JP2017203213A - アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、接合体、及びアルミニウム合金材の製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、接合体、及びアルミニウム合金材の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高温湿潤環境に曝されても、接着強度が低下し難く、接着耐久性に優れたアルミニウム合金材の提供。
【解決手段】アルミニウム合金基材3と、アルミニウム合金基材3の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜2を備えるアルミニウム合金材10であって、皮膜2は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後での差スペクトルにおいて、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収のピークトップを有し、前記ピークトップにおける吸光度が0.001以上であり、かつ、皮膜2は、Siを20〜80原子%未満及びMgを0.1〜30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されているアルミニウム合金材。更に、前記差スペクトルにおいて1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有さないことが好ましいアルミニウム合金材。
【選択図】図1

Description

本発明は、アルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材ないし接着樹脂層付きアルミニウム合金材を用いた接合体、及び、アルミニウム合金材の製造方法に関する。
自動車、船舶及び航空機などの輸送機に用いられる部材の軽量化の観点から、炭素繊維やアルミ合金、鉄鋼材料といった、強度、材質、質量等の異なる異種材料を接合する技術の開発が注目されている。特に、接着樹脂(樹脂接着剤)は、電食による材料の腐食がなく、多様な材料を腐食せずに接合可能なことから、近年積極的に研究されている。しかしながら、高湿環境下では、金属と接着樹脂の界面に水分が浸入し、金属表面の腐食・劣化が起こり、金属と接着樹脂の界面で容易に剥離するため、接着強度が著しく低下してしまう。そのため、金属と接着樹脂の界面を腐食から保護し、湿潤環境下でも接着強度を低下させないような前処理が、接着耐久性を左右する重要な因子となる。
ここで、接着用前処理としては、防食の観点から、金属表面の耐食性や塗料密着性を向上させるための表面処理が知られている。
例えば、特許文献1には、ケイ酸エステル、アルミニウム無機塩及びポリエチレングリコールを含有し、シランカップリング剤をさらに含有させた溶液を、亜鉛系めっき鋼板上に塗布、乾燥して皮膜を形成させることで、塗料密着性及び耐白錆性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献2には、ナトリウム水ガラス等の水ガラスと、アミノシラン等のシランを含む水溶液により、鋼材やアルミニウム合金等の金属材料の表面を処理することで、塗料密着性を向上させる手法が記載されている。
また、特許文献3には、テトラエチルオルソシリケート等のテトラアルキルシリケートと、シリカゾル等の水和酸化物ゾルを含む水性組成物でアルミニウム等の金属を処理することにより、その上に形成される接着剤などの塗膜の初期密着性や密着性の長期安定性を向上させる手法が記載されている。
特許第3289769号公報 特表2014−502287号公報 特表平10−510307号公報
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の手法は、あくまで金属表面の防食や塗料の密着性の改善を目的とするものである。したがって、形成される皮膜は肉厚となるが、肉厚な皮膜では皮膜自身の機械強度が低く、張力や応力に対して脆くなり、高い接着強度を得ることができない。
また、特許文献3に記載の手法では、長期の湿潤劣化試験により接着強度が著しく減少してしまうため、接着耐久性は十分なものとはいえない。
以上のような問題点を鑑みて、本発明は、高温湿潤環境に曝されても、接着強度が低下し難く、接着耐久性に優れたアルミニウム合金材、接着樹脂層付きアルミニウム合金材、アルミニウム合金材ないし接着樹脂層付きアルミニウム合金材を用いた接合体、及び、アルミニウム合金材の製造方法を提供することを主目的とする。
本発明者は、前述した課題を解決するために、鋭意実験検討を行った結果、アルミニウム基材表面に、Mg量、Si量及びCu量が特定の範囲内であり、かつFT−IRスペクトルにおいて特定のピークを有する、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を形成することで、優れた接着耐久性が得られることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、アルミニウム合金基材と、前記アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を備えるアルミニウム合金材であって、前記皮膜は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後での差スペクトルにおいて、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収のピークトップを有し、前記ピークトップにおける吸光度が0.001以上であり、かつ、前記皮膜は、Siを20原子%以上80原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されているアルミニウム合金材を提供する。
ここで、前記皮膜中のSi量、Mg量、及びCu量は、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:Glow Discharge-Optical Emission Spectroscopy)により測定した値である。
本発明のアルミニウム合金材においては、前記差スペクトルにおいて、1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有さないことが好ましい。
また、上記アルミニウム合金材は、皮膜に接着樹脂を直接接合して用いられてもよい。
また、本発明は、上記アルミニウム合金材の皮膜上に、接着樹脂層が直接形成されている、接着樹脂層付きアルミニウム合金材をも提供する。
本発明の接着樹脂層付きアルミニウム合金材においては、接着樹脂層が有機−無機カップリング剤を含んでいることが好ましい。
また、本発明の接着樹脂層付きアルミニウム合金材においては、接着樹脂層がエポキシ系樹脂を含んでいることが好ましい。
さらに、本発明は、上記アルミニウム合金材と他の部材とを、接着樹脂を介して接合させた接合体をも提供する。
さらに、本発明は、上記接着樹脂層付きアルミニウム合金材と他の部材とを、接着樹脂層を介して接合させた接合体をも提供する。
さらに、本発明は、アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を形成する皮膜形成工程を備えるアルミニウム合金材の製造方法であって、前記皮膜形成工程は、前記アルミニウム合金基材の表面に酸化皮膜を形成させる加熱処理段階と、前記加熱処理段階後のエッチング処理段階及びケイ酸塩処理段階とを含み、前記ケイ酸塩処理段階は前記エッチング処理段階より後あるいは前記エッチング処理段階と同時であり、前記ケイ酸塩処理段階として、ケイ酸塩を0.008質量%以上0.5質量%未満含む水溶液で前記酸化皮膜を処理する、アルミニウム合金材の製造方法をも提供する。
本発明のアルミニウム合金材の製造方法においては、前記ケイ酸塩を含む水溶液による処理の後には水洗を行わないことが好ましい。
本発明のアルミニウム合金材の製造方法においては、前記エッチング処理段階におけるエッチング量を700nm未満に制御することが好ましい。
本発明によれば、高温湿潤環境に曝されても、接着強度が低下し難く、接着耐久性に優れたアルミニウム合金材を実現することができる。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。 図2は、図1に示すアルミニウム合金材の製造方法を示すフローチャート図である。 図3は、本発明の第1の実施形態の変形例に係る接着樹脂層付きアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。 図4は、図3に示す接着樹脂層付きアルミニウム合金材の製造方法を示すフローチャート図である。 図5は、本発明の第2の実施形態に係る接合体の構成例を模式的に示す断面図である。 図6Aは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図6Bは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図7は、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図8Aは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図8Bは、本発明の第2の実施形態に係る接合体の他の構成例を模式的に示す断面図である。 図9Aは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す側面図である。 図9Bは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す平面図である。
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
(第1の実施形態)
まず、本発明の第1の実施形態に係るアルミニウム合金材について説明する。
本実施形態に係るアルミニウム合金材は、アルミニウム合金基材と、前記アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を備えるアルミニウム合金材であって、前記皮膜は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後での差スペクトルにおいて、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収のピークトップを有し、前記ピークトップにおける吸光度が0.001以上であり、かつ、前記皮膜は、Siを20原子%以上80原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されているアルミニウム合金材である。
図1は本実施形態のアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のアルミニウム合金材10は、アルミニウム合金基材3(以下、基材3ともいう)の表面の少なくとも一部に皮膜2が形成されている。
[基材3]
基材3は、アルミニウム合金からなる。基材3を形成するアルミニウム合金の種類は、特に限定されるものではなく、加工される部材の用途に応じて、JISに規定される又はJISに近似する種々の非熱処理型若しくは熱処理型のアルミニウム合金から適宜選択して使用することができる。ここで、非熱処理型アルミニウム合金としては、純アルミニウム(1000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)及びAl−Mg系合金(5000系)がある。また、熱処理型アルミニウム合金としては、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)及びAl−Zn−Mg系合金(7000系)がある。
例えば、本実施形態のアルミニウム合金材10を自動車用部材に用いる場合は、強度の観点から、基材3は0.2%耐力が100MPa以上であることが好ましい。このような特性を満足する基材を形成可能なアルミニウム合金としては、2000系、5000系、6000系及び7000系などのように、マグネシウムを比較的多く含有するものがあり、これらの合金は必要に応じて調質してもよい。また、各種アルミニウム合金の中でも、時効硬化能に優れ、合金元素量が比較的少なくスクラップのリサイクル性や成形性にも優れていることから、6000系アルミニウム合金を用いることが好ましい。
[皮膜2]
皮膜2は、基材3の表面の少なくとも一部に形成される、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜である。皮膜2は、フーリエ変換式赤外分光法(FT−IR)により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後での差スペクトルにおいて、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収のピークトップを有し、当該ピークトップにおける吸光度が0.001以上であり、かつ、皮膜2は、Siを20原子%以上80原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されている。この皮膜2は、接合強度を高くするとともに、接着耐久性の向上を図るために設けられている。以下、皮膜2に含まれる各成分量の好適な範囲について説明する。なお、図1に示されるアルミニウム合金材では、基材3の一方の表面の全部に皮膜2が形成されているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、基材3の表面の一部のみに皮膜2が形成されていてもよい。また、基材3の両面に皮膜2が形成されていてもよい。
<FT−IRスペクトル>
本実施形態のアルミニウム合金材における皮膜の形成メカニズムを以下に説明する。まず、アルミニウム基材表面の酸化皮膜にケイ酸塩の水溶液を接触させると、より耐食性に優れたアルミノケイ酸塩の複合酸化物が生成する。次に、皮膜表面に残った微量の未反応のケイ酸塩を含む水溶液が、乾燥中に大気中の二酸化炭素と反応し、炭酸水素塩と二酸化ケイ素が生成することで、皮膜が緻密となり、皮膜の耐食性がさらに高められると考えられる。
ここで、炭酸水素塩は、FT−IR分析において、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収波長を有する。本実施形態のアルミニウム合金材は、皮膜が形成されている表面のFT−IR分析において、皮膜処理前後での差スペクトルの1550〜1650cm−1の波数領域に吸収のピークトップを有し、そのピークトップにおける吸光度が0.001以上であり、炭酸水素塩と二酸化ケイ素が十分に生成して緻密な皮膜が形成されており、皮膜の強度に優れるとともに、耐食性にも優れている。1550〜1650cm−1の波数領域の吸収のピークトップにおける吸光度は、好ましくは0.005以上であり、より好ましくは0.007以上である。
一方、皮膜上に未反応のケイ酸塩が過剰に存在すると、乾燥後にも皮膜表面にケイ酸塩が残存し、その一部は大気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩を生じる。このようにして形成される皮膜は肉厚であり、皮膜表面に炭酸塩やケイ酸塩の微粒子が残存する。そのような皮膜は脆く、また、接着樹脂との密着性にも劣るため、接着耐久性は著しく低下することとなる。
上記のメカニズムは高周波グロー放電発光分光分析(GD−OES分析)からも支持される。すなわち、GD−OES分析によれば、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収波長を有するアルミニウム合金材は、最表面から基材にかけて、二酸化ケイ素を含むアルミノケイ酸複合酸化皮膜の層を有することが観察される。一方、1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有するアルミニウム合金材については、最表面に炭酸塩を含む層が濃化している様子が観察される。
ここで、炭酸塩は、FT−IR分析において、1440〜1540cm−1の波数領域に吸収波長を有する。以上の観点から、本実施形態のアルミニウム合金材は、皮膜が形成されている表面のFT−IR分析において、皮膜処理前後での差スペクトルの1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有さないことが好ましい。すなわち、本実施形態のアルミニウム合金材における皮膜は、FT−IR分析による皮膜処理前後での差スペクトルにおいて、1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有さない複合酸化物からなることが好ましい。なお、本明細書において「1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有さない」とは、1440〜1540cm−1の波数領域に吸光度が測定されないことを意味する。
なお、皮膜処理前後での差スペクトルとは、皮膜が形成されたアルミニウム合金材の、皮膜が形成されている表面の吸収スペクトルと、皮膜が形成されていないアルミニウム合金基材の吸収スペクトルとの間の差である。
<Mg含有量:0.1原子%以上30原子%未満>
アルミニウム合金材の基材を構成するアルミニウム合金には、通常、合金成分としてマグネシウム(Mg)が含まれており、このような基材3の表面にアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物である酸化皮膜を形成すると、表面にマグネシウムが濃化した状態で存在することとなる。このため、酸化皮膜上に接着樹脂を形成すると、表面のマグネシウムが接着界面の弱境界層となり、初期の接合強度が低下する。
また、水分、酸素などが浸透してくる高温湿潤環境においては、接着樹脂との界面の水和や基材の腐食の原因となり、アルミニウム合金材の接合強度を低下させる。具体的には、皮膜中のMg含有量が30原子%以上になると、アルミニウム合金材の接合強度が低下する傾向がある。そこで、本実施形態のアルミニウム合金材10では、皮膜2におけるMg含有量を30原子%未満に規制する。これにより、接着耐久性を向上することができる。皮膜2のMg含有量は、接着耐久性向上の観点から、25原子%未満が好ましく、20原子%未満がより好ましく、さらに好ましくは10原子%未満である。
一方、皮膜2のMg含有量の下限値は、経済性の観点から0.1原子%以上とする。なお、ここでいう皮膜2中のMg含有量は、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES)により測定することができる。
皮膜2のMg含有量を調整する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸、硫酸及びフッ酸などの酸若しくは混酸等の酸性溶液、又は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ケイ酸塩及び炭酸塩などを含むアルカリ溶液で表面処理する方法を適用することができる。この方法は、マグネシウムを酸又はアルカリ溶液に溶解させることにより、皮膜2のMg含有量を調整するものであり、処理時間、温度、表面処理液の濃度やpHを調整することで、皮膜2中のMg量を前述した範囲にすることができる。なお、不純物元素程度にMgが含有されている場合であっても、調質で高温の熱処理が行われるとMgが皮膜2中に濃化する場合があり、酸やアルカリでの表面処理による調整が適宜必要である。また、表面処理の薬液中にMgイオンを含有させて調整することも可能である。
<Si含有量:20原子%以上80原子%未満>
ケイ素は、皮膜2の耐食性を向上させ湿潤環境下で安定化させる効果があるため、皮膜2に珪素を含有させることにより、接合強度の低下を抑制することが可能となる。
ただし、皮膜2におけるSi含有量が20原子%未満の場合、前述した効果が小さくなる傾向があり、また、Si含有量が80原子%以上であると、皮膜が肉厚で脆弱となり、その結果接着強度が大きく低下する傾向がある。また、スポット溶接性や化成処理の均一性が低下する傾向にある。そこで、本実施形態のアルミニウム合金材10では、皮膜2におけるSi含有量を、20原子%以上80原子%未満とする。
接着耐久性向上の観点から、皮膜2におけるSi含有量は、25原子%以上であることが好ましく、30原子%以上であることがより好ましい。また、接着強度の低下防止、及びスポット溶接性や化成処理の均一性の観点からは、皮膜2におけるSi含有量は、75原子%未満であることが好ましく、70原子%未満であることがより好ましい。
皮膜2中のSi含有量は、例えば、Mg量を調整する方法として記載したものと同様に、酸やアルカリによる表面処理を行うことによって調整される。また、上述した、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムなどのケイ酸塩を含む水溶液による処理の条件によって調整される。
<Cu含有量:0.6原子%未満>
皮膜2を形成する際に基材3に対して脱脂工程や酸洗工程などにより過剰なエッチングを行うと、基材3に含まれるCuが表面に濃化し、皮膜2のCu含有量が増加する。皮膜2の表面にCuが存在すると、皮膜2の表面上に直接接合される接着樹脂との密着力が低下する。
そこで、本実施形態のアルミニウム合金材では、皮膜2中のCu含有量を0.6原子%未満に規制する。なお、皮膜2におけるCu量は、接着樹脂との密着性向上の観点から、0.5原子%未満であることが好ましい。
皮膜2中のCu含有量の制御には、前処理によるエッチング量を調整する必要があるが、エッチング方法は限定されるものではなく、例えば、Mgの数値限定で記載したのと同様の処理方法を適用することができる。すなわち、例えば、酸又はアルカリ溶液による処理によりエッチングを行うことができる。
ここで、皮膜2中のMg量、Si量、及びCu量等の元素濃度は、例えば、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:Glow Discharge-Optical Emission Spectroscopy)により測定することができる。本実施形態においては、GD−OESにより、基材3の厚さ方向に、酸素(O)、窒素(N)及び炭素(C)を除く各元素、具体的にはアルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)などの金属元素並びに珪素(Si)などの元素を測定し、その結果からMg、Si、Cu、Al等の含有量を百分率で算出した値を各元素の量とする。
<膜厚>
皮膜2の膜厚は、1〜30nmであることが好ましい。皮膜2の膜厚が1nm未満の場合、基材3を作製する際に使用される防錆油やアルミニウム合金材10から接合体又は自動車用部材を製造する際に使用されるプレス油中のエステル成分の吸着が抑制される。このため、皮膜2を設けなくても、アルミニウム合金材10の脱脂性、化成処理性及び接着耐久性を確保することができる。しかしながら、皮膜2の膜厚を1nm未満に制御するには、過度の酸洗浄などが必要となるため、生産性が劣り、実用性が低下しやすい。また、アルカリ脱脂や酸による過剰なエッチングは基材3に含有されるCuが表面濃化する原因となり、接着耐久性の低下の原因となる。
一方、皮膜2の膜厚が30nmを超えると、皮膜量が過剰となり、表面に凹凸ができやすくなる。そして、皮膜2の表面に凹凸が生じると、例えば自動車用途において塗装工程の前に行う化成処理の際に化成斑が生じやすくなり、化成性の低下を招く。なお、皮膜2の膜厚は、化成性及び生産性などの観点から、2nm以上20nm未満であることがより好ましい。
[製造方法]
次に、本実施形態のアルミニウム合金材の製造方法について説明する。図2は、図1に示される本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法を示すフローチャート図である。図2に示すように、本実施形態のアルミニウム合金材10を製造する際は、基材作製工程S1と、皮膜形成工程S2を行う。以下、各工程について説明する。
<ステップS1:基材作製工程>
基材の形状は特に限定されるものではなく、アルミニウム合金材を用いて作製する部材の形状等に応じて、板状の他、鋳造材、鍛造材、押し出し材(例えば、中空棒状等)等としてとりうる任意の形状であってもよい。基材作製工程S1では、例として板状の基材(基板)を作製する場合には、例えば下記の手順で、基板を作製する。先ず、所定の組成を有するアルミニウム合金を、連続鋳造により溶解し、鋳造して鋳塊を作製する(溶解鋳造工程)。次に、作製した鋳塊に均質化熱処理を施す(均質化熱処理工程)。その後、均質化熱処理された鋳塊に、熱間圧延を施して熱延板を作製する(熱間圧延工程)。そして、この熱延板に300〜580℃で荒焼鈍又は中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率5%以上の冷間圧延を少なくとも1回施して、所定の板厚の冷延板(基板)を得る(冷間圧延工程)。
冷間圧延工程では、荒焼鈍又は中間焼鈍の温度を300℃以上とすることが好ましく、これにより、成形性向上の効果がより発揮される。また、荒焼鈍又は中間焼鈍の温度は、580℃以下とすることが好ましく、これにより、バーニングの発生による成形性の低下を抑制しやすくなる。一方、最終冷間圧延率は、5%以上とすることが好ましく、これにより、成形性向上の効果がより発揮される。なお、均質化熱処理及び熱間圧延の条件は、特に限定されるものではなく、熱延板を通常得る場合の条件で行うことができる。また、中間焼鈍は行わなくてもよい。
<ステップS2:皮膜形成工程>
皮膜形成工程(ステップS2)では、ステップS1の基材作製工程で作製された基材の表面の少なくとも一部(すなわち、一部又は全部)に、皮膜を形成する。本実施形態において、皮膜形成工程(ステップS2)は、具体的には、例えば、基材3を加熱処理して酸化皮膜を形成する加熱処理段階と、当該加熱処理段階後のエッチング処理段階及びケイ酸塩処理段階とを備える。ここで、ケイ酸塩処理段階としてケイ酸塩を含む水溶液で処理する。これにより、皮膜中のMg量、Si量、及びCu量が特定の範囲になるように、また、FT−IRスペクトルにおいて特定のピークを有するように、皮膜を形成する。
加熱処理段階における加熱処理としては、基材3を、例えば400〜580℃の温度に加熱して、基材3の表面に酸化皮膜を形成する。また、加熱処理は、アルミニウム合金材10の強度を調整する効果もある。なお、ここで行う加熱処理は、基材3が熱処理型アルミニウム合金で形成されている場合には溶体化処理であり、基材3が非熱処理型アルミニウム合金で形成されている場合には、焼鈍(最終焼鈍)における加熱処理である。
この加熱処理は、強度向上の観点から、加熱速度100℃/分以上の急速加熱とすることが好ましい。また、加熱温度を400℃以上に設定して急速加熱することで、アルミニウム合金材10の強度や、そのアルミニウム合金材10の塗装後加熱(ベーキング)した後の強度を、より高めることができる。一方、加熱温度を580℃以下に設定して急速加熱することにより、バーニングの発生による成形性の低下を抑制することができる。更に、強度を向上させる観点からは、加熱処理における保持時間は3〜30秒とすることが好ましい。このように基材3を、加熱温度400〜580℃で加熱すると、基材3の表面に、例えば、膜厚が1〜30nmの酸化皮膜が形成される。なお、加熱処理の前には、必要に応じてアルカリ脱脂等を行ってもよい。
加熱処理後のエッチング処理段階においては、基材3上に形成された酸化皮膜の表面の一部又は全部に対して、酸性溶液による処理(酸洗)及びアルカリ溶液による処理(アルカリ洗浄、アルカリ脱脂)のうちの少なくとも1つを行う。酸洗の際に用いる薬液(酸洗剤)は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸、硝酸及びフッ酸から選ばれる群からなる1種以上を含む溶液を用いることができる。また、酸洗剤には、脱脂性を高めるために界面活性剤を含有させてもよい。また、酸洗の条件は、基材3の合金組成や酸化皮膜の厚み等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、たとえば、pHが2以下、処理温度10〜80℃、処理時間1〜120秒の条件を適用することができる。
また、アルカリ洗浄(アルカリ脱脂)の際に用いる薬液も、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる群からなる1種以上を含む溶液を用いることができる。また、アルカリ溶液による処理の条件は、基材3の合金組成や酸化皮膜の厚み等を考慮して適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、pHが10以上、処理温度10〜80℃、処理時間1〜120秒の条件を適用することができる。
なお、アルカリ洗浄を行う場合においては、アルカリ洗浄よりも後に、酸洗を行うことが好ましい。この理由は以下のとおりである。すなわち、アルカリ洗浄では、基材表面のMgを除去することが難しく、基材表面のMgの存在によりエッチング量を増やす必要がある。しかしながら、エッチング量が増えるとCuの濃化の原因となることから、酸洗でMgを除去する必要があるためである。
また、各薬液での洗浄後にはリンスを行うことが好ましい。リンスの方法は特に限定されないが、例えば、スプレー、浸漬等が挙げられる。また、リンスに用いられる洗浄液としては、例えば、工業水、純水、イオン交換水等が挙げられる。
なお、銅を含むアルミニウム合金の過多のエッチングは、表面において銅の濃化を引き起し、劣化環境である高温湿潤環境において、接着樹脂の劣化の原因となる。したがって、酸化皮膜のエッチング量が、好ましくは700nm未満、より好ましくは500nm未満となるように処理条件を調整する。
ここで、本願明細書中におけるエッチング処理段階におけるエッチング量とは、酸化皮膜や酸化皮膜を含む基材の溶解量であり、エッチング処理前後の重量の減少量を測定し、それを厚み(膜厚)として見積もることができる。なお、重量の減少量から膜厚への換算は、便宜上、アルミニウムの密度:2.7g/cmを用い、アルミニウムの厚みとして計算することにより行うものとする。また、酸化皮膜に加えて、酸化皮膜下の基材の一部もエッチングされる場合には、酸化皮膜と基材のエッチング量の合計を、上記エッチング量とする。
また、ケイ酸塩処理段階として、酸化皮膜を有する基材を、ケイ酸塩を含む水溶液(ケイ酸塩水溶液)で処理する。ここで、ケイ酸塩水溶液による処理には、ケイ酸塩水溶液の塗布の他、ケイ酸塩水溶液中への浸漬等も包含される。ケイ酸塩水溶液による処理を行うと、炭酸水素塩と二酸化ケイ素が生成し、酸化皮膜がより緻密な皮膜2となり、皮膜自体の強度が向上するとともに、耐食性も向上する。なお、ケイ酸塩処理段階は、皮膜形成工程の実質的な膜形成の最終段階として行われるものであり、ケイ酸塩処理の後に酸洗は行わない。ただし、ケイ酸塩水溶液による処理の後の乾燥は、当該ケイ酸塩処理段階に含まれるものとする。
ここで、水溶液のpHが7よりも低いとケイ酸塩が沈殿するため、アルミニウムとケイ素が反応することができなくなる。したがって、ケイ酸塩水溶液のpHは7以上とする必要があり、好ましくは8以上であり、より好ましくは9以上である。また、ケイ酸塩水溶液のpHの上限は特に限定されるものではないが、溶液の取り扱い易さや安全性の観点からは、例えば14以下であり、好ましくは13以下である。なお、ケイ酸塩水溶液のpHは、例えば水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウム、アンモニアなどの塩基を添加すること等により、適宜調整することができる。
酸化皮膜に塗布するケイ酸塩水溶液中のケイ酸塩の濃度は、0.008質量%以上0.5質量%未満であることが好ましい。ケイ酸塩水溶液中のケイ酸塩の濃度が0.008質量%以上であると、乾燥により炭酸水素塩と二酸化ケイ素が十分に生成されるため、皮膜が緻密となり、強度と耐食性に優れた皮膜を形成することができる。同様の観点から、ケイ酸塩水溶液中のケイ酸塩の濃度は、より好ましくは0.02質量%以上であり、さらに好ましくは0.06質量%以上である。一方、ケイ酸塩水溶液中のケイ酸塩の濃度が過度に高いと、乾燥後にも皮膜表面にケイ酸塩が残存し、その一部が大気中の二酸化炭素と反応して炭酸塩を生じるおそれがある。この場合、形成される皮膜は肉厚となり、また、皮膜表面に炭酸塩やケイ酸塩の微粒子が残存することとなる。その結果、形成される皮膜は脆く、また、接着樹脂との密着性にも劣り、接着耐久性が著しく低下するおそれがある。
したがって、これを防止する観点から、ケイ酸塩水溶液中のケイ酸塩の濃度は、0.5質量%未満とすることが好ましく、より好ましくは0.3質量%未満であり、さらに好ましくは0.2質量%未満である。
ケイ酸塩水溶液に含まれるケイ酸塩の種類は特に限定されないが、例えば、塩基性のケイ酸塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のケイ酸塩や、アンモニウムケイ酸塩などが挙げられる。ここで、ケイ酸塩としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
リチウムケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸リチウム等が挙げられる。
ナトリウムケイ酸塩(mNaO・nSiOと表記でき、以下においてn/mをモル比で表す)としては、例えば、結晶質のオルト珪酸ナトリウム(n/m:約0.5前後)、メタ珪酸ナトリウム(n/m:約1前後)や層状結晶の珪酸ナトリウム(n/m:約2〜3程度の範囲)、または非晶質の珪酸ナトリウム、または液体の水ガラス(JISの1号、2号、3号)等が挙げられる。
カリウムケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カリウム等が挙げられる。
ケイ酸塩水溶液の塗布方法としては、浸漬処理、スプレー、ロールコート、バーコート、静電塗布等が挙げられる。
また、酸化皮膜をケイ酸塩水溶液で処理した後には、水洗(リンス)を行わないことが好ましい。水洗(リンス)を行うと、皮膜の表面に残存する未反応のケイ酸塩水溶液が除去される結果、乾燥後にも炭酸水素塩と二酸化ケイ素が十分に生成されず、緻密な皮膜が得られなくなるおそれがある。
ケイ酸塩水溶液による処理後には、ケイ酸塩水溶液を乾燥させる。乾燥温度は、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上である。また、乾燥温度が高すぎると、アルミニウム合金の特性に影響を及ぼすため、当該乾燥温度は、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下、更に好ましくは190℃以下である。また、乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、好ましくは2秒以上であり、より好ましくは5秒以上であり、さらに好ましくは10秒以上である。また、当該乾燥時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは5分以下、さらに好ましくは2分以下である。
ケイ酸塩水溶液の塗布量は、十分な接着耐久性の向上効果を得る観点から、乾燥後の皮膜量が1mg/m以上30mg/m以下となるように調整することが好ましい。また、より好ましくは、乾燥後の皮膜量が1.5mg/m以上20mg/m以下となるように調整する。ケイ酸塩水溶液の塗布量が少なすぎると、ケイ酸塩の量が少なくなりすぎ、良好な接着耐久性を得られない場合がある。また、ケイ酸塩水溶液の塗布量が多くなりすぎると、形成される皮膜が厚くなりすぎて皮膜内で剥離がおこり、接着耐久性が損なわれる場合がある。
なお、上記したステップS1の皮膜形成工程では、エッチング処理段階の後にケイ酸塩処理段階を行っているが、これらを1回の処理で行ってもよい。具体的には、例えば、ケイ酸塩を含む、中性又はアルカリ性の水溶液を用いて酸化皮膜を処理してもよい。
<その他の工程>
本実施形態のアルミニウム合金材10の製造方法では、前述した各工程に悪影響を与えない範囲において、各工程の間又は前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、皮膜形成工程S2後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。この予備時効処理は、72時間以内に40〜120℃で、8〜36時間の低温加熱することにより行うことが好ましい。この条件で予備時効処理することにより、成形性及びベーキング後の強度向上を図ることができる。その他に、例えばアルミニウム合金材10の表面の異物を除去する異物除去工程や、各工程で発生した不良品を除去する不良品除去工程などを行ってもよい。
そして、製造されたアルミニウム合金材10は、接合体の作製前又は自動車用部材への加工前に、その表面にプレス油が塗布される場合がある。プレス油は、エステル成分を含有するものが主に使用される。アルミニウム合金材10にプレス油を塗布する方法や条件は、特に限定されるものではなく、通常のプレス油を塗布する方法や条件が広く適用でき、例えば、エステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に、アルミニウム合金材10を浸漬すればよい。なお、エステル成分もオレイン酸エチルに限定されるものではなく、ステアリン酸ブチルやソルビタンモノステアレートなど、様々なものを利用することができる。
以上詳述したように、本実施形態のアルミニウム合金材の製造方法によれば、ケイ酸塩水溶液による処理後の水洗や、シランカップリング剤による処理等の処理を行わなくとも高い接着耐久性を与える皮膜が得られるため、プロセス全体を縮小化でき、生産効率の観点からも非常に有用である。
本実施形態のアルミニウム合金材は、皮膜に接着樹脂を直接接合して用いられてもよい。ここで、上述したように、アルミニウム合金材の表面には、プレス油が塗布される場合があるが、本明細書においては、プレス油を塗布したアルミニウム合金材に接着樹脂を接合して用いる場合も、アルミニウム合金材の皮膜に接着樹脂を直接接合して用いることに包含されるものとする。
(第1の実施形態の変形例)
次に、本発明の第1の実施形態の変形例に係る接着樹脂層付きアルミニウム合金材について説明する。図3は本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材の構成を模式的に示す断面図である。なお、図3においては、図1に示すアルミニウム合金材10の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。図3に示すように、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11は、前述した第1の実施形態のアルミニウム合金材における皮膜2を覆うように、接着樹脂層4が直接形成されている。
[接着樹脂層4]
接着樹脂層4は、接着樹脂等からなり、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11は、この接着樹脂層4を介して他の部材と接合される。なお、他の部材には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と同様に皮膜が形成されている別のアルミニウム合金材、酸化皮膜が形成されていないアルミニウム合金材、樹脂成形体等が包含される。
接着樹脂層4を構成する接着樹脂は、特に限定されるものではなく、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂など、従来からアルミニウム合金材を接合する際に用いられてきた接着樹脂を用いることができる。なかでも、接着強度の観点からは、エポキシ系樹脂が好ましい。また、接着樹脂は1種のみを用いてもよく、あるいは複数を組み合わせて用いてもよい。
接着樹脂層4の厚さも、特に限定されるものではないが、10〜500μmが好ましく、50〜400μmがより好ましい。接着樹脂層4の厚さが10μm未満の場合には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と、他の接着樹脂層を備えていないアルミニウム合金材とを接着樹脂層4を介して接合する場合に、高い接着耐久性が得られないことがある。一方、接着樹脂層4の厚さが500μmを超える場合には、接着強度が小さくなる場合がある。
また、接着樹脂層4(接着樹脂)は、有機−無機カップリング剤をさらに含有していてもよい。接着樹脂層4(接着樹脂)に含まれる有機−無機カップリング剤の種類は特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤の他、チタネート系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤、ホスフェート系カップリング剤などが使用可能である。また、シランカップリング剤としては、接着樹脂と反応性の高いビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基等の官能基を少なくとも一つ以上有するシランカップリング剤を使用することが好ましい。シランカップリング剤の有する官能基の好適な具体例としては、例えば、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基等が挙げられる。ここで、有機−無機カップリング剤としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
[製造方法]
次に、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の製造方法について説明する。図4は、図3に示される本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の製造方法を示すフローチャート図である。図4に示すように、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11を製造する際は、前述したステップS1〜S2に加えて、接着樹脂層形成工程S3を行う。
<ステップS3:接着樹脂層形成工程>
接着樹脂層形成工程S3では、皮膜2を覆うように、接着樹脂層4を形成する。接着樹脂層4の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、接着樹脂が固体である場合には、熱を加えて圧着したり、これを溶剤に溶解させて溶液とした後に、また、接着樹脂が液状である場合にはそのまま、皮膜2の表面に噴霧したり塗布する方法が挙げられる。
また、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材11においても、前述した第1の実施形態と同様に、皮膜形成工程S2及び/又は接着樹脂層形成工程S3の後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。
本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材においては、接着樹脂層をあらかじめ備えるため、接合体や自動車用部材を作製する際に、アルミニウム合金材の表面に接着樹脂を塗布するなどの作業を省略することができる。なお、本変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材における上記以外の構成及び効果は、前述した第1の実施形態と同様である。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る接合体について説明する。本実施形態の接合体は、前述した第1の実施形態のアルミニウム合金材又はその変形例の接着樹脂層付きアルミニウム合金材を用いたものである。図5〜8Bは本実施形態の接合体の構成例を模式的に示す断面図である。なお、図5〜8Bにおいては、図1及び3に示すアルミニウム合金材10、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の構成要素と同じものには同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
[接合体の構成]
本実施形態の接合体は、例えば、図5に示す接合体20のように、図1に示す2枚のアルミニウム合金材10を、皮膜2が形成されている面同士が対向するように配置し、接着樹脂5を介して接合した構成とすることができる。即ち、接合体20では、接着樹脂5は、一面が一方のアルミニウム合金材10の皮膜2側に接合され、その他面が他方のアルミニウム合金材10の皮膜2側に接合されている。
ここで、本実施形態の接合体における接着樹脂5は、前述した接着樹脂層4を構成する接着樹脂と同様のものを使用することができる。具体的には、接着樹脂5は、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ニトリル系樹脂、ナイロン系樹脂、アクリル系樹脂などを使用することができる。また、接着樹脂5の厚さは、特に限定されるものではないが、接着強度向上の観点から、10〜500μmが好ましく、より好ましくは50〜400μmである。
接合体20では、前述したように、接着樹脂5の両面が、第1の実施形態のアルミニウム合金材10の皮膜2であるため、自動車用部材に用いた際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂5と皮膜2との界面の接着強度が低下しにくく、接着耐久性が向上する。また、本実施形態の接合体20では、接着樹脂5の種類に影響されず、従来からアルミニウム合金材の接合に用いられている接着樹脂全般において界面での接着耐久性が向上する。
また、図6Aに示す接合体21a又は図6Bに示す接合体21bのように、図1に示すアルミニウム合金材10の皮膜2が形成されている面に、接着樹脂5を介して、皮膜2が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は樹脂成形体7を接合した構成とすることもできる。
ここで、皮膜2が形成されていない他のアルミニウム合金材6には、前述した基材3と同様のものを使用することができ、具体的には、JISに規定される又はJISに近似する種々の非熱処理型若しくは熱処理型アルミニウム合金からなるものを使用することができる。
また、樹脂成形体7としては、例えば、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ボロン繊維強化プラスチック(BFRP)、アラミド繊維強化プラスチック(AFRP,KFRP)、ポリエチレン繊維強化プラスチック(DFRP)及びザイロン強化プラスチック(ZFRP)などの各種繊維強化プラスチックにより形成した繊維強化プラスチック成形体を用いることができる。これらの繊維強化プラスチック成形体を用いることにより、一定の強度を維持しつつ、接合体を軽量化することが可能となる。
なお、樹脂成形体7は、前述した繊維強化プラスチック以外に、ポリプロピレン(PP)、アクリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフタルアミド(PPA)などの繊維強化されていない樹脂を使用することもできる。
図6A及び図6Bに示す接合体21a,21bでは、接着樹脂5の片面がアルミニウム合金材10の皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、自動車用部材に用いた際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。また、図6Bに示す接合体21bは、アルミニウム合金材10と樹脂成形体7とを接合しているため、アルミニウム合金材同士の接合体に比べて軽量であり、この接合体21bを用いることにより自動車の更なる軽量化を実現することができる。なお、図6A及び図6Bに示す接合体21a,21bにおける上記以外の構成及び効果は、
図5に示す接合体20と同様である。
更に、図7に示す接合体22のように、図3に示す接着樹脂層4を備えた接着樹脂層付きアルミニウム合金材11と、図1に示す接着樹脂層4を備えていないアルミニウム合金材10とを接合した構成とすることもできる。具体的には、接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4側に、アルミニウム合金材10の皮膜2側が接合されたものである。その結果、アルミニウム合金材10の皮膜2と接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜2は、それぞれ接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4を介して、互いに対向するように配置された構成となっている。
接合体22では、接着樹脂層4の両面がアルミニウム合金材10の皮膜2と接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜2にそれぞれ接合されているため、前述した接合体20と同様に、接合体22を自動車用部材に用いた際に、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。なお、図7に示す接合体22における上記以外の構成及び効果は、図5に示す接合体20と同様である。
更に、図8Aに示す接合体23a又は図8Bに示す接合体23bのように、図3に示す接着樹脂層4を備えた接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の接着樹脂層4側に、皮膜2が形成されていない他のアルミニウム合金材6又は繊維強化プラスチック成形体などの樹脂成形体7を接合した構成とすることもできる。これら接合体23a,23bでは、接着樹脂層4の片面が接着樹脂層付きアルミニウム合金材11の皮膜2側に接合されているため、前述した接合体20と同様に、接合体23を自動車用部材に用いる際、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂の種類に影響されず、界面での接着耐久性が向上する。
また、図8Bに示す接合体23bは、接着剤層付きアルミニウム合金材11と樹脂成形体7とを接合しているため、アルミニウム合金材同士の接合体に比べて軽量であり、軽量化が求められている自動車や車両の部材に好適である。なお、図8A及び図8Bに示す接合体23a,23bにおける上記以外の構成及び効果は、図5に示す接合体20と同様である。
[接合体の製造方法]
前述した接合体20〜23の製造方法、特に接合方法は、従来公知の接合方法を用いることができる。そして、接着樹脂5をアルミニウム合金材に形成する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、予め接着樹脂5によって作製した接着シートを用いてもよいし、接着樹脂5を皮膜2の表面に噴霧または塗布することによって形成してもよい。なお、接合体20〜23は、アルミニウム合金材10や接着剤層付きアルミニウム合金材11と同様に、自動車用部材への加工前に、その表面にプレス油を塗布してもよい。
また、図示しないが、本実施形態の接合体に、両面に皮膜2が形成された(接着樹脂層付き)アルミニウム合金材を用いた場合、接着樹脂又は接着樹脂層を介して、これらの(接着樹脂層付き)アルミニウム合金材、皮膜が形成されていない他のアルミニウム合金材又は樹脂成形体を、さらに接合することが可能となる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る自動車用部材について説明する。本実施形態の自動車用部材は、前述した第2の実施形態の接合体を用いたものであり、例えば、自動車用パネルなどである。
また、本実施形態の自動車用部材の製造方法は、特に限定されるものではないが、従来公知の製造方法を適用することができる。例えば、図5〜8Bに示す接合体20〜23bに切断加工やプレス加工などを施して所定形状の自動車用部材を製造する。
本実施形態の自動車用部材は、前述した第2の実施形態の接合体から製造されるため、高温湿潤環境に曝されても、接着樹脂又は接着樹脂層と、皮膜の水和の影響をほとんど受けることなく、アルミニウム合金基材の溶出も抑制できる。その結果、本実施形態の自動車用部材では、高温湿潤環境に曝された場合の界面剥離を抑制し、接着強度の低下を抑制することが可能となる。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、以下に示す方法及び条件で、アルミニウム合金材を作製し、その接着耐久性などを評価した。
<実施例1>
JIS6016(Mg:0.54質量%、Si:1.11質量%、Cu:0.14質量%)の6000系アルミニウム合金を用いて、板厚1mmのアルミニウム合金冷延板を作製した。そして、この冷延板を長さ100mm、幅25mmに切断して基材とした。次に、この基材を、実体到達温度550℃まで加熱処理し、冷却した。続いて、基材を水酸化カリウムを含むpH13の水溶液で50℃にて40秒アルカリ脱脂した後、硫酸及びフッ酸を含むpH1の溶液で50℃にて40秒酸洗した。その後、メタケイ酸ナトリウムを0.018質量%含む水溶液(以下、ケイ酸ナトリウム水溶液ともいう)を、バーコーターで表面に均一に塗布した。その後、100℃で1分間加熱乾燥させて、表面に皮膜を有する実施例1のアルミニウム合金材を得た。
<実施例2>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.055質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例2のアルミニウム合金材を得た。
<実施例3>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.084質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例3のアルミニウム合金材を得た。
<実施例4>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.12質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例4のアルミニウム合金材を得た。
<実施例5>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.24質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例5のアルミニウム合金材を得た。
<実施例6>
アルカリ脱脂の時間を20秒とし、硫酸フッ酸による酸洗を行わず、ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.084質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例6のアルミニウム合金材を得た。
<実施例7>
アルカリ脱脂の時間を100秒とし、硫酸フッ酸による酸洗の時間を100秒とし、ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.084質量%とした以外は実施例1と同様にして、実施例7のアルミニウム合金材を得た。
<実施例8>
ケイ酸塩水溶液中のケイ酸化合物としてカネマイト(商品名:プリフィード、株式会社トクヤマシルテック製、n/m=2)を濃度0.10質量%で用いた以外は実施例1と同様にして、実施例8のアルミニウム合金材を得た。
<実施例9>
ケイ酸塩水溶液中のケイ酸化合物として3号水ガラス(和光純薬製、n/m=3)を濃度0.09質量%で用いた以外は実施例1と同様にして、実施例9のアルミニウム合金材を得た。
<比較例1>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.61質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例1のアルミニウム合金材を得た。
<比較例2>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.0061質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例2のアルミニウム合金材を得た。
<比較例3>
ケイ酸ナトリウム水溶液による処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、比較例3のアルミニウム合金材を得た。
<比較例4>
ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.12質量%とし、処理後に表面を水洗した以外は実施例1と同様にして、比較例4のアルミニウム合金材を得た。
<比較例5>
アルカリ脱脂及び酸洗を行わず、ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.084質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例5のアルミニウム合金材を得た。
<比較例6>
硫酸フッ酸による酸洗時間を300秒とし、ケイ酸ナトリウム水溶液中のメタケイ酸ナトリウム濃度を0.084質量%とした以外は実施例1と同様にして、比較例6のアルミニウム合金材を得た。
(IRスペクトル測定)
表面に皮膜を有する各実施例及び比較例に係るアルミニウム合金材について、入射角75°の平行偏光を使用して、FT−IR(フーリエ変換式赤外分光光度計:Nicolet社製 Magna−750 spectrometer)分析することによりIRスペクトルを測定し、皮膜処理前後での差スペクトルから1440〜1540cm−1の波数領域及び1550〜1650cm−1の波数領域におけるスペクトル強度(吸光度)を読み取った。その結果を表1に示す。なお、表1中の「−」とは、吸光度が測定されなかったことを表す。
(皮膜成分の元素濃度測定)
皮膜中の元素成分濃度は、高周波グロー放電発光分光分析法(GD−OES:ホリバ・ジョバンイボン社製型式JY−5000RF)により膜厚方向にスパッタしながら測定し、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)、銅(Cu)、鉄(Fe)及びチタン(Ti)等の金属元素、及び酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)、ケイ素(Si)及び硫黄(S)等の元素について、各成分量の測定を行った。マグネシウム(Mg)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、リチウム(Li)、銅(Cu)及びケイ素(Si)については、皮膜中の最大濃度を、その皮膜中の皮膜濃度とした。アルミニウム(Al)については、基材と皮膜との界面近傍では基材の影響を受けるため、最表面の濃度をアルミニウム(Al)の皮膜濃度とした。ここで、これら各元素の濃度の算出において、特に酸素(O)及び炭素(C)は最表面やその近傍でコンタミの影響を受けやすい。以上のことから、各元素の濃度計算では、酸素(O)及び炭素(C)を除いて、濃度を算出した。なお、酸素(O)は、最表面及びその近傍ではコンタミの影響を受ける可能性が高く、正確な濃度を測定することは難しいが、すべてのサンプルの皮膜には酸素(O)が含まれていることは明確であった。結果を表1に示す。
(皮膜量測定)
皮膜量は、蛍光X線によって測定した。具体的には、蛍光X線によって皮膜中のケイ素量を測定し、校正曲線を用いて、蛍光X線の強度と皮膜量の換算を行い、さらに基材に含まれるケイ素量を差し引くことにより算出した。結果を表1に示す。
<エッチング量の測定>
エッチング量は、酸化皮膜や酸化皮膜を含む基材の溶解量であり、エッチング処理前後の重量の減少量を測定し、それを厚み(膜厚)として見積もった。なお、重量の減少量から膜厚への換算は、便宜上、アルミニウムの密度:2.7g/cmを用い、アルミニウムの厚みとして計算することにより行った。
<凝集破壊率(接着耐久性)>
図9A及び図9Bは凝集破壊率の測定方法を模式的に示す図であり、図9Aは側面図であり、図9Bは平面図である。図9A及び図9Bに示すように、構成が同じ2枚の供試材31a,31b(25mm幅)の端部を、熱硬化型エポキシ樹脂系接着樹脂によりラップ長10mm(接着面積:25mm×10mm)となるように重ね合わせ貼り付けた。
ここで用いた接着樹脂35は熱硬化型エポキシ樹脂系接着樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂量40〜50質量%)である。また、接着樹脂35の厚さが250μmとなるように微量のガラスビーズ(平均粒径250μm)を接着樹脂35に添加して調節した。
重ね合わせてから30分間、室温で乾燥させて、その後、170℃で20分間加熱し、熱硬化処理を実施した。その後、室温で24時間静置して接着試験体を作製した。
作製した接着試験体を、40℃、濃度5%の塩化ナトリウム水溶液に20日間浸漬後、引張試験機にて50mm/分の速度で引張り、接着部分の接着樹脂の凝集破壊率を評価した。凝集破壊率は下記数式1に基づいて算出した。なお、下記数式1においては、接着試験体の引張後の片側を試験片a、もう片方を試験片bとした。
各試験条件とも3本ずつ作製し、凝集破壊率は3本の平均値とした。また、評価基準は、凝集破壊率が60%未満を不良(×)、60%以上70%未満をやや良好(△)、70%以上90%未満を良好(○)90%以上を優れている(◎)とした。その結果を表1に示す。
表1に示されるように、比較例1のアルミニウム合金材は、皮膜中のSi濃度が本発明に規定の範囲よりも高く、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収を有さないものであり、接着耐久性に乏しかった。なお、比較例1のアルミニウム合金材は、1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有していた。
また、比較例2のアルミニウム合金材は、皮膜中のSi濃度が本発明に規定の範囲よりも低く、1550〜1650cm−1の波数領域における吸光度が本発明に規定の範囲よりも小さいものであり、接着耐久性に乏しかった。
また、比較例3のアルミニウム合金材は、皮膜中のSi濃度が本発明に規定の範囲よりも低く、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収を有さないものであり、接着耐久性に乏しかった。なお、比較例3のアルミニウム合金材は、1440〜1540cm−1の波数領域にも吸収を有していなかった。
また、比較例4のアルミニウム合金材は、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収を有さないものであり、接着耐久性に乏しかった。なお、比較例4のアルミニウム合金材は、1440〜1540cm−1の波数領域にも吸収を有していなかった。
また、比較例5のアルミニウム合金材は、皮膜中のMg濃度が本発明に規定の範囲よりも高く、接着耐久性に乏しかった。
また、比較例6のアルミニウム合金材は、皮膜中のCu濃度が本発明に規定の範囲よりも高く、接着耐久性に乏しかった。
一方、本発明に規定の各要件を満足する実施例1〜9のアルミニウム合金材は、高温高湿環境下での良好な湿潤耐久性を有していた。
2 皮膜
3 基材
4 接着樹脂層
5、35 接着樹脂
6、10 アルミニウム合金材
11 接着樹脂層付きアルミニウム合金材
7 樹脂成形体
20、21a、21b、22、23a、23b 接合体
31a、31b 供試材

Claims (11)

  1. アルミニウム合金基材と、
    前記アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部に形成された、ケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を備えるアルミニウム合金材であって、
    前記皮膜は、フーリエ変換式赤外分光法により入射角75°の平行偏光を入射して得られる皮膜処理前後での差スペクトルにおいて、1550〜1650cm−1の波数領域に吸収のピークトップを有し、前記ピークトップにおける吸光度が0.001以上であり、かつ、前記皮膜は、Siを20原子%以上80原子%未満及びMgを0.1原子%以上30原子%未満含有するとともに、Cuが0.6原子%未満に規制されているアルミニウム合金材。
  2. 前記差スペクトルにおいて、1440〜1540cm−1の波数領域に吸収を有さない請求項1に記載のアルミニウム合金材。
  3. 前記皮膜に接着樹脂を直接接合して用いられる請求項1又は2に記載のアルミニウム合金材。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材の前記皮膜上に接着樹脂層が直接形成されている、接着樹脂層付きアルミニウム合金材。
  5. 前記接着樹脂層が有機−無機カップリング剤を含む請求項4に記載の接着樹脂層付きアルミニウム合金材。
  6. 前記接着樹脂層がエポキシ系樹脂を含む請求項4又は5に記載の接着樹脂層付きアルミニウム合金材。
  7. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金材と他の部材とを、接着樹脂を介して接合させた接合体。
  8. 請求項4〜6のいずれか1項に記載の接着樹脂層付きアルミニウム合金材と他の部材とを、前記接着樹脂層を介して接合させた接合体。
  9. アルミニウム合金基材の表面の少なくとも一部にケイ素を含むアルミニウムの酸化物からなる皮膜を形成する皮膜形成工程を備えるアルミニウム合金材の製造方法であって、
    前記皮膜形成工程は、前記アルミニウム合金基材の表面に酸化皮膜を形成させる加熱処理段階と、前記加熱処理段階後のエッチング処理段階及びケイ酸塩処理段階とを含み、前記ケイ酸塩処理段階は前記エッチング処理段階より後あるいは前記エッチング処理段階と
    同時であり、
    前記ケイ酸塩処理段階として、ケイ酸塩を0.008質量%以上0.5質量%未満含む水溶液で前記酸化皮膜を処理する、アルミニウム合金材の製造方法。
  10. 前記ケイ酸塩を含む水溶液による処理の後には水洗を行わない請求項9に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
  11. 前記エッチング処理段階におけるエッチング量を700nm未満に制御する請求項9又は10に記載のアルミニウム合金材の製造方法。
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