制御装置の実施形態について、図面を参照して説明する。以下の説明では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を意味する。この概念には、2つの回転要素が一体回転するように連結された状態や、2つの回転要素が1つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態が含まれる。このような伝動部材には、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(摩擦係合装置や噛み合い式係合装置等)が含まれてもよい。
また、摩擦係合装置の係合の状態について、「係合状態」は、摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じている状態である。伝達トルク容量は、摩擦係合装置が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさであり、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合装置の係合圧(入力側係合部材と出力側係合部材とを相互に押し付けあう圧力)に比例して変化する。係合状態には、摩擦係合装置の一対の係合部材の間(入力側係合部材と出力側係合部材との間)に回転速度差(滑り)がない「直結係合状態」と、摩擦係合装置の一対の係合部材間に回転速度差がある「滑り係合状態」とが含まれる。
また、「解放状態」は、摩擦係合装置に伝達トルク容量が生じていない状態である。摩擦係合装置には、制御装置により伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合でも、係合部材(摩擦部材)同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じる場合がある。本明細書では、このような引き摺りトルクは係合の状態の分類に際して考慮せず、伝達トルク容量を生じさせる指令が出されていない場合に係合部材同士の引き摺りによって伝達トルク容量が生じている状態も解放状態に含める。
摩擦係合装置の係合状態では、一対の係合部材間の摩擦により、一対の係合部材間でトルクが伝達される。摩擦係合装置の滑り係合状態では、動摩擦により回転速度の高い方の係合部材から回転速度の低い方の係合部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。一方、摩擦係合装置の直結係合状態では、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により一対の係合部材間に作用するトルクが伝達される。
1.車両用駆動装置の全体構成
図1に示すように、制御装置30の制御対象の車両用駆動装置1は、駆動力源Eと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、駆動力源Eの側から順に、変速機構TMとパーキングギヤ2とを備えている。変速機構TMは、入力部材I(変速入力部材)の回転を変速して出力部材O(変速出力部材)に伝達する。入力部材Iは駆動力源Eに駆動連結され、出力部材Oは車輪Wに駆動連結される。本実施形態では、出力部材Oは、出力用差動歯車装置DFを介して車輪Wに駆動連結されている。また、本実施形態では、出力部材Oは、カウンタギヤ機構CGを介して出力用差動歯車装置DFに駆動連結されている。駆動力源Eの側から出力部材Oに伝達された回転及びトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右2つの車輪Wに分配して伝達される。これにより、車両用駆動装置1は、駆動力源Eのトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させる。また、車両用駆動装置1は、パーキングロック機構10を備えている。詳細は後述するが、パーキングロック機構10は、パーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させてパーキングギヤ2の回転を規制する機構である。本実施形態では、パーキングギヤ2が「回転部材」に相当し、パーキングポール11が「係合部材」に相当する。
駆動力源Eは、例えば、内燃機関及び回転電機の少なくとも一方が用いられる。ここで、内燃機関は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。また、回転電機は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。本実施形態では、駆動力源Eは内燃機関である。また、本実施形態では、図1に示すように、駆動力源Eは、トルクコンバータTCを介して入力部材Iに駆動連結されている。具体的には、駆動力源Eの出力部材(例えば、クランクシャフト等)が、トルクコンバータTCのポンプインペラTCaと一体回転するように連結され、トルクコンバータTCのタービンランナTCbが、入力部材Iと一体回転するように連結されている。また、本実施形態では、車両が必要とする油圧を発生させるオイルポンプOPとして、駆動力源Eにより駆動されるオイルポンプ(機械式ポンプ)が備えられている。具体的には、オイルポンプOPの駆動軸が、ポンプインペラTCaと一体回転するように連結されている。オイルポンプOPとして、ポンプ用回転電機により駆動されるオイルポンプ(電動ポンプ)が、駆動力源Eによる駆動されるオイルポンプに代えて設けられ、或いは駆動力源Eによる駆動されるオイルポンプに加えて別途設けられる構成とすることもできる。
本実施形態では、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を切替可能に構成された自動有段変速機構である。図1に示すように、変速機構TMは、歯車機構と、この歯車機構の回転要素の係合又は解放を行う複数の変速用係合装置とを備えている。変速機構TMは、複数の変速用係合装置のそれぞれの係合の状態に応じて複数の変速段を選択的に形成して、入力部材Iの回転を変速段に応じた変速比で変速して出力部材Oに伝達する。
本実施形態では、変速機構TMは、変速用係合装置として、第一クラッチC1、第二クラッチC2、第三クラッチC3、第一ブレーキB1、第二ブレーキB2、及びワンウェイクラッチFを備えている。そして、本実施形態では、変速機構TMは、前進用の変速段として、変速比(出力部材Oの回転速度に対する入力部材Iの回転速度の比)の異なる4つの変速段を形成可能に構成されている。前進用の変速段の中で変速比が最も大きい変速段を第一段とすると、駆動力源Eが出力する正方向のトルク(車両を前進させる方向のトルク)を車輪Wに伝達させる場合には、第一クラッチC1を係合状態に制御すると共にそれ以外の変速用係合装置(但し、ワンウェイクラッチFを除く。)を解放状態に制御することで、第一段が形成される。なお、駆動力源Eとしての内燃機関の回転抵抗を利用した制動(いわゆるエンジンブレーキ)を行う場合には、第一クラッチC1に加えて第二ブレーキB2を係合状態に制御することで、第一段が形成される。また、第三クラッチC3及び第二ブレーキB2の双方を係合状態に制御すると共にそれ以外の変速用係合装置を解放状態に制御することで、後進用の変速段が形成される。
変速機構TMがトルクの伝達を行わない状態を「ニュートラル状態」とすると、本実施形態では、変速機構TMが変速段を形成していない状態で、変速機構TMがニュートラル状態となる。すなわち、全ての変速用係合装置が解放されている状態や、変速段を形成するために係合される複数の変速用係合装置(本実施形態では、2つの変速用係合装置)のうちの一部の変速用係合装置が解放されている状態で、変速機構TMがニュートラル状態となる。
上述したように、車両用駆動装置1は、駆動力源Eと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、駆動力源Eの側から順に、変速機構TMとパーキングギヤ2とを備えている。なお、変速機構TMは、出力部材Oと常時連動して回転する回転部材(図1に示す例では、遊星歯車機構を構成するリングギヤ。以下、「連動回転部材」という。)を備えるが、これらの出力部材Oや連動回転部材の上記動力伝達経路における位置は、変速機構TMに対して駆動力源E側とは反対側(すなわち、変速機構TMに対して車輪W側)であるとする。言い換えれば、変速機構TMとパーキングギヤ2との動力伝達経路における配置関係に言及する場合の「変速機構TM」には、出力部材Oや連動回転部材は含めない。よって、パーキングギヤ2は、上記動力伝達経路における出力部材O或いは連動回転部材と同じ位置に設けられ、或いは、上記動力伝達経路における出力部材Oや連動回転部材よりも車輪W側に設けられる。なお、「常時連動して回転」とは、対象とする2つの回転部材のそれぞれの回転速度の関係が、車両用駆動装置1の状態(変速機構TMにおける変速段の形成状態等)によらず、常に一定の比例係数で比例した関係となることを意味する。
上記のように、パーキングギヤ2は、駆動力源Eと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路における変速機構TMよりも車輪W側に設けられる。そして、パーキングギヤ2は、車輪Wと常時連動して回転するように設けられる。すなわち、パーキングギヤ2は、車輪Wとの直接或いは他の部材を介した連結が常時維持されるように設けられる。これにより、パーキングギヤ2の回転がパーキングロック機構10(本実施形態では、パーキングポール11)により規制された状態で、車輪Wがロックされる。本実施形態では、変速機構TMと車輪Wとの間の動力伝達経路を構成する各回転部材は、車輪Wと常時連動して回転するように構成されている。そして、本実施形態では、パーキングギヤ2が、出力部材Oと一体回転するように設けられている。なお、パーキングギヤ2が、カウンタギヤ機構CGのカウンタ軸等の他の回転部材と一体回転するように設けられる構成とすることもできる。
本実施形態では、図2に示すように、パーキングロック機構10は、パーキングギヤ2に係合させる係合部材として、パーキングポール11を備えている。パーキングポール11は、パーキングギヤ2に係合する係合位置(図2に示す位置)と、パーキングギヤ2への係合を解除する非係合位置との間で変位可能に構成されている。パーキングポール11が係合位置に位置する状態では、パーキングポール11の係合部11aがパーキングギヤ2の歯2aと係合し、パーキングポール11とパーキングギヤ2とが係合したロック状態となる。また、パーキングポール11が非係合位置に位置する状態では、パーキングポール11の係合部11aとパーキングギヤ2の歯2aとの係合が解除され、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合が解除された非ロック状態となる。
本実施形態では、パーキングロック機構10は、パーキングポール11を係合位置と非係合位置との間で変位(本実施形態では、揺動)させるためのパーキングロッド12を備えている。パーキングロッド12の先端部(パーキングポール11側の端部)には、パーキングロッド12に対して摺動可能に支持されると共に付勢部材12bにより先端部側に付勢されたカム部材12aが設けられている。また、パーキングポール11は、付勢部材(図示せず)により非係合位置側に付勢されている。そして、図2に示す位置(ここでは、カム部材12aの最も大径の部分がパーキングポール11と支持部材13との間に挟持される位置)までパーキングロッド12がパーキングポール11側に移動することで、付勢部材12bにより付勢された状態のカム部材12aによりパーキングポール11がパーキングギヤ2と係合するように押圧され、パーキングポール11が係合位置に維持される。また、図2に示す位置からパーキングポール11から離れる側にパーキングロッド12が移動することで、パーキングポール11は、係合位置から非係合位置側に付勢部材(図示せず)の付勢力により移動し、パーキングポール11が非係合位置に維持される。このように、パーキングロッド12の進退移動(パーキングポール11に対する遠近方向の移動)に連動して、パーキングポール11が係合位置と非係合位置との間で変位する。
本実施形態では、パーキングロック機構10は、油圧アクチュエータ14によりパーキングロッド12を進退移動させるように構成されている。すなわち、本実施形態では、油圧アクチュエータ14により、パーキングロック機構10の状態がロック状態と非ロック状態との間で切り替えられる。具体的には、油圧アクチュエータ14は、油圧制御装置32(図3参照)から油圧が供給される油室14aと、油室14aに供給される油圧に応じて軸方向L(図2における上下方向)に移動するピストン14bと、ピストン14bに固定されると共に軸方向Lに延びるピストンロッド14cと、ピストン14bを油室14a側に付勢するスプリング14dとを備えている。そして、ピストンロッド14cの先端部(ピストン14bとの連結部とは反対側の端部)が、揺動軸A周りに揺動するように構成されたディテントレバー15に、第一連結部15aにおいて回転自在に連結されている。また、パーキングロッド12の基端部(カム部材12aが設けられる側とは反対側の端部)が、第一連結部15aとは周方向(揺動軸A周りの周方向)の異なる位置に設けられた第二連結部15bにおいて、ディテントレバー15に回転自在に連結されている。これにより、ピストンロッド14cの軸方向Lの移動によりディテントレバー15が揺動軸A周りに揺動し、これに伴いパーキングロッド12がパーキングポール11に対する遠近方向に移動する。なお、ディテントレバー15には、係合部材16が係合する凹部が形成されており、ディテントレバー15の揺動軸A周りの揺動が、係合部材16によってある程度規制されるように構成されている。
本実施形態では、図2に示すように、油室14aに油圧が供給されていない状態では、パーキングロック機構10がロック状態となるように構成されている。そして、油室14aに油圧制御装置32からの油圧(例えば、ライン圧)が供給されると、ピストンロッド14cがスプリング14dの付勢力に抗して軸方向Lにおける油室14aから離れる側(図2における上側)に移動することで、ディテントレバー15が図2における時計回り方向に回転移動し、これに伴いパーキングロッド12がパーキングポール11から離れる側(図2における右側)に移動する。これにより、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられる。また、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられている状態で油室14aへの油圧の供給が停止されると、ピストンロッド14cがスプリング14dの付勢力により軸方向Lにおける油室14a側(図2における下側)に移動することで、ディテントレバー15が図2における反時計回り方向に回転移動し、これに伴いパーキングロッド12がパーキングポール11に近づく側(図2における左側)に移動する。これにより、パーキングロック機構10がロック状態に切り替えられる。
本実施形態では、パーキングロック機構10は、ロック装置19を備えている。ロック装置19についての詳細は省略するが、ロック装置19は、ピストンロッド14cの軸方向Lの移動を規制する規制状態と、ピストンロッド14cの軸方向Lの移動を許容する許容状態とに切替可能に構成される。パーキングロック機構10のロック状態と非ロック状態との間での切り替え時には、ロック装置19は許容状態に切り替えられる。一方、パーキングロック機構10の状態をロック状態又は非ロック状態に維持する場合には、ロック装置19は規制状態に切り替えられる。これにより、例えば、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられている状態において油室14aに供給される油圧が低下した場合であっても、ピストンロッド14cが軸方向Lにおける油室14a側に移動することを規制して、パーキングロック機構10を非ロック状態に維持することができる。パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられている状態において油室14aに供給される油圧が低下する状況の一例として、車両の主電源をオン状態としたまま駆動力源Eとしての内燃機関への燃料供給を停止するアイドリングストップ制御を実行する状況を挙げることができる。
2.制御装置の構成
制御装置30は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、RAMやROM等の記憶装置等を有して構成される。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置30が実行する各機能が実現される。制御装置30が備える演算処理装置は、各プログラムを実行するコンピュータとして動作する。なお、制御装置30が、互いに通信可能な複数のハードウェア(複数の分離したハードウェア)の集合によって構成されても良い。
制御装置30は、車両の各部に備えられた各種センサの検出結果の情報を取得可能に構成される。本実施形態では、図3に示すように、制御装置30は、レンジセンサSe1、アクセル開度センサSe2、ブレーキセンサSe3、パーキングブレーキセンサSe4、勾配センサSe5、油温センサSe6、回転速度センサSe7、及びパーキングロックセンサSe8のそれぞれの検出結果の情報を取得可能に構成されている。なお、制御装置30が、他の制御装置(例えば、後述する駆動力源制御装置31等)から、少なくともいずれかのセンサの検出情報を取得する構成とすることもできる。
レンジセンサSe1は、車両に設けられたレンジ選択装置91(シフト操作装置)により選択されたレンジ(シフトレンジ)を検出する。レンジ選択装置91は、車両の運転者により操作される。レンジ選択装置91として、例えば、複数のレンジの中から1つのレンジを選択するためのシフトレバーやスイッチが設けられた構成とすることができる。レンジ選択装置91により選択可能なレンジには、車両を前進させる走行レンジである前進走行レンジ(Dレンジ)、車両を後進させる走行レンジである後進走行レンジ(Rレンジ)、変速機構TMをニュートラル状態とするためのニュートラルレンジ(Nレンジ)、変速機構TMをニュートラル状態とすると共に車輪Wをロックするパーキングレンジ(Pレンジ)が含まれる。制御装置30は、レンジ選択装置91によりPレンジが選択された場合には、パーキングロック機構10をロック状態となるように制御し、レンジ選択装置91によりPレンジ以外のレンジが選択された場合には、パーキングロック機構10を非ロック状態となるように制御する。すなわち、パーキングロック機構10は、レンジ選択装置91とは機械的に連結されておらず、パーキングロック機構10の状態は、レンジセンサSe1による検出情報に基づき制御装置30により制御される。
アクセル開度センサSe2は、車両に設けられたアクセルペダル92の操作量を検出する。すなわち、アクセル開度センサSe2は、運転者によるアクセルペダル92の踏み込み量に応じたアクセル開度を検出する。ブレーキセンサSe3は、車両に設けられたブレーキペダル93の操作量を検出する。すなわち、ブレーキセンサSe3は、運転者によるブレーキペダル93の踏み込み量に応じたブレーキ操作量を検出する。パーキングブレーキセンサSe4は、車両に設けられたパーキングブレーキ94の作動状態を検出する。パーキングブレーキ94は、ブレーキペダル93により操作される常用ブレーキとは別の駐車ブレーキである。
勾配センサSe5は、車両が走行する道路(路面)の勾配を検出する。勾配センサSe5は、車両の前後方向の水平面に対する傾斜角を検出することにより路面の勾配を検出する。勾配センサSe5は、例えば、振子部材を備えた傾斜センサにより構成される。油温センサSe6は、車両用駆動装置1内の油温を検出する。回転速度センサSe7は、車両用駆動装置1に備えられる回転部材、或いは車両用駆動装置1に駆動連結される回転部材(駆動力源Eの出力部材、車輪W等)の回転速度を検出する。本実施形態では、複数の回転速度センサSe7が車両に備えられている。具体的には、駆動力源E又は駆動力源Eと同期回転する回転部材の回転速度を検出するセンサ、入力部材I又は入力部材Iと同期回転する回転部材の回転速度を検出するセンサ、出力部材O又は出力部材Oと同期回転する回転部材の回転速度を検出するセンサが、回転速度センサSe7として車両に設けられている。なお、同期回転とは、一体回転すること、又は比例した回転速度で回転することを意味する。
パーキングロックセンサSe8は、パーキングロック機構10の状態に関する物理量を検出する。制御装置30は、パーキングロックセンサSe8の検出結果の情報に基づき、パーキングロック機構10がロック状態であるか否かを判別する。例えば、ディテントレバー15の回転位置を検出するセンサ及びピストンロッド14cの位置を検出するセンサの一方又は双方が、パーキングロックセンサSe8として車両に設けられる。
図3に示すように、制御装置30は、変速機構TM及びパーキングロック機構10を制御対象とする。また、制御装置30は、駆動力源Eも制御対象とする。制御装置30は、センサ検出情報(アクセル開度、車速、シフトレンジ等の情報)に基づき、車輪Wの駆動のために要求される車輪要求トルクや、変速機構TMに形成させる目標変速段を決定する。そして、制御装置30は、決定した車輪要求トルクに基づき駆動力源Eの目標トルクを決定し、当該目標トルクを出力するように駆動力源Eを制御する。本実施形態では、制御装置30は、駆動力源制御装置31を介して駆動力源Eの制御を行うように構成されており、駆動力源制御装置31が、制御装置30から指令された目標トルクを出力するように、駆動力源Eを制御する。また、駆動力源制御装置31は、制御装置30から駆動力源Eとしての内燃機関の始動要求があった場合には、内燃機関への燃料供給や点火を開始する等して内燃機関を始動させ、制御装置30から駆動力源Eとしての内燃機関の停止要求があった場合には、内燃機関への燃料供給や点火を停止する等して内燃機関を停止させる。
また、制御装置30は、決定した目標変速段を形成するよう変速機構TMを制御する。具体的には、制御装置30は、決定した目標変速段を形成するように、複数の変速用係合装置のそれぞれの係合の状態を制御する。本実施形態では、変速機構TMが備える複数の変速用係合装置(但し、ワンウェイクラッチFを除く。)は、油圧駆動式の係合装置(本例では、油圧駆動式の摩擦係合装置)である。制御装置30は、変速用係合装置のそれぞれに供給される油圧を油圧制御装置32を介して制御することで、変速用係合装置のそれぞれの係合の状態を制御する。変速用係合装置のそれぞれの係合の状態は、供給される油圧に応じて、直結係合状態、滑り係合状態、及び解放状態のいずれかに制御される。
本実施形態では、上述したように、パーキングロック機構10の状態が、油圧アクチュエータ14によりロック状態と非ロック状態との間で切り替えられる。よって、本実施形態では、制御装置30は、油圧アクチュエータ14(本実施形態では、油室14a)に供給される油圧を油圧制御装置32を介して制御することで、パーキングロック機構10の状態を制御する。詳細は省略するが、油圧制御装置32は、オイルポンプOPから供給される作動油の油圧を調整するための複数の油圧制御弁(リニアソレノイド弁等)を備えている。本実施形態では、この複数の油圧制御弁には、オイルポンプOPの吐出圧をライン圧に制御するライン圧制御弁(プレッシャーレギュレータバルブ)、変速用係合装置に供給される油圧を制御するためのリニアソレノイド弁、作動油圧(本実施形態では、ライン圧)が油圧アクチュエータ14に供給される状態と供給されない状態とを切り替える切替弁が含まれる。
制御装置30は、変速機構TMがトルクの伝達を行わないニュートラル状態であり、パーキングロック機構10がパーキングポール11をパーキングギヤ2に係合させたロック状態であり、且つ、車両が坂路に停止している状態において、車両に設けられたレンジ選択装置91により車両を前進又は後進させる走行レンジが選択された場合に、ロック解除制御を実行する。すなわち、制御装置30は、Pレンジで車両が坂路に停止している状態において、レンジ選択装置91によりDレンジ又はRレンジ(言い換えれば、Nレンジ以外のレンジ)が選択された場合に、ロック解除制御を実行する。
ロック解除制御は、反対トルクT2が駆動力源E側からパーキングギヤ2に伝達されるように変速機構TMを制御すると共に、反対トルクT2がパーキングギヤ2に伝達されている状態でパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除する制御である。ここで、反対トルクT2は、図2に示すように、路面の勾配に応じて車輪W側からパーキングギヤ2に作用するトルク(以下、「路面勾配トルクT1」という。)とは、反対方向のトルクである。よって、車両が登坂路に停止している場合には、反対トルクT2は、車両を前進させる方向のトルクとなり、車両が降坂路に停止している場合には、反対トルクT2は、車両を後進させる方向のトルクとなる。本実施形態では、車両が登坂路に停止している場合には、前進用の変速段(基本的に、第一段)を形成するように変速機構TMを制御することで、反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させる。また、本実施形態では、車両が降坂路に停止している場合には、後進用の変速段を形成するように変速機構TMを制御することで、反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させる。
上記のように、反対トルクT2がパーキングギヤ2に伝達されている状態でパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除することで、反対トルクT2がパーキングギヤ2に伝達されていない状態でパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除する場合に比べて、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替わる時点でパーキングギヤ2に蓄積されている荷重(より詳しくは、パーキングギヤ2とパーキングポール11との係合部に蓄積されている荷重)の大きさを低減することが可能となる。すなわち、図2に示すように、パーキングギヤ2に対して路面勾配トルクT1が作用している状態では、パーキングポール11の係合部11aにおける路面勾配トルクT1とは反対方向を向く面に対して、パーキングギヤ2の歯2aが、路面勾配トルクT1に応じた大きさの力で押し付けられた状態となる。上記のように反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させることで、パーキングポール11の係合部11aに対するパーキングギヤ2の歯2aの押し付け力を低減して、パーキングギヤ2に蓄積されている荷重の大きさを低減することができる。この結果、パーキングロック機構10を非ロック状態に切り替える際に発生し得るショックを低減することが可能となる。詳細は省略するが、変速機構TMがニュートラル状態であり、パーキングロック機構10がロック状態であり、且つ、車両が坂路ではなく平坦路に停止している状態において、レンジ選択装置91により車両を前進又は後進させる走行レンジが選択された場合には、ここでのロック解除制御とは異なり、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除した後、選択された走行レンジを形成するように変速機構TMが制御される。
ところで、ロック解除制御として、反対トルクT2が駆動力源E側からパーキングギヤ2に伝達されるように変速機構TMを制御すると共に、反対トルクT2がパーキングギヤ2に伝達されている状態でパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除する制御を行う場合、変速機構TMをニュートラル状態としたままパーキングロック機構10を非ロック状態に切り替える場合に比べて、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替わるまでの間により多くの制御が行われる。よって、それほど高い可能性ではないものの、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替わるまでの間に何らかの異常が生じる可能性が、より多くの制御が行われる分だけ高くなる。
上記の点に鑑みて、制御装置30は、ロック解除制御の実行中に強制終了条件が満たされた場合には、ロック解除制御を終了し、変速機構TMがニュートラル状態であり且つパーキングロック機構10がロック状態である状態に戻すように構成されている。これにより、何らかの異常が生じた場合には、パーキングロック機構10をロック状態に戻すことで、車輪Wをロックして車両が移動しない状態とすることできる。また、何らかの異常が生じた場合には、変速機構TMをニュートラル状態に戻すことで、変速機構TMの損傷、変速機構TMの耐久性の低下、及び、変速機構TMを介したショックの伝達を抑制することができる。例えば、変速用係合装置が滑り係合状態に制御される状態が、何らかの異常によりロック解除制御を適切に進行させることができないために長く継続することを回避して、変速用係合装置の損傷や変速用係合装置の耐久性の低下を抑制することができる。
本実施形態では、車両用駆動装置1の内部状態を検出するセンサ(以下、「内部状態検出センサ」という。)の異常と、車両用駆動装置1の内部状態を制御する油圧制御装置32の異常との、少なくとも一方が生じた場合に強制終了条件が満たされる。すなわち、内部状態検出センサに異常が生じた場合、油圧制御装置32に異常が生じた場合、内部状態検出センサ及び油圧制御装置32の双方に異常が生じた場合の、いずれの場合にも、強制終了条件が満たされる。制御装置30は、例えば、内部状態検出センサから取得する信号に基づき、当該内部状態検出センサに異常が生じているか否かを判定する。例えば、内部状態検出センサから取得する信号が、エラーを表す信号や、異常の値を示す信号である場合に、当該内部状態検出センサに異常が生じていると判定される。また、制御装置30は、例えば、油圧制御装置32の異常を検出する検出回路を備え、当該検出回路の出力に基づき、油圧制御装置32に異常が生じているか否かを判定する。本実施形態では、油圧制御装置32が「内部状態制御装置」に相当する。
本実施形態では、少なくとも、レンジセンサSe1、油温センサSe6、回転速度センサSe7、及びパーキングロックセンサSe8が、内部状態検出センサに相当する。なお、油温センサSe6の検出結果の情報は、例えば、変速用係合装置の温度を推定するために用いられる。そして、これらの内部状態検出センサの検出結果の情報は、ロック解除制御を適切に進行させるために必要な情報であり、これらのいずれかの内部状態検出センサに異常が生じた場合に強制終了条件が満たされる構成とすることで、ロック解除制御を適切に進行させることができない場合にロック解除制御を強制終了することができる。また、油圧制御装置32に異常が生じた場合には、変速機構TMやパーキングロック機構10を適切に制御することができないため、油圧制御装置32に異常が生じた場合に強制終了条件が満たされる構成とすることで、変速機構TMやパーキングロック機構10を適切に制御することができない場合にロック解除制御を強制終了することができる。なお、油圧制御装置32の異常の例として、ソレノイド弁の電磁部(アクチュエータとして機能する部分)や電磁部への配線の異常(断線や抵抗値の異常増加等)を挙げることができる。
また、本実施形態では、制御装置30は、車両用駆動装置1の制御に用いる情報を、車両用駆動装置1とは別の装置である駆動力源制御装置31との通信により取得するように構成されている。上述したように、制御装置30は、駆動力源制御装置31を介して駆動力源Eを制御するように構成しており、制御装置30は、駆動力源Eの制御状態に関する情報(例えば、駆動力源Eの回転速度の情報や、スロットル開度の情報等)を、駆動力源制御装置31との通信により取得するように構成されている。そして、本実施形態では、制御装置30と駆動力源制御装置31との通信に異常が生じた場合にも強制終了条件が満たされる。反対トルクT2の大きさは、駆動力源Eの出力トルクの大きさに応じて変化するため、反対トルクT2の大きさを適切に制御するためには、スロットル開度の情報等の駆動力源Eの出力トルクの大きさに関する情報が必要となる。この点に関し、上記のように制御装置30と駆動力源制御装置31との通信に異常が生じた場合に強制終了条件が満たされる構成とすることで、反対トルクT2の大きさを適切に制御できない場合にロック解除制御を強制終了することができる。本実施形態では、駆動力源制御装置31が「通信対象装置」に相当する。
本実施形態では、制御装置30は、図4に示す手順に沿って、ロック解除制御を実行する。制御装置30は、ロック解除制御の実行条件が成立したか否かの判定を行う(ステップ#01)。ロック解除制御は、変速機構TMがニュートラル状態であり、パーキングロック機構10がロック状態であり、且つ、車両が坂路に停止している状態において、レンジ選択装置91により車両を前進又は後進させる走行レンジが選択された場合に成立する。ここで、路面の勾配は、例えば、勾配センサSe5の検出結果の情報から取得し、或いは、地図情報に基づき取得することができる。そして、制御装置30は、車両が停止している路面の勾配の大きさが予め定められた勾配判定閾値以上である場合に、車両が坂路に停止していると判定する。勾配判定閾値は、例えば、水平方向の変化に対する水平面からの距離の比で表した場合に5〔%〕〜15〔%〕の範囲に含まれる値に設定し、或いは、角度に換算した場合に3度〜10度の範囲に含まれる値に設定することができる。
ロック解除制御の実行条件に、更に別の条件を含めることも可能である。上述したように、車両には、ブレーキペダル93により操作される常用ブレーキと、パーキングブレーキ94とが備えられる。そして、常用ブレーキ及びパーキングブレーキ94の少なくとも一方の制動力により車両が停止している状態でパーキングロック機構10が非ロック状態からロック状態に切り替えられ、その後も当該制動力が維持される場合には、パーキングギヤ2には大きな路面勾配トルクT1は作用しない。この点に鑑みて、常用ブレーキ又はパーキングブレーキ94の作動状態を、ロック解除制御の実行条件に含めることができる。例えば、ロック解除制御の実行条件の成立の有無を判断する時点(以下、「判断時点」という。)で常用ブレーキが作動していないこと、判断時点で常用ブレーキによる制動力が予め定められた閾値以下であること、判断時点でパーキングブレーキ94が作動していないこと、パーキングロック機構10がロック状態に切り替えられた時点から判断時点までの間に常用ブレーキが一旦作動しない状態とされたこと、パーキングロック機構10がロック状態に切り替えられた時点から判断時点までの間にパーキングブレーキ94が一旦作動しない状態とされたことの、少なくともいずれかを、ロック解除制御の実行条件に含めることができる。
制御装置30は、ロック解除制御の実行条件が成立すると(ステップ#01:Yes)、反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させるための変速機構TMの制御を開始する(ステップ#02)。具体的には、車両が登坂路に停止している場合には、前進用の変速段を形成させるための変速機構TMの制御を開始し、車両が降坂路に停止している場合には、後進用の変速段を形成させるための変速機構TMの制御を開始する。なお、この時点で駆動力源Eとしての内燃機関が始動していない場合には、制御装置30は、内燃機関の始動制御も実行する。そして、係合解除制御の開始条件が成立するまでの間に(ステップ#04:Yes)、強制終了条件が成立した場合(満たされた場合)には(ステップ#03:Yes)、制御装置30は、変速機構TMがニュートラル状態であり且つパーキングロック機構10がロック状態である状態に戻す制御を実行し(ステップ#08)、ロック解除制御は強制終了される。なお、この時点で強制終了条件が成立する場合には、パーキングロック機構10はロック状態のままであるため、ステップ#08の処理では、変速機構TMの状態をニュートラル状態に戻す制御が実行される。
ステップ#02の制御を開始した後の時点で、反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達が開始される。反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達が開始されるタイミングを判定する場合には、この判定は、例えば、変速段の形成のために係合される変速用係合装置の係合圧指令(油圧指令)の現在の値、当該係合圧指令の変化パターンにおける現在の位置、変速段の形成のために係合される変速用係合装置を係合させる制御を開始してからの経過時間、トルクコンバータTCの速度比の変化、タービンランナTCb(入力部材I)の回転速度の変化等に基づく判定とすることができる。例えば、変速用係合装置の係合圧指令の変化パターンが、係合圧指令が予め定められたプリチャージ圧(ファーストフィルのための圧)に設定されるプリチャージ期間と、係合圧指令がプリチャージ圧よりも低い待機圧に設定される待機期間と、係合圧指令が待機圧から次第に上昇するように設定されるスイープ期間とが順に設定されるパターンである場合に、待機期間の終了時点(スイープ期間の開始時点)に到達したことを条件に、反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達が開始されたと判定する構成とすることができる。また、反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させるための変速機構TMの制御を開始してからのトルクコンバータTCの速度比の変化量、或いはタービンランナTCbの回転速度の変化量が、予め定められた閾値以上となったことを条件に、反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達が開始されたと判定する構成とすることもできる。
制御装置30は、反対トルクT2の伝達制御(ステップ#02)を開始した後、強制終了条件が成立していないことを条件に(ステップ#03:No)、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除する係合解除制御の開始条件が成立したか否かの判定を行う(ステップ#04)。ステップ#04の判定は、例えば、反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達制御を開始してからの経過時間や、反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達が開始されてからの経過時間に基づく判定とすることができる。すなわち、当該経過時間が予め定められた判定閾値以上となったことを条件に、係合解除制御の開始条件が成立したと判定する構成とすることができる。この場合の判定閾値は、パーキングギヤ2に蓄積されている荷重が、目標荷重まで低下したと推定される値に設定される。目標荷重は、パーキングギヤ2に当該目標荷重の大きさの荷重が蓄積されている場合におけるパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除する際に発生するショックが、許容範囲内となる大きさに設定される。判定閾値の値は、例えば、路面勾配トルクT1の大きさ(路面の勾配の大きさ)、駆動力源Eの出力トルクの大きさ、変速用係合装置の係合圧指令の値或いは変化率等に応じて可変に設定される。
制御装置30は、強制終了条件が成立することなく係合解除制御の開始条件が成立すると(ステップ#03:No、ステップ#04:Yes)、係合解除制御を開始する(ステップ#05)。すなわち、制御装置30は、パーキングロック機構10をロック状態から非ロック状態に切り替えるための制御を開始する。そして、パーキングポール11(係合部材)とパーキングギヤ2(回転部材)との係合が解除されるまでの間に(ステップ#07:No)、強制終了条件が成立した場合には(ステップ#06:Yes)は、制御装置30は、変速機構TMがニュートラル状態であり且つパーキングロック機構10がロック状態である状態に戻す制御(ステップ#08)を実行し、ロック解除制御は強制終了される。一方、強制終了条件が成立することなくパーキングポール11(係合部材)とパーキングギヤ2(回転部材)との係合が解除されると(ステップ#06:No、ステップ#07:Yes)、すなわち、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられると、ロック解除制御の処理が終了する。ステップ#07の判定は、例えば、パーキングロックセンサSe8の検出結果の情報に基づく判定とすることができる。この場合、パーキングロックセンサSe8の構成によっては、パーキングロックセンサSe8の検出結果の情報に基づきパーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられたと判定される時点が、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合が完全に解除される時点よりも前の時点となる場合がある。
本実施形態に係る制御装置30により実行されるロック解除制御の具体的内容について、図5に示す例を参照して説明する。この例では、車両が登坂路に停止している状態でレンジ選択装置91によりDレンジが選択されることでロック解除制御の実行条件が成立し、変速機構TMにより第一段が形成されることにより反対トルクT2がパーキングギヤ2に伝達される状況を想定している。また、ここでは、ロック解除制御が終了する時点(時刻t5)までの間に強制終了条件が満たされない状況を想定している。時刻t1においてロック解除制御の実行条件が成立すると、時刻t2において、変速機構TMに第一段を形成させるための制御が開始される。具体的には、時刻t2において第一クラッチC1の係合圧指令がプリチャージ圧までステップ的に増加され、その後、第一クラッチC1の係合圧指令が待機圧に維持される。
時刻t3において第一クラッチC1の係合圧指令の漸増が開始されることで、反対トルクT2のパーキングギヤ2への伝達が開始される。これにより、時刻t3以降、パーキングギヤ2に蓄積されている荷重の推定値(推定荷重)が低下し始める。なお、駆動力源Eからパーキングギヤ2へ反対トルクT2が伝達されることに応じて、タービンランナTCbの回転速度が駆動力源Eの回転速度に対して下降している。なお、本例では、時刻t3において、レンジ選択装置91により選択された走行レンジに対応する伝達状態での変速機構TMによるトルクの伝達(選択された走行レンジに対応する変速段での変速機構TMによるトルクの伝達)が開始されている。
時刻t4においてパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合を解除する係合解除制御の開始条件が成立すると、パーキングロック機構10をロック状態から非ロック状態に切り替えるための制御が開始される。これにより、パーキングポール11の位置が、ロック側の位置(ロック状態での位置)から非ロック側の位置(非ロック状態での位置)に向けて移動(揺動)し始める。本例では、時刻t4以降、第一クラッチC1の係合圧指令が一定に維持されている。
時刻t5においてパーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられたと判定される。なお、本例では、時刻t6においてパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合が完全に解除されるが、それよりも前の時刻t5において、パーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられたと判定される。時刻t5においてパーキングロック機構10が非ロック状態に切り替えられたと判定されたことに応じて、時刻t5以降、第一クラッチC1の係合圧指令が、第一クラッチC1を直結係合させる圧(例えば、完全係合圧)に向けて上昇される。その後、時刻t6においてパーキングポール11とパーキングギヤ2との係合が完全に解除される際に、その時点でパーキングギヤ2に蓄積されている荷重の大きさに応じたショックが車両に発生し(図5における車両の加速度を示す線を参照)、その後、駆動力源Eの出力トルクに応じた加速度で車両が発進する。ここで、パーキングポール11とパーキングギヤ2との係合が解除される時点(時刻t6)でパーキングギヤ2に蓄積されている荷重の大きさは、本実施形態に係る制御を実行しない場合の大きさ(時刻t3での推定荷重と同程度の荷重)に比べて低下されているため、車両には大きなショックは発生しない。
3.その他の実施形態
制御装置のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
(1)上記の実施形態では、内部状態検出センサに異常が生じた場合、油圧制御装置32に異常が生じた場合、及び制御装置30と駆動力源制御装置31との通信に異常が生じた場合の、いずれの場合にも、強制終了条件が満たされる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、これらのうちのいずれかの場合にのみ、強制終了条件が満たされる構成とすることもできる。また、上記の3つの場合とは異なる場合にも、強制終了条件が満たされる構成とすることもできる。例えば、制御装置30内での通信に異常が生じた場合に強制終了条件が満たされる構成や、駆動力源制御装置31とは異なる通信対象装置(例えば、制御装置30よりも上位の制御装置)と制御装置30との通信に異常が生じた場合に強制終了条件が満たされる構成とすることができる。
(2)上記の実施形態では、パーキングロック機構10の状態が、油圧アクチュエータ14によりロック状態と非ロック状態との間で切り替えられる構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、パーキングロック機構10の状態が、電動アクチュエータによりロック状態と非ロック状態との間で切り替えられる構成とすることもできる。この場合、当該電動アクチュエータの制御装置が、車両用駆動装置1の内部状態を制御する「内部状態制御装置」に相当する。
(3)上記の実施形態では、変速機構TMに備えられる変速用係合装置(ワンウェイクラッチFを除く。)が、油圧駆動式の係合装置である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されず、電磁石の駆動力やサーボモータの駆動力等の油圧以外の駆動力により制御される係合装置が、変速用係合装置として変速機構TMに備えられても良い。この場合、当該油圧以外の駆動力を発生する装置の制御装置が、車両用駆動装置1の内部状態を制御する「内部状態制御装置」に相当する。
(4)上記の実施形態では、変速機構TMが自動有段変速機構である構成を例として説明した。しかし、そのような構成に限定されることなく、例えば、変速機構TMが、前後進切替機構と、変速比を無段階に(すなわち連続的に)変化させる無段変速機構(例えば、ベルト式の無段変速機構)とを備える構成とすることもできる。詳細は省略するが、前後進切替機構は、前進用係合装置と後進用係合装置とを備える。そして、前後進切替機構は、前進用係合装置が係合されると共に後進用係合装置が解放された状態で、駆動力源Eの回転を車両が前進する回転方向で車輪Wに伝達するように構成され、前進用係合装置が解放されると共に後進用係合装置が係合された状態で、駆動力源Eの回転を車両が後進する回転方向で車輪Wに伝達するように構成される。また、前後進切替機構は、前進用係合装置及び後進用係合装置の双方が解放された状態では、トルクの伝達を行わない状態となる。すなわち、前進用係合装置及び後進用係合装置の双方が解放された状態で、前後進切替機構を備えた変速機構TMの状態がニュートラル状態となる。このように、変速機構TMが、前後進切替機構と無段変速機構とを備える構成とした場合、制御装置30は、車両が登坂路に停止している場合にロック解除制御を実行する場合には、前進用係合装置及び後進用係合装置のうちの前進用係合装置のみを係合させて、車両を前進させる方向の反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させる。また、制御装置30は、車両が降坂路に停止している場合にロック解除制御を実行する場合には、前進用係合装置及び後進用係合装置のうちの後進用係合装置のみを係合させて、車両を後進させる方向の反対トルクT2をパーキングギヤ2に伝達させる。
(5)その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で単なる例示に過ぎないと理解されるべきである。従って、当業者は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜、種々の改変を行うことが可能である。
4.上記実施形態の概要
以下、上記において説明した制御装置の概要について説明する。
駆動力源(E)と車輪(W)とを結ぶ動力伝達経路に前記駆動力源(E)の側から順に変速機構(TM)と回転部材(2)とが設けられると共に、係合部材(11)を前記回転部材(2)に係合させて前記回転部材(2)の回転を規制するパーキングロック機構(10)が設けられた車両用駆動装置(1)を制御対象とする制御装置(30)であって、前記変速機構(TM)がトルクの伝達を行わないニュートラル状態であり、前記パーキングロック機構(10)が前記係合部材(11)を前記回転部材(2)に係合させたロック状態であり、且つ、車両が坂路に停止している状態において、前記車両に設けられたレンジ選択装置(91)により前記車両を前進又は後進させる走行レンジが選択された場合に、ロック解除制御を実行し、路面の勾配に応じて前記車輪(W)側から前記回転部材(2)に作用するトルク(T1)とは反対方向のトルクを反対トルク(T2)として、前記ロック解除制御は、前記反対トルク(T2)が前記駆動力源(E)側から前記回転部材(2)に伝達されるように前記変速機構(TM)を制御すると共に、前記反対トルク(T2)が前記回転部材(2)に伝達されている状態で前記係合部材(11)と前記回転部材(2)との係合を解除する制御であり、前記ロック解除制御の実行中に強制終了条件が満たされた場合には、前記ロック解除制御を終了し、前記変速機構(TM)が前記ニュートラル状態であり且つ前記パーキングロック機構(10)が前記ロック状態である状態に戻す。
この構成によれば、ロック解除制御の実行中に強制終了条件が満たされた場合には、ロック解除制御が終了される。よって、想定される異常を予め強制終了条件として定めておくことで、ロック解除制御を開始してからパーキングロック機構(10)が非ロック状態に切り替わるまでの間に何らかの異常が生じた場合に、ロック解除制御が強制終了される構成とすることができる。そして、上記の構成によれば、ロック解除制御の実行中に強制終了条件が満たされた場合には、変速機構(TM)がニュートラル状態であり且つパーキングロック機構(10)がロック状態である状態に戻される。よって、何らかの異常が生じた場合には、変速機構(TM)に走行レンジを形成させるための制御を中止することができ、この結果、変速機構(TM)の損傷、変速機構(TM)の耐久性の低下、及び、変速機構(TM)を介したショックの伝達を抑制することができる。また、何らかの異常が生じた場合には、パーキングロック機構(10)がロック状態に戻されるため、車輪(W)をロックして車両が移動しない状態とすることができる。
以上のように、上記の構成によれば、ロック解除制御を開始してからパーキングロック機構(10)が非ロック状態に切り替わるまでの間に何らかの異常が生じた場合に、ロック解除制御を適切に終了することが可能となる。
ここで、前記車両用駆動装置(1)の内部状態を検出するセンサの異常と、前記車両用駆動装置(1)の内部状態を制御する内部状態制御装置(32)の異常との、少なくとも一方が生じた場合に前記強制終了条件が満たされると好適である。
この構成によれば、車両用駆動装置(1)の制御に直接的に関係する異常を強制終了条件として定めることができるため、ロック解除制御を強制的に終了することが特に望ましい状況において、ロック解除制御を適切に終了することができる。
また、前記車両用駆動装置(1)の制御に用いる情報を、前記車両用駆動装置(1)とは別の通信対象装置(31)との通信により取得するように構成され、前記通信対象装置(31)との通信に異常が生じた場合にも前記強制終了条件が満たされると好適である。
この構成によれば、車両用駆動装置(1)の制御に関係する情報を外部から取得するための通信の異常を強制終了条件として定めることができ、このような異常に基づいてロック解除制御を強制的に終了することが望ましい状況においても、ロック解除制御を適切に終了することができる。