以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「導電体付シート」は板やフィルムと呼ばれ得るような部材をも含む概念であり、したがって、「導電体付シート」は、「導電体付板(基板)」や「導電体付フィルム」と呼ばれる部材と、呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
また、「シート面(板面、フィルム面)」とは、対象となるシート状(板状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるシート状部材(板状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。また、シート状(板状、フィルム状)の部材に対して用いる法線方向とは、当該シート状(板状、フィルム状)の部材のシート面(板面、フィルム面)への法線方向のことを指す。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
図1〜図9は、本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち図1は、発熱板を備えた自動車を概略的に示す図であり、図2は、発熱板をその板面の法線方向から見た図であり、図3は、図2のIII−III線に沿った発熱板の断面図である。
図1に示されているように、乗り物の一例としての自動車1は、フロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ等の窓ガラスを有している。ここでは、フロントウィンドウ5が発熱板10で構成されているとする。また、自動車1はバッテリー等の電源7を有している。
この発熱板10をその板面の法線方向から見たものを図2に示す。また、図2の発熱板10のIII−III線に対応する断面図を図3に示す。図3に示された例では、発熱板10は、一対の基板11,12と、一対の基板11,12の間に配置された導電体付きシート20と、基板11,12と導電体付きシート20とを接合する接合層13,14と、を有している。なお、図1に示した例では、発熱板10は三次元的に湾曲しているが、その他の図では、図示の簡略化および理解の容易化のために、発熱板10および基板11,12を平板状にて図示している。
また、図2及び図3によく示されているように、発熱板10は、発熱用導電体30に通電するための配線部15を有している。図示された例では、バッテリー等の電源7によって、配線部15からバスバー25を介して発熱用導電体30に通電し、発熱用導電体30を抵抗加熱により発熱させる。発熱用導電体30で発生した熱は基板11,12に伝わり、基板11,12が温められる。これにより、基板11,12に付着した結露による曇りを取り除くことができる。また、基板11,12に雪や氷が付着している場合には、この雪や氷を溶かすことができる。したがって、乗員の視界が良好に確保される。尚、図示は省略するが、通常、電源7と発熱用導電体30のバスバー25との間に、開閉器が挿入(直列に接続)される。そして、発熱板10の加熱が必要な時のみ開閉器を閉じて発熱用導電体30に通電する。
以下、発熱板10の各構成要素、すなわち、基板11,12、接合層13,14および導電体付きシート20について説明する。
まず、基板11,12について説明する。基板11,12は、図1で示された例のように自動車のフロントウィンドウに用いる場合、乗員の視界を妨げないよう可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。このような基板11,12の材質としては、ソーダライムガラスや青板ガラスが例示できる。基板11,12の可視光透過率は90%以上であることが好ましい。ここで、基板11,12の可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV−3100PC」、JIS K 0115準拠品)を用いて測定波長380nm〜780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。なお、基板11,12の一部または全体に着色するなどして、この一部分の可視光透過率を低くしてもよい。この場合、太陽光の直射を遮ったり、車外から車内を視認しにくくしたりすることができる。
また、基板11,12は、1mm以上5mm以下の厚みを有していることが好ましい。このような厚みであると、強度及び光学特性に優れた基板11,12を得ることができる。一対の基板11,12は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
次に、接合層13,14について説明する。一方の接合層13が、一方の基板11と導電体付きシート20との間に配置され、一方の基板11と導電体付きシート20とを互いに接合する。他方の接合層14が、他方の基板12と導電体付きシート20との間に配置され、他方の基板12と導電体付きシート20とを互いに接合する。
このような接合層13,14としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。また、接合層13,14は、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。典型的な接合層としては、ポリビニルブチラール(PVB)からなる層を例示することができる。接合層13,14の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。一対の接合層13,14は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
なお、発熱板10には、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層が設けられても良い。また、1つの機能層が2つ以上の機能を発揮するようにしてもよいし、例えば、発熱板10の基板11,12、接合層13,14、後述する導電体付きシート20の基材フィルム21の、少なくとも一つに何らかの機能を付与するようにしてもよい。発熱板10に付与され得る機能としては、一例として、反射防止(AR)機能、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等を例示することができる。
次に、導電体付きシート20について説明する。導電体付きシート20は、基材フィルム21と、一対のバスバー25と、基材フィルム21の一方の基板11に対面する面上に設けられた発熱用導電体30と、を有する。本実施の形態において、導電体付きシート20は、基板11,12と略同一の平面寸法を有して、発熱板10の全体にわたって配置されているが、図1の例における運転席の正面部分等、発熱板10の一部にのみ配置されてもよい。以下、導電体付きシート20の各構成要素について説明する。
基材フィルム21は、発熱用導電体30を支持する基材として機能する。基材フィルム21は、可視光線波長帯域の波長(380nm〜780nm)を透過する一般に言うところの透明である電気絶縁性のフィルムである。基材フィルム21としては、可視光を透過し、発熱用導電体30を適切に支持し得るものであればいかなる材質のものでもよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等を挙げることができる。また、基材フィルム21は、光透過性や、発熱用導電体30の適切な支持性等を考慮すると、0.03mm以上0.20mm以下の厚みを有していることが好ましい。
なお、「透明」とは、当該基材フィルムを介して当該基材フィルムの一方の側から他方の側を透視し得る程度の透明性を有していることを意味しており、例えば、30%以上、より好ましくは70%以上の可視光透過率を有していることを意味する。可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV−3100PC」、JISK0115準拠品)を用いて測定波長380nm〜780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。
バスバー25は、対応する配線部15と電気的に接続されている。一対のバスバー25間には、配線部15と接続された電源7の電圧が印加されるようになる。一対のバスバー25は、互いが平行となるように配置されている。また、各バスバー25は、導電体付きシート20における外縁部近傍に配置されている。
次に、図4を参照しながら、発熱用導電体30について説明する。図4は、導電体付きシート20をそのシート面の法線方向から見た平面図である。
発熱用導電体30は、一対のバスバー25に間に配置されており、一対のバスバー25間を結ぶようにそれぞれ電気的に接続されている。発熱用導電体30は、所定のパターンで配置された線状導電体31によって形成されている。発熱用導電体30は、配線部15及びバスバー25を介して電圧を印加されると、抵抗加熱によって発熱する。そして、この熱が接合層13,14を介して基板11,12に伝わることで、基板11,12が温められる。
図4に示すように、発熱用導電体30は、複数の線状導電体31が多数の開口部34を画成するメッシュ状のパターンで配置されることによって形成されている。線状導電体31は、線状部32と交差部33とを有する。線状部32は、2つの交差部33と隣接して設けられ、2つの交差部33を接続している。すなわち、一つの線状導電体31において、線状部32と交差部33は交互に配置されている。交差部33は、線状導電体31が他の線状導電体と交差する位置に設けられている。図5によく示されているように、各線状導電体31は、他の線状導電体31と交差部を共有する。すなわち、一つの交差部33は、二つの線状導電体31に含まれ得ることになる。
図4に示すように、発熱用導電体30は、第1方向d1に配列された線状導電体31の第1群1Gと、第2方向d2に配列された線状導電体31の第2群2Gと、を含んでいる。第1群1Gに含まれる複数の線状導電体311は、第1方向d1に互いから離間して配置されている。複数の線状導電体311は、概ね一定の間隔で、第1方向d1に配列されている。したがって、第1群1Gに含まれた複数の線状導電体311は、概ね、第1方向d1と直交する方向に延びる。一方、第2群2Gに含まれる複数の線状導電体312は、第2方向d2に互いから離間して配置されている。複数の線状導電体312は、概ね一定の間隔で、第2方向d2に配列されている。したがって、第2群2Gに含まれた複数の線状導電体312は、概ね、第2方向d2と直交する方向に延びる。
第1方向d1及び第2方向d2は、非平行となっている。とりわけ、図示された例において、第1方向d1及び第2方向d2は、直交している。したがって、第1群1Gに含まれた複数の線状導電体311は、概ね、第2方向d2に延びている。また、第2群2Gに含まれた複数の線状導電体312は、概ね、第1方向d1に延びている。
また、少なくとも一つの線状導電体31は、非直線状に延びている。ここで線状導電体31が非直線状に延びるとは、当該線状導電体31が、その両端に亘った全域を直線状として延びていないことを意味する。したがって、線状導電体31が、少なくともその一部分において、曲線に沿って、又は、折れ線に沿って延びることを含む。そして、非直線状に延びる線状導電体が任意の位置において延びる方向de(図5参照)が当該線状導電体の両端(図示された例ではバスバー25への接続位置)を結ぶ方向ds(図5参照)に対してなす角度θα(図5参照)は、5°以上40°以下となっている。また、線状導電体の両端を結ぶ方向dsが、水平方向dh(図5参照)に対してなす角度は、30°以上60°以下となっている。線状導電体31が曲線状に延びている部分での「延びる方向」とは、当該位置での接線の方向とする。
図示された例においては、全ての線状導電体31が、非直線状に延びている。各線状導電体31は、その両端間の全域に亘って、サインカーブをなすパターンで延びている。また、図示された例において、各線状導電体が任意の位置において延びる方向deが当該線状導電体31の両端を結ぶ方向ds(図4参照)に対してなす角度θα(図5参照)は5°以上40°以下となっている。さらに、図示された例において、各線状導電体の両端を結ぶ方向dsが、水平方向に対してなす角度θβは、30°以上60°以下となっている。
以上の構成より、複数の線状導電体31は、多数の開口部34を画成している。そして、図4及び図5に示すように、図示された例では、交差部33において、四つの線状部32が接続され、一つの開口部34は、四つの線状部32によって区画されている。また、発熱用導電体30のパターンは、正方格子の規則性を崩したパターンとなっている。なお、図5は、図4示した導電体付きシート20の発熱用導電体30の一部を拡大して示す図である。
ただし、図4及び図5に示された線状導電体31の配置パターンは例示に過ぎず、種々の変更が可能である。例えば、図8や図9に示されたパターンを採用するようにしてもよい。変更された線状導電体31の配置パターンで作製された発熱用導電体30においても、後述するように、角度θαおよび角度θβが所定の条件を満たすことで優れた作用効果を奏することができる。
図8及び図9に示された例では、線状導電体31は、正方格子パターンpxを崩したパターンにて配置されている。図8に示された線状導電体31の配置パターンは、点線で示された正方格子パターンpxの交点cpの位置を不規則的にずらすことで作成され得る。図8に示された発熱用導電体30の交差部33は、正方格子パターンpxの対応する交点cpを、第1方向d1および第2方向d2のそれぞれに乱数表から選択された距離だけずらすようにして、決定され得る。また、図8に示された例とは異なり、発熱用導電体30の交差部33の位置を、正方格子パターンの交点の位置を規則的にずらすことで、発熱用導電体30のパターンを決定してもよい。
図9に示された線状導電体31の配置パターンは、正方向格子パターンpxの交点cpで接続されるべき四つの線状部32を二つずつ別の位置で接続させ、さらに、第1組の二つの線状部32の接続位置と第2組の二つの線状部32の接続位置とを、追加した線状部32で繋いでいる。一組の線状部32の接続位置と他の組の線状部32の接続位置は、それぞれ、正方格子パターンpxの交点cpから規則的または不規則的にずらした位置とすることができる。
各開口部34の重心間距離が大きすぎると、発熱用導電体30において発熱むらが発生する。また、各開口部34の重心間距離が大きすぎると、線状導電体31が視認されてしまうこともある。これのことから、図5に示す開口部34の重心間距離Dは1500μm以下となっていることが好ましい。また、開口部34の重心間距離Dが小さすぎると、透過率が悪化し、透視性が損なわれるため、開口部34の重心間距離Dは250μm以上となっていることが好ましい。
このような発熱用導電体30及びバスバー25を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン等の金属、及び、これらの金属の1種以上を含んでなる合金の一以上を例示することができる。発熱用導電体30及びバスバー25は、同一の材料を用いて形成されていてもよいし、或いは、互いに異なる材料を用いて形成されていてもよい。
発熱用導電体30は、上述したように不透明な金属材料を用いて形成され得る。その一方で、発熱用導電体30によって覆われていない基材フィルム21上の領域の割合、すなわち開口率は、70%以上99%以下程度と高くすることができる。また、線状導電体31の線幅W、すなわち、発熱板10の板面に沿った幅Wは、2μm以上15μm以下程度とすることができる。このため、発熱用導電体30が設けられている領域は、全体として透明に把握され、発熱用導電体30の存在が発熱板10の透視性を害さないようになっている。
図3に示された例では、線状導電体31は、全体として矩形状の断面を有している。線状導電体31の幅Wを2μm以上15μm以下とした場合、高さ(厚さ)H、すなわち、発熱板10の板面への法線方向に沿った高さ(厚さ)Hは1μm以上60μm以下とすることができる。このような寸法の線状導電体31によれば、その線状導電体31が十分に細線化されて発熱用導電体30を効果的に不可視化することができるとともに、例えば車両用の発熱板として、発熱に適した電気抵抗を確保することができる。
また、図3に示されたように、線状導電体31は、導電性金属層36、導電性金属層36の表面のうち、基材フィルム21に対向する側の面を覆う第1の暗色層37、導電性金属層36の表面のうち、基板11に対向する側の面及び両側面を覆う第2の暗色層38を含むようにしてもよい。優れた導電性を有する金属材料からなる導電性金属層36は、比較的高い反射率を呈する。そして、発熱用導電体30の線状導電体31をなす導電性金属層36によって光が反射されると、その反射した光が視認されるようになり、乗員の視界を妨げる場合がある。また、外部から導電性金属層36が視認されると、意匠性が低下する場合がある。そこで、第1及び第2の暗色層37,38が、導電性金属層36の表面の少なくとも一部分を覆っている。第1及び第2の暗色層37,38は、導電性金属層36よりも可視光の反射率が低い層であればよく、例えば黒色等の暗色の層である。この暗色層37,38によって、導電性金属層36が視認されづらくなり、乗員の視界を良好に確保することができる。また、外部から見たときの意匠性の低下を防ぐことができる。
ところで、上述したように、線状導電体を含んだ発熱板を介して光源、例えば対向車の照明を観察した場合、尾を引くように観察される光の筋が、光芒として、当該照明の周囲に観察される。このような光芒の発生は、発熱板を介した視認性を悪化させることになる。
本件発明者らは、光芒の発生について鋭意検討を重ねた結果として、光芒をなす光の筋が発生する方向は、発熱板への入射光が線状導電体で回折される方向と一致することを知見した。すなわち、光芒として視認される光の筋は、発熱板を透過する光が線状導電体によって回折することで発生する。
この点は、図10に示されたパターンの発熱用導電体130によっても実証される。図10に示された発熱用導電体130では、開口部134が正方格子状に配列されるよう、直線状に延びる線状導電体131が配置されている。図11には、この線状導電体131の配置パターンを高速フーリエ変換した画像が示されている。図11の画像では、異なる方向に細長く延びる二つの白線部分wlが出現している。図11の画像は、この白線部分wlが延びる方向に、線状導電体31が配列されていることを表している。そして、実際に、図10の示されたパターンで線状導電体131が配列されてなる発熱用導電体130を含む発熱板を作製し、作製された発熱用導電体130を介して光源(自動車のヘッドライト)LSを観察してみた。図12は、観察状態を示す写真である。この観察において、光芒が、直線状の線状導電体の長手方向に直交する方向に延びる二つの筋lbとして、観察された。光芒をなす筋lbは、極めて目立ち、観察者の注意力を散漫にさせものであるとともに、光芒をなす筋lbは、極めて明るく、光源LSとともに観察者の視界を狭めた。とりわけ車両に用いられる発熱板として不適であった。
以上のように、視認される光芒は、線状導電体によって起こる回折の回折像が筋状に延びることで発生する。発熱板に線状導電を配置する以上、回折光を発生させないことは不可能である。そこで、本件発明者らは、さらに鋭意を重ね、発熱用導電体30をなす線状導電体31の向きを不規則化することにより、回折光を分散させて光芒を目立たなくすることを試みた。
まず、図13に示された発熱用導電体230では、線状導電体231が、ボロノイメッシュパターンにて配列されている。したがって、発熱用導電体230によって画成された開口部234は、不規則的に配列されている。図14には、この線状導電体231の配置パターンを高速フーリエ変換した画像が示されている。図14の画像からも、回折光が分散していることが、理解される。このような図13に示されたパターンで線状導電体231が配列されてなる発熱用導電体230を含む発熱板を作製し、作製された発熱用導電体230を介して光源(自動車のヘッドライト)LSを観察してみた。図15は、観察状態を示す写真である。この観察において、独立して認識される多数の光の輝点が全方位に観察され、この結果として、光源の周囲が広い領域で明るく観察された。このような現象は、視界を大幅に狭め、とりわけ車両に用いられる発熱板として不適といえる。
一方、本実施の形態の発熱用導電体30は、図5に示すように、第1方向d1に配列された複数の線状導電体311と、第1方向d1と非平行な第2方向d2に配列された複数の線状導電体312と、を有している。第1方向d1に配列された第1群1Gの線状導電体31は、特定の方向(図示された例では第2方向d2)を中心とする制限された角度範囲内の方向に延びている。同様に、第2方向d2に配列された第2群2Gの線状導電体31は、別の特定の方向(図示された例では第1方向d1)を中心とする制限された角度範囲内の方向に延びるようになる。図6には、この線状導電体31の配置パターンを高速フーリエ変換した画像が示されている。図6に示された画像は、線状導電体31が、或る程度の幅を持った限られた範囲内の方向に配列されていることを示している。
さらに、線状導電体31の少なくとも一つが、非直線状に延びている。前述のように、光源からの光が回折される方向は、線状導電体31が延びる方向に直交する方向となる。したがって、非直線状に延びる線状導電体31で回折される方向は、当該線状導電体31の長手方向に沿った各位置で変化することになる。このような線状導電体31の配置によれば、光源LSからの光が回折される方向は、全方位とはならず、限られた範囲内で分散する。とりわけ、本実施の形態において、当該線状導電体31が任意の位置において延びる方向が当該線状導電体31の両端を結ぶ方向dsに対してなす角度θαが、5°以上40°以下となっている。この特徴によれば、光源LSからの光が回折される方向、すなわち光芒として認識される光の筋が延びる方向が、全方位とはならず、且つ、限られた範囲内で分散される。このため、或る方向に極めて明るい光の細くて強い筋が出現することを効果的に回避することができる。また、全方位に出現する回折光が存在しないため、発熱用導電体30越しに視認される光源LSの全周囲が明るく観察されることを効果的に防止することができる。これにより、光芒を効果的に目立たなくさせることができる。
なお、このような効果をより効果的に確保する観点から、線状導電体31が任意の位置において延びる方向が当該線状導電体31の両端を結ぶ方向dsに対してなす角度θαが、5°以上40°以下となっていることがより好ましく、10°以上30°以下となっていることがさらに好ましい。
実際に、図5に示されたパターンで線状導電体31が配列されてなる発熱用導電体30を含む発熱板10を作製し、作製された発熱用導電体30を介して光源(自動車のヘッドライト)LSを観察してみた。図7に観察結果を示す。図7に示された結果では、光芒を効果的に目立たなくさせることができている。
また、本実施の形態の発熱用導電体30では、線状導電体31の両端を結ぶ方向dsが、水平方向dhに対してなす角度は、30°以上60°以下となっている。したがって、第1方向d1に配列された第1群1Gの線状導電体31は、特定の方向を中心とする制限された角度範囲内の方向、主として水平方向に対して30°以上60°以下となる角度範囲内の方向に延びる。同様に、第2方向d2に配列された第2群2Gの線状導電体31も、特定の方向を中心とする制限された角度範囲内の方向、主として水平方向に対して30°以上60°以下となる角度範囲内の方向に延びる。一方、光源LSからの光が回折される方向は、線状導電体31の長手方向に直交する方向となる。したがって、光源LSからの光は、第1群1Gまたは第2群2Gに含まれる線状導電体31によって、典型的には、鉛直方向に対して30°以上60°以下となる角度範囲内の方向に回折される。そして、このような方向への回折光が、光芒として視認される。しかしながら、光芒としての光の筋が延びる方向が、主として、鉛直方向に対して30°以上60°以下となる角度範囲内であれば、発熱用導電体を介した透視性を良好に確保することができた。光源LSの上下および左右には、光の筋が延びないことになり、良好な透視性が得られる。とりわけ、乗り物1に適用される発熱板10においては、発熱用導電体30越しに光源LSが存在したとしても、当該発熱用導電体30を介した透視性を十分とすることができる。
なお、このような効果をより効果的に確保する観点から、線状導電体31の両端を結ぶ方向dsが水平方向dhに対してなす角度θβは、35°以上55°以下となっていることがより好ましく、40°以上50°以下となっていることがさらに好ましい。
また、光芒が問題となる発熱板10の用途においては、線状導電体31の存在が視認されることも、透視性の低下を招く原因となる。一方、本実施の形態の発熱用導電体30では、線状導電体31の幅は、2μm以上15μm以下となっている。このような線状導電体によれば、他の前述した構成(開口部の重心間距離の長さ、線状導電体の厚さ)との組み合わせにおいて、十分な発熱機能を発揮する線状導電体31を効果的に不可視化することができる。これにより、当該発熱用導電体30を介した透視性を十分とすることができる。なお、導電性と不可視化とを両立する観点から、線状導電体31の幅は、3μm以上10μm以下となっていることがより好ましく、4°以上6°以下となっていることがさらに好ましい。
次に、発熱板10の製造方法の一例について、説明する。
まず、基材フィルム21上に第1の暗色層37を形成するようになる暗色膜を設ける。
次に、導電性金属層36を形成するようになる金属膜を暗色膜上に設ける。金属膜は、公知の方法で形成され得る。例えば、銅箔等の金属箔を貼着する方法、電界めっき及び無電界めっきを含むめっき法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、又はこれらの二以上を組み合わせた方法を採用することができる。
その後、金属膜上に、レジストパターンを設ける。レジストパターンは、形成されるべき発熱用導電体30に対応した形となっている。すなわち、線状部32および交差部33を有する線状導電体31に対応した形となっている。このレジストパターンは、公知のフォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより形成することができる。
次に、レジストパターンをマスクとして、金属膜及び暗色膜をエッチングする。このエッチングにより、金属膜及び暗色膜がレジストパターンと略同一のパターンにパターニングされる。この結果、パターニングされた金属膜から、線状導電体31の一部をなすようになる導電性金属層36が、形成される。また、パターニングされた暗色膜から、線状導電体31の一部をなすようになる第1の暗色層37が、形成される。
なお、エッチング方法は特に限られることはなく、公知の方法が採用できる。公知の方法としては、例えば、エッチング液を用いるウェットエッチングや、プラズマエッチングなどが挙げられる。その後、レジストパターンを除去する。
その後、導電性金属層36の第1の暗色層37が設けられた面と反対側の面及び側面に第2の暗色層38を形成する。第2の暗色層38は、例えば導電性金属層36をなす材料の一部分に暗色化処理(黒化処理)を施して、導電性金属層36をなしていた一部分から、金属酸化物や金属硫化物からなる第2の暗色層38を形成することができる。また、導電性金属層36の表面に第2の暗色層38を設けるようにしてもよい。また、導電性金属層36の表面を粗化して第2の暗色層38を設けるようにしてもよい。
以上の工程によって、発熱用導電体30を有する導電体付きシート20が作製される。
最後に、発熱用導電体30の側から接合層13及び基板11を積層して、導電体付きシート20と基板11とを接合する。同様に、基材フィルム21の側から接合層14及び基板12を積層して、導電体付きシート20と基板12とを接合する。これにより、図3に示した発熱板10が作製される。
以上のような一実施の形態において、発熱用導電体30は、第1方向d1に配列された複数の線状導電体31と、第1方向d1と非平行な第2方向d2に配列された複数の線状導電体31と、を有している。そして、少なくとも一つの線状導電体31は、非直線状に延びている。また、当該線状導電体31が任意の位置において延びる方向deが当該線状導電体31の両端を結ぶ方向dsに対してなす角度θαは、40°以下となっている。このような発熱用導電体30によれば、光源LSからの光が回折される方向は、全方位とはならず、限られた範囲内となる。すなわち光芒として認識される光の筋が延びる方向が、全方位とはならず、限られた範囲内で分散する。このため、或る方向に極めて明るい光の筋が出現することを効果的に回避することができる。また、全方位に出現する回折光が存在しないため、発熱用導電体30越しに視認される光源LSの全周囲が明るく観察されることを効果的に防止することができる。これらにより、光芒を効果的に目立たなくさせることができる。
また、以上のような一実施の形態において、発熱用導電体30は、第1方向d1に配列された複数の線状導電体31と、第1方向d1と非平行な第2方向d2に配列された複数の線状導電体31と、を有している。そして、線状導電体31の両端を結ぶ方向dsが、水平方向dhに対してなす角度は、30°以上60°以下となっている。このような本実施の形態において、発熱用導電体30越しに存在する光源LSからの光は、第1群1Gまたは第2群2Gに含まれる線状導電体31によって、典型的には、鉛直方向に対して30°以上60°以下となる角度範囲内の方向に回折される。したがって、このような方向への回折光が、光芒として視認され得る。しかしながら、光芒としての光の筋が延びる方向が、主として、鉛直方向に対して30°以上60°以下となる角度範囲内であれば、発熱用導電体30を介した透視性を良好に確保することができた。とりわけ、光源LSの上下および左右には、光の筋が延びないことになり、良好な透視性が得られる。乗り物1に適用される発熱板においては、このような発熱用導電体30越しに光源LSが存在したとしても、当該発熱用導電体30を介した透視性を十分とすることができる。
さらに、以上のような一実施の形態において、発熱用導電体30は、第1方向d1に配列された複数の線状導電体31と、第1方向d1と非平行な第2方向d2に配列された複数の線状導電体31と、を有している。光芒が問題となる発熱板10の用途においては、線状導電体31の存在が視認されることも、透視性の低下を招く原因となり得る。本実施の形態において、線状導電体30の幅Wは、2μm以上15μm以下となっている。このような線状導電体30によれば、他の前述した構成(開口部の重心間距離の長さ、線状導電体の厚さ)との組み合わせにおいて、十分な発熱機能を発揮する線状導電体31を効果的に不可視化することができる。これにより、発熱用導電体30を介した透視性を十分とすることができる。
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。
上述した実施の形態では、発熱板10が、基材フィルム21を有している導電体付きシート20を備える例を示したが、製造過程において基材フィルム21を剥離させる等によって、発熱板10中に基材フィルム21を有さないようにしてもよい。この場合、発熱板10の全体を薄型にすることができ、また軽量化することができる。さらに、発熱用導電体30から生じる熱を、発熱板10全体により早く伝達させることもできる。
前述した実施の形態において、発熱板10が曲面状に形成されている例を示したが、この例に限られず、発熱板10が、平板状に形成されていてもよい。
発熱板10は、自動車1のリアウィンドウ、サイドウィンドウやサンルーフに用いてもよい。また、自動車以外の、鉄道車両、航空機、船舶、宇宙船等の乗り物の窓或いは扉の透明部分に用いてもよい。
さらに、発熱板10は、乗り物以外にも、特に室内と室外とを区画する箇所、例えばビルや店舗、住宅の窓或いは扉の透明部分、建物の窓又は扉、冷蔵庫、展示箱、戸棚等の收納乃至保管設備の窓あるいは扉の透明部分等に使用することもできる。
なお、以上において上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
発熱板のサンプルを以下のように作製した。まず、ポリエチレンテレフタレート製で厚さ50μmの基材上に、図5に示されたパターンで発熱用導電体を作製した。作製された発熱用導電体は、非平行な二方向にそれぞれ(数値)μmのピッチで配置された線状導電体を有するようにした。各線状導電体のパターンをサインカーブとした。ただし、作製されたサンプル間で、線状導電体が任意の位置において延びる方向が当該線状導電体の両端を結ぶ方向に対してなす角度θα〔°〕(図5参照)を、表1に示すように変化させた。また、サンプルを設置した際に、線状導電体の両端を結ぶ方向が、水平方向に対してなす角度θβ〔°〕(図5参照)を、表1に示すように変化させた。なお、線状導電体の配列方向は、設置した際に水平方向となる方向に直交する方向を中心として、対称となるようにした。
以上のようにして作製された導電体付きシートを、2mm厚のガラス製の基板と、0.38mm厚のポリビニルブチラールからなる接合層を介して接合することで、発熱板を作製した。
なお、角度θβ〔°〕及び角度θβ〔°〕は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス製VHX−100F)およびワイドレンジズームレンズ(キーエンス製VH−Z100)を用い、最大倍率(総合1000倍、撮像範囲0.30mm×0.23mm)にて、透明照明により、各サンプルを観察して測定した。角度を測定するにあたり、付属の計測機能である、エッジ自動検出機能を併用した。
各発熱板から3m離れた位置にて白色LEDを発光させ、当該発熱板から60cm逆側に離れた位置にて、発光したLEDを当該発熱板越しに観察した。結果を表1に示す。表1の視認性の欄において、光芒と認識される眩しく光る筋が観察されて視認性が悪かったサンプル及びLEDの周囲となる全方位に眩しく光る輝点が多数観察されて視認性が非常に悪かったサンプルに対して「×」を付した。また、光芒と認識される筋が観察されたが筋の明るさや方向に依存して視認性が大きく低下しなかったサンプルや、光芒と認識される筋やLED周囲の輝点が観察されなかったサンプルに対して、表1の「視認性」の欄に「○」を付した。