以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
(繊維状セルロース)
本発明の第1の態様は、繊維幅が1000nm以下であり、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースに関する。ここで、繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1が1.35mmol/g以上であり、かつA1/A2の値が0.51以上である。さらに、下記条件(a)でシートを形成した場合、該シートのYI値が6.0以下となる。
条件(a):
固形分濃度が0.5質量%の繊維状セルロース分散液を作製し、該繊維状セルロース分散液100質量部に対して、0.5質量%濃度のポリエチレンオキサイド水溶液を20質量部添加し、塗工液とする;該塗工液を基材上に塗工して坪量が50g/m2のシートを形成する。
本発明の第2の態様は、繊維幅が1000nm以下であり、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースに関する。ここで、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の導入量は1.35mmol/g以上であり、上記条件(a)でシートを形成した場合、該シートのYI値が6.0以下となる。なお、本明細書において、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を、単に亜リン酸基と呼ぶこともある。
本発明の繊維状セルロースは、上記構成を有するものであるため、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースの黄変を抑制しつつ、当該微細繊維状セルロースを用いて得られる組成物の透明性を高めることができる。例えば、亜リン酸基を有する微細繊維状セルロースを用いてシート等の成形体を形成する際には、成形工程において熱がかけられるが、そのような場合であっても微細繊維状セルロースの黄変が抑制され、結果として、黄変の少ない成形体が得られる。また、このような微細繊維状セルロースを含む分散液や成形体において、その透明性を高めることができる。
通常、微細繊維状セルロースを含む分散液等の透明性を高めようとした場合、亜リン酸基といったアニオン性基を多く導入することで、繊維の解繊度合いを高めることが行われている。ここで、亜リン酸基を繊維状セルロースへ導入しようとした場合、リンオキソ酸化処理時間を長くすることが考えられるが、このような場合には、逆に亜リン酸基の脱離が進行する場合があることを本発明者らは突き止めた。また、リンオキソ酸化処理時間を長くした場合、繊維状セルロースが黄変することも確認され、さらに微細繊維状セルロースを含む組成物の透明性が低下する傾向も見られた。このため、本発明では、リンオキソ酸化処理時間を単に延ばすのではなく、リンオキソ酸基導入工程を複数回とし、さらに、各回の尿素分解率を適切にコントロールすることにより、繊維状セルロースにおける亜リン酸基の導入量を高めることとした。このような製造方法を採用した場合には、亜リン酸基の導入量を高めることができ、また、繊維状セルロースの黄変も抑制することが可能となる。また、亜リン酸基の導入量を高めることができるため、微細繊維状セルロースを含む組成物の透明性も向上する。
上記条件(a)でシートを形成した場合、シートのYI値は、6.0以下であればよく、4.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。なお、シートのYI値の下限値は特に限定されるものではなく、0.0であってもよい。シートのYI値は、JIS K 7373に準拠して測定される値である。測定装置としては、例えば、スガ試験機株式会社製のColour Cute iを用いることができる。
本発明の繊維状セルロースを水に分散させて固形分濃度が0.2質量%の分散液とした場合、該分散液の全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが特に好ましい。ここで、分散液の全光線透過率は、JIS K 7361に準拠して測定される値である。分散液の全光線透過率はヘーズメータを用いて測定する。この際、光路長1cmの液体用ガラスセルを用いる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。測定の前には、分散液を23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、分散液の液温を23℃とする。
なお、本発明は、繊維幅が1000nmを超える繊維状セルロースに関するものであってもよい。本発明の第3の態様は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースであって、繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1'とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2'とした場合、A1'が1.35mmol/g以上であり、かつA1'/A2'の値が0.51以上であり、重合度が500以上である繊維状セルロースに関する。
また、本発明の第4の態様は、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースであって、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基の導入量が1.35mmol/g以上であり、重合度が500以上である繊維状セルロースに関する。
上述したように、従来、微細繊維状セルロースを含む分散液等の透明性を高めようとした場合、亜リン酸基といったアニオン性基を多く導入することで、繊維の解繊度合いを高めることが行われている。ここで、亜リン酸基を繊維状セルロースへ導入しようとした場合、リンオキソ酸化処理時間を長くすることが考えられる。しかし、本発明者らは、このような場合には、微細化前の繊維状セルロースの重合度が低下する傾向があることを突き止めた。そこで、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、リンオキソ酸基導入工程を複数回とし、さらに、各回の尿素分解率を適切にコントロールすることにより、微細化前の繊維状セルロースの重合度の低下を抑制することに成功した。その結果、得られる繊維状セルロースの黄変を抑制することを見出した。さらに繊維状セルロースを微細化した場合に、微細繊維状セルロースの黄変をより効果的に抑制することができ、また微細繊維状セルロースを含む組成物の透明性をより高め得ることを見出した。
微細化前の繊維状セルロースの重合度は、500以上であることが好ましく、550以上であることがより好ましく、600以上であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの重合度は、2000以下であることが好ましい。微細化前の繊維状セルロースの重合度を上記範囲内とすることにより、微細化した微細繊維状セルロースを分散媒に分散させて分散液とした際に、透明性の高い分散液が得られやすくなる。また、微細繊維状セルロースを含む分散液からシートを形成した場合、YI値が低いシートが得られやすくなる。なお、微細化前の繊維状セルロースは、例えば、繊維幅が1000nmよりも大きい繊維状セルロースである。
繊維状セルロースの重合度は、Tappi T230に従い測定されたパルプ粘度から計算した値である。具体的には、測定対象の繊維状セルロースを、銅エチレンジアミン水溶液に分散させて測定した粘度(η1とする)、及び分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定する。
ηsp=(η1/η0)-1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の繊維状セルロースの濃度を示す。
さらに、下記式から重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
本発明の第1の態様及び第2の態様において、繊維状セルロースの繊維幅は1000nm以下である。繊維状セルロースの繊維幅は100nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。これにより、溶媒に対する分散性をより効果的に高めることができる。なお、本明細書において、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを微細繊維状セルロースと呼ぶこともある。
本発明の第3の態様及び第4の態様では、繊維状セルロースの平均繊維幅は、1000nmより大きくてもよい。なお、この場合、繊維状セルロースの繊維幅は50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることがさらに好ましい。
繊維状セルロースの繊維幅は、たとえば電子顕微鏡観察などにより測定することが可能である。繊維状セルロースの平均繊維幅は、1000nmより大きくてもよく、1000nm以下であってもよい。例えば、繊維状セルロースの平均繊維幅が1000nmより大きい場合は、1μmより大きく50μm以下であることが好ましく、1μmより大きく40μm以下であることがより好ましく、1μmより大きく30μm以下であることがさらに好ましい。また、繊維状セルロースの平均繊維幅が1000nm以下の場合は、2nm以上1000nm以下であることが好ましく、2nm以上100nm以下であることがより好ましく、2nm以上50nm以下であることがさらに好ましく、2nm以上10nm以下であることが特に好ましい。なお、繊維状セルロースは、たとえば単繊維状のセルロースである。
繊維状セルロースの平均繊維幅は、たとえば電子顕微鏡を用いて以下のようにして測定される。まず、濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。次いで、観察対象となる繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を目視で読み取る。このようにして、少なくとも互いに重なっていない表面部分の観察画像を3組以上得る。次いで、各画像に対して、直線X、直線Yと交差する繊維の幅を読み取る。これにより、少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。そして、読み取った繊維幅の平均値を、繊維状セルロースの平均繊維幅とする。
繊維状セルロースの繊維長は、特に限定されないが、繊維幅が1000nmより大きい場合、繊維長はたとえば0.1mm以上であることが好ましく、0.6mm以上であることがより好ましい。また、繊維長は50mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましい。繊維幅が1000nm以下の場合、繊維長はたとえば0.1μm以上であることが好ましい。また、繊維長は、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制できる。また、繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることも可能となる。なお、繊維状セルロースの繊維長は、たとえばTEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、繊維状セルロースがI型結晶構造を有することは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は、たとえば30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。これにより、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
繊維状セルロースの軸比(繊維長/繊維幅)は、特に限定されないが、たとえば20以上10000以下であることが好ましく、50以上1000以下であることがより好ましい。軸比を上記下限値以上とすることにより、微細繊維状セルロースを含有するシートを形成しやすい。軸比を上記上限値以下とすることにより、たとえば繊維状セルロースを分散液として扱う際に、希釈等のハンドリングがしやすくなる点で好ましい。
本実施形態における繊維状セルロースは、たとえば結晶領域と非結晶領域をともに有している。特に、結晶領域と非結晶領域をともに有し、かつ軸比が高い微細繊維状セルロースは、後述する微細繊維状セルロースの製造方法により実現されるものである。
繊維状セルロースはリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基(単にリンオキソ酸基ということもある)を有する。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。
繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば中和滴定法により測定することができる。中和滴定法による測定では、得られた繊維状セルロースを含有するスラリーに、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリを加えながらpHの変化を求めることにより、導入量を測定する。
図1は、リンオキソ酸基を有する繊維状セルロース含有スラリーに対するNaOH滴下量とpHの関係を示すグラフである。繊維状セルロースに対するリンオキソ酸基の導入量は、たとえば次のように測定される。
測定対象の繊維状セルロースが微細化前の繊維状セルロースである場合は、まず、繊維状セルロースに酸処理を行う。繊維状セルロースの酸処理では、繊維状セルロースを、含有量が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、十分な量の1N塩酸水溶液を少しずつ添加する。次いで、このパルプ懸濁液を15分間撹拌したのち脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、繊維状セルロース100質量部(絶乾質量)に対し、1N塩酸水溶液を1000質量部添加する。この操作を5回繰り返すことにより、繊維状セルロース中に含まれるリンオキソ酸基を完全に酸型へ変化させる。さらに、このパルプ懸濁液を撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流す。その後、得られた酸型繊維状セルロースを、含有量が0.2質量%となるように希釈して懸濁液を作製する。なお、必要に応じて、酸処理の後に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。得られた懸濁液に対して、後述するアルカリによる中和滴定を行う。
測定対象の繊維状セルロースが、微細繊維状セルロースである場合は、まず、微細繊維状セルロースを含有するスラリーを強酸性イオン交換樹脂で処理する。なお、必要に応じて、強酸性イオン交換樹脂による処理の前に、後述の解繊処理工程と同様の解繊処理を測定対象に対して実施してもよい。強酸性イオン交換樹脂で処理したスラリーに対して、後述するアルカリによる中和滴定を行う。
アルカリによる中和滴定では、水酸化ナトリウム水溶液を加えながらpHの変化を観察し、図1の上側部に示すような滴定曲線を得る。図1の上側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットしており、図1の下側部に示した滴定曲線では、アルカリを加えた量に対するpHの増分(微分値)(1/mmol)をプロットしている。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ確認される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第1解離酸量と等しくなり、第1終点から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中に含まれる繊維状セルロースの第2解離酸量と等しくなり、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。そして、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して得られる値が、リンオキソ酸基導入量(mmol/g)となる。なお、単にリンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)と言った場合は、第1解離酸量のことを表す。
なお、図1において、滴定開始から第1終点までの領域を第1領域と呼び、第1終点から第2終点までの領域を第2領域と呼ぶ。例えば、リンオキソ酸基がリン酸基の場合であって、このリン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上、リンオキソ酸基における弱酸性基量(本明細書では第2解離酸量ともいう)が低下し、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、リンオキソ酸基における強酸性基量(本明細書では第1解離酸量ともいう)は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致する。また、リンオキソ酸基が亜リン酸基の場合は、リンオキソ酸基に弱酸性基が存在しなくなるため、第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなるか、第2領域に必要としたアルカリ量はゼロとなる場合もある。この場合、滴定曲線において、pHの増分が極大となる点は一つとなる。
なお、滴定法によるリンオキソ酸基量の測定においては、水酸化ナトリウム水溶液1滴の滴下量が多すぎる場合や、滴定間隔が短すぎる場合、本来より低いリンオキソ酸基量となるなど正確な値が得られないことがある。適切な滴下量、滴定間隔としては、例えば、0.1N水酸化ナトリウム水溶液を5~30秒に10~50μLずつ滴定するなどが望ましい。また、繊維状セルロース含有スラリーに溶解した二酸化炭素の影響を排除するため、例えば、滴定開始の15分前から滴定終了まで、窒素ガスなどの不活性ガスをスラリーに吹き込みながら測定するなどが望ましい。
本発明の第1の態様において、繊維状セルロースにおける第1解離酸量(mmol/g)をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量(mmol/g)をA2とした場合、A1は、1.35mmol/g以上であればよく、1.50mmol/g以上であることが好ましく、1.75mmol/g以上であることがより好ましく、2.00mmol/g以上であることがさらに好ましい。また、A1は、5.20mmol/g以下であることが好ましく、3.65mmol/g以下であることがより好ましく、3.00mmol/g以下であることがさらに好ましい。本明細書において、A1は、リンオキソ酸基導入量またはリンオキソ酸基量と同義であるので、リンオキソ酸基導入量(またはリンオキソ酸基量)も上記範囲内であることが好ましい。ここで、単位mmol/gは、リンオキソ酸基の対イオンが水素イオン(H+)であるときの繊維状セルロースの質量1gあたりの置換基量を示す。リンオキソ酸基の導入量(A1)を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易とすることができ、繊維状セルロースの安定性を高めることが可能となる。また、リンオキソ酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、分散液等の組成物やシートを形成した場合には、組成物やシートは高い透明性を発揮することができる。なお、A1’の値も上記範囲範囲内であることが好ましい。
本発明の第1の態様では、A1/A2の値は0.51以上であることが好ましく、0.64以上であることがより好ましく、0.80以上であることがさらに好ましい。また、A1/A2の値の上限値は1.0であることが好ましい。ここで、繊維状セルロースにおける第1解離酸量(A1)は、上述した滴定曲線において、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。すなわち、第1解離酸量(A1)は第1段階で電離し、中和される酸の物質量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。また、繊維状セルロースにおける総解離酸量(A2)は滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。すなわち、総解離酸量(A2)は全段階で電離し、中和される全ての酸の物質量(mmol)を滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値である。このため、A1/A2の値が1に近いほど弱酸量(リンオキソ酸基における弱酸性基量など)が少ないことを意味する。本発明の第1の態様では、A1/A2の値を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの黄変を抑制しつつ、当該微細繊維状セルロースを用いて得られる組成物の透明性を高めることができる。なお、A1’/A2’の値も上記範囲であることが好ましい。
なお、A1/A2の値は、リン酸基が縮合した場合、亜リン酸基が存在する場合、どちらの場合でも1に近づく。A1/A2が1に近づく要因が、リン酸基の縮合か、亜リン酸基の存在か、どちらに因るものか判断する方法としては、例えば、酸加水分解などのリン酸の縮合構造を切断する処理を行ってから上記の滴定操作を行う方法、酸化処理などの亜リン酸基をリン酸基へ変換する処理を行ってから上記の滴定操作を行う方法などが挙げられる。
リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基は、たとえば下記式(1)で表される置換基である。なお、リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基の塩、リンオキソ酸エステル基などの置換基が含まれる。また、リンオキソ酸基に由来する置換基には、リンオキソ酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)として繊維状セルロースに含まれていてもよい。
式(1)中、a、b及びnは自然数であり、mは任意の数である(ただし、a=b×mである)。α1,α2,・・・,αn及びα’のうちa個がO-であり、残りはR、ORのいずれかである。ここで、Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、不飽和-環状炭化水素基、芳香族基、またはこれらの誘導基である。Rはセルロース分子鎖に由来する基であってもよい。中でも、αn又はα’のいずれかはRであることが好ましく、Rは水素原子であることが特に好ましい。また、nは1であることが好ましい。すなわち、リンオキソ酸基は、亜リン酸基であることが好ましい。なお、亜リン酸基は亜リン酸基に由来する置換基であってもよい。
本発明の第2の態様においては、繊維状セルロースは、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する。すなわち、式(1)中、αn及びα’のうちa個がO-であり、αn又はα’のいずれかはRである。中でもRは水素原子であることが好ましい。
なお、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基の一部は、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基であってもよく、また、リンオキソ酸基が縮合した基(たとえばピロリン酸基)であってもよい。このように、繊維状セルロースが、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基(以下、単に亜リン酸基ともいう)と、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(以下、単にリン酸基ともいう)の両方を置換基として有する場合は、式(1)で表される置換基のうち亜リン酸基の割合は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。
式(1)のRで表される飽和-直鎖状炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロピル基、又はt-ブチル基等が挙げられるが、特に限定されない。飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンチル基、又はシクロヘキシル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-直鎖状炭化水素基としては、ビニル基、又はアリル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-分岐鎖状炭化水素基としては、i-プロペニル基、又は3-ブテニル基等が挙げられるが、特に限定されない。不飽和-環状炭化水素基としては、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられるが、特に限定されない。芳香族基としては、フェニル基、又はナフチル基等が挙げられるが、特に限定されない。
また、Rにおける誘導基としては、上記各種炭化水素基の主鎖又は側鎖に対し、カルボキシ基、ヒドロキシ基、又はアミノ基などの官能基のうち、少なくとも1種類が付加又は置換した状態の官能基が挙げられるが、特に限定されない。また、Rの主鎖を構成する炭素原子数は特に限定されないが、20以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。Rの主鎖を構成する炭素原子数を上記範囲とすることにより、リンオキソ酸基の分子量を適切な範囲とすることができ、繊維原料への浸透を容易にし、微細セルロース繊維の収率を高めることもできる。
βb+は有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンである。有機物からなる1価以上の陽イオンとしては、脂肪族アンモニウム、又は芳香族アンモニウムが挙げられ、無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、ナトリウム、カリウム、若しくはリチウム等のアルカリ金属のイオンや、カルシウム、若しくはマグネシウム等の2価金属の陽イオン、又は水素イオン等が挙げられるが、特に限定されない。これらは1種又は2種類以上を組み合わせて適用することもできる。有機物又は無機物からなる1価以上の陽イオンとしては、βを含む繊維原料を加熱した際に黄変しにくく、また工業的に利用し易いナトリウム、又はカリウムのイオンが好ましいが、特に限定されない。
繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、繊維状セルロースを含有する分散液について赤外線吸収スペクトルの測定を行い、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収を観察することで確認できる。また、繊維状セルロースが亜リン酸基を置換基として有することは、NMRを用いて化学シフトを確認する方法や、元素分析に各種の滴定法を組み合わせる方法が挙げられる。
なお、繊維状セルロースはリンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基に加えて、他のアニオン性基を有していてもよい。このようなアニオン性基としては、例えば、パルプが元来含むカルボキシ基等を挙げることができる。
(繊維状セルロースの製造方法)
本発明は、繊維状セルロースの製造方法に関する。本発明の第1の態様における繊維状セルロースの製造方法は、繊維状セルロースにおける第1解離酸量をA1とし、繊維状セルロースにおける総解離酸量をA2とした場合、A1/A2の値が0.51以上である、繊維状セルロースの製造方法である。第1の態様における製造方法は、セルロース原料に対し、リンオキソ酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体と、を混合し、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程を含む。そして、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程は、セルロース原料に対し、リンオキソ酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程を複数工程含み、1サイクル工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率は95%以下である。
本発明の第2の態様における繊維状セルロースの製造方法は、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有する繊維状セルロースの製造方法である。第2の態様における製造方法は、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程を含む。そして、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基セルロース原料を得る工程は、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程を複数工程含み、1サイクル工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率は95%以下である。
なお、以下では、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程、もしくは亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程を、リンオキソ酸基導入工程ともいう。
本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、第2の態様にあるように、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合することが好ましい。ここで、尿素が有するカルボニル基とアミノ基は亜リン酸基を有する化合物の亜リン酸基と水素結合を形成し、水素イオンの電離を抑制する。一方、尿素は熱等によって分解するため、分解されると炭酸ガスやアンモニアガスとして反応系外に放出される。本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を95%以下に抑えることで、尿素と亜リン酸基の水素結合を保持することができ、これにより、亜リン酸基から水素イオンの電離を抑制することができる。なお、亜リン酸のpKaはリン酸のpKaと比較して小さいことからも、亜リン酸基の水素イオンは電離しやすく、これにより、系の酸性度が下がり、繊維状セルロースの劣化や尿素の分解等が促進されやすいものと考えられる。しかし、本発明においては、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を95%以下とすることにより、亜リン酸基を有する繊維状セルロースにおいても水素イオンの電離を抑制でき、その結果、繊維状セルロースの劣化等を抑制することが可能となる。
本発明の繊維状セルロースは、このような製造工程を経て得られるものであるため、繊維状セルロースを微細化し、得られた微細繊維状セルロースを分散媒に分散させて分散液とした際に、透明性の高い分散液が得られる。また、このような分散媒を用いて、例えばシートといった成形体を成形した場合、透明性の高いシートが得られる。さらに、本発明の繊維状セルロース及び微細繊維状セルロースは黄変が抑制されており、微細繊維状セルロースを含む分散液からシートを形成した場合、YI値が低いシートを得ることができる。
<セルロース原料>
微細繊維状セルロースは、セルロースを含む繊維原料(セルロース原料)から製造される。セルロースを含む繊維原料としては、特に限定されないが、入手しやすく安価である点からパルプを用いることが好ましい。パルプとしては、たとえば木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプが挙げられる。木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえば広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、特に限定されないが、たとえばコットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、特に限定されないが、たとえば古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。本実施形態のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中でも、入手のしやすさという観点からは、たとえば木材パルプおよび脱墨パルプが好ましい。また、木材パルプの中でも、セルロース比率が大きく解繊処理時の微細繊維状セルロースの収率が高い観点や、パルプ中のセルロースの分解が小さく軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる観点から、たとえば化学パルプがより好ましく、クラフトパルプ、サルファイトパルプがさらに好ましい。なお、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを用いると粘度が高くなる傾向がある。
セルロースを含む繊維原料としては、たとえばホヤ類に含まれるセルロースや、酢酸菌が生成するバクテリアセルロースを利用することもできる。また、セルロースを含む繊維原料に代えて、キチン、キトサンなどの直鎖型の含窒素多糖高分子が形成する繊維を用いることもできる。
<リンオキソ酸基導入工程>
第1の態様におけるリンオキソ酸基導入工程は、リンオキソ酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体と、を混合し、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程である。ここで、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有するセルロース原料を得る工程は、セルロース原料に対し、リンオキソ酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程を複数工程含む。また、第2の態様におけるリンオキソ酸基導入工程は、セルロース原料に対し、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、亜リン酸基を有するセルロース原料を得る工程である。ここで、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基セルロース原料を得る工程は、セルロース原料に対し、亜リン酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程を複数工程含む。第1の態様のリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と、リンオキソ酸及び/又はその塩が反応することで、リンオキソ酸基を導入することができる。また、第2の態様のリンオキソ酸基導入工程では、セルロースを含む繊維原料が有する水酸基と、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩が反応することで、亜リン酸基を導入することができる。なお、本明細書においては、リンオキソ酸及び/又はその塩、もしくは亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩を含む化合物を化合物Aと呼ぶことがあり、尿素及び/又は尿素誘導体を化合物Bと呼ぶことがある。
化合物Aを化合物Bとの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態、湿潤状態またはスラリー状の繊維原料に対して、化合物Aと化合物Bを混合する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料を用いることが好ましく、特に乾燥状態の繊維原料を用いることが好ましい。繊維原料の形態は、特に限定されないが、たとえば綿状や薄いシート状であることが好ましい。化合物Aおよび化合物Bは、それぞれ粉末状または溶媒に溶解させた溶液状または融点以上まで加熱して溶融させた状態で繊維原料に添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、溶媒に溶解させた溶液状、特に水溶液の状態で添加することが好ましい。また、化合物Aと化合物Bは繊維原料に対して同時に添加してもよく、別々に添加してもよく、混合物として添加してもよい。化合物Aと化合物Bの添加方法としては、特に限定されないが、化合物Aと化合物Bが溶液状の場合は、繊維原料を溶液内に浸漬し吸液させたのちに取り出してもよいし、繊維原料に溶液を滴下してもよい。また、必要量の化合物Aと化合物Bを繊維原料に添加してもよいし、過剰量の化合物Aと化合物Bをそれぞれ繊維原料に添加した後に、圧搾や濾過によって余剰の化合物Aと化合物Bを除去してもよい。
本実施態様で使用する化合物Aとしては、リン原子を有し、セルロースとエステル結合を形成可能な化合物が挙げられるが、化合物Aは、少なくとも亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩を含むことが好ましい。亜リン酸基を有する化合物としては亜リン酸を挙げることができ、亜リン酸としては、たとえば99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。亜リン酸の塩としては、亜リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられ、これらは種々の中和度とすることができる。これらのうち、リンオキソ酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、または亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、亜リン酸がより好ましい。なお、化合物Aは、亜リン酸基を有する化合物及び/又はその塩に加えて、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩、脱水縮合リン酸及び/又はその塩、無水リン酸(五酸化二リン)等を含んでもよい。この場合、リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。
繊維原料に対する化合物Aの添加量は、特に限定されないが、たとえば化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合において、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量が0.5質量%以上100質量%以下となることが好ましく、1質量%以上50質量%以下となることがより好ましく、2質量%以上30質量%以下となることがさらに好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。一方で、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記上限値以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。
本実施形態で使用する化合物Bは、上述のとおり尿素及び/又は尿素誘導体である。化合物Bとしては、たとえば尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、および1-エチル尿素などが挙げられる。反応の均一性を向上させる観点から、化合物Bは水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性をさらに向上させる観点からは、化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。
繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は、特に限定されないが、たとえば1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましい。
また、化合物Aに含まれるリン原子のモル質量(mmol)をPとし、化合物Bに含まれる尿素及び/又は尿素誘導体のモル質量(mmol)をNとした場合、N/Pの値は、3.5以上であることが好ましく、4.0以上であることがより好ましく、4.5以上であることがさらに好ましく、5.0以上であることが特に好ましい。また、N/Pの値は、50以下であることが好ましい。N/Pの値を上記範囲内とすることにより、リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を95%以下にコントロールしやすくなる。
セルロースを含む繊維原料と化合物Aの反応においては、化合物Bの他に、たとえばアミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、たとえばホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、たとえばメチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
リンオキソ酸基導入工程においては、繊維原料に化合物A等を添加又は混合した後、当該繊維原料を加熱することが好ましい(加熱処理工程)。加熱処理工程における加熱処理温度としては、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、亜リン酸基といったリンオキソ酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。加熱処理温度は、加熱時間や熱源の選択によっても変わり得るが、50℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。また、加熱処理温度は、250℃以下であることが好ましく、175℃以下であることがより好ましい。また、加熱処理には、種々の熱媒体を有する機器を利用することができ、たとえば撹拌乾燥装置、回転乾燥装置、円盤乾燥装置、ロール型加熱装置、プレート型加熱装置、流動層乾燥装置、気流乾燥装置、減圧乾燥装置、赤外線加熱装置、遠赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置、高周波乾燥装置を用いることができる。
本実施形態に係る加熱処理においては、たとえば薄いシート状の繊維原料に化合物Aを含浸等の方法により添加した後、加熱する方法や、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱する方法を採用することができる。これにより、繊維原料における化合物Aの濃度ムラを抑制して、繊維原料に含まれるセルロース繊維表面へより均一に亜リン酸基といったリンオキソ酸基を導入することが可能となる。これは、乾燥に伴い水分子が繊維原料表面に移動する際、溶存する化合物Aが表面張力によって水分子に引き付けられ、同様に繊維原料表面に移動してしまう(すなわち、化合物Aの濃度ムラが生じてしまう)ことを抑制できることに起因するものと考えられる。
また、加熱処理に用いる加熱装置は、たとえばスラリーが保持する水分、及び化合物Aと繊維原料中のセルロース等が含む水酸基等との脱水縮合(リン酸エステル化)反応に伴って生じる水分、を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましい。このような加熱装置としては、例えば送風方式のオーブン等が挙げられる。装置系内の水分を常に排出することにより、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもできる。このため、軸比の高い微細繊維状セルロースを得ることが可能となる。
加熱処理の時間は、繊維原料に水分を含んだ状態から10秒以上であることが好ましく、100秒以上であることがより好ましく、200秒以上であることがさらに好ましく、300秒以上であることが特に好ましい。また、加熱処理の時間は、10000秒以下であることが好ましく、5000秒以下であることがより好ましく、3000秒以下であることがさらに好ましく、2000秒以下であることが特に好ましい。なお、上記加熱処理の時間は、全サイクル工程における加熱時間の合計時間である。本実施形態では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リンオキソ酸基の導入量(A1)を好ましい範囲内とすることができる。
第1の態様におけるリンオキソ酸基導入工程は、セルロース原料に対し、リンオキソ酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程を複数工程含む。また、第2の態様におけるリンオキソ酸基導入工程は、セルロース原料に対し、亜リン酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程を複数工程含む。具体的には、リンオキソ酸及び/又はその塩、もしくは、亜リン酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体とを混合し、加熱する1サイクル工程は、2工程設けられてもよく、3工程設けられてもよく、4工程以上設けられてもよい。すなわち、リンオキソ酸基導入工程では、上述した1サイクル工程が2回繰り返し行われてもよく、3回繰り返し行われてもよく、4回以上繰り返し行われてもよい。なお、1サイクル工程の繰り返し数は10回以下であることが好ましい。
1サイクル工程毎の加熱処理の時間は、繊維原料に水分を含んだ状態から1秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、50秒以上であることがさらに好ましく、100秒以上であることが特に好ましい。また、加熱処理の時間は、5000秒以下であることが好ましく、3000秒以下であることがより好ましく、2000秒以下であることがさらに好ましく、1000秒以下であることが一層好ましく、900秒未満であることが特に好ましい。本発明においては、例えば、1サイクル工程毎の加熱処理の時間を上記範囲内とし、かつこのようなサイクルを複数回繰り返して行うことにより、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を適切な範囲にコントロールすることができる。また、リンオキソ酸及び/又はその塩、もしくは、亜リン酸及び/又はその塩と、尿素及び/又は尿素誘導体の添加量を調節したり、加熱温度を調節したりすることによっても、尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を適切な範囲にコントロールしてもよい。
なお、1サイクル工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率は、95%以下であればよく、94%以下であることが好ましく、93%以下であることがより好ましい。なお、1サイクル工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率の下限値は特に限定されるものではないが、10%以上であることが好ましい。本発明の繊維状セルロースの製造方法では。上述した1サイクル工程が複数回設けられるが、全ての1サイクル工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率が上記上限値以下であることが好ましい。
ここで、尿素分解率とは、リンオキソ酸導入工程(特に加熱)における、水の蒸発以外の質量減少(すなわち、尿素の分解量)を、セルロース原料に添加した尿素の質量で除し、質量分率で表した値である。尿素は熱等によって分解され、炭酸ガスやアンモニアガスとして反応系外に放出されるため、尿素分解率は以下の方法で算出される。
まず試験に使用するセルロース原料(パルプ)の絶乾質量を測定する。次にセルロース原料(パルプ)に所定量の薬液を添加して、質量を測定する(m0)。薬液組成とパルプの初期含水率から水の添加量(系の水分量)(mw)および、尿素の添加量(mu)を算出する。その後、含浸したセルロース原料(パルプ)を、上述したような加熱処理条件で加熱処理して、質量を測定する(m1)。測定及び算出した質量を用い、下記(式1)より尿素分解率[%]を算出する。
尿素分解率[%]=(m0-mw-m1)/mu×100・・・(式1)
m0 :加熱前の薬液含浸パルプ質量
mw :水の添加量(系の水分量)
m1 :加熱後のパルプ質量
mu :尿素の添加量
なお、リンオキソ酸導入工程を複数回繰返す場合は、上述のセルロース原料(パルプ)を複数回反応に供試するリンオキソ酸化パルプに置き換え、同様の計算を行う。
本発明の繊維状セルロースの製造方法においては、リンオキソ酸基導入工程における尿素及び/又は尿素誘導体の分解率を上記条件となるようにコントロールし、次いで解繊処理を行うことで、繊維状セルロースを分散媒に分散させて分散液とした際に、透明性の高い分散液が得られる。また、このような分散媒を用いて、例えばシートといった成形体を成形した場合、透明性の高いシートが得られる。さらに、本発明の繊維状セルロースは黄変が抑制されており、繊維状セルロースを含む分散液からシートを形成した場合、YI値が低いシートを得ることができる。
なお、上述したようなリンオキソ酸基導入工程で得られるリンオキソ酸基導入繊維(リンオキソ酸化パルプ)のYI値は、42.0以下であることが好ましく、36.0以下であることがより好ましく、30.0以下であることがさらに好ましく、24.0以下であることが特に好ましい。リンオキソ酸基導入繊維のYI値は、JIS K 7373に準拠して測定される値である。測定装置としては、例えば、スガ試験機株式会社製のColour Cute iを用いることができる。
<洗浄工程>
本実施形態における微細繊維状セルロースの製造方法においては、必要に応じてリンオキソ酸基導入繊維に対して洗浄工程を行うことができる。洗浄工程は、たとえば水や有機溶媒によりリンオキソ酸基導入繊維を洗浄することにより行われる。また、洗浄工程は後述する各工程の後に行われてもよく、各洗浄工程において実施される洗浄回数は、特に限定されない。
<アルカリ処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リンオキソ酸基導入工程と、後述する解繊処理工程との間に、繊維原料に対してアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えばアルカリ溶液中に、リンオキソ酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されず、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。本実施形態においては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムをアルカリ化合物として用いることが好ましい。また、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水または有機溶媒のいずれであってもよい。中でも、アルカリ溶液に含まれる溶媒は、水、またはアルコールに例示される極性有機溶媒などを含む極性溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であることがより好ましい。アルカリ溶液としては、汎用性が高いことから、たとえば水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましい。アルカリ処理工程におけるリンオキソ酸基導入繊維のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上30分以下であることが好ましく、10分以上20分以下であることがより好ましい。アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の使用量を減らすために、リンオキソ酸基導入工程の後であってアルカリ処理工程の前に、リンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄してもよい。アルカリ処理工程の後であって解繊処理工程の前には、取り扱い性を向上させる観点から、アルカリ処理を行ったリンオキソ酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
<酸処理工程>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リンオキソ酸基を導入する工程と、後述する解繊処理工程の間に、リンオキソ酸基導入繊維に対して酸処理を行ってもよい。例えば、リンオキソ酸基導入工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
酸処理の方法としては、特に限定されないが、たとえば酸を含有する酸性液中にリンオキソ酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は、特に限定されないが、たとえば10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、使用する酸性液のpHは、特に限定されないが、たとえば0以上4以下であることが好ましく、1以上3以下であることがより好ましい。酸性液に含まれる酸としては、たとえば無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、たとえば硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、たとえばメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、たとえばギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。これらの中でも、塩酸または硫酸を用いることが特に好ましい。
酸処理における酸溶液の温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上90℃以下がより好ましい。酸処理における酸溶液への浸漬時間は、特に限定されないが、たとえば5分以上120分以下が好ましく、10分以上60分以下がより好ましい。酸処理における酸溶液の使用量は、特に限定されないが、たとえばリンオキソ酸基導入繊維の絶乾質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
<解繊処理工程>
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを製造する場合、繊維状セルロースの製造方法は、解繊処理工程を含んでもよい。解繊処理工程は、リンオキソ酸基又はリンオキソ酸基に由来する置換基を有するセルロース原料、もしくは、亜リン酸基又は亜リン酸基に由来する置換基を有するセルロース原料に微細化処理を施し、繊維幅が1000nm以下であり、かつ亜リン酸基といったリンオキソ酸基を有する繊維状セルロースを得る工程である。解繊処理工程においては、たとえば解繊処理装置を用いることができる。解繊処理装置は、特に限定されないが、たとえば高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなどを使用することができる。上記解繊処理装置の中でも、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミネーションのおそれが少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーを用いるのがより好ましい。
解繊処理工程においては、たとえば亜リン酸基といったリンオキソ酸基を導入した繊維を、分散媒により希釈してスラリー状にすることが好ましい。分散媒としては、水、および極性有機溶媒などの有機溶媒から選択される1種または2種以上を使用することができる。極性有機溶媒としては、特に限定されないが、たとえばアルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、非プロトン性極性溶媒等が好ましい。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、たとえばジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。エステル類としては、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒としてはジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)等が挙げられる。
解繊処理時の微細繊維状セルロースの固形分濃度は適宜設定できる。また、亜リン酸基導入繊維を分散媒に分散させて得たスラリー中には、例えば水素結合性のある尿素などのリンオキソ酸基導入繊維以外の固形分が含まれていてもよい。
(繊維状セルロース含有組成物)
本発明は、上述した繊維状セルロースを含む繊維状セルロース含有組成物に関するものであってもよい。本明細書において、繊維状セルロース含有組成物は、上述した繊維状セルロースに加えて、溶媒を含む組成物であってもよい。溶媒の種類は、特に限定されないが、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノt-ブチルエーテル等が挙げられる。
繊維状セルロース含有組成物において、溶媒が主成分である場合には、繊維状セルロース含有組成物は、液状組成物であってもよい。また、繊維状セルロース含有組成物において、溶媒の含有量が少ない場合には、繊維状セルロース含有組成物は固形状組成物であってもよい。なお、固形状組成物には、ゲル状組成物や粉粒状組成物も含まれる。
繊維状セルロース含有組成物が液状組成物である場合、液状組成物中の固形分濃度は、液状組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、液状組成物における固形分濃度は、液状組成物の全質量に対して、90質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。また、繊維状セルロース含有組成物が固形状組成物である場合、固形状組成物中の固形分濃度は、固形状組成物の全質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、固形状組成物における固形分濃度は、固形状組成物の全質量に対して、99.9質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
繊維状セルロース含有組成物が溶媒として水を含む液状組成物である場合、液状組成物中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.2質量%とした際の液状組成物の全光線透過率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが特に好ましい。ここで、液状組成物の全光線透過率は、JIS K 7361に準拠して測定される値である。液状組成物の全光線透過率はヘーズメータを用いて測定する。この際、光路長1cmの液体用ガラスセルを用いる。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。測定の前には、液状組成物を23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置し、液状組成物の液温を23℃とする。なお、液状組成物の全光線透過率が上記範囲内であることは、繊維状セルロースが有するリンオキソ酸基が過度に縮合していないことも意味している。
また、繊維状セルロース含有組成物が溶媒として水を含む液状組成物である場合、液状組成物のヘーズは、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが一層好ましく、5%以下であることが特に好ましい。液状組成物のヘーズは、0%であってもよい。なお、上記ヘーズ値は、繊維状セルロース含有組成物をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、JIS K 7136に準拠して測定した値である。ヘーズの測定にはヘーズメータを用い、光路長1cmの液体用ガラスセルに分散液を充填する。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
液状組成物中に含まれる繊維状セルロースの含有量を0.4質量%とした際のB型粘度は、5000mPa・s以上であることが好ましく、8000mPa・s以上であることがより好ましく、10000mPa・s以上であることがさらに好ましい。なお、液状組成物の粘度の上限値は特に限定されるものではないが、100000mPa・sであることが好ましい。なお、上記粘度は、液状組成物を固形分濃度が0.4質量%となるように希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間撹拌し、スラリーを十分に均一し、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した後にB型粘度計を用いて測定した値である。測定条件は、23℃の条件とし、3rpmで3分間回転させた際の粘度を測定する。なお、測定装置としては、BLOOKFIELD社製のアナログ粘度計T-LVTを用いることができる。
繊維状セルロース含有組成物が溶媒を含む液状組成物である場合、繊維状セルロース含有組成物は、上述した解繊処理工程で得られるスラリーであってもよい。また、解繊処理工程で得られるスラリーを濃縮したり、乾燥したりすることでゲル状や固形状の繊維状セルロース含有物とした後に、繊維状セルロース含有物を溶媒に再分散させることで繊維状セルロース含有組成物(繊維状セルロース分散液)としてもよい。
<任意成分>
繊維状セルロース含有組成物は、さらに任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、例えば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤、防腐剤等を挙げることができる。また、繊維状セルロース含有組成物は、任意成分として、親水性高分子、親水性低分子、有機イオン等を含有していてもよい。
親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましく、含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等が挙げられる。
親水性低分子は、親水性の含酸素有機化合物であることが好ましく、多価アルコールであることがさらに好ましい。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等が挙げられる。
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
(成形体)
本発明は、上述した繊維状セルロース、もしくは、上述した繊維状セルロース含有組成物から形成される成形体に関するものであってもよい。本明細書において成形体とは、所望の形状となるように成形された固形状体である。成形体としては、例えば、シート、ビーズ、フィラメント等を挙げることができる。中でも、成形体は、シート、ビーズ又はフィラメントであることが好ましい。成形体がビーズ状である場合、ビーズの粒子径は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。また、成形体がフィラメント状である場合、フィラメントの幅は0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、フィラメントの長さは1mm以上10000mm以下であることが好ましい。
(シート)
中でも、成形体はシート状であることが好ましく、本発明は上述した繊維状セルロース含有組成物から形成されるシートに関するものであってもよい。ここで、下記条件(a)でシートを形成した場合、該シートのYI値は6.0以下であればよく、4.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。なお、シートのYI値の下限値は特に限定されるものではなく、0.0であってもよい。シートのYI値は、JIS K 7373に準拠して測定される値である。測定装置としては、例えば、スガ試験機株式会社製のColour Cute iを用いることができる。
条件(a):
固形分濃度が0.5質量%の繊維状セルロース分散液を作製し、該繊維状セルロース分散液100質量部に対して、0.5質量%濃度のポリエチレンオキサイド水溶液を20質量部添加し、塗工液とする;該塗工液を基材上に塗工して坪量が50g/m2のシートを形成する。
なお、シートのYI値や全光線透過率を測定する際には、坪量が50g/m2のシートにおいて各測定を行う。しかし、得られるシートの坪量が50g/m2ではない場合も想定される。このような場合は、シートを水に再分散させ、坪量が50g/m2のシートを作製する工程を測定前に設けることができる。
本発明のシートの厚みは、特に限定されないが、たとえば5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μmとすることができる。シートの厚みは、たとえば触針式厚さ計(マール社製、ミリトロン1202D)で測定することができる。
シートの坪量は、特に限定されないが、たとえば10g/m2以上であることが好ましく、20g/m2以上であることがより好ましく、30g/m2以上であることがさらに好ましい。また、シートの坪量は、特に限定されないが、たとえば200g/m2以下であることが好ましく、180g/m2以下であることがより好ましい。ここで、シートの坪量は、たとえばJIS P 8124に準拠し、算出することができる。
シートの密度は、特に限定されないが、たとえば0.1g/cm3以上であることが好ましく、0.5g/cm3以上であることがより好ましく、1.0g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、シートの密度は、特に限定されないが、たとえば5.0g/cm3以下であることが好ましく、3.0g/cm3以下であることがより好ましい。ここで、シートの密度は、50mm角のシートを23℃、相対湿度50%条件下で24時間調湿した後、シートの厚みおよび質量を測定することにより算出することができる。
シート中における繊維状セルロースの含有量は、たとえばシートの全質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。一方で、シート中における繊維状セルロースの含有量の上限値は、特に限定されず、シートの全質量に対して100質量%であってもよく、95質量%であってもよい。
シートは、繊維状セルロース含有組成物に含まれ得る任意成分を含んでいてもよい。また、シートには、水や有機溶媒が含まれていてもよい。
(シートの製造方法)
微細繊維状セルロース含有シートの製造方法は、後述するように、繊維状セルロース含有組成物(以下、繊維状セルロース分散液又はスラリーともいう)を基材上に塗工する塗工工程、または当該スラリーを抄紙する抄紙工程を含むことが好ましい。
<塗工工程>
塗工工程では、たとえば繊維状セルロース含有組成物(スラリー)を基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得ることができる。また、塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
塗工工程で用いる基材の材質は、特に限定されないが、繊維状セルロース含有組成物(スラリー)に対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂製のフィルムや板または金属製のフィルムや板が好ましいが、特に限定されない。たとえばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂のフィルムや板、アルミ、亜鉛、銅、鉄板の金属のフィルムや板、および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレスのフィルムや板、真ちゅうのフィルムや板等を用いることができる。
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合には、所定の厚みおよび坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠としては、特に限定されないが、たとえば乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。このような観点から、樹脂板または金属板を成形したものがより好ましい。本実施形態においては、たとえばポリプロピレン板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリカーボネート板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛板、銅板、鉄板等の金属板、およびこれらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したものを用いることができる。スラリーを基材に塗工する塗工機としては、特に限定されないが、たとえばロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。シートの厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが特に好ましい。
スラリーを基材へ塗工する際のスラリー温度および雰囲気温度は、特に限定されないが、たとえば5℃以上80℃以下であることが好ましく、10℃以上60℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましく、20℃以上40℃以下であることが特に好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーをより容易に塗工できる。塗工温度が上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が好ましくは10g/m2以上200g/m2以下となるように、より好ましくは20g/m2以上180g/m2以下となるように、スラリーを基材に塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
塗工工程は、上述のとおり、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含む。スラリーを乾燥させる工程は、特に限定されないが、たとえば非接触の乾燥方法、もしくはシートを拘束しながら乾燥する方法、またはこれらの組み合わせにより行われる。
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば熱風、赤外線、遠赤外線もしくは近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、または真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、特に限定されないが、たとえば赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができる。
加熱乾燥法における加熱温度は、特に限定されないが、たとえば20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができる。また、加熱温度を上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制および繊維状セルロースの熱による変色の抑制を実現できる。
<抄紙工程>
抄紙工程は、抄紙機によりスラリーを抄紙することにより行われる。抄紙工程で用いられる抄紙機としては、特に限定されないが、たとえば長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、またはこれらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等の公知の抄紙方法を採用してもよい。
抄紙工程は、スラリーをワイヤーにより濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、このシートをプレス、乾燥することにより行われる。スラリーを濾過、脱水する際に用いられる濾布としては、特に限定されないが、たとえば繊維状セルロースは通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないものであることがより好ましい。このような濾布としては、特に限定されないが、たとえば有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、たとえばポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。本実施形態においては、たとえば孔径0.1μm以上20μm以下であるポリテトラフルオロエチレンの多孔膜や、孔径0.1μm以上20μm以下であるポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられる。
シート化工程において、スラリーからシートを製造する方法は、たとえば繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させてシートを生成する乾燥セクションとを備える製造装置を用いて行うことができる。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
抄紙工程において用いられる脱水方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられる。これらの中でも、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、さらにロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、抄紙工程において用いられる乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば紙の製造で用いられている方法が挙げられる。これらの中でも、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどを用いた乾燥方法がより好ましい。
(用途)
本発明の製造方法で得られる繊維状セルロースは、増粘剤や粒子分散安定剤として使用することができる。また、本発明の製造方法で得られる繊維状セルロースを溶媒に混合することで、繊維状セルロース分散液としたり、該スラリーから微細繊維状セルロースが均一に分散したシートを形成したりすることもできる。また、本発明の繊維状セルロースは、樹脂成分を含む有機溶媒との混合に好ましく用いることもできる。本発明の微細繊維状セルロースと、樹脂成分を含む有機溶媒を混合することで、微細繊維状セルロースが均一に分散した樹脂複合体を形成することができる。同様に微細繊維状セルロース再分散スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することができる。
また、本発明の製造方法で得られる繊維状セルロースは、例えば、補強剤や添加剤として、セメント、塗料、インク、潤滑剤などに使用することができる。また、繊維状セルロースを基材上に塗工することで得られる成形体は、補強材、内装材、外装材、包装用資材、電子材料、光学材料、音響材料、プロセス材料、輸送機器の部材、電子機器の部材、電気化学素子の部材等の用途にも適している。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例として掲載された製造例4は、参考例4と読み替えるものとする。
この原料パルプに対してリンオキソ酸化処理を次のようにして行った。まず、上記原料パルプ100質量部(絶乾質量)に、亜リン酸(ホスホン酸)と尿素の混合水溶液を添加して、亜リン酸(ホスホン酸)33質量部、尿素120質量部、水150質量部となるように調整し、薬液含浸パルプを得た。次いで、得られた薬液含浸パルプを165℃の熱風乾燥機で300秒加熱し、パルプ中のセルロースにリンオキソ酸基を導入し、リンオキソ酸化パルプ1を得た。
次いで、得られたリンオキソ酸化パルプ1に対して洗浄処理を行った。洗浄処理は、100g(絶乾質量)のリンオキソ酸化パルプ1に対して10Lのイオン交換水を注いで得たパルプ分散液を、パルプが均一に分散するよう撹拌した後、濾過脱水する操作を繰り返すことにより行った。ろ液の電気伝導度が100μS/cm以下となった時点で、洗浄終点とした。
洗浄後のリンオキソ酸化パルプ1に対して、さらに上記リンオキソ酸化処理、上記洗浄処理をこの順に2回ずつ行った。(反応回数:3回)。
次いで、洗浄後のリンオキソ酸化パルプ1に対して中和処理を次のようにして行った。まず、洗浄後のリンオキソ酸化パルプ1を10Lのイオン交換水で希釈した後、撹拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加することにより、pHが12以上13以下のリンオキソ酸化パルプスラリー1を得た。次いで、当該リンオキソ酸化パルプスラリー1を脱水して、中和処理が施されたリンオキソ酸化パルプ1を得た。次いで、中和処理後のリンオキソ酸化パルプ1に対して、上記洗浄処理を行った。
これにより得られたリンオキソ酸化パルプ1に対しFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行った。その結果、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。
また、得られたリンオキソ酸化パルプ1を供試して、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
得られたリンオキソ酸化パルプ1にイオン交換水を添加し、固形分濃度が0.3質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、BERYU MINI)を用いて、150MPaの条件で3回処理し、微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
X線回折により、この微細繊維状セルロースがセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、微細繊維状セルロースの繊維幅を、透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmの微細繊維状セルロースが観察された。
なお、製造例4を除いた全ての製造例において得られたリンオキソ酸化パルプについて、同様にFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行ったところ、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)が付加されていることが確認された。また、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
製造例4において得られたリンオキソ酸化パルプについて、同様にFT-IRを用いて赤外線吸収スペクトルの測定を行ったところ、1210cm-1付近に亜リン酸基の互変異性体であるホスホン酸基のP=Oに基づく吸収、1230cm-1付近にリン酸基のP=Oに基づく吸収が観察され、パルプに亜リン酸基(ホスホン酸基)およびリン酸基が付加されていることが確認された。また、X線回折装置にて分析を行ったところ、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークが確認され、セルロースI型結晶を有していることが確認された。
また、以降全ての製造例において得られた微細繊維状セルロース分散液について、X線回折により、セルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、繊維幅を透過型電子顕微鏡を用いて測定したところ、3~5nmの微細繊維状セルロースが観察された。
<製造例2及び3>
リンオキソ酸化処理における熱風乾燥機での加熱時間を450秒(製造例2)、600秒(製造例3)とした以外は製造例1と同様にして微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
<製造例4>
亜リン酸(ホスホン酸)33質量部の代わりに、リン酸28質量部、亜リン酸(ホスホン酸)8質量部を用い、リンオキソ酸化処理における熱風乾燥機での加熱時間を450秒とし、リンオキソ酸化処理の繰り返し数を1回とした(反応回数:2回)以外は、製造例1と同様にして微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
<製造例5及び6>
リンオキソ酸化処理における熱風乾燥機での加熱時間を450秒(製造例5)、600秒(製造例6)とし、リンオキソ酸化処理の繰り返し数を1回とした(反応回数:2回)以外は、製造例1と同様にして微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
<製造例7>
リンオキソ酸化処理における熱風乾燥機での加熱時間を900秒とし、リンオキソ酸化処理を繰り返し行わなかった(反応回数:1回)以外は、製造例4と同様にして微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
<製造例8~10>
リンオキソ酸化処理における熱風乾燥機での加熱時間を900秒(製造例8)、1350秒(製造例9)、1800秒(製造例10)とし、リンオキソ酸化処理を繰り返し行わなかった(反応回数:1回)以外は、製造例1と同様にして微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液を得た。
[測定及び評価]
製造例1~10のリンオキソ酸化処理工程もしくは洗浄工程の後に得られたリンオキソ酸化パルプについて、後述する評価方法に従って、尿素分解率、YI値、重合度の測定を行った。また、製造例1~10で得られた微細繊維状セルロース分散液について、後述する評価方法に従って、ヘーズ、全光線透過率を測定した。また、後述する方法で微細繊維状セルロース含有シートを作製し、YI値を測定した。
<尿素分解率の算出>
製造例1~10の各リンオキソ酸化処理における尿素分解率を以下の方法で算出した。ここで、尿素分解率とは、リンオキソ酸導入工程における、水の蒸発以外の質量減少(すなわち、尿素の分解量)を、セルロース原料に添加した尿素の質量で除し、質量分率で表した値である。この値は以下の方法で測定した。
まず試験に使用するセルロース原料(パルプ)の絶乾質量を測定した。次にセルロース原料(パルプ)に所定量の薬液を添加して、質量を測定した(m0)。薬液組成とパルプの初期含水率から水の添加量(系の水分量)(mw)および、尿素の添加量(mu)を算出した。その後、含浸したセルロース原料(パルプ)を、上述したような加熱処理条件で加熱処理して、質量を測定した(m1)。測定及び算出した質量を用い、下記(式1)より尿素分解率[%]を算出した。
尿素分解率[%]=(m0-mw-m1)/mu×100・・・(式1)
m0 :加熱前の薬液含浸パルプ質量
mw :水の添加量(系の水分量)
m1 :加熱後のパルプ質量
mu :尿素の添加量
なお、リンオキソ酸導入工程を複数回繰返す場合は、上述のセルロース原料(パルプ)を複数回反応に供試するリンオキソ酸化パルプに置き換え、同様の計算を行った。
<リンオキソ酸化パルプのYI値>
製造例1~10のリンオキソ酸化処理工程の加熱直後(洗浄工程前)のリンオキソ酸化パルプについて、JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いてリンオキソ酸化パルプのYI値を測定した。なお、複数回リンオキソ酸化反応を行った場合は、最後のリンオキソ酸化反応の加熱直後(洗浄工程前)のリンオキソ酸化パルプに対して測定を行った。
<リンオキソ酸化パルプの比粘度および重合度の測定>
製造例1~10の洗浄工程で得られたリンオキソ酸化パルプについて、繊維状セルロースの比粘度および重合度を、Tappi T230に従い測定した。すなわち、測定対象の繊維状セルロースを分散媒に分散させて測定した粘度(η1とする)、および分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定した。
ηsp=(η1/η0)-1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時の繊維状セルロースの濃度を示す。
さらに、下記式から繊維状セルロースの重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
<第1解離酸量と総解離酸量の測定(リンオキソ酸基)>
微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製した繊維状セルロース含有スラリーに対し、イオン交換樹脂による処理を行った後、アルカリを用いた滴定を行うことにより測定した。
イオン交換樹脂による処理は、上記繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmのメッシュ上に注いで樹脂とスラリーを分離することにより行った。
また、アルカリを用いた滴定は、イオン交換樹脂による処理後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示すpHの値の変化を計測することにより行った。この中和滴定では、アルカリを加えた量に対して測定したpHをプロットした曲線において、増分(pHのアルカリ滴下量に対する微分値)が極大となる点が二つ観測される。これらのうち、アルカリを加えはじめて先に得られる増分の極大点を第1終点と呼び、次に得られる増分の極大点を第2終点と呼ぶ(図1)。滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の第1解離酸量と等しくなる。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の総解離酸量と等しくなる。なお、滴定開始から第1終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を第1解離酸量(mmol/g)とした。また、滴定開始から第2終点までに必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除した値を総解離酸量(mmol/g)とした。
なお、製造例1~10で得られたリンオキソ酸化パルプについても第1解離酸量と総解離酸量の測定を行った。具体的には、製造例1~10で得られたリンオキソ酸化パルプ100質量部(絶乾質量)を、含有量が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1N塩酸水溶液1000質量部を少しずつ添加した。次いで、このパルプ懸濁液を15分間撹拌したのち脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水で希釈し、リンオキソ酸化パルプ100質量部(絶乾質量)に対し、1N塩酸水溶液を1000質量部添加した。この操作を5回繰り返すことにより、リンオキソ酸化パルプ中に含まれるリンオキソ酸基を完全に酸型へ変化させた。さらに、このパルプ懸濁液を撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の塩酸を十分に洗い流した。得られた酸型リンオキソ酸化パルプをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈して作製したリンオキソ酸化パルプ懸濁液を高速回転型解繊機(エムテクニック社製、クレアミックス-2.2S)を用いて、21500rpmで、5分間機械処理して得られた懸濁液に対して、上述した方法と同様にアルカリを用いた滴定を行った。
<微細繊維状セルロース分散液のヘーズの測定>
微細繊維状セルロース分散液のヘーズの測定は微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7136に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
<微細繊維状セルロース分散液の全光線透過率の測定>
微細繊維状セルロース分散液の全光線透過率の測定は微細繊維状セルロース分散液をイオン交換水で0.2質量%となるように希釈した後、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)で、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG-40、逆光路)を用いて、JIS K 7361に準拠して測定した。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行った。また、測定対象の分散液は測定前に23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。測定時の分散液の液温は23℃であった。
<微細繊維状セルロース分散液含有シートのYI値の測定>
製造例1~10で得られた微細繊維状セルロース分散液を、固形分濃度が0.5質量%となるようイオン交換水を添加して濃度調整を行った。次いで、濃度調整後の微細繊維状セルロース分散液100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(住友精化社製、PEO-18)の0.5質量%水溶液を20質量部添加し、塗工液を得た。次いで、得られるシート(上記塗工液の固形分から構成される層)の仕上がり坪量が50g/m2になるように塗工液を計量して、市販のアクリル板に塗工し、50℃の恒温乾燥機にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mm、高さ5cmの金枠)を配置した。次いで、上記アクリル板から乾燥後のシートを剥離し、微細繊維状セルロース含有シートを得た。次いで、JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社製)を用いて微細繊維状セルロース含有シートのYI値を測定した。
製造例1~6で得られた微細繊維状セルロースを含む分散液は高透明であり、かつ製造例1~6で得られた微細繊維状セルロースから形成されたシートにおいては、黄変が抑制されていた。このように、製造例1~6で得られた微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース含有組成物の黄変を抑制しつつ、当該組成物の透明性を向上させ得ることが分かった。