本発明の樹脂組成物は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する共重合体(P)を含むものである。本発明の樹脂組成物はこのような共重合体(P)を必須的に含むことにより、高い透明性を維持しながら、従来のアクリル樹脂では実現することが難しかった耐熱性と機械的強度と成形加工性とを高いレベルでバランス良く兼ね備えたものとすることができる。例えば、従来のアクリル樹脂では、耐熱性を持たせるために高いガラス転移温度を有するものとした場合に、樹脂が硬脆くなって機械的強度(例えば、耐折強度)が低下したり、加熱溶融した際の流動性に劣り成形加工性が低下するといった課題を有していた。しかし、本発明の樹脂組成物に含まれる共重合体(P)は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とともに、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)を有しているため、高いガラス転移温度を有するものとした場合にも、従来のアクリル樹脂に対して、高い透明性を維持しながら、機械的強度と成形加工性に優れるものとなる。以下、本発明の樹脂組成物に含まれる共重合体(P)について、まず説明する。
共重合体(P)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有するポリマー鎖(A)と、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するポリマー鎖(B)とを有する。ポリマー鎖(A)において、重合体ブロック(a1)は基本的にソフト成分として機能し、重合体ブロック(a2)はハード成分として機能する。ポリマー鎖(A)によって、共重合体(P)を含む樹脂組成物の硬脆さを低減することができ機械的強度を高めることができ、また樹脂組成物を加熱溶融した際の流動性を高めることができる。
重合体ブロック(a1)のジエン由来の単位を形成するジエンとしては、1,3−ブタジエン(別名:ブタジエン)、2−メチル−1,3−ブタジエン(別名:イソプレン)、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン(別名:ジイソブテン)等のアルカジエンが好ましく用いられ、なかでも1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等の共役ジエンがより好ましい。重合体ブロック(a1)のオレフィン由来の単位を形成するオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−テトラデセン、1−オクタデセン等のモノオレフィンが好ましく用いられ、なかでも炭素−炭素二重結合がα位にあるアルケンであるα−オレフィンがより好ましい。これらジエンおよびオレフィンの炭素数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位は、ジエンおよび/またはオレフィンが重合することにより形成される単位として規定される。オレフィン由来の単位は、同じ構造が形成される限り、オレフィンの(共)重合によって実際に形成されるものに限らず、ジエン由来の単位が水素化されることによって形成されてもよい。重合体ブロック(a1)には、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位として、ブタジエン由来の単位、イソプレン由来の単位、エチレン由来の単位、プロピレン由来の単位、1−ブテン由来の単位、およびイソブテン由来の単位から選ばれる少なくとも1種が含まれることが好ましい。
重合体ブロック(a1)としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等のオレフィン(共)重合体;ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体;エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、イソブテン−イソプレン共重合体等のオレフィンとジエンの共重合体等が挙げられる。オレフィン(共)重合体としてはα−オレフィン(共)重合体が好ましく、ジエン(共)重合体としては共役ジエン(共)重合体が好ましく、オレフィンとジエンの共重合体としてはα−オレフィンと共役ジエンの共重合体が好ましい。これらの中でもポリイソプレン、イソブテン−イソプレン共重合体等のα−オレフィンと共役ジエンの共重合体や、ポリエチレン、ポリプロピレンがより好ましい。
重合体ブロック(a1)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に加え、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸およびそのエステル;スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α−メチルスチレン、2−ビニルピリジン等の芳香族ビニル化合物;ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。重合体ブロック(a1)は、これら他の不飽和単量体とジエンおよび/またはオレフィンとの共重合体であってもよい。なお、重合体ブロック(a1)はジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を主成分として含むことが好ましく、重合体ブロック(a1)100質量%中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)は、実質的にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位のみから構成されていてもよく、例えばジエンおよび/またはオレフィン由来の単位が99質量%以上であってもよい。
重合体ブロック(a1)は、例えば上記に説明した他の不飽和単量体由来の単位として、芳香族ビニル単量体由来の単位を有していてもよい。重合体ブロック(a1)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有することにより、共重合体(P)の透明性を高めやすくなる。例えば、共重合体(P)のポリマー鎖(A)とポリマー鎖(B)の屈折率差が大きい場合でも、共重合体(P)の透明性を高めることが容易になる。
芳香族ビニル単量体由来の単位を形成する芳香族ビニル単量体は、芳香環にビニル基が結合した化合物であれば特に限定されず、例えば、スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン等のスチレン系単量体;2−ビニルナフタレン等の多環芳香族炭化水素環ビニル単量体;N−ビニルカルバゾール、2−ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルチオフェン等の芳香族複素環ビニル単量体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン系単量体が好ましい。スチレン系単量体には、スチレンのみならず、スチレンの重合性二重結合炭素またはベンゼン環に任意の置換基が結合したスチレン誘導体も含まれ、当該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。スチレンに結合したアルキル基とアルコキシ基は、炭素数1〜4が好ましく、炭素数1〜2がより好ましく、スチレンに結合したアルキル基とアルコキシ基は、水素原子の少なくとも一部がヒドロキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。なお、共重合体(P)の着色を低減する観点から、スチレン系単量体はアミノ基を有しないものが好ましい。さらに、スチレン系単量体は、スチレンの重合性二重結合炭素またはベンゼン環に置換基が結合していない無置換のスチレンであることが好ましい。
重合体ブロック(a1)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有する場合、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合は、重合体ブロック(a1)中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、また40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。この場合、重合体ブロック(a1)中、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位と芳香族ビニル単量体由来の単位の合計の含有割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a1)は、実質的にジエンおよび/またはオレフィン由来の単位と芳香族ビニル単量体由来の単位のみから構成されていてもよく、例えばこれらの単位の合計含有割合が99質量%以上であってもよい。
重合体ブロック(a2)は、芳香族ビニル単量体由来の単位を有する。重合体ブロック(a2)を形成する芳香族ビニル単量体の説明は、上記の重合体ブロック(a1)の芳香族ビニル単量体に関する説明が参照される。
重合体ブロック(a2)は、芳香族ビニル単量体由来の単位に加え、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸およびそのエステル;ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。重合体ブロック(a2)は、これら他の不飽和単量体と芳香族ビニル単量体との共重合体(特にランダム共重合体)であってもよい。なお、重合体ブロック(a2)中のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の含有割合は1質量%以下であることが好ましく、重合体ブロック(a2)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有しないことが好ましい。
重合体ブロック(a2)は芳香族ビニル単量体由来の単位を主成分として含むことが好ましい。具体的には、重合体ブロック(a2)中、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。重合体ブロック(a2)は、実質的に芳香族ビニル単量体由来の単位のみから構成されていてもよく、例えば芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合が99質量%以上であってもよい。
ポリマー鎖(A)としては、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体の水添物(例えば、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブタジエン/ブチレン−スチレンブロック共重合体)、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体の水添物(例えば、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS))等が挙げられる。また、これらのブロック共重合体において、ブタジエンブロックがブタジエン/スチレンブロックになったものや、イソプレンブロックがイソプレン/スチレンブロックになったものも、ポリマー鎖(A)の例として挙げられる。なお、前記表記において、各ブロックは「−」で区分され、各ブロック中の「/」の表記は、当該ブロック中を構成する単量体単位を表す。
ポリマー鎖(A)は、重合体ブロック(a1)の両側に重合体ブロック(a2)が結合したものであることが好ましい。これによりポリマー鎖(A)がエラストマーとして機能し、共重合体(P)の機械的強度をより高めることができる。この場合、ポリマー鎖(A)は、トリブロック共重合体であってもよく、マルチブロック共重合体であってもよく、ラジアルブロック共重合体であってもよいが、ポリマー鎖(A)の特性制御が容易であり、また共重合体(P)中へのポリマー鎖(B)の導入が容易な点から、トリブロック共重合体であることが好ましい。このような共重合体としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体およびその水添物、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体およびその水添物等が挙げられる。
ポリマー鎖(A)中、重合体ブロック(a2)の含有割合は5質量%以上であることが好ましく、7質量%以上がより好ましく、9質量%以上がさらに好ましく、また55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。これにより、ポリマー鎖(A)がソフト成分とハード成分をバランス良く有するものとなり、共重合体(P)の機械的強度を高めることが容易になる。同様の観点から、ポリマー鎖(A)中、重合体ブロック(a1)の含有割合は45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましく、また95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、91質量%以下がさらに好ましい。また、ポリマー鎖(A)中、芳香族ビニル単量体由来の単位の含有割合は8質量%以上であることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、また60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。
ポリマー鎖(A)の重量平均分子量は、0.1万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、1万以上がさらに好ましく、3万以上がさらにより好ましく、また30万以下が好ましく、25万以下がより好ましく、20万以下がさらに好ましく、15万以下がさらにより好ましい。ポリマー鎖(A)の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、共重合体(P)の機械的強度を確保し、共重合体(P)の成形加工性を高めることが容易になる。
共重合体(P)に含まれるポリマー鎖(B)について説明する。ポリマー鎖(B)は、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を少なくとも有するものである。ポリマー鎖(B)によって樹脂組成物の透明性を高めることができる。
ポリマー鎖(B)の(メタ)アクリル系単量体由来の単位(以下、「(メタ)アクリル単位」と称する場合がある)は、(メタ)アクリル系単量体を重合することによりポリマー鎖(B)に導入することができる。(メタ)アクリル系単量体には(メタ)アクリル酸およびその誘導体が含まれ、(メタ)アクリル系単量体のα位またはβ位にはアルキル基(好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基)が結合していてもよく、当該アルキル基は、水素原子の少なくとも一部が、ヒドロキシル基またはハロゲン基で置換されていてもよい。(メタ)アクリル系単量体由来の単位に含まれるカルボン酸の形態は特に限定されず、遊離酸、エステル、塩、酸アミド等の形態が挙げられる。
ポリマー鎖(B)は、(メタ)アクリル単位として、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位を有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル由来の単位を与える(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸のエステル結合の酸素原子に直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が結合した(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
直鎖状または分岐状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸へプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられる。(メタ)アクリル酸アルキルのアルキル基は、C1−18アルキル基が好ましく、C1−12アルキル基がより好ましく、C1−6アルキル基がさらに好ましい。なお本明細書において、「C1−18」や「C1−12」との記載は、それぞれ「炭素数1〜18」、「炭素数1〜12」を意味する。
環状の脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸シクロブチル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の架橋環式(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸シクロアルキルのシクロアルキル基は、C3−20シクロアルキル基が好ましく、C4−12シクロアルキル基がより好ましく、C5−10シクロアルキル基がさらに好ましい。
芳香族炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トリル、(メタ)アクリル酸キシリル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸ビナフチル、(メタ)アクリル酸アントリル等の(メタ)アクリル酸アリール;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アリールのアリール基は、C6−20アリール基が好ましく、C6−14アリール基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アラルキルのアラルキル基は、C6−10アリールC1−4アルキル基が好ましい。(メタ)アクリル酸アリールオキシアルキルのアリールオキシアルキル基は、C6−10アリールオキシC1−4アルキル基が好ましく、フェノキシC1−4アルキル基がより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、ヒドロキシル基、ハロゲン基、アルコキシ基、エポキシ基等の置換基を有していてもよい。このような(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル等の(メタ)アクリル酸ハロゲン化アルキル;(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エポキシアルキル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと(メタ)アクリル酸エポキシアルキルのアルキル基は、C1−12アルキル基が好ましく、C1−6アルキル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルのアルコキシアルキル基は、C1−12アルコキシC1−12アルキル基が好ましく、当該アルコキシ基はC1−6がより好ましく、当該アルキル基はC1−6がより好ましい。
ポリマー鎖(B)は主鎖に環構造を有することが好ましい。すなわち、ポリマー鎖(B)は、ポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を有する単位(以下、「環構造単位」と称する場合がある)を有することが好ましい。ポリマー鎖(B)が主鎖に環構造を有することで、樹脂組成物の耐熱性を高めることができ、また透明性も高めやすくなる。また、耐溶剤性、寸法安定性、表面硬度、接着性、酸素や水蒸気のバリヤ性、各種の光学特性の向上も期待できる。樹脂組成物をフィルムやシートにした場合は、寸法安定性や形状安定性を高めることも可能となる。このように形成したフィルムは、延伸することによって、ポリマー鎖(B)の環構造に由来して大きな位相差を発現させることもできる。
ポリマー鎖(B)の主鎖の環構造は、(メタ)アクリル系単量体の一部または全部を環構造内に含んでいてもよく、(メタ)アクリル系単量体とは別に導入された環構造であってもよい。(メタ)アクリル系単量体の一部または全部を環構造内に含ませる場合には、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化、イミド化などによって連結すればよい。また隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位のうち一方がヒドロキシル基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する場合には、この一方の(メタ)アクリル系単量体由来の単位のプロトン性水素原子含有基と他方の(メタ)アクリル系単量体由来の単位のカルボン酸基とが縮合することでも、環構造を形成できる。環構造を(メタ)アクリル系単量体由来の単位とは別に導入する場合は、例えば、(メタ)アクリル系単量体と、環構造内に重合性二重結合を有する単量体とを共重合すればよい。
環構造は、4員環構造、5員環構造、6員環構造、7員環構造、8員環構造等のいずれでもよく、好ましくは5員環構造または6員環構造である。
環構造としては、共重合体(P)の耐熱性の観点から、ラクトン環構造、環状イミド構造(例えば、スクシンイミド構造、グルタルイミド構造等)、環状無水物構造(例えば、無水コハク酸構造、無水グルタル酸構造等)等が好ましく挙げられる。これらの環構造は、ポリマー鎖(B)の主鎖に1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。これらの中でも、ラクトン環構造、スクシンイミド構造、無水コハク酸構造、グルタルイミド構造、および無水グルタル酸構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造としてラクトン環構造を有する場合、ラクトン環構造の環員数は特に限定されず、例えば4員環から8員環のいずれかであればよい。なお、環構造の安定性に優れる点から、ラクトン環構造は5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。
ラクトン環構造としては、例えば特開2004−168882号公報に開示される構造等が挙げられるが、ラクトン環構造の導入が容易であること、具体的には、前駆体(ラクトン環化前の重合体)の重合収率が高いこと、前駆体の環化縮合反応におけるラクトン環含有率を高めることができること、(メタ)アクリレート由来の単位を有する重合体を前駆体にできることなどの理由から、下記式(1)で表される構造が好ましく示される。下記式(1)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して水素原子または置換基を表す。
式(1)のR1、R2およびR3の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1−20の炭化水素基等が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のC1−20アルキル基(好ましくはC1−10のアルキル基であり、より好ましくはC1−6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2−20アルケニル基(好ましくはC2−10のアルケニル基であり、より好ましくはC2−6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3−20シクロアルキル基(好ましくはC4−12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5−8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6−20アリール基(好ましくはC6−14のアリール基であり、より好ましくはC6−10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7−20アラルキル基(好ましくはC7−15のアラルキル基であり、より好ましくはC7−11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は酸素原子やハロゲン原子を含んでいてもよく、具体的には、炭化水素基の有する水素原子の1つ以上が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種類の基により置換されていてもよい。
ラクトン環構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル酸エステル由来の単位のエステル基と、ヒドロキシル基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する(メタ)アクリル系単量体由来の単位のプロトン性水素原子含有基とを環化縮合することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
式(1)のラクトン環構造において、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1−20アルキル基であり、R3は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R3は水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
ラクトン環構造は、例えば、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体Aと、(メタ)アクリル系単量体Bとを重合(好ましくは共重合)して分子鎖にヒドロキシ基とエステル基またはカルボキシル基とを導入した後、これらヒドロキシ基とエステル基またはカルボキシル基との間で脱アルコールまたは脱水環化縮合を生じさせることにより形成できる。重合成分として、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体Aは必須であり、(メタ)アクリル系単量体Bは前記単量体Aを包含する。単量体Bは単量体Aと一致していてもよいし、一致しなくてもよい。単量体Bが単量体Aと一致するときには、単量体Aの単独重合となる。
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル系単量体Aとしては、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸n−ブチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸t−ブチル)、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸エチル)等が挙げられ、好ましくは、ヒドロキシアリル部位を有する単量体である2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸や2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキルが挙げられる。特に好ましくは2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが示される。
(メタ)アクリル系単量体Bとしては、ビニル基とエステル基またはカルボキシル基とを有する単量体が好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキル(例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等)、(メタ)アクリル酸アリール(例えば、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等)、2−(ヒドロキシアルキル)アクリル酸アルキル(例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸アルキル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチル等の2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸アルキル)等が挙げられる。
ポリマー鎖(B)は、式(1)で表されるラクトン環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造として無水コハク酸構造(すなわち無水マレイン酸単量体に由来する構造)またはスクシンイミド構造(すなわちマレイミド単量体に由来する構造)を有する場合、無水コハク酸構造またはスクシンイミド構造としては、下記式(2)で表される構造が好ましく示される。下記式(2)において、R4およびR5は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R6は水素原子または置換基を表し、X1は酸素原子または窒素原子を表し、X1が酸素原子のときn1=0であり、X1が窒素原子のときn1=1である。
式(2)のR6の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1−20の炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のC1−20アルキル基(好ましくはC1−10のアルキル基であり、より好ましくはC1−6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2−20アルケニル基(好ましくはC2−10のアルケニル基であり、より好ましくはC2−6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3−20シクロアルキル基(好ましくはC4−12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5−8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6−20アリール基(好ましくはC6−14のアリール基であり、より好ましくはC6−10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7−20アラルキル基(好ましくはC7−15のアラルキル基であり、より好ましくはC7−11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。
X1が酸素原子のとき、式(2)により示される環構造は無水コハク酸構造となる。無水コハク酸構造は、例えば、無水マレイン酸と(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル等)とを共重合することによって、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
X1が窒素原子のとき、式(2)により示される環構造はスクシンイミド構造となる。スクシンイミド構造は、例えば、マレイミドと(メタ)アクリル系単量体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル)とを共重合することによって、ポリマー鎖(B)に導入することができる。スクシンイミド構造としては、例えば、N位が無置換のスクシンイミド構造、N−メチルスクシンイミド構造、N−エチルスクシンイミド構造、N−シクロヘキシルスクシンイミド構造、N−フェニルスクシンイミド構造、N−ナフチルスクシンイミド構造、N−ベンジルスクシンイミド構造等が挙げられる。また、スクシンイミド構造を与えるマレイミドとしては、N位が無置換のマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ベンジルマレイミド等を用いることができる。
ポリマー鎖(B)がX1が窒素原子であるスクシンイミド構造を有する場合、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R4およびR5は水素原子であり、R6はC3−20シクロアルキル基またはC6−20芳香族基(アリール基、アラルキル基等)であることが好ましく、R4およびR5は水素原子であり、R6はシクロヘキシル基またはフェニル基であることがより好ましい。
ポリマー鎖(B)は、式(2)で表される環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
ポリマー鎖(B)が主鎖の環構造としてグルタルイミド構造または無水グルタル酸構造を有する場合、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造としては、下記式(3)で表される構造が好ましく示される。下記式(3)において、R7およびR8は、それぞれ独立して水素原子またはアルキル基を表し、R9は水素原子または置換基を表し、X2は酸素原子または窒素原子を表し、X2が酸素原子のときn2=0であり、X2が窒素原子のときn2=1である。
式(3)中、R7およびR8のアルキル基としては、直鎖状または分岐状のアルキル基が好ましく挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、イソへキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のC1−8アルキル基等が挙げられる。なお、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R7およびR8は、それぞれ独立して水素原子またはC1−4アルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましい。
式(3)のR9の置換基としては、炭化水素基等の有機残基が挙げられ、例えば、置換基を有していてもよいC1−20の炭化水素基が挙げられる。当該炭化水素基としては、飽和または不飽和の直鎖状、分岐状または環状の脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等のC1−20アルキル基(好ましくはC1−10のアルキル基であり、より好ましくはC1−6のアルキル基);エテニル基、プロペニル基等のC2−20アルケニル基(好ましくはC2−10のアルケニル基であり、より好ましくはC2−6のアルケニル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3−20シクロアルキル基(好ましくはC4−12のシクロアルキル基であり、より好ましくはC5−8のシクロアルキル基)等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のC6−20アリール基(好ましくはC6−14のアリール基であり、より好ましくはC6−10のアリール基);ベンジル基、フェニルエチル基等のC7−20アラルキル基(好ましくはC7−15のアラルキル基であり、より好ましくはC7−11のアラルキル基)等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R9は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基であることが好ましく、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、またはトリル基がより好ましい。
X2が酸素原子のとき、式(3)により示される環構造は無水グルタル酸構造となる。無水グルタル酸構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
X2が窒素原子のとき、式(3)により示される環構造はグルタルイミド構造となる。グルタルイミド構造は、例えば、隣接する(メタ)アクリル系単量体由来の単位の2個のカルボン酸基をイミド化したり、隣接する(メタ)アクリル酸アミド由来の単位のアミド基と(メタ)アクリル酸エステル由来の単位のエステル基とを環化縮合することにより、ポリマー鎖(B)に導入することができる。
式(3)の環構造において、X2が窒素原子であるグルタルイミド構造を有する場合、耐熱性に優れ、複屈折率が小さい共重合体(P)を得ることが容易な点から、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R9は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、またはトリル基であることがさらに好ましく、R7およびR8はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基であり、R9はシクロヘキシル基またはフェニル基であることが特に好ましい。
ポリマー鎖(B)は、式(3)で表される環構造を1種のみ有していてもよく、2種以上有していてもよい。
上記に説明した環構造のうち、共重合体(P)の耐熱性をより高めることができる観点から、ポリマー鎖(B)の環構造単位は環状イミド構造を含むことが好ましい。共重合体(P)を含む樹脂組成物をフィルムに適用したときに、良好な表面硬度、耐溶剤性、接着性、バリヤ特性、光学特性が付与される観点からは、ポリマー鎖(B)の環構造単位は、ラクトン環構造および/またはスクシンイミド構造を含むことが好ましい。
ポリマー鎖(B)中の環構造単位の含有割合は特に限定されないが、ポリマー鎖(B)中、環構造単位の含有割合は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、また60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。このように環構造単位の含有割合を調整することにより、共重合体(P)を含む樹脂組成物の耐熱性と機械的強度の両方をバランス良く高めることが容易になる。なお、ここで説明した環構造単位の含有割合は、ポリマー鎖(B)の主鎖に含まれる環構造を有する単位の含有率を意味し、例えば、上記式(1)〜(3)で表される構造の含有割合を意味する。
ポリマー鎖(B)は、さらに他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。他の不飽和単量体は、重合性二重結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;スチレン、ビニルトルエン、メトキシスチレン、α−メチルスチレン、2−ビニルピリジン等の芳香族ビニル化合物;ビニルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン等が挙げられる。例えば、ポリマー鎖(B)が芳香族ビニル単量体由来の単位を有していれば、共重合体(P)の屈折率や位相差特性を調整することが容易になる。芳香族ビニル単量体の詳細は、ポリマー鎖(A)の芳香族ビニル単量体の説明が参照される。なお、ポリマー鎖(B)が2種以上の単量体成分から形成されるものである場合、ポリマー鎖(B)はランダム共重合体であることが好ましい。
ポリマー鎖(B)は、(メタ)アクリル単位と環構造単位の合計含有割合が、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。これにより、共重合体(P)を含む樹脂組成物の透明性や耐熱性を高めることが容易になる。また、(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と環構造単位の合計含有割合がこのような範囲にあることが好ましい。
ポリマー鎖(B)はポリマー鎖(A)にグラフトしていることが好ましい。従って、共重合体(P)はポリマー鎖(B)をグラフト鎖として有するグラフト共重合体であることが好ましい。なお、国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集によると、グラフト高分子とは、「ある高分子中に側鎖として主鎖に結合した1種または数種のブロックがあり、しかもこれらの側鎖が主鎖とは異なる構成(化学構造)上または配置上の特徴をもつ場合、この高分子をグラフト高分子という。」と説明されている。グラフト共重合体は、連鎖移動反応法、高分子開始剤法、カップリング法、マクロモノマー法、表面グラフト法等の公知の製造方法により得ることができ、これらの方法から1つのみを採用してもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。これらの方法の詳細は、日本化学会編、化学便覧(応用化学編)第6版を参考にできる。
共重合体(P)は、ポリマー鎖(A)に、ポリマー鎖(B)を形成する単量体成分を付加重合することにより製造することが簡便である。従って、共重合体(P)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位を有する重合体ブロック(a1)と芳香族ビニル単量体由来の単位を有する重合体ブロック(a2)を有する共重合体(以下、「原料共重合体(P1)」と称する)の存在下で、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を重合することによって得られるものが好ましい。なお本明細書において、「原料共重合体(P1)」を単に「共重合体(P1)」と称する場合がある。原料共重合体(P1)の詳細は、上記のポリマー鎖(A)の説明が参照される。
共重合体(P)は、ポリマー鎖(B)が、ポリマー鎖(A)の重合体ブロック(a1)にグラフトしていることが好ましい。詳細には、ポリマー鎖(B)は、重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合していることが好ましい。この場合、ポリマー鎖(B)は、ジエンおよび/またはオレフィン由来の単位の主鎖の炭素原子に結合していてもよく、当該主鎖に置換基(側鎖)として結合した炭化水素基の炭素原子に結合していてもよい。ポリマー鎖(B)は、例えば、共重合体ブロック(a1)の主鎖のジエン由来の二重結合に結合してもよく、当該二重結合の隣接炭素原子に結合してもよい。あるいは、ポリマー鎖(B)は、共重合体ブロック(a1)の主鎖に置換基(側鎖)として結合したジエン由来の二重結合に結合したり、当該二重結合の隣接炭素原子に結合していてもよい。
原料共重合体(P1)としては、オレフィン性二重結合量が0.030mmol/g以上2.3mmol/g以下であるものを用いることが好ましい。オレフィン性二重結合量が0.030mmol/g以上の原料共重合体(P1)を用いることにより、透明性が高い共重合体(P)を得やすくなる。一方、オレフィン性二重結合量が2.3mmol/g以下の原料共重合体(P1)を用いることにより、ゲル化物の発生が少ない共重合体(P)を得やすくなる。共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量は、0.040mmol/g以上がより好ましく、0.050mmol/g以上がさらに好ましく、また2.0mmol/g以下がより好ましい。共重合体(P1)のオレフィン性二重結合量はヨウ素滴定法により求めることができる。
共重合体(P)は、原料共重合体(P1)の存在下で、(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分を重合する工程(重合工程)を含む製造方法により得ることができる。重合工程で(メタ)アクリル系単量体を含む単量体成分が重合することによりポリマー鎖(B)が形成され、原料共重合体(P1)がポリマー鎖(A)を与え、これにより、ポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)の重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合した共重合体(P)が得られる。なお、原料共重合体(P1)は、例えば重合体ブロック(a1)を構成する単量体成分を重合して重合体ブロック(a1)を形成した後、重合体ブロック(a1)の存在下で重合体ブロック(a2)を構成する単量体成分を重合することにより、得ることができる。
重合工程においてポリマー鎖(B)が重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位に結合するようにする点から、重合工程では、原料共重合体(P1)の重合体ブロック(a1)のジエンおよび/またはオレフィン由来の単位が有する二重結合(オレフィン性二重結合)のビニル位、アリル位等活性が高い水素が引き抜かれるようにすることが好ましい。これにより当該箇所でラジカルが生成し、ポリマー鎖(B)を形成する単量体成分を付加重合させることができる。この際、上記に説明したように、原料共重合体(P1)が有するオレフィン性二重結合量を調整することにより、共重合体(P)の透明性を高めたり、ゲル化物の発生を抑えやすくなる。
重合工程において、原料共重合体(P1)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。後者の場合、樹脂組成物の重量平均分子量や物性を調整することが容易となる。
ポリマー鎖(B)の形成に用いられる単量体成分には、(メタ)アクリル系単量体に加え、環構造単位を与える単量体として、環構造内に重合性二重結合を有する単量体等を使用することもできる。例えば、主鎖に環構造を有するポリマー鎖(B)を形成する場合は、環構造内に重合性二重結合を有する単量体を用いてもよく、重合工程の後で環構造形成工程を行うことにより環構造を形成可能な単量体を用いてもよい。また、それ以外の他の不飽和単量体を用いることもできる。これらの単量体成分の詳細は、上記のポリマー鎖(B)を形成する(メタ)アクリル系単量体、ポリマー鎖(B)の環構造を与える単量体、ポリマー鎖(B)を形成する他の不飽和単量体の説明が参照される。
単量体成分の重合は、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等の公知の重合法を用いて行うことができるが、溶液重合法を用いることが好ましい。溶液重合法を用いれば、共重合体(P)への微小な異物の混入を抑えることができ、共重合体(P)を光学材料用途等に好適に適用しやすくなる。重合形式としては、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合の際、単量体成分は一括で仕込んでもよく、分割添加してもよい。
重合の際の原料共重合体(P1)の使用量は、原料共重合体(P1)と単量体成分の合計100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上がさらにより好ましく、9質量部以上がさらにより好ましく、12質量部以上が特に好ましく、また50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましい。単量体成分の使用量は、原料共重合体(P1)と単量体成分の合計100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、60質量部以上がより好ましく、65質量部以上がさらに好ましく、また99質量部以下が好ましく、97質量部以下がより好ましく、95質量部以下がさらに好ましく、93質量部以下がさらにより好ましく、91質量部以下がさらにより好ましく、88質量部以下が特に好ましい。
重合溶媒は、単量体成分の組成に応じて適宜選択でき、通常のラジカル重合反応で使用される有機溶媒を用いることができる。具体的には、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等のエステル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;クロロホルム;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
原料共重合体(P1)と単量体成分との重合反応は、重合触媒(重合開始剤)の存在下で行うことが好ましい。重合触媒としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)・二塩酸塩、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ化合物;過硫酸カリウム等の過硫酸塩類;クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシオクトエート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート等の有機過酸化物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水素引き抜き力が強い有機過酸化物を用いることが好ましく、特にパーオキシカーボネート系の過酸化物を用いることが好ましい。重合触媒の使用量は、例えば、単量体成分100質量部に対して0.01〜1質量部とすることが好ましい。
反応液中の原料共重合体(P1)と単量体成分の合計濃度は、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、また80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。反応液中の重合溶媒濃度は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、また97質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。重合反応中に、原料共重合体(P1)、単量体成分、重合触媒、反応溶媒等を適宜追加することも可能である。
重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気または気流下で行うのが好ましい。残存単量体を少なくするために、重合開始剤としてアゾビス系化合物と過酸化物を併用してもよい。反応温度は、50℃〜200℃が好ましい。反応時間は、共重合反応の進行度合や、ゲル化物の生成の程度を見ながら適宜調整すればよく、例えば1時間〜20時間行うことが好ましい。
上記の重合工程により、(メタ)アクリル系単量体由来の単位を含むポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)に結合した共重合体(P)が得られる。重合工程において、単量体成分として、(メタ)アクリル系単量体と環構造内に重合性二重結合を有する単量体(例えば、無水マレイン酸やマレイミド)を用いる場合は、(メタ)アクリル単位と環構造単位(無水コハク酸構造、スクシンイミド構造)を有するポリマー鎖(B)がポリマー鎖(A)に結合した共重合体(P)が得られる。
一方、ポリマー鎖(B)の環構造単位として、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、またはグルタルイミド構造を有する共重合体(P)を得る場合は、重合工程に続いて環構造形成工程を行うことが好ましい。環構造形成工程では、重合工程で形成された(メタ)アクリル単位を有するポリマー鎖(B)の主鎖に環構造を形成する。具体的には、重合工程で形成された(メタ)アクリル単位を有するポリマー鎖(B)の隣接(メタ)アクリル単位の置換基どうしを縮合反応させて、ポリマー鎖の(B)主鎖に環構造を形成する。環化縮合反応には、エステル化反応、酸無水物化反応、アミド化反応、イミド化反応等が含まれる。例えば、隣接する(メタ)アクリル単位の2個のカルボン酸基を酸無水物化することによって、無水グルタル酸構造を形成することができ、イミド化することによってグルタルイミド構造を形成することができる。また隣接する(メタ)アクリル単位のうち一方がヒドロキシル基やアミノ基などのプロトン性水素原子含有基を有する場合には、この一方の(メタ)アクリル単位のプロトン性水素原子含有基と他方の(メタ)アクリル単位のカルボン酸基とを縮合することによって、ラクトン環構造を形成することができる。
環構造形成工程において、隣接する(メタ)アクリル単位の縮合反応は、触媒(環化触媒)の存在下で行うことが好ましい。環化触媒としては、酸、塩基およびそれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。酸、塩基およびそれらの塩は有機物であっても無機物であってもよく、特に限定されない。なかでも、環化反応の触媒としては、有機リン化合物を用いることが好ましい。有機リン化合物を環化触媒として用いることにより、環化縮合反応を効率的に行うことができるとともに、得られる共重合体(P)の着色を低減することができる。
環化触媒として用いることができる有機リン化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸およびこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸およびこれらのモノエステルまたはジエステル;アルキル(アリール)亜ホスフィン酸およびこれらのエステル;亜リン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸オクチル、リン酸イソデシル、リン酸ラウリル、リン酸ステアリル、リン酸イソステアリル、リン酸フェニル、リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジ−2−エチルヘキシル、リン酸ジイソデシル、リン酸ジラウリル、リン酸ジステアリル、リン酸ジイソステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリイソデシル、リン酸トリラウリル、リン酸トリステアリル、リン酸トリイソステアリル、リン酸トリフェニル等のリン酸モノエステル、ジエステルまたはトリエステル;モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;アルキル(アリール)ハロゲンホスフィン;酸化モノ−、ジ−またはトリ−アルキル(アリール)ホスフィン;ハロゲン化テトラアルキル(アリール)ホスホニウム等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、触媒活性が高く、着色性が低いことから、リン酸モノエステルまたはジエステルが特に好ましい。環化触媒の使用量は、例えば、重合工程で得られた共重合体100質量部に対して0.001〜1質量部とすることが好ましい。
環構造形成工程における反応温度は、50℃〜300℃が好ましい。反応時間は、環化縮合反応の進行度合を見ながら適宜調整すればよく、例えば5分〜6時間行うことが好ましい。
環構造形成工程は、加熱下で行うことが好ましい。この際、重合工程で得られた重合溶媒を含む重合溶液をそのまま加熱してもよいし、重合溶媒を脱揮した後に加熱してもよいし、これらの両方を組み合わせて行ってもよい。環化縮合反応に用いる反応器としては、例えば、オートクレーブ、釜型反応器、熱交換器と脱揮槽とからなる装置、ベント付押出機等が挙げられる。
環構造形成工程では、脱揮を行うことが好ましい。脱揮は、反応器内を真空ポンプ等で減圧することにより行うことができる。脱揮により、重合工程で用いられ環構造形成工程に持ち込まれた重合溶媒や、環化縮合反応により副生したアルコール等が除去され、得られる共重合体(P)中の残存揮発分を少なくすることができる。また、環化縮合反応で副生したアルコール等が除去されるため、反応平衡が生成側に傾き有利となる。さらに、脱揮により低分子量化合物が除去され、フィルム成形時のキャストロールの汚れや射出成形時のシルバーストリークスの発生を抑制することができる。
脱揮をしながら環化縮合反応を行う場合、効率的に脱揮を行う点から、環化縮合反応を減圧下で行うことが好ましい。環化縮合反応での減圧は、例えば、絶対圧として90kPa以下とすることが好ましく、80kPa以下がより好ましく、70kPa以下がさらに好ましい。一方、減圧状態を実現するための設備が過剰仕様とならず、設備費を低く抑える点から、減圧する際の絶対圧は0.1kPa以上が好ましく、1kPa以上がより好ましい。なお、脱揮をせずに環化縮合反応を行う場合は、環化縮合反応は常圧下または加圧下で行ってもよい。
ベント付押出機を用いる場合、押出機は、シリンダと、シリンダ内に設けられたスクリューとを有し、加熱手段を備えていることが好ましい。シリンダには、ベントが1つまたは複数設けられる。ベントは、押出機内の移送方向に対して、少なくとも原料投入部の下流側に設けられることが好ましく、原料投入部の上流側にも設けられてもよい。
押出機内に供給された共重合体を、スクリューで混練しながら押出機の上流側から下流側へ移送される過程で環化縮合反応が進み、押出機の下流側から共重合体(P)が排出される。押出機の下流側にはダイスが設けられていることが好ましく、ダイスから共重合体(P)を吐出することにより、所定の形状(フィルム状や棒状)に成形することができる。例えば、棒状に成形された樹脂を細かく切断すれば、ペレットを製造することができる。
環構造形成工程において環化縮合反応を環化触媒の存在下で行う場合、環化縮合反応の後またはその途中で失活剤を加えることが好ましい。例えば、共重合体(P)を含む樹脂組成物をペレット化したりフィルム化する際、当該樹脂組成物中に環化触媒が残存していると、環化縮合反応が起こることによってアルコール等が発生して、所望しない発泡が起こる可能性がある。しかし、環化縮合反応の後またはその途中で失活剤を加えることにより、このような発泡が防ぐことができる。
失活剤としては、環化触媒を中和できる物質が好適に用いられる。例えば環化触媒が酸性物質である場合、失活剤としては塩基性物質を用いることができ、逆に環化触媒が塩基性物質である場合、失活剤としては酸性物質を用いることができる。なお上記に説明したように、環化触媒として有機リン化合物が好適に用いられ、当該化合物は酸性物質であることが多いことから、失活剤としては塩基性物質を用いることが好ましい。塩基性物質としては、環化縮合反応を停止する機能を有し得るものであれば特に限定されないが、例えば金属カルボン酸塩、金属錯体、金属酸化物などが用いられる。逆に、環化触媒として塩基性物質を用いる場合は、失活剤としては、上記に説明した環化触媒に使用可能な酸性物質を用いることができる。
失活剤を加えるタイミングは、環化縮合反応の途中か、当該反応より後であって共重合体(P)を含む樹脂組成物をペレット化したりフィルム化する前であることが好ましい。例えば、溶融状態の樹脂組成物に失活剤を加えてもよく、溶媒に溶解した樹脂組成物に失活剤を加えてもよい。上記に説明したように押出機を用いて環化縮合反応を行う場合は、当該押出機において環化縮合反応が十分行われた後の位置に失活剤を添加するようにしてもよい。
共重合体(P)の重量平均分子量は、0.2万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、3万以上がさらに好ましく、5万以上がさらにより好ましく、また60万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下がさらに好ましく、20万以下がさらにより好ましい。共重合体(P)の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、共重合体(P)を含む樹脂組成物の成形加工性が向上する。
共重合体(P)の重量平均分子量は、ポリマー鎖(A)の重量平均分子量の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上がさらに好ましく、また10倍以下が好ましく、7倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましい。これにより、樹脂組成物に、透明性と機械的強度の各特性をバランス良く付与することが容易になる。
共重合体(P)の屈折率はポリマー鎖(A)の屈折率と近い値であることが好ましく、これにより樹脂組成物の透明性を確保しやすくなる。具体的には、共重合体(P)の屈折率とポリマー鎖(A)の屈折率との差が0.1未満であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。同様の観点から、共重合体(P)中のポリマー鎖(A)の屈折率とポリマー鎖(B)の屈折率は近い値であることが好ましく、具体的には、ポリマー鎖(A)の屈折率とポリマー鎖(B)の屈折率との差が0.1未満であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。
本発明の樹脂組成物は、共重合体(P)を1種のみ含有するものであってもよく、2種以上含有するものであってもよい。また、上記に説明した共重合体(P)に加えて、他の重合体を含有するものであってもよい。この場合、本発明の樹脂組成物は、共重合体(P)を樹脂成分(マトリックス樹脂)として含むものであってもよく、他の重合体を樹脂成分(マトリックス樹脂)として含むものであってもよい。他の重合体としては、共重合体(P)との相溶性に優れる点から、(メタ)アクリル系重合体が好ましく用いられる。これにより、樹脂組成物の透明性や耐熱性を高めることが容易になる。
(メタ)アクリル系重合体は、上記のポリマー鎖(B)で説明した(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有するものであればよく、好ましくは、上記のポリマー鎖(B)で説明した(メタ)アクリル酸エステル由来の単位を有する。(メタ)アクリル系重合体は、上記のポリマー鎖(B)で説明した他の不飽和単量体由来の単位を有していてもよい。(メタ)アクリル系重合体は、樹脂組成物中での共重合体(P)との相溶性を高める観点から、共重合体(P)のポリマー鎖(B)に含まれる(メタ)アクリル系単量体由来の単位を有することがより好ましい。すなわち、(メタ)アクリル系重合体を構成する(メタ)アクリル系単量体由来の単位が、ポリマー鎖(B)を構成する(メタ)アクリル系単量体由来の単位と同じであることが好ましい。
(メタ)アクリル系重合体は、環構造を有するものであることが好ましく、主鎖に環構造を有するものであることがより好ましい。これにより、樹脂組成物やそれから得られるフィルムの耐熱性を高めることができる。(メタ)アクリル系重合体の主鎖の環構造としては、ラクトン環構造、環状イミド構造(例えば、スクシンイミド構造、グルタルイミド構造等)、環状無水物構造(例えば、無水コハク酸構造、無水グルタル酸構造等)等が好ましく挙げられ、これらの環構造の詳細は、上記のポリマー鎖(B)の環構造に関する説明が参照される。なかでも、(メタ)アクリル系重合体は、共重合体(P)のポリマー鎖(B)が有する環構造と同じ環構造を主鎖に有することが好ましい。
(メタ)アクリル系重合体は、共重合体(P)のポリマー鎖(B)が有する(メタ)アクリル単位と同じ(メタ)アクリル単位を有するとともに、ポリマー鎖(B)が有する環構造単位と同じ環構造単位を有することが好ましい。これにより(メタ)アクリル系重合体と共重合体(P)との相溶性が高まり、樹脂組成物やそれから得られるフィルムの透明性や耐熱性を高めることが容易になる。樹脂組成物の耐熱性をより高めることができる観点からは、(メタ)アクリル系重合体は、環状イミド構造を含む環構造単位を有することが好ましい。
このような(メタ)アクリル系重合体は、共重合体(P)を重合生成する際に、(メタ)アクリル系重合体も一緒に重合生成することが簡便である。上記に説明した共重合体(P)の製造方法では、共重合体(P)とともに、共重合体(P)のポリマー鎖(B)に対応した(メタ)アクリル系重合体も同時に生成するが、この際、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体を分離しないことにより、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体を含む樹脂組成物を得ることができる。
樹脂組成物の製造方法は、上記の方法に限定されず、共重合体(P)を単離して、別の重合体と混合して樹脂組成物としてもよい。また、上記の共重合体(P)の製造方法において、共重合体(P1)へのグラフト重合反応終了後に、さらに別の単量体を追加して重合反応を行い樹脂組成物を得てもよい。あるいは、上記の共重合体(P)の製造方法で得られた共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体の混合物に対して、さらに別の重合体(例えば、別の(メタ)アクリル系重合体)を加えて樹脂組成物としてもよい。他の重合体を加えて混合する場合は、溶融混練してもよく、この場合、例えばニーダーや多軸押出機などの一般的な装置を使用することができる。
樹脂組成物の製造方法では、上記に説明した重合工程または環構造形成工程に続いて、濾過工程を行うこともできる。濾過工程を行うことにより、樹脂組成物中の異物量を低減することができ、樹脂組成物を、高度な品質が求められる光学フィルム等への用途に好適に適用することができる。また、樹脂組成物からフィルムを成形した際に、表面凹凸や欠点が少なく透明性の高いフィルムを得やすくなる。濾過工程は、上記に説明した重合工程または環構造形成工程に引き続いて連続的に実施することができる。
濾過に用いるフィルタとしては、従来公知のフィルタを使用することができ、特に制限されないが、例えば、リーフディスクフィルタ、キャンドルフィルタ、パックディスクフィルタ、円筒型フィルタ等を用いることができる。なかでも、有効濾過面積が大きいリーフディスクフィルタまたはキャンドルフィルタを用いることが好ましい。
フィルタの濾過精度(孔径)は、通常は、例えば15μm以下であればよい。なお、樹脂組成物を光学フィルムなどの光学材料に使用する場合は、その光学的欠点低減の点から、濾過精度は10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。濾過精度の下限は特に限定されず、例えば0.2μm以上である。
樹脂組成物中の共重合体(P)の含有割合は特に限定されないが、樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、15質量%以上がさらにより好ましい。これにより、樹脂組成物の機械的強度を高めたり、樹脂組成物を加熱溶融した際の流動性を高めやすくなる。樹脂組成物中の共重合体(P)の含有割合の上限は特に限定されず、樹脂組成物は共重合体(P)のみから構成されていてもよく、樹脂組成物中、共重合体(P)の含有割合が90質量%以下であってもよく、70質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、または30質量%以下であってもよい。樹脂組成物の固形分量は、樹脂組成物が溶媒を含む場合は、溶媒を除く樹脂組成物の量を意味する。
樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)のポリマー鎖(A)の含有割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、12質量%以上がさらにより好ましく、また50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物中のポリマー鎖(A)の含有割合が1質量%以上であれば、樹脂組成物の機械的強度を高めたり、樹脂組成物を加熱溶融した際の流動性を高めやすくなる。樹脂組成物中のポリマー鎖(A)の含有割合が50質量%以下であれば、樹脂組成物の透明性や耐熱性を高めやすくなる。
樹脂組成物中の環構造単位の含有割合は特に限定されないが、樹脂組成物の固形分100質量%中、環構造単位の含有割合は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、12質量%以上がさらに好ましく、また60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、45質量%以下がさらに好ましい。このように環構造単位の含有割合を調整することにより、樹脂組成物の耐熱性と機械的強度の両方をバランス良く高めることが容易になる。なお、ここで説明した環構造単位の含有割合は、共重合体(P)のポリマー鎖(B)の主鎖に含まれる環構造単位と(メタ)アクリル系重合体の主鎖に含まれる環構造単位の合計含有割合を意味し、例えば、上記式(1)〜(3)で表される構造の含有割合を意味する。
樹脂組成物が(メタ)アクリル系重合体を含有する場合、樹脂組成物の固形分100質量%中、(メタ)アクリル系重合体の含有量は、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がさらにより好ましく、また99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましく、85質量%以下がさらにより好ましい。
樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体の合計含有割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましい。樹脂組成物中の共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体の含有割合の上限は特に限定されず、樹脂組成物は実質的に共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体のみから構成されていてもよく、例えば樹脂組成物の固形分100質量%中、共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体の合計含有割合が99質量%以上であってもよい。
本発明の樹脂組成物は、120℃以上の温度範囲にガラス転移温度を有する。これにより樹脂組成物の耐熱性を高めることができ、樹脂組成物を耐熱性が求められる用途、例えば画像表示装置等の用途への適用が可能となる。樹脂組成物は、好ましくは125℃以上の温度範囲にガラス転移温度を有し、より好ましくは130℃以上の温度範囲にガラス転移温度を有する。当該ガラス転移温度の上限については、フィルム等への成形加工性を確保する点から、300℃未満が好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。
樹脂組成物は、120℃以上および120℃未満にそれぞれガラス転移温度を有することが好ましい。なお、120℃以上のガラス転移温度を「高温側のガラス転移温度」と称し、120℃未満のガラス転移温度を「低温側のガラス転移温度」と称する。樹脂組成物は、高温側のガラス転移温度を複数有するものであってもよく、低温側のガラス転移温度を複数有するものであってもよい。樹脂組成物が高温側のガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の耐熱性が高まる。樹脂組成物が低温側のガラス転移温度を有することにより、樹脂組成物の機械的強度や耐衝撃性を高めることができる。樹脂組成物の高温側のガラス転移温度の好適範囲は上記に説明した通りである。樹脂組成物の低温側のガラス転移温度は、50℃未満が好ましく、30℃未満がより好ましく、10℃未満がさらに好ましく、また−100℃以上が好ましく、−90℃以上がより好ましく、−80℃以上がさらに好ましい。
樹脂組成物は、温度240℃、荷重98N(10kgf)で測定したメルトフローレートが8.0g/10min以上である。樹脂組成物がこのようなメルトフローレートを有していれば、樹脂組成物を加熱溶融した際の溶融粘度が低下し、成形加工性を高めることができる。また、成形加工に先立って樹脂組成物の溶融物をフィルタを通して異物を取り除く際などに、フィルタの圧損を低く抑えて、生産性を高めることができる。前記メルトフローレートは、8.5g/10min以上がより好ましく、9.0g/10min以上がさらに好ましい。一方、溶融粘度が低すぎても、フィルム成形や延伸などの成形加工が困難となるおそれや、同一の機械で別の樹脂の成形加工をする場合に樹脂の置換性が悪くなる観点から、前記メルトフローレートは、30.0g/10min以下が好ましく、25.0g/10min以下がより好ましく、20.0g/10min以下がさらに好ましい。樹脂組成物のメルトフローレートは、JIS K 7210(B法)に準拠して求める。
樹脂組成物は、290℃で20分間加熱したときに発生する発泡量が20個/g以下であることが好ましく、10個/g以下がより好ましく、5個/g以下がさらに好ましい。これにより、樹脂組成物を加熱成形した際の成形体(例えばフィルム等)の発泡に由来する欠点を抑制でき、外観が良好となる。発泡量の測定は、JIS K 7210に規定されるメルトインデクサーを用いて行い、乾燥処理した樹脂組成物をメルトインデクサーのシリンダ内に充填し、290℃で20分間保持した後ストランド状に押出し、得られたストランドの上部標線と下部標線との間に存在する泡の発生個数を計数し、樹脂組成物1g当たりの泡の個数で表すことにより行う。
樹脂組成物の重量平均分子量は、0.2万以上が好ましく、0.5万以上がより好ましく、3万以上がさらに好ましく、5万以上がさらにより好ましく、10万以上がさらにより好ましく、また60万以下が好ましく、40万以下がより好ましく、30万以下がさらに好ましく、20万以下がさらにより好ましい。樹脂組成物の重量平均分子量をこのような範囲とすることで、樹脂組成物の成形加工性が向上する。樹脂組成物の重量平均分子量は、樹脂組成物をゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の値を意味し、樹脂組成物が共重合体(P)と(メタ)アクリル系重合体を含有する場合は、樹脂組成物の重量平均分子量は、これら複数種類の重合体の全体の重量平均分子量となる。
樹脂組成物の重量平均分子量は、共重合体(P)のポリマー鎖(A)の重量平均分子量の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましく、1.3倍以上がさらに好ましく、また10倍以下が好ましく、7倍以下がより好ましく、5倍以下がさらに好ましい。これにより、樹脂組成物に、透明性や機械的強度の各特性をバランス良く付与することが容易になる。
樹脂組成物の屈折率は共重合体(P)のポリマー鎖(A)の屈折率と近い値であることが好ましく、これにより樹脂組成物の透明性を確保しやすくなる。具体的には、樹脂組成物の屈折率と共重合体(P)のポリマー鎖(A)の屈折率との差が0.1未満であることが好ましく、0.05以下がより好ましく、0.02以下がさらに好ましい。
樹脂組成物はクロロホルムに対する不溶分が10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。この場合、樹脂組成物は含まれる異物の量が少ないものとなり、例えば樹脂組成物からフィルムを形成する際に、表面凹凸や欠点が少なく、透明性の高いフィルムを容易に得ることができる。また、樹脂組成物から異物を取り除く際、異物除去用フィルタにかかる負荷が低減し、製造効率が向上する。樹脂組成物のクロロホルムに対する不溶分は、樹脂組成物1gをクロロホルム20gに加え、これを孔径0.5μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルタで濾過し、メンブレンフィルタに捕集された不溶分の量を測定することにより求めることができる。
樹脂組成物は、未延伸フィルムとしたときの厚さ100μmあたりの内部ヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.5%以下がさらにより好ましい。これにより、樹脂組成物の透明性を高めることができる。また、厚さ160μmの未延伸フィルムとしたときの全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
未延伸フィルムの厚さ100μmあたりの内部ヘイズは次の方法により測定する。樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ約160μmの未延伸フィルムを作製する。石英セルに1,2,3,4−テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中に作製した未延伸フィルムを浸漬し、ヘイズメーターを用いてヘイズを測定し、次式に従って厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出する:厚さ100μmあたりの内部ヘイズ(%)=得られた測定値(%)×(100μm/フィルムの厚さ(μm))。なお、測定は3枚のフィルムを用いて行い、その平均値から厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出する。
樹脂組成物は、厚さ40μmの延伸フィルムとしたときのMIT試験による耐折度試験回数が200回以上であることが好ましく、500回以上がより好ましく、800回以上がさらに好ましい。これにより、樹脂組成物からフィルムを形成した際に、破断しにくいフィルムを得やすくなる。MIT試験は、JIS P 8115(2001)に基づき行う。
厚さ40μmの延伸フィルムとしたときのMIT試験による耐折度試験回数は、具体的には次の方法により測定する。樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ160μmの未延伸フィルムを得る。次いで、得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機を用いて、樹脂組成物の最も高いガラス転移温度に対し+24℃の温度にて240mm/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順にそれぞれ延伸倍率が2倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより、厚さ40μmの延伸フィルムを得る。得られた延伸フィルムを90mm×15mmの大きさに切り出して試験片とし、MIT耐折度試験機を用いて、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で荷重200gを加え、JIS P 8115(2001)に準じてMIT耐折度試験回数を測定する。測定は各サンプル5点行い、最大値と最小値を除いた3点の平均値をMIT回数とする。
樹脂組成物は、上記に説明した(メタ)アクリル系重合体以外の重合体を含有していてもよく、そのような重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系重合体;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等のスチレン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;シクロオレフィンポリマー;セルロース誘導体;ポリブタジエン系ゴム、(メタ)アクリル系ゴムを配合したABS樹脂やASA樹脂等のゴム質重合体;等が挙げられる。
樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤;フェノール系、リン系、イオウ系等の酸化防止剤;耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤;ガラス繊維、炭素繊維等の補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェート、トリアリルホスフェート、酸化アンチモン等の難燃剤;位相差上昇剤、位相差低減剤、位相差安定剤等の位相差調整剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤を含む帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料等の着色剤;有機フィラーや無機フィラー;樹脂改質剤;有機充填剤や無機充填剤;等が挙げられる。樹脂組成物の固形分100質量%中の各添加剤の含有割合は、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%の範囲内である。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾエート系化合物、トリアゾール系化合物、およびトリアジン系化合物等が挙げられ、公知の紫外線吸収剤を用いることができる。ベンゾフェノン系化合物としては、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、4−n−オクチルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。サリシレート系化合物としては、p−t−ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。ベンゾエート系化合物としては、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。トリアゾール系化合物としては、2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール等が挙げられる。トリアジン系化合物としては、2−[4,6−ビス(ビフェニル−4−イル)−1,3,6−トリアジ−2−イル]−5−[(2−エチルヘキシル)オキシ]フェノール、2−モノ(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物、2,4−ビス(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物、2,4,6−トリス(ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン化合物等が挙げられる。市販の紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤であるチヌビン(登録商標)1577、チヌビン(登録商標)460、チヌビン(登録商標)477(BASFジャパン社製)、アデカスタブ(登録商標)LA−F70(ADEKA社製)、トリアゾール系紫外線吸収剤であるアデカスタブ(登録商標)LA−31(ADEKA社製)等が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
酸化防止剤としては、ラジカル捕捉機能または過酸化物分解機能を有する化合物を使用することができ、公知の酸化防止剤を用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、ベンゾフェノン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、サルチル酸エステル系酸化防止剤、およびトリアジン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤の中でも、好ましいものとして、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、1種のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これにより樹脂組成物の酸化劣化や変色が抑制される。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,4−ビス[(ラウリルチオ)メチル]−o−クレゾール、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)等のアルキルフェノール;n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)アセテート、ネオドデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシル−α−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、2−ヒドロキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル−7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート等のアルキル−ヒドロキシフェニルアルカン酸エステル(好ましくは4−ヒドロキシ−3,5−ジアルキルフェニルアルカン酸エステルであり、より好ましくは4−ヒドロキシ−3,5−ジC1−4アルキルフェニルC1−10アルカン酸エステル);n−オクタデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のアルキル−ヒドロキシ安息香酸エステル;n−ヘキシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート等のアルキル−ヒドロキシフェニル安息香酸エステル;1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,1−トリメチロールエタントリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−n−ヘキサンジオールビス[(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、グリセリン−1−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン等のポリオールとアルキル−ヒドロキシフェニルカルボン酸とのポリエステル;ステアルアミド−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノ−N,N−ビス−[エチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のポリアミンとアルキル−ヒドロキシフェニルカルボン酸とのポリアミド;1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のポリ(アルキル−ヒドロキシベンジル)ベンゼン;1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−t−ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン等のポリ(アルキル−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート;2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−[1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート、及び2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート等の重合性基を有するフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)(1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチル((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)]等を使用することができる。
リン系酸化防止剤としては、トリス(イソデシル)フォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、フェニルイソオクチルフォスファイト、フェニルイソデシルフォスファイト、フェニルジ(トリデシル)フォスファイト、ジフェニルイソオクチルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、4,4’イソプロピリデンジフェノールアルキルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリスジノニルフェニルフォスファイト、トリス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)フォスファイト、その他フォスファイト構造を有するオリゴマータイプやポリマータイプの化合物等も使用することができる。
イオウ系酸化防止剤としては、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、2,4−ビス[(ラウリルチオ)メチル]−o−クレゾール、2,2−ビス[3−(ドデシルチオ)−1−オキソプロポキシメチル]プロパン−1,3−ジイルビス[3−(ドデシルチオ)プロピオネート]、ジ(トリデシル)3,3’−チオジプロピオネート等が挙げられる。その他チオエーテル構造を有するオリゴマータイプやポリマータイプの化合物等も使用することができる。
樹脂組成物は、液状にして用いることもでき、硬化物として用いることもできる。後者の場合、樹脂組成物を加熱溶融して、任意の形状に成形することにより、成形体とすることができる。成形体の形状は用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、板状、シート状、粒状、粉状、塊状、粒子凝集体状、球状、楕円球状、レンズ状、立方体状、柱状、棒状、錐形状、筒状、針状、繊維状、中空糸状、多孔質状等が挙げられる。樹脂組成物の成形体は、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等に用いることができ、その場合の形状としては、例えば、粒子径が1μm〜1000μmの粉体、長径が1mm〜10mm程度の円柱状または球状等のペレット、またはそれらの混合物であることが好ましい。樹脂組成物をフィルム化する場合は、重合後にペレット化を経てフィルム成形してもよく、逆に、重合後にペレット化を経ずに直接押出成型機に供給してフィルム成形してもよい。
樹脂組成物はフィルムに成形することもできる。フィルム成形の方法としては、溶液キャスト法(溶液流延法)、溶融押出法、カレンダー法、圧縮成形法等、公知の方法を使用することができる。これらの中でも、溶液キャスト法、溶融押出法が好ましい。
溶液キャスト法に用いられる溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類:酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルホルムアミド;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
溶液キャスト法を行うための装置としては、例えば、ドラム式キャスティングマシン、バンド式キャスティングマシン、スピンコーター等が挙げられる。
溶融押出法としては、Tダイ法、インフレーション法等が挙げられる。溶融押出法によりフィルムを成形する場合は、延伸することにより延伸フィルムとしてもよい。延伸することで、フィルムの機械的強度をさらに向上させることができる。延伸フィルムを得るための延伸方法としては、従来公知の延伸方法が適用できる。例えば、自由幅一軸延伸、定幅一軸延伸等の一軸延伸;逐次二軸延伸、同時二軸延伸等の二軸延伸;フィルムの延伸時にその片面または両面に収縮性フィルムを接着して積層体を形成し、その積層体を加熱延伸処理してフィルムに延伸方向と直交する方向の収縮力を付与することにより、延伸方向と厚さ方向とにそれぞれ配向した分子群が混在する複屈折性フィルムを得る延伸等が挙げられる。フィルムの耐折性等の機械的強度が向上する観点からは、二軸延伸が好ましく用いられる。なお、延伸倍率、延伸温度、延伸速度等の延伸条件は、所望の機械的強度や位相差値に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
延伸装置としては、例えば、ロール延伸機、テンター型延伸機、小型の実験用延伸装置として引張試験機、一軸延伸機、逐次二軸延伸機、同時二軸延伸機等が挙げられ、これらいずれの装置を用いることができる。
延伸温度としては、樹脂組成物の最も高いガラス転移温度近辺で行うことが好ましい。具体的には、最も高いガラス転移温度−20℃〜最も高いガラス転移温度+50℃の範囲内で行うことが好ましく、より好ましくは最も高いガラス転移温度−10℃〜最も高いガラス転移温度+45℃の範囲内、さらに好ましくは最も高いガラス転移温度+0℃〜最も高いガラス転移温度+40℃の範囲内である。
面積比で定義した延伸倍率は、好ましくは1.1〜30倍の範囲内、より好ましくは1.2〜20倍の範囲内、さらに好ましくは1.3〜10倍の範囲内である。ある方向に延伸する場合、その一方向に対する延伸倍率は、好ましくは1.05〜10倍の範囲内、より好ましくは1.1〜7倍の範囲内、さらに好ましくは1.2〜5倍の範囲内である。延伸倍率をこのような範囲内に設定することで、延伸に伴うフィルムの機械的強度の向上等の効果が好適に得られやすくなる。
延伸速度(一方向)としては、好ましくは10〜20,000%/分の範囲内、より好ましくは100〜10,000%/分の範囲内である。10%/分よりも遅いと、十分な延伸倍率を得るために時間がかかり、製造コストが高くなる傾向となる。20,000%/分よりも速いと、延伸フィルムの破断等が起こるおそれがある。
フィルムは、機械的特性や光学特性等を安定させるために、延伸後、必要に応じて熱処理(アニーリング)を施してもよい。
本発明の樹脂組成物から形成されたフィルムは、加熱成形性に優れるとともに、耐熱性と機械的強度を高いレベルでバランス良く兼ね備え、高い透明性を有するものとなる。例えば本発明のフィルムは、JIS P 8115(2001)に基づくMIT試験による耐折回数が200回以上となることが好ましく、500回以上がより好ましく、800回以上がさらに好ましい。耐折回数の上限は特に限定されない。このような高い機械的強度を有するフィルムは、共重合体(P)を含む樹脂組成物を延伸フィルム化することにより、容易に得ることができる。MIT試験による耐折回数は実施例に記載の方法により求める。耐折回数は、いずれかの方向に折り曲げたときの耐折回数が上記範囲にあることが好ましく、任意の直交する2方向にそれぞれ折り曲げたときの耐折回数が上記範囲にあることがより好ましい。
本発明のフィルムは、厚さ100μmあたりの内部ヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。これにより、透明性に優れたフィルムとすることができる。
本発明のフィルムは、耐熱性を高める観点から、120℃以上の温度範囲にガラス転移温度を有することが好ましい。前記ガラス転移温度は、好ましくは125℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上である。また、フィルム形成の際の加工性を高める観点から、前記ガラス転移温度は300℃未満が好ましく、200℃未満がより好ましく、180℃未満がさらに好ましい。
上記に説明したガラス転移温度を高温側のガラス転移温度とした場合、本発明のフィルムは、それよりも120℃未満の温度範囲にさらに低温側のガラス転移温度を有することが好ましい。フィルムが、このような低温側のガラス転移温度を有していれば、フィルムの機械的強度や耐衝撃性を高めることができる。低温側のガラス転移温度は、50℃未満が好ましく、30℃未満がより好ましく、10℃未満がさらに好ましく、また−100℃以上が好ましく、−90℃以上がより好ましく、−80℃以上がさらに好ましい。
フィルムの厚さは、その用途によって好適範囲が異なるため一概に定めることができないが、フィルムの強度を確保する観点から、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、20μm以上がさらに好ましい。一方、フィルムの薄型化の観点から、フィルムの厚さは350μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。フィルムの厚さは、例えば、ミツトヨ社製のデジマチックマイクロメーターを用いて測定することができる。
本発明のフィルムは、波長590nmの光に対する面内位相差Reが30nm以下であることが好ましく、20nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましく、5nm以下がさらにより好ましい。これにより、低位相差を求められる光学用途に好適に適用することができる。面内位相差Reは、Re=(nx−ny)×dで定義され、nxはフィルム面内の遅相軸方向(フィルム面内で屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyはフィルム面内でnxと垂直方向の屈折率、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。面内位相差Reの下限値は0nmである。
本発明のフィルムの厚さ方向の位相差Rthは特に限定されないが、波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthが−100nm以上100nm以下が好ましく、−30nm以上30nm以下がより好ましく、−10nm以上10nm以下がさらに好ましい。これにより良好な視野角特性やコントラスト特性を示すものとなる。厚さ方向の位相差Rthは、Rth=d×{(nx+ny)/2−nz}で定義され、nzはフィルム厚み方向の屈折率を表す。
本発明のフィルムは、透明性に優れることから、光学フィルムとして好適に用いることができる。光学フィルムとしては、例えば、光学用保護フィルム(具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム)、液晶ディスプレイなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルム、位相差フィルム、光変換用フィルム等が挙げられる。
光学フィルムは、他の光学材料が積層されて構成されていてもよい。他の光学材料が積層されることにより、フィルムにさらに光学特性を付与することができる。他の光学材料としては、例えば、偏光板、ポリカーボネート製延伸配向フィルム、環状ポリオレフィン製延伸配向フィルム等が挙げられる。
光学フィルムの表面には、必要に応じて、各種機能性コーティング層が設けられてもよい。機能性コーティング層としては、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層等の防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層等が挙げられる。また、光学フィルムの表面に、入射する光線の透過率または反射率を適宜調整するための光学調整層が設けられていてもよい。
本発明のフィルムは、特に偏光子保護フィルムに好適に用いることができる。この場合、偏光子の片面または両面に光学フィルム(偏光子保護フィルム)を設けて、偏光板を構成すればよい。光学フィルム(偏光子保護フィルム)は、偏光子に直接または別の層を介して間接的に接着剤や粘着剤で固定されることが好ましい。
偏光子の種類は特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを染色および延伸した偏光子;脱水処理したポリビニルアルコールまたは脱塩酸処理したポリ塩化ビニルなどのポリエン偏光子;多層積層体あるいはコレステリック液晶を用いた反射型偏光子;薄膜結晶フィルムからなる偏光子等が挙げられる。偏光板の構造の一例としては、ポリビニルアルコールをヨウ素または二色性染料などの二色性物質により染色した後に一軸延伸して偏光子を得て、この偏光子の片面または両面に偏光子保護フィルム(光学フィルム)を設けた構造が挙げられる。
光学フィルムは、表面に透明導電層を形成することにより、透明導電フィルムとして用いることもできる。透明導電層を構成する材料としては、従来、当該分野で導電性材料として用いられているものがいずれも使用可能であり、具体的には、有機導電性化合物;有機導電性ポリマー;酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、インジウム−スズ酸化物(ITO)、アンチモン−スズ酸化物(ATO)、亜鉛−アルミニウム酸化物、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)等の金属酸化物;金、銀、銅、パラジウム、アルミニウム等の金属が挙げられる。
光学フィルム(例えば、偏光子保護フィルム、透明導電フィルム)は、画像表示装置に好適に用いることができる。画像表示装置としては、例えば、液晶表示装置等が挙げられる。例えば液晶表示装置の場合、画像表示部が、液晶セル、偏光板、バックライト等の部材とともに、本発明のフィルムを有するように構成することができる。液晶表示装置以外の画像表示装置としては、例えば、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル(PDP)、電界放出ディスプレイ(FED)、QLED、マイクロLED等が挙げられる。
以下、本発明を実施例および比較例を示すことにより具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の説明では特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
(1)分析方法
(1−1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)
重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
−測定システム:東ソー社製、GPCシステムHLC−8220
−測定側カラム構成
ガードカラム:東ソー社製、TSKguardcolumn SuperHZ−L
分離カラム:東ソー社製、TSKgel SuperHZM−M 2本直列接続
−リファレンス側カラム構成
リファレンスカラム:東ソー製、TSKgel SuperH−RC
−展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業社製、特級)
−溶媒流量:0.6mL/分
−標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー社製、PS−オリゴマーキット)
(1−2)ガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度は、JIS K 7121(2012)に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク社製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、サンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスにはα−アルミナを用いた。40℃未満のガラス転移温度は示差走査熱量計(ネッチ社製、DSC−3500)を用い、窒素ガス雰囲気下、サンプルを−100℃から60℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには空の容器を用いた。
(1−3)モノマー転化率
モノマー転化率(反応率)は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所社製、GC−2014)を用いて、重合反応液中の残存単量体量を測定することにより求めた。
(1−4)オレフィン性二重結合量
オレフィン性二重結合量はヨウ素滴定により求めた。サンプルを0.1〜3g秤量してトルエン20gに溶解させた後、ウィイス試液(0.1mol/L塩化ヨウ素・酢酸溶液、和光純薬工業社製)12.5mLを加えて撹拌し、1時間静置した。ここに10w/v%ヨウ化カリウム溶液(キシダ化学社製)を10mLとイオン交換水50mLを加えよく撹拌した後、でんぷん溶液(キシダ化学社製)を数滴加えさらに撹拌した。液をよく撹拌しながら0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液(和光純薬工業社製)で滴定を行い、ヨウ素の着色がなくなったときを終点とした。また、サンプルを用いない空試験も実施した。サンプル中のオレフィン性二重結合量は以下の式で求めた。
オレフィン性二重結合量(mmol/g)=(A−B)×F×x/(2×C×d)
A:空試験のチオ硫酸ナトリウム量(g)
B:本試験のチオ硫酸ナトリウム量(g)
F:チオ硫酸ナトリウムファクター
x:チオ硫酸ナトリウム濃度(0.1mol/L)
C:サンプル量(g)
d:チオ硫酸ナトリウム密度(1.01g/mL)
(1−5)ゲル化評価(濾過試験)
フィルタ濾過試験により樹脂組成物のゲル化評価を行った。ゲル化評価は、実施例で得られた樹脂組成物をクロロホルムに溶解させ、0.1質量%クロロホルム溶液を作製し、これを、先端にフィルタ(GLサイエンス社製、クロマトディスク13N、孔径0.45μm)を取り付けたプラスチックシリンジを用いて濾過した。樹脂組成物のクロロホルム溶液を2mL全量濾過できるかどうかで、ゲル化評価を行った。
(1−6)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、メルトインデクサー(タカラ工業社製)を用いて、JIS K 7210(B法)に準拠して、温度240℃、荷重98N(10kgf)で測定した。
(1−7)延伸フィルムの内部ヘイズ(厚さ100μmあたりの内部ヘイズ)
石英セルに1,2,3,4−テトラヒドロナフタリン(テトラリン)を満たし、その中に実施例で作製した延伸フィルムを浸漬し、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH−5000)を用いてヘイズを測定し、次式に従って厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出した:厚さ100μmあたりの内部ヘイズ(%)=得られた測定値(%)×(100μm/フィルムの厚さ(μm))。なお、測定は3枚のフィルムを用いて行い、その平均値から厚さ100μmあたりの内部ヘイズを算出した。
(1−8)位相差
実施例で作製した延伸フィルムを、全自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WR)を用いて、入射角40°の条件で、波長590nmの光に対する面内位相差Reと厚さ方向の位相差Rthを測定した。フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚さ方向の屈折率をnz、フィルムの厚さをdとして、下記式から面内位相差Reと厚さ方向の位相差Rthをそれぞれ求めた。
面内位相差Re=(nx−ny)×d
厚み方向位相差Rth=[(nx+ny)/2−nz]×d
(1−9)MIT試験による耐折回数(MIT強度)
実施例で作製した延伸フィルムを90mm×15mmの大きさに切り出して試験片とし、MIT耐折度試験機(テスター産業社製、BE−201)を用いて、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で荷重200gfを加え、JIS P 8115(2001)に準拠してMIT耐折度試験回数を測定した。測定は各サンプル5点行い、最大値と最小値を除いた3点の平均値をMIT回数とした。
(2)樹脂組成物の製造
(2−1)実施例1
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、SEBSトリブロック共重合体として、タフテック(登録商標)P2000(旭化成社製、オレフィン性二重結合量4.5mmol/g、屈折率1.554)1部と、タフテック(登録商標)H1043(旭化成社製、オレフィン性二重結合量0.3mmol/g、屈折率1.554)3部と、タフテック(登録商標)H1517(旭化成社製、オレフィン性二重結合量0.1mmol/g、屈折率1.524)11部、メタクリル酸メチル(MMA)55.3部、フェニルマレイミド(PMI)24.7部、n−ドデシルメルカプタン(nDM)0.03部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。その後開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬アクゾ社製、カヤカルボン(登録商標)Bic75)を0.04部加えるとともに、スチレン(St)5.1部と、1部のトルエンに希釈した0.15部のt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを3時間かけて一定速度で滴下しながら105〜110℃で溶液重合を行い、さらに4時間熟成を行った。その後、イオウ系酸化防止剤(ADEKA社製、AO412S)0.05部と、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティーケミカルズ社製、IRGANOX1010)0.05部を重合反応液に加えた。これにより、MMAとPMIとStから重合形成されたアクリル系共重合体と、当該共重合体鎖がSEBSトリブロック共重合体鎖のジエン/オレフィン由来の単位に結合したグラフト共重合体とを含む樹脂組成物が得られた。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は96%、PMIの転化率は99%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:PMI:St=64.2:29.6:6.2であり、環構造単位の含有率は29.6質量%であった。
次に得られた重合反応液を、リアベント数が1個、フォアベント数が2個のベントタイプスクリュー二軸押出機(孔径:15mm、L/D:45)内に樹脂換算で600g/hの処理速度で導入し、この押出機内で脱揮を行い、押し出すことにより、透明な樹脂組成物のペレットを得た。なお、二軸押出機の運転条件は、バレル温度260℃、回転数300rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)であった。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は14.8万、数平均分子量は5.6万、高温側のガラス転移温度は152℃、低温側のガラス転移温度は−35℃、MFRは12.0、屈折率は1.532であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を250℃で熱プレス成形して、厚さ約160μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを96mm×96mmの大きさに切り出し、逐次二軸延伸機(東洋精機製作所社製、X6−S)を用いて、温度172℃(Tg+20℃)にて300%/分の延伸速度で縦方向(MD方向)および横方向(TD方向)の順にそれぞれ延伸倍率が2.0倍となるように逐次二軸延伸を行い、冷却することにより、厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は1125回、内部ヘイズ(100μm換算)は0.2、面内位相差Reは0.6nm、厚み方向位相差Rthは4.9nmであった。
(2−2)実施例2
実施例1において、最初に反応器に仕込むSEBSトリブロック共重合体として、タフテック(登録商標)P2000(旭化成社製、オレフィン性二重結合量4.5mmol/g、屈折率1.554)を1部と、タフテック(登録商標)H1043(旭化成社製、オレフィン性二重結合量0.3mmol/g、屈折率1.554)を4部と、タフテック(登録商標)H1517(旭化成社製、オレフィン性二重結合量0.1mmol/g、屈折率1.524)を15部用いた以外は、実施例1と同様にして重合反応を行った。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は97%、PMIの転化率は99%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:PMI:St=64.5:29.4:6.1であり、環構造単位の含有率は29.4質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は14.7万、数平均分子量は5.6万、高温側のガラス転移温度は151℃、低温側のガラス転移温度は−35℃、MFRは13.5、屈折率は1.532であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を、延伸温度を171℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は1633回、内部ヘイズ(100μm換算)は0.2、面内位相差Reは0.4nm、厚み方向位相差Rthは6.0nmであった。
(2−3)比較例1
実施例1において、最初に反応器に仕込む原料にSEBSトリブロック共重合体を用いなかった以外は、実施例1と同様にして重合反応を行い、アクリル系共重合体を得た。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は96%、PMIの転化率は98%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したアクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:PMI:St=64.3:29.5:6.2であり、環構造単位の含有率は29.5質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は15.1万、数平均分子量は5.7万、ガラス転移温度は152℃、MFRは3.5、屈折率は1.532であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を、延伸温度を172℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は11回、内部ヘイズ(100μm換算)は0.1であった。
(2−4)実施例3
実施例1において、最初に反応器に仕込む原料に、SEBSトリブロック共重合体としてKraton社製のA1536(オレフィン性二重結合量0.10mmol/g、屈折率1.519)15部、MMA67.5部、PMI15.7部、nDM0.03部、トルエン100部を用い、滴下により加えるStの量を1.8部とした以外は、実施例1と同様にして重合反応を行った。なお、重合反応後後、紫外線吸収剤(ADEKA社製、アデカスタブ(登録商標)LA−F70)0.7部を重合反応液に加えた。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は98%、PMIの転化率は99.5%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:PMI:St=79.2:18.7:2.2であり、環構造単位の含有率は18.7質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は14.0万、数平均分子量は5.3万、高温側のガラス転移温度は137℃、低温側のガラス転移温度は−68℃、MFRは11.0、屈折率は1.516であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を、延伸温度を158℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は5720回、内部ヘイズ(100μm換算)は0.1、面内位相差Reは0.6nm、厚み方向位相差Rthは3.0nmであった。
(2−5)比較例2
実施例3において、最初に反応器に仕込む原料にSEBSトリブロック共重合体を用いなかった以外は、実施例3と同様にして重合反応を行い、アクリル系共重合体を得た。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は96%、PMIの転化率は98%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したアクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:PMI:St=79.0:18.8:2.2であり、環構造単位の含有率は18.8質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は14.5万、数平均分子量は5.5万、ガラス転移温度は137℃、MFRは7.5、屈折率は1.516であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を、延伸温度を157℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は98回、内部ヘイズ(100μm換算)は0.1であった。
(2−6)実施例4
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管を備えた反応器に、SEBSトリブロック共重合体としてKraton社製のA1536(オレフィン性二重結合量0.10mmol/g、屈折率1.519)20部、メタクリル酸メチル(MMA)43.2部、シクロヘキシルマレイミド(CMI)28部、n−ドデシルメルカプタン(nDM)0.03部、重合溶媒としてトルエン100部を仕込み、これに窒素を通じつつ105℃まで昇温させた。その後開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬アクゾ社製、カヤカルボン(登録商標)Bic75)を0.04部加えるとともに、スチレン(St)8.8部を3時間、1部のトルエンに希釈した0.15部のt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートを4時間かけて一定速度で滴下しながら105〜110℃で溶液重合を行い、両方の滴下終了後さらに3時間熟成を行った。これにより、MMAとCMIとStから重合形成されたアクリル系共重合体と、当該共重合体鎖がSEBSトリブロック共重合体鎖のジエン/オレフィン由来の単位に結合したグラフト共重合体とを含む樹脂組成物が得られた。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は96.5%、CMIの転化率は99.5%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=53.2:35.6:11.2であり、環構造単位の含有率は35.6質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は16.1万、数平均分子量は5.9万、高温側のガラス転移温度は150℃、低温側のガラス転移温度は−68℃、MFRは10.2、屈折率は1.513であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を、延伸温度を170℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は1048回、内部ヘイズ(100μm換算)は0.1、面内位相差Reは0.7nm、厚み方向位相差Rthは0.5nmであった。
(2−7)実施例5
実施例4において、最初に反応器に仕込む原料に、SEBSトリブロック共重合体としてKraton社製のA1536(オレフィン性二重結合量0.10mmol/g、屈折率1.519)27部、MMA39.4部、CMI25.6部、nDM0.03部、トルエン100部を用い、滴下により加えるStの量を8部とした以外は、実施例4と同様にして重合反応を行った。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は97%、CMIの転化率は99%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したSEBSトリブロック共重合体鎖に結合しているアクリル系共重合体鎖と、アクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=53.4:35.3:11.2であり、環構造単位の含有率は35.3質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は17.0万、数平均分子量は6.0万、高温側のガラス転移温度は150℃、低温側のガラス転移温度は−68℃、MFRは9.4、屈折率は1.513であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。
得られた樹脂組成物を、延伸温度を170℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得た。延伸フィルムのMIT耐折回数は10,000回を超え、内部ヘイズ(100μm換算)は0.2、面内位相差Reは0.6nm、厚み方向位相差Rthは3.9nmであった。
(2−8)比較例3
実施例4において、最初に反応器に仕込む原料にSEBSトリブロック共重合体を用いなかった以外は、実施例4と同様にして重合反応を行い、アクリル系共重合体を得た。重合反応液中の残存単量体量より算出したMMAの転化率は96%、CMIの転化率は98%、Stの転化率は100%であった。転化率から計算したアクリル系共重合体の組成比(質量基準)は、MMA:CMI:St=53.2:35.4:11.3であり、環構造単位の含有率は35.4質量%であった。
得られた重合反応液を実施例1と同様にして押出機内で脱揮を行い、透明な樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物の重量平均分子量は15.9万、数平均分子量は6.0万、ガラス転移温度は149℃、MFRは3.0、屈折率は1.513であった。得られた樹脂組成物のゲル化評価を行ったところ、好適に濾過を行うことができた。得られた樹脂組成物を、延伸温度を169℃(Tg+20℃)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの延伸フィルムを得ようとしたが強度が低く困難であった。
実施例1、2と比較例1の樹脂組成物はいずれも、重合の際の単量体成分として、メタクリル酸メチル(MMA)とフェニルマレイミド(PMI)とスチレン(St)を用いて得られたものであり、ガラス転移温度はいずれも151℃または152℃となっており、これらを第1グループと称する。実施例3と比較例2の樹脂組成物はいずれも、重合の際の単量体成分として、メタクリル酸メチル(MMA)とフェニルマレイミド(PMI)とスチレン(St)を用いて得られたものであり、ガラス転移温度はいずれも137℃となっており、これらを第2グループと称する。実施例4、5と比較例3の樹脂組成物はいずれも、重合の際の単量体成分として、メタクリル酸メチル(MMA)とシクロヘキシルマレイミド(CMI)とスチレン(St)を用いて得られたものであり、ガラス転移温度はいずれも149℃または150℃となっており、これらを第3グループと称する。
各グループにおける樹脂組成物とフィルムの物性を比較すると、実施例の樹脂組成物は比較例の樹脂組成物より、温度240℃、荷重98Nで測定したメルトフローレートが高くなっており、いずれも8.0g/10min以上の値となった。実施例の樹脂組成物は、加熱溶融した際の流動性が高まり、成形加工性に優れるものであることが分かる。また、実施例のフィルムは比較例のフィルムよりもMIT試験による耐折強度が大幅に向上し、優れた機械的強度を示すものとなった。内部ヘイズは、いずれのフィルムも低い値となり、透明性に優れるものとなった。実施例の樹脂組成物およびフィルムは、ガラス転移温度が120℃以上と、代表的なアクリル樹脂であるポリメタクリル酸メチル樹脂(ガラス転移温度:約100℃)より耐熱性に優れるものであるとともに、成形加工性、機械的強度、透明性に優れるものとなった。