JP2019017337A - 果実類スプレッド及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】果実類スプレッドにおいて、果実類の新鮮な香りを向上させる。【解決手段】果実類スプレッドの製造方法が、果肉の少なくとも一部が原形を保持するように、果実類及び清澄濃縮果汁を含む仕込材料を65℃以下で減圧加熱濃縮して濃縮物を得る減圧加熱濃縮工程、濃縮物を90℃以上に10分以上保持する加熱殺菌工程、及び加熱殺菌工程終了後2分以内に70℃以上85℃以下に冷却する冷却工程を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、果実類の新鮮な香りを保持した果実類スプレッド及びその製造方法に関する。
果実類を加熱濃縮した果実類スプレッドには、果実を砂糖等の糖類と共に加熱濃縮したジャム類や、砂糖等の糖類を添加せずに製造した、所謂オールフルーツジャムなどが含まれ、ジャム類にも高糖度で果実の煮込み感をそなえたものと、低糖度で本来の果実に近い風味をそなえたものがある。
近年、果実類スプレッドとしては、果実の本来の風味をそなえたものが好まれている。そのため、果実類スプレッドを工業的に製造する方法では、果実類を加熱濃縮する方法として、減圧加熱濃縮する方法が広く行われている。
また、果実類スプレッドとしては、低糖度のものが好まれている。しかしながら、果実類スプレッドを低糖度に製造すると水分活性が高まるため雑菌が繁殖しやすくなる。加えて、減圧加熱濃縮が60〜70℃程度の比較的低い温度で行われるため、この工程で雑菌を死滅させることができない。そのため、減圧加熱濃縮により製造した低糖度の果実類スプレッドを常温流通させるには、減圧加熱濃縮後に加熱殺菌を十分に行うことが必要になる。
一方、果実類スプレッドを製造するにあたり、原料果実の異臭を除去すると共に、原料果実の固形感を維持するために、果実類及び糖類を含む仕込材料を一旦脱気処理し、次いで常圧加熱し、その後再び減圧する方法が提案されている(特許文献1)。
また、果実類スプレッドに新鮮な果実の香気をもたせるために、果実類の減圧加熱濃縮工程で発生した蒸気の初留分を回収し、これを減圧加熱濃縮した果実に戻すことが提案されている(特許文献2)。
特許第4753087号公報 特許第4766265号公報
果実類スプレッドとして、低糖度で、かつ果実本来の風味をそなえたものを製造するために、減圧加熱濃縮後に加熱殺菌を十分に行うと、煮込み感のある甘い香りが強まり、新鮮な果実類の香りが低減する。
特許文献1に記載の方法によれば、脱気処理により異臭が除去された果実類スプレッドを得ることができる。しかしながら、脱気処理により新鮮な果実の香気も除去されてしまう。
特許文献2に記載の方法によれば、果実類スプレッドに新鮮な果実類の香気を持たせることができる。しかしながら、この方法で得られる果実類スプレッドは煮込み感のあるジャムの甘い香りも有している。
これに対し本発明は、煮込み感のある甘い香りが低減し、新鮮な果実類の香りがより強く感じられる果実類スプレッドの提供を課題とする。
本発明者は、果実類スプレッドを製造するにあたり、殺菌工程後の温度管理が果実類の新鮮な香りの保持に大きく影響すること、殺菌工程の終了後に特定温度以下に速やかに冷却すると、果実類スプレッドが殺菌工程以降に受ける熱ダメージが低減し、煮込み感のある甘い香りであるヒドロキシメチルフルフラール(HMF)が低減し、新鮮な果実類の香りがたつこと、また、この冷却工程で過度に冷却すると冷却工程中にゲル化が進行するので容器に充填することが困難となるが、冷却工程で過度に冷却せずに特定の温度以上とし、冷却工程に続けて果実類スプレッドを容器に充填すると、その充填時に果実類スプレッドはゲルを形成していないので、充填操作により果実類スプレッドのゲルが破壊されず、以降のゲルの形成能が損なわれず、容器内で良好にゲルが形成され、ほどよい硬さと口どけのよさをそなえた果実類スプレッドを得られることを見出し、本発明を想到した。
即ち、本発明は、果実類を減圧加熱濃縮する果実類スプレッドの製造方法であって、
減圧加熱濃縮の仕込材料に果実類及び清澄濃縮果汁を含め、
果実類の果肉の少なくとも一部が原形を保持するように、仕込材料を65℃以下で減圧加熱濃縮して濃縮物を得る減圧加熱濃縮工程、
濃縮物を90℃以上に10分以上保持する加熱殺菌工程、及び
加熱殺菌工程終了後2分以内に70℃以上85℃以下に冷却する冷却工程
を有する果実類スプレッドの製造方法を提供する。
また、本発明は、果肉の少なくとも一部が原形を保持している果実類スプレッドであって、ヒロドキシメチルフルフラール(HMF)の濃度が2ppm以下である果実類スプレッドを提供する。
本発明の果実類スプレッドの製造方法によれば、果実類及び清澄濃縮果汁を含む仕込材料を65℃以下で減圧加熱濃縮し、かつ減圧加熱濃縮後に、殺菌工程に続けて仕込材料を所定の温度範囲に冷却する冷却工程を行うので、果肉の少なくとも一部が原形を保持し、煮込み感が低減し、新鮮な果実類の香りがより強く感じられる果実類スプレッドを得ることができる。
即ち、冷却工程において、加熱殺菌した濃縮物を速やかに85℃以下に冷却するので加熱殺菌工程以降で濃縮物が受ける熱ダメージを低減することができ、煮込み感のある甘い香りを呈するヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の生成が抑制され、新鮮な果実類の香りがたつようになる。またこの冷却では濃縮物を70℃以上にするので、冷却工程に続けて濃縮物を容器に充填するときに濃縮物はゲルを形成しておらず、充填操作によりゲルが壊れることを回避でき、その後容器内で良好にゲルが形成され、離水を抑制できる。
したがって、本発明の果実類スプレッドによれば、煮込み感のある甘い香りを呈するヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の濃度が2ppm以下と少なく、新鮮な果実類の香りが強く感じられ、かつ良好なゲルの形成によりほどよい硬さとなり口解けが良好となる。
なお、本発明によれば減圧加熱濃縮を65℃以下で行うが、殺菌工程では、減圧加熱濃縮により得られた濃縮物を90℃以上に10分以上保持するので、本発明の方法で得られる果実類スプレッドは常温流通させることが可能となる。
図1は、実施例の果実類スプレッドの製造方法の工程図である。 図2は、実施例1、2及び比較例1、2、3の果実類スプレッドにおける温度履歴のイメージ図である。
以下、本発明を詳細に説明する。なお、特に断らない限り、本発明において%は質量%
を意味し、部は質量部を意味する。
1.果実類スプレッド
1-1.果実類スプレッド
本発明において、果実類スプレッドとは、JAS法品質表示基準で定義されるところのジャム類のうち、果実又は野菜を糖類等と共にゼリー化するようになるまで加熱したもの、またはそれらに果汁、ゲル化剤、酸味料、香料等を加えたものであって、果実類の果肉の少なくとも一部が原形を残したものを含む。また、糖類を添加することなく、ジャム類に準じて果実類を加熱濃縮し、果肉の少なくとも一部が原形を残したものを含む。
1-2.香味の特徴
本発明の果実類スプレッドの香味は煮込み感のある香りが抑制され、新鮮な果実類の香りが強く感じられる。即ち、本発明の果実類スプレッドでは、加熱により生成され、加熱量が多くなるにつれて生成量が増える、煮込み感や加熱臭をもたらす成分の含有量が少ないか、あるいは含有されていない。このような成分として、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)、フルフラール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-2H-フラン-3-オン(DMHF)等をあげることができる。
このうち、ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は煮込み感のある甘い香りを呈しており、糖の熱分解により生成され、その生成量は加熱量に応じて増加する。したがって、果実類スプレッドにおけるヒドロキシメチルフルフラールの濃度は加熱量の指標となる。本発明の果実類スプレッドでは、煮込み感のある甘い香りを押さえ、新鮮な果実の香りを強く感じさせる点からヒドロキシメチルフルフラール濃度を2ppm以下、好ましくは1ppm以下としている。
1-3.糖度
本発明の果実類スプレッドは、Brix値が好ましくは18度以上50度以下、より好ましくは25度以上45度以下である。このように果実類スプレッドを低糖度とすることにより近年の果実類スプレッドの低糖度志向に対応させることができる。また、煮込み感のある甘い香りを呈するヒドロキシメチルフルフラールの生成量は、果実類スプレッドの仕込材料中の糖度に依存するので、この点からも、仕込材料における糖度を下げ、最終的に得られる果実類スプレッドのBrix値を上述の値とすることが好ましい。
一方、仕込材料中のBrix値が過度に低く、果実類スプレッドのBrix値が18未満になると耐熱好酸性菌が増殖するので、果実類スプレッドのBrix値は上述のように18度以上が好ましい。
なお、果実類スプレッドにおけるBrix値の調整は、後述するように仕込材料中のBrix値の調整により行うことができる。
1-4.ゲル
本発明の果実類スプレッドでは、適度な硬さのゼリー状にゲルが形成されており、特に、容器に充填された状態で適度にゲルが掲載されているので、製品として流通している状態においてもほどよい硬さと口どけ感を備えている。これに対し、ゲル強度が低すぎると離水が起こりやすくなり、反対にゲル強度が高すぎると果実類スプレッドから香りが立ちにくくなる。
なお、このようなゲル強度に果実類スプレッドを製造するには、必要に応じてゲル化剤を使用する。また、果実類スプレッドを加熱殺菌した後に容器に充填する時点でゲルの形成が進行していない状態とし、容器に充填した後にゲル化が進むようにする。果実類スプレッドを容器に充填するときにゲルが形成されていない状態とすることで、充填時にゲルが破壊されることを回避でき、充填後にゲル化が進むようになる。
2.果実類スプレッドの製造方法
2-1.果実類スプレッドの製造方法の概要
本発明の果実類スプレッドの製造方法は、果肉の少なくとも一部が原形を保持するように果実類スプレッドを製造する方法であり、果実類及び清澄濃縮果汁を含む仕込材料を65℃以下で減圧加熱濃縮して濃縮物を得る減圧加熱濃縮工程、濃縮物を90℃以上に10分以上保持する加熱殺菌工程、及び、加熱殺菌工程終了後2分以内に濃縮物を70℃以上85℃以下に冷却する冷却工程を有する。
好ましくは、図1に示したように、仕込工程、減圧加熱濃縮工程、凝縮水の戻し工程、加熱殺菌工程、冷却工程、及び充填工程を順次行う。
このうち、減圧加熱濃縮工程、加熱殺菌工程、冷却工程では、最終的に製造される果実類スプレッド中のヒドロキシメチルフルフラール濃度を熱ダメージの指標とし、これが2ppm以下となるように温度を管理する。以下、各工程について詳細に説明する。
2-2.仕込工程
仕込工程では、減圧加熱濃縮に供する果実類、清澄濃縮果汁、必要に応じて使用するその他の仕込材料を、好ましくは減圧加熱濃縮釜に仕込む。
ここで、果実類は、果実又は野菜を広く含む。具体的には、イチゴ、白桃、オレンジ等のかんきつ類、アンズ、ブルーベリー、マンゴー、リンゴ、洋梨、パイナップル、ブドウ、イチジク、バナナ等の果実やルバーブ、トマト等の野菜、中でも、本発明の果実類本来の自然な甘さと新鮮な香りを感じられる点から、イチゴ、白桃、オレンジ等のかんきつ類が好ましい。
果実類は、必要に応じて果実類の一部又は全部を所定の大きさにカットして仕込む。
清澄濃縮果汁は、果汁中に含まれるペクチンを酵素分解し、遠心分離などにより透明化し、さらに脱酸処理、脱ミネラル処理を行って清澄果汁とし、それを濃縮したものであり、酸味や香りは殆ど無い。清澄濃縮果汁は、最終的に得られる果実類スプレッドのBrix値を18度以上50度以下とし、かつ煮込み感のある甘い香りが抑制され、新鮮な果実類の香りが立つようにするために使用する。
清澄濃縮果汁には、その原料果実によって、リンゴ清澄濃縮果汁、ブドウ清澄濃縮果汁、梨清澄濃縮果汁等が市販されているが、上述のように清澄濃縮果汁には酸味や香りが殆ど無いので、果実類スプレッドの原料果実の種類と、清澄濃縮果汁の原料果実の種類とを合わせることは不要である。一方、味の点からはリンゴ清澄濃縮果汁を使用することが好ましい。したがって、例えば、本発明においてイチゴの果実類スプレッドを製造する場合にも、オレンジの果実類スプレッドを製造する場合にも、リンゴ清澄濃縮果汁を使用することが好ましい。
清澄濃縮果汁の中でも、Brix値が60度以上75度以下、褐色度(波長440nm、光路長1cmにおける吸光度から得られる透過率)が90%以上100%未満のものが好ましく、加えて濁度(波長625nm、光路長1cmにおける吸光度から得られる透過率)も90%以上100%未満のものが好ましい。
果実類よりも糖度の高い清澄濃縮果汁を使用することにより仕込材料の濃縮に伴う加熱量を低減させることができるため、果実類スプレッドでは加熱臭やHMF量が低減し、果実の新鮮な香りがたつ。特に、清澄濃縮果汁のBrix値を60度以上とすることにより清澄濃縮果汁の配合量を抑えてコストを低減させると共に風味変化を抑制することができ、75度以下とすることにより果汁の雑味を抑えることができる。これに対し、清澄濃縮果汁に代えて通常の濃縮果汁を使用すると、果実類スプレッドに濃縮果汁の原料果実の香りや酸味が出てしまい、濃縮果汁に含まれるミネラルに由来する雑味もでてしまう。また、加熱臭が強くなり、フレッシュ感が低減する。
また、波長440nmにおける透過率が90%以上100%未満の清澄濃縮果汁を使用することにより果実類スプレッドが褐変することを防止でき、さらに波長625nmにおける透過率が90%以上100%未満の清澄濃縮果汁を使用することにより、果実類スプレッドの透明度を上げることができる。
果実類及び清澄濃縮果汁以外の仕込材料としては、ゲル化剤、増粘剤、酸味料、調味料、酸化防止剤等をあげることができる。これらは、必要に応じて配合する。
2-3.減圧加熱濃縮工程
減圧加熱濃縮工程は、仕込材料を減圧加熱濃縮釜で減圧加熱濃縮して濃縮物を得る工程である。
減圧加熱濃縮における温度条件としては、65℃以下とすることができ、特に、濃縮効率の観点から20℃以上、さらには30℃以上(絶対圧力4.2kPa)とし、果実類本来の自然な甘さを得る観点から60℃以下(絶対圧力19.9kPa)として減圧加熱し、蒸気を留去させて濃縮する方法をあげることができる。
減圧加熱濃縮による濃縮の程度は、例えば、蒸気の留去量が、減圧加熱濃縮時の仕込み量(減圧加熱濃縮時に減圧加熱濃縮釜に入れられる仕込材料の合計量)の8%以上、35%以下になるまで行う。
2-4.凝縮水の戻し工程
凝縮水の戻し工程では、特許文献2に記載の方法により減圧加熱濃縮工程で発生した初留分の蒸気を凝縮させ、その凝縮水を、減圧加熱濃縮工程で濃縮した濃縮物に戻す。これにより初留分に含まれる新鮮な果実の香りを濃縮物に付与することができるので好ましい。
また、濃縮物に戻す初留分の凝縮水の量は、仕込材料の0.5%以上8%以下とすることが好ましい。
2-5.ゲル化剤等の添加
ペクチン等のゲル化剤、キサンタンガム、グアーガム等の増粘剤、レモン汁、クエン酸等の酸味料、調味料、酸化防止剤などの添加剤は、必要に応じて添加する。
2-6.加熱殺菌工程
加熱殺菌工程は、減圧加熱濃縮した濃縮物を加熱殺菌する工程である。加熱殺菌する濃縮物には、ゲル化剤、酸味料などの添加剤や凝縮水が添加されていてもよい。
加熱殺菌工程では、濃縮物を90℃以上10分以上、好ましくは90℃以上10分以上15分以下、より好ましくは90℃10分相当の加熱量に保持する。90℃以上10分以上とすることにより、減圧加熱濃縮工程を65℃以下で行っても、また、減圧加熱濃縮工程後の濃縮物中の糖度が50度以下と低く、水分活性が高い場合でも、常温流通させることができる程度に殺菌することができる。
2-7.冷却工程
冷却工程は、加熱殺菌した濃縮物を人為的に急速に冷却する工程である。より具体的には、冷却工程では加熱殺菌終了時点で90℃以上ある濃縮物を、加熱殺菌終了後2分以内に70℃以上85℃以下、好ましくは70℃以上80℃以下に冷却する。このように85℃以下、好ましくは80℃以下とすることにより、果実類スプレッドにおいて煮込み感のある甘い香りを低減し、新鮮な香りを強くすることができる。
また、冷却工程における冷却温度を好ましくは70℃以上とすることにより、冷却工程では濃縮物のゲル化が進行せず、冷却工程後に濃縮物を容器に充填した以降に容器内でゲル化を進行させることができる。よって、濃縮物の充填時にゲルが破壊されることはなく、容器に充填した後に形成されたゲルが安定化し、離水の生成が抑えられ、ほどよい硬さのゼリー状物を得られる。
冷却工程における冷却方法としては、加熱殺菌した濃縮物を冷却用の配管に通し、配管を冷却する方法が冷却効率の点から好ましい。この他、冷却方法としては、冷却浴を使用する方法等をあげることができる。
2-8.充填工程
充填工程では、冷却工程で好ましくは70℃以上に冷却した濃縮物を、容器に充填し、密封する。
ここで、容器としては、長期間の保存性の点から、ガラス、陶器等で製造された瓶容器が好ましい。また容器は、必要に応じ洗浄や事前の殺菌をしておくことが好ましい。
なお、濃縮物を容器に充填密封した以降の温度管理としては、好ましくは冷却工程における降温により到達した温度で充填を開始する。充填工程後、濃縮物が容器に充填された状態でシャワー冷却、室温での自然放冷等で40度以下にすることが好ましい。
また、充填工程では、容器内を脱酸素雰囲気状態で密封し、濃縮物の酸化劣化を防止するため、容器に濃縮物を充填した後にヘッドスペースを窒素置換することが好ましい。
なお、減圧加熱濃縮により得た濃縮物を容器に充填した後に、前述の加熱殺菌工程及び冷却工程を行うこともできるが、濃縮物を容器に充填した後に、その中心部まで所定の温度に到達させることは難しいため、加熱殺菌工程及び冷却工程を行った後に充填工程を行うことが好ましい。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1〜5及び比較例1、2、3
(1)果実類スプレッドの製造
表1の配合の果実類スプレッドを図1に示した工程で製造した。この場合、各工程を表2に示した温度で行った。
より具体的には、表1に示した仕込材料を減圧加熱濃縮釜に入れ、絶対圧力7.4kPa、品温T1で減圧加熱濃縮を行い、8分間で仕込重量の27%を留去させて濃縮した。留去させた蒸気は熱交換器で凝縮させ、凝縮開始から仕込重量の8%までの凝縮水を初留分として回収した。
次に減圧加熱濃縮により得られた濃縮物に表1に示した添加材料を添加し、加熱殺菌を品温T2、保持時間R2で行った。ただし、実施例4では初留の凝縮水を濃縮物に添加しなかった。
引き続き冷却工程を冷却時間R3で到達温度T3になるように行った。冷却工程は、加熱殺菌した濃縮物を冷却用配管に通すことにより行い、その配管内の濃縮物が所定の到達温度T3を下回らないようにした。但し、比較例3では、冷却用配管を使用せず、自然放冷により冷却した。その結果、70℃に達するのに20分を要した。
次に、所定の到達温度T3の濃縮物をガラス製容器に充填した。また、充填後の容器のヘッドスペースを窒素置換し、容器を密封した。ただし、実施例5では充填後の容器のヘッドスペースの窒素置換を省略した。
なお、仕込材料としたリンゴ清澄濃縮果汁については、予め、波長440nm及び625nmにおける透過率(光路長1cm)を次のように測定したところ、いずれも90%以上100%未満であった。
清澄濃縮果汁の色度の測定方法
分光光度計として(株)島津製作所社製の紫外可視分光光度計、UVmini-1240を使用し、波長440nm、又は625nmにおける吸光度(Abs)を測定し、得られた吸光度値を用いて、下記式よりそれぞれの波長における透過率(T%)を求めた。
T(%)=10−Abs(440nm or 625nm)×100
また、実施例1、2と比較例1、2、3の温度履歴のイメージ図を図2に示す。
Figure 2019017337
Figure 2019017337
(2)果実類スプレッドの評価
(1)で製造した果実類スプレッドを常温で3日保管し、開封直後に(a)ヒドロキシメチルフルフラール濃度、(b)香り(c)食感を次のように測定ないし評価した。結果を表2に示す。
(a)ヒドロキシメチルフルフラール濃度
Agric.Biol.Chem.,52(9),2231~2234,(1988)の記載を参考に、液体クロマトグラフィ(HPLC)法にて、下記条件によりヒドロキシメチルフルフラールの定量を行った。
<測定条件>
・カラム :YMC-Pack ODS-AQ AQ302 150×4.6mm
・溶離液:THF(HPLC用 C4H8O)0.6%Buffer
(※THF6mlを超純水で1Lとする)
・検出器:UV at 283nm
・カラム温度:40℃
・流速:0.8ml/min
・注入量:10μm
・検量線:250、500、1000、2500、5000、10000ppb
また、得られた測定値を次のように評価した。
A:濃度1ppm未満
B:濃度1ppm以上2ppm未満
C:濃度2ppm以上3ppm未満
D:濃度3ppm以上
(b)香り
香りの専門パネル5名が容器の開封直後の果実類スプレッドを嗅ぎ、以下の評価基準でA〜Dの4段階に評価した。
香りのスコアの評価基準
A:煮込み感のある甘い香りがせず、新鮮な果実の香りが強い
B:煮込み感のある甘い香りがせず、新鮮な果実の香りがやや強い
C:煮込み感のある甘い香りがせず、新鮮な果実の香りが弱い
D:煮込み感のある甘い香りが強く、新鮮な果実の香りが感じられない
(c)食感
専門パネル5名が容器を開封直後の果実類スプレッドを食し、以下の評価基準でA〜Dの4段階に評価した。
A:ほどよい硬さで口どけがよい
B:口どけがよい
C:口どけのよさはやや劣るが、問題のない程度である
D:口どけが悪い
表2から、加熱殺菌工程を90℃10分で行った実施例1、2及び比較例1、2、3のうち、加熱殺菌工程終了後2分で70℃又は80℃に冷却した実施例1、2では、ヒドロキシメチルフルフラールの濃度がA評価(1ppm未満)となっており、煮込み感のある甘い香りがせず、新鮮な果実の香りが強く感じられた。これに対し、加熱殺菌工程終了後2分で65℃に冷却した比較例1では、容器に充填する前にゲル化が進行し、容器に充填した後の果実類スプレッドではゲルが破壊されており、食感がDであった。また、加熱殺菌工程終了後2分では85℃に達温せず、10分で85℃に冷却した比較例2では、ヒドロキシメチルフルフラールの濃度がC評価(2ppm以上3ppm未満)で煮込み感のある甘い香りが強く、新鮮な果実の香りが感じられなかった。また、ペクチンが加水分解されて液状となり、口どけの良さがやや劣っていた。一方、加熱殺菌工程終了時に自然放冷することにより、加熱殺菌工程終了後2分では85℃に達温せず、20分で70℃に降温した比較例3では、ヒドロキシメチルフルフラールの濃度がB評価(1ppm以上2ppm未満)で煮込み感のある甘い香りはしなかったが、新鮮な果実の香りが弱かった。また、ペクチンが加水分解されて液状となり、口どけの良さがやや劣っていた。
また、実施例1と実施例3から、加熱殺菌工程を25分行うと、煮込み感のある甘い香りに加え、加熱生成物がやや増加することがわかる。
実施例1と実施例4から減圧加熱濃縮工程の初留を戻さないと、新鮮な果実の香りの評価が劣ることがわかる。
実施例1と実施例5から、窒素置換を行わないと、経時変化により香りがやや劣化することがわかる。
比較例4
清澄濃縮果汁に代えて、リンゴ濃縮果汁を使用する以外は実施例1と同様に果実類スプレッドを製造し、評価した。その結果、比較例4はヒドロキシメチルフルフラールの濃度についてD評価(3ppm以上)であり、煮込み感のある香りが強く、フルーツ自体の風味の評価も著しく劣っていた。
比較例5
加熱殺菌工程を90℃5分で行った以外は実施例1と同様に果実類スプレッドを製造し、評価した。その結果、ヒドロキシメチルフルフラールの濃度も低く果実の新鮮な香りは有するが、殺菌不十分により、製品の変敗が生じ、流通に適さない品位となった。
実施例6
表3に示した仕込材料及び濃縮物への添加材料を使用し、図1及び表4に示した工程で果実類スプレッドを製造した。
評価は実施例1〜5及び比較例1〜5と同様の方法で行った。結果を表4に示す。
Figure 2019017337
なお、リンゴ清澄濃縮果汁の波長440nm及び625nmにおける透過率(光路長1cm)は、いずれも90%以上100%未満であった。
Figure 2019017337
表4より、加熱殺菌工程終了後2分で80℃に冷却した実施例6では、ヒドロキシメチルフルフラールの濃度についてA評価(1ppm未満)となっており、煮込み感のある甘い香りがせず、新鮮な果実の香りが強く感じられた。また、食感も良好であった。

Claims (10)

  1. 果実類を減圧加熱濃縮する果実類スプレッドの製造方法であって、
    減圧加熱濃縮の仕込材料に果実類及び清澄濃縮果汁を含め、
    果実類の果肉の少なくとも一部が原形を保持するように、仕込材料を65℃以下で減圧加熱濃縮して濃縮物を得る減圧加熱濃縮工程、
    濃縮物を90℃以上に10分以上保持する加熱殺菌工程、及び
    加熱殺菌工程終了後2分以内に70℃以上85℃以下に冷却する冷却工程
    を有する、
    果実類スプレッドの製造方法。
  2. 請求項1記載の果実類スプレッドの製造方法であって、果実類スプレッドのヒドロキシメチルフルフラールの濃度が2ppm以下となるように加熱殺菌工程及び冷却工程の温度を管理する果実類スプレッドの製造方法。
  3. 請求項1又は2記載の果実類スプレッドの製造方法であって、加熱殺菌工程において、濃縮物を90℃以上に10分以上15分以下保持する果実類スプレッドの製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載の果実類スプレッドの製造方法であって、果実類スプレッドのBrix値が50度以下となるように仕込材料を調製する果実類スプレッドの製造方法。
  5. 請求項4記載の果実類スプレッドの製造方法であって、清澄濃縮果汁のBrix値が60度以上75度以下、波長440nmにおける透過率(光路長1cm)が90%以上100%未満である果実類スプレッドの製造方法。
  6. 請求項4又は5記載の果実類スプレッドの製造方法であって、果実類がイチゴ、白桃、及びかんきつ類から選ばれるいずれか一種であり、清澄濃縮果汁がリンゴ清澄濃縮果汁である果実類スプレッドの製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の果実類スプレッドの製造方法であって、冷却工程後の70℃以上85℃以下の濃縮物を容器に充填する果実類スプレッドの製造方法。
  8. 請求項7記載の果実類スプレッドの製造方法であって、容器内を脱酸素雰囲気にして密封する果実類スプレッドの製造方法。
  9. 果肉の少なくとも一部が原形を保持している果実類スプレッドであって、
    ヒロドキシメチルフルフラールの濃度が2ppm以下である果実類スプレッド。
  10. 請求項9記載の果実類スプレッドであって、Brix値が18度以上50度以下である果実類スプレッド。
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