我々は、鋭意検討の結果、ゼオライト分離膜の製造において、水熱合成法などの従来の方法ではなし得なかった、少ないプロセスでゼオライトの緻密な薄膜を作製できる方法を見出した。具体的には、平均粒子径が小さい種晶を含むアルカリ性であるゲル状の前駆体、すなわち前駆体ゲルを基材に塗布し、前駆体ゲルが塗布された基材に水蒸気存在下で加熱処理を行うことで、種晶をゼオライト膜化できることを見出した。特に、粉砕等により平均粒子径を小さくした種晶を用いることで、構造規定剤を用いなくとも、細孔径の整った緻密なゼオライト膜を得ることができることを見出した。
さらに、我々は、ゼオライト分離膜の製造が、3つの段階、すなわち(1)種晶が部分的に溶けて溶液状になる段階と、(2)ゼオライトの基本ユニットが10ユニット前後でできたサブユニット(以後、「SBユニット」と表記する)を形成する段階と、(3)これらSBユニットがさらに成長しながら結晶化・膜化する段階とを経ていることを見出した。特に、この3つの段階のうち、(1)の段階では、平均粒子径を小さくした種晶を用いることで、少量のアルカリでも十分に溶解が進む知見を得た。このように、ゼオライトの基本ユニットの平均粒子径を小さくすることで、SBユニット形成のエネルギー障壁が低くなり、(2)の段階の進行が促進される。また(3)の段階では、ゼオライト前駆体ゲル内に多数のSBユニットが存在することで、SBユニットを基点とした結晶化・膜化が進行し、効率的にゼオライト分離膜の合成が進行できることを見出した。
実施形態はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
[1]種晶としてのゼオライト粒子と、アルカリ性水溶液とを含み、前記種晶を除くシリコンとアルミニウムとリンとの含有総量が100ppm以下である前駆体ゲルを準備する工程と、前記前駆体ゲルを基材に塗布することで前駆体ゲル層を形成する工程と、前記前駆体ゲル層を水蒸気存在下で加熱処理することにより前記ゼオライト粒子を成長させてゼオライト分離膜を形成する工程とを含む、ゼオライト分離膜の製造方法。
[2]前記ゼオライト粒子の平均粒子径が300nm以下である[1]に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
[3]前記ゼオライト分離膜におけるSiのモル比FSiとAlのモル比FAlとの比FSi/FAlが、前記ゼオライト粒子におけるSiのモル比SSiとAlのモル比SAlとの比SSi/SAlの0.001倍以上1倍以下である[1]又は[2]に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
[4]前記ゼオライト分離膜におけるAlのモル比FAlとPのモル比FPとの比FAl/FPが、前記ゼオライト粒子におけるAlのモル比SAlとPのモル比SPとの比SAl/SPの0.001倍以上1倍以下である[1]ないし[3]のいずれか1項に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
[5]前記ゼオライト分離膜の厚さは、前記前駆体ゲル層の厚さの2倍以下である[1]ないし[4]のいずれか1項に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
[6]前記ゼオライト分離膜の厚さは5μm以下である[1]ないし[5]のいずれか1項に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
[7]前記基材が多孔質体である[1]ないし[6]のいずれか1項に記載のゼオライト分離膜の製造方法。
実施形態のゼオライト分離膜の製造方法の態様を、以下に詳細に説明する。
実施形態のゼオライト分離膜の製造方法は、種晶としてのゼオライト粒子と、アルカリ性水溶液とを含み、種晶を除くシリコンとアルミニウムとリンとの含有総量が100ppm以下である前駆体ゲルを準備することと、この前駆体ゲルを基材に塗布することで前駆体ゲル層を形成することと、この前駆体ゲル層を水蒸気存在下で加熱処理に供することによりゼオライト粒子を成長させてゼオライト分離膜を形成することとを含む。
実施形態の製造方法では、先ず、前駆体ゲルを準備する。前駆体ゲルは、種晶としてのゼオライト粒子と、アルカリ性水溶液とを含む。前駆体ゲルは、従来のゼオライト膜原料溶液とは異なり、種晶以外には、ゼオライト合成の原料として用いられるシリコン、アルミニウム、及びリンの1種以上を含有する化合物を実質的に含まない。
種晶としてのゼオライト粒子は、前駆体ゲル中で微小な塊として存在し、結晶成長時の基点になる。そのため、種晶を用いることによって、種晶がない場合と比較して結晶化を有利に進めることができる。
種晶とするゼオライト粒子は、アルミノケイ酸塩あるいはアルミノリン酸塩あるいはシリカアルミノリン酸塩などの骨格構造に少なくともアルミニウムを含む酸化物塩から構成されることが好ましい。
種晶のゼオライトとしての構造は、例えばIZA(International Zeolite Association)が定めるコードで、LTA、FER、MFI、FAU、DDR、NSI、ACO、AEI、AEL、AET、AFG、AFI、AFN、AFR、AFS、AFT、AFX、AFY、AST、ATN、ATO、ATS、ATT、AWW、BEA、BEC、BOG、BPH、BRE、CAN、CGF、CGS、CHA、CON、CZP、DFO、DFT、DON、EAB、EDI、EMT、EON、ERI、ESV、ETR、EZT、FAR、FRA、GIS、GIU、GME、HEU、IFR、ISV、ITE、IWR、IWV、IWW、KFI、LEV、LIO、LOS、MAR、MAZ、MEI、MER、MOR、MOZ、MSE、MWW、NAB、OBW、OFF、OSO、OWE、PAU、PHI、RHO、RSN、RTE、RTH、SAO、SAS、SAT、SAV、SBE、SBS、SBT、SFF、SFO、SIV、SOD、SOS、STF、STI、STT、TER、TOL、TSC、UFI、UOZ、USI、UTL、VFI、VNI、VSV、−WEN、ZONなどが挙げられる。実施形態では、これらの中でも、耐久性の点から、ゼオライト構造がLTA型、MFI型、FAU型、MOR型、MEL型、FER型、BEA型、CHA型、AFI型、ANA型、SOD型、GIS型、GME型、EMT型、OFF型のいずれか一つであることが好ましく、特にLTA型、MFI型、FAU型、MOR型、MEL型、FER型、BEA型、CHA型、AFI型であることがより好ましい。
種晶は、ゼオライトの骨格構成元素であるアルミニウム、シリコン、リンのいずれか1種以上の元素の他に、イオン交換可能な元素として、水素(プロトン)、あるいはアルカリ金属元素、具体的にはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、あるいはアルカリ土類金属元素、具体的にはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)を含んでいることが好ましい。特に、種晶が水素(プロトン)、Li、Na、K、Mg、Caを含むことがより好ましい。また、種晶は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを単独で含有しても良く、あるいはこれらを2種類以上含有してもよい。
種晶は、骨格構成元素であるアルミニウム及び/又はリンの一部が遷移金属元素、半金属元素、又は希土類元素で置換されているゼオライトの粒子であっても良く、あるいはこれらの元素を含む酸化物が表面に被覆されているゼオライト粒子、又はこれらの元素を含む酸化物が表面の少なくとも一部に付着しているゼオライト粒子であっても良い。例えば、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Ru)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、タングステン(W)、金(Au)、白金(Pt)、セリウム(Ce)、及びテルビウム(Tb)から選択される1種以上の元素がゼオライト中のアルミニウムやリンを置換しているゼオライト粒子を種晶としても良い。あるいは、これらの元素を含む酸化物を種晶表面に被覆させる、あるいは種晶表面部の少なくとも一部に付着させても良い。このようにして上記元素を添加することで、分離性能を増加させることができる。
種晶としてのゼオライト粒子中に含むことのできる遷移金属元素、半金属元素、又は希土類元素のうち、2価の状態でイオン半径が0.3nm以上8nm以下である元素が好ましい。中でも、2価、4配位の状態でイオン半径が0.4nm以上7nm以下である元素がより好ましい。合成の容易さから、Cu、Fe、Co、Zn、Sn、Pd、Laが好ましく、Cu、Fe、Sn、Pdがより好ましい。
種晶としてのゼオライト粒子に含まれる遷移金属元素、半金属元素、又は希土類元素の含有量は、ゼオライト粒子に対して0.001重量%以上40重量%以下であることが好ましく、0.01重量%以上30重量%以下であることがより好ましい。含有量を0.001重量%以上とすることで、十分な効果が得られる。含有量が40重量%を超えると、種晶(ゼオライト粒子)の合成時に不純物が混入しやすくなる。
実施形態で用いる種晶は、基材に対して垂直方向に柱状結晶様に成長しながらゼオライト膜化する。そのため、種晶の平均粒子径が過度に大きいと、粒子間の空隙を除去できずにピンホールやクラックのような欠陥が残存する可能性がある。また、種晶の平均粒子径を1μm以下とすることで、上述したSBユニットの形成を促すことができるため望ましい。平均粒子径は、300nm以下であることが好ましく、特に100nm以下であることがより好ましい。一方で、平均粒子径が過度に小さいと、種晶が溶液化する段階(上述した(1)の段階)で完全溶解してしまい、種晶を用いる優位性が消失するおそれがある。そのため、種晶の平均粒子径は、20nm以上であることが望ましい。種晶の平均粒子径は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)写真からランダムに数10個の粒子を選び、画像解析ソフトで各粒子の断面積を求め、各粒子の粒子径を下記式1から算出し、得られた粒子径の値について算術平均して、平均粒子径とすることができる。
また、種晶の結晶子サイズを用いても、上記した平均粒径と同様な議論が成立する。結晶子サイズは平均粒子径と同様な理由により、過度に大きくても、小さくても十分な効果が得られにくくなる為、望ましくない。種晶の結晶子サイズは、1μm以下であることが望ましく、100nm以下であることが好ましく、特に60nm以下であることがより好ましい。一方で、結晶子サイズが過度に小さいと、種晶が溶液化する段階(上述した(1)の段階)で完全溶解してしまい、種晶を用いる優位性が消失するおそれがある。そのため、種晶の結晶子サイズは、20nm以上であることが望ましい。種晶としてのゼオライト粒子の結晶子サイズは、例えばX線源としてCuKα線を用いたX線回折(XRD)測定により得られた回折スペクトルにおいて、最大回折強度のピークを用いて下記シェラー式(式2)から算出することができる。
ここで、Dは結晶子サイズ、kはシェラー定数(0.94)、βは最大回折強度のピークの半値幅、θは回折角2θ/θ、λはCuKα線波長(1.541nm)をそれぞれ示す。Dを算出する際に用いる回折線強度は、最大回折線強度、すなわち試料中で最も多く存在する回折面から回折される回折線を使用するため、実質的にその試料を代表するDとなる。
種晶の結晶子サイズが大きすぎる場合は、粉砕等により粒度調整を適宜行うことが望ましい。粉砕の方法としては、例えばボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、ジェットミルなどを用いる方法が挙げられる。中でもビーズミルを用いる方法は、ゼオライトの非晶質化を最低限に抑えることができ、効率よく粉砕できるため望ましい。なお、ビーズミルは、50〜1000μmのセラミックビーズを用い、解砕・粉砕を行う装置であることが望ましい。
前駆体ゲル中の種晶量は、少なすぎると種としての効果を十分に発揮できない。一方で、種晶の量が多すぎるとゼオライト膜化後もゼオライト粒子が基材とゼオライト膜との間に残存し、厚膜化する要因となってしまうため好ましくない。従って種晶は、前駆体ゲルに対して0.1重量%以上20重量%以下の量で含まれることが好ましく、特に1重量%以上10重量%以下がより好ましい。
種晶とするゼオライト粒子の製造方法は特に限定されず、例えばオートクレーブを用いた一般的なバッチ方式で、水熱合成法で製造することができる。具体的には、例えばアルミニウムやシリコン、リンなどを含有する原料と、アルカリ性水溶液やアルカリ性有機溶媒などの溶媒とを含んだゼオライト原料溶液を用いて合成することができる。
前駆体ゲルに含まれるアルカリ性の水溶液は、水とアルカリ成分とを含み、前駆体ゲルをアルカリ性にする。前駆体ゲルのアルカリ性を示すアルカリ成分として、アルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素の水酸化物や塩を用いる。アルカリ金属元素としては、例えばLi,Na,Kなどが挙げられる。アルカリ土類金属元素としては、例えばMg,Ca,Srなどが挙げられる。前駆体ゲル中のアルカリ濃度は14≧pH≧12.4が好ましく、14≧pH≧13がより好ましい。或いは、例えばアルカリ金属元素の水酸化物やアルカリ金属塩を用いた場合のアルカリ濃度をアルカリ成分に対する水量(モル比)で表した場合に、1XOH:yH2O(X=Li,Na,K)とした時に、50≦y≦2000であることが好ましく、60≦y≦500であることがより好ましい。また、アルカリ金属元素と同様に、例えばアルカリ土類元素を用いた場合のアルカリ濃度を1W(OH)2:zH2O(W=Mg、Ca、Sr)と表した時に、100≦y≦4000であることが好ましく、120≦y≦1000であることがより好ましい。
前駆体ゲルでは、種晶以外にはゼオライト原料としてのシリコンとアルミニウムとリンとが実質的に含まれていないことが望ましい。具体的には、種晶を除く前駆体ゲル中のシリコンとアルミニウムとリンとの含有量は100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。
前駆体ゲル中において種晶以外に含まれているシリコンとアルミニウムとリンとの含有量、すなわち前駆体ゲルのアルカリ性水溶液に含まれているシリコンとアルミニウムとリンとの含有量は、例えば誘導発光プラズマ発光分光分析(ICP−AES;Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)により測定できる。前駆体ゲルに含まれているアルカリ性水溶液を測定する場合には、例えば前駆体ゲルから種晶を遠心分離により分離することで種晶を除いたアルカリ性水溶液を採取し、測定試料とすることができる。
実施形態のゼオライト分離膜の製造方法では、上述した種晶としてのゼオライト粒子とアルカリ性水溶液とを含んだ前駆体ゲルを準備した後、この前駆体ゲルを基材に塗布する。基材に塗布した前駆体ゲルは、前駆体ゲル層を形成する。
前駆体ゲルを塗布する基材は、セラミックス材料、金属材料、炭素材料、もしくはこれらの複合材料である無機材料、あるいは高分子材料により構成することが好ましい。セラミックス材料としては、Al,Si,Mg,Ca,Ba,Ti,Fe,Co,Niなどの元素の酸化物、窒化物、炭化物、及びその塩、もしくはこれらの複合化合物が含まれる。特に酸化物としてはゼオライトやムライト、雲母、沸石のようなケイ酸塩やアルミノリン酸塩、ガラス(焼結ガラス、登録商標:Vycorガラス、ミクロガラス繊維)も含まれる。金属材料としては、金属元素あるいは半金属元素、例えばAl,Si,Zn,Ni,Co,Fe,Ti,Zr,Mo,Cu,Ag,Sn,W,Au,Ptや、これら2種類以上からなる合金も含まれる。高分子材料としてはポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン(フッ素樹脂)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ナフィオン(登録商標)、アセチルセルロースが含まれる。
基材は多孔質であることが好ましく、例えば多孔質体であってもよい。基材としての多孔質体における気孔(空孔)の体積率、すなわち体積気孔率は低すぎると、気孔を透過できる気体量が減少してしまうため好ましくない。一方で、体積気孔率は高すぎると、機械的強度が減少してしまうため好ましくない。従って、体積気孔率は10〜70%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。ただし体積気孔率は、基材の材質や目的に応じて適宜設定するのが望ましい。例えば、気体の透過速度を高める場合には、体積気孔率を高めに設定することが好ましい。機械的強度を高める場合、あるいは低コスト化する場合には、体積気孔率を低めに設定することが好ましい。
基材としての多孔質体の気孔(空孔)は、気孔径が小さすぎると気体の透過抵抗が増加するため、気孔を透過できる気体量が低下するため好ましくない。一方で、気孔径は大きすぎると、ゼオライト分離膜が多孔質体の気孔を覆うことが難しくなり、分離性能が悪化するため好ましくない。従って、平均気孔径は10nm以上5μm以下であることが好ましく、15nm以上3μm以下であることがより好ましい。なお、多孔質体の体積気孔率や平均気孔径は、例えば水銀圧入法により測定することができる。
分離性能を増加させるためには、体積気孔率の30%以上が、多孔質体の気孔のうち気孔径が10nm以上3μm以下である気孔により占められていることが好ましい。また、気孔径が10nm以上3μm以下である気孔により、体積気孔率の40%以上が占められていることがより好ましく、70%以上が占められていることがさらに好ましい。
基材の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば以下に示すような製法を適用できる。アルミナやムライト、ジルコニア、チタニア、シリカ等のセラミックス材料を用いる場合は、例えば原料粉末を成形後に焼結し、多孔質体を作製する方法が適用できる。多孔質体はロックウール、セラミックウール、ガラスウール、炭素繊維等の無機繊維を含んでいてもよい。また、金属材料を用いる場合は、例えば原料粉末を成形後に焼結する方法、あるいは原料粉末とスペーサー材料粉末を混合し、成形後焼結することでスペーサー材料を取り除く方法、エレクトロンスピニングによりメッシュ構造を取る方法、数μm〜数100nmの太さの極細繊維状態にした金属繊維を編み込みメッシュ状にする方法、発泡金属を用いる方法、パンチング法等により多孔質体を作製できる。
基材の形状は特に限定されるものではないが、例えば板状、円筒状、波形状、フィルター状、ハニカム状であることが好ましい。特に、基材の形状は、板状又は円筒状であることがより好ましい。
基材上に形成された前駆体ゲル層を水蒸気存在下で加熱することで、前駆体ゲル層をゼオライト化させる反応が進行する。この反応において、前駆体ゲル層内の種晶(ゼオライト粒子)が成長して緻密なゼオライト膜が形成される。このようにして、ゼオライト分離膜が得られる。
水蒸気存在下で加熱処理することで達する反応温度は、一般的なゼオライトの水熱合成の温度と同等でよく、例えば120℃以上250℃以下であることが好ましく、140℃以上230℃以下であることがより好ましい。
また、加熱処理の時間、すなわち反応温度を保つ保持時間は、例えば10時間以上であることが好ましく、15時間以上であることがより好ましい。この保持時間は、基体上に塗布した前駆体ゲルの量や前駆体ゲル中のゼオライト粒子の種類によって、適宜調整できる。
加熱処理には、例えば耐圧反応容器を用いることができる。耐圧反応容器の材質には特に制限はなく、反応温度における耐熱性と、ゼオライトに対する汚染の問題が無く、かつ熱伝導の良い材質が好適に用いられる。例えば、反応器内をテフロン(登録商標)等の安定な素材でライニングし、ゼオライトに対する汚染を防ぐ処理を施したステンレスや銅、並びにアルミニウムなどを反応器の材質として好適に用いることができる。
例えば、耐圧反応容器に前駆体ゲル層が形成された基材を入れ、耐圧反応容器内に水蒸気が存在する状態で加熱することで、前駆体ゲル層を水蒸気存在下で加熱処理に供することができる。耐圧反応容器内を水蒸気が存在する状態にするには、例えば耐圧反応容器に水を入れ、耐圧反応容器を密閉した状態で加熱することで、水の蒸発により水蒸気を発生させることができる。ただし、液体の水と前駆体ゲル層が形成された基材とが接触しないよう留意する。
種晶と共に、シリコン、アルミニウム、及びリンの1種以上を含有する化合物を含むゼオライト膜原料溶液を同時に基材に塗布する従来の水蒸気処理法(SAC)と異なり、実施形態の製造方法では、基材に塗布するシリコン、アルミニウム、及びリンから選択される1種以上の原料は実質的に種晶にのみ含まれている。そのため、ゼオライト分離膜が形成される際、基材上に塗布された前駆体ゲル層の厚さを大幅に超えるような成長は起こらない。その結果、加熱処理後に得られるゼオライト分離膜の厚さは、例えば前駆体ゲル層の厚さに対して2倍以下となる。得られたゼオライト分離膜の厚さが前駆体ゲルの厚さの1.8倍以下であることが好ましい。
加熱処理により成膜されたゼオライト分離膜におけるシリコン(Si)とアルミニウム(Al)との存在比は、前駆体ゲル中の種晶におけるSiとAlとの存在比と同じであっても良く、異なっても良い。ゼオライト分離膜におけるSiのモル比FSiとAlのモル比FAlとの比FSi/FAlは、種晶におけるSiのモル比SSiとAlのモル比SAlとの比SSi/SAlと比較して0.001倍以上1倍以下、好ましくは0.01倍以上1倍以下である。
また、ゼオライト分離膜におけるアルミニウム(Al)とリン(P)との存在比は、種晶におけるAlとPとの存在比と同じであっても良いし、異なっても良い。ゼオライト分離膜におけるAlのモル比FAlとPのモル比FPとの比FAl/FPは、種晶におけるAlのモル比SAlとPのモル比SPとの比SAl/SPと比較して0.001倍以上1倍以下、好ましくは0.01倍以上1倍以下である。
前駆体ゲル中に用いる種晶のような粒子状のゼオライトにおける比SSi/SAlや比SAl/SPは、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)によりゼオライト粒子中のSi、Al、Pのそれぞれの存在比率を測定し、測定結果から算出して求めることができる。成膜されたゼオライト分離膜のような膜状のゼオライトにおける比FSi/FAlや比FAl/FPは、例えば走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDS)により測定することができる。
実施形態の製造方法により得られるゼオライト分離膜は、水蒸気を含む2種類以上の気体を含んだ混合ガスから水蒸気を分離するゼオライト分離膜として用いることができる。混合ガスは、例えば水蒸気と空気とを含む。
ゼオライト分離膜の分離性能を評価する指標として、例えば水蒸気と空気の分離率や水蒸気のゼオライト分離膜に対する透過速度が挙げられる。水蒸気と空気の分離率は、例えば下記式3に示すように、水蒸気と空気とを含んだ混合ガスがゼオライト分離膜を透過したときに、ゼオライト分離膜を透過する前後における混合ガス中の水蒸気と空気とのモル比から算出できる。また、水蒸気透過速度v(g/hour/m2)は、例えば下記式4に示すように、一定の時間においてゼオライト分離膜を透過する水蒸気量とゼオライト分離膜の面積とから算出できる。
ゼオライト分離膜の分離率には、膜の緻密さが反映され得る。例えば、より緻密な膜のほうが、分離率が高くなり得る。また、ゼオライト分離膜の透過速度には、膜の厚さが反映され得る。例えば、より薄い膜のほうが、透過速度が高くなり得る。そのため、実施形態の製造方法によって得られたゼオライト分離膜の厚さが5μm以下であることが好ましい。ゼオライト分離膜の厚さが3μm以下であることがより好ましい。ゼオライト分離膜の厚さは、例えば断面に対する走査型電子顕微鏡(SEM)測定により確認することができる。
以下、実施形態のゼオライト分離膜の製造方法の一例を、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
図1に、水蒸気存在下で加熱処理を行う一例の装置の構成を示す。図1に示すとおり、この加熱装置は、耐圧性蓋1と、耐圧性容器2と、基材固定治具3とを含む。耐圧性容器2内に水Wが収納されている。耐圧性蓋1と耐圧性容器2とは、耐圧反応容器を構成する。基材固定治具3は、基材Bを保持するものであり、耐圧反応容器内で水Wに浸漬されない位置に基材Bを固定する。基材Bには、前駆体ゲルが塗布される。なお、理解のために、耐圧性容器2内の水Wと、基材Bと基材固定治具3とを図示しているが、実際の耐圧性容器2は内部を視認できるものに限られない。
図1の加熱装置では、耐圧反応容器を加熱することにより、水Wが気化して水蒸気が得られ、耐圧反応容器内が水蒸気雰囲気となる。この状態で加熱し続けることで、前駆体ゲルが塗布された基材Bが水蒸気存在下で加熱される。この加熱処理により、基体B上でゼオライト粒子(種晶)の緻密化反応が進行し、ゼオライト分離膜が形成される。
図2に、実施形態の製造方法におけるゼオライト分離膜の緻密化を示す一例の概略図を示す。図2では、気孔4を有するセラミックス材料からなる多孔質体5を基材としてゼオライト分離膜を製造した例を示す。先ず、気孔4を有する多孔質体5上に種晶とアルカリ性水溶液とを含む前駆体ゲルを塗布することで、前駆体ゲル層6が形成される。前駆体ゲル層6が形成された多孔質体5に対し、水蒸気存在下で加熱処理を行うことで、前駆体ゲル層6に含まれる種晶が一部溶解した後SBユニットを形成し、再結晶化する。その結果、前駆体ゲル層6中の種晶が成長することで緻密化及び薄膜化し、ゼオライト分離膜7が形成される。
[実施例]
以下に実施例及び比較例、並びにそれらの評価方法について説明する。
粉砕処理前後のゼオライト粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)写真(日本電子株式会社(JEOL Ltd.)製 JSM−7000)をもとに算出した。加速電圧15kVで、50,000倍に拡大したSEM写真において、ランダムに20個の粒子を選出し、画像解析ソフトで各粒子の断面積を求め、各粒子の粒子径を上述した式1で算出した。得られた20個の粒子径について算術平均して、平均粒子径とした。
また、種晶としてのゼオライト粒子及びゼオライト分離膜の結晶構造は、XRD回折装置(リガク社製 Ultima IV、40kV、40mA)で、CuKα線をX線原として用いて2θ/θ法により測定した。また、それぞれの結晶子サイズは、測定により得られた回折線から上述したシェラー式(式2)により算出した。
種晶における比SSi/SAlあるいは比SAl/SPは、ICP−AES(セイコーインスツル株式会社(SII)製 SPS4000)を用いた測定結果より算出した。ゼオライト分離膜の比FSi/FAlあるいは比FAl/FPは、SEM−EDS(日本電子株式会社(JEOL Ltd.)製 JSM−7001F)により加速電圧15kVで測定した。ゼオライト分離膜の厚さは、SEM(日本電子株式会社(JEOL Ltd.)製 JSM−7000)により加速電圧5kVで測定した。
基材として、市販の多孔質ムライト、多孔質アルミナ、多孔質PTFEを用いた。用いた各基材の仕様を下記表1に示す。以下の実施例及び比較例では、特に断りがない限り、上記基材のいずれかを基材として用いた。
(実施例1)
40%コロイダルシリカ(Sigma−Aldrich社製)、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)、及び純水を24時間攪拌混合した。得られたシリコン溶液に、アルミン酸ナトリウム(和光純薬社製)、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)、及び純水を7時間撹拌混合することで別途得られたアルミニウム溶液を添加した。アルミニウム溶液を添加したシリコン溶液をさらに10分攪拌して、組成(モル比)がAl2O3:SiO2:NaOH:H2O=0.01:1:0.6:120である種晶合成用ゼオライト原料溶液を調製した。これを実施例1の種晶合成用ゼオライト原料溶液とした。
調製した種晶合成用ゼオライト原料溶液を用いて、テフロンライニングされたオートクレーブ中で、自己発生圧力下、160℃で24時間水熱合成をした。得られた生成物スラリーを濾過、水洗、乾燥し、種晶用のMFI型ゼオライト粒子を得た。このMFI型ゼオライト粒子における比SSi/SAlは、14.5であった。また、平均粒子径は540nmであり、結晶子サイズは、80.5nmであった。
次に、純水20mlずつ加えたビーズミル用ポットを2セット準備し、それぞれに2重量%ずつ秤量した種晶用のMFI型ゼオライト粒子を加えた。それぞれのセットに対し、直径1000μmの高純度ジルコニアビーズを用いて遊星ボールミル((有)ナガオシステム製ハイパワーボールミルPlanet M2−3F)を用いて700rpmで20分ミリングすることで粉砕処理を行った。その後、粉砕したゼオライト粒子を含んだスラリーを合計60mlの純水を用いてそれぞれのポットから回収した。このようにして、粉砕処理を施し合計100mlの純水で希釈することで、4重量%種晶溶液を得た。種晶溶液に含まれる種晶の平均粒子径は76nmであり、結晶子サイズは57.4nmであり、比SSi/SAlは14.5あった。
この種晶溶液に、最終的な種晶の含有量が2重量%、かつ水酸化ナトリウムと水との含有割合(モル比)がNaOH:H2O=1:120となるように、水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、pH=13.7の前駆体ゲルを作製した。この前駆体ゲルを、アセトン、エタノール、及び純水で超音波洗浄したムライト基材に、ディッピングにより塗布した。次いで、前駆体ゲルが塗布された基材を100℃で乾燥することで、その表面に前駆体ゲル層が形成された基材を得た。形成された前駆体ゲル層の厚さは1.3μmであった。
テフロンライニングされたオートクレーブ中に、少量の純水を加えた。上記前駆体ゲル層が形成された基材を、オートクレーブ内において純水と接触しないように治具を用いて純水の上部に固定した。この状態で、180℃の温度で20時間の加熱処理を行った。加熱処理後の基材を、洗浄液がpH8以下になるまで純水を用いて洗浄し、乾燥することでゼオライト分離膜を得た。
得られたゼオライト分離膜は、XRD分析によりMFI型構造を有することが確認された。図3に、種晶と得られたゼオライト分離膜とのXRDチャートを示す。また、ムライト基材のXRDチャートも併せて図3に点線で示す。実施例1で得られたゼオライト膜の膜厚は1.7μmであり、前駆体ゲル層に対して1.3倍の厚さとなっていた。また、このゼオライト膜における比FSi/FAlは10.3であり、種晶における比SSi/SAlと比較して、値が0.71倍であった。
(実施例2)
実施例2では、種晶溶液を調製する際、種晶用のMFI型ゼオライト粒子の粉砕処理を行わなかった。つまり、実施例2では、平均粒子径が540nmであり、結晶子サイズが80.5nmであり、比SSi/SAlが14.5であるMFI型ゼオライト粒子を種晶として用いた。また、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが3.1μmだった。これらのことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。
(実施例3)
実施例3では、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが1.2μmだった。また、加熱処理の時間を10時間へと変更した。これらのことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。
(実施例4)
実施例4では、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが1.5μmだった。また、加熱処理の温度を250℃へと変更した。これらのことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。
(実施例5)
実施例5では、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが1.5μmだった。また、加熱処理の温度を120℃へと変更した。これらのことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。
(実施例6)
実施例6では、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが1.2μmだった。また、基材をアルミナ基材へと変更した。これらのことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。このようにして得られたアルミナ基材上のゼオライト分離膜の表面及び断面に関する走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ図4及び図5に示す。
(実施例7)
実施例7では、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが1.5μmだった。また、基材をPTFE基材へと変更した。これらのことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。
(実施例8)
実施例8では、先ず、基材上に形成された前駆体ゲル層の厚さが1.2μmだったことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。次に、得られたゼオライト分離膜を、6wt%の酢酸銅水溶液に室温で4時間浸漬した。ゼオライト分離膜を水で洗浄した後、100℃で乾燥することにより、Cu担持ゼオライト分離膜を得た。Cu担持量は、SEM−EDSマッピングにより算出したところ、3重量%であった。
(実施例9)
実施例9では、先ず、次のとおりにして種晶用のLTA型ゼオライト粒子を作製した。
40%コロイダルシリカ(Sigma−Aldrich社製)、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)、及び純水を24時間攪拌混合した。得られたシリコン溶液に、アルミン酸ナトリウム(和光純薬社製)、水酸化ナトリウム(和光純薬社製)、及び純水を7時間撹拌混合することで別途得られたアルミニウム溶液を添加した。アルミニウム溶液を添加したシリコン溶液をさらに10分攪拌して、組成(モル比)が、Al2O3:SiO2:NaOH:H2O=1:2:4:150であるゼオライト膜原料溶液を調製した。これを実施例9の種晶合成用ゼオライト原料溶液とした。
調製した種晶合成用ゼオライト原料溶液を用いて、テフロンライニングされたオートクレーブ中で、自己発生圧力下、90℃で4時間水熱合成した。得られた生成物スラリーを濾過、水洗、乾燥し、種晶用のLTA型ゼオライトを得た。このLTA型ゼオライトにおける比SSi/SAlは、1.5であった。また、平均粒子径は2000nmであり、結晶子サイズは、78.6nmであった。
このLTA型ゼオライトを用いたことを除き、実施例1と同様にして、前駆体ゲルを調製した。得られた前駆体ゲルに含まれる種晶の平均粒子径は63nmであり、結晶子サイズは45.5nmであり、比SSi/SAlは1.5であった。調製した前駆体ゲルを、実施例1と同様の基材にディッピングにより塗布した。次いで、100℃で乾燥することで、その表面に前駆体ゲル層が形成された基材を得た。形成された前駆体ゲル層の厚さは1.4μmであった。
上記のようにして前駆体ゲル層を形成した基材を用い、加熱処理の時間を15時間へと変更したことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。実施例9で得られたゼオライト膜の膜厚は2.3μmであり、前駆体ゲル層に対して1.6倍の厚さとなっていた。また、このゼオライト膜における比FSi/FAlは1.3であり、種晶における比SSi/SAlと比較して、値が0.87倍であった。
(実施例10)
実施例10では、先ず、次の通りにして種晶用のAFI型ゼオライト粒子を作製した。
85重量%リン酸、純水、及び擬ベーマイト(Catapal C、Sasol社製)を24時間攪拌混合した。得られた原料混合物に40重量%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)(Sachem社製)水溶液を添加し、さらに24時間攪拌して、組成(モル比)がAl2O3:P2O5:TPAOH:H2O=1:1:1:50である種晶合成用ゼオライト原料溶液を調製した。これを実施例10の種晶合成用ゼオライト原料溶液とした。
この種晶合成用ゼオライト原料溶液を、テフロンライニングされたオートクレーブ中で、自己発生圧力下、180℃で24時間水熱合成した。得られた生成物スラリーを濾過、水洗、乾燥し、種晶用のAFI型AlPOゼオライトを得た。このAFI型AlPOゼオライトにおける比SAl/SPは、1.2であった。また、平均粒子径は720nmであり、結晶子サイズは、96.7nmであった。
このAFI型ゼオライトを用いたことを除き、実施例1と同様にして、前駆体ゲルを調製した。得られた前駆体ゲルに含まれる種晶の平均粒子径は85nmであり、結晶子サイズは58.9nmであり、比率SAl/SPは1.2であった。調製した前駆体ゲルを、実施例1と同様の基材にディッピングにより塗布した。次いで、100℃で乾燥することで、その表面に前駆体ゲル層が形成された基材を得た。形成された前駆体ゲル層の厚さは1.5μmであった。
記のようにして前駆体ゲル層を形成した基材を用い、加熱処理の温度及び時間をそれぞれ200℃及び24時間へと変更したことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。実施例10で得られたゼオライト膜の膜厚は1.7μmであり、前駆体ゲル層に対して1.1倍の厚さとなっていた。また、このゼオライト膜における比FAl/FPは0.9であり、種晶における比SAl/SPと比較して、値が0.75倍であった。
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様に基材上に前駆体ゲル層を形成した後、前駆体ゲル層の上にゼオライト膜原料溶液を塗布した。ここで、前駆体ゲル層上に塗布するゼオライト膜原料溶液として、実施例1の種晶合成用ゼオライト原料溶液を用いた。次いで、100℃で乾燥させることで、前駆体ゲル層の上にゼオライト膜原料溶液の被膜を形成した。基材上に形成された前駆体ゲル層とゼオライト膜原料溶液の被膜との合計の厚さは2.2μmであった。
この基材を用いたことを除き、実施例1と同様の条件でゼオライト分離膜を作製した。比較例1で得られたゼオライト膜の膜厚は3.5μmであり、前駆体ゲル層に対して1.6倍の厚さとなっていた。また、このゼオライト膜における比FSi/FAlは13.2であり、種晶における比SSi/SAlと比較して、値が0.91倍であった。
下記表2に、実施例1−10及び比較例1にて用いた種晶合成用ゼオライト原料溶液、並びに得られたゼオライト構造を示す。また、下記表3に、種晶の粉砕処理の有無、粉砕処理の前後における種晶用のゼオライトの平均粒子径、結晶子サイズ、並びに種晶における比SSi/SAl又は比SAl/APを示す。
下記表4には、実施例1−10及び比較例1にて用いた基材及び前駆体ゲルの詳細を示す。具体的には、基材の種類、前駆体ゲルにおける種晶の含有量、前駆体ゲルの調製に用いたアルカリ性水溶液の組成、アルカリ性水溶液に含有されているシリコン(Si)、アルミニウム(Al)、及びリン(P)の総量、前駆体ゲルのpH、ゼオライト膜原料溶液の使用の有無、ゼオライト膜原料溶液を使用した場合のその組成、及び基材上に形成された層の厚さ(前駆体ゲル層の厚さ、又は前駆体ゲル層及びゼオライト膜原料溶液の被膜との合計の厚さ)をまとめる。
下記表5に、実施例1−10及び比較例1における水蒸気存在下での加熱処理の詳細、並びにゼオライト分離膜へ担持した化合物の詳細を示す。具体的には、実施例1−10及び比較例1のそれぞれにおける加熱処理温度及び加熱時間をまとめ、実施例8について加熱処理後にゼオライト分離膜へ担持した化合物の組成及び担持量を示す。
表6には、実施例1−10及び比較例1において作製されたゼオライト分離膜の詳細を示す。具体的には、得られたゼオライト分離膜の厚さ、ゼオライト分離膜についての比FSi/FAl又はFAl/FP、並びにこれらゼオライト分離膜における元素比とそれぞれの種晶における元素比SSi/SAl又はSAl/SPとの比をまとめる。
(性能の評価)
上記実施例及び比較例において得られたゼオライト分離膜について、次のようにして水蒸気と空気との分離率及び水蒸気透過速度を求めた。
ゼオライト分離膜の表面側に40℃における飽和湿度の空気を供給し、ゼオライト分離膜の表面側とその裏面側、すなわち基材側との間で圧力に90kPaの差圧がついた状態で一定時間経過後、その間にゼオライト分離膜を透過した水蒸気の量(モル)と空気の量(モル)とから、上述した式2を用いて算出した値を水蒸気と空気との分離率とした。具体的には、ゼオライト分離膜を透過する前後のそれぞれにおける水蒸気の量(モル)とゼオライト分離膜を透過する前後のそれぞれにおける空気の量(モル)とから、上述した式2を用いて分離率を算出した。
ゼオライト分離膜に対する水蒸気の透過速度については、ゼオライト分離膜の表面側と裏側(基材側)との間の圧力差を90kPaにした状態で、40℃における飽和湿度の空気をゼオライト分離膜の表面側に供給した時に、上記した式3に基づいてゼオライト分離膜を透過した水蒸気量(g)を単位時間、単位面積当たりに換算した値を透過速度とした。
上記のとおり評価した結果、実施例1で得られたゼオライト分離膜では水蒸気/空気分離率が100以上、水蒸気透過速度が354g/hour/m2であった。
実施例2−10及び比較例1のそれぞれにおいて得られたゼオライト分離膜についても、同様にして水蒸気と空気との分離率及び水蒸気透過速度を求めた。実施例1−10及び比較例1について、こうして得られたゼオライト分離膜の性能の評価結果を下記表7にまとめる。
表7が示すとおり、実施例1−10で得られたゼオライト分離膜の何れも水蒸気と空気とを分離する性能が高く、かつ水蒸気透過速度も高かった。一方で、比較例1で得られたゼオライト分離膜は、水蒸気と空気とを分離する性能が実施例1−10と同程度であったものの、水蒸気透過速度が低かった。
従来のSAC法による合成を行った比較例1では、実施例1と同様の種晶を用い、かつ同様の加熱処理条件を適用したものの、得られたゼオライト膜の厚さ(3.5μm)が実施例1で得られたゼオライト分離膜の厚さ(1.7μm)と比較して大きくなった。これは比較例1では従来のSAC法、すなわち前駆体ゲルの他にゼオライト膜原料溶液を塗布した後にSAC法によりゼオライト膜化しているため、種晶以外の原料供給源があり、種晶の粒界部分の欠陥を抑制するように緻密化が促進され、分離率が実施例1−10と同等に高くなったと考えられる。その一方、種晶以外の原料供給源があることで、膜厚方向の膜成長も促進されるため、膜厚の増加に起因して、ゼオライト分離膜を透過する気体に対する抵抗が高くなってしまい、水蒸気透過速度が低くなってしまったと考えられる。
以上説明した実施形態によれば、ゼオライト分離膜の製造方法が提供される。この製造方法は、種晶としてのゼオライト粒子と、アルカリ性水溶液とを含み、種晶を除くシリコンとアルミニウムとリンとの含有量が100ppm以下である前駆体ゲルを準備することと、この前駆体ゲルを基材に塗布することで前駆体ゲル層を形成することと、この前駆体ゲル層を水蒸気存在下で加熱処理に供することによりゼオライト粒子を成長させてゼオライト分離膜を形成することとを含む。この製造方法によれば、緻密かつ薄いゼオライト分離膜を簡便に製造することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。