以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図面において、矢印Fは、車両の前方向を示している。矢印Bは、車両の後方向を示している。矢印Uは、車両の上方向を示している。矢印Dは、車両の下方向を示している。矢印Rは、車両の右方向を示している。矢印Lは、車両の左方向を示している。直立し無転舵状態の車両の上下方向は、鉛直方向と一致する。
図1は、本発明の一実施形態に係る自動二輪車1の側面図である。図1に示すように、自動二輪車1は、バーハンドル8と、車体フレーム2と、車体フレーム2に懸架されるエンジン3と、車体フレーム2の前部に取り付けられる前輪4と、車体フレーム2の後部に取り付けられる後輪5とを備えている。エンジン3により後輪5が駆動される。バーハンドル8は、車体フレーム2に対して回転可能に取り付けられる。バーハンドル8の回転は、操舵輪である前輪4へ伝達される。ライダーはバーハンドル8を操作することで、自動二輪車1を操舵する。自動二輪車1は、車体フレーム2を車両の左右方向に傾けて旋回可能な車両である。バーハンドル8の可動範囲は、180度(二分の一回転)以下である。この可動範囲は、バーハンドル8を左に最大限操作したときの舵角と、右に最大限操作したときの舵角との差(lock to lock)とする。
自動二輪車1では、車体フレーム2の前部にヘッドパイプ10が一体的に形成される。ヘッドパイプ10にはステアリングシャフト9が貫通している。ステアリングシャフト9は、車体フレーム2の一部であるヘッドパイプ10に回転可能に支持される。ステアリングシャフト9の上部にトップブリッジ50が接続される。ステアリングシャフト9の下部にボトムブリッジ14が接続される。トップブリッジ50及びボトムブリッジ14は、ステアリングシャフト9に固定され、ステアリングシャフト9とともに回転する。
トップブリッジ50には、伝達部材20が接続される。伝達部材20に、バーハンドル8が接続される。すなわち、バーハンドル8とステアリングシャフト9は、伝達部材20を介して接続される。ステアリングシャフト9は、バーハンドル8の回転に応じて回転する。
ステアリングシャフト9の左右には、それぞれ左緩衝器6及び右緩衝器7が配置される。左緩衝器6及び右緩衝器7は、トップブリッジ50及びボトムブリッジ14に固定される。左緩衝器6及び右緩衝器7は、下端部で、前輪4を回転自在に支持する。左緩衝器6及び右緩衝器7は、フロントフォークを形成する。左緩衝器6および右緩衝器7は、前輪4を車体フレーム2に対して上下方向に変位可能に支持する。
図1に示す自動二輪車1において、伝達部材20、トップブリッジ50、ボトムブリッジ14、左緩衝器6、右緩衝器7、及びステアリングシャフト9は、バーハンドル8の回転を前輪4に伝達する操舵系29(操舵力伝達機構)の一例である。操舵系29は、バーハンドル8と車輪の間に設けられ、バーハンドル8の回転に応じて回転することで、車輪にバーハンドル8の回転を伝達する。操舵系29は、車体フレーム2(図1の例では、ヘッドパイプ10)に対して回転可能に支持される。
自動二輪車1は、バーハンドル8による操舵をアシストする操舵補助装置を備える。自動二輪車1には、操舵補助装置の一部として、操舵系29の回転をアシストする補助力を出力するモータ70が設けられる。モータ70の回転は、減速機80を介してステアリングシャフト9に伝達される。モータ70は、取付部85aによって、ヘッドパイプ10に取り付けられる。操舵補助装置の詳細については、後述する。
図2は、図1に示した自動二輪車1の一部の正面図である。図2に示すように、正面から見て、左緩衝器6及び右緩衝器7の間に、ヘッドパイプ10が配置される。左緩衝器6及び右緩衝器7、ヘッドパイプ10及びステアリングシャフト9は、平行に配置される。
ヘッドパイプ10は上下方向に延びる筒状の部材である。ステアリングシャフト9は、ヘッドパイプ10の内部に回転可能に支持されている。ステアリングシャフト9は、上下方向に延びる操舵軸線A回りに回転可能である。ステアリングシャフト9の上部は、トップブリッジ50に固定されている。
トップブリッジ50には、ステアリングシャフト9の上部と、左緩衝器6の上部と、右緩衝器7の上部とが接続される。ステアリングシャフト9、左緩衝器6、及び右緩衝器7は、いずれも、トップブリッジ50に対して回転不能に取り付けられる。トップブリッジ50は、ステアリングシャフト9、左緩衝器6、及び右緩衝器7を連結する。トップブリッジ50は、ヘッドパイプ10の上端よりも上方に設けられている。また、トップブリッジ50は、バーハンドル8より下方に設けられている。
トップブリッジ50よりも下方において、左緩衝器6と右緩衝器7を連結するボトムブリッジ14が設けられる。左緩衝器6及び右緩衝器7をボトムブリッジ14に対して回転不能に固定される。このボトムブリッジ14は、ヘッドパイプ10よりも下方に設けられている。ボトムブリッジ14の下方において、前輪4が、左緩衝器6及び右緩衝器7によって左右から支持される。これにより、ステアリングシャフト9、左緩衝器6、右緩衝器7、及び前輪4は、操舵軸線A回りに一体的に回転可能である。
図3は、トップブリッジ50の上面図である。図3に示すように、トップブリッジ50の左部に、左緩衝器6の上部が嵌め込まれる左支持孔51が設けられている。トップブリッジ50の右部に、右緩衝器7の上部が嵌め込まれる右支持孔52が設けられている。
トップブリッジ50の左右方向の中央部であってトップブリッジ50の後部には、後支持孔53が設けられている。後支持孔53には、ステアリングシャフト9の上部が嵌め込まれる。トップブリッジ50の左右方向の中央部であって後支持孔53の前方には、前支持孔54が設けられている。前支持孔54の内周面にはスプライン溝が形成されている。前支持孔54には、伝達部材20の一部である軸部材12(後述)が嵌め込まれる。
バーハンドル8が回転すると、トップブリッジ50が操舵軸線A(図2参照)回りに回転する。トップブリッジ50が回転すると、トップブリッジ50の左部に固定された左緩衝器6とトップブリッジ50の右部に固定された右緩衝器7も操舵軸線A回りに移動する。これにより、左緩衝器6および右緩衝器7に支持された前輪4が転舵される。このようにしてライダーがバーハンドル8を操作すると、このバーハンドル8の操作に応じて前輪4が転舵される。
(伝達部材20)
次に、図4を用いて、バーハンドル8に入力された操舵力が伝達部材20を介してトップブリッジ50に伝達される様子を説明する。図4は、図2のVI−VI断面図である。
図4に示す例では、伝達部材20は、バーハンドル8に固定されたハンドルホルダ21(第一部の一例)と、トップブリッジ50に固定された軸部材12(第二部の一例)と、トルク伝達部13とを備えている。
軸部材12は、ステアリングシャフト9よりも前方でトップブリッジ50に固定されている。軸部材12は、その軸線がステアリングシャフト9と同じ方向に延びる筒状の部材である。軸部材12の下部は、トップブリッジ50の前支持孔54にスプライン嵌合されている。軸部材12はトップブリッジ50に対して相対回転不可能に固定されている。
軸部材12は、バーハンドル8に操舵力が入力されたときに、操舵力に応じてハンドルホルダ21に対して相対変位する。本実施形態では、バーハンドル8に操舵力が入力されたときに、操舵力に応じてハンドルホルダ21が軸部材12に対してトルク伝達部13の中心軸線B回りに相対回転する。
(ハンドルホルダ21)
ハンドルホルダ21は、トップブリッジ50より上方に設けられている。ハンドルホルダ21はバーハンドル8を保持している。ハンドルホルダ21は、ロア部材30とアッパー部材40を備えている。アッパー部材40はロア部材30の上部に固定されている。ロア部材30のロアハンドル受け部31と、アッパー部材40のアッパーハンドル受け部41が、バーハンドル8を挟み込み、バーハンドル8を固定している。
ハンドルホルダ21は、軸部材12が挿通される貫通孔32を有する。貫通孔32の上部には、上軸受17が設けられる。上軸受17の内輪は、軸部材12に固定され、上軸受17の外輪は、ハンドルホルダ21に固定される。これにより、軸部材12は、ハンドルホルダ21の貫通孔32に、回転可能に配置される。
ハンドルホルダ21の下部には、下軸受16が設けられる。下軸受16の外輪は、ハンドルホルダ21に固定される。下軸受16の内輪は、トップブリッジ50に固定される。これにより、ハンドルホルダ21は、トップブリッジ50に回転可能に支持される。
図5はハンドルホルダ21のロア部材30を示す図である。図5(a)はロア部材30の上面図、図5(b)は図5(a)のb−b断面図である。図5(a)に示すように、ロア部材30には、軸部材12が挿通される貫通孔32が設けられている。この貫通孔32に上軸受17が設けられている。この上軸受17の内輪17aは、前述したように軸部材12が回転不可能に固定される。この貫通孔32の左右それぞれに、ロアハンドル受け部31が形成される。
ロア部材30の上面に、一対の第一ねじ穴33が設けられている。一対の第一ねじ穴33は、ロアハンドル受け部31の前後に配置されている。アッパー部材40を、アッパーハンドル受け部41がロアハンドル受け部31に対向するように、ロア部材30に対して位置合わせし、第一ねじ穴33にねじをねじ込むことにより、アッパー部材40がロア部材30に固定される。
図5(b)に示すように、ロア部材30の下面に、第二ねじ穴34が設けられている。第二ねじ穴34は、貫通孔32の左右に設けられる。ロア部材30の左部の第二ねじ穴34に、左補助伝達部材19が、ねじ込まれている。ロア部材30の右部の第二ねじ穴34に、右補助伝達部材18が、ねじ込まれている。一対の第二ねじ穴34はそれぞれ、トップブリッジ50に設けられた左中間孔55および右中間孔56(図3参照)と対応する位置に設けられている。そのため、左補助伝達部材19及び右補助伝達部材18は、トップブリッジ50の左中間孔55及び右中間孔56を、それぞれ貫通する。
(トルク伝達部13)
図6は、図4の一部の拡大図である。図6に示すように、軸部材12とハンドルホルダ21との間にトルク伝達部13が設けられている。トルク伝達部13は金属製の円筒部材である。円筒状のトルク伝達部13の内径は軸部材12の外径とほぼ等しい。トルク伝達部13の内周面は、軸部材12の外周面を囲んでいる。トルク伝達部13は、軸部材12の外側かつハンドルホルダ21の内側に配置される。トルク伝達部13は、一部においてハンドルホルダ21に固定され、他の一部において軸部材12に固定される。
具体的には、トルク伝達部13の下部の内周面にはスプライン溝が設けられている。トルク伝達部13の下部は、ロア部材30に固定されず、軸部材12の外周面にスプライン嵌合されている。トルク伝達部13の上部の外周面にはスプライン溝が設けられている。トルク伝達部13の上部は、軸部材12に固定されず、ロア部材30にスプライン嵌合されている。
バーハンドル8から操舵力が作用してハンドルホルダ21が軸部材12に対して回転すると、トルク伝達部13が捻れてロア部材30から軸部材12へ操舵力を伝達する。つまり、バーハンドル8に入力された操舵力は、トルク伝達部13を介してトップブリッジ50に伝達される。
(補助伝達部材18、19)
なお、本実施形態においては、操舵力は、トルク伝達部13の他に、右補助伝達部材18および左補助伝達部材19を介して、バーハンドル8からトップブリッジ50に伝達される。
図3に示すように、トップブリッジ50には、左支持孔51と後支持孔53の間であって後支持孔53よりも前方に、左中間孔55が設けられている。この左中間孔55の内周面にゴムリング57が嵌め込まれている。また、右支持孔52と後支持孔53の間であって、後支持孔53よりも前方に、右中間孔56が設けられている。この右中間孔56の内周面にゴムリング57が嵌め込まれている。
ロア部材30に固定された左補助伝達部材19はトップブリッジ50の左中間孔55を貫通する。ロア部材30に固定された右補助伝達部材18はトップブリッジ50の右中間孔56を貫通している。
図3に示したように、左補助伝達部材19と左中間孔55の内周面との間にはゴムリング57が設けられている。右補助伝達部材18と右中間孔56の内周面との間にはゴムリング57が設けられている。ライダーがバーハンドル8に操舵力を作用させると、トルク伝達部13が捩じられた後に、ゴムリング57が弾性変形し、ゴムリング57を介して左補助伝達部材19が左中間孔55の内壁に操舵力を作用させる。また、トルク伝達部13が捩じられた後に、ゴムリング57が弾性変形し、ゴムリング57を介して、右補助伝達部材18が右中間孔56の内壁に操舵力を作用させる。
つまり、左補助伝達部材19および右補助伝達部材18が、補助的に、バーハンドル8に入力された操舵力をトップブリッジ50に伝達する。このように、トルク伝達部13のみに操舵力が作用しないので、トルク伝達部13に要求される剛性が大きくならず、トルク伝達部13の大型化が抑制されている。
(トルクセンサ90)
本実施形態において、トルクセンサ90は、磁歪型のトルクセンサである。図6に示すように、トルクセンサ90は、被検出部としてのトルク伝達部13と、検出部としてのピックアップコイル91を備えている。ピックアップコイル91は、トルク伝達部13の外周に設けられている。ピックアップコイル91は、搭載基板92に固定されている。この搭載基板92はハンドルホルダ21のロア部材30にブッシュ93を介して固定されている。
図6において、矢視Tは力の伝達経路を示す。矢視Tで示したように、バーハンドル8に操舵力が入力されると、この力はハンドルホルダ21に作用する。ハンドルホルダ21のロア部材30に入力された力は、トルク伝達部13の上部に設けられたスプライン溝13bを介してトルク伝達部13に伝達される。さらにこの力は、トルク伝達部13の下部に設けられたスプライン溝13aを介して軸部材12に伝達される。軸部材12は、スプライン溝12aおよびスプライン溝が設けられた前支持孔54を介してトップブリッジ50に該操舵力を伝達する。
トルク伝達部13は、上部がロア部材30(筒状部の一例)に固定され、下部が軸部材12に固定されている。このため、バーハンドル8に操舵力が入力されると、トルク伝達部13は捩じられる。そこで、ピックアップコイル91がこの捩じれ量に応じた物理量の変化を検出する。ピックアップコイル91に電気的に接続された電子回路により、この物理量が操舵力を示す値に変換される。
上記の構成では、自動二輪車1は、バーハンドル8に対して回転不能に連結された第一部(一例としてハンドルホルダ21)と、ステアリングシャフト9に対して回転不能に連結された第二部(一例として軸部材12)とを備える。第一部と第二部は、相対変位可能に接続されている。トルクセンサ90は、これら第一部と第二部の相対変位に基づく物理量の変化を検出することにより、バーハンドル8の操舵トルクを検出する。上記例では、トルクセンサ90は、第一部と第二部との間に設けられるトルク伝達部13の歪みを測定することで、操舵トルクを検出する。トルクセンサ90は、トルク検出部の一例である。
(アシスト力付与機構60)
図4に示すように、本実施形態に係る自動二輪車1は、ヘッドパイプ10の前部にアシスト力付与機構60を備えている。ヘッドパイプ10の上下方向において、上から下に向かって、トルクセンサ90、トップブリッジ50、アシスト力付与機構60がこの順に並んでいる。
アシスト力付与機構60は、モータ70と、減速機80を備えている。モータ70により発生したモータトルクは、減速機80を介して、ステアリングシャフト9に作用する。
モータ70は出力軸71を有している。出力軸71が操舵軸線Aと平行となるように、モータ70がヘッドパイプ10に取り付けられている。モータ70の出力軸71は、ステアリングシャフト9の操舵軸線Aより前方に設けられている。
減速機80は、中間軸81上に固定された第一歯車82と第二歯車83を有している。減速機80の中間軸81の軸線と、モータ70の出力軸71の軸線と、操舵軸線Aは互いに平行である。第一歯車82は、モータ70の出力軸71と噛み合っている。減速機80の第二歯車83は、ステアリングシャフト9の外周面に固定された第三歯車84と噛み合っている。
モータ70および減速機80は、ハウジング85の内部に設けられている。ハウジング85は、後部に取付部85aを備えている。このハウジング85の取付部85aは、トップブリッジ50とヘッドパイプ10に挟まれている。
モータ70が駆動されて出力軸71が回転すると、出力軸71から減速機80の第一歯車82にモータトルクが伝達される。第一歯車82が回転されると、これとともに第二歯車83が回転する。第二歯車83の回転は、ステアリングシャフト9の第三歯車84に伝達される。このようにして、モータ70のモータトルクがステアリングシャフト9に伝達される。
アシスト力付与機構60は、モータ70と、モータの回転をステアリングシャフト9に伝達する減速機80を有する。また、アシスト力付与機構60は、モータ70と減速機80を収容するハウジング85を有する。ハウジング85は、自動二輪車1の車体フレーム2の一部であるヘッドパイプ10に取り付けられる。すなわち、モータ70は、車体フレーム2に取り付けられ、操舵系(上記例ではステアリングシャフト9)の回転をアシストする構成である。
(操舵補助装置)
図7は、操舵補助装置100の構成例を示す機能ブロック図である。操舵補助装置100は、バーハンドル8の回転を車輪4に伝達する操舵系29の回転をアシストする。操舵補助装置100は、操舵系29の回転をアシストする補助力を出力するモータ70を備える。モータ70によるアシストは、バーハンドル8の操舵トルクと同じ方向の回転力を操舵系29に付与するプラス方向アシスト、及び、操舵トルクと反対方向の回転力を操舵系29に付与するマイナス方向アシストを含む範囲で制御される。操舵トルクが第1閾値より大きく、かつ、バーハンドルの舵角速度が第2閾値より大きいときに、車両の加速度が上昇すると、アシストの方向が前記プラス方向から前記マイナス方向へ転じる。これにより、車両及びライダーの状態に応じた適切な操舵特性が得られる。
モータ70は、操舵系29の回転をアシストする補助力を出力する。モータ70の出力軸71の回転は、操舵系29の一部であるステアリングシャフト9に伝達される。そのため、モータ70の出力が、操舵のアシストを決定する。モータ70によるアシストは、バーハンドル8の操舵トルクと同じ方向の回転力を操舵系29に付与するプラス方向アシスト、及び、操舵トルクと反対方向の回転力を操舵系29に付与するマイナス方向アシストを含む範囲で制御される。モータ70の出力は、操舵トルクと舵角速度に応じて決定することができる。
(操舵補助装置の構成例)
図8は、操舵補助装置を含む自動二輪車1の構成例を示す機能ブロック図である。図8において、操舵補助装置は、アシスト制御部61と、アシスト力付与機構60で構成される。すなわち、図4に示したアシスト力付与機構60は、操舵補助装置の一部である。
アシスト制御部61は、モータ70を制御する回路及び/又はプロセッサで構成することができる。アシスト制御部61は、例えば、ハウジング85内の基板に設けることができる。或いは、自動二輪車1に搭載された電子制御ユニット(Electronic Control Unit(ECU))をアシスト制御部とすることができる。
操舵補助装置100は、さらに、舵角検出部43、トルクセンサ90及び車速検出部65を含むことができる。舵角検出部43は、舵角センサ44を含む。車速検出部55は、車速センサ66を含む。駆動制御部61は、トルクセンサ90で検出された操舵トルクと、舵角検出部43で検出された舵角速度と、車速検出部65で検出された車両の加速度に基づいてモータ70を制御する。
舵角センサは、バーハンドル8の舵角を検出する。舵角センサは、例えば、操舵系29(例えば、ステアリングシャフト9、伝達部材20又はフロントフォーク等)に取り付けられ、車体フレーム2に対する操舵系29の回転を検出するセンサとすることができる。アシスト制御部は、舵角センサで検出された舵角に関する信号を取り込むことができる。
アシスト制御部61は、モータ70のドライバ72(駆動回路)に対して制御信号を送る。また、アシスト制御部61は、トルクセンサ90で検出された操舵トルクを示す信号及び舵角センサ44で検出された舵角に関する信号を取り込むことができる。
アシスト制御部61は、舵角検出部43、トルクセンサ90、車速センサ66及びモータ70のドライバ72に接続される。アシスト制御部61は、舵角検出部43からバーハンドル8の舵角及び舵角速度の情報を受け付ける。アシスト制御部61は、トルクセンサ90からバーハンドル8の操舵トルクの情報を受け付ける。アシスト制御部61は、車速センサ66から、自動二輪車1の車速の情報を受け付ける。アシスト制御部61は、舵角検出部43で検出された舵角速度、トルクセンサ90で検出された操舵トルク及び車速センサ66で検出された車速から得られる加速度に基づいて、モータ70の出力を制御する指令値を計算する。アシスト制御部61は、計算した指令値を、モータ70のドライバ72に出力する。
アシスト制御部61の構成は、図8に示す例に限られない。例えば、アシスト制御部61は、操舵トルク、舵角速度、車速以外のデータを受け付けることができる。一例として、アシスト制御部61は、ライダー操作で入力された各種指示信号等を受け付けることができる。また、アシスト制御部61は、LED又はディスプレイを含む表示部に接続され、表示部を通じてライダーへ情報を出力する構成であってもよい。
<舵角センサ>
図8に示す例では、舵角センサ44は、操舵系29の回転角及び回転の向きを検出する。舵角センサ44は、検出した回転角及び回転の向きに応じたデータを、バーハンドル8の舵角を示すデータとして、アシスト制御部61へ送る。ここで、バーハンドル8の舵角を示すデータは、例えば、バーハンドル8の回転角を示す値であってもよいし、ステアリングシャフト9又はその他操舵系29の回転角、若しくは、前輪4の切れ角を示す値であってもよい。バーハンドル8の舵角速度は、バーハンドル8の回転の変化の度合いである。舵角速度は、バーハンドル8又は操舵系29のうち一部の回転を検出することにより得ることができる。
舵角検出部43は、舵角センサ44が検出した舵角を舵角速度に変換する変換部45を有する。変換部45は、例えば、舵角を微分して舵角速度を演算する微分回路を含む構成とすることができる。なお、アシスト制御部61が、舵角センサ44から受け取った舵角の値を用いて舵角速度を演算することもできる。この場合、舵角検出部43は、変換部45を備えなくてもよい。
<トルクセンサ>
トルクセンサ90は、磁歪部94、増幅部95、及び変換部96を含む。トルクセンサ90は、上述したように、第一部(ハンドルホルダ21)の回転を第二部(軸部材12)に伝達するトルク伝達部13の捩れを検出することで、操舵トルクを検出する。そのため、トルク伝達部13は、磁歪部94を含む。磁歪部94は磁性体を含む。トルク伝達部13において、磁歪部94は、ピックアップコイル91と、軸部材12の径方向において対向する部分に形成される。変換部96及び増幅部95は、例えば、上記の搭載基板92に搭載される。
バーハンドル8の回転によるトルクで磁歪部94が歪むと、磁歪部94の透磁率が変化する。磁歪部94の透磁率変化により、ピックアップコイル91に誘導電圧が発生する。この誘導電圧は、磁歪部94にかかるトルクに応じた値になる。ピックアップコイル91の電圧は、増幅部95で増幅される。また、増幅部95は、誘導電圧をPWM信号に変換してもよい。変換部96は、増幅部95で増幅された信号を、操舵トルクを示す値に変換する。操舵トルクを示す値は、アシスト制御部61へ送られる。増幅部95で、異常が発生した場合は、増幅部95からアシスト制御部61にエラー信号が送られる。
このように、トルクセンサ90を磁歪側のトルクセンサとすることで、トーションバーを用いたトルクセンサに比べて、操舵力の伝達ロスを少なくすることができる。また、トルクセンサ90の小型化が可能になる。
<アシスト力付与機構>
アシスト力付与機構60は、上記のモータ70及び減速機80に加え、アシスト制御部61の制御信号に基づいてモータ70を駆動するドライバ72を有する。ドライバ72は、例えば、モータ70に交流電流を印加するインバータ等の駆動回路を含む。ドライバ72は、アシスト制御部61から、制御信号として電流指令値を受け取り、電流指令値に応じてPWM信号を生成し、PWM信号によりインバータを駆動する。なお、上記のドライバ72の動作の一部は、アシスト制御部61で実行されてもよい。
図8に示す例では、自動二輪車1は、モータ70の電流を検出する電流センサ73を備える。アシスト制御部61は、電流センサ73で検出されたモータ電流を用いて、例えば、フィードバック制御を実行することができる。
<加速度検出部65>
例えば、車速センサは、前輪又は後輪の回転速度を検出する構成であってもよいし、エンジンの出力スプロケットの回転数を検出する構成であってもよい。又は、車速センサは、エンジンの回転数を検出するエンジン回転センサ及びギヤポジションを検出するギヤポジションセンサで構成されてもよい。
本例では、車速センサ66は、前輪4の回転を検出し、検出した前輪4の回転に基づいて、車速を計算する。アシスト制御部61は、車速センサ66から受け付けた車速に基づいて車両の加速度を計算する。アシスト制御部61は、車速を微分して加速度を計算する微分回路を含んでもよい。この場合、加速度検出部65は、車速センサ66及びアシスト制御部61の一部で構成される。なお、加速度検出部65の構成は、これに限られない。例えば、加速度検出部65は、車両の前後方向の加速度を検出する加速度センサで構成されてもよい。
<アシスト制御部61>
アシスト制御部61は、舵角速度及び操舵トルクに応じたモータ70の制御信号を生成しドライバ72へ送る。そのため、アシスト制御部61は、舵角速度及び操舵トルクを用いてモータ70制御の指令値を計算する指令値算出部(図示せず)を有することができる。アシスト制御部61は、モータ70の回転力と回転方向を示す指令値を計算する。アシスト制御部61は、操舵トルクと同じ方向の回転すなわちプラス方向のアシストを示す指令値を計算する場合と、操舵トルクと反対方向の回転すなわちマイナス方向のアシストを示す指令値を計算する場合がある。指令値を、プラス方向のアシストを示す値とするかマイナス方向のアシストを示す値とするかは、舵角速度、操舵トルク及び車両の加速度の組み合わせに応じて決定される。
これにより、モータ70は、バーハンドル8で入力された操舵トルクと同じ方向の回転力と、操舵トルクと反対方向の回転力とを、舵角速度、操舵トルク及び車両の加速度に応じて切り替えて、操舵系29に付与することができる。すなわち、アシスト制御部61により、プラス方向アシストと、マイナス方向アシストとを、舵角速度、操舵トルク及び車両の加速度に応じて切り替わるように、モータ70の出力が制御される。
このように、モータ70の回転は、操舵トルクと同じ方向の回転と、操舵トルクと反対方向の回転の双方を含むレンジで制御される。これにより、操舵力を増やすパワーステアリングと、操舵系29の回転を減衰させるステアリングダンパの双方の機能をモータ70により実現できる。また、モータ70による制御を採用することで、パワーステアリングとステアリングダンパの切り替えを迅速且つスムーズに実行することが可能になる。
具体的には、アシスト制御部61は、操舵トルクが第1閾値Th1より大きく、かつバーバーハンドル8の操舵速度が第2閾値よTh2より大きいときに、加速度が上昇するとアシストの方向がプラス方向からマイナス方向へ転じるよう、モータ70を制御することができる。すなわち、モータ70は、ある一定の大きさより大きな操舵トルクが入力され、ある一定の速度より速く操舵がなされている状況下において、車両の加速度が上昇した場合、アシストの方向を、操舵トルクと同じプラス方向から操舵トルクと反対のマイナス方向に切り替えるよう制御される。
この場合、車両が加速していない状態で、ライダーがバーハンドル8に対して、第1閾値Th1より大きい操舵トルクを、第2閾値Th2より大きな舵角速度で付与すると、バーハンドル8の操作方向と同じ方向の回転がモータ70によって操舵系29に付与される。そのため、ライダーは、操舵の意図に基づいてある程度の力と速度でバーハンドル8を操作する場合は、軽い動作でバーハンドル8を操作することができる。
車両が加速している時は、前輪4の荷重が軽くなる。そのため、ライダーが握っているバーハンドル8が急に動きやすくなる。例えば、加速前からライダーがバーハンドル8に力を掛けていると、加速後にその力によってバーハンドル8がライダーの意図に反して急に回転する場合があることが発明者らによって見出された。また、加速時には外乱によってバーハンドル8が回転しやすくなる。例えば、加速時に、路面の凹凸による前輪4の上下軸周りの回転(ヨーイング:yawing)がバーハンドル8に伝わり、バーハンドル8が急に回転する場合がある。
そこで、上記のように、操舵トルクが第1閾値Th1より大きく、かつバーハンドル8の操舵速度が第2閾値Th2より大きいときに、加速度が上がるとアシストの方向がプラス方向からマイナス方向へ転じることで、加速時におけるライダーの意図しないバーハンドル8の回転が抑えられる。
これにより、車両が加速していない時に、ライダーの意図するバーハンドル8の操作に対しては、バーハンドル8の回転を促す力が働く。これに対して、車両が加速している時に、ライダーが意図しないバーハンドル8の操作をしてしまった場合は、バーハンドル8の回転に抵抗する力が働く。また、車両加速時において、キックバックにより、ライダーの意図しない力がバーハンドル8に加わった場合も、バーハンドル8の回転に抵抗する力が働く。そのため、ライダーの意図する操舵に対しては操舵を促す方向にアシストするとともに、加速時におけるライダーの意図しない舵角の変化は抑えるようアシストすることが可能になる。すなわち、ライダー及び車両の状況に応じた適切なアシストが可能になる。
上記の第1閾値Th1は、自動二輪車1(鞍乗型車両)が停止している状態でバーハンドルの操作により舵角を変化させるのに必要な操舵トルク(以下、停車時の操舵トルクと称する)の40〜60%(例えば、50%程度)の値とすることができる。停車時の操舵トルクは、据え切り時の操作トルクと言うこともできる。停車時の操舵トルクは、例えば、車両の重量、操舵伝達機構の構造等によって決まる。第1閾値Th1を、停車時の操舵トルクの50%程度とすることで、状況に応じて適切にアシスト方向を切り替えることが可能になる。ここで、第1閾値Th1を停車時の操舵トルクの50%とする態様は、第1閾値Th1が厳密に停車時の操舵トルクの50%に一致する場合に限られず、一致すると見なせる程度の誤差がある場合も含む。すなわち、第1閾値Th1を、停車時の操舵トルクの50%と略同じ程度に設定することで、より適切な操舵特性が得られる。ここで、停車時の操舵トルクは、乾いた舗装路面に鞍乗型車両が停止した状態で舵角を変化させるのに必要な操舵トルクとする。
アシスト制御部61は、操舵トルクが第1閾値Th1より大きく、かつ、バーハンドル8の舵角速度が第2閾値Th2より大きく、かつ、車速が第3閾値Th3より大きいときに、車両の加速度が上昇すると、アシストの方向がプラス方向からマイナス方向へ転じるよう、モータ70を制御することができる。これにより、モータ70は、操舵トルク、舵角速度及び車速が予め決められた値より大きい状態で、車両の加速度が上昇した場合に、アシストの方向を、操舵トルクと同じプラス方向から操舵トルクと反対のマイナス方向に切り替える。そのため、モータ70は、車速が第3閾値Th3より小さい場合は、車両の加速度が上昇しても、プラス方向からマイナス方向へのアシスト方向の切り替えをしないようになる。
これにより、例えば、ライダーが車両を旋回させるために、バーハンドル8を操作しながら低速域で加速した場合には、アシストがマイナスにならないようモータ70を制御することができる。そのため、ライダーの意図する操舵をモータ70が阻害しないようにすることができる。これは、発明者らが、適合評価の結果、低速域でアシストをマイナスにすると、ライダーの操作意図を阻害することが多いという知見を得たことに基づいている。
また、アシスト制御部61は、車速が第4閾値より大きいときは、アシストの方向が、マイナス方向となるよう、モータ70を制御することができる。これにより、モータ70は、車速が第4閾値を超えると、操舵トルクと反対の方向の回転力を操舵系29に付与する。
これにより、車速が第4閾値より大きいときは、マイナスアシストとすることにより、ライダーの意図しない操作をキャンセルすることができる。例えば、ライダーが、体を支えるためにバーハンドルを引っ張った場合等に、バーハンドルの回転が操舵輪に伝わるのをキャンセルすることができる。結果として、高速走行時の直進安定性を高めることができる。
また、アシスト制御部61は、操舵トルクが第1閾値Th1より大きく、かつバーハンドル8の舵角速度が第2閾値Th2より大きいときに、車両の加速度が第5閾値Th5を越えるとアシストの方向がプラス方向からマイナス方向へ転じるよう、モータ70を制御することができる。これにより、モータ70は、操舵トルクが第1閾値Th1より大きく、かつ舵角速度が第2閾値Th2より大きい場合であっても、車両の加速度が第5閾値Th5より小さい場合は、操舵トルクと同じ方向の回転力を操舵系29に付与する。操舵トルクが第1閾値Th1より大きくかつ舵角速度が第2閾値Th2より大きいときであって、車両の加速度が第5閾値Th5を越える場合は、モータ70は、操舵トルクと反対方向の回転力を操舵系29に付与する。
第5閾値Th5は、固定値であってもよいし、車速、操舵トルク、及び舵角速度によって決まる値であってもよい。一例として、第5閾値Th5を、0.35G〜0.65G程度に設定することができる。
鞍乗型車両の旋回後期において、ライダーは、車両を加速させながら旋回することが多い。車両の加速度が小さいうちは、前輪の接地加重が大きく、ライダーは操舵の手応えがある。しかし、車両の加速度が大きい(例えば、0.5Gを越える)場合、前輪の接地加重が減り、ライダーの操舵が軽くなりすぎることがわかった。また、加速度が大きいときは、ライダーは、加速に耐えるためにバーハンドルにしがみつく傾向があることもわかった。そのような場合は、ライダーの意図しない操舵より車両の挙動を乱すことがある。そこで、上記のように、車両の加速度が閾値Th5を越える場合に、マイナスアシストすることで、ライダーの意図しないバーハンドルに対する操作をキャンセルすることができる。
この場合、車両の加速度が閾値Th5より小さい場合は、マイナスアシストとならない。例えば、S字コーナーを走行する際、ライダーは、1つ目の旋回の立ち上がり時に、小さな加速度で車両を起こす。その時、操舵アシストの方向がマイナス方向に転じると切り返しが重くなる。上記のように、車両の加速度が閾値Th5より小さい時は、操舵アシストの方向をマイナス方向に転じないようにすることで、ライダーは、切り返し動作がしやすくなる。
図9は、アシスト制御部61によって制御されるアシスト方向と、舵角速度、操舵トルク及び車両の加速度との関係の一例を示すグラフである。図9に示すグラフでは、互いに直交する3軸をそれぞれ、操舵トルクTs、舵角速度Vr、車両の加速度Avとしている。図9に示す例では、操舵トルクTsが第1閾値Th1より大きく、舵角速度Vrが第2閾値Th2より大きい(Th1<Ts、Th2<Vr)の状況下で、車両の加速度Avが第5閾値Th5を越える(Th5<Av)よう変化した場合、モータ70によるアシストの方向は、プラス方向からマイナス方向に切り替わる。
自動二輪車1のような鞍乗型車両では、加速時と減速時の加速度の差が大きい。車両の加速中は、前輪荷重が軽くなるため、ステアリングが軽くなる。逆に、車両の減速中は、ステアリングが重くなる。図9に示す例では、加速度が上昇して閾値Th5を越えた場合に、閾値(Th1、TH2)以上の操舵トルク及び舵角速度を伴ってバーハンドル8が回転すると、その回転と逆の回転を操舵系29に付与するようモータ70が制御される。これにより、車両の加速中において、ライダーの意図しないバーハンドル8に対する急な操作や、キックバック等の外乱によるバーハンドル8の回転が抑えられる。その結果、車両の直進安定性が向上する。これに対して、ライダーが車両を加速させながら旋回させる場合には、バーハンドル8に対するライダーの操作は緩やかであり、操舵トルク又は、舵角速度が閾値(Th1、Th2)以下となる。そのため、ライダーの意図する操作による操舵トルクと同じ方向の回転がモータ70によって操舵系29に付与される。
図9に示す例では、操舵トルクの閾値Th1及び舵角速度の閾値Th2は、いずれも、0より大きい(Th1>0、Th2>0)。すなわち、操舵トルク及び舵角速度が、0より大きく存在するときに、車両の加速度が上昇すると、操舵アシストの方向は、プラスからマイナスへ転じる。閾値Th1、Th2の値は、特に限定されないが、図9のように、いずれも0より大きい値に設定することができる。
上記の閾値Th1〜Th5は、例えば、予めアシスト制御部61に記録されたデータによって決められる。この場合、アシスト制御部61は、閾値Th1〜Th5を記録するためのメモリなどの記録部を有する。
閾値Th1〜Th5は、固定値でなくてもよい。例えば、閾値Th1〜Th5は、操舵トルク、舵角速度、車速、加速度等の車両状態に応じて決まる値とすることができる。一例として、アシスト制御部61は、車両の状態を示す値と閾値Th1〜Th5との対応を示すデータを参照して、車両の状態に応じた閾値Th1〜Th5を決定することができる。
図9に示す例では、モータ70によるアシストの方向のプラス方向からマイナス方向へ切り替えの判定において、加速度Avを閾値Th5と比較している。加速度Avを用いた判定はこれに限られない。加速度Avから求められる値を、閾値Th5と比較することもできる。例えば、加速度Avの上昇の度合いを示す値(例えば、所定時間における加速度Avの変化量)を閾値Th5と比較して上記判定をしてもよい。これにより、加速度Avの上昇の度合いに応じて、アシストの方向を決定することができる。
<動作例>
図10は、アシスト制御部61の処理の流れの一例を示す図である。図10に示す例では、アシスト制御部61は、トルクセンサ90から受け取った操舵トルクTs及び車速センサ66から受け取った車速Vvを用いて、アシスト指令値Iaを算出する(ステップS1)。アシスト指令値Iaは、例えば、操舵トルクと同じ方向の回転補助力の度合いを示す値とすることができる。すなわち、アシスト指令値Iaは、操舵トルクTs及び車速Vvに応じて決まるプラス方向のアシストの度合いを示す値とすることができる。ここでは、一例として、アシスト指令値Iaは、電流指令値とし、アシスト指令値Iaの範囲は、Ia=0又はIa>0とする。すなわち、操舵トルクと同じ方向にモータ70を回転させるための指令値は正とする。
ステップS1において、アシスト制御部61は、操舵トルク、車速及びアシスト指令値の対応関係を示すデータを参照し、入力された操舵トルクTs及び車速Vvに対応するアシスト指令値Iaを決定する。例えば、アシスト制御部61は、対応関係を示すデータとしてマップデータを用いて、マップ演算により、入力された操舵トルクTs及び車速Vvに対応するアシスト指令値Iaを決定することができる。
図11は、操舵トルク、車速及びアシスト指令値の対応関係の一例を示すグラフである。図11に示す例では、操舵トルクとアシスト指令値との対応関係が、複数の車速又は車速域について用意されている。図11では、一例として、0<=Vv<=Vv1km/hの車速域と、Vv=Vv2km/hの車速について示している。これらの他にも、例えば、Vv1<Vv<Vv2の区間に含まれる複数の車速における操舵トルクとアシスト指令値の対応関係がマップデータに含まれてもよい。
図11に示す例では、プラス方向のモータの回転を指示するアシスト指令値が、操舵トルクの増加に伴って増加するような対応関係が含まれる。この例では、車速Vvが0〜Vv1の時に、操舵トルクが大きくなるにつれてアシスト指令値も大きくなり、操舵トルクが所定値以上となると、アシスト指令値が一定となる。車速VvがVv2の時は、アシスト指令値は操舵トルクに依らず一定(0)となる。なお、操舵トルクとアシスト指令値の対応関係は、図11に示す例に限られない。また、対応関係を示すデータの形式はマップデータに限定されない。例えば、テーブル形式のデータの他、与えられた操舵トルク及び車速の値を用いて、対応するアシスト指令値を計算するための関数等のデータを、対応関係を示すデータとすることができる。
図10に示す例では、ステップS1の処理において、入力データは、操舵トルクTsと車速Vvであるが、入力データは、操舵トルクTsのみであってもよいし、さらに他のデータが含まれてもよい。
アシスト制御部61は、車速センサ66から受け取った車速Vvを微分して、加速度Avを計算する(ステップS2)。アシスト制御部61は、加速度Avに応じた加減速係数Kaを演算する(ステップS3)。ステップS3で、アシスト制御部61は、加速度と加減速係数との対応関係を示すデータを参照し、入力された加速度Avに対応する加減速係数Kaを決定することができる。図12は、加速度と加減速係数との対応関係の一例を示すグラフである。
図12に示す例では、加減速係数が、加速度の増加に伴って小さくなるような対応関係が含まれる。この例では、加速度が、0から所定値の間では、加減速係数が100%であり、加速度が所定値以上では、加速度の増加に伴って加減速係数が小さくなる。なお、加減速係数と加速度の対応関係は、図12に示す例に限られない。また、対応関係を示すデータの形式は特定のものに限定されない。例えば、テーブル形式のデータの他、与えられた加速度の値を用いて、対応する加減速係数を計算するための関数等のデータを、対応関係を示すデータとすることができる。
図10に示すように、アシスト制御部61は、加減速係数Kaをアシスト指令値Iaに掛ける(ステップS4)。ステップS4は、積(Ka×Ia)の計算をする処理である。
アシスト制御部61は、舵角検出部43から受け取った舵角速度Vr及び車速センサ66から受け取った車速Vvを用いて、粘性補償指令値Inを算出する(ステップS5)。粘性補償指令値Inは、例えば、操舵トルクと反対方向の回転補助力の度合いを示す値とすることができる。すなわち、粘性補償指令値Inは、舵角速度Vr及び車速Vvに応じて決まるマイナス方向のアシストの度合いを示す値とすることができる。ここでは、一例として、粘性補償指令値Inは、電流の指令値とし、粘性補償指令値Inの範囲は、In=0又はIn<0とする。すなわち、操舵トルクと反対の方向にモータ70を回転させるための指令値は負とする。
ステップS5において、アシスト制御部61は、舵角速度及び車速と粘性補償指令値との対応関係を示すデータを参照し、入力された舵角速度Vr及び車速Vvに対応する粘性補償指令値Inを決定する。例えば、アシスト制御部61は、対応関係を示すデータとしてマップデータを用いて、マップ演算により、入力された舵角速度Vr及び車速Vvに対応する粘性補償指令値Inを決定することができる。
図13は、舵角速度及び車速と粘性補償指令値の対応関係の一例を示すグラフである。図13に示す例では、舵角速度と粘性補償指令値との対応関係が、複数の車速域又は車速域について用意されている。図13は、一例として、Vv=0、Vv=Vv3、Vv=Vv4、Vv>=Vv5の車速又は車速域について、舵角速度と粘性補償指令値との対応関係を示している。なお、これらの他の車速又は車速域の対応関係が、マップデータに含まれてもよい。
図13に示す例では、マイナス方向のモータの回転を指示する粘性補償指令値が、舵角速度の増加に伴って増加するような対応関係が含まれる。具体的には、Vv=0の時、及び、Vv=Vv3の時は、粘性補償指令値は、舵角速度によらず略一定である。Vv=Vv4及びVv=Vv5の時は、舵角速度が増加するにつれて粘性補償指令値は小さくなる(粘性補償指令値の絶対値は大きくなる)。Vv=Vv4の時より、Vv=Vv5の時の方が、舵角速度に対する粘性補償指令値の絶対値は大きくなる。ここで、図13のVv3〜Vv5の関係は、0<Vv3<Vv4<Vv5である。なお、操舵トルクとアシスト指令値の対応関係は、図13に示す例に限られない。また、対応関係を示すデータの形式はマップデータに限定されない。例えば、テーブル形式のデータの他、与えられた舵角速度及び車速の値を用いて、対応する粘性補償指令値を計算するための関数等のデータを、対応関係を示すデータとすることができる。
図10に示すように、アシスト制御部61は、アシスト指令値Iaと加減速係数Kaとの積(Ka×Ia)と、ステップS5で算出した粘性補償指令値Inを加算する(ステップS6)。ステップS6では、(Ka×Ia)+Inが、出力指令値Iとして算出される。この例では、アシスト制御部61は、操舵トルクTs及び車速Vvに応じて決められる指令値Iaと、加速度Avに応じて決められる係数Kaと、舵角速度Vrに応じて決められる指令値Inとに基づいて、モータ70に出力する指令値Iを決定している。
なお、図10に示す例では、アシスト指令値Iaと粘性補償指令値Inを加算する処理であるが、さらに他の指令値を加算することもできる。一例として、操舵トルクTsの微分値に応じて決定されるプラス方向のアシスト度合いを示す静止摩擦補償指令値Is、及び、舵角速度に応じて決定されるプラス方向のアシスト度合いを示す動摩擦補償指令値Id等を、アシスト指令値Iaと粘性補償指令値Inに加えてさらに加算することができる。すなわち、ステップS3において、出力指令値Iを、I=(加減速係数Ka×アシスト指令値Ia)+静止摩擦補償指令値Is+粘性補償指令値In+動摩擦補償指令値Idで算出することができる。
アシスト制御部61は、モータ70で検出されたモータ電流Imと、出力指令値Iを用いて電流フィードバック処理を実行する(ステップS7)。例えば、アシスト制御部61は、モータ70で検出されたモータ電流Imと、出力指令値Iとを比較し、それらの差を小さくするような制御信号を生成してモータ70に出力することができる。なお、フィードバック処理は、ドライバ72が実行してもよい。
ここで、入力される操舵トルク及び舵角速度が一定で、車両の加速度が変化した場合のアシスト制御部61の動作の一例を説明する。例えば、入力される操舵トルクTsがTs=Ts1、舵角速度Vr=Vr1、車速Vv=Vv6(Vv5<Vv6<Vv1)である場合について説明する。アシスト制御部61は、図11に示す対応関係のマップデータを参照し、Ts=Tr1に対応するアシスト指令値Ia=Ia1を決定する。
ここで、入力される操舵トルクTs及び舵角速度Vrが一定(Ts=Ts1、Vr=Vr1)の条件下で、入力される加速度Avが、Av=Av1からAv=Av2まで上昇した場合について説明する。この場合、アシスト制御部61は、図12に示す対応関係を示すデータを参照して、加速度Av1とAv2の間の複数の段階の加速度Av1、Av11、Av12、・・・、Av2それぞれに対応する加減速係数Ka1、Ka11、Ka12、・・・、Ka2を決定し、アシスト指令値Iaに掛ける。一例として、Ts=Ts1に対応するアシスト指令値Ia1と、加減速係数Ka1、Ka11、Ka12、・・・、Ka2との積(Ka1×Ia1)、(Ka11×Ia1)、(Ka12×Ia1)、・・・(Ka2×Ia1)が算出される。
アシスト制御部61は、図13に示す対応関係のマップデータを参照し、車速Vv=Vv1(Vv5<Vv1)、舵角速度Vr=Vr1に対応する粘性補償指令値In=In1を決定する。
出力指令値Iは、加減速係数Kaとアシスト指令値Iaの積(Ka×Ia)と粘性補償指令値Inの和となる。例えば、積(Ka1×Ia1)、(Ka11×Ia1)、(Ka12×Ia1)、・・・(Ka2×Ia1)と、上記の粘性補償指令値In=In1が算出された場合、出力指令値Iは、(Ka1×Ia1)+In1、(Ka11×Ia1)+In1、(Ka12×Ia1)+In1、・・・(Ka2×Ia1)+In1のように計算される。
図14は、このようにして計算された出力指令値Iの例を示すグラフである。図14に示す例では、出力指令値Iは、車両の加速度の上昇に伴って、プラスからマイナスへ転じる。操舵トルクTr、舵角速度Vr、及び車速Vvがそれぞれ所定値以上の条件において、加速度を上昇させると、モータ70に出力される指令値Iは、プラスからマイナスへ転じる。これにより、モータ70の回転は、加速度の上昇に伴って、操舵トルクと同じ方向の回転を操舵系29に付与する回転から、操舵トルクと反対方向の回転を操舵系29に付与する回転に切り替わる。
また、上記例では、加速度がマイナスの場合、すなわち、減速中は、モータ70によるアシストの方向は、プラス方向になる。加速及び減速の度合いに応じて、モータ70によるアシストの方向及びその大きさが制御される。このようなアシストにより、ライダーは、車両の加速又は減速によらず、一定の操舵手応えを感じられるようになる。その結果、ライダーは、より快適なステアリング操作ができるようになる。
(変形例)
以上、操舵補助装置の実施形態を説明したが、本発明の操舵補助装置の実施形態は、上記例に限られない。
例えば、アシスト力付与機構60の構成は、図4に示す例に限られない。モータ70の回転を、ステアリングシャフト9以外の操舵系29の部分に伝達する構成であってもよい。例えば、トップブリッジ50、ボトムブリッジ14、左緩衝器6、又は右緩衝器7のいずれかにモータ70の回転を伝達する構成とすることができる。
また、図1の例では、操舵系29は、伝達部材20、トップブリッジ50、ボトムブリッジ14、左緩衝器6、右緩衝器7、及びステアリングシャフト9を含むが、操舵系29はこの例に限られない。操舵系29は、操舵輪を転舵させるための任意の構成を採ることができる。例えば、伝達部材20を省略してもよい。この場合、バーハンドル8がステアリングシャフト9に対して回転不能に連結される構成とすることができる。また、伝達部材20及びトップブリッジ50を省略することもできる。また、緩衝器が、操舵系29に含まれない構成とすることもできる。
上記例では、操舵輪である前輪4が1つであるが、操舵輪は、左右に並べて配置された一対の車輪であってもよい。この場合、鞍乗型車両は、一対の車輪車体とフレームとの間に設けられ、車体フレームに対して回転可能に支持されるアームを含むリンク機構を備えることができる。アームが車体フレームに対して回転することにより、一対の車輪の車体フレームに対する上下方向の相対位置が変更する。これにより、車体フレームが、鉛直方向に対して傾斜する。この構成では、リンク機構のアームを、バーハンドルの操舵力を一対の車輪へ伝達する操舵系の一部とすることができる。
また、アシスト制御部61の動作も上記例に限られない。例えば、ステップS1及びステップS5において、対応関係を示すデータとして、マップデータを用いる代わりに、関数データを用いて、指令値Ia、Inを演算することもできる。
また、上記例では、車両の加速度Avに応じて決まる加減速係数Kaを、アシスト指令値Iaに掛ける構成である。この場合、加減速係数Kaは、加速時より減速時の方が大きくなるように計算される。これは、車両の加速中には、モータ70による操舵トルクと同じ方向(プラス方向)のアシスト力を、減速中より小さくする制御である。
これに対して、車両の加速度Avに応じて決まる加減速係数Kaを、粘性補償指令値Inに掛けてもよい。この場合、加減速係数Kaは、減速時より加速時の方が大きくなるよう計算される。これは、車両の加速中は、モータ70による操舵トルクと反対方向(マイナス方向)のアシスト力を、減速中より大きくする制御である。
上記実施形態では、閾値と車両の状態を示す検出値との比較する処理として、閾値と検出値とが同じある場合を含まない判定(例えば、Ts>Th1等)の例を示している。これを、閾値=検出値を含むような判定(例えば、Ts>=Th1)とした場合も、技術的意義は同じである。
トルク検出部も、上記構成のトルクセンサ90に限られない。例えば、トルク検出部は、モータ70の電流に基づいて、操作トルクを計算する構成であってもよい。或いは、トルクセンサ90は、ステアリングシャフト9又は減速機80の回転軸のトルクを検出する構成であってもよい。また、磁歪式トルクセンサの代わりに、その他の方式のトルクセンサを用いることもできる。他の方式として、例えば、トーションバーの捩れを検出するトーションバー式、又は、ひずみゲージによりトルクを検出する方式等が挙げられる。
また、上記例では、トルクセンサ90は、操舵系29の一部に設けられ、操舵系29に入力されるトルクに応じて変形する変形容易部(トルク伝達部13)の変形に基づく物理量の変化を検出する構成である。変形容易部の構成は、上記例に限られない。操舵トルクを検出するための変形容易部を、操舵系29の任意の位置に設けることができる。例えば、ステアリングシャフト9とヘッドパイプ10の間、又は、バーハンドル8に変形容易部を設けてもよい。
トルクセンサ90の出力は、操舵力のアシストの他の任意の制御に用いることもできる。例えば、トルクセンサ90の出力を、トラクションコントロール、及び/又は、ABS(Anti-lock Brake System)の制御に用いることができる。同様に、舵角センサ44、及び、車速センサ66の出力も、他の任意の制御に用いることができる。
舵角検出部43も、図8に示す構成に限られない。例えば、舵角検出部は、モータ70の電流に基づいて、舵角速度を計算する構成であってもよい。
本発明は、自動二輪車1以外の任意の鞍乗型車両に適用することができる。例えば、自動三輪車、ATV、スノーモービル、自転車等に本発明を適用することができる。なお、鞍乗型車両とは、乗員が鞍にまたがるような状態で乗車する車両全般を指している。
本発明の図示実施形態を幾つかここに記載した。本発明は、ここに記載した各種の好ましい実施形態に限定されるものではない。本発明は、この開示に基づいて当業者によって認識され得る、均等な要素、修正、削除、組み合わせ(例えば、各種実施形態に跨る特徴の組み合わせ)、改良及び/又は変更を含むあらゆる実施形態をも包含する。クレームの限定事項はそのクレームで用いられた用語に基づいて広く解釈されるべきであり、本明細書あるいは本願のプロセキューション中に記載された実施形態に限定されるべきではない。そのような実施形態は非排他的であると解釈されるべきである。