JP2017155142A - アクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置 - Google Patents

アクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置 Download PDF

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祐一 細谷
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Tatsuki Hagiwara
達希 萩原
森田 亮
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亮 森田
太田 智久
Tomohisa Ota
智久 太田
崇 南條
Takashi Nanjo
崇 南條
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Abstract

【課題】湿度変動に対する液晶表示セルの反り及びカバーガラスと液晶表示セルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善したアクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置を提供する。
【解決手段】アクリル系樹脂フィルムは、特定のメタクリレート単量体由来の繰り返し単位と、一般式(2)で表されるN−置換マレイミド単量体由来の繰り返し単位と、特定のN−置換マレイミド単量体由来の繰り返し単位とを含有するアクリル系熱可塑性樹脂を含有し、23℃における湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHである。
Figure 2017155142

【選択図】なし

Description

本発明は、アクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置に関し、より詳しくは、湿度変動に対する液晶表示パネルの反り及びカバーガラスと液晶表示パネルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善したアクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置に関する。
液晶表示装置(液晶表示パネルともいう。)の製造工程において、セルを作製する工程では、配向膜を成膜しラビング又は紫外線(UV)照射して配向処理したり、TFT基板と対向基板をシール材で貼り合わせて液晶を封入したりして、液晶セル(ガラス基板)と偏光板の貼り合わせを行う。その後、包装され各メーカーに輸送されモジュール化される場合がある。
ところで、昨今のスマートフォンやタブレットなどの中小型の表示装置の市場要求として液晶セルのガラス基板の薄型化が進んでいる。このような場合において、従来の液晶セルのガラス基板の厚さでは特に問題にならなかったモジュール化の工程におけるカバーガラスと液晶表示パネルの貼り合わせで、生産上の問題が発生するようになった。
具体的にはカバーガラスと液晶表示パネルをボンディング剤(光学性両面テープ:OCAや、光学性透明接着レジン:OCR等)を介して貼り合わせするときに、前記液晶表示パネルが反っていると気泡等が入りやすくなり、生産性が低下するという問題がある。
この問題を解析したところ、液晶セルガラス基板上に貼り付けられた偏光板が、包装を開封したあとに水分を吸うことにより膨張してしまい、液晶セルガラス基板を反らせてしまうことが分かった。
特に、液晶セルに用いられるガラス基板が薄型化されると、当該ガラス基板の薄型化に伴う剛性の低下によって、偏光板の膨張に液晶セルの剛性が耐えられず、液晶セルの反りの発生が顕著になってきている。
その対策として、湿度による偏光板の膨張する力を抑制するために、湿度によって寸法変化の小さい部材を偏光板に用いることが考えられる。すなわち、部材として、耐吸湿性や耐透湿性に優れた安定性を有する偏光板保護フィルムを用いることが有効であると考えられる。
耐吸湿性や耐透湿性に優れた安定性を有する光学フィルムとして、アクリル系樹脂フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、特許文献1に記載されているアクリル系樹脂フィルムを偏光板の部材として用いても、スマートフォンやタブレットに要求されるガラス基板の薄型化の場合、上記液晶表示パネルの反りを改善するには不十分であった。
特開2013−83907号公報
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、湿度変動に対する液晶表示パネルの反り及びカバーガラスと液晶表示セルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善したアクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、偏光板保護フィルムに特定構造のアクリル系樹脂を用い、湿度による寸法変化率を特定の範囲にすることで、液晶セルのガラス基板が薄型化された場合でも湿度変動に対する液晶表示パネルの反り及びカバーガラスと液晶表示パネルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.下記一般式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、下記一般式(2)で表されるN−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、下記一般式(3)で表されるN−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを有するアクリル系熱可塑性樹脂を含有し、23℃における湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHであることを特徴とするアクリル系樹脂フィルム。
Figure 2017155142
(式中:Rは、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6〜14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
Figure 2017155142
(式中:Rは、炭素数6〜14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基を表し、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
Figure 2017155142
(式中:Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、及び炭素数3〜12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)
2.さらに、界面活性剤及び衝撃改質剤を含有することを特徴とする第1項に記載のアクリル系樹脂フィルム。
3.第1項又は第2項に記載のアクリル系樹脂フィルムを、偏光子の少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
4.第3項に記載の偏光板を具備することを特徴とする液晶表示装置。
5.第3項に記載の偏光板の前記アクリル系樹脂フィルムが、液晶セル側に配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
6.前記液晶表示装置が液晶層と一対のガラス基板を有し、前記ガラス基板の合計の厚さが、0.075〜0.300mmの範囲内であることを特徴とする第4項又は第5項に記載の液晶表示装置。
本発明の上記手段により、湿度変動に対する液晶表示パネルの反り及びカバーガラスと液晶表示パネルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善したアクリル系樹脂フィルム、偏光板及び液晶表示装置を提供することできる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
透明な光学材料としてメタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)に代表されるメタクリル系樹脂は、透明性、表面硬度、耐候性等に優れ、成形加工性も良く、光学特性である複屈折が小さいことから、偏光板等の光学フィルム用材料として応用されてきた。
しかしながら、メタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)に代表されるメタクリル系樹脂フィルムでは、スマートフォンやタブレットに要求されている液晶セルのガラス基板の薄型化の場合、上記液晶表示パネルの反りや、カバーガラスと液晶表示パネルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善するには不十分であった。
本発明は、特定構造のアクリル系樹脂を用い、湿度変動による寸法変化率を特定の範囲にするアクリル系樹脂フィルムとすることで、当該フィルムを偏光板保護フィルムとして用いたときに湿度変動による偏光板の膨張を効果的に抑制し、液晶セルのガラス基板が薄型化された場合でも湿度変動に対する液晶表示パネルの反り及びカバーガラスと液晶表示パネルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善できるものと推察される。
さらに、上記特定のアクリル系樹脂に加えて、衝撃改質剤であるエラストマー又はゴム粒子と界面活性剤を含有させることで、前記衝撃改質剤の周りに界面活性剤が集まり会合体を形成し、形成された会合体が前記アクリル系樹脂の隙間を埋めることにより、水分子がさらに浸透しにくくなり、湿度寸法変化率を顕著に低下して、液晶表示パネルの反り及びカバーガラスを液晶表示パネルに貼合した際の気泡による表示ムラを改善することができるものと推察される。
本発明の実施の形態に係るアクリル系樹脂フィルムの製造に用いる製造装置の概略の構成を示す断面図 上記製造装置が備える第1延伸装置の詳細な構成を示す断面図 上記第1延伸装置の他の構成を示す断面図 上記第1延伸装置の上流側及び下流側のローラーの配置例を模式的に示す断面図 上記第1延伸装置の上流側及び下流側のローラーの他の配置例を模式的に示す断面図 上記第1延伸装置の上流側のローラーの他の構成例を示す断面図 本発明の液晶表示装置の構成の一例を示す模式図
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、前記一般式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、前記一般式(2)で表されるN−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、前記一般式(3)で表されるN−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを含有するアクリル系熱可塑性樹脂を含有し、23℃における湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHであることを特徴とする。この特徴は、各請求項に係る発明に共通する又は対応する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、さらに、界面活性剤及び衝撃改質剤を含有することが、衝撃改質剤の周りに界面活性剤が集まり会合体を形成し、形成された会合体が前記アクリル系樹脂の隙間を埋めることにより、水分子がさらに浸透しにくくなる観点から、好ましい。
本発明の偏光板は、本発明のアクリル系樹脂フィルムを、偏光子の少なくとも一方の面に有することが、湿度変動による膨張の小さい偏光板を提供できる。
本発明の液晶表示装置は、本発明のアクリル系樹脂フィルムを有する偏光板を具備し、当該偏光板の前記アクリル系樹脂フィルムが、液晶セル側に配置されていることが、湿度変動に対する液晶表示の反りを改善する観点から好ましく、特に前記液晶表示装置が液晶層と一対のガラス基板を有し、前記ガラス基板の合計の厚さが、0.075〜0.300mmの範囲内であることが、湿度変動に対する液晶表示パネルの反りを低減して薄膜な液晶表示装置を提供する観点から、好ましい実施態様である。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
≪本発明のアクリル系樹脂フィルムの概要≫
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、下記一般式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、下記一般式(2)で表されるN−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、下記一般式(3)で表されるN−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを含有するアクリル系熱可塑性樹脂を含有し、23℃における湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHであることを特徴とする。
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、下記に示す特定のアクリル系熱可塑性樹脂を含有し、23℃における湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHの範囲内であることによって、湿度変動に対する液晶表示パネルの反り及びカバーガラスと液晶表示パネルを貼合した時の気泡による表示ムラを改善したアクリル系樹脂フィルムを提供するものである。
前記23℃における湿度寸法変化率が5ppm/%RH未満にすることは、液晶表示パネルの反りを抑制する観点からは好ましいが、当該条件を満たすアクリル系樹脂フィルムを、使用する素材や製造条件で制御することは困難であり、製造の難易度、コストの点から現実的ではない。また、20ppm/%RHを超える場合は、本発明の効果を得ることはできないことから、本発明のアクリル系樹脂フィルムを生産性よく、かつ低コストで製造する観点と、本発明の効果発現のバランス上から、湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHの範囲内であることが必要である。好ましくは、5〜15ppm/%RHの範囲内である。
前記湿度寸法変化率を調整するには、本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂の特定の構造、本発明に係る界面活性剤及び衝撃改質剤の種類及び添加量の組み合わせ、並びに製造過程における延伸操作等によって行うことができる。
ここで本願の「湿度寸法変化率(ppm/%RH)」とは、試料を熱機械分析装置(TMAともいう。)によって各湿度に対する吸湿膨張係数を測定し、その値を用いて下記式によって算出する値をいう。下記式は、湿度0%RHと90%RHのときに湿度寸法変化率を求める式である。
熱機械分析装置は、例えば、TMA/SS6100(セイコーインスツルメンツ社製)を用いることができる。
具体的な測定法は、アクリル系樹脂フィルムの試験片を長さ20mm、幅3mmとし、試験片に対して50mNの力で張力をかけながら、23℃・0%RHから23℃・90%RHに1時間放置して、上記測定装置によって吸湿膨張係数を測定し、下記式にて算出する。
〈式〉 湿度寸法変化率(ppm/%RH)=(T−T)/(90)×10
:23℃で湿度0%RHの環境下で0.5時間放置した試料の吸湿膨張係数(%)
:23℃で湿度90%RHの環境下で1.0時間放置した試料の吸湿膨張係数(%)
以下、本発明の各構成要素について説明する。
〔1〕アクリル系熱可塑性樹脂
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、下記一般式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、下記一般式(2)で表されるN−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、下記一般式(3)で表されるN−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを含有するアクリル系熱可塑性樹脂である。
Figure 2017155142
(式中:Rは、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6〜14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
Figure 2017155142
(式中:Rは、炭素数6〜14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基を表し、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
Figure 2017155142
(式中:Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、及び炭素数3〜12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、従来の公知技術と異なり、必須成分として、一般式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、N−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、N−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを含有する。その効果として、透明性に優れ、且つ、耐吸水性、耐候性、耐熱性が良好なアクリル系熱可塑性樹脂を得ることができる。さらに、もう一つの効果として、後述するリターデーション値を、ほぼ0に制御することが可能である。
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂において、一般式(1)で表される繰り返し単位(X)は、メタクリル酸単量体、又はメタクリル酸エステル単量体から誘導される。メタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル;メタクリル酸シクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロデシル、メタクリル酸微シクロオクチル、メタクリル酸トリシクロドデシル、メタクリル酸イソボルニル;メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸1−フェニルエチル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸3−フェニルプロピル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル;等が挙げられる。これらのメタクリル酸、及びメタクリル酸エステルは、単独で用いる場合も2種以上を併用して用いる場合もある。
メタクリル酸エステルのうち、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の透明性や耐候性が優れる点でメタクリル酸メチルが好ましい。難燃性が付与される点でメタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニルが好ましい。
一般式(1)で表される繰り返し単位(X)の含有割合は、メタクリル樹脂の優れた透明性、耐候性及び機械特性を保持するために他の繰り返し単位より優位量含まれることが必要であることから50〜95質量%であることが好ましい。含有割合は、さらに好ましくは60〜95質量%、より好ましくは65〜90質量%、特に好ましくは70〜90質量%、最も好ましくは70〜85質量%である。含有割合がこれらの範囲内にあるとき、得られるアクリル系熱可塑性樹脂は、透明性、耐候性、及び機械特性に優れ、また、好ましい耐吸水性改良効果が得られる。
芳香族基を有するメタクリル酸エステル単量体、例えば、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2,4,6−トリブロモフェニル等をメタクリル酸メチル単量体と併用して用いる場合には、芳香族基を有するメタクリル酸エステル由来の繰り返し単位の含有量は、耐熱性、及び複屈折等の光学的特性の観点から0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜8質量%、さらに好ましくは0.1〜6質量%である。芳香族基を有するメタクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位の含有量がこれら範囲内にあるとき、得られるアクリル系熱可塑性樹脂は、大きな耐吸水性低下を伴わずに、複屈折等の光学特性の改良効果が得られる。
一般式(2)で表される繰り返し単位(Y1)が由来するN−置換マレイミド単量体(a)は、例えば、N−フェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−クロロフェニル)マレイミド、N−(4−ブロモフェニル)マレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(2−エチルフェニル)マレイミド、N−(2−メトキシフェニル)マレイミド、N−(2−ニトロフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリメチルフェニル)マレイミド、N−(4−ベンジルフェニル)マレイミド、N−(2,4,6−トリブロモフェニル)マレイミド、N−ナフチルマレイミド、及びN−アントラセニルマレイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
これらのN−置換マレイミド単量体(a)のうち、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の耐吸水性、及び複屈折等の光学的特性が優れることから、N−フェニルマレイミド、及びN−ベンジルマレイミドが好ましい。さらに、難燃性が付与できることから、N−(2,4,6−トリブロモフェニル)マレイミドが好ましい。
繰り返し単位(Y1)の含有割合は、耐熱性、及び光学特性の観点から0.1〜20質量%であることが好ましい。含有割合は、さらに好ましくは0.1〜18質量%、より好ましくは0.1〜16質量%、特に好ましくは1〜16質量%である。
一方、一般式(3)で表される繰り返し単位(Y2)が由来するN−置換マレイミド単量体(b)は、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−s−ブチルマレイミド、N−t−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ステアリルマレイミド、N−シクロプロピルマレイミド、N−シクロブチルマレイミド、N−シクロペンチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−シクロヘプチルマレイミド、及びN−シクロオクチルマレイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
これらのN−置換マレイミド単量体(b)のうち、得られるアクリル系熱可塑性樹脂が耐候性に優れ、かつ低複屈折性などの光学特性に優れることから、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、及びN−シクロヘキシルマレイミドが好ましい。低吸水性も付与できることからN−シクロヘキシルマレイミドがより好ましい。
N−置換マレイミド単量体(b)に由来する繰り返し単位(Y2)の含有割合は、耐候性、低吸水性、及び透明性などの光学特性の観点から0.1〜49.9質量%であることが好ましい。含有割合は、さらに好ましくは0.1〜40質量%、より好ましくは0.1〜35質量%、特に好ましくは1〜30質量%である。
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂における、N−置換マレイミド単量体(a)に由来する繰り返し単位(Y1)とN−置換マレイミド単量体(b)に由来する繰り返し単位(Y2)とを合計した含有割合は、5〜50質量%であることが好ましい。より好ましくは5〜40質量%であり、さらに好ましくは10〜35質量%であり、より一層好ましくは10〜30質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。含有割合がこれらの範囲内にあるとき、得られるアクリル系熱可塑性樹脂は、十分な耐吸湿性改良効果が得られ、また、耐候性、耐熱性、光学特性について好ましい改良効果が得られる。N−置換マレイミドの繰り返し単位の割合が50質量%を超えると、重合反応時に単量体成分の反応性が低下して未反応で残存する単量体量が多くなり、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の物性が低下してしまうという問題もある。
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂において、N−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)の含有量に対する、N−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)の含有量のモル比(Y1/Y2)(モル/モル)は、好ましくは、0より大きく15以下である。後述する光学特性(低い複屈折)の観点から、Y1/Y2(モル/モル)は、より好ましくは10以下である。Y1/Y2(モル/モル)がこの範囲にあるとき、本発明のアクリル系熱可塑性樹脂はより一層良好な光学特性を発現する。
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂において、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)及び繰り返し単位(Y2)の合計の含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂の全体質量を基準として、80質量%以上であってもよい。
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記単量体と共重合可能なその他の単量体由来の繰り返し単位を含有していてもよい。共重合可能なその他の単量体としては、芳香族ビニル;不飽和ニトリル;シクロヘキシル基、ベンジル基又は炭素数1〜18のアルキル基を有するアクリル酸エステル;オレフィン;ジエン;ビニルエーテル;ビニルエステル;フッ化ビニル;プロピオン酸アリル等の飽和脂肪酸モノカルボン酸のアリルエステル又はメタクリルエステル;多価(メタ)アクリレート;多価アリレート;グリシジル化合物;不飽和カルボン酸類等を挙げることができる。その他の単量体は、これらの群より選ばれる1種又は2種以上の組み合わせであり得る。
アクリル系熱可塑性樹脂は、下記一般式(4)で表される芳香族ビニル単量体由来の繰り返し単位を含有していてもよい。
Figure 2017155142
一般式(4)中、R及びRは、同一でも、異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。qは1〜3の整数を示す。
一般式(4)で表される繰り返し単位は、芳香族ビニル単量体から誘導される。芳香族ビニル単量体は、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、2−メチル−4−クロロスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、α―メチルスチレン、cis−β−メチルスチレン、trans−β−メチルスチレン、4−メチル−α−メチルスチレン、4−フルオロ−α−メチルスチレン、4−クロロ−α−メチルスチレン、4−ブロモ−α−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレン、2,4−ジフルオロスチレン、2−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、2,6−ジクロロスチレン、2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレン、2,4−ジブロモスチレン、α−ブロモスチレン、β−ブロモスチレン、2−ヒドロキシスチレン、及び4−ヒドロキシスチレンからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体を含む。
これらの単量体のうち、共重合が容易なことから、スチレン、及びα−メチルスチレンが好ましい。
一般式(4)で表される繰り返し単位を含有するときは、アクリル系熱可塑性樹脂の吸湿性がさらに改善される。アクリル系熱可塑性樹脂が式(4)で表される繰り返し単位を含有する場合のその含有割合は、アクリル系熱可塑性樹脂の全体質量を基準として、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。耐候性の観点からは、式(4)で表される繰り返し単位の含有割合は、10質量%未満であることが好ましく、7質量%未満であることがより好ましい。
アクリル系熱可塑性樹脂は、下記一般式(5)で表されるN−置換マレイミド単量体由来の繰り返し単位を含有してもよい。
Figure 2017155142
一般式(5)中、R及びRは、同一でも、異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R8は、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6〜14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR8は同一でも異なっていてもよく、アルキル基及びアリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。
一般式(5)で表される繰り返し単位は、下記一般式(6)で表される単量体から誘導される。式(6)で表される単量体は、例えば、3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1,3,4−トリフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3−メチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3,4−ジメチル−1−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、1−シクロヘキシル−3−フェニル−1H−ピロール−2,5−ジオン、及び1−シクロヘキシル−3,4−ジフェニル−1H−ピロール−2,5−ジオンなどからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体を含む。
Figure 2017155142
一般式(6)中、R及びRは、同一でも、異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6〜14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの化学基であり、同一分子中のR8は同一でも異なっていてもよく、アルキル基及びアリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。
不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、及びフェニルアクリロニトリル等が挙げられる。
アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ターシャリブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、及びアクリル酸ベンジル等が挙げられる。
オレフィン単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、及びジイソブチレン等が挙げられる。ジエン単量体としては、ブタジエン、及びイソプレン等が挙げられる。ビニルエーテル単量体としては、メチルビニルエーテル、及びブチルビニルエーテル等が挙げられる。ビニルエステル単量体としては、酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等が挙げられる。フッ化ビニル単量体としては、フッ化ビニリデン等が挙げられる。
多価(メタ)アクリレート単量体としては、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールトリ、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ハロゲン化ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、及び、イソシアヌレートのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物のジ、若しくはトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
多価アリレート単量体としては、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。グリシジル化合物単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、及びアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの半エステル化物又は無水物が挙げられる。
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂は、1種の共重合体から構成されていてもよいし、構成単位(X)、構成単位(Y1)及び構成単位(Y2)のうち1種以上の構成単位を有する2種以上の共重合体のブレンド物であってもよい。例えば、アクリル系熱可塑性樹脂は、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)、及び繰り返し単位(Y2)を有する1種の共重合体から構成される樹脂であり得る。又は、アクリル系熱可塑性樹脂は、繰り返し単位(X)と、繰り返し単位(Y1)、及び/又は繰り返し単位(Y2)とを有する2種類以上の共重合体から構成されるブレンド物であってもよいし、繰り返し単位(X)を有する重合体と、繰り返し単位(Y1)を有する重合体と、繰り返し単位(Y2)を有する重合体とから構成されるブレンド物であってもよい。透明性や均一性の観点から、アクリル系熱可塑性樹脂は、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)、及び繰り返し単位(Y2)を有する共重合体であるか、繰り返し単位(X)と、繰り返し単位(Y1)、及び/又は繰り返し単位(Y2)とを有する2種類以上の共重合体から構成されるブレンド物であることが好ましく、繰り返し単位(X)、繰り返し単位(Y1)、及び繰り返し単位(Y2)を有する共重合体であることが特に好ましい。
アクリル系熱可塑性樹脂が、共重合組成の異なる2種以上の共重合体から構成される場合、アクリル系熱可塑性樹脂における構成単位(X)、構成単位(Y1)及び構成単位(Y2)それぞれの含有量は、アクリル系熱可塑性樹脂全体に含まれる構成単位(X)、構成単位(Y1)及び構成単位(Y2)の合計量を100質量%としたときの、それぞれの構成単位の合計量の割合として算出される。
アクリル系熱可塑性樹脂中に残存する(共重合体の繰り返し単位を構成する)単量体の合計は、アクリル系熱可塑性樹脂(共重合体)100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。残存単量体の合計が、0.5質量%を超えると、成形加工時に熱時着色したり、成形品の耐熱性及び耐候性が低下したりするなど実用に適さない成形体が得られるという問題がある。
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法によるPMMA換算の質量平均分子量(Mw)は、3000〜1000000であることが望ましい。この質量平均分子量が3000以上であれば高分子として必要な強度が発現できる。また1000000以下であればプレス成形による成形体とすることができる。アクリル系熱可塑性樹脂の質量平均分子量は、より好ましくは4000〜800000であり、さらに好ましくは5000〜500000であり、より一層好ましくは100000〜500000である。
本実施形態に係るアクリル系熱可塑性樹脂のGPC測定法による分子量分布(Mw/Mn)は、1〜10であることが望ましい。アクリル系熱可塑性樹脂組成は、リビングラジカル重合法で重合することも可能であり、必要に応じて分子量分布を調整可能である。成形加工に適した樹脂粘度に調整する観点から、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.1〜7.0、より好ましくは1.2〜5.0、さらに好ましくは1.5〜4.0である。
[重合反応]
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂の重合反応においては、互いに反応性が近しい単量体、及び/又は共重合性が高い単量体を組み合わせることが、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の樹脂組成比を、反応液に仕込む原料組成比に基づいて容易に制御することが可能であることから望ましい。一方、反応性が著しく異なる単量体を組み合わせる場合、a)反応性が低い単量体が十分に反応せず未反応単量体として残存する、b)結果として得られるアクリル系熱可塑性樹脂の樹脂組成比が予測し難いなどの問題が生じ得る。特に、未反応単量体が残存すると、アクリル系熱可塑性樹脂の特性、例えば、透明性、耐候性、が低下するなどの問題もある。
本発明に係るアクリル系熱可塑性樹脂の重合方法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。アクリル系熱可塑性樹脂を光学材料用途として用いるには微小な異物の混入はできるだけ避けるのが好ましく、この観点から懸濁剤や乳化剤を用いないキャスト重合や溶液重合を用いることが望ましい。
重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法が望ましい。
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合などに応じて変化するが、例えば、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が80〜150℃、重合時間が1〜12時間である。
重合反応時に溶剤を使用する場合、重合溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤;テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;などが挙げられる。これらの溶剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるアクリル系熱可塑性樹脂の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートなどのアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独で用いても2種以上を併用して用いてもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で用いられる。
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が先述の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
重合反応時には、必要に応じて、有機リン系化合物や有機酸を添加してもよい。これらの化合物が共存することで、副反応が抑制される、及び/又は未反応N−置換マレイミド量が低減されるなどして得られるアクリル系熱可塑性樹脂の成形加工時の着色が低減される場合がある。
有機リン系化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;アルキル亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸トリエステル;リン酸ジエステル、リン酸モノエステル、リン酸トリエステル等が挙げられる。これらの有機リン系化合物は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機リン系化合物の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜5.0質量%である。
有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等及びこれらの酸無水物などが挙げられる。これらの有機酸は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。有機酸の使用量は、単量体の総量に対して好ましくは0.001〜1.0質量%である。
重合反応は、重合体濃度を10質量%以上、95質量%以下として実施することが望ましい。重合体濃度が10質量%以上であれば、分子量と分子量分布の調整が容易である。重合体濃度が95質量%以下であれば、高分子量の重合体を得ることができる。また重合中の除熱の観点から、反応液の粘度を適切にするために、重合体濃度が好ましくは75質量%以下、より好ましくは60質量%以下となるようにする。
重合反応液の粘度を適切に保つという観点から、重合溶剤を適宜添加することが望ましい。反応液の粘度を適切に保つことで、除熱を制御し、反応液中のミクロゲル発生を抑制することができる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶剤を適宜添加して重合体濃度が50質量%以下となるように制御することが更に好ましい。
重合溶剤を重合反応液に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応液中に生成したアクリル系熱可塑性樹脂の濃度を制御することによって、反応器内部の温度均一性を向上させ、反応液のゲル化をより十分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
アクリル系熱可塑性樹脂を懸濁重合法で重合する場合には、水性媒体中で、懸濁剤及び必要に応じて懸濁助剤を添加して重合を行う。懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の無機物質等がある。水溶性高分子は、単量体の総量に対して0.03〜1質量%使用するのが好ましく、無機物質は、単量体の総量に対して0.05〜0.5質量%使用するのが好ましい。懸濁助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤がある。懸濁剤として無機物質を使用する場合には、懸濁助剤を使用するのが好ましい。懸濁助剤は、単量体100質量%に対して0.001〜0.02質量%使用するのが好ましい。
[脱揮工程]
脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分などの揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られたアクリル系熱可塑性樹脂中の残存揮発分が多くなり、成形時の変質などにより着色することや、泡やシルバーストリークなどの成形不良が起こることがある。残存揮発分量は、アクリル系熱可塑性樹脂100質量%に対して好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、さらにより好ましくは0.3質量%以下である。残存揮発分量とは、前述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する。
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置;ベント付き押出機;脱揮装置と押出機を直列に配置したものなどが挙げられる。ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でも複数個でもいずれでもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
脱揮工程の温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは170〜330℃、さらに好ましくは200〜300℃である。この温度が150℃未満であると、残存揮発分が多くなることがある。逆に、この温度が350℃を超えると、得られたアクリル系熱可塑性樹脂の着色や分解が起こることがある。
脱揮工程における圧力は、好ましくは931〜1.33hPa(700〜1mmHg)、より好ましくは800〜13.3hPa(600〜10mmHg)、さらに好ましくは667〜20.0hPa(500〜15mmHg)である。この圧力が931hPa(700mmHg)を超えると、揮発分が残存しやすいことがある。逆に、圧力が1.33hPa(1mmHg)未満であると、工業的な実施が困難になることがある。
処理時間は、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られたアクリル系熱可塑性樹脂の着色や分解を抑えるためには短いほど好ましい。
重合反応時の単量体反応転化率が低い場合、重合液には未反応単量体が多量に残存している。その場合、得られるアクリル系熱可塑性樹脂の残存揮発分量を減らすには高い処理温度で、長時間処理することになるが、そうすると着色や分解が生じやすいという問題がある。多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、又はアルコール系溶剤などを重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、未反応単量体について液−液抽出、固−液抽出するなどの前処理を施すことで重合反応液から分離できる。前処理による単量体分離後の重合反応液を前述した脱揮工程に供すると、得られるアクリル系熱可塑性樹脂100質量%中に残存する単量体の合計を0.5質量%以下に抑えることができる。
アクリル系熱可塑性樹脂に含まれる異物数は、光学用に用いる場合少ないほど好ましい。異物数を減少させる方法としては、重合反応工程、脱揮工程、及び成形工程において、該アクリル系熱可塑性樹脂の溶液又は溶融液を、例えば、濾過精度1.5〜15μmのリーフディスク型ポリマーフィルターなどで濾過する方法などが挙げられる。
〔2〕衝撃改質剤
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、特定のアクリル系樹脂に加えて、衝撃改質剤であるエラストマー又はゴム粒子と界面活性剤を含有させることで、前記衝撃改質剤の周りに界面活性剤が集まり会合体を形成し、形成された会合体が前記アクリル系樹脂の隙間を埋めることにより、水分子がさらに浸透しにくくなり、湿度変動率を顕著に低下することができる。
一般にフィルムの耐折性向上には、ゴム成分の添加が知られている。ゴム成分の形状の種類として「エラストマー系」と「ゴム粒子系」とがある。
「エラストマー系」とは、常温でゴム弾性体の性能を示す無定形で軟質な高分子物質であり、熱を加えることで可塑化(流動化)され、成型・加工に供されるものである。
一方、「ゴム粒子系」とは、架橋の工程を経ることで熱を加えても軟化することがなく、強い弾性を発揮する無定形で軟質の高分子物質である「ゴム」を粒子形状に加工したものである。
本発明のアクリル系樹脂フィルムには、「ゴム粒子系」を含有することが好ましい。
〔2.1〕エラストマー
本発明に用いられるエラストマーは、フィルム製膜時において、樹脂及びエラストマーを含有するドープを支持体に流延して含まれる溶媒が揮発する際に、当該エラストマー同士が凝集してエラストマー粒子を形成することが好ましい。
本発明に用いられるエラストマーとしては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アクリル系エラストマー、シリコーン系エラストマー及びゴム変性エポキシ化合物等が挙げられる。本発明のアクリル系樹脂フィルムには、これらの1種又は2種以上が用いられる。
本発明では、上述したエラストマーの中でも、芳香族ビニル系化合物を共重合成分として含むものであることが好ましく、スチレン系エラストマーであることが、均一な粒子径を有するエラストマー粒子を形成する観点から、特に好ましい。
(スチレン系エラストマー)
スチレン系エラストマーとしては、スチレンとブタジエン若しくはイソプレン等の共役及び/又はその水素添加物ジエンの共重合体が挙げられる。スチレン系エラストマーは、スチレンをハードセグメント、共役ジエンをソフトセグメントとしたブロック共重合体であり、加硫工程が不用であり、好ましく用いられる。また、水素添加をしたものは熱安定性が高く、より好ましく用いられる。
スチレン系エラストマーの例としては、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック重合体、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体等を挙げることができる。中でも、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体又はスチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体であるであることが好ましい。
スチレン系エラストマーを構成する成分としては、スチレンのほかに、α−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン等のスチレン誘導体を用いることができる。具体的には、タフプレン、ソルプレンT、アサプレンT、タフテック(以上、旭化成ケミカル株式会社製)、エラストマーAR(アロン化成株式会社製)、クレイトンD、クレイトンG、カリフレックス(以上、クレイトンポリマージャパン株式会社製)、JSR−TR、TSR−SIS、DYNARON(以上、JSR株式会社製)、デンカSTR(デンカ株式会社製)、クインタック(日本ゼオン株式会社製)、TPE−SBシリーズ(住友化学株式会社製)、ラバロン(三菱化学株式会社製)、セプトン、ハイブラ−(以上、株式会社クラレ製)、レオストマー、アクティマ−(以上、リケンテクノス株式会社製)等が挙げられる。
本発明で用いるスチレン系エラストマーは、その屈折率が、アクリル系樹脂の屈折率に対して、屈折率差の絶対値が0.020〜0.036の範囲内であることが好ましい。水素添加されたスチレン系エラストマーを用いる場合、エラストマーのスチレン成分量(スチレン化率)が1%以上40%未満であると、アクリル系樹脂に対して、屈折率差を上記範囲以内に制御することができる。前記スチレン成分量が1%未満40%以上である場合は、前記屈折率差の範囲に制御することが難しく、均一な粒子形成が難しい。
エラストマーの含有率は、アクリル系樹脂フィルムの全質量に対して、3〜40質量%であればよく、5〜30質量%であることがより好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。エラストマーの含有率を上記範囲内とすることにより、アクリル系樹脂フィルムの靭性や耐衝撃性を高めることができ、耐折性や滑り性を向上することができる。
アクリル系樹脂/スチレン系エラストマーの質量%比は、99/1〜50/50であることが好ましく、より好ましくは95/5〜50/50、さらに好ましくは93/7〜60/40、特に好ましくは90/10〜65/35(両者の合計は100質量%である。)である。スチレン系エラストマーの添加比率が上記範囲内とすることにより、機械的強度を高めることができる。
スチレン系エラストマーの構造には、特に制限はなく、鎖状でも、分岐状でも、架橋状でもよいが、好ましくは直鎖状である。
また、スチレン系エラストマーの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法による数平均分子量が5000〜30万、好ましくは1万〜15万、さらに好ましくは2万〜10万である。スチレン系エラストマーの分子量を上記範囲内とすることにより、機械的強度や成形性を高めることができる。
本発明で用いることができるエラストマーとしては、スチレン系エラストマーの他に下記のものも挙げることができる。なお、下記のエラストマーは、スチレン系エラストマーと併用することが好ましい。
(オレフィン系エラストマー)
オレフィン系エラストマーは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−ペンテン等の炭素数2〜20のα−オレフィンの共重合体であり、例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)等が挙げられ、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブタジエン、イソプレン等の炭素数2〜20の非共役ジエンとα−オレフィン共重合体などが挙げられる。また、ブタジエン−アクニロニトリル共重合体にメタクリル酸を共重合したカルボキシ変性NBRが挙げられる。具体的には、エチレン・α−オレフィン共重合体ゴム、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体ゴム、プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴム、ブテン・α−オレフィン共重合体ゴム等が挙げられる。
(ウレタン系エラストマー)
ウレタン系エラストマーは、低分子のエチレングリコールとジイソシアネートからなるハードセグメントと高分子(長鎖)ジオールとジイソシアネートからなるソフトセグメントとの構造単位からなり、高分子(長鎖)ジオールとして、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリ(1−,4−ブチレンアジペート)、ポリ(エチレン・1,4−ブチレンアジペート)、ポリカプロラクトン、ポリ(1,6−ヘキシレンカーボネート)、ポリ(1,6−ヘキシレン・ネオペンチレンアジペート)等が挙げられる。高分子(長鎖)ジオールの数平均分子量は、500〜10,000が好ましい。エチレングリコールの他に、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ビスフェノールA等の短鎖ジオールを用いることができ、短鎖ジオールの数平均分子量は、48〜500が好ましい。
(ポリエステル系エラストマー)
ポリエステル系エラストマーは、ジカルボン酸又はその誘導体とジオール化合物又はその誘導体を重縮合して得られる。ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びこれらの芳香核の水素原子がメチル基、エチル基、フェニル基等で置換された芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等の炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。これらの化合物は2種以上用いることができる。ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール等の脂肪族ジオール及び脂環式ジオール、又は、ビスフェノールA、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−プロパン、レゾルシン等の芳香族環式ジオールなどが挙げられる。これらの化合物は2種以上用いることができる。
また、芳香族ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート)部分をハードセグメント成分に、脂肪族ポリエステル(例えば、ポリテトラメチレングリコール)部分をソフトセグメント成分にしたマルチブロック共重合体を用いることもできる。ハードセグメントとソフトセグメントの種類、比率、分子量の違いによりさまざまなグレードのものがある。
(ポリアミド系エラストマー)
ポリアミド系エラストマーは、ハード相にポリアミドを、ソフト相にポリエーテルやポリエステルを用いたポリエーテルブロックアミド型とポリエーテルエステルブロックアミド型の2種類に大別され、ポリアミドとしては、ポリアミド−6、11、12等が用いられ、ポリエーテルとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリテトラメチレングリコール等が用いられる。
アクリル系エラストマーは、アクリル酸エステルを主成分とし、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート等が用いられ、また、架橋点モノマーとして、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が用いられる。さらに、アクリルニトリルやエチレンを共重合することもできる。具体的には、アクリロニトリル−ブチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−ブチルアクリレト−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−ブチルアクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
(シリコーン系エラストマー)
シリコーン系エラストマーとしては、オルガノポリシロキサンを主成分したもので、ポリジメチルシロキサン系、ポリメチルフェニルシロキサン系、ポリジフェニルシロキサン系に分けられる。一部をビニル基、アルコキシ基等で変性したものもある。
(ゴム変性エポキシ化合物)
また、上記のエラストマー以外に、ゴム変性エポキシ化合物を用いることができる。ゴム変性エポキシ化合物としては、例えば、具体的には、エポキシ化ポリブタジエン(PB3600、PB4700、株式会社ダイセル製)、エポキシ化ブタジエン−スチレン共重合体(エポキシ化ブタジエン−スチレン エポフレンドAT014等、株式会社ダイセル製)、又はポリジメチルシロキサンのエポキシ化合物X22−163B、KF100T(信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。また、上述のビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の一部又は全部のエポキシ基を、両末端カルボン酸変性ブタジエン−アクリロニトリルゴム、末端アミノ変性シリコーンゴム等で変性することによって得られるゴム変性エポキシ化合物を用いることもできる。
〔2.2〕ゴム粒子
本発明に係るゴム粒子は、ゴム状重合体である。
ゴム状重合体としては、ガラス転移温度が20℃未満である重合体であればよく、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体などが挙げられる。中でも、フィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)が特に好ましい。
アクリル系ゴム状重合体としては、例えばABS樹脂ゴム、ASA樹脂ゴムが挙げられるが、透明性等の観点から、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」と称する。)を好ましく用いることができる。
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を重合して得ることができる。
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体であり、具体的には、アクリル酸エステル50〜100質量%及び共重合可能な他のビニル系単量体50〜0質量%からなる単量体混合物(100質量%)並びに、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体0.05〜10質量部(単量体混合物100質量部に対して)を重合させてなるものが好ましい。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
アクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸フェノキシエチル等があげられ、これらの単量体は2種以上併用してもよい。アクリル酸エステル量は、単量体混合物100質量%において50質量%以上100質量%以下が好ましく、60質量%以上99質量%以下がより好ましく、70質量%以上99質量%以下がさらに好ましく、80質量%以上99質量%以下が最も好ましい。50質量%未満では耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステル類が特に好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸n−オクチル等が挙げられる。また、芳香族ビニル類及びその誘導体、及びシアン化ビニル類も好ましく、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。その他、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸及びその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
多官能性単量体は通常使用されるものでよく、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート及びこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上使用してもよい。
多官能性単量体の量は、単量体混合物の総量100質量部に対して、0.05〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05質量部未満では、架橋体を形成できない傾向があり、10質量部を超えても、フィルムの耐割れ性が低下する傾向がある。
ゴム状重合体の体積平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm未満では耐割れ性が悪化する場合がある。一方、450nmを超えると透明性が低下する場合がある。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体5〜90質量部(より好ましくは、5〜75質量部)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物95〜25質量部を少なくとも1段階で重合させることより得られるものが好ましい。グラフト共重合組成(単量体混合物)中のメタクリル酸エステルは50質量%以上が好ましい。50質量%以下では得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。グラフト共重合に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
光学的等方性の観点からは、脂環式構造、複素環式構造又は芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体(「環構造含有(メタ)アクリル系単量体」と称する。)が好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが挙げられる。その使用量は、単量体混合物の総量(環構造含有(メタ)アクリル系単量体及びこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100質量%において1〜100質量%が好ましく、5〜70質量%がより好ましく、5〜50質量%が最も好ましい。ここでいう、これと共重合可能な他の単官能性単量体には、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体が同様に使用できる。
アクリル酸エステル系ゴム状重合体に対するグラフト率は、10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%未満では、成形体中でアクリル系グラフト共重合体が凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となる恐れがある。また引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%以上では成形時、例えば、フィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。算出式は実施例の項にて説明する。
上記グラフト率とは、アクリル系グラフト共重合体におけるグラフト成分の質量比率であり、次の方法で測定される。
得られたアクリル系グラフト共重合体2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm 、温度12 ℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。得られた不溶分を、アクリル酸エステル系グラフト重合体として以下の式により算出する。
グラフト率(%)=[{( メチルエチルケトン不溶分の質量)−(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の質量)}/(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の質量)]×100
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
乳化重合法では、連続重合を単一の反応槽で行うことが好ましく、二槽以上の反応槽を用いるとラテックスの機械的安定性が低下するため好ましくない。
重合温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。30℃未満では生産性が低下する傾向があり、100℃を超えた温度では、目標分子量が過剰に大きくなる等によって、品質が低下する傾向がある。重合反応槽へ連続的に添加するアクリル酸エステル単量体、開始剤、乳化剤及び脱イオン水等の原料類は、定量ポンプの制御下で正確に添加するが、反応槽内で発生する重合熱の除熱量を確保するため必要に応じて予め冷却しても支障ない。反応槽から払い出されたラテックスには、必要に応じて重合禁止剤、凝固剤、難燃剤、酸化防止剤、pH調節剤を添加しても良く、未反応単量体の回収や後重合を行っても良い。その後、凝固、熱処理、脱水、水洗、乾燥等公知の方法を経て共重合体を得ることができる。
乳化重合においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、更にアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム錯体なとの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤には炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素などが挙げられ、これらは単独又は2種以上併用してもよい。
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤であれば使用することができる。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩はカリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でも良い。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に、ポリオキシアルキレン類又はその末端ヒドロキシ基のアルキル置換体又はアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用又は一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、又はリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、又はポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
乳化剤の使用量としては、単量体成分全体100質量部に対して、0.05質量部以上10質量部が好ましく、0.1質量部以上1.0質量部以下であることがより好ましい。0.05質量部より少量では、共重合体の粒系が大きくなり過ぎる傾向があり、10質量部より多量では共重合体の粒系が小さくなりすぎる、また、粒度分布が悪化する傾向がある。
本発明におけるゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物として、特に限定されないが、1種類以上のアクリル系ゴム状重合体と1種類以上のアクリル系樹脂との混合組成物であることが好ましい。
アクリル系ゴム状重合体は、アクリル系ゴム状重合体が含有するゴム状重合体が、熱可塑性樹脂組成物100質量部において、1〜60質量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30質量部がより好ましく、1〜25質量部がさらに好ましい。1質量部未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、60質量部を越えるとフィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折り曲げ白化性が悪化する傾向がある。
アクリル系ゴム状重合体とアクリル系樹脂との混合は、直接、フィルム生産時に混合しても良く、また一度、アクリル系ゴム状重合体とメタクリル系樹脂とを混合ペレット化してから、改めてフィルム生産を実施しても良い。
〔3〕界面活性剤
本発明に係る界面活性剤は公知の種類を使用することができ、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を適宜使用することができる。以下、その例を示す。
(アニオン系界面活性剤)
脂肪族モノカルボン酸(C12〜C18)塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸型;
アルキルアリールスルホン酸塩等(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸のナトリウム塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、ジナフタレンジスルホン酸のナトリウム塩等)、アルカンスルホン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、αオレフィンスルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩類等のスルホン酸型;
アルキル硫酸エステル塩類(例えばラウリルアルコールサルフェートのナトリウム塩、オクチルアルコールサルフェートのナトリウム塩等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類等の硫酸エステル型;
ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸エステル塩類等の酢酸エステル型;
アルキルリン酸エステル塩類(例えばセチルアルコールリン酸エステルのナトリウム塩等)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル塩類等のリン酸エステル型のものが含まれる。
これらの塩は、例えばアルカリ金属イオン(ナトリウム、カリウム)の塩でありうる。
(カチオン系界面活性剤)
アルキルアミン塩(例えば、株式会社ADEKA製アデカミンSF−106等)、第4級アンモニウム塩(例えば、ラウリルジメチルエチルアンモニウムエチルサルフェート、株式会社ADEKA製アデカミン4MAC−30等)、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類等が含まれる。
(両性界面活性剤)
カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、イミダゾリニウムベタイン等が含まれる。
(ノニオン性界面活性剤)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が含まれる。
アクリル系樹脂フィルムを製膜する際に、アニオン系界面活性剤又はカチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤を含むと、樹脂をフィルムに溶かしたときに衝撃改質剤と会合体を形成し、この会合体が樹脂と樹脂の隙間を埋めるため、湿度による寸法変化率を下げることができたと推定している。衝撃改質剤の周りに界面活性剤が会合体を形成する理由はさだかではないが溶剤に溶かしたときに界面活性剤がイオンになり、イオンになった界面活性剤が相互作用し、衝撃改質剤の周りに会合体を形成していると推定している。
界面活性剤の添加量はアクリル系熱可塑性樹脂に対して、0.1〜1質量%であることが好ましく、0.2〜0.5質量%であることがより好ましい。
〔4〕その他の添加剤
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、剥離剤などを含んでもよい。以下に主要な添加剤の詳細を記す。
(可塑剤)
本発明において公知の可塑剤を含有してもよい。
公知の可塑剤としては、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系、糖エステル系、アクリル系ポリマー等が挙げられる。この中では、ポリエステル系及び糖エステル系の可塑剤が好ましく用いられる。
ポリエステル系可塑剤は、ジカルボン酸とジオールを重合することにより得られ、ジカルボン酸構成単位(ジカルボン酸に由来する構成単位)の70%以上が芳香族ジカルボン酸に由来し、かつジオール構成単位(ジオールに由来する構成単位)の70%以上が脂肪族ジオールに由来するものであることが好ましい。
糖エステル系可塑剤としては、フラノース環又はピラノース環の少なくともいずれかを含む化合物であり、単糖であっても、糖構造が2〜12個連結した多糖であってもよい。 糖エステルは、糖構造が有するOH基の少なくとも一つがエステル化された化合物であり、平均エステル置換度が、4.0〜8.0の範囲内であることが好ましく、5.0〜7.5の範囲内であることがより好ましい。
可塑剤の使用量は、可塑剤の種類、使用条件等により一様ではないが、前記アクリル系樹脂に対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜5質量%が更に好ましい。
(紫外線吸収剤)
本発明に適用可能な紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、前記ポリマー層に対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
(酸化防止剤)
本発明では、酸化防止剤としては、通常知られているものを使用することができる。特に、ラクトン系、イオウ系、フェノール系、二重結合系、ヒンダードアミン系、リン系の各化合物を好ましく用いることができる。
例えば、BASFジャパン株式会社から市販されている「Irgafos XP40、Irgafos XP60」等が挙げられる。
上記イオウ系化合物は、例えば、住友化学株式会社から市販されている「Sumilizer TPL−R」及び「Sumilizer TP−D」を挙げることができる。
上記フェノール系化合物としては、2,6−ジアルキルフェノールの構造を有するものが好ましく、例えば、BASFジャパン株式会社から市販されている「Irganox 1076」、「Irganox 1010」、(株)ADEKAから市販されている「ADEKA STAB AO−50」等を挙げることができる。
上記二重結合系化合物は、住友化学株式会社から「Sumilizer GM」及び「Sumilizer GS」という商品名で市販されている。
上記ヒンダードアミン系化合物は、例えば、BASFジャパン株式会社から市販されている「Tinuvin144」及び「Tinuvin770」、株式会社ADEKAから市販されている「ADK STAB LA−52」を挙げることができる。
上記リン系化合物としては、例えば、住友化学株式会社から市販されている「SumilizerGP」、株式会社ADEKAから市販されている「ADK STAB PEP−24G」、「ADK STAB PEP−36」及び「ADK STAB 3010」、BASFジャパン株式会社から市販されている「Irgafos P−EPQ」、堺化学工業株式会社から市販されている「GSY−P101」を挙げることができる。
(マット剤)
本発明のアクリル系樹脂フィルムには、マット剤を含有することも好ましい。
マット剤は、通常、フィルムの添加物として用いられるもので、表面の滑り性の悪さを改良するためには、有機微粒子又は無機微粒子を含有させて、ポリマー層表面の粗さを増加させ、いわゆるマット化することで、接着性を減少させ、耐擦過性の向上を図るために用いられるものである。
本発明に使用するマット剤としては、平均粒径が1〜1000nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜100nmの範囲内であり、特に好ましくは3〜500nmの範囲内である。
無機微粒子としては、例えば、硫酸バリウム、マンガンコロイド、二酸化チタン、硫酸ストロンチウムバリウム、二酸化ケイ素、などの無機物微粒子が挙げられるが、更に、例えば、湿式法やケイ酸のゲル化より得られる合成シリカ等の二酸化ケイ素やチタンスラッグと硫酸により生成する二酸化チタン(ルチル型やアナタース型)等が挙げられる。無機微粒子としては、ケイ素を含むものが、濁度及びフィルムのヘイズを低減できる点で好ましい。二酸化ケイ素のような微粒子は有機物により表面修飾されているものが多いが、このようなものは、フィルムの表面ヘイズを低減できるため好ましい。表面修飾で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサンなどを挙げることができる。
また、有機微粒子を構成する高分子化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、デンプン等があり、また、それらの粉砕分級物も挙げられる。又は、懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法若しくは分散法等により球型にした高分子化合物、又は無機化合物を用いることができる。
上記各マット剤の中でも、二酸化ケイ素粒子(シリカ粒子)であるのが好ましい。
本発明に係るシリカ粒子は、市販品を好ましく使用することができ、下記日本アエロジル株式会社の製品アエロジルシリーズは好適である。
R972V、R812、R805、R816、NKC130、R711、R7200、R202、RY200、RY200S、RY300、R104、R105、RA200H、RA200HS(以上、日本アエロジル株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
〔5〕アクリル系樹脂フィルムの製造方法
〈アクリル系樹脂フィルムの製造装置〉
図1は、本実施形態のアクリル系樹脂フィルムの製造に用いる製造装置1の概略の構成を示す断面図である。製造装置1は、流延装置2と、第1延伸装置3と、第2延伸装置4と、乾燥装置5と、巻取装置6とを備え、流延装置2で形成された流延膜(ウェブ)22を搬送しつつ、第1延伸装置3でMD方向又はTD方向に延伸し、第2延伸装置4で同じくMD方向又はTD方向に追加延伸し、乾燥装置5で乾燥(熱処理)し、巻取装置6でアクリル系樹脂フィルムFとして巻き取るようになっている。上記の流延膜22とは、走行する支持体上に、樹脂及び溶媒を含有する樹脂溶液(ドープ)を流延し、乾燥して形成される膜をいう。なお、第1延伸装置3と第2延伸装置4との間に乾燥装置を配置して、流延膜22を乾燥させるようにしてもよい。
(流延装置)
流延装置2は、支持体としての無端ベルト11と、ダイ12と、加熱装置13と、剥離ローラー14とを備えている。
無端ベルト11は、表面が鏡面仕上げされた金属製のベルトである。このようなベルトとしては、例えば、表面が鏡面仕上げされたステンレス鋼や鋳物で表面がメッキ仕上げされた金属製の無端ベルトが用いられる。無端ベルト11は、駆動ローラー11aと従動ローラー11bとに巻き掛けられて、図中の矢印方向に走行可能とされている。無端ベルト11の幅は、製造しようとするアクリル系樹脂フィルムの大きさに応じて異なるが、例えば1700〜2700mmの範囲が好ましい。そして、ドープ21を流延する幅は、無端ベルト11の幅のうち、例えば80〜99%の範囲が好ましい。なお、無端ベルト11に代えて、表面が鏡面仕上げされた金属製の円筒ドラム等を支持体として用いてもよい。
ダイ12は、ドープ21を無端ベルト11上に流延するものである。加熱装置13は、無端ベルト11上に流延されたドープ21(流延膜22)を加熱して、ドープ21(流延膜22)に含まれる溶媒を除去するために設けられているが、その詳細については後述する。剥離ローラー14は、無端ベルト11上に形成された流延膜22を、無端ベルト11から剥離するために設けられている。
この流延装置2では、走行する支持体としての無端ベルト11上に、樹脂及び溶媒を含有するドープ21を流延して流延膜22を形成する流延膜形成工程と、溶媒を含んだ状態で無端ベルト11から流延膜22を剥離する剥離工程とが行われる。
流延膜形成工程では、ダイ12から無端ベルト11上にドープ21が流延され、加熱装置13によって乾燥される。これにより、ドープ21が無端ベルト11上で乾燥及びゲル化して流延膜22が形成される。
なお、無端ベルト11上での流延膜22の厚さは、巻取装置6で巻き取られるアクリル系樹脂フィルムの厚さが所定の厚さとなるように、種々の値に変更可能であり、ドープ21の流延量や無端ベルト11の走行速度等に応じて調整される。
剥離工程では、無端ベルト11上で形成された流延膜22が、剥離ローラー14によって無端ベルト11から剥離される。
無端ベルト11上にドープ21を流延してから、無端ベルト11から流延膜22を剥離するまでの時間は、製造されたアクリル系樹脂フィルムの厚さ、溶媒の種類等に応じて異なるが、無端ベルト11からの良好な剥離性を考慮して、例えば、0.5〜5分の範囲が好ましい。
また、無端ベルト11から流延膜22を剥離するときに流延膜22に作用する張力(剥離張力)、及び剥離後に流延膜22を搬送するときに流延膜22に作用する張力(搬送張力)に起因して、流延膜22はその搬送方向(MD方向)に延伸される。このことを考慮して、上記の剥離張力及び搬送張力は、例えば20〜400N/mの範囲が好ましい。
次に、上記の加熱装置13について説明する。加熱装置13は、流延膜22を加熱風で加熱して溶媒を除去するものであり、乾燥箱31と、乾燥箱31に配設された第1加熱風供給装置32及び第2加熱風供給装置33と、排気口34とを備えている。第1加熱風供給装置32及び第2加熱風供給装置33は、それぞれ、加熱風供給管32a・33aと、ヘッダー32b・33bとを備えており、無端ベルト11を、流延膜22の搬送方向と垂直な上下方向から挟み込むように配置されている。
第1加熱風供給装置32側の無端ベルト11上の流延膜22の温度、及び第2加熱風供給装置33側の無端ベルト11上の流延膜22の温度は、それぞれ、溶媒の蒸発に要する時間に基づいて決定される無端ベルト11の走行速度、ドープ21中における微粒子の分散度合、生産性等を考慮して、例えば、−5〜70℃の範囲が好ましく、0〜60℃の範囲がより好ましい。
第1加熱風供給装置32及び第2加熱風供給装置33から供給される加熱風の風圧は、溶媒の蒸発の均一性、ドープ21中における微粒子の分散度合等を考慮して、例えば、50〜5000Paの範囲が好ましい。
第1加熱風供給装置32及び第2加熱風供給装置33は、一定温度の加熱風だけを供給してもよいし、無端ベルト11の走行方向に沿って複数の温度の加熱風を段階的に供給してもよい。
加熱装置13は、上記のように流延膜22を加熱風で加熱するものに限定されず、例えば、流延膜22を赤外線ヒーターで加熱するもの、無端ベルト11の裏面に加熱風を吹き付けて流延膜22を裏面から加熱するもの等であってもよい。
(第1延伸装置)
第1延伸装置3は、無端ベルト11から剥離された流延膜22をMD方向又はTD方向に延伸する第1の延伸工程を行うものであり、本実施形態では、流延膜22を加熱して溶媒を除去しながらMD方向に延伸する(MD延伸工程)。ここでは、溶媒除去手段として加熱風(乾燥風)を使用しているが、特に限定はなく、この他に、例えば赤外線ヒーターなどの加熱手段を使用してもよい。
第1延伸装置3における乾燥は、一定の温度で乾燥してもよいし、3〜4段階の温度に分けて、数段階の温度に分けて乾燥してもよい。
第1延伸装置3による延伸工程(第1の延伸工程)におけるMD方向の延伸倍率は、(第1の延伸工程後の流延膜の搬送速度)/(第1の延伸工程前の流延膜の搬送速度)で求められる。
第1延伸装置3でのMD延伸については、従来公知の方式、代表的には、ヒーター加熱方式やオーブン加熱方式を用いることができる。
ヒーター加熱方式は、延伸前の流延膜22を搬送する低速ローラー群と、延伸後の流延膜22を搬送する高速ローラー群との間に設置されたヒーターにより瞬時に延伸温度にまで昇温し、比較的短い延伸スパンで延伸する方式である。延伸に伴う幅収縮は、延伸スパンが短いほど小さく抑えられるため、低速ローラー群と高速ローラー群との間隔はできるだけ短いことが好ましい。低速ローラー群では、フィルムの粘着や擦り傷が発生しない範囲でなるべく延伸温度に近い温度まで予熱しておくことが好ましい。
オーブン加熱方式は、低速ローラー群と高速ローラー群との間にオーブンを設置し、このオーブンの中に予熱ゾーン、延伸ゾーン、冷却ゾーンを設けて、比較的長い延伸スパンで延伸する方式である。
ヒーター加熱方式は、幅収縮量を小さく抑えられ、広幅フィルムの製膜に有利であること、比較的省スペースで設置できることなどの利点がある。一方、オーブン加熱方式は、位相差の幅手均一性が高いこと、擦り傷や粘着故障が出にくいことなどの利点がある。上述の2種の加熱方式は、使用する材料や必要な物性などを考慮して適宜選択されればよいが、本実施形態では、流延膜22の表面欠陥を抑える観点から、オーブン加熱方式を採用している。このとき、オーブン内は、フィルム(流延膜)通路の上下に配置されたノズルから吹き出された熱風の間をノズルに接触しないように、フィルムを浮かせながら非接触で搬送しつつ延伸するフローティングが好ましい。以下、オーブン加熱方式を採用した第1延伸装置3の詳細について説明する。
図2は、第1延伸装置3の詳細な構成を示す、搬送方向に沿った断面図である。第1延伸装置3は、流延膜22の搬送方向上流側から順に、予熱ゾーンZ1と、延伸ゾーンZ2と、冷却ゾーンZ3とを有している。予熱ゾーンZ1では、流延膜22が延伸前に加熱される。延伸ゾーンZ2では、予熱ゾーンZ1から搬送される流延膜22が、図示しないローラーにより搬送方向(MD方向)に延伸される。冷却ゾーンZ3では、延伸された流延膜22が冷却される。予熱ゾーンZ1の温度は例えば220℃であり、延伸ゾーンZ2の温度は例えば200℃であり、冷却ゾーンZ3の温度は例えば80℃であるが、これらの温度は、流延膜22の材料(製造するアクリル系樹脂フィルムの材料)や延伸倍率等の延伸条件によって適宜設定されればよい。
予熱ゾーンZ1及び延伸ゾーンZ2には、加熱風を吹き出すノズル41が、流延膜22の搬送方向に向かって、上下に千鳥状に配置されており、上下のノズル41・41の間を流延膜22が搬送される。なお、図2では、便宜上、予熱ゾーンZ1におけるノズル41の図示を省略している。なお、図3に示すように、複数のノズル41は、上下方向に対向配置されていてもよい。
流延膜22の上方又は下方において、搬送方向のノズル41の配置ピッチpは、100〜1000mmであり、より好ましくは250〜500mmである。また、上下のノズル41・41の距離dは、−50〜50mmであり、より好ましくは10〜30mmである。なお、図3のようにノズル41・41が対向配置される場合、ノズル41・41の距離dは0mmよりも大きく設定される。また、ノズル41から加熱風を吹き出すときの吹出速度(風速)は、10〜40m/secであり、より好ましくは20〜30m/secである。
本実施形態では、延伸ゾーンZ2の搬送方向の長さをL(m)とし、幅手方向の長さをW(m)とすると、幅手方向に均一な品質を得る観点から、L/Wが1以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましい。なお、L/Wが3以上であると、延伸ゾーンZ2が搬送方向に長くなり、装置全体が搬送方向に大型化することが懸念されるが、延伸ゾーンZ2にて高風速(=高伝熱)で流延膜22を加熱することにより、予熱ゾーンZ1及び冷却ゾーンZ3を搬送方向に短くして、装置全体を搬送方向にコンパクトにすることができる。
なお、加熱風が高風速の場合、流延膜22の端部がバタツキ、ノズル41との接触で流延膜22の表面にキズが入ったり、破断に至る可能性がある。しかし、流延膜22の弾性に応じて、ノズル41の配置ピッチpや上下のノズル41・41間の距離dを上記範囲で調整することにより、流延膜22のバタツキを抑えて表面欠陥を抑えつつ、高風速を実現することができる。
また、本実施形態では、予熱ゾーンZ1と延伸ゾーンZ2との間にエアカーテンC1を生成し、延伸ゾーンZ2と冷却ゾーンZ3との間にエアカーテンC2を生成しながら、流延膜22を予熱ゾーンZ1、延伸ゾーンZ2、冷却ゾーンZ3の順に通過させている。ここで、エアカーテンC1・C2は、図示しないノズルからの空気の吹き出しによって生成される一種の壁であり、隣り合うゾーンの空気(加熱風)が混ざり合って温度が変化したり、流延膜22の搬送に伴う同伴風が下流側のゾーンに流れ込むのを防ぐ目的で生成されている。
第1延伸装置3の隣り合うゾーンを、例えば隔壁で仕切る場合、隔壁の隙間(流延膜22が通過する隙間)によっては、流延膜22が搬送時にバタつくと、流延膜22が隔壁に接触して表面に傷が入ったり、損傷する場合がある。しかし、上記のようにエアカーテンC1・C2を生成することで、流延膜22のバタツキによる表面の損傷の心配がなくなる。
なお、隔壁において流延膜22が通過する隙間を大きく形成することで、流延膜22のバタツキによる表面の損傷を回避することも可能である。しかし、この場合は、流延膜22の搬送時に、隔壁の隙間を介して同伴風が下流側に流れ込みやすくなるため、上記のようにエアカーテンC1・C2を生成して流延膜22を搬送することが望ましい。
また、オーブン(第1延伸装置3)の入口よりも上流側、及び出口よりも下流側には、サクションローラーやガイドローラーなど、フィルム(流延膜)を安定に搬送可能な抱き角で周面に巻き付けて保持、搬送するローラーが配置されている。以下、この点について説明する。
図4は、第1延伸装置3の搬送方向上流側及び下流側のローラーの配置例を模式的に示す断面図である。第1延伸装置3の搬送方向上流側には、少なくとも1本の張力規制ローラー51が設けられており、本実施形態では、3本の張力規制ローラー51が設けられている。これらの張力規制ローラー51は、上述の低速ローラー群に対応している。
張力規制ローラー51は、第1延伸装置3による流延膜22のMD延伸によって、流延膜22の無端ベルト11との剥離部にかかる搬送方向の張力を規制(緩和)するために設けられている。このような張力規制ローラー51を設けることにより、MD延伸時に上記剥離部にかかる張力が緩和され、上記剥離部にて流延膜22が無理に搬送方向に引っ張られることがない。これにより、流延膜22の剥離位置の変動を抑えることができ、所定の残留溶媒量(後述する)で流延膜22を剥離して搬送することができる。
張力規制ローラー51における流延膜22の抱き角αは、180°以上に設定されることが望ましく、図4では、抱き角αはほぼ270°となっている。なお、抱き角αとは、張力規制ローラー51の周面に流延膜22が接している状態において、周面上での上流側接点と、ローラーの中心軸と、周面上での下流側接点とのなす角度を指す。図4では、張力規制ローラー51の上流側及び下流側にそれぞれ補助ローラー52・53を配置し、補助ローラー52と張力規制ローラー51との間、張力規制ローラー51と補助ローラー53との間を通って流延膜22が張力規制ローラー51の周面に巻き付くようにすることで、上記の抱き角(270°)を実現している。
このように、180°以上の抱き角αを確保することで、張力規制ローラー51の周面で流延膜22が確実に保持されるので、MD延伸時の張力を張力規制ローラー51で確実にカットして、流延膜22の剥離位置の変動を確実に抑えることができる。
張力規制ローラー51の本数が多いと、装置の大型化につながるため、張力規制ローラー51は1〜10本設けられることが好ましく、1〜3本設けられることがより好ましい。
一方、第1延伸装置3の搬送方向下流側には、少なくとも1本の搬送ローラー54が設けられており、本実施形態では、3本の搬送ローラー54が設けられている。これらの搬送ローラー54は、上述の高速ローラー群に対応しており、第1延伸装置3でのMD方向の延伸倍率に応じた速度で流延膜22を搬送する。例えば、MD方向の延伸倍率が2倍であれば、搬送ローラー54は、延伸前の2倍の速度で流延膜22を搬送することになる。
搬送ローラー54における流延膜22の抱き角αは、上流側の張力規制ローラー51と同様に、180°以上に設定されている。図4では、搬送ローラー54の上流側及び下流側にそれぞれ補助ローラー55・56を配置し、補助ローラー55と搬送ローラー54との間、搬送ローラー54と補助ローラー56との間を通って流延膜22が搬送ローラー54の周面に巻き付くようにすることで、抱き角αを270°にしている。このような180°以上の抱き角αにより、MD延伸後の流延膜22を搬送ローラー54の周面で確実に保持して搬送することができる。
搬送ローラー54の本数が多いと、装置の大型化につながるため、搬送ローラー54は1〜10本設けられることが好ましく、1〜3本設けられることがより好ましい。
図5は、第1延伸装置3の搬送方向上流側及び下流側のローラーの他の配置例を模式的に示す断面図である。同図に示すように、張力規制ローラー51を上流側から下流側に向かって上下に交互に配置し、搬送ローラー54を上流側から下流側に向かって上下に交互に配置することで、張力規制ローラー51及び搬送ローラー54の抱き角αを180°に設定して流延膜22を搬送するようにしてもよい。この場合でも、上記と同様の効果を得ることができる。
また、図6は、第1延伸装置3の搬送方向上流側のローラーの他の構成例を示す、幅手方向に沿った断面図である。同図に示すように、第1延伸装置3の搬送方向上流側に、1本の張力規制ローラー51を配置するとともに、張力規制ローラー51との間で流延膜22の幅手方向の両端部をニップする補助ローラー57・57を配置してもよい。
このように、流延膜22の幅手方向の端部を、張力規制ローラー51と補助ローラー57とによってニップ(サイドニップ)することによっても、MD延伸時の流延膜22の搬送方向の張力を規制(緩和)することができるので、流延膜22の剥離位置の変動を抑えることができる。なお、流延膜22の端部は、通常、製品として使用されないため、ニップによって流延膜22の端部表面に傷等の欠陥が生じても差し支えない。
なお、図6で示したローラーの構成は、第1延伸装置3の下流側のローラーにも勿論適用することができる。
(第2延伸装置)
図1で示した第2延伸装置4は、第1延伸装置3にて延伸された流延膜22を、必要に応じて、MD方向又はTD方向に追加延伸する第2の延伸工程を行うものである。本実施形態では、第2延伸装置4は、流延膜22を加熱して溶媒を除去しながらTD方向に延伸する。溶媒除去手段としては、乾燥風を使用することができるが、特に限定はなく、この他に、例えば赤外線ヒーターなどの加熱手段を使用することもできる。
第2延伸装置4における乾燥条件は、この第2延伸装置4による延伸開始時の流延膜22の残留溶媒量に応じて好適温度が異なるが、乾燥時間、収縮ムラ、伸縮量の安定性等を考慮し、また、無理のない延伸を実現し、製造されたアクリル系樹脂フィルムのボイドのない良好な乾燥性や平面性や膜厚均一性の確保及び弾性率や光学特性の確保の観点から、一定の温度で乾燥してもよいし、3〜4段階の温度に分けて、数段階の温度に分けて乾燥してもよい。
第2の延伸工程にて、TD方向に延伸する場合の延伸倍率は、(第2の延伸工程後の流延膜の幅)/(第2の延伸工程前の流延膜の幅)で求められる。なお、流延膜の幅は、C型JIS1級の鋼製スケールで測定した値を採用することができる。
第2延伸装置4でTD延伸する際に使用するテンターは、特に限定はなく、汎用性や操作の容易さの観点から、例えば、クリップテンター、ピンテンター等が挙げられ、必要に応じて選択し使用することが可能である。
(乾燥装置)
乾燥装置5は、第1の延伸工程でMD延伸され、第2の延伸工程でTD延伸された流延膜22を乾燥する乾燥工程(熱処理工程)を行うものである。この乾燥装置5は、乾燥風取入口5bと排出口5cとを有する乾燥箱5aと、流延膜22を搬送する上部の搬送ローラー5dと下部の搬送ローラー5eとを備えている。上部の搬送ローラー5dと下部の搬送ローラー5eとは、上下一組で、複数組から構成されている。
乾燥装置5に配設される搬送ローラー5d・5eの数は、乾燥条件、乾燥方法、製造されるアクリル系樹脂フィルムの長さ等により異なり、適宜設定されればよい。上部の搬送ローラー5dと下部の搬送ローラー5eとは、駆動源によって回転駆動されない自由回転ローラーとなっている。また、乾燥装置5から巻取装置6までの間には、全て自由回転する搬送ローラーが用いられるわけではなく、通常、1本〜数本の搬送用駆動ローラー(駆動源によって回転駆動するローラー)の設置を必要とする。基本的に、搬送用駆動ローラーは、その駆動で流延膜22を搬送するのが目的であるので、ニップやサクション(エアーの吸引)等により、流延膜22の搬送と、駆動ローラーの回転とを同期させる機構が付いている。
乾燥装置5では、加熱空気、赤外線等を単独で用いて乾燥してもよいし、加熱空気と赤外線とを併用して乾燥してもよい。簡便さの点から加熱空気を用いることが好ましい。なお、図1は加熱空気を使用した場合を示している。乾燥温度の好適な温度は、乾燥工程に入るときの流延膜22の残留溶媒量により異なるが、乾燥時間、収縮ムラ、伸縮量の安定性等を考慮し、例えば30〜180℃の範囲で残留溶媒量により適宜選択して決めればよい。また、一定の温度で乾燥してもよいし、3〜4段階の温度に分けて、数段階の温度に分けて乾燥してもよい。
乾燥装置5での乾燥処理後の流延膜22の残留溶媒量は、この乾燥工程の負荷、保存時の寸法安定性や伸縮率等を考慮し、0.01〜0.5質量%の範囲が好ましい。なお、本実施形態では、流延装置2で形成された流延膜22が乾燥装置5で徐々に溶媒が除去され、全残留溶媒量が例えば2質量%以下となった流延膜22をフィルムという場合がある。
(巻取装置)
巻取装置6は、乾燥装置5で、所定の残留溶媒量となったアクリル系樹脂フィルムを必要量の長さに巻き芯にローラー状に巻き取る。巻き取る際の温度は、巻き取り後の収縮による擦り傷、巻き緩み等を防止するために室温まで冷却することが好ましい。使用する巻取り機は、特に限定なく使用でき、一般的に使用されているものでよい。例えば、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントローラー法等の巻き取り方法によって巻き取る巻き取り機を使用することができる。
以上の乾燥装置5及び巻取装置6により、MD延伸された流延膜22を乾燥させてアクリル系樹脂フィルムFとして巻き取る乾燥巻取工程が行われる。
本実施形態においては、製造されたアクリル系樹脂フィルムの薄膜での用途を考慮し、更に製造されたフィルムのカールや皺等を防止する観点から、膜厚が10〜80μmの範囲のフィルムを製造するものである。
〈アクリル系樹脂フィルムの製造条件〉
次に、上述した製造装置1によって製造されるアクリル系樹脂フィルムの製造条件について説明する。
(残留溶媒量)
無端ベルト11上で形成された流延膜22を無端ベルト11から剥離するときの流延膜22の残留溶媒量(剥離時の流延膜22の残留溶媒量)は、無端ベルト11からの流延膜22の剥離性、剥離後の流延膜22の搬送性、延伸時のテンターによる保持性、製造されたアクリル系樹脂フィルムの外観や光学特性等を考慮して、150質量%以下であることが好ましい。ただし、流延膜22の残留溶媒量が多いと、加熱装置13による無端ベルト11上での急速加熱によって内部の溶媒が沸騰し、流延膜22が発泡しやすくなり、幅手方向の膜厚にムラが生じやすくなる。このため、剥離時の流延膜22の残留溶媒量は、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
また、ベルト11から剥離された流延膜22は、MD延伸前に図示しない乾燥工程等によって乾燥されることから、MD延伸開始時の流延膜22の残留溶媒量は、上記よりもさらに低下する。このことを考慮すると、MD延伸開始時の流延膜22の残留溶媒量は、5〜740質量%の範囲であることが好ましく、5〜30質量%の範囲であることがより好ましく、5〜20質量%の範囲であることがより一層好ましく、5〜8質量%の範囲であることがさらに好ましい。
ここで、上記の残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ただし、Mは流延膜又はフィルムを製造中又は製造後の任意の時点で採取した試料の質量であり、Nは質量Mのものを115℃で1時間の加熱した後の質量である。
(延伸応力)
第1延伸装置3によるMD延伸工程において、流延膜22に付与される延伸方向の張力(延伸応力)は、800N/m以下(幅1mあたり800N以下)であることが好ましく、400N/m以下であることがより好ましい。本実施形態では、上述のように、無端ベルト11から剥離される流延膜22は、溶媒を含んだ状態で剥離される。このため、流延膜22は柔らかく、延伸応力が800N/mを超えると、MD延伸時に流延膜22に擦り傷や押され欠陥などの表面欠陥が生じやすくなる。
したがって、本実施形態のように、MD延伸開始時の流延膜22の残留溶媒量と、MD延伸工程において流延膜22に付与される延伸方向の張力とを上記のように規定することにより、流延膜22の発泡によって幅手方向の膜厚ムラが生じるのを抑え、幅手方向の膜厚を均一化しながら、MD延伸時に生じる表面欠陥を抑えることができ、製造されるアクリル系樹脂フィルムの品質を良好にかつ十分に確保することができる。
(搬送速度)
MD延伸前の流延膜22の搬送速度は、5〜120m/minであることが好ましく、10〜80m/minであることがより好ましい。流延膜22を低速で搬送することで、無端ベルト11の移動速度を低速にすることができ、これによって、ドープ21の流延時に泡を巻き込みにくくなる。その結果、無端ベルト11上での乾燥時に流延膜22が発泡するのを抑えることができる。なお、MD延伸後は流延膜22を高速で搬送できるので、アクリル系樹脂フィルムの全体の生産速度が低下するのを抑えることができる。
(流延膜の幅)
流延膜22のMD延伸前の幅は、500〜3000mmであることが好ましく、900〜2500mmであることがより好ましい。また、流延膜22のMD延伸後の幅(製造されるアクリル系樹脂フィルムの幅)は、500〜3000mmであることが好ましく、900〜2300mmであることがより好ましい。
(流延膜の厚さ)
流延膜22のMD延伸前の厚さは、5〜300μmであることが好ましく、20〜240μmであることがより好ましい。また、流延膜22のMD延伸後の厚さ(製造されるアクリル系樹脂フィルムの厚さ)は、5〜180μmであることが好ましく、10〜80μmであることがより好ましい。ここで、膜厚とは、サンプリングして105℃で2hr乾燥させた後に測定した膜厚とする。
(MD及びTD延伸条件)
MD延伸、TD延伸を行う際の延伸温度は、30〜250℃であることが好ましく、120〜200℃であることがより好ましい。また、MD延伸倍率((MD延伸後の流延膜の搬送速度)/(MD延伸前の流延膜の搬送速度))は、1.5倍から4.0倍であることが好ましく、2.00倍から3.5倍であることがより好ましい。TD延伸倍率は、((TD延伸後の流延膜の幅)/(TD延伸前の流延膜の幅))1.5倍から4.0倍であることが好ましく、2.0倍から3.5倍であることがより好ましい。
〔6〕アクリル系樹脂フィルムの物性
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、下記式(i)で定義されるリターデーション値Roが、0〜10nmの範囲内であり、下記式(ii)で定義されるリターデーション値Rtが、−10〜10nmの範囲内であることが、IPS型液晶表示装置用の位相差フィルムとして好ましい。
式(i)
Ro=(n−n)×d
式(ii)
Rt={(n+n)/2−n}×d
上記式(i)及び(ii)において、Roはフィルムの面内方向のリターデーション値、Rtはフィルムの厚さ方向のリターデーション値、nはフィルムの面内の遅相軸方向の屈折率、nはフィルムの面内の進相軸方向の屈折率、nはフィルムの厚さ方向の屈折率(屈折率は23℃、55%RHの環境下、波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。
面内方向のリターデーション値Ro、及び厚さ方向のリターデーション値Rtは自動複屈折率計アクソスキャン(AxoScan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃・55%RHの環境下、590nmの波長において、三次元屈折率測定を行い、得られた屈折率n、n、nから算出することができる。
上記で規定する式(i)で定義されるリターデーション値Roが、0〜10nmの範囲内、式(ii)で表されるリターデーション値Rtが−20〜20nmの範囲内とは、面内方向のリターデーション値Ro(nm)及びフィルムの厚さ方向のリターデーション値Rt(nm)がほぼゼロのポリマー層であること意味する。
当該ポリマー層の面内のリターデーション値Ro及び厚さ方向のリターデーション値Rtをほぼゼロとすることにより、当該ポリマー層側をIPS型液晶セルに貼合したとき、得られるIPS型液晶表示装置における黒表示時の光漏れを効果的に防止することができる。また、ポリマー層の厚さが薄いことから、偏光板及び液晶表示装置の更なる薄型軽量化を図ることが可能となる。
後述する実施例において、本発明のアクリル系樹脂フィルムのリターデーション値Roは0〜10nmの範囲内にあり、リターデーション値Rtは−10〜10nmnmの範囲内にあることを確認した。
〔7〕偏光板
本発明の偏光板は、本発明のアクリル系樹脂フィルムが、紫外線硬化型接着剤又は水系接着剤を用いて、偏光子の少なくとも一方の面に貼合されている構成である。
また、本発明の偏光板が視認側の偏光板として用いられる場合は、偏光板用の保護フィルムには、防眩層又はクリアハードコート層、反射防止層、帯電防止層、防汚層等を設けることが好ましい。
〈偏光子〉
本発明の偏光板の主たる構成要素である偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムである。ポリビニルアルコール系偏光フィルムには、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものとがある。
偏光子としては、ポリビニルアルコール水溶液を用いて製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行った偏光子が用いられ得る。偏光子の膜厚は、3〜30μmの範囲内であることが好ましい。
また、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールも好ましく用いられる。中でも、熱水切断温度が66〜73℃であるエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムが好ましく用いられる。このエチレン変性ポリビニルアルコールフィルムを用いた偏光子は、偏光性能及び耐久性能に優れている上に、色ムラが少なく、表示装置に特に好ましく用いられ、スマートフォンやタブレット等の中小型液晶表示装置に好適である。
また、薄膜な偏光子は、例えば、熱可塑性樹脂層上に親水性高分子層を塗布方式で積層した後、好ましくは延伸処理を施して延伸積層体を形成し、次いで二色性物質で該親水性高分子層を染色処理して偏光機能を付与した後、該熱可塑性樹脂層を剥離して偏光子とすることが好ましい。当該偏光子は最終的に前記親水性高分子層のことを指し、前記熱可塑性樹脂層を剥離するため、その膜厚は15μm以下という薄膜化が可能である。
前記熱可塑性樹脂層は、親水性高分子層を形成するための基材として機能する。用いられる熱可塑性樹脂層は、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)を含むオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を含むエステル系樹脂がある。
熱可塑性樹脂層(延伸前)の厚さは、適宜に決定できるが、一般には強度や取扱性等の作業性、薄層性などの点より1〜500μm程度である。特に1〜300μmが好ましく、5〜200μmがより好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さは、5〜150μmの場合に特に好適である。
前記親水性高分子層は、親水性高分子を主成分として含有する層であり、該親水性高分子層は後述する染色処理によって二色性物質を吸着したものである。これにより、親水性高分子層が、本発明の偏光板において、薄膜な偏光子として機能することになる。
親水性高分子層を構成する親水性高分子については、特に制限はないが、ポリビニルアルコール系材料が好ましく例示される。
薄膜な偏光子は、熱可塑性樹脂層上に親水性高分子層を積層して積層体を形成し、更に延伸処理して延伸積層体を形成する。該延伸処理は、染色処理する後や同時に行ってもよいが、染色処理する前に行うことが、配向する親水性高分子の分子に沿って染色を可能にするため、均一な偏光特性を付与する観点からも好ましい。
例えば、熱可塑性樹脂層に、親水性高分子を含有する水溶液を塗布した後、乾燥、延伸することにより得ることができる。延伸処理は、一軸延伸、二軸延伸、斜め延伸などが施される。
続いて、二色性物質による染色処理することにより、親水性高分子層に二色性物質が吸着されて偏光子として機能するようになる。
当該延伸積層体を形成し偏光子を作製する詳細については、特開2011−100161号公報を参照することができる。
〈偏光板の作製〉
本発明の偏光板は、一般的な方法で作製することができる。本発明のアクリル系樹脂フィルムの偏光子対向面側を適宜表面処理し、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の少なくとも一方の面に、後述する水系接着剤(水糊ともいう。)や紫外線硬化型接着剤を用いて貼り合わせることができる。もう一方の面には、本発明のアクリル系樹脂フィルムを貼合したり他の偏光板保護フィルムを貼合する。偏光子との貼合の向きは、例えば、偏光子の吸収軸と各保護フィルムの遅相軸が直交するように貼合することが好ましい。
(水糊)
本発明の偏光板は、本発明の係るアクリル系樹脂フィルムを水系接着剤を用いて偏光子に貼り合わせることが、コスト及び密着性の観点から好ましい。
水系接着剤としては、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液からなる接着剤、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤等が挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルをケン化処理して得られるビニルアルコールホモポリマーのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体をケン化処理して得られるポリビニルアルコール系共重合体又はそれらのヒドロキシ基を部分的に変性した変性ポリビニルアルコール系重合体等を用いることができる。水系接着剤は、多価アルデヒド、水溶性エポキシ化合物、メラミン系化合物、ジルコニア化合物、亜鉛化合物等の添加剤を含むことができる。
水系接着剤を偏光子及び/又は本発明のアクリル系樹脂フィルムの貼合面に塗工し、これらのフィルムを接着剤層を介して貼合し、好ましくは貼合ローラー等を用いて加圧し密着させることにより貼合工程が実施される。水系接着剤の塗工方法は特に制限されず、流延法、マイヤーバーコート法、グラビアコート法、カンマコーター法、ドクタープレート法、ダイコート法、ディップコート法、噴霧法等の従来公知の方法を用いることができる。
偏光子上に、本発明のアクリル系樹脂フィルムを貼合するにあたり、フィルムの貼合面には、偏光子との接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理等の表面処理(易接着処理)を行うことができ、中でも、プラズマ処理、コロナ処理又はケン化処理を行うことが好ましい。例えば、アクリル系樹脂フィルムの場合、通常プラズマ処理やコロナ処理が行われる。また、他の保護フィルムが、セルロースエステルフィルムからなる場合には、通常ケン化処理が行われる。ケン化処理としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ水溶液に浸漬する方法が挙げられる。
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、液晶表示装置とされた際に、偏光子の液晶セル側に設けられることが好ましく、偏光子の外側のフィルムは、セルロースエステルフィルム、他のアクリル系樹脂フィルム等の従来の偏光板保護フィルムを用いることが好ましい。
(紫外線硬化型接着剤)
本発明の偏光板においては、本発明のアクリル系樹脂フィルムと偏光子とが、紫外線硬化型接着剤により接着されていることが好ましい。
本発明においては、保護フィルムと偏光子との貼合に紫外線硬化型接着剤を適用することにより、薄膜でも強度が高く、平面性に優れた偏光板を得ることができる。
〈紫外線硬化型接着剤の組成〉
偏光板用の紫外線硬化型接着剤組成物としては、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、並びに光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用したハイブリッド型組成物が知られている。
光ラジカル重合型組成物としては、特開2008−009329号公報に記載のヒドロキシ基やカルボキシ基等の極性基を含有するラジカル重合性化合物及び極性基を含有しないラジカル重合性化合物を特定割合で含む組成物)等が知られている。特に、ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の好ましい例には、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例には、N置換(メタ)アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物などが含まれる。(メタ)アクリルアミドは、アクリアミド又はメタクリアミドを意味する。
また、光カチオン重合型組成物としては、特開2011−028234号公報に開示されているような、(α)カチオン重合性化合物、(β)光カチオン重合開始剤、(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤、及び(δ)ナフタレン系光増感助剤の各成分を含有する紫外線硬化型接着剤組成物が挙げられる。ただし、これ以外の紫外線硬化型接着剤が用いられてもよい。
(1)前処理工程
前処理工程は、保護フィルムの偏光子との接着面に易接着処理を行う工程である。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
(紫外線硬化型接着剤の塗布工程)
紫外線硬化型接着剤の塗布工程としては、偏光子と偏光板用の保護フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記紫外線硬化型接着剤を塗布する。偏光子又は保護フィルムの表面に直接、紫外線硬化型接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特段の限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の湿式塗布方式が利用できる。また、偏光子と保護フィルムの間に、紫外線硬化型接着剤を塗布したのち、ローラー等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。
(貼合工程)
上記の方法により紫外線硬化型接着剤を塗布した後は、貼合工程で処理される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子の表面に紫外線硬化型接着剤を塗布した場合、そこにアクリル系樹脂フィルムが重ね合わされる。また、アクリル系樹脂フィルムの表面に紫外線硬化型接着剤を塗布する方式の場合には、そこに偏光子が重ね合わされる。また、偏光子と保護フィルムの間に紫外線硬化型接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子と保護フィルムとが重ね合わされる。そして、通常は、この状態で両面の保護フィルム側から加圧ローラー等で挟んで加圧することになる。加圧ローラーの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置される加圧ローラーは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
(硬化工程)
硬化工程では、未硬化の紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射して、カチオン重合性化合物(例えば、エポキシ化合物やオキセタン化合物)やラジカル重合性化合物(例えば、アクリレート系化合物、アクリルアミド系化合物等)を含む紫外線硬化型接着剤層を硬化させ、紫外線硬化型接着剤を介して重ね合わせた偏光子と本発明のアクリル系樹脂フィルムを接着させる。偏光子の両面に保護フィルムを貼合する構成においては、偏光子の両面にそれぞれ紫外線硬化型接着剤を介して保護フィルムを重ね合わせた状態で、紫外線を照射し、両面の紫外線硬化型接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
紫外線の照射条件は、本発明に適用する紫外線硬化型接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は積算光量で50〜1500mJ/cmの範囲であることが好ましく、100〜500mJ/cmの範囲であるのがさらに好ましい。本発明ではアクリル系樹脂フィルム側から紫外線照射することが歩留り向上の点でも好ましい。
前記偏光子の保護フィルムが貼合されている面とは反対側の面には、前記他の保護フィルムが、水糊又は紫外線硬化型接着剤を用いて偏光子と貼合されていることが好ましい。
当該保護フィルムが、セルロースエステルフィルムの場合は、偏光子と貼合される面がケン化処理され、ポリビニルアルコール系水糊によって貼合されることが好ましい。
〔8〕液晶表示装置
上記本発明のアクリル系樹脂フィルムを貼合した本発明の偏光板を液晶表示装置に用いることによって、種々の視認性に優れた本発明の液晶表示装置を作製することができる。
本発明の偏光板は、STN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS、OCBなどの各種駆動方式の液晶表示装置に用いることができる。好ましくはIPS型液晶表示装置である。
液晶表示装置には、通常視認側の偏光板とバックライト側の偏光板の2枚の偏光板が用いられるが、本発明の偏光板を両方の偏光板として用いることも好ましく、片側の偏光板として用いることも好ましい。
IPS型液晶表示装置における上記偏光板の貼合の向きは、特開2005−234431号公報を参照して行うことができるが、液晶表示装置の種類(テレビジョン、スマートフォン、タブレット等)によって最適な方向で貼合される。
本発明に用いる液晶セルは、液晶層と、前記液晶層を挟持する一対の基板とを含み、前記一対の基板の厚さは、0.075〜0.400mmの範囲であることが好ましく、0.075〜0.300mmの範囲内のガラス基板であることが、液晶表示装置の薄型化、軽量化の観点からより好ましい。
図7は、上記説明した本発明の偏光板101A及び101Bを液晶セル101Cの両面に配置した液晶表示装置100の構成の一例を示す概略断面図である。
図7において、液晶層107の両面を、透明基材としてガラス基板108A及び108Bで挟持して液晶セル101Cを構成し、それぞれのガラス基板108A及び108Bのそれぞれの表面に、粘着層106を介して、図4に示す構成の偏光板101A及び101Bが配置されて、液晶表示装置100を構成している。
当該偏光板101A及び101Bにおいて、本発明では、少なくともアクリル系樹脂フィルムが、105の位置に、アクリル系樹脂フィルム又は他の保護フィルムが102の位置に貼合されていることが好ましい。本発明に用いられる偏光板保護フィルムはそれぞれ紫外線硬化型接着剤103A、103Bによって偏光子104に貼合されている。特に、IPS型液晶表示装置であることが好ましい。
液晶セル101Cは、液晶物質の両面を配向膜、透明電極及びガラス基板(108A及び108B)が配置されて構成している。
耐久性、平面性等に優れ、歩留りも改善した本発明の偏光板を液晶表示装置に具備することにより、液晶セルを構成するガラス基材を薄膜化してもパネルの反りを生じにくくすることができ、その結果、薄膜化が達成された液晶表示装置を得ることができる。
液晶セル101Cに用いることのできるガラス基板108A及び108Bを構成する材質としては、例えば、ソーダライムガラス、ケイ酸塩ガラスなどが挙げられ、ケイ酸塩ガラスであることが好ましく、具体的には、シリカガラス又はホウケイ酸ガラスであることがより好ましい。
ガラス基板を構成するガラスは、アルカリ成分を実質的に含有していない無アルカリガラスであること、具体的には、アルカリ成分の含有量が1000ppm以下であるガラスであることが好ましい。ガラス基板中のアルカリ成分の含有量は、500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましい。アルカリ成分を含有するガラス基材は、フィルム表面で陽イオンの置換が発生し、ソーダ吹きの現象が生じやすい。それにより、フィルム表層の密度が低下しやすく、ガラス基板が破損しやすいからである。
液晶表示装置を構成する液晶セルのガラス基板108A及び108Bの厚さは、0.075〜0.300mmの範囲内であることが好ましい。このような厚さとすることは、液晶表示装置の薄型化形成に寄与することができる点で好ましい。
ガラス基板は、公知の方法、例えばフロート法、ダウンドロー法、オーバーフローダウンドロー法などにより成形されうる。中でも、成形時にガラス基材の表面が成形部材と接触せず、得られるガラス基材の表面に傷がつきにくいことなどから、オーバーフローダウンドロー法が好ましい。
また、このようなガラス基板は、市販品としても入手することができ、例えば、日本電気硝子社製のガラス基材等を挙げることができる。
また、図7に示すような偏光板101A、101Bと、液晶セル101Cを構成するガラス基板108A、108Bとは、粘着層106を介して接着されている。
粘着層としては、両面テープ、例えば、リンテック社製の厚さ25μmの両面テープ(基材レステープ MO−3005C)等や、又は前記活性光線硬化型樹脂層の形成に用いる組成物を適用することができる。
本発明の偏光板が用いられた液晶表示装置は、本発明の効果以外にも、層間の密着性に優れ、退色耐性、表示画像のエッグムラ耐性等に優れる利点を有する。
偏光板の位相差フィルム側の表面と、液晶セルの少なくとも一方の表面との貼合は、公知の手法により行われる。場合によっては、接着層を介して貼合されてもよい。
また、本発明の液晶表示装置は、図7の102A上にさらにカバーガラスがボンディング剤(光学性両面テープ:OCAや、光学性透明接着レジン:OCR等)を介して貼合される。本発明の液晶表示装置はパネルの反りが小さいことから、貼合に際して気泡等の発生を低減することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
<実施例で使用する材料>
[アクリル系熱可塑性樹脂]
〈比較のアクリル系熱可塑性樹脂1(比較1と表記)〉
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管、滴下ロートを備えた反応容器に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)15部、メタクリル酸メチル(MMA)26.8部、アクリル酸メチル(MA)10部、N−ビニルカルバゾール(NVCz)6.4部、トルエン37部及びメタノール2部を仕込んだ。この反応容器に窒素ガスを導入しながら、95℃まで昇温させ、還流開始したところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富社製「ルペロックス(登録商標)575」)0.06部を添加し、同時に、MHMA15部、MMA26.8部、トルエン28部及びt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.15部の混合物の滴下を開始した。この混合物を8時間かけて滴下しながら、還流下、約90℃〜100℃で溶液重合を行った。このとき重合開始(混合物の滴下開始)5時間後から、3時間かけて13.3部のトルエンを別途滴下し、重合液を希釈した。
次いで、得られた共重合体溶液に、環化触媒としてリン酸ステアリル(堺化学工業社製「Phoslex A−18」)0.2部を添加し、80℃〜105℃の還流下で2時間、環化縮合反応を行った。その後、16.6部のメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加し、得られた共重合体溶液を希釈した。
次いで、得られた共重合体溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温させ、バレル温度240℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個及びフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)で、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で100部/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.86部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.5部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。なお、酸化防止剤/環化触媒失活剤混合溶液は、フェノール系酸化防止剤として1.35部のペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASFジャパン社製「Irganox(登録商標)1010」)と、チオエーテル系酸化防止剤として1.35部のペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)(ADEKA社製「アデカスタブ(登録商標)AO−412S」)と、環化触媒失活剤として9.7部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業社製「ニッカオクチックス亜鉛18質量%」)とを、トルエン87.6部に溶解して調製した(「Irganox1010」及び「AO−412S」は樹脂中に各々0.025質量%含有することになる)。上記脱揮工程後、生じた樹脂(分子内環化メタクリル系共重合体)をペレット化して、アクリル系熱可塑性樹脂のペレットを得た。得られたアクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は87000、数平均分子量(Mn)は37000、ガラス転移温度(Tg)は130℃であった。
(重量平均分子量、及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー(株)製HLC−8220)を用いて、溶媒はテトラヒドロフラン、設定温度40℃で、市販標準PMMA換算により求めた。)
(ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(パーキンエルマージャパン(株)製Diamond DSC)を用いて、窒素ガス雰囲気下、α−アルミナをリファレンスとし、JIS−K−7121に準拠して、得られたDSC曲線から中点法で算出した。DSC曲線は、試料約10mgを40℃で5分間保持した後、20℃/minで200℃まで昇温し、引き続き40℃まで冷却後、40℃で1分間保持し、その後200℃まで昇温速度10℃/minで昇温する条件により得た。)
〈比較のアクリル系熱可塑性樹脂2(比較2と表記)〉
アクリル系熱可塑性樹脂として、上記比較1の合成と同様にして、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチルの質量比96/4の共重合体を合成した。得られたアクリル系熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)は90000、数平均分子量(Mn)は39000、ガラス転移温度(Tg)は100℃であった。
〈本発明のアクリル系熱可塑性樹脂1(本発明1と表記)〉
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、開始剤溶液導入ノズル、及び重合溶液排出ノズルを備えたSUS製反応器(容量0.5L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度はオイルバスで130℃に制御した。
メタクリル酸メチル(MMA)576g、N−フェニルマレイミド(NPheMI)
61g、N−シクロヘキシルマレイミド(N−CyMI)83g、メチルイソブチルケトン480gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。パーヘキサC(日油(株)製;濃度75質量%)8.63gをメチルイソブチルケトン91.37gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液はポンプを用いて8.25ml/minで原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はポンプを用いて0.08ml/minで開始剤溶液導入ノズルから導入した。30分後、重合溶液排出ノズルから抜き出しポンプを用いて500ml/hrの一定流量でポリマー溶液を排出した。
ポリマー溶液は、排出から1.5時間分は初流タンクに分別回収した。排出開始から、1.5時間後から2.5時間のポリマー溶液を本回収した。得られたポリマー溶液と、抽出溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥して、メタクリル酸メチル/N−フェニルマレイミド/N−シクロヘキシルマレイミド重合体であるアクリル系熱可塑性樹脂1を得た。
組成:MMA/N−PheMI/N−CyMI=81/8/11質量%
分子量:Mw=22.5×10;Mw/Mn=2.09
Tg:135℃
〈本発明のアクリル系熱可塑性樹脂2(本発明2と表記)〉
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素ガス導入ノズル、原料溶液導入ノズル、及び開始剤溶液導入ノズルを備えたガラス製反応器(容量1.0L)を用いた。重合反応器の圧力は、微加圧、反応温度はオイルバスで100℃に制御した。
メタクリル酸メチル(MMA)192g、N−フェニルマレイミド(NPheMI)
34g、N−シクロヘキシルマレイミド(N−CyMI)46g、メチルイソブチルケトン160gを混合した後、窒素ガスで置換して原料溶液を調製した。パーヘキシン25B(日油(株)製;濃度98質量%)0.6gをメチルイソブチルケトン3.0gに溶解した後、窒素ガスで置換して開始剤溶液を調整した。
原料溶液は圧送でガラス反応器内に原料溶液導入ノズルから導入した。また、開始剤溶液はシリンジで開始剤溶液導入ノズルから導入し重合反応を開始した。反応開始3時間後を反応終了点とし、ポリマー溶液を回収した。
得られたポリマー溶液と、貧溶媒であるメタノールを同時にホモジナイザーに供給し、乳化分散抽出した。分離沈降したポリマーを回収し、真空下、130℃で2時間乾燥してアクリル系熱可塑性樹脂2を得た。
組成:MMA/N−PheMI/N−CyMI=50/17/33質量%
分子量:Mw=17.7×10;Mw/Mn=2.46
Tg:135℃
[界面活性剤]
アニオン1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
アニオン2:リン酸エステル系(エレクトロストリッパーF:花王製)
カチオン1:ラウリルジメチルエチルアンモニウムエツルサルフェート
ノニオン1:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール
[衝撃改質剤]
ゴム粒子1:ゴム粒子1として、最内層、中間層、最外層からなる3層構造のアクリル系弾性重合体粒子を使用した。このアクリル系弾性重合体粒子は、最内層は、メタクリル酸メチルに少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された硬質の重合体、中間層は、アクリル酸ブチルを主成分とし、さらにスチレン及び少量のメタクリル酸アリルを用いて重合された軟質の弾性体、最外層は、メタクリル酸メチルに少量のアクリル酸エチルを用いて重合された硬質の重合体からなり、中間層である弾性体までの平均粒径が240nmである。
ゴム粒子2:ゴム粒子2として、以下の手順にて調製した。
<ゴム粒子2の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200質量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.023質量部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11質量部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004質量部
硫酸第一鉄 0.001質量部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、下記アクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物35.208部を105分かけて連続的に添加した。
(B−1)
アクリル酸ブチル 90質量部
メタクリル酸メチル 10質量部
メタクリル酸アリル 0.175質量部
クメンハイドロパーオキサイド 0.033質量部
(B−1)追加開始から12分目、37分目、62分目、87分目にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)を、各0.21部、0.21部、0.21部、0.137部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は98.5%であった。
その後、内温を60℃にし、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム0.11部、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、下記硬質重合体層(B−2)の原料混合物32.148部を96分間かけて連続的に添加し、さらに0.5時間重合継続した。このときの重合転化率は95.8%であった。
(B−2)
メタクリル酸メチル 52.25質量部
アクリル酸ブチル 4.00質量部
フェノキシエチルメタクリ レート 43.75質量部
クメンハイドロパーオキサイド 0.148質量部
その後、下記硬質重合体層(B−3)の原料混合物33.156部を99分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合継続し、多層構造重合体ラテックスを得た。重合転化率は98.1%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のゴム粒子2を得た。
(B−3)
メタクリル酸メチル 96質量部
アクリル酸ブチル 4質量部
クメンハイドロパーオキサイド 0.148質量部
ゴム粒子2の平均粒子径は133nmであり、グラフト率は99%であった。
エラストマー1:JSR(株)製TR2827(スチレン/ブタジエン:24/76)
〔実施例1〕
<アクリル系樹脂フィルム101の作製>
以下の方法で、溶液流延製膜法によりアクリル系樹脂フィルムを製造した。
(ドープの調製)
下記の材料を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過して、ドープを調製した。
(ドープ組成)
アクリル系熱可塑性樹脂比較1 100質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 8質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
次に、得られたドープを、図1で示す製造装置1を用いて、無端ベルトからなるステンレスバンド支持体上に、ドープ温度35℃、幅2.3mの条件で均一に流延させた。ステンレスバンド支持体上で、得られたドープ膜中の溶媒を、残留溶媒量が40質量%になるまで蒸発させて流延膜(ウェブ)を得た後、ステンレスバンド支持体から流延膜を剥離した。剥離時の流延膜の膜厚は125μmであった。そして、得られた流延膜を、35℃でさらに乾燥させた後、幅2.0mとなるようにスリットした。
その後、図1の第1延伸装置3によって、流延膜をMD方向に2.5倍の延伸倍率で延伸した。その際の延伸開始時の流延膜の残留溶媒量は20質量%であった。延伸温度は、MD方向の延伸応力が400N/m(幅1mあたり40N)となるように、100℃とした。
なお、MD延伸前の流延膜の搬送速度は20m/minであった。また、第1延伸装置3としては、図2の構成のものを使用した。すなわち、予熱ゾーン、延伸ゾーン、冷却ゾーンのうち、隣り合うゾーンの間にエアカーテンを生成しながら、流延膜を下流側に搬送した。このとき、延伸ゾーンのL/Wの比は3であり、千鳥配置される複数のノズルの配置ピッチpは250mmであり、ノズル間距離dは20mmであり、ノズルから吹き出す加熱風の風速は25m/secであった。
また、第1延伸装置3の上流側には、図6で示した張力規制ローラー51及び補助ローラー57を用い、サイドニップして流延膜を搬送した。そして、第1延伸装置3の下流側にも上記と同様のローラーを配置して、サイドニップして流延膜を搬送した。サイドニップするローラーは、第1延伸装置3の上流側及び下流側にそれぞれ3組配置した。
なお、乾燥装置5内で流延膜を乾燥させる前に、第2延伸装置4でTD延伸を行うが、そのときの延伸条件は、延伸倍率2.5倍、延伸温度110℃であった。また、延伸開始時の流延膜の残留溶媒量は10質量%であった。
その後、得られた流延膜を、乾燥装置5内を多数のローラーで搬送させながら90℃で15分間乾燥させた後、幅方向両端部に、幅10mm、高さ5μmのエンボス部を形成し、幅1.5m、長さ4000m、膜厚20μmの長尺状のフィルムとして巻取装置6にて巻き取った。以上のようにして、アクリル系樹脂フィルム101を作製した。
<アクリル系樹脂フィルム102の作製>
アクリル系樹脂フィルム101の作製において、アクリル系熱可塑性樹脂比較1の代わりに、アクリル系熱可塑性樹脂比較2を用いた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム102を作製した。
<アクリル系樹脂フィルム103の作製>
アクリル系樹脂フィルム101の作製において、アクリル系熱可塑性樹脂比較1の代わりに、アクリル系熱可塑性樹脂本発明1を用いた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム103を作製した。
<アクリル系樹脂フィルム104の作製>
アクリル系樹脂フィルム101の作製において、アクリル系熱可塑性樹脂比較1の代わりに、アクリル系熱可塑性樹脂本発明2を用いた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム104を作製した。
<アクリル系樹脂フィルム105の作製>
アクリル系樹脂フィルム103の作製において、下記ドープを用いた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム105を作製した。
(ドープの調製)
下記の材料を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過して、ドープを調製した。
(ドープ組成)
アクリル系熱可塑性樹脂比較1 100質量部
界面活性剤(アニオン1) 0.5質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 8質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
<アクリル系樹脂フィルム106の作製>
アクリル系樹脂フィルム103の作製において、下記ドープを用いた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム106を作製した。
(ドープの調製)
下記の材料を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過して、ドープを調製した。
(ドープ組成)
アクリル系熱可塑性樹脂比較1 100質量部
衝撃改質剤(ゴム粒子1) 5質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 8質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
<アクリル系樹脂フィルム107の作製>
アクリル系樹脂フィルム103の作製において、下記ドープを用いた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム107を作製した。
(ドープの調製)
下記の材料を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、濾過して、ドープを調製した。
(ドープ組成)
アクリル系熱可塑性樹脂比較1 100質量部
界面活性剤(アニオン1) 0.5質量部
衝撃改質剤(ゴム粒子1) 5質量部
ジクロロメタン 200質量部
エタノール 8質量部
アエロジル972V(日本アエロジル株式会社製) 0.2質量部
<アクリル系樹脂フィルム108〜117の作製>
アクリル系樹脂フィルム107の作製において、界面活性剤及び衝撃改質剤の種類と添加量及び延伸倍率を表1に記載のように変化させた以外は同様にして、アクリル系樹脂フィルム108〜117を作製した。
《評価》
〔1〕湿度寸法変化率の測定
上記作製したアクリル系樹脂フィルム101〜117を用いて、下記手順にて湿度寸法変化率を測定した。
湿度寸法変化率は、熱機械分析装置(TMAともいう。)によって、各湿度に対する吸湿膨張係数を測定し、その値を用いて算出した。熱機械分析装置は、例えばTMA/SS6100(セイコーインスツル社製)を用いた。
アクリル系樹脂フィルムの試験片を長さ20mm、幅3mmとし、試験片に対して50mNの力で張力をかけながら、23℃・0%RHから23℃・90%RHに1時間放置して、上記測定装置によって吸湿膨張係数を測定し、下記式にて算出する。
〈式〉 湿度寸法変化率(ppm/%RH)=(T−T)/(90)×10
:23℃で湿度0%RHの環境下で0.5時間放置した試料の吸湿膨張係数(%)
:23℃で湿度90%RHの環境下で1.0時間放置した試料の吸湿膨張係数(%)
〔2〕液晶表示パネルの反り
〈偏光板の作製〉
上記作製したアクリル系樹脂フィルム101〜117を用いて、下記手順にて偏光板を作製した。
(偏光子の作製)
ポリビニルアルコールフィルムの厚さ60μmの長尺ポリビニルアルコールフィルムを、ガイドローラーを介して連続搬送しつつ、ヨウ素とヨウ化カリウム配合の染色浴(30℃)に浸漬して染色処理と2.5倍の延伸処理を施した後、ホウ酸とヨウ化カリウムを添加した酸性浴(60℃)中で、トータルとして5倍となる延伸処理と架橋処理を施し、得られた厚さ12μmのヨウ素−PVA系偏光子を、乾燥機中で50℃、30分間乾燥させて水分率4.9%の偏光子を得た。
(偏光板の作製)
上記作製した偏光子をアクリル系樹脂フィルム101〜117と、コニカミノルタタックKC4UY(コニカミノルタ(株)製)で両面から挟持して、下記紫外線硬化型接着剤液を介して、接着し偏光板101〜117を作製した。
その際、偏光子の吸収軸とアクリル系樹脂フィルムの遅相軸とが直交するように貼合した。
(紫外線硬化型接着剤液1の調製)
下記の各成分を混合した後、脱泡して、紫外線硬化型接着剤液1を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート 45質量部
エポリードGT−301(ダイセル社製の脂環式エポキシ樹脂) 40質量部
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル 15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート 2.3質量部
9,10−ジブトキシアントラセン 0.1質量部
1,4−ジエトキシナフタレン 2.0質量部
なお、偏光板作製は、フィルムの表面にコロナ出力強度2.0kW、ライン速度18m/分でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理面に、上記調製した紫外線硬化型接着剤液1を、硬化後の膜厚が約3μmとなるようにバーコーターで塗工して紫外線硬化型接着剤層を形成した。
上記偏光板はアクリル系樹脂フィルム側から、ベルトコンベヤー付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製のDバルブを使用)を用いて、積算光量が750mJ/cmとなるように紫外線を照射し、紫外線硬化型接着剤層を硬化させた。
得られた偏光板を用い、下記の方法に従って、液晶表示パネルを作製した。
液晶セルとして、対向する2枚の合計の厚さが0.25mmの厚さとなるガラス基板と、それらの間に配置された液晶層とを有するIPS方式の液晶セルを準備した。そして、粘着層を介して上記作製した偏光板を、液晶セルの両面にそれぞれアクリル系樹脂フィルムが液晶セル側になるように貼り合わせて、液晶表示パネル101〜117を得た
作製した液晶表示パネルを23℃・55%RHの環境から、23℃・80%RHの環境で72時間保管したときのパネル端部の反り量の変化量を測定し、下記の基準にて評価した。上記変化量は、パネルの四隅の反り量を測定し、4点の反り量の平均値とした。
×:1.6mm以上2.0mm以下
△:1.2mm以上1.6mm未満
○:0.8mm以上1.2mm未満
◎:0.4mm以上0.8mm未満
〔3〕表示ムラ
上記作製した液晶表示パネルを用いて、視認側の偏光板の上にカバーガラスを、リンテック社製の厚さ25μmの両面テープ(基材レステープ MO−3005C)にて貼合し液晶表示装置を作製した。
上記作製した各液晶表示装置に対して、23℃・55%RHの環境下で連続点灯したときに、カバーガラスと液晶表示装置を貼り合せたときに起因する気泡による表示ムラを目視にて観察した。
×:150hまでの連続点灯で表示装置の四隅に気泡による表示ムラが観察された
△:150h越えて350h以下の連続点灯で表示ムラが観察された
○:350hを越えて500h以下の連続点灯で表示ムラが観察された
◎:500hを越えて連続点灯しても表示ムラが観測されない
以上、アクリル系樹脂フィルムの構成及び評価結果を表1に示した。
Figure 2017155142
表1から、本発明のアクリル系樹脂フィルムは、比較例に対して、液晶表示パネルの反り及び表示ムラに優れていることが分かる。
本発明のアクリル系樹脂フィルム105は、面活性剤がフィルムの表面に存在することで、ボンディング剤との密着力が上がり、気泡の発生を抑え表示ムラが良化したものと推定される。湿度による寸法変化は、界面活性剤がフィルム表面に配向しやすいため、樹脂同士の隙間を埋める機能が少なかったため、反りはやや改善が小さかった。
本発明のアクリル系樹脂フィルム106は、ゴム粒子のみの場合では樹脂同士の隙間を効率よく埋めることができず、湿度による寸法変化量の改善がやや低かった。表示ムラの改善効果がやや小さかったのは、上記のように界面活性剤が表面に全く存在しないため、気泡の発生がしやすくなったためと推定される。
〔実施例2〕
実施例1で作製したアクリル系樹脂フィルム101と107を用いて同様にして偏光板を作製し、液晶表示装置に用いるガラス基板の合計の厚さを表2のように変化させ、実施例1のパネルの反り評価と表示ムラの評価を実施し、結果を表2に記載した。
Figure 2017155142
本発明のアクリル系樹脂フィルムを用いた液晶表示パネルは、0.075〜0.300mmのガラス基板の厚さの範囲でも、パネルの反りや表示ムラが優れていた。
比較例では、ガラスの基板の厚さが0.400mmにしたときに、パネルの反り及び表示ムラがやや良くなる程度であり、実施例1の結果と合わせると、薄型化したガラス基板を用いた液晶表示パネルには使用が困難なことが分かる。
なお、ガラス基板の厚さを極めて薄型化した偏光板201は、ガラス基板が薄すぎて製造が困難であった。
11 無端ベルト(支持体)
21 ドープ
22 流延膜
51 張力規制ローラー
57 補助ローラー
C1 エアカーテン
C2 エアカーテン
Z1 予熱ゾーン
Z2 延伸ゾーン
Z3 冷却ゾーン
52、102A、102B アクリル系樹脂フィルム
53、104A、104B 偏光子
54、105A、105B アクリル系樹脂フィルム又は他の保護フィルム
100 液晶表示装置(液晶表示パネル)
101A、101B 偏光板
101C 液晶セル
103A、103B、103C、103D 紫外線硬化型接着剤
106 粘着層
107 液晶層
108A、108B ガラス基板

Claims (6)

  1. 下記一般式(1)で表されるメタクリレート単量体由来の繰り返し単位(X)と、下記一般式(2)で表されるN−置換マレイミド単量体(a)由来の繰り返し単位(Y1)と、下記一般式(3)で表されるN−置換マレイミド単量体(b)由来の繰り返し単位(Y2)とを有するアクリル系熱可塑性樹脂を含有し、23℃における湿度寸法変化率が5〜20ppm/%RHであることを特徴とするアクリル系樹脂フィルム。
    Figure 2017155142
    (式中:Rは、水素原子、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、及び置換基を有する炭素数6〜14のアリール基からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
    Figure 2017155142
    (式中:Rは、炭素数6〜14のアリール基、又は置換基を有する炭素数6〜14のアリール基を表し、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アリール基が有する置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルキル基からなる群から選ばれるいずれかである。)
    Figure 2017155142
    (式中:Rは、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状のアルキル基、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基、及び炭素数3〜12のシクロアルキル基からなる群から選ばれるいずれかの置換基であり、同一分子中のRは同一でも異なっていてもよく、アルキル基の置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、及び直鎖状又は分岐状の炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群から選ばれるいずれかである。)
  2. さらに、界面活性剤及び衝撃改質剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のアクリル系樹脂フィルム。
  3. 請求項1又は請求項2に記載のアクリル系樹脂フィルムを、偏光子の少なくとも一方の面に有することを特徴とする偏光板。
  4. 請求項3に記載の偏光板を具備することを特徴とする液晶表示装置。
  5. 請求項3に記載の偏光板の前記アクリル系樹脂フィルムが、液晶セル側に配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
  6. 前記液晶表示装置が液晶層と一対のガラス基板を有し、前記ガラス基板の合計の厚さが、0.075〜0.300mmの範囲内であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の液晶表示装置。
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