本発明は、オキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物と、当該樹脂組成物を硬化した光吸収層を有する光選択透過フィルターに関するものである。オキソカーボン系化合物には、スクアリリウム化合物やクロコニウム化合物のように赤色〜近赤外領域(例えば600nm〜800nmの波長範囲)に吸収ピークを有する化合物が知られている。当該化合物は、通常600nm〜800nmの波長範囲に大きな吸収を1つ示し、当該波長範囲の光線の透過をカットするとともに、可視光領域の広い範囲で高い光線透過率を示し、また800nm以上の波長範囲においても高い光線透過率を示す。オキソカーボン系化合物は、このような光吸収特性を利用して、近赤外線カットフィルター等に用いられる。
一方、本発明者らが様々なオキソカーボン系化合物の光吸収特性を検討したところ、オキソカーボン系化合物の中には、溶液中または未硬化の樹脂組成物中で観測されない吸収ピークが、硬化した樹脂組成物中で新たに観測されものがあることが明らかになった。このようなオキソカーボン系化合物は、通常600nm〜800nmの波長範囲に大きな吸収を示す吸収ピークに加えて、それよりも長波長側にもう1つ大きな吸収ピークを示し、新たに発現した吸収ピーク以外に透過率の変化はほとんど見られないことが分かった。そのため、このようなオキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物、および当該樹脂組成物を硬化した光吸収層を有する光選択透過フィルターは、可視光透過率を高く維持しつつ、赤色〜近赤外領域(例えば600nm〜1100nmの波長範囲)に複数の吸収帯を有するマルチバンドフィルターへの適用が可能となる。
上記のように樹脂硬化物中でオキソカーボン系化合物の新たな吸収ピークが発現する理由は定かではないが、樹脂硬化物中でオキソカーボン系化合物どうしがH会合体、J会合体またはそれらに類似の会合体を形成したり、オキソカーボン系化合物どうしが相互作用することにより電荷移動錯体を形成したり、禁制遷移の活性化などの変化が起きているためと推測される。本発明ではこの現象を「特定状態」と称する。このような特定状態を示すオキソカーボン系化合物は、溶液中や未硬化の樹脂組成物中では自由に動くことができるため、オキソカーボン系化合物の単分子に由来する吸収ピークしか示さないのに対し、樹脂硬化物中ではオキソカーボン系化合物どうしの相互作用によって特定状態となることにより、オキソカーボン系化合物の吸収ピークが長波長シフトし、その結果、オキソカーボン系化合物の単分子に由来する吸収ピークに加えて特定状態に由来する吸収ピークが発現すると考えられる。
本発明は、このように樹脂硬化物中で新たな吸収ピークを発現するオキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物と、当該オキソカーボン系化合物と樹脂とを含有する光吸収層を有する光選択透過フィルターを提供する。
樹脂組成物および光吸収層に含まれる樹脂としては、公知の樹脂を用いることができる。樹脂組成物および光吸収層を構成する樹脂は、透明性が高い樹脂であることが好ましく、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)、シクロオレフィン系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキド樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂(例えば、(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、アルキルポリシロキサン系樹脂、シリコーンウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、シリコーンアクリル樹脂等)、フッ素系樹脂(例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、フッ素化ポリアリールエーテルケトン(FPEK)、フッ素化ポリイミド(FPI)、フッ素化ポリアミド酸(FPAA)、フッ素化ポリエーテルニトリル(FPEN)等)等が挙げられる。これらの中でも、耐光性に優れる点から、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素化芳香族ポリマーが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸またはその誘導体由来の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等の(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する樹脂が好ましく用いられる。(メタ)アクリル系樹脂は主鎖に環構造を有するものも好ましく、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、マレイミド環構造等のカルボニル基含有環構造;オキセタン環構造、アゼチジン環構造、テトラヒドロフラン環構造、ピロリジン環構造、テトラヒドロピラン環構造、ピペリジン環構造等のカルボニル基非含有環構造が挙げられる。なお、カルボニル基含有環構造には、イミド基などのカルボニル基誘導体基を含有する構造も含む。カルボニル基含有環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2004−168882号公報、特開2008−179677号公報、国際公開第2005/54311号、特開2007−31537号公報等に記載されたものを用いることができる。
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分の少なくとも一部としてシクロオレフィンを用い、これを重合して得られる重合体であり、主鎖の一部に脂環構造を有するものであれば特に限定されない。シクロオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプラスチック社製のトパス(登録商標)、三井化学社製のアペル(登録商標)、日本ゼオン社製のゼオネックス(登録商標)およびゼオノア(登録商標)、JSR社製のアートン(登録商標)等を用いることができる。
ポリイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にイミド結合を含む重合体であり、例えば、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを重合させてポリアミド酸を得て、これを脱水・環化(イミド化)させることにより製造することができる。ポリイミド樹脂としては、芳香族環がイミド結合で連結された芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、例えば、デュポン社製のカプトン(登録商標)、三井化学社製のオーラム(登録商標)、サンゴバン社製のメルディン(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI3000シリーズ等を用いることができる。
ポリアミドイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合とイミド結合を含む重合体である。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のトーロン(登録商標)、東洋紡社製のバイロマックス(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI5000シリーズ等を用いることができる。
エポキシ樹脂は、エポキシ化合物(プレポリマー)を硬化剤や硬化触媒の存在下で架橋することで硬化可能な樹脂である。エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、水添エポキシ化合物等が挙げられ、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オグソール(登録商標)PG−100)、三菱化学社製のビスフェノールA型エポキシ化合物(JER(登録商標)828EL)や水添ビスフェノールA型エポキシ化合物(JER(登録商標)YX8000)、ダイセル社製の脂環式液状エポキシ化合物(セロキサイド(登録商標)2021P)等を用いることができる。
ポリスルホン樹脂は、芳香族環とスルホニル基(−SO2−)と酸素原子とを含む繰り返し単位を有する重合体である。ポリスルホン樹脂は、例えば、住友化学社製のスミカエクセル(登録商標)PES3600PやPES4100P、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製のUDEL(登録商標)P−1700等を用いることができる。
フッ素化芳香族ポリマーは、1以上のフッ素原子を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合およびエステル結合よりなる群から選ばれる少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位を有する重合体であり、これらの中でも、1以上のフッ素原子を有する芳香族環とエーテル結合とを含む繰り返し単位を必須的に含む重合体であることが好ましい。フッ素化芳香族ポリマーは、例えば、特開2008−181121号公報に記載されたものを用いることができる。
樹脂組成物や光吸収層を構成する樹脂はガラス転移温度(Tg)が高いことが好ましく、これにより、樹脂組成物を硬化して得られる光吸収層の耐熱性を高めることができる。樹脂のガラス転移温度は、例えば、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。前記樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されないが、光吸収層を形成する際の成形加工性を高める点から、例えば380℃以下が好ましい。
樹脂組成物や光吸収層に含まれるオキソカーボン系化合物は、炭素酸化物を基本骨格として含む化合物であれば特に限定されないが、赤色〜近赤外領域に吸収波長を有し、可視光領域の透過率が比較的高い化合物として広く知られているスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物を用いることが好ましい。オキソカーボン系化合物は、スクアリリウム化合物であってもよいし、クロコニウム化合物であってもよいし、両者が含まれていてもよい。なおオキソカーボン系化合物としては、分子の平面性がより高いスクアリリウム化合物の方が、特定状態の形成容易性の点から好ましい。樹脂組成物や光吸収層に含まれるオキソカーボン系化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
スクアリリウム化合物としては、下記式(1)で表されるスクアリリウム骨格を有する化合物が具体的に示され、クロコニウム化合物としては、下記式(2)で表されるクロコニウム骨格を有する化合物が具体的に示される。下記式(1)および式(2)において、R1〜R4はそれぞれ独立して有機基を表す。なお、スクアリリウム化合物やクロコニウム化合物には、共鳴関係にある化合物が存在している場合があり、下記式(1)で表されるスクアリリウム化合物や下記式(2)で表されるクロコニウムには、これら全ての共鳴関係にある化合物が含まれる。
スクアリリウム化合物は、上記式(1)において、R1とR2の少なくとも一方が、スクアリリウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表すものが好ましい。クロコニウム化合物は、上記式(2)において、R3とR4の少なくとも一方が、クロコニウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表すものが好ましい。このようなスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物を用いることにより、π共役系がスクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格から芳香族炭化水素環や芳香族複素環にかけて広がって、近赤外領域の光の透過を選択的にカットしやすくなる。より好ましくは、上記式(1)において、R1とR2の両方が、スクアリリウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、上記式(2)において、R3とR4の両方が、クロコニウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表す。
芳香族炭化水素環としては、炭素数6〜14のものが挙げられ、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオランテン環、シクロテトラデカヘプタエン環等が挙げられる。中でも、置換基を有していてもよい5員または6員の芳香族炭化水素環が好ましい。
芳香族複素環としては、例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員または6員の単環性芳香族複素環、3〜8員の環が縮合した二環または三環性で窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環等が挙げられ、具体的には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。中でも、置換基を有していてもよい5員または6員の芳香族複素環が好ましい。
芳香族炭化水素環と芳香族複素環を含む縮合環としては、例えば、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、ベンゾピラン環、アクリジン環、キサンテン環、カルバゾール環等が挙げられる。
芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環は、スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格と直接結合していてもよく、π共役系を有する連結基を介してスクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格と結合していてもよい。いずれの場合も、スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格からこれらの環構造にかけてπ共役系が広がるように構成されていればよい。π共役を有する連結基としては、例えば、−CRa1=、−(CRa2=CRa3)h−(式中、Ra1〜Ra3は、水素原子、有機基またはハロゲン原子を表し、Ra2とRa3は互いに繋がって環を形成していてもよく、hは1以上の整数を表す)で表される基が示される。Ra1〜Ra3の有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオオキシ基(アルキルチオ基)、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオオキシ基(アリールチオ基)、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。
オキソカーボン系化合物は、上記式(1)および式(2)において、R1〜R4がそれぞれ独立して、下記式(3)で示される基であるものが好ましい。式(3)中、R5〜R8はそれぞれ独立して、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R9は置換基を有していてもよいアリール基または置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表し、R10は、直鎖状または分岐状のアルキル基、または当該アルキル基に含まれる−CH2−の一部が−O−、−CO−、−S−または−NH−で置き換えられた基を表し、*は式(1)中の4員環または式(2)中の5員環との結合部位を表す。
オキソカーボン系化合物が上記式(3)で示される基を有していれば、オキソカーボン系化合物が特定状態をとりやすくなり、溶液中または未硬化の樹脂組成物中では観測されない吸収ピークが、樹脂硬化物中で新たに観測されやすくなる。そしてオキソカーボン系化合物が特定状態をとる結果、オキソカーボン系化合物の吸収ピークが単分子のものよりも長波長シフトすると考えられる。
式(3)で示される基を有するオキソカーボン系化合物としては、例えば下記に示す化合物が示される。
式(3)のR5〜R8の有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオオキシ基(アルキルチオ基)、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオオキシ基(アリールチオ基)、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。式(1)のR5〜R8の極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等の脂環式アルキル基等が挙げられる。アルキル基の炭素数は1〜20が好ましく、具体的には、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば炭素数1〜20が好ましく、より好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜4であり、脂環式のアルキル基であれば炭素数4〜10が好ましく、5〜8がより好ましい。前記アルキル基は置換基を有していてもよく、アルキル基が有する置換基としては、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、カルボキシ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。ハロゲノ基を有するアルキル基としては、モノハロゲノアルキル基、ジハロゲノアルキル基、トリハロメチル単位を有するアルキル基、パーハロゲノアルキル基等が挙げられる。ハロゲノ基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましく、特にフッ素原子が好ましい。
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基、ノナデシルオキシ基、イコシルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ基の炭素数は、1〜20が好ましく、より好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜4である。前記アルコキシ基中のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。
前記アルキルチオオキシ基(アルキルチオ基)としては、例えば、メチルチオオキシ基(メチルチオ基)、エチルチオオキシ基(エチルチオ基)、プロピルチオオキシ基(プロピルチオ基)、ブチルチオオキシ基(ブチルチオ基)、ペンチルチオオキシ基(ペンチルチオ基)、ヘキシルチオオキシ基(ヘキシルチオ基)、ヘプチルチオオキシ基(ヘプチルチオ基)、オクチルチオオキシ基(オクチルチオ基)、ノニルチオオキシ基(ノニルチオ基)、デシルチオオキシ基(デシルチオ基)、ウンデシルチオオキシ基(ウンデシルチオ基)、ドデシルチオオキシ基(ドデシルチオ基)、トリデシルチオオキシ基(トリデシルチオ基)、テトラデシルチオオキシ基(テトラデシルチオ基)、ペンタデシルチオオキシ基(ペンタデシルチオ基)、ヘキサデシルチオオキシ基(ヘキサデシルチオ基)、ヘプタデシルチオオキシ基(ヘプタデシルチオ基)、オクタデシルチオオキシ基(オクタデシルチオ基)、ノナデシルチオオキシ基(ノナデシルチオ基)、イコシルチオオキシ基(イコシルチオ基)等が挙げられる。アルキルチオオキシ基の炭素数は、1〜20が好ましく、より好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜4である。前記アルキルチオオキシ基中のアルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよい。
前記アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基、オクタデシルオキシカルボニル基等の無置換アルコキシカルボニル基の他、トリフルオロメチルオキシカルボニル基等の置換アルコキシカルボニル基が挙げられる。ここで置換基としては、ハロゲノ基等が挙げられる。アルコキシカルボニル基の炭素数は、2〜20が好ましく、より好ましくは2〜10であり、さらに好ましくは2〜4である。前記アルコキシカルボニル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。
前記アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、オクチルスルホニル基、メトキシメチルスルホニル基、シアノメチルスルホニル基、トリフルオロメチルスルホニル基の置換または無置換のアルキルスルホニル基等が挙げられる。アルキルスルホニル基の炭素数は、1〜20が好ましく、より好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは1〜4である。前記アルキルスルホニル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよく分岐状であってもよい。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、インデニル基、アズレニル基、フルオレニル基、ターフェニル基、クオーターフェニル基、ペンタレニル基、ヘプタレニル基、ビフェニレニル基、インダセニル基、アセナフチレニル基、フェナレニル基等が挙げられる。アリール基の炭素数は、6〜25が好ましく、より好ましくは6〜15である。前記アリール基は置換基を有していてもよく、アリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヘテロアリール基、ハロゲノ基、水酸基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。前記アリール基は、ヘテロアリール基と縮環していてもよい。
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基等が挙げられる。前記アラルキル基は置換基を有していてもよく、アラルキル基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、シアノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。アラルキル基の炭素数は、7〜25が好ましく、より好ましくは7〜15である。
前記アリールオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ基、ビフェニルオキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、フェナントリルオキシ基、ピレニルオキシ基、インデニルオキシ基、アズレニルオキシ基、フルオレニルオキシ基、ターフェニルオキシ基、クオーターフェニルオキシ基、ペンタレニルオキシ基、ヘプタレニルオキシ基、ビフェニレニルオキシ基、インダセニルオキシ基、アセナフチレニルオキシ基、フェナレニルオキシ基等が挙げられる。アリールオキシ基の炭素数は、6〜25が好ましく、より好ましくは6〜15である。
前記アリールチオオキシ基(アリールチオ基)としては、例えば、フェニルチオオキシ基、ビフェニルチオオキシ基、ナフチルチオオキシ基、アントリルチオオキシ基、フェナントリルチオオキシ基、ピレニルチオオキシ基、インデニルチオオキシ基、アズレニルチオオキシ基、フルオレニルチオオキシ基、ターフェニルチオオキシ基、クオーターフェニルチオオキシ基、ペンタレニルチオオキシ基、ヘプタレニルチオオキシ基、ビフェニレニルチオオキシ基、インダセニルチオオキシ基、アセナフチレニルチオオキシ基、フェナレニルチオオキシ基等が挙げられる。アリールチオオキシ基の炭素数は、6〜25が好ましく、より好ましくは6〜15である。
前記アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基、4−ジメチルアミノフェニルオキシカルボニル基、4−ジエチルアミノフェニルオキシカルボニル基、2−クロロフェニルオキシカルボニル基、2−メチルフェニルオキシカルボニル基、2−メトキシフェニルオキシカルボニル基、2−ブトキシフェニルオキシカルボニル基、3−クロロフェニルオキシカルボニル基、3−トリフルオロメチルフェニルオキシカルボニル基、3−シアノフェニルオキシカルボニル基、3−ニトロフェニルオキシカルボニル基、4−フルオロフェニルオキシカルボニル基、4−シアノフェニルオキシカルボニル基、4−メトキシフェニルオキシカルボニル基等の置換または無置換のフェニルオキシカルボニル基;1−ナフチルオキシカルボニル基、2−ナフチルオキシカルボニル基等の置換または無置換のナフチルオキシカルボニル基等が挙げられる。アリールオキシカルボニル基の炭素数は、7〜25が好ましく、より好ましくは7〜15である。
前記アリールスルホニル基としては、例えば、フェニルスルホニル基、1−ナフチルスルホニル基、2−ナフチルスルホニル基、2−クロロフェニルスルホニル基、2−メチルフェニルスルホニル基、2−メトキシフェニルスルホニル基、2−ブトキシフェニルスルホニル基、2−フルオロフェニルスルホニル基、3−メチルフェニルスルホニル基、3−クロロフェニルスルホニル基、3−トリフルオロメチルフェニルスルホニル基、3−シアノフェニルスルホニル基、3−ニトロフェニルスルホニル基、3−フルオロフェニルスルホニル基、4−メチルフェニルスルホニル基、4−フルオロフェニルスルホニル基、4−シアノフェニルスルホニル基、4−メトキシフェニルスルホニル基、4−ジメチルアミノフェニルスルホニル基等の置換または無置換のフェニルスルホニル基;1−ナフチルスルホニル基、2−ナフチルスルホニル基等の置換または無置換のナフチルスルホニル基等が挙げられる。アリールスルホニル基の炭素数は、6〜25が好ましく、より好ましくは6〜15である。
前記アリールスルフィニル基としては、例えば、フェニルスルフィニル基、2−クロロフェニルスルフィニル基、2−メチルフェニルスルフィニル基、2−メトキシフェニルスルフィニル基、2−ブトキシフェニルスルフィニル基、2−フルオロフェニルスルフィニル基、3−メチルフェニルスルフィニル基、3−クロロフェニルスルフィニル基、3−トリフルオロメチルフェニルスルフィニル基、3−シアノフェニルスルフィニル基、3−ニトロフェニルスルフィニル基、4−メチルフェニルスルフィニル基、4−フルオロフェニルスルフィニル基、4−シアノフェニルスルフィニル基、4−メトキシフェニルスルフィニル基、4−ジメチルアミノフェニルスルフィニル基等の置換または無置換のフェニルスルフィニル基;1−ナフチルスルフィニル基、2−ナフチルスルフィニル基等の置換または無置換のナフチルスルフィニル基等が挙げられる。アリールスルフィニル基の炭素数は、6〜25が好ましく、より好ましくは6〜15である。
前記ヘテロアリール基としては、例えば、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数は、2〜20が好ましく、より好ましくは3〜15である。前記ヘテロアリール基は置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基が有する置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲノ基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、チオシアネート基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、スルホ基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基等が挙げられる。前記ヘテロアリール基は、アリール基と縮環していてもよい。
前記アミド基としては、式:−NHCORb1で表され、Rb1がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基としては上記に例示した置換基が具体的に挙げられ、水素原子の一部がハロゲン原子によって置換されていてもよい。
前記スルホンアミド基としては、式:−NHSO2Rb2で表され、Rb2がアルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基としては上記に例示した置換基が具体的に挙げられ、水素原子の一部がハロゲン原子によって置換されていてもよい。
前記ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
前記アミノ基としては、式:−NRb3Rb4で表され、Rb3およびRb4がそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基であるもの等が挙げられる。アルキル基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基としては上記に例示した置換基が具体的に挙げられ、アルケニル基とアルキニル基としては、上記に例示したアルキル基の炭素−炭素単結合の一部が二重結合または三重結合に置き換わった置換基が挙げられ、これらの置換基は水素原子の一部がハロゲン原子によって置換されていてもよい。また、Rb3とRb4は互いに連結して環形成していてもよい。
式(3)のR5〜R8としては、上記の中でも、水素原子、炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、アミノ基または水酸基が好ましい。このようなオキソカーボン系化合物は製造が比較的容易であり、特定状態をとりやすくなる。また、R5〜R8を適宜選択することにより、オキソカーボン系化合物の最大吸収波長を所望の波長域に制御することができる。特に、オキソカーボン系化合物の製造容易性の点から、R5とR8は水素原子であることが好ましい。さらに、R6はアルキル基またはアルコキシ基であることが好ましく、R7はアミノ基であることが好ましい。なお、R6のアルキル基またはアルコキシ基は、炭素数1〜3がより好ましく、炭素数1または2がさらに好ましい。
R7のアミノ基としては、下記式(5)で表されるアミノ基が好ましい。下記式(5)において、R12およびR13はそれぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基を表し、R12とR13は互いに連結して環形成していてもよい。R7にこのようなアミノ基が結合していれば、オキソカーボン系化合物の単分子に由来する吸収ピークが長波長側にシフトして、オキソカーボン系化合物を近赤外線カットフィルターの吸収色素として好適に用いやすくなる。
−NR12R13 (5)
上記式(5)のR12とR13の直鎖状または分岐状のアルキル基は、炭素数1〜3がより好ましく、炭素数1または2がさらに好ましい。R12とR13が互いに連結した環構造としては、炭素数2〜8の直鎖状アルキレン基の両末端が式(5)の窒素原子に結合した構造が挙げられ、当該炭素数は2〜6がより好ましく、2〜5がさらに好ましい。
式(3)のR9のアリール基またはヘテロアリール基としては、上記に説明した芳香族炭化水素環や芳香族複素環が挙げられる。アリール基とヘテロアリール基が有していてもよい置換基としては、上記に説明した芳香族炭化水素環や芳香族複素環が有していてもよい置換基が挙げられる。中でも、R9としては、5員または6員の単環のアリール基またはヘテロアリール基が好ましく、これらの基が有していてもよい置換基としては、炭素数1〜4(好ましくは炭素数1〜3であり、より好ましくは炭素数1または2)の直鎖状または分岐状のアルキル基、炭素数1〜4(好ましくは炭素数1〜3であり、より好ましくは炭素数1または2)の直鎖状または分岐状のアルコキシ基、アミノ基または水酸基が好ましい。当該アミノ基としては、上記式(5)で表されるアミノ基が好ましい。R9のアリール基またはヘテロアリール基は、置換基を有しないものも好ましい。
式(3)のR10の直鎖状または分岐状のアルキル基、または当該アルキル基に含まれる−CH2−の一部が−O−、−CO−、−S−または−NH−で置き換えられた基は、ある程度の長さの鎖状に形成されることが好ましく、例えばR10がアルキル基である場合は、その炭素数は5以上が好ましく、7以上がより好ましく、9以上がさらに好ましい。R10のアルキル基の炭素数の上限は特に限定されないが、例えば20以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下がさらに好ましい。置換基R10はそのように形成されたアルキル基の−CH2−の一部が−O−、−CO−、−S−または−NH−で置き換えられてもよく、例えば−CH2−CH2−が−CO−O−や−CO−NH−などで置き換えられてもよい。
オキソカーボン系化合物の製造容易性、特に上記式(3)で表される基の形成容易性の点からは、R10は、下記式(4)で示される基を表すことが好ましい。式(4)中、R11は、炭素数3〜18の直鎖状または分岐状のアルキル基を表す。
−O−CO−R11 (4)
式(4)のR11のアルキル基としては、炭素数5以上がより好ましく、7以上がさらに好ましく、また18以下がより好ましく、16以下がさらに好ましい。R11のアルキル基としては、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、ヘキシル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
特定状態の形成容易性の点から、オキソカーボン系化合物としては、下記式(6)に示されるスクアリリウム化合物または下記式(7)に示されるクロコニウム化合物が特に好ましく用いられる。下記式(6)および(7)におけるR5〜R9、R11の具体例や好適態様は上記に説明した通りである。
本発明の樹脂組成物は上記に説明したようなオキソカーボン系化合物と樹脂とを含有し、樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物に由来して、未硬化の樹脂組成物中では観測されない吸収ピークが、硬化した樹脂組成物中で新たに観測されるようになる。具体的には、本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の未硬化物が波長600nm以上1100nm以下の範囲に極大吸収を有する吸収ピークを1つ以上有し、樹脂組成物の硬化物が、波長600nm以上1100nm以下の範囲に極大吸収を有する吸収ピークを未硬化物よりも多く有するものとなる。樹脂組成物は、硬化物中でオキソカーボン系化合物の一部が特定状態をとることにより、波長600nm以上1100nm以下の範囲において、樹脂組成物の未硬化物よりも多くの吸収ピークを有するものと考えられる。本発明において、樹脂硬化物中で新たな吸収ピークを発現するオキソカーボン系化合物を、「特定オキソカーボン系化合物」と称することがある。
なお本発明において、「未硬化」とは、樹脂組成物が流動性を有する状態を意味し、「硬化」とは、樹脂組成物の流動性が低下して実質的に流動性を有しない状態を意味する。「硬化」には、樹脂の反応(例えば、重合反応や架橋反応)によって樹脂組成物が固まる場合や、樹脂組成物に含まれる溶媒が除去されて樹脂組成物が固まる場合などが含まれる。
波長600nm以上1100nm以下の範囲の吸収ピークの数は、樹脂組成物に含まれる近赤外線吸収色素の種類と数によって変わり、例えば、樹脂組成物中に近赤外線吸収色素として特定オキソカーボン系化合物が1種類のみ含まれる場合は、通常、樹脂組成物の未硬化物で波長600nm以上1100nm以下の範囲に吸収ピークが1つ発現し、樹脂組成物の硬化物で同波長範囲に吸収ピークが2つ発現する。樹脂組成物中に、特定オキソカーボン系化合物が1種類含まれるとともに、それ以外の近赤外線吸収色素が1種類含まれる場合は、樹脂組成物の未硬化物で波長600nm以上1100nm以下の範囲に吸収ピークが2つ発現し、樹脂組成物の硬化物で同波長範囲に吸収ピークが3つ発現する。樹脂組成物中に、特定オキソカーボン系化合物が2種類含まれ、それ以外に近赤外線吸収色素が含まれない場合は、樹脂組成物の未硬化物で波長600nm以上1100nm以下の範囲に吸収ピークが2つ発現し、樹脂組成物の硬化物で同波長範囲に吸収ピークが4つ発現する。ただし、各近赤外線吸収色素の吸収ピークは、吸収極大が隠れる程度に重ならないものとする。
このように樹脂組成物に特定オキソカーボン系化合物が含まれることで、樹脂組成物の硬化物は、波長600nm以上1100nm以下の範囲に複数の吸収ピークを発現するものになる。そのため、このような樹脂組成物を硬化して光選択透過フィルターを形成すれば、波長600nm以上1100nm以下の範囲に複数の吸収帯を有するマルチバンドフィルターを形成することができる。光選択透過フィルターを近赤外線カットフィルターに適用する観点からは、上記に説明した波長範囲は650nm以上が好ましく、670nm以上がさらに好ましく、また1000nm以下が好ましく、950nm以下がより好ましい。
吸収ピークは、樹脂組成物の未硬化物と硬化物についてそれぞれ、波長600nm〜1100nmの範囲を含む透過スペクトル(透過プロファイル)を測定することにより求める。樹脂組成物の未硬化物については、波長600nm〜1100nmの範囲で最大吸収波長の透過率が20%となるように溶媒で希釈したものを測定する。樹脂組成物の硬化物については、樹脂組成物(未硬化物)をガラス基板(平均透過率91%)上に塗工し硬化させて樹脂積層基板を形成し、この樹脂積層基板の透過スペクトルを測定したときに、波長600nm〜1100nmの範囲で最大吸収波長の透過率が20%となるように色素濃度や厚みを調整したものを測定する。吸収ピークは、透過スペクトルを測定したときに、極大吸収波長においてそれより長波長側および短波長側と比較して透過率が少なくとも3%減少する場合に吸収ピークとして数える。平均透過率91%のガラス基板としては、例えば、SCHOTT社製のD263Teco(厚さ0.3mm)を用いることができる。
本発明の樹脂組成物は、オキソカーボン系化合物と樹脂とを含有し、樹脂組成物の未硬化物が、波長600nm以上800nm未満の範囲に極大吸収を有する吸収ピークXを有し、樹脂組成物の硬化物が、波長600nm以上800nm未満の範囲に極大吸収を有する吸収ピークYを有するとともに、波長800nm以上1100nm以下の範囲に吸収極大を有する吸収ピークZを有するものでもある。すなわち、樹脂組成物は少なくとも1種のオキソカーボン系化合物(特定オキソカーボン系化合物)と樹脂とを含有し、樹脂組成物の未硬化物は、前記1種のオキソカーボン系化合物に由来して、波長600nm以上800nm未満の範囲に極大吸収を有する吸収ピークXを有し、樹脂組成物の硬化物は、前記1種のオキソカーボン系化合物に由来して、波長600nm以上800nm未満の範囲に極大吸収を有する吸収ピークYを有するとともに、波長800nm以上1100nm以下の範囲に吸収極大を有する吸収ピークZを有する。なお、樹脂組成物の未硬化物は、波長800nm以上1100nm以下の範囲に吸収極大を有する吸収ピークを有しない。この場合、上記に説明したように、樹脂組成物の未硬化物が、波長600nm以上1100nm以下の範囲に極大吸収を有する吸収ピークを1つ以上有し、樹脂組成物の硬化物が、波長600nm以上1100nm以下の範囲に極大吸収を有する吸収ピークを未硬化物よりも多く有するものとなる。
吸収ピークXの極大吸収波長λXと吸収ピークYの極大吸収波長λYは、上記に説明したように600nm以上800nm未満の範囲に存在するが、樹脂組成物を硬化して得られる光吸収層を近赤外線カットフィルターに好適に適用する観点から、その下限は650nm以上であることが好ましく、670nm以上がより好ましく、また上限は780nm以下が好ましく、760nm以下がより好ましい。吸収ピークXと吸収ピークYはオキソカーボン系化合物の単分子に由来して発現する吸収ピークであり、樹脂組成物の未硬化物における極大吸収波長λXと硬化物における極大吸収波長λYは多少値が変わることがあっても、通常は同じような値を示す。そのため、極大吸収波長λXと極大吸収波長λYとの差は50nm以内であることが好ましく、30nm以内がより好ましく、20nm以内がさらに好ましく、10nm以内が特に好ましい。なお、極大吸収波長λXと極大吸収波長λYは、樹脂組成物の未硬化物および硬化物のそれぞれについて、波長600nm以上800nm未満の範囲で極大かつ最大を示す波長を意味する。
吸収ピークZの極大吸収波長λZは、上記に説明したように800nm以上1100nm以下の範囲に存在するが、その上限は1000nm以下が好ましく、950nm以下がより好ましい。吸収ピークZの極大吸収波長λZはまた、吸収ピークYの極大吸収波長λYよりも100nm以上大きいことが好ましく、125nm以上大きいことがより好ましく、150nm以上大きいことがさらに好ましい。吸収ピークZは樹脂硬化物中でオキソカーボン系化合物が特定状態をとることで発現するピークと考えられ、このように吸収ピークYの極大吸収波長λYと吸収ピークZの極大吸収波長λZが離れていれば、吸収ピークYと吸収ピークZが互いにほとんど重ならない独立したピークとして発現しやすくなる。そのため、樹脂組成物を硬化して光吸収層を形成した際に、当該光吸収層を、近赤外線領域に複数の吸収帯を有するマルチバンドフィルターに用いることが容易になる。極大吸収波長λYと極大吸収波長λZの差の上限は特に限定されないが、吸収ピークZの極大吸収波長λZは、吸収ピークYの極大吸収波長λYよりも250nm以下大きいことが好ましく、225nm以下大きいことがより好ましく、200nm以下大きいことがさらに好ましい。なお、極大吸収波長λZは、樹脂組成物の硬化物について、波長800nm以上1100nm以下の範囲で極大かつ最大を示す波長を意味する。
吸収ピークYは、極大吸収波長λYでの透過率が20%のとき、透過率50%におけるピーク幅(半値幅)が50nm以上120nm以下であることが好ましい。このように吸収ピークYが発現すれば、樹脂組成物を硬化して光吸収層を形成したときに、吸収ピークYを利用して、可視光用撮像素子のカットフィルターに適用することが容易になる。吸収ピークYの前記ピーク幅は、好ましくは100nm以下である。吸収ピークYのピーク幅は、樹脂組成物(未硬化物)をガラス基板(平均透過率91%)上に塗工し硬化させて樹脂積層基板を形成し、この樹脂積層基板の透過スペクトルを測定したときに、極大吸収波長λYの透過率が20%となるように色素濃度や厚みを調整したものを測定する。得られた透過スペクトルについて、吸収ピークYの透過率50%におけるピーク幅を測定する。
吸収ピークZは、極大吸収波長λZでの透過率が20%のとき、透過率50%におけるピーク幅(半値幅)が10nm以上120nm以下であることが好ましい。このように吸収ピークZが発現すれば、樹脂組成物を硬化して光吸収層を形成したときに、吸収ピークZを利用して、暗視用撮像素子のカットフィルターに適用することが容易になる。吸収ピークZの前記ピーク幅は、好ましくは100nm以下である。吸収ピークZのピーク幅は、樹脂組成物(未硬化物)をガラス基板(平均透過率91%)上に塗工し硬化させて樹脂積層基板を形成し、この樹脂積層基板の透過スペクトルを測定したときに、極大吸収波長λZの透過率が20%となるように色素濃度や厚みを調整したものを測定する。得られた透過スペクトルについて、吸収ピークZの透過率50%におけるピーク幅を測定する。
オキソカーボン系化合物は一種の色素と見なすことができるが、樹脂組成物は、上記に説明した特定オキソカーボン系化合物とともに他の色素を含有していてもよい。樹脂組成物に含まれていてもよい色素としては、例えば、特定オキソカーボン系化合物以外のオキソカーボン系化合物(スクアリリウム系色素やクロコニウム系色素)、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、コリン類等)、シアニン系色素、クアテリレン系色素、ナフタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素、ジインモニウム系色素、サブフタロシアニン系色素、キサンテン系色素、アゾ系色素、ジピロメテン系色素等が挙げられる。これら他の色素は、1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
樹脂組成物が他の色素をも含有する場合、他の色素の含有量は、オキソカーボン系化合物と他の色素の合計100質量%に対し、60質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、他の色素を実質的に含まないことが特に好ましい。
樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物としては、上記に説明した特定オキソカーボン系化合物が主成分として含まれることが好ましく、これにより樹脂組成物の硬化物が特定状態に由来する吸収ピークをより強い強度で発現しやすくなる。特定オキソカーボン系化合物の含有量は、全オキソカーボン系化合物100質量%中、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。また、特定オキソカーボン系化合物のみを用いることも好ましい。
樹脂組成物の硬化物が、近赤外領域の所定の波長領域の光線をカットしつつ、可視光領域の光線を比較的高い透過率で透過できるようにする点からは、樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物の種類は少ないことが好ましい。樹脂組成物層に含まれるオキソカーボン系化合物は、特定オキソカーボン系化合物を含む3種類以下が好ましく、2種類以下がより好ましく、特定オキソカーボン系化合物1種類のみを含むことが特に好ましい。
樹脂組成物中のオキソカーボン系化合物の含有量は、所望の性能を発現させる点から、樹脂組成物の固形分100質量%中、0.01質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、樹脂組成物の成形性や成膜性等を高める点から、樹脂組成物中のオキソカーボン系化合物の含有量は、樹脂組成物の固形分100質量%中、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物が他の色素も含有する場合は、オキソカーボン系化合物と他の色素との合計含有量が上記範囲にあることが好ましい。光吸収層中のオキソカーボン系化合物の含有量についても同様である。
樹脂組成物は、例えば、350nm〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物(紫外線吸収剤)を含有していてもよい。これらの化合物の存在により、350nm〜400nm波長域の光に起因する樹脂の劣化を抑制することができる。350nm〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物としては、例えば、BASF社製のTINUVIN(登録商標)シリーズを用いることができる。
樹脂組成物は、任意の有機微粒子または無機微粒子を含有してもよい。有機微粒子または無機微粒子は、例えば、光吸収層に、屈折率や導電性等に関する機能を付与するために用いられる。光吸収層の高屈折率化や導電性付与に有用な微粒子の具体例として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。一方、吸収層の低屈折率化に有用な微粒子の具体例として、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ等が挙げられる。防眩性付与に有用な微粒子の具体例としては、上記の微粒子に加え、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等の無機微粒子:シリコーン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂及びこれらの共重合樹脂等の有機微粒子が挙げられる。吸収層は、これらの微粒子を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、界面活性剤、分散剤、表面張力調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤、pH調整剤、密着性向上剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。また、樹脂を硬化させるための硬化触媒や硬化速度調整剤が含まれていてもよい。
本発明では、上記に説明したような特定オキソカーボン系化合物を含有する樹脂組成物を硬化することにより光吸収層を得ることができ、光吸収層は光選択透過フィルターに適用することができる。樹脂組成物は、射出成形等の成形に用いることのできる熱可塑性樹脂組成物であってもよく、スピンコート法や溶媒キャスト法等により塗工できるよう塗料化された樹脂組成物であってもよい。
樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合は、当該樹脂組成物を、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等をすることにより光吸収層を形成することができる。この方法では、樹脂として熱可塑性樹脂を用い、当該熱可塑性樹脂にオキソカーボン系化合物を配合し、加熱成形することにより、光吸収層を形成することができる。例えば、ベース樹脂の粉体またはペレットにオキソカーボン系化合物を添加し、150℃〜350℃程度に加熱し、溶解させた後、成形するとよい。また樹脂を混練する際に、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。
樹脂組成物が塗料化された樹脂組成物である場合は、オキソカーボン系化合物を含む液状またはペースト状の樹脂組成物を、透明基板(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工することで、透明基板上に光吸収層を形成することができる。塗料化された樹脂組成物としては、例えばオキソカーボン系化合物を、樹脂を含む溶媒(溶剤)に溶解させたものや、オキソカーボン系化合物を数μm以下に微粒化して樹脂のエマルジョン中に分散したもの等が挙げられる。なお、厚みの薄い光吸収層を形成することが容易な点から、樹脂組成物は溶媒を含むものが好ましい。
溶媒としては、有機溶剤を用いることが好ましく、例えば、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。溶媒の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、また100質量%未満が好ましく、95質量%以下がより好ましい。溶媒の含有量をこのような範囲内に調整することにより、オキソカーボン系化合物濃度の高い樹脂組成物を得ることが容易になる。
塗料化された樹脂組成物の塗工方法としては、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等が好適に用いられる。これらの中でも、スピンコート法が、薄くて均一な厚みの光吸収層を形成しやすい点で、好ましく用いられる。スピンコート法では、例えば、塗料化された樹脂組成物を透明基板上に載せた後、室温(25℃)付近で、回転数500rpm〜4000rpmで10秒〜60秒間程度回転させることにより、透明基板上に薄くて均一な厚みの塗膜を形成することができる。その後、例えば150℃〜350℃で加熱することにより、光吸収層を形成することができる。
光吸収層の厚さは特に限定されず、光選択透過フィルターの所望の光学性能や強度に応じて適宜調整すればよい。なお、薄くて高強度の光選択透過フィルターを得ることが容易な点から、光吸収層は透明基板上に設けることが好ましく、このように光選択透過フィルターを形成することにより光吸収層も薄く形成することができる。この場合の光吸収層の厚さは、例えば5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、これにより厚さの薄い光選択透過フィルターとすることができる。光吸収層の厚さの下限としては、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。なお、光吸収層は3μmよりも厚く形成することも当然可能である。
透明基板としては、ガラス基板を用いることが好ましい。光吸収層をガラス基板上に設けることにより、耐熱性に優れた光選択透過フィルターを得ることができる。このようにして得られた光選択透過フィルターは、例えば、半田リフローにより、光選択透過フィルターを電子部品に実装することが可能となり、電子部品の小型化を図ることができる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、光吸収層との密着性を確保しやすくなる。
ガラス基板は、透明な(すなわち可視光線透過性を有する)板状のガラスであれば、特に制限なく用いることができる。ガラス基板に用いられるガラスは、二酸化ケイ素を主成分とするものが好ましく、ケイ素と酸素以外の原子あるいはイオンを含有していてもよい。このような原子やイオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、鉄、銀、銅、コバルト、ニッケル、鉛、亜鉛、およびこれらのイオンが挙げられる。ガラス基板の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
光吸収層が透明基板上に形成される場合、光吸収層は、透明基板(ガラス基板)の片面のみに設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。また、透明基板と光吸収層の間には別の層が設けられていてもよく、当該別の層としては、光吸収層と透明基板との密着性を高めるためのプライマー層等が挙げられる。
上記のように形成された光吸収層は、波長600nm以上800nm未満の範囲に吸収極大を有する吸収ピークYを有するとともに、波長800nm以上1100nm以下の範囲に吸収極大を有する吸収ピークZを有するものとなる。すなわち、光吸収層は特定オキソカーボン系化合物と樹脂とを含有するため、その樹脂硬化物である光吸収層中で特定オキソカーボン系化合物の一部が特定状態をとり、赤色〜近赤外領域(600nm〜1100nmの波長範囲)に吸収ピークYと吸収ピークZを示すものとなる。例えば、特定状態をとらないオキソカーボン系化合物を2種類用いて吸収ピークYと吸収ピークZを発現させる場合は、吸収ピークZを与えるオキソカーボン系化合物のsoretバンドが可視光領域の一部にかかり、可視光領域の透過率が低下するところ、本発明に係る光吸収層を用いれば、可視光領域の透過率を高く保ちつつ、赤色〜近赤外領域(600nm〜1100nmの波長範囲)に複数の吸収帯を有するマルチバンドフィルターを形成することができる。
光吸収層の示す吸収ピークYと吸収ピークZのそれぞれの極大吸収波長λYとλZの好適範囲は上記に説明した通りである。また、上記に説明したように、吸収ピークZの極大吸収波長λZは前記吸収ピークYの極大吸収波長λYよりも100nm以上大きいことが好ましく、125nm以上大きいことがより好ましく、150nm以上大きいことがさらに好ましく、また250nm以下大きいことが好ましく、225nm以下大きいことがより好ましく、200nm以下大きいことがさらに好ましい。
吸収ピークZの吸収強度は吸収ピークYの吸収強度の0.2倍以上2倍以下であることが好ましい。このように各吸収ピークがそれぞれの波長域において吸収強度を示せば、光吸収層を用いて光選択透過フィルターを形成した際にマルチバンドフィルターに好適に適用できるようになる。吸収ピークZの吸収強度は吸収ピークYの吸収強度の0.4倍以上が好ましく、0.6倍以上がより好ましく、また1.7倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましい。
吸収強度は、各吸収ピークの極大吸収波長における透過率を対数変換することにより求める。なおその際、透明基板上に光吸収層を形成した光吸収層積層基板として透過率を測定する場合は、透明基板の透過率を別途測定し、その透過率で補正した値を用いる。例えば、透過率91%のガラス基板上に光吸収層を形成した光吸収層積層基板について透過率を測定した場合、吸収強度は次式により求める:吸収強度=log10[極大吸収波長の透過率(%)/91]。この場合の吸収ピークYの吸収強度に対する吸収ピークZの吸収強度の比は、log10[極大吸収波長λZの透過率(%)/91]÷log10[極大吸収波長λYの透過率(%)/91]を計算することにより求められる。
光吸収層は、吸収ピークYおよび/または吸収ピークZの極大吸収波長での透過率が30%以下であり、かつ波長450nm〜550nmの範囲の平均透過率が85%以上であることが好ましい。このように光吸収層が形成されていれば、吸収ピークYおよび/または吸収ピークZに基づき近赤外領域の所定波長の光線をカットすることができるとともに、可視光領域の光線透過率を高めることができる。吸収ピークYおよび/または吸収ピークZの極大吸収波長での透過率は25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、15%以下がさらにより好ましい。
光吸収層を、近赤外線領域に複数の吸収帯を有するマルチバンドフィルターに用いる場合は、吸収ピークYと吸収ピークZはともに極大吸収波長での透過率が50%以下であり、かつ吸収ピークYと吸収ピークZの間には、透過率が80%以上となる透過帯を有することが好ましく、これにより吸収ピークYと吸収ピークZが独立した吸収ピークとして存在しやすくなる。なお、吸収ピークYと吸収ピークZの極大吸収波長での透過率はともに40%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、25%以下がさらにより好ましい。吸収ピークYと吸収ピークZの間の透過帯の幅、すなわち吸収ピークYと吸収ピークZの間で透過率が連続して80%以上となる波長範囲は、25nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましく、75nm以上がさらに好ましい。
光吸収層の透過率は、光吸収層単体の透過スペクトルを測定することにより求めてもよいし、透明基板上に光吸収層を形成した光吸収層積層基板として透過率を測定するような場合は、光吸収層積層基板の透過スペクトルと透明基板の透過スペクトルをそれぞれ測り、光吸収層積層基板の透過スペクトルを透明基板の透過スペクトルで補正することにより、光吸収層の正味の透過スペクトルを求めてもよい。後者の場合、光吸収層積層基板の透過スペクトルと透明基板の透過スペクトルをそれぞれ対数(log10)変換し、その差分を指数変換することにより、光吸収層の正味の透過スペクトルを求めることができる。なお透過スペクトルは、測定ピッチ1nmごとに透過率を測定することにより求め、測定ピッチ(1nm)未満における波長の透過率の値は、1nmピッチの透過率の測定値から線形補間することにより算出する。波長450nm〜550nmの範囲の平均透過率は、同波長範囲において測定ピッチ1nmごとに測定した101個の透過率の平均値から求める。
光吸収層中のオキソカーボン系化合物の含有量は、所望の光学性能に応じて適宜調整すればよいが、光吸収層が上記に説明した光学特性を満足するように形成することが容易な点から、光吸収層100質量%中、オキソカーボン系化合物の含有量は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下が特に好ましい。
光選択透過フィルターは、光吸収層上に誘電体多層膜が設けられてもよい。光吸収層が透明基板上に形成される場合は、誘電体多層膜は光吸収層の透明基板とは反対側に設けられることが好ましく、さらに光吸収層の透明基板側にも設けられてもよい。誘電体多層膜によって所望の波長範囲の光線を透過させたりカットすることができ、光選択透過フィルターに、反射防止膜(可視光反射防止膜)、赤外線反射膜、紫外線反射膜等としての機能を付与することができる。誘電体多層膜はこれら2つ以上の機能を備えることもでき、少なくとも可視光反射防止膜と赤外線反射膜としての機能を有することが好ましい。
誘電体多層膜は、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層して形成することができる。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択されることが好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素を含有ドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択されることが好ましい。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ、SiOx(x=1〜2))、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
誘電体多層膜は、蒸着膜として形成することができる。誘電体多層膜の蒸着は公知の方法により行えばよい。例えば、蒸発源の加熱手段としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱等の公知の加熱手段を用いることができる。蒸着の際の真空度は5×10-2Pa以下(絶対圧)とすることが好ましく、蒸着温度は、例えば80℃以上300℃以下とすることが好ましい。なお蒸着としては、イオンアシスト蒸着を用いることが好ましく、これにより緻密かつ平滑性の高い誘電体多層膜を形成しやすくなり、所望の光学性能を付与させやすくなる。イオンアシストとしては、イオン銃、イオンプレーティング、プラズマ銃等を用いることができる。
誘電体多層膜の厚みは特に限定されず、例えば0.01μm〜10μmの範囲であればよい。誘電体多層膜の層数は、反射防止膜や赤外線反射膜としての光学性能を発揮させる観点から、例えば2層〜80層であることが好ましい。
光選択透過フィルターは、上記に説明した光吸収層、透明基板、誘電体多層膜以外に、他の層(膜)を有していてもよい。他の層(膜)としては、防眩性を有する層、傷付き防止性能を有する層、金属膜、その他の機能を有する透明基材等が挙げられる。
光選択透過フィルターの厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光選択透過フィルターの厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましい。
本発明の光選択透過フィルターは、撮像素子用途に特に好適である。本発明には、光選択透過フィルターを有する撮像素子も含まれる。撮像素子は、固体撮像素子やイメージセンサチップとも称され、被写体の光を電気信号に変換し、電気信号として出力する電子部品である。撮像素子は、通常、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の検出素子(センサー)を有し、レンズを有していてもよい。撮像素子は、例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いられる。撮像素子は、本発明の光選択透過フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他の部材を有していてもよい。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
(1)光選択透過フィルターの製造原料の調製
(1−1)調製例1(近赤外線吸収色素Aの合成)
300mLの2口フラスコに、3−ヨード−4−メチルアニリン11.91g(0.064mol)、ピロリジン13.66g(0.192mol)、ヨウ化銅1.22g(0.006mol)、炭酸カリウム17.69g(0.128mol)、L−プロリン1.47g(0.13mol)、ジメチルスルホキシド42gを仕込み、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、90℃で24時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出操作を行った。得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体1−1(4−メチル−3−(ピロリジン−1−イル)アニリン)8.7gを得た。3−ヨード−4−メチルアニリンに対する収率は77.1mol%であった。
次いで、300mLの4口フラスコに、中間体1−1を2.8g(0.16mol)、DL−マンデル酸を4.87g(0.032mol)、トルエンを83g入れ、窒素流通下(20mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、還流条件下にて7時間反応させた。反応終了後、反応液をろ過して得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体2−1を3.1g得た。中間体1−1に対する収率は62%であった。
次いで、100mLの3口フラスコに、中間体2−1を1.4g(0.045mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノイルクロリドを5.6g(0.0315mol)、トリエチルアミンを6.83g(0.0675mol)、クロロホルムを80g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、室温にて12時間反応させた。反応終了後、反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出操作を行った。得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体3−1を0.82g得た。中間体2−1に対する収率は40.6%であった。
次いで、50mLの3口フラスコに、中間体3−1を0.8g(0.00178mol)、スクアリン酸を0.23g(0.00089mol)、1−ブタノールを10.0g、トルエンを10.0g加え、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、ディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流下で1.5時間反応させた。反応終了後、反応液をエバポレーターで濃縮して溶媒を留去後、メタノールを50g加えて撹拌し、晶析を行った。析出した結晶をろ過により取得し、得られた結晶をメタノールでリンスしてウェットケーキを得た。このウェットケーキを真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、スクアリリウム化合物である近赤外線吸収色素Aを0.08g得た。スクアリン酸に対する収率は9.2mol%であった。
(1−2)調製例2(近赤外線吸収色素Bの合成)
調製例1と同様にして中間体2−1を合成し、100mLの3口フラスコに、得られた中間体2−1を0.56g(0.018mol)、ラウロイルクロリドを4.72g(0.0216mol)、トリエチルアミンを2.73g(0.027mol)、クロロホルムを80を入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、室温にて12時間反応させた。反応終了後、反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出操作を行った。得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体3−2を0.49g得た。中間体2−1に対する収率は55.1%であった。
次いで、50mLの3口フラスコに、中間体3−2を0.49g(0.001mol)、スクアリン酸を0.06g(0.0005mol)、1−ブタノールを5.0g、トルエンを5.0g加え、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、ディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流下で2時間反応させた。反応終了後、反応液をエバポレーターで濃縮して溶媒を留去後、メタノールを50g加えて撹拌し、晶析を行った。析出した結晶をろ過により取得し、得られた結晶をメタノールでリンスしてウェットケーキを得た。このウェットケーキを真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、スクアリリウム化合物である近赤外線吸収色素Bを0.01g得た。スクアリン酸に対する収率は2.0mol%であった。
(1−3)調製例3(近赤外線吸収色素Cの合成)
300mLの2口フラスコに、3−ヨード−4−メトキシアニリン2.12g(0.0085mol)、ピロリジン3.62g(0.052mol)、ヨウ化銅0.32g(0.0018mol)、炭酸カリウム4.7g(0.034mol)、L−プロリン0.40g(0.004mol)、ジメチルスルホキシド14gを仕込み、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、90℃で24時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却した後、反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出操作を行った。得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体1−2(4−メトキシ−3−(ピロリジン−1−イル)アニリン)1.37gを得た。3−ヨード−4−メトキシアニリンに対する収率は84.0mol%であった。
次いで、300mLの4口フラスコに、中間体1−2を1.25g(0.0065mol)、DL−マンデル酸を1.98g(0.013mol)、トルエンを40g入れ、窒素流通下(20mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、還流条件下にて6時間反応させた。反応終了後、反応液をろ過して得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体2−2を0.65g得た。中間体1−2に対する収率は31%であった。
次いで、100mLの3口フラスコに、中間体2−2を0.65g(0.020mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノイルクロリドを3.32g(0.0188mol)、トリエチルアミンを3.22g(0.0318mol)、クロロホルムを80g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、室温にて12時間反応させた。反応終了後、反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出操作を行った。得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体3−3を0.6g得た。中間体2−2に対する収率は64.5%であった。
次いで、50mLの3口フラスコに、中間体3−3を0.6g(0.00129mol)、スクアリン酸を0.07g(0.00065mol)、1−ブタノールを10.0g、トルエンを10.0g加え、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、ディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流下で1.5時間反応させた。反応終了後、反応液をエバポレーターで濃縮して溶媒を留去後、メタノールを50g加えて撹拌し、晶析を行った。析出した結晶をろ過により取得し、得られた結晶をメタノールでリンスしてウェットケーキを得た。このウェットケーキを真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、スクアリリウム化合物である近赤外線吸収色素Cを0.2g得た。スクアリン酸に対する収率は30.8mol%であった。
(1−4)調製例4(近赤外線吸収色素Dの合成)
調製例1と同様にして中間体1−1を合成し、100mLの3口フラスコに、得られた中間体1−1を0.97g(0.0055mol)、3,5,5−トリメチルヘキサノイルクロリドを1.94g(0.011mol)、トリエチルアミンを1.67g(0.0165mol)、クロロホルムを80g入れ、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、室温にて12時間反応させた。反応終了後、反応液をイオン交換水に加えて酢酸エチルで抽出操作を行った。得られた有機相をエバポレーターで濃縮し、濃縮液をシリカゲルによるカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)によって精製処理を行い、中間体3−4を1.39g得た。中間体1−1に対する収率は80.0%であった。
次いで、50mLの3口フラスコに、中間体3−4を0.95g(0.003mol)、スクアリン酸を0.17g(0.0015mol)、1−ブタノールを10.0g、トルエンを10.0g加え、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、ディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流下で1.5時間反応させた。反応終了後、反応液をエバポレーターで濃縮して溶媒を留去後、メタノールを50g加えて撹拌し、晶析を行った。析出した結晶をろ過により取得し、得られた結晶をメタノールでリンスしてウェットケーキを得た。このウェットケーキを真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、スクアリリウム化合物である近赤外線吸収色素Dを0.4g得た。スクアリン酸に対する収率は36.4mol%であった。
(1−5)調製例5(近赤外線吸収色素Eの合成)
調製例1と同様にして中間体2−1を合成し、50mLの3口フラスコに、中間体2−1を0.77g(0.003mol)、スクアリン酸を0.15g(0.001mol)、1−ブタノールを10.0g、トルエンを10.0g加え、窒素流通下(5mL/min)、マグネチックスターラーを用いて撹拌し、ディーンスターク装置を用いて溶出してくる水を取り除きながら、還流下で4時間反応させた。反応終了後、反応液をエバポレーターで濃縮して溶媒を留去後、メタノール50gを加えて撹拌し、晶析を行った。析出した結晶をろ過により取得し、得られた結晶をメタノールでリンスしてウェットケーキを得た。このウェットケーキを真空乾燥機を用いて60℃で12時間乾燥し、スクアリリウム化合物である近赤外線吸収色素Eを0.8g得た。スクアリン酸に対する収率は88.9mol%であった。
(1−6)調製例6(近赤外線吸収色素Fの合成)
特開2001−106689の実施例7に記載の方法に従って、下記に示す近赤外線吸収色素F(フタロシアニン化合物)を合成した。
(1−7)調製例7(樹脂Aの調製)
撹拌翼、温度センサー、冷却管、ガス導入管を備えた反応容器に、単量体としてα−アリルオキシメチルアクリル酸メチル(AMA)21.0部、N−フェニルマレイミド9.0部、重合溶媒として酢酸エチル45.0部を仕込み、窒素ガスの流通下、撹拌しながら昇温した。反応容器内の温度が70℃で安定した後、アゾ系ラジカル重合開始剤(日本ファインケム社製、ABN−V)0.03部を添加し、重合反応を開始した。反応容器内の温度を69℃〜71℃に維持しながら3.5時間反応させ、その後、室温まで冷却した。希釈溶媒としてテトラヒドロフランを加え、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いて再沈殿処理を行い、沈殿物を吸引ろ過により分離した。得られた沈殿物を減圧乾燥器を用いて減圧下80℃で2時間乾燥し、樹脂Aを得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置により樹脂Aの重量平均分子量を測定したところ、31,600であった。また、示差走査熱量計により樹脂Aのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、152℃であった。
(1−8)調製例8(樹脂Bの調製)
撹拌翼、温度センサー、冷却管、ガス導入管を備えた反応容器に、単量体としてα−アリルオキシメチルアクリル酸メチル(AMA)21.0部、N−シクロヘキシルマレイミド9.0部、重合溶媒として酢酸エチル45.0部を仕込み、窒素ガスの流通下、撹拌しながら昇温した。反応容器内の温度が70℃で安定した後、アゾ系ラジカル重合開始剤(日本ファインケム社製、ABN−V)0.03部を添加し、重合反応を開始した。反応容器内の温度を69℃〜71℃に維持しながら3.5時間反応させ、その後、室温まで冷却した。希釈溶媒としてテトラヒドロフランを加え、貧溶媒としてn−ヘキサンを用いて再沈殿処理を行い、沈殿物を吸引ろ過により分離した。得られた沈殿物を減圧乾燥器を用いて減圧下80℃で2時間乾燥し、樹脂Bを得た。ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置により樹脂Bの重量平均分子量を測定したところ、50,400であった。また、示差走査熱量計により樹脂Bのガラス転移温度(Tg)を測定したところ、134℃であった。
(2)光選択透過フィルターの製造例
(2−1)実施例1
シクロペンタノン80質量部に樹脂Aを20質量部溶解させた樹脂溶液に、近赤外線吸収色素Aを0.6質量部加えて溶解し、ろ過により不溶分等を取り除くことにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をガラス基板(SCHOTT社製、D263Teco、60mm×60mm×0.3mm)上に0.6cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H−D7)を用いて樹脂組成物をガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、精密恒温器(ヤマト科学社製、DH611)を用いて100℃で3分初期乾燥した後に、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて50℃で30分間窒素置換した後、10分程度で150℃に昇温し、150℃で30分間窒素雰囲気下で追加乾燥することにより、ガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層は、波長600nm〜1100nmの範囲における最大吸収波長の透過率が20%となるように形成した。ガラス基板上に形成した光吸収層の厚みは2μmであった。なお、光吸収層の厚みは、光吸収層を形成したガラス基板の厚みとガラス基板単独の厚みをそれぞれマイクロメーターにより測定し、両者の差から求めた。
(2−2)実施例2
実施例1において、近赤外線吸収色素Aの代わりに近赤外線吸収色素Bを用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層の厚みは2μmであった。
(2−3)実施例3
シクロペンタノン80質量部に樹脂Aを20質量部溶解させた樹脂溶液に、近赤外線吸収色素Cを0.6質量部加えて溶解し、ろ過により不溶分等を取り除くことにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をガラス基板上に0.6cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H−D7)を用いて樹脂組成物をガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、精密恒温器(ヤマト科学社製、DH611)を用いて100℃で3分乾燥することにより、ガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層は、波長600nm〜1100nmの範囲における最大吸収波長の透過率が20%となるように形成した。ガラス基板上に形成した光吸収層の厚みは2μmであった。
(2−4)実施例4
実施例1において、樹脂Aの代わりに樹脂Bを用い、近赤外線吸収色素Aの代わりに近赤外線吸収色素Cを用いた以外は、実施例1と同様にしてガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層の厚みは2μmであった。
(2−5)比較例1
実施例3において、近赤外線吸収色素Cの代わりに近赤外線吸収色素Dを用いた以外は、実施例3と同様にしてガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層の厚みは2μmであった。
(2−6)比較例2
実施例3において、近赤外線吸収色素Cの代わりに近赤外線吸収色素Eを用いた以外は、実施例3と同様にしてガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層の厚みは2μmであった。
(2−7)比較例3
シクロペンタノン50質量部とトルエン30質量部の混合溶媒に樹脂Aを20質量部溶解させた樹脂溶液に、近赤外線吸収色素Dを0.6質量部と近赤外線吸収色素Fを0.4質量部加えて溶解し、ろ過により不溶分等を取り除くことにより、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物をガラス基板上に0.6cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、1H−D7)を用い樹脂組成物をガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、精密恒温器(ヤマト科学社製、DH611)を用いて100℃で3分乾燥することにより、ガラス基板上に光吸収層を形成した。光吸収層は、600nm〜1100nmの範囲における最大吸収波長の透過率が20%となるように形成した。ガラス基板上に形成した光吸収層の厚みは2μmであった。
(3)樹脂組成物および光選択透過フィルターの評価
(3−1)分光測定方法
実施例1〜4および比較例1〜3で作製した各光選択透過フィルターについて、分光光度計(島津製作所社製、UV−1800)を用いて、光線透過率を測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm〜1100nmにおける透過スペクトル(吸収スペクトル)を求めた。また、実施例1〜4および比較例1〜2で調製した各樹脂組成物(未硬化物)について、同様に光線透過率を測定ピッチ1nmで測定し、波長300nm〜1100nmにおける透過スペクトル(吸収スペクトル)を求めた。樹脂組成物の未硬化物は、最大吸収波長で透過率が20%となるように溶媒であるシクロペンタノンで希釈したものを測定した(ベースライン:シクロペンタノン溶液)。これらの光線透過率の測定結果から、波長600nm〜1100nmの範囲における吸収ピークの極大吸収波長とその吸収強度比を求めた。
吸収強度比は、波長800nm〜1100nmの範囲におけるピークZの吸収強度を、波長600nm〜800nmの範囲におけるピークYの吸収強度で除することにより、算出した。各吸収強度は、ガラス基板による吸収の影響を考慮して、光選択透過フィルターの透過率とガラス基板の透過率(91%)から、次式により求めた:吸収強度=log10(吸収ピークにおける透過率/91)。
光選択透過フィルターについては、波長450nm〜550nmにおいて測定ピッチ1nmごとに測定した101個の透過率の平均値から、可視光透過率も求めた。
(3−2)半値幅の測定方法
実施例1〜4および比較例1〜3で調製した各樹脂組成物(未硬化物)をガラス基板(SCHOTT社製、D263Teco、60mm×60mm×0.3mm、平均透過率91%)上に塗工し硬化させて樹脂積層基板を作製し、この樹脂積層基板について、分光光度計(島津製作所社製、UV−1800)を用いて、測定ピッチ1nmで透過スペクトル(吸収スペクトル)を測定した。得られた透過スペクトルから、波長600nm〜800nmの範囲において極大吸収を示すピークYと、波長800nm〜1100nmの範囲において極大吸収を示すピークZの半値幅をそれぞれ求めた。ピークYの半値幅は、ピークYの極大吸収波長λYの透過率が20%となるように樹脂層(光吸収層)の厚みを調整した樹脂積層基板の透過スペクトルを測定し、ピークYの透過率50%におけるピーク幅を半値幅として求めた。ピークZの半値幅は、ピークZの極大吸収波長λZの透過率が20%となるように樹脂層(光吸収層)の厚みを調整した樹脂積層基板の透過スペクトルを測定し、ピークZの透過率50%におけるピーク幅を半値幅として求めた。
(3−3)結果
実施例および比較例で作製した樹脂組成物と光選択透過フィルターの透過率の測定結果を表1に示し、実施例1と比較例1の樹脂組成物の未硬化物と光選択透過フィルターの各透過スペクトルを図1および図2に示す。実施例1〜4では、樹脂組成物の未硬化物は波長600nm〜1100nmの範囲(詳細には700nm以上800nm未満の範囲)に吸収ピークを1つのみ示したが、当該樹脂組成物の硬化物をガラス基板上に形成した光選択透過フィルター(樹脂積層基板)では、波長600nm〜1100nmの範囲に吸収ピークを2つ示した。具体的には、波長700nm以上800nm未満の範囲に吸収ピークYを示し、波長800nm以上1000nmの範囲に吸収ピークZを示した。また、このときの可視光透過率は、光選択透過フィルターとして85%以上であり、樹脂層(光吸収層)の正味の可視光透過率は93%以上であった。一方、比較例1、2では、樹脂組成物の未硬化物と硬化物のいずれも、波長600nm〜1100nmの範囲に吸収ピークを1つのみ示した。比較例3では、2種類の近赤外線吸収色素が樹脂組成物に含まれていたため、樹脂組成物の未硬化物と硬化物のいずれも、波長600nm〜1100nmの範囲に吸収ピークを2つ示した。比較例3では、可視光透過率が、光選択透過フィルターとして77%であり、樹脂層(光吸収層)の正味の可視光透過率は85%未満であった。比較例3では、2種類の近赤外線吸収色素を用いたことにより、可視光透過率が実施例1〜4よりも低下した。
なお、実施例1〜4と比較例1、2の樹脂組成物の未硬化物はいずれも、最大吸収波長における吸光度が1のときに波長800nm〜1000nmの範囲の吸光度が0.015以下となり(ベースライン:シクロペンタノン溶液)、波長800nm〜1000nmに範囲に吸収ピークがないものと判断された。