JP2018115179A - オーラルケア組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】口腔内細菌の付着を防止し、バイオフィルムの形成を防止し、化学的刺激に過敏ないわゆる口腔弱者に対しても高い安全性を有し高い口腔衛生ケアを実現させることのできるオーラルケア組成物の提供。【解決手段】塩化セチルピリジニウムと水素添加していないリン脂質を含有したリポソーム若しくは水素添加処理したリン脂質を含有したリポソームを含む組成物を使用することにより、StreptococcusmutansやStaphylococcusaureusなどの細菌が口腔内組織や義歯等の表面に付着し、増殖することを防止できるオーラルケア組成物。【選択図】図1

Description

本発明は、オーラルケア組成物に関する。特に、リポソーム化した塩化セチルピリジニウムを含有する義歯ケア組成物およびインプラントや義歯の装着時に使用するオーラルケア組成物若しくは口腔外における義歯ケア組成物に関する。
日本のみならず多くの国において、人口構成に占める高齢者の割合が増加しており、それに伴い如何に高いQOLを維持するかが重要視されつつある。その手段の一つに口腔ケアが重要であることが最近の研究で明らかになりつつある。具体的には、口腔内細菌が口腔内の感染症等だけでなく細菌性心内膜炎、不顕性肺炎、糸球体腎炎、関節炎などといった全身の疾患の原因になりうることが知られつつある。一方、口腔内細菌は、年齢との関連性があることが知られており、高齢者においては通常口腔内には常在しない黄色ぶどう状球菌、緑膿菌などのいわゆる日和見感染菌と称される細菌も常在する比率が高くなる傾向にある。特に、黄色ぶどう状球菌は、頬部蜂窩織炎や口底蜂窩織炎などの蜂窩織炎、顎骨骨髄炎、インプラント埋入後の歯周炎や歯根膿瘍といった口腔領域の疾患だけでなく、誤嚥性肺炎を惹起する原因となることから、黄色ぶどう状球菌の制御は高齢者における口腔内ケアにおいて重要な要素と考えられている。
口腔内において多くの細菌は、口腔内に浮遊しているかバイオフィルムと呼ばれる細菌の凝集体に存在している。浮遊している細菌の除去は容易であるが、バイオフィルムは物理的な作用にも化学的な作用にも耐性を有しており、バイオフィルムを除去することは強力な作用を有する方法を用いないと困難である。たとえば、専門的機械歯面清掃(PMTC)+3DSという化学的作用と物理的作用を活用した除去方法が実施されている。この方法は、通常、専用の剥離・洗浄用の組成物を強い機械力を用いて口腔内を清掃することでバイオフィルムを除去したのちに残存する細菌を殺菌剤含有組成物の使用により排除する方法である。しかしこの方法は、高齢者や口腔組織に異常を有する人のようないわゆる口腔弱者においては、物理的、化学的な刺激が強すぎるため諸問題を引き起こす可能性があるため好ましくない。また、脱着可能な義歯の場合は、口腔外で活性酸素等を活用した強力な殺菌や除菌を人体に影響なく実施できるため、これらを口腔内に装着した後の細菌付着を防止することが重要なポイントになる。また、口腔内において細菌の多くはバイオフィルムを形成して増殖することから、インプラントのように脱着できない場合においても口腔内の細菌存在量を減少させるためには、口腔内細菌の付着を阻止しバイオフィルムを形成させない方法を用いることが有効と考えられる。
口腔内に浮遊する細菌が歯牙や口腔粘膜表面に付着する機序に関しては、古くから研究され種々の知見が得られている。バイオフィルムの形成阻害を効果的に実施するためには、清潔な歯面に短時間で付着し「初期プラークを形成する早期定着細菌」の口腔内組織やインプラント部、義歯床部等への付着を防止することが重要と考えられている。この早期定着細菌は、唾液タンパクと結合するレセプターを有しており、特定の唾液蛋白と結合すると付着を促進することが知られている。この唾液蛋白は、高プロリン蛋白と高プロリン糖蛋白に大別される。前者のレセプターを有する代表的な細菌としては、Streptococcus mutansStreptococcus gordoniiPorphyromonas gingivalisなどが知られており、後者のレセプターを有する代表的な細菌としては、Staphylococcus aureusFusobacterium nucleatumStreptococcus oralisなどが知られていることから、これらの2つの菌群に対して有効な付着防止効果を有する技術の開発が必要とされている。口腔内細菌の凝集を防止することで口腔内細菌の口腔内組織表面への付着を防止する技術については数多く提案されているが(特許文献1〜6)、十分な効果が得られなかったり、安全性が高くかつ口腔組織だけでなくインプラント部や義歯床部等の人工物に対する付着を防止する技術は未だ見出されていない。
特開平06−024948号公報 特開2005−053851号公報 特開2005−232057号公報 特開2005−325071号公報 特開2011−063556号公報 特開2012−140370号公報
インプラント部若しくは義歯部を有する口腔内において、Streptococcus mutansStaphylococcus aureusなどの口腔内細菌の付着を防止し、バイオフィルムの形成を防止し、化学的刺激に過敏ないわゆる口腔弱者に対しても高い安全性を有し高い口腔衛生ケアを実現させることのできるオーラルケア組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに塩化セチルピリジニウムと水素添加していないリン脂質を含有したリポソーム若しくは水素添加処理したリン脂質を含有したリポソームを含む組成物を使用することにより、Streptococcus mutansStaphylococcus aureusなどの細菌が口腔内組織や義歯等の表面に付着し、増殖することを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、項1ないし項6のオーラルケア組成物を提供するものである。
項1.
下記のリポソームAおよび/またはリポソームDを含有することを特徴とするオーラルケア組成物。
リポソームA:塩化セチルピリジニウムおよび水素添加処理していないリン脂質を必須成分とするリポソーム
リポソームD:水素添加処理したリン脂質を必須成分とするリポソーム
項2.
水素添加処理したリン脂質を必須成分とするリポソーム(リポソームD)がさらに塩化セチルピリジニウムを含有することを特徴とする項1に記載のオーラルケア組成物。
項3.
水素添加処理したリン脂質が水素添加レシチンであることを特徴とする項1または項2の何れか1項に記載のオーラルケア組成物。
項4.
水素添加処理したリン脂質中のホスファチジルコリン含量が質量比で50%以上であることを特徴とする項1〜3の何れか1項に記載のオーラルケア組成物。
項5.
義歯および/またはインプラント装着時用の組成物若しくは義歯を口腔内から取り出した後に義歯に使用する組成物であることを特徴とする項1〜4の何れか1項に記載のオーラルケア組成物。
項6.
リポソームAおよびリポソームDに含まれるリン脂質が水素添加処理したリン脂質のみで構成されることを特徴とする項1〜5の何れか1項に記載のオーラルケア組成物。
本発明によれば、Streptococcus mutansStaphylococcus aureusのような異なる性質を有する口腔内細菌に対して、口腔内組織等、特にインプラント部や義歯床などの人工物の表面に対する付着を効果的に防止するにも関わらず極めて安全性が高く、いわゆる口腔弱者と称される刺激に弱い口腔内組織であっても安心して毎日使用できるオーラルケア組成物、特に、義歯やインプラントの装着者用のオーラルケア組成物を提供できる。なお、本願でいう、オーラルケア組成物とは、口腔内に直接適用する組成物だけでなく、口腔内に装着している人工物(例えば義歯)に対して口腔外で適用する組成物(例えば、義歯装着剤、義歯洗浄剤、義歯保存剤など)も含む。
図1は、Streptococcus mutans培養時に、塩化セチルピリジニウムを含有するリポソームAおよびB、塩化セチルピリジニウムを含有しないリポソームCおよびDを各種濃度で存在させたとき、培養後の培養器具表面に付着し増殖したStreptococcus mutansの生菌数を評価した結果を示す。 図2は、Staphylococcus aureus培養時に、塩化セチルピリジニウムを含有するリポソームAおよびB、塩化セチルピリジニウムを含有しないリポソームCおよびDを各種濃度で存在させたとき、培養後の培養器具表面に付着し増殖したStaphylococcus aureusの生菌数を評価した結果を示す。 図3は、塩化セチルピリジニウムを含有するリポソームAおよびB、塩化セチルピリジニウムを含有しないリポソームCおよびD、塩化セチルピリジニウム単独を各種濃度で口腔粘膜細胞に作用させたときの細胞生存度合いを評価した結果を示す。
本発明で使用する塩化セチルピリジニウムは、実質的に組成物全量に対してリポソームに包含された状態で存在させる。ここにおいて、「包含された状態」とは、リン脂質、塩化セチルピリジニウムおよびその他のリポソーム構成成分を用いてリポソームを調製し、得られたリポソームにおける状態を意味し、例えば、塩化セチルピリジニウムがリポソーム表面に吸着している状態、リポソームの膜成分の一つとして存在している状態、あるいはリポソームの脂質膜で形成されるリポソーム内の連続層中に存在する状態、すなわち、リン脂質等の他のリポソーム構成成分と塩化セチルピリジニウムがリポソームを形成している状態を意味する。なお、リポソームの調製方法としては、下記に示す常法を用いることができ、特に限定されない。本発明のオーラルケア組成物全量に対する配合量は、特に限定されないが、使用時濃度において、0.0004質量%以上となるような配合量であることが好ましい。すなわち、溶媒に溶解して使用する商品形態や、水などの溶媒で希釈してから使用する希釈仕様の商品形態の場合は、実際に使用するときの濃度を意味する。なお、上限については、0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下であることが経済的観点から好ましい。
本発明では、リポソームを構成するリン脂質の種類によって効果の程度が異なる。例えば、リポソームを構成する主たるリン脂質がフォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリンおよびフォスファチジルコリンの場合(「主たる」とは、リン脂質全量に対して50質量%以上、好ましくは70質量%以上を占めていることを意味する。以下の記載についても同じ。)、口腔内への使用時における本発明のオーラルケア組成物全量に対する塩化セチルピリジニウムの濃度が、0.0008質量%以上が好ましく、0.0125質量%がさらに好ましく、0.025質量%以上が最も好ましい。ここにおいて、「口腔内への使用時における本発明のオーラルケア組成物全量に対する塩化セチルピリジニウムの濃度」と記載している理由は、塩化セチルピリジニウムの含有量安定性を向上させる方法の一つとして濃縮仕様の組成物を使用することがあるためである。この場合、商品記載に基づいて希釈したときの濃度、すなわち実際に口腔内に使用するときの濃度を意味する。また、リポソームを構成する主たるリン脂質が水素添加ホスファチジルコリンの場合は、口腔内への使用時における本発明のオーラルケア組成物全量に対する塩化セチルピリジニウムの濃度が、0.0004質量%以上が好ましく、0.0008質量%以上がより好ましく、0.0016質量以上がさらに好ましく、0.003質量%以上が最も好ましい。
本発明で使用するリポソームは、少なくともリン脂質を含有するリポソームである。本願で用いるリン脂質としては、ホスファチジルコリン(レシチン:大豆レシチン、コーンレシチン、綿実油レシチン、卵黄レシチン、卵白レシチンなど)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジル酸などのグリセロリン脂質やスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質だけでなく、前記リン脂質に水素添加処理した水素添加リン脂質(水素添加グリセロリン脂質、水素添加ホスファチジルエタノールアミン、水素添加ホスファチジルセリン、水素添加ホスファチジルイノシトール、水素添加ホスファチジルコリン(水素添加レシチン:水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、水素添加コーンレシチン、水素添加綿実油レシチンなど))や、前記リン脂質にポリエチレングリコールやアミノグリカン類を導入したリン脂質誘導体、水酸化ホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、が挙げられる。これらの中でも、リン脂質に水素添加処理した水素添加リン脂質(水素添加グリセロリン脂質、水素添加ホスファチジルエタノールアミン、水素添加ホスファチジルセリン、水素添加ホスファチジルイノシトール、水素添加ホスファチジルコリン(水素添加レシチン:水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、水素添加コーンレシチン、水素添加綿実油レシチンなど))が好ましく、水素添加ホスファチジルコリン(水素添加レシチン:水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチン、水素添加コーンレシチン、水素添加綿実油レシチンなど)がより好ましい。通常商業ベースで本発明を実施する場合は、ホスファチジルコリン含有量が60質量%以上である水素添加リン脂質(例:水素添加大豆レシチン、水素添加卵黄レシチンなど)を使用でき、70質量%以上のものが好適に使用でき、80質量%以上のものがより好適に使用でき、90質量%以上のものがより好適に使用できる。
本願における「リポソーム」とは、リン脂質が自己組織化によって形成した単層、または複数の層からなる脂質複合体であり、脂質二重層の数に基づいて、多重膜リポソーム(MLV)と一枚膜リポソームの2つに分類される。一枚膜リポソームは、そのサイズに応じて、更にSUV(small unilamella vesicle)、LUV(large unilamella vesicle)、GUV(giant unilamella vesicle)などに分類され、これらのいずれも好適に使用できる。本発明で好適に用いることのできるリポソームの大きさは、平均粒子径、若しくは該球状の粒子形状をしていない場合は平均外径として10〜1000nmであり、好ましくは10〜600nm、より好ましくは20〜300nmである。リポソームの平均粒子径もしくは平均外径(以下、「平均粒子系等」と略することがある。)は前記の範囲において適宜設定できるが、安定性の観点からはリポソームの粒子系等のバラつきが少ない方が好ましく、平均粒子径等の上限値と下限値の差が1000nm以内、好ましくは300nm以内の範囲に、60%以上のリポソーム個体数(全てのリポソーム数の合計値を100とした時の存在比率を意味する。)、好ましくは80%以上のリポソーム個体数が含まれるのがよい。平均粒子径やリポソーム個体数は、市販の粒度分布計や粒子計数計などで測定することができる。
本発明に使用するリポソームは、常法により製造することができる。例えば、リポソーム懸濁液の製造方法としては、(1)リン脂質、リポソームに内包する成分、その他酸化防止剤などを均質に混合した後、pH調整剤、多価アルコール、糖類などを含む水溶液で水和し、リポソームを形成させる方法。(2)リン脂質、リポソームに内包する成分、その他酸化防止剤などをアルコール、多価アルコールなどに溶解し、pH調整剤、多価アルコール、糖類などを含む水溶液で水和し、リポソームを調製する方法。(3)超音波、フレンチプレスやホモジナイザーを用いて、リン脂質、リポソームに内包する成分、その他酸化防止剤などを水中で複合化させ、リポソームを調製する方法。(4)エタノールにリン脂質、リポソームに内包する成分、その他酸化防止剤などを混合溶解し、このエタノール溶液を塩化カリウム水溶液に添加した後にエタノールを除去しリポソームを調製する方法などが利用できる。例えば、所定量の水素添加処理したリン脂質を含むリン脂質を、例えばエタノールなどの適当な有機溶媒で可溶化し、減圧下に溶媒を除去し、膜脂質を作成し、水、緩衝液、糖類含有水溶液などを添加後、例えば、1000〜3000rpm程度で2〜5分間程度撹拌して、リポソーム懸濁液を調製することにより得ることができる。また、水、緩衝液、糖類含有水溶液に、例えばエタノールに溶解した所定量の前記リン脂質を添加し高圧ホモジナイザーなどにより撹拌することによっても調製することができる。リポソームには、イソプロピルメチルフェノールのようなフェノール系殺菌剤だけでなく、適宜、油性成分、脂質、水溶性物質、生理活性物質など、たとえば、トコフェロール、アスコルビン酸などの抗酸化剤、乳酸、クエン酸などの有機酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミンなどの脂質、キトサン、フコイダン、ヒアルロン酸などの天然高分子、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマーなどの合成高分子、トレハロース、ラクチュロース、マルチトールなどの糖質、グリセリンなどのポリオールなどを、本発明の効果を損なわない範囲で包含させて製剤化することができる。なお、ここでいう「包含」とは、上記に示した通り、リン脂質等の他のリポソーム構成成分と該成分がリポソームを形成していることを意味し、リポソームの内部に構成される親水領域若しくは疎水領域に存在する場合、リポソームの膜構成物質と共存する場合、若しくは、リポソーム構成体の最外膜の膜表面に付着して存在する場合など、種々の存在形態ものが含まれる。通常リポソームは、水などの水性溶媒を連続層として有するリポソーム懸濁液として調製される。得られたリポソーム懸濁液は、そのまま使用してもよいし、凍結乾燥やスプレードライなどの常法を用いて乾燥された形態で使用することもでき、水を含有しない水性溶媒を連続層として有する形態で使用することができる。
リポソームに包含されている塩化セチルピリジニウムの確認は常法を用いて行なうことができる。すなわち、リポソームに包含せずリポソームを懸濁している連続層に存在する塩化セチルピリジニウムを、常法を用いて除去し、その後、常法を用いてリポソーム破壊し、破壊後に遊離する塩化セチルピリジニウムの存在を調べることで、リポソームに包含されている塩化セチルピリジニウムの確認を行なうことができる。また、同様な手法を用いて定量することも可能である。塩化セチルピリジニウムの確認や定量の方法としては、限定するものではないが、例えば、日本薬局方外医薬品規格2002(ISBN4-8407-3054-7)の151-152頁、や医薬部外品原料規格2006統合版(ISBN978-4-8408-1227-6)の第二分冊371頁に記載されている、「塩化セチルピリジニウムの確認試験および定量法」を用いることができる。リポソームに包含せずリポソームを懸濁している連続層に存在する塩化セチルピリジニウムを除去する方法としては、例えば、透析膜等を用いた透析処理や「遠心分離して上澄を除去した後に等張液で残渣物を洗浄し、再度上澄を除去する」操作を繰り返し行なう遠心分離を用いた方法、ゲルろ過処理を行なう方法などが挙げられる。リポソーム破壊する方法としては、例えば、クロロホルムなどの有機溶媒やノニオン性又はカチオン性の界面活性剤を添加する方法が挙げられる。
本発明のオーラルケア組成物は、歯磨剤、洗口剤、口腔乾燥緩和・防止剤、口腔・咽喉殺菌剤、口腔用消炎剤、口臭予防/解消剤、プラーク形成阻止剤、齲蝕防止剤、歯周病予防剤、歯周病治療剤、舌苔除去剤、舌苔形成予防剤、義歯装着剤、義歯コーティング剤、義歯安定化剤、義歯保存剤、義歯洗浄剤、インプラントケア剤などの通常のオーラルケア製品、医薬部外品、医薬品などとして利用することができる。これらの剤形態としては、特に限定されるものではないが、ペースト剤、軟膏剤、パスタ剤、スプレイ剤、ジェル剤、塗布剤、透明液体組成物、懸濁組成物、乳化組成物、トローチ剤、チュアブル剤、ドロップ剤、舐剤、チューイングガム剤、発泡錠、口腔内崩壊剤、顆粒剤、粉末剤、シロップ剤、ゼリー剤、シート剤、用時調製剤(水などの液体で溶解、若しくは希釈したもの、或いは2種以上の組成物を混合したものを使用するタイプ)などが挙げられる。
本発明のオーラルケア組成物は、本願効果を損なわない範囲であれば、塩化セチルピリジニウムおよびリン脂質以外の一般的に食品やオーラルケア組成物、医薬品等で用いられる公知の成分を配合することができる。たとえば、界面活性剤、研磨剤、アルコール類、水溶性高分子、粘結剤、香味剤(香料)、甘味剤、薬効剤、油脂類、難水溶性高分子、粘結剤、酸味料、酸化防止剤、着色料、滑沢剤などの従来公知の成分が挙げられる。
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤だけでなく、陰イオン性界面活性剤、および両性界面活性剤を使用することができる。但し、界面活性剤(特に陰イオン性界面活性剤)は、塩化セチルピリジニウムの殺菌作用を低下させる可能性があるため、配合する化学種およびその配合方法、配合量の設計時においては十分な注意を要する。配合できる界面活性剤の例としては以下のものをあげることができる。非イオン性界面活性剤の例としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステルやポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタンエステル系界面活性剤;グリセリンモノ脂肪酸エステルやポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどのグリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリエチレンステロール、アルキルグルコシドなどが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、硫酸エステル系界面活性剤、脂肪酸石鹸、アミノ酸系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタインやアルキルアミドピロピルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型界面活性剤、イミダゾリン型界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
研磨剤としては、例えば、結晶性シリカ、非晶性シリカ、シリカゲル、アルミノシリケート等のシリカ系研磨剤、ゼオライト、リン酸水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム2水和物、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、第3リン酸マグネシウム、ケイ酸ジルコニウム、第3リン酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、第4リン酸カルシウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる。これらの研磨剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
アルコール類としては、エチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコールなどの一価アルコール類、プロピレングリコール、1,3−ブチルアルコール、ポリエチレングルコールなどの多価アルコール類、グリセリン、ソルビトール、ラクチトール、キシリトールなどの糖アルコール類などが挙げられる。これらのアルコール類は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
水溶性高分子としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロースやカルボキシメチルセルロース」などのセルロース系水溶性高分子、ペクチンや寒天、カラギーナン、ジェランガムなどの多糖類系高分子、ゼラチンや加水分解コラーゲンペプチドなどのペプチド系高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
粘結剤としては、例えば、プルラン、ゼラチン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。これらの粘結剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明で用いる香味剤としては、例えば、メントール、アネトール、カルボン、オイゲノール、リモネン、ペパーミントオイル、スペアミントオイル、ウインターグリーン、サリチル酸メチル、シオネール、チモール、丁字油、ユーカリ油、ローズマリー油、セージ油、レモン油、オレンジ油、オシメン油、シトロネロール、メチルオイゲノール等が挙げられる。これらの香味剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
本発明で用いる甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、α−メトキシシンナミックアルデヒド、キシリット、スクロース、スクラロース、パラチノース、パラチニット、エリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらの甘味剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
塩化セチルピリジニウム以外の薬効剤も配合することができる。配合できる薬効剤としては、例えば、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ素化合物;デキストラナーゼ、ムタナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素;トラネキサム酸、ε−アミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、アラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸などの抗炎症剤;ビサボロール、クロルヘキシジン塩類、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、イソプロピルメチルフェノールなどの抗菌・殺菌剤;α−トコフェロール、酢酸−dl−α−トコフェロール、ピリドキシン類、アスコルビン酸またはその塩等のビタミン類;グリセロリン酸、クロロフィル、グルコン酸銅、塩化ナトリウム、水溶性無機リン酸化合物、植
物抽出物等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。さらには、塩化セチルピリジニウムのようにリポソームに含有させても良いし、オーラルケア組成物の連続層に存在させても良い。
本発明のオーラルケア組成物は、口腔内組織表面や義歯/インプラントのような人工物表面に対する口腔内細菌の付着およびプラーク形成を阻止することで口腔衛生状態を大幅に改善し、維持することができる。特に、人工物表面に対する効果がより期待できることから、義歯やインプラントを装着している人用のオーラルケア組成物として最適な技術である。さらに、義歯等を口腔内から取り出した後に義歯等に使用するオーラルケア組成物、具体的には、装着前の義歯等の表面に予め処理することにより装着後の義歯等表面への口腔内細菌の付着やプラーク形成を阻止することにより、口臭発生を防止したり、口腔内の炎症発生を防止したりするオーラルケア組成物にも最適な技術である。
加えて、塩化セチルピリジニウムの細胞毒性などの刺激性を大幅に緩和させることから、化学物質の刺激に対して敏感な、いわゆる口腔弱者(具体的には、老齢者、口腔内疾患を有する患者、幼弱者など)に対しても有用なオーラルケア組成物を提供することができる。
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
Streptococcus mutansおよびStaphylococcus aureusの浮遊菌の付着・増殖に対する阻止効果

(被検体について)
殺菌剤として、塩化セチルピリジニウム(以下「CPC」と略することがある。)を用い、以下の被検体を調製した。被検体としては、CPCとリン脂質(主としてフォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリンおよびフォスファチジルコリンを含有するリン脂質:PIPSナガセ(長瀬産業社製))を用いて得られたリポソーム懸濁液AおよびC、CPCと水素添加処理したリン脂質(Phospholipon90H(エイチ・ホルスタイン社製))を用いて得られたリポソーム懸濁液BおよびDを用いた。
リポソームの製造方法としては、以下の方法に従って行った。
試験に用いた各リポソームは、以下の方法で得られたリポソームが懸濁して存在している状態の懸濁液を用いた。なお、懸濁液中のリン脂質がリポソームを形成していることを確認したのちに、各懸濁液のリン脂質の含有量を測定し、その測定値を以って、懸濁液中に存在するリポソーム量とした。
リポソーム懸濁液A(図表においては「A」と略する。)の調製:グリセリン30g、主としてフォスファチジルイノシトール、フォスファチジルセリンおよびフォスファチジルコリンを含有するリン脂質(PIPSナガセ(長瀬産業社製))4g、CPC0.5gを混合し、仕掛液を調製した。次いで、965.5gの精製水をポータブルミキサー(NGM-0.5TB;美粒社製)で3000r.p.m.、室温の条件で攪拌している状態で、前記仕掛液を少しずつ添加し全量を加えた。仕掛液の添加後、さらにポータブルミキサーを用いて、1000r.p.m.、20分間攪拌することによりリポソームを形成させ、リポソーム懸濁液Aを得た。このリポソーム懸濁液AにはCPCが0.05%、前記リン脂質が0.2%含有された。
リポソーム懸濁液B(図表においては「B」と略する。)の調製:グリセリン30g、水素添加処理したリン脂質(Phospholipon90H(Lipid社製))10g、CPC0.5gを混合し、仕掛液とした。次いで、959.5gの精製水をポータブルミキサー(NGM-0.5TB;美粒社製)で3000r.p.m.、60℃の条件で攪拌している状態で、前記仕掛液を少しずつ添加し全量を加えた。仕掛液の添加後、さらにポータブルミキサーを用いて、1000r.p.m.、20分間攪拌することによりリポソームを形成させ、リポソーム懸濁液Bを得た。このリポソーム懸濁液BにはCPCが0.05%、前記リン脂質が1.0%含有された。
リポソーム懸濁液C(図表においては「C」と略する。)の調製:前記リポソーム懸濁液Aの調製方法において、CPCの代わりに精製水を配合することにより調製する。このリポソーム懸濁液Cにはリン脂質が0.2%含有される。
リポソーム懸濁液D(図表においては「D」と略する。)の調製:前記リポソーム懸濁液Bの調製方法において、CPCの代わりに精製水を配合することにより調製する。このリポソーム懸濁液Dにはリン脂質が1.0%含有される。

(試験菌液について)
試験菌液の調製は以下の方法で行った。あらかじめ継代培養していたStreptococcus mutans ATCC25715(以下「S.m.」と略する。)、Staphylococcus aureus IFO13276(以下「S.a.」と略する。)をそれぞれBHI液体培地(ベクトンディッキンソン社製)10mlに植菌し、37℃、18時間で前培養した。前培養液100μlを各々新たなBHI培地10mlに加え、18時間培養し、その後、それぞれBHI液体培地を添加してO.D.660=1.0に調整したものを試験菌液として試験に供した。

(評価試験手順について)
前記被検体は、リポソーム懸濁液AおよびBについては、CPCの培養時濃度が、2、4、8、16、31、63、125、250(単位;μg/ml)となるように、各々のリポソーム懸濁液を2倍濃縮したBHI液体培地を用いて希釈することで調製した。また、リポソーム懸濁液C及びDについては、リポソーム懸濁液Cについては前記リポソーム懸濁液A、リポソーム懸濁液Dについては前記リポソーム懸濁液Bの各CPC濃度の被検体におけるリポソーム含量と同じになるように、各々のリポソーム懸濁液を2倍濃縮したBHI液体培地を用いて希釈し調製したものを使用した。
前記で調整した被検体を樹脂製の96穴プレートの各ウェルに100μl添加し、次いで、前記方法で調製した試験菌液を各ウェルに10μlずつ添加し、37℃で24時間培養した。培養後、各ウェル中の上清を除去し、除去後の各ウェルをPBS(大日本住友製薬社製)で洗浄した。なお、前記洗浄は、各ウェルに200μlのPBSを添加し、除去することを3回繰り返すことで行った。
コントロールとしては、検体の代わりにBHI液体培地を添加し、培養したもの、すなわちBHI液体培地のみを使用して培養したものを用いた。
各検体は3ウェル、コントロールは6ウェルを用いて評価し、測定値を得た。
洗浄後のウェルに残留(ウェル中の)している細菌数の測定は下記の手順に従って行った。すなわち、洗浄後の各ウェルに、PBSを用いて10倍希釈したAlamarBlue(invitrogen社製)を100μlずつ添加し、暗所下で37℃、120分間、静置することでプレート中に残存する細菌と反応させた。反応後、Gemini XPS蛍光プレートリーダー(Molecular Devices社製)を用いて、560nmの波長の光で励起時に放出された590nmの波長の蛍光強度(RFUxi)を測定した。細菌の残存率は、下記式に従って算出した。すなわち、前記にて得られた各蛍光強度測定値を(RFUxi)とし、コントロールの6ウェルのRFU値の平均値を(RFUca)としたとき、
細菌残留率(%)={(RFUxi)/(RFUca)}×100
に従って、各被検体の各ウェルの細菌残留率を算出し、さらに各被検体の3ウェルの細菌残留率の平均値と標準偏差値を算出した。
得られた結果を、表1及び図1(S.m.における結果)と表2及び図2(S.a. における結果)に示す。
リポソームCとDはCPCを含んでいないが、上記表1及び図1においては、リポソームAとリポソームC、リポソームBとリポソームDの各結果を比較し易くするために、各々対応するデータを並べて表示した。CPC各濃度におけるリポソーム量(質量換算)は、リポソームAとリポソームC、リポソームBとリポソームDは同じである。表2及び図2、表3及び図3も同様に処理した。
表1及び図1に示した通り、Streptococcus mutansに対して、水素添加処理したリン脂質とCPCを含むリポソーム(リポソームB)は全ての濃度において優れた効果を示した。一方、水素添加処理していないリン脂質とCPCを含むリポソーム(リポソームA)はCPC濃度が8〜250μg/mlで効果を示したが、低濃度(CPC:2〜4μg/ml)においては弱い効果しか得られないことがわかった。また、CPCを含まないリポソーム(リポソームCおよびD)については、水素を添加していないリン脂質を含むリポソームCは全てのリポソーム濃度(リン脂質濃度)において全く効果を示さなかったが、水素添加したリン脂質を含むリポソームDは、リポソームCにおけるCPC濃度が63〜250μg/mlに対応するリポソーム濃度(リン脂質濃度)において効果が得られることがわかった。
また、表2及び図2に示した通り、Staphylococcus aureusに対して、水素添加処理したリン脂質とCPCを含むリポソーム(リポソームB)はCPC濃度が8〜250μg/mlで効果を示し、特にCPC濃度が31〜250μg/mlできわめて優れた効果を示した。一方、水素添加処理していないリン脂質とCPCを含むリポソーム(リポソームA)はCPC濃度が125〜250μg/mlでのみ効果を示した。また、CPCを含まないリポソーム(リポソームCおよびD)については、水素を添加していないリン脂質を含むリポソームCはリポソーム濃度(リン脂質濃度)において全く効果を示さなかったが、水素添加したリン脂質を含むリポソームDは、リポソームCにおけるCPC濃度が31〜250μg/mlに対応するリポソーム濃度(リン脂質濃度)において効果が得られることがわかった。
リポソームDは殺菌剤であるCPCを含まないにもかかわらず、CPCを含有しているリポソームと同等以上の効果を有することがわかった。
口腔粘膜細胞に対する細胞毒性評価

(試験細胞の調製方法)
口腔粘膜細胞として、ヒト歯肉上皮がん由来細胞株Ca9-22(以下「Ca9−22株」と略する。)を使用した。評価試験にあわせてCa9−22株の培養を行った。培養は、10%のウシ胎児血清(フナコシ社製)、および1%のAntibiotic-Antimycotic,100X(Gibco社製)を含むMinimum essential medium(シグマ社製)を用いて、インキュベータ内で37℃、5% CO2下で行った。前記培養の対数増殖期にある細胞を、前記培地で希釈することにより細胞数が5×105 cells/mlになるよう調整した。調整した細胞懸濁液を、96well culture flat plate(住友ベークライト社製)の各ウェルに100μlずつ播種し、1日培養することでコンフルエントになるようにした。

(被検体の調製方法)
前記被検体は、リポソーム懸濁液AおよびBについては、CPCの培養時濃度が、2、4、8、16、31、63、125、250(単位;μg/ml)となるように、各々のリポソーム懸濁液を2倍濃縮したBHI液体培地を用いて希釈することで調製した。また、リポソーム懸濁液C及びDについては、リポソーム懸濁液Cについては前記リポソーム懸濁液A、リポソーム懸濁液Dについては前記リポソーム懸濁液Bの各CPC濃度の被検体におけるリポソーム含量と同じになるように、各々のリポソーム懸濁液を2倍濃縮したBHI液体培地を用いて希釈し調製したものを使用した。CPC単独については、CPCの濃度が正確に500μg/mlになるようPBSを用いて溶解し、次いでPBSを用いた段階希釈を行い、各濃度のCPC単独の被検体を調製した。

(細胞毒性評価の方法)
前記方法でコンフルエントになった試験細胞を培養している96well culture flat plateの各ウェルに存在する培地を除去し、PBSを各ウェルに200μlずつ添加し除去することで洗浄した。洗浄後の各ウェルに前記方法で調整した被検体を100μlずつ添加し、インキュベータ内で37℃、5% CO2下の条件で3分間放置した。なお、コントロールについては培地を除去せずそのままの状態で、インキュベータ内で37℃、5% CO2下の条件で3分間放置した。放置後、各ウェル中の液体を除去し、除去後の各ウェルをPBSで洗浄した。なお、前記洗浄は、各ウェルに200μlのPBSを添加し、除去することを3回繰り返すことで行った。洗浄後の各ウェルに、PBSを用いて10倍希釈したalamarBlue(invitrogen社製)を100μlずつ添加し、2時間放置した。放置後、Gemini XPS蛍光プレートリーダー(Molecular Devices社製)を用いて、560nmの波長の光で励起時に放出された590nmの波長の蛍光強度(RFUxi)を測定した。
細胞の生存率は、下記式に従って算出した。すなわち、前記にて得られた各蛍光強度測定値を(RFUxi)とし、コントロールの6ウェルのRFU値の平均値を(RFUca)としたとき、
細胞生存率(%)={(RFUxi)/(RFUca)}×100
に従って、各被検体の各ウェルの細胞生存率を算出し、さらに各被検体の3ウェルの細胞生存率の平均値と標準偏差値を算出した。
得られた結果を、表3及び図4に示す。
表3及び図3に示したとおり、CPC単独の場合、SPS濃度が63μg/ml以上の濃度領域で細胞生存率が大きく低下し、特に125μg/ml以上の濃度領域での細胞生存率は著しく低い値を示した。一方、CPCを含有するリポソーム懸濁液A及びBは全てのCPC濃度領域において細胞毒性を示さなかった。参考として、CPCを含まないリポソームC及びDについても高濃度領域で評価したが、何れも細胞毒性を示さなかった。
以下、本発明に係るオーラルケア組成物の実施例の処方を挙げるが、本発明は下記の処方に限定されるものではない。なお、特に指定の無いかぎり配合量は質量%を示す。
処方例1(洗口剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.05
水素添加大豆レシチンA(*1) 0.5
濃グリセリン 10
プロピレングリコール 5
クエン酸 0.01
クエン酸3ナトリウム 0.1
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
サッカリンナトリウム 0.02
香料 0.05
精製水 残 部
合 計 100
*1 SLP−PC70HS(辻製油(株)社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が70質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、10%の精製水に添加した後に、高圧乳化機により均一に攪拌することでリポソーム懸濁液を調製する。別途残部の精製水及びその他の成分を混合し、可溶化した混合液に前記リポソーム懸濁液を添加し、均一になるまで混合攪拌する。
処方例2(洗口剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.05
水素添加大豆レシチンB(*2) 0.5
濃グリセリン 10
プロピレングリコール 5
キシリトール 2
水酸化ナトリウム 0.2
エデト酸二ナトリウム 0.05
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
炭酸水素ナトリウム 0.03
サッカリンナトリウム 0.01
香料 0.1
精製水 残 部
合 計 100
*2 COATSOME NC−21(日油(株)社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が90質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、10%の精製水に添加した後に、高圧乳化機により均一に攪拌することでリポソーム懸濁液を調製する。別途残部の精製水及びその他の成分を混合し、可溶化した混合液に前記リポソーム懸濁液を添加し、均一になるまで混合攪拌する。
処方例3(口腔用ジェル剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.05
水素添加大豆レシチンC(*3) 0.5
濃グリセリン 10
プロピレングリコール 5
アルギン酸ナトリウム 3
ヒアルロン酸ナトリウム 2
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
クエン酸 0.01
クエン酸3ナトリウム 0.1
サッカリンナトリウム 0.02
香料 0.05
精製水 残 部
合 計 100
*3 PHOSPHOLIPON 90H(Lipoid社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が90質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、10%の精製水に添加した後に、高圧乳化機により均一に攪拌することでリポソーム懸濁液を調製する。別途残部の精製水にアルギン酸ナトリウムを均一溶解したのちに前記リポソーム懸濁液およびその他の成分を順次添加し、均一になるまで減圧条件下で混合攪拌する。
処方例4(口腔用ジェル製剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.05
水素添加大豆レシチンD(*4) 0.5
濃グリセリン 25
水素添加澱粉分解物 10
プロピレングリコール 2
ポリアクリル酸ナトリウム 1.5
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
精製水 残 部
合 計 100
*4 PHOSPHOLIPON 80H(Lipoid社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が80質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、5%の精製水に添加した後に、高圧乳化機により均一に攪拌することでリポソーム懸濁液を調製する。別途、残部の精製水に水素添加澱粉分解物を均一溶解し、5%の濃グリセリンに分散したポリアクリル酸ナトリウムを添加し均一に溶解する。溶解後、前記リポソーム懸濁液およびその他の成分を順次添加し、均一になるまで減圧条件下で混合攪拌する。
処方例5(口腔・咽喉用噴霧剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 150mg
水素添加大豆レシチンE(*5)500mg
プロピレングリコール 1000mg
グリセリン 5000mg
果糖ぶどう糖液糖 1000mg
クエン酸 800mg
クエン酸ナトリウム 400mg
安息香酸ナトリウム 500mg
スクラロース 50mg
白金ナノコロイド 2mg
香料 250mg
精製水 残 部
合 計 50g
*5 SLP−PC92(辻製油(株)社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が90質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、精製水に高圧乳化機の攪拌下で少量ずつ添加し、均一に攪拌しリポソーム懸濁液を調製する。その後、その他の成分を順次添加、混合し、均一になるまで混合攪拌する。
処方例6(洗口剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.1
水素添加卵黄レシチンA(*6) 0.5
濃グリセリン 10
プロピレングリコール 5
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
クエン酸 0.01
クエン酸3ナトリウム 0.1
サッカリンナトリウム 0.02
香料 0.05
精製水 残 部
合 計 100
*6 卵黄レシチンPL−100P(キューピー(株)社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が80質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、5%の精製水に添加した後に、高圧乳化機により均一に攪拌することでリポソーム懸濁液を調製する。別途残部の精製水及びその他の成分を混合し、可溶化した混合液に前記リポソーム懸濁液を添加し、均一になるまで混合攪拌する。
処方例7(口腔用塗布剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.3
水素添加大豆レシチンF(*7) 1.5
濃グリセリン 10
プロピレングリコール 5
アルギン酸ナトリウム 3
ヒアルロン酸ナトリウム 2
パラオキシ安息香酸メチル 0.1
クエン酸 0.01
クエン酸3ナトリウム 0.1
サッカリンナトリウム 0.02
香料 0.05
精製水 残 部
合 計 100
*7 COATSOME NC−61(日油(株)社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が60質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、10%の精製水に添加した後に、高圧乳化機により均一に攪拌することでリポソーム懸濁液を調製する。リポソーム懸濁液に、別途少量の精製水で分散させた直後のアルギン酸ナトリウムを添加し、残部の精製水を投入しつつ均一になるまで攪拌した。精製水の投入後、残りの成分を順次添加し、均一になるまで減圧条件下で混合攪拌する。
処方例8(ポンプスプレイ用口腔・咽喉用殺菌塗布剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 0.25
水素添加大豆レシチンG(*8) 1
濃グリセリン 60
ソルビトール 10
プロピレングリコール 5
エチルアルコール 3
クエン酸 0.1
クエン酸ナトリウム 0.01
香料 0.2
精製水 残 部
合 計 100
*8 ベイシス LS−60HR(日清オイリオグループ(株)社製):リン脂質全量に対してホスファチジルコリン含有量が65質量%以上

(製造方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して均一溶解したものを精製水に添加し、高圧乳化機により均一に攪拌し、リポソーム懸濁液を調製する。別途、クエン酸とクエン酸3ナトリウムを少量の精製水に溶解しておき、該リポソーム懸濁液に残部の精製水を順次攪拌しつつ投入したのちに、ソルビトール、クエン酸等の溶解液、グリセリン及びエチルアルコールに溶解した香料を順次添加し、均一になるまで混合攪拌する。
処方例9(義歯保存剤)

成 分 配 合 量
塩化セチルピリジニウム 6
水素添加大豆レシチンA 15
濃グリセリン 20
プロピレングリコール 20
クエン酸 0.02
クエン酸3ナトリウム 0.2
精製水 残 部
合 計 100

(製造方法及び使用方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をプロピレングリコールに添加し、70℃まで加温して溶解し、他の成分(水相)に添加し、高圧乳化機により均一に攪拌することによりリポソーム懸濁液を調製する。
使用時に水で10倍に希釈し、義歯を一晩浸漬する。
処方例10(義歯洗浄剤)

成 分 配合量
塩化セチルピリジニウム 1
水素添加大豆レシチンB 4
炭酸ナトリウム 35
過ホウ酸ナトリウム 25
炭酸水素ナトリウム 15
無水クエン酸 7
ラウリル硫酸ナトリウム 5
エデト酸ナトリウム 1
ステアリン酸マグネシウム 残 部
合 計 100

(製造方法及び使用方法)
仕掛として塩化セチルピリジニウム、水素添加レシチン、香料をエタノールに添加し、70℃まで加温して溶解し、精製水に添加し、高圧乳化機により均一に攪拌することによりリポソーム懸濁液を調製した。この液を凍結乾燥させ、リポソーム(粉末)を製造し、他の添加剤を加えて打錠し、錠剤を製造した。
入れ歯を水で浸漬させ、水50mlあたり1錠の錠剤を加え、溶解させる。1〜2時間放置後、入れ歯を取り出し、水で十分に洗浄し、再装着時まで保存溶液で保存する。

Claims (4)

  1. 水素添加処理したリン脂質を必須成分とするリポソームを含有し、塩化セチルピリジニウムおよびその他の抗菌・殺菌剤を含まないことを特徴とするオーラルケア組成物。
  2. 水素添加処理したリン脂質が水素添加レシチンであることを特徴とする請求項1に記載のオーラルケア組成物。
  3. 水素添加処理したリン脂質中のホスファチジルコリン含量が質量比で50%以上であることを特徴とする請求項1または2の何れか1項に記載のオーラルケア組成物。
  4. 義歯および/またはインプラント装着時用の組成物若しくは義歯を口腔内から取り出した後に義歯に使用するための組成物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のオーラルケア組成物。
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