弾性体16の横断面は、上下方向の幅寸法が、取付ブラケット14側からマス部材12側に向けて次第に小さくなっている。それ故、支持ゴム弾性体16の上下方向のばね定数が特に小さくなっている。従って、上下方向の振動である車両ボデー64の主たる振動が入力される場合に、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数を特に低周波までチューニングすることが可能となる。
また、支持ゴム弾性体16は、車両ボデー64に固定的に取り付けられる取付ブラケット14側において、横断面が比較的に大きくされている。それ故、取付ブラケット14によって拘束されることで応力が集中し易い支持ゴム弾性体16の取付ブラケット14側において、支持ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
このように、上下両面が傾斜面58,58とされて、支持ゴム弾性体16の横断面が、取付ブラケット14側からマス部材12側に向けて一定の割合で小さくなるように縮小変化していることにより、車両ボデー64によって拘束されることで亀裂などの損傷が生じ易い取付ブラケット14側では、横断面が大きくされて耐久性の向上が図られる。一方、拘束による応力集中が生じ難いマス部材12側では、支持ゴム弾性体16の横断面を小さくしてばね定数を小さくすることで、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数をより低周波に設定可能となる。
しかも、耐久性を確保するために支持ゴム弾性体16の左右方向の自由長を長くしたり、低周波チューニングを可能とするためにマス部材12を大きくしたりする必要がなく、優れた防振性能と耐久性を兼ね備えたダイナミックダンパ10を、軽量且つコンパクトに実現することができる。それ故、スペースが制限され易い車両ボデー64のフロントヘッダ部分の内部スペース66において、ダイナミックダンパ10を収容状態で装着することができる。
また、支持ゴム弾性体16は、横断面において、前後方向の幅寸法が上下方向の幅寸法よりも大きくされている。更に、支持ゴム弾性体16の前後両面は相互に平行に広がる平行面56,56とされており、支持ゴム弾性体16の横断面の前後方向の幅寸法が、取付ブラケット14側からマス部材12側に向けて略一定とされている。それ故、支持ゴム弾性体16は、前後方向のばね定数が上下方向のばね定数よりも大きくされており、マス部材12の前後方向の変位が生じ難くなっている。
また、マス部材12が左右方向に変位する場合には、支持ゴム弾性体16,16の何れか一方が圧縮されることから、圧縮ばね成分による硬いばね特性が発揮される。それ故、マス部材12の左右方向の変位も生じ難くなっている。更に、支持ゴム弾性体16,16の前後方向の寸法が確保されて、支持ゴム弾性体16,16のねじり剛性が大きくされていることにより、弾性中心軸Lの回りでの回転方向のマス変位も効果的に低減される。
このように、マス部材12は、上下方向の変位が前後方向及び左右方向の変位よりも生じ易くなっており、マス部材12の前後方向或いは左右方向への振れが防止されて、マス部材12の上下方向の変位が安定する。従って、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数のチューニングが容易になり得る。
支持ゴム弾性体16は、左右方向の両端部が取付ブラケット14とマス側ブラケット46とに加硫接着されており、車両ボデー64とマス部材12に対して、それらブラケット14,46を介して取り付けられている。それ故、支持ゴム弾性体16を車両ボデー64やマス部材12に直接加硫接着する場合に比して、支持ゴム弾性体16の成形用金型を小さくすることができて、支持ゴム弾性体16を効率的に製造することができる。
なお、本発明に係る構造の支持ゴム弾性体16において、マス部材12の変位に伴う応力が分散して作用することは、図8に示す解析結果によっても確認されている。出力された解析結果はカラー表示されているが、図8ではグレースケールとされており、応力レベルの差異を識別し難いことから、以下に簡単な説明を加える。即ち、図8のシミュレーション結果によれば、図8の(a)に示す比較例としての従来構造の支持ゴム弾性体68に比して、(b)に示す実施例としての本発明に係る支持ゴム弾性体16は、車両ボデー(ボデー側ブラケット)側に作用する応力が小さくなると共に、よりマス部材(マス側ブラケット)に近い位置まで応力が分散して作用することが確認できた。シミュレーションの結果を示す図8では、ひずみの大きさが色相によって示されており、ひずみが小さいほど青に近く且つひずみが大きいほど赤に近い色相で示されている。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、取付ブラケット14及びマス側ブラケット46の具体的な構造は、特に限定されない。例えば、取付ブラケット14の具体的な構造は、車両ボデー64側の取付構造や、車両ボデー64のフロントヘッダ部分の内部スペース66などに応じて、適宜に変更される。
マス側ブラケット46は必須ではなく、支持ゴム弾性体16の左右方向の内側端部がマス部材12に直接的に固着されていても良い。また、支持ゴム弾性体16の左右方向の外面に板状の固定金具が固着されており、当該固定金具が取付ブラケット14に固定されるようにしても良い。要するに、支持ゴム弾性体16は、取付ブラケット14やマス側ブラケット46に対して、他部材を介して間接的に固定され得る。