JP2018166503A - 果実の剥皮方法および果実 - Google Patents

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Abstract

【課題】クライマクテリック型の果実の外果皮を、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥くことができる果実の剥皮方法等を提供する。【解決手段】エチレンガスを注入した第1容器内又はエチレンガス発生手段からエチレンガスを発生させた第2容器内にクライマクテリック型の果実を収容するエチレン処理工程と、エチレン処理工程を実施した果実を加熱する加熱処理工程と、加熱処理工程を実施した果実を冷却する冷却処理工程と、冷却処理工程を実施した果実の外果皮組織を除去して剥皮果実を得る外果皮除去工程とを有する。【選択図】図1

Description

クライマクテリック型の果実の剥皮方法および果実に関する。
果実は、クライマクテリック型と非クリマクテリック型に分類することができる。クライマクテリック型の果実とは、成熟の際に呼吸量が著しく増大する現象が見られる果実のことであり、例えば、ナシ、カキ、リンゴ、モモ、アボカド、パパイヤ、バナナ、アンズ、メロン、マンゴー、トマト、キウイフルーツなどの果実が該当する。逆に呼吸量の増大が見られない非クライマクテリック型の果実には、ミカン、ブドウ、イチジク、イチゴ、サクランボ、スイカなどの果実が該当する。
近年の生活スタイルの変化(女性の社会進出、単身世帯の増加等)により食の簡便化、多様化が進展しており、果実については加工食品の需要は増加傾向にあるといわれている。特に、20歳代などの若年層ほど果実加工品を選択する傾向が強い。このため、果実加工品の市場は今後拡大していくと期待されるものの、加工果実は、果実及び果実加工品の総需要量の42%程度(生鮮果実が58%程度)に留まっているとの報告がなされている(「果樹をめぐる情勢」 平成29年1月 農林水産省)。
ここで、果実における加工利用の拡大を阻む要因の一つとして、果実の剥皮作業にかかる労力やコストが挙げられる。このため、カキ果実を容易に剥皮しようと試みたカキ果実の剥皮方法が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
特許文献1に記載されたカキ果実の剥皮方法は、カキ果実を加熱する加熱処理工程と、加熱処理工程によって加熱したカキ果実にペクチン質分解酵素を含浸させてカキ果実の外果皮組織を分解する酵素処理工程と、外果皮を除去手段により除去して外果皮が除去された果実を得る外果皮除去工程とを備えている。以下、外果皮が除去された果実を剥皮果実と称することがある。特許文献1に記載されたカキ果実の剥皮方法は、ペクチン質分解酵素の活性を阻害する阻害因子を加熱処理工程によって不活性化させることで、酵素処理工程におけるペクチン質分解酵素の分解作用を発揮させ、カキ果実を剥皮しやすくしようとする技術である。以下、果実に酵素を含浸させて剥皮する技術を、酵素剥皮技術と称することがあり、剥皮しやすさのことを剥皮性と称することがある。
さらに、特許文献1記載の酵素剥皮技術に対して、果実にペクチン質分解酵素を浸透しやすくする改良技術も提案されている(例えば特許文献2〜4等参照)。
特許文献2に記載されたカキ果実の剥皮方法は、加熱処理工程の前に、例えば剣山等でカキ果実の角皮に傷をつける角皮貫通処理工程を実施する方法であり、これによりペクチン質分解酵素を果実に浸透しやすくしようとする改良技術である。また、特許文献3に記載されたカキ果実の剥皮方法は、加熱処理工程の前にカキ果実を界面活性剤で処理することでペクチン質分解酵素を果皮組織に導入するための経路を確保し、これによりペクチン質分解酵素を果実に浸透しやすくしようとする方法である。さらに、特許文献1に記載された酵素剥皮技術は、カキ果実以外の果実にも一定の効果が認められており、特許文献4に記載された剥皮方法は、ナシ果実等のバラ科に属する植物の果実を対象としている。この剥皮方法は、弱アルカリ水溶液によって加熱処理工程を実施することでナシ果実等の表面を保護しているクチクラ層を弱体化し、これによりペクチン質分解酵素を果実に浸透しやすくしようとする技術である。
特許第3617042号公報 特許第4896651号公報 特許第5916116号公報 特許第5916123号公報
クライマクテリック型の果実は、成熟過程において植物ホルモンの一種であるエチレンの濃度が通常の1000倍以上も劇的に増加する性質をもっており、この性質のため、収穫後の貯蔵中に追熟を行うことができる。
果実が熟すると、果肉は柔らかくなり、外果皮を剥きやすくなる場合がある。クライマクテリック型の果実でも、追熟によって外果皮を剥きやすくなるように思えるが、カキ、ナシ、キウイフルーツ、モモ、リンゴ、アボカド、パパイヤ、トマト、アンズ、マンゴー等の果実では、適熟な状態になっても、道具を使わずに手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部(例えば、ヘタ部)まで連続して外果皮を剥くことは困難である。また、果実が熟すると果肉が柔らかくなって傷つけやすくなる。外果皮を果頂部から果底部まで連続して剥く途中で外果皮がちぎれてしまうと、残った外果皮をつまみ上げる際に果肉をすぐに傷つけてしまう恐れがある。
特許文献1記載の剥皮方法を、適熟となったカキ果実に対して実施しても、道具を使わずに手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して外果皮を剥くことは困難である。また、特許文献2〜4に記載された改良技術をさらに適用しても、同様に困難であることが確認されている。
本発明は上記事情に鑑み、クライマクテリック型の果実の外果皮を、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥くことができる果実の剥皮方法、および外果皮が、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥かれた果実を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記特許文献1〜4に代表される酵素剥皮技術では、酵素液をいかに果実に浸透させるかを主眼にして技術開発がなされ、剥皮性を向上させる果実側の条件についてはほとんど検討されてこなかった点に着目した。そこで、果実側の剥皮性を向上させる条件について検討した。
当初は熟度に目を付け検討を始めたが、検討を進めるうちに熟度が進んだ果実ほど剥皮しやすい傾向がある一方、同程度の熟度の果実でも剥けやすい果実と剥けにくい果実が存在し、果実側の条件としては熟度以外の素因が存在することを見いだした。さらに鋭意研究を進めた結果、剥皮性にはエチレンが大きく関与していること、さらには、剥皮性を向上させるためには、果実が生成するエチレンガスではなく、所定濃度のエチレンガスの雰囲気に果実をおき、エチレンを果実の外果皮側から作用させることが有効である点を見いだし、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、上記目的を解決する本発明の果実の剥皮方法は、
エチレンガスを注入した第1容器内又はエチレンガス発生手段からエチレンガスを発生させた第2容器内にクライマクテリック型の果実を収容するエチレン処理工程と、
前記エチレン処理工程を実施した前記果実を加熱する加熱処理工程と、
前記加熱処理工程を実施した前記果実を冷却する冷却処理工程と、
前記冷却処理工程を実施した前記果実の外果皮組織を除去して剥皮果実を得る外果皮除去工程とを有することを特徴とする。
ここで、前記エチレン処理工程では、前記第1容器又は前記第2容器内に前記果実を収容した後、該第1容器又は該第2容器内にエチレンガスを注入又は発生させてもよいし、該第1容器又は該第2容器内にエチレンガスを注入又は発生させた後、該第1容器又は該第2容器内に該果実を収容してもよい。また、全ての工程を連続して実施してもよいし、各工程の一部又は全部を所定時間間隔をあけて実施してもよい。例えば、前記エチレン処理工程を終了し、前記第1容器又は前記第2容器内から前記果実を取り出した後、前記加熱処理工程を開始するまで所定時間以上を間隔をあけてもよい。ここにいう所定時間とは例えば24時間であり、こうして所定時間以上間隔をあけ前記果実を大気中に放置する放置工程を設けてもよい。
また、前記加熱処理工程では、前記エチレン処理工程を実施した前記果実を、熱水等の高温液体に浸漬することで加熱してもよいし、熱水等の高温液体を噴霧して蒸すことで加熱してもよい。すなわち、果実の加熱方法は限定されるものではない。
本発明の果実の剥皮方法によれば、剥皮性が向上し、クライマクテリック型の果実の外果皮を、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥くことができる。この剥皮性の向上は、前記エチレン処理工程によってエチレンが果実の外果皮(例えばカキ果実の場合には、角皮、表皮および亜表皮の部分)に作用し、外果皮が剥がれやすくなったことによる作用と考えられる。また、前述したように同程度の熟度の果実でも剥けやすい果実と剥けにくい果実が存在すること、さらには後述するように、品種によっては前記エチレン処理工程を実施すると熟度が進む前であっても剥皮性が向上する場合があること等を考慮すると、該エチレン処理工程による、果実の外果皮へのエチレンの作用は、果実自身のエチレン生成量の増大に伴う成熟とは性質が異なると推察される。
また、本発明の果実の剥皮方法において、
前記エチレン処理工程で前記第1容器又は前記第2容器内に収容された後、最終的に、前記外果皮除去工程において外果皮組織が除去される果実が、クライマクテリック型の果実の中でも、難剥皮適熟果実であってもよい。
ここにいう難剥皮適熟果実とは、適熟な状態になっても、手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部(例えば、ヘタ部)まで連続して外果皮を剥くことが困難であり、ナイフ等の道具を用いる必要がある果実のことをいう。例えば、カキ、ナシ、キウイフルーツ、モモ、リンゴ、アボカド、パパイヤ、トマト、アンズ、マンゴー等を例示することができる。
ここで、本発明の作用効果について詳述する。果実は、食べ頃となった適熟な状態になれば、果実が柔らかくなっており、外果皮を剥くことは容易になる場合がある。ところで、クライマクテリック型の果実の一つであるリンゴは、エチレンを放出して、他のクライマクテリック型の果実が熟すことを促進させることが知られている。そのため、エチレンを付与すれば、クライマクテリック型の果実の熟度が進み、外果皮を剥くことが容易になる場合があると考えられる。しかしながら、適熟な状態になり、外果皮を剥くことが容易になったとしても、果頂部から果底部(例えば、ヘタ部)まで道具を使わずに手のみで連続して外果皮を剥くことまではできない果実が存在する。このような果実のことを、本発明では、上述のごとく「難剥皮適熟果実」と称するが、本発明の外果皮除去工程では、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して外果皮組織を除去することができる。
また、本発明の果実の剥皮方法において、
前記エチレン処理工程で前記第1容器又は前記第2容器内に収容された後、最終的に、前記外果皮除去工程において外果皮組織が除去される果実が、クライマクテリック型の果実の中でも、難剥皮適熟果実の一つである、カキノキ属の果実であってもよい。
例えば、富有、前川次郎、次郎、四ツ溝、立石といった品種のカキであってもよい。
また、本発明の果実の剥皮方法において、
前記エチレン処理工程が、カキノキ属の果実を、エチレン濃度が10ppm以上の前記第1容器又は前記第2容器内に24時間以上収容する工程であることが好ましい。
自然界において果実が生成したエチレンガスだけでは実現されにくい10ppm以上のエチレン濃度とすることによって剥皮性がより向上する。また、カキノキ属の果実の場合、前記第1容器又は前記第2容器内に収容する時間が24時間未満であると、剥皮性が十分に向上しない場合がある。
なお、剥皮性以外の面まで考慮すると、前記エチレン処理工程が、カキノキ属の果実を、温度が10℃以上30℃以下、エチレン濃度が10ppm以上1000ppm以下の前記第1容器又は前記第2容器内に24時間以上72時間以内の範囲で収容する工程であることが好ましい。温度が10℃以上の条件下で前記果実を前記第1容器又は前記第2容器内に収容する時間が72時間を超えると、剥皮果実が柔らかくなりすぎて実用性が落ちてしまう場合がある。なお、温度が10℃未満の、例えば冷蔵状態で前記エチレン処理工程を実施する場合には、前記果実を前記第1容器又は前記第2容器内に収容する時間が72時間を超えても、剥皮果実が柔らかくなりすぎてしまうといった不具合は生じにくい。また、30℃を超える条件下で前記エチレン処理工程を実施すると、果実の熟度が進みすぎることが懸念され好ましくない。また、前記第1容器又は前記第2容器内のエチレン濃度が1000ppmを越えても剥皮性の向上はほとんどみられないため、1000ppmを超えるエチレン濃度とする前記エチレン処理工程は、コスト的に不利になる。
また、本発明の果実の剥皮方法において、
前記エチレン処理工程で前記第1容器又は前記第2容器内に収容された後、最終的に、前記外果皮除去工程において外果皮組織が除去される果実が、クライマクテリック型の果実の中でも、難剥皮適熟果実の一つである、ナシ属の果実であってもよい。
例えば、西洋ナシであってもよいし、赤ナシや青ナシといった和ナシであってもよい。より具体的には、豊水、幸水、二十世紀といった品種のナシであってもよい。
また、本発明の果実の剥皮方法において、
前記エチレン処理工程が、ナシ属の果実を、エチレン濃度が10ppm以上の前記第1容器又は前記第2容器内に60時間以上収容する工程であることが好ましい。
自然界において果実が生成したエチレンガスだけでは実現されにくい10ppm以上のエチレン濃度とすることによって剥皮性がより向上する。また、ナシ属の果実であれば、前記第1容器又は前記第2容器内に収容する時間が60時間未満であると、剥皮性が十分に向上しない場合があり、96時間以上がより好ましい。
なお、剥皮性以外の面まで考慮すると、前記エチレン処理工程が、ナシ属の果実を、温度が10℃以上30℃以下、エチレン濃度が10ppm以上1000ppm以下の前記第1容器又は前記第2容器内に60時間以上168時間以内の範囲で収容する工程であることが好ましい。温度が10℃以上の条件下で前記果実を前記第1容器又は前記第2容器内に収容する時間が168時間を超えると、剥皮果実が柔らかくなりすぎて実用性が落ちてしまう場合がある。なお、温度が10℃未満の、例えば冷蔵状態で前記エチレン処理工程を実施する場合には、前記果実を前記第1容器又は前記第2容器内に収容する時間が168時間を超えても、剥皮果実が柔らかくなりすぎてしまうといった不具合は生じにくい。また、30℃を超える条件下で前記エチレン処理工程を実施すると、果実の熟度が進みすぎることが懸念され好ましくない。また、前記第1容器又は前記第2容器内のエチレン濃度が1000ppmを越えても剥皮性の向上はほとんどみられないため、1000ppmを超えるエチレン濃度とする前記エチレン処理工程は、コスト的に不利になる。
さらに、本発明の果実の剥皮方法において、
前記加熱処理工程が、前記果実を、95℃以上の熱水に20秒以上90秒以内の範囲で浸漬させる工程であることが好ましい。
前記熱水の温度が95℃未満であったり、前記果実を該熱水に浸漬させる時間が20秒未満であると、前記エチレン処理工程を実施しても剥皮性が十分に向上しない場合がある。一方、前記果実を前記熱水に浸漬させる時間が90秒を超えると、剥皮果実が柔らかくなりすぎて実用性が落ちてしまう場合がある。
また、本発明の果実の剥皮方法において、前記エチレン処理工程を実施した前記果実を、前記加熱処理工程の実施前に追熟する追熟工程を有する方法であってもよい。
特に、前記果実がキウイフルーツ果実等の場合には、前記追熟工程を実施することで剥皮性をより向上させることができる。
また、上記目的を解決する本発明の果実は、
本発明の果実の剥皮方法によって剥皮されたことを特徴とする。
本発明によれば、クライマクテリック型の果実の外果皮を、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥くことができる果実の剥皮方法を提供することができ、さらに、外果皮が、道具を用いる場合はもちろんのこと、道具を用いない場合であっても手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥かれた果実も提供することができる。
実施例1における剥皮途中の果実を示す写真である。 試験6における剥皮の様子を示す写真である。 (a)は、実施例8におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフであり、(b)は、比較例10におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフである。 (a)は、カキ‘四ツ溝’について行った実施例3におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフであり、同図(b)は、同じくカキ‘四ツ溝’について行った比較例5におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフである。 比較例11における、熟度(果皮色および弾性指標)が剥皮性に及ぼす影響を示すグラフである。 比較例12における、熟度(果皮色および弾性指標)が剥皮性に及ぼす影響を示すグラフである。
本発明が適用されるクライマクテリック型の果実としては、カキ果実、ナシ果実、キウイフルーツ果実、モモ果実、リンゴ果実、アボカド果実、パパイヤ果実、メロン果実、トマト果実、アンズ果実、マンゴー果実、バナナ果実等を例示することができる。これらの中でもカキ果実は、強固な角皮を有し剥皮作業に労力を要する点が問題視されており、本発明が有効である。また、ナシ果実は水に沈んでしまい、洗浄しながら自動で剥皮することができず、ナシ果実にも本発明が有効である。以下、クライマクテリック型の果実を、単に果実と称することがある。また、本発明を実施することにより得られた剥皮果実、すなわち本発明の果実の一実施形態に相当する果実は、適宜にカットすることでカットフルーツ等に利用できる。さらには、剥皮果実に二次加工を施して、ジャムや干し柿などを製造することができる。
本発明のエチレン処理工程は、エチレン濃度が所定濃度に設定された容器内に果実を収容できれば、その実施態様を問わない。例えば、容器内に果実を入れて密封した後、適宜の手段によって容器内にエチレンガスを注入してもよい。エチレンガスを注入した場合の容器は、第1容器の一例に相当する。また、エチレンガスを吸収したゼオライトを通気性包装材に封入した袋状エチレンガス発生剤等の一般的に市販されているエチレンガス発生剤を用い、このエチレンガス発生剤を入れた密閉容器に果実を収容する態様としてもよい。さらに、エチレンガス発生装置を容器内に設置し、このエチレンガス発生装置からエチレンガスを発生させてもよい。エチレンガスを容器内で発生させる場合の容器は、第2容器の一例に相当する。また、容器は密閉されるものであってもよいし、適宜の換気機能を有するものであってもよい。
容器内のエチレン濃度は、剥皮性のみに着目した場合には、上限値を考慮する必要はなく、10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましい。一方、剥離性以外にも着目する場合には、上限値も考慮し、10ppm以上1000ppm以下が好ましく、100ppm以上500ppm以下がより好ましい。容器内のエチレン濃度が1000ppmを越えても剥皮性の向上はほとんどみられないため、1000ppmを超えるエチレン濃度とする場合には、コスト的に不利になる。また、コスト的な面をさらに重視する場合には、500ppm以下であればよい。なお、一般的に市販されているエチレンガス発生剤を容器に入れておけば、容器内のエチレン濃度を250ppm〜500ppm程度に維持することができる。
本発明のエチレン処理工程を実施する時間、すなわち、果実を容器内に収容しておく時間は、温度が10℃以上30℃以下の条件下において剥皮性のみに着目した場合には、24時間以上が好ましい。最適な時間は果実毎に異なり、例えばカキ果実の場合には24時間以上よりも48時間以上の方が好ましい。また、ナシ果実の場合には60時間以上が好ましく、96時間以上がより好ましい。さらに、キウイフルーツ果実の場合には24時間以上が好ましい。また、果実を容器内に長時間収容し過ぎると剥皮果実が柔らかくなりすぎて実用性が落ちてしまうことがあり、このことまで考慮すると、果実を容器内に収容しておく時間は、カキ果実の場合には72時間以内が好ましく、キウイフルーツ果実の場合には36時間以内が好ましく、ナシ果実の場合には168時間以内が好ましい。
エチレン処理工程の後には加熱処理工程が実施されるが、エチレン処理工程と加熱処理工程の間に放置工程を設けてもよい。すなわち、エチレン濃度が所定濃度に設定された容器内から果実を取り出した後、その果実を大気中に放置しておいてもよい。例えば、果実を容器内に24時間収容した後、24時間以上大気中に放置し、その後、加熱処理工程を実施してもよい。
加熱処理工程は、例えば熱水、過熱スチーム、熱風などが挙げられるが、そのうち、熱水は容量あたりの顕熱が大きいことから短時間加熱に適しており利用もしやすい。熱水を用いる場合は、80℃以上が好ましく、95℃以上がより好ましい。また、果実を熱水に浸漬させる時間は、剥皮性の向上と剥皮果実の軟化の程度を考慮し、カキ果実の場合には20秒以上90秒以下が好ましく、30秒以上60秒以下がより好ましい。また、ナシ果実の場合には10秒以上45秒以下が好ましく、30秒以下に抑えることがより好ましいい。果実を熱水に浸漬させると、果実の種類によっては剥皮性が一段と向上する場合があり、このような果実では、熱水に浸漬させる時間が短すぎると、剥皮性の向上が不十分な場合がある。一方で、果実を熱水に浸漬させる時間が長すぎると、剥皮果実が柔らかくなりすぎて実用性が落ちてしまう場合がある。また、過熱スチームを用いて果実を蒸すようにしてもよい。なお、上記特許文献1記載のカキ果実の剥皮方法では、加熱処理工程によってカキ果実の角皮に亀裂を生じさせる必要があるが、本発明の加熱処理工程においては、角皮の亀裂は必ずしも必要ではない。
冷却処理工程の態様は限定されるものではなく、例えば、果実を氷水に浸漬する態様を用いてもよいし、流水によって冷却する態様としてもよい。また、加熱処理の影響を少なくするため、冷却処理工程は、加熱処理工程終了後、直ちに実施することが好ましい。
なお、冷却処理工程実施後、上記特許文献1に記載された酵素処理工程を実施してもよいが、詳しくは後述するように酵素処理工程を実施しなくても容易に剥皮できることが確認されている。このため、酵素処理工程を省略することにより酵素のコスト等を削減することが可能になる。また、特許文献2に記載された、角皮に傷を付ける作業や、特許文献3に記載された、界面活性剤による処理、あるいは特許文献4に記載された、弱アルカリ水溶液による加熱処理工程等の煩雑な作業や処理が不要になる。なお、酵素処理工程を実施する場合には、プロトペクチナーゼ等の酵素を用いた特許文献1記載の方法で実施すればよい。
外果皮除去工程の態様も特に限定されるものではないが、本発明の剥皮方法においては、包丁等の刃物を使用せずに素手で剥皮することができる。すなわち、道具を使わずに手のみによって、果肉を傷つけることなく外果皮を果頂部から果底部まで連続して剥くことができる。ただし、外果皮除去工程において、ロール等の剥皮装置を用いて外果皮を剥いてもよく、この場合であっても、外果皮を果頂部から果底部まで連続して剥くことができる。
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。以下に示す実施例では、本発明を適用可能なクライマクテリック型の果実のうち、カキ果実とナシ果実とキウイフルーツ果実を例に挙げて説明する。
(試験1 カキ‘富有’の果実)
静岡県浜松市北区において平成28年11月14日に収穫したカキ‘富有’の果実を用い、実施例1、実施例2、比較例1〜4を実施した。実施例および比較例の果実は各5果とし、いわゆる適熟の果実を使用した。ここにいう適熟の果実とは、今すぐ食べれる好適な状態まで熟した果実のことをいい、弾性指標で表すと10Hz2・g2/3・10−6以上15Hz2・g2/3・10−6以下の果実になる。ここでの弾性指標は、果肉硬度であって、外果皮の硬度は考慮されていない。以下、熟度の指標として弾性指標を用いる場合がある。この弾性指標は、小型振動測定装置(生物振動研究所社製)を使用し、第2共鳴周波数を用い、以下の式で算出した(EI(fnm)=fn2・m2/3 EI:弾性指標 fn:共鳴周波数 m:果実重)。なお、カキ‘富有’の果実は、カキ果実の中で剥皮が最も困難とされている品種である。
(実施例1)
カキ‘富有’の果実をデシケーターに収容しワセリンを塗布した密閉状態で、20℃、エチレン濃度100ppm、2日半(60時間)の処理条件でエチレン処理工程を実施した。
エチレン処理工程終了後、特に放置工程は入れずに加熱処理工程(95℃の熱水に60秒浸漬)を実施し、加熱処理工程実施後直ちに冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施した。
(実施例2)
実施例1と同じ条件の、エチレン処理工程、加熱処理工程および冷却処理工程を実施した後、酵素処理工程をさらに実施した。酵素処理工程は、上記特許文献1の手法を参考に実施した。すなわち、酵素としてプロトペクチナーゼIGA(IGAバイオリサーチ社製)を用い、処理濃度1%、処理時間3時間の処理条件で実施した。
(比較例1)
エチレン処理工程を実施しなかったこと以外は、実施例2と同じ工程を実施した。
(比較例2)
上記特許文献2の手法を参考に、加熱処理工程を実施する前の前処理として、剣山を用いて果実の角皮に傷を生じさせる角皮貫通処理工程を実施したこと以外は、比較例1と同じ工程を実施した。なお、角皮に生じさせる傷は、特許文献2と同様に、略円形状で1cm2あたりの数が40個〜50個、大きさ開口径が0.5mmφ程度とした。
(比較例3)
上記特許文献4の手法を参考に、加熱処理工程を、弱アルカリ水溶液の熱水で実施したこと以外は、比較例1と同じ工程を実施した。なお、弱アルカリ水溶液は、重曹を5.0%の割合で含むものとした。
(比較例4)
上記特許文献3の手法を参考に、加熱処理工程を実施する前の前処理として、カキ果実を界面活性剤に1日(24時間)浸漬させる界面活性剤処理工程を実施したこと以外は、比較例3と同じ工程を実施した。なお、界面活性剤には、特許文献3と同様に、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ノニオン系界面活性剤)の1000ppm水溶液を用いた。
実施例1、実施例2、比較例1〜4を実施した果実各5果について、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。ここにいう完全手剥きとは、道具を使わずに手のみによって、果肉を傷つけることなく果頂部から果底部まで連続して剥くことができることをいう(以下、同じ)。ここでの調査では、完全手剥きの剥皮程度として、剥けなかった場合を0とし、果頂部からヘタ部まで連続して全てが剥けた場合を10とする11段階で評価した。
表1は、実施例1、実施例2、比較例1〜4の各条件と完全手剥きの剥皮程度を示す表である。また、図1は、実施例1における剥皮途中の果実を示す写真である。
表1および図1に示すように、カキ果実の中で剥皮が最も困難なカキ‘富有’の果実であっても、エチレン処理工程を実施することによって、酵素処理工程の有無にかかわらず、完全手剥きが可能であった(実施例1、実施例2)。一方、エチレン処理工程を実施しない比較例1〜4については、特許文献1に記載された酵素処理工程を実施した場合のみならず、特許文献2の角皮傷付けや特許文献3の界面活性剤に浸漬させる前処理、さらには特許文献4に記載された弱アルカリ水溶液による加熱処理工程を実施しても、完全手剥きは困難であることが分かる。
(試験2 カキ‘四ツ溝’の果実)
(実施例3)
静岡県浜松市北区において平成28年10月25日および同年10月30日に収穫したカキ‘四ツ溝’の果実16果を用いた。これらの果実をデシケーターに収容しワセリンを塗布した密閉状態で、20℃、エチレン濃度100ppm、2日間(48時間)の処理条件でエチレン処理工程を実施した。
エチレン処理工程終了後、特に放置工程は入れずに加熱処理工程(95℃の熱水に30秒浸漬)を実施し、加熱処理工程実施後直ちに冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施した。
(比較例5)
実施例3と同じ‘四ツ溝’の果実16果を用い、エチレン処理工程に代えて室温(22.4℃)で2日間(48時間)静置した以外は実施例3と同じ工程を実施した。
実施例3および比較例5を実施した果実各16果についても、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。ここでの調査では、完全手剥きが可能であった果実の個数を数えた。ヘタ部に達する前に途中で外果皮がちぎれてしまった果実は、完全手剥きができなかった果実としてカウントした。実施例3と比較例5の完全手剥き性の結果を表2に示す。
表2に示すように、エチレン処理工程を実施した実施例3ではほとんどの果実について、完全手剥きが可能であったが、エチレン処理工程を実施していない比較例5では、完全手剥きは1つもできなかったことが分かる。
(試験3 カキ‘前川次郎’の果実)
(実施例4)
静岡県浜松市北区において平成28年11月7日に収穫したカキ‘前川次郎’の果実5果を用い、実施例3と同じ処理条件のエチレン処理工程を実施した。
エチレン処理工程終了後、特に放置工程は入れずに加熱処理工程(95℃以上の沸騰水に60秒浸漬)を実施し、加熱処理工程実施後直ちに冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施した。
(比較例6)
実施例4と同じカキ‘前川次郎’の果実5果を用い、エチレン処理工程に代えて室温(22.4℃)で2日間(48時間)静置した以外は実施例4と同じ工程を実施した。
実施例4および比較例6を実施した果実各5果についても、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。ここでの調査でも、実施例3及び比較例5の調査と同じように、完全手剥きが可能であった果実の個数を数えた。実施例4と比較例6の完全手剥き性の結果を表3に示す。
表3に示すように、エチレン処理工程を実施した実施例4では全ての果実につい完全手剥きが可能であったが、エチレン処理工程を実施していない比較例6では完全手剥きは1つもできなかったことが分かる。
なお、別途、エチレン処理工程の処理時間について検討してみた結果、18時間では、完全手剥きができない場合があると考えられる。一方、エチレン処理を72時間行っても、実用に耐える果肉の柔らかさであることが確認されている。しかしながら、84時間まで行うと、果肉が柔らかくなりすぎてしまう場合があると考えられる。
また、別途、エチレン処理工程におけるエチレン濃度についても検討してみた。ここでは、20℃の環境下で処理時間を2日間(48時間)に統一し、エチレン濃度1ppmの場合とエチレン濃度10ppmの場合とエチレン濃度1000ppmの場合について検討した。エチレン濃度1ppmでは完全手剥きができない場合があったが、エチレン濃度10ppmでは完全手剥きが可能であると考えられる。また、エチレン濃度1000ppmでも完全手剥きが可能であったが、果肉がかなり柔らかくなっており実用性に耐える限界の柔らかさであったと判断した。
(実施例5)
静岡県浜松市北区において、平成28年10月25日に収穫したカキ‘前川次郎’の果実7果と、同年11月1日に収穫したカキ‘前川次郎’の果実8果の計15果の果実を用いた。これらの果実に対し、実施例3と同じ条件のエチレン処理工程を実施した後、特に放置工程は入れずに実施例3と同じ条件の加熱処理工程と冷却処理工程を実施し、さらに、実施例2と同じ条件の酵素処理工程を実施した。
(比較例7)
実施例5と同じカキ‘前川次郎’の果実15果を用い、エチレン処理工程に代えて室温(21.7℃)で2日間(48時間)静置した以外は実施例5と同じ工程を実施した。
実施例5および比較例7を実施した果実各15果についても、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。ここでの調査でも、実施例3及び比較例5の調査と同じように、完全手剥きが可能であった果実の個数を数えた。実施例5と比較例7の完全手剥き性の結果を表4に示す。
上述した実施例4において、酵素処理工程を実施しなくても完全手剥きが可能である点は確認できているが、表4の実施例5に示すように、さらに酵素処理工程を実施しても完全手剥きが可能であることが分かる。なお、エチレン処理工程を実施しない比較例7は、酵素処理工程を実施しても全ての果実について完全手剥きを行うことができなかった。
(試験4 カキ‘次郎’の果実)
(実施例6)
静岡県浜松市北区において平成29年11月27日に収穫したカキ‘次郎’の果実5果を用い、実施例3と同じ処理条件のエチレン処理工程を実施した。
エチレン処理工程終了後、特に放置工程は入れずに加熱処理工程(95℃以上の沸騰水に60秒浸漬)を実施し、加熱処理工程実施後直ちに冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施した。
(比較例8)
実施例6と同じカキ‘次郎’の果実5果を用い、エチレン処理工程に代えて室温(22.4℃)で2日間(48時間)静置した以外は実施例6と同じ工程を実施した。
実施例6および比較例8を実施した果実各5果についても、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。ここでの調査でも、実施例3及び比較例5の調査と同じように、完全手剥きが可能であった果実の個数を数えた。実施例6と比較例8の完全手剥き性の結果を表5に示す。
表5に示すように、エチレン処理工程を実施した実施例6では全ての果実につい完全手剥きが可能であったが、エチレン処理工程を実施していない比較例8では完全手剥きは1つもできなかったことが分かる。
また、これまでの各試験ではカキノキ属の中の‘富有’、‘四ツ溝’、‘前川次郎’および‘次郎’といった各品種について試験を行ったが、カキノキ属の中の‘立石’についても、実施例3と同様にしてエチレン処理工程等を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。その結果、‘立石’でも、完全手剥きが可能であり、エチレン処理工程の効果が認められた。
(試験5 ナシ‘豊水’の果実)
(実施例7)
静岡県浜松市北区において平成29年9月8日に収穫したナシ‘豊水’の果実5果を用いた。これらの果実をデシケーターに収容しワセリンを塗布した密閉状態で、20℃、エチレン濃度100ppm、4日間(96時間)の処理条件でエチレン処理工程を実施した。
エチレン処理工程終了後、特に放置工程は入れずに加熱処理工程(95℃以上の沸騰水に30秒浸漬)を実施し、加熱処理工程実施後直ちに冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施した。
(比較例9)
実施例7と同じナシ‘豊水’の果実5果を用い、エチレン処理工程に代えて室温(22.4℃)で4日間(96時間)静置した以外は実施例6と同じ工程を実施した。
実施例7および比較例9を実施した果実各5果についても、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。ここでの調査でも、実施例3及び比較例5の調査と同じように、完全手剥きが可能であった果実の個数を数えた。実施例7と比較例9の完全手剥き性の結果を表5に示す。
表6に示すように、エチレン処理工程を実施した実施例7では全ての果実につい完全手剥きが可能であったが、エチレン処理工程を実施していない比較例9では完全手剥きは1つもできなかったことが分かる。
なお、別途、ナシ‘豊水’に対するエチレン処理工程の処理時間について検討してみた結果、24時間では、完全手剥きができない場合があった。一方、エチレン処理を144時間行っても、実用に耐える果肉の柔らかさであったが、168時間まで行うと、果肉が柔らかくなりすぎてしまう場合があった。
また、別途、ナシ‘豊水’に対するエチレン処理工程におけるエチレン濃度についても検討してみた。ここでの検討では、20℃の環境下で処理時間を4日間(96時間)に統一し、エチレン濃度1ppmの場合とエチレン濃度10ppmの場合を比較してみた。この結果、エチレン濃度1ppmでは完全手剥きができない場合があったが、エチレン濃度10ppmでは完全手剥きが可能であった。
さらに、別途、加熱処理の実施時間について検討してみた結果、ナシ果実を95℃以上の沸騰水に120秒浸漬させると、外果皮側の果肉が水浸状に変化し実用性が著しく落ちてしまうことがわかった。また、ナシ果実を95℃以上の沸騰水に60秒浸漬させた場合には、外果皮に接する果肉だけではあるが水浸状に変化し、実用性が落ちてしまう。ただし、45秒浸漬させた場合には、外果皮に接する果肉が水浸状に変化するものの、実用性性に耐え得ると考えられる。一方、ナシ果実を95℃以上の沸騰水に10秒浸漬させると、手剥きがより行いやすくなると考えられる。
また、実施例7と比較例9はナシ属の中の‘豊水’という赤ナシの品種における例であったが、ナシ属の中の、西洋ナシ、および‘二十世紀’という青ナシの品種についても、実施例7と同様にしてエチレン処理工程等を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。その結果、‘豊水’同様、西洋ナシでも‘二十世紀’でも、完全手剥きが可能であり、エチレン処理工程の効果が認められた。
(試験6 キウイフルーツ‘レインボーレッド’の果実)
静岡県清水区茂畑の静岡県農林技術研究所果樹研究センター露地圃場において平成28年9月26日に収穫したキウイフルーツ‘レインボーレッド’の果実を用い、実施例8および比較例10を実施した。
(実施例8)
キウイフルーツ‘レインボーレッド’の果実38果を冷蔵後、15℃、エチレン濃度100ppm、1日間(24時間)の処理条件でエチレン処理工程を実施した後、3日間、7日間、10日間、13日間、17日間、21日間と期間を変えて追熟を行った。その後、特に放置工程は入れずに加熱処理工程(95℃以上の熱水に30秒浸漬)を実施し、加熱処理工程実施後直ちに冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施した。
(比較例10)
キウイフルーツ‘レインボーレッド’の果実38果を冷蔵後、エチレン処理工程を実施しなかったこと以外は実施例8と同じ工程を実施した。
実施例8および比較例10を実施した果実各38果についても、外果皮除去工程を実施し、完全手剥きが可能かどうかを調査した。
図2は、試験6における剥皮の様子を示す写真である。図2(a)が、剥皮できた果実であり、同図(b)が剥皮できなかった果実である。
また、この試験6では、エチレン生成量を測定するとともに、熟度の指標として弾性指標(果肉硬度)を算出した。エチレン生成量は、20℃で1果ずつ容器に密閉し、容器内のガスを1ml採取してガスクロマトグラフ(GC2014:島津理化社製)で測定した。弾性指標は、試験1の説明で記した要領と同じ要領で算出した。
図3(a)は、実施例8におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフであり、同図(b)は、比較例10におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフである。また、図3では、完全手剥きができた果実を「〇」で示し、完全手剥きができなかった果実を「×」で示している。
図3(a)に示すように、エチレン処理工程を実施した実施例8では、弾性指標15Hz2・g2/3・10−6以下の果実は概ね完全手剥きができた一方、図3(b)に示すように、エチレン処理工程を実施しなかった比較例10では、弾性指標が低下しても完全手剥きができた果実はなかった。このことから、キウイフルーツ‘レインボーレッド’の果実においても、エチレン処理工程によって剥皮性が大幅に向上することがわかる。また、同じ熟度の果実であっても、エチレン処理工程の有無によって完全手剥きの可否が分かれることも分かる。なお、エチレン処理工程を実施した実施例8の果実と、エチレン処理工程を実施しない比較例10の果実とでは芳香が異なり、実施例8の果実でみられた果実芯部の軟化が比較例10ではみられなかった。
また、詳細は省略するが、本発明者らが、エチレンを生成する前の未熟なモモの果実においても試験6と同様の試験を実施した結果、キウイフルーツ‘レインボーレッド’の果実と同様の傾向がみられることが確認されている。
(その他の試験)
エチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)、さらには弾性指標とは別の熟度の指標としての果皮色について求めた例もあるので、以下に記す。
カキ‘四ツ溝’について行った実施例3では、エチレン処理工程終了後、試験6におけるエチレン生成量の測定と同じ要領でエチレン生成量を測定した。また、熟度の指標として弾性指標(果肉硬度)を、試験1の説明で記した要領と同じ要領で算出した。
図4(a)は、カキ‘四ツ溝’について行った実施例3におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフであり、同図(b)は、同じくカキ‘四ツ溝’について行った比較例5におけるエチレン生成量と弾性指標(果肉硬度)を示すグラフである。また、図4では、完全手剥きができた果実を「〇」で示し、完全手剥きができなかった果実を「×」で示している。
図4(a)および同図(b)に示すように、エチレン処理工程の有無による、エチレン生成量の増加や弾性指標の低下はみられなかった。以上のことから、実施例3では、エチレン処理工程が熟度に影響を与える前に、あるいはエチレン処理工程が熟度に影響を与えず、剥皮性が向上していることが分かる。
(比較例11)
静岡県浜松市北区において、平成28年10月4日、同年10月19日、同年10月30日と時期を変えて収穫したカキ‘四ツ溝’の果実、および同年10月30日に収穫し室温(平均22.3℃)で1週間、2週間および3週間貯蔵したカキ‘四ツ溝’の果実、計6つの時期のものを用いた(収時期ごとに8果ずつ、計48果)。これらの果実について、エチレン処理工程を実施せずに、実施例3と同じ条件で加熱処理工程と冷却処理工程を実施した後、上記特許文献1の手法を参考に酵素処理工程を実施した。すなわち、実施例2で行った酵素処理工程と同じ要領で酵素処理工程を実施した。その後、熟度の指標として弾性指標(果肉硬度)および果皮色を測定した。果皮色は、色彩色差計(TC1500SX:日本電色工業社製)を用いて赤道部の2か所を測定し、カキ用カラーチャート値に変換した。弾性指標は、試験1の説明で記した要領と同じ要領で算出した。その後、完全手剥きが可能かどうかを調査した。
表7は、比較例11における、収穫日と収穫後の日数が剥皮前の熟度(果皮色および弾性指標)および完全手剥きの可否に及ぼす影響を示す表である。図5は、比較例11における、熟度(果皮色および弾性指標)が剥皮性に及ぼす影響を示すグラフである。
表7および図5に示すように、上記特許文献1記載の酵素剥皮技術に基づく比較例11では、時期にともない熟度が進めば完全手剥きはできるものの、低い熟度(凡そ図5に示すカラーチャート値5以下)では剥皮することがほぼできなかった。また、実施例3では完全手剥きが可能であった弾性指標15Hz2・g2/3・10−6前後の果実であっても、比較例11では完全手剥きができなかった。比較例11の結果から、特許文献1記載の酵素剥皮技術では、熟度によって剥皮できない果実があることが分かる。
また、カキ‘前川次郎’について行った、実施例4においても比較例6においても、エチレン処理工程終了後、試験6におけるエチレン生成量の測定と同じ要領でエチレン生成量を測定した。
実施例4と比較例6のエチレン生成量の測定結果を表8に示す。
実施例4では比較例6に比べて、エチレン生成量が増加していることがわかる。
さらに、カキ‘前川次郎’については、エチレン処理工程におけるエチレン濃度の違いがエチレン生成量に及ぼす影響についてさらに詳しく確認した。20℃の環境下で処理時間を2日間(48時間)に統一し、エチレン濃度1ppmの場合と、エチレン濃度1000ppmの場合それぞれについてもエチレン生成量を確認した。その結果、エチレン濃度が100ppmであった実施例4の場合よりも、エチレン濃度1000ppmの場合の方がエチレン生成量が多く、エチレン濃度が高くなるにつれてエチレン生成量が増加することが確認できた。
また、カキ‘前川次郎’については、エチレン処理工程におけるエチレン濃度の違いが熟度に及ぼす影響についても確認した。20℃の環境下で処理時間を2日間(48時間)に統一し、エチレン濃度1ppmの場合と、エチレン濃度100ppmの場合と、エチレン濃度1000ppmの場合それぞれについて、熟度の指標として弾性指標(果肉硬度)および果皮色を測定した。弾性指標(果肉硬度)は、エチレン濃度1ppmに比べて、エチレン濃度100ppmおよびエチレン濃度1000ppmでは低下する傾向にあった。一方、果皮色については、エチレン濃度による差はほとんどなかった。
(比較例12)
静岡県浜松市北区において、平成28年10月25日、同年10月30日、同年11月7日と時期を変えて収穫したカキ‘前川次郎’の果実、および同年11月7日に収穫し室温で1週間および2週間貯蔵したカキ‘前川次郎’の果実、計5つの時期のものを用いた。これらの果実を用い、比較例11と同じ条件の、加熱処理工程、冷却処理工程および酵素処理工程を実施した後、熟度の指標として弾性指標(果肉硬度)および果皮色を測定した。その後、完全手剥きが可能かどうかを調査した。
表9は、比較例12における、収穫日と収穫後の日数が剥皮前の熟度(果皮色および弾性指標)および剥皮の可否に及ぼす影響を示す表である。図6は、比較例12における、熟度(果皮色および弾性指標)が剥皮性に及ぼす影響を示すグラフである。なお、収穫時期ごとに8果ずつの計40果の果実について試験を実施したが、11月7日に収穫後2週間貯蔵した果実8果のうち加熱処理工程の時点で崩壊するほど軟化した果実が2果あった。表9および図6では、崩壊するほど軟化した2果を除外した計38果の結果を示している。
表9および図6に示すように、カキ‘前川次郎’の果実は時期に伴って熟度が進むが、上記特許文献1に基づく酵素処理工程を実施した比較例12では、熟度が進んでも剥皮が困難であることが分かる。なお、剥皮できた果実はわずか2個であり、この2個の果実について、熟度との関係は判然としなかった。
(比較例13)
静岡県静岡市清水区茂畑の静岡県農林技術研究所果樹研究センター内における無加温ハウスで育成しているカキ‘前川次郎’に対して、果実の着色開始前の平成28年9月16日に400ppmの濃度のアブシジン酸(以下、ABAと称する。)を果実に噴霧処理(以下、ABA処理と称する。)した。ABA処理した果実8果を同年11月1日に収穫して室温(平均22.0℃)で2日間静置し、比較例11における果皮色の測定の要領と同じ要領で果皮色を測定した。測定後、加熱処理工程(95℃の熱水に30秒浸漬)および冷却処理工程(氷水に浸漬)を実施し、その後、完全手剥きが可能かどうかを調査した。また、剥皮直前にも、同じ要領で果皮色を測定し、さらに、試験1の説明で記した要領と同じ要領で弾性指標を算出した。なお、対照として、ABA処理を実施していないカキ‘前川次郎’の樹から収穫した果実8果について同様の方法で調査した。
表10は、比較例13において、ABA処理が剥皮前の果実品質に及ぼす影響を示す表である。表11は、比較例13において、ABA処理が剥皮性に及ぼす影響を示す表である。
表10に示すように、果皮色は、ABA処理によって着色が促進されるものの、弾性指標は、ABA処理による差はみられなかった。また、表11に示すように、ABA処理によっては、剥皮性は向上しないことが分かる。
以上、各実施例および各比較例について説明したが、各実施例では、完全手剥きを行うことができた。果実が熟すると、果肉は柔らかくなり、外果皮を剥きやすくなる場合があるが、図4(b)に示すカキ‘四ツ溝’の結果では、熟度の指標としての弾性指標(果肉硬度)が低下しても、すなわち熟度が進んでも、完全手剥きを行うことができないことがわかる。また、図6に示すカキ‘前川次郎’の結果でも、同様なことがわかる。図4(b)に示す結果も図6に示す結果も、エチレン処理工程を実施していない結果であるのに対し、図4(a)に示すカキ‘四ツ溝’の結果は、エチレン処理工程を実施した結果であり、完全手剥きを行うことが可能になっている。また、表3や表4から、カキ‘前川次郎’にエチレン処理工程を実施すると、完全手剥きを行うことが可能になることがわかる。さらに、図3に示す結果から、キウイフルーツ‘レインボーレッド’についても、エチレン処理工程を実施していなければ、熟度が進んでも完全手剥きを行うことはできないことがわかる。加えて、ナシ‘豊水’についても、エチレン処理工程を実施していなければ、熟度が進んでも完全手剥きを行うことはできないことが確認されている。これらのことから、熟度が進んでも完全手剥きを行うことが困難な果実であっても、エチレン処理工程を実施することで、完全手剥きを行うことができるようになる。といった効果を確認することができた。

Claims (10)

  1. エチレンガスを注入した第1容器内又はエチレンガス発生手段からエチレンガスを発生させた第2容器内にクライマクテリック型の果実を収容するエチレン処理工程と、
    前記エチレン処理工程を実施した前記果実を加熱する加熱処理工程と、
    前記加熱処理工程を実施した前記果実を冷却する冷却処理工程と、
    前記冷却処理工程を実施した前記果実の外果皮組織を除去して剥皮果実を得る外果皮除去工程とを有することを特徴とする果実の剥皮方法。
  2. 前記エチレン処理工程で前記第1容器又は前記第2容器内に収容された後、最終的に、前記外果皮除去工程において外果皮組織が除去される果実が、クライマクテリック型の果実の中でも、難剥皮適熟果実であることを特徴とする請求項1記載の果実の剥皮方法。
  3. 前記エチレン処理工程で前記第1容器又は前記第2容器内に収容された後、最終的に、前記外果皮除去工程において外果皮組織が除去される果実が、クライマクテリック型の果実の中でも、難剥皮適熟果実の一つである、カキノキ属の果実であることを特徴とする請求項2記載の果実の剥皮方法。
  4. 前記エチレン処理工程が、前記果実を、エチレン濃度が10ppm以上の前記第1容器又は前記第2容器内に24時間以上収容する工程であることを特徴とする請求項3記載の果実の剥皮方法。
  5. 前記加熱処理工程が、前記果実を、95℃以上の熱水に20秒以上90秒以内の範囲で浸漬させる工程であることを特徴とする請求項3又は4記載の果実の剥皮方法。
  6. 前記エチレン処理工程で前記第1容器又は前記第2容器内に収容された後、最終的に、前記外果皮除去工程において外果皮組織が除去される果実が、クライマクテリック型の果実の中でも、難剥皮適熟果実の一つである、ナシ属の果実であることを特徴とする請求項2記載の果実の剥皮方法。
  7. 前記エチレン処理工程が、前記果実を、エチレン濃度が10ppm以上の前記第1容器又は前記第2容器内に60時間以上収容する工程であることを特徴とする請求項6記載の果実の剥皮方法。
  8. 前記加熱処理工程が、前記果実を、95℃以上の熱水に10秒以上45秒以内の範囲で浸漬させる工程であることを特徴とする請求項6又は7記載の果実の剥皮方法。
  9. 前記エチレン処理工程を実施した前記果実を、前記加熱処理工程の実施前に追熟する追熟工程を有することを特徴とする請求項1から8のうちいずれか1項記載の果実の剥皮方法。
  10. 請求項1から9のうちいずれか1項記載の果実の剥皮方法によって剥皮されたことを特徴とする果実。
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