JP7434018B2 - 鋼部材の窒化処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、窒化処理により鋼部材の表面に窒化化合物層を形成する鋼部材の窒化処理方法に関する。
自動車用の変速機に用いられる歯車などの鋼部材には、高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度が要求されており、かかる要求に応えるべく、歯車などの鋼部材を強化させる手法として、浸炭処理や窒化処理による高強度化が行われている。特に、γ’相を主体とする窒化化合物層を有する部品は、高い耐ピッチング性と曲げ疲労強度を有することが明らかになっており、その製造方法が種々提案されている。
例えば特許文献1には、高い窒化ポテンシャルで窒化したのちに、低い窒化ポテンシャルでの窒化を行い(どちらの窒化も、温度520~610℃にて実施されている)、γ’相を析出させる窒化処理方法が開示されている。また、特許文献2には、鋼部材に対して600℃で窒化処理工程を行った後、冷却して、続いて425℃~600℃の鉄窒化化合物相が成長しない雰囲気中に5分以上かけて通過させる通過工程を行って、γ’相を40%以上析出させることが開示されている。なお、特許文献3には、鋼部材に対して第1の窒化ゾーンで550~650℃で窒化処理し、第2の窒化ゾーンで400~550℃で窒化処理を行うこと、および、第2の窒化では、第1の窒化より温度の低い雰囲気ガスにさらされるためγ’相が析出することが開示されている。この特許文献3の実施例8では、第2の窒化を500℃、90分間の条件で実施している。
WO2015/046593A1 特開2016-194111号公報 特開2018-59195号公報
窒化処理において窒化化合物層を生成させる工程では、窒化化合物層の生成速度(生産性)と最終的なγ’相を十分に生成させる観点から、600℃といった高温で処理する必要がある。特許文献1や特許文献3では、高温窒化処理で窒化化合物層を形成した後、2段目の窒化を行い、γ’相を析出させている。2段目の窒化には60~120分程度がかかっている(特許文献3では、温度500℃の場合は90分かかっている)。
窒化処理鋼部材の生産性の観点からは、短時間の処理で、より多くのγ’相を析出させることが望まれる。そこで本発明は、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層を生成させる1段目窒化処理工程と、窒化化合物層のγ’相分率を高める2段目窒化処理工程とを行う鋼部材の窒化処理方法において、短時間の2段目窒化処理でγ’相分率を大きく高めることができる、鋼部材の窒化処理方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明によれば、鋼部材を、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層が生成される窒化ポテンシャルの、550~610℃の窒化ガス雰囲気中で窒化処理する1段目窒化処理工程と、前記1段目窒化処理工程に続いて、窒化ガス雰囲気中で、窒化処理された鋼部材を480~520℃で10~60分間保持することにより窒化処理する2段目窒化処理工程とを有し、前記2段目窒化処理工程を、窒化ポテンシャルが0.2~2.0atm -0.5 の窒化ガス雰囲気中で実施する、鋼部材の窒化処理方法が提供される。
この窒化処理方法において、前記1段目窒化処理工程における窒化ポテンシャルが、0.2~2.0atm-0.5であっても良い。また、前記2段目窒化処理工程を実施した後、前記鋼部材を室温まで冷却する冷却工程を更に有しても良い。また、前記2段目窒化処理工程で、前記窒化処理された鋼部材を480~520℃で10~45分間保持しても良い。また、前記2段目窒化処理工程で、前記窒化処理された鋼部材を490~510℃で10~45分間保持しても良い。
また本発明によれば、鋼部材を、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層が生成される窒化ポテンシャルの、550~610℃の窒化ガス雰囲気中で窒化処理する1段目窒化処理工程と、前記1段目窒化処理工程に続いて、窒化処理された鋼部材を、前記窒化化合物層のγ’相分率を60分以内に30%以上高める条件で窒化処理する2段目窒化処理工程を有する、鋼部材の窒化処理方法が提供される。
本発明によれば、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層を生成させる1段目窒化処理工程と、窒化化合物層のγ’相分率を高める2段目窒化処理工程とを行う鋼部材の窒化処理方法において、短時間の2段目窒化処理工程の実施によりγ’相分率を大きく高めることが可能となる。
熱処理装置の構成の例を示す説明図である。 本発明の窒化処理方法の一実施形態の温度及び窒化ポテンシャルKNのプロファイルを示す図である。 比較例1のワーク表層におけるN濃度とC濃度の深さ方向の分布を示すグラフである。 比較例1のワーク表層をEBSD解析して作成した、γ’相とε相の分布を示すPhase MAPである。 実施例1のワーク表層におけるN濃度とC濃度の深さ方向の分布を示すグラフである。 実施例1のワーク表層をEBSD解析して作成した、γ’相とε相の分布を示すPhase MAPである。 鉄-窒素-炭素系状態図である。
以下、本発明の技術思想及び具体的な実施の形態を、図を参照して説明する。
本発明は、鋼部材をガス窒化処理することにより、鋼部材(母材)の表面に、γ’相を主成分とする窒化化合物層を形成するものである。
被処理体としての鋼部材に施される窒化処理は、例えば図1に示されるような熱処理装置1を用いて行われる。図1に示すように、熱処理装置1は、搬入部10、1段目窒化処理工程を実施する加熱室11、2段目窒化処理工程を実施する加熱室12、冷却室13、搬出コンベア14を有している。搬入部10に置かれたケース20内には、例えば自動変速機に用いられる歯車などの機械構造用炭素鋼鋼材または機械構造用合金鋼鋼材からなる鋼部材が収納されている。加熱室11の入り口側(図1において左側)には、開閉自在な扉21を備えた入口フード22が取り付けられている。
<1段目窒化処理工程>
本発明の鋼部材の窒化処理方法における1段目窒化処理工程では、鋼部材を、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層が生成される窒化ポテンシャルの、550~610℃の窒化ガス雰囲気中で窒化処理する。鋼部材はFe(鉄)を主成分とし、通常炭素を0.02~0.8質量%含有しており、ε相の生成にはこの炭素の存在が必要である。前記「主成分」とは、鋼部材中のFeの含有量が90質量%以上であることを意味し、好ましくは94質量%以上であることを意味し、より好ましくは96質量%以上であることを意味する。また、鋼部材は他に各種の目的に応じて、又は不可避不純物として、Si(ケイ素),Mn(マンガン),P(リン),S(硫黄),Ni(ニッケル),Cr(クロム),Cu(銅),Mo(モリブデン)等の元素を含有していてもよい。これら各々の鋼部材中の含有量は、Si,Mn及びMoについてはおおむね0.05~2質量%、Ni,Cu及びCrはおおむね1質量%以下、P及びSについてはおおむね0.05質量%以下とされる。
なお、窒化処理する前に、被処理材(鋼部材)の汚れや油を除去するための前洗浄を行ってもよい。前洗浄としては、例えば、炭化水素系の洗浄液で油などを溶解させ、蒸発させることで脱脂乾燥させる真空洗浄、アルカリ系の洗浄液で脱脂処理するアルカリ洗浄などが好ましい。
上記窒化ポテンシャル(KN)は、窒化ガス雰囲気を構成するNHガスの分圧P(NH)とHガスの分圧P(H)との比率により、周知の下記式(1)で表される。
KN=P(NH)/P(H3/2 ・・・(1)
1段目窒化処理工程における窒化ポテンシャルKNは、鋼部材(表面)にε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層を形成させるため、好ましくは0.2~2.0atm-0.5とされ、より好ましくは0.4~1.0atm-0.5とされる。
また1段目窒化処理工程における窒化ガス雰囲気の温度は、550℃~610℃である。550℃より低いと、窒化化合物層の形成速度が遅くなることと、化合物層中のε相の炭素濃度が高まり、2段目窒化処理工程でγ’相が得にくくなる。窒化ガス雰囲気の温度が610℃よりも高いと、鋼部材の軟化や歪の増大等が起こる可能性がある。これら窒化化合物層の形成速度や鋼部材の軟化等の防止の観点から、窒化ガス雰囲気の温度は570~600℃であることが好ましい。
窒化ガス雰囲気は、Nガス、NHガス及びHガスにより構成され、所定の窒化ポテンシャルKNを達成するようにそれぞれの割合が調整される。
また、1段目窒化処理工程の窒化処理の時間は、目的とする厚みの窒化化合物層が形成されるように制御すればよい。一般的には、窒化処理の時間は、1~8時間の範囲内である。
以上説明した1段目窒化処理工程の具体的な実施の形態について、図1の熱処理装置1を参照して説明する。加熱室11内には、ヒータ25が設けられている。加熱室11内には、Nガス、NHガス、Hガスからなる窒化ガスが導入され、その窒化ガスがヒータ25で所定の温度(上記の通り550~610℃)に加熱されて、加熱室11内に搬入された鋼部材の1段目の窒化処理が行われる。加熱室11の天井には、加熱室11内の窒化ガスを攪拌し、鋼部材の加熱温度を均一化させるファン26が装着されている。加熱室11の出口側(図1において右側)には、開閉自在な中間扉27が取り付けられている。
かかる熱処理装置1において、鋼部材が収納されたケース20が、プッシャー等により、搬入部10から加熱室11内に搬入される。この搬入の前に、必要に応じて上記で説明した前洗浄を行ってもよい。また加熱室11は、ケース20の搬入の前に、窒化ガスが導入され、そのガスがヒータ25で所定の温度(上記の通り550~610℃)に加熱される。このとき加熱室11内が均等に加熱されるように、ファン26を例えば1000rpmで回転させて、窒化ガスを撹拌する。
そして、必要に応じて前洗浄された鋼部材を収納したケース20が加熱室11内に搬入された後、ファン26で窒化ガスを攪拌しながら加熱室11内に搬入された鋼部材の窒化処理が行われる。なお、鋼部材は加熱室11内に搬入された時点では室温であり、その状態では窒化は起こらない。また、鋼部材は室温であるので、一般的にこれを加熱室11内に入れると加熱室11内の温度が下がる。これをヒータ25で元々の設定温度に加熱する。その加熱とともに鋼部材自体の温度も上昇して加熱室11内の温度と同様の高温となり、窒化が開始する。
この1段目窒化処理工程では、加熱室11内の窒化ポテンシャルKNを特定の範囲に制御する。具体的には、例えばNHガスの分圧P(NH)及びHガスの分圧P(H)に関して、加熱室11内雰囲気のNHガスを赤外線式ガス分析計で、Hガスを熱伝導度式ガス分析計でオンラインで分析しながら、加熱室11に供給する窒化ガスの総量や流量比を自動調整することにより制御できる。これらのガスの分圧を制御することで、窒化ポテンシャルKNを0.2~2.0atm-0.5になるように制御する。なお、1段目窒化処理工程の途中において、窒化ポテンシャルKNを変更してもよい。
<2段目窒化処理工程>
1段目窒化処理工程に続けて、窒化化合物層表面のγ’相分率を高めるための2段目窒化処理工程を行う。2段目窒化処理工程では、窒化ガス雰囲気中で、1段目窒化処理工程で窒化処理された鋼部材について、当該部材の温度を480~520℃に10~60分間保持する。このような特定の温度に鋼部材を保持することで、1段目窒化処理工程で形成された窒化化合物層中のγ’相分率を短時間で大きく高めることができる。
特定の温度に保持することでγ’相分率を短時間で大きく高められる理由は定かではないが、本発明者は窒化ガス雰囲気から鋼部材へ侵入する窒素とともに、鋼部材自体にもともと含まれている炭素のふるまいが重要であるとして、以下のように考察している。1段目窒化処理工程の実施温度である550℃以上の領域で生成したε相が2段目窒化処理工程における480℃~520℃の領域に置かれることで、炭素を固溶しているε相が、より高い炭素をもつε相と炭素濃度の低いγ’相の2相に相分離していると考えている。図7はTHERMO-CALC社のTHERMO-CALCにより計算した、窒化ポテンシャルKNを0.5で一定とした時の鉄-窒素-炭素系状態図である。図7から読み取れることは、温度が低下したときε相の安定領域が高炭素濃度側に移動していることであり、仮に図7中に示すように600℃の相境界付近にあるε相がいたとすると、このε相を500℃まで温度低下させた場合、より炭素濃度の高いε相と炭素濃度の低いγ’相に相分離することが予想され、相分離が起きるためには炭素の移動が必要であることがわかる。計算値と実測値の一致はまだ不十分であるものの、550℃以上で生成したε相が480~520℃で保持することで減少し、代わりにγ’相が増加しているのは、温度変化によるε相の炭素固溶量の変化が原因であり、γ’相分率を高めるために10~60分保持する必要があるのは、相分離のための炭素の移動に必要な時間であると考えられる。
2段目窒化処理工程において、鋼部材を480℃より低い温度で保持すると、相分離の進行速度が低下し、長時間保持すればγ’相分率を高めることができるものの、短時間でγ’相分率を高めることができない。一方鋼部材を保持する温度が520℃より高いと、ε相が安定であり、相分離が発生しにくく、短時間でγ’相分率を高めることができない。短時間でγ’相分率を大きく高める観点から、鋼部材を490~510℃で保持することが好ましい。
窒化処理された鋼部材を以上説明した所定の温度で保持する時間について、10分間で相分離が大きく進行し、以後はほとんど変化しない。2段目窒化処理工程を短時間の処理とするため、保持時間の上限は60分とする。以上から、保持時間は10~60分間とする。短時間でγ’相分率を大きく高める観点から、保持時間は10~45分間とすることが好ましい。
なお、2段目窒化処理工程の窒化ガス雰囲気の窒化ポテンシャルKNは、α相が生成しないよう、0.2~2.0atm-0.5とするのが好ましい。なお窒化ガス雰囲気中で鋼部材を480~520℃で保持することにより、γ’相分率がどこまで高くなるかは、窒化ポテンシャルKNにより決まり、鋼部材に要求されるγ’相分率に応じて窒化ポテンシャルKNを調整する。γ’相分率を高くする観点から、窒化ポテンシャルKNは0.25~0.55であることがより好ましく、0.25~0.45であることが特に好ましい。
以上説明した2段目窒化処理工程の具体的な実施の形態について、図1の熱処理装置1を参照して説明する。例えば、加熱室12内に導入する窒化ガスの総量や流量比を調整することによって、α相が生成しないように、窒化ポテンシャルKNが0.2~2.0atm-0.5になるように制御する(なお、2段目窒化処理工程の途中において、窒化ポテンシャルKNを変更してもよい。)。そして、加熱室12内をヒータ28で加熱し、480~520℃としておく。この加熱室12内に、加熱室11で1段目の窒化処理を受けた鋼部材を搬入する。鋼部材は加熱室11内と同様の温度(550~610℃)であり、それより低温の加熱室12内で徐々に480~520℃の範囲に降温し、たとえばその温度で20分保持される。
窒化処理を行う間は、加熱室12内のファン29を例えば1000rpmで回転させ、窒化処理ガスを均一に拡散させる。
以上では、加熱室を2つ有する熱処理装置で1段目及び2段目窒化処理を行う態様を説明したが、加熱室を1つとして、この中で温度調整することで、1段目及び2段目窒化処理を順次実施してもよい。
<冷却工程>
2段目窒化処理工程が終了すると、冷却工程が行われる。冷却工程では、2段目窒化処理を受けた鋼部材を室温まで冷却する。この工程では500℃程度となった高温の鋼部材を冷却するので、当該工程は専用の冷却室(閉鎖空間)にて実施することが好ましい。また冷却工程は、酸化防止のため窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で実施すること(空冷)が好ましい。
冷却工程の実施方法としては、冷却用の油を用意しておき、これに鋼部材を浸漬することで、空冷以上の冷却速度で急冷してもよい。2段目窒化処理においてε相とγ’相への相分離が十分に進行していなかった場合は、冷却の際にも相分離が進行する(つまり、γ’相分率が上昇する)ことが考えられる。一度に複数の鋼部材を窒化処理する場合には、冷却工程において鋼部材が受ける冷却履歴には微差があり、そのため冷却後の鋼部材のγ’分率にばらつきが生じうる。そのような場合には油を利用した急冷により、相分離を実質的に進行させないことが考えられる。しかし本発明においては、2段目窒化処理工程において、相分離が好適に進行する温度域で十分な時間鋼部材を保持するので、鋼部材の相分離は実質的に完了しており、前記のような急冷を行う必要はない。
以上説明した冷却工程の具体的な実施の形態について、図1の熱処理装置1を参照して説明する。例えば、2段目窒化処理工程を経た鋼部材が収納されたケース20が、加熱室12から冷却室13内に搬入される。冷却室13内は室温の窒素ガス雰囲気とされており、この中で鋼部材は室温まで冷却される。
図2は、以上説明した本発明の鋼部材の窒化処理方法の一実施形態の温度及び窒化ポテンシャルKNのプロファイルを示す。例えば、鋼部材の装入前には、加熱室11内を約600℃に昇温し、窒化ポテンシャルKNを0.4atm-0.5とする。室温の鋼部材が収納されたケース20が加熱室11内に搬入され、600℃の窒化ガス雰囲気中で2時間保持される。鋼部材は加熱室11内で加熱されて昇温していき、高温になって窒化が開始する。
1段目窒化処理を受けた鋼部材を、室内温度を500℃、窒化ポテンシャルKNを0.4atm-0.5とした加熱室12に搬入する。加熱室12内で鋼部材は室内温度まで降温し(2分程度で降温が完了する)、その温度で18分保持される(合計で20分、鋼部材が加熱室12内に保持される)。
続いて鋼部材を加熱室12から冷却室13に搬入する。冷却室13内は室温の窒素ガス雰囲気とされている。ここで鋼部材は室温まで冷却される。
以上説明した本発明の鋼部材の窒化処理方法の条件で窒化処理が行われることにより、表面にγ’相を主成分とする窒化化合物層を有する窒化鋼部材を得ることができる。こうして得られた鋼部材は、内部に窒素拡散層および窒化物が形成されて強化されると共に、表面にγ’相リッチな窒化化合物層が形成されて、十分な耐ピッチング性と曲げ疲労強度を有する。
本発明によれば、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層を生成させる1段目窒化処理工程と、窒化化合物層のγ’相分率を高める2段目窒化処理工程とを行う窒化処理方法において、特に2段目窒化処理工程を短時間で行うことが可能となる。
このような効果の点から、本発明は、
「鋼部材を、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層が生成される窒化ポテンシャルの、550~610℃の窒化ガス雰囲気中で窒化処理する1段目窒化処理工程と、前記1段目窒化処理工程に続いて、窒化処理された鋼部材を、前記窒化化合物層のγ’相分率を60分以内に30%以上(好ましくは35~70%)高める条件で窒化処理する2段目窒化処理工程とを有する、鋼部材の窒化処理方法。」
ととらえることもできる。
また、浸炭や浸炭窒化処理と比較して、本発明の窒化処理はオーステナイト変態温度以下での処理であるため、歪量が小さい。また、浸炭・浸炭窒化処理で必須工程である焼き入れ工程が省略できるため、歪ばらつき量も小さい。その結果、高強度且つ低歪の窒化鋼部材を得ることができる。
なお、特許文献3は連続処理炉であるが、このような連続処理炉は、同じ条件で運転し続けることになる。この場合、仮に窒化処理すべき鋼部材が複数種類(鋼部材自体の組成や構造や、求められるγ’相分率の点で複数種類、という意味)ある場合、これを連続処理炉で処理しようとすると、以下のようなプロセスが必要となる。まず、これまで一定条件で連続処理してきた鋼部材の処理を完了して炉から取りだす。次に、異なる条件で処理すべき鋼部材を処理炉に搬入する。そしてこれまでから条件を変えて、窒化処理を行う(バッチ式処理のようになる)。このようなプロセスを連続処理炉で行うことは非常に非効率的であり、コストの点で問題がある。
本発明の窒化処理方法をバッチ式で運転すれば、鋼部材が複数種類ある場合、それぞれにあわせて条件を変更して運転することができる。このため本発明によれば、多品種少量生産を適切なコストで好適に実施できる。
また、窒化ポテンシャルKNはアンモニアと水素の分圧比であり、KNを小さくするためには、高価な水素を多く使う必要がある。例えば特許文献1は2段目窒化処理のKNを0.16~0.25としているが、本発明ではそこまでKNを小さくしなくとも、短時間でγ’相分率を大きく高めることができ、コスト的に有利である。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
[比較例1]
鋼部材(鋼種Aとする)である板状試験片(30mm×40mm、厚み5mm)をワーク(被処理体)として、窒化処理を行った。1段目窒化処理工程では、窒化ポテンシャルKNが0.4atm-0.5である、600℃の窒化ガス雰囲気中で2時間保持して窒化処理した。
続けて、ワークを冷却チャンバーにて室温まで冷却した(2段目窒化処理は行わなかった)。冷却チャンバーにワーク1個を入れて冷却を行ったので、この場合の冷却速度は非常に速く、冷却開始から2分でワーク温度が400℃以下となった。以降の比較例及び実施例においても同様である。
なお、鋼種Aの合金組成は、以下の表1のとおりである。
Figure 0007434018000001
また、上記窒化処理及び以降の比較例2~11及び実施例1~4の窒化処理は内容積約300Lの炉で行った。各窒化ポテンシャルKNに応じたガス組成は以下の表2のとおりである。
Figure 0007434018000002
[比較例2]
比較例1で用いたのと同様のワークを比較例1と同様な条件で1段目窒化処理工程に付した。
続けて、ワークを、窒化ポテンシャルKNが0.4atm-0.5である、550℃の窒化ガス雰囲気中に5分置き、ワーク温度を550℃に降温した。
次に、そのワークを冷却チャンバーにて室温まで急冷した。
[比較例3~11、実施例1~4]
比較例1で用いたのと同様のワークを比較例1と同様な条件で1段目窒化処理工程に付し、続けて急冷(2段目窒化処理工程無し)又は後記表3に示す様々な温度履歴で2段目窒化処理工程および冷却工程を実施した。1段目窒化処理工程の窒化ガス雰囲気の温度、窒化ポテンシャルKN、1段目窒化処理工程の時間(保持時間)、2段目窒化処理工程の鋼部材の保持温度T、鋼部材の温度が保持温度Tまで降温するのに要する時間、保持温度Tでの保持時間、窒化ポテンシャルKN、鋼部材が480~520℃の温度範囲にある時間及び冷却方法を後記表3に示す。
なお表3の読み方の例として、比較例3を説明する。比較例3では、比較例1と同様な条件で1段目窒化処理工程が実施された。続けて2段目窒化処理工程として、窒化ポテンシャルKNが0.4atm-0.5である、550℃の窒化ガス雰囲気中にワークを5分置き、ワーク温度を550℃に降温させ、さらに550℃のままで5分保持した。そして冷却工程として、実施例1と同様の急冷を実施した。
<γ’相分率の測定>
実施例1~4及び比較例1~11で得られた窒化処理済みワークのγ’相分率を、EBSP解析により求めた。解析には、FE-SEM(型式:JSM7001F JEOL製)に実装されたEBSP(Electron Back Scatter diffraction Pattern)装置を用いた。EBSP法はSEM試料室内で70°前後と大きく傾斜した試料に電子線を照射した際に電子線後方散乱回折により発生する菊池パターンを蛍光スクリーンに投影しTVカメラ等で取込み、さらにそのパターンの指数づけを行いその照射点の結晶方位の測定を行う方法である。ダイヤモンド(粒径1μm)バフで鏡面研磨した板状試験片を、さらにコロイダルシリカ砥粒(粒径0.05μm)で研磨仕上げしたものを分析に使用した。解析ソフトウェア(OIM Analysis)を使用して事前に考慮した結晶構造と得られたパターンを基に相を分離したPhase MAPを作成し(比較例1のものを図4に、実施例1のものを図6に示す)、窒化化合物層中のεとγ’の各相の分率を解析した。
以上の結果及び窒化処理条件を、下記表3に示す。
Figure 0007434018000003
比較例1~7及び実施例1・2は1段目窒化処理工程の窒化処理条件が同一である。そして比較例1は1段目窒化処理工程後ワークを急冷して、冷却開始から2分でワーク温度が400℃以下となっている。400℃以下という温度領域ではγ’相の生成は実質的に起きないので、比較例1で得られたワークのγ’相分率は、比較例2以降の例における1段目窒化処理工程直後のワークのγ’相分率であると言える。表3の結果から、実施例1・2の窒化処理条件にて、2段目窒化処理工程によりγ’相分率が35%以上高まった。同様のことが、比較例8・9及び実施例3、比較例10・11及び実施例4についても言える。このように、600℃といった高温での1段目窒化処理工程後、500℃程度で2段目窒化処理工程を実施することで、γ’相を短時間で多く生成させることができる。
図3に、比較例1のワーク表層における電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)によるN濃度とC濃度の深さ方向の分布を示し、図5に、実施例1のワーク表層におけるEPMAによるN濃度とC濃度の深さ方向の分布を示す。
図3、4と図5、6は、1段目窒化処理工程後に室温まで急冷したとき(比較例1)と、500℃付近で所定時間保持(2段目窒化処理工程)したとき(実施例1)のγ’相分率の違いを表している。窒化化合物層のうち、比較的うすく(白く)見えている部分がγ’相、比較的濃く(黒く)見えている部分がε相である。比較例1では、ε相中の炭素濃度が低く、なだらかな分布をしている(深さ0.00~0.015mmくらいのところまでほぼ同量の炭素が検出される)。一方、実施例1では、ε相中の炭素濃度が高まって、炭素が濃縮していることが示されている(深さ0.01mmくらいまでの炭素濃度が減って、そこから深さ0.015mmくらいまでの炭素濃度が増えた)。500℃付近で保持(2段目窒化処理工程)することによって、窒化化合物層中で炭素が移動し、ε相からγ’相+ε相への相分離が起きていると考えられる。
[比較例12~14、実施例5~7]
各種のワークを下記表4に示す条件で1段目窒化処理工程に付し、続けて急冷(2段目窒化処理工程無し)又は下記表4に示す様々な温度履歴で2段目窒化処理工程および冷却工程を実施した。なお、1段目窒化処理工程については、全体(2時間)のうち最初の1時間の窒化ポテンシャルKNを2.0atm-0.5とし、後半の1時間の窒化ポテンシャルKNを0.4atm-0.5とした。各実施例及び比較例で使用した鋼種、1段目窒化処理工程の窒化ガス雰囲気の温度、窒化ポテンシャルKN、1段目窒化処理工程の時間(保持時間)、2段目窒化処理工程の鋼部材の保持温度T、鋼部材の温度が保持温度Tまで降温するのに要する時間、保持温度Tでの保持時間、窒化ポテンシャルKN、鋼部材が480~520℃の温度範囲にある時間及び冷却方法を下記表4に示す。
Figure 0007434018000004
また、表4に示した各実施例及び比較例で使用した鋼種の合金組成は、以下の表5のとおりである。
Figure 0007434018000005
比較例12~15及び実施例5~7における窒化処理は内容積約5000Lの炉で行い、各窒化ポテンシャルKNに応じたガス組成は以下の表6のとおりである。
Figure 0007434018000006
本発明は、鋼部材の窒化技術として有用である。
1 熱処理装置
10 搬入部
11 加熱室
12 加熱室
13 冷却室
14 搬出コンベア
20 ケース
21 扉
22 入口フード
25 ヒータ
26 ファン
27 扉
28 ヒータ
29 ファン

Claims (5)

  1. 鋼部材を、ε相又はε相及びγ’相の窒化化合物層が生成される窒化ポテンシャルの、550~610℃の窒化ガス雰囲気中で窒化処理する1段目窒化処理工程と、
    前記1段目窒化処理工程に続いて、窒化ガス雰囲気中で、窒化処理された鋼部材を480~520℃で10~60分間保持することにより窒化処理する2段目窒化処理工程とを有し、
    前記2段目窒化処理工程を、窒化ポテンシャルが0.2~2.0atm -0.5 の窒化ガス雰囲気中で実施する、鋼部材の窒化処理方法。
  2. 前記1段目窒化処理工程における窒化ポテンシャルが、0.2~2.0atm-0.5である、請求項に記載の鋼部材の窒化処理方法。
  3. 前記2段目窒化処理工程を実施した後、前記鋼部材を室温まで冷却する冷却工程を更に有する、請求項1または2のいずれかに記載の鋼部材の窒化処理方法。
  4. 前記2段目窒化処理工程で、前記窒化処理された鋼部材を480~520℃で10~45分間保持する、請求項1~3のいずれかに記載の鋼部材の窒化処理方法。
  5. 前記2段目窒化処理工程で、前記窒化処理された鋼部材を490~510℃で10~45分間保持する、請求項1~3のいずれかに記載の鋼部材の窒化処理方法。
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