以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(1.連続鋳造機の全体構成)
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の概略構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る連続鋳造機の概略構成を示す側断面図である。なお、図1を含む以下に示す図面では、説明のため、一部の構成部材の大きさを誇張して表現している場合があり、各図面において図示される各構成部材の相対的な大きさは、必ずしも実際の構成部材間における大小関係を正確に表現するものではない。
図1に示すように、本実施形態に係る連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型10を用いて溶融金属2(例えば溶鋼)を連続鋳造し、スラブ等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、鋳型10と、取鍋4と、タンディッシュ5と、浸漬ノズル6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8と、を備える。
取鍋4は、溶融金属2を外部からタンディッシュ5まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4は、タンディッシュ5の上方に配置され、取鍋4内の溶融金属2がタンディッシュ5に供給される。タンディッシュ5は、鋳型10の上方に配置され、溶融金属2を貯留して、当該溶融金属2中の介在物を除去する。浸漬ノズル6は、タンディッシュ5の下端から鋳型10に向けて下方に延び、その先端は鋳型10内の溶融金属2に浸漬されている。当該浸漬ノズル6は、タンディッシュ5にて介在物が除去された溶融金属2を鋳型10内に連続供給する。
なお、以下の説明では、上下方向(すなわち、タンディッシュ5から鋳型10に対して溶融金属2が供給される方向)を、Z軸方向とも呼称する。また、Z軸方向と垂直な平面(水平面)内における互いに直交する2方向を、それぞれ、X軸方向及びY軸方向とも呼称する。また、X軸方向を、鋳型10の長辺と平行な方向として定義し、Y軸方向を、鋳型10の短辺と平行な方向として定義する。
鋳型10は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒形状を有する。図1では図示を省略しているが、本実施形態では、鋳型10の側壁の内部に、熱抵抗部が設けられる。当該熱抵抗部により、鋳片又はモールドパウダーと接する鋳型10の内壁表面の冷却が妨げられ、鋳片3の緩冷却が実現される。具体的には、当該熱抵抗部は、鋳型10の内壁表面の温度が、鋳片3を緩冷却可能な温度、例えばモールドパウダーの融点に対応する温度(例えば1000℃〜1200℃程度)となるように、その熱抵抗値が調整されている。これにより、鋳型10の内壁表面の温度が比較的高い温度に保たれることとなり、鋳片3を緩冷却することが可能となる。なお、鋳型10のより具体的な構成については、下記(2−2.本発明の概要)及び下記(3.鋳型の具体的な構成例)で改めて詳しく説明する。
鋳型10は、溶融金属2を冷却して、外殻の凝固シェル3aの内部に未凝固部3bを含む鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型10下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型10の下端から引き抜かれる。この際、本実施形態では、鋳型10によって鋳片3の緩冷却が実現されることにより、凝固シェル3aが形成される速度を鋳片3の面内でより均一にすることができ、縦割れが抑制され得る。
図1では図示を省略しているが、鋳型10には、溶融金属2とともに、その上方から、モールドパウダーが供給される。供給されたモールドパウダーは、溶融金属2の熱により融解し、液体となったモールドパウダーが鋳片3と鋳型10の内壁との間に介在する。当該液体となったモールドパウダーにより、鋳片3と鋳型10の内壁との間の潤滑が保たれる。
二次冷却装置7は、鋳型10の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型10下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず。)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレークアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型10の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機1と呼称される。なお、本発明は、図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型10の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型10から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型10から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレークアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型10から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型10から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールとも称する。)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図1では左下側の面)とL面(Loose面、図1では右上側の面)とで、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図1を参照して、本実施形態に係る連続鋳造機1の全体構成について説明した。なお、本実施形態に係る連続鋳造機1は、一般的な従来の連続鋳造機に対して、鋳型10の構成が変更されたものに対応する。連続鋳造機1の具体的な構成は図1に示すものに限定されず、本実施形態に係る鋳型10は、各種の公知の連続鋳造機の構成に対して適用されてよい。
また、連続鋳造機1によって製造される鋳片3の種類及びサイズは、特に限定されない。例えば、鋳片3は、厚さが250〜300(mm)程度のスラブ、500(mm)を超えるブルーム若しくはビレットであってもよいし、あるいは、厚さが100(mm)程度の薄スラブ、50(mm)以下の薄帯連続鋳造鋳片等であってもよい。また、鋳片3の素材は連続鋳造が可能な金属であればよく、例えば、鉄鋼、特殊鋼の他、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン等、各種の金属であってよい。
(2.本発明に想到した背景と本発明の概要)
ここで、本実施形態に係る鋳型10の構成について詳細に説明するに先立ち、本発明をより明確なものとするために、従来の鋳型について本発明者らが検討した内容について説明する。また、また、当該検討結果に基づいて本発明者らが本発明に想到した背景について説明するとともに、本発明の概要について説明する。
(2−1.従来の鋳型の構成)
図2を参照して、従来の鋳型における鋳片の冷却の様子について説明する。図2は、従来の鋳型における鋳片の冷却の様子について説明するための説明図である。図2では、従来の鋳型の長辺に対応する側壁のうちの一方の縦断面図(Y−Z平面での断面図)を示しており、鋳型に溶融金属及びモールドパウダーが供給された際の鋳型内部の様子を図示している。
図2を参照すると、従来の鋳型90では、鋳型側壁911の内部に、冷却水912が流動する冷却水経路が設けられる。鋳型側壁911は、例えば銅等の比較的熱抵抗値の小さい材質によって形成される板状部材である。図2では、一の鋳型側壁911のみを図示しているが、4つの鋳型側壁911が組み合わされることにより、四角筒形状の鋳型90が構成される。図示しないポンプ等によって供給された冷却水912が、鋳型側壁911の内部を流動することにより、鋳型側壁911を介して、鋳型90内部の鋳片3(すなわち凝固シェル3a及び未凝固部3b)が冷却される。
鋳型90に対しては、溶融金属とともにモールドパウダーが上方から供給される。当該モールドパウダーは、鋳片3の熱により融解し、液体となったモールドパウダーは、凝固シェル3aと鋳型90の内壁(すなわち鋳型側壁911の内壁)との間に流入する。
ここで、鋳造中において、鋳片3の未凝固部3bの温度は約1580℃〜1610℃であり、凝固シェル3aの厚みが比較的薄い鋳型90の上部領域では、鋳片3の表面温度もこれに準じた温度であり得る。しかしながら、上述したように、鋳型側壁911は冷却されているため、鋳型90の内壁の表面温度は100℃〜300℃程度であり、鋳型90の下部領域における凝固シェル3aの表面温度は約800℃にまで低下している。一方、モールドパウダーは、例えば、アルミニウム酸化物−シリコン酸化物−カルシウム酸化物からなる3元系の酸化物であり、その融点は約1000℃〜1200℃である。
従って、鋳型90に投入されたモールドパウダーは、鋳型90の上部領域においては、鋳片3から受ける熱によって、融解し液体として存在し得るが、例えば鋳型90の内壁との接触領域や、鋳型90の下部領域では、鋳型90の内壁や、比較的温度が低下している凝固シェル3aによってその温度が低下されるため、凝固し、固体として存在し得る。特に、鋳型90の下部領域では、鋳片3と鋳型90の内壁との間には、主に、固体となったモールドパウダーが介在していると考えられる。
このように、鋳型90の内部においては、鋳型90の上部領域では、液体となったモールドパウダーの層(モールドパウダー液体層21)及び固体となったモールドパウダーの層(モールドパウダー固体層22)が、鋳型90の内壁と鋳片3との間に介在し得る。また、鋳型90の下部領域では、モールドパウダー固体層22が、鋳型90の内壁と鋳片3との間に介在し得る。
ここで、鋳型90に対して溶融金属及びモールドパウダーを供給した場合における鋳型90の内部の様子については、様々な研究がなされている。その1つとして、鋳型90においては、その湯面から所定の距離の領域では、鋳型90の内壁とモールドパウダー固体層22との間に僅かな空隙が存在する又はほぼ空隙が存在しておらず、当該領域よりも下部の領域では、鋳型90の内壁とモールドパウダー固体層22との間により大きな空隙24が存在するとの知見が得られている(例えば、Masahito HANAO, Masayuki KAWAMOTO and Akihiro YAMANAKA, ISIJ International, 2009, Vol. 49, No. 3,pp. 365−374(以下、非特許文献1と呼称する)を参照)。
非特許文献1には、鋳型90の内壁における熱流束(W/m2)を、その深さ方向の複数の測定点で測定した結果、湯面からの距離が100(mm)〜200(mm)よりも深い領域において、熱流束の急激な低下が見られたことが記載されている。当該結果は、湯面からの距離が100(mm)〜200(mm)よりも深い領域では、鋳型90の内壁と鋳片3との間に、より大きな熱抵抗値を有する層(すなわちより小さな熱伝導度を有する層)が存在していることを示している。
測定された熱流束の値や、モールドパウダーによる断熱効果(すなわちモールドパウダーの熱抵抗値)、空隙による断熱効果(すなわち空気の熱抵抗値)、鋳片3の表面温度の予測値等から考察すると、図2に示すように、湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)までの領域では、鋳型90の内壁と接する範囲には、僅かな空隙が存在する又はほぼ空隙が存在しておらず、モールドパウダー固体層22がほぼ充満していると考えられる。また、当該領域においては、空隙が存在したとしても、その幅は、精々数(μm)程度であると考えられる。なお、図2では、当該空隙の図示は省略している。以下の説明では、鋳型90において、このように、モールドパウダー固体層22がほぼ充満している深さ方向の領域(すなわち、湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)までの領域)のことを充満領域とも呼称することとする。
一方、同じく熱流束の測定結果に基づく考察から、図2に示すように、湯面からの距離が100(mm)〜200(mm)よりも深い領域では、鋳型90の内壁と接する範囲には、比較的大きな空隙24が存在していると考えられる。また、当該空隙24の幅は、数十〜数百(μm)程度であると考えられる。当該空隙24は、大きな断熱効果を有する断熱材として機能する。以下の説明では、鋳型90において、このように、空隙24が存在している深さ方向の領域(すなわち、湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)よりも深い領域)のことを非充満領域とも呼称することとする。
なお、上述したように、本実施形態では、充満領域及び非充満領域の境界を、湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)である位置としたが、当該数値はあくまで一例である。鋳型90における充満領域及び非充満領域の境界は、鋳型90及び鋳片3の温度や、モールドパウダーの材料等、操業条件に応じて変化し得る。
以上説明したように、例えば非特許文献1等の文献の記載から、従来の鋳型90の内部では、モールドパウダー固体層22、モールドパウダー液体層21及び鋳片が、図2に示すような位置関係で存在していると考えられる。ここで、従来の鋳型90では、モールドパウダー固体層22が断熱材として機能することにより、鋳片3の緩冷却が実現されると言われている。本発明者らは、図2に示す鋳型90の内部の様子に基づいて、従来の鋳型90において緩冷却がどのようにして実現されているのかについて、より詳細に考察を行った。
上述したように、非充満領域では、比較的大きな空隙24が、大きな断熱効果を有する断熱材として機能する。従って、非充満領域では、モールドパウダー固体層22の有無にかかわらず、当該空隙24によって、鋳片3の緩冷却は実現され得ると考えられる。
そこで、本発明者らは、充満領域に注目し、当該充満領域における、鋳型90と鋳片3との間の熱の伝達について考察した。考察した結果を図3に示す。図3は、従来の鋳型90の充満領域における、鋳型90と鋳片3との間の熱の伝達の様子について示す図である。
図3では、従来の鋳型90の充満領域において熱の伝達に関係する構成を模擬的に図示している。図示するように、従来の鋳型90の充満領域においては、冷却水経路内の冷却水912、鋳型側壁911、空隙23、モールドパウダー固体層22、モールドパウダー液体層21及び凝固シェル3aが、この順に存在している。空隙23は、図2では図示を省略していた、充満領域において鋳型側壁911とモールドパウダー固体層22との間に存在し得る空隙である。鋳片3の緩冷却(すなわち凝固シェル3aの緩冷却)が実現されていると仮定すると、凝固シェル3aの表面温度を緩冷却が実現されていると考えられる温度(1229℃)にするためには、各部材間の境界における温度は、それぞれ、以下に示す値になると計算できる。なお、冷却水912と鋳型側壁911との境界における温度(30℃)としては、実際に操業に用いている冷却水912の温度の値を用いた。
冷却水912−鋳型側壁911:30℃
鋳型側壁911−空隙23:76℃
空隙23−モールドパウダー固体層22:903℃
モールドパウダー固体層22−モールドパウダー液体層21:1098℃
モールドパウダー液体層21−凝固シェル3a:1229℃
なお、上記の計算においては、下記表1に示す条件を用いた。ここで、鋳型側壁911の幅及び熱抵抗値、モールドパウダー固体層22の熱抵抗値、並びにモールドパウダー液体層21の熱抵抗値は、実際に操業に用いている物質の値を使用した。また、空隙23の幅、モールドパウダー固体層22の幅、及びモールドパウダー液体層21の幅は、各種の文献等に基づく予測値を用いた。ここで、下記表1に示す各構成の幅は、図3における紙面左右方向の長さを表している。なお、以下では、熱の伝達について説明する際に、単に幅と記載した場合には、特に記載のない限り、熱の伝達方向における各構成の長さを意味するものとする。
以上の計算結果を参照すると、空隙23の介在によって800℃程度の大きな温度差が物質間に実現され、モールドパウダー固体層22の介在によって200℃程度の温度差が物質間に実現されていることが分かる。このように、従来の鋳型90では、空隙23及びモールドパウダー固体層22が存在することにより、鋳片3の緩冷却が実現されていると言える。
ここで、モールドパウダー固体層22は、連続鋳造中に、鋳片3の外周面に付着した状態で、当該鋳片3ととともに鋳型90から引き抜かれる。従って、鋳型90の内壁には、一度形成されたモールドパウダー固体層22が不変的に固着している訳ではなく、鋳型90の内部のモールドパウダー固体層22は、連続鋳造中に随時更新されていると考えられる。
モールドパウダー固体層22が更新される際には、一時的にモールドパウダー固体層22が鋳片3と鋳型90の内壁との間に存在しない期間が生じ得る。図2及び図3に示す構成を参照すれば、モールドパウダー固体層22が存在しない期間では、モールドパウダー液体層21が、鋳型側壁911と凝固シェル3aとの間に充満していると考えられる。上述したように、従来の鋳型90では、空隙23及びモールドパウダー固体層22が存在することにより鋳片3の緩冷却が実現されていると考えられるため、当該期間には、鋳片3の緩冷却が適切に行われない可能性がある。
また、モールドパウダー固体層22が存在せず、モールドパウダー液体層21のみが鋳型側壁911と凝固シェル3aとの間に介在している場合には、連続鋳造中に、凝固シェル3a(すなわち鋳片3の表面)が、鋳型側壁911の内面と接触してしまう恐れがある。凝固シェル3aが鋳型側壁911の内面と接触し、急冷されることにより、いわゆる焼き付きが生じる可能性がある。
以上、従来の鋳型90における緩冷却について、本発明者らが検討した結果について説明した。以上説明したように、従来の鋳型90においては、空隙23及びモールドパウダー固体層22が、鋳型側壁911と鋳片3との間に存在することにより、鋳片3の緩冷却が実現されていると考えられる。しかしながら、モールドパウダー固体層22は連続鋳造中に随時更新されるため、モールドパウダー固体層22が存在しない期間が生じる可能性があり、当該期間には鋳片3の適切な緩冷却が行われない恐れがある。
本発明者らは、上述した検討結果から得られた知見に基づいて、より安定的に鋳片3を緩冷却することが可能な技術について鋭意検討した結果、本発明の好適な一実施形態に想到した。上記(1.連続鋳造機の全体構成)で説明したように、本発明の好適な一実施形態では、鋳型10の側壁の内部に熱抵抗部が設けられる。当該熱抵抗部により、鋳型10の内壁表面の温度が、鋳片3の緩冷却を実現し得る温度に維持されるため、モールドパウダー固体層22の有無にかかわらず、鋳片3をより安定的に緩冷却することが可能となるのである。
(2−2.本発明の概要)
以下、図4を参照して、本発明の好適な一実施形態に係る鋳型の概略構成について説明するとともに、本発明の概要について説明する。図4は、本実施形態に係る鋳型における鋳片の冷却の様子について説明するための説明図である。図4では、図2と同様に、本実施形態に係る鋳型の長辺に対応する側壁のうちの一方の縦断面図(Y−Z平面での断面図)を示しており、鋳型に溶融金属及びモールドパウダーが供給された際の鋳型内部の様子を図示している。なお、図4では、説明のため、図2を参照して説明した充満領域及び非充満領域の境界を併せて図示している。
図4を参照すると、本実施形態に係る鋳型10は、その側壁の内部に、熱抵抗部が設けられて構成される。例えば、鋳型10の側壁は、図示するように、最も外側に設けられ鋳型10を冷却する冷却部110と、最も内側に設けられ鋳片3又はモールドパウダーと接する耐熱鋳型130と、耐熱鋳型130と冷却部110との間に設けられ両者の間の伝熱を抑制する熱抵抗部120と、から構成される。
冷却部110は、例えば冷却鋳型111と、当該冷却鋳型111の内部に形成される冷却水112が流動する冷却水経路と、から構成される。冷却鋳型111は、例えば銅等の比較的熱抵抗値の小さい材質によって形成される板状部材が組み合わされて構成される四角筒形状の部材である。図4では、冷却鋳型111の一の側壁に対応する部分のみを図示しているが、4つの板状部材が組み合わされることにより、四角筒形状の冷却鋳型111が構成される。図示しないポンプ等によって供給された冷却水112が、冷却鋳型111の内部を流動することにより、冷却鋳型111が冷却される。
耐熱鋳型130は、鋳片3の幅及び厚さに対応する寸法を有する四角筒形状の部材である。図4では、耐熱鋳型130の一の側壁に対応する部分のみを図示しているが、実際には、4つの板状部材が組み合わされることにより、四角筒形状の耐熱鋳型130が構成される。耐熱鋳型130は、例えば、タングステンの耐熱鋼やモリブデンの耐熱鋼、SiC等の耐火物によって形成される。耐熱鋳型130は、鋳型10の最も内壁を構成する部位であり、高温のモールドパウダー液体層21又は鋳片3と直接接する部位である。従って、耐熱鋳型130は、例示したタングステンの耐熱鋼等のように、鋳片3やモールドパウダーよりも融点の高い材料によって形成され得る。
熱抵抗部120は、耐熱鋳型130の内壁表面の温度が所望の温度になるような、所定の熱抵抗値を有する部材によって構成される。具体的には、熱抵抗部120を構成する物質及び熱抵抗部120の幅は、耐熱鋳型130の内壁の表面温度が、鋳片3の緩冷却を実現し得る温度となるように、適宜設計される。例えば、熱抵抗部120を構成する物質及び熱抵抗部120の幅は、耐熱鋳型130の内壁の表面温度が、モールドパウダーの融点である1000℃〜1200℃程度になるように、適宜調整される。これにより、耐熱鋳型130の内壁の表面温度が、従来の鋳型90において緩冷却が実現されていると仮定した際のモールドパウダー固体層22とモールドパウダー液体層21との境界における温度と略同一になるように制御される。このように、本実施形態では、従来はモールドパウダー固体層22によって実現されていた鋳型90の内壁と鋳片3との間の断熱が、鋳型10の内部に設けられる熱抵抗部120によって実現されるのである。
ここで、上記(2−1.従来の鋳型について)で説明したように、鋳片3の緩冷却を実現するためには、充満領域における、鋳型10の内壁と鋳片3との間の断熱が重要となる。従って、熱抵抗部120は、図示するように、少なくとも充満領域に対応する領域(すなわち、湯面の位置から、当該湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)である位置までの領域)に設けられ得る。非充満領域には、比較的大きな空隙24が存在し得るため、熱抵抗部120が存在しなくても、緩冷却を実現可能な断熱が実現され得るからである。
ここで、一般的に、鋳造中における鋳型10内での湯面の位置は、鋳型10の上端が高温になり過ぎないこと、及び湯面が比較的大きく変動しても溶融金属が飛散しないこと等の安全上の理由から、多くの場合、鋳型10の上端から80(mm)〜120(mm)の位置になっている。このことを考慮すると、鋳型10の上端を基準とすると、充満領域が存在することが想定され得る領域は、鋳型10の上端からの深さが約80(mm)である位置から、鋳型10の上端からの深さが320(mm)である位置までの領域であると考えられる。従って、熱抵抗部120も、当該領域に対応して、鋳型10の上端からの深さが約80(mm)である位置から、鋳型10の上端からの深さが約320(mm)である位置までの領域に、少なくとも設けられ得る。
熱抵抗部120の具体的な構成は限定されない。例えば、熱抵抗部120は、複数のスリットを有するスリット部材によって構成され得る。当該スリット部材は、例えば耐熱鋳型130と同じ材質であるタングステン等によって形成され得る。銅やタングステン自体は、熱抵抗値が比較的小さい物質であるが、これらの金属をスリット状に加工することにより、熱抵抗部120として機能し得る、比較的大きい熱抵抗値を有するスリット部材を実現することができる。スリット部材自体の幅や、スリット幅及びスリット間隔を適宜調整することにより、熱抵抗部120の熱抵抗値を、所望の値に適宜制御することができる。このような構成例については、図5を参照して後述する。
また、熱抵抗部120の別の構成例として、熱抵抗部は、所定の幅の空間に各種のフィラーが充填されることにより構成されてもよい。当該フィラーとしては、BN、SiC、Si3N4、Al2O3等の紛体を用いることができる。これらの物質は、1.0〜50(W/(m・℃))程度の熱抵抗値を有することが知られている。冷却部110と耐熱鋳型130との間に空間を設け、当該空間を、上記例示したフィラーの少なくともいずれかで充填することにより、熱抵抗部120が構成され得る。当該空間の幅や、充填するフィラーの種類、充填率(密度)を適宜調整することにより、熱抵抗部120の熱抵抗値を所望の値に適宜制御することができる。
なお、熱抵抗部120に求められる熱抵抗値は、鋳片3の温度や、モールドパウダーの種類等、操業条件によって変化し得る。従って、熱抵抗部120は、その熱抵抗値がより容易に変更可能に構成されることが望ましい。例えば、熱抵抗部120をスリット部材によって構成した場合には、その熱抵抗値を変更する場合には、スリット部材自体を、異なる熱抵抗値を有するように加工された別のスリット部材に交換する必要があり、作業に手間が掛かる可能性がある。一方、熱抵抗部120をフィラーによって構成した場合には、用いるフィラーの種類や量を変更するだけでその熱抵抗値を変更することができるため、作業としては比較的容易である。このように、熱抵抗値の変更をより容易に行うという観点からは、熱抵抗部120は、フィラーによって構成されることが好ましい。
ここで、図5を参照して、熱抵抗部120の設計方法について説明する。図5は、本実施形態に係る鋳型10の充満領域における、鋳型10と鋳片3との間の熱の伝達の様子について示す図である。図5では、図3と同様に、鋳型10の充満領域において熱の伝達に関係する構成を模擬的に図示している。
図示するように、鋳型10の充満領域においては、冷却水経路内の冷却水112、冷却鋳型111、スリット部材121、耐熱鋳型130、モールドパウダー液体層21及び凝固シェル3aが、この順に存在し得る。ここで、スリット部材121は、上述した熱抵抗部120の一例であり、例えばタングステンをスリット状に形成したものである。また、ここでは、一例として、耐熱鋳型130はタングステンによって構成されており、その幅は10(mm)であるとした。
上述したように、本実施形態に係る鋳型10は、従来はモールドパウダー固体層22によって行われていた鋳型10の内壁と鋳片3との間の断熱を、モールドパウダー固体層22に代えて熱抵抗部120によって行うものである。従って、耐熱鋳型130の内壁の表面温度が、従来の鋳型90において緩冷却が実現されていると仮定した際のモールドパウダー固体層22とモールドパウダー液体層21との境界における温度と略同一になるように、熱抵抗部120の幅及び材質が調整されればよい。これは、すなわち、耐熱鋳型130の内壁表面(すなわち鋳型10の内壁表面)の温度がモールドパウダーの融点に対応する温度になるように、熱抵抗部120の幅及び材質が調整されることを意味している。
具体的には、熱抵抗部120の幅及び材質は、鋳型10を模した計算モデルに対するシミュレーションを行うことにより、耐熱鋳型130の内壁の表面温度が所望の温度になるように、適宜設計されてよい。あるいは、実際に鋳型10の試作品を製作し、当該試作品を用いて連続鋳造機の実機で実際に連続鋳造を行いながら、操業条件に応じて熱抵抗部120の幅及び材質が微調整されてもよい。この場合には、例えば耐熱鋳型130の内壁の表面に熱電対等の温度計を設置することにより、当該温度計の測定値に基づいて、耐熱鋳型130の内壁の表面温度が所望の温度になるように、熱抵抗部120の幅及び材質が適宜調整されてもよい。
熱抵抗部120がこのように調整され、緩冷却が実現されている場合における、各構成間の境界における温度を計算した一例を以下に示す。また、このときの、各構成の幅及び熱抵抗値を、下記表2に示す。なお、以下の計算では、冷却鋳型111が、従来の鋳型90の鋳型側壁911と同様の構成を有するとした。すなわち、冷却鋳型111の幅及び熱抵抗値は、上記表1に示す鋳型側壁911におけるこれらの値と同様である。また、冷却水の温度、及びモールドパウダー液体層21の熱抵抗値は、実際に操業に用いている物の値を使用した。更に、モールドパウダー液体層21の幅は、各種の文献等に基づく予測値を用いた。
冷却水112−冷却鋳型111:30℃
冷却鋳型111−スリット部材121(熱抵抗部120):76℃
スリット部材121(熱抵抗部120)−耐熱鋳型130:1011℃
耐熱鋳型130−モールドパウダー液体層21:1098℃
モールドパウダー液体層21−凝固シェル3a:1229℃
以上の計算結果を参照すると、スリット部材121(すなわち熱抵抗部120)の幅及び熱抵抗値を適宜調整することにより、1000℃程度の大きな温度差が、冷却鋳型111と耐熱鋳型130との間に実現されていることが分かる。また、これにより、凝固シェル3aの表面温度が、緩冷却が実現されていると考えられる温度(1229℃)に維持されることが分かる。このように、本実施形態に係る鋳型10では、熱抵抗部120を適宜調整することにより、鋳片3の緩冷却が実現され得る。
なお、上記の例では、一例として、耐熱鋳型130がタングステンによって構成されており、その幅が10(mm)であるとしたが、耐熱鋳型130の材質及び幅が変更された場合には、それに応じて熱抵抗部120の幅及び熱抵抗値が適宜調整され得る。また、上記の例では、熱抵抗部120がスリット部材121によって構成される場合において、当該スリット部材121に求められる幅及び熱抵抗値を求めたが、熱抵抗部120が他の部材によって構成される場合には、当該部材の幅及び熱抵抗値が適宜調整され得る。例えば、熱抵抗部120がフィラーによって構成される場合であれば、耐熱鋳型130の内壁表面の温度が所望の値に保たれるように、当該フィラーが充填される空間の幅や、フィラーの種類、フィラーの充填率等が適宜調整され得る。
以上、本実施形態に係る鋳型10の概略構成について説明するとともに、本発明の概要について説明した。以上説明したように、本実施形態によれば、鋳型10の側壁内に熱抵抗部120が設けられることにより、耐熱鋳型130の内壁表面(すなわち、鋳型10の内壁表面)の温度が、モールドパウダーの融点に対応する温度(例えば1000℃〜1200℃)に保たれる。従って、熱抵抗部120が、従来の鋳型90においてモールドパウダー固体層22が担っていた断熱材としての機能を代替的に果たすこととなり、鋳片3を緩冷却することができる。
ここで、従来の鋳型90では、随時更新し得るモールドパウダー固体層22によって断熱が行われていたため、鋳片3の緩冷却が適切に行われない恐れがあった。一方、本実施形態によれば、鋳型10の側壁内部に常時設けられる熱抵抗部120によって鋳片3の緩冷却が実現されるため、より安定的に緩冷却を行うことが可能になる。従って、本実施形態によれば、縦割れやブレークアウトの発生をより抑制することができる。
また、本実施形態によれば、上述したように、耐熱鋳型130の内壁表面の温度が、モールドパウダーの融点に対応する比較的高い温度に保たれるため、鋳型10の内壁と鋳片3とが接触したとしても、焼き付きがほぼ発生しない。このように、鋳型10を用いることにより、焼き付きを抑制する効果も得られる。ここで、一般的に、鋼の連続鋳造においては、鋳型の内壁と鋳片との焼き付きを防止するために、鋳型を周期的且つ連続的に鋳造方向に振動させる制御(オシレーション)が行われている。本実施形態に係る鋳型10を用いることにより、上記のように、鋳型10の内壁と鋳片3とが接触したとしても焼き付きがほぼ発生しなくなるため、オシレーションレスでの連続鋳造が可能となる。
(3.鋳型の具体的な構成例)
図6及び図7を参照して、本実施形態に係る鋳型10の具体的な一構成例について説明する。図6は、本実施形態に係る鋳型10の一構成例を示す図である。図6は、鋳型10の水平面内における断面図であって、充満領域を通る平面での断面図を図示している。また、図7は、本実施形態に係る鋳型10の、図6に示すA−A断面における縦断面図である。
図6及び図7を参照すると、本実施形態に係る鋳型10は、最も外側に設けられ鋳型10を冷却する冷却部110と、最も内側に設けられ鋳片3又はモールドパウダーと接する耐熱鋳型130と、耐熱鋳型と冷却部との間に設けられ両者の間の伝熱を抑制する熱抵抗部120と、を有する。
耐熱鋳型130は、図4及び図5に示す耐熱鋳型130に対応する。図4及び図5では、一の側壁の断面図を図示していたが、図6に示すように、耐熱鋳型130は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒形状を有する。耐熱鋳型130は、鋳片3及びモールドパウダーよりも高い融点を有する材質によって形成される板状部材が組み合わされて構成される。耐熱鋳型130は、例えば、タングステン若しくはモリブデン等の耐熱鋼、又はSiC等の耐火物によって形成される。
なお、耐熱鋳型130は、一般的にスラブの鋳造時に用いられる鋳型と同様に、その短辺が、互いに対向している方向(図6に示すX軸方向)に移動可能に構成されてもよい。これにより、耐熱鋳型130においては、その水平面内の縦横の長さ(すなわち鋳片3の厚さ及び幅に対応する長さ)の比を可変にすることができる。
冷却部110は、冷却鋳型111と、冷却鋳型111の内部に形成され冷却水112が流動する冷却水経路と、から構成される。冷却部110は、図4及び図5に示す冷却部110に対応する。冷却鋳型111は、例えば銅等の比較的熱抵抗値の小さい材質によって形成される。冷却水経路には、図示しないポンプ等によって冷却水112が循環している。冷却鋳型111内部の冷却水経路を流動する冷却水112によって、鋳型10が冷却される。
図4及び図5では、一の側壁の断面図を図示していたが、図6に示すように、冷却鋳型111は、板状部材が耐熱鋳型130の外周を取り囲むように配置されることにより構成される、略四角筒形状を有する。冷却鋳型111を構成する各板状部材は、耐熱鋳型130に対してボルト140によって接続される。なお、冷却鋳型111と耐熱鋳型130とをボルトによって接続する際には、両者の材質の違いによる熱膨張差(例えば、冷却鋳型111を構成する銅と、耐熱鋳型130を構成するタングステンとの熱膨張差)を考慮して、両者の間に所定の遊びが設けられることが好ましい。
鋳型10の側壁の、冷却鋳型111と耐熱鋳型130との間には、熱抵抗部120が設けられる。熱抵抗部120は、所定の幅の空間に、熱抵抗値が耐熱鋳型130よりも小さい材質からなる部材が埋め込まれることにより構成され得る。例えば、熱抵抗部120は、図5に示すスリット部材121によって構成されてもよい。この場合、当該スリット部材121の材質、当該スリット部材121自体のY軸方向の幅、当該スリット部材におけるスリット幅及びスリット間隔等が適宜調整されることにより、スリット部材121全体としての熱抵抗値(すなわち熱抵抗部120としての熱抵抗値)が調整され得る。
また、例えば、熱抵抗部120は、上記(2−2.本発明の概要)で説明したように、空間に各種のフィラーが充填されることにより構成されてもよい。この場合、空間の幅、当該フィラーの材質、当該フィラーの充填率等が適宜調整されることにより、熱抵抗部120としての熱抵抗値が調整され得る。
例えば、熱抵抗部120の熱抵抗値は、耐熱鋳型130の内壁表面の温度が、モールドパウダーの融点に対応する温度である1000℃〜1200℃程度になるように、適宜調整される。これにより、上記(2−2.本発明の概要)で説明したように、熱抵抗部120が、従来の鋳型90において鋳片3の緩冷却が実現されている際のモールドパウダー固体層22の役割を代替的に果たすこととなり、鋳片3の緩冷却をより安定的に行うことが可能になる。
また、図7に示すように、熱抵抗部120は、その深さ方向において、一部領域にのみ設けられ得る。例えば、熱抵抗部120は、充満領域に対応する、湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)までの領域(すなわち、鋳型10の上端からの深さが約80(mm)である位置から、鋳型10の上端からの深さが約320(mm)である位置までの領域)に設けられる。上記(2−1.従来の鋳型について)で説明したように、当該充満領域よりも下側の領域である非充満領域は、比較的大きな空隙24が存在するために、従来、モールドパウダー固体層22が存在しなくても、鋳片3の緩冷却が実現され得る領域であると考えられるからである。ただし、本実施形態はかかる例に限定されず、熱抵抗部120は、側壁の上端から、下端に対応する深さまで(すなわち、深さ方向において鋳片3が存在し得る領域に対して)設けられてもよい。
以上、図6及び図7を参照して、本実施形態に係る鋳型10の具体的な一構成例について説明した。
(4.変形例)
本実施形態に係る鋳型の構成は、上記(3.鋳型の具体的な構成例)で説明した構成に限定されない。本実施形態に係る鋳型は、他の構成を有してもよい。ここでは、本実施形態の一変形例として、本実施形態に係る鋳型の他の構成例について説明する。
図8−図10を参照して、本実施形態に係る鋳型の他の構成例について説明する。図8は、本変形例に係る鋳型を構成する補助鋳型の一構成例を示す斜視図である。図9は、図8に示す補助鋳型の上面図である。図10は、図8及び図9に示す補助鋳型が冷却鋳型に嵌め込まれ、本変形例に係る鋳型が構成された様子を示す断面図である。なお、図10は、本変形例に係る鋳型の、垂直面内における断面図であって、当該鋳型の長辺の略中央付近を通る平面での断面図を示している。
図示するように、本変形例に係る鋳型40は、補助鋳型30が、冷却鋳型410に嵌め込まれることにより構成される。補助鋳型30は、上述した耐熱鋳型130と同様の材質(例えばタングステン)によって形成される、四角筒形状を有する部材である。補助鋳型30の上側の開口部には、外側に向かって水平面内に延伸する耳部310が形成される。図10に示すように、当該耳部310が、冷却鋳型410の開口部の肩部に載置されるように、補助鋳型30が冷却鋳型410に嵌め込まれる。
補助鋳型30の側壁は、上下方向に所定の深さだけくり抜かれており、当該側壁内に空間が形成されている。当該空間に、熱抵抗値が補助鋳型30よりも大きい材質からなる部材が埋め込まれることにより、熱抵抗部320が構成される。このように、補助鋳型30の側壁は、内壁、外壁、及び当該内壁と当該外壁との間に存在する熱抵抗部320の、3層構造を有している。補助鋳型30の内壁は、鋳片3又はモールドパウダーと直接接する部位であり、上述した実施形態における耐熱鋳型130と同様の役割を果たす。また、補助鋳型30の外壁は、冷却鋳型410の内壁と接する部位であり、上述した実施形態における冷却部110の一部を構成し得る。
また、熱抵抗部320は、上述した実施形態における熱抵抗部120と同様の構成及び機能を有する。例えば、熱抵抗部320は、上述した実施形態と同様に、各種の材質によって形成されたスリット部材や、各種のフィラー等が空間に埋め込まれることにより構成され得る。また、熱抵抗部320の幅や、熱抵抗部320を構成する部材は、補助鋳型30の内壁表面の温度が、鋳片3の緩冷却を実現し得る所定の温度(例えばモールドパウダーの融点に対応する約1000℃〜1200℃)となるように、適宜調整される。
図示する例では、補助鋳型30の下端に対応する深さまで、すなわち、深さ方向において鋳片3が存在し得る領域に対して、熱抵抗部320が設けられている。ただし、熱抵抗部320が設けられる深さはかかる例に限定されず、熱抵抗部320は、熱抵抗部120と同様に、充満領域に対応する、少なくとも湯面からの深さが100(mm)〜200(mm)までの領域(すなわち、鋳型10の上端からの深さが約80(mm)である位置から、鋳型10の上端からの深さが約320(mm)である位置までの領域)に対して好適に設けられ得る。
冷却鋳型410は、例えば銅等の比較的熱抵抗値の小さい金属の板が組み合わされて構成され、補助鋳型30の外周を覆うサイズの四角筒形状を有する。図10では図示を省略しているが、冷却鋳型410には、図6及び図7に示す冷却鋳型111と同様に、冷却水が流動する冷却水経路が適宜設けられており、当該冷却水経路に冷却水が循環することにより、鋳型40が冷却される。
補助鋳型30が、冷却鋳型410に嵌め込まれ、鋳型40が構成される際には、図10に示すように、熱抵抗部320の上部を塞ぐ蓋420が設けられ得る。蓋420は、例えば補助鋳型30と同様の材質によって形成される。例えば熱抵抗部320がフィラーによって構成される場合には、当該蓋420によって、充填されたフィラーが外部に漏れ出ることが防止され得る。なお、図10では、鋳型40の構成を理解しやすくするために、補助鋳型30の外壁と冷却鋳型410の内壁との間に空間が存在するように図示しているが、実際には、補助鋳型30の外壁と冷却鋳型410の内壁とは密着していてよい。
以上、図8−図10を参照して、本実施形態の一変形例として、本実施形態に係る鋳型の他の構成例について説明した。以上説明したように、本変形例に係る鋳型40は、側壁内に熱抵抗部320が形成された補助鋳型30が、冷却鋳型410に嵌め込まれることにより構成される。当該構成においても、上述した実施形態に係る鋳型10と同様に、側壁内に熱抵抗部320が形成された構造が実現されるため、鋳片3の緩冷却をより安定的に行うことが可能になる。
なお、本変形例では、冷却鋳型410として、従来用いられている鋳型をそのまま用いることができる。つまり、本変形例に係る鋳型40は、既存の鋳型に対して補助鋳型30を組み合わされることによって実現されてもよい。この場合、既存の鋳型を流用することにより、設備の改修費用を抑えることができるため、より低いコストで鋳型40を製作することができる。
ここで、図8−図10に示すように、補助鋳型30は、その構造として、水平面内の縦横の長さ(すなわち鋳片3の厚さ及び幅に対応する長さ)の比を可変に構成することは困難である。従って、本変形例に係る鋳型40は、例えば一般的にチューブラ鋳型と呼ばれるような、水平面内の縦横の長さの比が固定されている鋳型に対して好適に適用され得る。一方、図6及び図7に示す鋳型10は、一般的にスラブの鋳造時に用いられている鋳型と同様に、耐熱鋳型130の短辺をその互いに対向している方向(図6に示すX軸方向)に移動させることにより、水平面内の縦横の長さの比を可変に構成することができる。従って、上述した実施形態に係る鋳型10は、例えばスラブの鋳造時に好適に適用され得る。
本発明の効果を確認するために、以上説明した本実施形態に係る鋳型10を、鉄鋼プラントにおける実際の生産品用の連続鋳造機に対して適用した実施例について説明する。実施例として、2ストランドの連続鋳造機の一方の鋳型に対して、図6及び図7に示す鋳型10を適用し、他方の鋳型に対して、図2及び図3に概略を示す従来の鋳型90を適用し、連続鋳造を行った。
ここで、2ストランドの連続鋳造機とは、一のタンディッシュから2つの鋳型に対して溶鋼を供給する連続鋳造機である。2ストランドの連続鋳造機における、一方の鋳型を本実施形態に係る鋳型10が適用された実施例とし、他方の鋳型を従来の鋳型90が適用された比較例とすることにより、同一の成分を有する溶鋼に対して連続鋳造を行った場合における本発明の効果を確認することができる。
連続鋳造における鋳造速度は、実施例、比較例ともに、1.0(m/min)〜1.2(m/min)とした。また、鋳型は、実施例、比較例ともに、幅が1000(mm)〜1500(mm)、厚みが250(mm)のものを用いた。
比較例における鋳型90と鋳片3との間の構成は、図3に示す構成であると考えられる。また、このときの各構成の幅及び熱抵抗値は、上記表1に示すものであることが想定される。
一方、実施例における鋳型10と鋳片3との間の構成は、図5に示す構成であると考えられる。ただし、実施例では、熱抵抗部120として、図5に示すスリット部材121に代えて、Al2O3の粒子(フィラー)が充填された構成を用いた。また、熱抵抗部120の形成深さは、湯面から150(mm)とした。
当該Al2O3フィラーによる熱抵抗部120の幅及び熱抵抗値は、耐熱鋳型130の内壁表面の温度が図5に示す温度となるように、すなわち、Al2O3フィラーによる熱抵抗部120がスリット部材121と同様の熱伝導の性質を有するように、適宜調整されている。具体的には、Al2O3フィラーによる熱抵抗部120の幅及び熱抵抗値が、それぞれ、10.5(mm)及び17.3(W/(m・K))となるように、Al2O3フィラーの充填率等を適宜調整した。まとめると、実施例における各構成の幅及び熱抵抗値は、下記表3に示す通りである。
上記の条件で、100チャージの連続鋳造を行った。その結果、従来の鋳型90を用いた比較例では、約5%の割合で縦割れが発生した。一方、本実施形態に係る鋳型10を用いた実施例では、縦割れの発生率は、約0.98%であった。このように、本実施形態に係る鋳型10を用いることにより、縦割れの発生を低減できることが確認できた。これは、従来はモールドパウダー固体層22によって鋳片3の緩冷却が実現されているのに対して、鋳型10では、鋳型10の側壁内に設けられる熱抵抗部120によって鋳片3の緩冷却が実現されるため、より安定的に緩冷却が行われるからであると考えられる。
以上、本実施形態に係る鋳型10を、鉄鋼プラントにおける実際の生産品用の連続鋳造機に対して適用した実施例について説明した。以上説明したように、本実施形態に係る鋳型10を用いることにより、従来の鋳型90を用いた場合に比べて、縦割れの発生が低減することが確認できた。従って、本発明によれば、連続鋳造における不良品の発生を抑制し、製品歩留まりを向上させることができる。
(5.補足)
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。