JP6278882B2 - 表面処理アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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また、本発明に係る表面処理アルミニウム合金板の製造方法は、脱脂性、化成処理性および接着性に優れる表面処理アルミニウム合金板を製造できる。また、本発明に係る製造方法は、従来行われていた酸洗浄等を省略できるため、コストダウンを図ることができる。
以下、本発明に係る表面処理アルミニウム合金板について、図1を参照して具体的に説明する。図1に示すように、本発明に係る表面処理アルミニウム合金板10は、基板1と、この基板1の表面に形成された酸化皮膜2と、この酸化皮膜2の表面に形成されたジルコニウムを含有するジルコニウム系皮膜3と、このジルコニウム系皮膜3の表面に形成されたビニルホスホン酸を含有するビニルホスホン酸系皮膜4と、を備える。そして、酸化皮膜2の膜厚、ジルコニウム系皮膜3の付着量、ビニルホスホン酸系皮膜4の膜厚を規定したものである。
なお、ここで、基板1の表面とは、基板1の表面の少なくとも一面を意味し、いわゆる表面、裏面が含まれる。
以下、各構成について説明する。
基板1は、アルミニウム合金からなり、その板厚は表面処理アルミニウム合金板10の用途に応じて適宜設定される。また、基板1の材料となるアルミニウム合金も、表面処理アルミニウム合金板10の用途に応じて、JISに規定される、またはJISに近似する種々の非熱処理型アルミニウム合金または熱処理型アルミニウム合金から適宜選択される。なお、非熱処理型アルミニウム合金は、純アルミニウム(1000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Si系合金(4000系)およびAl−Mg系合金(5000系)であり、熱処理型アルミニウム合金は、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)およびAl−Zn−Mg系合金(7000系)である。
Mgは、強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.2質量%以上であれば、強度向上の効果が大きい。一方、Mgの含有量が1.5質量%以下であれば、成形性が向上しやすくなる。
Siは、強度を向上させる効果がある。Siの含有量が0.3質量%以上であれば、強度向上の効果が大きい。一方、Siの含有量が2.3質量%以下であれば、成形性、熱間圧延性が向上しやすくなる。
Cuは、強度を向上させる効果がある。Cuの含有量が1.0質量%以下であれば、耐食性が向上しやすくなる。好ましくは、0.1質量%以上である。
Bは、鋳塊の結晶粒や晶出物を微細にし、成形性を向上させる効果がある。Bの含有量が0.06質量%以下であれば、粗大な晶出物が抑制され、成形性が向上しやすくなる。なお、Ti、Bの合計量は0.09質量%以下であることが好ましい。
Mn、Cr、Fe、Zr、Vは、強度を向上させる効果がある。含有量がそれぞれ、0.8質量%、0.4質量%、0.5質量%、0.2質量%、0.2質量%以下であれば、粗大な晶出物が抑制され、成形性が向上しやすくなる。なお、Mn、Cr、Fe、Zr、Vの合計量は1.0質量%以下であることが好ましい。
酸化皮膜2は、基板1の表面に形成される凸凹状の多孔質皮膜であり、基板1が6000系合金からなる場合には、酸化マグネシウムを主成分とする皮膜である。
そして、酸化皮膜2は、表面処理アルミニウム合金板10の製造過程における熱処理等により、基板1の表面に不可避的に形成されるものである。酸化皮膜2の膜厚は1〜30nmである。酸化皮膜2の膜厚は、表面処理アルミニウム合金板10の製造過程(加熱工程)における加熱温度によって制御する。
酸化皮膜2の膜厚が1nm未満では、防錆油およびプレス油中のエステル成分の吸着が抑制されるため、ジルコニウム系皮膜3およびビニルホスホン酸系皮膜4が無くても脱脂性、化成処理性および接着性は確保されるが、膜厚を1nm未満に制御するには酸洗浄等が必要となる。そのため、生産性に劣り、実用的ではない。一方、酸化皮膜2の膜厚が30nmを超えると、ジルコニウム系皮膜3およびビニルホスホン酸系皮膜4を設けても、脱脂性、化成性、接着性を確保することができない。酸化皮膜2の膜厚は、脱脂性、化成性、接着性をより向上させやすくする観点から、好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下である。
ジルコニウム系皮膜3は、酸化皮膜2の表面に形成された皮膜である。ジルコニウム系皮膜3は、ジルコニウムを含有し、酸化皮膜2に対する付着量が二酸化ジルコニウム換算量で0.01〜25mg/m2の皮膜である。ジルコニウム系皮膜3の付着量は、表面処理アルミニウム合金板10の製造過程(冷却工程)における硝酸ジルコニウム水溶液の濃度およびpHによって制御する。
ジルコニウム系皮膜3の付着量が0.01mg/m2未満では、凹凸状の酸化皮膜2を十分にカバーしきれず、また、酸化皮膜2を十分にカバーできても、ジルコニウム系皮膜3中のZr成分が不足するため、脱脂性、化成処理性および接着性が確保できない。一方、ジルコニウム系皮膜3を25mg/m2を超えて付着させても、脱脂性の向上効果は飽和し、生産コストが高くなる。ジルコニウム系皮膜3の付着量は、酸化皮膜2をよりカバーしやすくしたり、ジルコニウム系皮膜3中のZr成分をより十分なものとしたりする観点から、好ましくは二酸化ジルコニウム換算量で0.1mg/m2以上、より好ましくは1mg/m2以上である。また、付着量を抑えて生産性をより向上させる観点から、好ましくは二酸化ジルコニウム換算量で10mg/m2以下、より好ましくは5mg/m2以下である。
ビニルホスホン酸系皮膜4は、ジルコニウム系皮膜3の表面に形成されたビニルホスホン酸を含有する皮膜である。表面処理アルミニウム合金板10は、ビニルホスホン酸系皮膜4を備えることで、接着性を向上させることができる。
また、ビニルホスホン酸系皮膜4の膜厚は0.1〜10nmである。ビニルホスホン酸系皮膜4の膜厚は、表面処理アルミニウム合金板10の製造過程(ビニルホスホン酸系皮膜形成工程)での条件によって制御する。
ビニルホスホン酸系皮膜4の膜厚が0.1nm未満では、充分なアンカー効果が得られず、接着性を確保することができない。一方、10nmを超える膜厚としても、その効果は飽和し、生産コストが高くなる。したがって、ビニルホスホン酸系皮膜4の膜厚は0.1〜10nmとする。ビニルホスホン酸系皮膜4の膜厚は、ビニルホスホン酸系皮膜4の生成をより容易にする観点から、また、接着性をより向上させやすくする観点から、好ましくは1nm以上である。また、膜厚を薄くして生産性をより向上させる観点から、好ましくは5nm以下である。
次に、本発明に係る表面処理アルミニウム合金板の製造方法について、図2を参照して説明する。なお、表面処理アルミニウム合金板の構成については、図1を参照する。
以下、各工程について説明する。
基板作製工程S1は、圧延によって基板1を作製する工程である。具体的には、以下のような手順で基板1を作製することが好ましい。
加熱工程S2は、基板1を400〜580℃に加熱して、基板1の表面に酸化皮膜2を形成する工程である。また、加熱工程S2は、表面処理アルミニウム合金板10の強度を調整する工程でもある。なお、加熱工程S2は、加熱速度100℃/分以上の急速加熱とすることが好ましい。また、加熱速度は500℃/分以下であることが好ましい。
加熱温度400℃以上に急速加熱することで、表面処理アルミニウム合金板10の強度、および、その表面処理アルミニウム合金板10の塗装後加熱(ベーキング)した後の強度がより高くなる。加熱温度580℃以下に急速加熱することで、バーニングの発生による成形性の低下が抑制される。また、加熱温度400〜580℃で加熱することで、基板1の表面に所定膜厚(1〜30nm)の酸化皮膜2が形成される。なお、強度を向上させる観点から、保持時間は、3〜30秒が好ましい。
冷却工程S3は、酸化皮膜2が形成された基板1を冷却して、酸化皮膜2の表面にジルコニウム系皮膜3を形成する、すなわち、冷却処理と表面処理とを同時に行なう工程である。なお、冷却工程S3は、冷却速度100℃/分以上で100℃まで急速冷却することが好ましい。100℃までの冷却速度を100℃/分以上とすることで、成形性の低下がより抑制されると共に、ベーキング後の強度がより高くなる。また、100℃までの冷却速度は500℃/分以下であることが好ましい。
冷却液として所定濃度の硝酸ジルコニウム水溶液を用いることで、ジルコニウム系皮膜3の付着量が所定範囲(二酸化ジルコニウム換算量:0.01〜25mg/m2)となる。硝酸ジルコニウム水溶液の濃度が0.005g/L未満では、ジルコニウム系皮膜3の付着量が少なく(二酸化ジルコニウム換算量で0.01mg/m2未満)、表面処理アルミニウム合金板10の脱脂性、化成処理性および接着性が確保できない。一方、濃度が5g/Lを超えると、ジルコニウム系皮膜3の付着量が多く(二酸化ジルコニウム換算量で25mg/m2を超える)、脱脂性の向上効果が飽和し、生産コストが高くなる。硝酸ジルコニウム水溶液の濃度は、ジルコニウム系皮膜3の付着量をより十分なものとする観点から、好ましくは0.025g/L以上、より好ましくは0.05g/L以上である。また、ジルコニウム系皮膜3の付着量を抑えて生産性をより向上させる観点から、好ましくは0.5g/L以下、より好ましくは0.25g/L以下である。
pHがマイナスになる場合は強酸になるため、製造設備に悪影響を与える等の理由から、本発明で用いる硝酸ジルコニウム水溶液についてはそのようなケースは想定せず、冷却液としての硝酸ジルコニウム水溶液のpHは0以上とする。一方、pHが5を超えると、冷却液の安定性が低下し、冷却液中に沈殿が発生しやすくなる。冷却液中に沈殿が発生すると、表面処理アルミニウム合金板10の板表面に沈殿が異物として押し込まれ、外観不良となるため、好ましくない。冷却水としての硝酸ジルコニウム水溶液のpHは、ジルコニウム系皮膜3をより形成させやすくする観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上である。また、冷却液中の沈殿の発生より抑制しやすくする観点から、好ましくは4以下、より好ましくは3以下である。
ビニルホスホン酸系皮膜形成工程S4は、ジルコニウム系皮膜3の表面にビニルホスホン酸を含有する水溶液を接触させて、ジルコニウム系皮膜3の表面にビニルホスホン酸系皮膜4を形成する工程である。
ビニルホスホン酸系皮膜形成工程S4では、pHが0.5〜3であり、50〜70℃のビニルホスホン酸水溶液に1〜90秒間浸漬し、余分な薬液を水洗した後、室温〜120℃で適宜乾燥させることが好ましい。
その他、例えば表面処理アルミニウム合金板10の板表面の異物を除去する異物除去工程や、各工程で発生した不良品を除去する不良品除去工程等を含めてもよい。
次に、本発明に係る表面処理アルミニウム合金板10にプレス油を塗布する方法について説明する。
プレス油の塗布の方法としては、例えば、エステル成分としてオレイン酸エチルを含有するプレス油に、表面処理アルミニウム合金板10を浸漬させるだけでよい。エステル成分を含有するプレス油を塗布する方法や条件は、特に限定されるものではなく、通常のプレス油を塗布する方法や条件が広く適用できる。また、エステル成分もオレイン酸エチルに限定されるものではなく、ステアリン酸ブチルやソルビタンモノステアレート等、様々なものを利用することができる。
このように製造された表面処理アルミニウム合金板10では、所定膜厚の酸化皮膜2と、所定付着量のジルコニウムを含有するジルコニウム系皮膜3と、所定膜厚のビニルホスホン酸系皮膜4と、を備えるため、脱脂性、化成処理性および接着性が向上する。
なお、これらの具体的な測定方法については前述したとおりである。
その結果を表1に示す。なお、表1において、「−」は皮膜を有さないものである。また、本発明の規定を満たさないものは数値に下線を引いて示す。
<脱脂性(水濡れ面積率)>
各供試材を、15〜35℃で50〜90%RHの環境室内に6ヶ月放置した。そして、6ヶ月後に、市販自動車用の炭酸ソーダ系脱脂浴に40℃×2分間浸漬(スターラーによる攪拌あり)し、30秒間水洗(流水)した後の供試材面積に対する水濡れ面積率(表裏の平均)を測定した(良好な程、高い数値となり、完全に水濡れする場合は100%となる)。これにより、化成処理時の水濡れ性、すなわち、脱脂性を評価することができる。各供試材は、それぞれ3枚とし、水濡れ面積率は、これらの平均値とした。なお、湿潤環境室内に保持する前の初期値は全て100%であった。水漏れ面積率が80%以上のものを、脱脂性が良好、80%未満のものを、脱脂性が不良とした。
各供試材を、炭酸ソーダ系脱脂浴に40℃×2分間浸漬(スターラーによる攪拌あり)して、供試材表面を脱脂処理した。次に、室温の亜鉛系表面調整浴に1分間浸漬(スターラーによる攪拌あり)した後、35℃リン酸亜鉛浴に2分間浸漬(スターラーによる攪拌あり)して、供試材表面を化成処理した。そして、化成処理後の供試材表面に発生する化成処理ムラを目視にて観察し、化成処理性を評価した。化成処理性の評価において、化成処理ムラの発生が無かったものを、表中「なし」と記して、化成処理性が良好とし、化成処理ムラが発生したものを、表中「あり」と記して、化成処理性が不良とした。
構成が同じ2枚の供試材(25mm幅)の端部を、熱硬化型エポキシ樹脂系接着剤(サンスター技研株式会社製、ペンギンセメント#1086)を介して、ラップ長13mm(接着面積:25mm×13mm=325mm2)となるように重ね合わせた。なお、接着剤層の膜厚が150μmとなるように微量のガラスビーズ(粒径150μm)を接着剤に添加して調節した。重ね合わせてから30分、室温で乾燥させて、次いで、170℃で20分間加熱して接着剤を硬化させた。その後、さらに室温で24時間静置して、接着試験体とした。
凝集破壊率(%)=100−{(試験片Aの界面剥離面積/試験片Aの接着面積)×100}+{(試験片Bの界面剥離面積/試験片Bの接着面積)×100}・・・(1)
一方、供試材No.17〜22(比較例)は、本発明の構成を満たさないため、以下の結果となった。
供試材No.18は、酸洗浄を行い、前記特許文献等に記載された従来の表面処理アルミニウム合金板を想定したものであるが、ジルコニウム系皮膜およびビニルホスホン酸系皮膜がないため、脱脂性、化成処理性および接着性が不良であった。また、酸洗浄を行ったため、生産性も劣っていた。
供試材No.21は、酸化皮膜の膜厚およびビニルホスホン酸系皮膜の膜厚が本発明の範囲内であったが、ジルコニウム系皮膜の付着量が下限値未満のため、脱脂性、化成処理性および接着性が不良であった。
供試材No.22は、酸化皮膜の膜厚およびジルコニウム系皮膜の付着量が本発明の範囲内であったが、ビニルホスホン酸系皮膜の膜厚が下限値未満のため、接着性が不良であった。
2 酸化皮膜
3 ジルコニウム系皮膜
4 ビニルホスホン酸系皮膜
10 表面処理アルミニウム合金板
S1 基板作製工程
S2 加熱工程
S3 冷却工程
S4 ビニルホスホン酸系皮膜形成工程
Claims (3)
- アルミニウム合金からなる基板と、前記基板の表面に形成された酸化皮膜と、前記酸化皮膜の表面に形成されたジルコニウムを含有するジルコニウム系皮膜と、前記ジルコニウム系皮膜の表面に形成されたビニルホスホン酸を含有するビニルホスホン酸系皮膜と、を備える表面処理アルミニウム合金板であって、
前記酸化皮膜は、膜厚が1〜30nmであり、
前記ジルコニウム系皮膜は、前記酸化皮膜に対する付着量が二酸化ジルコニウム換算量で0.01〜25mg/m2であり、
前記ビニルホスホン酸系皮膜は、膜厚が0.1〜10nmであることを特徴とする表面処理アルミニウム合金板。 - 圧延によってアルミニウム合金からなる基板を作製する基板作製工程と、
前記基板を400〜580℃に加熱して前記基板の表面に酸化皮膜を形成する加熱工程と、
前記酸化皮膜が形成された前記基板を冷却して、前記酸化皮膜の表面にジルコニウム系皮膜を形成する冷却工程と、
前記ジルコニウム系皮膜の表面にビニルホスホン酸を含有する水溶液を接触させて、前記ジルコニウム系皮膜の表面にビニルホスホン酸系皮膜を形成するビニルホスホン酸系皮膜形成工程と、を含み、
前記冷却工程において、濃度が0.005〜5g/Lであり、pHが0〜5の二硝酸酸化ジルコニウム水溶液を冷却液として用いることを特徴とする表面処理アルミニウム合金板の製造方法。 - 前記基板が熱処理型アルミニウム合金からなり、前記加熱工程が前記基板に溶体化処理を施す溶体化処理工程であって、前記冷却工程が前記酸化皮膜が形成された前記基板に焼入処理を施す焼入工程であることを特徴とする請求項2に記載の表面処理アルミニウム合金板の製造方法。
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