JP2019019360A - グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板とその製造方法及び絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents

グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板とその製造方法及び絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】張力被膜の形成に先立ち、均熱温度が1000℃以下の熱酸化焼鈍で、外部酸化層を形成した場合でも、張力被膜の密着性を確保する。【解決手段】張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板であって、鋼板表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる鋼板表面のSiO2のピーク(ΔR/R0@1250cm-1)の値yが、y≧1500x2.5を満たすことを特徴とするグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板であり、鋼板表面にグラス被膜のない仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.005以下の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施し、鋼板表面にSiO2を主体とする外部酸化層を形成して製造する。【選択図】図1

Description

本発明は、表面にグラス被膜のない方向性電磁鋼板の製造に適した方向性電磁鋼板用原板とその製造方法、及び、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法に関する。具体的には、本発明は、歪導入のない熱酸化焼鈍温度でも、安定的に張力被膜の密着性を確保できる方向性電磁鋼板用原板とその製造方法、及び、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
変圧器の鉄心材料などに用いる方向性電磁鋼板に要求される主要な特性である鉄損値を低減する方策として、鋼板界面を平滑化(鏡面化)することが知られている。しかし、鏡面化した鋼板表面と、鉄心材料として不可欠な絶縁性と張力付与のための張力被膜(絶縁被膜)との密着性を確保することが、製品化における課題であり、該課題を解決するため、様々な技術が提案されている。
例えば、張力被膜の密着性を確保する技術として、特許文献1に、張力被膜と鋼板との界面に、40nm以上500nm以下、空洞が断面面積率で30%以下を占める外部酸化型酸化膜を形成する技術が開示されている。この技術では、熱酸化焼鈍を1000℃以上としている。
特許文献2には、張力被膜と鋼板との界面に、2nm以上500nm以下、鉄、アルミニウム、チタン、マンガン、クロムの1種又は2種以上の元素で構成される酸化物が、断面面積率で50%以下を占める外部酸化型酸化膜を形成する技術が開示されている。
しかし、特許文献1又は2の技術により、工業的に製品を製造する場合、現実的に、1000℃以上での焼鈍によって外部酸化層を形成する必要があり、焼鈍時の張力通板が適正に行われないと、通板時に、鋼板への歪導入が起きて、鉄損特性が低下するという課題がある。
特許文献3には、850℃での熱酸化焼鈍において、鋼板表面に片面当たり100mg/m2以下の外部酸化型SiO2膜を形成すると、鋼板と外部酸化型SiO2膜との間に起こる界面荒れを防止することができ、良好な鉄損特性が得られることが開示されている。しかし、張力被膜焼付後の被膜密着性は、必ずしも良好でない。
特許文献4には、外部酸化型SiO2膜を形成するのに先立ち、鋼板表面を砥粒入りブラシで払拭して微小歪を導入したり、又は、酸洗によって微小凹凸を形成したりして、微小歪又は微小凹凸を起点として、外部酸化型SiO2の成長を促すと同時に、粒状酸化物を形成すると、被膜密着性を改善できることが開示されている。しかし、熱処理温度が1000℃未満での被膜の密着性は良好でない。
特許文献5には、鏡面方向性電磁鋼板において、鋼板表面に、TiN等の中間層をPVD、CVDなどで形成し、張力被膜の密着性を確保する技術が提案されている。しかし、この技術は、コストが高く、工業化には至っていない。
特許第4288022号公報 特許第4044739号公報 特開平09−078252号公報 特許第3930696号公報 特開2005−264236号公報
本発明は、従来技術の現状に鑑み、張力被膜の形成に先立ち、均熱温度が1000℃以下の熱酸化焼鈍で、外部酸化層を形成した場合でも、張力被膜の密着性を確保することを課題とし、該課題を解決する方向性電磁鋼板用原板とその製造方法、及び、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、熱酸化焼鈍時の歪発生による鉄損特性の低下を回避するために、均熱温度が1000℃以下の熱酸化焼鈍で、外部酸化層を形成することを鋭意検討した。
従来、熱酸化焼鈍時の歪を回避するため、1000℃以下の熱酸化焼鈍で形成した外部酸化層は、基本的に、酸素量が少なく、通常の雰囲気で、張力被膜を焼付けて形成した場合、地鉄側に内部酸化層が生成し、張力被膜の密着性を十分に確保できなかった。
本発明者らが、上記課題を解決する手法について鋭意検討した結果、方向性電磁鋼板用原板の表層形態(IR測定で評価)を制御すれば、外部酸化層の酸素量が少なくても、地鉄側における内部酸化層の生成を回避して、張力被膜の密着性を十分に確保できることを見出した。
また、鋼板に、酸化ポテンシャルPH2O/PH2が0.005以下の雰囲気中、1000℃以下の均熱温度で熱酸化焼鈍を施せば、鋼板への歪導入を回避しながら、内部酸化層の生成を回避して、SiO2を主体とする外部酸化層を形成し、方向性電磁鋼板用原板を製造できることを見出した。
さらに、上記製造方法で製造した方向性電磁鋼板用原板に、張力被膜形成用コーティング剤を塗布し、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施せば、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板を製造できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
[1]張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板であって、
鋼板表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる鋼板表面のSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)の値yが、y≧1500x2.5 を満たす
ことを特徴とするグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板。
[2]張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板を製造する製造方法であって、
鋼板表面にグラス被膜のない仕上げ焼鈍済みの方向性珪素鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.005以下の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施し、鋼板表面にSiO2を主体とする外部酸化層を形成する
ことを特徴とするグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板の製造方法。
[3]前記[1]のグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板に、張力被膜形成用コーティング剤を塗布し、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施すことを特徴とする絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法。
本発明によれば、熱酸化焼鈍時のヒートサイクル制御と雰囲気制御により、1000℃以下の均熱温度で、方向性電磁鋼板用原板の表面に、該原板への歪導入を回避して、張力被膜の密着性を十分に確保し得るSiO2主体の外部酸化層を形成することができ、その結果、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板を、通常の焼鈍ラインで工業的に製造することができる。
鋼板中の片面当たりの酸素量(g/m2)及び反射型赤外分光分析で得られる鋼板表面のSiO2のピーク(IRスペクトル強度:ΔR/R0 @1250cm-1)と、張力被膜の密着性との関係を示す図である。
本発明のグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板(以下「本発明原板」ということがある。)は、張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板であって、
鋼板表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる表面のSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)の値yが、y≧1500x2.5 を満たす
ことを特徴とする。
本発明のグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板の製造方法(以下「本発明原板製造方法」ということがある。)は、本発明原板を製造する製造方法であって、
鋼板表面にグラス被膜のない仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.005以下の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施し、鋼板表面にSiO2を主体とする外部酸化層を形成する
ことを特徴とする。
また、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法(以下「本発明鋼板製造方法」ということがある。)は、本発明原板製造方法で製造した本発明原板に、張力被膜形成用コーティング剤を塗布し、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施す
ことを特徴とする。
以下、本発明原板と本発明原板製造方法、及び、本発明鋼板製造方法について説明する。
最初に、本発明原板の素材鋼板として使用する、鋼板表面にグラス被膜のない仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板について説明する。
本発明原板は、鋼板の表面性状(鋼板表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる表面のSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)の値yが、y≧1500x2.5 を満たす)を特徴とするものであり、該表面性状は、直接、素材鋼板として使用するグラス被膜のない仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板の化学組成の影響を受けないので、仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板の化学組成は、特に、特定の化学組成に限定されないが、好ましい化学組成について説明する。
この仕上げ焼鈍鋼板の化学組成は、質量%で、基本元素として、Si:0.8〜7.0%、C:0超〜0.085%を含み、選択元素として、酸可溶性Al:0〜0.065%、N:0〜0.012%、Mn:0〜1.0%、Cr:0〜0.3%、Cu:0〜0.4%、P:0〜0.5%、Sn:0〜0.3%、Sb:0〜0.3%、Ni:0〜1.0%、S:0〜0.015%、Se:0〜0.015%の1種又は2種を含み、残部がFe及び不純物からなる化学組成が好ましい。
上記化学成分は、結晶方位を{110}<001>方位に集積させたGoss集合組織を形成するのに好ましい化学成分である。上記選択元素は、目的に応じて適宜含有させればよいので、下限は0%でもよい。また、上記選択元素が不純物として含有されていてもよい。不純物は、鋼原料(鉱石、スクラップ等)から及び/又は製造環境から、鋼板中に不可避的に混入する元素を意味する。
方向性電磁鋼板の製造では、通常、二次再結晶時に、インヒビター形成元素を鋼板外へ排出する純化焼鈍を同時に行う。特に、N、Sは、50ppm以下に低減する。好ましくは9ppm以下、より好ましくは6ppm以下に低減する。純化焼鈍を十分に行い、通常の分析では検出できない程度(1ppm以下)にまで低減してもよい。
仕上げ焼鈍鋼板の化学成分は、一般的な分析方法によって分析すればよい。例えば、ICP−AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて分析すればよい。例えば、鋼板の中央の位置から35mm角の試験片を採取し、島津製作所製ICPS−8100等(測定装置)を用い、予め作成した検量線に基づいて分析することができる。なお、C及びSは、燃焼−赤外線吸収法を用い、Nは、不活性ガス融解−熱伝導度法を用いて分析すればよい。
グラス被膜は、例えば、フォルステライト(Mg2SiO4)、スピネル(MgAl24)、又は、コーディエライト(Mg2Al4Si516)などの複合酸化物によって構成されている。グラス被膜は、鋼板と張力被膜の間に介在し、特に、鋼板との界面を複雑な凹凸を形成し、いわゆる、アンカー効果によって、鋼板への酸化物膜(グラス被膜及び張力被膜)の密着性を確保するため、方向性電磁鋼板の製造プロセスの1つの仕上げ焼鈍工程において形成される被膜である。
本発明原板製造方法は、仕上げ焼鈍を、グラス被膜が生成しない条件で実施した鋼板を原板として用いることを特徴とする。ただし、原板は、グラス被膜が生成した鋼板から、酸洗等で、グラス被膜を除去した鋼板でもよい。
次に、本発明原板製造方法について説明する。以下の説明において、本発明原板製造方法において限定要件としていない条件については、一般的な条件を説明するが、本発明製造方法は、該条件に限定されるものではなく、公知の目的で公知の条件を適用しても、本発明製造方法は所要の効果を発現する。
化学組成が、質量%で、Si:0.8〜7.0%、C:0超〜0.085%、酸可溶性Al:0〜0.065%、N:0〜0.012%、Mn:0〜1.0%、Cr:0〜0.3%、Cu:0〜0.4%、P:0〜0.5%、Sn:0〜0.3%、Sb:0〜0.3%、Ni:0〜1.0%、S:0〜0.015%、Se:0〜0.015%、残部:Fe及び不純物からなる溶鋼を連続鋳造してスラブとする。
上記スラブを、所定の温度(例えば、1150〜1400℃)に加熱して、熱間圧延に供し、板厚が、例えば、1.8〜3.5mmの熱延鋼板とする。続いて、この熱延鋼板に、所定の熱処理条件(例えば、750〜1200℃で30秒〜10分)で焼鈍処理を施す。焼鈍後の熱延鋼板に酸洗処理を施した後、冷間圧延に供し、板厚が、例えば、0.15〜0.35mmの冷延鋼板とする。
次に、冷延鋼板に、所定の熱処理条件(例えば、700〜900℃で1〜3分)で脱炭焼鈍処理を施す。この脱炭焼鈍により、Cが所定量以下に低減され、一次再結晶組織が形成される。また、脱炭焼鈍後の鋼板の表面には、シリカ(SiO2)を主成分とする酸化物層が形成される。
続いて、脱炭焼鈍後の鋼板の表面(酸化物層の表面)に、アルミナ(Al23)を主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、所定の加熱条件(例えば、コイルのまま、1100〜1300℃で20〜24時間加熱)で、仕上げ焼鈍処理を施す。この仕上げ焼鈍処理により、脱炭焼鈍後の鋼板において、二次再結晶が生じるとともに、該鋼板が純化される。その結果、結晶粒の磁化容易軸と圧延方向Xが一致するように結晶方位が制御された、素材鋼板(仕上げ焼鈍済み鋼板)を得ることができる。
一般に、焼鈍分離剤は、マグネシア(MgO)を主成分とするので、仕上げ焼鈍にて、脱炭焼鈍後の鋼板の表面のシリカを主成分とする酸化物層と、マグネシアを主成分とする焼鈍分離剤が反応して、鋼板の表面に、フォルステライト(Mg2SiO4)等の複合酸化物を含むグラス被膜が形成される。
しかし、焼鈍分離剤として、アルミナ(Al23)を主成分とする焼鈍分離剤を用いれば、仕上げ焼鈍において、鋼板の表面にグラス被膜を形成させずに、二次再結晶を完了することができる。
一般的な方向性電磁鋼板の製造においては、仕上げ焼鈍後の鋼板に、直ちに、張力被膜を形成するが、本発明原板製造方法は、グラス被膜のない仕上げ焼鈍済み鋼板に、張力被膜の形成に先立って、熱酸化焼鈍を施すことを特徴とする。本発明原板製造方法では、熱酸化焼鈍により、薄くて緻密な外部酸化膜を形成する。
そして、上記外部酸化膜の上に、張力被膜を、良好な被膜密着性を確保して形成することにより、鉄損特性に優れる、グラス被膜のない方向性電磁鋼板を得ることができる。この方向性電磁鋼板を製造する本発明鋼板製造方法については後述する。
次に、本発明原板製造方法で形成するSiO2を主体とする外部酸化膜の特徴について説明する。
特許文献1、特許文献2、特許文献4等には、外部酸化型SiO2膜として良好な膜厚が40nm以上であることが記載されている。また、特許文献3には、鋼板片面当たりのSiO2量を100mg/m2以下とすることが、鉄損特性の低下抑制に有効であると記載されているが、“SiO2量100mg/m2以下”を、比重を2として膜厚に換算すると、“50nm以下”となり、鉄損特性の低下抑制と張力被膜の密着性確保の両立には課題が残っている。
また、SiO2量を鋼板片面当たり100mg/m2以下とした場合、又は、SiO2膜厚を40nm未満とした場合、張力被膜を、通常の焼付雰囲気の窒素雰囲気中で焼き付けると、90〜95%程度の比較的良好な被膜密着性が得られる場合と、得られない場合が混在する。
そこで、本発明者らは、膜厚が40nm未満の薄い外部酸化型SiO2膜を形成する場合、従来法以上に、SiO2膜の構造を積極的に制御する必要があると考え、該制御方法について鋭意検討した。
その結果、熱酸化焼鈍において、鋼板片面当たりの鋼板酸素量と、外部酸化型SiO2膜の最表層において反射型赤外分光分析で得られるSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)を所要の関係の下で制御すると、張力被膜の良好な被膜密着性を確保し得る外部酸化膜を形成できることを知見した。
図1に、鋼板中の片面当たりの酸素量(g/m2)及び反射型赤外分光分析で得られる鋼板表面のSiO2のピーク(IRスペクトル強度:ΔR/R0 @1250cm-1)と、張力被膜の密着性との関係を示す。
図1に示す関係は、Si:3.3質量%の脱炭焼鈍鋼板に、均熱温度:1000℃未満で、焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャル及び焼鈍均熱時間を変えて熱酸化焼鈍を施して得た熱酸化焼鈍鋼板において、鋼板の片面当たりの酸素量x(g/m2)及び反射型赤外分光分析で得られる鋼板表面のSiO2のピーク(IRスペクトル強度:ΔR/R0 @1250cm-1)と、該鋼板に、窒素水素雰囲気中で形成した張力被膜の被膜密着性を、該鋼板試料を直径20mmの円筒に巻きつけて評価した被膜残存面積率との関係である。
図1より、鋼板片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる表面のSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)の値y係が、y≧1500x2.5 を満たす場合に、被膜残存面積率が95%以上の良好な被膜密着性が得られることが解る。
SiO2のピークの算出は一般的な手法による。例えば、500〜2000cm-1の範囲で得られる赤外吸収スペクトル曲線において、最表層近傍でのSiO2の存在を示す1250cm-1吸収ピークの位置におけるバックグランドの高さをR0としたとき、ピークトップとバックグランドの強度の差を△Rとして、△R/R0を算出する。この△R/R0は、最表層近傍でのSiO2の存在量に相当すると考えている。
鋼板片面当たりの酸素量は、HORIBA製のEMGA−920で鋼板酸素量を分析し、その分析値から、鋼板片面当たりの酸素量を、Si量に応じたJISに記載の比重を用いて算出する。
本発明者らは、鋼板片面当たりの外部酸化型SiO2量は増えているのに、被膜密着性がかえって悪くなる場合があり、特に、均熱時間を延長した場合に、この傾向が顕著であることを見出し、鋼板片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる表面のSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)の値yに着目した。
そして、本発明者らは、均熱時間を延長していった際、鋼板片面当たりの外部酸化型SiO2量がほとんど増えず、鋼板片面当たりの鋼板酸素量が若干減少する場合があり、この現象が生じた場合には、良好な被膜密着性が得られることを発見したことを踏まえ、外部酸化型SiO2の形態に何らかの違いがあると発想し、最表層のSiO2の存在量を示す1250cm-1でのIRスペクトルに着目した。
そこで、本発明者らは、鋼板片面当たりの酸素量xと、最表層のSiO2量を示す1250cm-1でのIRスペクトルのピーク強度△R/R0の値yを変えて、張力被膜の被膜密着性を評価した。その結果、図1に示すように、xとyが、y≧1500x2.5 を満たせば、良好な被膜密着性が得られることを知見した。
本発明者らは、xとyが、y≧1500x2.5 を満たせば、良好な被膜密着性が得られる理由について、以下のように推定している。
前述したように、焼鈍時間を延長した場合、鋼板の酸素量が減少して、良好な被膜密着性が得られる場合がある。本発明者らが、この現象が生じる場合の条件について検討した結果、熱酸化焼鈍時の雰囲気の酸化ポテンシャルを、外部酸化型SiO2が得られる通常の酸化ポテンシャルよりさらに低くした場合に、上記現象が生じることが判明した。
即ち、このことは、水蒸気分圧と水素分圧の比で表示する酸化ポテンシャルPH2O/PH2を、外部酸化型SiO2膜の形成に必要な鉄系酸化物が生成しないような0.03以下程度に制御した場合でも、微視的には、鉄系酸化物の生成及び形態を、精密に制御する必要があることを意味している。
実際、水素75体積%、窒素25体積%で、露点0℃とした、酸化ポテンシャルPH2O/PH2:0.008程度の熱酸化焼鈍雰囲気(特許文献3、参照)で外部酸化型SiO2膜を形成した場合、良好な被膜密着性を得ることができなかった。しかし、熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.005以下に制御すると、良好な被膜密着性を得ることができることが判明した。
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.005以下に制御する必然性については、以下のように考えている。
酸化ポテンシャルPH2O/PH2が0.005を超える場合、外部酸化型SiO2は生成するが、一方で、Fe系酸化物が生成せず、MnやCrなどがSiO2と複合して酸化物を形成する場合もある。このように、微量元素が酸化される状況下において、SiO2膜厚が薄いと、張力被膜の焼付け・形成時に内部酸化が発生して、被膜密着性が低下する。
そのため、熱酸化焼鈍時、SiO2以外の酸化物が極力生成しないように、熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.005以下とする必要がある。
また、熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を0.005以下とすることの他に、熱酸化焼鈍前の鋼板酸素量を所要の範囲内に整えておくことが必要である。
通常、熱酸化焼鈍に先立ち、仕上げ焼鈍で用いたアルミナ等の焼鈍分離剤を除去するため、鋼板を、酸洗又は水洗するが、酸洗後又は水洗後の鋼板の表面性状として、鋼板片面当たりの鋼板酸素量を0.1g/m2以下、好ましくは0.05g/m2以下にしておくことが有効である。
酸洗や水洗後に乾燥した鋼板においては、鋼板表層が、若干であるが酸化されている。酸化物が鋼板表層に存在すると、熱酸化焼鈍時、外部酸化型SiO2膜の形成が遅延する。熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2が低い場合、鋼板表面に存在する鉄系酸化物を還元しながら、外部酸化型SiO2層を形成することになるので、外部酸化型SiO2膜の形成が遅延することになる。
本発明原板製造方法において、熱酸化焼鈍で形成される外部酸化膜は、SiO2を50質量%以上含有する酸化膜である。SiO2が50質量%以上であれば、膜構造が緻密となり、張力被膜を形成する熱処理時に生じる内部酸化が抑制されて、最終製品での被膜密着性が向上する。
外部酸化膜のSiO2量が増加するほど、張力被膜を形成する熱処理時の内部酸化を抑制する抑制効果は高くなるので、SiO2量の上限は、特に、限定しない。それ故、SiO2膜でもよいが、実用的には、外部酸化膜のSiO2量は99%程度が上限となる。
本発明原板製造方法で形成する外部酸化膜は、膜厚が2nm以上40nm未満の外部酸化膜を対象とする。膜厚が40nm以上の場合、本発明製造方法以外の方法でも、十分に良好な被膜密着性を得ることができるので、本発明原板製造方法で形成する外部酸化膜は、膜厚が40nm未満の外部酸化膜を対象とする。
一方、外部酸化膜の膜厚が2nm未満であると、張力被膜を形成する熱処理時、内部酸化の抑制が困難になるので、本発明原板製造方法で形成する外部酸化層は、膜厚が2nm以上の外部酸化膜を対象とする。
外部酸化膜の膜厚は、集束イオンビーム法(FIB法)によって、地鉄−SiO2界面を含む断面薄片試料を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して計測する。
外部酸化膜のSiO2量は、EDS分析などで成分を特定し、SiO2以外の酸化物(例えば、Si−Mn−Cr酸化物、Si−Mn−Cr−Al−Ti酸化物、Fe酸化物など)の膜中の断面面積率を算出し、この断面面積率に基づいて算出する。
本発明原板は、通常の条件で製造した仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で表示する酸化ポテンシャルが0.005以下の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施して、鋼板表面に、SiO2を主体とする外部酸化層を形成して製造する。
熱酸化焼鈍での均熱温度が1000℃を超えると、鋼板が軟化し通板性が低下するばかりでなく、外部酸化膜の膜厚が過大となり、通板速度が局所的に変動し、鋼板に歪が導入されて鉄損特性が低下するので、均熱温度は1000℃以下とする。好ましくは950℃以下である。
熱酸化焼鈍での均熱温度は、所要の膜厚の外部酸化膜を形成し得る温度であればよく、下限は、特に限定しないが、600℃未満では、実用的な焼鈍時間内に、十分な厚さの外部酸化膜を形成することが困難であるので、均熱温度は600℃以上が好ましい。
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2は0.005以下とする。酸化ポテンシャルPH2O/PH2が0.005を超えると、外部酸化型SiO2膜の膜厚が厚くなる一方で、MnやCrなども酸化されて、張力被膜を形成する熱処理時に生じる内部酸化の起点となり、良好な被膜密着性が得られない懸念が生じるので、熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2は0.005以下とする。好ましくは0.004以下である。
熱酸化焼鈍雰囲気の酸化ポテンシャルPH2O/PH2は、所要の膜厚の、外部酸化型SiO2膜を形成し得る範囲内で適宜設定すればよく、下限は、特に限定されないが、0.00001未満の酸化ポテンシャルPH2O/PH2を工業的に実現するのが困難であるとともに、通板が安定する温度域において、実用的な焼鈍時間内に十分な厚さの外部酸化膜を形成することが困難であるので、0.00001が実質的な下限である。好ましくは0.00010以上である。
本発明鋼板製造方法は、本発明原板製造方法で製造した本発明原板に、張力被膜形成用コーティング剤を塗布し、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施す
ことを特徴とする。
熱酸化焼鈍で鋼板表面に外部酸化膜を形成した後、張力被膜を形成する。本発明鋼板製造方法においては、本発明原板製造方法で製造した本発明原板の熱酸化焼鈍後の表面(外部酸化膜の表面)に、張力被膜形成用コーティング剤、例えば、コロイダルシリカ及びリン酸塩を含有するコーティング剤を塗布し、所定の熱処理温度、例えば、750〜920℃で熱処理を施す。この熱処理により、最終的に、鋼板上に張力被膜を備える方向性電磁鋼板を得ることができる。
上記熱処理は、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2(酸化ポテンシャル)が0.001〜0.20の雰囲気中で行う。この雰囲気中で、張力被膜を形成することで、被膜形成初期に生じる僅かな内部酸化を抑制し、張力被膜の密着性を十分に確保することができる。
上記比PH2O/PH2(酸化ポテンシャル)が0.20を超えると、雰囲気中のH2Oにより内部酸化が生じるので、上記比PH2O/PH2(酸化ポテンシャル)は0.20以下とする。好ましくは0.10以下である。一方、上記比PH2O/PH2(酸化ポテンシャル)が0.001未満であると、熱処理中にリン酸塩が分解してH2Oが発生し、内部酸化が生じるので、上記比PH2O/PH2(酸化ポテンシャル)は0.001以上とする。好ましくは0.003以上である。
熱処理温度は、750〜920℃が好ましい。熱処理温度が750℃未満であると、所要の被膜密着性が得られない場合があるので、熱処理温度は750℃以上が好ましい。一方、熱処理温度が920℃を超えると、同じく、所要の被膜密着性が得られない場合があるので、熱処理温度は920℃以下が好ましい。
以下、本発明の実施例を説明する。実施例で採用した条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一例であり、これに限定されるものではない。本発明を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
板厚0.225mm、Si3.3質量%の方向性電磁鋼板製造用の冷延鋼板に脱炭焼鈍を施し、鋼板表面に、アルミナを主体とする焼鈍分離剤の水スラリーを塗布し、乾燥した後、コイル状に巻き取った。次いで、乾燥窒素雰囲気中で二次再結晶させた後、乾燥水素雰囲気中で1200℃の純化焼鈍を行い、鋼板表面に、グラス被膜を有さない方向性電磁鋼板を得た。
この鋼板に、0.3%硫酸液で酸洗を施した後、片面当たりの酸素量が0.04g/m2の鋼板と、片面当たりの酸素量が0.06g/m2の鋼板に分け、それぞれの鋼板に、窒素25体積%、水素75体積%で、PH2O/PH2(酸化ポテンシャル)が0.0005〜0.0583、露点が−30℃〜+30℃の雰囲気中で、均熱温度850℃又は950℃、均熱時間30秒の熱酸化焼鈍を施した。
熱酸化焼鈍後の鋼板の一部について、鋼板片面当たりの鋼板酸素量を分析し、赤外吸収スペクトルを測定した。残りの鋼板については、鋼板表面に、50質量%のリン酸アルミニウム水溶液50ml、20質量%のコロイダルシリカ水分散液100ml、無水クロム酸5gからなる混合液を塗布し、830℃で30秒、焼付け焼鈍を施した。
この焼付け焼鈍時の焼鈍雰囲気は、通常の窒素雰囲気(比較例:酸化ポテンシャルPH2O/PH2は計算上無限大)で、露点が+10℃の雰囲気(条件(1))、窒素が25体積%、水素が75体積%で、露点が+5℃の雰囲気(条件(2))(いずれも、酸化ポテンシャルPH2O/PH2:0.012)の2種類とした。
張力被膜を形成した後、被膜密着性を、直径20mmの円筒に試料を巻きつけた時の被膜残存面積率で評価した。結果を表1に示す。発明例においては、被膜密着性が優れていることが解る。
Figure 2019019360
(実施例2)
表1の試験No.1-2と同じように作製した熱酸化焼鈍後の鋼板に、50質量%のリン酸アルミニウム/マグネシウム水溶液50リットル、20質量%のコロイダルシリカ水分散液100リットル、無水クロム酸5kgからなる混合液を塗布し、850℃で20秒、焼付焼鈍を施した。焼付焼鈍時の雰囲気は、窒素:25体積%、水素:75体積%で、露点:−30℃〜+60℃の雰囲気とした。
鋼板に張力被膜を形成した後、鋼板から採取した試験片を、直径20mmの円筒に巻き付け、巻き付けた時の被膜残存面積率で、被膜密着性を評価した。結果を表2に示す。発明例においては、被膜密着性が優れていることが解る。
Figure 2019019360
前述したように、本発明によれば、熱酸化焼鈍時のヒートサイクル制御と雰囲気制御により、1000℃以下の均熱温度で、方向性電磁鋼板用原板の表面に、該原板への歪導入を回避して、張力被膜の密着性を十分に確保し得るSiO2主体の外部酸化層を形成することができ、その結果、絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板を、通常の焼鈍ラインで工業的に製造することができる。よって、本発明は、電磁鋼板製造産業及び電磁鋼板利用産業において利用可能性が大きいものである。

Claims (3)

  1. 張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板であって、
    鋼板表面の片面当たりの酸素量xと、反射型赤外分光分析で得られる鋼板表面のSiO2のピーク(ΔR/R0 @1250cm-1)の値yが、y≧1500x2.5 を満たす
    ことを特徴とするグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板。
  2. 張力被膜を形成する前の、グラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板を製造する製造方法であって、
    鋼板表面にグラス被膜のない仕上げ焼鈍済み方向性珪素鋼板に、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.005以下の雰囲気中、均熱温度1000℃以下で熱酸化焼鈍を施し、鋼板表面にSiO2を主体とする外部酸化層を形成する
    ことを特徴とするグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板の製造方法。
  3. 請求項1のグラス被膜のない方向性電磁鋼板用原板に、張力被膜形成用コーティング剤を塗布し、水蒸気圧と水素圧の比PH2O/PH2で示す酸化ポテンシャルが0.001〜0.20の焼付雰囲気中で、張力被膜形成熱処理を施すことを特徴とする絶縁被膜の密着性が良好な方向性電磁鋼板の製造方法。
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