従来から、研削や切断等の各種加工において、ダイヤモンドやCubic Boron Nitride(以下「cBN」という)からなる高硬度の砥粒をワイヤや台金等の母材に固着させた電着工具が知られており、砥粒をレジン(樹脂)により母材に固着させたレジンボンド工具に比べて砥粒の保持強度が強いばかりか摩耗し難く、砥粒が母材から脱落し難いという利点を有している。また砥粒の食い込みが大きく、除去能率が高いという特長を有している。
ところが、電着工具のワイヤソーの場合は電気めっきの原理により析出したニッケルによって高速に走行する工具本体である鉄製のワイヤ上に砥粒を固定することにより連続的に製造されるが、砥粒として用いられるダイヤモンドは電気抵抗が高いことから(1010Ω・m以上)電気めっきによる付着が悪く、工具本体に所定の間隔で所定の密度に固定させることが困難であるとともに迅速な製造が困難であった。
そのため、従来の電着工具が切れ味を重視して非被覆の砥粒が使用されてきたのに対して、ワイヤソーでは砥粒の表面をニッケル(Ni)、チタン(Ti)、クロム(Cr)等の導電性に優れた金属で被覆することで砥粒の表面に導電性を付与した金属被覆砥粒を用いて電着することで所要の砥粒密度と固着強度を以て電着させる手段が用いられているが、金属被覆層の表面はある程度時間が経過すると、pHの高い(酸性の弱い)めっき液中では表面が水酸化して不働態膜が形成されることから折角付与した金属被覆砥粒表面の電気伝導度が低下してしまい電着し難くなるという問題があった。
また、金属被覆砥粒を工具本体に電着する際にめっき液のpHが低い(酸性が強い)場合には、めっき液に投入した金属被覆砥粒の表面を覆っている金属が酸溶出して表面の導電性が低下し或いは喪失することから所要の電着速度と砥粒密度を維持するためには、絶えず新しい金属被覆砥粒をめっき液中に投入し続けるか、或いは所定時間経過後にめっき液中の金属被覆砥粒を回収して、新たな金属被覆砥粒をめっき液に再度投入し直す必要があるため、製造効率が低下するとともに、金属被覆砥粒の消費量が増加するため製造コストが増加するという問題がある。またワイヤソーのような長尺の電着工具を製造する場合には、長手方向に砥粒密度が変化し、安定な製造が行えないという問題もある。
前記金属被覆砥粒を用いる場合においては表面の導電性が高く電着には優れているが余分な量の砥粒が固着されることになり経済的に不利であるとともに使用時などに余分な砥粒が離脱するという問題もあり、特に、近頃はワイヤソーなどの電着工具における用途が硬質材や精密切断に適用される微細な砥粒が用いられることから砥粒密度や固着強度はきわめて重要である。
また、金属被覆の砥粒を用いた電着工具は、導電性が高いため付着後にこの砥粒に電流が集中し、この上に砥粒が付着して複層になる(縦凝集する)可能性が高くなり、上に着いた砥粒を取り除く工程が必要となるとともに、砥粒の保持強度をあげるために行う複合めっき後のめっき時に砥粒の上のめっき膜が厚くなり、切れ味の悪い電着工具(ダイヤモンドワイヤ)になる。
これを防ぐためにレベリングを要するが、レベリング剤(界面活性剤)により砥粒の付着していない部分でのめっき層の成膜速度も落ちて、砥粒の保持が悪くなるという問題がある。
そこで、砥粒表面の導電性を改善して電着し易くするとともに酸性のめっき液にも侵されない砥粒を得る手段として、砥粒本体であるダイヤモンドの表面を金属の炭化物(例えば炭化チタン(TiC)、炭化ケイ素(SiC)など)で被覆する砥粒が特開2006−181698号公報などに提示されている。
しかしながら、金属炭化物の電気抵抗率は例えば炭化チタン(TiC)が約52×10―6Ωcm程度であり、電着工程の管理を容易にしてより均一な砥粒の電着を達成するにはより低い電気抵抗率を要する。そのため、表面の炭化物層を薄くし、その下に金属膜層を残すことも考慮できるが現在の金属炭化物の製法ではより薄く形成することが困難で連続膜が得られなくなるという問題がある。特に砥粒本体としてダイヤモンドを用いる場合には砥粒本体からも炭素が供給され、金属膜層を残すことが困難である。
また、金属炭化物は、例えば炭化チタン(TiC)では硬度が3000〜4000HV(モース硬度)と高く摩耗し難くなる反面高硬度の砥粒本体が露出し難く切削加工が困難になるとともに靭性が低いことから使用時に砥粒が欠損し易いという問題もある。特に砥粒本体としてダイヤモンドを用いる場合には炭素の拡散反応により砥粒本体と表面膜との密着性は向上するが、このことがさらに砥粒本体の露出を難しくする。
一方、従来から電気伝導率が高く、高硬度を有する金属化合物として例えば硼化チタン(TiB2)のような金属硼化物が知られており高温でも安定な超硬合金からなる切削工具の表面被覆材として用いられているが、現時点で量産可能な処理手段では処理温度が900℃以上と高く、このような高温ではダイヤモンドはグラファイト化し高硬度を失うし、cBNは立方晶構造から六方晶構造に変化して高硬度を失うため、砥粒本体表面の被覆材としては工業的な製造が容易でないという問題がある。今後、低温で硼化処理が行えるような技術が開発されれば、硼化チタン(TiB2)や硼化クロム(CrB2)のような金属硼化物のほうが金属窒化物よりも電気伝導度に優れるため、砥粒の被膜材としては好ましくなる。
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、工具本体への電着時において耐酸性に優れめっき液中で適度の導電性を維持することで安定した工具の製造が可能になり、また砥粒密度や固着強度に優れているとともに製造にも適した砥粒、切れ味に優れた前記砥粒を用いた電着工具および前記砥粒の製造方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するためになされた本発明である砥粒は、砥粒本体の表面全体が金属窒化物層あるいは炭素に比較して窒素含有量の多い金属炭窒化物層により被覆されていることを特徴とし、砥粒本体表面の電気伝導度を高め、従来の金属被膜のような不働態化を防ぐとともに耐酸性を高めてめっき液に侵されることなくワイヤなどの台金である電着工具本体に均質密度で効率よく電着することができる。
また、本発明において、砥粒本体の表面と前記金属窒化物層または金属炭窒化物層との間に前記金属窒化物層または金属炭窒化物層を形成する金属からなる金属層を有する場合には、砥粒本体の表面のみを金属窒化物層または金属炭窒化物層で被覆するのに適した製造方法を用いることが可能であるとともに金属窒化物層または金属炭窒化物層で直接砥粒本体を被覆する場合に比べて砥粒への密着性を高めることができ、且つ金属層が電気伝導度を高め、表面が窒化物層あるいは炭窒化物層であることで耐酸性が高くめっき液に侵されることなく所要の電気伝導度を持つことになる。
更に、本発明である砥粒において、前記砥粒本体が、ダイヤモンド又はcBNであること、前記砥粒本体の表面全体を被覆する膜の最表層の金属窒化物層または金属炭窒化物層が窒化チタンあるいは炭窒化チタンまたは窒化クロムあるいは炭窒化クロムであると好ましい。金属がアルミニウムやシリコンの場合もめっき液への耐酸性とある程度の電気伝導度をもつ金属炭化物ならびに金属炭窒化物による被覆層を形成できるが、電着により砥粒をワイヤなどの台金である電着工具本体に固着する際に使用されているニッケルとの親和性が低いことから使用時に力を受けた際に砥粒が脱落しやすくなる。このため金属としてはニッケルとの親和性の高いチタンやクロムが好ましい。
前記本発明である砥粒がめっき層を介して台金の表面に固着されている本発明である電着工具は、使用する砥粒は金属層で被覆した砥粒よりも導電性が悪いために、砥粒が単層についたワイヤを高速に製造することができるようになる。また、後めっきで砥粒の上にのるめっき膜が薄くなることから切れ味が良く、砥粒の上に砥粒が付着して複層になる縦凝集も生じないので余分な砥粒を取り除く工程も要さずレベリング剤(界面活性剤)の使用も無く砥粒の保持も良い。
更にまた、本発明である砥粒の製造方法は、砥粒本体の表面全体を金属で被覆して金属層を形成し、前記被覆している金属層を窒化処理あるいは炭窒化処理することにより砥粒本体の表面全体を被覆する膜の最表層を金属窒化物層あるいは炭素に比較して窒素含有量の多い金属炭窒化物層とすることを特徴とする。
本発明における砥粒の製造方法によると、砥粒本体の表面に高温処理で金属膜を形成した後に表面窒化あるいは表面炭窒化を行うので、砥粒本体と金属層との界面は炭化物層となり砥粒本体との密着性を向上させ、中間層となる金属層が電気伝導度を高め、表面が窒化物層あるいは炭窒化物層であることで耐酸性が高くめっき液に侵されることなく所要の電気伝導度を持つことになる。
殊に、本発明である砥粒の製造方法において、前記砥粒本体が、ダイヤモンド又はcBNであり、前記砥粒本体の表面全体を被覆する金属層がチタンまたはクロムであることが好ましく、前記砥粒本体への金属層が高温めっきにより被覆され、前記窒化処理が水素と窒素あるいは水素とアンモニアを主成分とする混合ガス雰囲気においてプラズマ処理により行われる場合、炭窒化処理がメタンガスと窒素あるいは浸炭性ガス(RXガス)とアンモニアを主成分とする混合ガス雰囲気においてプラズマ処理により行われる場合には砥粒本体を被覆する金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層の厚さを所定の薄さに調節し易いという利点を発揮することができる。金属層の被覆が溶融塩めっきや乾式バレルめっき等の高温メッキにより行われる場合は、処理温度が600〜800℃と高温であることから金属膜と砥粒本体の界面に薄い炭化物層が形成され、金属膜の砥粒への密着性が大幅に向上する。
本発明に係る砥粒によれば、砥粒本体の表面全体を金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層で被覆することによって砥粒本体の導電性や表面硬度を所要の値とすることにより良好な砥粒密度や固着強度を得ることが可能であり、殊に、保存中や酸性のめっき液中において導電性を維持することができ、砥粒を工具本体に電着させる際に、めっき液中の砥粒を所定時間経過後に回収して、新たな砥粒をめっき液に再度投入し直すような工程を省くことが可能になるので、電着工具の製造効率を向上させることができるとともに、砥粒の消費量を軽減することができる。また、ワイヤソーのような長尺の電着工具を製造する場合には砥粒密度の安定した製造が可能になる。特に、砥粒本体を金属層で被覆し、当該被覆した金属層を窒化処理あるいは炭窒化処理により形成した金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層で金属層の表層のみを覆う場合にはより優れた導電性を得ることが可能であるばかりか金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層を砥粒本体の表面に強固に固定することができる。
また、本発明に係る砥粒では、砥粒全体を金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層で薄く被覆することが可能であることから砥粒本体が露出することがなく露出部から金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層の被覆層が剥離して工具本体から脱離する心配もない。
本発明である砥粒がめっき層を介して台金の表面に固着されている本発明である電着工具は、後めっきで砥粒の上にのるめっき膜が薄くなり切れ味が良く、砥粒が単層に着いていることから余分な砥粒を取り除く工程も要さずレベリング剤(界面活性剤)の使用も無く砥粒の保持も良い。
また、本発明である砥粒の製造方法によれば、極薄い金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層を均一密度に且つ均一高さに形成することができる。
以下、本発明に係る砥粒およびその製造方法について図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明である砥粒1の好ましい実施の形態を示す拡大断面図であり、砥粒1は例えば、ダイヤモンドまたはcBNなどの砥粒本体11の表面全体が例えば窒化チタン(TiN)または窒化クロム(CrN)などの金属窒化物層あるいは炭窒化チタン(Ti(C,N))または炭窒化クロム(Cr(C,N))などの金属炭窒化物層13により被覆されている。砥粒本体11がダイヤモンドの場合、詳細には砥粒と膜の界面には炭化物層、膜の中間部分はチタン(Ti)、クロム(Cr)などの金属からなる金属層12、そして膜の表層が金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層13となる。
前記砥粒本体11は最近の硬質で精密な被加工物に対処するためには例えば平均粒径が4〜40μm程度の微細な状態であることが好ましく、前記金属層12の被覆量は例えば、砥粒本体11に対して3.0〜30.0重量%の割合で被覆することで従来の一般的な金属被覆砥粒のように砥粒本体に対して30.0〜50.0重量%の割合で導電材としてニッケル(Ni)等の金属が被覆されるものに比べて薄く形成することができ、製造速度を向上させるばかりか製造コストを軽減することができる。
次に、図2に示した本発明である砥粒1の製造過程における砥粒本体11から砥粒1への推移を示す拡大断面図を参照して本発明である砥粒の製造方法について説明する。
図2(a)は前記図1に示した電着工具4の砥粒1に好適な高い硬度で切削効果に優れた砥粒本体11を示すものであり、例えばダイヤモンドまたはcBNなどの従来用いられている材質により形成され、好ましくは最近の硬質で精密な被加工物に対処するためには例えば平均粒径が4〜40μm程度の微細な状態であることが好ましい。
そして、図2(b)に示すように、砥粒本体11の表面全体を例えばチタン(Ti)、クロム(Cr)などの金属で被覆して砥粒本体11の表面に金属層12を形成する。
前記金属層12の被覆量は例えば、砥粒本体11に対して3.0〜30.0重量%の割合で被覆すればよく、これにより、従来の一般的な金属被覆砥粒のように砥粒本体に対して30.0〜50.0重量%の割合で導電材としてニッケル(Ni)等の金属が被覆されるものに比べて薄く形成することができ、製造速度を向上させるばかりか製造コストを軽減することができる。
砥粒本体11の表面全体を金属で被覆して金属層12を形成する方法としては、例えば、パイロゾル法などの湿式の溶融塩めっきや乾式バレルめっきを好適に用いることができる。湿式の溶融塩めっきは、高温に耐える容器内に砥粒本体11とともにチタン(Ti)、クロム(Cr)などの金属の粉末をこれらを溶融させる塩とともに投入して、600〜800℃の高温に保持して攪拌させるものであり、比較的短い時間で金属を砥粒本体11の表面全体に被覆することができるので、製造速度を向上させることができるため好適であるが、その他の従来公知のCVD法、PVD法、湿式めっき法、乾式バレルめっき法等を用いてもよい。
乾式バレルめっきは砥粒と被覆する砥粒よりも微細な金属の粉末を容器(バレル)に入れ、乾式状態でこの容器に高速回転あるいは振動を加えることで、砥粒の表面に金属を付着させる方法である。この場合も摩擦のために容器内は600〜800℃の高温となる。砥粒本体がダイヤモンドである場合には、この高温のために拡散反応が生じて金属と砥粒の界面には炭化物層が形成され、金属の砥粒への密着性が高くなり、この後行われるプラズマ処理やイオンプレーティングにおいて剥離することがない。
CVD法、PVD法では直接TiNなどの窒化膜を砥粒表面に形成できるが、これらの方法では、金属層を形成して窒化処理を行う場合に比較して、傾斜膜を形成することは難しいので、密着性や電気伝導度に劣る。またCVD法やPVD法で金属層を形成することはできるが、成膜速度が遅く工業的には好ましくない。電気めっきや無電解めっきのような通常の湿式めっき法ではめっき皮膜の密着性が悪いので、この後にプラズマ窒化処理を行う場合は膜の剥離が起き、好ましくない。
以上のように、金属層は溶融塩めっきか乾式バレルめっきのような高温めっきで形成するのが好ましい。
そして、次に、砥粒本体11の表面全体を被覆している金属層12に対して窒化処理や炭窒化処理を行い、図2(c)に示すように前記図2(b)で砥粒本体11を被覆していた金属層12の表層を窒化処理あるいは炭窒化処理により金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層13に変化させる。
前記窒化処理の方法としては、例えば、窒素雰囲気下で金属層12の表面に集光したレーザーを照射することにより、その照射部分を窒化処理するレーザー窒化法、アーク放電を利用したプラズマ窒化法、イオンプレーティング法など従来公知の処理方法などを用いることができるが、水素と窒素あるいはメタンガスと窒素を主成分とする混合ガスの雰囲気においてプラズマ処理により行われる場合には砥粒本体11を被覆する金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層13の厚さを所定の薄さに調節し易いという利点を有しており、特に0.1〜1μmと極薄い金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層13を均一密度に且つ均一高さに形成するには適している。
このように金属層12の窒化処理あるいは炭窒化処理が行われることにより、砥粒本体11の表面の表層が例えば窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)などの金属窒化物層あるいは炭窒化チタン(Ti(C,N))または窒化クロム(Cr(C,N))などの金属炭窒化物層13により覆われた砥粒1が製造される。窒化物層や炭窒化物層の下には金属質が残留しており、これが砥粒の電気伝導度を高める。
図3はワイヤや台金等の工具本体2の電気めっきによって形成されるニッケル等のめっき層3により砥粒1が電着された本発明である電着工具4の部分断面の拡大図であり、砥粒1は例えば、ダイヤモンドまたはcBNなどの砥粒本体11の表面全体が例えば窒化チタン(TiN)または窒化クロム(CrN)などの金属窒化物層あるいは炭窒化チタン(Ti(C,N))または炭窒化クロム(Cr(C,N))などの金属炭窒化物層13により被覆されている。ダイヤモンド砥粒の場合、詳細には砥粒と膜の界面には炭化物層、膜の中間部分は金属層、そして膜の表層が窒化物層あるいは炭窒化物層となる。
殊に、前記砥粒1は近頃の電着工具として要望の多い硬質で精密加工を可能にする目的で例えば平均直径が4〜40μm程度の超微細なものが用いられ、表面を覆う金属窒化物層13は均一で確実な電着を可能にするために例えば0.1〜5μm程度の厚さで砥粒本体11の表面全体を被覆するとよい。
また、本実施の形態である前記金属窒化物(例えば窒化チタン(TiN))層では従来の金属めっき層のように空気中で自然に表面が酸化されることによる不働態膜の形成がなく電着時まで導電性を保持するとともにめっき層3に固定する際に使用される酸性のめっき液に耐え、砥粒1の表面における導電性を所要の値(約25×10−6Ωcm)に変化させることにより良好な砥粒密度や固着強度を得ることが可能であり、硬度も従来周知の金属炭化物や金属硼化物と異なり1200〜1900HV(モース硬度)と低く、砥粒本体が露出し易く切削加工が困難になることもなく靭性を有することから使用時に砥粒が離脱する心配もない。
更に、窒化クロム(CrN)についても窒化チタン(TiN)とほぼ同様な物性を有することから好適である。
本発明である電着工具は、砥粒1が金属よりも導電性が悪いために、砥粒1が単層についた状態で高速に製造することができるようになる。また、後めっきで砥粒の上にのるめっき膜が薄くなり、切れ味の良いワイヤが製造できるようになり、レベリング剤(界面活性剤)の使用も不要で砥粒の保持が良好である。
更にまた、TiCやSiCのようなより導電性の悪い砥粒の場合には、砥粒自体の共析率が下がってしまうが、本発明の砥粒1の表面に被覆される金属窒化物層あるいは金属炭窒化物層13を形成する窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)などの金属窒化物あるいは炭窒化チタン(Ti(C,N))または炭窒化クロム(Cr(C,N))などの金属炭窒化物は切削工具のサーメットにおいても実証されているようにめっきに使用されるニッケルとの相性がよく、表面が窒化チタンや炭窒化チタンで覆われている砥粒をニッケルめっきがしっかりと保持し、砥粒の保持強度を高める。
窒化クロムや炭窒化クロムで覆われている砥粒の場合は、当然のことながらクロムめっきに対して親和性が高い。クロムめっきが電着工具のめっきに使用されるのはまれであるが、ニッケルめっきよりも表面硬度が高く、強度の高い電着工具を製造することが可能になる。クロムめっきをワイヤ工具に適用した場合には、ワイヤ使用時の限界の張力を高くすることが可能で、切れ味の良い切断を行うことが可能になる。