JP2008190656A - 支承装置及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐焼付き性の高い表面層と耐摩耗性の高い中間層との界面の密着力が高く、耐焼付き性及び耐摩耗性に優れる支承装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】運動体2を支承する支承装置1において、表面9を凹凸に処理された支承基体3と、前記表面9上に耐磨耗性材料で均一な厚さに形成された中間層11と、該中間層11上に耐焼付き性材料を溶射して形成された表面層10とを備える。好ましくは、中間層11はニッケル合金で形成されて熱処理され、表面層10はスズ系合金で形成される。
【選択図】 図3
【解決手段】運動体2を支承する支承装置1において、表面9を凹凸に処理された支承基体3と、前記表面9上に耐磨耗性材料で均一な厚さに形成された中間層11と、該中間層11上に耐焼付き性材料を溶射して形成された表面層10とを備える。好ましくは、中間層11はニッケル合金で形成されて熱処理され、表面層10はスズ系合金で形成される。
【選択図】 図3
Description
本発明は、運動体を支承する支承装置及びその製造方法に関するものである。
特許文献1には、軸を回転可能に支承する軸受装置において、軸受装置の内周部にスズ系合金の溶射膜を形成した後に、該溶射膜が形成された軸受金をスズ系合金の融点より高い温度で熱処理した軸受装置が記載されている。
特許文献2には、軸受基体の表面に融点が1100℃以下である金属粒子を溶射法でコーティングして中間層を形成し、該中間層にホワイトメタルをコーティングした軸受装置が記載されている。
特開2001−335914号公報(段落〔0011〕〜〔0015〕、図2)
特開2000−234161号公報(段落〔0010〕〜〔0012〕、図1)
上記特許文献1に記載された軸受金は、スズ系合金の皮膜により耐焼付き性が高いだけでなく、熱処理によりスズ系合金の耐摩耗性、軸受基体への密着性が向上する。
しかしながら、スズ系合金は軟質であるので、耐摩耗性が十分でない場合がある。
上記特許文献2に記載された軸受金は、ホワイトメタルの皮膜により耐焼付き性が高いだけでなく、融点が1100℃以下の金属粒子の中間層によりホワイトメタルの剥離を防止することができる。
しかしながら、ホワイトメタルは軟質であるので、耐摩耗性が不足する場合がある。
本発明の目的は、耐焼付き性の高い表面層と耐摩耗性の高い中間層との界面の密着力が高く、耐焼付き性及び耐摩耗性に優れる支承装置及びその製造方法を提供することである。
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明の構成上の特徴は、運動体を支承する支承装置において、表面を凹凸に処理された支承基体と、前記表面上に耐磨耗性材料で均一な厚さに形成された中間層と、該中間層上に耐焼付き性材料を溶射して形成された表面層と、を備えたことである。
請求項2に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記中間層はニッケル合金で形成され熱処理されており、前記表面層はスズ系合金で形成されていることである。
請求項3に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記中間層はニッケル−リン系合金で形成され、前記表面層はホワイトメタルで形成され、前記中間層及び前記表面層はスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で熱処理されていることである。
請求項4に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記支承基体は、粒径の小さい粒子でブラスト処理された後に、粒径の大きい粒子でブラスト処理されて表面を凹凸に処理されていることである。
請求項5に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記運動体は回転軸であり、前記支承基体は軸受金であることである。
請求項6に記載の発明の構成上の特徴は、運動体を支承する支承装置の製造方法において、支承基体の表面を凹凸に処理する工程と、前記表面上に耐磨耗性材料の中間層を均一な厚さで形成する工程と、該中間層上に耐焼き付き性材料を溶射して表面層を形成する工程と、を備えたことである。
請求項7に記載の発明の構成上の特徴は、運動体を支承する支承装置の製造方法において、支承基体の表面を凹凸に処理する工程と、前記表面上にニッケル−リン系合金の硬化前中間層を均一な厚さで形成する工程と、該硬化前中間層上にホワイトメタルを溶射して熱処理前表面層を形成する工程と、前記硬化前中間層及び熱処理前表面層をスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で同時に熱処理し、中間層及び表面層を形成する工程と、を備えたことである。
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、支承基体の表面が凹凸に処理され、該表面上に耐磨耗性材料の中間層が形成され、該中間層上に耐焼付き性材料の表面層が溶射形成されている。これにより、移動体が表面層の高い耐焼付き性により焼付くことなく、かつ中間層の高い耐磨耗性により摩耗することなく支承装置に摺動案内される。
さらに、中間層が支承基体表面の凹凸によるアンカー効果によって機械的に高い密着力で支承基体に結合される。中間層は膜厚が均一であるので、支承基体表面の凹凸が中間層表面にも出現し、耐焼付き性材料の柔軟な性状と中間層表面の凹凸によるアンカー効果とが相俟って表面層が機械的に高い密着力で中間層に結合される。これにより、表面層が支承基体から剥離することを確実に防止することができる。
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、凹凸に処理された支承基体の表面上にニッケル合金で生成されて熱処理された中間層が形成され、該中間層上にスズ系合金が溶射されて表面層が形成されている。これにより、スズ系合金からなる表面層の高い耐焼付き性により焼付くことなく、かつ熱処理処理されて硬度が高いニッケル合金からなる中間層の高い耐磨耗性により摩耗することなく、耐焼付き性、耐摩耗性、密着性の高い摺動面を備えた支承装置を得ることができる。さらに、スズ系合金は鉄製の部材と接触するとスズ元素が鉄内に移動する「スズ抜け」現象を起こすので、スズ系合金組織が劣化するが、支承基体とスズ系合金との間にニッケル合金の中間層を入れているので、たとえ支承基体を鉄製にしても、スズ抜け現象を防止することができる。
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、凹凸に処理された支承基体の表面上にニッケル−リン系合金で生成された中間層が形成され、該中間層上にホワイトメタルが溶射されて表面層が形成され、中間層及び表面層がスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で熱処理されている。これにより、請求項1に係る発明の効果に加え、中間層と表面層とを同時に熱処理して中間層の硬度を高めるとともに、表面層の靱性、強度、密着性を高めることができる。さらに、溶射形成される表面層は面が粗く、よい面を得るには仕上げ加工を必要とする。表面層の強度が中間層と表面層の界面より大きい場合、表面層が加工される前に界面で剥離が発生してしまうが、熱処理することで中間層と表面層の界面の密着力が表面層の強度を上回るため、表面層に仕上げ加工を施しても表面層と中間層の界面で剥離が発生することはない。
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、支承基体の表面に、平面度を全体として悪化させない程度の細かい凹凸が、粒径の小さい粒子でのブラスト処理により形成された後に、粒径の大きい粒子でのブラスト処理により深い凹凸が粗に形成される。中間層は膜厚が均一であるので、中間層の表面にも平面度を全体として悪化させない程度の細かい凹凸と、深い凹凸が粗に刻設される。これにより、ホワイトメタルからなる表面層がニッケル−リン系合金からなる中間層に細かい凹凸によるアンカー効果によって密着性よく且つ全体としての平面度を維持して結合されるとともに、熱処理時に溶融した金属が深い凹凸に流入することにより一層アンカー効果を高めて強く結合される。
上記のように構成した請求項5に係る発明によれば、回転軸を回転可能に支承する耐焼付き性が高い表面層を、耐摩耗性が高い中間層を介して軸受金に高い密着性で強固に結合した支承装置を提供することができる。
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、支承基体の表面を凹凸に処理し、該表面上に耐磨耗性材料で厚さが均一な中間層を形成し、該中間層上に耐焼き付き性材料を溶射して表面層を形成する。これにより、中間層が支承基体表面の凹凸によるアンカー効果によって機械的に高い密着力で支承基体に結合される。中間層は厚さが均一であるので、支承基体表面の凹凸が中間層表面にも出現し、耐焼付き性材料の柔軟な性状と中間層表面の凹凸によるアンカー効果とが相俟って耐焼付き性材料からなる表面層が機械的に高い密着力で中間層に結合される。このようにして、耐焼付き性が高い表面層を、耐摩耗性が高い中間層を介して支承基体に高い密着性で強固に結合した支承装置を提供することができる。
上記のように構成した請求項7に係る発明においては、支承基体の表面を凹凸に処理し、該表面上にニッケル−リン系合金で厚さが均一な硬化前中間層を形成し、該中間層上にホワイトメタルを溶射して熱処理前表面層を形成し、硬化前中間層及び熱処理前表面層を同時に熱処理する。これにより、中間層が支承基体表面の凹凸によるアンカー効果によって機械的に高い密着力で支承基体に結合される。中間層は厚さが均一であるので、支承基体表面の凹凸が中間層表面にも出現し、ホワイトメタルの柔軟な性状と中間層表面の凹凸によるアンカー効果とが相俟ってホワイトメタルからなる表面層が機械的に高い密着力で中間層に結合される。そして、硬化前中間層及び熱処理前表面層がスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で同時に熱処理される。これにより、ニッケル−リン系合金のメッキ層を硬化させて耐磨耗性のよい中間層を形成するとともに、ホワイトメタルを熱処理して中間層への密着性がよく耐焼付き性のよい表面層を形成することができる。
以下、回転軸を回転可能に支承する軸受装置に本発明を適用した実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、運動体である軸2は軸受装置1に回転可能に支承されている。軸受装置1(支承装置)を構成する軸受金3(支承基体)の内周には静圧流体軸受装置の静圧ポケット4、排出溝5を形成する複数の環状のランド6が軸2に対向して突設されている。図2に示すように、ランド6の内周面7の両端角部には面取り部8が形成されている。ランド6の内周面7及び面取り部8の表面9は、ブラスト処理によって面粗さがRa8.3μm程度となるように凹凸に処理されている。
ブラスト処理された表面9には、Ni−Pメッキが施されて硬度がHv400程度のニッケル−リンのメッキ層が数百ミクロンの均一な厚さに形成され、このメッキ層が後述するように熱処理されて硬度がHv900程度に硬化される。このように、表面9には、熱処理により硬化されたニッケル合金等の耐摩耗性材料の中間層11が均一な厚さに形成されている。
中間層11は、ニッケル−リン−ボロン、ニッケル−リン−フッ素系樹脂(例えばPTFE)、ニッケル−リン−硬質粒子(例えばSiC)、等の層が、ブラスト処理された表面9に均一な厚さで形成され、このニッケル−リン合金が熱処理により硬化されて生成された耐摩耗性材料で形成されるようにしてもよい。また、中間層11は、凹凸に処理された表面9にクロムメッキ層が均一な厚さに形成され、このメッキ層が熱処理により硬化されて形成されるようにしてもよい。
中間層11の表面には、耐焼付き性材料であるスズ系合金を内面からプラズマ溶射ガンにより溶射して厚さ1mm程度の溶射膜15が形成されている。溶射膜15のスズ系合金は一例として、主成分の組成割合がアンチモンSb5〜13%、銅 Cu3〜8.5%、スズSn残部の合金である。スズ系合金は鉛Pb等を含んだものでも良い。アンチモンSbは低沸点であるため、高温のプラズマ溶射では蒸発してスズ系合金にアンチモンSbの不足をきたすことがある。アンチモンSbが7%以下に減少するとSbSnなどの硬質成分が得られず、軟質な合金となり易い。そこで、溶射原料となるスズ系合金の粉末材料の組成において、アンチモンSbの割合を溶射による減少分だけ多くしてスズ系合金の溶射膜15のアンチモンSbの含有量が7%以上になるように調整すると、SbSnなどの硬質成分が析出した耐摩耗性に優れた溶射膜15となる。なお、軸受装置1の使用目的によっては、アンチモンSbの含有量が7%より少なくてもよい。
また、スズも幾分蒸発するが、銅は高沸点であるため残留し、銅が過多となり、溶射膜15の脆化を招く場合がある。そこで、スズ系合金の溶射膜15の要求性質に合わせ、プラズマ溶射によるスズ系合金の成分割合の変化を考慮してスズ系合金の粉末材料の成分割合を調整する。プラズマ溶射によるスズ系合金の成分割合の変化の一例として、アンチモンSb8%、銅Cu4%、スズSn残部の成分割合のスズ系合金は、溶射によりアンチモンが35%蒸発した。その結果、アンチモンSb5%、銅Cu12%、スズSn残部の成分割合となり、硬質成分SbSnは68%減少した。このため、スズ系合金の溶射膜15の成分がホワイトメタルとなるように、プラズマ溶射によるアンチモンSb、スズSnの減少を見込んで、例えばJIS規格WJ1〜3のホワイトメタルの粉末材料にアンチモン、スズを添加する。添加する材料は必要に応じて、スズSnを含まないアンチモンSbのみでもよく、アンチモンとスズの合金Sb-Snでもよい。そして、スズ系合金の溶射膜15のアンチモンSbの含有量を、SbSnなどの硬質成分の析出が起きる7%以上に保つためには、スズ系合金の粉末材料のアンチモンの含有量を15〜30%にするとよい。
この溶射された溶射膜15が熱処理後に旋盤などにより仕上げ加工されて表面層10となり、ランド6の軸2と対向するランド面12及びポケット4、排出溝5の側壁13の上部を形成している。スズ系合金を中間層11の表面に溶射して形成した表面層10と中間層11との界面は密着力が弱く、表面層10にせん断力が加わると剥離が起きやすい。この表面層10の剥離を防止するために、軸受金3の表面9がブラスト処理によって凹凸に処理され、中間層11が表面9の凹凸によるアンカー効果によって機械的に高い密着力で軸受金3に結合される。中間層11は厚さが薄く均一であるので、表面9の凹凸が中間層11の表面にも出現する。スズ系合金の柔軟な性状と中間層11の表面の凹凸によるアンカー効果とが相俟って表面層10が機械的に高い密着力で中間層11に結合され、表面層10が中間層11から剥離することを確実に防止することができる。
上記のように構成した実施の形態に係る軸受装置1の軸受金3においては、図略の固定絞りを介して静圧ポケット4に供給された圧力流体は、表面層10の内周に形成されたランド面12と軸2との間の隙間により絞られて排出溝5に流出され、静圧ポケット4内に静圧を発生して軸2を支承する。回転駆動されている軸2に高負荷が作用し、軸2がランド面12に接触しても、軸2が表面層10の高い耐焼付き性により焼付くことなく、かつ中間層11の高い耐磨耗性により摩耗することなく軸受装置1に回転可能に支承される。ランド面12は、軸受金3のランド6の表面9に溶射されたスズ系合金の溶射膜15の内周を切削仕上げ加工して形成されたものであるので、ランド面12の耐焼付き性は極めて高く、軸2と軸受装置1との焼付きが防止される。
次に、本実施の形態に係る軸受装置1の製造方法について説明する。図1に示す軸受金3は、図3に示す第1工程31において、その外周形状及びポケット4、排出溝5等の内周形状を旋盤、フライス盤等により切削加工される。その際に、ランド6の内周面7、両角部の面取り部8も切削加工されて表面9が形成される。軸受金3の素材としては、低炭素鋼等の鋼材、リン青銅等の銅合金を使用する。
第2工程32では、軸受金3の表面9が面粗さがRa8.3μm程度となるようにブラスト処理等により凹凸に処理される。ブラスト処理により表面9の酸化膜が除去されるものの、ブラスト処理自身の発熱などにより表面9が再酸化し、この酸化物の生成によりニッケル合金のメッキ層の生成が困難になる。このためブラスト面を酸洗いし、酸化物を除去する。酸洗いの時間は、ブラスト面の凹凸を溶解することなく、酸化物を除去できる短時間の処理に留める。
ブラスト処理されて酸洗いされた表面9にNi−Pメッキを施すことなくスズ系合金を直接溶射した場合において、ブラスト処理された表面9の面粗さと、スズ系合金の溶射膜15が表面9から剥離するときのせん断力である密着力との関係は、図4の試験データが示すように、表面9の面粗さがRa8.3μm程度のときに最大となる。Ni−Pメッキを行っても、メッキ層の厚さは均一で10〜100μmであるので、メッキ層の表面とブラスト処理された表面との面粗さは同程度となる。従って、表面9が面粗さRa8.3μm程度となるように凹凸に処理されると、溶射膜15と中間層11との界面の密着力が最大になると推定できる。
第3工程33では、凹凸に処理された表面9上に、ニッケル系合金のメッキ層である硬化前中間層14が10〜100μmの厚さに均一に形成される。
例えば、ニッケル−リン系のメッキ層が無電解メッキによって表面9に形成される。無電解メッキの浴組成として、ニッケル塩(例えば硫酸ニッケル、塩化ニッケル)、還元剤(例えば次亜リン酸ナトリウム)、及びPH調整剤(例えば苛性ソーダ、アンモニア水、硫酸)を主要成分とする。ニッケル−リン系のメッキ層は、ニッケル−リン、ニッケル−リン−ボロン、ニッケル−リン−フッ素系樹脂(例えばPTFE)、ニッケル−リン−硬質粒子(例えばSiC)等のメッキ層である。なお、ニッケル−リン系のメッキ層の下地としてニッケル系メッキを施してもよい。また、ニッケル−リン系のメッキ層は、無電解メッキによって形成するのが好ましいが、電気メッキで形成してもよい。
第4工程34では、ニッケル系合金のメッキ層が形成された表面9にスズ系合金の溶射膜15が溶射形成される。
図5において、40はベース41上に垂直線回りに回転可能に支承された回転テーブルで、モータ42により回転駆動されるようになっている。回転テーブル40上面には、治具43が固定され、治具43に軸受金3がその軸線を回転テーブルの回転中心に一致させて取付けられている。44はプラズマ溶射ガンで、ロボット等により操作され、スズ系合金の粉末材料を溶かして軸受金3の表面9に溶射する。溶射ガンはロボットにより自動制御されるため溶射膜の品質に作業者によるばらつきが小さく安定した性能を維持できる。図5に示すように、プラズマ溶射ガン44のノズル45は、内口金46と外口金47とで構成され、内口金46には、プラズマ溶射ガン44の軸線と直交する軸線を有する中心孔48が穿設され、この中心孔48からスズ系合金の粉末材料が供給される。内口金46と外口金との間には、環状孔49が中心孔48と同心に設けられ、この環状孔49から例えばアルゴンと水素の混合気体が供給される。50は内口金46と外口金47との間に電圧をかける電源で、環状孔49から噴出されるアルゴンと水素との混合気体中で大電流の直流放電を行わせて超高温のプラズマジェットを発生させる。内口金46の中心孔48から供給されたスズ系合金の粉末材料は、プラズマジェットにより溶かされて表面9に溶射される。51は電源50を内口金46、外口金47に接続する電線、52は中心孔48に粉末材料を供給するパイプ、53は環状孔49に混合気体を供給するパイプである。54は一般的なロボットのアームで、アーム54先端のリスト55に取付けられた把持装置56にプラズマジェット溶射ガン44が垂直方向に取付けられている。57は圧縮空気を噴出する吹出し口で、ベース41上にスタンド58により取付けられている。59は回転テーブル40、プラズマ溶射ガン44及びロボット等の言わばプラズマ溶射装置全体を覆うカバーで、このカバー59内の気体はバキュームポンプ60により吸引されている。
治具43に垂直に取付けられた軸受金3のランド6の表面9に図6に示すようなスズ系合金の溶射膜15を溶射するために、ロボットのアーム54及びリスト55によりプラズマ溶射ガン44は姿勢を制御されて軸受金3内に挿入される。この状態でプラズマジェットが発生され、内孔48から供給されるスズ系合金の粉末材料が溶融して表面9に溶射される。回転テーブル40が回転駆動されて軸受金3が適宜速度で回転され、プラズマ溶射ガン44がロボットのアーム54及びリスト55により姿勢制御されながら軸受金3の軸線方向に移動されることにより、表面9にスズ系合金の溶射膜15が全周に亙って溶射形成される。内周面7に溶射するときは、プラズマ溶射ガン44を垂直にすることで溶射角を最適な90度にすることができ、面取り部8に溶射するときは、プラズマ溶射ガン44をロボットにより傾斜させて溶射角を90度近くの適切な角度に維持することができるので、溶射膜15の内周面7、面取り部8への密着性が高くなる。
このプラズマ溶射を行っている間、吹出し口57から圧縮空気が軸受金3の内孔に供給される。これによりエアーブローしながらスズ系合金の溶射膜15を軸受金3の表面9に溶射形成することとなり、プラズマジェットにより溶融されて飛散した金属粉等の粉塵が吹飛ばされ、バキュームポンプ60により吸引されて外部に排出されるので、粉塵が溶射膜15に捲き込まれることが防止でき、密着性が向上する。このプラズマ溶射においては、アルゴンに還元性のある水素が混合されているので、酸化し易いスズSnなども酸化することなく、高純度のスズ系合金の溶射膜15を溶射形成することができる。
スズ系合金の溶射膜15としては、組成の主成分の割合がアンチモンSbが5〜13%、銅Cu3〜8.5%、残部がスズSnの合金が、耐焼付き性に優れている。
スズ系合金は鉄製の部材と接触するとスズ元素が鉄内に移動する「スズ抜け」現象を起こすので、スズ系合金組織が劣化するが、ニッケル系合金のメッキ層が形成された軸受金3の表面9にスズ系合金の溶射膜15が溶射形成されるので、表面9とスズ系合金の表面層10との間にニッケル合金の中間層11が介在し、たとえ軸受金3が低炭素鋼等の鉄製であっても、スズ抜け現象を防止することができる。
第5工程35において、硬化前中間層14及び溶射膜15がスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で同時に熱処理される。
ニッケル−リン系合金のメッキ層である硬化前中間層14を熱処理して硬度Hv900程度に硬化させることにより、硬化前中間層14を耐摩耗性材料の中間層11にするとともに、スズ系合金の溶射膜15の中間層11への密着性を向上するため、溶射膜15が溶射形成された後に、軸受金3が熱処理される。
スズ系合金は、アンチモンSn、スズSn、銅Cu、鉛Pbを主成分とする低融点の合金で、融点は300〜400℃であるので、これより10〜50℃低い温度で大気中で熱処理すると熱処理温度より低い成分が溶融し、密着性が向上するとともに、組成に硬質成分SbSn,Cu6Sn5等が析出されて耐摩耗性が向上する。さらに、溶射膜15に含まれる空孔が溶融により無くなり緻密な層となる。加熱時間は、軸受金3全体が十分加熱するために必要な時間で、溶融した成分が溶け落ちることのない1時間以内とする。熱処理の一例として、融点が400℃のスズ系合金に対し、350℃で加熱、冷却して密着性、膜組成も改善された。
図7に示すように、スズ系合金の溶射膜15は、350℃程度で熱処理されることにより、ビッカース硬度Hvが低下して柔らかくなるので、中間層11の表面の凹凸へのアンカー効果が確実となり密着性が向上する。さらに、表面層10のスズ系合金の破壊せん断力が中間層11との界面の密着力より小さくなるので、表面層10が剥離する前にスズ系合金がせん断破壊し、表面層10が中間層11から剥離することがない。さらに、溶射形成される表面層10は面が粗く、よい面を得るには仕上げ加工を必要とする。表面層10の強度が中間層11と表面層10の界面より大きい場合、表面層10が加工される前に界面で剥離が発生してしまうが、熱処理することで中間層11と表面層10の界面の密着力が表面層10の強度を上回るため、表面層10に仕上げ加工を施しても表面層10と中間層11の界面で剥離が発生することはない。
また、スズSnの融点は232℃であるので、熱処理温度を232℃以上にすると、スズSnが溶融して中間層11の凹凸に侵入し密着性が向上する。しかし、ニッケル−リン系合金は、熱処理温度が過剰に低いと、メッキ層の硬さが低下する傾向があるので、この場合でも熱処理温度としては、250℃程度にするとよい。
溶射膜15が溶射された軸受基体3の一部を切断して試験片62を作成し、溶射膜15が軸受基体3から剥離するせん断力、即ち密着力を図8に示す密着力測定装置63で測定した結果、溶射膜15の密着性は再加熱により40%向上したことを確認できた。密着力の測定は、試験片62を密着力測定装置63の取付け孔64に、溶射膜15がスリット65に頭を出すように取付け、スリット65内を下方に移動する加圧体66により溶射膜15に側方からせん断力を与え、溶射膜15が剥離する荷重を測定している。
熱処理を大気中で行うと、溶射膜15の表面にスズの酸化膜が生成されて黒変し、膜表面が高硬度、脆化して加工性が低下する。また、膜の酸化により、溶射膜15の純度が低くなり、膜性能が低下する。これら熱処理により生じるマイナス面は、熱処理を真空雰囲気内又はアルゴン、窒素等の不活性気体中の不活性雰囲気内で熱処理することにより解消される。真空雰囲気は、真空炉を用いることで、また不活性雰囲気は炉中に不活性気体を導入することで容易に確保することができる。
第6工程36において、溶射膜15の図9に示す一点鎖線より内径側が旋盤等により旋削されて削除され、内周面12が仕上げ加工された表面層10が形成される。
上記実施の形態では、軸受金3の表面9が面粗さRa8.3μm程度となるように粒径の小さい粒子でブラスト処理しているが、粒径の小さい粒子(粒径0.3mm)で面粗さRa8.3μm程度となるようにブラスト処理した後に、粒径の大きい粒子(粒径1mm)でブラスト処理してもよい。
このようにすると、粒径の小さい粒子でのブラスト処理により、平面度を全体として悪化させない程度の細かい凹凸が表面9に形成され、粒径の大きい粒子でのブラスト処理により深い凹凸が粗に形成される。硬化前中間層14は厚さが均一であるので、硬化前中間層14の表面にも平面度を全体として悪化させない程度の細かい凹凸と、深い凹凸が粗に刻設される。これにより、スズ系合金からなる溶射膜15がニッケル−リン系合金からなる硬化前中間層14に細かい凹凸によるアンカー効果によって密着性よく且つ全体としての平面度を維持して結合されるとともに、熱処理時に溶融したスズ系合金の成分が深い凹凸に流入することによりアンカー効果が一層高められ、図9に示すように粒径の小さい粒子でのブラスト処理だけを行った場合に比して表面層10と中間層11との界面の密着力が強くなる。なお、図10には、溶射膜15の厚さを1mmとしたときの密着力が、粒径の小さい粒子でのブラスト処理だけを行った場合、および粒径の小さい粒子でのブラスト処理後に粒径の大きい粒子でのブラスト処理を行った場合に分けて示されている。その他の条件は、図4の試験データの場合と同じである。
また、上記実施の形態では、硬化前中間層14をニッケル−リン系合金を軸受金3の表面9にメッキして形成しているが、ニッケル−リン系合金を気相成長法(PVD、CVD)、電着、又は化成処理で形成するようにしてもよい。
上記実施の形態では、硬化前中間層14及び溶射膜15をスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で同時に熱処理しているが、軸受金3の表面9にメッキされたニッケル−リン系合金のメッキ層を熱処理により硬化させて中間層11を形成した後に、スズ系合金を中間層11上に溶射して溶射膜15を形成し、溶射膜15を必要に応じて熱処理して表面層10を形成するようにしてもよい。
上記実施の形態では運動体を支承する支承装置として回転軸を支承する軸受装置の例を示したが、これに限定されるものではなく、工作機械のテーブルなどに使用される静圧スライドのような平面の摺動面上を移動するスライド装置や熱機関などに使用されるシリンダのような円筒面内をピストンが軸方向に移動するピストン装置でもよい。
1…軸受装置(支承装置)、2…軸(運動体)、3…軸受金(支承基体)、6…ランド、7…内周部、8…面取り部、9…表面、10…表面層、11…中間層、12…内周面、13…側壁、14…硬化前中間層、15…溶射膜、31…第1工程、32…第2工程、33…第3工程、34…第4工程、35…第5工程、36…第6工程、40…回転テーブル、44…プラズマ溶射ガン、54…ロボットのアーム、57…吹出し口、63…密着力測定装置。
Claims (7)
- 運動体を支承する支承装置において、
表面を凹凸に処理された支承基体と、
前記表面上に耐磨耗性材料で均一な厚さに形成された中間層と、
該中間層上に耐焼付き性材料を溶射して形成された表面層と、
を備えたことを特徴とする支承装置。 - 請求項1において、前記中間層はニッケル合金で形成され熱処理されており、
前記表面層はスズ系合金で形成されていることを特徴とする支承装置。 - 請求項1において、前記中間層はニッケル−リン系合金で形成され、
前記表面層はホワイトメタルで形成され、
前記中間層及び前記表面層はスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で熱処理されていることを特徴とする支承装置。 - 請求項1乃至3のいずれか1項において、前記支承基体は、粒径の小さい粒子でブラスト処理された後に、粒径の大きい粒子でブラスト処理されて表面を凹凸に処理されていることを特徴とする支承装置。
- 請求項1乃至4のいずれか1項において、前記運動体は回転軸であり、前記支承基体は軸受金であることを特徴とする支承装置。
- 運動体を支承する支承装置の製造方法において、
支承基体の表面を凹凸に処理する工程と、
前記表面上に耐磨耗性材料の中間層を均一な厚さで形成する工程と、
該中間層上に耐焼き付き性材料を溶射して表面層を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする支承装置の製造方法。 - 運動体を支承する支承装置の製造方法において、
支承基体の表面を凹凸に処理する工程と、
前記表面上にニッケル−リン系合金の硬化前中間層を均一な厚さで形成する工程と、
該硬化前中間層上にホワイトメタルを溶射して熱処理前表面層を形成する工程と、
前記硬化前中間層及び熱処理前表面層をスズの融点以上でホワイトメタルの融点以下の温度で同時に熱処理し、中間層及び表面層を形成する工程と、
を備えたことを特徴とする支承装置の製造方法。
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