JP2017155195A - パラミロン水性分散液及び細胞増殖促進剤 - Google Patents

パラミロン水性分散液及び細胞増殖促進剤 Download PDF

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Abstract

【課題】パラミロンの有効成分の効果を生体で発現可能な新規なパラミロン水性分散液及び細胞増殖促進剤を提供する。【解決手段】少なくとも(A)パラミロン,(B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維,及び(C)水の成分を含有するパラミロン水性分散液である。(A)成分と(B)成分との比率が、(A)/(B)=1〜200である。パラミロン水性分散液中の(B)成分の濃度が、6.0×10−5重量%〜5.0重量%である。【選択図】図1

Description

本発明は、新規なパラミロン水性分散液及びこのパラミロン水性分散液を用いた細胞増殖促進剤に関する。
微細藻類ユーグレナの貯蔵多糖であるパラミロンは、β−1,3−グルカンの一種であって、免疫賦活効果やある種の腫瘍に対する抗腫瘍効果など、生体に対する体質改善効果や疾患治療・予防効果を有するとの報告がされている。
ユーグレナから抽出したパラミロンは、水や熱水には不溶性である。従って、生体に摂取・投与されたときにより高い効果を奏するよう、アルカリ処理,化学修飾,架橋結合等の処理を施した処理パラミロンが、種々提案されている(例えば特許文献1,2)。
特許文献1は、パラミロンの水酸基がエピクロロヒドリンとの反応によって架橋修飾された水溶性パラミロン誘導体であって、マウスの腰部にサルコーマ180固形腫瘍を皮下移植したときに、延命効果が認められたことが記載されている。
また、特許文献2は、パラミロンをアルカリ処理後酸で中和処理をすることにより、パラミロンよりも結晶化度の低いアモルファスパラミロンが得られ、このアモルファスパラミロンが、パラミロンよりも高いアレルギー抑制効果を備えることが記載されている。
特開平1−252601号公報 特許第5612875号公報
しかし、特許文献1,2のような従来の処理パラミロンは、ある特定の疾患治療・予防効果やある特定の体質改善効果を、生体のある特定の組織に対して示すことが報告されている反面、すべての疾患及び生体の組織に対して万能に有効ではなく、他の疾患や組織に対して、効果が得られないことが多かった。
処理パラミロンの種類が増えれば、改善できる体質や治療・予防できる疾患の種類も増えることが予想される。生体組織において、疾患の治療・予防や体質改善等の新たな効果を発現できる新規な処理パラミロンの開発が望まれていた。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、パラミロンの有効成分の効果を生体で発現可能な新規なパラミロン水性分散液及び細胞増殖促進剤を提供することにある。
本発明の他の目的は、パラミロンを水性溶媒に分散する新規な方法を提供するパラミロン水性分散液及び細胞増殖促進剤を提供することにある。
本発明者らが、パラミロンを水性溶媒に分散させる新規な方法について種々試行錯誤したところ、特定のセルロース繊維を含む水性溶媒にパラミロンが分散し、かつ、その分散液が、線維芽細胞に対して増殖促進効果を呈することを見出し、本発明をするに至った。
前記目的を達成するために、本発明のパラミロン水性分散液又は細胞増殖促進剤は、少なくとも下記の(A)〜(C)成分を含有することを特徴とするパラミロン水性分散液により解決される。
(A)パラミロン。
(B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維。
(C)水。
このように、パラミロンを、(B)成分の繊維と共に水に加えるので、パラミロンを水性溶媒中に分散させたパラミロン水性分散液を得ることができる。また、パラミロンを、(B)成分を用いて溶媒中に分散させるので、分散させるために、加熱や化学反応を経る必要がない。従って、分散させる処理が簡易であり、また、熱や化学反応に弱い添加物等も併用できる。
これらの成分を含有するパラミロン水性分散液は、分散性がよく、1週間放置しても分散度が低下しない良好な分散安定性を有する。また、本発明のパラミロン水性分散液は、ヒトの皮膚に適用した場合でもべたつきがない。従って、皮膚に良好に適用でき、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として皮膚に適用した場合も、べたつきなく良好な使用感が得られる。
さらに、本発明のパラミロン水性分散液は、細胞増殖促進効果及び細胞遊走促進効果を有するため、細胞増殖促進効果及び細胞遊走促進効果に優れた細胞増殖促進剤として利用できる。
皮膚の線維芽細胞の増殖促進効果と、皮膚に適用したときのべたつきのない優れた使用感とを併せて発揮するため、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤及び皮膚の老化改善剤として利用できる。
前記(A)成分と前記(B)成分との比率が、(A)/(B)=1〜200であるとよい。
前記(B)成分の濃度が、6.0×10−5重量%〜5.0重量%であるとよい。
前記(B)成分がアニオン変性セルロースナノファイバーであるとよい。
前記細胞増殖促進剤は、線維芽細胞の増殖促進剤として用いられてもよい。皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として用いられてもよい。
本発明によれば、パラミロンを、(B)成分の繊維と共に水に加えるので、パラミロンを水性溶媒中に分散させたパラミロン水性分散液を得ることができる。また、パラミロンを、(B)成分を用いて溶媒中に分散させるので、分散させるために、加熱や化学反応を経る必要がない。従って、分散させる処理が簡易であり、また、熱や化学反応に弱い添加物等も併用できる。
これらの成分を含有するパラミロン水性分散液は、分散性がよく、1週間放置しても分散度が低下しない良好な分散安定性を有する。また、本発明のパラミロン水性分散液は、ヒトの皮膚に適用した場合でもべたつきがない。従って、皮膚に良好に適用でき、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として皮膚に適用した場合も、べたつきなく良好な使用感が得られる。
さらに、本発明のパラミロン水性分散液は、細胞増殖促進効果及び細胞遊走促進効果を有するため、細胞増殖促進効果及び細胞遊走促進効果に優れた細胞増殖促進剤として利用できる。
皮膚の線維芽細胞の増殖促進効果と、皮膚に適用したときのべたつきのない優れた使用感とを併せて発揮するため、皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤及び皮膚の老化改善剤として利用できる。
試験2の細胞増殖促進効果確認試験において、本発明の一実施例に係るパラミロン水性分散液を添加後の細胞増殖の経時変化を示すグラフである。 試験2の細胞増殖促進効果確認試験において、本発明の一実施例に係るパラミロン水性分散液添加3日後の細胞数の増加率を示すグラフである。 対照試験1の細胞増殖促進効果確認試験において、本発明の対比例に係るパラミロン混合水を添加後の細胞増殖の経時変化を示すグラフである。 対照試験1の細胞増殖促進効果確認試験において、本発明の対比例に係るパラミロン混合水添加3日後の細胞数の増加率を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態に係るパラミロン水性分散液及び細胞増殖促進剤について説明する。
本実施形態のパラミロン水性分散液は、少なくとも下記の(A)〜(C)成分を含有する。
(A)パラミロン。
(B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維。
(C)水。
以下、(A)〜(C)の各成分について説明する。
〔(A)パラミロン〕
パラミロン(Paramylon)は、約700個のグルコースがβ−1,3−結合により重合した高分子体(β−1,3−グルカン)であり、ユーグレナ属が含有する貯蔵多糖である。パラミロン粒子は、扁平な回転楕円体粒子であり、β−1,3−グルカン鎖がらせん状に絡まりあって形成されている。
パラミロンは、すべての種,変種のユーグレナ細胞内に顆粒として存在し、その個数,形状,粒子の均一性は、種により特徴がある。
パラミロンは、グルコースのみからなり、E.gracilis Zの野生株と葉緑体欠損株SM−ZKから得られたパラミロンの平均重合度は、グルコース単位で約700である。
パラミロンは、水,熱水には不溶性であるが、希アルカリ,濃い酸,ジメチルスルホキシド,ホルムアルデヒド,ギ酸に溶ける。
パラミロンの平均密度は、E.gracilis Zでは、1.53、E.gracilis var.bacillaris SM−L1では、1.63である。
パラミロンは、粉末図形法を用いたX線解析によれば、3本の直鎖状β−グルカンが右巻きの縄のように捻じれあったゆるやかならせん構造をとっている。このグルカン分子がいくつか集まってパラミロン顆粒を形成する。パラミロン顆粒は、結晶構造部分が非常に多く約90%を占め、多糖類の中で最も結晶構造率の高い化合物である。また、パラミロンは、水を含みにくい(ユーグレナ 生理と生化学(北岡正三郎編、(株)学会出版センター))。
なお、パラミロン((株)ユーグレナ製)の粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置で測定したときのメジアン径が、1.5〜2.5μmである。
パラミロン粒子は、培養されたユーグレナ属から任意の適切な方法で単離および微粒子状に精製され、通常粉末体として提供されている。
例えば、パラミロン粒子は、(1)任意の適切な培地中でのユーグレナ細胞の培養;(2)当該培地からのユーグレナ細胞の分離;(3)分離されたユーグレナ細胞からのパラミロンの単離;(4)単離されたパラミロンの精製;および必要に応じて(5)冷却およびその後の凍結乾燥により得ることができる。
パラミロンの単離は、例えば、大部分が生物分解される種類の非イオン性または陰イオン性の界面活性剤を用いて行われ得る。パラミロンの精製は、実質的には単離と同時に行われ得る。
なお、ユーグレナからのパラミロンの単離および精製は周知であり、例えば、E. Ziegler, "Die naturlichen und kunstlichen Aromen" Heidelberg, Germany, 1982, Chapter 4.3 "Gefriertrocken"、DE 43 28 329、または特表2003−529538号公報に記載されている。
〔(B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維〕
成分(B)は、アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維である。
これらの繊維は、単独で(B)成分として用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。以下、これらの繊維について説明する。
◎アニオン変性セルロースナノファイバー
(B)成分として、アニオン変性セルロースナノファイバーを用いることができる。以下、アニオン変性セルロースナノファイバーについて説明する。
本実施形態において、アニオン変性セルロースナノファイバーとは、アニオン性の基(カルボキシル基またはカルボキシメチル基など)を導入したセルロース系原料(「アニオン変性セルロース」)を解繊して得られる平均繊維長50nm〜5000nm、好ましくは0.1〜5μm、平均繊維幅1nm〜1000nm、又は2〜300nm、好ましくは2〜150nmであるセルロースのミクロフィブリルをいう。カルボキシル基を導入したカルボキシルセルロースナノファイバーと、カルボキシメチル基を導入したカルボキシメチルセルロースナノファイバーが含まれる。
<セルロース系原料>
セルロース系原料は、木材由来のクラフトパルプまたはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末等を含む。この他に、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料も使用できる。
粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解により除去した後、粉砕及び篩い分けすることで得られる微結晶性又は結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。
また、上記したセルロース系原料を高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散装置、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーなどで微細化したものをセルロース系原料として使用することもできる。
<アニオン変性セルロース>
上記のセルロース原料に、下記に例示する公知の方法を用いてアニオン性の基を導入(アニオン変性)することで、アニオン変性セルロースを得ることができる。
(i)カルボキシメチル化
上記のセルロース系原料を発底原料にし、3〜20質量倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を溶媒として使用する。混合媒体における低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。発底原料のグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをマーセル化剤として使用し、発底原料、溶媒、及びマーセル化剤を混合し、反応温度を0〜70℃、かつ反応時間を15分〜8時間としてマーセル化処理を行う。その後、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウム(カルボキシメチル化剤)をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、かつ反応時間30分〜10時間としてエーテル化反応を行うことにより、カルボキシメチル基を導入したセルロースを得ることができる。
アニオン変性セルロースとして、カルボキシメチル基を導入したセルロースを用いる場合、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル基を導入したセルロースは容易にナノオーダーへと解繊することができる。
カルボキシメチル置換度は、以下の方法により測定できる:
試料約2.0gを精秤して、300ml共栓三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(無水メタノール1Lに特級濃硝酸100mlを加えた液)100mlを加え、3時間振盪して、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)をカルボキシメチルセルロース(H−CMC)にする。その絶乾H−CMC1.5〜2.0gを精秤し、300ml共栓三角フラスコに入れる。80%メタノール15mlでH−CMCを湿潤し、0.1NのNaOH100mlを加えて室温で3時間振盪する。指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1NのHSOで過剰のNaOHを逆滴定する。次式:
[{100×F’−(0.1NのHSO(ml))×F}/(H−CMCの絶乾質量(g))]×0.1=A
カルボキシルメチル置換度=0.162A/(1−0.058A)
A:1gのH−CMCを中和するのに必要な1NのNaOHの量(ml)
F’:0.1NのHSOのファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
を用いてカルボキシルメチル置換度を算出する。
(ii)カルボキシル化
上記のセルロース原料を、N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより、カルボキシル基を導入したセルロース(以下、「酸化セルロース」とも呼ぶ。)を得ることができる。
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(T以下、「TEMPO」という。)は好ましい。また、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体、あるいは4−アミノTEMPOのアミノ基をアセチル化し、適度な疎水性を付与した4−アセトアミドTEMPOは、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、好ましい。
アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で効率よくセルロース系原料を酸化でき、また、セルロース鎖の切断も起こりにくいため、好ましい。
臭化物とは臭素を含む化合物であり、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物など公知のものを使用できる。
セルロースの酸化工程は、反応温度15〜30℃程度の室温、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度、酸化反応における反応時間0.5〜6時間、例えば、0.5〜4時間程度で行うことができる。
酸化セルロースのカルボキシル基量が、セルロースの絶乾質量に対して、0.2〜2.0mmol/g以上、好ましくは1.0mmol/g〜2.0mmol/gとなるように条件を設定するとよい。
カルボキシル基量は、酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース又はセルロースナノファイバー質量〔g〕。
<アニオン変性セルロースのナノファイバー化>
前記で得たアニオン変性セルロースを含む分散液を調製し、分散液中でアニオン変性セルロースを解繊してナノファイバー化する。「ナノファイバー化する」とは、セルロースを、平均繊維幅1〜1000nm、又は2〜300nm、好ましくは2〜150nm、平均繊維長50〜5000nm、好ましくは0.1〜5μmのセルロースファイバーへと加工することを意味する。分散液とは前記アニオン変性セルロースが水等の分散媒に分散している液である。
アニオン変性セルロースを解繊して分散媒中に分散させるには、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて分散液に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、アニオン変性セルロースナノファイバーを効率よく得るには、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。この処理により、アニオン変性セルロースが解繊してアニオン変性セルロースナノファイバーが形成され、かつアニオン変性セルロースナノファイバーが分散媒中に分散する。
前記処理に供する分散液中のアニオン変性セルロース濃度は、0.1%(w/v)以上であり、1〜50%(w/v)が好ましく、1〜10%(w/v)がより好ましい。2〜10%(w/v)、または3〜10%(w/v)でもよい。
アニオン変性セルロースナノファイバー分散液は、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウムのイオン等の1価又は2価の金属イオンを含有させることにより、セルロースナノファイバー分散液の流動性を向上させたものであってもよい。
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル基を導入したセルロースを用いる場合には、ナノファイバー化を行う前に、任意にアルカリ性条件下で、pH8〜14、温度40〜120℃で0.5〜24時間加水分解(「アルカリ加水分解」)してもよい。
アルカリ加水分解により、アニオン変性セルロースをナノファイバー化する際に要するエネルギーを低減させることができる。
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル基を導入したセルロースを用いる場合には、ナノファイバー化の前に、アニオン変性セルロースを上記のアルカリ加水分解とは別の方法で任意に低粘度化処理してもよい。これにより、ナノファイバー化に要するエネルギーを低減させることができる。
上記アニオン変性セルロースの中でも、TEMPO酸化セルロースを、好適に用いることができる。
◎TEMPO酸化セルロース(TOC)
TEMPO酸化セルロースとは、パルプを、水溶性の安定ニトロキシルラジカルであるTEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル−1−オキシルの略)触媒酸化したセルロースシングルナノファイバーである。
TEMPO酸化セルロースは、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に酸化変性された、微細なセルロース繊維である。これは、上記セルロース繊維が、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料を表面酸化し微細化した繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成するが、上記ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その水酸基(セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基)の一部が酸化され、カルボキシル基に変換されているものである。
TEMPO酸化セルロースを構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
また、TEMPO酸化セルロースは、数平均繊維径が2〜150nmである。上記数平均繊維径は、好ましくは2〜100nmであり、特に好ましくは3〜80nmである。すなわち、上記数平均繊維径が上記範囲未満であると、本質的に分散媒体に溶解してしまい、逆に上記数平均繊維径が上記範囲を超えると、セルロース繊維が沈降してしまい、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができないからである。
TEMPO酸化セルロースの数平均繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、数平均繊維径を算出する。
そして、TEMPO酸化セルロースは、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性されており、それによってカルボキシル基の割合が0.6〜2.5mmol/gになっている。上記カルボキシル基の含量は、保形性能、分散安定性の点から、好ましくは1.0〜2.0mmol/gの範囲である。なお、上記カルボキシル基量が上記範囲未満であると、セルロース繊維の分散安定性に乏しく、沈降を生じる場合があり、逆に上記カルボキシル基量が上記範囲を超えると、水溶性が強くなりべたついた使用感を与える傾向がみられるようになる。
上記特定のセルロース繊維のカルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、次の式に従いカルボキシル基量を求めることができる。
カルボキシル基量 (mmol/g)=V(ml)×〔0.05/セルロース重量〕 ……(式)
なお、カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロース繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
TEMPO酸化セルロースは、繊維表面上のセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されている。このセルロース繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されているかどうかは、例えば、13C−NMRチャートにより確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmに、カルボキシル基に由来するピークが現れる。このようにして、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基に酸化されていることを確認することができる。
本実施形態における、TEMPO酸化セルロースは、TEMPOの存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであるがTEMPOの代わりに、他のN−オキシル化合物を用いてもよい。
TEMPO酸化セルロースは、例えば、(1)酸化反応工程、(2)精製工程、(3)分散工程(微細化処理工程)等を行うことにより得ることができる。以下、各工程を順に説明し、最後に、(4)他の添加剤の添加について説明する。
(1)酸化反応工程
天然セルロースと、TEMPOとを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にセルロース水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。
上記天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等をあげることができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。また、上記天然セルロースとして、単離、精製の後、乾燥させない(ネバードライ)で保存していたものを使用すると、ミクロフィブリルの集束体が膨潤しやすい状態であるため、反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができるため好ましい。
反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(天然セルロース)の充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的攪拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
また、TEMPOの代わりに、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物を含むN−オキシル化合物を用いてもよい。N−オキシル化合物は、4−アセトアミド−TEMPOを含むピペリジンニトロキシオキシラジカル等の水溶性の化合物が好ましい。TEMPO又はN−オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
上記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
目的とするカルボキシル基量を得るために、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御する。通常、反応時間は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
そして、上記反応終了後、塩酸を添加して中性(pH6.0〜8.0)に調整する。また、長期保存安定性を向上させる目的で、上記反応終了後に、水素化ホウ素ナトリウム等により還元処理を行っても良い。
(2)精製工程
つぎに、未反応の共酸化剤(次亜塩素酸等)や、各種副生成物等を除く目的で、適宜、精製を行う。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99重量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。
上記精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどのような装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維の水分散体は、絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10重量%〜50重量%の範囲にある。この後の分散工程を考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
(3)分散工程(微細化処理工程)
上記精製工程にて得られる水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、水等の分散媒体中に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたセルロース繊維の分散体を得ることができる。その後、上記セルロース繊維の分散体を乾燥することによって、TEMPO酸化セルロースを得ることができる。なお、上記セルロース繊維の分散体を乾燥することなく、分散体の状態で用いても差し支えない。
上記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に分散体を得ることができる点で好ましい。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等を用いても差し支えない。
上記セルロース繊維の分散体の乾燥法としては、例えば、分散媒体が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法等が用いられ、分散媒体が水と有機溶媒の混合溶液である場合は、ドラムドライヤーによる乾燥法、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法等が用いられる。
(4)他の添加剤の添加
また、本発明の細胞増殖促進剤は、上記特定のセルロース繊維及び分散媒体のほかに、他の成分材料として、機能性添加剤を用いることも可能である。上記機能性添加剤としては、例えば、増粘促進剤、無機塩類、有機塩類、界面活性剤、オイル類、保湿剤、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、消臭剤、香料、有機溶媒等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
増粘促進剤としては、カルボキシビニルポリマー,(メタ)アクリル酸アルキル共重合体が用いられる。(メタ)アクリル酸アルキル共重合体とは、アクリル酸アルキル共重合体あるいはメタクリル酸アルキル共重合体等を用いることができる。そして、本発明において、これらの増粘促進剤は、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
無機塩類としては、水に溶解・分散できるものが好ましく、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属と、ハロゲン化水素、硫酸、炭酸等からなる塩類があげられ、具体的には、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、(NH42SO4、Na2CO3等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
有機塩類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の水酸化物や、有機アミンと分子中に存在するカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等を中和することにより実質的に水溶性、水分散性を示す物質であるものが好ましい。
界面活性剤としては、水に溶解・分散できるものが好ましく、例えば、アルキルスルホコハク酸ソーダ,アルキルスルホン酸ソーダ,アルキル硫酸エステル塩等のスルホン酸系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル等のリン酸エステル系界面活性剤、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物,アルキルアリールフェノールのアルキレンオキサイド付加物等の非イオン系界面活性剤等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
オイル類としては、例えば、メチルポリシロキサン,シリコーンポリエーテルコポリマー等のシリコンオイル、オリーブ油,ひまし油等の植物油、動物油、ラノリン、流動パラフィン、スクワラン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
保湿剤としては、例えば、ヒアルロン酸、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、ジプロピレングリコール等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
有機微粒子としては、例えば、スチレン−ブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
無機微粒子としては、例えば、酸化チタン、シリカ化合物、カーボンブラック等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
消臭剤・香料としては、例えば、Dリモネン、デシルアルデヒド、メントン、プレゴン、オイゲノール、シンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メントール、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、植物(例えば、カタバミ、ドクダミ、ツガ、イチョウ、クロマツ、カラマツ、アカマツ、キリ、ヒイラギモクセイ、ライラック、キンモクセイ、フキ、ツワブキ、レンギョウ等)の各器官から水、親水性有機溶剤で抽出された消臭有効成分等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
有機溶媒としては、例えば、水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
また、機能性添加剤の配合量は、機能性添加剤が目的とする効果を発現するために必要な配合量で用いられる。
TEMPO酸化セルロースを含む水性分散液は、TEMPO酸化セルロースと水、さらに、必要に応じ機能性添加剤を配合し、混合処理等することにより得ることができる。
混合処理としては、例えば、真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、各種粉砕機、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー等を用いた混合処理があげられる。なお、上記混合処理は、先に述べたように常温で行うことが可能であるが、必要に応じ、加熱することも可能であり、その温度範囲は、好ましくは、5〜95℃の範囲内であり、より好ましくは10〜30℃の範囲内である。
◎セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバー(CNF)は、パルプ等のセルロースファイバー含有材料をリファイナー、グラインダー(石臼式磨砕機)、一軸又は二軸混練機(押出機)、高圧ホモジナイザー、ビーズミル等によって磨砕、叩解等の機械処理をすることによって解繊、微細化して製造される。必要に応じて、これらの解繊方法を組み合わせて処理したものであってもよい。一般的には、平均幅が数〜100nm程度、平均長さが0.5〜数μm程度のサイズの繊維状物質である。
◎キチンナノファイバー
本実施形態のキチンナノファイバーは、キチン含有生物由来の材料を少なくとも1回の脱蛋白工程及び少なくとも1回の脱灰工程に付し、次いで、解繊工程に付すことにより得られ、幅(または径)が約2nm〜約30nmの伸びきり鎖の結晶の繊維であって、生体内のキチンナノファイバーがありのままの状態で単離・抽出されたものである。水中で完全にナノ分散して透明高粘度になる性質を有する。キチンナノファイバーには、カニ等由来のα型結晶構造を有するα−キチンナノファイバー、イカ等由来のβ型結晶構造を有するβ−キチンナノファイバーの双方を含む。
キチンナノファイバーの幅(または径)は、通常は、約2nm〜約30nm、好ましくは約2nm〜約20nm、例えば、5nm〜20nmである。ここで、例えば、「キチンナノファイバーの幅(または径)は約2nm〜約20nm」とは、電子顕微鏡観察にて観察した場合に,幅(または径)が約2nm〜約20nm以下であるファイバーが全体の約50%以上、好ましくは約60%以上、さらに好ましくは約70%以上を占める状態をいう。
キチン含有生物としては、甲殻類、昆虫類またはオキアミなどが例示されるが、これらに限定されない。キチンナノファイバーの原料となるキチン含有生物由来の材料は、例えば、昆虫類の外皮、オキアミなどの殻、甲殻類の殻および外皮などが挙げられる。キチン含有生物由来の材料としては、キチン含量の多い生物、例えば、エビ、カニなどの甲殻類の殻および外皮が好ましい。
生体中のキチンナノファイバーは、その周囲および間隙に存在する蛋白および炭酸カルシウムを含むマトリクスを有しているので、脱マトリクス処理を行わなければ得ることができない。
キチンナノファイバーは、生体内のキチンナノファイバーをありのままの状態で単離・抽出することが可能である。そのため、キチンナノファイバーは、細くて均質であり、長く、繊維の分子が伸びきり鎖結晶で強度が高いものとして得ることができる。伸びきり鎖結晶とは、剛直性の高分子が伸びきった状態で規則正しく配列し、束になった繊維状の結晶のことであり、欠陥が少ないため強靭な物性を発揮することが可能である。特に、エビやカニなどの甲殻類のキチンは結晶性の高いアルファキチンであるため、エビやカニなどの甲殻類の殻を原料にして得られるキチンナノファイバーは、上記の優れた特性が顕著である。
脱蛋白により、キチンナノファイバーを囲んでマトリックスを形成している蛋白が除去される。脱蛋白処理には、アルカリ処理法、プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素法などがあるが、アルカリ処理法が好適である。アルカリ処理による脱蛋白において、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリの水溶液が好ましく用いられ、その濃度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約2〜約10%(w/v)、好ましくは約3〜約7%(w/v)、例えば約5%(w/v)である。アルカリ処理による脱蛋白の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約80℃以上、好ましくは約90℃以上、さらに好ましくはアルカリ水溶液を還流しながら行う。処理時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は数時間〜約3日間、好ましくは数時間〜約2日間行ってもよい。
脱灰により、キチンナノファイバーを囲んでいる灰分、主に炭酸カルシウムが除去される。脱灰処理には、酸処理法、エチレンジアミン4酢酸処理法などがあるが、酸処理法が好適である。酸処理による脱灰において、塩酸の水溶液が好ましく用いられ、その濃度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約4〜約12%(w/v)、好ましくは約5〜約10%(w/v)である。酸処理による脱蛋白の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約10〜約50℃、好ましくは約20〜約30℃、例えば室温であってもよい。酸処理による脱灰時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は数時間〜数日間、好ましくは約1〜約3日、例えば2日間行ってもよい。
次いで、上記工程で得られた外皮(ほとんどがキチンナノファイバーとなっている)を解繊処理し、目的のキチンナノファイバーを得る。キチンナノファイバーは乾燥すると水素結合して強固に凝集するため、キチンナノファイバー製造における各工程を、材料を常に乾燥させずに行うことが好ましい。解繊処理には、石臼式摩砕器、高圧ホモジナイザー、凍結粉砕装置などの装置を用いることができ、好ましくは石臼式磨砕機などによりグラインダー処理を行う。石臼式磨砕機などのような、より強い負荷をかけることができる装置を用いれば、カニやエビなどの殻由来のアルファキチンでも速やかに解繊することができる。その後、得られたキチンナノファイバーを水などの水性媒体に分散させてもよい。
上記のキチンナノファイバーの製造工程において、必要ならば、あるいは所望により、脱色工程を行ってもよい。脱色工程は、上記方法のいずれの段階において行ってもよいが、好ましくは、脱蛋白および脱灰処理が終わった後に行う。脱色はいずれの方法で行ってもよいが、塩素系漂白剤や酸素系漂白剤、還元系漂白剤の使用が好ましく、例えば、酢酸緩衝液などの緩衝液中約1〜約2%の次亜塩素酸ナトリウムを用いて、約70〜約90℃で数時間行ってもよい。
さらに、脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程、解繊工程および以下に説明する酸性試薬での処理を効率よく行うために、粉砕工程を行ってもよい。粉砕工程は、上記方法のいずれの段階において行ってもよいが、好ましくは、解繊工程の直前に行う。粉砕工程はいずれの方法で行ってもよいが、ホモジナイザー処理やミキサー処理などの方法が好ましく、例えば、家庭用フードプロセッサーにより行ってもよい。
上記の脱蛋白工程、脱灰処理工程、脱色工程、粉砕工程などの工程は、繰り返し、複数回、あるいは交互に行ってもよい。また、それぞれの行程は順序を問わない。
さらに、約20〜約30℃で、1時間〜約1日、酢酸等の弱酸からなる酸性試薬の水溶液に脱灰処理されたキチン含有材料を浸漬して処理することにより、キチンナノファイバーの水分散性を向上させてもよい。
◎キトサンナノファイバー
本実施形態のキトサンナノファイバーは、キチン含有生物由来の材料を、少なくとも1回の脱蛋白工程および少なくとも1回の脱灰工程および少なくとも1回の脱アセチル化工程に付し、次いで、解繊工程に付すことにより得られる。脱蛋白工程、脱灰工程、解繊工程については、キチンナノファイバーの製造工程に関して上で説明したのと同様である。なお、本実施形態において、脱蛋白工程と脱アセチル化工程を同時に行うことも可能である。さらに、既に脱蛋白工程および脱灰工程を行った市販のキチン粉末を脱アセチル化工程に付すことによって、キトサンナノファイバーを製造することも可能である。脱アセチル化方法はいくつかの方法が公知であるが、アルカリ処理法が好適である。アルカリ処理による脱アセチル化において、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムなどのアルカリの水溶液が好ましく用いられ、その濃度は、通常は約20〜約50%(w/v)、好ましくは約30〜約40%(w/v)、例えば約40%(w/v)である。アルカリ処理による脱アセチル化の温度は、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は約80℃以上、好ましくは約90℃以上、さらに好ましくはアルカリ水溶液を還流しながら行う。処理時間も、キチン含有生物由来の材料の量、キチン含有生物の種類、部位などに応じて適宜選択されうるが、通常は30分〜約3日間、好ましくは30分〜一晩行ってもよい。なお、キトサンナノファイバーは乾燥すると水素結合して強固に凝集するため、キトサンナノファイバーの製造工程を、材料を常に乾燥させずに行うことが非常に好ましい。
キトサンナノファイバーの幅(または径)は、上述したキチンナノファイバーの幅(または径)と同様である。
〔パラミロン水性分散液〕
本実施形態のパラミロン水性分散液は、(A)パラミロンと、(B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維と、(C)水を含有する分散液である。
パラミロン水性分散液におけるパラミロンの含有量は、パラミロン水性分散液全量の60重量%以下である。パラミロンの含有量が、60重量%を超えると、上記特定のセルロース繊維の存在下であっても、水性溶媒に分散しなくなるからである。
(A)成分と(B)成分との比率は、(A)/(B)=1〜200の範囲内である。
パラミロン水性分散液における(B)成分の濃度は、6.0×10−5重量%〜5.0重量%の範囲内であるとよい。(B)成分の濃度の含有量が、上記範囲内であると、パラミロンを水性液中において分散させることができると同時に、パラミロンと繊維を含む水性分散液が、細胞増殖促進効果を得ることが可能となる。
本実施形態のパラミロン水性分散液によれば、(B)成分の繊維を用いて分散させるので、水に不溶のパラミロンを、化学的な処理を施すことなく、水性溶媒に分散させることができる。
〔細胞増殖促進剤〕
本実施形態のパラミロン水性分散液は、さらに、細胞増殖を促進する機能を有することから、細胞増殖促進剤としても用いることができる。
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は、皮膚の線維芽細胞の増殖の促進や延命の作用を有する。線維芽細胞の増殖促進により、線維芽細胞によって産生される細胞外マトリックス、例えば皮膚の弾力性に寄与するコラーゲン、保湿成分であるヒアルロン酸、及びコラーゲンの線維を支え、皮膚の弾力性に寄与するエラスチンの増加が期待される。加齢に伴い、又は皮膚が紫外線及び活性酸素等に曝されると線維芽細胞が減少することが知られている。それにより、線維芽細胞によってもたらされるコラーゲン等の細胞外マトリックスも減少し、老化現象、例えば真皮の厚みの減少、皮膚のしわ及びたるみの発生、はりの消失、並びに保湿性の低下が生じる。本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤により、皮膚の線維芽細胞の増殖が促進されると、しわやたるみの防止、はりの消失の防止、及び皮膚の保湿性の向上が期待され、優れた皮膚の老化防止・改善効果が発揮される。したがって、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は、皮膚の老化防止剤又は改善剤としても用いることができる。
また、皮膚組織が損傷した場合、損傷部位から線維芽細胞が遊走・増殖し、細胞外マトリックスの合成により、損傷箇所が修復されることが知られている。本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤により、皮膚の線維芽細胞の増殖が促進されると、皮膚組織の損傷修復が促進され、治癒が早まることが期待される。したがって、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は、皮膚創傷治癒促進剤としても用いることができる。
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤の具体的な配合形態としては、上記の作用効果を得ることを目的とした皮膚外用剤、化粧品、医薬品、研究用試薬、及び飲食品等として適用することができる。これらの中で、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤は皮膚外用剤や化粧品として皮膚表面(表皮)に塗布されることが好ましい。本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤を皮膚外用剤、化粧品、及び飲食品として適用する場合は、従来品と区別するために、上記作用・効果、例えば皮膚の線維芽細胞の増殖促進、しわやたるみの防止、はりの消失の防止、皮膚の保湿性の向上、老化防止・改善、及び皮膚創傷治癒促進等の効果を得ることを目的とする旨の表示を付すことが好ましい。
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤を化粧品に適用する場合、化粧品基材に配合することにより製造することができる。化粧品の形態は、乳液状、クリーム状、粉末状などのいずれであってもよい。このような化粧品を肌に適用することにより、線維芽細胞増殖促進作用を得ることができる。化粧品基剤は、一般に化粧品に共通して配合されるものであって、例えば、油分、精製水及びアルコールを主要成分として、界面活性剤、保湿剤、酸化防止剤、増粘剤、抗脂漏剤、血行促進剤、美白剤、pH調整剤、色素顔料、防腐剤及び香料から選択される少なくとも一種が適宜配合される。
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤を飲食品に適用する場合、線維芽細胞増殖促進剤を飲食品そのものとして、又は種々の食品素材又は飲料品素材に配合して使用することができる。飲食品の形態としては、特に限定されず、液状、粉末状、ゲル状、固形状のいずれであってもよく、また剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤のいずれであってもよい。その中でも、吸湿性が抑えられることから、カプセル剤であることが好ましい。前記飲食品としては、その他の成分としてゲル化剤含有食品、糖類、香料、甘味料、油脂、基材、賦形剤、食品添加剤、副素材、増量剤等を適宜配合してもよい。
本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤を医薬用素材又は医薬品として使用する場合は、皮膚への塗布、服用(経口摂取)により投与する場合の他、皮下注射、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。また、本実施形態の線維芽細胞増殖促進剤を線維芽細胞増殖促進用の試薬の形態で実験用・研究用試薬として適用してもよい。線維芽細胞が関係する生理作用のメカニズムの解明又は各種症状の治療法等の研究・開発等の分野において、好適に用いられる。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
〔試験1:パラミロン水性分散液の物性試験:パラミロンとTOCの分散液〕
本発明のパラミロン水性分散液として、実施例1〜9を調製し、各実施例のパラミロン水性分散液の対比例として、比較例1〜3を調整した。
(実施例1〜3:パラミロンとTOCの分散液)
(A)成分のパラミロン((株)ユーグレナ製)10重量%と、(B)成分の、下記合成例に基づいて合成したTEMPO酸化セルロース(TOC)水性分散液に含まれるTEMPO酸化セルロース(TOC)0.2重量%,0.5重量%又は1.0重量%と、(C)成分の水を89.8重量%,89.5重量%又は89.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、実施例1〜3のパラミロン水性分散液を調製した。
合成例:
針葉樹パルプ2gに、水150mlと、臭化ナトリウム0.25gと、TEMPOを0.025gとを加え、充分撹拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が6.5mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加してpHを7.0に調整し、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。このセルロース繊維を、固形分濃度が2重量%となるように純水で希釈し、超高圧ホモジナイザーで処理し、セルロース繊維の水性分散液を得た。数平均繊維径が6nmであった。
(実施例4,5:パラミロンとCNFの分散液)
針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)50gを水4950gに分散させ、パルプ濃度1重量%の分散液を調整した。この分散液をセレンディピターMKCA6−3(増幸産業(株)製)で30回処理し、セルロースナノファイバー(CNF)を得た。得られたCNFの繊維径の平均値は70nmであった。
このCNFを(B)成分として用い、(A)成分のパラミロン((株)ユーグレナ製)10重量%と、(B)成分のCNFを0.5重量%又は1.0重量%と、(C)成分の水を89.5重量%又は89.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、実施例4,5のパラミロン水性分散液を調整した。
(実施例6,7:パラミロンとキチンNFの分散液)
市販キチンの水分散体を調整し、100〜245MPaの超高圧に加圧し、微細なオリフィスノズル(φ0.1〜0.8mm)から高圧で噴射して製造された(株)スギノマシン製BiNFi−s(ビンフィス)(登録商標)SFo−20002を、(B)成分のキチンナノファイバー(キチンNF)として用い、(A)成分のパラミロン((株)ユーグレナ製)10重量%と、(B)成分のキチンNFを0.5重量%又は1.0重量%と、(C)成分の水を89.5重量%又は89.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、実施例6,7のパラミロン水性分散液を調整した。
(実施例8:パラミロンとキトサンNFの分散液)
市販キトサンの水分散体を調整し、100〜245MPaの超高圧に加圧し、微細なオリフィスノズル(φ0.1〜0.8mm)から高圧で噴射して製造された(株)スギノマシン製BiNFi−s(ビンフィス)(登録商標)EFo−08002を、(B)成分のキトサンナノファイバー(キトサンNF)として用い、(A)成分のパラミロン((株)ユーグレナ製)10重量%と、(B)成分のキトサンNFを0.5重量%又は1.0重量%と、(C)成分の水を89.5重量%又は89.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、実施例8のパラミロン水性分散液を調整した。
(実施例9:パラミロンと低置換度CMCNFの分散液)
撹拌機に、パルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で18g加え、パルプ固形分濃度が15重量%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを117g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりの置換度0.05のアニオン変性されたセルロースを得た。その後、アニオン変性されたセルロースに水を添加して固形分濃度5重量%とし、高圧ホモジナイザーにより20℃、140MPaの圧力で5回処理し、数平均繊維径30nmのセルロース繊維の分散液を、低置換度カルボキシメチルセルロースナノファイバー(CMCNF)の分散液として得た。
この分散液中の低置換度CMCNFを(B)成分として用い、(A)成分のパラミロン((株)ユーグレナ製)10重量%と、調整した分散液中の(B)成分低置換度CMCNFを0.5重量%又は1.0重量%と、(C)成分の水を89.5重量%又は89.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、実施例9のパラミロン水性分散液を調整した。
(比較例1〜3)
比較例1〜3には、(B)成分の代わりに、それぞれ、キサンタンガム(KELTROL CG−T),カルボキシメチルセルロース(CMC),ポリビニルピロリドン(PVP)を用い、これらの成分を1.0重量%と、(A)成分のパラミロン((株)ユーグレナ製)10重量%と、(C)成分の水を89.0重量%をそれぞれ含む混合液を調整した。ホモディスパーを用いて回転数3000rpm、25℃で5分間攪拌し、比較例1〜3のパラミロン水性分散液を調整した。
比較例1〜3において(B)成分の代わりにキサンタンガムは、化粧品によく利用される分散剤である。また、CMC(カルボキシメチルセルロース)は、各(B)成分の類似化合物である。PVP(ポリビニルピロリドン)はよく利用される合成系の増粘剤である。
(評価試験)
調製した実施例1〜9及び比較例1〜3について、分散性,分散安定性,べたつき感の試験を行った。
分散性の試験では、実施例1〜9及び比較例1〜3のパラミロン水性分散液を調整後、25℃で5分間放置し、分散状態を評価した。分散状態は下記式で分散度を計算し、分散度が100である場合「○」、80以上である場合「△」、80未満である場合「×」と評価した。
分散度[%]=パラミロンが分散している部分の高さ/液全体の高さ×100 … 式
分散安定性の試験では、実施例1〜9及び比較例1〜3のパラミロン水性分散液を調整後、50℃の密閉された環境で1週間放置し、分散状態を評価した。分散状態は下記式で分散度を計算し、分散度が100である場合「○」、80以上である場合「△」、80未満である場合「×」と評価した。
分散度[%]=パラミロンが分散している部分の高さ/液全体の高さ×100 … 式
べたつき感の試験では、実施例1〜9及び比較例1〜3のパラミロン水性分散液を調整後、無作為に抽出した10人の上腕に塗布した。評価は、(A)べたつきなし、(B)べたつく、(C)非常にべたつくの3段階で行い、(A)が8人以上を◎、5〜7人を○、2〜4人を△、1人以下を×とした。
(結果)
実施例1〜9及び比較例1〜3についての分散性,分散安定性及びべたつき感の試験結果を、表1に示す。
Figure 2017155195
表1の結果の通り、比較例1〜3のパラミロン水性分散液では、分散性,分散安定性及びべたつき感の評価項目のうち少なくとも一つにおいて、実施例1〜9のパラミロン水性分散液では、分散性,分散安定性及びべたつき感について、いずれも良好な結果が得られた。
〔試験2:パラミロン水性分散液の細胞増殖促進効果確認試験〕
本発明のパラミロン水性分散液の一実施例として、(A)成分に(株)ユーグレナ製のパラミロン、(B)成分にアニオン変性セルロースナノファイバーの一例のTEMPO酸化セルロース(TOC)水性分散液10重量%希釈溶液を用いたパラミロン水性分散液を使用し、パラミロン水性分散液の線維芽細胞増殖促進作用を試験した。
TEMPO酸化セルロース(TOC)水性分散液10重量%希釈溶液は、本発明の実施例に係るTEMPO酸化セルロース0.2重量%と、水からなる分散体である。
まず、対数増殖期にあるヒト正常皮膚線維芽細胞(DSファーマ製,Cell System−Fb Cells)を、96ウェルプレートにウェルあたり2,000セルとなるよう0.5%ウシ胎児血清(FBS),ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)に懸濁して播種し、1日培養した。
パラミロン水性分散液(TEMPO酸化セルロース(TOC)水性分散液10重量%及びパラミロン5重量%溶液)を、それぞれ、0.03125重量%(セルロース繊維濃度6.25×10−5重量%,パラミロン1.56×10−3重量%),0.0625重量%(セルロース繊維濃度1.25×10−4重量%,パラミロン3.13×10−3重量%),0.125重量%(セルロース繊維濃度2.5×10−4重量%,パラミロン6.25×10−3重量%),0.25重量%(セルロース繊維濃度5.0×10−4重量%,パラミロン1.25×10−2重量%),0.5重量%(セルロース繊維濃度1.0×10−3重量%,パラミロン2.5×10−2重量%)濃度になるように0.5%FBS,DMEMで希釈して各ウェルに添加した。また、ポジティブコントロール(PC)に、セルロースナノファイバーを添加せず、10%FBS,DMEMとなるよう、FBS,DMEMを添加した。ネガティブコントロール(NC)は、セルロースナノファイバーを添加せず、0.5%FBS,DMEMとなるようにした。これらのサンプルについて、更に培養を行った。
パラミロン水性分散液添加前,添加後1日培養後,2日培養後,3日培養後に、水溶性テトラゾリウム塩WST−8を発色試薬として用いた細胞増殖測定用発色試薬CCK−8((株)同仁化学研究所)をDMEMで20倍希釈し、100μL/wellずつ添加し、2時間呈色反応を行い、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。ポジティブコントロール(PC),ネガティブコントロール(NC)も、同様に450nmの吸光度を測定した。
結果を、図1及び図2に示す。
図1は、培養0日目(パラミロン水性分散液添加前)の細胞数を100として、培養1,2,3日後の各サンプルの細胞数の増加率を示すグラフである。図2は、培養3日後の各サンプルの細胞数を示すグラフであって、ネガティブコントロール(NC)の3日目の細胞数を、100%とした割合を示している。
図1,2の結果より、TEMPO酸化セルロース(TOC)水性分散液10重量%希釈溶液の濃度が0.03125重量%(セルロース繊維濃度6.25×10−5重量%,パラミロン1.56×10−3重量%)以上のときに、細胞の増殖が促進されていた。
また、パラミロン水性分散液濃度0重量%〜16重量%のサンプルは、濃度が上昇するに従って白濁していたが、すべてのサンプルにおいて、沈殿はなく、パラミロンが液中に分散していた。
〔対照試験1〕
試験2のパラミロン水性分散液の細胞増殖促進効果を確認するための対照試験として、TEMPO酸化セルロース(TOC)を含まない対比例のパラミロン液を用いて、試験2と同様の手順で実験をおこなった。
本対照試験1では、試験2のパラミロン水性分散液の代わりに、全量に対して5重量%のパラミロンを含むよう、水にパラミロンを添加した対比例のパラミロン混合水を用いたことを除いては、試験2と同様の手順とした。
結果を、図3及び図4に示す。
図3は、培養0日目(パラミロン混合液添加前)の細胞数を100として、培養1,2,3日後の各サンプルの細胞数の増加率を示すグラフである。図4は、培養3日後の各サンプルの細胞数を示すグラフであって、ネガティブコントロール(NC)の3日目の細胞数を、100%としている。
図3,図4の結果より、試験2で見られたような顕著な細胞増殖の促進効果は見られなかった。
また、濃度0.03125重量%〜16重量%の各パラミロン混合液は、パラミロンが水中に分散しておらず、撹拌を止めるとパラミロンが沈殿した。
以上の試験2及び対照試験1の結果より、水性液中にパラミロンだけでなくセルロース繊維を添加することにより、パラミロンが水性液中に分散し、更に、細胞増殖促進効果が得られることが分かった。

Claims (7)

  1. 少なくとも下記の(A)〜(C)成分を含有することを特徴とするパラミロン水性分散液。
    (A)パラミロン。
    (B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維。
    (C)水。
  2. 前記(A)成分と前記(B)成分との比率が、(A)/(B)=1〜200である、請求項1に記載のパラミロン水性分散液。
  3. 前記パラミロン水性分散液中の前記(B)成分の濃度が、6.0×10−5重量%〜5.0重量%である、請求項1又は2記載のパラミロン水性分散液。
  4. 前記(B)成分がアニオン変性セルロースナノファイバーである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のパラミロン水性分散液。
  5. 少なくとも下記の(A)〜(C)成分を含有するパラミロン水性分散液からなることを特徴とする細胞増殖促進剤。
    (A)パラミロン。
    (B)アニオン変性セルロースナノファイバー、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、およびキトサンナノファイバーから選ばれる一種以上の繊維。
    (C)水。
  6. 線維芽細胞の増殖促進剤として用いられる、請求項5記載の細胞増殖促進剤。
  7. 皮膚創傷治癒促進剤,皮膚外用剤,化粧品,皮膚の老化防止剤又は皮膚の老化改善剤として用いられる、請求項5又は6記載の細胞増殖促進剤。
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