JP2018083414A - インクジェット記録方法、インクジェット記録装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】画像の光学濃度、及びインクの固着回復性に優れるインクジェット記録方法を提供する。【解決手段】単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行って、画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、水性インクが、自己分散顔料1、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコール6を含有し、自己分散顔料1の顔料種が、カーボンブラックであり、ポリエチレングリコール6の数平均分子量が、600以上であり、水性インクの粘度が、5mPa・s以上である。【選択図】図1

Description

本発明は、インクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置に関する。
近年、インクジェット記録装置は、商業印刷分野やオフィス印刷分野で使用する機会が増えている。商業印刷分野やオフィス印刷分野においては、得られる画像の光学濃度に優れる顔料インクが求められている。一般に、得られる画像の光学濃度は、顔料の凝集性を高めることで向上しうる。得られる画像の光学濃度を向上するために、種々のインクが検討されている。自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有する顔料インクが提案されている(特許文献1及び2参照)。自己分散顔料、水溶性樹脂、界面活性剤、及び浸透溶剤を含有する顔料インクが提案されている(特許文献3参照)。
しかし、顔料の凝集性を高めると、記録ヘッドの吐出口においても、顔料が凝集しやすくなるため、インクの固着回復性は得られにくくなる。このように、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性は、トレードオフの関係にあるため、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性を高いレベルで両立することは難しい。
特開2013−253237号公報 特開2013−253238号公報 特開2015−117332号公報
本発明者らは、記録速度を高めるため、特許文献1〜3に記載されているインクをいわゆる1パス記録に適用して、検討を行った。1パス記録を適用する場合、これまで以上に画像の光学濃度の向上に工夫が必要であるが、光学濃度が得られるように設計された特許文献1及び2に記載のインクを用いて画像を記録しても、近年要求されるレベルの光学濃度は得られないことが判明した。一方、特許文献3に記載のインクを用いて画像を記録すると、ある程度の光学濃度は得られたが、そのレベルは依然として不十分であり、さらなる向上の余地があることが判明した。さらに、特許文献3に記載のインクをインクジェット記録装置に搭載した状態で長期間放置すると、記録ヘッドの吐出口付近でのインクの水分蒸発に伴い、インクの固着回復性も不十分となることがわかった。
したがって、本発明の目的は、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性に優れるインクジェット記録方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、前記インクジェット記録方法を使用するインクジェット記録装置を提供することにある。
本発明は、単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行って、画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、前記水性インクが、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有し、前記自己分散顔料の顔料種が、カーボンブラックであり、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、600以上であり、前記水性インクの粘度が、5mPa・s以上であることを特徴とするインクジェット記録方法に関する。
また、本発明は、単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行う手段を備えたインクジェット記録装置であって、前記水性インクが、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有し、前記自己分散顔料の顔料種が、カーボンブラックであり、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、600以上であり、前記水性インクの粘度が、5mPa・s以上であることを特徴とするインクジェット記録装置に関する。
本発明によれば、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性に優れるインクジェット記録方法、及びインクジェット記録装置を提供することができる。
自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールが形成する会合体を示す模式図である。 シリアル型のインクジェット記録装置の主要部を示す斜視図である。 ライン型のインクジェット記録装置の主要部を示す斜視図である。
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、さらに本発明を詳細に説明する。本発明においては、化合物が塩である場合は、インク中では塩はイオンに解離して存在し得るが、便宜上、「塩を含有する」と表現する。また、水性インクのことを、単に「インク」と記載することがある。物性値は、特に断りのない限り、温度25℃における値である。
本発明のインクジェット記録方法は、単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行って、画像を記録する(以下、「1パス記録」と記載することがある)工程を有する。単位領域は、記録ヘッドがシリアルヘッドの場合、解像度に対応した1画素や1回の記録ヘッドの走査で記録される画像の領域である1バンドなどのことである。記録ヘッドがラインヘッドの場合、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査により記録される画像の領域のことである。相対走査とは、記録ヘッドが移動することによって、記録媒体に対して記録ヘッドが相対的に走査する動作、又は記録媒体が搬送されることによって、記録ヘッドに対して記録媒体が相対的に走査する動作を指す。
記録媒体の単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドの走査を複数回繰り返すことで行うマルチパス記録と比較して、1パス記録は単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行うため、記録速度を高めることができる。しかし、1パス記録で記録速度を高める場合、記録後の記録媒体が重なると、記録媒体同士で擦れやすくなる。よって、記録媒体にインクを速やかに定着させ、記録媒体同士の擦れによるインクの汚れを抑制する必要がある。このため、マルチパス記録と比べて、1パス記録は、インクの付与量を少なくする。
先に述べた通り、インクの付与量が少ない1パス記録に、特許文献1〜3のインクを適用しても、近年要求されるレベルの画像の光学濃度は得られなかった。本発明者らは、画像の光学濃度が得られない要因について、検討を行った。特許文献1〜3のインクを用いて、記録媒体に記録した画像を観察したところ、インクのドットが十分に広がっていなかった。さらに、画像を記録した記録媒体の断面を観察したところ、記録媒体の内部に一部の顔料が沈んでいることがわかった。このことから、特許文献1及び2のインクを1パス記録に適用しても優れた光学濃度が得られなかったのは、インクの付与量が少ない場合を考慮したインク設計となっていないためであることが推測される。さらに、特許文献3のインクは、1パス記録に適用しうるよう、インクの付与量が少ないことも考慮された設計となっているが、インクの粘度が低く、記録媒体にインクが留まりにくいため、画像の光学濃度のレベルが依然として不十分となることが推測される。したがって、1パスで記録した画像の光学濃度を得るためには、記録媒体の内部に顔料が沈むことを抑制するとともに、インクのドットを広がりやすくする必要がある。
そこで、本発明者らは、顔料の沈み込みを抑制するとともに、ドットを広げることを両立するために、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有するインクについて検討した。
ウレタン樹脂とは、広義には、(ポリ)イソシアネートを用いて合成される樹脂である。インクジェット用の水性インクに一般的に用いられるウレタン樹脂は、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(ポリオールやポリアミン)を用いて合成され、必要に応じて架橋剤や鎖延長剤も用いられる。
記録媒体にインクが付着した後、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールが近づきやすくなるため、これら3成分の会合体の形成が促進される。図1は、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールが形成する会合体を示す模式図である。自己分散顔料1の粒子表面と、ウレタン樹脂の有する疎水性部分2が疎水性相互作用することで、顔料の近傍にはウレタン樹脂が存在する。さらに、ウレタン樹脂の有するウレタン結合3(−NH−CO−O−)やポリオール4の有する酸素原子と、ポリエチレングリコール6の有する酸素原子は、それぞれ水分子の水素原子と水素結合する。そのため、水5を介して、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールが相互作用する。ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に多くの水を抱え込むことができるような会合体の形成により、インク中の水は、記録媒体に浸透しにくくなる。インク中の水が記録媒体に浸透しにくくなることで、インク中の水とともに自己分散顔料が記録媒体に沈み込むことを抑制できる。さらに、会合体が多くの水を抱え込むことで、自己分散顔料が凝集しにくいため、インクのドットが広がりやすくなる。このように、記録媒体にインクが付着した後に、多くの水を抱え込むことのできるような会合体が形成することで、顔料の沈み込みを抑制するとともに、インクのドットを広げることを両立することができる。インクのドットが十分に広がると、会合体の水を抱え込む力よりも記録媒体の毛管力が大きくなっていくため、会合体の抱え込んでいる水が記録媒体に浸透する。これにより、記録媒体の表面やその近傍に自己分散顔料が残るため、画像の光学濃度が向上する。
また、上記構成に加えて、インクの粘度を5mPa・s以上とすることも必要である。記録媒体に付着した後に水が蒸発し始めると、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールにより形成される会合体の濃度が上昇するため、インクの粘度が急激に高くなる。そのため、記録媒体にインクが留まりやすく、インク中で会合体がより形成しやすい。会合体の形成により、顔料の沈み込みが抑制されるとともにインクのドットが広がりやすくなるため、インクの粘度を5mPa・s以上としておくことで、画像の光学濃度を向上させることができる。
さらに、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有するインクを用いると、インクの固着回復性も向上する。特許文献3に記載のインクをインクジェット記録装置に搭載した状態で長期間放置すると、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインクの水分蒸発に伴い、顔料が凝集する。そのため、回復動作を行っても、吐出口付近に顔料の凝集物が固着しているため、インクの固着回復性が得られなかった。
しかし、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールの会合体は、多くの水を抱え込むことができるため、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインクの水分蒸発を抑制できる。さらに、インクの水分蒸発が起こっても、吐出口付近に存在するインクから会合体に水を補充できるため、顔料が凝集しにくい。これにより、記録ヘッドの吐出口付近に付着した顔料の凝集物は固着しにくくなり、回復動作により取り除きやすいため、インクの固着回復性が向上する。
なお、インクの粘度が5mPa・s未満であれば、そもそも記録ヘッドの吐出口付近にインクが付着しにくいため、インクの固着回復性は低下しない。
自己分散顔料ではなく、樹脂分散顔料を用いると、顔料に吸着している樹脂が立体障害となり、顔料の粒子表面とウレタン樹脂の有する疎水性部分が疎水性相互作用しにくい。これにより、会合体が形成しにくくなるため、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性が得られない。
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、600以上であることを要する。ポリエチレングリコール1分子が長い場合、ポリエチレングリコールが1つの水分子を介してウレタン樹脂と相互作用すると、そのポリエチレングリコールが複数の水分子を介してウレタン樹脂と相互作用しやすくなる。そのため、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に多くの水を抱え込みやすくなる。これにより、インクのドットが広がりやすく、画像の光学濃度が向上する。さらに、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料が凝集しにくくなるため、インクの固着回復性が向上する。数平均分子量が600未満であると、ポリエチレングリコールの有する酸素原子が少ないため、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に多くの水を抱え込みにくい。そのため、記録媒体にインク中の水が浸透しやすく、インク中の水とともに自己分散顔料が沈み込んでしまう。さらに、インクのドットが広がりにくいため、画像の光学濃度は得られない。また、会合体が水を抱え込みにくいことで、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料が凝集しやすいため、インクの固着回復性が得られない。
<インクジェット記録装置>
本発明のインクジェット記録装置は、単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行う手段を備える。記録ヘッドがシリアルヘッドの場合、この手段は、記録ヘッドの移動により、記録媒体に対して記録ヘッドが相対的に走査してインクを付与する手段、又は記録媒体の搬送により、記録ヘッドに対して記録媒体が相対的に走査してインクを付与する手段である。記録ヘッドがラインヘッドの場合、ラインヘッドが移動しないため、この手段は、記録媒体の搬送により、記録ヘッドに対して記録媒体が相対的に走査してインクを付与する手段である。相対走査は、記録媒体が搬送されることによって、記録ヘッドに対して記録媒体が相対的に走査する動作であることが好ましい。1パス記録が可能な記録ヘッドとしては、シリアルヘッド、ラインヘッドが挙げられる。なかでも、記録ヘッドは、より高速に画像を記録することが可能なラインヘッドであることが好ましい。1パス記録が可能なインクジェット記録装置としては、シリアル型のインクジェット記録装置、ライン型のインクジェット記録装置が挙げられる。本発明のインクジェット記録装置は、エネルギー線の照射手段を備える必要はない。
まず、シリアル型のインクジェット記録装置について、説明する。図2は、シリアル型のインクジェット記録装置の主要部を示す斜視図である。インクカートリッジを搭載するとともに、記録ヘッド(不図示)を備えたキャリッジ201を図中に示すX方向(主走査方向)に走査しながら、記録ヘッドからインクを吐出して記録媒体203に記録を行う。記録媒体203は、ローラ202により、図中に示すY方向(副走査方向)に送られる。キャリッジ201は、主走査方向に移動しながら画像を形成するが、キャリッジ201が記録媒体の端まで達すると、記録した画像分の幅だけ副走査方向に記録媒体203が送られる。その後、キャリッジ201が、再度主走査方向に移動しながら、画像を記録する。この繰り返しで、1パス記録が行われる。
次に、ライン型のインクジェット記録装置について、説明する。図3は、ライン型のインクジェット記録装置の主要部を示す斜視図である。インクジェット記録装置1000は、記録媒体203を搬送する搬送部16と、記録媒体203の搬送方向と直交して配置される記録ヘッド11とを備える。記録ヘッドは走査しないが、記録媒体203が図中に示すY方向に搬送されることによって、画像を記録する。記録ヘッド11は、インクを吐出する吐出口が記録媒体の幅全域にわたって配置され、記録媒体203が搬送されながら記録を行うため、1パス記録となる。
シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの各色のインクを、別々の記録ヘッドに搭載し、4つの色に対応する4つの記録ヘッドを用いて画像を記録する場合、記録ヘッドが、単位領域あたり同じ色のインクを1つの吐出口から吐出すれば、1パス記録できる。さらに、シアン、マゼンタ、イエロー、及びブラックの4つの色に対応する4つの吐出口列を有する記録ヘッドからインクを吐出することで、1パス記録できる。なお、吐出口が千鳥状に配列されているものでも、1つの吐出口列とみなす。インク中に、エネルギー線の照射により重合するような化合物を含有させる必要はない。
<インク>
本発明のインクジェット記録方法は、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有する水性インクを用いる。以下、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」と記載した場合は、「アクリル酸、メタクリル酸」、「アクリレート、メタクリレート」を表すものとする。本発明においては、樹脂についての「ユニット」とは、1の単量体に由来する繰り返し単位のことを指すものとする。
(自己分散顔料)
自己分散顔料の顔料種は、カーボンブラックである。自己分散顔料は、アニオン性基を直接又は他の原子団を介して顔料の粒子表面に結合させたものを用いることが好ましい。
アニオン性基としては、−COOM、−SOM、−POなどが挙げられる。Mとしては、それぞれ独立に、水素原子;アルカリ金属;アンモニウム(NH);有機アンモニウムが挙げられる。他の原子団としては、アルキレン基;アリーレン基;アミド基;スルホニル基;イミノ基;カルボニル基;エステル基;エーテル基;これらの基を組み合わせた基などが挙げられる。インク中の自己分散顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、1.00質量%以上10.00質量%以下であることが好ましく、4.00質量%以上8.00質量%以下であることがさらに好ましい。
表面電荷量(mmol/g)は、自己分散顔料の有するアニオン性基の量を表す指標として利用することができ、コロイド滴定により測定することができる。自己分散顔料の表面電荷量(mmol/g)は、0.25mmol/g以上0.70mmol/g以下であることが好ましく、0.30mmol/g以上0.50mmol/g以下であることがさらに好ましい。
表面電荷量が0.25mmol/g未満であると、顔料の有するアニオン性基が少ないため、顔料の粒子表面の露出は多くなる。ウレタン樹脂の有する疎水性部分が、顔料の粒子表面と疎水性相互作用しやすくなることで、ウレタン樹脂は顔料の近傍により存在しやすくなる。そのため、ウレタン樹脂の有するウレタン結合やポリオールの酸素原子が、水分子の水素原子と水素結合しにくくなる。ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に水を抱え込みにくくなることで、記録媒体にインク中の水が浸透しやすくなり、インク中の水とともに顔料が沈み込んでしまう。さらに、インクのドットが広がりにくいため、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。また、会合体が水を抱え込みにくいことで、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料が凝集しやすいため、インクの固着回復性が十分に得られない場合がある。
表面電荷量が、0.70mmol/gを超えると、顔料の有するアニオン性基が多いため、顔料の粒子表面の露出が少なくなる。ウレタン樹脂の有する疎水性部分は、顔料の粒子表面と疎水性相互作用しにくくなることで、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールの会合体を形成しにくくなる。これにより、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性が十分に得られない場合がある。
顔料の粒子表面にアニオン性基が直接結合した自己分散顔料は、種々の方法により製造される。生産性やコストの観点から、過酸化水素水や次亜塩素酸塩などの酸化剤で顔料を酸化処理する方法や、オゾンガスで顔料を酸化処理する方法などの酸化処理方法によって製造した自己分散顔料を用いることが多い。しかし、顔料の粒子表面を酸化処理すると、顔料の粒子表面にヒドロキシ基などのノニオン性基が導入されやすい。ノニオン性基は、普通紙の主成分であるセルロースと水素結合を形成しやすいため、顔料の粒子表面の露出部分が少なくなる。これにより、ウレタン樹脂の疎水性部分は、顔料の粒子表面の露出部分と疎水性相互作用しにくくなるため、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを巻き込んだ会合体を形成しにくくなる。そのため、画像の光学濃度、及びインクの固着回復性が十分に得られない場合がある。
(ウレタン樹脂)
水性インクに一般的に用いられるウレタン樹脂は、少なくとも、ポリイソシアネートと、それと反応する成分(ポリオールやポリアミン)を用いて合成され、必要に応じて架橋剤や鎖延長剤も用いられる。以下、ウレタン樹脂の構成ユニットとなる各単量体について説明する。
なお、ウレタン樹脂の作用を効率よく発揮させるためには、アクリル樹脂鎖が組み込まれているようなウレタン樹脂(いわゆるウレタン−アクリル複合樹脂)とすることはあまり好ましくない。また、活性エネルギー線硬化型のウレタン樹脂、すなわち重合性基を有するウレタン樹脂とすることもあまり好ましくない。ウレタン樹脂の酸価(mgKOH/g)は、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましい。酸価は、電位差を利用したコロイド滴定により得られる。ウレタン樹脂の重量平均分子量は、20,000以上40,000以下であることが好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により得られるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
インク中のウレタン樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上10.00質量%以下であることが好ましく、0.30質量%以上5.00質量%以下であることがさらに好ましい。さらに、インク中のウレタン樹脂の含有量(質量%)は、自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上1.00倍以下であることが好ましい。前記質量比率が、0.05倍未満であると、顔料に対してウレタン樹脂が少なく、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に抱え込める水も少なくなる。そのため、記録媒体にインク中の水が浸透しやすく、インク中の水とともに顔料が沈み込んでしまう。さらに、インクのドットが広がりにくいため、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。また、会合体が水を抱え込みにくいことで、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料が凝集しやすいため、インクの固着回復性が十分に得られない場合がある。前記質量比率が、1.00倍を超えると、顔料に対してウレタン樹脂が多く、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に抱え込める水も多くなる。これにより、会合体から水が離れにくく、顔料が凝集しにくくなるため、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。
[ポリイソシアネート]
本発明における「ポリイソシアネート」とは、ポリオールやポリアミンなどと反応するために、分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。樹脂に占めるポリイソシアネートに由来するユニットの割合(質量%)は、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。ポリイソシアネートとしては、脂肪族や芳香族のポリイソシアネートなどが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネートなどの鎖状構造を有するポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどの環状構造を有するポリイソシアネート;などが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。
なかでも、ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネートであることが好ましく、イソホロンジイソシアネート、及びヘキサメチレンジイソシアネートからなる群より選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
[ポリオール]
上記のポリイソシアネートとの反応によってウレタン樹脂を構成するユニットとなる成分としては、ポリオールを用いることができる。本発明における「ポリオール」とは、分子中に2以上のヒドロキシ基を有する化合物を意味し、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどの酸基を有しないポリオール;酸基を有するポリオール;などが挙げられる。ポリオールは、1種、又は必要に応じて2種以上を用いることができる。樹脂に占めるポリオールに由来するユニットの割合(質量%)は、10.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましい。
〔酸基を有しないポリオール〕
ポリエーテルポリオールとしては、アルキレンオキサイド及びポリオール類の付加重合物;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類;などが挙げられる。アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイドなどが挙げられる。また、アルキレンオキサイドと付加重合するポリオール類としては、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、4,4−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4−ジヒドロキシフェニルメタン、水素添加ビスフェノールA、ジメチロール尿素及びその誘導体などのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールメラミン及びその誘導体、ポリオキシプロピレントリオールなどのトリオール;などが挙げられる。グリコール類としては、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、(ポリ)テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの(ポリ)アルキレングリコール;エチレングリコール−プロピレングリコール共重合体;などが挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、酸エステルなどが挙げられる。酸エステルを構成する酸成分としては、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;前記芳香族ジカルボン酸の水素添加物などの脂環族ジカルボン酸;マロン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの脂肪族ジカルボン酸;などが挙げられる。これらの無水物、塩、誘導体(アルキルエステル、酸ハライド)なども酸成分として用いることができる。また、酸成分とエステルを形成する成分としては、ジオール、トリオールなどのポリオール類;(ポリ)アルキレングリコールなどのグリコール類;などが挙げられる。ポリオール類やグリコール類としては、上記のポリエーテルポリオールを構成する成分として例示したものが挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、公知の方法で製造されるポリカーボネートポリオールを用いることができる。具体的には、ポリヘキサメチレンカーボネートジオールなどのアルカンジオール系ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。また、アルキレンカーボネート、ジアリールカーボネート、ジアルキルカーボネートなどのカーボネート成分やホスゲンと、脂肪族ジオール成分と、を反応させて得られるポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
なかでも、酸基を有しないポリオールは、ポリエーテルポリオールを含むことが好ましく、有している炭素の数が少なく、より親水性が高いポリエチレングリコール、又はポリプロピレングリコールを含むことがさらに好ましい。ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールを用いると、ウレタン樹脂との間により水を抱え込みやすいため、インク中の水が記録媒体に浸透しにくくなり、インク中の水とともに顔料が沈み込みにくくなる。さらにインクのドットが広がりやすいため、画像の光学濃度が向上する。また、会合体がより水を抱え込みやすいことで、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料が凝集しにくいため、インクの固着回復性が向上する。
インク中のウレタン樹脂が有する、ポリオールに由来するユニットの合計量に占める、酸基を有しないポリオールに由来するユニットの割合(モル%)は、0.0モル%以上30.0モル%以下であることが好ましく、0.0モル%以上10.0モル%以下であることがさらに好ましい。
〔酸基を有するポリオール〕
酸基を有するポリオールとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基などの酸基を有するポリオールが挙げられる。酸基はカルボン酸基であることが好ましい。カルボン酸基を有するポリオールとしては、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロール酪酸などが挙げられる。なかでも、ジメチロールプロピオン酸が好ましい。酸基を有するポリオールの酸基は塩型であってもよく、塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属のイオン、アンモニウムイオン、ジメチルアミンなどの有機アミンのカチオンなどが挙げられる。なお、汎用の酸基を有するポリオールの数平均分子量は高くても400程度であるので、酸基を有するポリオールに由来するユニットは、基本的にはウレタン樹脂のハードセグメントとなる。
インク中のウレタン樹脂が有する、ポリオールに由来するユニットの合計量に占める、酸基を有するポリオールに由来するユニットの割合(モル%)は、70.0モル%以上100.0モル%以下であることが好ましく、90.0モル%以上100.0モル%以下であることがさらに好ましい。
〔鎖延長剤、架橋剤〕
ウレタン樹脂には、架橋剤や鎖延長剤が用いられていてもよい。通常、架橋剤はプレポリマーの合成の際に用いられ、鎖延長剤は予め合成されたプレポリマーに対して鎖延長反応を行う際に用いられる。基本的には、架橋剤や鎖延長剤としては、架橋や鎖延長など目的に応じて、水や、上記で挙げたポリイソシアネート、ポリオールの他に、ポリアミンなどからも適宜に選択して用いることができる。ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキシレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ヒドラジン、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミンなどが挙げられる。なお、汎用の酸基を有するポリオールと同様に汎用のポリアミンの分子量は高くても400程度であるので、ポリアミンに由来するユニットは、基本的にはウレタン樹脂のハードセグメントとなる。鎖延長剤として、ウレタン樹脂を架橋させることができるものを用いることもできる。
[合成方法]
ウレタン樹脂の合成方法としては、従来、ウレタン樹脂の合成方法として一般的に利用されているもののいずれも利用することができる。例えば、以下の方法が挙げられる。ポリイソシアネート、及び、それと反応する化合物(ポリオールやポリアミン)を用いて、プレポリマーを合成する。この際、必要に応じて沸点100℃以下の有機溶剤を使用してもよく、また、中和剤を用いてプレポリマーの酸基を中和する。その後、鎖延長剤や架橋剤を含む液体中にプレポリマーを添加し、鎖延長反応や架橋反応を行う。次いで、有機溶剤を使用した場合には除去して、ウレタン樹脂を得る。
中和剤としては、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどの有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基;などが挙げられる。中和剤は、プレポリマーが有する酸性基1.0モル当たり、好ましくは0.5〜1.0モル、より好ましくは0.8〜1.0モル用いる。この範囲外であると、ウレタン樹脂を含む液体の不安定化や粘度上昇が生じ、インク調製の作業性が若干低下する場合がある。
ウレタン樹脂の合成に用いる化合物(ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなど)の1分子当たりの反応基(イソシアネート基、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基など)の数は、所望とするウレタン樹脂の特性に合わせて決定する。例えば、1分子当たり1つの反応基を持つ化合物は、ウレタン樹脂の末端に存在するユニットとなる。また、1分子当たり2つ以上の反応基を持つ化合物は、ウレタン樹脂を構成する他のユニットに挟まれる位置に存在するユニットとなり、なかでも、1分子当たり3つ以上の反応基を持つ化合物は、ウレタン樹脂を架橋させるためのユニットとなる。ウレタン樹脂を架橋させたい場合には、所望の架橋度に応じて、構成ユニットとして1分子当たり3つ以上の反応基を持つ化合物に由来するユニットを用いればよい。逆に、ウレタン樹脂を架橋させたくない場合には、構成するユニットとして1分子当たり2つの反応基を持つ化合物に由来するユニットのみを用いればよい。
[分析方法]
ウレタン樹脂の組成は、以下の方法によって分析することができる。先ず、ウレタン樹脂を含有するインクから、ウレタン樹脂を抽出する方法について説明する。具体的には、インクを80,000rpmで遠心分離して分取した上澄み液に、過剰の酸(塩酸など)を添加して析出したウレタン樹脂を抽出することができる。また、前記上澄み液を乾固させることによってウレタン樹脂を分取することもできる。また、顔料を溶解しないが、ウレタン樹脂は溶解するような有機溶剤(ヘキサンなど)を用いて、インクからウレタン樹脂を抽出することもできる。なお、インクからも分析を行うことはできるが、上述の方法によって抽出したウレタン樹脂(固形分)を用いることで、より精度が高い分析を行うことができる。
上記のようにして分取したウレタン樹脂を乾燥させた後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解させて測定対象の試料を調製する。そして、この試料について、プロトン核磁気共鳴法(H−NMR)により分析を行って得られたピークの位置から、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどの種類を確認することができる。さらに、各成分の化学シフトのピークの積算値の比から、組成比を算出することもできる。また、ウレタン樹脂を熱分解ガスクロマトグラフィーにより分析しても、ポリイソシアネート、ポリオール、ポリアミンなどの種類を確認することができる。さらに、カーボン核磁気共鳴分光法(13C−NMR)により分析を行って、酸基を有しないポリオールの単位ユニットの繰り返し数を求め、数平均分子量を算出することができる。
さらに、乾燥させたウレタン樹脂をテトラヒドロフランに溶解し、水酸化カリウムのエタノール滴定液を用いた電位差滴定により、ポリオールのうち、酸基を有するポリオールの占める割合を測定することができる。
(ポリエチレングリコール)
ポリエチレングリコールの数平均分子量は、600以上であり、4,000以下であることが好ましい。数平均分子量が、4,000を超えると、会合体が多くの水を抱え込みやすいため、会合体から水が離れにくく、顔料が凝集しにくくなり、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。インク中のポリエチレングリコールの含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.10質量%以上30.00質量%以下であることが好ましく、6.00質量%以上20.00質量%以下であることがさらに好ましい。インク中のポリエチレングリコールの含有量(質量%)は、自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.10倍以上5.00倍以下であることが好ましく、1.10倍以上3.30倍以下であることがさらに好ましい。前記質量比率が、1.10倍未満であると、顔料に対してポリエチレングリコールが少ないため、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に抱え込める水も少なくなる。そのため、記録媒体にインク中の水が浸透しやすくなり、インク中の水とともに顔料が沈み込んでしまう。さらに、インクのドットが広がりにくいため、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。さらに、会合体がより水を抱え込みにくいことで、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料が凝集しやすいため、インクの固着回復性が十分に得られない場合がある。前記質量比率が、3.30倍を超えると、顔料に対してポリエチレングリコールが多いため、ウレタン樹脂とポリエチレングリコールの間に抱え込める水も多くなる。そのため、会合体から水が離れにくく、顔料が凝集しにくくなり、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。
本発明におけるポリエチレングリコールの数平均分子量とは、その値の上下30の範囲を包含するものである。例えば、数平均分子量600のポリエチレングリコールの場合、分子量が570乃至630程度のものを数平均分子量が600であるとする。より詳細には、後述する測定方法により決定した数平均分子量が570乃至630程度のものを、平均分子量600のポリエチレングリコールとする。
〔数平均分子量の算出方法〕
本発明におけるポリエチレングリコール類の数平均分子量は、下記のようにして測定した値である。測定対象のポリエチレングリコール試料1g(0.1mgの桁まで秤量)を、共栓付きフラスコで正確に秤量した無水フタルピリジン溶液25mL中に入れ、共栓をして沸騰水浴中で2時間加熱した後、室温になるまで放置する。その後、このフラスコに0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液50mL(正確に秤量する)及び滴定用フェノールフタレイン溶液10滴を入れる。このフラスコ中の液体を、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いて滴定を行い、液体が15秒間紅色を保つ点を終点とする。このようにして得られた本試験の滴定量M(mL)と、ポリエチレングリコール試料を用いない以外は上記と同様にして行った空試験により得られた滴定量R(mL)から、数平均分子量={(ポリエチレングリコール試料の採取量(g))×4000}/{(M−R)×0.5(mol/L)}より算出する。
(アクリル樹脂)
インクは、さらにアクリル樹脂を含有することが好ましい。顔料の粒子表面の一部は、ウレタン樹脂と疎水性相互作用せずに露出している場合がある。インクがアクリル樹脂を含有しない場合、インクをインクジェット記録装置に搭載した状態で長期間放置すると、記録ヘッドの吐出口付近に付着したインク中の顔料の露出部分が疎水性相互作用しやすくなる。これにより、顔料が凝集すると、吐出口付近に会合体が固着しやすくなる。これにより、インクの固着回復性が十分に得られない場合がある。インクがさらにアクリル樹脂を含有することで、アクリル樹脂の疎水性部分が、顔料の粒子表面の露出部分と疎水性相互作用するため、顔料が凝集しにくくなる。これにより、会合体が固着しにくくなるため、インクの固着回復性がさらに向上する。なお、アクリル樹脂と顔料の疎水性相互作用は、ウレタン樹脂と顔料の疎水性相互作用と比較して弱いため、アクリル樹脂が、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールの会合体の形成を抑制することはあまりない。
アクリル樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.20質量%以上4.00質量%以下であることが好ましく、0.50質量%以上2.00質量%以下であることがさらに好ましい。インク中のアクリル樹脂の含有量(質量%)は、ウレタン樹脂の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.20倍以上であることが好ましい。前記質量比率が、0.20倍未満であると、ウレタン樹脂に対してアクリル樹脂が少ないため、ウレタン樹脂と相互作用していない顔料の粒子表面と相互作用するアクリル樹脂が十分に存在しない。そのため、顔料の露出部分が疎水性相互作用し、顔料が凝集しやすくなる。これにより、インクの固着回復性が十分に得られない場合がある。前記質量比率は、3.85倍以下であることが好ましい。
アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸、及びアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種に由来するユニットを有する樹脂である。アルキル(メタ)アクリレートとしては、エチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、(イソ)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、iso−、tert−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。本発明においては、(メタ)アクリル酸やアルキル(メタ)アクリレートに由来するユニットと、その他の単量体に由来するユニットを有する樹脂であることが好ましい。その他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族基を有する単量体などが挙げられる。なかでも、アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸、及びスチレンに由来するユニットを有することが好ましい。
アクリル樹脂の酸価(mgKOH/g)は、100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であることが好ましい。アクリル樹脂の酸価は、ウレタン樹脂の酸価と同様の方法で測定できる。アクリル樹脂のGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、5,000以上15,000以下であることが好ましい。アクリル樹脂の重量平均分子量は、ウレタン樹脂の重量平均分子量と同様の方法で測定できる。
(界面活性剤)
インクは、さらに界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤は、ノニオン性界面活性剤であることが好ましい。アニオン性界面活性剤を用いると、記録媒体のカチオン性成分(填料、アルミナ、アルミナ水和物、及びカチオン性樹脂など)と反応してしまうため、界面活性剤の働きを失い、インクに含有させることによる効果が損なわれやすいからである。ノニオン性界面活性剤としては、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド付加物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
なかでも、ノニオン性界面活性剤は、グリフィン法によるHLB値が12以下であるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物であることが好ましい。アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物は、ミセルを形成しにくいため、インク中の会合体と記録媒体の間に入り込みやすい。さらに、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物のHLB値を12以下とすることで、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物の疎水性が高いため、すばやくインクと記録媒体の界面に配向できる。これにより、記録媒体でインクのドットが広がりやすくなるため、画像の光学濃度がさらに向上する。アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物のHLB値は、5以上であることがさらに好ましい。
ここで、グリフィン法によるHLB値は、界面活性剤の親水性基の式量と界面活性剤の分子量から、HLB値=20×(界面活性剤のエチレンオキサイド基の式量)/(界面活性剤の分子量)の式より算出される。HLB値は、界面活性剤(化合物)の親水性や親油性の程度を、0.0から20.0の範囲で示すものである。HLB値が低いほど化合物の親油性(疎水性)が高いことを示す。一方、HLB値が高いほど化合物の親水性が高いことを示す。
(水性媒体)
インクは、水、又は水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を含有している。水としては脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、ポリエチレングリコール以外の水溶性有機溶剤(その他の水溶性有機溶剤)を併用することができる。その他の水溶性有機溶剤としては、アルコール類、グリコール類、グリコールエーテル類、及び含窒素化合物類などを用いることができる。また、これらの水溶性有機溶剤の1種又は2種以上をインクに含有させることができる。
インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.00質量%以上95.00質量%以下であることが好ましい。また、インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.00質量%以上50.00質量%以下であることが好ましい。この含有量は、ポリエチレングリコールを含む値である。水溶性有機溶剤の含有量が3.00質量%未満であると、インクをインクジェット記録装置に用いる場合に吐出安定性などの信頼性が十分に得られない場合がある。また、水溶性有機溶剤の含有量が50.00質量%超であると、インクの粘度が上昇して、インクの供給不良が起きる場合がある。
(その他の成分)
インクには、上記成分の他に、尿素やその誘導体、トリメチロールプロパン、及びトリメチロールエタンなどの温度25℃で固体の水溶性有機化合物を含有させてもよい。また、インクには、必要に応じて、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及びキレート剤などの種々の添加剤を含有させてもよい。
(インクの物性)
インクの粘度は、5mPa・s以上であり、11mPa・s以下であることが好ましい。インクの粘度は、インク中の顔料、界面活性剤、水溶性有機溶剤の種類や量を変更することで、適宜調整できる。また、インクの表面張力は、35mN/m以下であることが好ましい。表面張力が、35mN/mを超えると、記録媒体にインクが付着した後、インクのドットが広がりにくくなり、画像の光学濃度が十分に得られない場合がある。インクの表面張力は、インク中の界面活性剤や水溶性有機溶剤の種類や量を変更することで、適宜調整できる。前記表面張力は、30mN/m以上であることが好ましい。さらに、インクのpHは、7.0以上9.0以下であることが好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、成分量に関して「部」及び「%」と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
略称は以下の通りである。IPDI:イソホロンジイソシアネート、HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート、PPG:ポリプロピレングリコール、PEG:ポリエチレングリコール、PTMG:ポリテトラメチレングリコール、PC:ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、PES:ポリエステルポリオール、DMPA:ジメチロールプロピオン酸、EDA:エチレンジアミン。
<ウレタン樹脂の合成>
表1に記載の酸基を有しないポリオールをメチルエチルケトンに溶解させた後、表1に記載のポリイソシアネート、及び酸基を有するポリオールを加え、温度75℃で1時間反応させて、プレポリマー溶液を得た。得られたプレポリマー溶液を温度60℃まで冷却して、水酸化カリウム水溶液を加え、酸基を中和した。その後、温度40℃まで冷却してイオン交換水を添加し、ホモミキサーで高速撹拌することで乳化した。乳化後、鎖延長剤を加え、鎖延長反応を温度30℃にて12時間行った。フーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)によりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで、この溶液を加熱減圧下、メチルエチルケトンを留去し、ウレタン樹脂の含有量が20.00%であるウレタン樹脂を含む液体を得た。表1に酸価(mgKOH/g)、及び重量平均分子量を記載する。
ウレタン樹脂の酸価の測定方法は、以下の通りである。流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置(AT−510、京都電子工業製)を用い、電位差を利用したコロイド滴定により、テトラヒドロフランに溶解させたウレタン樹脂について、酸価を測定した。この際、滴定試薬としては、水酸化カリウムのエタノール溶液を用いた。
ウレタン樹脂の重量平均分子量は、GPCにより、以下のようにして測定した。温度25℃で24時間かけて、樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。得られた溶液を、メンブレンフィルターでろ過して、サンプル溶液を得た。サンプル溶液は、THFに可溶な成分の濃度が約0.3%となるように調整した。このサンプル溶液を用いて、以下の条件で樹脂の重量平均分子量を測定した。
装置:Waters2695 Separations Module、Waters製
RI検出器:2414detector、Waters製
カラム:KF−806Mの4連、昭和電工製
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/min
オーブン温度:温度40℃
試料注入量:100μL
樹脂の重量平均分子量の算出にあたっては、標準ポリスチレン樹脂(TSKスタンダード ポリスチレン F−850、F−450、F−288、F−128、F−80、F−40、F−20、F−10、F−4、F−2、F−1、A−5000、A−2500、A−1000、A−500、東ソー製)を用いて作成した分子量校正曲線を使用した。
<アクリル樹脂の合成>
表2に記載の単量体(部)を用いて、常法により、アクリル樹脂1〜4を合成した。10.0%の水酸化カリウム水溶液を用いてカルボキシ基を中和し、さらに適量のイオン交換水を加えて、アクリル樹脂の含有量が20.00%であるアクリル樹脂1〜4を含む液体を得た。さらに、表2に記載の単量体(部)を用いて、常法により、アクリル樹脂5を合成した。10.0%の水酸化カリウム水溶液を用いてカルボキシ基を中和し、さらに適量のイオン交換水を加えて、アクリル樹脂の含有量が15.00%であるアクリル樹脂5を含む液体を得た。表2の下段にアクリル樹脂の酸価、及び重量平均分子量を記載する。アクリル樹脂の酸価、及び重量平均分子量の測定方法は、ウレタン樹脂の測定方法と同様である。
<顔料分散液の調製>
(顔料の表面電荷量)
顔料の表面電荷量の測定方法は、以下の通りである。流動電位滴定ユニット(PCD−500)を搭載した電位差自動滴定装置(AT−510、京都電子工業製)を用い、電位差を利用したコロイド滴定により、表面電荷量を測定した。この際、滴定試薬としては、5mmol/Lのメチルグリコールキトサンを用いた。カーボンブラックとしては、比表面積が220m/gであり、DBP吸油量が105mL/100gであるものを用いた。
(顔料分散液1)
水5.50gに濃塩酸5.00gを溶かした溶液に、温度5℃で、4−アミノ−1−ベンゼンカルボン酸1.60gを加えた。温度10℃以下を維持するために、アイスバスで撹拌しながら、上記で得られた溶液に、水9.00gに亜硝酸ナトリウム1.80gを溶かした溶液を加えた。15分撹拌後、カーボンブラック6.00gを加え、混合した。さらに、15分撹拌後、得られたスラリーをろ紙(標準用ろ紙No.2、アドバンテック製)でろ過し、カーボンブラックを十分に水洗し、温度110℃のオーブンで乾燥させた。得られたカーボンブラックに水を添加し、さらにイオン交換法により、カウンターイオンをナトリウムイオンに変更することで、顔料分散液1(顔料の含有量が15.00%)を得た。顔料分散液1には、粒子表面に−C−(COONa)基が結合している自己分散カーボンブラックが含まれていた。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.40mmol/gだった。
(顔料分散液2)
顔料分散液1の調製において、4−アミノ−1−ベンゼンカルボン酸の量を1.00gに変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液2(顔料の含有量が15.00%)を得た。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.25mmol/gだった。
(顔料分散液3)
顔料分散液1の調製において、4−アミノ−1−ベンゼンカルボン酸の量を2.80gに変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液3(顔料の含有量が15.00%)を得た。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.70mmol/gだった。
(顔料分散液4)
顔料分散液1の調製において、4−アミノ−1−ベンゼンカルボン酸の量を0.80gに変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液4(顔料の含有量が15.00%)を得た。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.20mmol/gだった。
(顔料分散液5)
顔料分散液1の調製において、4−アミノ−1−ベンゼンカルボン酸の量を3.00gに変更した。それ以外は、顔料分散液1の調製と同様の手順で、顔料分散液5(顔料の含有量が15.00%)を得た。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.75mmol/gだった。
(顔料分散液6)
カーボンブラック20.00g、処理剤11.60mmol、硝酸20.00mmol、及び水100.00mLを混合した。処理剤としては((4−アミノベンゾイルアミノ)−メタン−1,1−ジイル)ビスホスホン酸ナトリウム塩を用いた。シルヴァーソン混合機を用い、温度25℃、6,000rpm、30分の条件で混合した。得られた混合物に、少量の水に亜硝酸ナトリウム20.00mmolを溶解させた水溶液をゆっくり添加した。水溶液の添加により、混合物の温度は60℃に達した。温度60℃で、混合物を1時間反応させた。その後、1.0mol/Lの水酸化カリウム水溶液を用いて、混合物のpHを10に調整した。そして30分後、混合物に水20.00mLを加え、スペクトラムメンブランを用いて低分子物の除去、及び脱塩を行った。さらに、混合物を水で希釈し、自己分散カーボンブラックが含まれる顔料分散液6(顔料の含有量が15.00%)を得た。顔料分散液6には、粒子表面に−C−CONH−CH(PO基が結合している自己分散カーボンブラックが含まれていた。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.40mmol/gだった。
(顔料分散液7)
特表2003−535949号公報の実施例3の記載を参考にして、オゾンガスを用いて、カーボンブラックを酸化した。カーボンブラックをイオン交換水で予備分散させた後、オゾン処理を8時間行った。次に、水酸化カリウムを添加して、混合物をpH7に調整しながら、液−液衝突型の分散機で混合物を3時間分散させた後、限外ろ過により精製した。その後、水酸化カリウム水溶液を用いて、pHを10に調製した。適量のイオン交換水を添加して、顔料分散液7(顔料の含有量が15.00%)を得た。自己分散カーボンブラックの表面電荷量は、0.40mmol/gだった。
(顔料分散液8)
カーボンブラック15.00部、樹脂を含む液体50.00部、及びイオン交換水35.00部を混合した。樹脂は、酸価が160mgKOH/gで、重量平均分子量が10,000であるスチレン−アクリル酸共重合体を用いた。樹脂を含む液体としては、共重合体の酸価に対して等モル量の10.0%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、樹脂の含有量が15.00%である液体を用いた。この混合物を、粒径0.3mmのジルコニアビーズ85.0部を充填したバッチ式縦型サンドミル(アイメックス製)を用いて、水で冷やしながら3時間分散した。その後、この分散液を遠心分離処理して粗大粒子を除去し、ポアサイズ3.0μmのセルロースアセテートフィルター(アドバンテック製)にて加圧ろ過を行った。前記の方法により、顔料が樹脂によって水中に分散された状態の顔料分散液8(顔料の含有量が15.00%、樹脂の含有量が7.50%)を得た。
(顔料分散液9)
カーボンブラックの粒子表面にベンゼンカルボン酸基が結合している自己分散顔料(Cab−O−Jet300、キャボット製)を水で希釈し、十分撹拌して、顔料の含有量が15.00%である顔料分散液9を得た。
<インクの調製>
表4〜6に記載の各成分を混合し、インクを調製した。インクの粘度は、回転粘度計(RE80型粘度計、東機産業製)を用いて、温度25℃の条件で測定した。さらに、インクの静的表面張力は、表面張力計(CBVP−Z型、協和界面科学製)を用いて、温度25℃の条件で測定した。顔料の含有量P、数平均分子量600以上のポリエチレングリコールの含有量(表中、PEG(数平均分子量600以上)の含有量Eと記載)、ウレタン樹脂の含有量U、及びアクリル樹脂の含有量Aを表4〜6の下段に記載する。また、顔料に対するポリエチレングリコールの質量比率(表中、E/Pと記載)、及び顔料に対するウレタン樹脂の質量比率(表中、U/Pと記載)を表4〜6の下段に記載する。さらに、ウレタン樹脂に対するアクリル樹脂の質量比率(表中、A/Uと記載)、インクの粘度、及びインクの表面張力の値を、表4〜6の下段に記載する。ポリエチレングリコールに付した数値は、数平均分子量である。界面活性剤の種類、及びグリフィン法により算出したHLB値は、表3に記載する。
<評価>
本発明においては、下記の評価の評価基準で、AA、A、又はBを許容できるレベルとし、Cを許容できないレベルとした。
インクを、それぞれインクカートリッジに充填し、熱エネルギーによりインクを吐出する記録ヘッドを搭載したインクジェット記録装置1〜3にセットした。インクジェット記録装置1〜3の構成は、表8に記載する。パス回数が1回であると、記録媒体の単位領域に、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査により、水性インクを付与することとなる。パス回数が2回であると、記録媒体の単位領域に、記録ヘッドの走査を2回繰り返して、水性インクを付与することとなる。表中「単位領域」とは、1/600インチ×1/600インチの単位領域(1画素)のことである。装置1及び2は、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、約14ngのインク滴を1滴付与する条件で記録した画像を記録デューティが100%であると定義する。装置3は、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、約14ngのインク滴を2滴付与する条件で記録した画像を記録デューティが100%であると定義する。評価結果は、表9に記載する。

(光学濃度)
前記インクジェット記録装置1〜3を用いて、3種類の記録媒体((1)PPC用紙・PB PAPER、キヤノン製、(2)PPC用紙・ブライトホワイト、ヒューレッド・パッカード製、(3)PPC用紙・Canon EXTRA、キヤノン製)に、3cm×2cmのベタ画像を記録した。装置1、2及び3を用いて、記録デューティが100%であるベタ画像を記録した。得られたベタ画像を温度25℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置し、乾燥させた後、光学濃度計(マクベスRD−918、マクベス製)を用いて、得られた画像の光学濃度を測定した。
AA:3種類の記録媒体の画像の光学濃度の平均が、1.55以上だった。
A:3種類の記録媒体の画像の光学濃度の平均が、1.50以上1.55未満だった。
B:3種類の記録媒体の画像の光学濃度の平均が、1.45以上1.50未満だった。
C:3種類の記録媒体の画像の光学濃度の平均が、1.45未満だった。
(固着回復性)
各インクにつき、インクカートリッジを2つ用意した。インクジェット記録装置1に2つのインクカートリッジを搭載し、回復動作を行った後、全ての吐出口から1滴ずつインクを吐出させて、幅1ドット分の縦罫線を記録した。その後、インクジェット記録装置1から、インクカートリッジを搭載した記録ヘッド(ヘッドカートリッジ)を取り外し、温度25℃、相対湿度50%の環境で30日間放置した。そして、このヘッドカートリッジを再びインクジェット記録装置1に装着し、ノズルチェックパターンを記録した。ノズルチェックパターンが正常に記録されず、目詰まりが発生した場合、プリンタドライバから回復動作を行った後に、再び全ての吐出口から1滴ずつインクを吐出させて、同様の縦罫線を記録した。この時点でも目詰まりが発生した場合には、プリンタドライバから回復動作を行った後に、再び全ての吐出口から1滴ずつインクを吐出させて、同様の縦罫線を記録した。それでも目詰まりが発生し場合には、プリンタドライバから回復動作を行った後に、再び全ての吐出口から1滴ずつインクを吐出させて、同様の縦罫線を記録した。このようにして、縦罫線を正常に記録することができるようになるまでに要した回復動作の回数により、固着回復性を評価した。
AA:2個のインクカートリッジのいずれについても、1回の回復動作で全ての吐出口から正常にインクが吐出された。
A:一方のインクカートリッジは、1回の回復動作で全ての吐出口から正常にインクが吐出された。他方のインクカートリッジは、回復動作を1回行っても一部の吐出口からインクが吐出されなかったが、さらにもう1回の回復動作を行うことで全ての吐出口から正常にインクが吐出された。
B:2個のインクカートリッジのいずれについても、回復動作を1回行っても一部の吐出口からインクが吐出されなかったが、さらにもう1回の回復動作を行うことで全ての吐出口からインクが吐出された。
C:2個のインクカートリッジのいずれについても、回復動作を2回行っても一部の吐出口からインクが吐出されなかったが、さらにもう1回の回復動作を行うことで全ての吐出口からインクが吐出された。
実施例38の評価結果は、光学濃度、及び固着回復性がいずれもBであるが、他のBよりも劣っていた。実施例39と参考例1〜4を比較すると、パス回数が1回でインクの付与量が少ない実施例39は、パス回数が2回でインクの付与量が多い参考例1〜4と同じレベルの光学濃度が得られた。

Claims (8)

  1. 単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行って、画像を記録する工程を有するインクジェット記録方法であって、
    前記水性インクが、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有し、
    前記自己分散顔料の顔料種が、カーボンブラックであり、
    前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、600以上であり、
    前記水性インクの粘度が、5mPa・s以上であることを特徴とするインクジェット記録方法。
  2. 前記水性インク中の前記ポリエチレングリコールの含有量(質量%)が、前記自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、1.10倍以上3.30倍以下である請求項1に記載のインクジェット記録方法。
  3. 前記水性インクが、さらにアクリル樹脂を含有する請求項1又は2に記載のインクジェット記録方法。
  4. 前記水性インク中の前記アクリル樹脂の含有量(質量%)が、前記ウレタン樹脂の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.20倍以上である請求項3に記載のインクジェット記録方法。
  5. 前記水性インク中の前記ウレタン樹脂の含有量(質量%)が、前記自己分散顔料の含有量(質量%)に対する質量比率で、0.05倍以上1.00倍以下である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
  6. 前記水性インクの表面張力が、35mN/m以下である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
  7. 前記記録ヘッドが、ラインヘッドである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のインクジェット記録方法。
  8. 単位領域への水性インクの付与を、記録ヘッドと記録媒体との1回の相対走査で行う手段を備えたインクジェット記録装置であって、
    前記水性インクが、自己分散顔料、ウレタン樹脂、及びポリエチレングリコールを含有し、
    前記自己分散顔料の顔料種が、カーボンブラックであり、
    前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が、600以上であり、
    前記水性インクの粘度が、5mPa・s以上であることを特徴とするインクジェット記録装置。
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