本発明の構成要素[A]である炭素繊維としては、繊維の形態や配列については限定されず、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、単一のトウ、織物、ニット、不織布、マットおよび組紐などの繊維構造物が用いられる。2種類以上の炭素繊維や、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などの他の強化繊維と組み合わせて用いても構わない。
炭素繊維としては、具体的にはアクリル系、ピッチ系およびレーヨン系等の炭素繊維が挙げられ、特に引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましく用いられる。
かかるアクリル系の炭素繊維は、例えば、次に述べる工程を経て製造することができる。アクリロニトリルを主成分とするモノマーから得られるポリアクリロニトリルを含む紡糸原液を、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法、または溶融紡糸法により紡糸する。紡糸後の凝固糸は、製糸工程を経て、プリカーサーとし、続いて耐炎化および炭化などの工程を経て炭素繊維を得ることができる。
炭素繊維の形態としては、有撚糸、解撚糸および無撚糸等を使用することができるが、有撚糸の場合は炭素繊維を構成するフィラメントの配向が平行ではないため、得られる炭素繊維強化複合材料の力学特性の低下の原因となることから、炭素繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスが良い解撚糸または無撚糸が好ましく用いられる。
本発明で用いる炭素繊維は、引張弾性率が200〜440GPaの範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張弾性率は、炭素繊維を構成する黒鉛構造の結晶度に影響され、結晶度が高いほど弾性率は向上する。この範囲であると炭素繊維強化複合材料に剛性、強度のすべてが高いレベルでバランスするために好ましい。より好ましい弾性率は、230〜400GPaの範囲内であり、さらに好ましくは260〜370GPaの範囲内である。炭素繊維の引張伸度は、0.8〜3.0%の範囲であることが好ましい。炭素繊維の引張伸度が低いと繊維強化複合材料としたときに十分な引張強度や耐衝撃性を発現できない場合がある。また、引張伸度が3%を超えると炭素繊維の引張弾性率は低下する傾向にある。より好ましい炭素繊維の引張伸度は、1.0〜2.5%であり、さらに好ましくは1.2〜2.3%の範囲である。ここで、炭素繊維の引張弾性率、引張伸度は、JIS R7601−2006に従い測定された値である。
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800S−24K、“トレカ(登録商標)”T300−3K、“トレカ(登録商標)”T700S−12K、および“トレカ(登録商標)”T1100G−24K(以上東レ(株)製)などが挙げられる。
本発明において用いられる炭素繊維は、単繊維繊度が0.2〜2.0dtexであることが好ましく、より好ましくは0.4〜1.8dtexである。単繊維繊度が0.2dtex未満では、撚糸時においてガイドローラーとの接触による炭素繊維の損傷が起こり易くなることがあり、また樹脂組成物の含浸処理工程においても同様の損傷が起こることがある。単繊維繊度が2.0dtexを超えると炭素繊維に樹脂組成物が充分に含浸されないことがあり、結果として耐疲労性が低下することがある。
本発明において用いられる炭素繊維は、一つの繊維束中のフィラメント数が2500〜50000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が2500本を下回ると繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。また、フィラメント数が50000本を上回るとプリプレグ作製時あるいは成形時に樹脂含浸が難しいことがある。フィラメント数は、より好ましくは2800〜40000本の範囲である。
炭素繊維は、繊維束として集束させるため、サイジング剤が用いられることがある。炭素繊維のサイジング剤としては、エポキシ基、水酸基、アクリレート基、メタクリレート基、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基からなる群から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するサイジング剤が好ましく用いられる。炭素繊維表面の官能基と、樹脂硬化物のポリマーネットワーク中の官能基との間で化学結合、あるいは水素結合などの相互作用を生じ、炭素繊維と樹脂硬化物との接着性を高めるからである。
サイジング剤の炭素繊維への付着量は、組み合わせるマトリックス樹脂により異なるが、炭素繊維に対して0.01〜5.00質量%が好ましく用いられる。付着量が0.01質量%よりも少ないと、サイジング剤としての機能が得られないことが多く、また付着量が5.00質量%を超えると、マトリックス樹脂の耐熱性などの機械物性を損なうことがある。
本発明の構成要素[B]は、下記一般式(1)で表される構造を有するエポキシ樹脂である。
一般式(1)中、Q1、Q2、Q3はそれぞれ群(I)より選択される1種の構造を含む。一般式(1)中のR1、R2はそれぞれ炭素数1〜6のアルキレン基を示す。一般式(1)中のZは各々独立に、炭素数1〜8の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜8の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基を示す。nは各々独立に0〜4の整数を示す。一般式(1)および群(I)中のY1、Y2、Y3はそれぞれ群(II)より選択される少なくとも1種の単結合又は2価の基からなる連結基を示す。
本発明における構成要素[B]は、いわゆるメソゲン構造を有するエポキシ樹脂である。構成要素[B]を含むエポキシ樹脂硬化物中では、メソゲン構造(ビフェニル基、ターフェニル基、ターフェニル類縁基、アントラセン基、これらがアゾメチン基、又はエステル基で接続された基等)に由来する高次構造(周期構造ともいう)が形成される。
ここでいう高次構造とは、エポキシ樹脂組成物の硬化後又は半硬化後に分子が配向配列している状態を意味し、例えば、硬化物中に結晶構造又は液晶構造が存在する状態を意味する。このような結晶構造又は液晶構造は、例えば、直交ニコル下での偏光顕微鏡による観察やX線散乱法による測定により、その存在を直接確認することができる。また、結晶構造又は液晶構造が存在するとエポキシ樹脂硬化物の貯蔵弾性率の温度に対する変化が小さくなるので、この貯蔵弾性率の変化を測定することにより、結晶構造又は液晶構造の存在を間接的に確認できる。
群(I)におけるZは、各々独立に、炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、炭素数1〜4の脂肪族アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、又はアセチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、又は塩素原子であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。群(I)におけるnは、各々独立に、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。
構成要素[B]中のメソゲン構造は、多い方と硬化後に樹脂は高次構造を形成し易いが、多過ぎると軟化点が高くなり、ハンドリング性が低下する。そのため、一般式(1)中のメソゲン構造の数は2つが特に好ましい。ここで、本発明における軟化点とは、JIS−K7234(1986)規定の環球法により、リングに注型した試料を浴槽中にて昇温し、試料にセットした球が光センサーを横切ったときの温度を示す。
一般式(1)中のQ1、Q2、Q3がベンゼン環を含むと、構成要素[B]の構造が剛直になるため高次構造形成し易くなり、靱性向上に有利となるため好ましい。また、一般式(1)中のQ1、Q2、Q3が脂環式炭化水素を含むと、軟化点が低くなりハンドリング性が向上するため、これも好ましい態様となる。構成要素[B]のエポキシ樹脂は、1種類単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
構成要素[B]は公知の方法により製造することができ、特許第4619770号公報、特開2005−206814、特開2010−241797、特開2011−98952号公報、特開2011−74366号公報等に記載の製造方法を参照することができる。
構成要素[B]の具体例としては、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{2−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{3−エチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{2−エチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{3−n−プロピル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{3−イソプロピル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−2−シクロヘキセン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−2−シクロヘキセン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−2,5−シクロヘキサジエン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−2,5−シクロヘキサジエン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1,5−シクロヘキサジエン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1,5−シクロヘキサジエン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1,4−シクロヘキサジエン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1,4−シクロヘキサジエン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1,3−シクロヘキサジエン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−1,3−シクロヘキサジエン、1,4−ビス{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}ベンゼン、1−{3−メチル−4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}−4−{4−(オキシラニルメトキシ)フェニル}ベンゼン、1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルベンゾエート}、1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエート}、1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンゾエート}、1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,6−ジメチルベンゾエート}、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2−メトキシ−1,4−フェニレン−ビス(4−ヒドロキシベンゾエート)、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルベンゾエート}、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエート}、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンゾエート}、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,6−ジメチルベンゾエート}、2,6−ジメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2,6−ジメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエート}、2,6−ジメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンゾエート}、2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2,6−ジメチルベンゾエート}、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエート}および2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンゾエート}、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)ベンゾエート}4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルベンゾエート、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエート、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−エチルベンゾエート、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)−2−イソプロピルベンゾエートおよび4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル 4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンゾエート、1,4−ビス{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1,4−ビス{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1−{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1,4−ビス{4−(4−メチル−4,5−エポキシペンチルオキシ)フェニル}−1−シクロヘキセン、1,4−ビス{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1−{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1,4−ビス{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1−{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}ベンゼン、1,4−ビス{4−(4−メチル−4,5−エポキシペンチルオキシ)フェニル}ベンゼン、1,4−ビス{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1−{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,4−ビス{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1−{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)−3−メチルフェニル}−4−{4−(5−メチル−3−オキサ−5,6−エポキシヘキシルオキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,4−ビス{4−(4−メチル−4,5−エポキシペンチルオキシ)フェニル}シクロヘキサンなどが挙げられ、中でも、硬化後の高次構造の形成、ハンドリング性、原料の入手容易性から、1−(3−メチル−4−オキシラニルメトキシフェニル)−4−(4−オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート、4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル4−(2,3−エポキシプロポキシ)−3−メチルベンゾエートが特に好ましい。
構成要素[B]は、その一部が硬化剤等により部分的に重合したプレポリマーを含んでもよい。構成要素[B]のエポキシ樹脂は一般に結晶化し易く、強化繊維に含浸させるためには高温を必要とするものが多い。構成要素[B]の少なくとも一部を重合させたプレポリマーを含むことは、結晶化が抑制させる傾向にあるためハンドリング性が良くなり、好ましい態様である。
構成要素[B]を部分的に重合する方法としては、三級アミン類やイミダゾール類といったアニオン重合触媒や、三フッ化ホウ素−アミン錯体等のルイス酸といったカチオン重合触媒により重合させても良いし、エポキシと反応可能な官能基を有するプレポリマー化剤を用いてもよい。構成要素[B]を部分的に重合する場合、製造するプレポリマーの分子量を制御し易いことから、プレポリマー化剤を用いた方法が好ましい。プレポリマーの分子量が大き過ぎると、炭素繊維強化複合材料内の樹脂の架橋密度が下がり、耐熱性や力学特性を損なう恐れがある。
構成要素[B]を部分的に重合するプレポリマー化剤としては、エポキシと反応可能な活性水素を2〜4個有する化合物であれば特に限定されない。例えば、フェノール化合物、アミン化合物、アミド化合物、スルフィド化合物、酸無水物が挙げられる。ここで、活性水素とは有機化合物において窒素、酸素、硫黄と結合していて、反応性の高い水素原子をいう。活性水素が1個の場合、プレポリマーを用いたエポキシ樹脂硬化物の架橋密度が低下するため、耐熱性や力学特性が低くなる恐れがある。活性水素基が5個以上になると、構成要素[B]をプレポリマー化する際に反応の制御が困難となり、ゲル化する恐れがある。プレポリマー化剤として、2〜3個の活性水素を有するフェノール化合物は、プレポリマー化反応中のゲル化抑制と、プレポリマーの貯蔵安定性から特に好適である。
2〜4個の活性水素を有するフェノール化合物の中でも、ベンゼン環を1〜2個有するフェノール化合物は、プレポリマー化した構成要素[B]の構造が剛直になるため高次構造形成し易くなり、靱性向上する傾向があることに加えて、プレポリマー、構成要素[B]、硬化剤を含む樹脂組成物の粘度を低く抑えることができ、ハンドリング性が良くなるため好適である。
2〜3個の活性水素を有するフェノール化合物としては、例えば、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールG、ビスフェノールZ、トリス(4−ヒドロキシフェニル)メタン及びこれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、ベンゼン環に炭素数1〜8のアルキル基等が置換した化合物が挙げられる。これらのフェノール化合物は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
構成要素[B]に含まれるプレポリマーの分子量は特に制限されない。樹脂組成物の流動性の観点から、数平均分子量は15000以下であることが好ましく、10000以下であることが好ましく、350〜5000であることがさらに好ましい。本発明の数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー、SEC:size exclusion chromatographyともいう)により、標準ポリスチレンを用いた換算分子量を示す。また、本願のプリプレグ、炭素繊維複合材料に含まれる構成要素[B]全体の数平均分子量は、10000以下であることが好ましく、5000以下であることが好ましく、250〜3500であることがさらに好ましい。ここでいう数平均分子量は、[B]のモノマーとプレポリマーの分子量差が大きく、GPCでのピークが2本以上に分かれる場合は、[B]に由来するすべてのピークから測定された値をいう。
構成要素[B]を部分的に重合してプレポリマー化する方法としては、特に制限はないが、例えば、合成溶媒中に構成要素[B]、上記プレポリマー化剤を溶解し、熱をかけながら撹持して合成することができる。プレポリマー化反応時にゲル化をしない範囲において、触媒を用いても良い。溶媒を使用せずに合成することは可能であるが、構成要素[B]は融点が高く、無溶媒ではプレポリマー化反応に高温を必要とするため、安全性の観点から合成溶媒を使用した合成法が好ましい。
構成要素[B]がプレポリマーを含むと結晶化が抑制させる傾向にあるためハンドリング性が良くなるが、含有量が多すぎると、構成要素[B]と硬化剤を含む樹脂組成物の溶融粘度が高くなり過ぎてしまい、強化繊維への含浸が難しくなる恐れがある。構成要素[B]がプレポリマーを含む場合、その含有量は構成要素[B]とプレポリマーの合計100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは5〜60質量部の範囲である。前述のGPCあるいはHPLC(High performance Liquid chromatography)測定におけるマトリックス樹脂中の全エポキシ樹脂由来ピークの面積に占めるプレポリマー由来のピーク面積の割合(プレポリマー由来のピーク面積/マトリックス樹脂中の全エポキシ樹脂由来のピーク面積)では、好ましくは0.80以下であり、より好ましくは0.05〜0.60の範囲である。
本発明のプリプレグのうち、少なくとも構成要素[B]と構成要素[C]を含み、構成要素[A]を除く他の全ての成分を、以下では「エポキシ樹脂組成物」と呼称する。また、エポキシ樹脂組成物は、特に区別して説明する場合、「構成要素[A]を除く他の全ての成分からなるエポキシ樹脂組成物」と呼称することもある。本発明のエポキシ樹脂組成物は、後述するとおり、例えば構成要素[B]に分散可能な熱可塑性樹脂やフィラーを含む場合もある。
本発明のエポキシ樹脂組成物としては、180℃未満の温度で結晶相から液晶相あるいは等方性液体に転移するものが好ましい。結晶相から液晶相あるいは等方性液体に転移する温度が180℃未満であることにより、炭素繊維強化複合材料を成形する際に樹脂の流動性が向上し、炭素繊維への含浸性が向上するため、ボイド等の欠陥が少ない炭素繊維強化複合材料を得やすくなる。
本発明においては、構成要素[B]の他のエポキシ樹脂や熱硬化性樹脂、エポキシ樹脂と熱硬化性樹脂の共重合体等を含んでも良い。上記の熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂組成物や化合物は、単独で用いてもよいし適宜配合して用いてもよい。少なくとも[B]の他のエポキシ樹脂や熱硬化性樹脂を配合することは、樹脂の流動性と硬化後の耐熱性を兼ね備えるものとする。
[B]以外のエポキシ樹脂として用いられるエポキシ樹脂のうち、2官能のエポキシ樹脂としては、フェノールを前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ヒダントイン型およびレゾルシノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、低粘度であるために、他のエポキシ樹脂と組み合わせて使うことが好ましい。
また、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂に比較し架橋密度の低い構造を与えるため耐熱性は低くなるが、より靭性の高い構造が得られるため、グリシジルアミン型エポキシ樹脂や液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂と組み合わせて用いられる。
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、低吸水率かつ高耐熱性の硬化樹脂を与える。また、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂も、低吸水率の硬化樹脂を与えるため好適に用いられる。ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靱性と伸度の高い硬化樹脂を与える。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”825(三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”850(DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YD−128(東都化成(株)製)、およびDER−331やDER−332(以上、ダウケミカル社製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807および“jER(登録商標)”1750(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830(DIC(株)製)および“エポトート(登録商標)”YD−170(東都化成(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デコナール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型のエポキシ樹脂市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル型エポキシ樹脂の市販品としては、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ウレタン変性エポキシ樹脂の市販品としては、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)などが挙げられる。
ヒダントイン型のエポキシ樹脂市販品としては、AY238(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
[B]以外のエポキシ樹脂として用いられるエポキシ樹脂のうち、3官能以上のグリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン型、ジアミノジフェニルスルホン型、アミノフェノール型、メタキシレンジアミン型、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン型、イソシアヌレート型等のエポキシ樹脂が挙げられる。中でも物性のバランスが良いことから、ジアミノジフェニルメタン型とアミノフェノール型のエポキシ樹脂が特に好ましく用いられる。
また、3官能以上のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型およびテトラフェニロールエタン型等のエポキシ樹脂が挙げられる。
3官能以上のエポキシ樹脂の市販品としてジアミノジフェニルメタン型のエポキシ樹脂は、ELM434(住友化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、“アラルダイト(登録商標)”MY721、“アラルダイト(登録商標)”MY9512、“アラルダイト(登録商標)”MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、および“エポトート(登録商標)”YH−434(東都化成(株)製)などが挙げられる。
メタキシレンジアミン型のエポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD−X(三菱ガス化学社製)が挙げられる。
1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン型のエポキシ樹脂の市販品としては、TETRAD−C(三菱ガス化学社製)が挙げられる。
イソシアヌレート型のエポキシ樹脂の市販品としては、TEPIC−P(日産化学社製)が挙げられる。
トリスヒドロキシフェニルメタン型のエポキシ樹脂市販品としては、Tactix742(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)が挙げられる。
テトラフェニロールエタン型のエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”1031S(ジャパンエポキシレジン(株)製)が挙げられる。
アミノフェノール型のエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”630(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および“アラルダイト(登録商標)”MY0510(ハンツマン(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(ハンツマン(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0610(ハンツマン(株)製)、などが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、DEN431やDEN438(以上、ダウケミカル社製)および“jER(登録商標)”152(ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
オルソクレゾールノボラック型のエポキシ樹脂の市販品としては、EOCN−1020(日本化薬社製)や“エピクロン(登録商標)”N−660(DIC(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200(DIC(株)製)などが挙げられる。
構成要素[B]、[C]を含む本発明の樹脂組成物が、構成要素[B]および構成要素[B]に含まれるプレポリマー以外のエポキシ樹脂や熱硬化性樹脂を含有する場合、その配合量は、構成要素[B]および構成要素[B]からなるプレポリマー、その他のエポキシ樹脂(熱硬化性樹脂)の合計100質量部に対して、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。
本発明の構成要素[C]の硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤であり、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物である。硬化剤としては、具体的には、例えば、ジシアンジアミド、芳香族ポリアミン、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸アミド、有機酸ヒドラジド、ポリメルカプタンおよび三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
芳香族ポリアミンを硬化剤として用いることにより、耐熱性の良好なエポキシ樹脂硬化物が得られるため好ましい。芳香族ポリアミンの中でも、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な繊維強複合材料を得るため特に好ましい硬化剤である。
また、ジシアンジアミドと尿素化合物、例えば、3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレアとの組合せ、あるいはイミダゾール類を硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながら高い耐熱耐水性が得られる。酸無水物を用いてエポキシ樹脂を硬化することは、アミン化合物硬化に比べ吸水率の低い硬化物を与える。その他、これらの硬化剤を潜在化したもの、例えば、マイクロカプセル化したものを用いることにより、プリプレグの保存安定性、特にタック性やドレープ性が室温放置しても変化しにくい。
硬化剤の添加量の最適値は、エポキシ樹脂と硬化剤の種類により異なる。例えば、芳香族ポリアミン硬化剤では、化学量論的に当量となるように添加することが好ましいが、エポキシ樹脂のエポキシ基量に対する芳香族アミン硬化剤の活性水素量の比を0.7〜1.0とすることにより、当量で用いた場合より高弾性率樹脂が得られることがあり、好ましい態様である。一方、エポキシ樹脂のエポキシ基量に対する芳香族ポリアミン硬化剤の活性水素量の比を1.0〜1.6とすると、硬化速度の向上に加えて、高伸度樹脂が得られることがあり、これも好ましい態様である。したがって、エポキシ樹脂のエポキシ基量に対する硬化剤の活性水素量の比は、0.7〜1.6の範囲が好ましい。
芳香族ポリアミン硬化剤の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミドの市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。ジシアンジアミドの誘導体は、ジシアンジアミドに各種化合物を結合させたものであり、エポキシ樹脂との反応物、ビニル化合物やアクリル化合物との反応物などが挙げられる。
各硬化剤は、硬化促進剤や、その他のエポキシ樹脂の硬化剤と組み合わせて用いても良い。組み合わせる硬化促進剤としては、ウレア類、イミダゾール類、ルイス酸触媒などが挙げられる。
かかるウレア化合物としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土ヶ谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上CVC SpecialtyChemicals,Inc.製)などが挙げられる。
イミダゾール類の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成(株)製)などが挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素・ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素・モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素・トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素・オクチルアミン錯体などの、ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。
有機酸ヒドラジド化合物としては、硬化促進性と保存安定性から3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸ヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボジヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、および、イソフタル酸ジヒドラジド等を好ましく挙げることができる。これらの有機酸ヒドラジド化合物は、必要に応じて2種類以上を混合して配合して使用してもよい。有機酸ヒドラジド化合物の市販品としては、2,6−ナフタレンジカルボジヒドラジド((株)日本ファインケム製)、イソフタル酸ジヒドラジド(大塚化学(株)製)などが挙げられる。
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や保存安定性向上に有効な場合がある。
本発明においては、上記の構成要素[B]、[C]を含むエポキシ樹脂組成物に、熱可塑性樹脂を混合または溶解させて用いることもできる。熱可塑性樹脂を用いることで、得られるプリプレグのタック性の制御、炭素繊維強化複合材料を成形する時のマトリックス樹脂の流動性の制御することができるため、好ましく用いられる。このような熱可塑性樹脂としては、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、この熱可塑性樹脂は、部分的に架橋構造を有していても差し支えなく、結晶性を有していても非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の樹脂が、上記のエポキシ樹脂組成物に含まれるいずれかのエポキシ樹脂に混合または溶解していることが好適である。
中でも、良好な耐熱性を得るためには、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が少なくとも150℃以上であり、170℃以上であることが好ましい。配合する熱可塑性樹脂のガラス転移温度が、150℃未満であると、成形体として用いた時に熱による変形を起こしやすくなる場合がある。さらに、この熱可塑性樹脂の末端官能基としては、水酸基、カルボキシル基、チオール基、酸無水物などのものがカチオン重合性化合物と反応することができ、好ましく用いられる。具体的には、ポリエーテルスルホンの市販品である“スミカエクセル(登録商標)”PES3600P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、“スミカエクセル(登録商標)”PES5200P、“スミカエクセル(登録商標)”PES7600P(以上、住友化学工業(株)製)、Virantage(登録商標)”VW−10200RFP、“Virantage(登録商標)”VW−10700RFP(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)などを使用することができ、また、特表2004−506789号公報に記載されるようなポリエーテルスルホンとポリエーテルエーテルスルホンの共重合体オリゴマー、さらにポリエーテルイミドの市販品である“ウルテム(登録商標)”1000、“ウルテム(登録商標)”1010、“ウルテム(登録商標)”1040(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)などが挙げられる。オリゴマーとは10個から100個程度の有限個のモノマーが結合した比較的分子量が低い重合体を指す。
また、本発明においては、上記の構成要素[B][C]を含むエポキシ樹脂組成物に、さらにエラストマーを配合してもよい。かかるエラストマーは、硬化後のエポキシマトリックス相内に微細なエラストマー相を形成させる目的で配合される。これにより、樹脂硬化物への応力負荷時に生じる平面歪みを、エラストマー相の破壊空隙化(キャビテーション)により解消することができ、エポキシマトリックス相の塑性変形が誘発される結果、大きなエネルギー吸収を引き起こし、炭素繊維強化複合材料としての更なる層間靭性の向上に繋がる。
エラストマーとは、ガラス転移温度が20℃より低いドメインを有するポリマー材料のことであり、液状ゴム、固形ゴム、架橋ゴム粒子、コアシェルゴム粒子、熱可塑性エラストマー、ガラス転移温度が20℃より低いブロックを有するブロック共重合体などが挙げられる。中でも、エラストマーとしては、ガラス転移温度が20℃以下のブロックを含むブロック共重合体およびゴム粒子から選ばれたものが好ましい。これにより、エポキシ樹脂へのエラストマーの相溶を最小限に抑えつつ、微細なエラストマー相を導入できることから、耐熱性や弾性率の低下を抑えつつ、炭素繊維強化複合材料としての層間靭性を大きく向上させることができる。
ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。かかるゴム粒子の一次粒子径は、50〜300μmの範囲にあることが好ましく、特に80〜200μmの範囲にあることが好ましい。また、かかるゴム粒子は使用するエポキシ樹脂との親和性が良好であり、樹脂調製や成形硬化の際に二次凝集を生じないものであることが好ましい。
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(日本合成ゴム工業(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(新日鐵住金化学(株)製)等を使用することができる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655((株)クレハ製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL−2611、EXL−3387(Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MXシリーズ(カネカ(株)製)等を使用することができる。
本発明においては、本発明のエポキシ樹脂組成物に熱可塑性樹脂粒子を配合することも好適である。熱可塑性樹脂粒子を配合することにより、炭素繊維強化複合材料としたときに、マトリックス樹脂の靱性が向上し耐衝撃性が向上する。
本発明で用いられる熱可塑性樹脂粒子の素材としては、エポキシ樹脂組成物に混合または溶解して用い得る熱可塑性樹脂として、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。炭素繊維強化複合材料とした時に安定した接着強度や耐衝撃性を与える観点から、粒子中で形態を保持するものであることが好ましい。中でも、ポリアミドは最も好ましく、ポリアミドの中でも、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66やポリアミド6/12共重合体、特開2009−221460号公報の実施例1〜7に記載のエポキシ化合物においてセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などを好適に用いることができる。この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状が、樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。
ポリアミド粒子の市販品としては、SP−500、SP−10、TR−1、TR−2、842P−48、842P−80(以上、東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”1002D、2001UD、2001EXD、2002D、3202D、3501D,3502D、(以上、アルケマ(株)製)、“グリルアミド(登録商標)”TR90(エムザベルケ(株)社製)、“TROGAMID(登録商標)”CX7323、CX9701、CX9704、(デグサ(株)社製)等を使用することができる。これらのポリアミド粒子は、単独で使用しても複数を併用してもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、カップリング剤や、熱硬化性樹脂粒子、エポキシ樹脂に溶解可能な熱可塑性樹脂、あるいはシリカゲル、カーボンブラック、クレー、カーボンナノチューブ、金属粉体といった無機フィラー等を配合することができる。
本発明のプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料は、強化繊維として炭素繊維が好ましく、その炭素繊維質量分率は好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる炭素繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
炭素繊維質量分率の測定方法は、例えば、プリプレグの場合、100mm×100mmのプリプレグの質量をあらかじめ計量しておき、当該プリプレグの樹脂組成物を、有機溶剤を用いて溶解除去し、150℃で1時間乾燥して得られた炭素繊維の質量からプリプレグの質量との差を取って求めた熱硬化性樹脂の質量を、プリプレグの質量で除して百分率で表した値を用いることができる。また、炭素繊維複合材料の炭素繊維質量分率は、例えば、JIS K7075(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法、1991年)に準拠して求められる。
本発明のプリプレグは、本発明のエポキシ樹脂組成物を、メチルエチルケトンやメタノール等の溶媒に溶解して低粘度化し、強化繊維に含浸させるウェット法と、エポキシ樹脂組成物を加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法等によって好適に製造することができる。
ウェット法は、強化繊維をエポキシ樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発せしめ、プリプレグを得る方法である。
ホットメルト法は、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、またはエポキシ樹脂組成物を離型紙等の上にコーティングした樹脂フィルムを作製しておき、次に強化繊維の両側または片側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することによりエポキシ樹脂組成物を転写含浸せしめ、プリプレグを得る方法である。このホットメルト法では、プリプレグ中に残留する溶媒が実質的に皆無となるため好ましい態様である。
ホットメルト法でプリプレグを作製する場合、樹脂組成物の粘度としては、後述する方法で測定される最低粘度で0 .01〜30Pa・sとすることが好ましい。ここでいう樹脂組成物の最低粘度とは、パラレルプレートを使用した動的粘弾性測定装置(ARES,TA Instruments製)を使用し、温度を2℃/分の速度で昇温させながら周波数0.5Hz、およびプレート間隔1mmの条件で測定した複素粘度η*について、40〜180℃の温度範囲での最も低い値を示す。また、エポキシ樹脂組成物を離型紙や離型フィルムの上にコーティングした樹脂フィルムを作製しておき、次に強化繊維の両側または片側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することによりエポキシ樹脂組成物を転写含浸せしめ、プリプレグを得る方法をとる場合、構成要素[A]を除く他の全ての成分からなるエポキシ樹脂組成物の粘度は、70℃において0.1〜10000Pa・sとすることが好ましく、0.5〜1000Pa・sとすることがさらに好ましい。この粘度範囲とすることで、均一な樹脂目付量の樹脂フィルムを作製しやすくなることに加えて、比較的低温でプリプレグを製造できるため、工程中での硬化反応の進行を抑えてプリプレグを長寿命化することができる。
本発明のプリプレグは、ボイド等の欠陥が少ない炭素繊維強化複合材料を得やすくなるため、強化繊維への樹脂組成物の含浸率は高い方が好ましい。
含浸率の測定方法としては、特に制限はなく、例えば以下に示す簡便な方法で測定することができる。まず、プリプレグの断面観察を行い顕微鏡写真から空隙の総面積を計算して強化繊維の面積で除する方法、プリプレグの23℃での厚みh0とそれをプレス成形した後の23℃での厚みhc0との比(hc0/h0)から求める方法、また各材料の使用割合から求めた理論密度とプリプレグの嵩密度との比から求める方法などが例示できる。ここでは、プリプレグの厚み方向断面を観察して、断面における空隙部分の面積と断面全体の面積とを測定して算出する方法を具体的に説明する。すなわち、プリプレグをエポキシなどの熱硬化性樹脂で包埋し、プリプレグの断面端部にあたる面を研磨し、幅500〜1000μm程度の範囲を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察し、コントラスト比において、樹脂が含浸している部位と、樹脂が含浸していない部位の面積を求め、次式により樹脂含浸率を算出する方法である。
樹脂含浸率(%)=100×(樹脂が含浸している部位の総面積)/(プリプレグの観察部位の断面積)。
強化繊維への含浸率は、より好ましくは90〜100%である。
プリプレグは、単位面積あたりの炭素繊維量が50〜1000g/m2であることが好ましい。かかる炭素繊維量が50g/m2未満では、炭素繊維強化複合材料成形の際に所定の厚みを得るために積層枚数を多くする必要があり、作業が繁雑となることがある。一方で、炭素繊維量が1000g/m2を超えると、プリプレグのドレープ性が悪くなる傾向にある。 プリプレグは、連続的なテープ、トウプレグ、ウェブ、又は細断された長さ(細断及びスリット作業は、含浸後任意の時点で行うことができる)の形態であってよい。プリプレグは、接着性又は表面フィルムを表面に含むことができる。
プリプレグの積層法としては、ハンドレイアップ法、ATL(Automated Tape Layup)法、AFP(Automated Fiber Placement)法などが挙げられるが、特に制限は設けない。航空機や自動車のような大型複合材料を製造する場合には、ハンドレイアップよりも生産性に優れるATL法やAFP法といった自動積層法が好適に用いられる。中でもAFP法は、プリプレグを繊維方向にテープ状に切断したスリットテーププリプレグを積層する手法であり、曲面の多い部品を製造することに適している。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、上述した本発明のプリプレグを所定の形態で積層し、加圧・加熱して成形する方法を一例として製造することができる。熱および圧力を付与する方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法等が使用される。特にスポーツ用品の成形には、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく用いられる。
ラッピングテープ法は、マンドレル等の芯金にプリプレグを捲回して、炭素繊維強化複合材料製の管状体を成形する方法であり、ゴルフシャフトや釣り竿等の棒状体を作製する際に好適な方法である。より具体的には、マンドレルにプリプレグを捲回し、プリプレグの固定および圧力付与のため、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを捲回し、オーブン中でエポキシ樹脂を加熱硬化させた後、芯金を抜き去って管状体を得る方法である。
また、内圧成形法は、熱可塑性樹脂製のチューブ等の内圧付与体にプリプレグを捲回したプリフォームを金型中にセットし、次いでその内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力を付与すると同時に金型を加熱せしめ、管状体を成形する方法である。この内圧成形法は、ゴルフシャフト、バット、およびテニスやバトミントン等のラケットのような複雑な形状物を成形する際に、特に好ましく用いられる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、前記したエポキシ樹脂組成物を用いて、プリプレグを経由しない方法によっても製造することができる。
このような方法としては、例えば、構成要素[B][C]を含む本発明の樹脂組成物を直接炭素繊維に含浸させた後加熱硬化する方法、即ち、ハンド・レイアップ法、フィラメント・ワインディング法、プルトルージョン法や、あらかじめ部材形状に賦形した連続繊維基材にマトリックス樹脂を含浸および硬化させるレジン・フィルム・インフュージョン法、レジン・インジェクション・モールディング法およびレジン・トランスファー・モールディング(RTM)法等が用いられる。
本発明によるエポキシ樹脂組成物は、RTM法に関する総説(SAMPE Journal,Vol.34,No.6,pp7−19)に挙げられている、VARTM(Vaccum−assisted ResinTransfer Molding)、VIMP(Variable Infusion Molding Process)、TERTM(Thermal Expansion RTM)、RARTM(Rubber−Assisted RTM)、RIRM(Resin Injection Recirculation Molding)、CRTM(Continuous RTM)、CIRTM(Co−injection Resin Transfer Molding)、RLI(Resin Liquid Infusion)、SCRIMP(Seeman’s Composite Resin Infusion Molding Process)等の成形法にも好適に用いられる。
RTM法で、炭素繊維強化複合材料を製造する場合、好ましい成形方法としては、型内に配置した強化繊維基材からなるプリフォームに、構成要素[B][C]を含む本発明の樹脂組成物を、好適には40〜120℃の範囲での任意温度において注入する。そのため、該樹脂組成物の[B]と[C]を混合してから5分以内の粘度は70℃において10Pa・s以下であることが好ましく、より好ましい粘度は1Pa・s以下である。ここでいう粘度は、パラレルプレートを使用した動的粘弾性測定装置(ARES,TA Instruments製)を使用し、温度を2℃/分の速度で昇温させながら周波数0.5Hz、およびプレート間隔1mmの条件で測定した複素粘度η*を示す。混合開始から5分以内の粘度が上記の範囲より高いとエポキシ樹脂組成物の含浸性が不十分になることがある。70℃における粘度の下限は特に制限なく、粘度が低いほどRTM成形における該二液型エポキシ樹脂組成物の注入含浸が容易になる。
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものでは無い。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
<実施例および比較例で用いられた原材料>
(1)構成要素[A]
・強化繊維1
“トレカ(登録商標)”T700G−12K−31E(フィラメント数12,000本、引張強度4.9GPa、引張弾性率230GPa、引張伸度2.1%の炭素繊維、東レ(株)製)
・強化繊維2
“トレカ(登録商標)”T1100G−24K−31E(フィラメント数24,000本、引張強度6.6GPa、引張弾性率324GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、東レ(株)製)
・強化繊維3
“トレカ(登録商標)”T800G−24K−31E(フィラメント数24,000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率294GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、東レ(株)製)
・強化繊維4
後述の「(12)炭素繊維からなる繊維基材の製造」の手順で作製した炭素繊維からなる繊維基材。
(2)構成要素[B]
・エポキシ樹脂1
1−(3−メチル−4−オキシラニルメトキシフェニル)−4−(オキシラニルメトキシフェニル)−1−シクロヘキセン、特開2005−206814号公報参照、エポキシ当量:202g/eq)
・エポキシ樹脂2
化合物名:2−メチル−1,4−フェニレン−ビス{4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート}、特開2010−241797号公報参照、エポキシ当量:245g/eq)
・エポキシ樹脂3
化合物名:4−{4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル}シクロヘキシル4−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゾエート、特許第5471975号公報参照、エポキシ当量:213g/eq)
・エポキシ樹脂4
上記エポキシ樹脂3を200℃に加熱融解し、そこへプレポリマー化剤としてレゾルシノール(水酸基当量:55g/eq)をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:25になるように加え、窒素雰囲気下、200℃で3時間加熱することでエポキシ樹脂4を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂3とそのプレポリマーの合計100質量部に対して53質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ320g/eqであった。
・エポキシ樹脂5
エポキシ樹脂3をエポキシ樹脂2に変更した以外は、上記エポキシ樹脂4と同様にしてエポキシ樹脂5を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂2とそのプレポリマーの合計100質量部に対して53質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ353g/eqであった。
・エポキシ樹脂6
エポキシ樹脂3をエポキシ樹脂1に変更した以外は、上記エポキシ樹脂4と同様にしてエポキシ樹脂5を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂1とそのプレポリマーの合計100質量部に対して53質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ298g/eqであった。
・エポキシ樹脂7
プレポリマー化剤のレゾルシノールの添加量をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:30になるように変更した以外は、上記エポキシ樹脂5と同様にしてエポキシ樹脂7を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂2とそのプレポリマーの合計100質量部に対して63質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ378g/eqであった。
・エポキシ樹脂8
プレポリマー化剤のレゾルシノールの添加量をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:15になるように変更した以外は、上記エポキシ樹脂7と同様にしてエポキシ樹脂8を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂2とそのプレポリマーの合計100質量部に対して32質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ311g/eqであった。
・エポキシ樹脂9
プレポリマー化剤のレゾルシノールの添加量をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:30になるように変更した以外は、上記エポキシ樹脂4と同様にしてエポキシ樹脂9を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂3とそのプレポリマーの合計100質量部に対して63質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ343g/eqであった。
・エポキシ樹脂10
プレポリマー化剤のレゾルシノールの添加量をエポキシ当量数:水酸基当量数が100:15になるように変更した以外は、上記エポキシ樹脂4と同様にしてエポキシ樹脂10を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂3とそのプレポリマーの合計100質量部に対して33質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ282g/eqであった。
・エポキシ樹脂11
プレポリマー化剤をレゾルシノールからビスフェノールF(水酸基当量:100g/eq)を変更して、エポキシ当量数:水酸基当量数が100:15になるように添加した以外は、上記エポキシ樹脂5と同様にしてエポキシ樹脂11を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂2とそのプレポリマーの合計100質量部に対して38質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ338g/eqであった。
・エポキシ樹脂12
プレポリマー化剤をレゾルシノールからビスフェノールF(水酸基当量:100g/eq)を変更して、エポキシ当量数:水酸基当量数が100:15になるように添加した以外は、上記エポキシ樹脂4と同様にしてエポキシ樹脂12を得た。プレポリマーの含有量は、エポキシ樹脂3とそのプレポリマーの合計100質量部に対して39質量部であり、JIS K7236に従いエポキシ当量を測定したところ309g/eqであった。
(3)構成要素[B]以外のエポキシ樹脂
・“エピクロン(登録商標)”830(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、DIC(株)製)
・jER(登録商標)”YX4000H(ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製))
・“エピクロン(登録商標)”HP7200H(ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、DIC(株)製)
・jER(登録商標)”604(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、三菱化学(株)製)
・“jER”(登録商標)828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製))。
(4)構成要素[C]
・“セイカキュア”(登録商標)−S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
・3,3’−DAS(3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン(株)製)
・DICY7(ジシアンジアミド、三菱化学(株))
・DCMU99{3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア、硬化促進剤、保土ヶ谷化工業(株)製}
(5)その他の成分
・“Virantage(登録商標)”VW−10700RFP(ポリエーテルスルホン、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)。
<各種評価法>
(6)エポキシ樹脂組成物の調製
ニーダー中に、表1に示す配合比で、硬化剤、硬化促進剤および粒子以外の成分を所定量加え、混練しつつ、160℃まで昇温し、160℃1時間混練することで、透明な粘調液を得た。混練しつつ80℃まで降温させた後、硬化剤、硬化促進剤および粒子を所定量添加え、さらに混練し、エポキシ樹脂組成物を得た。
(7)樹脂硬化物の靱性(KIC)測定
(6)で調製したエポキシ樹脂組成物を真空中で脱泡した後、6mm厚のテフロン(登録商標)製スペーサーにより厚み6mmになるように設定したモールド中で、150℃4時間、180℃2時間で硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化物を得た。この樹脂硬化物を12.7×150mmのサイズにカットし、試験片を得た。インストロン万能試験機(インストロン社製)を用い、ASTM D5045(1999)に従って試験片の加工および実験をおこなった。試験片への初期の予亀裂の導入は、液体窒素温度まで冷やした剃刀の刃を試験片にあてハンマーで剃刀に衝撃を加えることで行った。ここでいう、樹脂硬化物の靱性とは、変形モードI(開口型)の臨界応力拡大係数のことを指している。
(8)プリプレグの作製
エポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、シート状に一方向に配列させた構成要素[A]の強化繊維に、樹脂フィルム2枚を炭素繊維の両面から重ね、加熱加圧により樹脂を炭素繊維に含浸させ、炭素繊維の目付が190g/m2、マトリックス樹脂の質量分率が35%の一方向プリプレグを得た。
(9)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作製とGIC測定
JIS K7086(1993)に準じ、次の(a)〜(e)の操作によりGIC試験用複合材料製平板を作製した。
(a)(8)で作製した一方向プリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mm、厚み50μmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
(b)積層したプリプレグをナイロンフィルムで隙間のないように覆い、オートクレーブ中で150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を成形した。
(c)(b)で得た一方向炭素繊維強化複合材料を、幅20mm、長さ195mmにカットした。繊維方向は、試験片の長さ側と平行になるようにカットした。
(d)JIS K7086(1993)に記載のピン負荷用ブロック(長さ25mm、アルミ製)では試験時に接着部が剥がれてしまったため、代わりにトライアングル状グリップを使用した(図1)。試験片端(フッ素樹脂製フィルムを挟んだ側)から4mmの位置に幅方向両端に1mm長さのノッチを入れ、トライアングル状グリップを引っかけた。試験はトライアングル状の治具をインストロン万能試験機(インストロン社製)のクロスヘッドで引っ張ることで試験片に荷重を与えた。
(e)亀裂進展を観察しやすくするため、試験片の両側面に白色塗料を塗った。
作製した複合材料製平板を用いて、以下の手順により、GIC測定を行った。JIS K7086(1993)附属書1に従い、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いて試験を行った。クロスヘッドスピードは、亀裂進展が20mmに到達するまでは0.5mm/分、20mm到達後は1mm/分とした。試験は亀裂が100mm進展するまで行い、試験中に取得した荷重−変位線図の面積からGICを算出した。
(10)モードII層間靱性(GIIC)の測定
(9)のGIC試験の(a)から(c)と同様に試験片を作製し、幅20mm、長さ195mmの試験片を得た。この試験片をJIS K7086(1993)附属書2に従って、GIIC試験を行った。
(11)0°引張強度試験用複合材料製平板の作成と測定
(8)で作製した一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を得た。この一方向炭素繊維強化複合材料を幅12.7mm、長さ230mmでカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、JIS K7073−1988の規格に準じて0゜引張試験を行った。
(12)炭素繊維からなる繊維基材の製造
各実施例・比較例で用いた繊維基材は次のように作製した。炭素繊維“トレカ”(登録商標)T800G−24K−31E(東レ(株)製、PAN系炭素繊維、フィラメント数:24,000本、繊度:1,033tex、引張弾性率:294GPa)を経糸として1.8本/cmの密度で引き揃え、これに平行、かつ交互に配列された補助経糸としてガラス繊維束ECDE−75−1/0−1.0Z(日東紡(株)製、フィラメント数:800本、繊度:67.5tex)を1.8本/cmの密度で引き揃えて一方向性シート状強化繊維束群を形成した。緯糸としてガラス繊維束E−glassヤーンECE−225−1/0−1.0Z(日東紡(株)製、フィラメント数:200本、繊度:22.5tex)を用い、前記一方向性シート状炭素繊維群に直交する方向に3本/cmの密度で配列し、織機を用いて補助経糸と緯糸が互いに交差するように織り込み、実質的に炭素繊維が一方向に配列されクリンプがない、一方向性ノンクリンプ織物を作製した。なお、得られた強化繊維織物の炭素繊維繊度に対する緯糸の繊度割合は2.2%、補助経糸の繊度割合は6.5%であり、炭素繊維の目付は192g/m2であった。
(13)繊維基材を用いたプリプレグの作製
構成要素[B][C]を含む樹脂原料を表1に示す配合比で混練し、樹脂組成物を作製した。(12)で作製した繊維基材上に、作製した樹脂組成物を目付104g/m2となるように均一に塗布した。樹脂塗布面をFEPフィルム“トヨフロン(登録商標)”(東レ(株)製)でカバーして150℃で加温した後、600mmHg以上の真空圧力でコンパクションすることで、マトリックス樹脂の質量分率が35%である繊維基材を用いたプリプレグを作製した。
(14)プレス成形によるモードI層間靭性(GIC)およびモードII層間靱性(GIIC)試験用複合材料製平板成形方法と測定
(a)(13)で作製した繊維基材を用いたプリプレグを、繊維方向を揃えて20ply積層した。ただし、積層中央面(10ply目と11ply目の間)に、繊維配列方向と直角に、幅40mm、厚み50μmのフッ素樹脂製フィルムをはさんだ。
(b)積層したプリプレグを金型上に配置した後、加熱型プレス成形機により、1.0MPaの加圧下、180℃4時間で流動・成形せしめ、一方向炭素繊維強化複合材料を成形した。
(c)(9)のGIC試験の(c)〜(e)と同様にしてGIC測定を、(10)のGIIC試験と同様にしてGIIC測定を行った。
(15)プレス成形による0°引張強度試験用複合材料製平板の作成と測定
(13)で作製した繊維基材を用いたプリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、150℃4時間、180℃2時間、内圧0.59MPaで加熱加圧して硬化し、一方向炭素繊維強化複合材料を得た。この一方向炭素繊維強化複合材料を幅12.7mm、長さ230mmでカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。この試験片はインストロン万能試験機を用いて、JISK7073−1988の規格に準じて0゜引張試験を行った。
(実施例1〜3、26、比較例2)
表1、4の配合比に従って上記(6)エポキシ樹脂組成物の調製の手順で炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を作製した。得られたエポキシ樹脂組成物について、上記(7)樹脂硬化物の靱性測定に従い樹脂硬化物のKICを測定した。
また、上記(12)炭素繊維からなる繊維基材の製造、(13)繊維基材を用いたプリプレグの作製の手順でプリプレグを作製した。得られたプリプレグを用いて、上記の(9)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作成とGIC測定、(10)モードII層間靱性(GIIC)の測定、(11)0°引張強度試験用複合材料製平板の作成と測定、GIC、GIIC、引張強度を測定した。結果を表1、4に示す。
(実施例4〜25、比較例1、3〜5)
表1〜4の配合比に従って上記(6)エポキシ樹脂組成物の調製の手順で炭素繊維強化複合材料用エポキシ樹脂組成物を作製した。得られたエポキシ樹脂組成物について、上記(7)樹脂硬化物の靱性測定に従い樹脂硬化物のKICを測定した。
また、得られたエポキシ樹脂組成物を用いて、上記(8)プリプレグの作製の手順でプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて、上記の(9)モードI層間靭性(GIC)試験用複合材料製平板の作成とGIC測定、(10)モードII層間靱性(GIIC)の測定、(11)0°引張強度試験用複合材料製平板の作成と測定、GIC、GIIC、引張強度を測定した。結果を表1〜4に示す。
実施例の各種測定結果は表1〜4に示す通りであり、実施例1〜26のように構成要素[A]、構成要素[B][C]を含む樹脂組成物の材料や配合比を変動させても高い樹脂靱性を有し、優れたモードI層間靱性GIC、モードII層間靱性GIICおよび引張強度を有する炭素繊維強化複合材料が得られた。
比較例1〜5は構成要素[B]を含まない。比較例1、4〜5と実施例4〜23との比較、比較例2と実施例1〜3、26との比較、比較例3と実施例25との比較により、同じ構成要素[A]を用いた各実施例と比較してモードI層間靱性GIC、モードII層間靱性GIICおよび引張強度はいずれも低く、構成要素[B]により特にモードI層間靱性GICは飛躍的に向上していることがわかる。