以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
なお、本明細書において、「板」、「シート」、「フィルム」の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。例えば、「導電体付きシート」は板やフィルムと呼ばれ得るような部材をも含む概念であり、したがって、「導電体付きシート」は、「導電体付板(基板)」や「導電体付きフィルム」と呼ばれる部材と、呼称の違いのみにおいて区別され得ない。
また、「シート面(板面、フィルム面)」とは、対象となるシート状(板状、フィルム状)の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるシート状部材(板状部材、フィルム状部材)の平面方向と一致する面のことを指す。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
図1~図6は、本発明による一実施の形態を説明するための図である。このうち図1は、発熱板を備えた自動車を概略的に示す図であり、図2は、発熱板をその板面の法線方向から見た図であり、図3は、図2のIII-III線に沿った発熱板の断面図である。
図1に示されているように、移動体の一例としての自動車1は、フロントウィンドウ、リアウィンドウ、サイドウィンドウ等の窓ガラスを有している。ここでは、フロントウィンドウ5が発熱板10で構成されているものを例示する。また、自動車1はバッテリー等の電源7を有している。
この発熱板10をその板面の法線方向から見たものを図2に示す。また、図2の発熱板10のIII-III線に対応する断面図を図3に示す。図3に示された例では、発熱板10は、一対の基板11,12と、一対の基板11,12の間に配置された導電体付きシート20と、基板11,12と導電体付きシート20とを接合する接合層13,14と、を有している。なお、図1および図2に示した例では、発熱板10は湾曲しているが、その他の図では、図示の簡略化および理解の容易化のために、発熱板10および基板11,12を平板状に図示している。
導電体付きシート20は、基材フィルム21と、基材フィルム21の一方の基板11に対面する面上に設けられた発熱用導電体30と、を有する。発熱用導電体30は、線状導電体31と、線状導電体31に通電するための一対のバスバー35と、を有する。
また、図1及び図2によく示されているように、発熱板10は、発熱用導電体30に通電するための配線部15を有している。図示された例では、バッテリー等の電源7によって、配線部15から導電体付きシート20の発熱用導電体30に通電し、発熱用導電体30を抵抗加熱により発熱させる。発熱用導電体30で発生した熱は基板11,12に伝わり、基板11,12が温められる。これにより、基板11,12に付着した結露による曇りを取り除くことができる。また、基板11,12に雪や氷が付着している場合には、この雪や氷を溶かすことができる。したがって、乗員の視界が良好に確保される。尚、図示は省略するが、通常は、配線部15は電源7と発熱用導電体30のバスバー35との間に開閉器が挿入(直列に接続)される。そして、発熱板10の加熱が必要な時のみ開閉器を閉じて発熱用導電体30に通電する。
以下、発熱板10の各構成要素について説明する。
まず、基板11,12について説明する。基板11,12は、図1で示された例のように自動車のフロントウィンドウに用いる場合、乗員の視界を妨げないよう可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。このような基板11,12の材質としては、ソーダライムガラスや青板ガラスが例示できる。基板11,12の可視光透過率は90%以上であることが好ましい。ここで、基板11,12の可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JIS K 0115準拠品)を用いて測定波長380nm~780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。なお、基板11,12の一部または全体に着色するなどして、この一部分の可視光透過率を低くしてもよい。この場合、太陽光の直射を遮ったり、車外から車内を視認しにくくしたりすることができる。
また、基板11,12は、1mm以上5mm以下の厚みを有していることが好ましい。このような厚みであると、強度及び光学特性に優れた基板11,12を得ることができる。一対の基板11,12は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるようにしてもよい。
次に、接合層13,14について説明する。一方の接合層13が、一方の基板11と導電体付きシート20との間に配置され、一方の基板11と導電体付きシート20とを互いに接合する。他方の接合層14が、他方の基板12と導電体付きシート20との間に配置され、他方の基板12と導電体付きシート20とを互いに接合する。
このような接合層13,14としては、種々の接着性または粘着性を有した材料からなる層を用いることができる。また、接合層13,14は、可視光透過率が高いものを用いることが好ましい。典型的な接合層としては、ポリビニルブチラール(PVB)からなる層を例示することができる。接合層13,14の厚みは、それぞれ0.15mm以上1mm以下であることが好ましい。一対の接合層13,14は、同一の材料で同一に構成されていてもよいし、或いは、材料および構成の少なくとも一方において互いに異なるように
してもよい。
なお、発熱板10には、図示された例に限られず、特定の機能を発揮することを期待されたその他の機能層が設けられても良い。また、1つの機能層が2つ以上の機能を発揮するようにしてもよいし、例えば、発熱板10の基板11,12、接合層13,14、後述する導電体付きシート20の基材フィルム21の、少なくとも一つに何らかの機能を付与するようにしてもよい。発熱板10に付与され得る機能としては、一例として、反射防止(AR)機能、耐擦傷性を有したハードコート(HC)機能、赤外線遮蔽(反射)機能、紫外線遮蔽(反射)機能、防汚機能等を例示することができる。
次に、導電体付きシート20について説明する。導電体付きシート20は、基材フィルム21と、基材フィルム21の一方の基板11に対面する面上に設けられた発熱用導電体30と、を有する。導電体付きシート20は、基板11,12と略同一の平面寸法を有して、発熱板10の全体にわたって配置されている。以下、導電体付きシート20の各構成要素について説明する。
基材フィルム21は、発熱用導電体30を支持する基材として機能する。基材フィルム21は、可視光線波長帯域の波長(380nm~780nm)を透過する一般に言うところの透明である電気絶縁性のフィルムである。基材フィルム21としては、可視光を透過し、発熱用導電体30を適切に支持し得るものであればいかなる材料でもよいが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状ポリオレフィン等を挙げることができる。また、基材フィルム21は、光透過性や、発熱用導電体30の適切な支持性等を考慮すると、0.03mm以上0.20mm以下の厚みを有していることが好ましい。
なお、「透明」とは、当該基材フィルムを介して当該基材フィルムの一方の側から他方の側を透視し得る程度の透明性を有していることを意味しており、例えば、30%以上、より好ましくは70%以上の可視光透過率を有していることを意味する。可視光透過率は、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JIS K 0115準拠品)を用いて測定波長380nm~780nmの範囲内で測定したときの、各波長における透過率の平均値として特定される。
次に、図4および図5を参照しながら、発熱用導電体30について説明する。図4は、導電体付きシート20をそのシート面の法線方向から見た平面図である。図5は、図4の発熱用導電体30を形成する線状導電体31の配置パターンAの一部を拡大して示す図である。
発熱用導電体30は、一対のバスバー35と、一対のバスバー35に間に配置された複数の線状導電体31と、を有している。一対のバスバー35は、第1方向d1に離間して配置されており、それぞれが対応する配線部15と電気的に接続している。一対のバスバー35間には、配線部15と接続された電源7の電圧が印加されるようになる。線状導電体31は、その両端31eにおいて一対のバスバー35に接続している。したがって、線状導電体31は、一対のバスバー35を電気的に接続している。線状導電体31は、配線部15及びバスバー35を介して電圧を印加されると、抵抗加熱によって発熱する。そして、この熱が接合層13,14を介して基板11,12に伝わることで、基板11,12が温められる。
各線状導電体31は、全体的且つ大局的に見た場合には、少なくとも部分的に蛇行している所定の主線パターンMで配置されており、部分的且つ局所的に見た場合には、蛇行している所定の配置パターンAで配置されている。ここで、「蛇行する」とは、波線や折れ線のような、全体として又は部分的にある方向(主線パターンMにおいては、典型的には、第1方向d1)に延びながら、当該ある方向に非平行な方向、典型的には当該ある方向に垂直な方向の一側から他側へ延びる部分と、他側から一側へ延びる部分と、を含んでいること、とりわけ交互に含んでいることをいう。また、各線状導電体31の配置パターンAは、主線パターンMと交差している。主線パターンMは、当該線状導電体31の両端31eを結ぶパターンである。主線パターンMは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lと、少なくとも3回接続している。言い換えると、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行な直線のうち少なくとも1つの直線が、主線パターンMと少なくとも3回接続しており、この直線がある直線Lである。さらに、主線パターンMとある直線Lとが接続する2つの隣り合う接続点T1,T2の間において、配置パターンAは、主線パターンMと交差している。配置パターンAと主線パターンMとは、主線パターンMとある直線Lとが接続する2つの隣り合う接続点T1,T2の間において、3回以上、好ましくは5回以上、より好ましくは7回以上交差している。なお、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線自体であってもよい。
主線パターンMは、第1方向d1に非平行な(例えば直交する)第2方向d2に対して、複数の折り返し点Txにおいて交互に逆側に折り返されている。主線パターンMは、例えば波線又は折れ線である。特に、図示された例では、主線パターンMは、正弦曲線となっている。図4及び図5に示された例では、第1方向d1において隣り合う2つの折り返し点Txは、第1方向d1と平行な直線(例えばある直線L)に関し第2方向d2における逆側に位置している。
図4及び図5に示された例では、主線パターンMは、規則的なパターンとなっている。例えば、主線パターンMは、ある単位パターンの繰り返しによって形成されるパターンであってもよい。図示された例では、第2方向d2において一側から他側へ折り返す第1方向d1において隣り合う2つの折り返し点Txの間のパターンが、単位パターンである。この単位パターンを繰り返すことで、言い換えると単位パターンを連なるように配置することで、規則的な主線パターンMが形成されている。図示された例において、単位パターンは、例えば一周期分の正弦曲線である。
また、図示された例のように、主線パターンMのある直線Lに対して一側の部分と主線パターンMのある直線Lに対して他側の部分とは、対称的なパターンになっている。詳しくは、主線パターンMのある直線Lに対して一側の部分は、ある直線Lに対して対称に移動させた後、ある直線Lの延びる方向に移動させると、主線パターンMのある直線Lに対して他側の部分と一致する。
主線パターンMが規則性や対称性を有することで、主線パターンMを単純なパターンとすることができ、線状導電体31の製造を容易にすることができる。また、発熱板10全体において発熱むらの発生を抑制し、発熱板10の全体を均一に発熱させることができる。
図4に示された例では、配置パターンAは、全体として主線パターンMに沿って延びている。配置パターンAは、全体として第1方向d1に延び、第1方向d1に非平行な方向の一側から他側へ延びる部分と、他側から一側へ延びる部分と、を複数含んでいる。また、主線パターンMは、線状導電体31の両端31eを結ぶ波線である。主線パターンMは、線状導電体31の両端31eを結ぶある直線Lと、線状導電体31の両端31eを含めて5回接続している。さらに、図5に示されているように、主線パターンMとある直線Lとが接続する2つの隣り合う接続点T1,T2の間において、配置パターンAは、主線パターンMと10回交差している。
とりわけ図示された例において、主線パターンMは、ある直線Lに沿って延び、ある直線Lに直交する方向における一側から他側へ、他側から一側へと交互にある直線Lを横切っている。そして、主線パターンMは、ある直線Lと接続する2つの隣り合う接続点T1,T2の間において、ある直線Lに直交する方向において、一側から他側へ又は他側から一側へと折り返している。この例において、2つの隣り合う接続点T1,T2の一方と、2つの隣り合う接続点T1,T2の間に位置する主線パターンMの折り返し点Txと、の間において、配置パターンAは、主線パターンMと交差していることが好ましい。また、2つの隣り合う接続点T1,T2の一方と、2つの隣り合う接続点T1,T2の間に位置する折り返し点Txと、の間において、配置パターンAは、蛇行して主線パターンMと複数回交差していることが好ましく、3回以上交差していることがより好ましく、5回以上交差していることがより好ましい。図5に示された例において、接続点T1と折り返し点Txとの間において、配置パターンAは、蛇行して主線パターンMと5回交差している。また、図5に示された例において、接続点T2と折り返し点Txとの間において、配置パターンAは、蛇行して主線パターンMと5回交差している。
蛇行している配置パターンAのピッチPAは、100μm以上2400μm以下である。また、蛇行している主線パターンMのピッチPMは、1000μm以上10000μm以下である。ここで、蛇行しているパターンのピッチとは、当該パターンの隣り合う2つの一側から他側へ折り返す位置の間の間隔のことをいう。言い換えると、蛇行しているパターンのピッチとは、当該パターンの一側から他側へ折り返す位置から、他側から一側へ折り返した後に再度一側から他側へ折り返す位置までの間隔のことをいう。主線パターンMのピッチPMは、配置パターンAのピッチPAより長くなっており、具体的には2.5倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上長くなっている。なお、ここでの主線パターンMのピッチPMと配置パターンAのピッチPAとの比較は、主線パターンMのある部分でのピッチPMと、主線パターンMの当該部分に沿って延びている配置パターンAの部分でのピッチPMと、の比較による。
また、図5に示すように、配置パターンAのある一部A1の両端を結ぶ線分S1と、配置パターンAのある一部A1に隣り合う配置パターンAの他の一部A2の両端を結ぶ線分S2とは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lに対して逆側に傾斜している。なお、配置パターンAのある一部A1および他の一部A2と、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lとは、1回のみ交差している。
図示された例では、配置パターンAのある一部A1は、ある直線Lと1回のみ交差している配置パターンAの一部のうち、ある直線Lから一方に最も離間した点Taから他方に最も離間した点Tbまでの間の部分である。同様に、配置パターンAの他の一部A2は、配置パターンAのある一部A1に隣り合う部分であって、ある直線Lと1回のみ交差している配置パターンAの一部のうち、配置パターンAのある直線Lから他方に最も離間した点Tbから一方に最も離間した点Taまでの間の部分である。すなわち、配置パターンAのある一部A1および他の一部の両端とは、点Ta、Tbである。
配置パターンAのある一部A1および他の一部A2の両端を結ぶ線分S1,S2の長さは、それぞれ500μm以上5000μm以下である。配置パターンAのある一部A1および他の一部A2の両端を結ぶ線分S1,S2の長さは、配置パターンAのピッチPA(線分S1,S2内に位置する配置パターンAの部分でのピッチPA)より長くなっており、具体的には1.5倍以上、好ましくは5倍以上、さらに好ましくは7倍以上長くなっている。
なお、蛇行している配置パターンAは、波線パターン、折れ線パターン、波線と折れ線を組み合わせたパターン等、任意のパターンであってよいが、複数の円弧を接続したパターンであることが好ましい。配置パターンAが複数の円弧を接続したパターンである場合、図示された例のように、各円弧の両端は、例えば主線パターンM上に位置する。また、複数の円弧は、例えば主線パターンMの一側及び他側に交互に位置している。さらに、図示された例では、各円弧の曲率半径は同一となっている。なお、ここで説明した円弧を、一方の側のみに湾曲した弧(曲線)、すなわち凸及び凹の一方のみとなっている弧(曲線)、さらに言い換えると変曲点を持たない弧(曲線)とすることができる。
各線状導電体31において、当該線状導電体31の両端31eを結ぶ直線の長さに対する、当該線状導電体31の経路長の比は、π/2より大きくなっている。すなわち、各線状導電体31の経路長は、その両端31eを結ぶ直線に沿って配置された半円の円弧の長さより、長くなっている。ここで、線状導電体31の経路長とは、当該線状導電体31の両端31eのうちの一方から他方までの当該線状導電体31に沿った長さのことを意味する。言い換えると、図4に示す本実施の形態の線状導電体31の経路長は、図12に示すような半円の円弧を連結した形状の線状導電体の経路長より、長くなっている。線状導電体31の経路長が長くなると、線状導電体31の抵抗が高くなり、発熱用導電体30の抵抗もまた高くなる。発熱用導電体30の抵抗が高くなると、例えば自動車1のバッテリー等の電源7として電圧が高いものが用いられ、発熱用導電体30に印加される電圧が高くなっても(例えば電気自動車への適用においても)、発熱用導電体30は適切な抵抗加熱で発熱することができる。
蛇行している線状導電体31の配置パターンAの曲率半径が小さすぎると、線状導電体31が視認されやすくなり、発熱板10を介した視界を害する虞がある。これは、配置パターンAの曲率半径が小さすぎる位置において、蛇行する線状導電体31の配置密度が高くなって線状導電体31の存在が知覚され、線状導電体31が視認されてしまうと考えられる。したがって、線状導電体31が視認されてしまうことを避けるために、配置パターンAの曲率半径は、100μm以上であることが好ましい。
その一方で、蛇行している線状導電体31の配置パターンAの曲率半径が大きすぎると、発熱板10を介した視界に、ちらつきと呼ばれる明るく輝く微細な線状または点状の光が目立って観察され、発熱板10を介した視界を害する虞がある。ちらつきは、発熱用導電体30をなす線状導電体31での反射光が視認されることによると考えられている。蛇行している線状導電体31の各位置で反射方向が異なるため、線状導電体31の反射光は種々の方向に発生する。線状導電体31の配置パターンAの曲率半径が大きすぎると、反射方向が異なる線状導電体31の位置が異なる位置として認識されやすくなる。このため、観察方向に応じて観察される反射光を反射する線状導電体の位置が異なって認識されやすくなる。すなわち、観察方向に応じてちらつきの発生パターンが変化する。この結果、ちらつきが目立ってしまい発熱板10を介した視界を大きく害することとなり得る。したがって、配置パターンAの曲率半径は、800μm以下であることが好ましい。
また、図4に示されているように、一つの線状導電体31が第1方向d1に非平行な第2方向d2において配置されている領域R1は、他の一つの線状導電体31が第2方向d2において配置されている領域R2と、領域R3において部分的に重なっている。図示された例では、第1方向d1と第2方向d2とは、互いに直交している。このような場合、基材フィルム21のフィルム面上において、線状導電体31が配置されていない領域を小さくすることができる。したがって、発熱板10の全体において発熱むらの発生を抑制し、発熱板10の全体を均一に発熱させることができる。また、発熱用導電体30の分布が均一化されるので、線状導電体31の配置のむらが小さくなり、発熱用導電体30を視認されにくくすることもできる。
このような線状導電体31及びバスバー35を構成するための材料としては、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、クロム、モリブデン、ニッケル、チタン、パラジウム、インジウム、タングステン、及び、これらの合金の一以上を例示することができる。線状導電体31及びバスバー35は、同一の材料を用いて形成されていてもよいし、或いは、互いに異なる材料を用いて形成されていてもよい。
線状導電体31は、上述したように不透明な金属材料を用いて形成され得る。その一方で、線状導電体31によって覆われていない基材フィルム21上の領域の割合、すなわち非被覆率は、70%以上99%以下程度と高くなっている。また、線状導電体31の線幅は、2μm以上20μm以下程度となっている。このため、線状導電体31が設けられている領域は、全体として透明に把握され、線状導電体31の存在が発熱板10の透視性を害さないようになっている。
図3に示された例では、線状導電体31は、全体として矩形状の断面を有している。上述したように、線状導電体31の幅W、すなわち、発熱板10の板面に沿った幅Wは2μm以上20μm以下とし、高さ(厚さ)H、すなわち、発熱板10の板面への法線方向に沿った高さ(厚さ)Hは1μm以上30μm以下とすることが好ましい。このような寸法の線状導電体31によれば、その線状導電体31が十分に細線化されているので、線状導電体31を効果的に不可視化することができる。
また、図3に示されたように、線状導電体31は、導電性金属層36、導電性金属層36の表面のうち、基材フィルム21に対向する側の面を覆う第1の暗色層37、導電性金属層36の表面のうち、基板11に対向する側の面及び両側面を覆う第2の暗色層38を含むようにしてもよい。優れた導電性を有する金属材料からなる導電性金属層36は、比較的高い反射率を呈する。そして、線状導電体31をなす導電性金属層36によって光が反射されると、その反射した光が視認されるようになり、乗員の視界を妨げる場合がある。また、外部から導電性金属層36が視認されると、意匠性が低下する場合がある。そこで、第1及び第2の暗色層37,38が、導電性金属層36の表面の少なくとも一部分を覆っている。第1及び第2の暗色層37,38は、導電性金属層36よりも可視光の反射率が低い層であればよく、例えば黒色等の暗色の層である。この暗色層37,38によって、導電性金属層36が視認されづらくなり、乗員の視界を良好に確保することができる。また、外部から見たときの意匠性の低下を防ぐことができる。
なお、前述したように、発熱板10の透視性または発熱板10を介した視認性を確保する観点から、非被覆率が高くなるように、発熱用導電体30の線状導電体31は基材フィルム21上に形成されている。このため、図3に示すように、接合層13と導電体付きシート20の基材フィルム21とは、線状導電体31の非被覆部、すなわち隣り合う線状導電体31の間となる領域を介して接触している。すなわち、発熱用導電体30は、接合層13内に埋め込まれた状態となっている。
ところで、上述したように、線状導電体を含んだ発熱板を介して光源、例えば対向車の照明を観察した場合、尾を引くように観察される筋状の光、すなわち光芒が当該照明の周囲に観察され得る。このような光芒の発生は、発熱板を介した視認性を悪化させることになる。そして、本件発明者らが鋭意検討を重ねた結果、光芒は、線状導電体での回折像が視認される現象であると考えられた。以下、回折像の発生原因と、回折像を目立たなくさせる方法について説明する。
回折像は、発熱板を透過する光が線状導電体によって回折することで発生する。観察される光芒は、線状導電体によって起こる回折の回折像が筋状に延びることで発生する。発熱板に線状導電体を配置する以上、回折像の発生を防止することは難しい。したがって、発生する回折像の視認性に対する影響を小さくすることを考える。
発熱板を介した視認性に対して影響が小さい回折像とは、光芒として認識される筋状の光を含まない像である。このような回折像の一例として、回折像が多方向に延び出して個々の回折像が識別できなくなっているものが考えられる。
ある構造を透過する光の回折像の形状は、その構造について光が透過する部分と遮蔽される部分との境界の形状によって決定される。例えば、長手方向を有する構造、例えば長手方向を有した矩形形状の構造に起因して生じる回折像は、当該構造の長手方向に直交する方向に延びて光芒となる。したがって、一つの構造をなす境界の形状に直交する方向が、少なくともその一部において異なっていれば、当該部分によって異なる方向に回折像が発生することになり、他の部分によって発生する回折像がぼやけて認識しにくくなる。
したがって、回折像を光芒として目立たなくさせるために、図7に示すように、各線状導電体131を波線パターンの配置パターンBで配置することが考えられた。各線状導電体131を波線パターンで配置することで、線状導電体131によって発生する回折像を様々な方向に延び出させることができる。図8には、図7の配置パターンBで線状導電体131が配置された発熱板を介して光源を観察した場合に発生する回折像の写真が示されている。線状導電体131の配置パターンBを波線パターンとすることで、図8に示すように、回折像は、強い筋状の光として観察されにくくなった。しかしながら、波線パターンの延びる方向と波線パターンの延びる方向に非平行な方向との間で、すなわち、図8の縦方向と横方向との間で、発生する回折像の明るさに差が生じるようになった。回折像の明るさの差は、発熱板を介した視認性に悪影響を及ぼし得る。
この回折像の明るさの差は、回折像が延び出す方向に偏りがあるために生じたと考えられる。すなわち、波線パターンの線状導電体131における回折像が、特定の方向(図8では横方向)に多くなり、他の方向(図8では縦方向)で少なくなるために生じたと考えられる。
回折像の明るさの差を低減することについて、本件発明者らが検討を重ねた結果、図9に示すように、線状導電体231の配置パターンを半円の円弧を接続したパターンにすることが考えられた。図9に示す配置パターンで線状導電体231が配置された発熱板は、図10に示す写真のような回折像を発生させる。図8と図10の比較から明らかなように、線状導電体131が波線パターンで配置された発熱板に比べ、線状導電体231が半円の円弧を接続したパターンで配置された発熱板では、線状導電体231において回折像が延びる方向を均一にすることで、回折像の明るさの差を低減することができている。しかしながら、図10の縦方向には回折像が存在せず暗くなっている部分が生じてしまっている。図10の縦方向以外では回折像が明るく観察されるため、この暗くなっている部分が目立ってしまい、図9に示す配置パターンで線状導電体231が配置された発熱板において、発熱板を介した視認性に悪影響を及ぼし得る。
この暗くなっている部分の発生は、線状導電体231が全体として延びる方向に起因して生じた回折像によると考えられる。すなわち、線状導電体231の全体としてのパターンの回折像が、特定の方向(図10では縦方向以外の方向)に多くなり、他の方向(図10では縦方向)で少なくなるために生じたと考えられる。
そこで、本件発明者らがさらに検討を重ねた結果、線状導電体31を上述した図4に示すような、当該線状導電体31の両端31eを結ぶ少なくとも部分的に蛇行した主線パターンMと交差するように蛇行した配置パターンAで配置することで、図6に示すように、回折像を光芒として目立たせず、且つ回折像が存在せず暗くなっている部分が生じにくいように回折像の明るさの差を低減することができることを知見した。この主線パターンMは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lと少なくとも3回接続し、主線パターンMとある直線Lとが接続する2つの隣り合う接続点T1,T2の間において、配置パターンAと交差している。また、主線パターンMのピッチPMは、配置パターンAのピッチPAより長くなっている。すなわち、配置パターンAは、蛇行している主線パターンMに沿って、主線パターンMより細かく蛇行している。
線状導電体31が全体として延びる方向は、主線パターンMが蛇行しているため、多方向となる。このため、線状導電体31が全体として延びる方向に起因して生じる回折像は、多方向に発生する。したがって、図4に示すような本実施の形態の配置パターンAで線状導電体31が配置された発熱用導電体30では、回折像に暗くなっている部分が生じにくい。また、配置パターンAが蛇行しているため、とりわけ主線パターンMに交差するように蛇行しているため、回折像は光芒となりにくい。
また、図4に示した線状導電体31は、蛇行している配置パターンAで配置され、配置パターンAのある一部A1の両端Ta,Tbを結ぶ線分S1と、配置パターンAのある一部A2に隣り合う配置パターンAの他の一部A2の両端Tb,Taを結ぶ線分S2とは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lに対して逆側に傾斜している。また、線分S1,S2の長さは、配置パターンAのピッチPAより長くなっている。すなわち、配置パターンAは、ある方向に延びながら蛇行している部分と、ある方向とは別の方向に延びながら蛇行している部分と、を含んでいる。
線状導電体31が全体として延びる方向が一定でないため、線状導電体31が全体として延びる方向に起因して生じる回折像は、複数の方向に発生する。このため、図4に示すような本実施の形態の配置パターンAで線状導電体31が配置された発熱用導電体30では、回折像に暗くなっている部分が生じにくい。また、配置パターンAが蛇行しているため、回折像は光芒となりにくい。
とりわけ、図4に示された例では、配置パターンAが複数の円弧を接続したパターンとなっており、配置パターンAの各位置での法線方向を多方向とすることができる。したがって、回折像の発生する方向を多方向とすることができる。これにより、回折像をより目立ちにくくすることができる。
なお、図6、図8および図10のような回折像については、発熱板を介して光源を観察しようとすることで、観察されやすくなる。図6、図8および図10の写真は、発熱板を介して位置する光源に焦点を合わせることで撮像することができる。
次に、発熱板10の製造方法の一例について、説明する。
まず、基材フィルム21上に第1の暗色層37を形成するようになる暗色膜を設ける。
次に、導電性金属層36を形成するようになる金属膜を暗色膜上に設ける。金属膜は、公知の方法で形成され得る。例えば、銅箔等の金属箔を貼着する方法、電界めっき及び無電界めっきを含むめっき法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法、又はこれらの二以上を組み合わせた方法を採用することができる。
その後、金属膜上に、レジストパターンを設ける。レジストパターンは、形成されるべき線状導電体31の配置パターンAに対応した形となっている。すなわち、レジストパターンは蛇行したパターンとなっている。このレジストパターンは、公知のフォトリソグラフィー技術を用いたパターニングにより形成することができる。
次に、レジストパターンをマスクとして、金属膜及び暗色膜をエッチングする。このエッチングにより、金属膜及び暗色膜がレジストパターンと略同一のパターンにパターニングされる。この結果、パターニングされた金属膜から、線状導電体31の一部をなすようになる導電性金属層36が、形成される。また、パターニングされた暗色膜から、線状導電体31の一部をなすようになる第1の暗色層37が、形成される。
このエッチング工程において、レジストパターンが蛇行したパターンとなっているため、例えばエッチング液を用いてエッチングを行う場合、エッチング液が蛇行した曲線部分に留まりやすい。このため、エッチングを安定して進行させることができる。すなわち、線状導電体31の幅を安定させて製造することができる。したがって、容易に線状導電体31の幅を細く製造することができる。線状導電体31の幅を細くすることで、発熱用導電体30の抵抗を高くすることができ、また、線状導電体31を視認されにくくすることができる。
なお、エッチング方法はエッチング液を用いるウェットエッチングに限られることはなく、公知の方法が採用できる。公知の方法としては、例えば、プラズマエッチングなどであってもよい。エッチング工程の後、レジストパターンを除去する。
その後、導電性金属層36の第1の暗色層37が設けられた面と反対側の面及び側面に第2の暗色層38を形成する。第2の暗色層38は、例えば導電性金属層36をなす材料の一部分に暗色化処理(黒化処理)を施して、導電性金属層36をなしていた一部分から、金属酸化物や金属硫化物からなる第2の暗色層38を形成することができる。また、導電性金属層36の表面に第2の暗色層38を設けるようにしてもよい。また、導電性金属層36の表面を粗化して第2の暗色層38を設けるようにしてもよい。
以上の工程によって、基材フィルム21上に発熱用導電体30が形成され、導電体付きシート20が作製される。なお、発熱用導電体30のバスバー35は、金属膜のパターニングによって線状導電体31の導電性金属層36と一体的に形成されてもよいし、或いは、基材フィルム21上に設けられた線状導電体31とは別途の導電体としてもよい。
最後に、発熱用導電体30の側から接合層13及び基板11を積層して、導電体付きシート20と基板11とを接合する。同様に、基材フィルム21の側から接合層14及び基板12を積層して、導電体付きシート20と基板12とを接合する。これにより、図3に示した発熱板10が作製される。
以上のように、本実施の形態の発熱用導電体30は、一対のバスバー35と、両端31eにおいて一対のバスバー35に接続する複数の線状導電体31と、を備え、各線状導電体31は、当該線状導電体31の両端31e間を結ぶ少なくとも部分的に蛇行した主線パターンMと交差するように蛇行した配置パターンAで配置され、主線パターンMは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lと少なくとも3回接続し、主線パターンMとある直線Lとが接続する2つの隣り合う接続点T1,T2の間において、配置パターンAは、主線パターンMと交差し、主線パターンMのピッチPMは、配置パターンAのピッチPAより2.5倍以上長い。このような発熱用導電体30によれば、線状導電体31が少なくとも部分的に蛇行した主線パターンMと交差するように蛇行した配置パターンAで配置されているため、回折像が発生せずに暗くなっている部分が生じにくい。また、配置パターンAが主線パターンMに交差するように蛇行しているため、回折像は光芒となりにくい。すなわち、本実施の形態の発熱用導電体30を有する発熱板10を介した視界において、回折像を目立たなくさせることができる。
また、本実施の形態の発熱用導電体30は、一対のバスバー35と、両端31eにおいて一対のバスバー35に接続する複数の線状導電体31と、を備え、各線状導電体31は、蛇行した配置パターンAで配置され、配置パターンAのある一部A1の両端Ta,Tbを結ぶ線分S1と、配置パターンAのある一部A2に隣り合う配置パターンAの他の一部A2の両端Tb,Taを結ぶ線分S2とは、線状導電体31の両端31eを結ぶ直線と平行なある直線Lに対して逆側に傾斜し、配置パターンAのある一部A1の両端Ta,Tbを結ぶ線分S1の長さおよび他の一部A2の両端Tb,Taを結ぶ線分S2の長さは、配置パターンAのピッチPAより1.5倍以上長い。このような発熱用導電体30によれば、線分S1と線分S2とがある直線Lに対して逆側に傾斜していることから、線状導電体31が全体として延びる方向に起因して生じる回折像が複数の方向に発生するため、回折像が発生せずに暗くなっている部分が生じにくい。また、配置パターンAが蛇行しているため、回折像は光芒となりにくい。すなわち、本実施の形態の発熱用導電体30を有する発熱板10を介した視界において、回折像を目立たなくさせることができる。
さらに、本実施の形態の発熱用導電体30において、各線状導電体31において、当該線状導電体31の両端31eを結ぶ直線の長さに対する、当該線状導電体31の経路長の比は、π/2より大きい。このような発熱用導電体30によれば、発熱用導電体30の抵抗を高くすることができる。したがって、発熱用導電体30に印加される電圧が高くなっても、発熱用導電体30は適切な抵抗加熱で発熱することができる。
また、本実施の形態の発熱用導電体30において、配置パターンAの曲率半径は、100μm以上である。このような発熱用導電体30によれば、線状導電体31が視認されてしまうことを避けることができる。
さらに、本実施の形態の発熱用導電体30において、配置パターンAの曲率半径は、800μm以下である。このような発熱用導電体30によれば観察方向に応じてちらつきの発生パターンが変化して、ちらつきが目立ってしまうことを避けることができる。
また、本実施の形態の発熱用導電体30において、一対のバスバー35は、第1方向d1に離間して配置され、一つの線状導電体31が第1方向d1に非平行な第2方向d2において配置されている領域R1は、他の一つの線状導電体31が第2方向d2において配置されている領域R2と、領域R3において部分的に重なっている。このような発熱用導電体30によれば、線状導電体31が配置されていない領域を小さくすることができる。したがって、発熱板10の全体において発熱むらの発生を抑制し、発熱板10の全体を均一に発熱させることができる。また、発熱用導電体30の分布が均一化されるので、発熱用導電体30を視認されにくくすることもできる。
さらに、本実施の形態の発熱用導電体30において、配置パターンAは、複数の円弧を接続した形状である。このような発熱用導電体30によれば、配置パターンAの各位置での法線方向を多方向とすることができる。したがって、回折像の発生する方向を多方向とすることができる。これにより、回折像をより目立ちにくくすることができる。
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。
上述した実施の形態では、発熱板10が、基材フィルム21を有している導電体付きシート20を備える例を示したが、製造過程において基材フィルム21を剥離させる等によって、発熱板10中に基材フィルム21を有さないようにしてもよい。この場合、発熱板10の全体を薄型にすることができ、また軽量化することができる。さらに、発熱用導電体30から生じる熱を、発熱板10全体により早く伝達させることもできる。
前述した実施の形態において、発熱板10が曲面状に形成されている例を示したが、この例に限られず、発熱板10が、平板状に形成されていてもよい。
発熱板10は、自動車1のリアウィンドウ、サイドウィンドウやサンルーフに用いてもよい。また、自動車以外の、鉄道車両、航空機、船舶、宇宙船等の移動体の窓或いは扉の透明部分に用いてもよい。
さらに、発熱板10は、移動体以外にも、特に室内と室外とを区画する箇所、例えばビルや店舗、住宅の窓或いは扉の透明部分、建物の窓又は扉、冷蔵庫、展示箱、戸棚等の収納乃至保管設備の窓あるいは扉の透明部分等に使用することもできる。
なお、以上において上述した実施の形態に対するいくつかの変形例を説明してきたが、当然に、複数の変形例を適宜組み合わせて適用することも可能である。