制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を意味する。この概念には、2つの回転要素が一体回転するように連結された状態や、2つの回転要素が1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態が含まれる。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等)が含まれてもよい。
制御装置30は、車両用駆動伝達装置3を制御対象とする制御装置である。図3に示すように、車両用駆動伝達装置3は、パーキングロック機構10が設けられた自動変速機1と、駆動力源20の側から入力される回転駆動力を自動変速機1に伝達するトルクコンバータ60と、を備えている。すなわち、車両用駆動伝達装置3は、駆動力源20と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、駆動力源20の側から順に、トルクコンバータ60と自動変速機1とを備えている。自動変速機1は、入力部材I(変速入力部材)の回転を変速して出力部材O(変速出力部材)に伝達する変速機構50を備えている。入力部材Iは、トルクコンバータ60を介して駆動力源20に駆動連結され、出力部材Oは車輪Wに駆動連結される。本実施形態では、出力部材Oは、カウンタギヤ機構CG及び出力用差動歯車装置DFを介して車輪Wに駆動連結されている。駆動力源20の側から出力部材Oに伝達された回転及びトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右2つの車輪Wに分配して伝達される。これにより、車両用駆動伝達装置3は、駆動力源20のトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させる。
駆動力源20は、車両或いは車輪Wの駆動力源である。例えば、内燃機関が駆動力源20として備えられ、回転電機が駆動力源20として備えられ、或いは、内燃機関及び回転電機の双方が駆動力源20として備えられる。ここで、内燃機関は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。また、回転電機は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。本実施形態では、内燃機関が駆動力源20として備えられている。
トルクコンバータ60は、駆動力源20に駆動連結されるポンプインペラ61と、入力部材Iに駆動連結されるタービンランナ62とを備えている。トルクコンバータ60は、駆動力源20の側からポンプインペラ61に入力されるトルクを増幅して、タービンランナ62から自動変速機1(変速機構50)に伝達する。図3に示すように、本実施形態では、ポンプインペラ61は、駆動力源20の出力部材(例えば、クランクシャフト等)と一体回転するように連結され、タービンランナ62は、入力部材Iと一体回転するように連結されている。本実施形態では、トルクコンバータ60が「流体継手」に相当し、ポンプインペラ61が「入力側回転部材」に相当し、タービンランナ62が「出力側回転部材」に相当する。
自動変速機1は、変速比を段階的に或いは無段階に変更可能な変速機構50を備えている。ここで、「変速比」は、変速機構50の出力部材Oの回転速度に対する変速機構50の入力部材Iの回転速度の比である。入力部材Iには、トルクコンバータ60の側から回転及びトルクが入力され、出力部材Oから出力される回転及びトルクが、車輪Wの側に出力される。本実施形態では、変速機構50は、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に構成された自動有段変速機構である。詳細は省略するが、図3に示すように、変速機構50は、歯車機構と、この歯車機構の回転要素の係合又は解放を行う複数の変速用係合装置とを備えている。変速機構50は、複数の変速用係合装置のそれぞれの係合の状態に応じて複数の変速段を選択的に形成して、入力部材Iの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oに伝達する。変速機構50が形成する変速段には、前進用の変速段及び後進用の変速段が含まれる。全ての変速用係合装置が解放されている状態や、変速段を形成するために係合される複数の変速用係合装置のうちの一部の変速用係合装置が解放されている状態で、変速機構50は、トルクの伝達を行わないニュートラル状態となる。
本実施形態では、変速機構50が備える複数の変速用係合装置は、油圧駆動式の係合装置(例えば、摩擦係合装置)である。そのため、図1に示すように、自動変速機1は、変速用係合装置のそれぞれに供給する油圧を制御する油圧制御装置32を備えている。制御装置30は、変速用係合装置のそれぞれに供給される油圧を油圧制御装置32を介して制御することで、変速用係合装置のそれぞれの係合の状態を制御する。詳細は省略するが、油圧制御装置32は、変速用係合装置に供給する油圧を制御するソレノイドバルブと、当該ソレノイドバルブと連通する油路が設けられたバルブボディとを備えている。これらのソレノイドバルブ及びバルブボディ等によって、油圧ポンプ40から吐出された油を変速機構50に供給するための油圧回路41が形成されている。油圧制御装置32は、油圧ポンプ40の吐出圧をライン圧に制御するライン圧制御バルブ(プレッシャーレギュレータバルブ)を備えている。本実施形態では、後述するように、パーキングロック機構10の状態をロック状態と非ロック状態との間で切り替えるアクチュエータ14(図2参照)は、油圧によって駆動される油圧アクチュエータであり、油圧制御装置32には、作動油圧(本実施形態では、ライン圧)がアクチュエータ14に供給される状態と供給されない状態とを切り替える切り替えバルブを備えている。また、本実施形態では、油圧制御装置32は、油圧ポンプ40から吐出された油をトルクコンバータ60に作動油として供給するように構成されている。
油圧ポンプ40は、車両が必要とする油圧を発生させる。例えば、駆動力源20により駆動される機械式オイルポンプが油圧ポンプ40として備えられ、駆動力源20とは異なる専用の回転電機により駆動される電動オイルポンプが油圧ポンプ40として備えられ、或いは、機械式オイルポンプ及び電動オイルポンプの双方が油圧ポンプ40として備えられる。本実施形態では、図3に示すように、駆動力源20により駆動される油圧ポンプ40が備えられている。
パーキングロック機構10は、車輪Wに連動して回転する被ロック部材に係合部材を係合させて、被ロック部材の回転を規制する機構である。図2に示すように、本実施形態に係るパーキングロック機構10は、上記の被ロック部材としてパーキングギヤ2を備え、上記の係合部材としてパーキングポール11を備えている。パーキングギヤ2は、駆動力源20と車輪Wとを結ぶ動力伝達経路における、車輪Wとの直接或いは他の部材を介した連結が車両用駆動伝達装置3の状態よらずに維持される位置に設けられる。具体的には、パーキングギヤ2は、出力部材Oと車輪Wとの間の動力伝達経路に設けられ、本実施形態では、図3に示すように、出力部材Oと一体回転するように設けられている。パーキングギヤ2の回転をパーキングポール11により規制することで、車輪Wがロックされる。以下では、パーキングギヤ2にパーキングポール11が係合した状態(すなわち、車輪Wがロックされた状態)を「ロック状態」とし、パーキングギヤ2とパーキングポール11との係合が解除された状態(すなわち、車輪Wがロックされていない状態)を「非ロック状態」とする。本実施形態では、パーキングギヤ2が「被ロック部材」に相当し、パーキングポール11が「係合部材」に相当する。
パーキングロック機構10は、パーキングポール11を、パーキングギヤ2に係合する係合位置と、パーキングギヤ2への係合が解除される非係合位置との間で変位(本実施形態では揺動)させるためのパーキングロッド12を備えている。パーキングロッド12の先端部(パーキングポール11側の端部)には、パーキングロッド12に対して摺動可能に支持されると共に先端部側に付勢されたカム部材13が設けられている。パーキングロッド12の基端部は、ディテントレバー15(ディテントプレート)に回転自在に連結されている。そして、ディテントレバー15の揺動軸A周りの回転移動(図2における反時計回り方向の移動)に伴いパーキングロッド12がパーキングポール11側に移動することで、パーキングギヤ2に係合するようにパーキングポール11がカム部材13により押圧され、パーキングポール11が係合位置に維持される。また、ディテントレバー15の揺動軸A周りの回転移動(図2における時計回り方向の移動)に伴いパーキングロッド12がパーキングポール11側から離れる側に移動することで、カム部材13によるパーキングポール11への押圧が解除されると共にパーキングポール11が付勢部材(図示せず)の付勢力により移動し、パーキングポール11が非係合位置に維持される。なお、ディテントレバー15には、係合部材16が係合する凹部が形成されており、ディテントレバー15の揺動軸A周りの揺動が、係合部材16によってある程度規制されるように構成されている。
図2に示すように、パーキングロック機構10は、アクチュエータ14によって、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合状態を制御可能に構成されている。このアクチュエータ14は、レンジ選択装置91によるパーキングレンジの選択操作とは別に動作可能なアクチュエータであり、制御装置30の指令に応じで動作する。具体的には、パーキングロック機構10は、アクチュエータ14によりパーキングロッド12が進退移動されることで、ロック状態と非ロック状態との間で切り替えられる。本実施形態では、アクチュエータ14は、油圧制御装置32から供給される油圧に応じて動作する油圧アクチュエータであり、供給される油圧に応じて進退移動するピストン17を備えている。そして、ピストン17の進退移動に伴いディテントレバー15が揺動軸A周りに揺動することで、パーキングロッド12が進退移動するように構成されている。
本実施形態では、アクチュエータ14に油圧(例えば、ライン圧)が供給されている状態でパーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられ、アクチュエータ14に対する油圧の供給が停止されるとパーキングロック機構10がロック状態に切り替えられるように構成されている。本実施形態では、パーキングロック機構10は、油圧制御装置32から供給される油圧が低下した場合であってもパーキングロック機構10を非ロック状態に維持するためのロック装置19を備えている。本実施形態では、ロック装置19は、ピストン17の移動を規制する規制状態と、ピストン17の移動を許容する許容状態とに切り替え可能に構成されており、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられている状態では、ロック装置19は基本的に規制状態に切り替えられる。ロック装置19は、例えば、ソレノイドにより駆動される。これにより、例えば、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられている状態でアクチュエータ14に供給される油圧が低下した場合であっても、ピストンが移動することを規制することでディテントレバー15が揺動軸A周りに揺動することを規制して、パーキングロック機構10を非ロック状態に維持することができる。パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられている状態でアクチュエータ14に供給される油圧が低下する状況の一例として、車両の主電源をオン状態としたまま駆動力源20としての内燃機関への燃料供給を停止するアイドリングストップ制御を実行する状況を挙げることができる。
制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、RAMやROM等の記憶装置等を有して構成される。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30が実行する各機能が実現される。制御装置30が備える演算処理装置は、各プログラムを実行するコンピュータとして動作する。なお、制御装置30が、互いに通信可能な複数のハードウェア(複数の分離したハードウェア)の集合によって構成されても良い。
制御装置30は、車両の各部に備えられた各種センサの検出結果の情報を取得可能に構成される。本実施形態では、図1に示すように、制御装置30は、第一回転センサSe1、第二回転センサSe2、第三回転センサSe3、パーキングロックセンサSe4、油温センサSe5、及びレンジセンサSe6のそれぞれの検出結果の情報を取得可能に構成されている。なお、制御装置30が、他の制御装置(例えば、後述する駆動力源制御装置31等)から、少なくともいずれかのセンサの検出情報を取得する構成とすることもできる。図1では、制御装置30をECU(Electronic Control Unit)と表記し、駆動力源制御装置31をENG ECU(Engine Electronic Control Unit)と表記し、駆動力源20をENG(Engine)と表記し、油圧制御装置32をV/B(Valve Body)と表記し、変速機構50をAT(Automatic Transmission)と表記し、パーキングロック機構10をPBW(Park By Wire)と表記し、油圧ポンプ40をOP(Oil Pump)と表記している。
制御装置30は、第一回転センサSe1の検出情報に基づき、トルクコンバータ60のポンプインペラ61の回転速度の情報を取得する。そのため、第一回転センサSe1は、ポンプインペラ61或いはポンプインペラ61と連動して回転する部材(例えば、一体回転する部材)の回転速度を検出するように設けられる。例えば、駆動力源20の出力部材の回転速度を検出する回転センサを、第一回転センサSe1として用いることができる。
制御装置30は、第二回転センサSe2の検出情報に基づき、トルクコンバータ60のタービンランナ62の回転速度の情報を取得する。そのため、第二回転センサSe2は、タービンランナ62或いはタービンランナ62と連動して回転する部材(例えば、一体回転する部材)の回転速度を検出するように設けられる。例えば、自動変速機1(変速機構50)の入力部材Iの回転速度を検出する回転センサを、第二回転センサSe2として用いることができる。
制御装置30は、第三回転センサSe3の検出情報に基づき、車速の情報を取得する。そのため、第三回転センサSe3は、車速に応じた回転速度で回転する部材の回転速度を検出するように設けられる。例えば、自動変速機1(変速機構50)の出力部材Oの回転速度を検出する回転センサを、第三回転センサSe3として用いることができる。
制御装置30は、パーキングロックセンサSe4の検出情報に基づき、パーキングロック機構10がロック状態であるか非ロック状態であるかの情報を取得する。そのため、パーキングロックセンサSe4は、パーキングロック機構10の状態に応じて変化する物理量を検出するように設けられる。例えば、ディテントレバー15の回転位置を検出するセンサと、アクチュエータ14のピストン17の位置を検出センサとの一方又は双方を、パーキングロックセンサSe4として用いることができる。
制御装置30は、油温センサSe5の検出情報に基づき、車両用駆動伝達装置3の内部の作動油の温度の情報を取得する。そのため、油温センサSe5は、車両用駆動伝達装置3の内部の作動油の温度(例えば、油圧制御装置32(バルブボディ)における作動油の温度、トルクコンバータ60の内部の作動油の温度等)を検出するように設けられる。本実施形態では、油温センサSe5は、油圧制御装置32(バルブボディ)に設けられている。油温センサSe5が、トルクコンバータ60の作動油の循環回路における作動油の温度を検出するように設けられる場合等において、制御装置30は、油温センサSe5の検出情報に基づき、トルクコンバータ60の作動油の推定温度を導出することができる。
制御装置30は、レンジセンサSe6の検出情報に基づき、レンジ選択装置91を用いて運転者により選択されたシフトレンジの情報を取得する。レンジ選択装置91は、シフトレンジを人為的操作により切り替えるための装置であり、レンジセンサSe6は、レンジ選択装置91を用いた運転者のシフト操作を検出(本実施形態では、電気的に検出)するように設けられる。レンジ選択装置91により選択可能なレンジには、車両を前進させる走行レンジである前進レンジ(Dレンジ)、車両を後進させる走行レンジである後進レンジ(Rレンジ)、自動変速機1(変速機構50)をニュートラル状態とするためのニュートラルレンジ(Nレンジ)、自動変速機1(変速機構50)をニュートラル状態とすると共に車輪Wをロックするパーキングレンジ(Pレンジ)が含まれる。
制御装置30は、レンジ選択装置91により前進レンジ、後進レンジ、ニュートラルレンジ、及びパーキングレンジのいずれかのシフトレンジの選択操作が行われた場合には、当該シフトレンジの選択指令に応じて自動変速機1を制御する。具体的には、制御装置30は、レンジ選択装置91によりパーキングレンジが選択された場合には、パーキングロック機構10をロック状態となるように制御し、レンジ選択装置91により非パーキングレンジ(すなわち、前進レンジ、後進レンジ、又はニュートラルレンジ)が選択された場合には、パーキングロック機構10を非ロック状態となるように制御する。このように、パーキングロック機構10は、レンジ選択装置91とは機械的に連結されておらず、パーキングロック機構10の状態は、レンジセンサSe6の検出情報に基づき制御装置30により制御される。すなわち、パーキングロック機構10は、パーク・バイ・ワイヤ(PBW)方式のパーキングロック機構である。なお、上述したように、本実施形態では、パーキングロック機構10の状態は、アクチュエータ14によりロック状態と非ロック状態との間で切り替えられる。本実施形態では、制御装置30は、アクチュエータ14に供給される油圧を油圧制御装置32を介して制御することで、パーキングロック機構10の状態を制御する。
制御装置30は、レンジ選択装置91により前進レンジが選択された場合には、自動変速機1(変速機構50)に前進レンジ(前進用の変速段)が形成されるように油圧制御装置32を制御し、レンジ選択装置91により後進レンジが選択された場合には、自動変速機1(変速機構50)に後進レンジ(後進用の変速段)が形成されるように油圧制御装置32を制御し、レンジ選択装置91によりニュートラルレンジ又はパーキングレンジが選択された場合には、自動変速機1(変速機構50)をニュートラル状態とするように油圧制御装置32を制御する。
図1に示すように、制御装置30は、変速機構50及びパーキングロック機構10を制御対象とする。また、制御装置30は、駆動力源20も制御対象とする。制御装置30は、センサ検出情報(アクセル開度、車速、シフトレンジ等の情報)に基づき、車輪Wの駆動のために要求される車輪要求トルクや、自動変速機1(変速機構50)に形成する目標変速段を決定する。そして、制御装置30は、決定した車輪要求トルクに基づき駆動力源20の目標トルクを決定し、当該目標トルクを出力するように駆動力源20を制御する。また、制御装置30は、決定した目標変速段を形成するように変速機構50を制御する。具体的には、制御装置30は、決定した目標変速段を形成するように、複数の変速用係合装置のそれぞれの係合の状態を制御する。変速用係合装置のそれぞれの係合の状態は、供給される油圧に応じて、直結係合状態、滑り係合状態、及び解放状態のいずれかに制御される。
本実施形態では、制御装置30は、駆動力源制御装置31を介して駆動力源20の制御を行うように構成されており、駆動力源制御装置31が、制御装置30から指令された目標トルクを出力するように、駆動力源20を制御する。駆動力源制御装置31は、制御装置30から駆動力源20としての内燃機関の始動要求があった場合には、内燃機関への燃料供給や点火を開始する等して内燃機関を始動させ、制御装置30から駆動力源20としての内燃機関の停止要求があった場合には、内燃機関への燃料供給や点火を停止する等して内燃機関を停止させる。
ところで、駆動力源20が駆動力を出力しており、変速機構50に前進レンジ(前進用の変速段)又は後進レンジ(後進用の変速段)が形成されており、且つ、車両に備えられたブレーキ装置により車両が停止している状態では、駆動力を出力している状態の駆動力源20(例えば、アイドリング回転速度で回転しているアイドリング状態の内燃機関)と、回転が停止されている状態の車輪Wとの間の動力伝達経路には、捩りトルクが発生する。このような状態でレンジ選択装置91によりパーキングレンジに切り替える操作が行われた場合には、制御装置30は、変速機構50を前進用又は後進用の変速段が形成されている状態からニュートラル状態に切り替えると共に、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替えるが、駆動力源20と車輪Wとの間の動力伝達経路に発生していた捩りトルクが当該動力伝達経路から解放される前にパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合すると、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路に捩れトルクが残留した状態となる。そのため、次にレンジ選択装置91によりパーキングレンジから非パーキングレンジに切り替えられた際に、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路に蓄積されている捩れトルクが、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合の解除に伴い急に解放されることで、車両にショックが発生する場合がある。
上記の点に鑑みて、制御装置30は、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合に、ロック時期調整制御を実行する。ロック時期調整制御は、トルクコンバータ60のポンプインペラ61とタービンランナ62との間の回転速度差(以下、「スリップ回転速度」という。)に少なくとも基づく判定指標が第一判定閾値以下になった後に、パーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる制御である。スリップ回転速度は、ポンプインペラ61の回転速度からタービンランナ62の回転速度を減算した値である。すなわち、制御装置30は、ロック時期調整制御では、判定指標が第一判定閾値以下になった後に、アクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力する。これにより、判定指標が第一判定閾値以下になった後に、パーキングポール11がパーキングギヤ2に係合される。なお、本実施形態では、アクチュエータ14に対して油圧が供給されない状態でパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合するため、アクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力するとは、アクチュエータ14に対して供給される油圧をゼロとするような指令を、油圧制御装置32(アクチュエータ14に対して供給される油圧を制御するバルブ)に出力することを意味する。以下に説明するように、このようなロック時期調整制御を実行することで、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路に残留する捩れトルクを小さく抑えつつ、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられてから車輪Wがロックされるまでの時間の短縮を図ることが可能となる。
レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合、制御装置30は、変速機構50を前進用又は後進用の変速段が形成されている状態からニュートラル状態に切り替える制御を開始する。具体的には、前進用又は後進用の変速段を形成するために係合されている変速用係合装置の一部又は全部を、解放状態とする制御を開始する。変速機構50をニュートラル状態に切り替える制御を行っている間、上記変速用係合装置の係合圧の低下に伴い、変速用係合装置のスリップの増大によりタービンランナ62の回転速度がポンプインペラ61の回転速度に向かって上昇すると共に、パーキングギヤ2に駆動力源20の側から伝達されるトルクが減少する。よって、スリップ回転速度が小さい状態では、パーキングギヤ2に対して駆動力源20の側から伝達されるトルクも小さく、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路における捩りトルクも小さい状態となる。
このようなスリップ回転速度の性質に鑑み、スリップ回転速度に少なくとも基づく判定指標が第一判定閾値以下になった後にパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させるロック時期調整制御を実行することで、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路に残留する捩れトルクが小さくなったタイミングで、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替えることが可能となる。なお、判定指標は、スリップ回転速度が高くなるに従って大きくなるように設定される。また、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路における捩りトルクの大きさが許容される範囲内の大きさまで減少したタイミングを当該判定指標に基づき適切に判定して、レンジ選択装置91によりパーキングレンジに切り替えられてから車輪Wがロックされるまでの時間の短縮を図ることも可能となる。この結果、パーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路に残留する捩れトルクを小さく抑えつつ、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられてから車輪Wがロックされるまでの時間の短縮を図ることが可能となる。なお、第一判定閾値は、スリップ回転速度が第一判定閾値に等しい場合にパーキングギヤ2と車輪Wとの間の動力伝達経路に蓄積される捩りトルクの大きさが、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合の解除時に車両に発生し得るショックが車両の乗員に不快感を与えない程度の大きさに収まるように設定されると好適である。
判定指標が、スリップ回転速度に加えて、更にポンプインペラ61の回転速度にも基づいて定まる構成とすると好適である。すなわち、判定指標が、少なくとも、スリップ回転速度と、ポンプインペラ61の回転速度とに応じて定まる構成とすると好適である。この場合、パーキングギヤ2に対して駆動力源20の側から伝達されるトルクの大きさが、ポンプインペラ61の回転速度が高くなるに従って大きくなる傾向があることを考慮して、判定指標を定めることができる。また、判定指標が、スリップ回転速度に加えて、或いは、スリップ回転速度及びポンプインペラ61の回転速度に加えて、更に作動油の温度にも基づいて定まる構成とすると好適である。この場合、パーキングギヤ2に対して駆動力源20の側から伝達されるトルクの大きさが、作動油の温度に依存することを考慮して、判定指標を定めることができる。なお、ここでの作動油の温度は、車両用駆動伝達装置3の内部の作動油の温度であり、トルクコンバータ60の作動油の温度を検出或いは推定可能な場合には、トルクコンバータ60の作動油の温度とすることができる。ここでの作動油の温度を、油圧制御装置32(バルブボディ)における作動油の温度等とすることもできる。
本実施形態では、制御装置30は、第一回転センサSe1、第二回転センサSe2、及び油温センサSe5のそれぞれの検出情報に基づき、判定指標を導出する。すなわち、本実施形態では、判定指標は、スリップ回転速度、ポンプインペラ61の回転速度、及び作動油の温度(油温)に基づいて定まる。例えば、スリップ回転速度が同じである条件下では、ポンプインペラ61の回転速度が高くなるに従ってトルクコンバータ60の伝達トルクが大きくなるという傾向と、スリップ回転速度が同じである条件下では、油温が低くなるに従ってトルクコンバータ60の伝達トルクが大きくなるという傾向を考慮して、スリップ回転速度に対してポンプインペラ61の回転速度を乗算し、更に油温の逆数を乗算したものを、判定指標として用いることができる。スリップ回転速度が同じである条件下では、油温が低くなるに従ってトルクコンバータ60の伝達トルクが大きくことについては、後に図6のタイムチャートを参照して説明する。なお、制御装置30は、関係式による演算やマップの参照等により、判定指標を導出する。例えば、判定指標が、スリップ回転速度、ポンプインペラ61の回転速度、及び油温に基づいて定まる場合に、制御装置30が、これら3つの指標を変数とする3次元マップを参照して判定指標を導出する構成とすることができる。また、判定指標が、スリップ回転速度とポンプインペラ61の回転速度とに基づいて定まる場合に、制御装置30が、これら2つの指標を変数とする2次元マップを参照して判定指標を導出する構成とすることができる。
本実施形態では、制御装置30は、ロック時期調整制御の実行中に車速(車速の絶対値)が第二判定閾値以上になった場合、又はロック時期調整制御の実行中にロック時期調整制御の開始から終了判定時間が経過した場合には、ロック時期調整制御を終了して直ちにパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる。すなわち、ロック時期調整制御の実行中に車速が第二判定閾値以上になった場合には、ロック時期調整制御が終了され、直ちにパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合されて車輪Wがロックされる。また、ロック時期調整制御の実行中にロック時期調整制御の開始から終了判定時間が経過した場合には、ロック時期調整制御が終了され、直ちにパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合されて車輪Wがロックされる。第二判定閾値を、パーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させることが困難な速度よりも低く設定することで、パーキングロック機構10をロック状態に切り替えることができない事態の発生を抑制することができる。なお、第二判定閾値は、パーキングポール11とパーキングギヤ2とが係合する際の歯打ち音の発生を抑制することができる範囲内の値に設定すると好適である。
また、終了判定時間は、パーキングレンジに切り替える操作が行われてからパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合するまでの目標完了時間に基づき設定することができる。目標完了時間は、油温或いは外気温等に基づき可変に設定することもできる。例えば、終了判定時間を、目標完了時間から、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替えるのに要する所要時間を減算した値に設定することができる。この所要時間は、制御装置30がアクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力してからパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合するまでの時間であり、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替えるためのピストン17(図2参照)の移動時間に相当する。所要時間を、油温或いは外気温等に基づき可変に設定することもできる。
次に、本実施形態に係るロック時期調整制御の処理手順の一例について、図4を参照して説明する。レンジ選択装置91により前進レンジ(Dレンジ)又は後進レンジ(Rレンジ)からパーキングレンジ(Pレンジ)に切り替えられると(ステップ#01:Yes)、制御装置30は、ロック時期調整制御を開始する。図4では省略しているが、制御装置30は、ロック時期調整制御の開始に合わせて、変速機構50を前進用又は後進用の変速段が形成されている状態からニュートラル状態に切り替える制御も開始する。ロック時期調整制御の開始後、制御装置30は、車速(V)が第二判定閾値(V0)未満であり、且つ、ロック時期調整制御の開始からの経過時間(T)が終了判定時間(T0)未満である間(ステップ#02:Yes、ステップ#04:No)、判定指標(Idx)が第一判定閾値(Idx0)を超えているか否かの判定(ステップ#03)を繰り返し行う。そして、判定指標(Idx)が第一判定閾値(Idx0)以下になると(ステップ#03:No)、制御装置30は、アクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力して、パーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる。これにより、パーキングロック機構10が非ロック状態(notP)からロック状態(P)に切り替えられ(ステップ#05)、処理は終了する。
一方、判定指標(Idx)が第一判定閾値(Idx0)以下となるまでの間に(ステップ#03:Yes)、車速(V)が第二判定閾値(V0)以上となり(ステップ#02:No)、或いは、ロック時期調整制御の開始からの経過時間(T)が終了判定時間(T0)以上となると(ステップ#04:Yes)、制御装置30は、ロック時期調整制御を終了し、直ちにアクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力する。これにより、パーキングロック機構10が非ロック状態(notP)からロック状態(P)に切り替えられ(ステップ#05)、処理は終了する。なお、ステップ#02〜#04の判定順序は適宜変更可能である。
なお、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた時点で、駆動力源20としての内燃機関がアイドリングストップ制御中である場合や、当該時点で、変速機構50がニュートラル状態となるニュートラル制御中である場合には、最初に実行されるステップ#03の判定で“No”と判定され、パーキングロック機構10が非ロック状態からロック状態に切り替えられる(ステップ#05)。このような場合には、図4に示すようなロック時期調整制御を開始せず、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた時点で、直ちにアクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力して、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替える構成とすることもできる。すなわち、ロック時期調整制御の開始条件(ステップ#01:Yes)を、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合ではなく、駆動力源20が駆動力を出力しており、且つ、変速機構50に前進レンジ(前進用の変速段)又は後進レンジ(後進用の変速段)が形成されている状態で、レンジ選択装置91により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合とすることができる。
次に、本実施形態に係るロック時期調整制御の具体的内容について、図5に示す例を参照して説明する。なお、この例では、車両が坂路に停止している状態でロック時期調整制御が開始され、ロック時期調整制御の開始後に車速が第二判定閾値以上となることで、ロック時期調整制御が終了されてパーキングポール11がパーキングギヤ2に係合される状況を想定している。なお、図5では、上から順に、車両に備えられたブレーキ装置(BRK)に対する運転者による操作の有無を表す線分、車速(V)を表す線分、レンジ選択装置91により選択されているシフトレンジ(SR)を表す線分、ロック時期調整制御を開始してから終了判定時間(T0)が経過するまでの残り時間を示すタイマ(TMR)を表す線分、パーキングロック機構10に備えられるロック装置19(notP LCK)の状態を表す線分、及び、パーキングロック機構10(PL)の状態を表す線分を、横軸を時間(t)として示している。
図5に示すように、時刻t1以前では、駆動力源20が駆動力を出力しており、且つ、変速機構50に前進レンジ(Dレンジ)又は後進レンジ(Rレンジ)が形成されている状態で、車両に備えられたブレーキ装置(BRK:ON)により車両が停止している。よって、この状態では、パーキングロック機構10は、非ロック状態に切り替えられており(PL:notP)、ロック装置19は、ピストン17(図2参照)の移動を規制する規制状態に切り替えられている(notP LCK:ON)。
時刻t1において、レンジ選択装置91により前進レンジ(Dレンジ)又は後進レンジ(Rレンジ)からパーキングレンジ(Pレンジ)に切り替えられると、制御装置30は、ロック時期調整制御を開始する。すなわち、制御装置30は、ロック時期調整制御を開始してから終了判定時間(T0)が経過するまでの残り時間を示すタイマ(TMR)を、終了判定時間(T0)に設定し、タイマ(TMR)がゼロになるまでの間、車速(V)が第二判定閾値(V0)未満であることを条件に、判定指標が第一判定閾値以下になったか否かの判定を繰り返し行う。制御装置30は、時刻t1において、変速機構50を前進用又は後進用の変速段が形成されている状態からニュートラル状態に切り替える制御も開始する。
そして、時刻t2において、運転者のブレーキ装置に対する操作が解除される(BRK:OFF)。ここでは、時刻t2以前に、変速機構50がニュートラル状態或いはニュートラル状態に近い状態になっている状況を想定しているため、時刻t2以降、坂路に停止している車両は自重により動き始める。そして、時刻t3において、車速(V)が第二判定閾値(V0)以上であることが検出される。なお、時間差(t3−t2)は、第三回転センサSe3による検出遅れ時間である。ここでは、タイマ(TMR)は時刻t3以降の時刻においてゼロとなり、且つ、時刻t3以前に判定指標が第一判定閾値以下にならない状況を想定している。そのため、制御装置30は、時刻t3においてロック時期調整制御を終了し、アクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令を出力すると共に、ロック装置19を、ピストン17の移動を許容する許容状態に切り替える(notP LCK:OFF)。そして、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替えるのに要する時間(t4−t3)が経過した時刻t4において、パーキングポール11がパーキングギヤ2に係合し、車輪Wがロックされて車両が停止する。
本実施形態に係るロック時期調整制御の具体的内容の別例について、図6を参照して説明する。なお、この例では、ロック時期調整制御の開始後に判定指標が第一判定閾値以下になることで、パーキングポール11がパーキングギヤ2に係合される状況を想定している。なお、図6では、上から順に、変速機構50に備えられた変速用係合装置(CL)の係合圧を表す線分、トルクコンバータ60(TC)の伝達トルクを表す線分、タービンランナ62の回転速度(Nt)を表す線分、及び、パーキングロック機構10(PL)の状態を表す線分を、横軸を時間(t)として示している。また、図6には、作動油の温度が高い場合(H)と低い場合(L)の2つの状況を重ねて示しており、変速用係合装置(CL)の係合圧を示す一点鎖線は、係合圧の指令値を表している。
時刻t10以前では、駆動力源20が駆動力を出力しており、且つ、変速機構50に前進レンジ(Dレンジ)又は後進レンジ(Rレンジ)が形成されている状態で、車両に備えられたブレーキ装置により車両が停止している。そのため、パーキングロック機構10は、非ロック状態に切り替えられており(PL:notP)、タービンランナ62の回転速度(Nt)はゼロとなっている。
時刻t10において、レンジ選択装置91により前進レンジ(Dレンジ)又は後進レンジ(Rレンジ)からパーキングレンジ(Pレンジ)に切り替えられると、制御装置30は、ロック時期調整制御を開始する。これにより、前進用又は後進用の変速段を形成するために係合されている変速用係合装置の一部又は全部を、解放状態とする制御が開始され、当該変速用係合装置(CL)の係合圧が低下し始める。なお、油温が高い方が係合圧の指令値に対する実際に係合圧の追従性が高いため、図6に示すように、油温が高い場合の方が低い場合に比べて、実際の係合圧が早いタイミングで低下し始めている。
変速機構50をニュートラル状態に切り替える制御を行っている間(時刻t10以降)、変速用係合装置(CL)の係合圧の低下(すなわち、スリップの増大)に伴い、トルクコンバータ60(TC)の伝達トルクも低下する。なお、トルクコンバータ60(TC)の伝達トルクの低下は、パーキングギヤ2に駆動力源20の側から伝達されるトルクの低下を意味する。そして、トルクコンバータ60(TC)の伝達トルクが低下することで、ある時刻においてタービンランナ62の回転速度(Nt)がポンプインペラ61の回転速度に向かって上昇し始める。図6に示すように、油温が高い方が、トルクコンバータ60(TC)の伝達トルクがゼロになるタイミングが早く、より早い時刻でタービンランナ62の回転速度(Nt)がポンプインペラ61の回転速度に向かって上昇し始める。
そして、油温が高い場合(H)には、時刻t11で判定指標が第一判定閾値以下となり、アクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令が出力される。一方、油温が低い場合(L)には、時刻t12で判定指標が第一判定閾値以下となり、アクチュエータ14に対してパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる指令が出力される。そして、パーキングロック機構10を非ロック状態からロック状態に切り替えるのに要する時間が経過した時刻において、パーキングポール11がパーキングギヤ2に係合する。
ここで、図6より、油温が高い場合(H)の時刻t11でのトルクコンバータ60(TC)の伝達トルクの大きさは、油温が低い場合(L)の時刻t12でのトルクコンバータ60(TC)の伝達トルクの大きさと同程度となっているが、油温が高い場合(H)の時刻t11でのタービンランナ62の回転速度(Nt)は、油温が低い場合(L)の時刻t12でのタービンランナ62の回転速度(Nt)に比べて低いことが分かる。すなわち、スリップ回転速度が同じである条件下では、トルクコンバータ60の伝達トルクの大きさは、油温が低くなるに従って大きくなる。よって、トルクコンバータ60(TC)の伝達トルクが同程度まで低下した際の(すなわち、パーキングギヤ2に駆動力源20の側から伝達されるトルクが同程度まで低下した際の)スリップ回転速度は、油温が低くなるに従って小さくなる。そのため、図6に示すように、油温が高い場合(H)には、油温が低い場合(L)に比べてタービンランナ62の回転速度(Nt)が低い状態(すなわち、スリップ回転速度が大きい状態)で判定指標が第一判定閾値以下となる。
例えば、油温によらずに共通の第一判定閾値を用いる場合には、油温が低くなるに従って判定指標を大きく設定することで、上記のような油温の影響が適切に考慮されたタイミングで、判定指標が第一判定閾値以下になる構成とすることができる。一方、油温に基づかずに判定指標を定める場合には、油温が低くなるに従って第一判定閾値を小さく設定することで、上記のような油温の影響が適切に考慮されたタイミングで、判定指標が第一判定閾値以下になる構成とすることができる。
〔その他の実施形態〕
次に、制御装置のその他の実施形態について説明する。
(1)上記の実施形態では、判定指標が、スリップ回転速度、ポンプインペラ61の回転速度、及び作動油の温度に基づいて定まる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、判定指標が、スリップ回転速度及びポンプインペラ61の回転速度に基づいて定まる構成や、判定指標が、スリップ回転速度及び作動油の温度に基づいて定まる構成とすることもできる。或いは、判定指標が、スリップ回転速度に基づいて定まる構成、例えば、判定指標がスリップ回転速度となる構成とすることもできる。このような場合に、スリップ回転速度が同じである条件下では、ポンプインペラ61の回転速度が高くなるに従ってトルクコンバータ60の伝達トルクが大きくなるという傾向と、スリップ回転速度が同じである条件下では、作動油の温度(油温)が低くなるに従ってトルクコンバータ60の伝達トルクが大きくなるという傾向を考慮して、第一判定閾値を定めても良い。例えば、第一判定閾値を、ポンプインペラ61の回転速度が高くなるに従って小さい値に設定することができる。また、例えば、第一判定閾値を、油温が低くなるに従って小さい値に設定することができる。この場合、油温が低くなるに従って、判定指標が第一判定閾値と等しくなる際のタービンランナ62の回転速度が高くなる(すなわち、スリップ回転速度が小さくなる)。
(2)上記の実施形態では、制御装置30が、ロック時期調整制御の実行中に車速が第二判定閾値以上になった場合に、ロック時期調整制御を終了して直ちにパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、制御装置30が、ロック時期調整制御の実行中に、車速が第二判定閾値以上であるかの判定に代えて車両に備えられたブレーキ装置に対する操作が解除されたか否かの判定を行い、ロック時期調整制御の実行中にブレーキ装置に対する操作が解除された場合には、ロック時期調整制御を終了して直ちにパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させる構成とすることもできる。なお、この場合、ブレーキ装置に対する操作が解除されたことに加えて更に車両が坂路に停止していることを、ロック時期調整制御を終了する条件に加えても良い。
(3)上記の実施形態では、判定指標が、スリップ回転速度(ポンプインペラ61とタービンランナ62との間の回転速度差)に少なくとも基づき定まる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、判定指標を定める指標(或いは変数)として、スリップ回転速度に代えて、入力側回転部材(ここではポンプインペラ61)と出力側回転部材(ここではタービンランナ62)との間の回転速度比を用いることもできる。ここで、回転速度比を、出力側回転部材の回転速度に対する入力側回転部材の回転速度の比(すなわち、いわゆる速度比の逆数)とすると、上記の実施形態においてスリップ回転速度が小さくなるに従って判定指標が小さく設定されたのと同様に、回転速度比が小さくなるに従って判定指標が小さく設定される構成とすることができる。このように、スリップ回転速度(回転速度差)に代えて回転速度比を用いる場合、上記の実施形態における“回転速度差”や“スリップ回転速度”を“回転速度比”に置き換えた構成とすることができる。なお、回転速度比を、入力側回転部材の回転速度に対する出力側回転部材の回転速度の比(すなわち、いわゆる速度比)とする場合には、判定指標は、回転速度比が大きくなるに従って小さくなるように設定される。
(4)上記の実施形態では、アクチュエータ14が油圧アクチュエータである構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、アクチュエータ14が電動アクチュエータである構成とすることもできる。
(5)上記の実施形態では、車両用駆動伝達装置3に備えられる流体継手が、トルク増幅機能を有するトルクコンバータ60である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、車両用駆動伝達装置3に備えられる流体継手が、トルク増幅機能を有さない流体継手である構成とすることもできる。
(6)上記の実施形態では、変速機構50に備えられる変速用係合装置が、油圧駆動式の係合装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されず、電磁石の駆動力やサーボモータの駆動力等の油圧以外の駆動力により制御される係合装置が、変速用係合装置として変速機構50に備えられても良い。
(7)上記の実施形態では、変速機構50が自動有段変速機構である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、変速機構50が、変速比を無段階に(すなわち連続的に)変化させる無段変速機構(例えば、ベルト式の無段変速機構)である構成とすることもできる。
(8)なお、上述した各実施形態で開示された構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示された構成と組み合わせて適用すること(その他の実施形態として説明した実施形態同士の組み合わせを含む)も可能である。その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎない。従って、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
〔上記実施形態の概要〕
以下、上記において説明した制御装置の概要について説明する。
パーキングロック機構(10)が設けられた自動変速機(1)と、駆動力源(20)の側から入力される回転駆動力を前記自動変速機(1)に伝達する流体継手(60)とを備え、前記パーキングロック機構(10)が、車輪(W)に連動して回転する被ロック部材(2)に係合部材(11)を係合させて前記被ロック部材(2)の回転を規制する車両用駆動伝達装置(3)を制御対象とする制御装置(30)であって、レンジ選択装置(91)により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合に、前記流体継手(60)の入力側回転部材(61)と出力側回転部材(62)との間の回転速度比、又は前記入力側回転部材(61)と前記出力側回転部材(62)との間の回転速度差に少なくとも基づく判定指標が第一判定閾値以下になった後に、前記係合部材(11)を前記被ロック部材(2)に係合させるロック時期調整制御を実行する。
この構成によれば、レンジ選択装置(91)により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合にロック時期調整制御を行うことで、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路における捩りトルクが小さい状態で、係合部材(11)を被ロック部材(2)に係合させることができる。補足説明すると、車両の停止時に自動変速機(1)の変速機構(50)を前進用又は後進用の変速段が形成されている状態からニュートラル状態に切り替える制御を行っている間、流体継手(60)の出力側回転部材(62)の回転速度が、流体継手(60)の入力側回転部材(61)の回転速度に向かって上昇すると共に、被ロック部材(2)に駆動力源(20)の側から伝達されるトルクが減少する。よって、回転速度比を出力側回転部材(62)の回転速度に対する入力側回転部材(61)の回転速度の比とする場合の回転速度比(以下、単に「回転速度比」という。)や、流体継手(60)の入力側回転部材(61)と出力側回転部材(62)との間の回転速度差(以下、「スリップ回転速度」という。)が小さい状態では、被ロック部材(2)に対して駆動力源(20)の側から伝達されるトルクも小さく、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路における捩りトルクも小さい状態となる。上記の構成によれば、このような回転速度比又はスリップ回転速度に少なくとも基づく判定指標が第一判定閾値以下になった後に係合部材(11)が被ロック部材(2)に係合されるため、レンジ選択装置(91)により前進レンジ又は後進レンジからパーキングレンジに切り替えられた場合に、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路に残留する捩れトルクが小さくなったタイミングで、パーキングロック機構(10)を非ロック状態からロック状態に切り替えることが可能となる。
なお、上記の構成によれば、判定指標が、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路における捩りトルクが小さくなるに従って小さくなる傾向がある回転速度比又はスリップ回転速度に基づく指標とされる。よって、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路における捩りトルクの大きさが許容される範囲内の大きさにまで減少したタイミングを当該判定指標に基づき適切に判定して、レンジ選択装置(91)によりパーキングレンジに切り替えられてから車輪(W)がロックされるまでの時間の短縮を図ることも可能となる。
以上のように、上記の構成によれば、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路に残留する捩れトルクを小さく抑えつつ、レンジ選択装置(91)によるパーキングレンジへの切り替えから車輪(W)がロックされるまでの時間の短縮を図ることが可能な制御装置(30)を実現することが可能となる。
ここで、前記判定指標は、少なくとも、前記回転速度比又は前記回転速度差と、前記入力側回転部材(61)の回転速度とに応じて定まると好適である。
この構成によれば、被ロック部材(2)に対して駆動力源(20)の側から伝達されるトルクの大きさが、流体継手(60)の入力側回転部材(61)の回転速度が高くなるに従って大きくなる傾向があることを考慮して、判定指標を定めることができる。よって、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路における捩りトルクの大きさが許容される範囲内の大きさまで減少したタイミングを、より適切に判定することが可能となる。
また、前記判定指標は、更に前記車両用駆動伝達装置(3)の内部の作動油の温度にも基づいて定まると好適である。
この構成によれば、被ロック部材(2)に対して駆動力源(20)の側から伝達されるトルクの大きさが、作動油の温度に依存することを考慮して、判定指標を定めることができる。よって、被ロック部材(2)と車輪(W)との間の動力伝達経路における捩りトルクの大きさが許容される範囲内の大きさまで減少したタイミングを、より適切に判定することが可能となる。
また、前記ロック時期調整制御の実行中に車速が第二判定閾値以上になった場合、又は前記ロック時期調整制御の実行中に前記ロック時期調整制御の開始から終了判定時間が経過した場合には、前記ロック時期調整制御を終了して直ちに前記係合部材(11)を前記被ロック部材(2)に係合させると好適である。
この構成によれば、ロック時期調整制御の実行中に車速が第二判定閾値以上になった場合には、ロック時期調整制御を終了して直ちに係合部材(11)を被ロック部材(2)に係合させて車輪(W)をロックすることができる。よって、車速が高い状態で係合部材(11)が被ロック部材(2)に係合することによる歯打ち音の発生を抑制することができる。また、係合部材(11)を被ロック部材(2)に係合させることが困難な速度に車速が達する前に係合部材(11)を被ロック部材(2)に係合させることができるため、パーキングロック機構(10)をロック状態に切り替えることができない事態の発生を抑制することができる。また、ロック時期調整制御の実行中にロック時期調整制御の開始から終了判定時間が経過した場合には、ロック時期調整制御を終了して直ちに係合部材(11)を被ロック部材(2)に係合させて車輪(W)をロックすることができるため、パーキングレンジに切り替える操作を行った運転者の意思に沿わない状態(すなわち、車輪(W)がロックされない状態)が長く継続することを回避することができる。
また、前記パーキングロック機構(10)は、前記レンジ選択装置(91)によるパーキングレンジの選択操作とは別に動作可能なアクチュエータ(14)によって、前記係合部材(11)と前記被ロック部材(2)との係合状態を制御可能に構成され、前記ロック時期調整制御では、前記判定指標が前記第一判定閾値以下になった後に、前記アクチュエータ(14)に対して前記係合部材(11)を前記被ロック部材(2)に係合させる指令を出力すると好適である。
この構成によれば、係合部材(11)を被ロック部材(2)に係合させる指令をアクチュエータ(14)に対して出力するタイミングを調整することで、ロック時期調整制御を適切に実行することができる。
本開示に係る制御装置は、上述した各効果のうち、少なくとも1つを奏することができれば良い。