JP2018006634A - 電子部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】インダクタに断線が発生することを抑制できる電子部品を提供する。【解決手段】本発明の電子部品は、第1の樹脂を材料として含む複数の絶縁体層26a〜26eが積層方向に積層されて構成されている積層体22を含む本体12と、絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層30a、30bを含む第1のインダクタL1と、複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有し、第2の樹脂を材料として含み、かつ、少なくとも一部が積層体22内に埋め込まれている低膨張部80と、を備えている。第2の樹脂の線膨張係数は、第1の樹脂の線膨張係数よりも低い。【選択図】図2

Description

本発明は、インダクタを備えた電子部品に関する。
従来の電子部品に関する発明としては、例えば、特許文献1に記載のコイル部品が知られている。図15は、特許文献1に記載のコイル部品500の断面構造図である。
コイル部品500は、図15に示すように、磁性体基板501,502、積層体510、コイル512,513、磁性層520及び接着層530を備えている。積層体510は、磁性体基板501の上面上に形成されており、複数の絶縁体層が積層されることにより構成されている。コイル512,513は、絶縁体層と共に積層されるコイルパターン及びビアホールにより構成されており、積層体510に内蔵されている。積層体510には、積層体510を上下方向に貫通する凹部514,515が設けられている。磁性層520は、凹部514,515内に設けられていると共に、積層体510の上面上にも設けられている。接着層530は、磁性層520の上面と磁性体基板502とを接着している。
特開2003−133135号公報
ところで、コイル部品500では、コイル512,513に断線が発生するおそれがある。より詳細には、コイル部品500が回路基板に実装される場合には、はんだのリフロー処理等の加熱処理が行われる。コイル部品500が加熱されると、コイル部品500の各部が熱膨張する。ただし、コイル512,513の線膨張係数は、積層体510の線膨張係数及び磁性層520の線膨張係数よりも小さい。更に、積層体510の材料及び磁性層520の材料は共にポリイミド樹脂である。積層体510の線膨張係数と磁性層520の線膨張係数との差は小さい。そのため、コイル部品500が加熱されると、積層体510及び磁性層520の単位体積当たりの膨張量(以下、単に膨張量と称す)がコイル512,513の膨張量よりも大きくなる。そのため、積層体510及び磁性層520の変形にコイル512,513の変形が追従できない。これにより、コイル512,513に引っ張り応力が加わる。その結果、コイル512,513のコイルパターンやコイルパターンとビアホールとの接合部等において断線が発生するおそれがある。
そこで、本発明の目的は、インダクタに断線が発生することを抑制できる電子部品を提供することである。
本発明の第1の形態に係る電子部品は、第1の樹脂を材料として含む複数の絶縁体層が積層方向に積層されて構成されている積層体を含む本体と、前記絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層を含む第1のインダクタと、前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有する低膨張部であって、第2の樹脂を材料として含み、かつ、少なくとも一部が前記積層体内に埋め込まれている低膨張部と、を備えており、前記第2の樹脂の線膨張係数は、前記第1の樹脂の線膨張係数よりも低いこと、を特徴とする。
本発明の第2の形態に係る電子部品は、第1の樹脂を材料として含む複数の絶縁体層が積層方向に積層されて構成されている積層体を含む本体と、前記絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層を含む第1のインダクタと、前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有する低膨張部であって、第2の樹脂を材料として含み、かつ、少なくとも一部が前記積層体内に埋め込まれている低膨張部と、を備えており、前記低膨張部は、非磁性体であること、を特徴とする。
本発明の第3の形態に係る電子部品は、樹脂を材料として含む複数の絶縁体層が積層方向に積層されて構成されている積層体、及び、該複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有し、かつ、該積層体において該積層方向の一方側に位置する第1の主面に接する第1の基板を含む本体と、前記絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層を含む第1のインダクタと、を備えており、前記積層体には、前記第1の基板に接する空隙が設けられていること、を特徴とする。
本発明によれば、インダクタに断線が発生することを抑制できる。
電子部品10の外観斜視図である。 図1の電子部品10の分解斜視図である。 図1の電子部品10のA−Aにおける断面構造図である。 第1のコンピュータシミュレーションの結果を示した図である。 第2のコンピュータシミュレーションに用いたモデルを示した図である。 第2のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。 第3のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。 電子部品10aの断面構造図である。 第4のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。 第5のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。 電子部品10bを上側から透視した図である。 電子部品10cを上側から透視した図である。 電子部品10dの断面構造図である。 電子部品10eの断面構造図である。 特許文献1に記載のコイル部品500の断面構造図である。
(電子部品の構成)
まず、一実施形態に係る電子部品10の構成について図面を参照しながら説明する。図1は、電子部品10の外観斜視図である。図2は、図1の電子部品10の分解斜視図である。図3は、図1の電子部品10のA−Aにおける断面構造図である。以下では、電子部品10の積層方向を上下方向と定義し、上側から見たときに、長辺が延びている方向を前後方向と定義し、短辺が延びている方向を左右方向と定義する。また、上下方向、前後方向及び左右方向は互いに直交している。なお、積層方向とは、後述する絶縁体層が積み重ねられる方向である。また、電子部品10の使用時における上下方向、左右方向及び前後方向は、図1等において定義した上下方向、左右方向及び前後方向と一致していなくてもよい。
電子部品10は、図1ないし図3に示すように、本体12、外部電極14a〜14d、接続部16a〜16d、引き出し部50,52,54,56、低膨張部80及びインダクタL1,L2を備えている。
本体12は、図1及び図2に示すように、直方体状をなしており、磁性体基板20a,20b、積層体22及び接着層24を含んでいる。磁性体基板20a、接着層24、積層体22及び磁性体基板20bは、上側から下側へとこの順に積み重ねられている。
磁性体基板20a,20bは、上側から見たときに長方形状をなす主面を有する板状部材である。以下では、磁性体基板20a,20bの上側の主面を上面と呼び、磁性体基板20a,20bの下側の主面を下面と呼ぶ。また、磁性体基板20a,20bの上面と下面とを繋ぐ面を側面と呼ぶ。磁性体基板20bには、上側から見たときに、4つの角が切り欠かれている。より詳細には、上側から見たときに、磁性体基板20bの4つの角のそれぞれには、中心角が90度である扇形をなす切り欠きが設けられている。4つの切り欠きは、磁性体基板20bの上面から下面まで到達するように、磁性体基板20bの側面において上下方向に延びている。
磁性体基板20a,20bは、焼結済みのフェライトセラミックスが削り出されて作製される。また、磁性体基板20a,20bは、例えば、フェライト仮焼粉末及びバインダーからなるペーストがアルミナ等のセラミックス基板に塗布されることによって作製されてもよいし、フェライト材料のグリーンシートが積層及び焼成されて作製されてもよい。磁性体基板20a,20bは、線膨張係数X1を有する。線膨張係数X1は、例えば、7以上11以下であり、本実施形態では、9.5である。
外部電極14a〜14dは、磁性体基板20bの下面上に設けられており、長方形状をなしている。より詳細には、外部電極14aは、磁性体基板20bの下面の左後ろ側に位置する角に設けられている。外部電極14bは、磁性体基板20bの下面の左前側に位置する角に設けられている。外部電極14cは、磁性体基板20bの下面の右後ろ側に位置する角に設けられている。外部電極14dは、磁性体基板20bの下面の右前側に位置する角に設けられている。外部電極14a〜14dは、Ag、Ni、Cu、Ti等がスパッタ法により重ねて成膜されることによって作製されている。なお、外部電極14a〜14dは、金属を含有するペーストが印刷及び焼き付けされて作製されてもよいし、金属が蒸着やめっき工法によって成膜されることによって作製されてもよい。
接続部16a〜16dはそれぞれ、磁性体基板20bに設けられた4つの切り欠きに設けられている。接続部16aは、磁性体基板20bの左後ろ側に位置する切り欠きに設けられており、その下端において外部電極14aに接続されている。接続部16bは、磁性体基板20bの左前側に位置する切り欠きに設けられており、その下端において外部電極14bに接続されている。接続部16cは、磁性体基板20bの右後ろ側に位置する切り欠きに設けられており、その下端において外部電極14cに接続されている。接続部16dは、磁性体基板20bの右前側に位置する切り欠きに設けられており、その下端において外部電極14dに接続されている。接続部16a〜16dは、Ag、Ni、Cu、Ti等がスパッタ法により重ねて成膜されることによって作製されている。なお、接続部16a〜16dは、金属を含有するペーストが印刷及び焼き付けされて作製されてもよいし、金属が蒸着やめっき工法によって成膜されることによって作製されてもよい。
積層体22は、磁性体基板20bの上面上に積層されている絶縁体層26a〜26e(複数の絶縁体層の一例)を含んでおり、上側から見たときに長方形状をなす主面を有している。以下では、積層体22の上側の主面を上面(積層方向の他方側に位置する第2の主面の一例)と呼び、積層体22の下側の主面を下面(積層方向の一方側に位置する第1の主面の一例)と呼ぶ。積層体22は、磁性体基板20bの上面上に直接に形成されている。よって、磁性体基板20b(第1の基板の一例)は、積層体22の下面に接している。
絶縁体層26a〜26eは、上側から下側へとこの順に並ぶように積層されており、磁性体基板20bの上面と略同じ形状を有している。ただし、上側から見たときに、絶縁体層26b〜26eの4つの角が切り欠かれている。
絶縁体層26a〜26eは、絶縁性樹脂(第1の樹脂の一例)を材料として含んでおり、本実施形態では、ポリイミドにより作製されている。故に、絶縁体層26a〜26eは、非磁性体である。また、絶縁体層26a〜26eは、例えば、ベンゾシクロブテンやエポキシ系樹脂等の絶縁性樹脂により作製されてもよい。以下では、絶縁体層26a〜26eの上側の主面を上面と呼び、絶縁体層26a〜26eの下側の主面を下面と呼ぶ。絶縁体層26a〜26eは、線膨張係数X2を有する。線膨張係数X2は、線膨張係数X1よりも高い。すなわち、線膨張係数X1は、線膨張係数X2よりも低い。なお、一般的に、感光性樹脂の線膨張係数は、磁性体基板の線膨張係数よりも高い。本実施形態では、線膨張係数X2は、例えば、36×10-6/℃である。また、絶縁体層26a〜26eの材料である絶縁性樹脂は、線膨張係数x2を有する。本実施形態では、絶縁体層26a〜26eは絶縁性樹脂のみにより構成されているので、線膨張係数x2は、線膨張係数X2と等しい。
接着層24は、積層体22の上面を平坦化すると共に、磁性体基板20a(第2の基板の一例)と積層体22の上面とを接着する。接着層24は、例えば、有機系接着材料(例えば、ポイリミド)により作製される。接着層24は、線膨張係数X3を有する。線膨張係数X3は、例えば、12×10-6/℃以上36×10-6/℃以下である。本実施形態では、線膨張係数X3は、例えば、18×10-6/℃である。
インダクタL1は、積層体22内に設けられており、インダクタ導体層30a,30b及び層間接続導体v1を含んでいる。インダクタ導体層30a(第1のインダクタ導体層の一例)は、絶縁体層26e(第1の絶縁体層の一例)の上面上に設けられており、上側から見たときに、時計回り(所定方向の一例)に周回しながら外周側から内周側に向かう渦巻状をなしている。これにより、インダクタ導体層30aは、絶縁体層26d,26eに接している。インダクタ導体層30aの中心は、上側から見たときに、電子部品10の中心(対角線交点)と略一致している。
インダクタ導体層30bは、絶縁体層26cの上面上に設けられており、上側から見たときに、時計回り(所定方向の一例)に周回しながら内周側から外周側に向かう渦巻状をなしている。これにより、インダクタ導体層30bは、絶縁体層26b,26cに接している。インダクタ導体層30bの中心は、上側から見たときに、電子部品10の中心(対角線交点)と略一致している。
層間接続導体v1は、絶縁体層26c,26dを上下方向に貫通していると共に、絶縁体層26eの上面上に設けられている導体であり、上側から見たときに、左右方向に延在する線状をなしている。層間接続導体v1は、上側から見たときに、絶縁体層26c〜26eの後ろ半分の領域に設けられている。層間接続導体v1は、インダクタ導体層30aの内周側の端部とインダクタ導体層30bの内周側の端部とを接続している。これにより、インダクタ導体層30aとインダクタ導体層30bとが電気的に直列に接続されている。インダクタ導体層30aの周回方向とインダクタ導体層30bの周回方向とは同じである。よって、インダクタ導体層30aの巻き数とインダクタ導体層30bの巻き数との合計の巻き数を有するインダクタL1が形成されている。
引き出し部50は、インダクタ導体層30aの外周側の端部と外部電極14aとを接続する。引き出し部50は、引き出し導体層40a及び接続導体70aを含んでいる。接続導体70aは、絶縁体層26b〜26eの左後ろ側に位置する角に設けられた三角柱状の導体である。ただし、接続導体70aは、完全な三角柱をなしていなくてもよい。すなわち、接続導体70aの側面には凹凸が形成されていてもよい。なお、図2では、理解の容易のために、接続導体70aは、4つに分割して記載されている。後述する接続導体70b〜70dも、接続導体70aと同様に、4つに分割して記載した。接続導体70aは、絶縁体層26bの上面から絶縁体層26eの下面まで上下方向に延びており、その下端において接続部16aに接続されている。
引き出し導体層40aは、絶縁体層26eの上面上に設けられており、インダクタ導体層30aの外周側の端部と接続導体70aとを接続している。引き出し導体層40aは、上側から見たときに、渦巻状をなしておらず、インダクタ導体層30aの外周側の端部から左側に向かって延びている。インダクタ導体層30aと引き出し導体層40aとの境界は、図2の拡大図に示すように、インダクタ導体層30aが形成している渦巻状の軌跡から引き出し導体層40aが離脱する位置である。これにより、インダクタ導体層30aの外周側の端部と外部電極14aとが引き出し部50(引き出し導体層40a及び接続導体70a)及び接続部16aを介して接続されている。
引き出し部52は、インダクタ導体層30bの外周側の端部と外部電極14cとを接続する。引き出し部52は、引き出し導体層40b及び接続導体70cを含んでいる。接続導体70cは、絶縁体層26b〜26eの右後ろ側に位置する角に設けられた三角柱状の導体である。接続導体70cは、絶縁体層26bの上面から絶縁体層26eの下面まで上下方向に延びており、その下端において接続部16cに接続されている。
引き出し導体層40bは、絶縁体層26cの上面上に設けられており、インダクタ導体層30bの外周側の端部と接続導体70cとを接続している。引き出し導体層40bは、上側から見たときに、渦巻状をなしておらず、インダクタ導体層30bの外周側の端部から右側に向かって延びている。インダクタ導体層30bと引き出し導体層40bとの境界は、インダクタ導体層30bが形成している渦巻状の軌跡から引き出し導体層40bが離脱する位置である。これにより、インダクタ導体層30bの外周側の端部と外部電極14cとが引き出し部52(引き出し導体層40b及び接続導体70c)及び接続部16cを介して接続されている。
インダクタL2に囲まれた領域は、上側から見たときに、インダクタL1に囲まれた領域と重なっている。これにより、インダクタL2は、インダクタL1と磁気結合している。インダクタL2は、積層体22内に設けられており、インダクタ導体層34a,34b及び層間接続導体v2を含んでいる。インダクタ導体層34a(第2のインダクタ導体層の一例)は、絶縁体層26d(第2の絶縁体層の一例)の上面上に設けられており、上側から見たときに、時計回り(所定方向の一例)に周回しながら外周側から内周側に向かう渦巻状をなしている。これにより、インダクタ導体層34aは、絶縁体層26c,26dに接している。インダクタ導体層34aの中心は、上側から見たときに、電子部品10の中心(対角線交点)と略一致している。
インダクタ導体層34bは、絶縁体層26bの上面上に設けられており、上側から見たときに、時計回り(所定方向の一例)に周回しながら内周側から外周側に向かう渦巻状をなしている。これにより、インダクタ導体層34bは、絶縁体層26a,26bに接している。インダクタ導体層34bの中心は、上側から見たときに、電子部品10の中心(対角線交点)と略一致している。
層間接続導体v2は、絶縁体層26b,26cを上下方向に貫通していると共に、絶縁体層26dの上面上に設けられている導体であり、上側から見たときに、左右方向に延在する線状をなしている。層間接続導体v2は、上側から見たときに、絶縁体層26b〜26dの前半分の領域に設けられている。層間接続導体v2は、インダクタ導体層34aの内周側の端部とインダクタ導体層34bの内周側の端部とを接続している。これにより、インダクタ導体層34aとインダクタ導体層34bとが電気的に直列に接続されている。インダクタ導体層34aの周回方向とインダクタ導体層34bの周回方向とは同じである。よって、インダクタ導体層34aの巻き数とインダクタ導体層34bの巻き数との合計の巻き数を有するインダクタL2が形成されている。
引き出し部54は、インダクタ導体層34aの外周側の端部と外部電極14bとを接続する。引き出し部54は、引き出し導体層44a及び接続導体70bを含んでいる。接続導体70bは、絶縁体層26b〜26eの左前側に位置する角に設けられた三角柱状の導体である。接続導体70bは、絶縁体層26bの上面から絶縁体層26eの下面まで上下方向に延びており、その下端において接続部16bに接続されている。
引き出し導体層44aは、絶縁体層26dの上面上に設けられており、インダクタ導体層34aの外周側の端部と接続導体70bとを接続している。引き出し導体層44aは、上側から見たときに、渦巻状をなしておらず、インダクタ導体層34aの外周側の端部から前側に向かって延びている。インダクタ導体層34aと引き出し導体層44aとの境界は、インダクタ導体層34aが形成している渦巻状の軌跡から引き出し導体層44aが離脱する位置である。これにより、インダクタ導体層34aの外周側の端部と外部電極14bとが引き出し部54(引き出し導体層44a及び接続導体70b)及び接続部16bを介して接続されている。
引き出し部56は、インダクタ導体層34bの外周側の端部と外部電極14dとを接続する。引き出し部56は、引き出し導体層44b及び接続導体70dを含んでいる。接続導体70dは、絶縁体層26b〜26eの右前側に位置する角に設けられた三角柱状の導体である。接続導体70dは、絶縁体層26bの上面から絶縁体層26eの下面まで上下方向に延びており、その下端において接続部16dに接続されている。
引き出し導体層44bは、絶縁体層26bの上面上に設けられており、インダクタ導体層34bの外周側の端部と接続導体70dとを接続している。引き出し導体層44bは、上側から見たときに、渦巻状をなしておらず、インダクタ導体層34bの外周側の端部から前側に向かって延びている。インダクタ導体層34bと引き出し導体層44bとの境界は、インダクタ導体層34bが形成している渦巻状の軌跡から引き出し導体層44bが離脱する位置である。これにより、インダクタ導体層34bの外周側の端部と外部電極14dとが引き出し部56(引き出し導体層44b及び接続導体70d)及び接続部16dを介して接続されている。
インダクタ導体層30a,30b,34a,34b、引き出し導体層40a,40b,44a,44b、接続導体70a〜70d及び層間接続導体v1,v2は、Ag、Ni、Cu、Ti等がスパッタ法により重ねて成膜されることによって作製されている。なお、インダクタ導体層30a,30b,34a,34b、引き出し導体層40a,40b,44a,44b、接続導体70a〜70d及び層間接続導体v1,v2は、金属を含有するペーストが印刷及び焼き付けされて作製されてもよいし、金属が蒸着やめっき工法によって成膜されることによって作製されてもよい。インダクタ導体層30a,30b,34a,34b、引き出し導体層40a,40b,44a,44b、接続導体70a〜70d及び層間接続導体v1,v2は、線膨張係数X4を有する。線膨張係数X4は、線膨張係数X2よりも低い。Agの線膨張係数は18.9×10-6/℃であり、Cuの線膨張係数は16.5×10-6/℃であり、Auの線膨張係数は14.2×10-6/℃である。
低膨張部80は、上下方向に延在する四角柱状をなしており、少なくとも一部が積層体22内に埋め込まれている。なお、図2では、理解の容易のために、低膨張部80は、5つに分割して記載されている。本実施形態では、図3に示すように、積層体22を上下方向に貫通する貫通孔Hが積層体22に設けられている。貫通孔Hは、上側から見たときに、インダクタL1,L2のそれぞれに囲まれた領域内に位置している。より詳細には、貫通孔Hは、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bのそれぞれに囲まれた領域A1〜A4を上下方向に通過している。そして、低膨張部80は、貫通孔H内に設けられている。これにより、低膨張部80は、領域A1〜A4内に位置している。また、低膨張部80の上面及び下面は、積層体22の上面及び下面から露出している。ただし、低膨張部80は、貫通孔Hの下端(積層方向の一方側の端部)において磁性体基板20bに接すると共に、貫通孔Hの上端(積層方向の他方側の端部)において接着層24に接している。そのため、低膨張部80は、本体12からは露出していない。
以上のように、低膨張部80の少なくとも一部が積層体22内に埋め込まれているとは、低膨張部80の少なくとも一部が積層体22内に位置していることを意味する。すなわち、少なくとも一部が積層体22内に埋め込まれた低膨張部80には、積層体22の表面に樹脂が塗布された構成は含まれない。すなわち、低膨張部80は、接着層24とは異なる。本実施形態では、低膨張部80の全体が積層体22内に位置しており、低膨張部80の上面及び下面が積層体22から露出している。また、低膨張部80は、積層体22の上面から突出していてもよい。また、低膨張部80は、積層体22から露出していなくてもよい。
また、低膨張部80は、上側から見たときに、前後方向に延びる長辺及び左右方向に延びる短辺を有する長方形状をなしている。層間接続導体v1は、上側から見たときに、低膨張部80の後ろ側の短辺に沿って延びている。層間接続導体v2は、上側から見たときに、低膨張部80の前側の短辺に沿って延びている。
低膨張部80は、絶縁性樹脂(第2の樹脂の一例)を材料として含んでおり、本実施形態では、非感光性のポリイミド樹脂にシリカフィラーが混合されることにより作製されている。シリカフィラーの含有率は、低膨張部80に対する約57体積%である。故に、低膨張部80は、非磁性体である。低膨張部80は、線膨張係数X5を有する。線膨張係数X5は、線膨張係数X2よりも低い。線膨張係数X5は、例えば、12×10-6/℃以上30×10-6/℃以下である。本実施形態では、線膨張係数X5は、例えば、12×10-6/℃である。また、低膨張部80の材料である絶縁性樹脂は、線膨張係数x5を有する。線膨張係数x5は、線膨張係数x2よりも低い。絶縁性樹脂は非感光性のポリイミド樹脂であるので、線膨張係数x5は、18×10-6/℃である。このように、非感光性のポリイミド樹脂にシリカフィラーが混合されることにより、低膨張部80の線膨張係数X5が絶縁性樹脂の線膨張係数x5よりも低くなっている。
以上のように構成された電子部品10の動作について以下に説明する。外部電極14a,14bは、入力端子として用いられる。外部電極14c,14dは、出力端子として用いられる。
差動伝送信号は、外部電極14a,14bから入力され、外部電極14c,14dから出力される。差動伝送信号中のノーマルモードの信号がインダクタL1,L2に流れると、インダクタL1,L2はノーマルモードの信号により逆方向に磁束を発生する。そのため、磁束同士が打ち消し合うようになり、ノーマルモードの信号の電流に対するインピーダンスが発生しにくい。一方、差動伝送信号にコモンモードノイズが含まれている場合には、インダクタL1,L2は、コモンモードノイズの電流により、同じ方向に磁束を発生する。そのため、磁束同士が強め合うようになり、コモンモードノイズの電流に対するインピーダンスが発生する。その結果、コモンモードノイズの電流は、熱に変換されて、インダクタL1,L2を通過することが妨げられる。このように、インダクタL1とインダクタL2とは磁気的に結合することにより、コモンモードチョークコイルを構成している。
(電子部品の製造方法)
以下に、電子部品10の製造方法について説明する。以下では、一つの電子部品10が製造される場合を例に挙げて説明するが、実際には、大判のマザー磁性体基板及びマザー絶縁体層が積み重ねられてマザー本体が作製され、マザー本体がカットされることにより、複数の電子部品10が同時に形成される。
まず、磁性体基板20bの上面上の全面に感光性樹脂であるポリイミド樹脂を塗布する。次に、絶縁体層26eの4つの角に対応する位置を遮光し、露光を行う。これにより、遮光されていない部分のポリイミド樹脂が硬化する。この後、フォトレジストを有機溶剤により除去すると共に、現像を行って、未硬化のポリイミド樹脂を除去し、熱硬化する。これにより、絶縁体層26eが形成される。
次に、絶縁体層26e及び絶縁体層26eから露出する磁性体基板20b上にスパッタ法によりCu膜を成膜する。次に、インダクタ導体層30a、引き出し導体層40a、接続導体70a〜70d及び層間接続導体v1が形成される部分の上にフォトレジストを形成する。そして、エッチング工法により、インダクタ導体層30a、引き出し導体層40a、接続導体70a〜70d及び層間接続導体v1が形成される部分(すなわち、フォトレジストで覆われている部分)以外のAg膜を除去する。この後、フォトレジストを有機溶剤により除去することによって、インダクタ導体層30a、引き出し導体層40a、接続導体70a〜70dの一部(1層分)及び層間接続導体v1の一部が形成される。
以上の工程と同様の工程を繰り返すことにより、絶縁体層26a〜26d及びインダクタ導体層30b,34a,34b、引き出し導体層40a,44a,44b、接続導体70a〜70dの残余の部分、層間接続導体v1の残余の部分及び層間接続導体v2を形成する。
次に、低膨張部80を形成する位置以外を覆うレジストを絶縁体層26aの上面上に形成する。そして、レジストをマスクとして、サンドブラスト工法により絶縁体層26a〜26eを上下方向に貫通する貫通孔Hを形成する。この後、レジストを有機溶剤により除去する。なお、貫通孔Hは、レーザ加工法によって形成されてもよいし、サンドブラスト工法及びレーザ加工法の組み合わせによって形成されてもよいし、エッチング工法によって形成されてもよい。
次に、スクリーン印刷により、シリカフィラーが混合された樹脂を貫通孔Hに充填する。シリカフィラーが混合された樹脂は、低膨張部80となるべきものである。樹脂は、例えば、非感光性のポリイミド樹脂であり、低い線膨張係数を有する。
次に、積層体22上に接着層24となる樹脂を塗布し、接着層24上に磁性体基板20aを熱処理及び加圧処理を施して固定する。
次に、サンドブラスト工法によって、4つの切り欠きを磁性体基板20bに形成する。なお、切り欠きは、サンドブラスト工法以外に、レーザ加工法によって形成されてもよいし、サンドブラスト工法及びレーザ加工法の組み合わせによって形成されてもよい。
最後に、電界めっき法及びフォトリソグラフィ工法の組み合わせにより、磁性体基板20bの切り欠きの内周面に導体層を形成して、接続部16a〜16d及び外部電極14a〜14dを形成する。
(効果)
はじめに、電子部品10の各部の線膨張係数X1〜X5,x2,x5の大小関係について整理しておく。
(1)インダクタ導体層30a,30b,34a,34b、引き出し導体層40a,40b,44a,44b及び接続導体70a〜70dの線膨張係数X4は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2よりも低い。
(2)低膨張部80の線膨張係数X5は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2よりも低い。
(3)低膨張部80の材料である絶縁性樹脂の線膨張係数x5は、絶縁体層26a〜26eの材料である絶縁性樹脂の線膨張係数x2よりも低い。
(4)磁性体基板20a,20bの線膨張係数X1は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2よりも低い。
(5)低膨張部80の線膨張係数X5は、接着層24の線膨張係数X3よりも低い。
本実施形態に係る電子部品10によれば、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。より詳細には、インダクタL1,L2(インダクタ導体層30a,30b,34a,34及び層間接続導体v1,v2)の線膨張係数X4は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2よりも低い。そのため、電子部品10が加熱されると、絶縁体層26a〜26eの膨張量がインダクタL1,L2の膨張量よりも大きくなる。そのため、インダクタL1,L2に引っ張り応力が加わる。このような引っ張り応力は、インダクタL1,L2の断線又は部分的な断線による導電性の低下の原因となる。
そこで、電子部品10は、少なくとも一部が積層体22内に埋め込まれている低膨張部80を備えている。低膨張部80の材料である絶縁性樹脂の線膨張係数x5は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数x2よりも低い。更に、低膨張部80は、シリカフィラーが絶縁性樹脂に混合されて作製されている。これにより、低膨張部80の線膨張係数X5は、絶縁性樹脂の線膨張係数x5よりも更に低くなっている。その結果、低膨張部80の線膨張係数X5は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2よりも大幅に低い。そのため、電子部品10が加熱されると、低膨張部80の膨張量が絶縁体層26a〜26eの膨張量よりも小さくなる。よって、絶縁体層26a〜26eの膨張による応力が低膨張部80側へと逃げるようになる。これにより、インダクタL1,L2に加わる引っ張り応力が低減され、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制される。
また、電子部品10では、絶縁体層26a〜26eは、フォトリソグラフィ工程により形成される。そのため、絶縁体層26a〜26eには、フォトリソグラフィ工程に適した樹脂が用いられる。このような樹脂は線膨張係数が比較的に大きい樹脂に限られる。一方、低膨張部80は、貫通孔Hに樹脂が充填されることにより形成される。そのため、低膨張部80に用いられる樹脂の選択肢は、絶縁体層26a〜26eに用いられる樹脂の選択肢よりも広い。従って、低膨張部80には、線膨張係数x5が比較的に小さい樹脂を適用できる。
また、電子部品10によれば、以下の理由によっても、インダクタL1,L2に断線が発生することをより効果的に抑制できる。より詳細には、電子部品10において、低膨張部80の近くに位置する絶縁体層26a〜26eでは、低膨張部80の遠くに位置する絶縁体層26a〜26eよりも、低膨張部80により膨張が効果的に妨げられる。従って、インダクタL1,L2の断線の発生を抑制する観点からは、低膨張部80の近くにインダクタL1,L2が位置していることが好ましい。
そこで、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bは、上側から見たときに、時計回りに周回する渦巻状をなしている。更に、低膨張部80は、上側から見たときに、インダクタL1,L2のそれぞれに囲まれた領域内に位置している。すなわち、低膨張部80の近傍により多くのインダクタ導体層30a,30b,34a,34bが存在するようになる。その結果、インダクタL1,L2に断線が発生することがより効果的に抑制される。
また、電子部品10によれば、層間接続導体v1とインダクタ導体層30a,30bとの接続部分、及び、層間接続導体v2とインダクタ導体層34a,34bとの接続部分において、断線が発生することが効果的に抑制される。より詳細には、層間接続導体v1とインダクタ導体層30a,30bとの接続部分、及び、層間接続導体v2とインダクタ導体層34a,34bとの接続部分では、断線が発生しやすい。そこで、電子部品10では、低膨張部80は、上側から見たときに、インダクタL1,L2のそれぞれに囲まれた領域内に位置している。また、層間接続導体v1,v2は、上側から見たときに、インダクタL1,L2のそれぞれに囲まれた領域近傍に位置している。よって、低膨張部80は、層間接続導体v1,v2近傍に位置している。その結果、層間接続導体v1とインダクタ導体層30a,30bとの接続部分、及び、層間接続導体v2とインダクタ導体層34a,34bとの接続部分に加わる引っ張り応力が低減され、これらの接続部分において断線が発生することが抑制される。
次に、本願発明者は、電子部品10が奏する効果を明確にするために、以下に説明する第1のコンピュータシミュレーションを行った。より詳細には、本願発明者は、電子部品10と同じ構造を有する第1のモデルを作成した。そして、第1のモデルにおいて、25℃から270℃まで温度を上昇させ、第1のモデルの各部に発生している引っ張り応力をコンピュータに演算させた。図4は、第1のコンピュータシミュレーションの結果を示した図である。図4では、第1のモデルの各部分に発生している応力を色で示した。図4は、図3の断面構造図と実質的に一致している。ただし、図3は、電子部品10を左側から見た断面構造図であるのに対して、図4は、電子部品10を右側から見た断面構造図である。また、図3と図4とでは断面の位置が僅かに異なるので、インダクタL1,L2の巻き数が少し異なっている。
以下に、第1のコンピュータシミュレーションのシミュレーション条件について説明する。
線膨張係数X1:9.5×10-6/℃
線膨張係数X2:36×10-6/℃
線膨張係数X3:18×10-6/℃
線膨張係数X4:16.5×10-6/℃
線膨張係数X5:12×10-6/℃
図4は実際にはカラーの図面であるが、白黒で図示されている。図4において−100MPaの応力が発生している部分は濃い青色で示される。0MPaの応力が発生している部分は水色で示される。100MPaの応力が発生している部分は黄緑色で示される。200MPaの応力が発生している部分は黄色で示される。300MPaの応力が発生している部分は赤色で示される。そして、円Dで囲まれた部分の中央付近に赤色の部分が存在し、この部分において応力が最も大きくなっていることが分かる。円Dで囲まれた部分は、層間接続導体v1における下端近傍かつ前側の部分である。すなわち、第1のコンピュータシミュレーションによれば、層間接続導体v1における下端近傍かつ前側の部分においてインダクタL1,L2に断線が特に発生しやすいことが分かる。
層間接続導体v1の上側には、硬い磁性体基板20aではなく、柔らかい接着層24が存在している。これにより、絶縁体層26aの応力が接着層24へと逃げるようになる。その結果、層間接続導体v1における上端近傍では、大きな引っ張り応力が発生しにくい。
また、層間接続導体v2の前側には、低膨張部80が存在している。そのため、電子部品10が加熱された場合に、層間接続導体v2の前側に存在する絶縁体層26b〜26dが大きく膨張することが抑制される。従って、層間接続導体v2における前側の部分では、大きな引っ張り応力が発生しにくい。
一方、層間接続導体v1の後ろ側に存在する絶縁体層26a〜26eの体積の方が層間接続導体v1の前側に存在する絶縁体層26a〜26eの体積よりも大きい。そのため、層間接続導体v1における下端近傍かつ後ろ側の部分と絶縁体層26a〜26eとの膨張量の差は、層間接続導体v1における上端近傍かつ前側の部分と絶縁体層26a〜26eとの膨張量の差よりも大きい。そのため、層間接続導体v2における下端近傍かつ後ろ側の部分では、大きな引っ張り応力が発生しやすい。故に、層間接続導体v2における下端近傍かつ後ろ側の部分においてインダクタL1,L2に断線が特に発生しやすいと考えられる。
次に、本願発明者は、第2のコンピュータシミュレーションを行った。図5は、第2のコンピュータシミュレーションに用いたモデルを示した図である。第2のコンピュータシミュレーションにおいて、本願発明者は、図5に示すモデルを作成した。図5のモデルでは、接着層24が貫通孔Hに侵入している。図5のモデルにおいて、積層体22の高さを高さH1と定義し、低膨張部80の上下方向の高さを高さH2と定義する。本願発明者は、図5に示すモデルの構造を有する第2のモデルないし第6のモデルを作成した。第2のモデルにおける接着層24の線膨張係数X3は、12×10-6/℃である。第3のモデルにおける接着層24の線膨張係数X3は、18×10-6/℃である。第4のモデルにおける接着層24の線膨張係数X3は、24×10-6/℃である。第5のモデルにおける接着層24の線膨張係数X3は、30×10-6/℃である。第6のモデルにおける接着層24の線膨張係数X3は、36×10-6/℃である。なお、線膨張係数X1,X2,X4,X5は、第1のコンピュータシミュレーションで用いた値と同じである。本願発明者は、第2のモデルないし第6のモデルにおいて、H2/H1を変化させて、引っ張り応力の大きさをコンピュータに演算させた。演算した引っ張り応力は、図4の円Dに囲まれた引っ張り応力が最大となっている点である。図6は、第2のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。縦軸は引っ張り応力の大きさを示し、横軸はH2/H1を示す。
図6のグラフによれば、H2/H1が大きくなるにしたがって、引っ張り応力が小さくなっていることが分かる。すなわち、H2/H1が大きくなるにしたがって、インダクタL1,L2に断線が発生しにくいことが分かる。従って、貫通孔Hには、低膨張部80が充填され、接着層24が侵入していないことが好ましいことが分かる。すなわち、低膨張部80は、貫通孔H内に設けられることにより、貫通孔Hの下側の端部において磁性体基板20bに接すると共に、貫通孔Hの上側の端部において接着層24に接していることが好ましいことが分かる。
ところで、H2/H1が0.7である場合には、接着層24の線膨張係数X3が小さくなるにしたがって、第2のモデルないし第6のモデルの引っ張り応力が小さくなっている。そして、H2/H1が0.9である場合には、線膨張係数X3に関わらず、第2のモデルないし第6のモデルの引っ張り応力が略等しくなっている。更に、H2/H1が1.0である場合には、接着層24の線膨張係数X3が大きくなるにしたがって、第2のモデルないし第6のモデルの引っ張り応力が小さくなっている。すなわち、H2/H1が0.7である場合における線膨張係数X3と引っ張り応力との関係と、H2/H1が1.0である場合おける線膨張係数X3と引っ張り応力との関係とは、逆になっている。そのため、貫通孔Hに接着層24が侵入していない場合(すなわち、H2/H1が1.0である場合)には、接着層24の線膨張係数X3は大きい方が好ましいことが分かる。図6によれば、接着層24の線膨張係数X3は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2(36×10-6/℃)と等しいことが好ましいことが分かる。
第2のコンピュータシミュレーションでは、低膨張部80の線膨張係数X5を12×10-6/℃に固定してシミュレーションを行った。そこで、線膨張係数X5を変化させた場合に、第2のコンピュータシミュレーションの結果と同様の結果が得られるかを確認するために、本願発明者は、第3のコンピュータシミュレーションを行った。第3のコンピュータシミュレーションにおいて、本願発明者は、図5に示すモデルを作成した。この際、H2/H1を1.0とした。本願発明者は、以下に説明する第7のモデルないし第10のモデルを作成した。第7のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、12×10-6/℃である。第8のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、18×10-6/℃である。第9のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、24×10-6/℃である。第10のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、30×10-6/℃である。なお、線膨張係数X1,X2,X4は、第1のコンピュータシミュレーションで用いた値と同じである。本願発明者は、第7のモデルないし第10のモデルにおいて、X3−X5を変化させて、引っ張り応力の大きさをコンピュータに演算させた。演算した引っ張り応力は、図4の円Dに囲まれた応力が最大となっている点である。図7は、第3のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。縦軸は引っ張り応力の大きさを示し、横軸はX3−X5を示す。
図7によれば、第7のモデルないし第10のモデルのいずれにおいても、X3−X5が大きくなるにしたがって、引っ張り応力が小さくなっていることが分かる。すなわち、第7のモデルないし第10のモデルのいずれにおいても、接着層24の線膨張係数X3が大きくなるにしたがって、引っ張り応力が小さくなっていることが分かる。よって、第3のコンピュータシミュレーションによれば、H2/H1が1.0である場合には、線膨張係数X5の値に関わらず線膨張係数X3が大きい方が好ましいことが分かる。
(第1の変形例)
以下に、第1の変形例に係る電子部品10aについて図面を参照しながら説明する。図8は、電子部品10aの断面構造図である。電子部品10aの外観斜視図は、図1に示す電子部品10の外観斜視図と同じである。図8は、図1のA−Aにおける断面構造図である。
電子部品10aは、空隙Spが設けられている点において電子部品10と相違する。以下にかかる相違点を中心に電子部品10aについて説明する。
空隙Spは、上側から見たときに、積層体22において低膨張部80と重なる位置に設けられ、かつ、低膨張部80及び磁性体基板20bに接している。より詳細には、貫通孔Hの下端近傍には、低膨張部80が充填されていない。これにより、貫通孔Hの下端近傍には、空隙Spが形成されている。そして、低膨張部80の下面は、空隙Spを介して磁性体基板20bの上面と対向している。
なお、電子部品10aのその他の構造については、電子部品10と同じであるので説明を省略する。
なお、空隙Spの形成方法としては、例えば、樹脂の粘度、又は、貫通孔Hにスクリーン印刷により樹脂を充填する際のスキージング速度・スキージング回数を調整すればよい。より詳細には、電子部品10の低膨張部80に用いる樹脂の粘度よりも電子部品10aの低膨張部80に用いる樹脂の粘度を高くすればよい。樹脂の粘度を高くする調整は、例えば、シリカフィラーの添加量を多くすればよい。また、スキージング速度が高くなれば、貫通孔Hへの樹脂の充填量が少なくなるので、空隙Spが形成されやすい。また、スキージング回数が少なくなれば、貫通孔Hへの樹脂の充填量が少なくなるので、空隙Spが形成されやすい。
以上のように構成された電子部品10aによれば、絶縁体層26a〜26eよりも線膨張係数が小さい低膨張部80を備えるため、電子部品10と同じ理由によって、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。
また、電子部品10aは、以下に説明する理由によっても、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。より詳細には、空隙Sp内には空気しか存在しない。そのため、電子部品10aが加熱された場合に、空隙Spは殆ど膨張しない。一方、空隙Spの周囲の絶縁体層が膨張して、空隙Spが圧縮される。このように絶縁体層が自由に変形できるので、空隙Spの周囲の絶縁体層に生じる引っ張り応力が緩和される。その結果、電子部品10aでは、インダクタL1,L2に加わる引っ張り応力が低減され、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制される。
また、電子部品10aでは、以下に説明する理由によっても、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。電子部品10aの効果を説明するために、比較対象として電子部品10を用いて説明する。より詳細には、第2のコンピュータシミュレーション及び第3のコンピュータシミュレーションより、接着層24の線膨張係数X3が高くなると、引っ張り応力が小さくなることが分かっている。これは、接着層24の線膨張係数X3が高いため、接着層24近傍の絶縁体層の引っ張り応力が緩和されるためである。電子部品10では、磁性体基板20aと積層体22の上面との間には、接着層24が存在する。接着層24の線膨張係数X3は、低膨張部80の線膨張係数X5よりも高い。よって、電子部品10では、低膨張部80の上端近傍における引っ張り応力は、低膨張部80の下端近傍における引っ張り応力よりも小さい。
そこで、電子部品10aでは、貫通孔Hの下端近傍には低膨張部80が設けられずに空隙Spが設けられている。これにより、貫通孔Hの下端の周囲に位置する絶縁体層に発生する応力の逃げ場を設けることができ、層間接続導体v1,v2付近に加わる応力が緩和されるようになる。その結果、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。
本願発明者は、電子部品10aが奏する効果をより明確にするために、以下に説明する第4のコンピュータシミュレーションを行った。具体的には、本願発明者は、第11のモデル及び第12のモデルを作成した。第11のモデルは、図8に示す構造を有する。また、第11のモデルでは、空隙を磁性体基板20b側から上側に広げていった。一方、第12のモデルは、空隙が磁性体基板20a側(上側)に位置している。第12のモデルでは、空隙を磁性体基板20a側から下側に広げていった。第11のモデルは実施例に係るモデルであり、第12のモデルは比較例に係るモデルである。第11のモデル及び第12のモデルにおいて、積層体22の高さを高さH1と定義し、空隙Spの上下方向の高さを高さH3と定義する。そして、本願発明者は、第11のモデル及び第12のモデルにおいて、H3/H1を変化させて、応力の大きさをコンピュータに演算させた。演算した応力は、図4の円Dに囲まれた応力が最大となっている点である。図9は、第4のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。縦軸は引っ張り応力の大きさを示し、横軸はH3/H1を示す。なお、第4のコンピュータシミュレーションのシミュレーション条件は、第1のコンピュータシミュレーションのシミュレーション条件と同じである。
図9によれば、第11のモデルの方が第12のモデルよりも、引っ張り応力が低減されていることが分かる。よって、第4のコンピュータシミュレーションによれば、空隙Spは、貫通孔Hの下端近傍に設けられることが好ましく、貫通孔Hの上端近傍に設けられた場合は、空隙Spを設けない場合よりも応力が増加してしまう場合があることが分かる。
次に、本願発明者は、第5のコンピュータシミュレーションを行った。第5のコンピュータシミュレーションにおいて、本願発明者は、第13のモデルないし第17のモデルを作成した。第13のモデルないし第16のモデルは、図8に示す構造を有する。第17のモデルは、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2と低膨張部に相当する部分の線膨張係数とが等しくなっており、低膨張部80が存在しない構造を有する。第13のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、12×10-6/℃である。第14のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、18×10-6/℃である。第15のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、24×10-6/℃である。第16のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、30×10-6/℃である。第17のモデルにおける低膨張部80の線膨張係数X5は、36×10-6/℃である。なお、線膨張係数X1〜X4は、第1のコンピュータシミュレーションで用いた値と同じである。
本願発明者は、第13のモデルないし第17のモデルにおいて、H3/H1を変化させて、引っ張り応力の大きさをコンピュータに演算させた。演算した引っ張り応力は、図4の円Dに囲まれた応力が最大となっている点である。図10は、第5のコンピュータシミュレーションの結果を示すグラフである。縦軸は引っ張り応力の大きさを示し、横軸はH3/H1を示す。
図10のグラフによれば、低膨張部80の線膨張係数X5が小さくなるにしたがって、引っ張り応力が小さくなることが分かる。すなわち、低膨張部80の線膨張係数X5が小さくなるにしたがって、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制されることが分かる。
また、H3/H1が大きくなるにしたがって、引っ張り応力が小さくなっていることが分かる。すなわち、空隙Spが大きくなるにしたがって、インダクタL1,L2に断線が発生しにくくなることが分かる。ただし、H3/H1が0.5である場合には、線膨張係数X5の値に関わらず、引っ張り応力の大きさは略等しくなった。すなわち、第13のモデルないし第16のモデルに発生する引っ張り応力と第17のモデルに発生する引っ張り応力とが略等しくなった。第13のモデルないし第16のモデルでは、低膨張部80が設けられ、かつ、空隙Spが設けられている。すなわち、第13のモデルないし第16のモデルは、電子部品10aの構造を有している。一方、第17のモデルでは、線膨張係数X5が線膨張係数X2と等しい。そのため、第17のモデルでは、低膨張部80が設けられておらず、空隙Spが設けられている。従って、第17のモデルは、電子部品10aの構造を有していない。よって、電子部品10aにおいて、低膨張部80の線膨張係数X5が小さくなることによって引っ張り応力が小さくなる効果は、H3/H1が0.5未満であるときに生じると考えられる。よって、電子部品10aでは、H3/H1は、0.5未満であることが好ましい。
また、H3/H1が0.5を超えた場合には、電子部品10aの強度低下やインダクタ導体層30a,30b,34a,34bの歪みが発生する可能性がある。よって、H3/H1が0.5未満であることが好ましい。ただし、図9のグラフからもわかるように、第11のモデルにおいてH3/H1が0.4以上0.8以下であるときの引っ張り応力は、第11のモデルにおいてH3/H1が1.0であるときの引っ張り応力よりも小さくなっている。すなわち、応力緩和の観点からは、H3/H1は、0.4以上0.8以下であってもよい。
(第2の変形例)
以下に、第2の変形例に係る電子部品10bについて図面を参照しながら説明する。図11は、電子部品10bを上側から透視した図である。図11では、インダクタ導体層30a及び低膨張部80a〜80dを図示した。
電子部品10bは、低膨張部80の代わりに低膨張部80a〜80dを備えている点において、電子部品10と相違する。以下では、かかる相違点を中心に電子部品10bについて説明する。
低膨張部80a〜80dは、低膨張部80と同じ材料により作製されており、線膨張係数X5を有している。低膨張部80a〜80dは、インダクタ導体層30a,30b,34a,34b(図11では、インダクタ導体層30aのみ図示)よりも外側に位置しており、絶縁体層26a〜26eを上下方向に貫通している。低膨張部80aは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも右側に位置している。低膨張部80bは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも前側に位置している。低膨張部80cは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも左側に位置している。低膨張部80dは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも後ろ側に位置している。ただし、低膨張部80a〜80dは、積層体22の前面、後面、右面及び左面からは露出していない。
なお、電子部品10bのその他の構造については、電子部品10と同じであるので説明を省略する。
以上のような電子部品10bによれば、電子部品10と同様に、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。より詳細には、電子部品10bは、少なくとも一部が積層体22内に埋め込まれている低膨張部80a〜80dを備えている。低膨張部80a〜80dの材料である絶縁性樹脂の線膨張係数x5は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数x2よりも低い。更に、低膨張部80a〜80dは、シリカフィラーが絶縁性樹脂に混合されて作製されている。これにより、低膨張部80a〜80dの線膨張係数X5は、絶縁性樹脂の線膨張係数x5よりも更に低くなっている。その結果、低膨張部80a〜80dの線膨張係数X5は、絶縁体層26a〜26eの線膨張係数X2よりも大幅に低い。そのため、電子部品10bが加熱されると、低膨張部80a〜80dの膨張量が絶縁体層26a〜26eの膨張量よりも小さくなる。よって、絶縁体層26a〜26eの膨張による応力が低膨張部80a〜80d側へと逃げるようになる。これにより、インダクタL1,L2に加わる引っ張り応力が低減され、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制される。
また、電子部品10bによれば、以下の理由によっても、インダクタL1,L2の外周側に断線が発生することをより効果的に抑制できる。より詳細には、電子部品10bにおいて、低膨張部80a〜80dの近く位置する絶縁体層26a〜26eでは、低膨張部80a〜80dの遠くに位置する絶縁体層26a〜26eよりも、低膨張部80a〜80dにより膨張が妨げられる。従って、インダクタL1,L2の断線の発生を抑制する観点からは、低膨張部80a〜80dの近くにインダクタL1,L2が位置していることが好ましい。
そこで、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bは、上側から見たときに、時計回りに周回する渦巻状をなしている。更に、低膨張部80aは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも右側に位置している。低膨張部80bは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも前側に位置している。低膨張部80cは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも左側に位置している。低膨張部80dは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも後ろ側に位置している。これにより、低膨張部80a〜80dは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bの周囲に位置するようになる。すなわち、低膨張部80a〜80dの近傍により多くのインダクタ導体層30a,30b,34a,34bが存在するようになる。その結果、インダクタL1,L2に断線が発生することがより効果的に抑制される。
(第3の変形例)
以下に、第3の変形例に係る電子部品10cについて図面を参照しながら説明する。図12は、電子部品10cを上側から透視した図である。図12では、インダクタ導体層30a及び低膨張部80e〜80hを図示した。
電子部品10cは、低膨張部80a〜80dの代わりに低膨張部80e〜80hを備えている点において、電子部品10bと相違する。以下では、かかる相違点を中心に電子部品10cについて説明する。
低膨張部80e〜80hは、低膨張部80と同じ材料により作製されており、線膨張係数X5を有している。低膨張部80e〜80hは、インダクタ導体層30a,30b,34a,34b(図12では、インダクタ導体層30aのみ図示)よりも外側に位置しており、絶縁体層26a〜26eを上下方向に貫通している。低膨張部80eは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも右側に位置している。低膨張部80fは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも前側に位置している。低膨張部80gは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも左側に位置している。低膨張部80hは、上側から見たときに、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bよりも後ろ側に位置している。ただし、低膨張部80e〜80hはそれぞれ、積層体22の右面、前面、左面及び後面から露出している。
電子部品10cのその他の構造については、電子部品10bと同じであるので説明を省略する。
以上のような電子部品10cは、電子部品10bと同じ作用効果を奏することができる。
(第4の変形例)
次に、第4の変形例に係る電子部品10dの構成について図面を参照しながら説明する。図13は、電子部品10dの断面構造図である。電子部品10dの外観斜視図は、電子部品10の外観斜視図と同じであるので、図1を援用する。図13は、図1のA−Aにおける断面構造図である。
電子部品10dは、低膨張部80が設けられていない点において、電子部品10aと相違する。以下では、かかる相違点を中心に電子部品10dについて説明する。
電子部品10dでは、空隙Spは、上側から見たときに、領域A1〜A4内に位置するように積層体22に設けられ、かつ、磁性体基板20bに接している。ただし、空隙Spよりも上側には、低膨張部80が設けられておらず、絶縁体層26a〜26eが設けられている。
電子部品10dのその他の構造については、電子部品10aと同じであるので説明を省略する。
以上のように構成された電子部品10dにおいても、電子部品10aと同様に、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制される。より詳細には、空隙Sp内には空気しか存在しない。そのため、電子部品10dが加熱された場合に、空隙Spは殆ど膨張しない。一方、空隙Spの周囲の絶縁体層が膨張して、空隙Spが圧縮される。このように絶縁体層が自由に変形できるので、空隙Spの周囲の絶縁体層に生じる応力が緩和される。その結果、電子部品10dでは、インダクタL1,L2に加わる引っ張り応力が低減され、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制される。
ここで、第17のモデルは、電子部品10dの構造を有している。図10によれば、第17のモデルにおいても、空隙Spが設けられることにより、引っ張り応力が低減されることが分かる。更に、第17のモデルにおいても、H3/H1が大きくなることにより、引っ張り応力が低減されることが分かる。
また、図9のグラフからもわかるように、低膨張部80を備える第11のモデルにおいて、応力緩和の観点から、H3/H1は、0.4以上0.8以下であってもよいと説明した。ただし、低膨張部80を備えない電子部品10dも、第11のモデルと同様の傾向を有すると考えられる。よって、電子部品10dにおいて、応力緩和の観点から、H3/H1は、0.4以上0.8以下であることが好ましい。また、H3/H1が0.5を超えた場合には、電子部品10dの強度低下やインダクタ導体層30a,30b,34a,34bの歪みが発生する可能性がある。よって、H3/H1が0.5未満であることが好ましい。
また、電子部品10dでは、以下に説明する理由によっても、電子部品10aと同様に、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。より詳細には、電子部品10dでは、接着層24が積層体22の上面に接している。接着層24は、比較的に大きな線膨張係数X3を有している。従って、積層体22の上面近傍では、接着層24により応力が緩和される。一方、磁性体基板20bが積層体22の下面に接している。磁性体基板20bは、比較的に小さな線膨張係数X1を有している。従って、積層体22の下面近傍では、応力が緩和されにくい。そこで、電子部品10dでは、空隙Spは、磁性体基板20bに接するように設けられている。これにより、積層体22の下面近傍に位置する絶縁体層に発生する応力が緩和されるようになる。その結果、インダクタL1,L2に断線が発生することを抑制できる。
(第5の変形例)
以下に、第5の変形例に係る電子部品10eの構成について図面を参照しながら説明する。図14は、電子部品10eの断面構造図である。電子部品10eの外観斜視図は、電子部品10の外観斜視図と同じであるので、図1を援用する。図14は、図1のA−Aにおける断面構造図である。
電子部品10eは、空隙Spの構造において電子部品10dと相違する。以下では、かかる相違点を中心に電子部品10eについて説明する。
電子部品10eでは、空隙Spは、接着層24及び磁性体基板20bに接するように、上下方向に延びている。従って、空隙Spは、領域A1〜A4を上下方向に通過している。
電子部品10eのその他の構造については、電子部品10dと同じであるので説明を省略する。
以上のように構成された電子部品10eにおいても、電子部品10dと同じ理由により、インダクタL1,L2に断線が発生することが抑制される。
(その他の実施形態)
本発明に係る電子部品は、電子部品10,10a〜10eに限らず、その要旨の範囲内において変更可能である。
なお、電子部品10,10a〜10eの構成を任意に組み合わせてもよい。特に、電子部品10の低膨張部80と電子部品10b,10cの低膨張部80a〜80hを組み合わせることは、インダクタL1,L2の内側及び外側に発生する応力を緩和することができるので好ましい。
なお、電子部品10d,10eにおいて、空隙Spは、インダクタ導体層30a,30b,34a,34bの外側に位置していてもよい。空隙Sp及び低膨張部80は、大きな応力が発生する位置の近傍に配置することが好ましい。
なお、インダクタL1は、渦巻状のインダクタ導体層30aと渦巻状のインダクタ導体層30bとが層間接続導体v1により接続されて構成されている。しかしながら、インダクタL1の構造はこれに限らない。インダクタL1は、1周の長さを有する複数のインダクタ導体層が層間接続導体により直列に接続された弦巻状をなしていてもよい。また、インダクタL1は、層間接続導体を備えておらず、1層のインダクタ導体層のみにより構成されていてもよい。また、インダクタ導体層30a,30bは、周回した形状をなしていなくてもよく、例えば、直線状であってもよい。なお、インダクタL2も、インダクタL1と同じように、渦巻状のインダクタ導体層34aと渦巻状のインダクタ導体層34bとが層間接続導体v2により接続された構成に限らない。なお、渦巻状(spiral)とは、2次元の螺旋である。弦巻状(helix)とは、3次元の螺旋である。
なお、インダクタL1,L2は、コモンモードチョークコイルを構成していなくてもよい。この場合、インダクタL1,L2は、トランスやバラン等であってもよいし、電気的に並列に接続された2つのインダクタであってもよい。
なお、低膨張部80,80a〜80hは、磁性体基板20a,20bの両方又は磁性体基板20aに接しているが、磁性体基板20a,20bの両方に接してなくてもよい。
なお、磁性体基板20a,20bの代わりに、非磁性体基板が設けられてもよい。
また、低膨張部80,80a〜80hは、非磁性体であるとしたが、磁性体であってもよい。低膨張部80,80a〜80hが非磁性体である場合には、低膨張部80,80a〜80hでの渦電流損が低減されるので、高周波領域においても高いQ値を得ることができる。一方、低膨張部80,80a〜80hが磁性体である場合には、インダクタL1,L2内の透磁率が高くなるので、インダクタL1,L2のインダクタンス値が大きくなる。
また、電子部品10,10a〜10dは、2つのインダクタL1,L2を備えている。しかしながら、電子部品10,10a〜10dが備えているインダクタの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、電子部品10,10a〜10dは、インダクタ以外の回路素子(例えば、コンデンサ)を備えていてもよい。
また、電子部品10,10a〜10cにおいて、磁性体基板20a,20b及び接着層24は必須の構成ではない。また、電子部品10d,10eにおいて、磁性体基板20a及び接着層24は必須の構成ではない。
なお、インダクタ導体層30a,30b,34a,34b、引き出し導体層40a,40b,44a,44b、接続導体70a〜70d及び層間接続導体v1,v2の形成方法は、めっき(サブトラクティブ、セミ/フルアディティブ)、蒸着、塗布のいずれであってもよい。
なお、インダクタ導体層30aは、絶縁体層26eの上面上ではなく、磁性体基板20bの上面上に設けられていてもよい。
なお、電子部品10,10a〜10cにおいて、絶縁体層26a〜26eの材料である絶縁性樹脂(第1の樹脂の一例)と、低膨張部80の材料である絶縁性樹脂(第2の樹脂の一例)とは、同じであってもよい。ただし、この場合には、低膨張部80が磁性体である。すなわち、低膨張部80には、絶縁体層26a〜26eの材料である絶縁性樹脂と同じ絶縁性樹脂に対して磁性体の粉末が混合された材料が用いられる。
以上のように、本発明は、電子部品に有用であり、特に、インダクタに断線が発生することを抑制できる点において優れている。
10,10a〜10e:電子部品
12:本体
20a,20b:磁性体基板
22:積層体
24:接着層
26a〜26e:絶縁体層
30a,30b,34a,34b:インダクタ導体層
80,80a〜80h:低膨張部
A1〜A4:領域
L1,L2:インダクタ
Sp:空隙
v1,v2:層間接続導体

Claims (22)

  1. 第1の樹脂を材料として含む複数の絶縁体層が積層方向に積層されて構成されている積層体を含む本体と、
    前記絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層を含む第1のインダクタと、
    前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有する低膨張部であって、第2の樹脂を材料として含み、かつ、少なくとも一部が前記積層体内に埋め込まれている低膨張部と、
    を備えており、
    前記第2の樹脂の線膨張係数は、前記第1の樹脂の線膨張係数よりも低いこと、
    を特徴とする電子部品。
  2. 第1の樹脂を材料として含む複数の絶縁体層が積層方向に積層されて構成されている積層体を含む本体と、
    前記絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層を含む第1のインダクタと、
    前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有する低膨張部であって、第2の樹脂を材料として含み、かつ、少なくとも一部が前記積層体内に埋め込まれている低膨張部と、
    を備えており、
    前記低膨張部は、非磁性体であること、
    を特徴とする電子部品。
  3. 前記複数の絶縁体層及び低膨張部は、非磁性体であること、
    を特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の電子部品。
  4. 前記第1のインダクタは、前記積層方向から見たときに、所定方向に周回していること、
    を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電子部品。
  5. 前記低膨張部は、前記第1のインダクタに囲まれた領域内に位置していること、
    を特徴とする請求項4に記載の電子部品。
  6. 前記電子部品は、
    前記絶縁体層に接している第2のインダクタ導体層を含む第2のインダクタを、
    更に備えており、
    前記第2のインダクタは、前記積層方向から見たときに、前記所定方向に周回しており、
    前記第1のインダクタに囲まれた領域と前記第2のインダクタに囲まれた領域とは、前記積層方向から見たときに、重なっていること、
    を特徴とする請求項4又は請求項5のいずれかに記載の電子部品。
  7. 前記電子部品は、
    前記絶縁体層に接している第2のインダクタ導体層を含む第2のインダクタを、
    更に備えており、
    前記低膨張部は、前記積層方向から見たときに、前記第2のインダクタに囲まれた領域内に位置していること、
    を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の電子部品。
  8. 前記積層体は、前記積層方向の一方側に位置する第1の主面を有しており、
    前記本体は、
    前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有し、かつ、前記第1の主面に接する第1の基板を、
    更に含んでいること、
    を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の電子部品。
  9. 前記積層体には、前記積層方向から見たときに、前記低膨張部と重なり、かつ、該低膨張部及び前記第1の基板に接する空隙が設けられていること、
    を特徴とする請求項8に記載の電子部品。
  10. 前記積層方向における前記積層体の高さに対する該積層方向における前記空隙の高さの比の値は、0.4以上0.8以下であること、
    を特徴とする請求項9に記載の電子部品。
  11. 前記積層方向における前記積層体の高さに対する該積層方向における前記空隙の高さの比の値は、0.5未満であること、
    を特徴とする請求項9に記載の電子部品。
  12. 前記積層体は、前記積層方向の他方側に位置する第2の主面を更に有しており、
    前記本体は、
    前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有する第2の基板と、
    前記低膨張部の線膨張係数以上の線膨張係数を有し、かつ、前記第2の基板と前記第2の主面とを接着する接着層と、
    更に含んでいること、
    を特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれかに記載の電子部品。
  13. 前記積層体を前記積層方向に貫通する貫通孔が設けられており、
    前記低膨張部は、前記貫通孔内に設けられることにより、該貫通孔の前記積層方向の一方側の端部において前記第1の基板に接するとともに、該貫通孔の該積層方向の他方側の端部において前記接着層に接していること、
    を特徴とする請求項12に記載の電子部品。
  14. 樹脂を材料として含む複数の絶縁体層が積層方向に積層されて構成されている積層体、及び、該複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有し、かつ、該積層体において該積層方向の一方側に位置する第1の主面に接する第1の基板を含む本体と、
    前記絶縁体層に接している第1のインダクタ導体層を含む第1のインダクタと、
    を備えており、
    前記積層体には、前記第1の基板に接する空隙が設けられていること、
    を特徴とする電子部品。
  15. 前記複数の絶縁体層は、非磁性体であること、
    を特徴とする請求項14に記載の電子部品。
  16. 前記第1のインダクタは、上側から見たときに、所定方向に周回していること、
    を特徴とする請求項14又は請求項15のいずれかに記載の電子部品。
  17. 前記空隙は、上側から見たときに、前記第1のインダクタに囲まれた領域内に位置していること、
    を特徴とする請求項16に記載の電子部品。
  18. 前記電子部品は、
    前記絶縁体層に接している第2のインダクタ導体層を含む第2のインダクタを、
    更に備えており、
    前記第2のインダクタは、上側から見たときに、前記所定方向に周回しており、
    前記第1のインダクタに囲まれた領域と前記第2のインダクタに囲まれた領域とは、前記積層方向から見たときに、重なっていること、
    を特徴とする請求項16又は請求項17のいずれかに記載の電子部品。
  19. 前記電子部品は、
    前記絶縁体層に接している第2のインダクタ導体層を含む第2のインダクタを、
    更に備えており、
    前記空隙は、前記積層方向から見たときに、前記第2のインダクタに囲まれた領域内に位置していること、
    を特徴とする請求項14ないし請求項18のいずれかに記載の電子部品。
  20. 前記積層体は、前記積層方向の他方側に位置する第2の主面を更に有しており、
    前記本体は、
    前記複数の絶縁体層の線膨張係数よりも低い線膨張係数を有する第2の基板と、
    前記第2の基板と前記第2の主面とを接着する接着層と、
    更に含んでいること、
    を特徴とする請求項14ないし請求項19のいずれかに記載の電子部品。
  21. 前記積層方向における前記積層体の高さに対する該積層方向における前記空隙の高さの比の値は、0.4以上0.8以下であること、
    を特徴とする請求項14ないし請求項20のいずれかに記載の電子部品。
  22. 前記積層方向における前記積層体の高さに対する該積層方向における前記空隙の高さの比の値は、0.5未満であること、
    を特徴とする請求項14ないし請求項20のいずれかに記載の電子部品。
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