JP2019014769A - 筆記具用の水性顔料インキ組成物及び該インキ組成物を搭載した中綿式サインペン - Google Patents

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Abstract

【課題】中綿式のサインペンに搭載可能な程度に低粘度の顔料インキでありながら、中綿式サインペンに搭載した際に、PETフィルム等の非吸収面に筆記した描線が、従来のサインペンで筆記したものに比べて優れた耐擦過性を実現したものになる、水性顔料インキ組成物及び該インキ組成物を搭載した中綿式サインペンの提供。【解決手段】顔料、水、分散樹脂、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有してなる筆記具用の水性顔料インキ組成物であって、シリコーン系樹脂エマルジョンと、それ以外の樹脂エマルジョンとが、その固形分の質量比が、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1〜0.8の範囲内となる量で併用されており、且つ、円錐平板型回転粘度計で、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が、2.0mPa・sを超えて8mPa・s以下である筆記具用の水性顔料インキ組成物。【選択図】なし

Description

本発明は、筆記具用の水性顔料インキ組成物及び該インキ組成物を搭載した中綿式サインペンに関し、詳しくは、筆記した描線が耐擦過性に優れたものになる水性顔料インキ組成物及び該インキ組成物を搭載した中綿式サインペンに関する。
いわゆるサインペンは、ペン先に繊維質を用いて、その毛細管現象によって、ペン体にあるインキ貯蔵部からインキをペン先に誘導して筆記するペンであり、インキ貯蔵部の構造の違いによって、直液式と中綿式の2種類がある。直液式は、ペン体にインキタンクが搭載され、該インキタンクにインキを直接貯蔵する様式である。このため、高粘度のインキを使用することが可能であり、筆記された描線の耐擦過性は、筆記する面の材質にもよるが、比較的良好なものになる。
一方、中綿式は、ペン体に内蔵した綿にインキを充填し、その綿に直接、繊維質のペン先が取り付けられている構造の、綿に充填されたインキを、毛細管現象によって綿からペン先に染み込ませて筆記する様式のものである。中綿式のペンは、直液式のペンと比べて構成する部品数が少ないため、コストを低く抑えることができる。また、綿に充填されたインキをペン先に染み込ませる様式であるため、気圧の影響を受けずに筆記することができるという利点もある。しかし、中綿式のペンでは、インキ吸蔵体や繊維束状からなる部材(綿)を使用し、この綿にインキを充填しているため、直液式のペンと比べて搭載できるインキの粘度の範囲が狭く、低粘度のインキを搭載させる必要がある。このため、例えば、低粘度のインキを充填した中綿式のサインペンで、PETフィルム等の非吸収面に筆記した場合には、十分な液量のインキが描線にのらず、乾燥後の膜厚が薄くなり、描線の耐擦過性が悪いという問題点がある。
中綿式のペンにおける上記した問題点を解消するために、種々の筆記具用のインキ組成物が提案されている。例えば、着色剤、有機溶剤、樹脂及びグラフト共重合体のシリコーン系界面活性剤を含有するインキ組成物(特許文献1)や、樹脂、界面活性剤、溶剤及びクロム錯塩染料を着色剤として含有するインキ組成物(特許文献2)などが提案されている。
特開2008−208290号公報 特開2002−356636号公報
ここで、筆記具用のサインペンに搭載するインキには、有機溶剤を用いた油性インキと、水系の溶媒を用いた水性インキがあり、使用する着色剤の観点からは、顔料を用いた顔料インキと染料を用いた染料インキがある。これに対して、近年、より環境保全性の高い製品や、より安全性の高い製品を求める傾向が強くなってきており、優れた水性インキの提供が待望されている。また、染料インキは、高い発色性を示すものの、顔料インキに比べて耐光性に劣るという課題がある。このため、中綿式のサインペンにおいても、搭載した場合に、優れた性能を発揮できる水性の顔料インキの提供が待望されている。また、水性の顔料インキでありながら、特にPETフィルム等の非吸収面に筆記した場合に、良好なインキ皮膜を形成することができ、しかも筆記した描線が高い耐擦過性を示すものになる優れた性能のインキが得られれば極めて有用である。
これに対し、前記した特許文献1のインキ組成物は、油性インキであり、環境上の課題がある。また、特許文献2のインキ組成物は、着色剤として染料を使用しているため、顔料を使用したインキの場合と比較して耐候性が不十分であり、更に、重金属を含む染料を使用しており、環境上の課題もある。
本発明は、上記した従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、中綿式のサインペンに搭載可能な程度に低粘度の顔料インキでありながら、中綿式サインペンに搭載した際に、PETフィルム等の非吸収面に筆記した描線が、従来のサインペンで筆記したものに比べて優れた耐擦過性を実現したものになる、水性顔料インキ組成物及び該インキ組成物を搭載した中綿式サインペンを提供することである。
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、顔料、水、分散樹脂、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有してなる筆記具用の水性顔料インキ組成物であって、前記シリコーン系樹脂エマルジョンと、前記それ以外の樹脂エマルジョンとが、その固形分の質量比が、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1〜0.8の範囲内となる量で併用されており、且つ、円錐平板型回転粘度計で、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が、2.0mPa・sを超えて8mPa・s以下であることを特徴とする筆記具用の水性顔料インキ組成物を提供する。
本発明の筆記具用の水性顔料インキ組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。すなわち、前記それ以外の樹脂エマルジョンが、ポリウレタン系樹脂エマルジョン又はアクリル系樹脂エマルジョンの少なくともいずれかであって、且つ、その粘度が10〜3000mPa・sであること;前記それ以外の樹脂エマルジョンの含有量が、固形分換算で、2〜18質量%であり、且つ、前記シリコーン系樹脂エマルジョンの含有量が、固形分換算で、1〜5質量%であること;顔料の含有量が、5〜15質量%であること;前記顔料及び前記分散樹脂が、円錐平板型回転粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が2〜5mPa・sである、顔料と分散樹脂とを含んでなる顔料分散液で含有されていること;が挙げられる。
また、本発明は、別の実施形態として、インキ貯蔵部材に、上記のいずれかに記載の水性顔料インキ組成物が充填されていることを特徴とする中綿式サインペンを提供する。
本発明によれば、中綿式のサインペンに搭載可能な程度に低粘度の顔料インキであり、しかも、中綿式サインペンに搭載した際に、例えば、PETフィルム等の非吸収面に筆記した描線が、従来のサインペンで筆記したものに比べて優れた耐擦過性を実現したものになる、水性顔料インキ組成物及び該インキ組成物を搭載した中綿式サインペンが提供される。
以下に、好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明者は、上記の問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、少なくとも、顔料、水、分散樹脂に、シリコーン系樹脂エマルジョンに、それ以外の樹脂エマルジョンを併用し、且つ、これらの2種類の樹脂エマルジョンを特定の比率で含有させることで、中綿式サインペンに搭載可能な低粘度の水性顔料インキ組成物とでき、しかも、搭載した中綿式サインペンでPETフィルム等の非吸収面に筆記した描線が、表面の摩擦抵抗を低減することができ、耐擦過性が向上したものになることを見出して、本発明を完成するに至った。以下、本発明の水性顔料インキ組成物を構成する各材料について詳細に説明する。
<顔料>
本発明の水性顔料インキ組成物を構成する顔料としては、従来公知の、分散樹脂によって分散させる樹脂分散型の顔料を使用することができ、特に限定されない。例えば、カーボンブラック等の無機顔料や、溶性・不溶性アゾ顔料、高分子量アゾ顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、アントラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノフタロン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料等の有機顔料等が挙げられる。
本発明の水性顔料インキ組成物における顔料の含有量(顔料濃度)は、保存安定性や他の成分の溶解性との関係から、水性顔料インキ組成物の全量に対して、5〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。
本発明の水性顔料インキ組成物を製造する場合、顔料及び分散樹脂を、予め、顔料を分散樹脂で、溶媒である水に高濃度で分散させた顔料分散液を使用することが好ましい。本発明者の検討によれば、顔料分散液を使用することで、水性顔料インキ組成物の粘度を安定して低くすることができ、その結果、中綿式サインペンに搭載するのに好適な低粘度の顔料インキの調製が可能になることがわかった。本発明で使用する顔料分散液における顔料濃度は、10〜18質量%であることが好ましく、より好ましくは12〜15質量%である。その際に使用する分散樹脂としては、次に挙げるようなものを適宜に使用できる。顔料分散液を調製するための水としては、イオン交換水を用いることが好ましい。
また、本発明者の検討によれば、特に、円錐平板型回転粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が2〜5mPa・sと低粘度である顔料分散液を用いることで、より良好な水性顔料インキ組成物とすることができる。
<分散樹脂>
本発明の水性顔料インキ組成物は、上記したように、分散樹脂を用いて前記したような顔料を、予め溶媒である水に分散させた顔料分散液を用いたことにより、本発明の水性顔料インキ組成物の粘度を低粘度化することができる。本発明者の検討によれば、更に、分散樹脂を用いることで、経時での粘度も低く保つことができ、水性顔料インキ組成物の保存安定性をよくすることができることがわかった。
一般的に、顔料を分散するための分散樹脂の構造は、顔料吸着に寄与する顔料吸着部と溶媒に親和して分散性に寄与する溶媒親和性部からなる。その構造中の溶媒親和性部の分子鎖が長いと、顔料同士の立体的反発が大きくなるため、分散安定性がよくなる傾向がある。しかし、その一方で、分散樹脂自体の粘度が高くなり、結果としてインキ組成物の粘度が高くなる傾向がある。これに対し、その構造中の溶媒親和性部の分子鎖が短いと、分散樹脂自体の粘度は低くなるが、顔料同士の立体的反発が小さくなり、顔料の分散性が悪くなる傾向がある。本発明を構成する分散樹脂は、これらの点を考慮して選択することが好ましい。
本発明で使用する分散樹脂の構造中の顔料吸着部としては、分散対象の顔料の表面性状に適宜に設計すればよく、特に限定はない。例えば、形成材料のモノマーに、メタクリル酸(MAA)やアクリル酸(AAc)などの酸性基を含有するモノマーが含まれていることが好ましい。また、水中で顔料を分散させるためには、これらの酸性基は、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基で中和されている必要がある。
本発明で使用する分散樹脂の構造中の顔料吸着部以外の部分も、上記に挙げた顔料吸着部との兼ね合いで適宜に設計すればよく、特に限定はない。例えば、形成材料のモノマーに、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)、メタクリル酸エチル(EMA)、メタクリル酸2−エチルヘキシル(2ehMA)等のメタクリレート系のモノマーや、アクリル酸メチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸エチル等のアクリレート系のモノマーや、スチレン(St)等の付加重合性モノマーを用いることができる。
本発明に用いられる分散樹脂の構造は、ランダム構造、グラフト構造、ブロック構造、スター構造など特に限定されるものではなく、種々の構造のものを用いることができる。中でもランダム構造やブロック構造のものが好ましい。
本発明を構成する分散樹脂の数平均分子量は、5000〜25000程度のものであることが好ましく、より好ましくは10000〜20000のものである。数平均分子量が5000未満では、顔料同士の立体的反発が小さくなり、顔料同士が凝集してしまい、顔料分散液の粘度が高くなるため好ましくない。一方、数平均分子量が25000を超えると、分散樹脂自体の粘度が高くなり、顔料分散液の粘度が高くなってしまうため、好ましくない。
本発明の水性顔料インキ組成物を、上記したような顔料分散液を用いて調製する場合には、上記したような構成の分散樹脂を、アルカリによって中和して用いる。この際に、中和するために用いられるアルカリとしては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、第一級、第二級又は第三級等の有機アミン(塩基性含窒素複素環化合物を含む)や、水酸化アルカリ金属等の化合物が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
<シリコーン系樹脂エマルジョン>
本発明の水性顔料インキ組成物は、上記した顔料分散液に、シリコーン系樹脂エマルジョンと、それ以外の樹脂エマルジョンとを、特定割合で併用して含有させた構成としたことを特徴とする。特に、シリコーン系樹脂エマルジョンを併用したことで、良好なインキ皮膜が形成され、その耐擦過性が極めて良好になるという新たな知見を得て、本発明を達成した。本発明でいう「シリコーン系樹脂エマルジョン」とは、樹脂骨格にポリシロキサン骨格を有する樹脂エマルジョンのことを意味する。本発明者の検討によれば、シリコーン系樹脂エマルジョンは、粘度が高いものが多いものの、粘度の低い、シリコーン系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンを併用し、且つ、その固形分の質量比が、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1〜0.8の範囲内、より好ましくは、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1〜0.5となるように構成したことで、本発明の顕著な効果を達成している。
すなわち、シリコーン系樹脂エマルジョンと、それ以外の樹脂エマルジョンの2種類のエマルジョンを併用してなる本発明の水性顔料インキ組成物は、中綿式のサインペンに搭載させることができる程度に低粘度になる。更に、このサインペンで描線等を筆記した際に、形成するインキ皮膜の摩擦抵抗を低減してスリップ性を与え、耐摩擦性を向上させたものになる。本発明の水性顔料インキ組成物を構成するシリコーン系樹脂エマルジョンのインキ中における含有量は、好ましくは、水性顔料インキ組成物の全量に対して固形分換算で1〜5質量%程度、より好ましくは1〜3質量%程度であればよく、この程度の範囲内で使用することで、筆記具用である本発明の水性顔料インキ組成物を、より安定して低粘度化することができる。
本発明を構成するシリコーン系樹脂エマルジョンには、下記に挙げるような市販品を適宜に使用することができる。具体的には、例えば、アクリルエマルジョンを、ポリシロキサン骨格を有するオリゴマーで複合化したNANOFINE KPX−02−014、NANOFINE KPX−97−048及びNANOFINE KPX−97−051(以上、商品名、トーヨーケム社〔旧:東洋インキ製造社)製〕等や、シラノール基を持ったシリコーンのエマルジョンである52Additiveや、BY22−050A(以上、商品名、東レ・ダウコーニング社製)、ノニオン系エマルジョンであるX−52−2160(信越化学工業社製)、レオフローDMS−55(ライオン社製)等が挙げられる。
<それ以外の樹脂エマルジョン>
上記したように、本発明の水性顔料インキ組成物は、先に述べたように、上記したシリコーン系樹脂エマルジョンと、それ以外の樹脂エマルジョンとを併用し、これらが特定割合で含有されているように構成したことを特徴する。すなわち、本発明は、中綿式のサインペンに搭載可能な低粘度のインキの開発を一つの目的としており、本発明の水性顔料インキ組成物では、この目的を、それ以外の樹脂エマルジョンを併用してインキに含有したことで達成している。その際に用いる、バインダーとして機能するそれ以外の樹脂エマルジョン(以下、単に「樹脂エマルジョン」とも呼ぶ)は、インキ皮膜の成膜性を確保することに加えて、前記した形成したシリコーン系樹脂エマルジョンと併用することで、描線の耐擦過性を向上させること及びインクの経時安定性に寄与するため、比較的低粘度の樹脂エマルジョンを使用することが好ましい。
本発明者の検討によれば、本発明で使用する樹脂エマルジョンは、上記した目的から、好ましくは10〜3000mPa・s、より好ましくは1000mPa・s以下、更に好ましくは100mPa・s以下、の低粘度のものを使用するとよい。本発明において特に好適に用いられる樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂エマルジョンやポリウレタン系樹脂エマルジョン等が挙げられ、中でもポリウレタン系樹脂エマルジョンがより好適に用いられる。
また、本発明の水性顔料インキ組成物を構成する樹脂エマルジョンは、その最低造膜温度(MFT)が25℃(室温)以下の、室温で成膜するものであることが好ましい。すなわち、本発明者の検討によれば、バインダーとして機能する樹脂エマルジョンに、MFTが室温以下のものを用いることで、成膜性に優れた水性顔料インキ組成物になり、結果として、筆記した描線の耐擦過性がより優れたものになる中綿式サインペンの提供が可能となる。このため、本発明を構成する樹脂エマルジョンに、MFTが高めの材料を使用する場合は、造膜助剤等を併用して、水性顔料インキ組成物のMFTが25℃以下となるように設計することが好ましい。
なお、本発明で用いる「エマルジョン」は、液体(水)に、粒径の小さい液体(樹脂)が分散したものを意味し、水性重合体(樹脂)の水分散液(ディスパージョン)と呼ばれるものも含む。2種類のエマルジョンのいずれのものについても、乳化剤(界面活性剤)を用いて乳化したものであっても、乳化剤(界面活性剤)を用いずに自己乳化させたものであってもよい。
本発明の水性顔料インキ組成物における、樹脂エマルジョンの配合量は、水性顔料インキ組成物の全量に対して、固形分換算で2〜18質量%であることが好ましい。樹脂エマルジョンの配合量が2質量%未満であると、少な過ぎてインキ皮膜の形成が難しくなり、18質量%を超えると、インキ中の樹脂分が多くなりすぎて、本発明の水性顔料インキ組成物の粘度が増大し過ぎてしまい、中綿式のサインペンへの搭載に適さなくなるため、好ましくない。
本発明を構成するシリコーン系樹脂エマルジョン以外の樹脂エマルジョンとしては、例えば、以下に挙げるような市販品等を適宜に使用することができる。アクリル系樹脂エマルジョンとしては、主成分がアクリル−スチレン共重合体であるボンコートNST−100EF(商品名、DIC社製、Tg:17℃、MFT:13℃)や、アクリル樹脂の水中油型エマルジョンであるサイビノールSK−200(商品名、サイデン化学社製、MFT:80℃以上)や、スチレン−アクリル酸共重合物であるジョンクリル 1535(商品名、BASF社製)等を使用することができる。
また、ポリウレタン系樹脂エマルジョンとしては、ポリカーボネートポリウレタンの水分散液である、バイヒドロール(登録商標)UH2606(住化バイエルウレタン社製、不揮発分35%、MFT:45℃)や、主成分がアクリル変性ウレタンである、アニオン性ポリウレタン樹脂のリカボンドSU−100N〔商品名、ジャパンコーティングレジン社(旧:中央理化工業社)製、Tg:60℃〕等を使用することができる。
<その他の添加剤>
本発明の水性顔料インキ組成物は、必要に応じて、下記に挙げるような、造膜助剤、乾燥防止剤及び濡れ剤といった添加剤を用いることができる。これらに限らず、後述するような添加剤も使用することができる。いずれの添加剤も、必要に応じて、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
(造膜助剤)
本発明の水性顔料インキ組成物において、造膜助剤を使用することで、該組成物中のエマルジョンの塗膜形成性を高めることができる。先述したように、造膜助剤を用い、本発明の水性顔料インキ組成物の構成を、確実に、MFTが25℃(室温)以下である、室温でバインダー樹脂が成膜するように設計することが好ましい。すなわち、このように構成すれば、形成した塗膜は、耐擦過性に優れたものになり、中綿式のサインペンに使用した場合には、記載した描線も耐擦過性に優れたものとなる。造膜助剤としては、例えば、ベンジルアルコール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコール−モノ−エチルエーテル、ブチルカルビトール、エチルセロソルブ、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルセロソルブ、エチレングリコール−モノ−n−エチルエーテル、エチレングリコール−モノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
(乾燥防止剤)
本発明の水性顔料インキ組成物は、特に、インキ貯蔵部材を有する中綿式のサインペンに用いるのに優れている。インキ吸蔵部材である綿等に染み込ませたインキが乾燥するのを防止するためには、本発明の水性顔料インキ組成物中に、乾燥防止剤として、親水性溶剤を存在させておくのが好ましい。この際に用いる乾燥防止剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、尿素、チオ尿素、エチレン尿素又はそれらの誘導体、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(濡れ剤)
また、本発明の水性顔料インキ組成物に濡れ剤を併用することで、特に、中綿式のサインペンに用いた場合には、滑らかな描線を記載できるため好ましい。濡れ剤としては、フッ素系界面活性剤や、ポリエーテル変性シロキサン等を用いることができる。フッ素系界面活性剤としては、例えば、フロラードFC−430、431(以上、住友スリーエム社製)、メガファックF−444、472、477、552、553、554、443、470、475、482、483、489、30(以上、DIC社製)、アサヒガードAG710、サーフロンS−382、SC−101、SC−102、SC−103、SC−104、SC−105、SC−106(以上、旭硝子社製)を挙げることができる。ポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤としては、例えば、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、UV3530(以上、ビッグケミー・ジャパン社製)等を挙げることができる。
(その他)
本発明の水性顔料インキ組成物には、防腐剤、防黴剤、消泡剤、防錆剤、pH調整剤等の添加剤を、必要に応じて、1種又は2種以上を混合して用いることもできる。
<用途>
本発明の水性顔料インキ組成物は、筆記具用のインキであり、例えば、低粘度のインキが要求される中綿式のサインペンに搭載することができる。特に、中綿式のサインペンに搭載した場合に、前述したように、筆記した描線は、従来のペンに比べて格段に耐擦過性に優れたものになる。
(中綿式サインペン)
本発明の水性顔料インキ組成物を搭載した中綿式サインペンは、サインペン自体の形状については特に限定されるものでなく、従来と同様のものが使用できる。例えば、ペン体である軸筒内部に収容したインキ吸蔵部材としては、従来公知の、綿や繊維束からなる部材が使用できる。インキ吸蔵部材に直接取り付けられるペン先も、従来公知の、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等が使用できる。本発明の水性顔料インキ組成物をインキ吸蔵部材に充填した中綿式のサインペンは、PETフィルムの他、ガラス、金属表面等の非吸収面に筆記した場合は勿論、皮革製品、発泡スチロール、紙等にも筆記でき、筆記文字は、耐擦過性に優れたものとなる。
次に、実施例、比較例及び参考例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、いずれも質量基準である。
実施例及び比較例では、分散樹脂に、以下のモノマー組成よりなる、重量平均分子量が25000である、スチレン−メタクリル酸コポリマーを、下記の溶媒を用いて溶液として用いた。以下、これを「分散樹脂溶液」と呼ぶ。
(分散樹脂溶液)
・モノマー組成:スチレン(St)/メタクリル酸メチル(MMA)/メタクリル酸エチル(EMA)/メタクリル酸2−エチルヘキシル(2ehMA)/メタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)/メタクリル酸(MAA)=20/15/15/20/20/10
・溶媒:全体のモノマー100質量部に対して、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル/プロピレングリコールメチルエーテル/水/アンモニア水(28%)=50/50/70/7.7の混合溶媒
・pH:8.3〜9.3
・固形分:36%
<実施例1>
前記した分散樹脂溶液を114部、カーボンブラック#1000(商品名、三菱化学社製)を79部、25%のアンモニア水1.9部及びイオン交換水187部を、横型メディア分散機の、DYNO−MILL Typ KDL型(商品名、WAB社製)を使用して分散を行なった。分散後、水を加え、遠心分離により粗大粒子を除去し、顔料濃度14%の水性顔料分散液Aを得た。この水性顔料分散液Aの不揮発分(N.V=固形分)は、17.5%であり、円錐平板型回転粘度計を用い、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度は、2.4〜2.9mPa・sであった。また、上記で使用した市販のカーボンブラック#1000は、粒子径18nm、窒素吸着比表面積180m2/g、pH3.5のものである。
次いで、上記で得た水性顔料分散液Aの55.4部に、ポリウレタン系樹脂エマルジョンとして、バイヒドロール(登録商標)UH2606(住化バイエルウレタン社製)を40部(樹脂分=14部)、造膜助剤としてソルフィット(登録商標、クラレ社製)を1部、乾燥防止剤としてプロピレングリコール(PG)を0.5部、シリコーン系樹脂エマルジョンとして、52Additive(商品名、東レ・ダウコーニング社製、不揮発分64%)を3部、及び、濡れ剤としてフッ素系界面活性剤であるメガファック(登録商標)F−444(DIC社製)を0.1部加えて、本実施例のインキの配合とした。更に、この配合物を、ディゾルバーで分散して本実施例の水性顔料インキ組成物を得た。表1に、得られた水性顔料インキ組成物の組成を示した。上記で使用したポリウレタン樹脂エマルジョンの粘度は、100mPa・s未満であり、低粘度であった。また、シリコーン樹脂エマルジョンの粘度は、3000〜5000mPa・sであった。後述する表3に示したように、本実施例の水性顔料インキ組成物の粘度は、5.6mPa・sと低粘度であった。
表1中に、使用したシリコーン系樹脂エマルジョンと、ポリウレタン系樹脂エマルジョンとを、その固形分の質量比である、シリコーン系樹脂エマルジョン/ポリウレタン系樹脂エマルジョンの値を、2種のエマルジョン比として記載した。
<実施例2〜6>
実施例1の配合物を表1に示す配合としたこと以外は実施例1と同様にして、各実施例の水性顔料インキ組成物を得た。
Figure 2019014769
<実施例7>
前記した分散樹脂溶液を114部、シアニンブルークロモファインブルー A−220JC(商品名、大日精化工業社製)を79部、25%のアンモニア水1.9部及びイオン交換水187部を、横型メディア分散機のDYNO−MILL Typ KDL型(同上)を使用して分散を行なった。分散後、水を加え、遠心分離により粗大粒子を除去し、顔料濃度14%の水性の顔料分散液Bを得た。この水性顔料分散液Bの不揮発分(N.V)も水性顔料分散液Aと同様、17.5%である。また、円錐平板型回転粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度は、2.7〜3.0mPa・sであった。
次いで、上記で得た顔料分散液Bの55.4部に、ポリウレタン系樹脂エマルジョンとして、バイヒドロール(登録商標)UH2606(同上)を40部(樹脂分14部)、造膜助剤としてソルフィット(同上)を1部、乾燥防止剤としてポリプロピレングリコール0.5部、シリコーン系樹脂エマルジョンとして52Additive(同上)を3部及び濡れ剤としてフッ素系界面活性剤であるメガファックF−444(同上)を0.1部加えて、本実施例のインキの配合とした。更に、この配合物を、ディゾルバーで分散して本発明の水性顔料インキ組成物を得た。表1に、得られた水性顔料インキ組成物の組成を示した。後述する表3に示したように、本実施例の水性顔料インキ組成物の粘度は、5.81mPa・sと低粘度であった。
<比較例1〜6>
実施例1の配合物を表2に示す配合としたこと以外は実施例1と同様にして、各比較例の水性顔料インキ組成物を得た。
Figure 2019014769
[水性顔料インキ組成物の評価]
<粘度>
上記で調製した実施例及び比較例の各水性顔料インキ組成物を撹拌し、その温度を25±1℃に調整して測定用試料とした。そして、これらの測定用試料について、円錐平板型回転粘度計RE−80L型(商品名、東機産業社製)を用い、50rpmで回転開始から2分経過時の指針の示度を読み取り粘度を測定した。粘度は、製造直後の各インキ組成物についてと、50℃で3か月保存後の各インキ組成物について、それぞれ測定した。測定結果を、実施例については表3に、比較例については表4に、まとめて示した。また、これらの表中に、実施例及び比較例の各水性顔料インキ組成物を構成する2種のエマルジョンの使用比率を示した。
<耐擦過性試験>
試験用に、実施例及び比較例の各水性顔料インキ組成物をそれぞれ、繊維束の芯を有するペン体に詰めたペンを用意した。この際、ペン先が、角芯と、丸芯の、2種類のペンを用意した。これらのペンを用いて、PETフィルムにそれぞれ描線を書き、これを24時間保管した。そして、保管後のものを評価用試料として、摩擦堅牢度試験機RT−200(商品名、大栄科学精器製作所社製)で、形成した画像(描線)の耐擦過性を評価した。試験は、摩擦子に綿布(平織)又はデニム布を取り付け、これらの摩擦子に対する耐擦過性を調べた。具体的には、荷重1.1kgで、上記摩擦子による往復100回の摩擦運動をして、描線に生じた傷や剥離具合を目視で観察して評価した。評価は、往復10回毎に観察して評価したが、結果については、50回と100回の時点における結果を記載した。評価結果を、実施例については表3に、比較例については表4に、まとめて示した。
具体的には、以下の規準で評価した。無傷或いは、評価が3の30%の欠損迄を実用レベルと評価した。総合評価として、4〜6が1つでもある場合を×、4〜6の評価が1つもないが、3の評価が1つでもある場合を△、3〜6の評価が1つもない場合を○とした。
(評価基準)
◎:無傷
1:1〜5%欠損
2:6〜10%欠損
3:11〜30%欠損
4:31〜60%欠損
5:61〜99%欠損
6:100%欠損
<書き味>
試験用に、実施例及び比較例の各水性顔料インキ組成物をそれぞれ、繊維束の芯を有するペン体に詰めたペンを用意した。そして、このペンを用いて、PETフィルム上に描線を書き、その際の書き味について得た感覚を、1〜5の5段階で相対評価した。書き味の評価は、異なる5人でそれぞれ行い、表3及び表4中に、最も多くの人が付けた点数を評価結果として示した。その結果、表3及び表4に示されているように、インキ組成物の粘度の低いものは書き味がよく、粘度の高いものは書き味が劣ると評価される傾向があることが確認された。このことは、形成した画像(描線)の耐擦過性が同じであれば、より粘度の低いインキを設計することで、筆記具として重要な、書き味がより優れたものになることを意味している。
Figure 2019014769
Figure 2019014769
参考として、水性又は油性の各種の市販品の筆記用のペンについて上記と同様の耐擦過性試験を行い、同様の方法で評価して本発明の実施例のペンと比較した。
<参考例1>
市販品の水性の中綿式のペンであるプロッキー(商品名、三菱鉛筆社製)を用いてPETフィルム上に描線を書き、実施例で行ったと同様にして、描線の耐擦過性を評価した。その結果、いずれの条件でも、参考例1の市販の水性ペンは、往復摩擦で3回もたずにフィルム上の描線は剥離した。
<参考例2>
市販品の油性の中綿式のペンであるマッキー(登録商標、ゼブラ社製)を用いて、参考例1と同様に、PETフィルム上に描線を書き、実施例で行ったと同様にして描線の耐擦過性を評価した。その結果、いずれの条件でも、参考例2の市販の油性ペンは、往復摩擦で3回程度から傷がつきはじめ、20回程度でフィルム上の描線は剥離した。
<参考例3>
市販品の油性の中綿式のペンであるedding(登録商標、edding社製)を用いて、参考例1と同様に、PETフィルム上に描線を書き、実施例で行ったと同様にして描線の耐擦過性を評価した。その結果、いずれの条件でも、参考例3の市販の油性ペンは、往復摩擦で3回程度から傷がつきはじめ、20回程度でフィルム上の描線は剥離した。
<参考例4>
直液式のペンである水性ペイントマーカー(三菱鉛筆社製)を用いてPETフィルム上に描線を書き、参考例1と同様に、PETフィルム上に描線を書き、実施例で行ったと同様にして描線の耐擦過性を評価した。その結果、いずれの条件でも、参考例4の市販の直液式の水性ペンは、往復摩擦で3回もたずにフィルム上の描線は剥離した。
<参考例5>
直液式のペンである油性ペイントマーカー(三菱鉛筆社製)を用いて、参考例1と同様に、PETフィルム上に描線を書き、実施例で行ったと同様にして描線の耐擦過性を評価した。その結果、いずれの条件でも、参考例5の市販の直液式の油性ペンは、往復摩擦20回程度でフィルム上の描線は剥離した。
参考例1〜5のペンの評価結果を表5にまとめて記載した。なお、参考例で使用したペンはいずれも市販品であり、充填されたインキの粘度を測定することができなかった。
Figure 2019014769

Claims (6)

  1. 顔料、水、分散樹脂、シリコーン系樹脂エマルジョン及びそれ以外の樹脂エマルジョンを含有してなる筆記具用の水性顔料インキ組成物であって、
    前記シリコーン系樹脂エマルジョンと、前記それ以外の樹脂エマルジョンとが、その固形分の質量比が、シリコーン系樹脂エマルジョン/それ以外の樹脂エマルジョン=0.1〜0.8の範囲内となる量で併用されており、且つ、
    円錐平板型回転粘度計で、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が、2.0mPa・sを超えて8mPa・s以下であることを特徴とする筆記具用の水性顔料インキ組成物。
  2. 前記それ以外の樹脂エマルジョンが、ポリウレタン系樹脂エマルジョン又はアクリル系樹脂エマルジョンの少なくともいずれかであって、且つ、その粘度が10〜3000mPa・sである請求項1に記載の水性顔料インキ組成物。
  3. 前記それ以外の樹脂エマルジョンの含有量が、固形分換算で、2〜18質量%であり、且つ、前記シリコーン系樹脂エマルジョンの含有量が、固形分換算で、1〜5質量%である請求項1又は2に記載の水性顔料インキ組成物。
  4. 前記顔料の含有量が、5〜15質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性顔料インキ組成物。
  5. 前記顔料及び前記分散樹脂が、円錐平板型回転粘度計を用いて、25℃、50rpmの条件において測定したときの粘度が2〜5mPa・sである、顔料と分散樹脂とを含んでなる顔料分散液で含有されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性顔料インキ組成物。
  6. インキ貯蔵部材に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の筆記具用の水性顔料インキ組成物が充填されていることを特徴とする中綿式サインペン。
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