JP2017159554A - 液体吐出ヘッド、液体を吐出する装置、及び液体吐出ヘッドの製造方法 - Google Patents

液体吐出ヘッド、液体を吐出する装置、及び液体吐出ヘッドの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】吐出する液体が分散体である場合でも、吐出液体を保湿する効果を良好に発揮し、安定した液体の吐出を長期間維持できる液体吐出ヘッドを提供する。【解決手段】溶媒と前記溶媒に分散された微粒子と含有する分散体を含む液体が吐出されるノズル孔を有する液体吐出ヘッドにおいて、前記ノズル孔の内面に多孔質層が設けられており、前記多孔質層の細孔の孔径が、前記溶媒の分子の径より大きく、且つ前記微粒子の径より小さくなっている。【選択図】図1

Description

本発明は、液体吐出ヘッド、液体を吐出する装置、及び液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
従来、液体を吐出する装置として、サーマル式、圧電式といった液体吐出方式(液滴吐出方式)のものが知られている。液体吐出方式の液体を吐出する装置では、液体吐出ヘッドに複数のノズル孔が形成されており、そのノズル孔から吐出される液体(液滴)により画像が形成される。
液体吐出ヘッド(液滴吐出ヘッド)は、液体吐出前には、液体がノズル孔まで充填されており、印刷の指示があった場合に直ちに液体を吐出できるような状態(待機状態)になっている。しかし、一定時間以上この待機状態が続くと、液体の表面(メニスカス面)から大気へと溶媒成分が揮発し、液体が表面付近で増粘することが知られている。このような液体の増粘が起こると、ノズル孔が詰まって液体の吐出ができなくなり、吐出できた場合でも、吐出液体(液滴)の容積や射出速度がばらつく等の液体吐出不良が起こり、良好な画像形成が得られない。
そこで、上記のような液体吐出不良を抑制するために、多孔質化したノズル基板に液体(インク)を含侵させ、その液体により吐出液体(液滴)の保湿を行うことも知られている。例えば、特許文献1には、ポーラス構造を有する流路形成部材が、流路側から液体を吸収して外部へと放湿できるように構成され、ノズル孔周囲の湿度を管理する液体吐出ヘッドが開示されている。また、特許文献2には、多孔質部材であるオリフィスプレート(ノズル基板)を通じて、インク供給路から液体のメニスカス面へとインクを供給して吐出液体を保湿し、メニスカス面での粘度上昇を防止する構成が開示されている。
しかしながら、特許文献1の吐出ヘッドは、流路形成部材からヘッド外部へ放湿して、外部環境に保湿状態を作り出すことで吐出液体を保湿する効果(吐出液体保湿効果)を奏するものである。そのため、紙送りの速度や装置周囲の環境によっては、吐出液体保湿効果が十分得られなかったり、保湿効果がばらついたりすることもある。
また、吐出ヘッドを長期にわたり使用する場合、その期間内には、吐出ヘッドを待機状態のまま又はノズル孔を空にした状態で一定時間放置する状況が起こる。特許文献1及び特許文献2のいずれの吐出ヘッドも、液体(インク)をノズル基板(多孔質層)に含浸させる構成を採っているので、上記のような状況が起こると、多孔質層の細孔内の液体からも溶媒の揮発が進み、液体が細孔内で増粘、固化して多孔質層の細孔が塞がれることがある。その場合、放置後に再び液体吐出ヘッドを使用しようとした際には、多孔質層が本来の機能を果たすことができず、吐出液体保湿効果を十分に発揮することができない。
これは、吐出する液体として、拡散した微粒子を含む分散体(例えば、顔料インク)を用いた場合に特に問題となる。
上記の点に鑑みて、本発明の一態様においては、吐出する液体が分散体である場合でも、吐出液体を保湿する効果を良好に発揮し、安定した液体の吐出を長期間維持できる液体吐出ヘッドを提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、溶媒と前記溶媒に分散された微粒子と含有する分散体を含む液体が吐出されるノズル孔を有する液体吐出ヘッドであって、前記ノズル孔の内面に多孔質層が設けられており、前記多孔質層の細孔の孔径が、前記溶媒の分子の径より大きく、且つ前記微粒子の径より小さいことを特徴とする。
本発明の一態様によれば、吐出する液体が分散体である場合でも、吐出液体を保湿する効果を良好に発揮し、安定した液体の吐出を長期間維持できる液体吐出ヘッドが提供される。
多孔質層の孔径による液体含浸の違いを表すモデル図である。 本発明の一態様による液体吐出ヘッドの多孔質層の機能を説明する概念図である。 本発明の一態様に係る液体吐出ヘッドの製造過程の一例を示す図である。 本発明の一態様に係る液体吐出ヘッドの製造過程の一例を示す図である。
(液体吐出ヘッド)
液体吐出ヘッドは、一般に、液体を吐出するノズル孔と、このノズル孔に連通孔を介して連通する液室と、ノズル孔内の液体を吐出させるためのエネルギー発生手段とを備えている。
圧電式の液体吐出ヘッドの場合には、エネルギー発生手段として圧電素子等が用いられる。その場合、圧電素子の変位を伝達することで、液室内の液体を加圧しノズル孔から液体を吐出させる。製造に際しては、可動壁部分となる振動板、流路構造となる流路板、ノズル孔が形成されるノズル基板、及び圧電素子を組み付けて構成する。なお、上記の圧電式以外の液体吐出ヘッドとしては、エネルギー発生手段として発熱抵抗体等の電気熱変換素子を用いるサーマル式、振動板と対向電極とからなる静電式のものがある。
本発明の一態様による液体吐出ヘッドは、分散体を含む液体を吐出するノズル孔の内面に多孔質層が設けられた構成を有しており、多孔質層の細孔の孔径は、分散体に含有される溶媒の分子の径より大きく、且つ分散体に含有される微粒子の径より小さくなっている。多孔質層の細孔が、このような孔径を有していることにより、吐出液体(液滴)中に分散している微粒子が多孔質層の細孔内へと侵入することを防止又は低減することができる。
よって、何らかの原因で多孔質層の細孔内での溶媒の蒸発(揮発)が進んでも、細孔内での液体の増粘の原因となる分散体に含有される微粒子は細孔内に侵入していないので、細孔が塞がることを防止できる。多孔質層の細孔内での溶媒の蒸発が進む状況としては、例えば、液体吐出ヘッドの待機状態のままでの一定時間の放置や、液体吐出ヘッドのノズル孔から吐出液体が除去された状態での一定期間の放置等があるが、これに限られない。
なお、本明細書において、多孔質層の細孔の孔径は、多孔質層の表面に開口する孔の面積基準径の径(開口径)を指す。孔径(開口径)の測定は、ガス吸着法等を用いて行うことができる。また、微粒子の径(粒径)及び溶媒の分子の径(分子径)は光散乱法により測定することができる。
(多孔質層の機能)
次に、本発明の一態様による多孔質層の機能について説明する。
図1は、多孔質層へ液体が含浸(充填)する様子を概念的に示すモデル図である。図1に示す(a)及び(b)のいずれも、液体吐出ヘッドのノズル孔の一部を拡大してモデル的に描画したものである。図1(a)は、従来の多孔質層がノズル孔の内面に設けられた構成を示し、図1(b)は、ノズル孔に、本発明の一態様による多孔質層がノズル孔の内面に設けられた構成を示す。
図1(a)の従来の態様では、多孔質層の細孔のサイズは制御されていない。つまり、図1(a)に示された多孔質層には、その表面で比較的大きく開口した細孔21が形成されており、液体中の微粒子31及び溶媒32がいずれも細孔21内に侵入するようになっている。図示されているように微粒子31及び溶媒32が細孔内に侵入した状態で、例えば、吐出液体が大気環境と接する状態が一定時間続くと(液体吐出ヘッドを待機状態のまま長期間放置した場合等)、多孔質層の細孔内からも溶媒が揮発し得る。
その場合、細孔21内に残された微粒子31は凝集し、ひいては乾燥固着し、徐々に多孔質層の細孔21が塞がれる。そうなると、液体が出入りする経路が詰まることになるので、新たな液体の含浸が妨げられると共に、溶媒を適切に放出できず、吐出液体の保湿という多孔質層の機能も劣化する恐れがある。
図1(a)の従来の態様に対し、図1(b)の本発明の一態様による液体吐出ヘッドでは、多孔質層の細孔22のサイズが制御されている。つまり、多孔質層の表面に開口した細孔22の孔径は、溶媒32の侵入を妨げないが微粒子31の侵入を防止又は低減するようになっている。そのため、例えば液体吐出ヘッドが待機状態で一定時間以上放置されるなどにより細孔22内での液体の乾燥が進んだとしても、細孔22内で液体が増粘、固化して目詰まりが起こることはない。
また、図1(b)の本発明の一態様による液体吐出ヘッドの細孔22の孔径のサイズは、溶媒が侵入できるのはもちろん、溶媒がノズル孔の液体へと自由に再放出されるようになっている。
図2に、液体吐出ヘッドのノズル孔近傍において溶媒が揮発する様子を示した概念図を示す。図2に基づき、実際の液体の吐出の際に、本発明の一態様による多孔質層がどのように機能するのかを説明する。
図2において(a)及び(b)はいずれも、液体がノズル孔まで充填している液体吐出ヘッドの待機状態を示す。図2(a)には、多孔質層が設けられていない構成を示し、図2(b)には、本発明の一態様による多孔質層20が設けられている構成を示す。
図2(a)に示すような多孔質層が設けられていない構成においては、ノズル孔内に充填された液体11中の溶媒が、液体の表面(メニスカス面)から揮発する(矢印13)。これにより、液体の表面付近の粘度が上昇し(増粘された領域を符号12で表す)、これにより、液体吐出不良が起こり得る。
なお、図2(a)に示すような多孔質層が設けられていない構成においては、増粘に対処するために、ノズル孔及び連通孔内の液体を吐出しない程度に微駆動させ液体を攪拌するという公知の技術もある。しかし、そのような公知技術が増粘を防止する効果は十分ではない。ノズル孔及び連通孔内の液体中の溶媒の量が減少する点は変わらないため、初期吐出においては吐出不良が発生するからである。
図2(b)に示す本発明の一態様による構成は、図2(a)の構成と多孔質層が設けられているという点で異なる。図2(b)においても、液体の表面(メニスカス面)からの蒸発が起こっているが(矢印13)、多孔質層20内に予め取り込まれていた溶媒32が、液体に向かって放出されている(矢印14)。これにより、液体の表面付近での増粘を防ぐことができる。多孔質層20の溶媒の取込みは、例えば予備吐出(空吐出)時に行われる。
(多孔質層の構成)
多孔質層には、多数の細孔が形成されている。細孔は、予備吐出の際等に液体から溶媒を取り込み、本吐出の際に吐出液体中の溶媒量が減少した場合に液体に供給して液体保湿効果を発揮するものである。
細孔は多孔質層の表面に開口して形成されており、その孔径(開口径)は、使用される吐出液体に含有される溶媒の分子の径より大きく、且つ吐出液体に含有される微粒子の径より小さくなっている。細孔の孔径を上記範囲とすることで、溶媒が自由に細孔に侵入できる一方、液体中に分散する微粒子が多孔質層に侵入することを効果的に防止又は低減することができる。これにより、多孔質層の細孔内の液体が乾燥した場合でも、細孔内に微粒子が残らないか又は微量しか残らないので、多孔質層の細孔内の液体が増粘することを防止又は抑制することができる。
具体的には、本発明の一態様による液体吐出ヘッドでは、多孔質層の細孔の平均孔径(平均開口径)が、液体に含有される溶媒の分子の平均径より大きく、且つ液体に含有される微粒子の平均径より小さくなっている。本明細書において、多孔質層の細孔の平均孔径は、多孔質層の表面に開口する孔の面積基準径の平均値(平均開口径)を指す。孔径(開口径)の測定は、上述のようにガス吸着法等を用いて行うことができ、ピーク値をその平均値とすることができる。
本発明の一態様によれば、上記の多孔質層の細孔の平均孔径、溶媒の分子の平均径、及び微粒子の平均粒径は、いずれもメジアン径(D50)であってよい。
また、本発明の一態様による液体吐出ヘッドでは、多孔質層の細孔の平均孔径(平均開口径)は、吐出液体中の溶媒分子群の中で最小の径を有する溶媒分子の径より大きく且つ拡散微粒子群の中で最大の径を有する拡散微粒子の径より小さくてもよい。
多孔質層の細孔の平均孔径(平均開口径)は、上述のように、分散体である液体に含まれる溶媒の分子の径及び分散体に含まれる微粒子の径によって決定されるが、数百nm〜数μmに分布するようにしてもよい。
多孔質層に設けられた細孔の開口径のサイズは、ばらつきが少ない方が好ましい。サイズのばらつきが小さければ、細孔が微粒子を排除する作用のばらつきが少なくなるので、多孔質層の細孔内で液体が乾燥した場合に生じ得る細孔の詰まりをより効果的に抑制することができる。
多孔質層の表面から細孔を見た場合の細孔の平均のピッチは、ばらつきが少ない方が好ましい。それにより、液体へ溶媒を提供するに際し領域に応じたムラが生じることなく、均一な保湿効果を得ることができる。
細孔の深さは、溶媒の分子の径の数倍程度であると好ましい。上記のようにすることでより多くの溶媒を取り込んで保持することが可能になるので、溶媒の取り込み動作(予備吐出等)を頻繁に行う必要がなくなる。
本発明の一態様の多孔質層の材質としては、吐出液体に対する保湿効果を発揮でき、且つ使用される液体に対して耐性があるものならば、特に限定はされない。多孔質層を陽極酸化膜とした場合には、陽極酸化処理で陽極となり得る材料、例えば、Si、Al、Ti、Zr、Mgのいずれかの酸化物であることが好ましい。中でも、Siの酸化物であることが好ましい。
なお、多孔質層は、ノズル孔の内面全面に形成されていてもよく、ノズル孔の内面の一部のみに形成されていてもよい。また、ノズル孔の内面のみならず、ノズル孔から液圧室へ延びる連通孔の内面に形成されていてもよいし、ノズル孔の内面からノズル基板の外面にかけて連続的に形成されていてもよい。また、本明細書の例では、多孔質層は一層としているが、同種又は異種の二層の多孔質層を積層させて設けることもできる。
本発明の一態様では、多孔質層には、層形成後に処理が行われていてもよい。多孔質層が陽極酸化膜である場合には、例えば、細孔を安定させるために熱処理を行ってもよいし、孔径を拡大又は縮小して調整するための処理を行ってもよい。
(陽極酸化膜)
本発明の一態様による液体吐出ヘッドでは、多孔質層が、陽極酸化処理によって形成された陽極酸化膜からなっている。陽極酸化処理は、電解質溶液中で金属部材を陽極として通電(電解)することにより、金属表面に酸化皮膜を形成させる表面処理である。
陽極酸化膜の形成のための陽極酸化で用いられる陽極としては、Si、Al、Ti、Zr、Mgのいずれかを用いることが好ましい。また、電解質溶液としては、有機酸又は無機酸を含む溶液を用いることができる。電解質溶液は、酸とアルコールとを含む混合溶液とすることができ、酸とアルコールとを含む水溶液とすることができる。
電解質溶液に用いられる酸としては、フッ酸、リン酸、シュウ酸、硫酸、クロム酸等の酸を一種又は複数組み合わせて用いることができる。電解質溶液に用いられる酸としては、メタノール、エタノール等の低級アルコールを一種又は複数組み合わせて使用することができる。
一般的に、陽極酸化によって得られた多孔質層では、細孔が規則的に配列している。よって、多孔質層を陽極酸化膜とすることで、溶媒の放出をムラなく均一に行うことができ、多孔質層が液滴保湿効果を良好に発揮することができる。
また、陽極酸化処理では、陽極酸化条件、具体的には、陽極材料の抵抗率、電解質溶液の種類及び濃度、陽極酸化電圧等を調整することで、多孔質層の孔径を数nm〜数μmまで調節することが可能である。よって、他の製膜手法に比べて、所望の孔径の細孔を有する多孔質層をより確実に形成することができる。陽極酸化を用いることで、吐出液体に含有される溶媒分子の径より大きく且つ吐出液体に含有される微粒子の径より小さい平均孔径を有する細孔が設けられた多孔質層を容易に形成することができる。
本発明の一態様では、液体吐出ヘッドのノズル基板自体を陽極として利用した陽極処理を行って、多孔質層を形成することができる(図3、4を参照して後述)。また、ノズル基板の材料が陽極として不向きな場合であっても、ノズル基板上の多孔質層を設けたい領域に、陽極として機能する材料の層を設けた後、陽極処理を行って陽極酸化膜を形成することもできる。
(吐出液体)
一般に、液体吐出方式の液体を吐出する装置に用いられる吐出液体(吐出液滴)としては、溶液又は分散体(分散系)が用いられる。前者の例としては染料インク、後者の例としては顔料インクが挙げられる。
染料インクは、溶媒に染料が溶け込んだものであり、発色に優れるが耐水性が劣るほか滲みなども発生しやすい。これに対し、顔料インクは、微粒子が溶媒中に分散したものであり、発色は限られるが滲みが少なく、耐性が高いことから、産業用途での黒インク等に利用されている。顔料インクに含まれる顔料微粒子には、数μmからサブミクロンオーダーまで様々な平均粒径(一次粒子の平均粒径)を有しているものがあるが、一般に、数100nm〜数μm程度の平均粒径を有する。
また、吐出液体(液滴)が分散体である場合、分散体に分散している微粒子としては、上述した顔料微粒子等の色素の他、分散の安定、画像への耐性付与等の目的で添加される色素でない微粒子も挙げられる。このような分散微粒子は、1μm未満等、様々な平均粒径を有するが、一般に、数100nm〜数μmの平均粒径を有しているものが多い。また、粒径の分布で見ると、吐出液体中では、このような微粒子が、一次粒子の状態で又は二次粒子に凝集した状態で分散体中に分散している。
本発明の一態様による液体吐出ヘッドは、使用される吐出液体の分散体に含有されている溶媒分子及び拡散微粒子の径に応じて、多孔質層の細孔の孔径を決めることができる。つまり、多孔質層の細孔の孔径を、分散体に含有される溶媒分子の径より大きく且つ分散体に含有される微粒子の径より小さくすることができる。
上述のように、本発明の一態様では、多孔質層に形成された細孔の平均孔径を、使用する分散体に応じて決定できるので、多孔質層の細孔への拡散微粒子の侵入を効果的に防止又は低減することができる。そのため、何らかの原因で多孔質層の細孔内の液体が乾燥した場合であっても、多孔質層内の細孔内に微粒子が残留せず又は微量しか残留することがないので、多孔質層内の細孔が詰まることはない。これにより、液体吐出ヘッドにおける多孔質層による液滴保湿効果を良好に長期間にわたり維持することができる。
本発明の一態様による液体吐出ヘッドは、吐出液体として溶液を用いた場合及び分散体を用いた場合のいずれにおいても、長期間安定して液体を吐出することができる。
(液体吐出ヘッドの製造方法)
次に、液体吐出ヘッドの製造方法について図面を用いて説明する。
図3に、本発明の一態様による液体吐出ヘッドの製造のプロセスフローの一例を示す。ここでは、例として、ノズル基板にSi(シリコン)を用い、加工に半導体技術を用いた場合の形成方法として説明をする。
なお、ノズル基板の材料には、Siの他に、陽極酸化法の陽極となり得るAl、Ti、Zr、Mg等を使用することができる。また、いずれの材料を用いた場合でも、ノズル孔及び連通孔の合計長さに等しい厚みを有する基板を用いることができる。
図3(a)では、ノズル基板10の表面に、ノズル孔形成用のパターンマスク101を形成する(ノズル孔用マスク形成ステップ)。具体的には、ノズル基板10上の全面に上記マスク101の材料層を形成した後、フォトリソグラフィを利用してレジストによりノズル孔のパターンを形成し、エッチングを用いて、マスク101の材料層のノズル孔102に対応する部分を除去する。マスク101の材料としては、この後の工程である陽極酸化で使用される溶液に対する耐薬品性を有する材料を選択する必要があり、例えば、SiO/SiN積層膜や、SiN膜等が挙げられる。
続いて、図3(b)では、基材10をエッチングにより加工し、ノズル孔102を形成する(ノズル孔形成ステップ)。このとき、エッチングのマスク材として、図3(a)で使用したレジストをそのまま利用してもよい。また、マスク101がSiO/SiN積層膜からなる場合には、上層であるSiO層をハードマスク材として用いることもできる。
その後、図3(c)で示すように、ノズル基板10を陽極酸化溶液中に浸漬し、ノズル基板10の表面に対向するように陰極板103を配置し、正電圧を印加することによって、多孔質層を形成する(多孔質層形成ステップ)。電源104を定電流制御して一定時間の処理を施すことで、ノズル基板10のうち露出している箇所のみが陽極酸化処理される。陽極酸化溶液としては、例えば、HFとアルコールとの混合溶液を用いることができる。
陽極酸化においては、混合溶液の混合比率や電流密度、ノズル基板10の抵抗率によって多孔質の孔径をコントロールすることができる。また、処理時間により多孔質層20の厚みを制御することも可能である。陽極酸化は、前記多孔質層の細孔の孔径が、得ようとする液体吐出ヘッドで使用される吐出液体である分散体に含有される溶媒の分子の径より大きく、且つその分散体に含有される微粒子の径より小さくなるような条件で行うことができる。
多孔質層を形成した後、図3(d)に示すように、ノズル基板10の表裏を返し、連通孔用のパターンマスク105を形成する(連通孔用マスク形成ステップ)。マスク105としてはレジストを用い、フォトリソグラフィを用いてパターン化する。場合によっては、図3(c)と図3(d)との間のステップとして、ノズル基板10の厚みを調整するために、ノズル基板にサポート基板を貼り合わせ、研削・研磨加工を行ってもよい。
その後、図3(e)に示すように、図3(d)で形成したマスク105を用いて、Siノズル基板10のエッチングを行い、連通孔106を形成する(連通孔形成ステップ)。エッチングの時間を制御することでエッチング深さを調整し、ノズル孔102の長さを調整することができる。
図3(f)では、連通孔用のパターンマスク105を除去する(連通孔用マスク除去ステップ)。本発明の一態様では、この図3(f)が完了した状態で終了してもよいし、図3(g)で示すように、ノズル孔用のパターンマスク101も除去してもよい。
図3(f)のステップが完了した状態で終了した場合には、この後、最終的に液体吐出ヘッドを構成するための工程において、マスク101が多孔質層20の保護層として働くので有利である。例えば、マスク101が、ヘッドクリーニング等の物理的な攻撃から多孔質層20を保護し得る。
図4は、本発明の別の態様による液体吐出ヘッドの製造方法を説明した図である。図3と同様であるが、陽極酸化(図4(d)、多孔質層形成ステップ)前にノズル孔用のパターンマスク101を除去する(図4(c)、ノズル孔用マスク除去ステップ)点が異なる。
上記工程により、図4の態様では、多孔質層20を、ノズル孔102の内面のみならず、ノズル基板10の表面にも設けることができる(図4(g)に図示)。このように、ノズル基板10の外部を向く面に多孔質層20が設けられていると、多孔質層20の、ノズル基板10の外面の領域にも溶媒を含浸させることができる。これにより、例えば図2(b)に示すノズル孔102内での溶媒の保湿のみならず、ノズル孔102の外部環境への放湿が可能になるので、液体の増粘による液体吐出不良を良好に抑える効果がより高くなる。
(液体を吐出する装置)
上記のようにして得られた本発明の一態様による液体吐出ヘッドは、「液体を吐出する装置」に搭載することができる。この「液体を吐出する装置」には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
また、液体を吐出する装置は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。例えば、液体を吐出する装置として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)等があり、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置等も含まれる。
10 ノズル基板
11 吐出液体(液滴)
12 増粘された領域
13 吐出液体(液滴)からの溶媒の揮発を示す矢印
14 多孔質層からの溶媒の放出を示す矢印
20 多孔質層
21 細孔(従来技術による)
22 細孔(本発明の一態様による)
31 微粒子
32 溶媒
101 パターンマスク(ノズル孔形成用)
102 ノズル孔
103 陰極板
104 電源
105 パターンマスク(連通孔形成用)
106 連通孔
特開第2015−93453号公報 特許第3906846号公報

Claims (5)

  1. 溶媒と前記溶媒に分散された微粒子と含有する分散体を含む液体が吐出されるノズル孔を有する液体吐出ヘッドであって、
    前記ノズル孔の内面に多孔質層が設けられており、前記多孔質層の細孔の孔径が、前記溶媒の分子の径より大きく、且つ前記微粒子の径より小さい、液体吐出ヘッド。
  2. 前記多孔質層が陽極酸化膜である、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
  3. 前記多孔質層が、Si、Al、Ti、Zr、Mgのいずれかの酸化物である、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
  4. 請求項1から3のいずれか一項に記載の液体吐出ヘッドを備えている、液体を吐出する装置。
  5. 溶媒と前記溶媒に分散された微粒子と含有する分散体を含む液体が吐出されるノズル孔を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
    ノズル基板にノズル孔を形成し、
    前記ノズル基板を陽極として電圧を印加することにより陽極酸化を行って、前記ノズル孔の内面に多孔質層を形成することを含み、
    前記陽極酸化を、前記多孔質層の細孔の孔径が前記溶媒の分子の径より大きく且つ前記微粒子の径より小さくなるような条件で行う、液体吐出ヘッドの製造方法。
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