JP2020066658A - 硫酸エステル化セルロースナノファイバー及びその乾燥物 - Google Patents

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Abstract

【課題】硫酸エステル化セルロースナノファイバーとキトサン(B)及び/又はアミン(C)を複合して硫酸CNFヒドロゲルの提供。【解決手段】本発明の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲルは、表面の水酸基の一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)を架橋剤で架橋したヒドロゲルであって、前記架橋剤は、キトサン(B)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)であることを特徴とする。【選択図】 図1

Description

本発明は、硫酸エステル化セルロースナノファイバー(以下、「硫酸CNF」と略称する場合がある。また、「セルロースナノファイバー」を「CNF」と略称する場合がある。)に由来するハイドロゲル、その製造方法及びその乾燥物に関する。本発明のハイドロゲルは、保湿、保水、抗菌、抗ウイルス、創傷ケア、ドラッグデリバリー、ヘルスケア等を求められる用途に好適に使用できる。
ヒドロゲルは、親水性高分子鎖間が物理的又は化学的に架橋された三次元ネットワーク構造を持つ高分子マトリックスに水や保湿剤等を含むものである。架橋点の数や部位によってヒドロゲルの物性が大きく変化する。
ヒドロゲルの用途としては、衛生用品・化粧品、創傷ケア、人工筋肉、人工軟骨、ドラッグデリバリー、再生医療、生体機能チップの培養、農業・食品、法医学・研究、ヘルスケア等の用途が挙げられる。多糖類を使ったヒドロゲルは、特に、食品、化粧品、薬物送達、組織工学に至るまで、数多くの用途に有用である。
しかし、ヒドロゲルの決定的な弱点は、乏しい力学強度である。特に一般電解質ゲルは指で触るだけで容易く壊れてしまうほど脆く,負荷がかかる応用にはまったく使用できないため、その応用範囲が大きく制限されている。特に人工筋肉や軟骨等再生医療の場合、ゲルの強度問題を解決しなければならない。
また、医療材とした場合、もう一つ課題は生体安全性問題である。また、創傷被覆材とした場合、抗菌性と抗ウイルス活性及び生分解性を併せ持つことも求められている。
しかしながら、現在利用可能な超吸収性高分子ヒドロゲルは、ほとんど専らアクリル系の製品であり、それ故に生物分解性ではない。環境保護問題における興味が高まっていることを考慮すると、近年にわたり、従来の超吸収性ポリアクリル類の特性と同様の特性を有する、生分解性重合体に基づく超吸収性材料の開発に膨大な興味が注がれてきた。
多糖の物理的ゲル化は、親溶媒性相互作用と疎溶媒性相互作用のバランスを保つことで実現できる。高分子鎖の再構成は、単純なヒドロゲル集合体を形成する処理手段の1つである溶媒交換によって実現できる。従来技術では、キトサンヒドロゲル、セルロースナノファイバーゲル、CMCゲル、HPCゲル、MCゲル等が挙げられる。しかし、これらのセルロース誘導体に由来するヒドロゲルの三次元ネットワーク構造が物理的作用により形成されるため、ヒドロゲルが弱い。さらに、吸水率も低い。
例えば、1990年には、AnbergenおよびOppermann(非特許文献1)は、完全にセルロース誘導体から作られた超吸収性材料の合成のための方法を提唱した。具体的には、彼らはヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMCNa)を用い、ジビニルスルホンで塩基性溶液中にて化学的に架橋した。しかしながら、このような材料の吸収特性は、アクリル系の超吸収性材料のそれと比較して高くはない。
また、非特許文献2に記載されたアクリル酸系変性された超吸水性デンプン誘導体およびセルロース誘導体は、吸水率が高いものの、生物安全性が配慮されている。
また、特許文献1は、水溶性硫酸セルロースにカリウム塩又はナトリウム塩を加え、加熱冷却して得られる硫酸セルロースゲルであり、強度、弾力性がそれほど大きいものではなく、かつ離水現象をも呈するので、殆どの用途に対しては不充分なものである。同じ特許文献1では、これらの問題を改良するために、水溶性硫酸セルロースとアルカリ金属塩の水溶液に別種の水溶性高分子を添加して熱可逆性ゲルを生成させる方法を発明したが、第2水溶性ポリマーを添加することが必要であり、得られるゲルの保水率(35倍以下)や強度は低く、且つ時間が経過すると離水現象が発生し、保水率はさらに低下する問題がある。また、熱可逆性ゲルであるため、ゲルを温めると再び水溶液に戻る。
特開昭57−206344号公報
Anbergen U,Opperman W,Polymer,31,1854(1990) 有機合成化学第38巻第6号(1980)、pp546−554
本発明は、硫酸エステル化セルロースナノファイバーとキトサン(B)又はアミン(C)を複合して硫酸CNFヒドロゲルを提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、表面の水酸基が一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)とキトサン(B)又はアミン(C))が複合化ヒドロゲルを形成することができることを見出し以下の発明を完成させた。
〔1〕 表面の水酸基の一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)を架橋剤で架橋したヒドロゲルであって、前記架橋剤は、キトサン(B)、及び/又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)であることを特徴とする硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
〔2〕 前記硫酸エステル化セルロースナノファイバーが、平均直径1〜20nmであり、平均長さ0.5〜10μmであり、I型結晶構造を有し、セルロースの構成単位である無水グルカン1つあたり硫酸エステル基が0.05〜1.0の硫酸エステル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする前記〔1〕に記載の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
〔3〕 前記キトサン(B)が、SP値10以上の溶媒に溶けることを特徴とする前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
〔4〕 前記硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)と前記架橋剤の比率は、前記架橋剤がキトサン(B)の場合、前記硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)とキトサン(B)の重量比で98/2〜40/60であり、アミン(C)の場合、前記硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)とアミン(C)の重量比で99.5/0.5〜90/10であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
〔5〕 表面の水酸基の一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)又はその塩(A塩)の分散液(A’)と、キトサン(B)又はその溶液(B’)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)又はその溶液(C’)を溶液中で混合又は接触させることを特徴とする硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲルの製造方法。
〔6〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載した硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲルを乾燥して得られる複合材。
硫酸CNFを出発試料として用いたヒドロゲルの特性は、従来多糖類ヒドロゲルと比べ以下の4点が挙げられる。(1)硫酸エステル化修飾されることにより吸水率が高い、(2)硫酸陰イオンとキトサン(B)又はアミン(C)のアミノ基とイオン結合により架橋した3次元ネートワークが強いため、得られるヒドロゲルはカルボン酸や水酸基と比べ、強度が大幅向上する。(3)カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等のセルロース誘導体と異なり、セルロースナノファイバー状であるため得られたヒドロゲルはもっと強い、且つ耐水性が高い。(4)本発明者は本発明の硫酸CNFの抗ウイルス活性(例えば、ファージ、インフルエンザウイルス,ノロウイルス)とヒアルロニダーゼ阻害活性等の生物活性を確認した。そのため、本発明のヒドロゲルについても同様の生物活性も期待できる。
また、硫酸CNFは無修飾CNFやTEMPO酸化CNFと比べ、硫酸エステル基の吸水率又は保水率が高く、生物活性を持つため、化粧品や医療材等への適用が期待できる。
さらに、硫酸CNFとキトサン又はアミンの配合比を制御することにより吸水率や物性を用途に応じて制御できる。
硫酸CNFヒドロゲルのイメージ図 ヒドロゲル乾燥物のIRスペクトル 実施例1と3で得られたヒドロゲルの写真(左:実施例1;右:実施例3)
本発明の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲルは、表面の水酸基の一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)を架橋剤で架橋した三次元ネットワーク構造を有する。架橋剤は、キトサン(B)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)であることを特徴とする。
なお、架橋剤としてのキトサン(B)及びアミン(C)は、単独で用いるのが好ましいが、両者を混合して用いることもできる。
硫酸エステル化セルロースナノファイバーを架橋剤で架橋反応すると、硫酸エステル基は架橋剤のアミノ基とイオン結合を形成し、三次元ネットワークを形成する。架橋密度を制御するには、硫酸CNFの表面の硫酸エステル基のモル数と架橋剤のモル比により決められる。
硫酸CNFを架橋剤で架橋したヒドロゲルのイメージを図1に示す。
キトサン(B)とアミン(C)等の架橋剤の種類について特に限定しないが、架橋剤の構造は架橋密度、さらにヒドロゲルの吸水率、安全性、生物活性等に影響を与えるため、用途により適切に選定すればよい。その中で、キトサンは抗菌性と生理活性が認められ、安全性が高いため特に好ましい。
本発明に用いる硫酸エステル化セルロースナノファイバー(硫酸CNF)は、これまで知られていない新規の修飾セルロースナノファイバーである。平均繊維径が1nm〜20nmであり、天然セルロース固有のI型結晶構造を有し、かつ、セルロースナノファイバー表面の水酸基が硫酸エステル化修飾されている。
本発明に用いる硫酸CNFは、天然セルロース固有のI型結晶構造を持つため、水に不溶であり、かつ、高い粘度とチキソトロピー性及び高い機械強度を有する。また、この硫酸CNFは、親水性又は吸水性が高いため、乾燥して粉状になっても容易に再分散することができ、取扱い性にすぐれる。そのため、硫酸CNFをベースとしたヒドロゲルは、化粧材、創傷被覆材、人工軟骨等に最適である。
一方、コンドロイチンを代表とした天然硫酸エステル化多糖類やセルロース等の多糖類を出発試料とした人口合成の硫酸エステル化多糖も良く知られているが、I型結晶構造を持たず、水に溶解するため取り扱い性は悪い、かつ耐久性と機械強度が低いため、好ましくない。
セルロースナノファイバー(CNF)の表面水酸基の硫酸エステル化修飾率については、特に制限しないが、CNFの硫黄含有率を尺度として評価する場合は、0.03重量%〜35重量%、平均置換度を尺度とした場合、セルロースの構成単位である無水グルカン1つあたり硫酸エステル基が0.05〜1.0であれば良い。より好ましくは0.1〜0.8、最も好ましくは0.15〜0.6である。0.05以下になると、吸水性が低く、生物活性が殆ど発見できないため好ましくない。一方、1.0以上になるとI型結晶構造を失う恐れがあるため好ましくない。
硫酸CNFは、繊維径が小さいほど、表面積が大きいため、吸水率、生物活性と透明性が高くなるため、好ましい。しかし、平均繊維径が1nmより低くなるとI型結晶構造を失う恐れがあるため好ましくない。また、20nmより大きくなると表面積が小さくなるため好ましくない。
繊維長は、長いほど、三次元ネットワークが強くなるため好ましい。平均繊維長は0.5μm以下になると得られたヒドロゲルが弱いため好ましくない。好ましくは0.5〜10μmである。よく好ましくは0.8〜8μm。長すぎると取扱が難しくなるため最も好ましくは1.0〜5μmである。
I型結晶構造を持つ硫酸CNFが好ましい。I型結晶構造の比率(結晶化度)が高くなる程、得られたヒドロゲルの強度と安定性が高くなるため好ましい。I型結晶構造を待たない硫酸CNFは、水に溶解するため、取扱い性が悪くなったり、得られたヒドロゲルの物性が大幅に低下したりする恐れがあるため好ましくない。
コトンパルプや木材パルプを原料として調製した硫酸CNFの結晶化度は、実質上90%を超えることが難しいため、20〜90%が好ましい。より好ましくは30〜85%。最も好ましくは40〜80%である。なお、ここの結晶化度はXRDにより測定したものと言う。
本発明に用いる硫酸CNFは、本発明者がPCT出願済みのWO2018/131721号に記載の方法で製造することができる。
本発明に用いる硫酸CNFは、高い吸水・保水率、チキソロトピー性、粘度、機械物性を持ち、生体に優しい、更に、抗ウイルス等の様々な生物活性が認められたため、医療材や化粧料としての利用価値が期待されている。
本発明に用いる架橋剤は、キトサン(B)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)である。
本発明に用いるキトサン(B)は、特に制限しないが、SP値10以上の溶媒に溶解することが好ましい。
キトサンは、キチン骨格中の2位の炭素上のアセトアミド基を脱アセチル化し、遊離の第一級アミノ基に変換することにより得られたものである。通常、キチンのキトサンへの変換(脱アセチル反応)は完全には進まず、糖鎖上に一部 N−アセチルグルコサミンを含むことが多い。脱アセチル化の割合 又はアミノ基の比率が高いほど、キトサンの溶解性が高くなる。脱アセチル化の割合が低すぎると、キトサンの溶解性が低くなるため取り扱い性が悪くなり、得られたヒドロゲルの架橋密度や抗菌性が低下する恐れがあるため好ましくない。本発明に用いるキトサンの脱アセチル化の割合は60%以上が好ましい。より好ましくは70%、最も好ましくは80%である。
キトサンを構成するグルコサミンの重合度については、特に制限しない。例えば、2〜2000が好ましい。より好ましくは5〜1500、さらに好ましくは6〜1000である。最も好ましくは6〜500である。重合度が2以上になると一分子当たりアミノ基の数は2つ以上があるため三次元ネットワークが形成できる。しかし、重合度が低いほど、キトサンのアミノ基が硫酸CNFの硫酸エステル基との接触率又は反応率が減少し、ヒドロゲルの架橋密度が低下したり、フリーなキトサン分子が残留したりする恐れがあるため好ましくない。一方、重合度が高すぎるとキトサンの溶解性が低下する恐れがあるため好ましくない。溶解性の面からは、重合度は、800以下が好ましく、500以下が特に好ましい。
一方、キトサンの生理活性が求める場合、生理活性の高い6量体〜15量体が最も好ましい。よって、より好ましくは重合度3〜1000である。最も好ましくは6〜500のキトサンである。
キトサンを溶解する溶媒としては、より好ましくは、SP値11以上の溶媒が好ましい。特にDMAc、DMF、DMSO、メタノール、エタノール、IPA、水等のプロトン性溶媒に溶けることが好ましい。キトサンの溶解性はそのアミノ基とアセチルアミド基のモル比とキトサンの重合度に影響される。アミノ基の比率が高くなる程、溶解性が高くなるため好ましい。
架橋剤として本発明に用いるアミン(C)は、ジアミン、トリアミン及びポリアミンであれば良く、特に限定しないが、例えばジアミンの場合、エチレンジアミン(2炭素)、プトレシン(4炭素)、カダベリン(5炭素)、ヘキサメチレンジアミン(6炭素)などの直鎖ジアミン、又は、エタンブトールやフェニレンジアミンが挙げられ、トリアミンの場合メラミンと1,2,3―プロパントリアミンが挙げられ、ポリアミンの場合は、スペルミンとスペルミジンが挙げられる。その中でも、ヒドロゲルの強度の点から、トリアミンとポリアミンが特に好ましい。
硫酸CNFと架橋剤の比率については、基本的には、架橋剤の一分子当たり2つ以上のアミノ基が硫酸CNFの硫酸エステル基と反応して三次元ネットワークを形成することにより、ヒドロゲルの形成ができる比率であればよい。
そして、ヒドロゲルの吸水率と生物活性(抗ウイルス性など)の面からは、硫酸CNFと架橋剤の比率は、硫酸CNFの比率が大きいほど好ましい。一方、ヒドロゲルの抗菌性の面からは、架橋剤の比率が大きいほど好ましい。これらの性能をバランスよく持つヒドロゲルを調製するため、硫酸CNFと架橋剤の比率を適切に調整すれば良い。例えば、キトサンを架橋剤とした場合、硫酸CNFと架橋剤の重量比は98/2〜40/60が好ましい。より好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは90/10〜60/40である。一方、架橋剤はアミンの場合、アミノ基の当量が小さいことと一分子あたりアミノ基の数が少ないため、硫酸化CNFと架橋剤の重量比は99.5/0.5〜90/10であることが好ましい。より好ましくは99/1〜92/8、最も好ましくは98/2〜95/5である。
上記重量比の範囲から外れる硫酸CNF又は架橋剤が過剰になる範囲では、ゲル化できなくなったり、ゲル化速度が遅くなったりする。また、生成したヒドロゲルの架橋密度が低くなってしまう。そのため、ゲルの強度と弾力性が低下して好ましくない。
また、架橋剤が過剰になると、ヒドロゲル中に未反応のアミノ基として残存する割合が高くなり、上記問題点に加えて、ゲルの着色度合いが増すという問題も生じる。
架橋剤の割合が硫酸CNFに比べて多くなり、硫酸エステル基と架橋剤のアミノ基のモル比が1を超える場合、即ち、硫酸エステル基の数がアミノ基より多い場合、ヒドロゲル中の前記硫酸CNFの硫酸エステル基の一部は、酸型(−SOH)のままで、残存することになる。
ヒドロゲル中の前記硫酸CNFの硫酸エステル基は、酸型(−SOH)のままでも良いが、フリーの硫酸エステル基を塩型(−SOM、Mは1価の陽イオン)に変化させても良い。例えば、一部の硫酸エステル基の対イオンをK+、Na+、Li+等のアルカリ金属イオンやアンモニウムイオン(有機アンモニウムイオンを含む。以下も同じ。)に変えればよく、そうすることによりヒドロゲルの吸水性が高くなるため好ましい。
また、硫酸エステル基が残存する場合は、酸型の硫酸エステル基を有するヒドロゲルが、酸性のために劣化しやすいので、塩に変換することが好ましい。
、Na、Li等のアルカリ金属イオンやアンモニウムイオンの塩型硫酸エステル基の比率が多いほど、得られたヒドロゲルは柔らかくなり、柔軟性と吸水率が高くなる。逆に、少ない程、得られたヒドロゲルの架橋密度と強度が高くなる。その代わりに吸水率が低くなる。即ち、用途に応じて、塩型と酸型の比率を適切に制御すれば良い。
前記塩型が有機アンモニウムイオンの場合、塩基性の観点から一級アミンと2級アミンがより好ましい。さらに、親水性の面から、アミンのアルキル基の炭素数が6以下が好ましい、さらに好ましくは4以下である。アミンを対イオンとすると、得られるヒドロゲルは電解質に対し安定である。一方、アミン対イオンの比率が多いほど、親水性が低くなるので好ましくない。硫酸CNFの硫酸エステル基の50%以下が好ましい。より好ましくは40%以下、更に好ましくは30%以下である。
本発明の硫酸CNFは更に、ヒアルロン酸、コラーゲン、グリセリン、ポリエチレングリコール及び尿素のいずれか1つ以上を含むことが好ましい。
これらの成分を添加することにより、それぞれが有する特性をヒドロゲルに持たせることができる。
ヒドロゲルの保湿性や生物活性を向上するためヒアルロン酸、グリセリン、ポリエチレングリコール、尿素等の群から選ばれた少なくとも一つを含むことが好ましい。
ヒアルロン酸は、血管新生および創傷治癒を促す湿潤した創傷部位の維持を促進するため、創傷被覆材として最も好ましい。
本発明の硫酸CNFは、更に、セラミックス粒子及び/又はハイドロキシアパタイト粒子を含むことが好ましい。
ヒドロゲルは人口軟骨などの再生医療に応用する場合、無機粒子を含むことが好ましい。これらの無機粒子を含むことによりヒドロゲルの強度、硬さや耐久性を改善することができる。
次に、本発明の硫酸CNFヒドロゲルの製造方法。について説明する。
本発明の硫酸CNFヒドロゲルは、硫酸CNF(A)又はその塩(A塩)と、キトサン(B)又はジアミン、トリアミン若しくはポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)を溶液中で混合することで製造できるが、硫酸CNF(A)又はその塩(A塩)は、分散液として用いるのが好ましい。
好ましい硫酸CNFヒドロゲルの製造方法としては、硫酸CNF(A)又はその塩(A塩)の分散液(A’)と、キトサン(B)又はその溶液(B’)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)又はその溶液(C’)を溶液中で混合又は接触させることにより製造することができる。
架橋剤を溶液として用いる方が、得られたヒドロゲルの均一性等の品質が良く、且つ、ヒドロゲルを希望の形状になるように制御できるためより好ましい。
本発明において、硫酸CNF(A)又はその塩(A塩)の分散液(A’)のいずれを用いるかについては、特に制限はない。例えば、硫酸CNFを調製した後、中和せず得られた硫酸CNF(A)は、100%の硫酸エステル基は酸型(−SOH)である。一方、硫酸CNFの塩(A塩)は、硫酸CNFを調整した後、部分中和で硫酸エステル基の一部を塩型(−SOM)に変換、または、完全中和で全ての硫酸エステル基を塩型(−SOM)に変換方法により得ることができる。
硫酸CNFの塩(A塩)を使用しても、硫酸CNFの塩は、架橋剤と混合する際に、硫酸エステル塩基の対イオンはアミノ基に置換され、アミン硫酸塩が形成される。元の対イオンは変換され、例えば、ナトリウムの場合は水酸化ナトリウムに変換され、得られるヒドロゲルを洗浄する際に除かれる。
前記硫酸CNFの塩(A塩)は、硫酸CNFの硫酸エステル基の全てが塩を形成しているものだけではなく、硫酸エステル基の一部が塩になっているものも含む。
硫酸CNF又はその塩の分散液の作製について特に制限はない。例えば、WO2018/131721号に記載の方法と同様に、硫酸CNF又はその塩を蒸留水に分散させて、ミキサーで数分攪拌することにより分散液が得られる。硫酸CNF又はその塩は乾燥した粉末で入手される場合、粉末を水等の分散媒に分散させてから利用することもできる。
硫酸CNF(A)又はその塩(A塩)を分散させる分散液としては、架橋剤を溶解できる水、メタノール、エタノール、SP値11以上のセロソルブ類、ジメチルスルホキシド等を例示することができ、その中でも水、エタノールとジメチルスルホキシドが好ましい。
硫酸CNF又はその塩の分散液の濃度は、特に限定しないが、0.01〜10重量%が好ましい。より好ましくは0.03〜8重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%である。濃度が低すぎるとゲル化時間が長くなったり、得られたヒドロゲルが弱くなったりするおそれがあるため好ましくない。一方、濃度が高すぎると、流動性が低くなるためヒドロゲルの形状を制御しにくくなったり、ヒドロゲルの中に気泡が含まれたりするおそれがあるため好ましくない。最も好ましくは0.06〜3重量%である。
硫酸CNF又はその塩の分散液は、その粘度が高い場合は、ドープ状になる場合があるが、ドープ状の場合を含めて分散液として以下説明する。
硫酸CNF又はその塩の分散液及び架橋剤そのものを用いる場合は、硫酸CNF又はその塩の分散液に架橋剤を加え、攪拌しながら溶解と混合することにより、硫酸CNFヒドロゲルを製造することができる。
架橋反応温度は室温〜70℃であれば良い。ゲル化時間は10分〜60分であれば良い。攪拌方法は機械攪拌又は磁性スターラーの何れも用いることができる。
この方法の特徴は、ヒドロゲルを簡単で製造できことであるが、得られたヒドロゲルは粒子状になりがちである。
硫酸CNF又はその塩の分散液及び架橋剤の溶液を用いてヒドロゲルを調製する場合、双方の溶液を撹拌、混合する方法及び双方の溶液を接触させる方法がある。
架橋剤を溶液にする溶媒としては、キトサンの場合は、水、酸性水、SP値11以上のアルコール、ジメチルスルホキシド等を例示することができ、その中でも水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシドが好ましく、アミンの場合は水、SP値11以上のアルコール、SP値11以上のセロソルブ類、ジメチルスルホキシド等を例示することができ、その中でも水、メタノールとエタノールが好ましい。
架橋剤の濃度は、特に限定しないが、低すぎるとゲル化速度が遅くなったり、得られたヒドロゲルの架橋密度が低くなったりする可能性があるため好ましくない。一方、濃度が高すぎると架橋密度の不均一性が生じたり、架橋密度が高くなったりする恐れがあるため好ましくない。0.01〜10重量%が好ましい。より好ましくは0.03〜8重量%、さらに好ましくは0.05〜6重量%、最も好ましくは0.07〜5重量%である。
双方の溶液を撹拌、混合する方法は、前記した硫酸CNF又はその塩の分散液と架橋剤を混合する条件及び方法で撹拌、混合を行えばよい。
双方の溶液を接触させる方法としては、硫酸CNF又はその塩の分散液に架橋剤の溶液を加えて、室温で静置することにより、架橋剤を硫酸CNF分散液に浸透させて硫酸CNFヒドロゲルを製造することができる。
または、架橋剤の溶液中に硫酸CNF又はその塩の分散液をノズルから注入した後、室温で静置することにより硫酸CNFヒドロゲルを製造することができる。場合により架橋剤溶液を攪拌しながら硫酸CNF分散液を注入することも可能である。攪拌することにより架橋剤の硫酸CNFへの浸透が加速する効果がある。
ゲル化時間については、特に制限しないが、ヒドロゲルの形状とサイズ、求める架橋密度により調製すれば良い。例えば、0.1〜24時間、更に、好ましくは0.2〜12時間が挙げられる。
ヒドロゲルを形成する又は架橋反応する温度は特に制限しないが、10〜60℃が好ましい。より好ましくは15〜50℃、更に好ましくは25℃〜45℃である。温度が低すぎるとキトサンやアミンの溶解性が低下し、ゲル化の途中で析出する恐れがあるため好ましくない。一方、温度が高すぎると、ヒドロゲルが変性したりする恐れがあるため好ましくない。
所定のゲル化時間が経つと得られたヒドロゲルを蒸留水で更に洗浄することにより過剰の架橋剤や架橋剤により置換された硫酸エステル基の対イオンからなるアルカリを除くことができる。
次に、硫酸CNFヒドロゲルの硫酸エステル基と架橋剤のアミノ基のモル比が1を超える場合には架橋されない硫酸エステル基が残存するが、その場合に硫酸エステル基を塩にする方法について説明する。
硫酸エスエル基を塩型にするために次の何れかを用いることができる。
一つの方法は、得られた酸型硫酸エステル基を有するヒドロゲルを所定のアルカリ溶液に浸透させることにより酸型の硫酸エステル基を塩に変換することができる。
この場合は、アルカリ溶液の濃度は0.1M以下が好ましい。さらに好ましくは0.05M、最も好ましくは0.01Mである。濃度が高すぎると架橋剤により形成されたアミノ基と硫酸エステル基の結合が切断されることにより、架橋密度が低下したり、ゲルが崩壊したりする恐れがあるため好ましくない。一方、アルカリ溶液の濃度が低すぎると硫酸エステル基の中和速度又は塩への変換速度が遅すぎるため好ましくない。
次に、最初から硫酸CNFの塩(A塩)の分散液を用いて、架橋剤のアミノ基のモル比をA塩の硫酸エステル基塩に比べて少なくして製造する方法がある。
架橋剤のアミノ基が少ないので、硫酸CNFの未反応の硫酸エステル基塩が残存する。
また、硫酸CNF(A)の分散液を架橋剤と混合する時に、中和用のアルカリを同時に共存させることにより部分中和することもできる。
本発明は、硫酸CNFの安定性とヒドロゲルの成形過程の便利さの面から、硫酸CNFを調製した後、架橋剤と混合する前に部分中和又は完全中和することが好ましい。
ヒドロゲルを乾燥することにより硫酸CNFとキトサン又はアミンの複合シートが得られ、応用の際に、必要な溶媒を吸収させてから利用できる。
用途に応じて、ノズルを選んで、複合材の形状を制御することができる。例えば、繊維状、膜状、シート状等が挙げられる。乾燥方法としては、ヒドロゲルを室温〜100℃の温度範囲内で乾燥させることにより水分を蒸発させる。乾燥温度が高すぎると得られた複合材の形状は崩れたり、割れたりする恐れがあるため好ましくない。特に好ましい温度範囲は30〜95℃、より好ましくは、40〜90℃である。乾燥は常圧又は減圧下で行うことができる。乾燥後の複合材の緻密性を求める用途であれば常圧且つ低温乾燥が好ましい。一方、多孔質状の複合材が求める場合、より高い温度且つ減圧乾燥が好ましい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例は、本発明の硫酸CNFに由来するヒドロゲル及びその製造方法の実施例である。
〔硫酸CNFの製造〕
硫酸CNFは、WO2018/131721号の実施例に記載の方法と同様にすれば製造できるが、以下に本発明に使用した硫酸CNFの製造について説明する。
用いた原料および装置の詳細は以下の通りである。
(用いたセルロース、無水酢酸、硫酸およびDMSO)
原料セルロースとして、セルロースパルプを用いた。セルロースパルプは市販木材パルプ(Georgia Pacific社製、商品名:フラッフパルプARC48000GP、含水率:9重量%)である。
原料セルロースは、解繊前にサンプル瓶に入るサイズ(1cm〜3cm角程度)まで千切った。
無水酢酸、硫酸およびDMSOはナカライテスク(株)から購入した。
(スターラー)
スターラーは小池精密機器製作所製のマイティ・スターラー(モデルHE−20G)を用いた。なお、オーバル型の強力撹拌子を用いた。
(ミキサー)
硫酸CNFを調製するため、パナソニック社製のミキサー(商品番号:MX−X701)を用いた。
(硫酸CNFの製造)
ジメチルスルホキシド(DMSO)27g、無水酢酸3g、硫酸0.4gを50mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約1分撹拌し、解繊溶液を調製した。
次いで、セルロースパルプ0.9gを加え、同じ室温でさらに120分撹拌した。撹拌後、反応物を蒸留水200mlで3回洗浄することによりDMSO、無水酢酸と残留硫酸を除き、硫酸エステル化セルロースパルプを得た。得られた硫酸エステル化パルプ(水を含む状態)と蒸留水250mlをそれぞれミキサーに入れ、5分攪拌することにより硫酸エステル化セルロースナノファイバーの水分散液を得た。固形分を秤量した結果、0.25wt%であった。硫酸エステル基の平均置換度を測定した結果、0.35であった。FT−IRの分析(図2)により周波数1250cm−1と820cm−1付近に硫酸エステルよる特徴である吸収バンドが検出された。
SEM観察の結果、硫酸CNFの平均繊維径は10nm以下で、繊維径が20nm以上のファイバーが実質的に含まれていないことが分った。また、XRDパターンが天然セルロースと同様であるため、I型の結晶構造を持つことを確認できた。結晶化度は60%であった。
得られた硫酸CNFについて以下の評価を行った。
(硫酸CNFの形状観察)
硫酸CNFの形状はFE−SEM(日本電子(株)製、製品名:「JSM−6700F」、測定条件:20mA、60秒)を用いて観察した。なお、平均繊維径は、SEM写真の画像からランダムに50個の繊維を選択し、加算平均して算出した。
(硫酸CNFの結晶化度)
得られた硫酸CNFの結晶化度は、参考文献(Textile Res. J. 29:786−794(1959))の記載に基づき、XRD分析法(Segal法)により測定し、下記式により算出した。
結晶化度(%)=[(I200−IAM)/I200]×100%
[式中、I200はX線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、IAMはアモルファス部(002面と110面間の最低部、回折角2θ=18.5°)の回折強度である]。
(硫酸CNFの硫酸エステル基の平均置換度の定量)
燃焼吸収―IC法を用いて硫黄含有率を定量した。すなわち、磁性ボードに乾燥した硫酸CNF(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させた。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液のイオンクロマトグラフィー測定結果から硫酸イオン濃度(重量%)を算出した。硫酸イオン濃度から平均置換度を換算した。分析には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、イオンクロマトグラフ ICS−1500型を用いた。なお、平均置換度は、セルロースの構成単位であるグルガン1つ当たり硫酸エステル基のモル数である。
(IRスペクトル)
乾燥した硫酸CNFをFT−IR(ATRモード)で分析し、周波数1250cm−1および820cm−1の硫酸エステル基に由来吸収バンドの有無により硫酸エステル化修飾を確認した。測定は、NICOLET社製「NICOLET MAGNA−IR760 Spectrometer」を用い、反射モードで分析した。さらに、ヒドロゲルの乾燥物の組成分析にも用いた。
〔硫酸CNFヒドロゲルの製造〕
(硫酸CNF)
前記したように製造した硫酸CNFの分散液を2等分に分けて、それぞれに所定量の水酸化ナトリウムの水溶液(濃度0.4%)を加え、硫酸エステル基の半分中和と完全中和の2種類の分散液を調製した。
(用いた架橋剤)
キトサンとして、東京化成(株)製のキトサンオリゴ糖を用いた。分子量は20,000、重合度に換算すると111程度である。水に可溶する。
アミンとして、ナカライテスク(株)社製ヘキサメチレンジアミンを用いた。
(架橋剤の水溶液の作製)
表1に示すように、所定量のキトサン又はヘキサメチレンジアミンを所定量の蒸留水に加え、スターラーにて攪拌することによりキトサン溶液を調製した。
(ヒドロゲルの調製と評価)
0.25%の硫酸CNFの水分散液をサンプル瓶に加え、液面を平らに整えた後、架橋剤溶液10gをスポイドで吸い取ってサンプル瓶の壁に沿って滴下して、室温で24時間静置し、硫酸CNF分散液に浸透させてゲル化させた。得られたゲルを回収し、蒸留水で数回洗浄することにより過剰の架橋剤を除くことにより円柱形ヒドロゲルが得られた。得られたヒドロゲルの表面水分をキムワイプ(商品名)で拭き取った後、天秤で重さを秤量し、吸水率(ヒドロゲルの重さ/硫酸CNFの重さ)の尺度として評価した。同じヒドロゲルを室温で一週間放置した後重さを再び評価し、放置前後の重量差を離水性の尺度として評価した。
(ヒドロゲルの強さ評価)
得られた円柱形のヒドロゲル(高さ約2cm、直径約2cm)の上に、200gの分銅を載せて、30秒が経つと分銅を除いて、ヒドロゲルの形状が元に戻るかを確認した。戻る場合、強度及び弾力が良好、戻れない又は崩れた場合、強度又は弾力が悪い、として評価した。
〔実施例1〜4〕、〔比較例1〜3〕
表1に示す組成を基に、前記に示したヒドロゲルの作製方法によりゲル化時間24時間で、円柱形ヒドロゲルを調製、評価した。
評価結果を表1に示す。
図3に実施例1)及び実施例3で得られたヒドロゲルの写真(左:実施例1;右:実施例3)を示す。
実施例1及び実施例2共に、ヒドロゲルを圧縮した後の形状が回復し強度及び弾力が良好なヒドロゲルを生成することができた。
さらに、実施例2と比べて架橋剤濃度が高い実施例1の方は、得られたヒドロゲルの吸水率が低く、離水率((調製後の重量−放置後の重量)/調製後の重量)が大きくなった。
また、架橋剤の濃度が低い比較例1から得られたヒドロゲルは吸水率が高いものの、荷重をかけるとゲルが崩壊することが分った。さらに、架橋剤を加えない比較例2と比較例3ではゲル化ができず、ヒドロゲルが得られなかった。
実施例3では、実施例1と同量の硫酸CNF分散液にシリカゾル0.25gを加えた以外は実施例1と同様に円柱形ヒドロゲルを調製した。なお、シリカナノ粒子の粒径は50nmであった。得られたヒドロゲルはシリカナノ粒子に起因する青白の色であった。吸水率、離水率と強度の評価結果は、実施例1と大きい差が見られなかった。
実施例4では、キトサンに代えてアミンを用いた以外は実施例1と同様にヒドロゲルを調製した。外観は実施例とほぼ同様であったが、吸水率と保水率は実施例1と比べやや低下した。
さらに、実施例1〜実施例4及び比較例1で得られたヒドロゲルを乾燥し、それぞれをFT−IRで分析した。結果は図2に示すように、実施例の場合は、周波数1730cm−1、1650cm−1、1540cm−1の吸収バンドが確認できた。一方、比較例1では周波数1730cm−1吸収バンドが殆ど検出できなかった。この結果は、実施例1から実施例4で調製したヒドロゲルは硫酸エステル基とアミノ基の間に化学結合が形成されたことを示唆した。
(ヒドロゲル乾燥物の調製と評価)
所定濃度の硫酸CNFの水分散液を透明スチロール角形ケースに加え、液面を平らに整えた後、架橋剤溶液をスポイントで吸い取ってケースの周り壁に沿って滴下した。室温で所定時間まで静置し、ゲル化させた。得られたゲルを回収し、蒸留水で数回洗浄することにより過剰の架橋剤を除くことによりシート状ヒドロゲルが得られる。シート状ヒドロゲルを50℃の送風乾燥機で5時間乾燥した後、さらに90℃で3時間乾燥することにより乾燥シートが得た。得られた乾燥シートの引張強度を強度機で評価した。
[実施例5]
実施例1と同量の硫酸CNF分散液と架橋剤溶液を用いて、シート状のヒドロゲルを調製、乾燥した。乾燥したシートの厚みは0.2mmであった。引張物性を測定した結果、強度と弾性率がそれぞれ130MPaと3600MPaの強靭なシートであることが分った。
硫酸CNFは無修飾CNFやTEMPO酸化CNFと比べ、硫酸エステル基の吸水率又は保水率が高く、生物活性を持つため、化粧品や医療材等への適用が期待できる。

Claims (6)

  1. 表面の水酸基の一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)を架橋剤で架橋したヒドロゲルであって、前記架橋剤は、キトサン(B)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)であることを特徴とする硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
  2. 前記硫酸エステル化セルロースナノファイバーが、平均直径1〜20nmであり、平均長さ0.5〜10μmであり、I型結晶構造を有し、セルロースの構成単位である無水グルカン1つあたり硫酸エステル基が0.05〜1.0の硫酸エステル化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1に記載の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
  3. 前記キトサン(B)が、SP値10以上の溶媒に溶けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
  4. 前記硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)と前記架橋剤の比率は、前記架橋剤がキトサン(B)の場合、前記硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)とキトサン(B)の重量比で98/2〜40/60であり、アミン(C)の場合、前記硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)とアミン(C)の重量比で99.5/0.5〜90/10であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲル。
  5. 表面の水酸基の一部又は全てが硫酸エステル化修飾される硫酸エステル化セルロースナノファイバー(A)又はその塩(A塩)の分散液(A’)と、キトサン(B)又はその溶液(B’)又はジアミン、トリアミン及びポリアミンの群から選ばれる少なくとも一つ以上のアミン(C)又はその溶液(C’)を溶液中で混合又は接触させることを特徴とする硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲルの製造方法。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載した硫酸エステル化セルロースナノファイバーヒドロゲルを乾燥して得られる複合材。

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