JP2018080336A - 繊維状セルロースの製造方法及び繊維状セルロース - Google Patents

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Abstract

【課題】リン酸基を有する微細繊維状セルロースを、効率よく且つ高収率で得ることができる微細繊維状セルロースの製造方法の提供。【解決手段】セルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(A)と、架橋構造の一部又は全部を切断することで架橋切断リン酸化セルロース繊維を得る工程(B)と、架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程(C)と、を含み、工程(A)では、0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造を形成し、工程(B)は、pHが3以上の水系溶媒中で架橋構造の加水分解を行う工程である、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、微細繊維状セルロースの製造方法及び微細繊維状セルロースに関する。さらに本発明は、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートに関するものでもある。
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
また、繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースはシートや複合体の構成原料として用いることができる。微細繊維状セルロースを用いた場合、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。また、微細繊維状セルロースは、増粘剤などの用途へ使用することも検討されている。
微細繊維状セルロースは、従来のセルロース繊維を機械処理することで製造可能であるが、セルロース繊維同士は水素結合により、強く結合している。したがって、単純に機械処理を行うのみでは、微細繊維状セルロースを得るまでに膨大なエネルギーが必要となる。
より小さな機械処理エネルギーで微細繊維状セルロースを製造するためには、機械処理と合わせて、化学処理や生物処理といった前処理を行うことが有効であることが知られている。特に、化学処理により、セルロース表面のヒドロキシル基に親水性の官能基(例えば、カルボキシル基、カチオン基、リン酸基など)を導入すると、イオン同士の電気的な反発が生じ、かつイオンが水和することで、特に水系溶媒への分散性が著しく向上する。このため、化学処理を施さない場合に比べて微細化のエネルギー効率が高くなる。
例えば、特許文献1及び2には、リン酸基がセルロースのヒドロキシル基とエステルを形成したリン酸化微細繊維状セルロース及びリン酸化微細繊維状セルロースの製造方法が開示されている。特許文献2では、リン酸基導入工程を尿素の存在下で行うことや、リン酸基導入工程を複数回行うことでリン酸基導入量を増加させることが検討されている。
国際公開第2013/073652号公報 国際公開第2014/185505号公報
リン酸基を有する微細繊維状セルロースについては、リン酸基をより多く導入することが望まれる場合がある。一方で、微細繊維状セルロースは、スラリーとした場合に高い粘度を発現できるものであることが好ましい。そこで、本発明者らは、このような微細繊維状セルロースを効率よく製造することを目的として検討を進めた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、リン酸化微細繊維状セルロースの製造方法において、セルロースに導入されたリン酸基を介して所定量の架橋構造を形成した後に、該架橋構造の加水分解を行い、その後に微細化処理を行うことで、リン酸基導入量が十分に高く、かつリン酸基を介した架橋構造の形成が少ないリン酸化微細繊維状セルロースが効率よく得られることを見出した。本発明者らは、このようなリン酸化微細繊維状セルロースは、スラリーとした際に高い粘度を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
[1] セルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(A)と、架橋構造の一部又は全部を切断することで架橋切断リン酸化セルロース繊維を得る工程(B)と、架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程(C)と、を含み、工程(A)では、0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造を形成し、工程(B)は、pHが3以上の水系溶媒中で架橋構造の加水分解を行う工程である、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの製造方法。
[2] 工程(B)では、架橋構造のうち50モル%以上を切断する[1]に記載の繊維状セルロースの製造方法。
[3] 工程(B)は、熱アルカリ処理工程である[1]又は[2]に記載の繊維状セルロースの製造方法。
[4] 工程(A)に供する前のセルロース繊維の重合度をDPaとし、工程(B)で得られる架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度をDPbとした場合、DPb/DPaの値が0.65以上0.94以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の繊維状セルロースの製造方法。
[5] 工程(B)で得られる架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度(DPb)が、600以上である[1]〜[4]のいずれかに記載の繊維状セルロースの製造方法。
[6] 工程(C)で得られる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの重合度(DPc)が、390以上である[1]〜[5]のいずれかに記載の繊維状セルロースの製造方法。
[7] リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースであって、繊維状セルロースのリン酸基量が1.65mmol/g以上であり、繊維状セルロースの重合度が390以上であり、繊維状セルロースは、リン酸基を介した架橋構造を含む繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース。
[8] ウレタン結合を有する基の含有量が0.3mmol/g以下である[7]に記載の繊維状セルロース。
[9] [7]又は[8]に記載の繊維状セルロースを含むスラリー。
[10] 25℃における粘度が9500mPa・s以上である[9]に記載のスラリー。
[11] [7]又は[8]に記載の繊維状セルロースを含むシート。
[12] シートを200℃で4時間真空乾燥した後のYI値をYI2とし、シートを200℃で4時間真空乾燥する前のYI値をYI1とした場合、YI2−YI1で表されるΔYIの値が20以下である[11]に記載のシート。
本発明の製造方法によれば、スラリーとした場合に高い粘度を発現し得るリン酸基を有する微細繊維状セルロースを効率よく得ることができる。
図1は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(繊維状セルロースの製造方法)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロースともいう)の製造方法に関する。本発明の繊維状セルロースの製造方法は、セルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(A)と、架橋構造の一部又は全部を切断することで架橋切断リン酸化セルロース繊維を得る工程(B)と、架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程(C)と、を含む。ここで、工程(A)では、0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造が形成される。また、工程(B)は、pHが3以上の水系溶媒中で架橋構造の加水分解を行う工程である。
本発明の繊維状セルロースの製造方法は上記のとおり、架橋構造を形成する工程(工程(A))を有するものであるから、多くのリン酸基を導入できる。また、本発明の製造方法は上記のとおり、架橋切断工程(工程(B))を所定の条件で行っているため、微細繊維状セルロースの重合度を高く保つことができる。上述した工程を有するため、本発明では、リン酸基を有する微細繊維状セルロースを、効率よくかつ高収率で得ることができる。
従来の微細繊維状セルロースの製造工程においては、微細繊維状セルロースの収率やリン酸基導入量を高めるために、リン酸化反応工程等の条件を厳密にコントロールしなくてはならず、製造工程が煩雑になる傾向があった。また、従来の微細繊維状セルロースの製造工程においては、リン酸基導入量を高めるために、複数回のリン酸化反応工程を設けることも行われていた。一方で、本発明の製造方法によれば、上述のとおり、リン酸化反応1回当たりにおけるリン酸基導入量を高めた場合であっても、リン酸基を介した架橋構造が少ないリン酸化微細繊維状セルロースを効率よく得ることができる。これにより、1回もしくは少ない回数のリン酸基導入工程を設けた場合であっても、リン酸化微細繊維状セルロースのリン酸基導入量を十分に高めることができ、かつリン酸基を介した架橋構造の形成を抑制することができる。このため、たとえばリン酸基導入工程を1回のみ設けた場合であっても、リン酸基導入量が高く、架橋構造が少ないリン酸化微細繊維状セルロースを得ることができる。
上記のような製造方法で得られたリン酸化微細繊維状セルロースは、リン酸基導入量が十分であることに加え、リン酸基を介した架橋構造の形成が少ないため、微細化が十分になされている。また、本発明の製造方法で得られたリン酸化微細繊維状セルロースにおいては、重合度が高く維持されている。このため、微細繊維状セルロースが有する特有の機能を発揮することができる。例えば、本発明の製造方法で得られた微細繊維状セルロースをスラリーとした際には、該スラリーは、高い透明性を有し、かつ高粘度である。さらに、本発明の製造方法で得られた微細繊維状セルロースをシートとした際には、該シートは、優れた機械的強度を発揮することができる。
さらに、本発明の製造方法で得られた微細繊維状セルロースをシートとした際には、優れた耐黄変性を発揮することができる。これは、本発明の繊維状セルロースの製造方法で得られる微細繊維状セルロースにおいては、ウレタン結合を有する基の導入量が抑制されていることに主に起因するものと考えられる。
工程(A)において、セルロース繊維にリン酸基を導入する際には、リン酸化剤として、リン酸基を有する化合物に加えて、尿素及び/又はその誘導体が用いられる場合がある。この場合、尿素及び/又はその誘導体に由来する基として、ウレタン結合を有する基がセルロースに導入される。
本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、ウレタン結合を有する基の導入量を抑制することもできる。例えば本発明の製造方法において、工程(B)をアルカリ条件化で行うことによりウレタン結合を有する基の導入量をコントロールすることができる。本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、微細繊維状セルロース1gに対して、ウレタン結合を有する基の含有量が0.3mmol/g以下の微細繊維状セルロースが得られることが好ましい。このような場合、本発明で得られる微細繊維状セルロースは優れた耐黄変性を発揮することもできる。例えば、本発明の微細繊維状セルロースをシートとし、該シートを加熱した場合であってもシートの黄色度(YI値)の上昇が抑制されている。
<工程(A)>
工程(A)は、セルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程である。工程(A)は、架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程であり、架橋リン酸化セルロース繊維においては0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造が形成される。
工程(A)は、セルロース繊維にリン酸基を導入する工程(a1)と、リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(a2)の2工程から構成されてもよく、リン酸基を導入する工程(a1)における加熱処理工程が、工程(a2)を兼ねたものであってもよい。
セルロース繊維にリン酸基を導入する工程(a1)(以下、リン酸基導入工程ともいう)は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や溶液を添加してもよい。
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
本実施態様で使用する化合物Aは、リン原子を含有し、セルロースとエステル結合を形成しうる化合物である。リン原子を含有し、セルロースのヒドロキシル基とエステル結合を形成しうる化合物は、例えば、リン酸、リン酸の塩、リン酸の脱水縮合物、リン酸の脱水縮合物の塩、五酸化二リン、オキシ塩化リンから選択される少なくとも1種またはこれらの混合物であるが特に限定されない。いずれも水和水等の形態で水を含んでも良いし、実質的に水を含まない無水物でも良い。
リン酸塩、リン酸の脱水縮合物の塩としては、リン酸、リン酸の脱水縮合物のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩のほか、任意の塩基性を示す化合物との塩が選択できるが、特に限定されない。
また、リン酸塩、リン酸の脱水縮合物の塩の中和度も特に限定されない。
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸、リン酸二水素アンモニウムまたはリン酸二水素ナトリウムがより好ましい。
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは溶液として用いることが好ましい。化合物Aの溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。また、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、使用する化合物Aのコストを抑制でき、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
化合物Bは化合物A同様に溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
上述したリン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。例えば、リン酸基導入工程を2回以上4回以下設けることもできる。但し、本発明の微細繊維状セルロースの製造方法においては、上述したリン酸基導入工程を1回または2回のみ行った場合であっても、リン酸基導入量を十分に高めることができ、かつリン酸基を介した架橋構造の形成を抑制することができる。このように本発明においては、十分な量のリン酸基を導入する場合であっても、リン酸基導入工程を1回または2回と少ない回数とすることができ、効率的な製造プロセスを実現できる。なお、より効率的な製造プロセスを実行する観点からはリン酸基導入工程を1回のみ設けることが好ましい。
なお、リン酸基導入工程を複数回行う場合は、各リン酸基導入工程に間に、洗浄工程やアルカリ処理工程を設けてもよい。なお、リン酸基導入工程を複数回行う場合は、後述する工程(a2)は最終のリン酸基導入工程(a1)の後に続けて行うことが好ましい。
リン酸基導入工程(a1)の後には、リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(a2)が設けられる。なお、工程(a2)は、工程(a1)の加熱処理工程に組み込まれたものであってもよい。
工程(a2)は、加熱処理工程であることが好ましい。このような加熱処理工程における加熱温度は、50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱処理工程における加熱時間は、1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。
加熱処理工程では、例えば、減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いることが好ましい。
工程(a2)の加熱処理工程は、上述した工程(a1)のリン酸基導入工程における加熱処理に引き続いて行うことが好ましい。これにより、微細繊維状セルロースの製造工程におけるエネルギー効率を高めることができる。工程(a1)の加熱処理に引き続いて工程(a2)の加熱処理工程を行う場合は、例えば、工程(a1)の加熱処理温度はそのままで、加熱時間を延長させることができる。また、工程(a1)の加熱処理時間を長くすることで、実質的に工程(a1)に工程(a2)を組み込むこともできる。なお、工程(a1)の加熱処理に引き続いて工程(a2)の加熱処理工程を行う場合であっても、加熱温度を両工程で異なるものとしてもよい。
リン酸基を導入する工程(a1)及び架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(a2)を経て得られる架橋リン酸化セルロース繊維のリン酸基量は0.5mmol/g以上であることが好ましく、1.0mmol/g以上であることがより好ましく、1.6mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロースのリン酸基量は、5.0mmol/g以下であることが好ましい。
リン酸基の導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、得られたセルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、リン酸基導入量(mmol/g)とする。
上記工程(A)を経て架橋リン酸化セルロース繊維が得られる。架橋リン酸化セルロース繊維においては0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造が形成される。架橋構造量は、0.10mmol/g以上1.5mmol/g以下であることが好ましく、0.13mmol/g以上1.0mmol/g以下であることがより好ましい。
ここで、架橋構造は、セルロース繊維に導入されたリン酸基同士が脱水縮合することによって形成されたものであると考えられる。すなわち、ピロリン酸の2つのP原子に1つずつ、セルロースのグルコースユニットが、O原子を介して結合した構造となる。したがって、架橋リン酸基が形成されると、見かけ上弱酸性基が失われ、図1における第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。すなわち、架橋構造の量は、第1領域で要したアルカリ量と第2領域で要したアルカリ量の差分を2で除した値である。
<工程(B)>
工程(B)は、架橋構造の一部又は全部を切断することで架橋切断リン酸化セルロース繊維を得る工程である。工程(B)では、工程(A)で形成された架橋構造の一部又は全部を切断するために、加水分解を行う。工程(B)では、pHが3以上の水系溶媒中で架橋構造の加水分解を行う。なお、上記水系溶媒とは、少なくとも水と、pH調整剤等を含む溶媒であり、この水系溶媒を、工程(A)で得られた架橋リン酸化セルロース繊維に加えて、加水分解を行う。
工程(B)では、加水分解を行う水系溶媒と架橋リン酸化セルロース繊維の混合物(以下、溶媒混合物ともいう)のpHは3以上であればよく、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることがさらに好ましい。中でも、溶媒混合物はアルカリ性であることが好ましく、pHが7より大きい溶媒混合物であることが好ましい。溶媒混合物のpHは8以上であることがよりさらに好ましく、9以上であることが特に好ましい。なお、溶媒混合物のpHの上限は特に限定されないが、14とすることができる。水系溶媒のpHを所望の範囲内に調整するためには、例えば塩酸や水酸化ナトリウムといったpH調整剤を所望のpHとなるように水に添加する。
工程(B)で加水分解を行う際には、溶媒混合物を加熱することが好ましい。加水分解に供試する反応容器内の、水系溶媒と架橋リン酸化セルロース繊維の混合物(溶媒混合物)の温度(以下、内温と表現することがある)は、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることがさらに好ましく、70℃以上であることがよりさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。
上述した通り、本発明における工程(B)は、熱アルカリ処理工程であることが好ましい。本明細書において、「熱アルカリ処理工程」とは、pHが7より大きい水系溶媒を、80℃以上に加熱する処理工程である。
工程(B)では、架橋構造のうち50モル%以上を切断することが好ましく、55モル%以上を切断することがより好ましく、60モル%以上を切断することがさらに好ましい。工程(B)では、架橋構造の全数のうち99モル%以下を切断することが好ましい。
工程(B)で得られる架橋切断リン酸化セルロース繊維における架橋構造の量は、0.10mmol/g以下であることが好ましく、0.05mmol/g以下であることがより好ましい。また、架橋切断リン酸化セルロース繊維における架橋構造の量は、0mmol/g以上であってもよく、0.003mmol/g以上であってもよい。
工程(B)では、工程(A)で得られた架橋リン酸化セルロース繊維が上述したような加水分解処理工程を経ることで、架橋切断リン酸化セルロース繊維となる。本発明では、工程(B)を上記条件で行うことにより、架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度を所定の範囲内に制御できる点にも特徴がある。すなわち、本発明の工程(B)で得られる架橋切断リン酸化セルロース繊維において、架橋は切断されているが、重合度は所定範囲内に維持されていることが好ましい。架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度(DPb)は、600以上であることが好ましく、650以上であることがより好ましく、700以上であることがさらに好ましい。また、架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度(DPb)は、1500以下であることが好ましく、880以下であることがより好ましい。
また、工程(A)に供する前のセルロース繊維の重合度をDPaとし、工程(B)で得られる架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度をDPbとした場合、DPb/DPaの値は0.65以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらに好ましい。また、DPb/DPaの値は1.5以下であることが好ましく、0.94以下であることがより好ましい。
工程(B)で得られる架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度及び工程(A)に供する前のセルロース繊維の重合度は、Tappi T230に従い測定されたパルプ粘度から計算した値である。具体的には、測定対象のセルロース繊維を、銅エチレンジアミン水溶液に分散させて測定した粘度(η1とする)、及び分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定する。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時のセルロース繊維の濃度を示す。
さらに、下記式から重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
<工程(C)>
工程(C)は、架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程である。このような機械処理工程は、解繊処理工程と呼ぶこともできる。本発明では、上述した工程(B)において、架橋構造を切断しているため、工程(C)における解繊処理に使用されるエネルギーが少なくて済み、製造コストを抑制することができる。
機械処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい機械処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
機械処理の際には、工程(B)で得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維を、水と有機溶剤を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
機械処理を経ることにより、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)が得られる。本発明では、このような微細繊維状セルロースを含むスラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度機械処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、該シートに機械処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。
微細繊維状セルロース含有スラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
工程(C)では、リン酸基を有する微細繊維状セルロースが得られる。微細繊維状セルロースはスラリーとして得られることが好ましいが、粉粒物として得られてもよい。この場合、工程(C)の後に、濃縮工程や乾燥工程などが適宜設けられてもよい。
工程(C)で得られる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)の重合度は、390以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。また、繊維状セルロースの重合度は、1000以下であることが好ましく、450以下であることがより好ましい。
上記微細繊維状セルロースの重合度は、上述した工程(B)で得られたセルロース繊維の重合度の測定方法と同様の方法で算出することができる。
<その他の工程>
上述した工程(A)におけるリン酸基導入工程(a1)は、1回のみ行うことが好ましいが、工程(a1)を複数回繰り返すこともできる。この場合、各リン酸基導入工程の間に、洗浄工程やアルカリ処理工程を設けてもよい。また、上述した工程(A)と工程(B)の間に、洗浄工程やアルカリ処理工程を設けてもよい。
洗浄工程は、洗浄工程前の工程で得られたセルロース繊維にイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことで行うことができる。洗浄工程を設けることによって、洗浄工程前の工程で得られたセルロース繊維に含まれる余剰の薬液や不純物を除去することができる。
アルカリ処理工程におけるアルカリ処理の方法は特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶剤のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶剤)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、セルロース繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、上述したような洗浄工程を設けることが好ましい。さらに、アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、アルカリ処理済みセルロース繊維を水や有機溶剤により洗浄することが好ましい。
(繊維状セルロース)
本発明は上述した製造方法で製造されたリン酸基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロースともいう)に関するものでもある。本発明の微細繊維状セルロースのリン酸基量は1.65mmol/g以上であることが好ましく、微細繊維状セルロースの重合度は390以上であることが好ましい。なお、本発明の微細繊維状セルロースにおいては、リン酸基を介した架橋構造の形成が少なくなっているが、少なくとも一部の架橋構造は微細繊維状セルロースに残存している。このため、本発明の微細繊維状セルロースは、リン酸基を介した架橋構造を含むものである。
従来技術においては、リン酸基導入量が多い場合は、リン酸基を介した架橋構造が形成される場合があり、このような架橋構造が増加すると、繊維状セルロースの微細化を阻害する一因となることが懸念されていた。一方で、リン酸基導入量を多くしつつ、リン酸基を介した架橋構造を少なくしようとするとリン酸化微細繊維状セルロースの重合度が小さくなる傾向が見られており、重合度の小さな微細繊維状セルロースは所望の物性を発揮しづらくなる場合があった。
本発明は、上記課題を解決したものであり、リン酸導入量が多い場合であっても、リン酸化微細繊維状セルロースの重合度を所定値以上に保つことができる。さらに本発明の微細繊維状セルロースにおいては、リン酸導入量が多い場合であっても、架橋構造が少なく制御されている。このような微細繊維状セルロースは、微細化が良好になされており、たとえば、スラリーとした際には、高い粘度を発現することができる。
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上50nm以下であり、よりさらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合(結晶化度)は、本発明においては特に限定されないが、たとえば30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
本発明の微細繊維状セルロースは、リン酸基を有する。本明細書において、「リン酸基」には、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基が含まれる。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式構造式で表される基であってもよい。
Figure 2018080336
上記構造式中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に1以上の整数を表す(ただし、a=b×mである)。αおよびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基整数である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
微細繊維状セルロースのリン酸基量は1.00mmol/g以上であることが好ましく、1.20mmol/g以上であることがより好ましく、1.65mmol/g以上であることがさらに好ましく、1.80mmol/g以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロースのリン酸基量は、5.0mmol/g以下であることが好ましい。リン酸基量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、良好な強度発現が期待できる。
リン酸基の導入量は、上述した伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、機械処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
微細繊維状セルロースの重合度は390以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。また、微細繊維状セルロースの重合度は、1000以下であることが好ましく、450以下であることがより好ましい。微細繊維状セルロースの重合度を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースが発揮し得る各種特性を良好なものとすることができる。例えば、微細繊維状セルロースをスラリーとした場合、スラリーは、高透明及び高粘度であり、微細繊維状セルロースをシートにした場合、シートは優れた機械的強度を発揮することができる。
なお、上記微細繊維状セルロースの重合度は、上述した工程(B)で得られた微細繊維状セルロースの重合度の測定方法と同様の方法で算出することができる。
上述したように、工程(A)において、セルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維を得る際には、リン酸化剤として、リン酸基を有する化合物に加えて、尿素及び/又はその誘導体が用いられる場合、尿素及び/又はその誘導体に由来する基として、ウレタン結合を有する基がセルロースに導入される。本発明で得られる微細繊維状セルロースにおいては、ウレタン結合を有する基の導入量は、微細繊維状セルロース1gに対して、ウレタン結合を有する基の含有量が0.3mmol/g以下であることが好ましく、0.2mmol/g以下であることがより好ましく、0.1mmol/g以下であることがさらに好ましい。ウレタン結合を有する基の含有量は、0mmol/gであってもよい。
なお、ウレタン結合を有する基としては、例えば下記の構造式で表される基が挙げられる。
Figure 2018080336
上記構造式中、Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である。
ウレタン結合を有する基の導入量は、セルロースに共有結合した窒素量を測定することで決定することができる。具体的には、イオン性窒素(アンモニウムイオン)を遊離及び除去した後に、微量窒素分析法により窒素量を測定する。イオン性窒素(アンモニウムイオン)の遊離は、実質的にセルロースに共有結合した窒素が除かれない条件で行う。遊離したアンモニウムイオンの除去は、リン酸基の導入量の測定と同様の方法で行う。すなわち、強酸性イオン交換樹脂にアンモニウムイオンを吸着させることで行う。
微量窒素分析は、三菱化学アナリック社製の微量全窒素分析装置TN−110を用いて測定する。測定前に、低温(例えば、真空乾燥器にて、40℃24時間)で乾燥し溶媒を除く。
(微細繊維状セルロース含有スラリー)
本発明は、リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むスラリー(以下、微細繊維状セルロース含有スラリーともいう)に関するものでもある。本発明の微細繊維状セルロース含有スラリーは、25℃における粘度が9500mPa・s以上であることが好ましい。
微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は、濃度が0.4質量%になるようにイオン交換水に分散させたスラリーの粘度である。該スラリーの粘度は、9500mPa・s以上であることが好ましく、10000mPa・s以上であることがより好ましく、12000mPa・s以上であることがさらに好ましい。なお、該スラリーの粘度の上限値は、特に限定されないが、たとえば40000mPa・sとすることができる。
微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.4質量%)の粘度は、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定することができる。測定条件は25℃とし、回転数3rpmで3分間回転させ測定する。
微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)のヘーズは、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズが上記範囲であることは、微細繊維状セルロース含有スラリーの透明度が高く、微細繊維状セルロースの微細化が良好であることを意味する。このような微細繊維状セルロース含有スラリーにおいては、微細繊維状セルロースが有する特有の機能が発揮される。
ここで、微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)のヘーズは、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)に微細繊維状セルロース含有スラリーを入れ、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
微細繊維状セルロース含有スラリーの遠心分離後の上澄みの収率は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。遠心分離後の上澄み収率は、微細繊維状セルロースの収率の指標となり、上澄み収率が高い程、微細繊維状セルロースの収率が高い。
微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加して、固形分濃度を0.2質量%に調整したスラリー(スラリーAとする)を、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000Gの条件で10分間遠心分離する。得られた上澄み液(スラリーBとする)を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定する。下記式に基づいて、上澄み収率(微細繊維状セルロースの収率)を求める。
上澄み収率(%)=(スラリーBの固形分濃度(質量%))/(スラリーAの固形分濃度(質量%))×100
(微細繊維状セルロース含有シート)
本発明は、リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシート(以下、微細繊維状セルロース含有シートともいう)に関するものでもある。本発明の微細繊維状セルロース含有シートにおいては、200℃で4時間真空乾燥した後のYI値をYI2とし、シートを200℃で4時間真空乾燥する前のYI値をYI1とした場合、YI2−YI1で表されるΔYIの値が20以下であることが好ましい。ΔYIの値は、200℃における加熱処理前後の黄色度変化を示しており、ΔYIの値は、15以下であることがより好ましく、10以下であることがさらに好ましい。本発明によれば、微細繊維状セルロース含有シートのΔYI値を小さくすることができる。
YI値は、シートの黄色度を表す指標である。YI値は、JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて測定した値である。
上述した通り、本発明の微細繊維状セルロース含有シートにおいて、このように黄色度変化が抑制されている要因は、定かではないが、微細繊維状セルロースに含まれるウレタン結合を有する基の量が減少していることが起因するものと考えられる。すなわち、ウレタン結合を有する基が残存していると、加熱分解により窒素配糖体が生成し、次いで起こるアミノカルボニル反応、さらには鎖状単糖からの脱水反応等が起こり、着色成分の生成が増加する可能性が考えられる。本発明では、微細繊維状セルロースに含まれるウレタン結合を有する基の量が少ないため、黄色度変化が抑制されているものと考えられる。
本発明の微細繊維状セルロース含有シートの引張強度は、80MPa以上であることが好ましく、90MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましい。
ここで、本発明の微細繊維状セルロース含有シートの引張強度は、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片として、JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定した値である。
本発明の微細繊維状セルロース含有シートの坪量は、10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、微細繊維状セルロース含有シートの密度は、60g/m2以下であることが好ましい。シートの坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。
本発明の微細繊維状セルロース含有シートの厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましく、20μm以上とすることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μm以下とすることができる。
<微細繊維状セルロース含有シートの製造方法>
シートの製造工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むスラリーを得る工程と、このスラリーを基材上に塗工する工程、又は、スラリーを抄紙する工程を含む。中でも、シートの製造工程は、微細繊維状セルロースを含むスラリー(以下、単にスラリーということもある)を基材上に塗工する工程を含むことが好ましい。
スラリーを得る工程ではスラリー中に消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤等の任意成分を添加してもよい。また、任意成分としては、親水性高分子や有機イオン等が挙げられる。親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましい。
含酸素有機化合物を適宜添加してもよい。含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。これらの中でも、繊維層の強度、密度、化学的耐性などを向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、グリセリン、ソルビトールが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn−プロピルオニウムイオン、テトラn−ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
<塗工工程>
塗工工程は、スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。
スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m2以上100g/m2以下、好ましくは20g/m2以上60g/m2以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
塗工工程は、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
<抄紙工程>
本発明のシートの製造工程は、スラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
抄紙工程では、スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースやポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
スラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
(複合シート)
本発明のシートには、微細繊維状セルロースに加えて樹脂成分を含む複合シートが含まれる。樹脂成分としては、例えば、天然樹脂や合成樹脂等を挙げることができる。
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
ポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010−023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
上述した樹脂成分は、複合シート中に均一に分散した状態で存在していてもよく、複合シート中において偏在していてもよい。すなわち、複合シートを製造する工程において、微細繊維状セルロースと樹脂成分が均一に混合されたスラリーを得て、該スラリーから複合シートが形成されてもよく、また、微細繊維状セルロース繊維層と樹脂層の積層構造を有する複合シートが形成されてもよい。
(用途)
本発明の繊維状セルロースの製造方法により製造された微細繊維状セルロースは、リン酸基の導入量を制御しやすく、また微細化が良好である。また、微細繊維状セルロースを含むシートの黄色度(YI値)は低く、シートを加熱乾燥した場合であってもシートの黄色度の上昇が抑制されている。上記の特性を活かす観点から、本発明の繊維状セルロースは、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。
また、微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は高く、このような特性を活かす観点から、本発明の繊維状セルロースは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物など)に使用することができる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
<リン酸化反応工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を加え、リン酸二水素アンモニウム48質量部、尿素130質量部、イオン交換水165質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で200秒間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得た。
<洗浄・アルカリ処理工程>
得られたリン酸化セルロース繊維Aに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流した。次いで、セルロース繊維濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12±0.2のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸化セルロース繊維Bを得た。
<リン酸基導入工程(2回目)>
得られたリン酸化セルロース繊維Bを原料として、上述した<リン酸化反応工程>を繰返し行い、パルプ中のセルロースに、さらにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Cを得た。
<架橋工程>
得られたリン酸化セルロース繊維Cを、165℃の熱風乾燥機で200秒間加熱処理し、パルプ中のセルロースに、さらにリン酸基を導入し、また、リン酸基を介してセルロースに架橋構造を導入し、架橋リン酸化セルロース繊維Aを得た。
なお、この架橋工程はリン酸基導入工程(2回目)の乾燥・加熱時間をそのまま延長して行った(165℃の熱風乾燥機で計400秒間加熱処理を行った)。
<洗浄・アルカリ処理工程(2回目)>
得られた架橋リン酸化セルロース繊維Aに対し、上述した<洗浄・アルカリ処理工程>を行い、架橋リン酸化セルロース繊維Bを得た。
<架橋切断工程>
得られた架橋リン酸化セルロース繊維Bの固形分濃度が2.0質量%、pHが12.5になるように、イオン交換水とNaOHを添加してパルプスラリーを調製した。得られたパルプスラリーを内温90℃の条件で1時間静置加熱した。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、架橋切断リン酸化セルロース繊維Aを得た。得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維Aの重合度を後述する方法により測定した。
<機械処理>
得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維Aにイオン交換水を添加して、固形分濃度が2.0質量%の懸濁液にした。この懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)を用いて機械処理し、微細繊維状セルロース含有スラリーを得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、200MPaの圧力にて処理チャンバーを1回(上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量測定用)通過させたものと、5回(リン酸基量、架橋構造量測定用)通過させたものを得た。
得られた微細繊維状セルロース含有スラリーの、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、リン酸基量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。
<シート化>
微細繊維状セルロース含有スラリーにポリエチレングリコール(和光純薬社製:分子量400万)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、20質量部になるように添加した。さらに、微細繊維状セルロースとポリエチレングリコールを合わせた固形分濃度が0.5質量%となるようイオン交換水を添加し、十分に均一になるよう攪拌を行って濃度調整を行い、懸濁液を得た。シートの仕上がり坪量が45g/m2になるように懸濁液を計量して、市販のアクリル板に展開し35℃、相対湿度15%のチャンバーにて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順により、微細繊維状セルロース含有シートが得られ、その厚みは30μmであった。得られた微細繊維状セルロース含有シートの引張強度及び加熱前後のYI値を後述の方法により測定した。
(実施例2)
<リン酸化反応工程>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)が700ml)を原料として使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を加え、リン酸二水素アンモニウム56質量部、尿素150質量部、イオン交換水165質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で加熱し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃の熱風乾燥機で30分間乾燥・加熱処理し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化セルロース繊維Aを得た。
<架橋工程>
後述するように、上記<リン酸化反応工程>では、リン酸基を介してセルロースに架橋構造が導入されていた。すなわち、架橋工程はリン酸化反応工程と同時に行われた。
実施例1と同様にして、<洗浄・アルカリ処理工程>、<架橋切断工程>、<機械処理>を行い、得られた架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度と、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーの上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、リン酸基量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。さらに実施例1と同様にして<シート化>を行い、微細繊維状セルロース含有シートの引張強度及び加熱前後のYI値を後述の方法により測定した。
(実施例3)
実施例1の<架橋切断工程>において、パルプスラリーのpHを10に調整した以外は、実施例1と同様にして、架橋切断リン酸化セルロース繊維、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートを得た。微細繊維状セルロース含有スラリーについては、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。微細繊維状セルロース含有シートについては、引張強度及び加熱前後のYI値を後述の方法により測定した。
(実施例4)
実施例1の<架橋切断工程>において、NaOHの代わりにHClを用いて、パルプスラリーのpHを4.0に調整した以外は、実施例1と同様にして、架橋切断リン酸化セルロース繊維、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートを得た。微細繊維状セルロース含有スラリーについては、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。微細繊維状セルロース含有シートについては、引張強度及び加熱前後のYI値を後述の方法により測定した。
(比較例1)
実施例1の<架橋切断工程>において、NaOHの代わりにHClを用いて、パルプスラリーのpHを1.0に調整した以外は、実施例1と同様にして、架橋切断リン酸化セルロース繊維、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートを得た。微細繊維状セルロース含有スラリーについては、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。微細繊維状セルロース含有シートについては、引張強度及び加熱前後のYI値を後述の方法により測定した。
(比較例2)
<架橋工程>における加熱時間を80秒間とし、さらに、<架橋切断工程>を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてリン酸化セルロース繊維、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートを得た。微細繊維状セルロース含有スラリーについては、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。微細繊維状セルロース含有シートについては、引張強度及び加熱前後のYI値を下記方法により測定した。
(比較例3)
<架橋切断工程>を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、リン酸化セルロース繊維、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートを得た。微細繊維状セルロース含有スラリーについては、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。微細繊維状セルロース含有シートについては、引張強度及び加熱前後のYI値を下記方法により測定した。
(参考例)
実施例1の<架橋工程>及び<架橋切断工程>を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてリン酸化セルロース繊維、微細繊維状セルロース含有スラリー及び微細繊維状セルロース含有シートを得た。微細繊維状セルロース含有スラリーについては、上澄み収率、ヘーズ、粘度、ウレタン結合量、架橋構造の含有量を後述の方法により測定した。微細繊維状セルロース含有シートについては、引張強度及び加熱前後のYI値を後述の方法により測定した。
(分析及び評価)
<上澄み収率の測定>
微細繊維状セルロース含有スラリーについて、遠心分離した後の上澄み収率を以下に記載の方法により測定した。遠心分離後の上澄み収率は、微細繊維状セルロースの収率の指標となり、上澄み収率が高い程、微細繊維状セルロースの収率が高い。
微細繊維状セルロース含有スラリーにイオン交換水を添加して、固形分濃度を0.2質量%に調整したスラリー(スラリーAとする)を、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000Gの条件で10分間遠心分離した。得られた上澄み液(スラリーBとする)を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定した。下記式に基づいて、上澄み収率(微細繊維状セルロースの収率)を求めた。
上澄み収率(%)=(スラリーBの固形分濃度(質量%))/(スラリーAの固形分濃度(質量%))×100
<スラリーのヘーズ>
ヘーズは、微細繊維状セルロース含有スラリーの透明度の尺度であり、ヘーズ値が低いほど透明度が高い。ヘーズの測定は機械処理工程(微細化工程)後の微細繊維状セルロース含有スラリーを、イオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)を用いて、JIS K 7136に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。
<リン酸基の導入量の測定>
リン酸基の導入量は、伝導度滴定法により測定した。具体的には、機械処理工程(微細化工程)により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定した。
イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%の微細繊維状セルロース含有スラリーに体積比で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024;コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、分散液が示す電気伝導度の値の変化を計測した。
この伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用した分散液中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用した分散液中の弱酸性基量と等しくなる。
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象分散液中の固形分(g)で除して、第一解離アルカリ量(mmol/g)とし、この量をリン酸基の導入量とした。
<架橋構造量の測定>
架橋構造は、セルロースに導入されたリン酸基同士が脱水縮合することによって形成されると考えられる。すなわち、ピロリン酸の2つのP原子に1つずつ、セルロースのグルコースユニットが、O原子を介して結合した構造となる。したがって、架橋リン酸基が形成されると、見かけ上弱酸性基が失われ、図1における第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。すなわち、架橋構造の量は、第1領域で要したアルカリ量(第一解離アルカリ量)と第2領域で要したアルカリ量(第二解離アルカリ量)の差分を2で除した値に等しい。
<微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度測定方法>
微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は、微細繊維状セルロース含有スラリーの固形分濃度が0.4質量%となるように希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間攪拌した。得られたスラリーの粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、3rpm、25℃の条件とした。
<ウレタン結合を有する基の含有量の測定(微量窒素分析法)>
ウレタン結合を有する基の含有量は、セルロースに共有結合した窒素量を測定することで決定した。具体的には、イオン性窒素(アンモニウムイオン)を遊離及び除去した後に、微量窒素分析法により窒素量を測定した。イオン性窒素(アンモニウムイオン)の遊離は、実質的にセルロースに共有結合した窒素が除かれない条件で行った。遊離したアンモニウムイオンの除去は、リン酸基の導入量の測定と同様の方法で行った。すなわち、強酸性イオン交換樹脂にアンモニウムイオンを吸着させた。
微量窒素分析は、三菱化学アナリック社製の微量全窒素分析装置TN−110を用いて測定した。測定前に、低温(真空乾燥器にて、40℃24時間)で乾燥し溶媒を除いた。
<重合度の測定>
微細繊維状セルロースの重合度は、Tappi T230に従い測定されたパルプ粘度から計算した。具体的には、測定対象の微細繊維状セルロースを、分散媒に分散させて測定した粘度(η1とする)、及び分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定した。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の微細繊維状セルロースの濃度を示す。
さらに、下記式から重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
<シートの引張物性>
JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて微細繊維状セルロース含有シートの引張強度及び引張弾性率を測定した。調湿条件の測定においては、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片とした。
<加熱前後の黄色度>
JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて微細繊維状セルロース含有シートの加熱前後の黄色度(YI)を測定した。
なお、加熱条件は、200℃で4時間の真空乾燥とした。
<黄色度変化>
シートの黄色度変化(ΔYI)は、次式で表される。
ΔYI = YI2−YI1
ここで、YI1は200℃で4時間の真空乾燥する前の黄色度、YI2は200℃で4時間の真空乾燥した後の黄色度を示す。黄色度は、JIS K 7373に準拠して測定した値をいう。
Figure 2018080336
Figure 2018080336
実施例では、微細繊維状セルロースの収率が高かった。また、実施例で得られた微細繊維状セルロース含有スラリーは、透明度が高く、粘度も高かった。さらに、実施例で得られた微細繊維状セルロース含有シートにおいては黄変も抑制されていた。
なお、表2中の重合度において、測定不可と表現した比較例においては、粘度平均重合度を測定する際の分散媒(銅エチレンジアミン水溶液)にパルプおよび微細繊維状セルロースが溶解しなかった。これは、過度に形成された架橋構造により、分岐鎖状にセルロースが溶解しないためと推測される。

Claims (12)

  1. セルロース繊維にリン酸基を導入し、前記リン酸基を介して架橋構造を形成することで架橋リン酸化セルロース繊維を得る工程(A)と、
    前記架橋構造の一部又は全部を切断することで架橋切断リン酸化セルロース繊維を得る工程(B)と、
    前記架橋切断リン酸化セルロース繊維に機械処理を施すことで繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを得る工程(C)と、を含み、
    前記工程(A)では、0.05mmol/g以上2.0mmol/g以下の架橋構造を形成し、
    前記工程(B)は、pHが3以上の水系溶媒中で架橋構造の加水分解を行う工程である、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの製造方法。
  2. 前記工程(B)では、前記架橋構造のうち50モル%以上を切断する請求項1に記載の繊維状セルロースの製造方法。
  3. 前記工程(B)は、熱アルカリ処理工程である請求項1又は2に記載の繊維状セルロースの製造方法。
  4. 前記工程(A)に供する前の前記セルロース繊維の重合度をDPaとし、前記工程(B)で得られる前記架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度をDPbとした場合、DPb/DPaの値が0.65以上0.94以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維状セルロースの製造方法。
  5. 前記工程(B)で得られる前記架橋切断リン酸化セルロース繊維の重合度(DPb)が、600以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維状セルロースの製造方法。
  6. 前記工程(C)で得られる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースの重合度(DPc)が、390以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維状セルロースの製造方法。
  7. リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースであって、
    前記繊維状セルロースのリン酸基量が1.65mmol/g以上であり、前記繊維状セルロースの重合度が390以上であり、
    前記繊維状セルロースは、前記リン酸基を介した架橋構造を含む繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース。
  8. ウレタン結合を有する基の含有量が0.3mmol/g以下である請求項7に記載の繊維状セルロース。
  9. 請求項7又は8に記載の繊維状セルロースを含むスラリー。
  10. 25℃における粘度が9500mPa・s以上である請求項9に記載のスラリー。
  11. 請求項7又は8に記載の繊維状セルロースを含むシート。
  12. 前記シートを200℃で4時間真空乾燥した後のYI値をYI2とし、前記シートを200℃で4時間真空乾燥する前のYI値をYI1とした場合、YI2−YI1で表されるΔYIの値が20以下である請求項11に記載のシート。
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