以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、本明細書に示す各図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合がある。各図面において図示される各構成部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
また、以下では、一例として、溶融金属が溶鋼である場合について説明する。ただし、本発明はかかる例に限定されず、本発明は、他の金属に対する連続鋳造に対して適用されてもよい。
(1.電磁力発生装置及び連続鋳造機の構成)
本発明の一実施形態に係る電磁力発生装置、及び当該電磁力発生装置が設置された連続鋳造機の構成について説明する。
(1−1.連続鋳造機の構成)
まず、図1−図3を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る連続鋳造機の概略構成を示す側断面図である。図2は、本実施形態に係る連続鋳造機の、鋳型の幅方向と平行な方向での断面を模式的に示す図である。図3は、本実施形態に係る連続鋳造機の、鋳型の下方の垂直部における水平断面を模式的に示す図である。なお、図2及び図3では、電磁発生装置については、その設置位置のみを概略的に示しており、その詳細な構成については図示を省略している。電磁発生装置の構成については、図4を用いて改めて詳細に後述する。
なお、以下の説明では、上下方向(鉛直方向)をZ軸方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を鋳型の長辺方向として定義し、Y軸方向を鋳型の短辺方向として定義する。
図1−図3を参照すると、本実施形態に係る連続鋳造機10は、鋳型110と、浸漬ノズル120と、電磁力発生装置130と、支持ロール141、142と、を備える。ただし、簡単のため、図1では、これらの構成のうち、鋳型110と支持ロール141のみを図示している。
浸漬ノズル120は、タンディッシュ(図示せず)の下端から鋳型110に向けて下方に延び、その先端は鋳型110内の溶鋼150に浸漬されている。当該浸漬ノズル120は、タンディッシュに貯留されている溶鋼150を、上方から鋳型110内に連続供給する。
具体的には、浸漬ノズル120は、鋳型110の幅方向における略中央に、その先端から所定の長さの領域が溶鋼150内に浸漬するように配置される。浸漬ノズル120の先端近傍の側壁には、溶鋼150の吐出孔121が1対設けられる。当該1対の吐出孔121は、浸漬ノズル120の中心軸まわりに互いに180度ずれた位置にそれぞれ設けられており、鋳型110の短辺面とそれぞれ対向している。連続鋳造中には、当該吐出孔121から溶鋼150が鋳型110内に供給されるが、このとき、鋳型110の上部からはパウダ151が溶鋼150の湯面上に供給される。溶鋼150によって溶解したパウダ151は、溶鋼150と鋳型110の内壁との間の潤滑、浮上してきた介在物の吸着、及び溶鋼150の保温等の機能を果たす。
鋳型110は、鋳片160の幅及び厚さに応じた四角筒状を有する。図1−図3では詳細な図示を省略しているが、鋳型110は、例えば、一対の長辺鋳型板で一対の短辺鋳型板を両側から挟むようにして組み立てられる。当該一対の短辺鋳型板の位置は幅方向に移動可能に構成されており、製造する鋳片160の幅に応じて適宜調整され得る。
鋳型110は、鋳型板と接触する溶鋼150を冷却して、鋳片160を製造する。鋳片160が鋳型110下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部160bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル160aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル160aと未凝固部160bを含む鋳片160は、鋳型110の下端から引き抜かれる。
鋳型110の下方には、鋳片160の両長辺面に周面がそれぞれ当接するように設けられ、当該鋳片160を厚み方向に挟持する支持ロール141が、当該鋳片160の長手方向に沿って複数設けられる。支持ロール141は、鋳型110の下端から引き抜かれた鋳片160を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。支持ロール141により鋳片160を厚さ方向両側から支持することで、搬送中における凝固途中の鋳片160の長辺面におけるブレークアウトやバルジングを防止することができる。
支持ロール141は、鋳片160の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型110の直下では鉛直方向に延伸し、次いで鉛直方向から水平方向に向かって曲線状に湾曲して、最終的には水平方向に延伸する。当該パスラインが鉛直方向に(すなわち、垂直に)延伸している部分を垂直部、湾曲している部分を湾曲部、水平方向に延伸している部分を水平部とも呼称する。連続鋳造機10は、このような、垂直部、湾曲部及び水平部がこの順に連なって形成されるパスラインを有する、垂直曲げ型の連続鋳造機である。なお、以下の説明では、鋳型110内の湯面から垂直部の下端までの長さを垂直部長さDVとも呼称する。例えば、DVは2.5(m)程度である。
また、同じく鋳型110の下方には、鋳片160の両短辺面に周面がそれぞれ当接するように設けられ、当該鋳片160を幅方向に挟持する支持ロール142が、当該鋳片160の長手方向に沿って複数設けられる。当該支持ロール142により、鋳片160が幅方向両側から支持されることで、搬送中における鋳片160の短辺面におけるブレークアウトやバルジングが防止され得る。なお、以下では、支持ロール141、142を区別するために、鋳片160の長辺面に設けられる支持ロール141のことを長辺ロール141とも呼称し、鋳片160の短辺面に設けられる支持ロール142のことを短辺ロール142とも呼称する。
上記パスラインの水平部の終端には、鋳片切断機(図示せず)が配置されており、当該パスラインに沿って搬送された鋳片160は、当該鋳片切断機によって所定の長さに切断される。このようにして、所定の厚み、幅及び長さの鋳片160が、連続的に鋳造される。
ここで、連続鋳造中において鋳型110及び鋳片160内の未凝固部160b(すなわち、溶鋼150)に生じている流れに注目すると、浸漬ノズル120の吐出孔121から噴出された溶鋼150の吐出流が鋳型110の短辺面に衝突することにより、溶鋼150においては、上昇流と下降流が形成され得る。当該下降流に従って鋳型110の下方に向かって流れた溶鋼150のうちの一部は、鋳型110の短辺による冷却により温度が低下し、そのまま熱対流により短辺の凝固シェル160aに沿って下降していく。一方、比較的高温な溶鋼150を多く含む部分は、熱対流により鋳型110内を幅方向の中央に向かって上昇していく。この鋳型110内を幅方向の中央に向かって上昇する流れは、幅方向の中央近傍で対面側の短辺からの同様の流れと衝突し、上下流が形成される。このようにして、連続鋳造時には、鋳型110の両方の短辺近傍、及び幅方向の中心の、3系統の下降流が形成される。なお、図2では、以上説明した溶鋼150の流動を、概略的に矢印で示している。
この下降流、特に短辺近傍の下降流(短辺下降流)によって溶鋼150中の介在物が沈降することにより、当該介在物が不純物となり、鋳片160の品質の劣化を招く。具体的には、溶鋼150内の介在物は、ある程度の深さ位置において自身の浮力によって上昇を開始する。このとき、この介在物が浮上する速度の大きさが下降流速の大きさよりも大きければ、当該介在物は湯面に到達し、除去され得る。しかしながら、下降流速の大きさが介在物の浮上速度の大きさよりも大きければ、当該介在物は湯面まで浮上することができず、不純物として鋳片160内に取り込まれてしまうこととなる。
そこで、本実施形態では、鋳片160の短辺に対向する位置に電磁力発生装置130を設置する。電磁力発生装置130は、鋳片160内の未凝固部160b(すなわち、溶鋼150)に対して電磁力を付与することにより、当該溶鋼150に対して所定の方向に駆動力を与える機能を有する。本実施形態では、連続鋳造中に当該電磁力発生装置130によって鋳片160内の短辺下降流に対して上向きの駆動力を与える。これにより、溶鋼150内における介在物の浮上を促進することができ、鋳片160の品質を向上させることが可能となる。
ただし、電磁力発生装置130を比較的高い位置(例えば、鋳型110の短辺面上)に設置した場合には、上向きの駆動力が与えられることにより生じ得る溶鋼150の上昇流が湯面に到達し、湯面を変動させ、パウダ151を巻き込んでしまう可能性があるため、鋳片160の品質向上を実現できない恐れがある。一方、電磁力発生装置130を比較的低い位置(例えば、パスラインの垂直部よりも下方)に設置した場合にも、やはり、鋳片160の品質を向上させることができない可能性がある。何故ならば、垂直曲げ型の連続鋳造機10において、介在物が浮上を開始した位置が既に湾曲部に到達していた場合には、浮上した介在物が鋳片160の上側長辺面に集積してしまうため、当該介在物は除去され得ないこととなるからである。つまり、垂直曲げ型の連続鋳造機10において介在物を除去するためには、当該介在物が垂直部に位置している間に、当該介在物の浮上速度の大きさが下降流速の大きさよりも大きくなっている必要がある。
従って、本実施形態では、電磁力発生装置130を、パスラインの垂直部において、鋳片160の短辺面と対向する位置に設置する。ただし、上記のように、パスラインにおいて鋳片160の短辺面と対向する位置には短辺ロール142が設けられているため、電磁力発生装置130は、図2及び図3に示すように、短辺ロール142を介して鋳片160の短辺面と対向するように設置され得る。例えば、短辺ロール142を保持する保持部材によって、電磁力発生装置130も併せて保持することができる。
電磁力発生装置130の高さ方向の設置位置としては、上記のように当該電磁力発生装置130がパスラインの垂直部に位置していればよく、その具体的な位置は任意であってよい。ただし、短辺下降流の流速は、溶鋼150の深さ方向に分布を有するため、電磁力発生装置130の高さ方向の設置位置に応じて、溶鋼150に対して与えるべき駆動力の適切な値も変化し得る。より詳細には、浸漬ノズル120の吐出孔121からの高さ方向の距離に応じて短辺下降流の流速は異なると考えられるため、浸漬ノズル120の吐出孔121と電磁力発生装置130との高さ方向の位置関係に応じて、適切な駆動力は変化し得る。詳しくは、下記(2.電磁力発生装置の駆動条件)で後述するが、電磁力発生装置130の駆動条件を決定する際には、当該電磁力発生装置130の高さ方向の設置位置にも留意すべきである。
以上、本実施形態に係る連続鋳造機10の概略構成について説明した。以上説明したように、本実施形態では、連続鋳造中に、電磁力発生装置130によって、溶鋼150に対して上向きの駆動力を付与する。これにより、溶鋼150内の短辺下降流の流速が抑えられるため、介在物の浮上除去が促進され、より高品質な鋳片を得ることができる。このとき、本実施形態では、鋳型110よりも下方において当該上向きの駆動力を与えるため、上記特許文献1〜4に記載の技術に比べて、当該駆動力によって生じた上昇流が湯面に与える影響をより小さくすることができ、より確実に鋳片160の品質を確保することが可能になる。
また、詳しくは後述するが、本実施形態では、当該上向きの駆動力の最大値が280〜1600(N/m3)の範囲に含まれるように電磁力発生装置130の駆動を制御する。ここで、一般的に、連続鋳造機10には、溶鋼150内の気泡等が凝固シェル160aの界面に捕捉され欠陥となって現れることを防ぐために、鋳型110内の溶鋼150を電磁力により撹拌する、電磁撹拌装置が設けられることがある。例えば、一般的な電磁撹拌装置において溶鋼150に対して与えられる駆動力は、平均的に4000〜10000(N/m3)程度である。このように、本実施形態において溶鋼150に対して与えられる上向きの駆動力は、一般的な電磁撹拌装置から想定される駆動力に比べて非常に小さい。従って、当該上向きの駆動力によって生じた上昇流が湯面に与える影響を更に小さくすることができ、更に確実に鋳片160の品質を確保することが可能となる。
また、上記のようにより小さい駆動力を溶鋼150に付与すればよいため、本実施形態に係る電磁力発生装置130には、あまり大きな出力は要求されず、そのため、当該電磁力発生装置130を一般的な電磁撹拌装置に比べてより小型に構成することができる。従って、上記のように、当該電磁力発生装置130を、所望の位置、すなわち、鋳片160の厚み方向両側にそれぞれ設けられる長辺ロール141の間に設置することが可能になる。ここで、上記特許文献5、6に記載の技術では、電磁力発生装置の大きさについては詳細に検討されておらず、当該電磁力発生装置に求められる出力によっては、これらの文献に記載されている位置に当該電磁力発生装置を実際に設置できるか不明確な点がある。これに対して、本実施形態によれば、上記のように比較的小さな出力を有すればよいため、電磁力発生装置130を小型に構成することができ、より確実に所望の位置に設置することができる。このように、本実施形態は、上記特許文献5、6に記載の技術に比べて、実施可能性がより担保されていると言える。
(1−2.電磁力発生装置の構成)
次に、図4を参照して、電磁力発生装置130の構成について説明する。図4は、本実施形態に係る電磁力発生装置130の概略構成を示す断面図である。図4では、電磁力発生装置130の、鋳型110の幅方向に対応する断面を概略的に示している。また、図4では、説明のため、鋳型110及び鋳片160(溶鋼150)の一部も併せて図示している。なお、簡単のため、鋳片160については、凝固シェル160a及び未凝固部160bの区別を省略して図示している。また、以下では、電磁力発生装置130の各構成部材の形状について説明する際に、Z軸方向の長さを高さ、X軸方向の長さを幅、Y軸方向の長さを厚みとも呼称することとする。
図4を参照すると、電磁力発生装置130は、ケース131と、当該ケース131内に格納される鉄芯コア133と、当該鉄芯コア133に導線が巻回されて構成されるコイル135a、135b、135cと、から構成される。
ケース131は、略直方体形状を有する中空の部材である。電磁力発生装置130を鋳片160の厚み方向両側にそれぞれ設けられる1対の長辺ロール141の間に設置するために、ケース131は、少なくともその厚みが、当該鋳片160の厚みよりも小さくなるように形成される。
電磁力発生装置130では、コイル135a〜135cからケース131の側壁を通過して溶鋼150に対して電磁力を付与するため、ケース131の材料としては、非磁性体ステンレスやFRP(Fiber Reinforced Plastics)等の、非磁性で、かつ強度が確保可能な部材が用いられる。なお、非磁性体ステンレスを用いた場合には、誘導加熱によりケース131自体が発熱する可能性があるため、当該ケース131に冷却ジャケット等の冷却装置を設置することが好ましい。
なお、上述したように、電磁力発生装置130は、短辺ロール142を介して鋳片160と対向するように設置される。一般的に支持ロール141、142は鋼製であるが、少なくとも電磁力発生装置130の設置位置の近傍(例えば、電磁力発生装置130の設置位置から0.5(m)の範囲内)に存在する短辺ロール142については、磁性体である鋼ではなく、ケース131と同様に、非磁性体(例えば非磁性体ステンレス等)によって形成する必要がある。より望ましくは、短辺ロール142は、非磁性かつ非導電性の材料(例えばセラミックス等)によって形成され得る。これは、短辺ロール142が非磁性体ステンレスのような、非磁性かつ導電性の材料によって形成される場合には、短辺ロール142中に渦電流が発生し、電磁力発生装置130が発生した磁界を打ち消す反磁界が発生し得るからである。この場合には、この反磁界の影響を低減するために、電磁力発生装置130を、低周波電流によって駆動させる必要がある。あるいは、上記のように短辺ロール142を非磁性かつ非導電性の材料によって形成すれば、この現象の発生を回避することができる。
鉄芯コア133は、略平板状の基材部と、当該基材部の平面から当該平面と略垂直な方向に突出する3つのティース部を有する。これら3つのティース部のそれぞれに導線が巻き線されることにより、3つのコイル135a〜135cが形成される。鉄芯コア133は、ケース131内において、基材部の平面が鋳片160の短辺面と対向するように、かつ、ティース部が当該基材部から当該鋳片160の短辺面に向かって突出するように、配設される。
鉄芯コア133は、電磁鋼板を積層することにより形成される。鉄芯コア133の具体的な形状は、例えば、高さh=600(mm)、幅w=440(mm)、基材部の幅wv=120(mm)、ティース部の高さt=120(mm)、ティース部間の間隔dt=120(mm)である。また、鉄芯コア133の厚みは、ケース131に収まるように適宜設定される。上述したように、ケース131の厚みは鋳片160の厚みよりも小さくなるように構成されるため、鉄芯コア133の厚みもまた、鋳片160の厚みに応じて決定され得る。例えば、鋳片160の厚みが240(mm)である場合には、鉄芯コア133の厚みは約160(mm)であってよい。
ただし、これらの具体的な形状に係る数値は、あくまで一例である。例えば、鉄芯コア133の高さ及び厚みは、溶鋼150に対して駆動力を付与する範囲に関係し得る。また、ティース部の形状は、コイル135a〜135cの特性、すなわち付与する駆動力の大きさに関係し得る。従って、鉄芯コア133の形状は、溶鋼150内の所望の範囲に所望の大きさの電磁力を発生可能なように、かつ、電磁力発生装置130の厚みが鋳片160の厚みよりも小さくなるように、適宜設定されてよい。
コイル135a〜135cを構成する導線としては、例えば断面が9(mm)×9(mm)で、内部に内径5(mm)程度の冷却水路を有する銅線が用いられる。電流印加時には、当該冷却水路を用いて銅線が冷却される。当該銅線は、絶縁紙等によりその表層が絶縁処理されており、層状に巻回することが可能である。本実施形態では、コイル135a〜135cとも、巻き数30で2層巻回した、60ターンのコイルとして作成した。巻き線した銅線の高さtcは例えば20(mm)、巻き線する長さ(すなわち、コイル135a〜135cの長さ)wcは、例えば300(mm)である。ただし、コイル135a〜135cに用いられる導線の種類、及び当該導線の具体的な巻き数等は、かかる例に限定されず、所望の大きさの駆動力を溶鋼150に対して付与可能であるように、適宜設定されてよい。
コイル135a〜135cには、図示しない電源が接続される。当該電源によって、隣り合うコイル135a〜135cにおける電流の位相が適宜ずれるようにコイル135a〜135cに対して電流を印加することにより、3つのティース部に移動磁界を発生させ、対象である溶鋼150内に電磁力を発生させる(すなわち、溶鋼150に駆動力を付与する)。なお、電源の駆動は、プロセッサ等からなる制御装置(図示せず)が所定のプログラムに従って動作することにより、適宜制御され得る。当該制御装置により、コイル135a〜135cのそれぞれに印加する電流量や、コイル135a〜135cのそれぞれに電流を印加するタイミング等が適宜制御され、溶鋼150に対して与えられる駆動力の強さが制御され得る。
本実施形態では、溶鋼150に対して上向きの駆動力を与えるように電磁力発生装置130を駆動させる。具体的には、例えば、電磁力発生装置130を駆動する際には、図5に示すような、位相差が120度の3相交流電流を、コイル135a〜135cに印加する。図5は、位相差が120度の3相交流電流について説明するための説明図である。ティース部に移動磁界を発生させるためには、例えば、コイル135aに電流+U、コイル135bに電流+V、コイル135cに電流+Wを印加すればよい。あるいは、コイル135aに電流+U、コイル135bに電流−W、コイル135cに電流+Vを印加するようにすれば、その位相差が60度となり、前述の120度よりも小さくなるため、導体(すなわち、溶鋼150)中の電磁力の分布がより連続的に滑らかとなり、電磁撹拌に好適となる。
ただし、以上説明したコイル135a〜135cに対する電流の印加方法はあくまで一例である。本実施形態では、溶鋼150に対して所望の大きさの駆動力を上向きに与えるように電磁力発生装置130を駆動させればよく、コイル135a〜135cのそれぞれに印加する電流量や、その電流の印加のタイミング等は、所望の出力が得られるように適宜設定されてよい。
(2.電磁力発生装置の駆動条件)
本実施形態では、上述したように、連続鋳造中に、電磁力発生装置130によって溶鋼150に対して上向きの駆動力を与え、溶鋼150内に生じている短辺下降流の流速を抑制する。この際、鋳片160の品質向上を実現するためには、電磁力発生装置130を適切な条件で駆動する必要がある。以下では、このような、高品質な鋳片160を得るための電磁力発生装置130の駆動条件について詳細に説明する。
なお、電磁力発生装置130の駆動条件の規定の仕方は、いくつか考えられる。ここでは、一例として、駆動力による規定方法、下降流速による規定方法、及び上昇流速による規定方法についてそれぞれ説明する。本実施形態では、これらのうちのいずれかによって規定される駆動条件によって電磁力発生装置130を駆動することにより、鋳片160の品質を向上させることができる。なお、これらの規定方法は、いずれも、「介在物の浮上を妨げるような下降流速を発生させない」ことを目的としており、当該目的を達成するための電磁力発生装置130の駆動条件を、それぞれ異なる観点から規定したものであると言える。そのため、これらの規定は互いに関連しており、一の規定に従って電磁力発生装置130が駆動された場合には、基本的には、他の規定も満たすように当該電磁力発生装置130が駆動される関係にある。つまり、各規定に従った駆動条件は、実質的には同様のことを意味し得る。
(2−1.駆動力による規定方法)
電磁力発生装置130によって溶鋼150に対して与える上向きの駆動力の大きさによって、当該電磁力発生装置130の駆動条件を規定することができる。
上述したように、短辺下降流は、浸漬ノズル120の吐出孔121からの吐出流が鋳型110の短辺面に衝突することにより発生する。本発明者らは、溶鋼150内に短辺下降流を生じさせる要因として、この吐出流の慣性による流れ以外に、溶鋼150内の温度分布(温度差)に起因する体積力が存在すると考えた。具体的には、連続鋳造中における溶鋼150内には、温度分布が存在するため、周囲よりも温度が低い溶鋼150には、その温度差により、下向きに体積力が作用する。従って、溶鋼150内では、吐出流が鋳型110の短辺面に衝突することによって生じた下降流の流速が、当該体積力によってより加速されていると考えられる。よって、短辺下降流の流速を抑えるためには、電磁力発生装置130によって溶鋼150に対して付与する上向きの駆動力には、少なくとも当該体積力よりも大きいことが求められる。
当該体積力は、例えば以下のようにして求めることができる。連続鋳造時、鋳型110の短辺面の凝固シェル160a近傍の溶鋼150は、ほぼ凝固が始まる液相線温度まで温度が低下している。一方、浸漬ノズル120から給湯される溶鋼温度は、液相線温度から10〜50℃程度高い値である。この温度差ΔTは溶鋼過加熱度又はスーパーヒートと呼ばれる。ΔTは、通常30℃程度であるため、凝固シェル160a近傍の溶鋼150に作用する温度差による体積力Fvは、下記数式(1)から、約226(N/m3)と算出される。ここで、下記数式(1)において、gは重力加速度、ρlは溶鋼150の密度、βは溶鋼150の体膨張係数である。ここでは、g=9.8(m/s2)、ρl=7000(kg/m3)、β=1.11×10−4(1/K)とした。
つまり、溶鋼150における短辺下降流の流速を抑えるためには、上述した体積力(約226(N/m3))に吐出流の慣性による成分を加味しても、少なくとも1000(N/m3)程度の駆動力を上向きに付与すれば十分であると考えられる。つまり、本実施形態では、電磁力発生装置130の駆動条件は、例えば少なくとも1000(N/m3)程度の上向きの駆動力が溶鋼150に対して付与されるように、当該電磁力発生装置130を駆動することであると規定することができる。
ここで、上述したように、一般的な電磁撹拌装置において溶鋼150に対して与えられる駆動力は、平均的に4000〜10000(N/m3)程度である。従って、ここで見積もった1000(N/m3)という駆動力は、一般的に溶鋼150を撹拌する際に付与される駆動力の範囲に比べて、非常に小さいと言える。これは、溶鋼150中の介在物の多くは溶鋼150よりも密度が小さいため、下降流に対して比較的小さな上向きの駆動力を作用させるだけでも、当該介在物は自身の浮力により上昇運動へ転じやすく、飛躍的に浮上分離されやすくなることを意味している。このことは、本発明において本発明者らが得た新たな知見の1つである。このように、より小さな上向きの駆動力を与えるだけで介在物の除去が促進されることを見い出したからこそ、電磁力発生装置130を小型化することができ、上記のように鋳片160の厚み方向両側の長辺ロール141間に設置することが可能になるのである。
本発明者らは、以上検討した駆動力の値の妥当性を確認するために、電磁場解析シミュレーション及び流体解析シミュレーションを行い、電磁力発生装置130によって約1000(N/m3)以上の上向きの駆動力が与えられた場合における溶鋼150の挙動について、解析を行った。
当該電磁場解析シミュレーション及び当該流体解析シミュレーションにおける条件(以下、Sim条件ともいう)は、以下の通りである。なお、電磁力発生装置130の構成は、図2−図4を参照して説明したものと同様である。ただし、電磁力発生装置130が短辺ロール142を介して鋳片160と対向することを考慮して、これらのシミュレーションでは、鋳片160から短辺ロール142の直径の分だけ離れた位置に、電磁力発生装置130を設置している。具体的には、短辺ロール142の直径は80(mm)とした。また、短辺ロール142は、非磁性ステンレスとして扱った。
(Sim条件)
鋳型幅:1200(mm)
鋳型厚み:240(mm)
鋳造速度:1.7(m/min)
電磁力発生装置の高さ方向の設置位置:吐出孔から電磁力発生装置の上端までの高さ方向の距離が1150(mm)
電磁撹拌装置の駆動電流:300(A)、3.0(Hz)の交流電流
シミュレーションの結果を図6及び図7に示す。図6は、電磁場解析シミュレーションによって得られた、電磁力発生装置130によって溶鋼150内に生じた電磁力(すなわち、電磁力発生装置130によって溶鋼150に与えられた駆動力)の分布を示す図である。図7は、流体解析シミュレーションによって得られた、電磁力発生装置130によって溶鋼150に駆動力が付与された場合における、溶鋼150内の下降流速の分布を示す図である。なお、これらのシミュレーションにおいては、鋳片160の幅方向においては、当該幅方向中心を挟んで左右対称な結果となるため、図6及び図7では、いずれも、鋳片160の厚み方向の中心断面におけるシミュレーション結果を、幅方向の中心から片側の範囲のみ図示している。また、図6及び図7では、位置関係を示すために、電磁力発生装置130の鉄芯コア133を併せて図示している。
図6を参照すると、電磁力発生装置130と対向する位置では、鋳片160の内部に最大で2000(N/m3)近い電磁力が上向きに発生していることが分かる。当該結果は、上記Sim条件の場合には、上記で検討した駆動力である約1000(N/m3)を超える、介在物に対して浮上力を付与するには十分な駆動力が付与され得ることを示している。
図7を参照すると、図6において大きな電磁力が作用している領域において、短辺下降流が堰き止められ、上向きの流れが発生していることが確認できる。このように、図6及び図7に示す結果から、上記で検討したように、約1000(N/m3)よりも大きな駆動力を与えることにより、電磁力発生装置130によって短辺下降流の流速が抑えられ得ることが確認できた。
しかしながら、図7に示す結果をより詳細に考察すると、電磁力発生装置130によって生じた上昇流が、鋳片160の短辺からより内側の領域において、対流するようにして下降流に転じていることが分かる。この場合には、電磁力発生装置130によって1度上昇した介在物が、この内側に生じた下降流によって再び沈降してしまい、十分に除去されない可能性がある。
ここで、電磁力発生装置130によって生じた上昇流の流速が大きいほど、この内側に生じる下降流の流速は大きくなる。従って、電磁力発生装置130によって溶鋼150に対して与える上向きの駆動力が大き過ぎる場合には、当該駆動力によって生じる更なる下降流によって介在物の浮上が妨げられる可能性が大きくなる。つまり、当該駆動力は、単純に約1000(N/m3)よりも大きければよいという訳ではなく、その最適範囲には上限値が存在し得る。図7に示す結果は、当該駆動力が過剰である場合の一例であり、約2000(N/m3)という上向きの駆動力は、介在物を除去するためには大き過ぎることを示していると言える。
更に、実際には、例えば鋳造速度や鋳型110の幅等の操業条件に応じて、吐出流が鋳型110の短辺面に衝突する速度は変化し得るため、電磁力発生装置130によって抑制する対象である短辺下降流の流速も変化し得る。また、短辺下降流の流速は深さ方向に分布を有するため、電磁力発生装置130の高さ方向の設置位置(より詳細には、吐出孔121から電磁力発生装置130までの高さ方向の距離)によっても、電磁力発生装置130によって抑制すべき短辺下降流の流速は異なっている。つまり、電磁力発生装置130によって溶鋼150に与える上向きの駆動力の適切な値の範囲は、操業条件や電磁力発生装置130の設置位置等に応じて変化し得る。上述した1000(N/m3)という値も、操業条件等によっては、必ずしも最適ではない可能性がある。
従って、実際に電磁力発生装置130を搭載した連続鋳造機10によって連続鋳造を行う際には、介在物を除去するために電磁力発生装置130によって溶鋼150に与える上向きの駆動力の最適範囲は、操業条件や電磁力発生装置130の設置位置に応じて適宜設定されることが好ましい。具体的には、当該駆動力の最適範囲は、例えば実際の操業条件及び電磁力発生装置130の設置位置を模擬したシミュレーションの結果や、同様の操業条件及び電磁力発生装置130の設置位置によって行った連続鋳造の実績データ等に基づいて、適宜設定することができる。例えば、下記実施例に示す条件であれば、後述するように、電磁力発生装置130によって溶鋼150に対して与える上向きの駆動力の最大値が、280〜1600(N/m3)の範囲内であることが好ましく、400〜880(N/m3)の範囲内であることがより好ましい。これらの駆動力が実現され得る具体的な電磁力発生装置130の駆動方法(駆動電流の与え方等)をシミュレーションによって求め、当該駆動方法に従って電磁力発生装置130を駆動すればよい。
(2−2.下降流速による規定方法)
電磁力発生装置130の駆動条件の他の規定方法として、溶鋼150内に生じている下降流の流速に注目することにより、当該駆動条件を規定することができる。
上述したように、溶鋼150内の下降流速が大きければ、介在物の浮上が妨げられ、当該介在物が除去され得ないこととなる。介在物除去の観点から許容され得る具体的な下降流速の値を求めることができれば、その値よりも大きな下降流速を生じさせないように電磁力発生装置130を駆動させることにより、高品質な鋳片160を得ることができる。本発明者らは、この介在物除去の観点から許容され得る下降流速の上限値を、介在物の浮上速度との関係から規定することとした。
具体的には、溶鋼150内を浮上する介在物の浮上速度は、下記数式(2)に示すストークスの式によって算出することができる。ここで、Uは介在物の流動抵抗と浮力が平衡状態となった場合の浮上速度(すなわち、介在物が浮上する際の終端速度)、gは重力加速度、ρlは溶鋼150の密度、ρは介在物の密度、dは介在物の直径(粒径)、μは溶鋼150の粘性係数である。また、下記数式(2)では、浮上速度Uを、浮上する方向を正として定義している。
溶鋼150内に生じている下降流によって下方に流された介在物は、ある程度の深さ位置において自身の浮力によって上昇を開始する。そして、この浮上する際の終端速度、すなわち上記数式(2)から求められる介在物の浮上速度Uの大きさが、下降流速の大きさよりも大きければ、介在物は溶鋼150内を浮上して湯面に到達し得ることとなる。換言すれば、高品質な鋳片160を得るためには、溶鋼150内で生じる下降流速の大きさを、上記数式(2)から求められる介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくすればよい。
ただし、上述したように、垂直部よりも下側において下降流速の大きさが介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくなったとしても、当該介在物は除去され得ない。従って、介在物を除去するためには、垂直部終端位置において、下降流速の大きさが介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくなっている必要がある。
つまり、本実施形態では、電磁力発生装置130の駆動条件は、垂直部終端位置において溶鋼150内に生じている下降流の流速の大きさが、上記数式(2)から算出される介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくなるように、当該電磁力発生装置130を駆動することであると規定することができる。このとき、電磁力発生装置130によって元来抑制する対象である短辺下降流の流速はもちろんのこと、図7を参照して説明した、電磁力発生装置130によって溶鋼150に駆動力を与えることによって短辺面からより内側の領域に新たに生じる下降流の流速についても、考慮する必要がある。つまり、電磁力発生装置130は、短辺下降流の流速、及び電磁力発生装置130による駆動力の付与によって新たに生じる短辺面からより内側の領域における下降流の流速が、いずれも、上記数式(2)から算出される介在物の浮上速度Uの大きさよりも小さくなるように、駆動される。
なお、上記数式(2)から介在物の浮上速度Uを具体的に算出する際には、重力加速度g、溶鋼150の粘性係数μ、介在物の密度ρ及び溶鋼150の密度ρlとしては、文献値や実験等によって得られた値を用いればよい。例えば、重力加速度g及び溶鋼150の粘性係数μとしては、文献値である、g=9.8(m/s2)、μ=5.0×10−3(Pa・s)を用いることができる。また、例えば、介在物の密度ρとしては、除去の対象としている介在物についての文献値を用いることができる。また、例えば、溶鋼150の密度ρlとしては、連続鋳造中の溶鋼150の温度を加味した文献値を用いることができる。
また、介在物の直径dとしては、鋳片160の品質を著しく悪化させ得る最小の値を用いればよい。上記数式(2)から、介在物の直径dが大きくなるほど浮上速度Uも大きくなるため、鋳片160の品質に影響し得る最小の直径を有する介在物の浮上速度の大きさよりも下降流速の大きさを小さくすれば、より大きな直径を有する介在物も浮上し得るからである。
一例として、溶鋼150の温度が1550度であり、対象としている介在物がアルミナであるとする。この場合、介在物の密度ρは約3990(kg/m3)であり、溶鋼150の密度ρlは約7000(kg/m3)とみなすことができる。これらの値を上記数式(2)に代入し、介在物の直径dと介在物の浮上速度Uとの関係を求めた結果を、図8に示す。図8は、介在物の直径dと介在物の浮上速度Uとの関係の一例を示すグラフ図である。図8では、横軸に介在物の直径dを取り、縦軸に介在物の浮上速度Uを取り、両者の関係をプロットしている。
ここで、各種の実験や実際の操業における実績データ等により、一般的に、鋳片160の品質を著しく悪化させ得る介在物の直径は約0.6(mm)以上であることが知られている。d=0.6(mm)である介在物の浮上速度Uは、上記数式(2)から、U=11.8(cm/s)と求めることができる。従って、より高品質な鋳片160を得るためには、例えば、垂直部終端位置における溶鋼150内における下降流速の大きさが11.8(cm/s)よりも小さくなるように、電磁力発生装置130を駆動すればよい。なお、このような下降流速を実現するための具体的な電磁力発生装置130の駆動方法(駆動電流の与え方等)については、上述した駆動力の最適範囲と同様に、実際の操業条件や電磁力発生装置130の設置位置を加味したシミュレーションの結果、所望の下降流速が実現できた駆動方法を採用すればよい。
なお、上述した介在物の密度ρ、溶鋼の密度ρl、及び介在物の直径dの具体的な数値はあくまで一例である。本実施形態において介在物の浮上速度Uを求める際には、これらの値としては、実際の操業条件に則した値が適宜用いられればよい。
(2−3.上昇流速による規定方法)
電磁力発生装置130の駆動条件の他の規定方法として、当該電磁力発生装置130による駆動力の付与によって溶鋼150内に生じる、上昇流の流速に注目することにより、当該駆動条件を規定することができる。
図7に示すように、電磁力発生装置130によって上向きの駆動力を付与することにより、短辺下降流を上昇流に転じさせることができる。しかしながら、上述したように、この上昇流は、短辺面からより内側の領域において新たな下降流となり得る。当該上昇流の流速が大きくなればこの新たな下降流の流速も大きくなるため、当該上昇流の流速が過剰である場合には、当該新たな下降流によって介在物の浮上が阻害されてしまう可能性が高まる。
従って、電磁力発生装置130によって上向きの駆動力を付与することにより生じる上昇流について、介在物除去の観点から許容され得る具体的な流速の値の範囲を求めることができれば、その範囲を逸脱するような上昇流速を生じさせないように電磁力発生装置130を駆動させることにより、高品質な鋳片160を得ることができる。つまり、本実施形態では、電磁力発生装置130の駆動条件は、当該電磁力発生装置130によって上向きの駆動力を付与することにより生じる上昇流の流速が、介在物除去の観点から許容され得る所定の範囲に収まるように、当該電磁力発生装置130を駆動することであると規定することができる。
高品質な鋳片160を得るための具体的な上昇流速の値の範囲は、上述した駆動力の最適範囲と同様に、実際の操業条件や電磁力発生装置130の設置位置を加味したシミュレーション(例えば、電磁場解析シミュレーション及び流体解析シミュレーション)の結果や実績データに基づいて決定すればよい。ここで、上記(2−2.下降流速による規定方法)と同様に、上昇流によって生じる新たな下降流の流速が上記数式(2)から得られる介在物の浮上速度Uよりも小さければ、当該介在物を除去することができる。従って、電磁力発生装置130によって生じた上昇流に起因する更なる下降流の流速が上記数式(2)から得られる介在物の浮上速度Uよりも小さくなるような、当該上昇流の流速の範囲を、当該上昇流の流速の最適範囲として、シミュレーション結果等に基づいて求めればよい。
一例として、上記Sim条件において、電磁力発生装置130の駆動条件を様々に変更しながら電磁場解析シミュレーションと流体解析シミュレーションの結果から検討を重ねた結果、電磁力発生装置130によって短辺下降流に駆動力が与えられた結果生じる、鋳片160の短辺面の凝固シェル160a界面における上昇流の流速の大きさが1〜8(cm/s)程度であれば、介在物の沈降を効果的に抑制できることが分かった。また、当該上昇流の流速の大きさが2〜5(cm/s)程度であれば、介在物の沈降を更に効果的に抑制できることが分かった。従って、高品質な鋳片160を得るためには、シミュレーション上これらの上昇流が実現できた駆動方法(駆動電流の与え方等)によって電磁力発生装置130を駆動して、連続鋳造を行えばよい。
以上説明した本実施形態に係る連続鋳造方法を、鉄鋼プラントにおける実際の垂直曲げ型の連続鋳造機に適用し、本発明の効果を確認するための実験を行った。当該実験では、垂直曲げ型の連続鋳造機に対して、図2−図4を参照して説明した位置と同様の位置に、電磁力発生装置を設置した。また、当該電磁力発生装置の具体的な構成も、図2−図4を参照して説明したものと同様である。
当該連続鋳造機を用いて、電磁力発生装置によって溶鋼に対して上向きの駆動力を付与しながら、実際に連続鋳造を行った。その際、電磁力発生装置に与える駆動電流の条件を変更しながらそれぞれ連続鋳造を行い、得られた鋳片の欠陥率を評価した。欠陥率は、超音波探傷試験によって評価した。なお、当該実験における他の条件は以下の通りである。
(条件)
鋳型幅:1200(mm)
鋳型厚み:240(mm)
鋳造速度:1.7(m/min)
電磁力発生装置の高さ方向の設置位置:吐出孔から電磁力発生装置の上端までの高さ方向の距離が1150(mm)
結果を下記表1に示す。表1では、駆動電流の条件と、その条件での連続鋳造によって得られた鋳片の欠陥率とを対応付けて示している。欠陥率については、電磁力発生装置を適用しない場合の欠陥率と比べて、欠陥率が±5%以内のものを「=」、欠陥率が10%以上低下したものを「+」、欠陥率が20%以上低下したものを「++」、欠陥率が10%以上悪化したものを「−」で表している。
更に、表1に示す各条件に対応する条件の下で電磁場解析シミュレーションを行い、各条件において溶鋼中に生じる電磁力を評価した。その結果を下記表2に示す。表2では、電磁場解析シミュレーションの結果から、鋳片の厚み方向中心の断面内における電磁力(駆動力)(N/m3)の最大値を、駆動電流の条件と対応付けて示している。
表1及び表2に示す結果から、本実施形態に係る電磁力発生装置を設置し、適切な駆動力を溶鋼に付与することにより(すなわち、電磁力発生装置を適切に駆動することにより)、より高品質な鋳片を得ることが可能となることが確認できた。
具体的には、表1及び表2を参照すると、少なくとも上記(条件)において高品質な鋳片を得るためには、電磁力発生装置によって溶鋼に与える駆動力の最大値が280〜1600(N/m3)となるように電磁力発生装置を駆動しながら、連続鋳造を行うことが好ましいことが分かる。この駆動力を実現するように電磁力発生装置を駆動することにより、少なくとも欠陥率が10(%)以上低減された鋳片を得ることが可能となる。
また、少なくとも上記(条件)において更に高品質な鋳片を得るためには、電磁力発生装置によって溶鋼に与える駆動力の最大値が400〜880(N/m3)となるように電磁力発生装置を駆動しながら、連続鋳造を行うことがより好ましいことが分かる。この駆動力を実現するように電磁力発生装置を駆動することにより、少なくとも欠陥率が20(%)以上低減された鋳片を得ることが可能となる。
(3.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。