JP2017160517A - 窒化鋼部材及び窒化鋼部材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】通常のガス窒化処理時間で、γ’相の体積割合が0.7以上であるγ’相を主体とする化合物層を、従来技術では得られなかった厚みに形成し、これによって従来技術よりも疲労強度を向上させ、高い疲労強度を示す窒化処理部材を実現できる技術の提供。【解決手段】γ’相主体化合物層が生成する鋼材成分からなる鋼部材の表面に鉄窒素化合物層が形成されてなる窒化鋼部材で、鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合をVγ’とVεとし、γ’相の存在割合をVγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で表した場合に、その値が0.7以上であるγ’相主体の化合物層の厚さが13μm〜30μmであり、且つ、前記鉄窒素化合物層は、ガス窒化処理後の化合物層の厚さの値をCLTと表し、ガス窒化処理後の窒化拡散層の実用硬化深さの値をDLTと表した場合に、CLT÷DLT≧0.04の関係を満たす窒化鋼部材及びその製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、窒化鋼部材及び窒化鋼部材の製造方法に関し、さらに詳しくは、自動車用や変速機用の歯車やクランクシャフト等に有用な、ガス窒化処理により表面が窒化されてなる耐摩耗性や耐疲労性に優れる十分な厚みの化合物層を有する窒化鋼部材及び窒化鋼部材の製造方法に関する。
鋼の表面硬化処理の中でも低ひずみ処理である窒化処理のニーズは多く、最近では特にガス窒化処理の雰囲気制御技術への関心が高まっている。この背景には、ガス窒化処理によれば、機械部品に対する焼入れを伴う浸炭や浸炭窒化処理、また、高周波焼入れによるひずみが改善されることによる。ガス窒化処理による雰囲気制御の基本は、炉内の窒化ポテンシャル(KN)を制御することにあり、これによって、鋼材表面に生成する化合物層中のγ’相(Fe4N)とε相(Fe2-3N)の体積分率の制御、或いは化合物層の生成しない処理など、幅広い窒化品質を得ることが可能であり、様々な提案がされている。例えば、特許文献1では、γ’相の選択により、曲げ疲労強度や面疲労を改善し、浸炭代替が行われている。
一方で、耐摩耗性や耐疲労性の観点から厚い化合物層の形成が望まれているが、従来のε相主体の窒化では化合物層が剥離し易く、厚膜化できていなかった(特許文献2〜4参照)。具体的には、特許文献2の技術は、ギアノイズの低減を目的とした軟窒化歯車に関するが、化合物層厚さとポーラス層厚さを12μm以下であると規定している。また、特許文献3の技術では、凹凸による応力集中回避を、化合物層厚さを5μm以下に低減することにより実施しており、特許文献4の技術では、化合物層厚さ5μm以下で、曲げ矯正によるき裂抑制をしている。さらに、前記した特許文献1の技術でも、γ’相は低KNで処理されるため、γ’相を厚膜化する場合は、窒化処理に長時間を要し、その結果、拡散層の軟化や圧縮残留応力の低下が起こるため、厚膜化が困難であった。
これに対し、本発明者らは、γ’相主体の化合物層を厚膜化する方法として、最初に炉内の窒化ポテンシャル(以下、KNと略記する場合がある)が高い雰囲気で窒化を行い、その後、炉内のKNを低くする2段窒化法についての提案をしている(非特許文献1参照)。この方法を用い、1段目の雰囲気を高いKNへ設定し、2段目にγ’相領域のKNを選定すれば、γ’相主体の化合物層を厚膜化することが可能になる(非特許文献1)。
特開2013−221203号公報 特開平11−72159号公報 特開2009−30134号公報 特開2014−129607号公報
平岡泰、渡邊陽一著:熱処理、55巻、1号、7−11ページ
上記したように厚膜化が困難であるといった問題があるものの、従来から、鋼部材にガス窒化やガス軟窒化処理をすると、未処理材よりも耐摩耗性や疲労強度が向上するため、これらの処理が用いられてきた。耐摩耗性や耐疲労性を向上させるためには、化合物層が厚いことが望まれているが、化合物層の厚膜化は疲労強度を低下させるため、上記したように、部品の使用環境に応じた厚さの最適化を行うことで、これらの問題への対応がなされている(前記特許文献2〜4参照)。一方、最近では、前記した特許文献1や、非特許文献(平岡泰、渡邊陽一、石田暁丈著:熱処理、55巻、1号、1−2ページ)の記載からわかるように、従来使われてきたε相主体の化合物層よりも、γ’相主体の化合物層とする方が、疲労強度が向上することが明らかとなっている。
一方、先に述べたように、本発明者らは、γ’相主体の化合物層を厚膜化する方法として、最初に炉内の窒化ポテンシャル(KN)が高い雰囲気で窒化を行い、その後、炉内のKNを低くする2段窒化法について提案をしており、この方法を用いることで、γ’相主体の化合物層を厚膜化することを実現している。
しかしながら、本発明者らは、詳細な検討をする過程で、上記した2段窒化法で化合物層を形成した場合、母相と化合物層の界面にε相が形成され易いため、化合物層中に占めるγ’相の体積率を50%前後にしかできないことを見出した。このため、2段窒化法を用いることで、例えば、13μm以上の厚膜化した化合物層を短時間に得ることができるものの、従来法である低KNで長時間かけて、1段でガス窒化処理した10μmのγ’相主体の化合物層と同等程度の疲労強度(平岡泰、渡邊陽一、石田暁丈:熱処理、55巻、1号、1−2ページ参照)しか得られないという課題があった。
つまり、ガス窒化処理によって形成される厚膜化された化合物層中のγ’相の比率を向上させ、これによって、従来法である低KNでガス窒化処理したγ’相主体の化合物層で実現される疲労強度よりもさらに向上させる技術はこれまでになく、実現できれば、その工業的価値は極めて大きい。
したがって、本発明の目的は、通常のガス窒化処理時間で、窒化鋼部材の表面に、γ’相の存在比率を従来よりも高めたγ’相を主体とする化合物層を、従来法で得られる低KNでガス窒化処理したγ’相主体の化合物層よりも厚膜化して形成することを実現することで、従来技術では到達できていなかった高い疲労強度を示す窒化鋼部材を実現させる技術を開発ことである。
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合において、γ’相の割合が0.7以上と極めて高く、加えてγ’を主体とするこの化合物層の厚みが13μm以上であり、ガス窒化処理後の窒化拡散層の実用硬化深さDLT[μm]に対するガス窒化処理後の化合物層の厚さCLT[μm]の比が特定の関係を満たす場合に、上記課題を達成することができることを見出して本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、γ’相主体化合物層が生成する鋼材成分からなる鋼部材の表面に鉄窒素化合物層が形成されてなる窒化鋼部材であって、前記鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合をVγ’とVεとし、γ’相の存在割合をVγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で表した場合に、その値が0.7以上であるγ’相主体の化合物層の厚さが13μm〜30μmであり、且つ、前記鉄窒素化合物層は、ガス窒化処理後の化合物層の厚さ[μm]の値をCLTと表し、ガス窒化処理後の窒化拡散層の実用硬化深さ[μm]の値をDLTと表した場合に、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする窒化鋼部材を提供する。
CLT÷DLT≧0.04 ・・・(1)
本発明の窒化鋼部材は、前記γ’相主体化合物層の厚さが、15μm〜30μmであることが好ましく、また、歯車又はクランクシャフトに好適に適用できる。
本発明は、別の実施形態として、ガス窒化処理炉内の窒化ポテンシャル(KN)を調整しながら、前記炉内の被処理材にガス窒化処理を行って、上記の窒化鋼部材を製造するための製造方法であって、ガス窒化処理中雰囲気の窒化ポテンシャルKN=pNH3/pH2 1.5を、最初にKN1とし、続いて窒化ポテンシャルをKN2〜KNx-1、KNxとしてもよいが、最初のKN1は、式(2)と式(3)を同時に満たし、最終のKNxは、式(2)と式(4)を同時に満たし、且つ、これらの要件を満たすように制御した最終のKNxでの窒化時間を5〜60分とすることを特徴とする窒化鋼部材の製造方法を提供する。
N1<KN2〜KNx-1、KN2〜KNx-1>KNx ・・・(2)
126.7034−5.68797×10-1×T+8.64682×10-4×T2−4.43596×10-7×T3>KN1
・・・(3)
126.7034−5.68797×10-1×T+8.64682×10-4×T2−4.43596×10-7×T3>KNx>22.2265−1.15×10-1×T+2.03×10-4×T2−1.21466×10-7×T3 ・・・(4)
(ただし、pNH3、pH2は、窒化処理炉内のNH3分圧とH2分圧であり、式(3)と式(4)中の、Tは温度[℃]である。)
本発明の窒化鋼部材の製造方法は、前記KN1が、0.05〜0.5であり、且つ、前記KNxが、0.15〜0.5であることが好ましい。
本発明によれば、通常のガス窒化処理時間でも、γ’相を主体とする化合物層をε相主体とする化合物層と同様に厚膜化することができ、また、γ’相主体化合物層の厚膜化を行っても化合物層中に占めるγ’相の体積率を70%以上に高くでき、低KNで形成したγ’相を主体とする従来の化合物層と比べて、曲げ疲労強度を向上させることが可能な、従来にない新規な窒化処理部材の提供が可能になる。なお、本発明で規定するように、本発明でいう「γ’相を主体とする化合物層」とは、鋼部材の表面に形成されている鉄窒素化合物層において、γ’相の存在割合を、Vγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で表した場合に、その値が0.7以上である部分を意味する。
鉄のLehrer図(E.Lehrer: Zeitschrift fur Elektrochemie,36,p.383(1930).)である。 ピット型ガス窒化処理炉の概略図である。 ヒートパターン(ピット炉)である。 バッチ型ガス窒化処理炉の概略図である。 ヒートパターン(バッチ炉)である。 小野式回転曲げ疲労試験片形状である。 EBSD解析結果の例(黒部分:解析不能)を示す図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。まず、本発明の技術の前提について述べる。本発明は、鋼部材の表面にγ’相主体の鉄窒素化合物層が形成されてなる窒化鋼部材であり、該鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合を特定のものとしていることから、該化合物層を形成させる鋼材は、γ’相主体の化合物層が生成される成分のものであることを要する。また、本発明は、自動車用や変速機用の歯車やクランクシャフト等に有効に適用できる窒化鋼部材の提供をも目的としていることから、鋼材の被削性や製造性といった機能に対して必要不可欠な元素が存在することや、不純物元素として必ず存在する元素もある。これらの点も含めて、本発明を構成する「γ’相主体化合物層が生成する鋼材成分からなる鋼」としては、下記のような成分範囲を満足する鋼種であることが好ましい。なお、下記の%は、質量基準である。
〔母材である鋼成分〕
<炭素(C)>
Cは、窒化部品の強度確保のために必須の元素であるといえ、0.05%以上の含有量が必要である。一方、Cの含有量が多くなって0.5%を超えると、窒化前の硬さが高くなって被削性の低下をきたすため、Cの含有量は、0.05〜0.5%であることが好ましい。
<ケイ素(Si)>
Siは、脱酸作用を有する。この効果を得るには、0.10%以上のSi含有量が必要である。しかし、Siの含有量が多くなって0.90%を超えると、窒化前の硬さが高くなって被削性が低下するので好ましくない。したがって、Siの含有量は、0.10〜0.90%であることが好ましい。
<マンガン(Mn)>
Mnは、脱酸作用を有する。この効果を得るには、0.3%以上のMn含有量が必要である。しかし、Mnの含有量が多くなって1.65%を超えると、窒化前の硬さが高くなりすぎて被削性が低下するので好ましくない。したがって、Mnの含有量を0.3〜1.65%であることが好ましい。
<ニッケル(Ni)>
Niは必ずしも含有していなくてもよい。ただし、Niは、焼入れ性と靱性の向上に資する成分であるので、この観点から含有させてもよい。しかし、あまり多く含有させても、上記効果は飽和に達するのみで徒にコストアップを招くだけではなく、被削性の低下も引き起こすので、好ましくない。したがって、その含有量は2.10%以下に制限することが好ましい。
<クロム(Cr)>
Crは必ずしも含有していなくてもよい。ただし、Crの含有量が多くなって2.7%を超えると、窒化化合物層の厚さが低下して、本発明を構成するγ’相主体の化合物層の効果が十分に得られなくなる。したがって、Crの含有量は0〜2.7%であることが好ましい。
<モリブデン(Mo)>
Moは必ずしも含有していなくてもよい。ただし、Moは、窒化温度で、鋼中のCと結合して炭化物を形成し、窒化後の芯部硬さの向上作用をもたらし、機械部品によっては必要となる元素である。しかし、Moの含有量が多くなって0.50%を超えると、原料コストが高くなるだけでなく、窒化前の硬さが高くなって被削性が低下するので好ましくない。したがって、Moの含有量は0.50%以下であることが好ましい。
<バナジウム(V)>
Vは必ずしも含有していなくてもよい。ただし、Vを含有させると、Moと同じく、窒化温度で鋼中のCと結合して炭化物を形成し、窒化後の芯部硬さを向上させる作用を有し、また、窒化時に表面から侵入・拡散するNやCと結合して窒化物や炭窒化物を形成し、表面硬さを向上させる作用も有し、場合によっては必要となる元素である。しかし、Vの含有量が多くなって0.40%を超えると、窒化前の硬さが高くなりすぎて被削性が低下するばかりか、熱間鍛造やその後の焼準でマトリックス中にVが固溶しなくなるため、前記の効果が飽和する。したがって、Vの含有量は0〜0.40%であることが好ましい。
<アルミニウム(Al)>
Alは必ずしも含有していなくてもよい。ただし、Alの含有量が多くなって1.1%を超えると、窒化化合物層の形成量が低下して、本発明のγ’相主体の化合物層の効果が十分に得られなくなる。したがって、Alの含有量は0〜1.1%であることが好ましい。
<硫黄(S)>
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させる作用がある。しかし、Sの含有量が0.030%を超えると、粗大なMnSを形成して、熱間鍛造性および曲げ疲労強度が低下する。そのため、Sの含有量は0.002〜0.030%であることが好ましい。より安定して被削性を確保するためには、Sの含有量は0.010%以上であることが好ましい。また、熱間鍛造性および曲げ疲労強度がより重視される用途に適用する部材の場合には、Sの含有量は0.025%以下であることが好ましい。
<リン(P)>
Pは、鋼に含有される不純物であり、結晶粒界に偏析して鋼を脆化させ、特に、その含有量が0.030%を超えると、脆化の程度が著しくなる場合がある。したがって、本発明においては、不純物中のPの含有量が0.030%以下であることを必要とする。なお、不純物中のPの含有量は0.020%以下であることが好ましい。
<その他の元素>
本発明で用いる鋼部材は、上記に挙げた各元素の他、残部がFe及びその他の不純物からなる化学組成を有するものである。なお、残部としての「Feおよび不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石から不可避的に混入する、例えば、銅(Cu)やチタン(Ti)、または、製造環境から不可避的に混入する、例えば、O(酸素)などのFe以外の成分を含むことを意味している。
〔窒化鋼部材〕
本発明の窒化鋼部材の特徴は、γ’相主体化合物層が生成する上記に挙げたような鋼材成分からなる鋼部材の表面に、下記の特有の構成の鉄窒素化合物層が形成されていることにある。すなわち、本発明の窒化鋼部材を特徴づける鉄窒素化合物層は、該層中に占めるγ’相とε相の体積割合Vγ’とVεとの関係が、Vγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で表した場合に、その値が0.7以上(γ’相の存在割合が0.7以上)であり、このγ’相主体化合物層の厚さが、13μm〜30μmであり、さらに、前記鉄窒素化合物層が下記式(1)の関係を満たすものであることを特徴とする。
CLT÷DLT≧0.04 ・・・(1)
(ただし、式(1)中のCLTは、ガス窒化処理後の化合物層の厚さ[μm]の値を表わし、DLTは、ガス窒化処理後の窒化拡散層の実用硬化深さ[μm]の値を表わす。)
以下、これらについて説明する。
<窒素化合物層>
本発明において、「鉄窒素化合物層」(窒素化合物層或いは単に化合物層とも呼ぶ場合がある)とは、ガス軟窒化処理によって形成された鋼部材表面のγ’相(Fe4N)やε相(Fe2-3N)に代表される鉄の窒素化合物からなる層をいう。ただし、鋼材には、母材に炭素を含有しており、この炭素分の一部が化合物層中にも含有されるため、厳密には炭窒化物である。窒素化合物層は、図7に示したように、表面に層状態として析出している。本発明では、鋼部材(母材)の表面に、これらγ’相、ε相からなる窒化化合物層が、厚さ13〜30μmの範囲で形成されている。なお、ここでいう厚みは、本発明でいうγ’相主体の化合物層の厚みを意味する。鋼部材の表面に鉄窒素化合物層が形成されてなる本発明の窒化鋼部材は、まず、窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合Vγ’とVεの関係が、Vγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で0.7以上であることを要する。すなわち、本発明の窒化鋼部材では、厚みの厚い鉄窒素化合物層を、このようにγ’相を高いレベルで含む構成のγ’相を主体とするものにできたことで、疲労強度や耐摩耗性がより改善される。
(機械的特性向上について)
上記構成を有する本発明の窒化鋼部材が、疲労強度や耐摩耗性に優れる理由は、次のように考えられる。γ’相の結晶構造はFCC(面心立方晶)であり、12個のすべり系を有するため、結晶構造自体が靭性に富んでいる。さらに、γ’相の結晶構造は微細な等軸組織を形成するため、疲労強度が向上すると考えられる。これに対し、ε相の結晶構造はHCP(六方最密充填)であり、底面すべりが優先されるため、結晶構造自体に「変形しにくく脆い」という性質があると考えられる。このため、本発明の窒化鋼部材では、化合物層を、本発明で規定するγ’相を主体とする構成としたことで、窒化鋼部材の疲労強度が改善できたものと考えられる。
(γ’相とε相の体積割合)
本発明の窒化鋼部材の表面に形成された鉄窒素化合物層は、上記したように、鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合Vγ’とVεの関係が、Vγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で0.7以上であることを要するとしたが、このように規定したのは下記の理由による。前述の通り「窒素化合物層」は、上記したような特性を有するε相(Fe2-3N)やγ’相(Fe4N)等からなる層であるが、化合物層中におけるこれらの相の分布状態は、EBSD(Electron BackScatter Diffraction)によって、化合物層の深さ方向断面のγ’相とε相の相分布解析を、幅100μm×3視野で行った結果(体積比率)から判定する。本発明者らの検討によれば、この体積比率が0.7以上であれば、窒化鋼部材の疲労強度が優れたものとなる。前記体積比率は0.8以上が好ましく、さらには0.9以上であることがより好ましい。本発明の技術的特徴は、γ’相を体積比率が0.7以上という高いレベルで含む構成のγ’相を主体とする鉄窒素化合物層を、下記に述べるように、従来技術において達成できていなかった厚みのものにできたことにある。この結果、このような鉄窒素化合物層が表面に形成された窒化鋼部材は、疲労強度と耐摩耗性により優れた、従来にない特性を示すものとなる。
(化合物層の厚さ)
本発明では、窒化鋼部材の表面に形成された上記したγ’相を高いレベルで含む鉄窒素化合物層の厚みが、13〜30μmであることを規定した。以下、この点について説明する。回転曲げ疲労強度は、化合物層厚さが厚いほど高くなる傾向があるため、化合物層は厚い方が有利である。これに対し、従来の2段ガス窒化法では、先に述べた通り、従来の1段でのガス窒化法に比べて短時間で化合物層の厚みを厚くできるものの、γ’相の体積比率を向上させることができず、1段での従来の処理方法によって形成したγ’相主体の10μm厚の化合物層とほぼ同等程度の回転曲げ疲労強度のものとすることしかできなかった。一方、従来の低KNによる1段でのガス窒化処理では、通常、数μm〜10μm程度の化合物層厚さのものしか得られない。この化合物層厚さは、鋼種や窒化条件に依存するため、これらの点を工夫すれば厚くできるが、その場合でも、低KN域でのガス窒化処理で実用的に実現可能な最大厚さは炭素鋼レベルで13μm程度である。このように、従来技術においては、13μm以上の厚さで、且つ、γ’相比率が0.7以上である、γ’相の体積比率を高めた厚みの厚い化合物層は得られていないことから、本発明で提供する窒化鋼部材の表面に形成された化合物層の厚みの下限値を13μmと規定した。一方、厚みの上限値については、2段窒化法において実用的な窒化時間で、化合物層が最も厚くなりやすい炭素鋼のような鋼種で到達できる点を勘案して、化合物層の厚みの上限値を30μmと規定した。
(KNxでの窒化時間5〜60分)
上記した従来技術では達成できていなかった構成の化合物層を有する本発明の窒化鋼部材は、本発明の窒化鋼部材の製造方法によって安定して得ることができる。本発明の窒化鋼部材の製造方法では、最終の炉内の窒化ポテンシャルKNxでの窒化時間を5〜60分と規定した。以下、この点について説明する。本発明の窒化鋼部材の製造方法で規定しているK1〜KNx-1はε相を含む領域であるが、このとき形成されたε相は、KNxへ雰囲気を変えることでγ’相へ変態する。このときの変態速度は、化合物層中の窒素が雰囲気へ脱窒する速度に律速される。本発明者らの検討によれば、化合物層内部まで十分なγ’相を得るのに必要になるKNxで制御して窒化する保持時間は、温度に応じて変わる。例えば、580℃であれば5分〜20分と保持時間が短くて済むが、500℃の温度では20分〜60分を要する。また、上記保持時間が短いと十分なγ’相が得られない傾向があり、逆に長くなるとγ’相の結晶粒が大きくなる場合があり、その場合には機械的特性の低下を生じる。しがたって、本発明の窒化鋼部材の製造方法では、580℃以上で、短時間でも十分なγ’相が得られる上記保持時間として、その下限値を5分と規定した。また、KNxで制御して窒化する保持時間の上限値については、実用窒化温度の下限値である500℃で十分なγ’相が得られる60分と規定した。より好ましくは、5〜30分程度である。上記した範囲内であれば、保持時間を短くできる580℃以上の窒化温度でも、γ’相中の結晶粒が大きくなることがなく、耐摩耗性などの機械特性を低下させるおそれもない。
本発明の窒化鋼部材の表面に形成された鉄窒素化合物層は、上記したγ’相とε相の体積割合が前記した特定の関係を満足することに加えて、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
CLT÷DLT≧0.04 ・・・(1)
(ただし、式(1)中のCLTは、ガス窒化処理後の化合物層の厚さ[μm]の値を表わし、DLTは、ガス窒化処理後の窒化拡散層の実用硬化深さ[μm]の値を表わす。)
上記式(1)は、窒化処理後の化合物層の厚さと、窒化拡散層(以下、単に拡散層と呼ぶ場合もある)の深さの割合を表す指標である。先に従来技術として挙げた非特許文献1に記載されているγ’相主体の化合物層の形成方法は、2段雰囲気によるガス窒化処理であり、最初に設定される窒化ポテンシャルKN1は、ε相が形成される領域に設定される。このとき、ガス窒化処理雰囲気が脱炭雰囲気であることから、鋼材芯部の炭素が表面側に向かって拡散し、表面側に化合物層が存在する場合は脱炭量が少なくなると共に、化合物層と拡散層界面において炭素が濃化する(ディータ・リートケほか著、「鉄の窒化と軟窒化」、アグネ技術センター2013年発行、48ページ参照)。この炭素は、ε相を安定化する元素であるため、必然的に化合物層と拡散層界面においてε相が形成されてしまう。これに対して、本発明の製造方法では、1段目のガス窒化処理では表面にγ’相を形成させるか、或いは、化合物層を形成させないことで表面の脱炭速度を速め、同時に芯部から表面側へ向かう炭素量を鈍化させるように構成する。すなわち、本発明の窒化鋼部材の製造方法では、この1段目の処理で、表面に濃化する可能性がある炭素量の絶対値を従来の2段雰囲気によるガス窒化処理よりも少なくすることが可能になり、この効果によって、次の窒化ポテンシャルをε相領域においても、化合物層と拡散層界面で濃化する炭素量も少なくなることから、化合物層中に占めるγ’相の体積比率を増加させることが可能になる。この結果、本発明によって初めて、その表面に従来技術では得られていなかった構成の化合物層が形成された新規な窒化処理部材を提供することが実現できたものである。なお、本発明の製造方法において、1段目の処理では、窒化処理ではなく、脱炭処理でも同様の効果が得られるが、処理効率の点から窒化雰囲気で実施することが望ましい。
ここで、上記式(1)で規定する実用硬化深さは、窒化層中の硬さ分布において、芯部硬さ+50HVの位置における硬化深さを示している(JIS−0563)。実用硬化深さは、化合物層厚さと拡散層深さの和を示している。一般的に、化合物層厚さは、拡散層厚さの1/10以下であり、実用硬化深さ≒拡散層深さ、とみなせる。この窒化拡散層の成長は、化合物層から供給されるN原子が鋼材内部へ拡散することにより進んでいく。この層の成長速度は、化合物層の成長速度とは無関係に温度と時間で律速されるため、この拡散層の成長速度を化合物層厚さで割った式(1)の右辺の値によって、温度と時間に対する化合物層の成長速度として間接的に知ることが可能である。本発明者らは、前記した本発明の目的を達成するため鋭意検討した結果、形成される化合物層がγ’相主体の化合物層であり、且つ、この化合物層の成長が速いことを特徴とし、化合物層の厚膜化による耐疲労性の向上が可能で、且つ、窒化時間の短縮効果を達成でき、拡散層内の圧縮残留応力や硬さを低下させることなく、ε相主体の化合物層と比べ疲労強度が高くなる窒化鋼部材となるのは、上記式(1)の右辺の値が0.04以上であることを発見して、本発明を完成するに至った。なお、全窒化時間は、好ましくは6時間以下とすることが望ましい。また、従来技術における低KNによるガス窒化処理では、γ’相主体の化合物層を形成できても、その成長速度は(1)式で規定される0.040未満であり、上記した本発明の効果を達成できる窒化鋼部材とはならない。
〔窒化鋼部材の製造方法〕
本発明の窒化鋼部材の製造方法は、上記した構成の窒化鋼部材を得るためのものであるが、処理炉内の被処理材に対して、炉内に窒化性ガスを流しながら加熱処理するガス窒化処理する際の処理条件を、下記のように規定したことを特徴とする。すなわち、本発明の窒化鋼部材の製造方法では、ガス窒化処理中雰囲気の窒化ポテンシャルKN=pNH3/pH2 1.5を、最初にKN1とし、続いて窒化ポテンシャルをKN2〜KNx-1、KNxとしてもよいが、最初のKN1は、式(2)と式(3)を同時に満たすことを要する。さらに、最終のKNxは、式(2)と式(4)を同時に満たし、且つ、これらの要件を満たすように制御した最終のKNxでの窒化時間を5〜60分とすることを要する。
N1<KN2〜KNx-1、KN2〜KNx-1>KNx ・・・(2)
126.7034−5.68797×10-1×T+8.64682×10-4×T2−4.43596×10-7×T3>KN1
・・・(3)
126.7034−5.68797×10-1×T+8.64682×10-4×T2−4.43596×10-7×T3>KNx>22.2265−1.15×10-1×T+2.03×10-4×T2−1.21466×10-7×T3 ・・・(4)
(ただし、pNH3、pH2は、窒化処理炉内のNH3分圧とH2分圧であり、式(3)と式(4)中の、Tは温度[℃]である。)
ガス窒化処理中に形成される表面窒素化合物層の相構造(γ’相又はε相)は、図1に示した鉄のLehrer図から、温度と窒化ポテンシャルKNで決定される。そして、一般的には、ガス窒化処理中のKNは一定で行われる。これに対し、本発明者らは、本発明において最終的な化合物層の相構造を支配するのは、どのような雰囲気制御過程を経てもガス窒化処理中の最後のKNxであること、さらに、その場合に、最後のKNxが、上記式(2)と上記式(4)とを同時に満たし、且つ、これらの要件を満たすように制御した最終のKNxでの窒化時間を5〜60分とすること、で本発明の目的を達成することができる相構造の窒化鋼部材となることを発見した。
本発明の窒化鋼部材の製造方法では、最初及び途中段階のKN1〜KNx-1と、最終のKNxとの関係が、式(2)の、KN1<KN2〜KNx-1、KN2〜KNx-1>KNxを満足することに加えて、最初のKN1の範囲は、式(3)で規定した「α相またはγ’相領域中」に限定されており、最終のKNxの範囲は、式(4)で規定した「γ’相領域中」に限定されていることを要す。換言すれば、途中段階のKN2〜KNx-1は、「γ’相領域」外の領域であることになる。これに対し従来技術では、最初のKN1をε相域に設定しているため、化合物層中におけるγ’相の体積比率を0.7以上にすることができなかった。上記した効果を利用することにより、本発明の製造方法では、最初のKN1をα相又はγ’相領域中で実施することによって、表面の炭素量を制御し、KNxに到達するまでの途中のKNの設定は自由にすることが可能であり、化合物層を厚膜化するためには、途中のKNをより高めることが有効である。また、最終のKNx保持中の窒化処理時間は、化合物層中の窒素が雰囲気へ流れる拡散速度に律速され、本発明者らの検討によれば、要求する化合物層厚さや鋼種、また、雰囲気の変更時間を含め10〜60分を要する。
(窒化ポテンシャルについて)
窒化ポテンシャルKNは、KN=pNH3/pH2 1.5(pNH3,pH2は炉内のアンモニアと水素分圧)で規定されるパラメータであり、例えば、アンモニアやアンモニア分解ガスを用いた場合の演算式は、非特許文献(ディータ・リートケほか著、「鉄の窒化と軟窒化」、アグネ技術センター2013年発行、131ページ)に記載されている。なお、N2ガスなどアンモニアやアンモニア分解ガス以外の複数種のガスを用いる場合も、非特許文献(H.Du、M.A.J.Somers、J.Agren:METALLUGICAL AND MATERIALS TRANSACTIONS A, 31A,200,195−211頁)に記載されている。本発明は、これら従来の演算手法に基づいて計算されたKN値で規定されたものである。
本発明の製造方法を実施するガス窒化処理を行うための処理炉は、ピット型でもバッチ型等でもよく、炉の形状を問わず、前記したように、その処理結果である窒化鋼部材の化合物層の性状は、処理炉での温度と時間、また、雰囲気のKNで決定される。このことは、一般的にLehrer図と呼ばれている、図1に示したKNと温度を軸とした状態図から知ることができる(出典:ディータ・リートケ著、「鉄の窒化と軟窒化」、アグネ技術センターp.131)。本発明の製造方法で行うピット型、バッチ型の各処理炉を用いた場合の窒化処理方法を下記に記す。
(ピット型の例)
ピット炉の概略図を図2に示し、ピット炉での処理条件の例を図3に示した。図2に示したように、炉内のKNを制御するために、H2センサ21とPLC+KN調整器22、また、各プロセスガスには、それぞれ質量流量計(MFC)23が設定してある。そして、ガス窒化処理の対象となる処理品24は、予め炉内中央に設置して炉内に封入し、炉内を真空に引いた後、N2ガスで炉内を復圧し、その後、一定流量のN2ガスを炉内に流しながら加熱を始める。加熱は、外周に設定されているヒーター(不図示)でレトルト25を外側から加熱し、温度調整は、炉内熱電対26で測定された温度を元に、所望の温度まで温調計により調整される。図2中の27は、撹拌機である。
上記した構成のピット炉で処理する場合は、例えば、図3に示したように、炉内が約400℃に達した後、プロセスガスを、N2ガスからNH3+AXガス(NH3分解ガスH2+N2=3:1)へ切替え、所望のKN値(=KN1)になるよう雰囲気制御を始める。一般的に、均熱域ではKNを一定(例えば、KN=1.0)とし、冷却途中の400℃ぐらいまでこのKN保持しながら処理が行われる。一方、本発明では、最初のKN1をα相域或いはγ’相域(例えば、KN1=0.25)として一定時間保持し、次に高KN2(例えば、KN2=1.3)とし、次に冷却の20分前からKNx(例えば、KN=0.3)へ変更することも好ましい形態である。高KNで形成される窒化化合物層はε相を含む化合物層であり、γ’相よりも成長速度が速く、本発明では、この高KNでの速い成長速度を利用して化合物層の厚膜化を行い、その後、KNxへ雰囲気を変更し、ε相からγ’相へ変態させる。その後、KNxのまま約400℃まで冷却した後、再びN2ガスへ雰囲気を置き換えて、100℃以下まで炉内を冷却する。冷却時は、ヒーターを止め、レトルトの外周をファン冷却しながら炉内を冷却する。
(バッチ型の場合)
ストレートスルータイプバッチ炉の概略図を図4に示し、バッチ炉での処理条件の例を図5に示した。図4に示したように、炉内のKNを制御するために、H2センサ41とPLC+KN調整器42、また、各プロセスガスには質量流量計(MFC)43が設定してある点はピット炉と同様である。バッチ炉の場合は、処理品44は予めNH3ガス雰囲気で580℃に加熱された炉内へ扉48を開けることで、炉内へ挿入される。上記した構成のバッチ炉で処理する場合は、例えば、図5に示したように、炉内へ処理品44が挿入された後、プロセスガスをNH3+AXガスへ切替え、所望のKN値(=KN1)になるよう雰囲気制御を始める。先述したピット炉と同様に、最初KN1、次にKN2でガス窒化処理を行った後、雰囲気をKNxへ変更し20分保持することで、先述したピット炉での処理と同様に、本発明で規定した、厚みが厚い、γ’相を高いレベルで含むγ’相が主体の窒化化合物層を形成することができる。図4中の46は熱電対、47は攪拌機、49は冷却槽である。
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例で用いた鋼材成分を表1に示した。なお、残部は鉄(Fe)である。下記に示したように、いずれの鋼材も、γ’相主体化合物層の厚膜化が可能な鋼材成分からなり、鋼材の被削性や製造性といった使用目的からの観点からも満足できる鋼種である。
(実施例1〜15)
表2に、それぞれに対するガス窒化処理条件を示した。先に説明したバッチ型又はピット型の炉を用い、いずれも、ガス窒化処理中雰囲気の窒化ポテンシャルKNが、最初KN1、2段目KN2、最終KNxでそれぞれ異なる3段雰囲気処理で行った。実施例の1段目の窒化ポテンシャルKN1は、いずれも、それぞれの合金鋼におけるLehrer線図上〔図1は純鉄のもので、それとは異なる(平岡泰、渡邊陽一著、熱処理、55巻、1号、p.7、「ガス窒化における窒化ポテンシャル制御および熱力学計算手法を活用した低合金鋼の化合物層相構造制御」参照)〕において、α領域またはγ’相領域で実施しており、この間に表面からの脱炭を促進すると共に拡散層の成長を促す。続いて2段目の窒化ポテンシャルKN2はε相か或いはε+γ’の2相域で実施し、この間にε相の速い成長速度を利用した化合物層の厚膜化が行われる。3段目の窒化ポテンシャルKNxは、いずれもγ’相領域で実施し、形成する化合物層厚さや炉の特性に応じて、窒化時間を15〜50分の間で設定した。
各条件で行ったガス窒化処理後に得られた窒化鋼部材について、表面に形成された鉄窒素化合物層の厚さCLT[μm]と、拡散層の実用硬化深さDLT[μm]をそれぞれ測定し、CLT÷DLTの値をそれぞれ算出し、結果を表3にまとめて示した。また、鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相との関係において、γ’相の存在割合を後述する方法で求めて、結果を表3にまとめて示した。さらに、得られた各窒化鋼部材について、下記で説明する回転曲げ疲労試験を行い、機械的特性を調べて評価した。その結果を表3にそれぞれまとめて示した。
<評価>
(1)小野式回転曲げ疲労試験
図6に示した形状の切欠き試験片を用い、実施例の条件でそれぞれガス窒化処理を施した後、小野式回転曲げ疲労試験(JIS Z 2274)を実施した。試験荷重は鋼材成分に応じて、40kgf又は55kgfの2水準のうちいずれかを選択し、また、回転数は3000rpm共通として実施した。試験結果の評価は、107回転を迎えた場合を合格で○とし、そうでない場合は不合格で×として評価した。
(2)窒素化合物層の測定方法
φ20×5mmのコイン状の試験片を用い、実施例の条件でそれぞれガス窒化処理を行い、ガス窒化処理後の試験片の平面部を平面部と垂直に切断し、JIS−0562に従い断面の化合物層の厚さを測定した。
(3)EBSDによる相分布解析方法
窒化処理を施した鋼材について、断面を機械的に鏡面研磨した後、走査型電子顕微鏡(FEI社製Sirion)に装着された後方散乱電子回折(EBSD)装置(Oxford Instruments社製、Inca Crystal)を用いて、Phase Mapの測定を行った。Phase Mapは、実測された電子回折図形と候補となる相の電子回折図形をマッチングして判定した相を色分けしたものである。図7に、γ’相主体の化合物層とε相主体の化合物層を有するEBSD解析結果の例を示した。図7の上段は、γ’相主体化合物層の顕微鏡写真であり、下段はε相主体化合物層の顕微鏡写真である。それぞれの右欄は、Phase Mapであり、灰色に色分けされた部分がγ’相の部分である。本発明では、このPhase Mapを用い、Vγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比を求め、これによって、鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相との存在割合を比較した。
(比較例1〜3)
比較例1〜3では、表2に示したように、それぞれ実施例1、5、9で用いたと同様の鋼材を用い、従来の技術と同様にγ’相領域となる低KN(=0.25)における1段のみのガス窒化処理を行い、得られた窒化鋼材について実施例と同様の試験をした。その結果、表3に示したように、比較例1〜3のいずれの場合も、本発明で規定する化合物層厚さ13μm以上を満たさなかったため、回転曲げ疲労強度の結果は不合格であった。
(比較例4〜6)
比較例4〜6では、それぞれ実施例3、5、7で用いたと同様の鋼材を用い、従来技術である2段窒化処理を行った。その結果、表3に示したように、厚みの厚い化合物層を形成できたものの、化合物層中に占めるγ’相の体積比率が5割程度と、本発明で規定するレベルに達していなかったため、回転曲げ疲労強度の結果は不合格であった。
(比較例7〜9)
比較例7〜9では、それぞれ実施例3、5、7で用いたと同様の鋼材を用いた。そして、KNを従来の技術でγ’相を形成する0.25にとり、いずれも1段で処理した。そして、化合物層厚さを本発明で規定した13μm以上と厚くするために、比較例7、8では窒化時間を長時間側へ、比較例9では窒化温度を高くして時間を短くしてガス窒化処理を実施した。その結果、表3に示したように、得られた窒化鋼材の鉄窒素化合物層の厚みは本発明で規定した13μm以上を満たすものになったが、本発明で規定した式(1)を満足するものにはならなかった。得られた窒化鋼材について実施例と同様の試験をした結果、表3に示したように、いずれも疲労強度が不合格(55kgf)であった。
本発明によれば、通常のガス窒化処理時間でも、γ’相を体積比率0.7以上の高いレベルで含むγ’相を主体とする化合物層を、ε相主体とする化合物層と同様に厚膜化することができ、また、上記γ’相主体の化合物層の厚膜化を行っても、低KNで形成したγ’相を主体とする化合物層と比べて、曲げ疲労強度を向上させることが可能な窒化鋼部材の提供が可能になる。本発明の活用例としては、本発明によって提供される窒化鋼部材は高い疲労強度を実現させていることから、例えば、自動車用や変速機用の歯車やクランクシャフト等への使用が期待される。

Claims (3)

  1. γ’相主体の化合物層が生成する鋼材成分からなる鋼部材の表面に鉄窒素化合物層が形成されてなる窒化鋼部材であって、
    前記鉄窒素化合物層中に占めるγ’相とε相の体積割合をVγ’とVεとし、γ’相の存在割合をVγ’/(Vγ’+Vε)で規定される比で表した場合に、その値が0.7以上であるγ’相主体の化合物層の厚さが13μm〜30μmであり、且つ、前記鉄窒素化合物層は、ガス窒化処理後の化合物層の厚さ[μm]の値をCLTと表し、ガス窒化処理後の窒化拡散層の実用硬化深さ[μm]の値をDLTと表した場合に、下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする窒化鋼部材。
    CLT÷DLT≧0.04 ・・・(1)
  2. ガス窒化処理炉内の窒化ポテンシャル(KN)を調整しながら、前記炉内の被処理材にガス窒化処理を行って、請求項1に記載の窒化鋼部材を製造するための製造方法であって、
    ガス窒化処理中雰囲気の窒化ポテンシャルKN=pNH3/pH2 1.5を、最初にKN1とし、続いて窒化ポテンシャルをKN2〜KNx-1、KNxとしてもよいが、最初のKN1は、式(2)と式(3)を同時に満たし、最終のKNxは、式(2)と式(4)を同時に満たし、且つ、これらの要件を満たすように制御した最終のKNxでの窒化時間を5〜60分とすることを特徴とする窒化鋼部材の製造方法。
    N1<KN2〜KNx-1、KN2〜KNx-1>KNx ・・・(2)
    126.7034−5.68797×10-1×T+8.64682×10-4×T2−4.43596×10-7×T3>KN1
    ・・・(3)
    126.7034−5.68797×10-1×T+8.64682×10-4×T2−4.43596×10-7×T3>KNx>22.2265−1.15×10-1×T+2.03×10-4×T2−1.21466×10-7×T3 ・・・(4)
    (ただし、pNH3、pH2は、窒化処理炉内のNH3分圧とH2分圧であり、式(3)と式(4)中の、Tは温度[℃]である。)
  3. 前記KN1が、0.05〜0.5であり、且つ、前記KNxが、0.15〜0.5である請求項2に記載の窒化鋼部材の製造方法。
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