以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、以下の説明では、連続鋳造において鋳型に供給される溶融金属が溶鋼である場合、すなわち鉄鋼の連続鋳造が行われる場合について説明する。ただし、本発明はかかる例に限定されず、本発明に係る技術は、鉄鋼以外のあらゆる金属(例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等)の連続鋳造に対して適用されてよい。
(1.本発明に想到した背景)
本発明の好適な実施形態について説明するに先立ち、本発明の効果をより明確なものとするために、本発明者らが本発明に想到した背景について説明する。
上述したように、連続鋳造では、パウダーを鋳型の上部から供給することが行われている。パウダーは、酸化物系のフラックスであり、その組成によって融点や融解した際の粘度等の特性が調整されている。溶鋼の熱によって融解した溶融パウダーが、凝固シェルと鋳型の内壁との間に入り込むことにより、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑が保たれる。また、パウダーは、鋳型内の溶鋼の表面を覆うことによる溶鋼の保温及び酸化防止の機能、並びに、鋳型内で溶鋼の表面に浮上した非金属介在物を除去し、溶鋼の清純度を上げる機能も有する。
ここで、凝固シェルと鋳型の内壁との潤滑が良好でないと、鋳造中に凝固シェルが鋳型の内壁に固着し、当該凝固シェルが破断してしまう恐れがある。破断が大きい場合には、その破断箇所から鋳片内部の溶鋼が流出するいわゆるブレークアウトが発生してしまい、設備に多大な被害を及ぼす。凝固シェルの破断が軽微な場合には、多量の溶鋼の流出は避けられ得るものの、漏れ出た溶鋼が凝固し、鋳片表面にブリードと呼ばれる欠陥を発生させる。従って、これらのブリードやブレークアウトの発生を抑制し、より安定的な操業を実現するためには、溶融パウダーによる凝固シェルと鋳型の内壁との潤滑をより良好に保つことが重要である。
凝固シェルと鋳型の内壁との潤滑をより良好にするための方法として、パウダーの組成を調整し、溶融パウダーの粘度を制御することが考えられる。例えば、溶融パウダーの粘度が比較的高ければ、凝固シェルと鋳型の内壁との間に当該溶融パウダーが流入し難いため、潤滑が不安定になる恐れがある。一方、溶融パウダーの粘度が比較的低ければ、凝固シェルと鋳型の内壁との間に当該溶融パウダーが流入し易く、潤滑が安定する。従って、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑を良好にする観点からは、溶融パウダーの粘度はより低い方が好ましい。
一方、鋳型内の溶鋼の表面に注目すると、浸漬ノズルからの溶鋼の吐出等の影響により、鋳造中に当該溶鋼の表面(湯面)は変動している。この湯面変動によって溶融パウダーが溶鋼中に巻き込まれると、鋳片においてパウダー性の品質欠陥を生じさせる原因となる。このとき、溶融パウダーの粘度が比較的高ければ、湯面変動による溶融パウダーの溶鋼への巻き込みが発生し難いが、溶融パウダーの粘度が比較的低ければ、湯面変動による溶融パウダーの溶鋼への巻き込みが発生し易い。つまり、パウダー性の欠陥の発生を抑制するためには、溶融パウダーの粘度はより高い方が好ましい。
このように、操業の安定性の観点からは溶融パウダーの粘度は低い方が好ましいものの、鋳片品質を確保する観点からは溶融パウダーの粘度は高い方が好ましい。従って、溶融パウダーの粘度を調整することにより操業の安定性と鋳片品質の確保を両立させることは困難であると考えられる。
一方、連続鋳造においては、例えば振動数が数Hz(100〜300cpm)程度、振幅が3〜10mm程度の、オシレーションと呼ばれる鋳造方向の振動を鋳型に対して与えることが行われている。オシレーションにより、凝固シェルと鋳型の内壁との間への溶融パウダーの流入が促進されると考えられており、オシレーションを行うことにより、溶融パウダーの粘度が高い場合であっても、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑を良好に保つことが可能になる可能性がある。
しかしながら、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑を良好なものにするためには、両者の間に溶融パウダーを十分に流入させることが必要であるが、仮に溶融パウダーの流入が不十分になった場合であっても両者の間の摩擦を低減させることが必要となる。上記のようなオシレーションの振動特性は、凝固シェルと鋳型の内壁との間への溶融パウダーの流入を促進し得るものではあるものの、必ずしも両者の間の摩擦を低減させるために適切なものとは言えない。
そこで、上記特許文献1、2に示すように、凝固シェルと鋳型の内壁との潤滑をより良好にすることを目的として、オシレーションに代えて、又はオシレーションに加えて、他の振動特性を有する振動を鋳型に与えることにより、両者の間への溶融パウダーの流入を促進するとともに、両者の間における溶融パウダーの流れを円滑にするための技術が開発されている。しかしながら、上述したように、特許文献1に記載に技術は実用性に乏しく、また、特許文献2に記載に技術では、全ての鋳型面においてパウダーの充填性を向上させ、凝固シェルと鋳型の内壁との摩擦抵抗を低減させることが困難である。
上記事情に鑑みて、本発明者らは、比較的粘度の高い溶融パウダーを用いた場合であっても、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑を良好に保つことが可能な技術について鋭意検討した結果、本発明に想到した。上述したように、粘度の高い溶融パウダーを用いることにより、溶融パウダーの巻き込みによる鋳片品質の低下を抑制することができるため、本発明によれば、ブリードやブレークアウトの発生を抑えて操業の安定性を確保しつつ、鋳片品質も確保することが可能になる。以下、本発明者らが想到した本発明の好適な一実施形態について説明する。
(2.連続鋳造機の全体構成)
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の概略構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の概略構成を示す側断面図である。なお、図1を含む以下に示す図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合があり、各図面において示される各構成部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機10は、連続鋳造用の鋳型1を用いて溶鋼2を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機10は、鋳型1と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型1の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型1に向けて下方に延び、その先端は鋳型1内の溶鋼2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶鋼2を鋳型1内に連続供給する。
鋳型1は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板で一対の短辺鋳型板を幅方向両側から挟むように組み立てられる。これら鋳型板は、例えば水冷銅板で構成されている。鋳型1は、かかる鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、外殻の凝固シェル3aの内部に未凝固部3bを含む鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型1下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型1の下端から引き抜かれる。なお、以下の説明では、この鋳片3の引き抜き方向(鋳造方向)のことを鉛直方向とも呼称する。また、鉛直方向と直交する方向を水平方向とも呼称する。
なお、図1では図示を省略しているが、鋳型1には、溶鋼2とともに、その上方から、パウダーが供給される。供給されたパウダーは、溶鋼2の熱により融解し、液体となったパウダーが凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間に介在している。
ここで、鋳型1には、鋳型1に対して鉛直方向に第2の振動を付与する振動発生装置121が設けられる。振動発生装置121は、一対の長辺鋳型板のそれぞれの外壁に設けられる。なお、図1では図示を省略しているが、連続鋳造機10には、鋳型1を鉛直方向にオシレーションするための第1の振動機構も設けられる。つまり、本実施形態では、鋳型1に対して、オシレーションのための第1の振動機構と、第2の振動を与えるための上記振動発生装置121を含む第2の振動機構と、が設けられる。この第1の振動機構及び第2の振動機構の詳細については、図2を参照して後述する。
二次冷却装置7は、鋳型1の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型1下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず。)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレークアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型1の直下では鉛直方向に延伸しており、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平方向に延伸する。二次冷却帯9において、当該パスラインが鉛直方向に延伸している部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平方向に延伸している部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機10は、垂直曲げ型の連続鋳造機10と呼称される。なお、本発明は、図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機10に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型1の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型1から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型1から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレークアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型1から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型1から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールとも称する。)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図1では左下側の面)とL面(Loose面、図1では右上側の面)とで、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機10の全体構成について説明した。なお、連続鋳造機10によって製造される鋳片3の種類及びサイズは、特に限定されない。例えば、鋳片3は、厚さが250〜300(mm)程度のスラブ、500(mm)を超えるブルーム若しくはビレットであってもよいし、あるいは、厚さが100(mm)程度の薄スラブ、50(mm)以下の薄帯連続鋳造鋳片等であってもよい。
(3.振動機構の構成)
上述したように、連続鋳造機10には、鋳型1に対して、第1の振動機構及び第2の振動機構が設けられる。図2を参照して、鋳型1に対して設けられる、第1の振動機構及び第2の振動機構の構成について説明する。図2は、鋳型1に対して設けられる、本実施形態に係る第1の振動機構及び第2の振動機構の一構成例を示す図である。
第1の振動機構110は、鋳型1を鉛直方向にオシレーションさせるもの(鋳型1に対して鉛直方向の第1の振動を付与するもの)である。第1の振動機構110は、鋳型1が載置される振動テーブル111と、支持体112と、メインアーム113と、サブアーム114と、シリンダ115と、から構成される。
メインアーム113は、振動テーブル111、支持体112及びシリンダ115に架設される。この際、メインアーム113の一端が振動テーブル111にピン結合され、他端がシリンダ115にピン結合される。また、メインアーム113の中間の部位が支持体112にピン結合される。これらのピン結合では、その結合部を中心としてメインアーム113が回動可能であるように、当該メインアーム113とそれぞれの部材とが結合される。
サブアーム114は、振動テーブル111及び支持体112に架設される。この際、サブアーム114の一端が振動テーブル111にピン結合され、他端が支持体112にピン結合される。これらのピン結合では、その結合部を中心としてサブアーム114が回動可能であるように、当該サブアーム114とそれぞれの部材とが結合される。
シリンダ115は、例えば油圧式のシリンダであって、後述する制御装置130からの制御により鉛直方向に上下動する。シリンダ115の上下動により、メインアーム113の両端がそれぞれ鉛直方向に振動し、それに伴って振動テーブル111も鉛直方向に振動する。これにより、鋳型1を鉛直方向にオシレーションさせる。上述したように、鋳型1をオシレーションさせることにより、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間への溶融パウダーの流入を促進させることができる。
第1の振動機構110では、制御装置130によってシリンダ115の駆動が適宜制御されることにより、オシレーションの振幅及び振動数を所定の範囲内で制御可能である。本実施形態では、オシレーションの振幅及び振動数は、一般的な連続鋳造機において行われているオシレーションの振幅及び振動数の範囲内で制御され得る。例えば、本実施形態における鋳型1のオシレーションは、振幅が3〜10mm程度、振動数が数Hz(100〜300cpm)程度である。
なお、第1の振動機構110の構成は上記の例に限定されず、第1の振動機構110としては、一般的な連続鋳造機に設けられている鋳型をオシレーションさせるための振動機構に用いられている各種の構成を適用することができる。例えば、第1の振動機構110においては、シリンダ115の代わりに、偏心カム、当該偏心カムに連結されたコネクティングロッド、及び当該偏心カムを回転させる回転駆動装置からなる機構が設けられてもよい。
第2の振動機構120は、鋳型1に対して鉛直方向の第2の振動を付与するものである。第2の振動機構120は、鋳型1の両長辺面の外壁に設けられる一対の振動発生装置121と、振動テーブル111の上面と鋳型1の底面との間に設けられるダンパー122と、から構成される。
振動発生装置121は、鋳型1に対して少なくとも鉛直方向の振動を付与する装置である。振動発生装置121は、後述する制御装置130からの制御により、鋳型1に対して振動を付与する。振動テーブル111と鋳型1との間にはダンパー122が介在しているため、振動発生装置121が作動されることにより、鋳型1が振動テーブル111上で鉛直方向に振動することとなる。
振動発生装置121は、機械式、電磁式、電歪式、油圧式、空気圧式等に代表される、種々の形式の振動発生装置とすることができる。本実施形態では、振動発生装置121として、アンバランスウェイトを回転軸に取り付けたモータを回転させることにより振動を発生可能な、機械式の振動発生装置が用いられている。かかる振動発生装置121は、大出力のモータを使用することにより、重量物であっても容易に振動を付与することができる。そのため、一般的に重さ数十トンにもなる鋳型1に振動を付与するためには、機械式の振動発生装置121が好適である。
ここで、第2の振動機構120は、鋳型1に付与する第2の振動の振幅及び振動数を少なくとも制御可能に構成される。本実施形態では、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦を低減させるために、この第2の振動の振幅及び振動数を適切な範囲に制御する。第2の振動の振幅は、ダンパー122の強さ(弾性係数)を調整することにより制御することができる。また、機械式の振動発生装置121では、鋳型1に付与される振動の振動数がモータの回転数で決まるため、例えばインバータ等を用いて振動発生装置121のモータの回転数を制御することにより、第2の振動の振動数を制御することができる。
なお、本実施形態では、上記のように、振動発生装置121によって鋳型1に対して鉛直方向の振動を与える。しかしながら、アンバランスウェイト及びモータを用いた機械式の振動発生装置121では、当該モータの回転により振動が発生するが、かかる振動は、モータの回転軸の全周方向に発生する。そのため、仮に鋳型1に対して振動発生装置121を1基だけ設けた場合には、鋳型1に対して与えられる振動は、鉛直方向の振動成分のみならず、水平方向の振動成分も含むものとなる。これを防止し、好適に鉛直方向の振動のみを鋳型1に与えるために、本実施形態では、鋳型1の両長辺面にそれぞれ1基ずつ、計2基の振動発生装置121が設けられている。
具体的には、これら2基の振動発生装置121は、同一の振動力を発生可能な同一の能力を有する振動発生装置121であって、モータの回転軸が平行となるように設置され、互いに逆方向に回転させられる。このとき、これら2つの振動発生装置121のアンバランスウェイトがともに同時期に上死点及び下死点に位置するように回転させられる。これにより、2基の振動発生装置121から発生する水平方向の振動成分が互いに打ち消される。その結果、2基の振動発生装置121によって、鉛直方向の振動のみを鋳型1に付与することができる。なお、以上の説明では振動発生装置121を鋳型1の両長辺面に1基ずつ設けていたが、鋳型1の互いに対向する面に振動発生装置121をそれぞれ設ければ、同様の方法によって水平方向の振動を打ち消すことが可能である。従って、振動発生装置121は、鋳型1の両短辺面に1基ずつ設けられてもよい。
なお、第2の振動機構120の構成はかかる例に限定されない。例えば、振動発生装置121は、鋳型1に対して、鉛直方向に所望の振動数の振動を付与可能であればよく、その構成や配置数、配置位置等は任意であってよい。例えば、上記のような機械式の振動発生装置121ではなく、1基だけで鉛直方向の振動のみを発生可能な振動発生装置121が用いられる場合であれば、鋳型1のいずれかの面に、当該振動発生装置121が1基だけ設けられてもよい。また、ダンパー122は、鋳型1を鉛直方向に移動可能に支持する機構の一例であり、このような機能を有する部材であれば、ダンパー122の代わりに他の部材が用いられてもよい。例えば、ダンパー122の代わりに、板バネ等の弾性体が用いられてもよい。
連続鋳造機10には、第1の振動機構110及び第2の振動機構120の駆動を制御する制御装置130が設けられる。制御装置130は、第1の振動機構110のシリンダ115の駆動を制御することにより、鋳型1のオシレーションの振幅及び振動数を制御する。また、制御装置130は、第2の振動機構120の振動発生装置121の駆動を制御することにより、鋳型1に付与される第2の振動の振動数を制御する。
なお、制御装置130の具体的な装置構成は限定されず、制御装置130は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の各種のプロセッサ、又はプロセッサとメモリ等の記憶素子がともに搭載された制御基板等である。あるいは、連続鋳造機10に、例えば鋳造速度等の鋳造条件を調整するために当該連続鋳造機10の動作を制御する制御装置が設けられる場合には、制御装置130は、当該制御装置と一体的に構成されてもよい。あるいは、制御装置130は1台の装置でなくてもよく、複数の装置によって構成されてもよい。制御装置130を構成するプロセッサが所定のプログラムに従って動作することにより、上記の制御装置130の機能が実現され得る。
以上、鋳型1に対して設けられる第1の振動機構110及び第2の振動機構120の構成について説明した。本実施形態では、連続鋳造中に、第1の振動機構110によって鋳型1をオシレーションさせるとともに、当該鋳型1に対して第2の振動機構120によって第2の振動を与える。これにより、鋳型1には、オシレーションに対して第2の振動が重畳された振動が付与されることになる。オシレーションにより、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間への溶融パウダーの流入を促進させることができる。また、第2の振動を鋳型1に付与することにより、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦を低減させることができる。従って、オシレーションに加えて第2の振動が鋳型1に対して付与されることにより、例えば比較的粘度の高い溶融パウダーを用いた場合であっても、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の良好な潤滑が実現される。よって、溶融パウダーの巻き込みによる鋳片の品質の低下を抑制しつつ、ブリード及びブレークアウトの発生が抑制されたより安定的な操業を実現することが可能になる。
ここで、上記特許文献2に記載の技術においても、オシレーションに加えて第2の振動を鋳型に付与しているが、当該技術では、オシレーションは鉛直方向の振動であり、第2の振動は水平方向の振動であった。従って、特許文献2に記載の技術では、第2の振動による、凝固シェルと鋳型の内壁との間においてパウダーの充填性を向上させ、両者の間の摩擦抵抗を低減する効果は、鋳型の長辺面及び短辺面のいずれか一方でしか生じない。従って、ブリード及びブレークアウトの発生を十分に抑制することができないと考えられる。これに対して、本実施形態によれば、上記のように、第2の振動として、鋳型1に対してオシレーションと同じ鉛直方向の振動を付与する。従って、鋳型1の長辺面及び短辺面の両方において、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦を低減させることができ、より安定的な操業を実現することが可能になる。
(4.第2の振動の振動特性)
上述したように、本実施形態では、オシレーションにより、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間への溶融パウダーの流入を促進させ、第2の振動を鋳型1に付与することにより、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦を低減させる。この際、オシレーション及び第2の振動には、その目的を達するための適切な振動特性が存在すると考えられる。このうち、オシレーションについては、例えば特許文献1、2にも記載されているように、一般的なオシレーションと同様の振動特性(例えば、振幅:3〜10mm程度、振動数:数Hz(100〜300cpm)程度)であれば、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間への溶融パウダーの流入を十分に実現可能であると考えられる。一方、第2の振動は、本実施形態において本発明者らが新規に導入したものであり、その適切な振動特性を規定する必要がある。そこで、本発明者らは、第2の振動の適切な振動特性を規定するために、以下の検討を行った。
鋳型1内で、凝固シェル3aは、鋳造速度に対応する所定の速度で鉛直下向きに移動している。凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦を低減させるためには、この状態で鋳型1に対して鉛直方向の第2の振動を付与した場合に、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦係数が小さくなればよい。そこで、本発明者らは、試験片に対して基板を摺動させながら当該試験片と当該基板との間の摩擦係数を測定可能な直線往復型の摩擦摩耗試験機に、当該基板を摺動方向と平行な振動方向に振動させる加振器を組み込んだ実験装置を作成した。
図3に、当該実験装置の構成を示す。図3は、第2の振動についての検討に用いた実験装置の構成を示す図である。図3を参照すると、実験装置140は、水平面内の一方向に往復可能なステージ141と、当該ステージを往復させるステージ駆動機構142と、ステージ141上に載置される加振器143と、加振器143によって上面が略水平になるように支持される基板144と、基板144の上面に試験片148を鉛直方向に押圧する押圧部材145と、押圧部材145に設けられ、ステージ141の往復に伴い基板144が試験片148と摺動しながら移動した際に試験片148と基板144との間の摩擦力を測定するロードセル146と、基板144の近傍に設けられ、基板144の変位を測定する渦流センサ147と、から構成される。なお、基板144としてはステンレス鋼を用い、試験片148としてはブロック状の鋼を用いた。
押圧部材145は、所定の静止荷重で試験片148を基板144に対して押圧可能に構成されている。試験片148が基板144に対して押圧された状態で、ステージ駆動機構142によってステージ141が水平面内の一方向に移動することにより、基板144も試験片148と摺動しながら当該方向に移動する。また、基板144を試験片148に対して摺動させながら、加振器143によって基板144が摺動方向と同じ方向に振動させられる。この際の試験片148と基板144との間の摩擦力がロードセル146によって測定される。また、この際の基板144の振動方向における変位(振動変位)が渦流センサ147によって測定される。
摺動が鋳造に伴う凝固シェル3aの移動に対応し、加振器143による振動が第2の振動に対応する。当該実験装置140を用いて、摺動中に加振器143によって振動を与えながら、基板144の振動変位、基板144の振動速度、及び試験片148と基板144との間の摩擦係数の測定を行った。その際、加振器143によって与える振動の振動特性を様々に変化させ、振動特性の変化が摩擦係数に及ぼす影響について調べた。
具体的には、摺動速度が10mm/sで略一定である所定の期間(すなわち、ステージ141及び基板144が一方向に略等速(10mm/s)で移動している期間)に、加振器143によって振動を与え、その間の基板144の振動変位、基板144の振動速度、及び試験片148と基板144との間の摩擦係数を測定した。基板144の振動変位は、渦流センサ147による測定値から求めた。また、基板144の振動速度は、この基板144の振動変位を時間微分することにより求めた。また、試験片148と基板144との間の摩擦係数は、ロードセル146によって測定された摩擦力を、試験片148に作用させた静止荷重で割ることにより求めた。また、加振器143によって与える振動については、その振動数は50Hzで略一定とし、その振幅のみを変更させた。
結果を、図4−図7に示す。図4−図7は、第2の振動の振動特性についての検討における実験結果を示すグラフ図である。図4−図7では、横軸に時間を取り、縦軸に基板144の振動変位、基板144の振動速度、及び試験片148と基板144との間の摩擦係数を取り、それぞれの測定結果の時間変化をプロットしている。
なお、上記の実験装置140では、試験片148と基板144との間に働く摩擦力のうち、摺動方向と逆向きの方向に作用する摩擦力(すなわち、摺動に対して抵抗として働く摩擦力)しか測定することができない。従って、摩擦係数もこの方向に対応する値のみ算出され得る。つまり、図4−図7に示す摩擦係数は、摺動に対して抵抗として働く摩擦力に対応する摩擦係数をプロットしたものである。一方、図4−図7に示すグラフ図において、摩擦係数がゼロになっている領域は、実際には、摩擦力がゼロである領域、又は、摺動方向と同じ方向の摩擦力が発生している領域であり得る。ただし、図9を参照して説明するように、このような摺動方向と同じ方向の摩擦力は、摺動を加速させる方向の摩擦力であり、摺動を妨げるものではない。従って、図4−図7に示す摩擦係数の値がゼロに近付くほど、摺動に対して抵抗として働く摩擦力が小さくなっていることを意味しており、それだけ摺動が円滑に行われ得ることを示している。
図4−図7は、それぞれ、加振器143によって異なる振動条件で振動を与えた場合における結果を示している。具体的には、図4は、加振器143によって振動を与えていない場合における結果を示している。図5−図7は、それぞれ、大きさの異なる振幅の振動を加振器143によって与えた場合における結果を示している。なお、図4では、振動を与えていない場合における結果を示しているため、基板144の振動変位、及び試験片148と基板144との間の摩擦係数のみをプロットしている。また、図5−図7では、併せて、摺動速度もプロットしている。当該摺動速度としては、ステージ駆動機構142によるステージ141の移動速度をプロットしている。なお、図示するように、図5−図7では、摺動速度をマイナス方向の速度として示している。従って、図中のマイナス方向における振動速度の絶対値が摺動速度の絶対値よりも大きくなった場合に、振動速度が摺動速度を追い越した(すなわち、振動速度が、摺動速度と同じ方向において、当該摺動速度よりも大きくなった)ことになることに留意されたい。
図4を参照すると、振動を与えていない場合には、振動変位は略一定であり、試験片148に対して基板144が確かに振動していないことが確認できる。また、試験片148に対して基板144が略一定の速度で摺動しているため、摩擦係数も略一定である。
図5では、振動速度が摺動速度を追い越さないような、比較的小さな振幅の振動を与えた場合における結果を示している。図5を参照すると、具体的には、振幅0.052mm、振動速度の最大値8.2mm/sの振動が与えられている。この場合、振動速度の周期的な変化に対応して、試験片148と基板144との間の摩擦係数も周期的に変化していることが分かる。
図6では、振動速度が摺動速度を追い越す期間が存在するような、中規模な振幅の振動を与えた場合における結果を示している。図6を参照すると、具体的には、振幅0.174mm、振動速度の最大値27.3mm/sの振動が与えられている。図示するように、振動速度が摺動速度を追い越している期間において、試験片148と基板144との間の摩擦係数が大幅に低減していることが分かる。また、図5に示す場合と比べて、摩擦係数の平均値も大きく低下していることが分かる。
図7では、振動速度が摺動速度を追い越す期間がより顕著に存在するような、比較的大きな振幅の振動を与えた場合における結果を示している。図7を参照すると、具体的には、振幅0.340mm、振動速度の最大値53.4mm/sの振動が与えられている。図6に示す結果と図7に示す結果を比較すると、振動速度が摺動速度を追い越す度合いが大きくなると、試験片148と基板144との間の摩擦係数の低下もより顕著になり、摩擦係数の平均値も更に低下することが分かる。
以上の結果から、振動速度が摺動速度を追い越すような振動を与えることにより、試験片148と基板144との間の摩擦係数を低下させることが可能となることが分かった。また、振動速度を大きくし、振動速度が摺動速度を追い越す度合いをより大きくすることにより、当該摩擦係数を更に低下させることが可能となることが分かった。
なお、図4−図7に示すグラフ図では、振動変位を時間微分することにより求めた振動速度をプロットしていたが、振動速度は、振動変位の測定値から求まる振動の振幅及び振動の周期から、理論的に算出することもできる。具体的には、振動の振幅の1/2をA、振動の周期をT、ω=(2π/T)とすると、振動変位x(t)は、下記数式(1)で表現することができる。
上記数式(1)の両辺を時間微分すれば、振動速度V(t)は、下記数式(2)となる。
また、上記数式(2)から、振動速度の最大値maxVは、下記数式(3)となる。
上記の実験においては、上記数式(2)を用いて振動速度を算出した場合であっても、同様の結果が得られた。
ここで、図4−図7に示す結果は、振動数が50Hzの振動を与えた場合における結果である。そこで、本発明者らは、他の振動数の場合にも同様の結果が得られるかどうかを確認するための実験を更に行った。具体的には、上記の実験装置140を用いて、50Hz以外に、振動数が5Hz、10Hz、20Hz、100Hz及び500Hzの振動を付与した場合について、同様の実験を行い、振動数と摩擦係数との関係を調べた。なお、当該実験でも、摺動速度は10mm/sで略一定にしている。
結果を図8に示す。図8は、第2の振動の振動特性についての検討における、振動数と摩擦係数との関係を示すグラフ図である。図8では、横軸に振動速度の最大値を取り、縦軸に摩擦係数の測定値を取り、両者の関係をプロットしている。なお、振動速度の最大値は、振幅及び周期の測定値から、上記数式(3)を用いて算出した。また、図8では、振動数が5Hz、10Hz、20Hz、50Hz、100Hz及び500Hzの振動を付与した場合のそれぞれについて、振幅を5水準に変更して測定を行った結果を示している。また、併せて、振動を付与しなかった場合における結果(グラフ中最も左側のプロット群)も示している。
図8を参照すると、振動数にかかわらず、振動速度の最大値が大きくなるほど、摩擦係数が低下していることが確認できる。振動速度の最大値が大きい場合とは、すなわち、振動速度が摺動速度を追い越し得る場合を示している。つまり、図8に示す結果から、振動数にかかわらず、振動速度が摺動速度を追い越すような振動を与えることにより、摩擦係数を低下させることができることが分かった。
振動速度が摺動速度を追い越すことにより摩擦係数が低下する理由は、以下のように理解することができる。図9は、振動速度が摺動速度を追い越すことにより摩擦係数が低下するメカニズムについて説明するための図である。図9では、基板144に対して試験片148が一方向に等速で摺動している際に当該基板144を摺動方向に振動させた場合を考え、上段に、その摺動速度の方向、振動速度の方向、基板144に対する試験片148の相対速度の方向、及び試験片148と基板144との間の摩擦力の方向の関係を概略的に示している。また、下段には、摺動速度、振動速度、振動変位、及び試験片148と基板144との間の摩擦力を概略的にグラフ図として示している。なお、当該グラフ図では、図5−図7とは異なり、摺動速度を正の値として示しているため、図中のプラス方向における振動速度の絶対値が摺動速度の絶対値よりも大きくなった場合に、振動速度が摺動速度を追い越したことになることに留意されたい。また、当該グラフ図においても、図5−図7で摩擦係数をプロットしていた場合と同様に、摩擦力としては摺動に対して抵抗として働く方向を正方向とし、この正方向の摩擦力のみを示し、負方向の摩擦力についてはゼロとみなしている。
基板144に対して試験片148が一方向に摺動している場合には、試験片148と基板144との間の摩擦力は、摺動に対する抵抗として、摺動方向と逆方向に作用する(図中(a))。この摩擦力は、すなわち動摩擦力であり、基板144に対する試験片148の押圧荷重が一定であれば、基板144に対する試験片148の相対速度がゼロではない所定の値を有している限り、略一定であると考えられる。基板144に振動を付与すると、摺動速度と同じ方向への振動速度が周期的に与えられることとなり、この期間は当該相対速度は小さくなるが、振動速度が摺動速度よりも小さい場合には、当該相対速度はゼロではない所定の値となる。従って、摩擦力の低下は生じない(図中(b))。
一方、振動速度が増加し、振動速度が摺動速度と等しくなった場合には、基板144に対する試験片148の相対速度がゼロになる。このときには、試験片148と基板144との間には摩擦力は生じないこととなる(図中(c))。そして、振動速度が更に増加し、振動速度が摺動速度を追い越した場合には、試験片148と基板144との間には逆向きの摩擦力、すなわち摺動を加速させるような摩擦力が働くこととなるため、この摩擦力は摺動に対して抵抗としては働かない(図中(d))。つまり、図中(c)、(d)に示すように振動速度が摺動速度以上である場合には、摺動に対して抵抗として作用する方向の摩擦力は発生しないこととなるのである。
以上の実験において、基板144及び試験片148を、鋳型1の内壁及び鋳片3(凝固シェル3a)とみなせば、連続鋳造機10においても同様の現象が生じると考えられる。つまり、本発明者らは、以上の実験結果から、第2の振動を、その振動速度が鋳造速度(上記の実験での摺動速度に対応する)よりも大きくなるように与えることにより、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦係数を小さくすることができ、両者の間の潤滑を良好に保つことが可能になるとの知見を得た。
より詳細には、第2の振動の振動速度は図5−図7に示すように周期的に変化し得るが、以上の実験結果から、振動速度が摺動速度よりも大きくなる期間が僅かでも存在すれば、摩擦係数を低下させる効果を得ることができる。そこで、本実施形態では、振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるように、鋳型1に与える第2の振動の振動特性を制御する。具体的には、上記数式(3)に示すように、第2の振動の振動速度の最大値は、振幅の1/2であるA及び周期Tによって定まるので、第2の振動の振幅及び振動数を、上記数式(3)から求まる振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるように制御すればよい。
ここで、詳しくは下記[実施例]において後述するが、本発明者らによる検討の結果、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の潤滑を良好に保つためには、第2の振動の振動数を20Hz以上にすることが好ましいことが分かっている。まとめると、本実施形態では、第2の振動の振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるように、かつ、振動数が20Hz以上になるように、第2の振動の振動特性(具体的には、振幅及び振動数)を制御する。これにより、例えば比較的粘度の高い溶融パウダーを用いた場合であっても、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の潤滑を良好に保つことが可能になり、溶融パウダーの巻き込みによる鋳片の品質の低下を抑制しつつ、ブリードやブレークアウトの発生が抑制されたより安定的な操業を実現することができる。
ここで、上記特許文献2に記載の技術について考察する。以上説明したように、本発明者らは、鋳片3の引き抜き方向と平行に第2の振動を付与し、振動速度が鋳造速度よりも大きくなるときに、凝固シェル3aと鋳型1の内壁との間の摩擦が低減するとの知見を得た。一方、特許文献2に記載の技術では、鋳型に対して水平方向に第2の振動を与えている。従って、特許文献2に記載の技術では、鋳型の長辺面及び短辺面のいずれか一方の鋳型面においては、鋳型面に対して平行、かつ鋳造方向に対して垂直な方向に第2の振動が付与されることになるため、その面では振動速度が鋳造速度を上回ることがなく、摩擦の低減も起こり得ない。従って、特許文献2に記載の技術では、第2の振動を付与したとしても、凝固シェルと鋳型の内壁との間において、パウダーの充填性を向上させ、両者の間の摩擦抵抗を低減する効果は、当該鋳型の長辺面及び短辺面のいずれか一方でしか生じず、ブリード及びブレークアウトの発生を十分に抑制することができないと考えられるのである。
なお、以上の説明では、振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような第2の振動の振幅及び振動数を上記数式(3)から求めることができるとしたが、本実施形態はかかる例に限定されない。振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような第2の振動の振幅及び振動数は、他の任意の方法によって求められてよい。例えば、下記[実施例]のように、第2の振動の振動特性を変化させながら実際に連続鋳造機を用いて連続鋳造を行い、渦流センサ等を用いてその際の振動速度の最大値を測定することにより、実験的に、このような条件を満たす第2の振動の振幅及び振動数を求めてもよい。あるいは、シミュレーション、又は理論計算等によって、このような条件を満たす第2の振動の振幅及び振動数を求めてもよい。
ここで、第2の振動については、設備上の制約からも、その振動特性に好ましい範囲が存在し得る。例えば、振動数については、鋳型1の重量を考慮すると、当該鋳型1を、例えば500Hzよりも大きな振動数で振動させることは困難であると考えられる。従って、上述した下限値も考慮すれば、第2の振動の振動数は、20Hz〜500Hzの間であることが好ましい。
また、例えば、振幅については、第2の振動の振幅をより大きくしようとすると、振動発生装置121の出力を大きくする必要があり、また、ダンパー122にも大きな負担が掛かる。これら振動発生装置121及びダンパー122への負担を考慮すると、第2の振動の振幅は、例えば1mm以下であることが好ましい。このように、本実施形態では、第2の振動の振幅の下限値は、上述した振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような値として規定され得るが、第2の振動の振幅の上限値は、設備上の制約を考慮して、例えば1mm以下となるように規定され得る。
以上説明した本実施形態に係る連続鋳造方法を、鉄鋼プラントにおける実際の連続鋳造機と同様の機能を有する試験連鋳機に適用した実施例について説明する。当該実施例では、オシレーションのための第1の振動機構(図2に示す第1の振動機構110と同様の構成のもの)を備える連続鋳造機に対して、第2の振動機構を設けた。当該第2の振動機構としては、図2に示す第2の振動機構120と同様の構成のもの、すなわち、振動テーブルと鋳型との間に設けられるダンパー及びアンバランスウェイトがモータの回転軸に取り付けられた機械式の振動発生装置からなるものを用いた。
当該構成を有する連続鋳造機を用いて、鋳型をオシレーションさせるとともに、第2の振動機構によって当該鋳型に第2の振動を与えながら、連続鋳造を行った。その際、第2の振動の振動特性(振幅及び振動数)を変更して、複数回連続鋳造を行った。第2の振動の振幅は、第2の振動機構のダンパーの弾性力を調整することにより制御した。また、第2の振動の振動数は、第2の振動機構の振動発生装置のモータの回転数を調整することにより制御した。
連続鋳造における他の条件は以下の通りである。なお、第2の振動を付与することにより、高粘度の溶融パウダーであっても好適に凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑が保たれ得ることを確かめるために、パウダーとしては、溶融パウダーの粘度が比較的高いものを用いた。
(条件)
溶鋼量:8ton
鋳型幅:700mm
鋳型厚み:150mm
鋳型高さ:900mm
鋳片の長さ:9m
鋳造速度:1mpm(16.7mm/s)
オシレーションの条件(第1の振動の条件):振動数2.5Hz(150cpm)、振幅3mm
溶融パウダーの粘度:100poise
鋳型の上部に渦流センサを設置し、上記の条件で連続鋳造を行いながら、当該渦流センサによって鋳型の鉛直方向の振動変位を測定することにより、連続鋳造中における第2の振動の振幅を求めた。また、この振動変位の測定値から、上記数式(3)を用いて、振動速度の最大値を求めた。更に、鋳造後の鋳片について、ブリードの発生状況を調査した。
結果を表1に示す。なお、表中、「実施例」は、上述した本実施形態に係る連続鋳造方法に含まれる条件に対応しており、「比較例」は、本実施形態に係る連続鋳造方法に含まれない条件に対応している。
条件1は、第2の振動を付与せず、オシレーションのみを行った場合である。この場合には、表1に示すように、ブリードが発生した。これは、オシレーションにより、溶融パウダーを凝固シェルと鋳型の内壁との間に流入させることは促進されるものの、オシレーションでは、両者の間の摩擦を低減させる効果に乏しいため、凝固シェルと鋳型の内壁との固着を効果的に抑制できなかったからであると考えられる。
他の条件2〜14は、いずれも、第2の振動を付与したものである。第2の振動の振動速度に注目すると、条件2、4、6、8、10は、オシレーションに加えて第2の振動を付与したものの、当該第2の振動の振動速度の最大値が鋳造速度よりも小さい場合である。この場合には、表1に示すように、ブリードが発生した。これは、オシレーションに第2の振動を重畳してはいるものの、当該第2の振動の振動特性が適切でなく、当該第2の振動の振動速度の最大値が鋳造速度よりも小さかったため、凝固シェルと鋳型の内壁との間の摩擦を低減させる効果が得られなかったからであると考えられる。
一方、条件7、9、11、13は、オシレーションに加えて、振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような第2の振動を付与した場合である。この場合には、表1に示すように、ブリードが発生しなかった。これは、オシレーションに第2の振動を重畳しつつ、当該第2の振動の振動特性を、当該第2の振動の振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるように適切に制御したため、凝固シェルと鋳型の内壁との間の摩擦を低減させることができたからであると考えられる。
また、条件14は、オシレーションを行わず、第2の振動のみを付与した場合である。なお、条件14では、表1に示すように、第2の振動の振動特性は、条件11に近いもの、すなわち振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような適切なものに制御されている。しかしながら、条件14ではブレークアウトが発生した。これは、第2の振動の振動特性を適切に制御したとしても、オシレーションを行わないと、溶融パウダーが凝固シェルと鋳型の内壁との間に十分に流入されないため、凝固シェルと鋳型の内壁との固着を抑制することができないからであると考えられる。条件1、14に示す結果から、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑を良好に保つためには、鋳型1をオシレーションさせることと、鋳型1に対して第2の振動を付与することを、ともに行う必要であることが確認できた。
ここで、条件3、5、7、9、11、13に注目すると、これらの条件では、いずれもオシレーションに加えて、振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような第2の振動を付与している。しかしながら、条件7、9、11、13では上記のようにブリードの発生を抑制できたものの、条件3、5ではブリードが発生した。条件3、5、7、9、11、13の違いは第2の振動の振動数であり、具体的には、条件3、5は、条件7、9、11、13よりも当該振動数が小さい。つまり、この結果は、オシレーションに加えて振動速度の最大値が鋳造速度よりも大きくなるような第2の振動を付与したとしても、当該第2の振動の振動数が小さい場合には、凝固シェルと鋳型の内壁との固着を抑制する効果が十分に得られないことを示している。具体的には、表1に示す結果から、第2の振動の振動数が20Hzよりも小さい場合には、凝固シェルと鋳型の内壁との固着を抑制することが困難になる。従って、凝固シェルと鋳型の内壁との固着をより抑制するためには、第2の振動の振動数は20Hz以上であることが好ましい。なお、条件3、5における第2の振動の振動数である5Hz、10Hzは、オシレーションで付与可能な振動数の範囲に含まれ得るものである。つまり、条件3、5においてブリードが発生したという結果は、オシレーションだけではブリードの発生を抑制することが困難であることを裏付けるものであるとも言える。
以上の結果から、本発明を適用することにより、比較的高粘度の溶融パウダーを用いた場合であっても、凝固シェルと鋳型の内壁との間の潤滑を良好に保つことが可能になる。従って、溶融パウダーの巻き込みによる鋳片の品質の低下を抑制しつつ、より安定的な操業を実現することが可能になる。
(5.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。