JP2017193667A - β−1,3−グルカン誘導体及びその製造方法、並びに成形体 - Google Patents

β−1,3−グルカン誘導体及びその製造方法、並びに成形体 Download PDF

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Abstract

【課題】熱可塑性を有するβ−1,3−グルカン誘導体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】β−1,3−グルカンを、カルボン酸と酸無水物との反応物を含有し、前記カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と前記酸無水物のアルキル鎖の炭素数とが異なるアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させることを特徴とする。カルボン酸のアルキル鎖の炭素数、及び酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、いずれも、1以上12以下であることが好ましい。カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と、酸無水物のアルキル鎖の炭素数との差が、1以上5以下であることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、β−1,3−グルカン誘導体及びその製造方法に関する。
近年、環境負荷の小さい樹脂としてバイオプラスチックが注目を集めている。バイオプラスチックは、植物や微生物などの生物資源を原料とする合成樹脂であり、代表的には、植物に含まれる多糖類であるセルロースを原料とする樹脂が知られている。セルロースを原料とする樹脂は、熱流動性がなく成形性に劣るので、熱流動性を高めるための種々の工夫がなされている。例えば、特許文献1には、セルロースとイオン液体とからなる混合物へ2種以上のエステル化剤を逐次添加して、置換度分布や置換基分布が制御されたセルロース混合エステルを製造する技術が提案されている。また、特許文献2には、分子量10万以上18万未満のセルロース脂肪酸エステル50〜80重量%と分子量4万以上10万未満のセルロース脂肪酸エステル5〜30重量%とを少なくとも含むセルロース脂肪酸エステル組成物を製造する技術が提案されている。
セルロースに基本構造が似ている多糖類として、パラミロンに代表されるβ−1,3−グルカンがある。β−1,3−グルカンは、β−1,3−結合によりグルコースが連結されている点で、β−1,4−結合によりグルコースが連結されているセルロースと、グルコースの結合様式が類似する。また、熱流動性がないことも共通する。しかし、β−1,3−グルカンは、高分子鎖が三重らせん構造をとることができ、シート状の構造をとるセルロースとは高分子鎖の構造が異なっている。この構造の違いによって、β−1,3−グルカンは、セルロースとは異なる独自の物性と反応特性を有している。
β−1,3−グルカンの熱可塑性を高める技術として、特許文献3には、β−1,3−グルコシド結合により構成されるグルカンを主鎖とする高分子中の水酸基の少なくとも一部と、カルダノール又はその誘導体とを、エステル結合、エーテル結合、又はウレタン結合により結合させてβ−1,3−グルカン誘導体を製造する技術が提案されている。また、特許文献4には、β−1,3−グルカンを構成するグルコース中の水酸基の一部を長鎖炭化水素基でアシル化した後、残存している水酸基の一部を短鎖脂肪酸又は安息香酸でアシル化することによってβ−1,3−グルカン誘導体を得る技術が提案されている。非特許文献1には、フッ素系溶媒であるトリフルオロ酢酸無水物を反応促進剤及び溶媒として用い、パラミロン、酢酸及び長鎖脂肪酸からなる混合エステルをワンポット合成で得る方法が提案されている。
特開2011−74113号公報 特開2007−99980号公報 特開2014−98095号公報 国際公開第2014/077340号 Carbohydrate Polymers,119,2015,p1−7
本発明は、熱可塑性を有するβ−1,3−グルカン誘導体及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、従来よりも簡易な方法でβ−1,3−グルカンの熱可塑性を高める技術について鋭意研究を進めた。その結果、カルボン酸及び酸無水物の反応物を含むアシル化剤を用いたアシル化反応を応用することで、非フッ素系溶媒を用いずにかつ簡便に熱可塑性を有するβ−1,3−グルカン誘導体を得ることができるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るβ−1,3−グルカン誘導体の製造方法は、β−1,3−グルカンを、カルボン酸と酸無水物との反応物を含有し、前記カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と前記酸無水物のアルキル鎖の炭素数とが異なるアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させることを特徴とする。
本発明において、カルボン酸のアルキル鎖の炭素数、及び酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、いずれも、1以上12以下であることが好ましい。
本発明において、カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と、酸無水物のアルキル鎖の炭素数との差が、1以上5以下であることが好ましい。
本発明において、酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、2以上7以下であることが好ましい。
また、本発明に係るβ−1,3−グルカン誘導体は、炭素数が異なる2種以上のアシル基を有することを特徴とする。
本発明において、2種以上のアシル基が、いずれも、炭素数が1以上12以下であることが好ましい。
本発明に係るβ−1,3−グルカン誘導体は、カルボン酸由来のアシル基の置換度が、グルコースユニット1つあたり0.05以上1.5以下であり、酸無水物由来のアシル基の置換度が、グルコースユニット1つあたり1.0以上2.8以下であるように構成することができる。
本発明に係るβ−1,3−グルカン誘導体において、温度240℃、荷重37.26N又は98.07Nで測定したメルトボリュームレートが、1cm/10分以上であることが好ましい。
また、本発明に係る成形体は、上記いずれかに記載のβ−1,3−グルカン誘導体又は該誘導体を含む組成物からなることを特徴とする。
本発明において、成形体が、フィルム又は繊維であるように構成することができる。
本発明によれば、熱可塑性を有するβ−1,3−グルカン誘導体及びその製造方法を提供することができる。
β−1,3−グルカン誘導体を用いて作製したフィルムのX線回折図である。 セルロース誘導体を用いて作製したフィルムのX線回折図である。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
[β−1,3−グルカン誘導体の製造方法]
β−1,3−グルカン誘導体の製造方法は、β−1,3−グルカンを、互いにアルキル鎖の炭素数が異なるカルボン酸及び酸無水物を含有するアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させて、β−1,3−グルカン誘導体を得る方法である。
(β−1,3−グルカン)
β−1,3−グルカンは、主に藻類や菌類などにより生産される多糖類である。β−1,3−グルカンは、精製が容易であり、精製工程はセルロースよりも温和な条件で行うことができる。すなわち、植物のセルロースは、リグニンやヘミセルロースと強固に結びついた形で存在しており、セルロースを単離するためには複雑でかつ強酸等を用いる苛烈な精製工程を必要とする。これに対して、藻類や菌類のβ−1,3−グルカンは、多くの場合、それ単独で存在しているため精製は容易であり、強酸等を用いる必要もない。そのため、β−1,3−グルカンは、精製工程を経ても解重合しにくく、天然高分子特有の、分子鎖長の分布が狭い単分散状態をおおよそ保って単離することができる。
β−1,3−グルカンをバイオプラスチックの原料として用いる場合、この単分散性が大きな特徴となる。すなわち、この単分散性はアシル化反応を通じて維持されるため、得られるβ−1,3−グルカン誘導体は、融点の差に起因する欠陥が生じ難い。また、β−1,3−グルカンは、セルロースよりも高純度で単離できるため、得られるβ−1,3−グルカン誘導体はセルロース誘導体よりも透過率が高い傾向にある。
ここで用いるβ−1,3−グルカンは、側鎖を有していてもよく側鎖を有していなくてもよい。側鎖を有するβ−1,3−グルカンとしては、シゾフィラン、レンチナン等が挙げられる。側鎖を有さないβ−1,3−グルカンとしては、カードラン、パラミロン等を挙げることができる。
β−1,3−グルカンは、合成品であってもよいが、環境負荷低減の点から、生物由来のものが好ましく、植物由来のものがより好ましい。中でも、β−1,3−グルカンの単離精製が容易であることから、細胞内でβ−1,3−グルカンを合成する微細藻類から分離したβ−1,3−グルカンを原料として用いることが好ましい。微細藻類としては、ユーグレナ(ユーグレナ植物門に属する微細藻類)が好ましい。ユーグレナは、培養が容易であり、成長サイクルも早いことに加えて、光合成産物としてパラミロン粒子を細胞内に大量に蓄積するためである。ユーグレナが合成及び蓄積するパラミロンは、通常1500〜2000個のグルコースがβ−1,3結合してなるβ−1,3−グルカンである。なお、パラミロン等のβ−1,3−グルカンの微細藻類からの分離は、常法により行うことができる。
(アシル化剤)
アシル化剤は、カルボン酸と酸無水物との反応物を含有し、前記カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と前記酸無水物のアルキル鎖の炭素数とが異なる。なお、「アルキル鎖の炭素数」とは、エステル結合を切断した場合の炭素数であり、以下の式1,2中のR1,R2の炭素数のことである。
式1,2において、R及びRは、水素原子、又は直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、R及びRの炭素数は異なる。なお、R及び/又はRが水素原子の場合、カルボン酸及び/又は酸無水物のアルキル鎖の炭素数は0である。
アシル化剤が、カルボン酸と酸無水物との反応物を含有し、カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と酸無水物のアルキル鎖の炭素数とが異なるので、β−1,3−グルカンの主鎖中に、一工程(ワンポット)で炭素数の異なるアシル基を導入することができる。炭素数の異なるアシル基は、グルコースユニットが有する3つの水酸基にランダムに導入されて、分子鎖のコンホメーションを乱す。コンホメーションが乱れた分子鎖は、必然的に整然と並ぶことができないため、熱可塑性が発現するものと考えられる。
カルボン酸及び酸無水物の反応物は、以下の式3に示すように、アルキル鎖の炭素数が互いに異なるカルボン酸と酸無水物とを混合後、加熱して得られる反応物であり、カルボン酸、ホモ酸無水物、及び混合酸無水物の複数種の混合酸無水物を含有する。この反応物中に含まれるホモ酸無水物と混合酸無水物とが、後述するアシル化反応において、β−1,3−グルカンのグルコースユニットが有する水酸基をアシル化すると考えられる。なお、「ホモ酸無水物」とは、アルキル鎖の炭素数が同じカルボン酸が脱水縮合した構造を有する酸無水物である。「混合酸無水物」とは、アルキル鎖の炭素数が異なる2種類のカルボン酸が脱水縮合した構造を有する酸無水物である。
式3において、R及びRは、水素原子、又は直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、R及びRの炭素数は異なる。なお、R及び/又はRが水素原子の場合、カルボン酸及び/又は酸無水物のアルキル鎖の炭素数は0である。
カルボン酸及び酸無水物のアルキル鎖の炭素数は、いずれも、1以上12以下、又は1以上10以下であることが好ましい。カルボン酸及び酸無水物の炭素数が1以上である場合、β−1,3−グルカンの主鎖間のファン・デル・ワールス力による相互作用をより低減することができる。炭素数が12以下である場合、ワンポットで反応させる場合でもアシル基をβ−1,3−グルカンの主鎖中に確実に導入させることができる。中でも、確実に熱可塑性を得られる点で、酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、2以上であることが好ましい。また、より優れた熱可塑性を得られる点で、酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、7以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
カルボン酸及び酸無水物の各アルキル鎖の炭素数の差は、1以上5以下であることが好ましい。カルボン酸及び酸無水物の各アルキル鎖の炭素数の差が1以上の場合、鎖長の異なる2種のアシル基が3つの水酸基にランダムに導入される。カルボン酸及び酸無水物の炭素数の差が5以下の場合、炭素数に大きな違いがないので、β−1,3−グルカンの3つの水酸基への導入効率に大差はなく、2種のアシル基は、位置を選ばずよりランダムに導入される。このランダム性によって、固相中での高分子鎖に乱れが生じ、また鎖長に応じて高分子鎖間の距離が広がるため、熱可塑性が発現されると考えられる。
カルボン酸としては、短鎖又は中鎖カルボン酸を挙げることができ、短鎖又は中鎖脂肪酸であることが好ましい。カルボン酸の具体例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、等を挙げることができ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
酸無水物としては、短鎖又は中鎖カルボン酸無水物を挙げることができ、短鎖又は中鎖脂肪酸無水物であることが好ましい。また、コスト面からは、無水酢酸であることが好ましい。酸無水物の具体例としては、上記したカルボン酸の無水物を挙げることができ、これらを1種又は2種以上用いることができる。
カルボン酸及び酸無水物の使用割合は、モル比として、1:1〜1:3程度とすることができる。カルボン酸と酸無水物との反応は、通常、常圧下、50℃〜100℃に加熱して行われる。
(アシル化反応)
アシル化反応は、β−1,3−グルカンを、上記したアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させる。例えば、式4に示すように、パラミロンを非フッ素系溶媒中に溶解させた溶液中で、塩基の存在下で反応させて、パラミロン誘導体(パラミロン混合エステル)を得ることができる。
式4において、R及びRは、水素原子直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、R及びRの炭素数は異なる。nは自然数である。
上記したアシル化剤を用いるので、β−1,3−グルカン誘導体を一工程で得ることができる。また、得られるβ−1,3−グルカン誘導体は、グルコースユニットの2位、4位又は6位の水酸基に、炭素数が異なるアシル基がランダムに導入される。その結果、分子鎖の並びに乱れが生じて分子鎖間相互作用がより弱くなり、熱可塑性をより高めることができる。
非フッ素系溶媒を用いるので、非特許文献1で用いているような、腐食性の強い中間体を形成するトリフルオロ酢酸無水物を用いる必要がない。そのため、工業的規模で大量生産するのに適した方法にすることができる。
非フッ素系溶媒としては、ジメチルアセトアミド−リチウムクロライド系溶媒、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾキジノン−リチウムクロライド系溶媒を挙げることができる。塩基としては、4−ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン等の公知のものを用いることができる。
反応温度、反応時間等は、使用するアシル化剤の種類や所望の置換度等を考慮して適宜設定される。例えば、反応温度は、50℃以上120℃以下とすることができる、反応時間は、例えば、0.5時間以上6時間以下とすることができる。反応終了後、反応溶液をアルコール等の貧溶媒及び/又は水中に添加して、生成物を沈殿物として得ることができる。
(その他の工程)
β−1,3−グルカン誘導体の製造方法は、上記した反応工程に加えて、さらに他の工程を有していてもよい。例えば、アシル化剤の準備工程、精製工程、分離工程等を有することができる。アシル化剤の準備工程は、上記したアシル化剤の調製方法にしたがって、カルボン酸及び酸無水物を加熱しながら混合する工程を挙げることができる。精製工程は、特に限定されず、例えば、水又はアルコール中で攪拌する工程を挙げることができる。分離工程は、例えば、精製工程で得られる沈殿物を吸引濾過等して分離する工程を挙げることができる。
上記したβ−1,3−グルカン誘導体の製造方法は、混合酸無水物(アシル化剤)を準備した後、一工程で生成物を得ることができる簡便な方法である。反応生成物の分離についても、粗反応生成物を簡便な吸引濾過で反応混合物から分離するだけでよく、複雑な分離する工程が不要である。例えば、グラムスケールの合成であれば、数分の吸引濾過で分離することができる。このような迅速な分離は、特許文献3に記載されているような、各工程で長時間の吸引濾過が必要となる、長鎖アシル基を含む熱可塑性パラミロン混合エステルの合成方法とは異なっている。
[β−1,3−グルカン誘導体]
β−1,3−グルカン誘導体は、主鎖を構成するグルコース中の一部の水酸基が、炭素数が異なる2種以上のアシル基でアシル化されている。すなわち、β−1,3−グルカン誘導体は、炭素数が異なる2種以上のアシル基を有する。炭素数が異なる2種以上のアシル基を有するので、(1)分子鎖の並びが乱れることにより分子鎖間相互作用が弱められるとともに、(2)水酸基による主鎖間水素結合の形成がなくなることにより分子鎖間相互作用が弱められる。その結果、熱可塑性に優れている。このβ−1,3−グルカン誘導体は、それ自体が熱可塑性を有するので、可塑剤を添加しなくとも成形性に優れている。
β−1,3−グルカン誘導体は、以下の式5で表されるβ−1,3−グルカン混合エステルである。
式5において、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、又は直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、R及びRの炭素数は異なる。nは、自然数である。
アシル基は、Rを有する場合及びRを有する場合のいずれも、炭素数が1以上12以下、又は1以上10以下であることが好ましい。炭素数は、8以下、又は7以下とすることもできる。炭素数が1以上である場合、β−1,3−グルカンの主鎖間の水素結合やファン・デル・ワールス力による相互作用をより低減することができる。炭素数が12以下である場合、ワンポットで反応させる場合でもアシル基をβ−1,3−グルカンの主鎖中に確実に導入させることができる。炭素数は、好ましくは、2以上、7以下である。
2種以上のアシル基の炭素数の差は、1以上5以下であることが好ましい。アシル基の炭素数の差が1以上の場合、鎖長の異なる2種のアシル基が3つの水酸基にランダムに導入されたβ−1,3−グルカン誘導体とすることができる。5以下の場合、炭素数に大きな違いがないので、合成時にβ−1,3−グルカンの3つの水酸基への導入効率に大差はなく、2種のアシル基が、位置を選ばずよりランダムに導入されたβ−1,3−グルカン誘導体とすることができる。このランダム性によって、固相中での高分子鎖に乱れが生じ、また鎖長に応じて高分子鎖間の距離が広がる。その結果、分子鎖間相互作用がより弱くなり、熱可塑性が発現されると考えられる。
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基等を挙げることができる。
アシル基の置換度は、カルボン酸由来のアシル基の置換度が、グルコースユニット1つあたり0.05以上1.5以下であり、酸無水物由来のアシル基の置換度が、グルコースユニット1つあたり1.0以上2.8以下であることが好ましい。置換度が、それぞれこの範囲である場合、分子鎖間の相互作用を弱める効果をより高めて、熱可塑性がより優れたβ−1,3−グルカン誘導体とすることができる。カルボン酸由来のアシル基の置換度は、下限値を0.3以上とすることができ、上限値を1.2以下とすることができる。酸無水物由来のアシル基の置換度は、下限値を1.3以上とすることができ、上限値を2.6以下とすることができる。なお、例えば、置換度が1.0とは、グルコースユニット1個につき1個の置換基が導入されていることを意味している。理論上、置換度の上限値は3.0である。
なお、置換度は、原料のβ−1,3−グルカンのグルコースユニット1つあたりに結合したアシル基の割合である。置換度は、核磁気共鳴分光法(NMR法)等により測定することができる。例えば、H−NMRにより、グルコースユニットの炭素に直接結合している水素(メチレンおよびメチン基の水素)とアシル基の水素の積分値に基づいて置換度を求めることができる。
β−1,3−グルカン誘導体は、温度240℃、荷重37.26N又は98.07Nで測定したメルトボリュームレートが、1cm/10分以上である。上限値は、特に限定されず、45cm/10分以下とすることができる。メルトボリュームレートがこの範囲であるので、β−1,3−グルカン誘導体は、熱可塑性を有し、成形性が優れている。なお、荷重37.26N又は98.07Nのいずれで測定するかは、そのβ−1,3−グルカン誘導体の熱可塑性に応じて適宜選択する。例えば、熱可塑性が高いβ−1,3−グルカン誘導体については、荷重37.26Nで測定することができ、熱可塑性がやや低いβ−1,3−グルカン誘導体については、荷重98.07Nで測定する。
β−1,3−グルカン誘導体は、主鎖の少なくとも一部に炭素数が異なる2種以上のアシル基を有していればよく、側鎖を有するβ−1,3−グルカン誘導体の場合、側鎖の一部にもアシル基を有していてよい。なお、アシル基は、2種以上であればよく、例えば、2種、3種又は4種等とすることができる。
β−1,3−グルカン誘導体の分子量は、重量平均分子量Mwが3.0×10Da以上7.0×10Da以下、又は3.0×10Da以上6.0×10以下であり、数平均分子量Mnが1.0×10Da以上5.5×10Da以下、又は2.0×10Da以上4.0×10以下とすることができる。分子量がこの範囲の場合、分子量の低下による機械的強度の低下を防ぐことができる。
β−1,3−グルカン誘導体の分散度Mw/Mnは、1.2以上1.6以下であることが好ましい。分散度Mw/Mnがこの範囲の場合、原料として用いるβ−1,3−グルカンの単分散性がより維持されて、融点の差に起因する欠陥がより生じ難いβ−1,3−グルカン誘導体とすることができる。
[成形体]
成形体は、β−1,3−グルカン誘導体又は該誘導体を含む組成物からなる。上記したβ−1,3−グルカン誘導体は、熱可塑性を有するので、成形性がよい。そのため、一般的な熱可塑性樹脂と同様に、各種成形方法によって成形して成形体を製造することができる。成形方法は、キャスト法、射出成形法、圧縮法、インフレーション法等のような、熱可塑性樹脂の成形に通常使用されている方法の中から適宜選択して使用することができる。また、溶液キャスト法で成形することもできる。成形体としては、光学フィルム、繊維、樹脂用フィラー等を挙げることができる。光学フィルムは、例えば、溶融押出成型法によって製造することができる。繊維は、例えば、溶融紡糸法によって製造することができる。光学フィルムとする場合、後述するX線回折図から明らかなように、非晶質のフィルムとすることができる。非晶質のフィルムであるので、透明性が高く、複屈折率が低いフィルムとすることが可能である。
成形体は、β−1,3−グルカン誘導体のみから成形してもよく、β−1,3−グルカン誘導体とその他の成分を含む組成物から成形してもよい。他の成分としては、フィラー、酸化防止剤、離形剤、着色剤、分散剤、難燃助剤、難燃剤等の樹脂組成物に一般的に添加される各種添加剤が挙げられる。その他、ポリビニルアルコール等の他の樹脂との混合組成物から成形体を製造することもできる。
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
[実施例1]酢酸及び無水プロピオン酸からのパラミロンアセテートプロピオネートの合成
パラミロン(3.00g,18.39mmol)、塩化リチウム(LiCl,2.367g,55.84mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、150mL)の混合物を窒素雰囲気下、90℃で1.5時間、攪拌しながら加熱した。得られた均一溶液に、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP,428mg,3.50mmol)を一括添加した。次いで、この溶液に、窒素雰囲気下90℃で1.5時間加熱した酢酸(3.302g,54.99mmol)及びプロピオン酸無水物(14.462g,111.12mmol)の混合物を滴下した。混合物滴下後、徐々に加熱して108℃まで温度させながら4時間攪拌した後、反応混合物中に、メタノール150mLを添加し、次いで、混合物を水300mLに滴下して白色沈殿物を得た。この沈殿物を、吸引濾過で分離した後、フィルター上で、水100mLで洗浄した。この白色固体をメタノール350mL中で攪拌し、吸引濾過して分離した。この精製工程を3回繰り返した。得られた固体を、クロロホルム150mLに溶解した均一溶液を、メタノール500mL中に滴下して、細い繊維状の沈殿物を得た。この沈殿物をメタノール150mL中で攪拌した。吸引濾過後、空気中で一晩風乾させ、引き続き70℃で7時間真空乾燥して、反応生成物である実施例1のβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンアセテートプロピオネート)を白色固体として得た(4.483g,13.97mmol,収率75.9%)。
H−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって、反応生成物を同定した。なお、H−NMRスペクトルは、BRUKER社製、核磁気共鳴装置AVANCE500spectrometerで測定した。FT−IRスペクトルは、日本分光株式会社製ZnSeプリズム ATR Pro400−Sを備えた、日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計 FT/IR−480STで測定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを以下に述べる方法で求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.87(brs),4.30(brs)4.02(brs),3.72(brs),3.60(brs),2.40−1.99(m),1.61(s),1.18−1.09(s)
FT−IR(cm−1):945,1737,1386,1389,1365,1155,1051,871,806
DSace:0.78、DSmc:2.18
[実施例2]酢酸及び無水酪酸からのパラミロンアセテートブチレートの合成
プロピオン酸無水物に替えて無水酪酸を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、パラミロン(3.014g,18.47mmol)、酢酸(3.323g,55.34mmol)及び無水酪酸(17.608g,111.30mmol)から、反応生成物である実施例2のβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンアセテートブチレート)を得た(1.204g,3.34mmol,収率18.1%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.80(brs),4.35(brs),4.24(brs),4.05(brs),3.72−3.59(m),2.47−2.10(m),1.62−1.52(m),0.94−0.80(m)
FT−IR(cm−1):2963,2874,1739,1457,1391,1369,1219,1154,1041,893,793,750
DSace:0.98、DSmc:2.16
[実施例3]酢酸及び無水ペンタン酸からのアセテートペンタノエートの合成
プロピオン酸無水物に替えてペンタン酸無水物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、パラミロン(2.534g,15.53mmol),酢酸(2.813g,46.84mmol)及びペンタン酸無水物(17.447g,93.68mmol)から、反応生成物である実施例3のβ−1,3−グルカン誘導体(アセテートペンタノエート)を得た(収率35.4%、2.145g,5.49mmol)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.81(brs),4.38(brs),4.23(brs),3.73(brs),3.57(brs),2.31−1.99(m),1.61−1.34(m),0.96−0.92(m)
FT−IR(cm−1):2957,2871,1741,1456,1389,1370,1173,1151,1046,892,754,734,594
DSace:1.12、DSmc:1.88
[実施例4]酢酸及び無水ヘキサン酸からのパラミロンアセテートヘキサノエートの合成
プロピオン酸無水物に替えてヘキサン酸無水物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、パラミロン(3.005g,18.42mmol)、酢酸(3.336g,55.55mmol)及びヘキサン酸無水物(23.501g,109.65mmol)から、反応生成物である実施例4のβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンアセテートヘキサノエート)を得た(6.185g,14.78mmol、収率80.2%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.86(brs),4.79(brs),4.33(brs),4.25(brs),3.76(brs),3.60(brs),3.55(brs),2.35−1.99(m),1.60(s),1.38(s),1.31(s),0.94−0.90(m)
FT−IR(cm−1):2955,2930,2862,1743,1457,1390,1371,1217,1149,1045,889,732,597
DSace:1.05、DSmc:1.95
[実施例5]無水酢酸及び酪酸からのパラミロンアセテートブチレートの合成
パラミロン(3.009g,18.44mmol)、塩化リチウム(LiCl,0.783g,18.47mmol),及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、50mL)の混合物を、窒素雰囲気下、90℃で1時間攪拌しながら加熱した。得られた均一溶液に、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP,146mg,1.20mmol)を一括添加した。次いで、この溶液に、窒素雰囲気下100℃で1.25時間加熱した無水酢酸(11.298g,105.09mmol)及び酪酸(4.986g,55.57mmol)の混合物を滴下した。室温から102℃まで昇温させながら3.5時間攪拌した後、反応混合物を水500mL中に滴下して加え、透明な沈殿物を得た。この沈殿物を、吸引濾過で分離した後、水400mL中で1時間攪拌した。沈殿物をクロロホルム500mL中に溶解した後、不透明溶液をメタノール500mL中に注いだ。溶媒を段階的に除去して不均一溶液を得た。吸引濾過により、反応生成物である実施例5のβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンアセテートブチレート)を得た(収率78.8%、4.450g,14.72mmol)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.89(brs),4.83(brs),4.36(brs),4.32(brs),4.04(brs),3.74(brs),3.65(brs),2.12−2.00(m),1.64(s),1.02−0.93(m)
FT−IR(cm−1):2920,2852,1739,1647,1368,1211,1030,892,597
DSace:0.31、DSmc:2.62
[実施例6]無水酢酸及びヘキサン酸からのパラミロンアセテートヘキサノエートの合成
酪酸に替えてヘキサン酸を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、パラミロン(3.002g,18.40mmol)、無水酢酸(10.809g,105.88mmol)及びヘキサン酸(6.500g,55.96mmol)から、反応生成物であるβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンアセテートヘキサノエート)を得た(4.355g,13.93mmol、収率75.7%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.88(brs),4.83(brs),4.36(brs),4.04(brs),3.74(brs),3.49(brs),2.24−2.00(m),1.62(s),1.44−1.32(m),0.97−0.93(m)
FT−IR(cm-1):2958,2918,2864,1738,1394,1369,1210,1030,891,597
DSace:0.36DSmc:2.58
[実施例7]無水酢酸及びヘキサン酸からのパラミロンアセテートヘキサノエートの合成
酪酸に替えてヘキサン酸を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、パラミロン(3.002g,18.40mmol)、無水酢酸(10.809g,105.88mmol)及びヘキサン酸(6.500g,55.96mmol)から、反応生成物である実施例8のβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンアセテートヘキサノエート)を得た(4.355g,13.93mmol、収率75.7%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.89(brs),4.83(brs),4.36(brs),4.32(brs),4.03(brs),3.74(brs),3.65(brs),2.49−2.00(m),1.63−1.38(m),1.38−1.31(m),0.94−0.91(m)
FT−IR(cm−1):2928,2917,2850,1739,1368,1209,1086,1031,892,839,658,596
DSace:0.36DSmc:2.58
[実施例8]無水酢酸及びヘキサン酸からのカードランアセテートヘキサノエートの合成
パラミロンに替えてカードランを用い、酪酸に替えてヘキサン酸を用いた以外は、実施例5と同様の方法で、カードラン(3.010g,18.44mmol)、無水酢酸(11.239g,110.09mmol)及びヘキサン酸(6.468g,55.68mmol)から、反応生成物である実施例8のβ−1,3−グルカン誘導体(カードランアセテートヘキサノエート)を得た(3.240g,10.31mmol、収率55.9%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.88(brs),4.82(brs),4.32(brs),4.03(brs),3.73(brs),3.64(brs),2.09−2.00(m),1.70−1.59(m),1.38−1.31(m),0.94−0.89(m)
FT−IR(cm−1):2928,2920,2851,1740,1635,1368,1210,1167,1031,891,597
DSace:0.45、DSmc:2.55
[実施例9]ヘキサン酸及び無水プロピオン酸からのパラミロンプロピオネートヘキサノエートの合成
パラミロン(2.996g,18.48mmol)、塩化リチウム(LiCl,2.373g,55.98mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、150mL)の混合物を窒素雰囲気下、100℃で1時間、加熱しながら撹拌した。得られた均一溶液に、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP,433mg,3.54mmol)を一括添加した。次いで、室温まで戻したこの溶液に、窒素雰囲気下100℃で1.5時間加熱したヘキサン酸(6.495g,55.91mmol)及びプロピオン酸無水物(14.357g,110.32mmol)の混合物を滴下した。108℃までの温度で3.5時間攪拌した後に、室温まで戻した反応混合物にメタノール200mLを添加した。次いで、混合物を水1000mLに滴下して白色沈殿物を得た。この沈殿物を、デカンテーションで分離した後、クロロホルム500mLに分散し一晩室温にて撹拌した。得られた均一溶液を減圧下で溶媒を除去し、粘調な均一溶液を得た。エタノール200mLを加え、この溶液を水500mLに撹拌しながら滴下し、白色沈殿物を得た。得られた沈殿物をメタノール200mLに分散し室温で10分間撹拌した。この洗浄工程を2回繰り返した。デカンテーションで沈殿物を分離し、減圧下加熱乾燥(100℃、4.5時間)して反応生成物である実施例Xのβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンプロピオネートヘキサノエート)を白色固体として得た(2.439g,7.47mmol,収率40.7%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、プロピル基の置換度DSpro(表1中ではDSaceとした。)、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.84(brs),4.76(brs),4.31(brs),4.22(brs),3.99(brs),3.70(brs),3.52(brs),2.30−2.23(m),1.68(s),1.59(s),1.36(s),1.30(s),1.17−1.09(m),0.93−0.89(m)
FT−IR(cm−1):2944,2871,1739,1461,1388,1363,1223,1150,1054,1016,870,805.
DSpro:1.33、DSmc:0.90
[実施例10]プロピオン酸及び無水ヘキサン酸からのパラミロンプロピオネートヘキサノエートの合成
パラミロン(3.012g,18.58mmol)、塩化リチウム(LiCl,2.343g,55.28mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc、150mL)の混合物を窒素雰囲気下、95℃で1時間、加熱しながら撹拌した。得られた均一溶液に、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP,429mg,3.51mmol)を一括添加した。次いで、室温まで戻したこの溶液に、窒素雰囲気下100℃で1.5時間加熱したプロピオン酸(4.110g,55.48mmol)及び無水ヘキサン酸(23.432g,109.86mmol)の混合物を滴下した。100℃までの温度で3.5時間攪拌した後に、室温まで戻した反応混合物にメタノール200mLを添加した。次いで、混合物を水1000mLに滴下して白色沈殿物を得た。この沈殿物を、デカンテーションで分離した後、クロロホルム500mLに分散し一晩室温にて撹拌した。得られた均一溶液をメタノール4Lに滴下してゲル状固体を得た。得られたゲル状固体をメタノール200mLに分散し、室温で20分間撹拌し、続いてデカンテーションで分離したゲル状固体をエタノール200mLに分散し、室温で30分間撹拌した。得られた不均一溶液の上澄み液を水1000mLに撹拌しながら滴下し、白色沈殿物を得た。得られた沈殿物をメタノール200mLに分散し室温で10分間撹拌した。この洗浄工程を2回繰り返した。デカンテーションで沈殿物を分離し、減圧下加熱乾燥(100℃、4.5時間)して反応生成物である実施例Xのβ−1,3−グルカン誘導体(パラミロンプロピオネートヘキサノエート)を白色固体として得た(2.853g,6.68mmol,収率36.2%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、プロピル基の置換度DSpro(表1中ではDSaceとした。)、及び中鎖アシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ4.88(brs),4.82(brs),4.32(brs),4.03(brs),3.73(brs),3.64(brs),2.09−2.00(m),1.70−1.59(m),1.38−1.31(m),0.94−0.89(m)
FT−IR(cm−1):2954,2930,2860,1743,1460,1389,1375,1314,1253,1148,1052,912,873,805,732
DSpro:1.33DSmc:0.90
[参考例1]酢酸及び無水ヘキサン酸からのセルロースアセテートヘキサノエートの合成
溶融パルプ(2.031g,12.45mmol(グルコースユニットに基づく)),塩化リチウム(3.52g,83.13mmol)及びN−ジメチルアセトアミド75mLからなる混合物を、窒素雰囲気下、150℃で3時間攪拌した。その後、混合物を室温で19時間冷却して、均一溶液を得た。得られた均一溶液に、N−ジメチルアセトアミド25mLに溶解した4−ジメチルアミノピリジン(DMAP、287mg,2.35mmol)を一括添加した、次いで、窒素雰囲気下100℃で1時間加熱した酢酸(2.204g,36.70mmol)及び無水ヘキサン酸(15.980g,74.56mmol)の混合物を加熱して得られた溶液を、滴下した。液温を室温から徐々に100℃まで昇温しながら3.5時間攪拌して得られた粘性液を、メタノール600mL中に加えて、白色沈殿物を得た。沈殿物をクロロホルム150mL中に溶解し、その均一溶液をメタノール1L中に滴下して加え、白色固体を得た。この固体をメタノール200mL中で10分間攪拌した後、デカンテーションして固体を分離した。この精製工程を3回繰り返した。得られた固体を、一晩空気中で乾燥させ、次いで80℃で5時間真空乾燥して、反応生成物である参考例1のセルロース誘導体を白色固体として得た(3.906g,9.90mmol,収率79.6%)。
実施例1と同様にH−NMRスペクトル及びFT−IRスペクトルによって反応生成物を同定した。また、アセチル基の置換度DSace、及びアシル基の置換度DSmcを求めた。
H−NMRスペクトル(CDCl):δ5.13−4.80(m),4.37−4.00(m),3.63−3.42(m),2.33−1.91(m),1.59−1.51(m),1.34−1.29(m),0.91−0.89(m)
FT−IR(cm−1):2954,2929,2860,1740,1457,1374,1225,1156,1038,914,731,599
DSace:0.83、DSmc:2.11
[参考例2]酢酸及び無水ヘキサン酸からのセルロースアセテートヘキサノエートの合成
酢酸及び無水ヘキサン酸に替えて、無水酢酸及びヘキサン酸を用いた以外は、実施例9と同様の方法で、溶融セルロース(2.029g,12.44mmol)、無水酢酸(7.530g,73.56mmol)及びヘキサン酸(4.389g,37.78mmol)から、反応生成物である参考例10のセルロース誘導体を得た(3.166g,10.26mmol、収率82.5%)。
H−NMRスペクトル(CDCl):5.06(brs),4.79(brs),4.40(brs),4.05(brs),3.70(brs),3.52(brs),2.43−2.34(m),2.13−1.94(m),1.63−1.53(m),1.32−1.29(m),0.90−0.87(m)
FT−IR(cm−1):2918,2851,1734,1540,1363,1212,1092,1031,890,607
DSace:0.40、DSmc:2.52
[測定]
実施例及び参考例で得られた誘導体について、以下の項目について測定した。
(置換度DS)
置換度(DS)は、グルコースユニット1つに結合した置換基の平均数である。置換度DSは、炭素数が異なる2種以上のアシル基(例えば、実施例1〜8では、中鎖アシル基とアセチル基)のH−NMRスペクトルにおけるメチルプロトンの積分値を、それぞれ、グルコースプロトンの積分値と比較して、炭素数が多い方のアシル基(例えば、実施例1〜8では、プロピル基、ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基等の中鎖アシル基)の置換度を「DSmc」とし、及び炭素数が少ない方のアシル基(例えば、実施例1〜8では、アセチル基)の置換度を「DSace」として得た。結果を表1に示した。
なお、実施例1〜4,10及び参考例1の、「DSace値」は、「カルボン酸由来のアシル基の置換度」に相当し、「DSmc値」は、「酸無水物由来のアシル基の置換度」に相当する。また、実施例5〜9及び参考例2の「DSace値」は、「酸無水物由来のアシル基の置換度」に相当し、「DSmc値」は、「カルボン酸由来のアシル基の置換度」に相当する。
(分子量測定)
重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを、多角度光散乱検出器を有するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC−MALLS)を用いて測定した。SEC−MALLS測定は、Wyatt Technology社製 miniDAWN 多角度レーザー光度計、Wyatt Technology社製 動的光散乱モジュール(QELS)、及びゲルパーミエーションクロマトグラフィーカラム(KD−805)を備えた、Wyatt Technology社製 示差屈折率検出器Optilab rEX(移動相:クロロホルム、1.0mL/min、40℃)を用いて行った。溶液は、0.20μmフィルターで精製した。注入量は、約4.0mg/mLの濃度で100μLとした。dn/dc値は、0.0372を用いた。結果を表1に示した。
(ガラス転移温度Tg及び融点mp)
示差走査熱量計(DSC)として、株式会社リガク製Thermo plus EVO II DSC8230を使用して、熱分析を行った。試料を走査速度10.0℃/分で25℃から230℃まで加熱後、230℃で3分間保持した。230℃から25度まで冷却し、5分間その温度で保持した後、同じ走査速度で250℃まで加熱した。2回目の加熱時に得られたサーモグラムを、ガラス転移温度Tg及び融点mpの測定に用いた。結果を表2に示した。
(5%重量減少温度Td5)
熱重量分析(TG)は、株式会社リガク製 熱重量分析計Thermo plus EVO II TG8120を用いて5%重量減少温度Td5を測定した。窒素を100mL/分で流しながら、走査速度10.0℃/minで試料を25℃から500℃まで加熱した。結果を表2に示した。
(メルトボリュームレート MVR)
株式会社井元製作所製 IMC−E0F0 melt indexerを用いて、165℃、210℃、又は240℃に加熱した溶融サンプルについて、一定荷重(37.26N又は98.07N)でオリフィスダイ(直径1mm)から押し出し、ピストンが12.5mm移動する時間(t)を測定した。MVRを、以下の式から算出した。結果を表2に示した。
MVR(cm/10min)=(A×tref×L)/t
Aは、ピストンの横断面積(0.407cm)であり、trefは、基準時間(600秒)であり、Lは、移動長(1.25cm)であり、tは、測定時間(秒)である。測定に際しては、試料を240℃で4分間加熱した。
なお、実施例4(165℃)、実施例1,10(240℃)は、荷重98.07Nで測定し、他は荷重37.26Nで測定した。
実施例1〜7を例にして、β−1,3−グルカンのアシル化及び得られるβ−1,3−グルカン誘導体について検討する。実施例1〜7では、酢酸及び無水中鎖脂肪酸の混合物からなるアシル化剤(実施例1〜4)、及び、中鎖脂肪酸及び無水酢酸の混合物からなるアシル化剤(実施例5〜7)を用いて、β−1,3−グルカン誘導体(β−1,3−グルカン混合エステル)を合成した。表1に示すように、酸無水物由来のアシル基の置換度(実施例1〜4のDSmc、実施例5〜7のDSace)の方が、カルボン酸由来のアシル基の置換度(実施例1〜4のDSace、実施例5〜7のDSmc)よりも大きい。つまり、酸無水物由来のアシル基の方が、カルボン酸由来のアシル基よりもβ−1,3−グルカンに優先的に導入された。また、実施例1〜4のアセチル基と実施例5〜7の中鎖アシル基はいずれもカルボン酸由来であるところ、それぞれの置換度を比較すると、前者(実施例1〜4のDSace)の方が、後者(実施例5〜7のDSmc)よりも大きい。よって、アセチル基は、他のアシル基よりもβ−1,3−グルカンに導入されやすい。
表1に示すように、実施例1〜7のβ−1,3−グルカン誘導体の分子量は、重量平均分子量Mwが、およそ3.0×10Da〜5.0×10Daであり、数平均分子量Mnが、およそ、1.0×10Da〜3.9×10Daであった。また、分散度Mw/Mnは、ほぼ1.2〜1.6の範囲であった。一般的な天然パラミロンは、Mwが2,959×10Daであり、Mnが2,158×10Daである。また原料パラミロンの分散度は1.37であった。よって、天然パラミロンの単分散性が、アシル化工程を通して維持されていることがわかった。単分散性が維持されているため、β−1,3−グルカン誘導体は融点の差に起因する欠陥が生じ難い。
表2に示すように、すべての実施例のβ−1,3−グルカン誘導体は、融点(mp)又はガラス転移温度(Tg)が250℃以下であった。よって、β−1,3−グルカン誘導体は、250℃以下の温度で熱可塑性を発現することができる。
表2に示すように、実施例2〜7のβ−1,3−グルカン誘導体のメルトボリュームレート(MVR)は、いずれも、1cm/10分以上、42cm/10分以下であった。また、中鎖アシル基の炭素数の増加に伴って、MVR値が増加した。中鎖アシル基の長さが長くなると、高分子鎖間の距離が増加して、分子鎖間の相互作用がより弱まるためであると考えられる。
また、MVR値が最も大きいのは、実施例4,7のβ−1,3−グルカン誘導体であった。さらに、実施例4と実施例7を比較すると、165℃ではMVR値は実施例4の方が高く、また210℃でも実施例4の方が高い。一方、240℃では実施例7の方が高い。この結果は、中鎖アルキル基と短鎖アルキル基の置換度により、成形に要求される熱可塑性が広い温度領域に渡ってコントロールしうることを示している。
表2に示すように、実施例4と参考例1とを比較すると、240℃ではMVR値には大差はない。しかし165℃と210℃では明らかに実施例4の方が高い熱可塑性を示している。さらに、実施例7と参考例2とを比較すると、参考例2のMVR値(6.4)は、実施例7のMVR値よりもかなり低い。しかも、参考例2は、MVR測定時の荷重が37.26Nではなく98.07Nであった。これらの結果から、酸無水物のアルキル鎖の炭素数とカルボン酸のアルキル鎖の炭素数の大小にかかわらず、β−1,3−グルカン誘導体の方がセルロース誘導体よりも、熱可塑性が高まることが示唆された。
[実施例11〜18、参考例3,4]溶液キャスト法によるフィルムの作製
実施例1〜8及び参考例1,2の誘導体を用いて、溶液キャスト法により、透明自立薄膜を作製した。溶液キャスト法は、次のように行った。クロロホルムに溶解させた上記誘導体(約250mg)の均一溶液を、皿(75×100mm)上に置き、8つの孔(直径約0.5mm)を有するアルミニウム箔で覆った。室温で一晩、段階的に溶媒を除去して、透明薄膜を得た。
[実施例19〜28、参考例5,6]熱プレス法によるフィルムの作製
実施例1〜10及び参考例1,2の誘導体を用いて、熱プレス法により、透明薄膜を作製した。熱プレス法は、次のように行った。株式会社井元製作所製 コンパクト熱プレスIMC−180Cを用いて、上記誘導体(約100mg)を、1分間、20MPaの圧力で50mm×50mm×約0.05mmの四角形の薄膜に溶融プレスした。加熱温度は、上記融点の測定で得られた結果から10℃程度高い温度とした。
[フィルム評価]
(機械強度測定)
上記のように得られたフィルムについて、株式会社エー・アンド・デイ製 万能試験機 Tensilon RTG−1225を用いて、最大点応力(MPa)、破断点伸度(%)、及び弾性率(MPa)を測定した。測定試料は、長さ50mm、幅10mm、厚さ約0.03mmの長方形とした。チャック間の当初距離は30mmとし、引張速度は3mm/分とした。溶液キャスト法で作製したフィルム(実施例11〜18、参考例3,4)についての結果を表3に示し、ホットプレス法で作製したフィルム(実施例19〜28、参考例5,6)についての結果を表4に示した。
(透過率測定)
上記の熱プレス法で得られたフィルムについて、分光光度計(島津製作所 UV−2500)を用いて、透過率を測定した。測定試料は、厚さ約0.03mmとし、測定波長は、400−800nmとした。600nmでの透過率は、実施例19が84.4、実施例20が89.7、実施例21が88.3、実施例22が89.3、実施例23が87.0、実施例24が89.0、実施例25が86.1、実施例26が82.2、実施例9が88.9、実施例10が88.0、参考例1が83.5、参考例2が33.6、であった。
(X線回折)
実施例24、参考例5のフィルム(実施例4、参考例1の誘導体を熱プレスしてなる)について、X線回折分析を行った。X線回折は、株式会社リガク製 X線回折装置SmartLabを用い以下の条件で測定した。結果を図1,2に示した。
X線源:CuKα線
管電圧:40kV
管電流:30mA
走査速度5°/min
回折角2θ:5°〜35°

Claims (10)

  1. β−1,3−グルカンを、カルボン酸と酸無水物との反応物を含有し、前記カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と前記酸無水物のアルキル鎖の炭素数とが異なるアシル化剤を用いて、非フッ素系溶媒中でアシル化させる、β−1,3−グルカン誘導体の製造方法。
  2. カルボン酸のアルキル鎖の炭素数、及び酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、いずれも、1以上12以下である、請求項1に記載のβ−1,3−グルカン誘導体の製造方法。
  3. カルボン酸のアルキル鎖の炭素数と、酸無水物のアルキル鎖の炭素数との差が、1以上5以下である、請求項1又は2に記載のβ−1,3−グルカン誘導体の製造方法。
  4. 酸無水物のアルキル鎖の炭素数が、2以上7以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載のβ−1,3−グルカン誘導体の製造方法。
  5. 炭素数が異なる2種以上のアシル基を有する、β−1,3−グルカン誘導体。
  6. 2種以上のアシル基が、いずれも、炭素数が1以上12以下である、請求項5に記載のβ−1,3−グルカン誘導体。
  7. カルボン酸由来のアシル基の置換度が、グルコースユニット1つあたり0.05以上1.5以下であり、酸無水物由来のアシル基の置換度が、グルコースユニット1つあたり1.0以上2.8以下である、請求項5又は6に記載のβ−1,3−グルカン誘導体。
  8. 温度240℃、荷重37.26N又は98.07Nで測定したメルトボリュームレートが、1cm/10分以上である、請求項5から7のいずれか一項に記載のβ−1,3−グルカン誘導体。
  9. 請求項5から8のいずれか一項に記載のβ−1,3−グルカン誘導体又は該誘導体を含む組成物からなる成形体。
  10. フィルム又は繊維である、請求項9に記載の成形体。
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