本願で開示する蓋体は、被調理物が配置される調理空間の上方を開閉可能に覆う蓋体であって、蓋体本体と前記蓋体本体の上面を覆う上面プレートとを備え、音声情報を報知するスピーカーが、前記蓋体本体に、前記上面プレートに音声放出面を対向させて配置され、前記スピーカーの前端面と前記上面プレートの内側面との間に、平面視したときに前記スピーカーのコーン部面積よりも大きな面積を有する密閉された空間が形成されている。
このように構成することで、本願で開示する蓋体は、スピーカーのコーン部で生じた空気の振動が、スピーカー前面の空間内で反響してより大きな振動となる。このため、音声通過孔を有さない上面プレートを介した場合でも、スピーカーからの音声情報を、より高音質で、かつ、大きな音量でユーザに伝えることができる。
上記本願で開示する蓋体において、前記空間は、前記蓋体の左右方向いずれかの周辺部分に形成され、その外郭が不規則な形状で構成されていることが好ましい。このようにすることで、被調理物の中央上方の調理機器としての機能的構成が配置されることが多い部分を避けて空間を配置することかでき、蓋体の大きさや基本的な形状を維持したまま密閉された空間を形成することができる。
さらに、前記空間は、その外郭が不規則な形状で構成されていることが好ましい。このようにすることで、スピーカーによって空間内部での空気の振動が不所望に共振することを防止して、報知される音声の音質を維持してユーザに報知することができる。
また、本願で開示する加熱調理器は、上記本願にかかる蓋体と、前記調理空間に調理容器が配置される調理器本体とを備え、前記調理容器の周囲に配置された加熱手段によって前記調理容器内に収容された前記被調理物を調理する。
このように構成することで、本願で開示する加熱調理器は、被調理物を収容する調理容器の上方を覆う蓋体として、上記本願で開示する特徴ある蓋体を備えている。このような本願で開示する加熱調理器においても、スピーカーのコーン部で生じた空気の振動がスピーカー前面の空間内で反響してより大きな振動となり、音声通過孔を有さない上面プレートを介した場合でも、スピーカーからの音声情報を、より高音質で、かつ、大きな音量でユーザに伝えることができる。
さらに、本願で開示する炊飯器は、上記本願にかかる蓋体と、被炊飯物を入れる内鍋と、前記内鍋を取り出し可能に収容する内鍋収容部を有する炊飯器本体と、前記内鍋を加熱する加熱手段と、前記加熱手段を制御する制御手段とを備え、前記蓋体が前記内鍋収容部を開閉可能に覆う。
このように構成することで、本願で開示する炊飯器は、内鍋収容部を覆う蓋体として、上記本願で開示する特徴ある構成を備えた蓋体を備えている。このような本願で開示する炊飯器では、スピーカーのコーン部で生じた空気の振動が、スピーカー前面の空間内で反響してより大きな振動となり、音声通過孔を有さない上面プレートを介した場合でも、スピーカーからの音声情報を、より高音質で、かつ、大きな音量でユーザに伝えることができる。
以下、本願で開示する蓋体について、この蓋体を備えた炊飯器を例示して具体的に説明する。
(実施の形態)
本実施形態にかかる炊飯器は、内鍋が非金属製の土鍋釜であり、内鍋内部の圧力を圧力弁により調節して圧力炊飯を行うものである。
図1は、本実施形態の炊飯器の外観を示す斜視図である。また、図2は、本実施形態の炊飯器の断面構成を示す垂直方向断面図である。
図1および図2に示すように、本実施形態の炊飯器は、米と水、さらに、具入り炊飯モードでは野菜や豆類、肉類などの各種の具材である被炊飯物を入れる内鍋30と、この内鍋30を内鍋収容部20aに収容することができる炊飯器本体20と、炊飯器本体20の内鍋収容部20aを開閉可能に覆う蓋体10とを有している。なお、図1、および、図2は、いずれも内鍋収容部20aを覆う蓋体10が閉じた状態を示している。
本実施形態で例示する炊飯器では、蓋体10は、上面に配置された板状の上面プレート10aと、この上面プレート10aで上方を覆われた、内鍋収容部20aの上部開口を覆うと共に後述する各機能を果たす部材が配置された蓋体本体10bとを有している。
蓋体10には、ユーザが炊飯器に各種設定を与えるための各種の操作ボタン11と、操作ボタン11による操作状況や炊飯器の動作状態等を表示するための液晶パネルその他の画像表示パネルにより形成された表示部12が配置されている。操作ボタン11は、炊飯ボタン、保温ボタンなどの動作を指示するボタンと、白米炊飯モードや具入り炊飯モードなどの調理メニューを選択したり、保温時間やタイマーを設定したりするメニューボタン、さらには音声ガイドを開始させるための音声ガイドボタンなどの各種のボタンを含む。また、図示は省略するが、操作ボタン11の上面にLEDランプが配置されてそのボタンが表す機能が有効に動作していることを表示するものなど、各種の形態の操作スイッチを操作ボタン11として採用することができる。
蓋体10には、蓋体10が閉じた状態で内鍋30内部の圧力を所定の圧力に調整可能な、圧力調整手段である圧力弁14が配置されている。
図2では、本実施形態の炊飯器の圧力弁14として、一例であるボール状圧力弁を図示している。なお、図2では、切断面の関係から一つのボール状圧力弁14しか示されていないが、本実施形態にかかる炊飯器は、重さの異なる2種類のボール状圧力弁とこれらの圧力弁の動作を規制する規制手段を備えていて、内鍋内部の気圧を、最も気圧の高い高圧状態と、高圧状態よりは低く大気圧よりは高い気圧である低圧状態、大気圧の状態の3種類の圧力状態とすることができる。
なお、圧力調整手段として圧力弁を用いる場合には、弁の数や形状は上記説明したものに限られず、円板や矩形板などの板状の圧力弁など他の形状の圧力弁を1つ、2つ、もしくは、3つ以上用いるなど、さまざまな形態を採ることができる。さらに、圧力調整手段としては、弁を用いる以外にも、例えば、内鍋内部の圧力を測定する圧力センサと、この圧力センサで検出される圧力の値に基づいて適宜開閉動作を行う、ピエゾ素子などの電動素子または機械的開閉手段を用いた通気口を用いるなど、さまざまな形態が考えられる。
内鍋30内部の圧力が所定値より高いために圧力弁14が開放された場合は、内鍋30内部で発生した蒸気が、蓋体10の上面に形成された調圧キャップ13を経由して、調圧キャップ13に形成された蒸気放出口13aを介して外部に放出される。調圧キャップ13は、内鍋30方向に向かう経路15に接続されているため、調圧キャップ13内で気液分離した「おねば」は、内鍋30内に戻されるようになっている。
蓋体10の上面における手前側中央部分には、ロックボタン16が設けられ、蓋体10が閉じている状態でロックボタン16を押し込むと、蓋体10のロックが外れ、図示しないバネ機構により蓋体10全体が図1における後方(奥)側に開くようになっている。
本実施形態にかかる炊飯器では、蓋体10の左右方向の周辺部である、上述した調圧キャップ13の右側の領域に、ユーザに音声情報を伝達するスピーカー40が配置されている。スピーカー40は、蓋体10を構成する蓋体本体10bに、音声放出面であるコーン部を上方に向けて配置されていて、このスピーカー40が配置されている部分近傍の蓋体本体10bの上面に凹みが形成されることで、スピーカー40の前端面と上面プレート10aとの間には、上面プレート10aと蓋体本体10bとで全体を囲まれた密閉された空間41が形成されている。なお、スピーカー40と空間41の詳細については、図3等を用いて後述する。
図2に示すように、蓋体10内部の表示部12の下側に位置する部分に、各種操作ボタン類11に接続された動作回路と、表示部12での表示画像を出力する駆動回路などが含まれた回路部17が配置されている。また、本実施形態の炊飯器において、ユーザにより設定された炊飯モードに従って炊飯プログラムの制御を行う、制御回路が搭載された制御手段であるマイコン(図示省略)も、回路部17を構成する回路基板上に搭載されている。
本実施形態の炊飯器では、回路部17に配置されたマイコンに含まれた制御回路が、後述する温度センサからの出力に基づいて加熱手段23(23a、23b、23c)への通電を制御して、内鍋30の温度制御を行うとともに、前記した圧力調整手段である圧力弁14を制御して、内鍋30内部の圧力を所定の値に調整する。また、スピーカー40を用いてユーザに伝達される音声情報を形成する信号発生部も、回路部17の回路基板上に搭載されている。
なお、加熱手段と圧力調整手段を制御する制御回路が搭載されたマイコンが、表示部12の下側の回路部17に配置されていることは一例に過ぎない。加熱手段の調整と圧力調整手段の調整とが、それぞれ別の回路基板上に搭載された電気回路で行われる場合もあり、また、加熱手段と圧力調整手段とを制御する制御回路が、蓋体10内の表示部12の下部ではなく、例えば炊飯器本体20内部に配置された回路基板上に形成される場合もある。同様に、音声情報を生成する信号発生部も、回路部17の回路基板上に配置されている場合に限られず、スピーカー40の配置位置である蓋体10の側方周辺部のやや後方側に近い部分の蓋体本体10bに配置する構成を採用することができる。
蓋体10は、炊飯器本体20の背面側上部に配置されたヒンジ機構21により炊飯器本体に対して回動することで、内鍋収容部20aを開閉することができる。そして、蓋体10が閉じられたとき、ロックボタン16に連動する図2では図示しないロック機構により、蓋体10が炊飯器本体20の上面にしっかりと押しつけられた状態で固定される。
蓋体10と炊飯器本体20とがしっかりと押しつけられた状態で固定された際、蓋体10の内側表面に配置されたパッキン材18が、内鍋30の内側面30aの上端部近傍と内鍋30の上端面部分30bとに当接して、蓋体10は、内鍋30の上部開口を気密状態で封鎖することができる。本実施形態の炊飯器では、内鍋30は、内鍋収容部20aの底部に配置された弾性支持機構22によって蓋体10側に付勢されているため、気密状態を確実に維持することができ、内鍋30内部を例えば1.25気圧などの所定の高圧状態とすることができる。
炊飯器本体20の内鍋収容部20aの底面と側面とを構成する周囲部分には、加熱手段23としての第1のワークコイル23a、第2のワークコイル23b、加熱ヒータ23cが設けられている。
第1のワークコイル23aは、内鍋30の底面31に面して内鍋収容部20aの底面に配置されている。内鍋収容部20aの底面中央には、内鍋30の底面中央部の温度を検出する温度センサであるセンターセンサ24が配置されているため、第1のワークコイル23aは、平面視すると中央に穴の開いた円環(ドーナツ)状になっている。
第2のワークコイル23bは、内鍋30の底面31と側面32との境界に位置する傾斜部分33に対向するように配置されている。第2のワークコイル23bも第1のワークコイル23aと同様に円環状となっている。
これら第1のワークコイル23a、第2のワークコイル23bは、いわゆる高周波コイルであり、コイルに流れる電流により渦電流が生じて誘導加熱が起きるように、内鍋30の第1のワークコイル23a、第2のワークコイル23bに対向する部分の外面側に、図示しない発熱体が配置されている。発熱体は、銀もしくはステンレスなどの金属薄膜がコーティングされたもの、もしくは、金属箔が転写されたものなどとして非金属製の内鍋30の表面に形成されている。そして、第1のワークコイル23a、第2のワークコイル23bに電流を流すことによって発熱体が発熱し、この発熱体の発熱が非金属製の内鍋30全体の温度を上昇させる。
なお、本実施形態では、発熱体が内鍋30の外表面の、ワークコイル23a、23bに対向する部分に形成された例を示したが、発熱体はワークコイル23からの誘導起電力により発熱して非金属製の内鍋30の温度を上昇させることができる、いずれの位置に配置することもできる。
内鍋30の側面32に対向する内鍋収容部20aの側壁部分には、側面ヒータ23cが配置されている。この側面ヒータ23cは、電流が流れることにより発熱してその輻射熱で内鍋を温めるものであり、炊飯工程後の保温工程において内鍋30を保温するために使用される。また、炊飯時に、側面ヒータ23cを第1のワークコイル23aおよび第2のワークコイル23bとともに、内鍋30の加熱に使用することができる。
本実施形態の炊飯器では、これら第1のワークコイル23a、第2のワークコイル23b、側面ヒータ23cが加熱手段23を構成しており、蓋体10の回路部17のマイコンに搭載された制御手段により、それぞれに流れる電流量が制御されることで、加熱手段23のオンとオフ、また、オンの場合の発熱量の制御が行われる。なお、加熱手段23として、上記の第1のワークコイル23a、第2のワークコイル23b、側面ヒータ23cの他にも、内鍋収容部20aの周囲の他の部分や蓋体10の内部に、加熱のためのコイルやヒータなどを配置することも可能である。
また、本実施形態の炊飯器では、内鍋収容部20aの底部、具体的には、内鍋30の底面31から傾斜部分33にかかる部分と対向する位置に配置された保護枠として、内鍋30と同様のセラミックスなどの非金属材料により構成される、かまど部材25が配置されている。このように、発熱体が配置されている内鍋30の部分に対向する位置の内鍋収容部20aに、非金属製の保護枠であるかまど部材25を配置することで、この保護枠部分を樹脂で構成する場合よりも耐熱性が向上する。このため、内鍋30の最高温度としてより高い温度を許容することができ、非金属製の内鍋30の蓄熱効果をより強く発揮させることができる。この結果、さらにおいしいお米を炊くことができる。
炊飯器本体20の背面側に配置されたヒンジ機構21の下部には、炊飯器に電力を供給するために商用電源に接続される、図1に示した電源プラグ26に接続された電源コードを収納するコードリール27などが配置されている。
本実施形態の炊飯器に用いられている内鍋30は、基体が焼き物であるいわゆる土鍋であり、基体部分はコーディエライト系の材料で形成されていて、成分としてSiO2を含んでいる。この基体部分の両面にリチア系の釉薬が塗布され、外表面には発熱体である銀ペーストがコーティングされている。また、内表面には、アルミ溶射膜を介してフッ素コーティングが施されている。なお、上記内鍋の構成は例示であり、本実施形態の炊飯器として用いられる非金属製の内鍋としては、セラミックやガラス素材などの非金属製鍋、また、アルミやステンレスの金属層にセラミックや中空ガラスビーズなどの非金属部材の層をコーティングした内鍋などを好適に用いることができる。さらに、内鍋として、従来周知の銅やアルミ、ステンレスなどの金属層により形成される金属製内鍋を用いることもできる。
また、本実施形態の炊飯器では、センターセンサ24以外にも、例えば蓋体10の内鍋収容部20aと対向する部分や、炊飯器本体20の内鍋30の側面32と対向する部分などに1または2以上の温度センサを配置することができる。本実施形態の炊飯器に用いられるセンターセンサ24をはじめとする各温度センサは、例えばサーミスタに代表される熱的電気素子を用いて構成される従来周知の温度センサを、そのまま用いることができる。また、上記したように、内鍋収容部20a内部の圧力を検出可能な圧力センサを配置し、内鍋30内部の圧力数値を制御手段が把握する構成とすることもできる。
なお、図1および図2を用いて説明した本実施形態の炊飯器の全体の形状や、各部材の具体的な構成や配置はあくまで一例に過ぎず、本発明にかかる炊飯器において、上記図1および図2に例示した構成とは異なるさまざまな構成を採用することができる。
次にユーザが、音声ガイドを行わせる音声ガイドボタン11を操作した場合の「音声ガイド」モード時において、音声情報をユーザに報知するスピーカーの配置構造について説明する。
本実施形態の炊飯器では、上述したように、上面プレート10aに操作ボタン類11と表示パネル12とが配置されている部分の下方の蓋体本体10bに制御回路を含んだ各種回路が搭載された回路部17が配置され、「音声ガイド」モードが選択された場合には、回路部17に搭載された信号発生部からの音声信号によって蓋体本体10bにその音声放出面を上方に向けて配置されたスピーカー40のコーン部を振動させて、ユーザに音声情報が報知される。
図3は、本実施形態にかかる炊飯器の、蓋体本体の構成を説明する斜視図である。
図3では、蓋体10から、上面を覆う筐体である上面プレート10aを取り除いた状態を示しており、蓋体本体10bの上面側の構成を確認することができる。
図3に示すように、蓋体10の蓋体本体10bには、蓋体10の表面で表示部12の周囲の操作ボタン11が配置される位置に、それぞれの操作ボタン11が挿入されるボタン収納部43が形成されている。また、蓋体10の後方側の調圧キャップ13が配置されている部分には、蒸気放出口13aに繋がる蒸気経路の上端部分42が配置されている。蓋体10のロックを解除するロックボタン16は、上面プレート10aに形成された開口を介して上方から操作しやすいように、蓋体本体10bの上面よりも突出して形成されている。
蓋体本体10bの後方側左右方向の周辺部分には、調圧キャップ13が配置される部分を挟んで、調圧キャップ13配置部分よりも低い位置に上面を形成することで周囲の部分よりも凹ませた2つの凹所44、45が形成されている。そして、右側の凹所44の前方寄りの部分には、円形の開口46が形成されていて、この開口46部分にコーン部40aを上方に向けてスピーカー40が配置されている。
図4は、スピーカーが配置された部分の蓋体本体の部分断面図を示す。図4は、図3にA−A線で示す部分の断面を表している。
図4に示すように、凹所44において、他の部分から低い位置に形成されて凹所44の底面を構成する蓋体10bの筐体47に開口46が形成され、スピーカー40は、この開口46を音声放出面であるコーン部40aが下側から塞ぐように上方に向けて配置され、コーン部40a、コイル部40b、マグネット40cを保持するスピーカー40の枠体40dが、筐体47にビス49で固着されている。
図4では図示されていない蓋体10の上面プレート10aは、図4における蓋体本体10bの上端部分に配置されて凹所41を覆う。このため、スピーカー40の前端面(図4における上方側の端部)と上面プレート40aの内側面(図4における下方側に向く面)との間には、凹所44のくぼみの深さと開口46の蓋体10を構成する筐体47の厚みとの和に相当する間隔hが形成されていることになる。
本実施形態の炊飯器では、炊飯器全体の上面を構成することとなる蓋体10の筐体である上面プレート10aには、上面にかかった水が炊飯器内部に侵入しないように、前述の蒸気放出口13aなど内鍋30の内部の空間と外部とを接続する必要がある部分以外には開口や孔などは形成されていない。また、凹所44の底面や側面を構成する部分の蓋体本体10bの筐体47にも、裏側がスピーカーで塞がれている開口46以外の開口や孔などは形成されていない。このため、スピーカー40から音声が放出される前方側に形成される、凹所44と上面プレート10aの内側面とで囲まれた空間41は密閉された空間となっている。
図4に示すように、この密閉された空間41は、平面視したときにスピーカー40のコーン部40aの面積よりも大きな面積を有している。なお、前述のように、スピーカー40は蓋体本体40bの筐体47に形成された開口46の裏側面に固着されているため、スピーカー40のコーン部40aの前方側の空間においてこの開口46の部分は、筐体47の厚みを有し、平面視したときにスピーカーのコーン部40aの面積とほぼ同じ空間48となる。この空間48も、蓋体10に形成されたスピーカー40の音声放出方向に形成された密閉された空間41の一部分を構成する。このように、本明細書において、スピーカー40の前方の空間41が、平面視したときにスピーカー40のコーン部40a面積よりも大きな面積を有するとは、空間41すべての水平方向断面における面積がコーン部の面積よりも大きなことを意味するのではなく、空間41に、平面視したときにコーン部の面積よりも大きな面積を有する部分が少なくとも存在するということを意味している。
上記の通り、本実施形態の炊飯器では、ユーザに対して音声情報を報知するスピーカーの音声放出面から前方側に、平面視したときの面積がスピーカーのコーン部面積よりも大きな密閉した空間が形成されている。このため、スピーカーのコーン部から上面プレートに向かって放射された音声は、空間内で反響して増幅され、蓋体の前面プレートを振動させてユーザに伝わる。結果、本実施形態にかかる炊飯器では、スピーカーからの音声を透過する音声透過孔が形成されていないにもかかわらず、ユーザに対して、高音質かつ大音量で音声情報を伝達することができる。特に、炊飯器においてユーザに対向する面となる蓋体の上面を構成する上面プレートを振動させて音声情報を発するため、炊飯器を載置している載置台の面や炊飯器を収納するキッチンストッカーの側面などに反射することなく、音声情報をダイレクトにユーザに伝えることができる。
発明者らは、スピーカーの前方に、平面視したときにスピーカーのコーン部面積よりも大きな面積を有する空間を設けた場合の効果について確認した。
具体的には、図3にその形状を示したように、蓋体本体10bに凹所44を形成して、スピーカー40の前方に、平面視したときにスピーカー40のコーン部40a面積よりも大きな面積の空間を設けた場合(実施例)と、蓋体本体10bに凹所を形成せずに、スピーカー40の前方の空間の平面視したときの面積が、スピーカー40のコーン部40a面積と同じである場合(比較例)とについて、上面プレート10aの外側に伝わる音声情報の大きさを比較測定した。なお、外部に伝わる音声情報の大きさは、同じ構造のスピーカーに同じ大きさの音声信号を印加したときに、炊飯器の前方1mの位置に配置した騒音計で測定される最大の音量値(dB)を測定した。また、比較例において、スピーカーの前端面と上面プレート10aの内側面との距離は、図3に示した高さhとほぼ同じとなるように設定した。
測定の結果、スピーカー前方の空間の面積が、スピーカーのコーン部面積よりも大きく形成された実施例の場合には、3回の測定による音量の平均値が65.1dBであったのに対し、スピーカー前方の空間の面積がコーン部面積と同じ比較例の場合には、3回の測定による音量の平均値が50.3dBであり、本実施形態にかかる炊飯器の方が、音量が増大していることが確認できた。
また、この比較測定実験において、スピーカー前方の空間の面積が大きい実施例の炊飯器の方が、比較例の炊飯器と比較して、より明瞭に音声情報が伝わることが確認できた。
なお、上述のように、本実施形態にかかる炊飯器では、スピーカー40からの音声が密閉された空間41内で反響して大きな振動となることで、上面パネル10aを介してユーザに伝わる音声情報の音質と音量とが向上する。このため、スピーカー40前方の空間41は、その容積が大きいほど高い効果が得られる。
図3に示すように、本実施形態の炊飯器では、スピーカー40の前方に形成される密閉された空間41を、炊飯器の蓋体10の左右方向の周辺部に配置し、かつ、空間41の外郭は、平面視したときに前方側では左右方向により広く、後方側では蓋体10の外形形状に沿って後方へ行くほど左右方向の幅が小さくなる形状となっている。また、図4に示すように、空間41の形状は、垂直方向(空間の高さ方向)においても、蓋体10の全体形状に沿うように、蓋体10の前後方向において略中央部分に位置する前側部分の高さが最も高く、後方側の部分の高さが徐々に低くなるように構成されている。
これは、蓋体10に配置される調圧のための機構やユーザが操作する操作ボタン11の配置位置など、機能的に必要な構成の配置部分を避けて空間41を構成した結果であり、蓋体10において必要な機能を果たす部分が配置されることが多い左右方向の中央部分ではなく、左右方向いずれかの周辺部分に空間41を形成することで、蓋体10の厚さや平面視したときの面積などを大きくすることなく、より大きな容積の空間41を蓋体本体41bに配置することができる。
また、本願発明者らは、空間41の外郭を構成する蓋体本体10bの上面に形成された凹所44の形状を、例えば直方体などの対向する面同士が完全に平行に配置され、かつ、その形状と面積とが等しいような規則正しい形状とすると、空間41内部の空気の振動が特定の周波数で共振してしまい、音声情報の一部が歪んでしまって聞きづらくなることを確認した。このため、上述のように、空間41の平面視形状と高さ方向における形状との少なくともいずれか一方を、四角形などの多角形や円形などのようないわゆる基本図形と称されている規則正しい形状とはしないことで、伝達される音声情報の一部が歪んでしまうという事態を効果的に回避することができる。
このことに関連して、本実施形態にかかる炊飯器では、スピーカーの前方に形成される空間で音声周波数の不所望な共振が生じることを回避するために、密閉された空間内に空気の振動数を変化させる障害物を配置することが好ましい。
図5、および、図6は、蓋体に形成される空間内部に障害物が配置された状態を説明する部分拡大斜視図である。
図5は、空間41内に配置された障害物として、空間41の底部を形成する筐体47から、空間41内に向けて突出するリブ51が設けられている状態を示す。また、図6は、空間41内に配置された障害物として、空気の振動を吸収する干渉部材としてのグラスウールブロック52が配置されている状態を示す。
本実施形態において、図5,および、図6に示すように、空間41内にリブ51や干渉部材52が配置されていることで、空間41内での特定の音声周波数に不所望な共振が生じることをより確実に回避することができ、特定の周波数の音声が歪んで聞こえるなどの弊害を効果的に回避的できる。
なお、本実施形態の炊飯器においてリブを配置するのは、密閉空間の外郭を構成する形状がより不規則なものとなるようにして、空間41の外郭で強い反射が生じることを防いで空間41内部での共振を防止するためである。このため、図5に示すように、空間41内に配置するリブ51の配置方向を、炊飯器の前後方向に対して少し傾けるなどリブの配置方向に関しても不規則性を確保することが好ましい。この点では、図5では、直方体形状のリブ51を配置することを例示したが、リブ51は、縦、横、高さがそれぞれ不規則に形成されているものや、また、空間41の大きさ(全体の容量)を小さくし過ぎない限りにおいて、複数のリブ51が不規則に並んでいるような構成することができる。
一方、空間41内に干渉部材としてのグラスウールブロック52を配置する場合には、干渉部材の表面での反射を考慮する必要はほとんどないため、干渉部材の容積が必要以上に大きくならず空間41としての所定の容量を実現できている範囲において、干渉部材の配置方向や配置位置、干渉部材の外形形状は自由に選択することができる。さらに、空間41内に配置される干渉部材としては、グラスウールブロック以外にも、表面に凹凸などの不規則面が形成されている部材、スポンジ状の内部に空洞が形成されている部材など、部材の表面で音声による空気の振動を吸収する特性を有する各種の部材を使用することができる。
以上説明したように、本実施形態で示す炊飯器は、被炊飯物を収容する内鍋の上方を覆う蓋体の蓋体本体に音声情報を報知するためのスピーカーが配置され、スピーカーの前端部と蓋体の上面を構成する上面プレートの内側面との間に、スピーカーのコーン部よりも大きな面積を有する密閉された空間が形成されている。このため、スピーカーからの音声が空間で反響して上面プレートを介してユーザに伝わり、スピーカーからの音声を透過させる音声透過孔を設けていなくても、良好な音質で、かつ、大きな音量でユーザに音声情報を報知することができる。
なお、上記実施形態では、ユーザ側から見た蓋体の右側に音声情報を報知するスピーカーを配置する空間を形成したものを例示したが、空間の配置位置は向かって右側には限られず、向かって左側や、前側、後方側などの蓋体の大きさをなるべく変更することなく所定容量の空間が形成できる位置に空間を配置することができる。また、蓋体本体に複数形成された空間をつないで一つの大きな密閉された空間を形成して、その空間内にスピーカーを配置することができる。
さらに、空間内のスピーカーの配置位置も、上記の実施形態で示した空間内の前方寄りの部分には限られず、蓋体内の他の機構部品の配置位置と干渉せず、なるべくスピーカーの前端面と外面プレート内側面との距離が大きくとれる位置に配置することが好ましい。
また、上記例示した炊飯器の具体的な構成は例示に過ぎず、例えば、炊飯器を操作する操作ボタンがタッチパネルで構成されているもの、操作ボタンが蓋体ではなく炊飯器本体に配置されているもの、圧力調整手段を有しておらず圧力炊飯を行わない炊飯器など、各種の炊飯器の蓋体に採用することができる。
以上、本願で開示する蓋体として、炊飯器において、被炊飯物を収容した内鍋の上方を開閉可能に覆う蓋体を例示して説明した。しかし、本願で開示する蓋体の構成、すなわち、蓋体本体に蓋体の上面プレートに対向してスピーカーが配置され、スピーカーの前端面と蓋体の上面プレートの内側面との間に、平面視したときの面積がスピーカーのコーン部面積よりも大きな密閉された空間を備える構成は、被調理物が配置される調理空間の上方を開閉可能に覆う蓋体であれば、炊飯器以外の各種調理機器の蓋体として用いることができる。
例えば、ホームベーカリー、餅つき器、ピザ焼き器、トースターなどの被調理物が所定の調理容器内に配置されると共に、調理容器の周囲に配置された加熱手段で被調理物を加熱調理する各種の加熱調理器の蓋体として使用することができる。なお、本願で開示する蓋体が用いられる加熱調理器は、被調理物の種類には限定されないため、コーヒーメーカーや給湯器、電気ポット類など、水を暖める広い意味での加熱調理機器の蓋体として、音声情報の報知機能を備えた調理機器に採用することができる。
さらには、ジューサーやミキサー、フードプロセッサーなど、被調理物を加熱する加熱手段を持たない調理機器においても、被調理物が配置される調理空間の上方を覆う蓋体を備え、この蓋体に、音声情報の報知手段としてのスピーカーを配置したものにおいても、上記本願で開示する構成を採用することができ、機器の上面に音声透過孔を開口することなく、高い音質で、かつ、大きな音量での音声報知を行うことができる。
なお、炊飯器と比較して、調理機器としての構成や伝達される音声情報自体が比較的簡素な調理機器の場合には、上記炊飯器として例示したような、音声情報を報知する動作モードが選択可能に設けられずに、常に音声情報がユーザに対して報知される構成のものもある。本願で開示する蓋体の構成が、これらの調理機器に採用可能であることは言うまでもない。