本発明のアクリル系共重合体は、応力光学係数(Cr)の絶対値が0.15×10-9Pa-1以下であり、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)とラクトン環構造単位(C)とを有するものである。本発明のアクリル系共重合体は、主鎖にスクシンイミド環構造単位とラクトン環構造単位を導入することにより、応力光学係数(Cr)が小さく低複屈折性でありながら、耐熱性と破壊強度の両方を高めることができる。また、アクリル系共重合体を溶融した際の流動性を確保しやすくなり、成形加工性を高め、着色も抑えることができる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合することにより主鎖に導入される構成単位である。(メタ)アクリル酸エステル単量体は置換基を有していてもよく、すなわち(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)は、主鎖の炭素原子に任意の置換基が結合していてもよい。そのため、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)は、α,β−不飽和カルボン酸エステル単量体単位と称することもできる。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)をアクリル系共重合体に導入することにより、アクリル系共重合体のガラス転移温度や流動性を調節することができる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)としては、下記式(1)で表される構造単位であることが好ましい。式(1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子またはヒドロキシ基が結合してもよい炭素数1〜8のアルキル基を表し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
式(1)中、R1およびR2のヒドロキシ基が結合してもよい炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、およびこれらのアルキル基の任意の炭素原子にヒドロキシ基が結合した基が挙げられる。当該ヒドロキシ基が結合してもよいアルキル基の炭素数は1〜4がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。中でも、R1は水素原子であることが好ましく、R2は、水素原子、メチル基、またはヒドロキシ基が結合していてもよい炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)として、R1が水素原子でR2が水素原子またはメチル基である構成単位(すなわち、置換基を有しない(メタ)アクリル酸エステル単量体単位)が含まれることも好ましい。
式(1)中、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基を表し、これらの各基はハロゲン基やヒドロキシ基等の置換基を有していてもよい。R3の炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。R3の炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。R3の炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。R3の炭素数7〜12のアラルキル基としては、ベンジル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。中でも、R3としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基またはn−ブチル基が特に好ましい。これにより、アクリル系共重合体の耐熱性を高めやすくなる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル等の単量体に由来する構成単位が挙げられる。アクリル系共重合体には、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。中でも、アクリル系共重合体はメタクリル酸メチル(MMA)単量体単位を少なくとも含むことが好ましく、これによりアクリル系共重合体の耐熱性を高めやすくなる。
スクシンイミド環構造単位(B)は、アクリル系共重合体の主鎖にスクシンイミド環が形成された構成単位であり、スクシンイミド環を構成する窒素原子および炭素原子には任意の置換基が結合していてもよい。スクシンイミド環構造単位(B)は、簡便には、置換基を有していてもよいマレイミド単量体を共重合させることにより、アクリル系共重合体に導入することができる。そのため、マレイミド単量体単位と称することもできる。スクシンイミド環構造単位(B)をアクリル系共重合体に導入することにより、応力光学係数(Cr)の絶対値を低く抑えつつ、耐熱性を高めることが容易になる。
スクシンイミド環構造単位(B)としては、下記式(2)で表される構造単位が好ましい。式(2)中、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表し、R6は、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
式(2)中、R4およびR5の炭素数1〜8のアルキル基としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)のR1およびR2で例示したアルキル基が具体的に挙げられる。R4およびR5としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましい。
式(2)中、R6の水素原子以外の各基としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)のR3で例示した各基が具体的に挙げられる。中でも、アクリル系共重合体の複屈折を小さくすることが容易な点から、R6としては、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基が好ましく、そのような基としては例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、フェニル基、ナフチル基、クロロフェニル基、メチルフェニル基、ヒドロキシフェニル基、メトキシフェニル基、ニトロフェニル基、カルボキシルフェニル基、トリブロモフェニル基、ベンジル基が挙げられる。中でも、R6としては、シクロヘキシル基、フェニル基またはベンジル基が好ましい。
スクシンイミド環構造単位(B)としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ベンジルマレイミド等に由来する構成単位が挙げられる。アクリル系共重合体には、スクシンイミド環構造単位(B)が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。中でも、アクリル系共重合体の耐熱性を高め、応力光学係数(Cr)の絶対値を小さくすることが容易な点から、スクシンイミド環構造単位(B)としては、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミドに由来する構成単位(すなわち、R4およびR5が水素原子であり、R6がシクロヘキシル基、フェニル基またはベンジル基)が好ましい。
ラクトン環構造単位(C)は、アクリル系重合体の主鎖にラクトン環構造が形成された構成単位であり、ラクトン環を構成する炭素原子には任意の置換基が結合していてもよい。ラクトン環構造の環員数は特に限定されず、例えば4員環から10員環のいずれかであればよい。中でも、環構造の安定性に優れる点から、ラクトン環構造は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。ラクトン環構造単位(C)をアクリル系共重合体に導入することにより、アクリル系共重合体の耐熱性と破壊強度のバランスを取りやすくなる。また、アクリル系共重合体を溶融した際の流動性を確保しやすくなる。
ラクトン環構造単位(C)としては、アクリル系共重合体の主鎖にラクトン環構造を導入することが容易な点から、下記式(3)で表される構造単位が好ましい。式(3)中、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基を表し、R9は、水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。
式(3)中、R7およびR8の水素原子以外の各基としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)のR3で例示した各基が具体的に挙げられる。ラクトン環構造を有するアクリル系共重合体の製造容易性から、R7は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、R8は、炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。R7〜R9のアルキル基の炭素数は1〜4がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。中でも、R7およびR9は水素原子またはメチル基が好ましく、R8はメチル基が好ましい。アクリル系共重合体には、ラクトン環構造単位(C)が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
ラクトン環構造単位(C)は、ラクトン環原料単位を主鎖に導入し、環化させることにより導入することができる。ラクトン環原料単位を主鎖に導入するためには、単量体成分として、ヒドロキシ基とエステル基を有する単量体を用いたり、ヒドロキシ基を有する単量体とエステル基を有する単量体を用い、これを共重合させればよく、そのような単量体成分としては、例えば2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル、アリルアルコール、メタリルアルコール、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン等が挙げられる。また、酢酸ビニルを単量体成分として用い、これを共重合後、けん化してアルコールに変換後ラクトン化したり、脱酢酸メチルしてラクトン化することによっても、ラクトン環構造単位(C)を導入することができる。アクリル系共重合体は、これらの単量体由来の構成単位を含んでいてもよい。
アクリル系共重合体は、上記以外のその他の構成単位をさらに含んでいてもよい。その他の構成単位としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の(メタ)アクリロニトリル系単量体;エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン等のオレフィン系単量体;メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の他のビニル系単量体等に由来する構成単位が挙げられる。アクリル系共重合体は、スクシンイミド環とラクトン環以外の環構造を含む構成単位として、無水グルタル酸環構造単位、グルタルイミド環構造単位、無水コハク酸環構造(無水マレイン酸由来の環構造)単位を含んでいてもよい。
アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)とラクトン環構造単位(C)を主鎖に含む限り、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。
アクリル系共重合体は、スクシンイミド環構造単位(B)の含有率が2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上がより好ましく、また17質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。アクリル系共重合体100質量%中、スクシンイミド環構造単位(B)の含有量が2質量%以上であれば、アクリル系共重合体の耐熱性を高めやすくなる。アクリル系共重合体100質量%中、スクシンイミド環構造単位(B)の含有量が17質量%以下であれば、アクリル系共重合体の破壊強度を高めたり、着色を抑えることが容易になる。また、アクリル系共重合体を溶融する際、過度に高温にしなくても溶融粘度を下げる(流動性を高める)ことが容易になる。アクリル系共重合体中のスクシンイミド環構造単位(B)の含有率は、単量体として使用するマレイミド(N−置換マレイミド)の共重合量から求めたり、窒素原子を含めた元素分析から求めることができる。
アクリル系共重合体は、ラクトン環構造単位(C)の含有率が0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、また10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。アクリル系共重合体100質量%中、ラクトン環構造単位(C)の含有率が0.5質量%以上であれば、アクリル系共重合体の耐熱性と破壊強度のバランスを取りやすくなる。アクリル系共重合体100質量%中、ラクトン環構造単位(C)の含有率が10質量%以下であれば、低複屈折性のアクリル系共重合体を得やすくなる。
アクリル系共重合体中のラクトン環構造単位(C)の含有率は、ラクトン環化に関与する単量体の共重合量とラクトン環化率から求めることができる。まず、アクリル系共重合体の前駆体(後述する共重合中間体に対応)に含まれる脱アルコール反応に関与する全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されると仮定して、その反応によるアルコール発生量(質量%)、すなわち前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%と仮定したアルコール発生量(質量%)を算出し、理論発生量(質量%)(Y)を求める。理論発生量(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。前駆体の組成は共重合中間体の組成から導く。一方、90℃のオーブンにて24時間乾燥処理したアクリル系共重合体を、JIS K 7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダ内に充填し300℃で20分間保持した後、ストランド状に押し出し、ストランド中に含まれるアルコール量と加熱前に含有されるアルコール量をガスクロマトグラフィー(GC)で測定し、その差からアルコールの実測発生量(X)を求める。このようにしてアルコールの実測発生量(X)と理論発生量(Y)をそれぞれ求め、次式から共重合体の脱アルコール反応率を求める:脱アルコール反応率(%)=[1−(実測発生量(質量%)(X)/理論発生量(質量%)(Y))]×100(%)。共重合体において、脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられるため、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の質量に換算することで、共重合体におけるラクトン環構造単位(C)の含有率を求めることができる。
アクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)とラクトン環構造単位(C)を主要成分として含むことが好ましく、アクリル系共重合体100質量%中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)とラクトン環構造単位(C)とを合わせた含有率は、75質量%以上であることが好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。アクリル系共重合体は、例えばスチレン単位(スチレン系単量体由来の構成単位)を有していてもよいが、ラクトン環構造単位(C)の形成容易性の点から、スチレン単位はあまり多く含まないことが好ましい。従って、アクリル系共重合体中のスチレン単位の含有量は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。アクリル系共重合体中のスチレン単位の含有量は、スチレン系単量体(置換基を有していてもよいスチレン単量体)の共重合量から求めることができる。
アクリル系共重合体は、重量平均分子量(Mw)が8.0万以上であることが好ましく、10.0万以上がより好ましく、また25.0万以下が好ましく、23.0万以下がより好ましく、20.0万以下がさらに好ましい。このように重量平均分子量(Mw)を調整することにより、アクリル系共重合体の破壊強度と成形加工性を確保しやすくなる。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値を用いる。
アクリル系共重合体の分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は、4.0以下が好ましく、3.5以下がより好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.8以下が特に好ましい。このようにアクリル系共重合体の分子量分布を調整することで、アクリル系共重合体を溶融した際の流動性を確保しやすくなる。特に、分子量分布を3.0以下にすることで、アクリル系共重合体の破壊強度を高めつつ、アクリル系共重合体を溶融した際の流動性を高めることができる。アクリル系共重合体の分子量分布の下限は特に限定されないが、例えば1.5以上であってもよく、2.0以上であってもよい。重量平均分子量と数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の値を用いる。
本発明のアクリル系共重合体の製造方法について説明する。本発明のアクリル系共重合体の製造方法は、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を含む(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)とマレイミド単量体(b)とを含む単量体成分を重合して、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)を有する共重合中間体を得る重合工程と、共重合中間体に含まれる2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル由来の単位を環化させて、ラクトン環構造単位(C)を形成する環化工程を有する。本発明のアクリル系共重合体の製造方法によれば、応力光学係数(Cr)の絶対値が0.15×10-9Pa-1以下であり、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)とラクトン環構造単位(C)を有するアクリル系共重合体を製造することができる。
重合工程では、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)とマレイミド単量体(b)とを含む単量体成分を共重合する。重合工程により、主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)を有する共重合中間体が得られる。
(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)としては、二重結合炭素に置換基を有していてもよい(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることができ、例えば、下記式(4)で表される化合物を用いることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)は、α,β−不飽和カルボン酸エステル単量体と称することもできる。下記式(4)において、R1〜R3は上記と同じ意味を表す。これらの中でも、R1は水素原子であることが好ましく、R2は、メチル基、またはヒドロキシ基が結合していてもよい炭素数1〜3のアルキル基が好ましい。R3としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基またはn−ブチル基が特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)を重合することにより、共重合中間体の主鎖に(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)が導入される。
マレイミド単量体(b)としては、二重結合炭素や窒素原子に置換基を有していてもよいマレイミドを用いることができ、例えば、下記式(5)で表される化合物を用いることが好ましい。下記式(5)において、R4〜R6は上記と同じ意味を表す。これらの中でも、R4およびR5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましく、R6は、シクロヘキシル基、フェニル基またはベンジル基が好ましい。マレイミド単量体(b)としては、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ベンジルマレイミド等を用いることができる。マレイミド単量体(b)を重合することにより、共重合中間体の主鎖にスクシンイミド環構造単位(B)が導入される。
重合工程では、続く環化工程でラクトン環構造単位(C)が形成されるように、ラクトン環原料単位を主鎖に導入することが好ましい。ラクトン環原料単位を主鎖に導入するためには、単量体成分として、ヒドロキシ基とエステル基を有する単量体を用いたり、ヒドロキシ基を有する単量体とエステル基を有する単量体を用いて、共重合させればよい。共重合中間体の主鎖にヒドロキシ基を有する基とエステル基を有する基を導入することにより、続く環化工程でこれらのヒドロキシ基とエステル基を脱アルコール反応(エステル化反応)させて環化縮合させて、共重合体の主鎖にラクトン環を形成することができる。またこれ以外にも、酢酸ビニル共重合体などのエステル基を有する重合体を加水分解したり、カルボキシル基や酸無水物基を共重合中間体に導入して、これらの基とヒドロキシ基とをエステル化反応させることによっても、共重合体の主鎖にラクトン環を形成することができる。
ラクトン環構造単位(C)を含むアクリル系共重合体の製造容易性の点からは、重合工程では、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)として、少なくとも2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を用いることが好ましい。単量体成分として2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を用いて共重合することにより、共重合中間体の主鎖にヒドロキシ基を有する基とエステル基を有する基が導入され、続く環化工程でヒドロキシ基とエステル基を環化縮合させて、主鎖にラクトン環構造を容易に導入することができる。
2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)としては、アクリル酸エステルのα位にヒドロキシ基を有するアルキル基が結合した化合物であれば特に限定なく使用することができるが、下記式(6)で表される化合物を用いることが好ましい。式(6)中、R10は、水素原子または炭素数1〜7のアルキル基を表し、R11は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基を表す。
式(6)中、R10の炭素数1〜7のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基等が挙げられる。R10としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基またはエチル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましい。
式(6)中、R11としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)のR3で例示した各基が具体的に挙げられる。中でも、R11としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基またはn−ブチル基が特に好ましい。これにより、アクリル系共重合体の耐熱性を高めやすくなる。
式(6)で表される2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)としては、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)としては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性を向上させやすくなることから、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルがより好ましい。
2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を重合することにより、共重合中間体に2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)由来の単位が導入される。上記式(6)で表される2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を用いた場合は、下記式(8)で表される構成単位が共重合中間体に導入される。下記式(8)において、R10とR11は上記と同じ意味を表す。
(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)としては、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)とともに、ヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステル(a2)を用いることが好ましい。ヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステル(a2)を併用することにより、続く環化工程で環化反応に関与せずに残存するヒドロキシ基の量を低減でき、得られるアクリル系共重合体の耐熱性や耐湿性を高めやすくなる。
ヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステル(a2)としては、下記式(7)で表される化合物を用いることが好ましい。式(7)中、R12は、水素原子またはメチル基を表し、R13は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または炭素数7〜12のアラルキル基を表す。R13としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)のR3で例示した各基が具体的に挙げられる。中でも、R13としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がさらに好ましく、メチル基、エチル基またはn−ブチル基が特に好ましい。これにより、アクリル系共重合体の耐熱性を高めやすくなる。
ヒドロキシ基を有しない(メタ)アクリル酸エステル(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル等が挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、メタクリル酸メチルを用いることが好ましく、これによりアクリル系共重合体の耐熱性を高めやすくなる。
重合工程で用いる単量体成分には、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)とマレイミド単量体(b)以外のビニル単量体が含まれていてもよい。その他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等が挙げられる。
重合工程で、単量体成分として2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を用いる場合、単量体成分100質量部中、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を0.5質量部以上含むことが好ましく、1質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましく、また5質量部未満が好ましく、4.8質量部以下がより好ましく、4.5質量部以下がさらに好ましい。2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を0.5質量部以上含むことにより、続く環化工程でアクリル系共重合体の主鎖にラクトン環構造単位(C)が好適に導入され、得られるアクリル系共重合体の耐熱性や破壊強度のバランスを取りやすくなる。2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)を5質量部未満含むことにより、複屈折の小さいアクリル系共重合体を得やすくなる。
マレイミド単量体(b)は、単量体成分100質量部中、2質量部以上含まれることが好ましく、3質量部以上がより好ましく、また17質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましい。マレイミド単量体(b)を2質量部以上含むことにより、得られるアクリル系共重合体の耐熱性を高めたり、応力光学係数(Cr)の絶対値を小さく形成することが容易になる。マレイミド単量体(b)を17質量部以下含むことにより、高破壊強度で着色の少ないアクリル系共重合体を得やすくなる。また、アクリル系共重合体を溶融した際に、流動性を高めやすくなる。
単量体成分としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)とマレイミド単量体(b)が主要成分として含まれることが好ましく、単量体成分100質量部中、(メタ)アクリル酸エステル単量体(a)とマレイミド単量体(b)が75質量部以上含まれることが好ましく、85質量部以上がより好ましく、90質量部以上がさらに好ましく、95質量部以上が特に好ましい。このように単量体成分が構成されていれば、続く環化工程で環化反応が進みやすくなり、アクリル系共重合体の主鎖にラクトン環構造単位(C)を好適に導入しやすくなる。
単量体成分には、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン等のスチレン系単量体が含まれていてもよい。アクリル系共重合体の主鎖の環構造は正の複屈折を示すのに対し、スチレン系単量体由来の構成単位(スチレン単位)は負の複屈折を示すことから、単量体成分の一部としてスチレン系単量体を用いれば、両者の複屈折が互いに打ち消し合って全体として低複屈折を有するアクリル系共重合体を得ることもできるため、環構造を多くすることも可能となる。なお、続く環化工程でのラクトン環形成を容易にする点からは、スチレン系単量体の含有量はあまり多くないことが好ましく、単量体成分100質量部中、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
単量体成分の重合は、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合法を用いて行うことができるが、溶剤を使用する重合法である溶液重合法が好ましい。溶液重合法を用いれば、アクリル系共重合体への微小な異物の混入を抑えることができ、アクリル系共重合体を光学材料用途等に好適に適用しやすくなる。
重合形式としては、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合の際、単量体成分は一括で仕込んでもよく、分割添加してもよい。
重合溶媒は、単量体成分の組成に応じて適宜選択でき、通常のラジカル重合反応で使用される有機溶媒を用いることができる。具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;クロロホルム;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合の際には公知の重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・二塩酸塩、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシオクトエート、t−アミルパーオキシイソノナノエート等の過酸化物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、例えば、単量体成分100質量部に対して0.01〜1質量部とすることが好ましい。
重合工程では、連鎖移動剤等を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることにより、分子量分布の小さいアクリル系共重合体を得やすくなる。また、解重合による熱分解も抑制しやすくなる。連鎖移動剤としては、ブタンチオール、オクタンチオール、オクタデカンチオール、ドデカンチオール、シクロヘキシルメルカプタン、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルエステル、オクタン酸2−メルカプトエチルエステル、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、ドデシルメルカプタン、エチレングリコールビスチオグリコレート等のメルカプタン;四塩化炭素、四臭化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、ブロモトリクロロエタン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、例えば、単量体成分100質量部に対して0.01〜1質量部とすることが好ましい。
重合反応の温度は、重合溶媒の種類や重合反応の進行度合に応じて適宜調整すればよいが、例えば、50℃以上が好ましく、55℃以上がより好ましく、また160℃以下が好ましく、145℃以下がより好ましい。重合反応の時間は、重合反応の進行度合に応じて適宜調整すればよいが、例えば、1〜48時間(好ましくは3〜24時間)行えばよい。
重合工程に続いて、主鎖にラクトン環構造単位(C)を形成する環化工程を行う。環化工程では、重合工程で得られた共重合中間体の主鎖に含まれるラクトン環原料単位を環化させて、ラクトン環構造単位(C)を形成する。なお上記に説明したように、共重合中間体には、ラクトン環原料単位として2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)由来の単位が含まれることが好ましいことから、環化工程では、共重合中間体に含まれる2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)由来の単位を環化させて、ラクトン環構造単位(C)を形成することが好ましい。
環化工程では、共重合中間体を加熱することにより環化反応を行うことが好ましく、これにより、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル(a1)由来の単位に含まれるヒドロキシ基とエステル基との間で脱アルコール反応させて環化縮合させて、主鎖にラクトン環構造を形成することができる。
環化反応に当たっては、触媒を用いることが好ましい。環化反応の触媒としては、酸、塩基およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。酸、塩基およびそれらの塩は有機物であっても無機物であってもよく、特に限定されない。中でも、環化反応の触媒としては、有機リン化合物を用いることが好ましい。有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、ラクトン環の環化反応率を向上させることができるとともに、得られるアクリル系共重合体の着色を低減することができる。
環化触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;アルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;アルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;ハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム;等が挙げられる。これらの有機リン化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、触媒活性が高く、着色性が低いことから、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。
触媒の使用量は特に限定されず、得られるアクリル系共重合体に着色などの悪影響を及ぼさず、アクリル系共重合体の透明性が低下しない範囲内で使用することが好ましい。触媒の使用量は、例えば、共重合中間体100質量部に対して、0.001〜1質量部程度であることが好ましい。
触媒の添加時期は特に限定されず、重合前でもよいし、重合後でもよいし、これらの両方でもよく、適宜調整すればよい。触媒は、分割して投入しても、一括で投入してもよい。
環化工程における加熱は、重合工程で得られた重合溶媒を含む重合溶液をそのまま加熱してもよいし、重合溶媒を脱揮した後に加熱してもよいし、これらの両方を組み合わせて行ってもよい。環化反応に用いる反応器としては、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる装置、ベント付押出機等が挙げられる。
環化工程では、脱揮を行うことが好ましい。脱揮は、反応器内を真空ポンプ等で減圧することにより行うことができる。脱揮は、環化反応の全体を通じて行ってもよく、環化反応の一部で行ってもよい。例えば、脱揮をせずに環化反応を行い、その後脱揮をしながら環化反応を行うことができる。脱揮により、重合工程で用いられ環化工程に持ち込まれた重合溶媒や、環化反応により副生したアルコール等が除去され、得られるアクリル系共重合体中の残存揮発分を少なくすることができる。また、環化反応で副生したアルコール等が除去されるため、反応平衡が生成側に傾き有利となる。
環化反応の際の加熱温度は、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、これにより環化反応を好適に進行させることができるとともに、得られるアクリル系共重合体中の残存揮発分を少なくすることができる。一方、前記加熱温度は350℃以下が好ましく、320℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましく、これにより過剰な熱履歴によるアクリル系共重合体の分解を抑えて、分子量の低下を抑えることができる。また、アクリル系共重合体の透明性も確保しやすくなる。
脱揮をしながら環化反応を行う場合、効率的に脱揮を行う点から、環化反応を減圧下で行うことが好ましい。環化反応での減圧は、例えば、絶対圧として90kPa以下とすることが好ましく、80kPa以下がより好ましく、70kPa以下がさらに好ましい。一方、減圧状態を実現するための設備が過剰仕様とならず、設備費を低く抑える点から、減圧する際の絶対圧は0.1kPa以上が好ましく、1kPa以上がより好ましい。なお、脱揮をせずに環化反応を行う場合は、環化反応は常圧下または加圧下で行ってもよい。
ベント付押出機を用いる場合、押出機は、シリンダと、シリンダ内に設けられたスクリューとを有し、加熱手段を備えていることが好ましい。シリンダには、ベントが1つまたは複数設けられる。ベントは、押出機内の移送方向に対して、少なくとも原料投入部の下流側に設けられることが好ましく、原料投入部の上流側にも設けられてもよい。
押出機内に供給された共重合中間体を、スクリューで混練しながら押出機の上流側から下流側へ移送される過程で環化反応が進み、押出機の下流側からアクリル系共重合体が排出される。押出機の下流側には、押出機からアクリル系共重合体を吐出するダイス部が設けられていることが好ましく、ダイス部からアクリル系共重合体を吐出することにより、所定の形状(フィルム状や棒状)に成形することができる。例えば、棒状に成形されたアクリル系共重合体を細かく切断すれば、ペレットを製造することができる。なお、環化反応させた後のアクリル系共重合体を押出機に供給してアクリル系共重合体を任意の形状に成形してもよく、この場合はベントを備えない押出機を用いることも可能である。
本発明のアクリル系共重合体は、樹脂組成物として用いることができる。本発明のアクリル系共重合体を含有する樹脂組成物は、複屈折が小さく、破壊強度と耐熱性に優れたものとなる。また、樹脂組成物を溶融した際の流動性を確保しやすくなり、成形加工性を高めることができる。
樹脂組成物は、少なくとも本発明のアクリル系共重合体を含有し、他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。他の熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル系共重合体とポリマーブレンドとして用いられてもよく、ポリマーアロイとして用いられてもよい。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系重合体;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系の単独重合体および共重合体(共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよいが、本発明のアクリル系共重合体は除く);ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等のセルロースアシレート;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリスルホン;ポリエーテルスルホン;ポリオキシベンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムあるいはアクリル系ゴム、またはこれらを配合したABS樹脂、ASA樹脂等のゴム質重合体等が挙げられる。
樹脂組成物における他の熱可塑性樹脂の配合量は、樹脂組成物の用途に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、相溶性の低い他の熱可塑性樹脂を配合する場合は、透明性を確保する観点から、樹脂組成物100質量部に対して、例えば、0〜50質量部であることが好ましく、0〜40質量部がより好ましく、0〜30質量部がさらに好ましく、0〜20質量部が特に好ましい。
樹脂組成物は、種々の添加剤を含有していてもよい。例えば、樹脂組成物は、耐光性を高めるために紫外線吸収剤を含有してもよい。通常、そのような紫外線吸収剤を樹脂組成物に添加すると、樹脂組成物の着色度(YI)が高くなり、樹脂組成物の着色が懸念されるが、本発明の樹脂組成物を構成するアクリル系共重合体は着色度(YI)を低く抑えることができることから、これに紫外線吸収剤を含有させた樹脂組成物も着色度(YI)を低く抑えることができる。紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物、フェニルサリチレート等のサリシケート系化合物、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系化合物、(2,2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等のトリアゾール系化合物、2,4−ビス「2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3−5−トリアジン、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン系化合物等を用いることができる。紫外線吸収剤は、市販の物質を用いてもよく、例えば、アデカスタブ(登録商標)LA−31、LA−F70(ともにADEKA社製)を用いることができる。
紫外線吸収剤の分子量は特に限定はされないが、600以上が好ましい。分子量の上限は、例えば、10000である。なお、分子量が過度に大きくなると、樹脂成分(アクリル系共重合体や必要に応じて加えられる他の熱可塑性樹脂)との相溶性が低下し、樹脂組成物の成形体の光学的透明性が低下するおそれがあるため、分子量の上限は、8000が好ましく、5000がより好ましい。
紫外線吸収剤の紫外線吸収能は、波長300〜380nmの範囲内の紫外線吸収剤による吸収が最大となる波長の光に対するモル吸光係数(クロロホルム溶液)にして、10000(L・mol-1・cm-1)以上が好ましい。
樹脂組成物は、紫外線吸収剤以外の添加剤を含有していてもよい。そのような添加剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;耐光安定化剤、耐候安定化剤、熱安定化剤等の安定化剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃化剤;アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機充填材、無機充填材等の充填材;樹脂改質剤;可塑剤;滑剤等が挙げられる。
樹脂組成物中における各添加剤の配合量は、樹脂組成物の用途に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、樹脂組成物100質量部に対して、例えば、0〜5質量部であることが好ましく、0〜2質量部がより好ましく、0〜0.5質量部がさらに好ましい。
本発明のアクリル系共重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(A)とスクシンイミド環構造単位(B)とラクトン環構造単位(C)とを有することにより、応力光学係数(Cr)の絶対値を小さくすることが容易になる。そのため、アクリル系共重合体やそれを含有する樹脂組成物をフィルム化して光学フィルムを製造した際に、複屈折の小さい光学フィルムを得やすくなる。本発明のアクリル系共重合体および樹脂組成物は、応力光学係数(Cr)の絶対値が0.15×10-9Pa-1以下であることが好ましく、0.10×10-9Pa-1以下がより好ましく、0.08×10-9Pa-1以下がさらに好ましく、0.05×10-9Pa-1以下が特に好ましい。
本発明のアクリル系共重合体および樹脂組成物は、耐熱性と破壊強度の両方を高めることができる。耐熱性としては5%減量加熱温度を指標として用いることができ、本発明のアクリル系共重合体および樹脂組成物は成形加工時の加熱温度をより高く設定しても、共重合体の分解を抑え、熱安定性を高めることができる。そのため、成形加工性を高めたり、アクリル系共重合体の分解による着色を抑えることが容易になる。アクリル系共重合体および樹脂組成物の5%減量加熱温度は、350℃以上が好ましく、352℃以上がより好ましく、355℃以上がさらに好ましい。5%減量加熱温度の上限は特に限定されないが、例えば、400℃以下であってもよく、380℃以下であってもよい。5%減量加熱温度は示差熱天秤(TG−DTA)測定により求め、詳細は実施例に記載の方法に従う。
破壊強度としては、厚さ100μmの未延伸フィルムとしたときの破壊エネルギーを指標として用いることができる。具体的には、アクリル系共重合体または樹脂組成物を溶融押出して、厚さ100μmの未延伸フィルムに成形したときの破壊エネルギーが、5mJ以上であることが好ましく、6mJ以上がより好ましく、8mJ以上がさらに好ましく、10mJ以上が特に好ましい。破壊エネルギーは、前記のように形成した厚さ100μmの未延伸フィルムの上に、ある高さから質量0.0054kgの球を落とす試験を15回実施し、フィルムが破壊されたときの高さ(破壊高さ)の平均値から、次式に従って破壊エネルギーを求める:破壊エネルギー(mJ)=球の質量(kg)×破壊高さ平均値(mm)×9.8(m/s2)。フィルムの破壊は目視により判断する。破壊エネルギーは大きいほど好ましく、特にその上限は限定されないが、例えば、50mJ以下であってもよく、30mJ以下であってもよく、20mJ以下であってもよい。
アクリル系共重合体および樹脂組成物は、ガラス転移温度が115℃以上であることが好ましく、120℃以上がより好ましく、125℃以上がさらに好ましい。アクリル系共重合体および樹脂組成物がこのようなガラス転移温度を有していれば、アクリル系共重合体および樹脂組成物の成形品の耐熱性が高まり、成形体を耐熱性が求められる用途(例えば画像表示装置等の用途)へ適用することが可能となる。例えば、ポリメタクリル酸メチルのガラス転移温度は通常100℃程度であるが、本発明のアクリル系共重合体および樹脂組成物はガラス転移温度を115℃以上とすることができる。一方、アクリル系共重合体および樹脂組成物のガラス転移温度の上限については、フィルム等への成形加工性を確保する点から、200℃以下が好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。ガラス転移温度は、JIS K 7121に準拠して求める。
アクリル系共重合体および樹脂組成物は、温度240℃、荷重98Nで測定したメルトフローレートが5g/10min以上であることが好ましく、7g/10min以上がより好ましく、9g/10min以上がさらに好ましく、12g/10min以上が特に好ましい。アクリル系共重合体および樹脂組成物がこのようなメルトフローレートを有していれば、アクリル系共重合体および樹脂組成物の溶融粘度が低下し、成形加工性を高めることができる。また、成形加工に先立ってアクリル系共重合体や樹脂組成物の溶融物をフィルタを通して異物を取り除く際などに、フィルタの圧損を低く抑えて、生産性を高めることができる。一方、溶融粘度が低すぎても、成形体の強度が不足したり、フィルム成形や延伸などの成形加工が困難となるおそれがあることから、前記メルトフローレートは、50g/10min以下が好ましく、20g/10min以下がより好ましく、18g/10min以下がさらに好ましい。アクリル系共重合体のメルトフローレートは、JIS K 7210(B法)に準拠して求める。
アクリル系共重合体および樹脂組成物は、厚さ100μmの未延伸フィルムに成形したときの光弾性係数(Cd)の絶対値が10×10-12Pa-1以下であることが好ましく、5×10-12Pa-1以下がより好ましく、3×10-12Pa-1以下がより好ましい。光弾性係数(Cd)は次の方法に従って求める。まず、アクリル系共重合体または樹脂組成物を溶融押出成形して厚さ100μmの未延伸フィルムを得て、これを幅7mmの長方形に切り出して試験片とする。次に、引張試験機を設置した位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子社製、RETS−100)に、試験片をチャック間距離30mmで装着し、23℃で試験片に伸長応力(σR)を印加しながら(チャック移動速度5mm/分)、波長590nmの光に対する複屈折を測定する。測定した複屈折の絶対値(|Δn|)と試験片に印加した伸張応力(σR)との関係から、最小二乗法により傾き|Δn|/σRを求め、光弾性係数(Cd)を算出する(Cd=|Δn|/σRである)。なお、Cdの算出には、伸張応力が2.5MPa≦σR≦10MPaの範囲のデータを用いる。|Δn|は、|Δn|=|nx−ny|である。
本発明のアクリル系共重合体および樹脂組成物は、着色度(YI)が20以下であることが好ましく、16以下がより好ましく、12以下がさらに好ましく、6以下が特に好ましい。着色度(YI)が20以下であれば、用途にもよるが、フィルムなどの成形品とした場合に、光学用途に十分に使用可能なレベルとなり、また加熱による着色を低く抑えることができる。アクリル系共重合体および樹脂組成物はまた、280℃で20分加熱したときの着色度(YI)が20以下であることが好ましく、16以下がより好ましく、12以下がさらに好ましく、これにより、アクリル系共重合体や樹脂組成物の溶融物をフィルタを通して異物を取り除いてフィルムに成形した場合に、用途にもよるが、光学用途に十分に使用可能なレベルとすることができる。アクリル系共重合体および樹脂組成物は、温度280℃で20分加熱したときの着色度の増加(ΔYI)が10以下であることが好ましく、7以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。着色度(YI)および着色度の増加(ΔYI)は、JIS K 7103に準拠して求め、アクリル系共重合体または樹脂組成物をクロロホルムに溶かして15質量%溶液としたものを、色差計にて光路長1cmの条件で測ることにより求める。
アクリル系共重合体および樹脂組成物は、透明性を高める点から、厚さ100μmの未延伸フィルムに成形したときのヘイズが、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。ヘイズは、JIS K 7136に準拠して求め、詳細は実施例に記載の方法に従う。
本発明のアクリル系共重合体および樹脂組成物は、複屈折が小さく、破壊強度と耐熱性に優れ、また透明性や成形加工性にも優れたものとなるため、多岐にわたる用途への適用が可能である。中でも、光学フィルム等の原料として好適に使用することができる。光学フィルムは、本発明のアクリル系共重合体または樹脂組成物を含有し、これを溶融成形することにより任意の形状に形成することができる。
光学フィルムは、例えば、光ディスクの保護フィルム、液晶表示装置等の画像表示装置の偏光板に用いられる偏光子保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、拡散板、導光体、プリズムシート等の用途に用いることができる。従って、光学フィルムは、例えば、液晶表示装置、有機EL表示装置等の画像表示装置、静電容量式タッチパネル等の用途に好適に使用することが期待される。
光学フィルムは、例えば、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出成形法、キャスト成形法、プレス成形法等によって製造することができ、溶融押出成形法によって製造する場合は、単軸押出機や二軸押出機等を用いることができる。
光学フィルムは、未延伸フィルムまたは延伸フィルムのいずれでもよいが、好ましくは、延伸フィルムである。延伸フィルムである場合は、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムのいずれでもよいが、二軸延伸フィルムが特に好ましい。二軸延伸した場合は、直交する2つの方向に延伸するので、フィルム面内の任意の方向についての機械的破壊強度が向上し、フィルム性能が向上する。また、フィルムの面内位相差を小さくし、光学等方性の高い光学フィルムを得やすくなる。二軸延伸フィルムである場合は、同時二軸延伸フィルムまたは逐次二軸延伸フィルムのいずれでもよい。
延伸温度は、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)近傍であることが好ましく、具体的には、好ましくは(Tg−20℃)〜(Tg+80℃)、より好ましくは(Tg−10℃)〜(Tg+30℃)の範囲内である。延伸温度が(Tg−20℃)未満であると、十分な延伸倍率が得られないことがある。一方、延伸温度が(Tg+80℃)超えると、樹脂組成物の流動性が高くなりすぎて、安定的な延伸が行えなくなることがある。
光学フィルムの延伸倍率は、縦方向および当該縦方向に直交する横方向のいずれの方向においても、機械的破壊強度を確保する点から、それぞれ、1.5倍〜3.0倍程度であることが好ましく、1.5倍〜2.8倍程度であることがより好ましい。
光学フィルムの厚さは、その用途によって異なるので一概には定めることはできないが、例えば、光学フィルムを、画像表示装置に用いられる保護フィルム、反射防止フィルム、偏光フィルム等の用途に用いる場合には、当該光学フィルムの厚さは、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましく、また250μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましい。また、光学フィルムを透明導電性フィルムの用途に用いる場合には、当該光学フィルムの厚さは、20μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、また400μm以下が好ましく、350μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。光学フィルムの厚さは、例えば、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定する。
光学フィルムを偏光子保護フィルムに適用する場合は、偏光子の片面または両面に光学フィルム(偏光子保護フィルム)を設けて、偏光板を構成すればよい。偏光子の種類は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色、延伸して得た偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールあるいは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子等が挙げられる。偏光板の構造の一例としては、ポリビニルアルコールをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して偏光子を得て、この偏光子の片面または両面に偏光子保護フィルム(光学フィルム)を接合させた構造が挙げられる。
光学フィルムの表面に透明導電層が形成された光学フィルムは、透明導電フィルムとして用いることができる。透明導電層としては、例えば、インジウム−スズ系酸化物(ITO)層等の赤外線を反射する性質を有する無機化合物層、銀、銅、ニッケル、タングステン等の金属からなる金属メッシュ層などが挙げられる。
光学フィルムは、必要に応じて、少なくとも一方の表面にコーティング層が設けられていてもよい。コーティング層としては、例えば、帯電防止層、粘着剤層、接着剤層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層、防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層等が挙げられる。また、光学フィルムの表面に、入射される光線の透過率または反射率を適宜調整するための光学調整層が設けられていてもよい。
光学フィルムを備えた画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置が挙げられる。液晶表示装置は、画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライト等の部材とともに、本発明の光学フィルムを有するように構成することができる。この場合、画像表示装置は、例えば、偏光板を構成する偏光子保護フィルムとして光学フィルムを備える。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
(1) 分析方法
(1−1) 重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)
重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
−システム:東ソー社製GPCシステム HLC−8220
−測定側カラム構成
ガードカラム:東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L
分離カラム:東ソー社製、TSKgel SuperHZM−M 2本直列接続
−リファレンス側カラム構成
リファレンスカラム:東ソー社製、TSKgel SuperH−RC
−展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業社製、特級)
−展開溶媒の流量:0.6mL/分
−標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
−カラム温度:40℃
(1−2) ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は、JIS K 7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
(1−3) 5%減量加熱温度
5%減量加熱温度は、差動型示差熱天秤(リガク社製、Thermo plus EVO TG−8120)を用い、窒素ガス雰囲気下(400mL/分)、約10mgのサンプルを常温から400℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して昇温前からの重量減少が5%となる温度を読み取った。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
(1−4) メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、JIS K 7210 B法に準拠して、温度240℃、荷重10kgf(98N)で測定した。
(1−5) 応力光学係数(Cr)
アクリル系共重合体または樹脂組成物を溶融押出成形して、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)とし、60mm×20mmの長方形に切り出して試験片とした。試験片の短辺の一方(下端)に、1N/mm2以下の応力となるように重りを取り付け、これをアクリル系共重合体のガラス転移温度よりも7℃高い温度で定温乾燥機(アズワン社製、DOV−450A)にチャック間距離40mmでセットし、当該温度で約30分間保持して延伸を行った後、加熱を停止し、アクリル系共重合体のガラス転移温度よりも40℃低い温度となるまで約1℃/分の冷却速度で冷却した。その後、得られた延伸フィルムを定温乾燥機から取り出し、延伸後のフィルムの長さと厚さ、および重りの質量を測定し、延伸後のフィルムの面内位相差Reを測定した。さらに、応力が1N/mm2以下となるように4種類の質量の重りを用いて前記と同様にして延伸後のフィルムの長さと厚さ、および重りの質量を測定し、延伸後のフィルムの面内位相差Reを測定した。
以上の結果に基づき、高分子学会編「透明プラスチックの最前線(ポリマーフロンティア21シリーズ)」、(株)エヌ・ティー・エス、2006年10月、37−44頁に記載の測定方法に基づいて応力光学係数(Cr)を算出した。具体的には、Δn(nx−ny)をy軸に、σをx軸にプロットし、最小二乗法で得られた直線の傾きを求め、その傾きの値を応力光学係数(Cr)とした。なお、nxはフィルムの面内における遅相軸方向(フィルム面内において最大の屈折率を示す方向)の屈折率を表し、nyはフィルムの面内における進相軸方向(フィルム面内においてnxと垂直な方向)の屈折率を表し、σは延伸に対する応力(N/m2)を表す。
(1−6) 破壊エネルギー
破壊エネルギーは、次のようにして求めた。最初に、アクリル系共重合体または樹脂組成物を溶融押出成形して、厚さ100μmのフィルム(未延伸フィルム)とした。次に、当該フィルムの上に、ある高さから質量0.0054kgの球を落とす試験を15回実施し、フィルムが破壊されたときの高さ(破壊高さ)の平均値を求めた。具体的には、高さを何段階かに設定して、低い高さから順に球を落としていったときに、フィルムが割れた高さを求めて、これを15回繰り返してフィルムが割れた高さを15回分求めて、これを平均した値を破壊高さとして求めた。フィルムが破壊されたか否かは、フィルムへの落球後、当該フィルムの割れを目視により確認し判断した。割れが見られた場合に、フィルムが破壊されたとした。次式に従って破壊エネルギー(E)を求めた:破壊エネルギーE(mJ)=球の質量(kg)×破壊高さ平均値(mm)×9.8(m/s2)。
(1−7) 着色度(YI)
アクリル系共重合体または樹脂組成物をクロロホルムに溶かして15質量%溶液とし、これを光路長1cmの石英セルに入れ、JIS K 7103に従い、色差計(日本電色工業社製、SZ−Σ90)を用いて、透過光で測定した。加熱後のアクリル系共重合体または樹脂組成物の着色度は、90℃のオーブンにて24時間乾燥処理したアクリル系共重合体または樹脂組成物を、JIS K 7210に規定されるメルトインデクサーのシリンダ内に充填し、280℃で20分間保持した後、ストランド状に押し出したものを同様に測定した。
(1−8) ヘイズ
ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH―1001DP)を用いて、石英セルに1,2,3,4−テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中にフィルムを浸漬して測定し、100μmあたりの内部ヘイズ値として算出した。
(2) アクリル系共重合体の製造
(2−1) 実施例1
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)42質量部、N−フェニルマレイミド(PMI)7質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)1質量部、トルエン50質量部を仕込み、反応容器内に窒素ガスを導入しつつ105℃まで昇温させた。ここに、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス(登録商標)570)0.05質量部を添加するとともに、トルエン1質量部にt−アミルパーオキシイソノナノエート0.1質量部を溶解させた溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、その後さらに4時間の熟成を行い、共重合中間体を得た。重合の反応率は、MMA96.6%、PMI97.5%、MHMA97.0%であり、共重合中間体中のMMA単位含有率は83.9質量%、PMI単位含有率は14.1質量%、MHMA単位含有率は2.0質量%であった。得られた共重合中間体溶液に、リン酸ステアリル(SC有機化学製、Phoslex(登録商標)A−18)0.025質量部を加え、還流下で2時間ラクトン環化反応を行った。さらに、250℃のオイルバスを用いてオートクレーブ中で加圧下で2時間ラクトン環化反応を行った。次いで、得られた反応溶液を、真空下、240℃で1時間加熱処理および乾燥することにより、主鎖にスクシンイミド環構造とラクトン環構造を有する固体のアクリル系共重合体を得た。ラクトン化率より求めたラクトン環構造単位(C)の含有率は2.9質量%、スクシンイミド環構造単位(B)の含有率は14.2質量%であった。
(2−2) 実施例2
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)46質量部、N−フェニルマレイミド(PMI)2質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2質量部、連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタン(日油社製、N−ドデシルメルカプタン)0.035質量部、トルエン50質量部を仕込み、反応容器内に窒素ガスを導入しつつ105℃まで昇温させた。ここに、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.1質量部を添加するとともに、トルエン1質量部にt−アミルパーオキシイソノナノエート0.1質量部を溶解させた溶液を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、その後さらに4時間の熟成を行い、共重合中間体を得た。重合の反応率は、MMA95.1%、PMI95.6%、MHMA94.7%であり、共重合中間体中のMMA単位含有率は92.0質量%、PMI単位含有率は4.0質量%、MHMA単位含有率は4.0質量%であった。得られた共重合中間体溶液に、リン酸ステアリル(SC有機化学社製、Phoslex(登録商標)A−18)0.025質量部を加え、還流下で2時間ラクトン環化反応を行った。さらに、250℃のオイルバスを用いてオートクレーブ中で加圧下で2時間ラクトン環化反応を行った。次いで、得られた反応溶液を、真空下、240℃で1時間加熱処理および乾燥することにより、主鎖にスクシンイミド環構造とラクトン環構造を有する固体のアクリル系共重合体を得た。ラクトン化率より求めたラクトン環構造単位(C)の含有率は5.9質量%、スクシンイミド環構造単位(B)の含有率は4.0質量%であった。
(2−3) 比較例1
撹拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた1000Lの反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)47.5質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)2.5質量部、トルエン50質量部、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(ADEKA社製、:アデカスタブ(登録商標)2112)0.025質量部を仕込み、反応釜内に窒素を導入しつつ105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.06質量部を添加するととともに、t−アミルパーオキシイソノナノエート0.12質量部を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、その後さらに4時間かけて熟成を行い、共重合中間体を得た。得られた共重合中間体溶液に、リン酸ステアリル(SC有機化学社製、Phoslex(登録商標)A−18)0.05質量部を加え、還流下(約90〜110℃)で2時間ラクトン環化反応を行い、次いで、240℃に加熱した多管式熱交換器を通してさらにラクトン環化反応を行った、得られた樹脂生成物を、バレル温度240℃、回転数120rpm、減圧度13.3〜400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、第3ベントと第4ベントの間にサイドフィーダーを有するベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=44mm、L/D=52.5)に、樹脂量換算で20kg/時の処理速度で導入して脱揮を行い、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系共重合体のペレットを得た。この際、第1ベントの後から酸化防止剤と失活剤の混合溶液を、高圧ポンプにて孔径0.1μmのフィルタを通して0.3kg/時の投入速度で注入した。また、第2、第3の後からイオン交換水を、高圧ポンプにて孔径0.1μmのフィルタを通して0.33kg/時の投入速度で注入した。酸化防止剤と失活剤の混合溶液は、5質量部のBASF社製イルガノックス(登録商標)1010と、5質量部のADEKA社製アデカスタブ(登録商標)AO−412Sと、166質量部の日本化学産業社製オクチル酸亜鉛(ニッカオクチクス亜鉛1.8%)を、トルエン24質量部で希釈して調製した。
(2−4) 比較例2
撹拌装置、温度計、冷却器、窒素導入管を備えた1000L反応釜に、メタクリル酸メチル(MMA)40質量部、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)10質量部、トルエン50質量部、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(ADEKA社製、アデカスタブ(登録商標)2112)0.25質量部を仕込み、反応釜内に窒素を導入しつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富社製、ルペロックス(登録商標)570)0.05質量部を添加するとともに、t−アミルパーオキシイソノナノエート0.1質量部を2時間かけて滴下しながら、還流下(約105〜110℃)で溶液重合を行い、その後さらに4時間かけて熟成を行い、共重合中間体を得た。得られた共重合中間体溶液に、リン酸ステアリル(SC有機化学社製、Phoslex(登録商標)A−18)0.05質量部を加え、還流下(約90〜110℃)で2時間ラクトン環化反応を進行を行い、次いで、240℃に加熱した多管式熱交換器を通してさらにラクトン環化反応を行った。得られた樹脂生成物を、バレル温度250℃、回転数120rpm、減圧度13.3〜400hPa、リアベント数1個、フォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)を有するベントタイプスクリュー二軸押出機(φ=47mm、L/D=45.5)に、樹脂量換算で20kg/時の処理速度で導入して脱揮を行い、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル系共重合体のペレットを得た。この際、第2、第3ベントの後からイオン交換水を、高圧ポンプにて孔径0.1μmのフィルタを通して0.3kg/時の投入速度で注入した。
(2−5) 比較例3
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA)40質量部、N−フェニルマレイミド(PMI)10質量部、メチルイソブチルケトン50質量部を仕込み、反応器内に窒素ガスを導入しつつ、100℃まで昇温させた。ここに、重合開始剤として1,1−ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(日油社製、パーヘキサ(登録商標)C−75(EB))0.16質量部をメチルイソブチルケトン0.48質量部に溶解させた溶液を添加し、重合反応を行った。反応開始3.5時間後を反応終了点とした。得られた反応溶液を、真空下、240℃で1時間加熱することにより、主鎖にスクシンイミド環構造を有する固体のアクリル系共重合体を得た。重合の反応率から、共重合体中のMMA単位含有率は80.7質量%、PMI単位含有率は19.3質量%と求められた。
(2−6) 結果
実施例1,2と比較例1〜3の結果を表1にまとめる。実施例1,2のアクリル系共重合体は、主鎖にスクシンイミド環構造とラクトン環構造の両方が導入されていたため、応力光学係数(Cr)の絶対値が小さく、耐熱性と破壊強度をバランス良く兼ね備えるものとなった。特に、実施例2のアクリル系共重合体は分子量分布が小さく、破壊強度と流動性に更に優れるものとなった。一方、比較例1,2のアクリル系共重合体は、主鎖に環構造としてラクトン環構造のみが導入されていたが、ラクトン環構造の導入量を調整するだけでは、耐熱性と低複屈折性の両方を備えるものとすることはできなかった。比較例3のアクリル系共重合体は、主鎖に環構造としてスクシンイミド環構造のみが導入されていたが、破壊強度を高めることが難しく、流動性にも劣るものとなった。また、加熱による着色も見られた。なお、比較例3のアクリル系共重合体は、加熱前の着色度(YI)を測定するためにクロロホルムに溶かしたところ白濁したため、色差計により正しい値を測定することができなかった。なお、比較例3で得られた反応溶液(重合液)をクロロホルムとメタノールを用いて再沈殿し、真空下、240℃で1時間加熱することにより得た、主鎖にスクシンイミド環構造を有する固体のアクリル系共重合体の着色度(YI)を測定したところ、着色度(YI)は13.0であった。