以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰り返さない。
図1は、実施の形態に係る積層フィルタの一例であるローパスフィルタ1の等価回路図である。図1に示されるように、ローパスフィルタ1は、入出力端子P1,P2と、LC並列共振器PLC1,PLC2、およびLC直列共振器SLC1を備える。
LC並列共振器PLC1は、インダクタL1とコンデンサC1とを含む。インダクタL1の一方端は、入出力端子P1に接続されている。コンデンサC1は、インダクタL1に対して並列に接続されている。
LC並列共振器PLC2は、インダクタL2とコンデンサC2とを含む。インダクタL2は、インダクタL1の他方端と入出力端子P2との間に接続されている。コンデンサC2は、インダクタL2に対して並列に接続されている。
LC直列共振器SLC1は、コンデンサC3〜C5と、インダクタL3とを含む。インダクタL3の一方端は、接地電極GNDに接続されている。コンデンサC3は、インダクタL3の他方端と入出力端子P1との間に接続されている。コンデンサC4は、インダクタL3の他方端とインダクタL1の他方端との間に接続されている。コンデンサC5は、インダクタL3の他方端と入出力端子P2との間に接続されている。
以下では、ローパスフィルタ1を複数の誘電体の積層体とてして構成する場合について説明する。図2に示されるように、積層方向(ローパスフィルタ1の高さ方向)をZ軸方向とする。ローパスフィルタ1の長辺(幅)方向をX軸方向とする。ローパスフィルタ1の短辺(奥行)方向をY軸方向とする。X軸、Y軸、およびZ軸は互いに直交している。
図2は、図1のローパスフィルタ1の外観斜視図である。図2に示されるように、ローパスフィルタ1はたとえば直方体状である。積層方向に垂直なローパスフィルタ1の面を底面BFおよび上面UFとする。積層方向に平行な面のうちZX平面と平行な面を側面SF1およびSF3とする。積層方向に平行な面のうちYZ平面と平行な面を側面SF2およびSF4とする。
底面BFには、入出力端子P1、P2、および4つの接地電極GNDが形成されている。入出力端子P1、P2、および4つの接地電極GNDは、たとえば底面BFに平面電極が格子状に配置されたLGA(Land Grid Array)端子である。
上面UFには、方向識別マークDMが形成されている。方向識別マークDMは、ローパスフィルタ1の実装時の向きを識別するために用いられる。
側面SF1〜SF4には、シールド電極SSEが形成されている。シールド電極SSEは、底面BFを含む誘電体層Lyr1および上面UFを含む誘電体層Lyr18の側面には形成されていない。シールド電極SSEは、ノイズがローパスフィルタ内に侵入することを抑制するとともに、外部にノイズが放射されることを抑制する。
ローパスフィルタ1のような積層型ローパスフィルタは、携帯型の無線通信機器のような小型化の要請が強い装置で使用される場合がある。そのような限られた空間に図1に示されるような複数のLC共振回路を備えるローパスフィルタを積層型として実装する場合、インダクタによって形成された空芯部が、積層方向において、コンデンサあるいは他のインダクタによって塞がれてしまうことがある。インダクタの空芯部に生じた磁束がこれらの電極によって遮られると、当該電極に渦電流が生じて熱(渦電流損)が発生する。その結果、ローパスフィルタの挿入損失が想定よりも悪化してしまう可能性がある。
そこで実施の形態においては、インダクタによって形成される空芯部が、積層方向に磁束が貫通可能な領域を含むように、コンデンサの電極およびインダクタの電極を配置する。インダクタによって形成される空芯部が他の回路要素によって塞がれている場合と比較すると、実施の形態においては渦電流損が抑制される。その結果、ローパスフィルタの挿入損失を改善することができる。
図3は、図1のローパスフィルタ1の積層構造を示す分解斜視図である。ローパスフィルタ1は、複数の誘電体層から形成された積層フィルタである。ローパスフィルタ1は、複数の誘電体層として誘電体層Lyr1〜Lyr18を備える。Lyr1を底面BF側、Lyr18を上面UF側として、この順にZ軸方向に積層されている。
誘電体層Lyr1には、電極11〜13が形成されている。電極11は、ビア電極V11によって入出力端子P1に接続されている。電極12は、ビア電極V20によって入出力端子P2に接続されている。電極13は、ビア電極V12〜V19の各々によって接地電極GNDに接続されている。
誘電体層Lyr2には、電極21が形成されている。電極21は、ビア電極V21〜V25の各々によって電極13に接続されている。電極21は、電極13を介して接地電極GNDに接続されている。電極21は、誘電体層Lyr2の各側面において、シールド電極SSEに接続されている。誘電体層Lyr2の各側面のうち、X軸方向に対向する2つの側面(側面SF2およびSF4)を接続する電極21の部分と、Y軸方向に対向する2つの側面(側面SF1およびSF3)を接続する電極21の部分とは、交差している。
電極13,21、およびビア電極V21〜V25は、インダクタL3を形成している。誘電体層Lyr1およびLyr2は、本発明の第2インダクタ層に対応する。
誘電体層Lyr3には、電極31が形成されている。積層方向において電極31と21とが重なっている部分は、コンデンサC4を形成している。
誘電体層Lyr4には、電極41,42が形成されている。電極41は、ビア電極V41によって電極11に接続されている。積層方向において電極41と21とが重なっている部分は、コンデンサC3を形成している。電極42は、ビア電極V44によって電極12に接続されている。積層方向において電極42と21とが重なっている部分は、コンデンサC5を形成している。
誘電体層Lyr5には、電極51〜53が形成されている。電極51は、ビア電極V41によって電極41に接続されている。電極52は、ビア電極V44によって電極42に接続されている。電極53は、ビア電極V31によって電極31に接続されている。
誘電体層Lyr6には、電極61,62が形成されている。電極61は、積層方向において電極51,53と重なっている。電極62は、積層方向において電極52,53と重なっている。
誘電体層Lyr7には、電極71〜73が形成されている。電極71は、ビア電極V41によって電極51に接続されている。電極71は、積層方向において電極61と重なっている。電極72は、ビア電極V44によって電極52に接続されている。電極72は、積層方向において電極62と重なっている。電極73は、ビア電極V31によって電極53に接続されている。電極73は、積層方向において電極61および62と重なっている。
電極51,53,61,71,73は、コンデンサC1を形成している。電極52,53,62,72,73は、コンデンサC2を形成している。誘電体層Lyr2〜Lyr7は、本発明におけるコンデンサ層に対応する。
誘電体層Lyr8には、電極81が形成されている。電極81は、ビア電極V31によって電極73に接続されている。
誘電体層Lyr9には、電極91が形成されている。電極91は、ビア電極V31によって電極81に接続されている。電極91は、電極81と同形状であり、積層方向においてほぼ電極91の略全域が電極81と重なっている。
誘電体層Lyr10には、電極101,102が形成されている。電極101は、ビア電極V41によって電極71に接続されている。電極101は、ビア電極V42によって電極91に接続されている。電極101は、積層方向において電極91と重なっている。電極102は、ビア電極V43によって電極92に接続されている。電極102は、ビア電極V44によって電極72に接続されている。電極102は、積層方向において電極91と重なっている。
誘電体層Lyr11には、電極111,112が形成されている。電極111は、ビア電極V41およびV42各々によって電極101に接続されている。電極111は、電極101と同形状である。積層方向において電極111の略全域が電極101と重なっている。電極112は、ビア電極V43およびV44各々によって電極102に接続されている。電極112は、電極102と同形状であり、積層方向において電極112の略全域が電極102と重なっている。
電極81,91,101,111、ビア電極V41,V42は、インダクタL1を形成している。電極81,91,102,112、およびビア電極V43,V44は、インダクタL2を形成している。誘電体層Lyr10およびLyr11は、本発明の第1インダクタ層に対応する。
電極81,91は同形状であり、積層方向において重なっている。電極101,111、および電極102,112についても同様である。このような形状および配置とすることにより、電流が流れる体積(あるいは断面積)が増える。これにより、インダクタL1およびL2から発生する磁束が大きくなり、インダクタL1およびL2の実効インダクタンスが向上する。その結果、ローパスフィルタ1のQ値を向上させることができる。
誘電体層Lyr12には、電極121,122が形成されている。誘電体層Lyr13には、電極131,132が形成されている。電極131は、側面SF2においてシールド電極SSEに接続されている。電極132は、側面SF4においてシールド電極SSEに接続されている。
誘電体層Lyr14には、電極141〜146が形成されている。電極141,142,144,146は、側面SF2,SF1,SF4,SF3においてシールド電極SSEにそれぞれ接続されている。電極142は、ビア電極V64によって電極121に接続されている。電極143は、ビア電極V62およびV63によって電極121に接続されている。電極145は、ビア電極V57およびV58によって電極122に接続されている。電極146は、ビア電極V56によって電極122に接続されている。
誘電体層Lyr15には、電極151〜154が形成されている。電極151は、ビア電極V51によって電極131に接続されている。電極151は、ビア電極V52およびV53によって電極141に接続されている。電極152は、ビア電極V64〜V66の各々によって電極142に接続されている。電極152は、ビア電極V62およびV63によって電極143に接続されている。電極153は、ビア電極V59およびV60によって電極144に接続されている。電極153は、ビア電極V61によって電極132に接続されている。電極154は、ビア電極V54〜V56の各々によって電極146に接続されている。電極154は、ビア電極V57およびV58によって電極145に接続されている。
誘電体層Lyr16には、電極161〜164が形成されている。電極161は、ビア電極V51〜V53の各々によって電極151に接続されている。電極162は、ビア電極V62〜V66の各々によって電極152に接続されている。電極163は、ビア電極V59〜V61の各々によって電極153に接続されている。電極164は、ビア電極V54〜V58の各々によって電極154に接続されている。
誘電体層Lyr17には、電極171が形成されている。電極171は、ビア電極V51〜V53の各々によって電極161に接続されている。電極171は、ビア電極V62〜V66によって電極162に接続されている。電極171は、ビア電極V59〜V61によって電極163に接続されている。電極171は、ビア電極V54〜V58によって電極164に接続されている。Lyr17から積層方向にLyr1を見た場合に、電極171は、インダクタL1,L2、コンデンサC1〜C5、およびインダクタL3を覆っている。
誘電体層Lyr12〜Lyr17は、シールド層USEを形成している。シールド層USEは、上面UFからのノイズおよびローパスフィルタ内部からの輻射によるノイズを電極171で受けて、電極131,132,141,142,144,146を介してシールド電極SSEに伝達する。
シールド電極SSEに伝達されたノイズは、電極21に伝達された後、電極13を介して、接地電極GNDに伝達される。電極21と接地電極GNDとの間に電極13を介在させることにより、電極13においてノイズが分散する。ローパスフィルタ1においては、電極13においてノイズを減衰させてから接地電極GNDに伝達することができる。その結果、電極13がない場合よりも、ローパスフィルタの外部から内部にノイズが侵入することを抑制することができるともに、ローパスフィルタの内部から外部へノイズが漏洩することを抑制することができる。
誘電体層Lyr1の側面をシールド電極SSEによって覆うと、シールド電極SSEとビア電極V11〜V20との間で浮遊容量が生じる。そのため、ローパスフィルタ1のインピーダンスが低下し、インピーダンスの不整合が生じ得る。その結果、ローパスフィルタ1の反射損失が悪化する可能性がある。誘電体層Lyr1の側面をシールド電極SSEによって覆わないことにより、ローパスフィルタ1の反射損失の悪化を抑制することができる。
図4は、図3の誘電体層Lyr11(第1インダクタ層)から積層方向に誘電体層Lyr1(第2インダクタ層)を見た図である。図4に示されるように、インダクタL1(電極81,91,101,111、およびビア電極V41,V42)によって形成される空芯部AC1およびインダクタL2(電極81,91,102,112、およびビア電極V43,V44)によって形成される空芯部AC2の各々は、誘電体層Lyr11から誘電体層Lyr1にかけて、コンデンサC1(電極51,53,61,71,73),C2(電極52,53,62,72,73),C3(電極21,41),C4(電極21,31),C5(電極21,42)、およびインダクタL3(電極13,21、およびビア電極V21〜V25)と重なっていない。すなわち、空芯部AC1およびAC2に発生する磁束がインダクタおよびコンデンサの電極によって遮られない。そのため、ローパスフィルタ1においては、当該磁束がインダクタおよびコンデンサの電極に遮られることによって生じる当該電極に生じる渦電流損を抑制することできる。その結果、挿入損失を改善することができる。
図5は、実施の形態に係るローパスフィルタ1の減衰特性のシミュレーション結果と、比較例に係るローパスフィルタの減衰特性のシミュレーション結果とを併せて示す図である。比較例に係るローパスフィルタにおいては、インダクタによって形成される空芯部が、インダクタおよびコンデンサの電極によって塞がれているものとする。
図5において、縦軸の減衰量(dB)はマイナスの値として示されている。減衰量の絶対値が大きいほど挿入損失は大きくなる。周波数Fcまでは、ローパスフィルタ1および比較例に係るローパスフィルタのいずれにおいても通過帯域であるとする。実線E1は、ローパスフィルタ1の減衰特性を示している。破線E200は、比較例に係るローパスフィルタの減衰特性を示している。
通過帯域における挿入損失は小さい方が望ましい。図5に示されるように、通過帯域におけるローパスフィルタ1の挿入損失は、比較例に係るローパスフィルタの挿入損失よりも小さい。たとえば通過帯域に含まれる周波数2.69GHzにおいて、挿入損失は、約35%改善されている。
ローパスフィルタにおいては、使用目的に応じて減衰極が生じる周波数を変えたい場合がある。実施の形態においては、電極21と電極13とを接続するビア電極の数を変えることにより、減衰極が生じる周波数を変えることができる。
図6は、図3のローパスフィルタ1からビア電極V22を除いたローパスフィルタ1Aの積層構造を示す分解斜視図である。ローパスフィルタ1Aの積層構造に関して、ビア電極V22がないこと以外はローパスフィルタ1と同様であるため、説明を繰り返さない。
図6に示されるように、ビア電極V22がない場合、電極21のコンデンサC3を形成する部分(電極31と重なっている部分)から接地電極GNDまでの経路としては、ビア電極V23、電極13、およびビア電極V14を経由する経路、あるいはビア電極V23、電極13、およびビア電極V16を経由する経路が考えられる。一方、ビア電極V22がある場合、図3を参照して、当該経路としては、ビア電極V22、電極13、およびビア電極V14またはV15を経由する経路が考えられる。電極21のコンデンサC3を形成する部分から接地電極GNDまでの経路長は、ビア電極V22がない場合(図6参照)の方が長い。すなわち、電極21とビア電極V22との接続点からビア電極V22を経由して接地電極GNDに至る経路長は、当該接続点からビア電極V23を経由して接地電極GNDに至る経路長よりも短い(図3参照)。
電極21のコンデンサC3を形成する部分から接地電極GNDまでの経路長はインダクタL3の経路長である。インダクタL3の経路長が長くなると、インダクタL3のインダクタンスが増加する。そのため、図1に示されるLC直列共振器SLC1の共振周波数が低くなる。その結果、減衰極が生じる周波数が低くなる。このように実施の形態においては、電極13と電極21とを接続するビア電極の数を変えることにより、インダクタL3の経路長を変えることができる。その結果、減衰極が生じる周波数を変えることができる。
図7は、図3のローパスフィルタ1の減衰特性のシミュレーション結果と、図6のローパスフィルタ1Aの減衰特性のシミュレーション結果とを併せて示す図である。図7において、実線E1は、ローパスフィルタ1の減衰特性を示しており、図5の実線E1と同様である。破線E1Aは、ローパスフィルタ1Aの減衰特性を示している。
図7に示されるように、ローパスフィルタ1(実線E1)においては、8.5GHzから14.5GHzの周波数帯で減衰域が生じていない。ローパスフィルタ1においては、14.5GHzよりも高い周波数で減衰極が生じるため、図7には当該減衰極が現われていない。一方、ローパスフィルタ1A(破線E1A)においては、10.3GHz付近に減衰極が生じている。ローパスフィルタ1Aにおいては、ビア電極V22がないためインダクタL3のインダクタンスの値が大きくなることになり、LC直列共振器SLC1の共振周波数が低くなる。その結果、減衰極が生じる周波数が10.3GHz付近まで低くなっている。
以上、実施の形態に係るローパスフィルタによれば、インダクタの空芯部がコンデンサあるいは他のインダクタによって塞がれていないため、インダクタの空芯部がコンデンサあるいは他のインダクタによって塞がれている場合よりも挿入損失を改善することができる。
実施の形態においては、インダクタの空芯部の全域がコンデンサあるいはインダクタと重なっていないため、当該空芯部に発生する磁束がコンデンサあるいはインダクタの電極によって遮られない。そのため、挿入損失をさらに改善することができる。
また、実施の形態においては、LC直列共振器に含まれるインダクタを2層の電極で構成し、当該2層の電極を接続するビア電極の数を変えて第3インダクタの経路長を変えることにより、減衰極が生じる周波数を変えることができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。