JP2019011403A - 筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具 - Google Patents

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Abstract

【課題】インキ漏れを抑制し、筆跡カスレを抑制することで筆記性を良好とした筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具の提供。【解決手段】着色剤、有機溶剤、環状リン化合物を含んでなり、前記環状リン化合物が一般式(化1)である筆記具用インキ組成物。前記環状リン化合物の重量平均分子量が、30000以下であり、インキ組成物全量に対して、5.0〜25.0質量%であり、さらに、界面活性剤を含有する筆記具用インキ組成物。好ましくは、更に界面活性剤を含有する、筆記具用インキ組成物。【選択図】なし

Description

本発明は筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
従来、筆記具用インキ組成物において、ボールペンの場合には、筆記先端部の間隙よりインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙よりインキ漏れ)や、マーキングペン、サインペンなどの場合には、筆記先端部からのインキ漏れを抑制するために、25℃での蒸気圧が0.001mmHg以上である溶剤を用いたり、インキ漏れ抑制剤として、シリカやテルペンフェノール樹脂を用いたり、ゲル化剤を用いてインキ粘度を高く設定した、筆記具用インキ組成物の技術が提案されている。
このような筆記具用インキ組成物として、25℃での蒸気圧が0.001mmHg以上であるアルコール、多価アルコール、グリコールエーテル溶剤を用いた技術としては、特開2004−107591号公報「筆記具用油性インキ組成物」や、インキ漏れ抑制剤を用いた技術として、一次平均粒子径7〜40nmのシリカを用いた特開平10−195365号公報「ボールペン用油性インキ」や、OH価が150以上であるテルペンフェノール樹脂を用いた技術としては、特開2007−126528号公報「ボールペン用油性インキ」に開示されている。
「特開2004−107591号公報」 「特開平10−195365号公報」 「特開2007−126528号公報」
しかし、特許文献1では、ある程度インキ漏れを抑制する効果はあるが、インキ粘度を低粘度化した場合には特許文献1で用いている溶剤だけでは、インキ漏れを十分抑制できなかった。また、特許文献2では、一次平均粒子径7〜40nmのシリカでは、粒径が小さく、シリカの比重が大きいため、油性インキ中での分散安定性が劣ってしまい、特許文献3では、OH価が150以上であるテルペンフェノール樹脂では、OH価が多いため、油性インキ中での溶解性が悪く、それぞれ十分な効果を発揮できなかった。
本発明の目的は、インキ漏れを抑制し、筆記性を良好とすることが可能な筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、環状リン化合物を含んでなり、前記環状リン化合物が下記一般式(化1)であることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
Figure 2019011403

2.前記環状リン化合物の重量平均分子量が、30000以下であることを特徴とする第1項に記載の筆記具用インキ組成物。
3.前記環状リン化合物の含有量が、インキ組成物全量に対して、5.0〜25.0質量%であることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用インキ組成物。
4.前記筆記具用インキ組成物に、界面活性剤を含有することを特徴とする第1項〜第3項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
5.第1項〜第4項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物が収容されてなることを特徴とする筆記具。
6.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
本発明は、下記一般式(化1)の環状リン化合物を含んでなることで、筆記先端部が乾燥した時に、筆記先端部で局部的にインキが増粘し、筆記先端部のインキ流動性を下げ、筆記先端隙間部の表面乾燥時間をかせぐことでインキ漏れ(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制し、また筆跡カスレを抑制することで筆記性を良好とすることが可能な筆記具用インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
Figure 2019011403
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、筆記具用水性インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
本発明の特徴は、筆記具用インキ組成物に、一般式(化1)の環状リン化合物を含んでなることを特徴とする。
(環状リン化合物)
本発明では、筆記具用インキ組成物に、下記一般式(化1)の環状リン化合物を含んでなることで、インキ粘度を増粘させ、インキ漏れを抑制することが可能であることが解った。これは、筆記先端部が乾燥した時に、筆記先端部で局部的にインキが増粘し筆記先端部のインキ流動性を下げ、筆記先端隙間部の表面乾燥時間をかせぐことでインキ漏れ(ボールペンの場合はボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制するためである。特に、下記一般式(化1)の環状リン化合物は、油性インキ組成物とすると、インキ漏れを抑制する効果が得られ、好適である。
Figure 2019011403
本発明で用いる環状リン化合物は、リン元素を含んだ環状構造を有する化合物であるが、前記環状リン化合物の重合体によって、インキ中でインキ粘度を増粘させ、さらに、筆記先端部が乾燥した時、筆記先端部で局部的にインキ増粘させることで、筆記先端部からのインキ漏れを抑制することが可能である。さらに、前記環状リン化合物は、筆記先端部の金属材などと親和性があるため、金属表面に対してインキが濡れやすくなり、どの筆記方向から筆記しても、筆跡カスレを抑制することで筆記性を良好とすることが可能である。特にボールペンの場合は、金属材のボール表面にインキが載りやすく、筆跡カスレを抑制しやすいため好ましい。
さらに、一般式(化1)の環状リン化合物は、金属材に対して防錆効果も働き、本発明では好適に用いることができるため好ましい。これは、筆記具部材のボールペンチップ本体、インキ収容筒などに、ステンレス、ブラス、洋白材などの金属材を用いた場合、防錆効果を奏する。特に金属材の中でも、洋白材を用いた場合は、効果的である。
前記環状リン化合物の重量平均分子量は30000以下が好ましい。これは、前記重量平均分子量30000を越えると、インキ中で溶解安定しづらいため、本発明の効果が得られづらい。より上記効果を考慮すれば、重量平均分子量は20000以下が好ましい。
前記環状リン化合物の含有量は、インキ組成物全量に対し、5.0〜25.0質量%が好ましい。これは、5.0質量%より少ないと、インキ漏れを抑制しづらく、25.0質量%を越えると、溶解安定性に影響が出やすいためである。さらに、上記効果を考慮すれば、10.0〜25.0質量%が好ましく、より考慮すれば、15.0〜20.0質量%が好ましい。
本発明の筆記具用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、一般式(化1)の環状リン化合物を用いる場合、20℃、剪断速度5sec−1(静止時)におけるインキ粘度が25000mPa・sを越えると、書き出し性能、書き味、インキ追従性能が劣りやすいため、20℃、剪断速度5sec−1(静止時)におけるインキ粘度は、25000mPa・s以下であることが好ましい。また、より書き出し性能、インキ追従性能をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は8000〜25000mPa・sがより好ましく、さらに、より考慮すれば、10000〜20000mPa・sが好ましい。また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、インキ漏れ抑制をより考慮する必要があるため、13000〜20000mPa・sが好ましい。
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料としては、一般式(化1)の環状リン化合物との相性による経時安定性を考慮して、少なくとも造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料との塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましい。染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB−B、BASE OF BASIC DYES RO6G−B、BASE OF BASIC DYES VPB−B、BASE OF BASIC DYES VB−B、BASE OF BASIC DYES MVB−3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C−RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C−RH、アイゼンスピロンレッド C−GH、アイゼンスピロンレッド C−BH、アイゼンスピロンイエロー C−GNH、アイゼンスピロンイエロー C−2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH−スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C−BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、5.0〜30.0質量%が好ましい。これは5.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中での溶解性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7.0〜25.0質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10.0〜25.0質量%である。
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
これらの有機溶剤の中でも、一般式(化1)の環状リン化合物との溶解性を考慮すれば、非水溶性有機溶剤を用いて、筆記具用インキ組成物とすることが好ましく、特に、筆記具用油性インキ組成物で、溶解安定させることで、インキ漏れを抑制し、書き出し性能も向上する効果が得られやすいため、好ましい。
その中でも、グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。これは、グリコールエーテル溶剤を用いると、吸湿しやすいため、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、書き出し性能も向上しやすいためであり、前記環状リン化合物と併用するとより効果的で、インキ中での安定性を考慮すれば、芳香族グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。さらに、グリコールエーテル溶剤以外の有機溶剤については、アルコール溶剤を用いることが好ましいが、これは、アルコ−ル溶剤は揮発して、チップ先端での乾燥をしやすく、一般式(化1)の環状リン化合物を含有することで、筆記先端部内(チップ先端部内)をより早く増粘させることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制して、インキ漏れ抑制性能を向上するためで、好ましい。さらに、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコ−ルは、潤滑性を向上する効果もあるため、少なくとも用いる方が好ましい。
また、有機溶剤については、アルコール溶剤のインキ組成物全量に対する含有量をX、グリコールエーテル溶剤のインキ組成物全量に対する含有量をYとした場合、0.01≦X/Y≦3の関係であることが好ましい。これは、アルコール溶剤が多すぎると、書き出し性能に影響しやすいため、X/Y≦3が好ましく、一方、グリコールエーテル溶剤が多すぎても、水分を吸湿し過ぎて、樹脂被膜が柔らかくなりインキ垂れ下がり性能や、インキ経時安定性にも影響しやすいため、0.01≦X/Yが好ましいためである。さらに、より書き出し性能を向上することを考慮すれば、0.1≦X/Y≦2が好ましい。
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10.0〜90.0質量%が好ましく、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、20.0〜90.0質量%が好ましく、より好ましくは40.0〜70.0質量%である。
(樹脂)
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でもケトン樹脂を含んでなることが好ましい。これは、インキ漏れ抑制効果をより向上しやすいためである。また、ケトン樹脂は、一般式(化1)の環状リン化合物とケトン樹脂とを併用することで、インキ漏れ抑制効果の他に、さらに、泣きボテを抑制する効果もあるためである。
前記樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、1.0質量%より少ないと、樹脂被膜形成量が足りないおそれがあり、インキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1.0〜40.0質量%が好ましい。さらに、インキ漏れ抑制性能を考慮すれば5.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味、書き出し性能に影響する傾向があるため、5.0〜30.0質量%が好ましい。
ケトン樹脂などインキ粘度調整剤以外の樹脂としては、曳糸性付与剤を適宜用いてもよい。特に、ポリビニルピロリドン樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキの発生を抑制しやすいため、ポリビニルピロリドン樹脂を含有することが好ましい。前記ポリビニルピロリドン樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01質量%より少ないと、余剰インキの発生を抑制しにくい傾向があるため、3.0質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすい傾向があるため、インキ組成物全量に対し、0.01〜3.0質量%が好ましい。より上記理由を考慮すれば、0.1〜2.0質量%が好ましい。具体的には、アイエスピー・ジャパン(株)製の商品名;PVP K−15、PVP K−30、PVP K−90、PVP K−120などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
(界面活性剤)
本発明のように環状リン化合物や樹脂を用いる場合は、筆記先端部で形成した被膜による書き出し性能を考慮して、界面活性剤を用いることが好ましく、その中でも、より考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸を用いることが好ましい。これは、リン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸を用いると、形成される被膜を軟化する傾向があり、書き出し性能を改良できることがある。その中でも、リン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸のアルキル基に含まれる炭素数が10〜20であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が12〜18であることがより好ましい。さらに、高筆圧下(300〜500gf)での潤滑性(高荷重性能)を考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい、これは、ボールペンの場合は、高筆圧下(300〜500gf)においてもボールとチップ本体との間の潤滑性を向上して、ボール座の摩耗を抑制し、カスレなどのない良好な筆跡としやすいため、本発明ではより好適に用いることが可能である。
リン酸エステル系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられ、前記リン酸エステル系界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系などが挙げられる。脂肪酸としては、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸などが挙げられ、これらのリン酸エステル系界面活性剤または脂肪酸は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。その中でも、高筆圧下(300〜500gf)での潤滑性(高荷重性能)を考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、特に、アルキル基に含まれる炭素数が5〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が10〜18であることがより好ましく、より考慮すれば、前記炭素数12〜18が好ましい。アルキル基の炭素数が過度に少ないと、潤滑性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、インキ経時安定性に影響が出やすい傾向があるので注意が必要である。
リン酸エステル系界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3〜3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5〜3.0質量%が、最も好ましい。
リン酸エステル系界面活性剤の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA217E(アルキル基:炭素数14、酸価:45〜58)、同A219B(アルキル基:炭素数12、酸価:44〜58)、同A215C(アルキル基:炭素数12、酸価:80〜95)、同A208B(アルキル基:炭素数12、酸価:135〜155)、同A208N(アルキル基:炭素数12と13の混合物、酸価:160〜185)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)の中から、フォスファノールRB−410(アルキル基:炭素数18、酸価:80〜90)、同RS−610(アルキル基:炭素数13、酸価:75〜90)、同RS−710(アルキル基:炭素数13、酸価:55〜75)等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独又は2種以上混合して使用してもよい。
(有機アミン)
本発明では、インキ中でのインキ成分の安定性を考慮すれば、有機アミンを用いることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましい。特にリン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、中和することで、インキ中で安定することで、書き出し性能や書き味を向上する効果が得られやすいため、好ましい。
また、前記有機アミンとインキ中の他成分との反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなるので、インキ経時安定性を考慮して、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
有機アミンについては、具体的には、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンとしては、具体的には、ナイミーンL−201(全アミン価:232〜246、2級アミン)、同L−202(全アミン価:192〜212、3級アミン)、同L−207(全アミン価:107〜119、3級アミン)、同S−202(全アミン価:152〜166、3級アミン)、同S−204(全アミン価:120〜134、3級アミン)、同S−210(全アミン価:75〜85、3級アミン)、同DT−203(全アミン価:227〜247、3級アミン)、同DT−208(全アミン価:146〜180、3級アミン)(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。アルキルアミンとしては、具体的には、ファーミン80(全アミン価:204〜210、1級アミン)、ファーミンD86(全アミン価:110〜119、2級アミン)、ファーミンDM2098(全アミン価:254〜265、3級アミン)、ファーミンDM8680(全アミン価:186〜197、3級アミン)(花王(株))、ニッサン3級アミンBB(全アミン価:243〜263、3級アミン)、同FB(全アミン価:230〜250、3級アミン)(日本油脂(株)社製)等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
前記有機アミンの含有量は、前記造塩染料やその他の成分との安定性を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、さらに後に説明するリン酸エステル系界面活性剤に対する中和を考慮すれば、0.2〜5.0質量%が好ましい。
また、本発明による筆記具用インキ組成物には、その他の添加剤として、潤滑性やインキ経時安定性を向上させるために、(i)界面活性剤、例えばフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、脂肪酸アルカノールアミド、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤や、陰イオン性界面活性剤および/または陽イオン性界面活性剤の造塩体を、(ii)粘度調整剤、例えば脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤、また、(iii)着色剤安定剤、(iv)可塑剤、(v)キレート剤、または(vi)助溶剤としての水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
また、ボ−ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、書き味や切削等の加工性を考慮すれば洋白製のチップ本体が好ましく、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
実施例1
実施例1の筆記具用インキ組成物は、着色剤として染料、有機溶剤としてベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、環状リン化合物、ケトン樹脂、界面活性剤としてリン酸エステル系界面活性剤、有機アミンとしてオキシエチレンアルキルアミン、曳糸性付与剤としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
実施例1(インキ配合)
着色剤(染料、酸性染料と塩基性染料との造塩染料) 15.0質量%
着色剤(染料、油溶性染料) 10.0質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 32.4質量%
有機溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)21.6質量%
環状リン化合物(化1) 10.0質量%
界面活性剤(リン酸エステル系界面活性剤) 2.0質量%
有機アミン(オキシエチレンアルキルアミン) 1.0質量%
ケトン樹脂 7.5質量%
曳糸性付与剤(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.5質量%
実施例2〜4
表1に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配実施例2〜4の筆記具用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
比較例1〜4
表に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1〜4の筆記具用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
Figure 2019011403
試験および評価
実施例1〜4および比較例1〜4で作製した筆記具用インキ組成物(0.27g)を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(金属製)を装着した筆記具用レフィルに充填し、筆記具を作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
インキ漏れ抑制試験:30℃、85%RHの環境下にペン先下向きで7日放置し、チップ先端からのインキ漏れを確認した。
チップ先端のインキ滴がないもの ・・・◎
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以内のもの ・・・○
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/4以上、1/2以内のもの・・・△
チップ先端のインキ滴がテーパー部の1/2以上のもの ・・・×
筆記性能試験:手書き筆記した後、筆跡状態を目視にて観察した。
カスレが生じなかった ・・・◎
カスレが生じたが、実用上問題のないレベルであった・・・○
カスレが生じ、実用上懸念が残るレベルであった ・・・×
腐食試験:実施例、比較例の筆記具用インキ組成物に、金属製(洋白材)のボールペンチップを80℃、3日間浸し、ボールペンチップの腐食状態を顕微鏡にて観察した。
金属光沢性があり、変色がないまたは、変色がほとんどないもの ・・・○
金属光沢性がなく、変色があるもの ・・・×
実施例1〜4では、インキ漏れ抑制試験、筆記性能試験、腐食試験ともに良好な性能が得られた。
尚、インキ粘度については、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP−52スピンドルを使用して、インキ粘度を測定したところ、20℃の環境下、剪断速度5sec−1、実施例1のインキ粘度=10000mPa・s、実施例2のインキ粘度=15000mPa・sであった。
比較例1〜3では、環状リン化合物を用いなかったため、インキ漏れ抑制性能、腐食試験が劣ってしまった。
比較例4では、剪断減粘性付与剤として、脂肪酸アマイドワックスを添加してインキ粘度を上げたが、環状リン化合物を用いなかったため、インキ漏れ抑制性能、腐食試験が劣ってしまった。
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具(出没式ボールペン)を用いた場合では、インキ漏れ抑制性能が最も重要な性能の1つであるため、本発明のように筆記先端部の間隙からインキ漏れ(ボールとチップ先端の間隙からのインキ漏れ)を抑制して、インキ漏れ抑制性能が良好とすることが可能である本発明のような環状リン化合物を含んだ筆記具用インキ組成物を用いると効果的である。
本発明のように、インキ漏れ抑制を向上するためには、ボールペンの場合、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
また、本実施例では、便宜上、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容した筆記具用レフィルを収容した筆記具を例示しているが、本発明の筆記具は、軸筒をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、筆記具であってもよい。また、本実施例では便宜上、線材を切削によって形成したボールペンチップを例示しているが、パイプ材を押圧加工によって形成するボールペンチップであってもよい。
また、本実施例では、インキ収容筒内に筆記具用インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した筆記具を例示したが、本発明の筆記具は、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容した直詰め式の筆記具であっても良く、インキ収容筒内に筆記具用インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
本発明は、筆記具として利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の筆記具やボールペンとして広く利用することができる。

Claims (6)

  1. 着色剤、有機溶剤、環状リン化合物を含んでなり、前記環状リン化合物が下記一般式(化1)であることを特徴とする筆記具用インキ組成物。
    Figure 2019011403
  2. 前記環状リン化合物の重量平均分子量が、30000以下であることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用インキ組成物。
  3. 前記環状リン化合物の含有量が、インキ組成物全量に対して、5.0〜25.0質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用インキ組成物。
  4. 前記筆記具用インキ組成物に、界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物が収容されてなることを特徴とする筆記具。
  6. インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。
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