JP2018184549A - エポキシ樹脂、その製造方法、エポキシ樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

エポキシ樹脂、その製造方法、エポキシ樹脂組成物及び成形品 Download PDF

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Abstract

【課題】耐熱性に優れたエポキシ樹脂、その製造方法及び成型品を提供する。【解決手段】[1]特定の化学式で表されるエポキシ樹脂。[2]前記エポキシ樹脂と、硬化剤及び硬化触媒のうち少なくとも一方と、を含むエポキシ樹脂組成物。[3]前記エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる成形品。[4]αフェランドレンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって生成物A及び生成物Bの少なくとも一方を得る工程と、前記生成物Aを加水分解することによって生成物Cを得る処理、及び、前記生成物Bを加水分解することによって生成物Dを得る処理のうち、少なくとも一方の処理を行う工程と、前記生成物C及び前記生成物Dの少なくとも一方とエピクロロヒドリンとを反応させて、特定の化学式で表されるエポキシ樹脂を得る工程と、を有するエポキシ樹脂の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、エポキシ樹脂、その製造方法、エポキシ樹脂組成物及び成形品に関する。
従来、工業用ジペンテンを材料として、難燃性の紫外線硬化型ビニルエステル樹脂及びそのモノマーの開発が行われている(非特許文献1)。
ウィ・マオ(Wei Mao)ら著、"A novel flame retardant UV-curable vinyl ester resin monomer based on industrial dipentene: Preparation, characterization, and properties"、J.APPL.POLYM.SCI.2016年、第133巻、第41号、app.44084
非特許文献1においては、工業用ジペンテンを異性化して得られるαテルピネンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって得られた生成物をさらにエポキシ化してなるエポキシ樹脂が中間生成物として用いられている。この異性化反応およびディールス・アルダー反応のために180〜200℃、約3時間の加熱を要している。このような高温条件は主に異性化反応に必要であると考えられるが、より効率よく生成物を得る方法については開示されていない。また中間生成物であるエポキシ樹脂の耐熱性に関しても何ら開示されていない。
本発明者が検討したところ、ジペンテンの種類を変えることによって、より低い温度で収率良くディールス・アルダー反応を進めて、耐熱性に優れたエポキシ樹脂が得られることを見出した。
本発明は、耐熱性に優れたエポキシ樹脂、その製造方法及び成型品の提供を課題とする。
[1] 下記式(1)で表されるエポキシ樹脂。
[2] [1]に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤及び硬化触媒のうち少なくとも一方と、を含むエポキシ樹脂組成物。
[3] [1]に記載のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる成形品。
[4] αフェランドレンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって下記式(2a)で表される生成物A及び下記式(2b)で表される生成物Bの少なくとも一方を得る工程と、前記生成物Aを加水分解することによって下記式(2c)で表される生成物Cを得る処理、及び、前記生成物Bを加水分解することによって下記式(2d)で表される生成物Dを得る処理のうち、少なくとも一方の処理を行う工程と、前記生成物C及び前記生成物Dの少なくとも一方とエピクロロヒドリンとを反応させて、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂を得る工程と、を有するエポキシ樹脂の製造方法。
Figure 2018184549
[式(1)中、nは自然数を表し、全てのSMR1及びSMR2はそれぞれ独立に、上記式(1a)で表される構成単位、又は上記式(1b)で表される構成単位である。]
本発明によれば、耐熱性に優れたエポキシ樹脂、その製造方法及び成型品を提供することができる。
《エポキシ樹脂》
本発明の第一態様は、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂である。
Figure 2018184549
[式(1)中、nは自然数を表し、全てのSMR1及びSMR2はそれぞれ独立に、上記式(1a)で表される構成単位、又は上記式(1b)で表される構成単位である。]
前記式(1)中、SMR1が結合する2つの酸素に対して、前記式(1a)又は前記式(1b)で表される構成単位の2つの結合手がそれぞれ結合している。同様に、前記式(1)中、SMR2が結合する2つの酸素に対して、前記式(1a)又は前記式(1b)で表される構成単位の2つの結合手がそれぞれ結合している。ここで、各構成単位の結合手は、括弧から突出した結合線の先端である。
前記式(1a)の左右の結合手の向きは、紙面に示した向きであってもよいし、紙面に示した向きとは反対であってもよい。同様に、前記式(1b)の左右の結合手の向きは、紙面に示した向きであってもよいし、紙面に示した向きとは反対であってもよい。本発明においては、これらの結合手の向きは特に明記しない限り区別しない。
前記式(1a)、前記式(1b)に示すカルボニル基の立体異性体は、下記に示す化学式で表されるものが存在し得る。本発明においてはこれらの立体異性は特に明記しない限り区別しない。
Figure 2018184549
前記式(1)中、nは1〜10が好ましく、1〜5がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。nが小さいほど、エポキシ樹脂の粘性が低下し、取り扱いが容易になる。
nが2以上である場合、式(1)中の複数のSMR1はそれぞれ独立して、上記式(1a)で表される構成単位(以下、構成単位1aということがある。)又は上記式(1b)で表される構成単位(以下、構成単位1bということがある。)である。
構成単位1aと構成単位1bとは互いに立体異性体である。
前記式(1)中、SMR1及びSMR2で表される構成単位の配置としては、構成単位1aのみが存在してもよく、構成単位1bのみが存在してもよく、構成単位1aと構成単位1bとが互い違いに存在していてもよく、構成単位1aと構成単位1bとがランダムに存在していてもよい。
nが1である場合の式(1)で表される具体的なエポキシ樹脂として、例えば下記式(1−1)〜(1−4)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2018184549
同様に、n=2である場合には2×2×2=8通り以上のエポキシ樹脂を例示でき、n=3である場合には2の4乗=16通り以上のエポキシ樹脂を例示できる。化学式の図示は略す。
前記式(1)で表されるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2001「エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方」に基づいて求められる。
前記式(1)で表されるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、250〜1500が好ましく、250〜1000がより好ましく、250〜750がさらに好ましく、250〜500が特に好ましい。エポキシ当量が上記範囲であると、粘度が低いエポキシ樹脂となる。
《エポキシ樹脂組成物》
本発明の第二態様は、前記式(1)で表されるエポキシ樹脂と、硬化剤及び硬化触媒のうち少なくとも一方と、を含むエポキシ樹脂組成物である。
前記エポキシ樹脂に含まれる前記式(1)で表されるエポキシ樹脂の種類は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
前記硬化剤としては、公知のエポキシ樹脂とともに用いられる公知の硬化剤が適用可能であり、例えば、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(MHHPA)、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,2-ジエチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−アリール−4,5−ジフェニルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1)’]−エチル−S−トリアジンイソシアヌール酸付加物、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール系硬化剤;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メンタンジアミン、1,3‐ビスアミノメチルシクロヘキサン、キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン等のアミン系硬化剤;無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノン無水テトラカルボン酸、無水クロレンド酸、ドデシニル無水コハク酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸で代表されるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系硬化剤;ダイマー又はトリマー酸とポリアミンの縮合物であるポリアミド樹脂類;三フッ化ホウ素‐アミン錯体等のルイス酸類;ジシアンジアミドなどのアミドアミン系硬化剤;フェノールまたはその誘導体等が挙げられる。これらの中では、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤を使用することが好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物には、前記硬化剤の1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
前記硬化触媒としては、公知のエポキシ樹脂とともに用いられる公知の硬化触媒が適用可能であり、例えば、2−メチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)、トリアリールホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等が挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物には、前記硬化触媒の1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
前記エポキシ樹脂組成物は、前記硬化剤又は前記硬化触媒とともに、光重合開始剤又は熱重合開始剤を含んでいてもよい。
変形例として、前記エポキシ樹脂組成物は、前記硬化剤及び前記硬化触媒の少なくとも一方を含まず、光重合開始剤又は熱重合開始剤を含んでいてもよい。
前記光重合開始剤及び前記熱重合開始剤として、公知のエポキシ樹脂に用いられる公知の光重合開始剤及び熱重合開始剤が適用可能である。
前記エポキシ樹脂組成物には希釈溶媒が含まれていてもよい。希釈溶媒としては、各成分を溶解(分散)可能であるとともに、硬化反応を阻害しないものであれば特に制限されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、及びジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、及びジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、及びクロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類が挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物には、前記式(1)で表される1種類以上のエポキシ樹脂の他に、公知のエポキシ樹脂を併せて含んでいてもよい。公知のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、フェノール/変性ノボラック型、等の各型のエポキシ樹脂が挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物に含まれる全てのエポキシ樹脂と硬化剤との含有比は、エポキシ樹脂が有するエポキシ基1モル当たり、硬化剤が有する水酸基及びカルボキシル基等の活性水素基のモル数が0.5〜1.5モルとなる含有比が好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物における前記硬化触媒の含有量は特に制限されず、硬化触媒の種類に応じて適宜設定される。
前記エポキシ樹脂組成物における硬化剤の含有量は、硬化具合に応じて適宜調整可能であり、前記エポキシ樹脂の全量(100質量部)に対して、例えば、1〜50質量部程度が挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物における硬化触媒の含有量は、硬化具合に応じて適宜調整可能であり、前記エポキシ樹脂の全量(100質量部)に対して、例えば、0.01〜15質量部程度が挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物は、硬化剤及び硬化触媒の少なくとも一方の作用により硬化反応が促進され、エポキシ樹脂及び硬化剤が反応して硬化する。硬化反応に際しては、硬化反応を促進する観点から、加熱することが好ましい。加熱方法は特に制限されず、例えば、40〜70℃で乾燥後、100〜130℃で1〜3時間加熱し、さらに140〜190℃で1〜3時間加熱する方法が挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物には、硬化を妨げない範囲で、安定剤、滑剤、顔料、耐衝撃性改良剤、加工助剤、補強剤、着色剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防カビ剤、抗菌剤、光安定剤、帯電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、離型剤、発泡剤、香料等の各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維等の各種繊維;タルク、マイカ、モンモリロナイト、シリカ、木粉等の充填剤;各種カップリング剤等の成分を必要に応じて所定量を配合してもよい。
《成形品》
本発明の第三態様は、前記式(1)で表されるエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる成形品である。前記エポキシ樹脂組成物は、第二態様のエポキシ樹脂組成物であることが好ましい。
前記成形品は、前記エポキシ樹脂組成物又はその硬化物を用いて、例えば、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形等の公知の熱硬化性樹脂の成形方法によって形成することができる。成形に供する前記硬化物はBステージ(半硬化)の状態であることが好ましい。
前記エポキシ樹脂組成物が充分に硬化した硬化物のガラス転移温度Tgは、JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に従って測定された中間点ガラス転移温度(Tmg)として求められる温度である。
前記硬化物のガラス転移温度Tgは、耐熱性の観点から、例えば、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。Tgの上限値は特に制限されず、例えば200℃程度が目安として挙げられる。
前記エポキシ樹脂組成物が充分に硬化した硬化物の5%重量減少温度は、JIS K 7120 1987「プラスチックの熱重量測定方法」に従って求められる。
前記硬化物の窒素中又は空気中における5%重量減少温度は、耐熱性の観点から、例えば、250℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましく、290℃以上がさらに好ましい。前記5%重量減少温度の上限値は特に制限されず、例えば350〜400℃程度が目安として挙げられる。
前記成形品の用途は特に制限されず、従来のエポキシ樹脂と同様に種々の用途に適用可能である。例えば、塗料(塗膜)、接着剤、電気絶縁材料、複合材料(コンポジット材料)、土木建築材料、工具、3Dプリンター材料などの用途が挙げられる。
《エポキシ樹脂の製造方法》
本発明の第四態様は、下記の第1工程〜第3工程を有するエポキシ樹脂の製造方法である。
第1工程は、αフェランドレンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって下記式(2a)で表される生成物A及び下記式(2b)で表される生成物Bの少なくとも一方を得る工程である。
第2工程は、前記生成物Aを加水分解することによって下記式(2c)で表される生成物Cを得る処理、及び、前記生成物Bを加水分解することによって下記式(2d)で表される生成物Dを得る処理のうち、少なくとも一方の処理を行う工程である。第2工程において、生成物Cを得る処理と生成物Dを得る処理の両方を行う場合、両方の処理を同一の反応液で行ってもよいし、各処理を個別の反応液で行ってもよい。
第3工程は、前記生成物C及び前記生成物Dの少なくとも一方とエピクロロヒドリンとを反応させて、前記式(1)で表されるエポキシ樹脂を得る工程である。
[第1工程]
第1工程で用いるαフェランドレンは、生物から抽出及び精製されていてもよいし、石油由来の化合物から化学合成されていてもよい。例えば植物の種子や根から水蒸気蒸留によって得られたエッセンシャルオイルに含まれるαフェランドレンを用いてもよいし、既存の化学物質を原料として、公知の化学合成法によって得られたαフェランドレンを用いてもよい。αフェランドレンは試薬として市販されているので、これを精製して用いてもよい。
αフェランドレンには2種の立体異性体が存在する。第1工程で用いるαフェランドレンは何れか一方のみの立体異性体でもよいし、2種の立体異性体の混合物であってもよい。この混合物は2種の立体異性体が1:1で混合されたラセミ体(ジペンテン)であってもよく、1:1以外の比で混合された混合物であってもよい。何れか一方の立体異性体のみを用いる場合、例えばキラルカラムを用いたクロマトグラフィー、光学分割剤を用いたジアステレオマ法等の手法を用いることにより、光学異性分離をして得られた何れか一方の立体異性体を用いてもよい。
αフェランドレンの各々の異性体は下記の様に反応し、下記式(2a)で表される生成物A、下記式(2b)で表される生成物Bをそれぞれ与える。通常、反応前の異性体の存在比が、生成物の異性体の存在比に反映される。
以下、生成物Aと生成物Bを区別しない場合は生成物A,Bと表記する。
αフェランドレンは室温以上であれば液体である。液体のαフェランドレンに無水マレイン酸を添加して溶解させることにより、自然にディールス・アルダー反応が起き、生成物A,Bが生成する。このように反応性が高い理由として、αフェランドレンの6員環における共役二重結合の位置が、無水マレイン酸にアタックされ易い位置にあるためだと推測される。
ディールス・アルダー反応に供するαフェランドレンと無水マレイン酸のモル比は、例えば、αフェランドレン:無水マレイン酸=5:1〜1:5が好ましく、3:1〜1:3がより好ましく、2:1〜1:2がさらに好ましく、1.5:1〜1:1.5が特に好ましく、等モル比であることが最も好ましい。
αフェランドレンと無水マレイン酸を混合した反応液における反応効率を高める観点から、前記反応液には希釈溶媒を添加してもよい。希釈溶媒は、従来のディールス・アルダー反応に用いられる溶媒から適宜選択することができ、反応を妨げず、αフェランドレン及び無水マレイン酸との相溶性が高い溶媒が好ましい。具体的には、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、及びジオキサン等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、及びジクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、及びクロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。
第1工程におけるディールス・アルダー反応の反応性は高いので、20〜40℃程度の比較的低い温度で反応が迅速に進み、1〜6時間程度の実用的な時間内で反応が終了する。反応を速めたい場合には、例えば50〜100℃程度に加熱してもよい。
また、触媒が無くても上記反応は迅速に進むが、公知のディールス・アルダー反応に用いられる公知の触媒を適用してもよい。
第1工程によれば、収率80〜99質量%で生成物A,Bを得ることができる。
[第2工程]
生成物Aを加水分解することにより下記式(2c)で表される生成物Cが得られ、生成物Bを加水分解することにより下記式(2d)で表される生成物Dが得られる。
以下、生成物Cと生成物Dを区別しない場合は生成物C,Dと表記する。
生成物A,Bを加水分解する方法としては、例えば、NaOH水溶液等のアルカリ性水溶液中で生成物A,Bを加水分解する方法が挙げられる。このNaOHの濃度としては、例えば、0.1〜1.0Nの範囲で適宜調整される。NaOH水溶液に生成物A,Bを溶解し、例えば20℃(室温)〜100℃で、0.1〜10時間撹拌することにより加水分解して、生成物C,Dが得られる。
生成物C,Dは酸性水溶液には不溶であるため、例えば生成物C,Dを含むアルカリ性水溶液に塩酸を滴下して酸性化することにより、生成物C,Dを析出させて沈殿として得られる。
生成物C,Dの精製は、例えば、中性〜アルカリ性の水溶液に生成物C,Dを溶解させ、酸性化して再沈することにより行うことができる。
第2工程によれば、収率80〜99質量%で生成物C,Dを得ることができる。
Figure 2018184549
[第3工程]
生成物C,Dとエピクロロヒドリンをアルカリ化合物の存在下に反応させることにより、前記式(1)で表されるエポキシ樹脂が得られる。反応に供する生成物C,Dの立体異性体の存在比が、前記式(1)中のSMR1及びSMR2における構成単位1aと構成単位1bの存在比に反映される。
第3工程の反応液は、生成物C,D及びエピクロロヒドリン及びアルカリ化合物を含んでいればよく、溶媒は含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。溶媒の代わりにエピクロロヒドリンを過剰に用いることができる。
生成物C,Dに対するエピクロロヒドリンの添加量は、エピクロロヒドリンが過剰となるように添加することが好ましい。
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。使用される量は、生成物C,Dの1モルに対し、好ましくは1.5〜8モル、より好ましくは2〜4モルである。
前記反応液には反応を促進するための触媒を添加してもよい。触媒は、エピクロロヒドリンによってヒドロキシ基をエポキシ化する反応に用いられる公知の触媒が適用可能であり、例えばアンモニウム塩が好適である。アンモニウム塩としては、例えば、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルアンモニウムフルオライド、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。触媒の種類によって添加量は、適宜調整されるが、生成物C,Dの1モルに対して、好ましくは0.01〜1モル、より好ましくは0.02〜0.2モルである。
第3工程の反応は、例えば、室温〜200℃で、0.5〜10時間で終了させることができる。
第3工程によれば、通常収率75〜95質量%で前記エポキシ樹脂を得ることができる。
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[合成例1;化合物2a(生成物A)と化合物2b(生成物B)の混合物の合成]
フラスコ中でαフェランドレン10.2g、無水マレイン酸7.35g、アセトン60mlを混合し、40℃に加熱して7時間撹拌した。混合初期に黄色であった溶液は無色透明となった。加熱終了後、放冷して一晩放置したところ結晶が析出した。結晶をろ別して乾燥し、14.61gの白色結晶を得た。収率は83.1%であった。
[合成例2;化合物2c(生成物C)と化合物2d(生成物D)の混合物の合成]
フラスコ中に合成例1で得られた結晶12g、5%NaOH水溶液120gを投入し、室温で5時間撹拌した。その後10%HCl水溶液を添加し、白色結晶を析出させた。得られた白色結晶を酢酸エチルに溶解させて無水硫酸マグネシウムを加えて脱水した後、濃縮して結晶を析出させ、11.55gの白色結晶を得た。
[実施例1]
温度計、攪拌機を備えたフラスコにαフェランドレンと無水マレイン酸のDiels−Alder付加物の加水分解物(2cと2dの混合物)3.15g、エピクロロヒドリン23.13g、テトラブチルアンモニウムブロミド0.08gを投入し、85℃に加熱して3時間反応させた。その後40%NaOH水溶液3gをゆっくりと滴下して加えた後、さらに1時間反応させた。その後、30℃以下まで冷却して反応を終了した。
反応後の溶液に酢酸エチル25ml、イオン交換水25mlを添加して撹拌し、水相を除去した。その後有機相を食塩水25mlで三回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水した後、溶媒を留去して淡黄色液状エポキシ樹脂を得た。収量は3.65gであった。
(エポキシ当量)
上記で合成したエポキシ樹脂のエポキシ当量は、439であった。したがって、このエポキシ樹脂の前記式(1)中のnは2〜3であると考えられた。
[実施例2]
ビーカー中で、実施例1で合成したエポキシ樹脂1.19gと、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(MHHPA)0.45gと、2−メチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ)0.0009gと、0.7gのアセトンとを混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。
上記のエポキシ樹脂組成物を型枠にキャストし、60℃で乾燥後、120℃で1時間、さらに150℃で2時間加熱することによって、上記組成物が硬化してなるフィルム状硬化物を得た。
(ガラス転移温度)
上記の硬化物の一部を用いて測定したガラス転移温度Tgは92℃であった。
このTgは、前記JIS規格に準拠して、島津製作所製「DSC−60」を用い、アルゴン雰囲気中、昇温速度10℃/minで測定した。
(TG−DTA)
上記の硬化物の一部を用いてTG−DTA分析を行ったところ、5%重量減少温度は294℃(アルゴン中)、290℃(空気中)であった。
このTG−DTA分析は、島津製作所製「DTG−60」を用い、昇温速度20℃/minで測定した。
[比較合成例]
合成例1において、αフェランドレンをαテルピネンに変更した以外は同様にして反応を行った。Diels−Alder付加物が得られたものの、収率は46.5%と合成例1に比較してかなり低いものであった。
以上から、本発明にかかるエポキシ樹脂を製造する第1工程において、生成物A,Bを得る反応は40℃という低い温度で実用的な反応時間によって高収率で得られることが確認された。また、本発明にかかるエポキシ樹脂の硬化物は耐熱性に優れることが確認された。
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
本発明は、耐熱性部材、フィルム等の成形品の分野で広く利用可能である。

Claims (4)

  1. 下記式(1)で表されるエポキシ樹脂。
    Figure 2018184549
    [式(1)中、nは自然数を表し、全てのSMR1及びSMR2はそれぞれ独立に、上記式(1a)で表される構成単位、又は上記式(1b)で表される構成単位である。]
  2. 請求項1に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤及び硬化触媒のうち少なくとも一方と、を含むエポキシ樹脂組成物。
  3. 請求項1に記載のエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる成形品。
  4. αフェランドレンと無水マレイン酸とのディールス・アルダー反応によって下記式(2a)で表される生成物A及び下記式(2b)で表される生成物Bの少なくとも一方を得る工程と、
    前記生成物Aを加水分解することによって下記式(2c)で表される生成物Cを得る処理、及び、前記生成物Bを加水分解することによって下記式(2d)で表される生成物Dを得る処理のうち、少なくとも一方の処理を行う工程と、
    前記生成物C及び前記生成物Dの少なくとも一方とエピクロロヒドリンとを反応させて、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂を得る工程と、
    を有するエポキシ樹脂の製造方法。
    Figure 2018184549
    [式(1)中、nは自然数を表し、全てのSMR1及びSMR2はそれぞれ独立に、上記式(1a)で表される構成単位、又は上記式(1b)で表される構成単位である。]
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2024203425A1 (ja) * 2023-03-30 2024-10-03 日本化薬株式会社 環状酸無水物の混合物、その製造方法、硬化性樹脂組成物、およびこれらの硬化物

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