JP2018188691A - 鋼材部品の製造方法、および、浸炭炉 - Google Patents

鋼材部品の製造方法、および、浸炭炉 Download PDF

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Abstract

【課題】セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることのできる、鋼材部品の製造方法、および、浸炭炉を提供する。【解決手段】鋼材部品の製造方法は、浸炭ステップと、拡散ステップとを含んでいる。浸炭ステップでは、鋼材100の表面101に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、鋼材100の表面101から鋼材100の内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を所定の浸炭温度TP1で交互に繰り返す。拡散ステップでは、鋼材100の表面101の炭素濃度Cを拡散促進工程における鋼材100の表面101の炭素濃度Cよりも低くする。浸炭促進工程における鋼材100の表面101の炭素濃度が、鋼材100に炭化物を析出する炭素濃度Cpre以上で、且つ、鋼材100の限界炭素濃度Clim以下に設定されている。【選択図】 図1

Description

本発明は、鋼材部品の製造方法、および、浸炭炉に関する。
鋼材部品における曲げ疲労強度、および、耐摩耗性等の向上を目的として、鋼材部品の表面に、真空浸炭処理を行うことがある。真空浸炭処理では、真空(減圧)の雰囲気で且つ高温に維持された熱処理炉内に、浸炭用の浸炭用ガスが供給される。この処理により、鋼材部品の表面の炭素含有量を増加させる。
より具体的には、真空浸炭処理では、浸炭期と拡散期とが存在する(例えば、特許文献1参照)。浸炭期では、鋼材が真空中で850℃〜1050℃の浸炭温度まで加熱され、均熱状態に達した時点で浸炭性ガスが加熱室内に供給されると共に、加熱室内が浸炭処理温度に維持された状態で所定の減圧下で所定時間保持される。これにより、鋼材中に炭素が浸入する。また、拡散期では、浸炭用ガスの供給が停止されて真空下(約0.02kPa)で所定時間真空状態が保持されることにより、鋼材中に炭素が拡散される。
特開2003−171756号公報([0002]段落)
真空浸炭処理においては、浸炭と拡散とを繰返し行って炭素原子を鋼材に十分に浸透および拡散させた後、鋼材表面の炭素濃度をより低い値にするために、長時間連続して拡散処理を行う。このような工程によって、鋼材部品への浸炭処理が完了する。このような浸炭処理において、セメンタイトの析出を抑制するために、表面炭素濃度をできるだけ低くした状態で浸炭と拡散を繰返すことが知られている。しかしながら、浸炭処理においてセメンタイトの析出を抑制するために表面炭素濃度の上限を低い値にした場合、炭素原子を鋼材表面に浸透させるのに時間がかかり、鋼材部品の処理時間が長くなってしまう。
特に、耐熱軸受鋼の一種であるM50NiLは、SCM435等の一般的な鋼材に比べて、網目状のセメンタイトが析出し易い。セメンタイトが析出しやすい種類の鋼材は、浸炭処理においてセメンタイトの析出を抑制するために、表面炭素濃度をより低くする必要があり、より一層、浸炭処理にかかる時間が長くなってしまう。
しかしながら、上記特許文献1では、浸炭処理の時間を短くする観点の言及はされていない。
本発明は、上記事情に鑑みることにより、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることのできる、鋼材部品の製造方法、および、浸炭炉を提供することを目的とする。
通常、浸炭処理において、セメンタイトの析出を抑制するためには、浸炭処理時における鋼材部品の表面炭素濃度の上限を、Acm点での炭素濃度未満に設定する。一方で、本願発明者は、鋭意研究の結果、浸炭処理時間を短縮するために、セメンタイトが析出すると考えられるような高い表面炭素濃度範囲で浸炭および拡散を繰返すという発想を得て、本願発明を想到した。
(1)上記の課題を解決するための、この発明のある局面に係わる鋼材部品の製造方法は、鋼材表面に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、前記鋼材表面から前記鋼材内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を所定の浸炭温度で交互に繰り返す浸炭ステップと、前記浸炭ステップの後に前記鋼材表面の炭素濃度を前記拡散促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度よりも低くする拡散ステップと、を含み、前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が、前記鋼材に炭化物を析出する炭素濃度以上で、且つ、前記鋼材の限界炭素濃度以下に設定されている。
なお、「限界炭素濃度」とは、鋼材に析出した炭化物を、拡散ステップを経て実質的に消去できる状態となるときの炭素濃度の上限値をいう。また、「実質的に」とは、拡散ステップを経た後の鋼材における炭化物の割合が数%未満であることをいう。この限界炭素濃度として、当該限界炭素濃度を決定するための実験によって求めた値が用いられる場合がある。
この構成によると、浸炭促進工程における鋼材表面の炭素濃度を、鋼材に炭化物が析出する炭素濃度以上に設定することで、浸炭促進工程における、鋼材への炭素原子の浸入速度をより高くできる。これにより、浸炭ステップにかかる時間が短くて済む。また、浸炭促進工程における鋼材表面の炭素濃度が、鋼材の限界炭素濃度以下に設定されている。これにより、鋼材への浸炭処理の完了時(拡散ステップの完了時)に、鋼材にセメンタイトが析出することを、より確実に抑制できる。なお、浸炭促進工程における鋼材の表面炭素濃度が、鋼材に炭化物が析出する炭素濃度以上に設定されることで、浸炭ステップでは、鋼材に網目状セメンタイトが生じる。しかしながら、浸炭促進工程における鋼材表面の炭素濃度を鋼材の限界炭素濃度以下にすることで、拡散ステップにおいて、この網目状セメンタイトを球状化させることができる。その結果、拡散ステップの完了時における鋼材内のセメンタイトの析出量をより確実に抑制できる。以上の次第で、本発明によると、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることのできる、鋼材部品の製造方法を実現できる。
(2)前記拡散促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が、前記鋼材に炭化物を析出する炭素濃度以上で、且つ、前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度未満に設定されている場合がある。
この場合、拡散促進工程において、鋼材表面の炭素濃度が低下しすぎることを抑制できる結果、鋼材の浸炭処理にかかる合計の処理時間が長くならずに済む。
(3)前記鋼材は、耐熱軸受鋼であり、前記浸炭ステップにおける前記鋼材表面の前記炭素濃度が、1.4%〜2.0%の範囲に設定されている場合がある。
この場合、浸炭ステップにおける鋼材表面の炭素濃度の下限を上記の値にすることで、浸炭にかかる合計の処理時間をより短くできる。また、浸炭ステップにおける鋼材表面の炭素濃度の上限を上記の値にすることで、浸炭処理完了後の鋼材におけるセメンタイトの析出を抑制できる。その結果、鋼材に浸炭処理を施す際において、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭にかかる合計の処理時間をより短くできる。特に、鋼材がM50NiL材である場合、浸炭ステップにおいて、拡散促進工程の時間が短くても、セメンタイトの球状化が進む。その結果、鋼材表面の炭素濃度が高い範囲で浸炭ステップが行われても、拡散ステップの完了後に鋼材にセメンタイトが析出することは抑制される。
(4)前記浸炭ステップにおける前記鋼材表面の前記炭素濃度が、1.7%〜2.0%の範囲に設定されている場合がある。
この場合、浸炭ステップにおける鋼材表面の炭素濃度の下限を上記の値にすることで、浸炭にかかる合計の処理時間をより一層短くできる。また、浸炭ステップにおける鋼材表面の炭素濃度の上限を上記の値にすることで、浸炭処理完了後の鋼材におけるセメンタイトの析出をより確実に抑制できる。
(5)前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が前記範囲の上限値に設定され、前記拡散促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が前記範囲の下限値に設定されている場合がある。
この場合、浸炭ステップにおいて、炭素濃度の制御に設定される値を僅か2つの値にできる。これにより、浸炭促進工程における炭素濃度の制御、および、拡散促進工程における炭素濃度の制御の双方を、より簡素にできる。
(6)前記浸炭ステップが実施される時間は、前記拡散ステップが実施される時間よりも短く設定されている場合がある。
この場合、浸炭ステップにおいて鋼材表面の炭素濃度が高くされていることにより、より迅速に炭素原子を鋼材に浸透および拡散させることができる。その結果、鋼材におけるセメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くできる。また、鋼材がM50NiL材であれば、拡散処理時間が短くても、セメンタイトの粒状化を十分に促進できる。
(7)複数の前記拡散促進工程において後の前記拡散促進工程になるほど、1回の前記拡散促進工程の実施時間が長くなるように設定されている場合がある。
この場合、浸炭ステップが進行するほど、鋼材における炭素原子の含有量が多くなり、炭素原子の拡散にかかる時間がより多くなる。このような浸炭処理の特性を踏まえて、例えば、拡散推進工程1回の時間を、当該拡散推進工程の直前における1回の拡散推進工程の時間よりも長く設定することで、鋼材への炭素原子の拡散度合いをより確実に高めることができる。
(8)上記の課題を解決するための、この発明のある局面に係わる浸炭炉は、熱処理室と、前記熱処理室を加熱するヒータと、前記熱処理室内へ浸炭用ガスを供給するガス供給部と、前記熱処理室内を吸引するための吸引部と、前記ガス供給部および前記吸引部を制御する制御部と、を含み、前記制御部は、前記熱処理室内に配置された鋼材を所定の浸炭温度で浸炭させる浸炭ステップにおいて、前記鋼材表面に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、前記鋼材表面から前記鋼材内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を交互に行わせ、前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が、前記鋼材に炭化物を析出する炭素濃度以上で、且つ、前記鋼材の限界炭素濃度以下となるように、前記熱処理室内の雰囲気を制御するように構成されている。
この構成によると、浸炭炉で上記の浸炭ステップを行う際、浸炭ステップの拡散促進工程をより短時間で済ませることができる。また、浸炭ステップの拡散促進工程が短時間であっても、当該拡散促進工程においてセメンタイトの粒状化が進む結果、表面炭素濃度が高い範囲で浸炭促進工程を実施しても浸炭処理の完了後においてセメンタイトの析出量を抑制できる。以上の次第で、本発明によると、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることのできる、浸炭炉を実現できる。
本発明によると、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることができる。
本発明の一実施形態に係る浸炭炉の模式図である。 鋼材の浸炭処理時における時間と表面炭素濃度との関係を示すグラフ、および、鋼材の浸炭処理時における時間と熱処理室内の温度との関係を示すグラフである。 図2のグラフG1の浸炭ステップを拡大した図である。 浸炭炉における浸炭処理動作の一例を説明するためのフローチャートである。 図5(A)は、鋼材に浸炭ステップを施したときの鋼材の断面図である。図5(B)は、鋼材に浸炭ステップに続いて拡散ステップを施したときの鋼材の断面図である。 図6(A)は、比較例1の顕微鏡写真を示す図である。図6(B)は、実施例1の顕微鏡写真を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明は、鋼材部品の製造方法、および、浸炭炉として広く適用することができる。
図1は、本発明の一実施形態に係る浸炭炉1の模式図である。図1を参照して、浸炭炉1は、浸炭用ガスを浸炭炉1の熱処理室2内に導入することで、熱処理室2内に配置された鋼材100に浸炭処理を行うように構成されている。浸炭用ガスは、炭化水素ガスを含んでいる。浸炭用ガスとして、プロパン、プロピレン、エチレン、および、アセチレンを例示できる。浸炭用ガスとして、上記のガスが適宜選択される。
鋼材100の材質は、表面に浸炭処理を施されることが可能な耐熱軸受鋼等の鋼材であればよく、特に限定されない。鋼材100の一例として、M50等の耐熱軸受鋼を例示できる。本実施形態では、鋼材100が、航空機用耐熱軸受鋼であるM50NiL(Nickel Low Carbon)材である形態を例に説明する。なお、例えば、M50NiLの成分は、C:0.11〜0.15%、Cr:4.00〜4.25%、Mo:4.00〜4.50%、V:1.13〜1.33%、Mn:0.15〜0.35%、Si:0.10〜0.25%、Ni:3.20〜3.60%、残りの成分がFeである。
鋼材100の形状は、特に限定されないけれども、例えば、軸受の外輪または内輪に相当する円筒形状を挙げることができる。本実施形態では、鋼材100が四角柱状のブロックである場合を例に説明する。
浸炭処理は、例えば、鋼材100が配置され且つ雰囲気が約930℃に加熱された熱処理室2内に、浸炭用ガスを供給する処理を含んでいる。この処理により、炭素原子は、鋼材100の表面101から内部へ浸透および拡散することで鋼材100の金属部分に固溶する。その結果、炭素原子が固溶した層(浸炭層)が、鋼材100の表面101の近傍に形成される。これにより、鋼材100の耐摩耗性、および、疲労強度が向上する。
浸炭炉1は、真空浸炭炉であり、熱処理室2内を大気圧から減圧した状態で、鋼材100に浸炭処理を施す。このように、浸炭炉1は、ガス浸炭炉ではなく真空浸炭炉として設けられている。浸炭炉1は、ガス浸炭炉である場合と比べて、鋼材100に対してより均等に浸炭処理を施すことができ、且つ、ポテンシャル制御が不要であるというメリットがある。
浸炭炉1は、熱処理室2と、ヒータ3と、熱処理室2内へ浸炭用ガスを供給するガス供給部4と、熱処理室2内を吸引するための吸引部5と、ヒータ3、ガス供給部4および吸引部5を制御する制御部6と、を有している。
熱処理室2は、鋼材100を収容する収容室として設けられている。熱処理室2は、中空状に形成されており、図示しない扉を通して鋼材100を出し入れすることが可能に構成されている。鋼材100を収容した状態の熱処理室2内に、ガス供給部4から浸炭用ガスが供給される。また、熱処理室2は、気密構造を有しており、真空雰囲気を形成可能である。熱処理室2内の浸炭用ガスおよび鋼材100は、ヒータ3によって加熱される。ヒータ3は、たとえば、電熱ヒータなどであり、熱処理室2内に配置されている。ヒータ3は、熱処理室2内の鋼材100および浸炭用ガスを、浸炭処理に必要な温度(例えば、約930℃程度)に加熱する。
ガス供給部4は、供給管8と、マスフローセンサ10と、電磁弁11と、を有している。
供給管8の一端は、浸炭用ガスが貯められたガスタンク7に接続されている。また、供給管8の他端は、熱処理室2に接続されており、ガスタンク7からの浸炭用ガスは、熱処理室2に供給される。供給管8の途中部に、マスフローセンサ10、および、電磁弁11が接続されている。
マスフローセンサ10は、供給管8における浸炭用ガスの流量を検出するために設けられている。マスフローセンサ10は、電磁弁11に対して、供給管8における浸炭用ガスの流れ方向の上流側に配置されている。マスフローセンサ10は、たとえば、熱式流量センサである。マスフローセンサ10は、浸炭用ガスの検出流量を示す信号を、制御部6へ出力する。電磁弁11は、供給管8における浸炭用ガスの流量を調整するために設けられている。電磁弁11は、たとえば、ソレノイドなどのアクチュエータを有しており、このアクチュエータの動作によって、当該電磁弁11の開度が設定される。電磁弁11は、制御部6によって制御される。より具体的には、電磁弁11は、マスフローセンサ10で検出された浸炭用ガスの流量と、制御部6で設定された浸炭用ガスの目標流量との差分がゼロとなるように動作する。
吸引部5は、排気管12と、電磁弁13と、吸引ポンプ14と、を有している。
熱処理室2内のガス(排気)は、排気管12を通して熱処理室2の外部に排出される。排気管12の一端は、熱処理室2に接続されており、熱処理室2内に開放されている。排気管12の途中部には、電磁弁13および吸引ポンプ14が接続されている。
電磁弁13は、排気管12を開閉するために設けられている。電磁弁13は、たとえば、ソレノイドなどのアクチュエータを有しており、このアクチュエータの動作によって、当該電磁弁13が開状態または閉状態に設定される。電磁弁13は、制御部6によって開閉制御される。なお、電磁弁13は、開度調整可能に構成されていてもよい。電磁弁13の開度調整が行われる場合、電磁弁13は、アクチュエータの動作によって、所定の開度に設定される。
吸引ポンプ14は、熱処理室2内を減圧(大気圧より低い圧力)にするために設けられている。吸引ポンプ14は、真空ポンプ等の、気体を熱処理室2から吸引して排気管12の下流側に吐出するポンプである。吸引ポンプ14の駆動によって、熱処理室2内の気圧が、大気圧より低い減圧状態(真空状態を含む)にされる。吸引ポンプ14は、制御部6によって駆動制御される。
制御部6は、熱処理室2内の温度を制御する機能と、ガスタンク7から熱処理室2へ供給される浸炭用ガスの供給態様を制御する機能と、熱処理室2内の気圧を制御する機能と、を実現するように構成されている。制御部6は、マスフローセンサ10、電磁弁11、ヒータ3、電磁弁13、および、吸引ポンプ14に接続されている。制御部6は、マスフローセンサ10からの、浸炭用ガスの流量検出結果を用いて、電磁弁11、および、吸引ポンプ14等を制御する。このような制御によって、制御部6は、鋼材100への浸炭処理を制御する。本実施形態では、電磁弁13は、鋼材100への浸炭処理時には常時開かれており、浸炭処理時以外は閉じられている。
制御部6は、所定の入力信号に基づいて、所定の出力信号を出力する構成を有し、たとえば、安全プログラマブルコントローラなどを用いて形成することができる。安全プログラマブルコントローラとは、JIS(日本工業規格) C 0508−1のSIL2またはSIL3の安全機能をもつ公的に認証されたプログラマブルコントローラをいう。なお、制御部6は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)およびROM(Read Only Memory)を含むコンピュータ等を用いて形成されていてもよい。
図2は、鋼材100の浸炭処理時における時間TMと鋼材100の表面101の炭素濃度Cとの関係を示すグラフG1、および、鋼材100の浸炭処理時における時間TMと熱処理室2内の温度TPとの関係を示すグラフG2である。図3は、図2のグラフG1における浸炭ステップを拡大した図である。
図1〜図3を参照して、制御部6は、グラフG1,G2で示される特性が実現するよう、電磁弁11,13、および、吸引ポンプ14を制御する。本実施形態では、鋼材100の浸炭処理時の浸炭温度TP1は、約930℃の一定温度に維持される。
制御部6によって制御される鋼材100の浸炭処理方法は、浸炭ステップと、拡散ステップと、を含んでいる。
浸炭ステップは、鋼材100の表面101に炭素を浸入させる浸炭促進工程(浸炭工程)と、鋼材100の表面101から鋼材100の内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程(拡散工程)と、を所定の浸炭温度TP1で交互に繰返すステップである。この浸炭ステップでは、鋼材100は、当該鋼材100の表面101から所定の浸炭深さまで炭素原子を浸入されることで、上記所定の浸炭深さを有する浸炭層を形成される。浸炭ステップでは、鋼材100の表面101の炭素濃度Cが所定の低値Cと高値Cとの間で繰返し変化される。なお、本明細書では、鋼材100の表面101の炭素濃度Cを、表面炭素濃度Cともいう。
浸炭ステップでは、鋼材100に炭化物が析出するような高い表面炭素濃度Cを発生させつつ浸炭促進工程および拡散促進工程を行うことで、表面炭素濃度Cをスイングさせる。
表面炭素濃度Cのこの低値Cは、鋼材100の内部へ炭素を十分に拡散することができるとともに浸炭ステップにかかる時間をより短くする観点から設定されることが好ましい。この低値Cは、好ましくは、1.4%であり、より好ましくは、1.7%である。低値Cは、鋼材100に炭化物を析出する炭素濃度Cpre以下であってもよいし、この炭素濃度Cpre以上(本実施形態では、約1.6%以上)であってもよい。本実施形態では、低値Cは、炭素濃度Cpreより大きい1.7%に設定されている。
上記の高値Cは、鋼材100に炭化物を析出する炭素濃度Cpre以上で、且つ、鋼材100の限界炭素濃度Clim以下に設定されている。なお、「限界炭素濃度」とは、鋼材100に析出した炭化物を、拡散ステップを経て実質的に消去できる状態となるときの炭素濃度Cの上限値をいう。また、「実質的に」とは、拡散ステップを経た後の鋼材100における炭化物の割合が数%未満(ゼロを含む)であることをいう。この限界炭素濃度Climとして、当該限界炭素濃度Climを決定するための模擬浸炭炉による実験によって求めた値が用いられる場合がある。高値Cおよび限界炭素濃度Climは本実施形態では、2.0%である。なお、表面炭素濃度Cが限界炭素濃度Climを超えると、例えば、鋼材100の切断面における20μm四方でのセメンタイトの粒の数が10個を超える。
このように、浸炭促進工程における鋼材100の表面101の炭素濃度C(目標浸炭濃度)が、鋼材100に炭化物を析出する炭素濃度Cpre(炭素濃度Cpreの下限)以上で、且つ、鋼材100の限界炭素濃度Clim以下となるように、制御部6が、熱処理室2内の雰囲気を制御する。
このように、本実施形態では、浸炭促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cが、高値Cに設定され、この高値Cが、限界炭素濃度Climと同じ2.0%に設定されている。また、拡散推進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cが、低値Cに設定され、この低値Cが1.7%に設定されている。まとめると、浸炭ステップにおける表面炭素濃度Cは、好ましくは、1.4%〜2.0%の範囲に設定され、本実施形態では、1.7%〜2.0%の範囲に設定される。このように、例えば、浸炭促進工程における表面炭素濃度Cの目標値は、上記範囲の上限である2.0%(高値C)に設定され、また、拡散推進工程における表面炭素濃度Cの目標値は、上記範囲の下限である1.4%〜1.7%(低値C)の範囲に設定される。
浸炭ステップの浸炭促進工程は、熱処理室2内が大気圧より低い所定の気圧P1に減圧された状態で、熱処理室2内に浸炭用ガスを供給する工程である。グラフG1では、浸炭促進工程は、時間の経過に伴い表面炭素濃度Cが上昇する期間として示されている。浸炭促進工程では、ガスタンク7の浸炭用ガスは、供給管8を通って熱処理室2内に供給され、鋼材100の表面101に曝される。
浸炭促進工程では、吸引ポンプ14が駆動されることで、熱処理室2内は大気圧から気圧P1に減圧されている。その結果、熱処理室2内のガスは、排気管12を通って浸炭炉1外に排出される。グラフG1から明らかなように、最初から数回目までの浸炭促進工程においては、鋼材100の表面101に曝される浸炭用ガスの総量が十分でなく、浸炭促進工程における表面炭素濃度Cは、高値Cまで達しない。そして、浸炭促進工程が行われる回数が増えるに従い、表面101に曝される浸炭用ガスの総量がより多くなる。その結果、浸炭促進工程における表面炭素濃度Cが高値Cに収束する。そして、浸炭促進工程は、当該浸炭促進工程における表面炭素濃度Cが高値Cとなるまで繰り返される。グラフG1では、一例として、浸炭促進工程が十数回繰返されることで、表面炭素濃度Cが高値Cに到達する場合を示している。
浸炭ステップの拡散促進工程は、熱処理室2内が浸炭促進工程時の気圧P1よりもさらに低い気圧で且つ実質的に真空(気圧P2、P2<P1)に減圧された状態において、熱処理室2内への浸炭用ガスの供給を停止する工程である。その結果、拡散推進工程では、鋼材100の内部における炭素原子の拡散が促進される。グラフG1では、拡散促進工程は、時間の経過に伴い表面炭素濃度Cが低下する期間として示されている。
拡散促進工程では、供給管8の電磁弁11が閉じられることでガスタンク7から熱処理室2内への浸炭用ガスの供給が遮断される。熱処理室2内のガスは、排気管12を通って浸炭炉1外に排出される。また、拡散促進工程では、吸引ポンプ14が駆動されることで、熱処理室2内のガスは、排気管12を通って強制的に熱処理室2外に排出される。グラフG1から明らかなように、最初から数回目までの拡散促進工程においては、表面炭素濃度Cは、低値Cまでは低下しない。そして、拡散促進工程が行われる回数が増えるに従い、1回の拡散促進工程で鋼材100内に拡散される炭素原子の量がより多くなる。そして、最終的に、1回毎の拡散促進工程における表面炭素濃度Cが低値Cに収束する。また、拡散促進工程は、当該拡散促進工程における表面炭素濃度Cが低値Cとなるまで繰り返される。グラフG1では、一例として、拡散促進工程が十数回繰返されることで、表面炭素濃度Cが低値Cに到達する場合を示している。
なお、本実施形態では、浸炭促進工程において表面炭素濃度Cが高値Cに到達し、且つ、拡散推進工程において表面炭素濃度Cが低値Cに到達するまで、浸炭促進工程と拡散推進工程とが繰返される形態を例に説明する。しかしながら、この通りでなくてもよい。例えば、複数の浸炭促進工程において表面炭素濃度Cが連続して高値Cに到達し、且つ、複数の拡散推進工程において表面炭素濃度Cが連続して低値Cに到達するまで、浸炭推進工程および拡散推進工程が繰返されてもよい。その他、表面炭素濃度Cの目標値を高値Cと低値Cとにして、浸炭促進工程と拡散促進工程とが行われれば、上述の方法以外の方法で浸炭ステップが行われてもよい。
浸炭促進工程の繰り返し回数が多くなっても、1回あたりの浸炭促進工程の実施期間は、実質的に同じである。一方、拡散推進工程の繰り返し回数が多くなるほど、1回あたりの拡散促進工程の実施期間は、長くなる。この理由として、浸炭ステップが進行するほどに鋼材100における炭素原子の拡散量が多くなり、炭素原子の拡散にかかる時間がより多くなることを挙げることができる。また、拡散推進工程1回の時間は、当該拡散推進工程の直前における1回の浸炭推進工程の時間よりも長く設定されている。
上記の浸炭ステップにおける最後の拡散推進工程が完了すると、次に、拡散ステップが実行される。拡散ステップは、浸炭ステップの直後のステップであり、鋼材100の表面炭素濃度Cを拡散促進工程における表面炭素濃度Cよりも低くするステップである。
拡散ステップは、表面炭素濃度Cを、浸炭処理完了時の値Cend(例えば0.6%〜0.8%程度)に低下させる処理である。拡散ステップは、浸炭ステップの拡散促進工程での処理と同様に、熱処理室2内が浸炭促進工程時の気圧P1よりもさらに低い気圧で且つ実質的に真空に減圧された状態において、熱処理室2内への浸炭用ガスの供給を停止する工程である。その結果、拡散ステップでは、鋼材100の内部における炭素原子の拡散がより一層促進される。拡散ステップにおける熱処理室2内の気圧は、拡散促進工程における熱処理室2内の気圧と同じでもよいし、異なっていてもよい。
グラフG1では、拡散ステップは、時間の経過に伴い表面炭素濃度Cが低下しCendへ収束する期間として示されている。拡散ステップでは、拡散促進工程と同様に、ガス供給部4の電磁弁11が閉じられることで、ガスタンク7から熱処理室2内への浸炭用ガスの供給が遮断される。熱処理室2内のガスは、排気管12を通って浸炭炉1外に排出される。また、拡散ステップでは、吸引ポンプ14が駆動されることで、熱処理室2内のガスは、排気管12を通って強制的に熱処理室2外に排出される。グラフG1から明らかなように、拡散ステップの初期では、鋼材100内部への炭素原子の拡散度合いが大きく、その結果、表面炭素濃度Cの低下速度が比較的高い。そして、拡散ステップが進行するに従い、鋼材100における単位時間当たりの炭素原子の拡散速度が低下する。そして、表面炭素濃度Cが最終目標値Cendに到達した時点で、拡散ステップが完了する。
浸炭ステップが実施される時間TM1は、拡散ステップが行われる時間TM2よりも短く設定されている。浸炭ステップが実施される時間TM1と、拡散ステップが実施される時間TM2との比率は、例えば、TM1:TM2=1:5〜10程度に設定され、本実施形態では、この比率は約1:6に設定されている。本実施形態では、浸炭ステップは、約800分程度に設定され、拡散ステップは、約5000分程度に設定されている。このように、一時的に網目状セメンタイトが析出するように浸炭ステップで浸炭を行うことで、短時間で十分な浸炭層を形成できる。そして、析出したセメンタイトを拡散ステップで球状化させることで、浸炭処理後の鋼材100におけるセメンタイトの析出を抑制している。
制御部6は、浸炭ステップの浸炭促進工程、拡散促進工程、および、拡散ステップのそれぞれにおいて浸炭炉1が前述した態様となるよう、各部を制御する。制御部6は、鋼材100の浸炭処理において、予め設定されたプログラムに従って一義的に浸炭炉1の各部を制御してもよい。また、制御部6は、熱処理室2内の温度および鋼材100の表面炭素濃度Cを測定しながら浸炭炉1の各部を制御してもよい。
以上が、浸炭処理方法の概要である。次に、浸炭炉1における浸炭処理動作の一例を説明する。図4は、浸炭炉1における浸炭処理動作の一例を説明するためのフローチャートである。なお、フローチャートを参照しながら説明する場合、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
浸炭炉1で鋼材100を浸炭処理する場合、まず、事前準備が行われる(ステップS1)。事前準備では、作業者が熱処理室2内に鋼材100を配置し、その後、制御部6の制御によってヒータ3がオンにされることで、熱処理室2内の雰囲気が浸炭温度TP1にまで加熱される。
事前準備が完了すると、制御部6が、当該制御部6に設けられているカウンタの計測値nを1にリセットする(ステップS2)。
次に、浸炭ステップのn回目の浸炭促進工程が行われる(ステップS3)。浸炭促進工程では、制御部6は、電磁弁11,13を開き、さらに、吸引ポンプ14を駆動する。これにより、熱処理室2内の気圧が所定の減圧値P1となり、且つ、ガスタンク7から浸炭用ガスが熱処理室2内に供給される。n回目の浸炭促進工程は、例えば、当該n回目の浸炭促進工程の開始から所定時間Δn1の間継続されるか、または、表面炭素濃度Cが当該n回目の浸炭促進工程での目標値に到達するまでの間継続される。
次に、浸炭ステップのn回目の拡散促進工程が行われる(ステップS4)。拡散促進工程では、制御部6は、電磁弁11を閉じる一方,電磁弁13は開いたままにし、さらに、吸引ポンプ14の出力を浸炭促進工程のときの出力よりも大きくする。これにより、熱処理室2内が真空状態となり、且つ、ガスタンク7から熱処理室2内への浸炭用ガスの供給が停止される。n回目の拡散促進工程は、例えば、当該n回目の拡散促進工程の開始から所定時間Δn2の間継続されるか、または、表面炭素濃度Cが当該n回目の拡散促進工程での目標値に到達するまでの間継続される。上記所定時間Δn2は、nの値が増すに従い大きくなる。上記ステップS3,S4が、本発明の「浸炭ステップ」の一例である。
次に、制御部6は、浸炭ステップを完了するか否かを判定する(ステップS5)。制御部6は、例えば、カウンタ値nが所定値に達していない場合、浸炭ステップが完了していないと判断し(ステップS5でNO)、カウンタ値nを1つ足すインクリメント処理を行う(ステップS6)。その後、再びステップS3〜S5の処理が行われる。
一方、制御部6は、カウンタ値nが所定値に達すると(ステップS5でYES)、拡散ステップを実行する(ステップS7)。拡散ステップでは、制御部6は、拡散促進工程と同様の状態を維持する。すなわち、電磁弁11の閉状態および電磁弁13の開状態を維持し、さらに、吸引ポンプ14の出力を維持させる。これにより、熱処理室2内の真空状態が維持され、且つ、ガスタンク7から熱処理室2内への浸炭用ガスの供給が停止されたままとなる。拡散ステップは、例えば、拡散ステップの開始から所定時間継続されるか、または、表面炭素濃度Cの計測値が最終目標値Cendに到達するまでの間継続される。
そして、拡散ステップが完了すると、停止処理が行われる(ステップS8)。停止処理では、制御部6は、拡散ステップにおける制御態様からの変更点として、ヒータ3をオフにするとともに、電磁弁13を閉じ、さらに、吸引ポンプ14を停止する。その結果、グラフG2に示されているように、熱処理室2内の温度は、時間の経過と共に低下する。
以上説明したように、本実施形態によると、浸炭促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cを、鋼材100に炭化物が析出する炭素濃度Cpre以上に設定することで、浸炭促進工程における、鋼材100への炭素原子の浸入速度をより高くできる。これにより、浸炭ステップにかかる時間が短くて済む。また、浸炭促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cが、鋼材100の限界炭素濃度Clim以下に設定されている。これにより、鋼材100への浸炭処理の完了時(ステップS8の完了時)に、鋼材100にセメンタイトが析出することを、より確実に抑制できる。なお、浸炭促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cが、鋼材100に炭化物が析出する炭素濃度Cpre以上に設定されることで、浸炭ステップでは、鋼材に網目状セメンタイトが生じる。しかしながら、浸炭促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cを鋼材100の限界炭素濃度Clim以下にすることで、拡散ステップにおいて、この網目状セメンタイトを球状化させることができる。その結果、拡散ステップの完了時における鋼材100内のセメンタイトの析出量をより確実に抑制できる。以上の次第で、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることのできる、鋼材部品の製造方法を実現できる。
例えば、浸炭処理時に常時、鋼材100に炭化物が析出する炭素濃度Cpre未満にした場合の処理時間が約10000分であった場合に比べて、本実施形態では、浸炭処理時間が約5800分と、浸炭処理時間を40%以上削減することができる。
また、本実施形態によると、鋼材100の表面101に浸透する炭素量および、鋼材100の内部に拡散する炭素量を制御できるので、浸炭処理におけるトータルの浸炭ガス使用量をより少なくできる。
また、本実施形態によると、拡散促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cが、鋼材100に炭化物を析出する炭素濃度Cpre以上で、且つ、浸炭促進工程における表面炭素濃度C未満に設定されている。この構成によると、拡散促進工程において、鋼材100の表面炭素濃度がC低下しすぎることを抑制できる結果、鋼材100の浸炭処理にかかる合計の処理時間が長くならずに済む。
また、本実施形態によると、鋼材100はM50NiL材であり、浸炭ステップにおける表面炭素濃度Cが、1.4%〜2.0%の範囲に設定されており、より好ましくは、1.7%〜2.0%の範囲に設定されている。この構成によると、浸炭ステップにおける鋼材100の表面炭素濃度Cの下限を上記の値にすることで、浸炭処理にかかる合計の処理時間をより短くできる。また、浸炭ステップにおける鋼材100の表面炭素濃度Cの上限を上記の値にすることで、浸炭処理完了後の鋼材100におけるセメンタイトの析出を抑制できる。その結果、鋼材100に浸炭処理を施す際において、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計の処理時間をより短くできる。特に、鋼材100がM50NiL材である場合、浸炭ステップにおいて、拡散促進工程の時間が短くても、セメンタイトの球状化が進む。その結果、鋼材100の表面炭素濃度Cが高い範囲で浸炭ステップが行われても、拡散ステップの完了後に鋼材100にセメンタイトが析出することは抑制される。
また、本実施形態によると、浸炭促進工程における表面炭素濃度Cが上記の範囲の上限値に設定され、拡散促進工程における表面炭素濃度Cが上記の範囲の下限値に設定されている。この構成によると、浸炭ステップにおいて、表面炭素濃度Cの制御に設定される目標値を僅か2つの値(1.4%または1.7%と、2.0%の2種類の値)にできる。これにより、浸炭促進工程における表面炭素濃度Cの制御、および、拡散促進工程における表面炭素濃度Cの制御の双方を、より簡素にできる。
また、本実施形態によると、浸炭ステップが実施される時間TM1は、拡散ステップが実施される時間TM2よりも短く設定されている。この構成によると、浸炭ステップにおいて鋼材100の表面炭素濃度Cが高くされていることにより、より迅速に炭素原子を鋼材100に浸透および拡散させることができる。その結果、鋼材100におけるセメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くできる。また、鋼材100がM50NiL材であれば、拡散処理時間が短くても、セメンタイトの粒状化を十分に促進できる。
また、本実施形態によると、複数の拡散促進工程において後の拡散促進工程になるほど、1回の拡散促進工程の実施時間Δn2が長くなるように設定されている。この構成によると、浸炭ステップが進行するほど、鋼材100における炭素原子の含有量が多くなり、炭素原子の拡散にかかる時間がより多くなる。このような浸炭処理の特性を踏まえて、拡散推進工程1回の時間を、当該拡散推進工程の直前における1回の拡散推進工程の時間よりも長く設定することで、鋼材100への炭素原子の拡散度合いをより確実に高めることができる。
また、本実施形態によると、制御部6は、浸炭促進工程における鋼材100の表面炭素濃度Cが、鋼材100に炭化物を析出する炭素濃度Cpre以上で、且つ、鋼材100の限界炭素濃度lim未満となるように、熱処理室2内の雰囲気を制御する。この構成によると、浸炭炉1で浸炭ステップを行う際、浸炭ステップの拡散促進工程をより短時間で済ませることができる。また、浸炭ステップの拡散促進工程が短時間であっても当該拡散促進工程においてセメンタイトの粒状化が進む結果、表面炭素濃度Cが高い範囲で浸炭促進工程を実施しても浸炭処理の完了後においてセメンタイトの析出量を抑制できる。以上の次第で、セメンタイトの析出を抑制しつつ、浸炭処理にかかる合計時間をより短くすることのできる、浸炭炉1を実現できる。
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
<試験1>
(セメンタイト析出抑制効果の実証1)
鋼材であるM50NiL材に浸炭ステップおよび拡散ステップの順に熱処理を施した。浸炭ステップでは、鋼材の表面における浸炭用ガスの炭素濃度(表面炭素濃度)を1.4%とし、浸炭温度を930℃、浸炭時間を約10分間とした。また、拡散ステップでは、拡散時間を約22分間とし、鋼材の表面炭素濃度が1.15%となるまで処理を継続した。
結果を図5(A)および図5(B)に示す。図5(A)は、鋼材に浸炭ステップを施したときの鋼材の断面図である。図5(B)は、鋼材に浸炭ステップに続いて拡散ステップを施したときの鋼材の断面図である。図5(A)および図5(B)のそれぞれにおいて、鋼材の左端は、鋼材の表面であり、図の右側に進むに従い鋼材表面からの深さが深くなっている。
図5(A)に示すように、浸炭ステップの完了時には、鋼材内部に網目状のセメンタイトが生じている。一方、図5(B)に示すように、拡散ステップの完了時には、鋼材内部には、網目状のセメンタイトに代って、粒状セメンタイトが生じている。このように、拡散ステップが短時間であっても、網目状セメンタイトの析出を抑制できることが実証された。
<試験2>
(セメンタイト析出抑制効果の実証2)
鋼材であるM50NiL材に浸炭ステップおよび拡散ステップを含む浸炭処理を行うことで、実施例1を作製した。浸炭ステップは、鋼材表面に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、鋼材表面から鋼材内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を所定の浸炭温度(930℃)で交互に繰り返すステップである。拡散ステップは、浸炭ステップの後に鋼材表面の炭素濃度を拡散促進工程における鋼材表面の炭素濃度よりも低くするステップである。
また、浸炭促進工程における鋼材表面の炭素濃度を、鋼材の限界炭素濃度よりも高くした点以外は実施例1と同様の工程で浸炭処理した鋼材であるM50NiL材を、比較例1とした。
そして、実施例1および比較例1のそれぞれについて、切断面における顕微鏡写真を撮影し、セメンタイトの析出度合いを測定した。結果を図6(A)および図6(B)に示す。図6(A)は、比較例1の顕微鏡写真を示す図である。図6(B)は、実施例1の顕微鏡写真を示す図である。図6(A)および図6(B)では、それぞれ、図の右上に、20μmを単位とするスケールが示されている。そして、図6(A)に示すように、比較例1では、鋼材に析出したセメンタイトが白い斑点状に多数表れており、セメンタイトが多数析出していることが明らかである。一方、図6(B)に示すように、実施例1では、セメンタイトが白い斑点状に僅かに表れているものの、図から明らかなように、セメンタイトの析出量は比較例1と比べて顕著に少なく、実質的に無視できる。このように、鋼材の浸炭処理において、鋼材表面の炭素濃度を鋼材の限界炭素濃度以下にすることでセメンタイトの析出を顕著に抑制できることが実証された。
<試験3>
鋼材であるM50NiL材に浸炭ステップおよび拡散ステップを含む浸炭処理を行うことで、実施例2〜実施例7を作製した。浸炭ステップは、鋼材表面に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、鋼材表面から鋼材内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を所定の浸炭温度(930℃)で交互に繰り返すステップである。拡散ステップは、浸炭ステップの後に鋼材表面の炭素濃度を拡散促進工程における鋼材表面の炭素濃度よりも低くするステップである。
また、浸炭促進工程における鋼材の表面炭素濃度(高値)、および、拡散促進工程におえける鋼材の表面炭素濃度(低値)を実施例2〜実施例7とは異ならせた条件で浸炭処理を行うことで、比較例2〜比較例4を作製した。なお、実施例2〜実施例7および、比較例2〜比較例4のそれぞれにおける、鋼材の表面炭素濃度の低値と高値は、以下の通りである。
鋼材の表面炭素濃度の低値(%)〜高値(%)
比較例2 0.85〜1.3
比較例3 1.4 〜2.1
実施例2 1.4 〜2.0
実施例3 1.4 〜1.9
実施例4 1.7 〜2.0
実施例5 1.6 〜2.0
実施例6 1.5 〜2.0
実施例7 1.4 〜2.0
比較例4 0.8 〜2.0
実施例2〜7および比較例2〜4のそれぞれについて、浸炭処理にかかった時間を、実施例2での時間との比で算出し、浸炭処理合計時間比として集計した。浸炭処理合計時間比は、1.05未満であれば○の評価とし、1.05以上を×と評価した。また、実施例2〜7および比較例2〜4のそれぞれについて、セメンタイトの析出量を判定した。セメンタイトの析出量は、鋼材を電子顕微鏡で観察することにより目視で判定し、セメンタイトの析出量が明らかに多い場合を×とし、セメンタイトの析出が、鋼材の機械的性質に実質的に影響を与えない場合を○と判定した。結果を表1に示す。
Figure 2018188691
表1から明らかなように、比較例2,4では、浸炭処理合計時間比が1.05を大きく超えている。特に、比較例2は、浸炭処理全般を通じて表面炭素濃度が鋼材に炭化物を析出する炭素濃度未満であったため、浸炭処理に時間がかかり、その結果、浸炭処理合計時間比が実施例2の約170%となった。一方、実施例2〜7は、何れも、浸炭処理合計時間比が実質的に1であり、浸炭処理にかかる時間が極めて短いことが実証された。特に、表面浸炭濃度の下値を1.7%とし、上値を2.0%とした実施例4は、浸炭処理にかかる時間が顕著に短いことが実証された。
また、表1から明らかなように、比較例3ではセメンタイトが鋼材の広範囲に析出されており、機械的性質に明確に影響が出ることが実証された。なお、比較例2の切断面の模様は、比較例1における切断面の模様と略同様である。一方、実施例2〜7は何れも、セメンタイトの析出量が僅かであり、鋼材の機械的性質に実質的に影響を与えるものでないことが実証された。なお、実施例2〜7のそれぞれの切断面の模様は、実施例1における切断面の模様と略同様である。
以上の次第で、実施例2〜7について、浸炭処理にかかる時間が短く、且つ、セメンタイト(網目状セメンタイト)の析出が抑制されていることが実証された。
本発明は、鋼材部品の製造方法、および、真空浸炭炉として、広く適用することができる。
1 浸炭炉
2 熱処理室
3 ヒータ
4 ガス供給部
5 吸引部
6 制御部
100 鋼材
101 鋼材の表面
C 鋼材表面の炭素濃度
pre 鋼材に炭化物を析出する炭素濃度
lim 鋼材の限界炭素濃度
TM1 浸炭ステップが実施される時間
TM2 拡散ステップが実施される時間

Claims (8)

  1. 鋼材表面に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、前記鋼材表面から前記鋼材内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を所定の浸炭温度で交互に繰り返す浸炭ステップと、
    前記浸炭ステップの後に前記鋼材表面の炭素濃度を前記拡散促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度よりも低くする拡散ステップと、を含み、
    前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が、前記鋼材に炭化物を析出する炭素濃度以上で、且つ、前記鋼材の限界炭素濃度以下に設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  2. 請求項1に記載の鋼材部品の製造方法であって、
    前記拡散促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が、前記鋼材に炭化物を析出する炭素濃度以上で、且つ、前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度未満に設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  3. 請求項1または請求項2に記載の鋼材部品の製造方法であって、
    前記鋼材は、耐熱軸受鋼であり、前記浸炭ステップにおける前記鋼材表面の前記炭素濃度が、1.4%〜2.0%の範囲に設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  4. 請求項3に記載の鋼材部品の製造方法であって、
    前記浸炭ステップにおける前記鋼材表面の前記炭素濃度が、1.7%〜2.0%の範囲に設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  5. 請求項3または請求項4に記載の鋼材部品の製造方法であって、
    前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が前記範囲の上限値に設定され、前記拡散促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が前記範囲の下限値に設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  6. 請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の鋼材部品の製造方法であって、
    前記浸炭ステップが実施される時間は、前記拡散ステップが実施される時間よりも短く設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  7. 請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の鋼材部品の製造方法であって、
    複数の前記拡散促進工程において後の前記拡散促進工程になるほど、1回の前記拡散促進工程の実施時間が長くなるように設定されていることを特徴とする、鋼材部品の製造方法。
  8. 熱処理室と、
    前記熱処理室を加熱するヒータと、
    前記熱処理室内へ浸炭用ガスを供給するガス供給部と、
    前記熱処理室内を吸引するための吸引部と、
    前記ガス供給部および前記吸引部を制御する制御部と、を含み、
    前記制御部は、前記熱処理室内に配置された鋼材を所定の浸炭温度で浸炭させる浸炭ステップにおいて、前記鋼材表面に炭素を浸入させる浸炭促進工程と、前記鋼材表面から前記鋼材内部へ炭素を拡散させる拡散促進工程と、を交互に行わせ、前記浸炭促進工程における前記鋼材表面の前記炭素濃度が、前記鋼材に炭化物を析出する炭素濃度以上で、且つ、前記鋼材の限界炭素濃度以下となるように、前記熱処理室内の雰囲気を制御するように構成されていることを特徴とする、浸炭炉。
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