JP2021084912A - フィルム製造用ドープ、フィルム及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を含み、粒子分散性が良好で粗大粒子が形成されにくく、かつ、外部ヘイズが小さく、トリミング性が良好なフィルムの製造を実現する、溶液流延法によるフィルム製造用ドープを提供すること。【解決手段】前記多層構造重合体粒子は、硬質コア層、ゴム中間層、及び、硬質シェル層を含み、前記硬質コア層は、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%を含む単量体成分、並びに、多官能性単量体0.1〜1.0重量部から形成され、前記ゴム中間層は、アクリル酸アルキルエステル40〜99重量%、式(4)で表される単量体1〜60重量%を含む単量体成分、並びに、多官能性単量体0.1〜1.6重量部から形成され、前記硬質シェル層は、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%を含む単量体成分から形成される。前記多層構造重合体粒子のゲル分率が85%以上である。【選択図】なし

Description

本発明は、溶液流延法によりフィルムを製造するために用いられるドープ、並びに、それを利用したフィルム及びその製造方法に関する。
アクリル系樹脂は、優れた透明性、色調、外観、耐候性、光沢および加工性を有するため、産業上さまざまな分野で多量に使用されている優れたポリマーである。特に、アクリル系樹脂から成形されたフィルムは、優れた透明性、外観、耐候性を活かし、自動車内外装材、携帯電話やスマートフォンなどの電化製品の外装材、建築床材などの建材用内外装材など各種用途に使用されている。中でも、近年、アクリル系樹脂の優れた光学特性を生かし、液晶表示装置や有機EL表示装置等の光学部材に適用されている。
しかし、アクリル系樹脂の本質的な欠点として耐衝撃性に劣ることが挙げられる。一般にアクリル系樹脂の耐衝撃性を改良する方法として、アクリル系樹脂に、ゴム層を有するグラフト共重合体(以下、多層構造重合体粒子ともいう)を配合することにより、強度を発現させる方法が種々提案されている。
一方、高品質の樹脂フィルムの製造方法としては、Tダイを使用した溶融押出法や、樹脂を溶剤に溶解したドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させてフィルム化する溶液流延法などが知られている。Tダイを使用した溶融押出法では、得られるフィルムにおいて押出方向とその垂直方向とのあいだで物性に差が生じやすく、残留配向が出やすいという欠点がある。一方、溶液流延法では、フィルムに物理的な圧力を加えないため高分子の配向が起こらず、フィルムの強度や光学特性などに方向性が生じにくいという利点がある。また、フィルムの厚み精度が極めて高いことに加え、樹脂に与える熱量が低く、熱安定剤などの添加量を低減できる利点もある。
特許文献1では、熱可塑性アクリル系樹脂、ゴム含有グラフト共重合体、及び溶媒を含む、溶液流延法で使用するドープが記載されている。
国際公開第2018/212227号公報
特許文献1に記載されているように、溶液流延法によって熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を含むフィルムを製造する際には、まず、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を含むドープを作製する。しかし、該ドープでは、多層構造重合体粒子の分散性が十分でなく、該粒子が凝集して粗大粒子が形成されやすい場合があった。ドープに粗大粒子が含まれると、製造されたフィルムに異物が発生したり、また、ドープをフィルターでろ過する際にフィルターが目詰まりを起こしてろ過を継続できなくなる、といった支障が出る場合があった。
また、ゴム層を有する多層構造重合体粒子は熱可塑性アクリル系樹脂よりも変形しにくいことから、溶液流延法で溶剤を乾燥させる時に、多層構造重合体粒子がフィルムの収縮に追随しにくく、これに起因して、溶剤乾燥後に得られたフィルムの外部ヘイズが悪化しやすい問題があった。また、得られたフィルムは、カッティングをする際にクラックが入りやすく、トリミング性が低下する場合もあった。
本発明は、上記現状に鑑み、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を含む、溶液流延法によるフィルム製造用ドープであって、粒子分散性が良好で粗大粒子が形成されにくく、かつ、外部ヘイズが小さく、トリミング性が良好なフィルムの製造を実現するドープを提供することを目的とする。
第一の本発明は、熱可塑性アクリル系樹脂、多層構造重合体粒子、及び、溶剤を含む、溶液流延法によるフィルム製造用ドープであって、前記熱可塑性アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル単位60〜100重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体単位0〜40重量%から構成される重合体であり、前記多層構造重合体粒子は、少なくとも硬質コア層、ゴム中間層、及び、硬質シェル層を含み、前記硬質コア層は、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜35重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(a)、並びに、多官能性単量体0.1〜1.0重量部(単量体成分(a)100重量部に対して)から形成される硬質重合体(A)から構成され、前記ゴム中間層は、アクリル酸アルキルエステル40〜99重量%、下記一般式(4)で表される単量体1〜60重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(b)、並びに、多官能性単量体0.1〜1.6重量部(単量体成分(b)100重量部に対して)から形成される軟質重合体(B)から構成され、
Figure 2021084912
(式中、Rは、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。lは1〜4の整数を示す。mは0〜1の整数を示す。nは0〜10の整数を示す。)
前記硬質シェル層は、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(c)、並びに、多官能性単量体0〜10重量部(単量体成分(c)100重量部に対して)から生成される硬質重合体(C)から構成され、前記多層構造重合体粒子のゲル分率が85%以上である、ドープに関する。
好ましくは、前記多層構造重合体粒子は、配向複屈折の絶対値が2×10−4以下であり、また、光弾性定数の絶対値が3×10−12Pa−1以下である。
好ましくは、単量体成分(a)、単量体成分(b)、及び単量体成分(c)の合計量に対して、単量体成分(a)の割合が15〜35重量%、単量体成分(b)の割合が30〜70重量%、単量体成分(c)の割合が15〜35重量%である。
好ましくは、前記単量体成分(b)中の前記一般式(4)で表される単量体の含有割合が、20重量%以上である。
好ましくは、前記一般式(4)で表される単量体が、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種である。
好ましくは、前記単量体成分(a)における前記一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の合計含有量が0〜15重量%である。
好ましくは、前記単量体成分(c)における前記一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の合計含有量が0〜15重量%である。
好ましくは、前記熱可塑性アクリル系樹脂における前記他の単量体単位が、N−置換マレイミド単量体単位を含み、より好ましくは、前記熱可塑性アクリル系樹脂中の前記N−置換マレイミド単量体単位の含有量が1〜25重量%の範囲である。
好ましくは、前記溶剤は、塩化メチレンとエタノールまたはメタノールの混合溶剤である。
第二の本発明は、溶液流延法によるフィルムの製造方法であって、前記ドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させる工程を含む、フィルムの製造方法に関する。
第三の本発明は、前記ドープから形成されてなるフィルムに関する。好ましくは、前記フィルムは、外部ヘイズが1.0%以下である。好ましくは、前記フィルムは、延伸されたフィルムである。
本発明によれば、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を含む、溶液流延法によるフィルム製造用ドープであって、粒子分散性が良好で粗大粒子が形成されにくく、かつ、外部ヘイズが小さく、トリミング性が良好なフィルムの製造を実現するドープを提供することができる。
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態のドープは、熱可塑性アクリル系樹脂、多層構造重合体粒子、及び、溶剤を含有するものであり、溶液流延法によりフィルムを製造するために用いられるドープである。本実施形態のドープにおいて、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子は、溶剤に溶解または分散している。以下、各成分について説明する。
(熱可塑性アクリル系樹脂)
前記熱可塑性アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル単位60〜100重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体単位0〜40重量%から構成される重合体である。好ましくは、メタクリル酸メチル単位70〜98重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体単位2〜30重量%から構成される重合体から構成される重合体であり、より好ましくは、メタクリル酸メチル単位75〜95重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体単位5〜25重量%から構成される重合体から構成される重合体である。
前記共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、例えばアルキル基の炭素数が1〜10である(メタ)アクリル酸エステル(ただしメタクリル酸メチルを除く)が好ましい。具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,2−トリクロロエチルメタクリレート、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸エステル類;メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸エポキシシクロヘキシルメチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のアクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のアクリルアミド類;メタクリル酸、アクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸類およびその塩;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン等のビニルアレーン類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド類;マレイン酸、フマル酸、及びそれらのエステル等;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、イソブチレン等のアルケン類;ハロゲン化アルケン類;アリルメタクリレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、モノエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の多官能性単量体が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
前記熱可塑性アクリル系樹脂は、フィルムの加工性および外観の観点から、多官能性単量体を含まないことが好ましい。
前記熱可塑性アクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、40万〜400万であることが好ましい。重量平均分子量がこの範囲であると、ドープの粘度が溶液流延用として好適になり、さらに、得られるフィルムが強靱になり、フィルムを各種用途に適用する際に取り扱いが容易になる。より好ましくは80万〜350万であり、さらに好ましくは100〜300万である。重量平均分子量は以下の条件によりゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
(機器条件)
測定機器:HLC−8220GPC(東ソー)
検出器 :RI検出器(装置内蔵)
溶媒 :テトラヒドロフラン
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperHZ−H(4.6×35mm)(東ソー)
分析カラム:TSKgel SuperHZM−H(6.0×150mm)(東ソー)
測定温度:40℃
標準物質:標準ポリスチレン(東ソー)
前記熱可塑性アクリル系樹脂のガラス転移温度は使用する条件と用途に応じて適宜設定することができる。使用時の耐熱性の観点から、ガラス転移温度は90℃以上であることが好ましい。優れた耐熱性が要求される用途以外では、ガラス転移温度は115℃未満であってもよいが、優れた耐熱性が要求される用途では、ガラス転移温度は115℃以上が好ましい。熱可塑性アクリル系樹脂のガラス転移温度は118℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましく、125℃以上が特に好ましい。
耐熱性に優れた熱可塑性アクリル系樹脂としては、環構造を主鎖に有するアクリル系樹脂が挙げられる。環構造としては、グルタルイミド環構造、ラクトン環構造、無水マレイン酸由来環構造、マレイミド由来環構造(N−置換マレイミド由来環構造を含む)、及び、無水グルタル酸環構造が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸構造単位を分子中に含むアクリル系樹脂も挙げられる。
耐熱性に優れた熱可塑性アクリル系樹脂として、具体的には、マレイミドアクリル系樹脂(共重合成分として無置換又はN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂)、グルタルイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン単位含有アクリル系重合体、グルタル酸無水物構造やマレイン酸無水物由来構造等の環状酸無水物構造を含有するアクリル系重合体等が挙げられる。これらの中でも、ドープから製造されるフィルムの耐熱性が向上する点から、ラクトン環含有アクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、グルタル酸無水物構造含有アクリル系樹脂、および、マレイン酸無水物構造含有アクリル系樹脂、メタクリル酸メチル97〜100重量%及びアクリル酸メチル3〜0重量%で構成されるアクリル系重合体が好ましく、光学特性にも優れる点から、グルタルイミドアクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂がより好ましく、マレイミドアクリル系樹脂がさらに好ましい。グルタルイミドアクリル系樹脂およびマレイミドアクリル系樹脂は併用してもよい。両樹脂は相溶性に優れるため高い透明性を維持でき、光学特性に優れる上、高い熱安定性を有し、耐溶剤性も有することができる。
マレイミドアクリル系樹脂としては、下記一般式(5)で示されるマレイミド単量体単位(マレイミド由来環構造に相当する)を有するマレイミドアクリル系樹脂が挙げられる。
Figure 2021084912
一般式(5)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数6〜14のアリール基であり、R13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、又は、下記A群より選ばれる少なくとも一種の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基もしくは炭素数1〜12のアルキル基である。
A群:ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基。
一般式(5)で表されるマレイミド単量体単位の具体例としては、無置換のマレイミド単量体単位;N−メチルマレイミド単位、N−フェニルマレイミド単位、N−シクロヘキシルマレイミド単位、N−ベンジルマレイミド単位等のN−置換マレイミド単量体単位が挙げられる。特に、N−置換マレイミド単量体単位が好ましい。マレイミド単量体単位としては1種類のみを含有してもよいし、2種類以上を含有してもよい。
前記熱可塑性アクリル系樹脂がN−置換マレイミド単量体単位を含む場合、耐熱性や光学特性の観点から、その含有量は、熱可塑性アクリル系樹脂のうち1〜25重量%であることが好ましく、3〜20重量%であることがより好ましく、5〜15重量%であることがさらに好ましい。
(多層構造重合体粒子)
前記多層構造重合体粒子は、複数の重合体層からなる多層構造を有する粒子であり、一般に、コアシェル型重合体と呼ばれるものである。多段重合体と呼ばれる場合もある。前記多層構造重合体粒子は、メタクリル酸アルキルエステルを主体とする単量体成分と多官能性単量体を重合してなる硬質重合体粒子(硬質コア層)の存在下に、アクリル酸アルキルエステルを多く含む単量体成分と多官能性単量体を重合してゴム中間層を形成し、更に、メタクリル酸アルキルエステルを主体とする単量体成分を重合して硬質シェル層を形成して得られる重合体である。
前記多層構造重合体粒子は、ゴム中間層の平均粒子径が125〜400nmであることが好ましい。ゴム中間層の平均粒子径とは、硬質コア層の存在下に重合を行ってゴム中間層を形成した段階で測定した平均粒子径をいう。ゴム中間層の平均粒子径が125nm以上であると、前記ドープを用いて製造されるフィルムの強度を優れたものとすることができる。また、400nm以下であると、製造されるフィルムを透明性、外観、光学特性に優れたものとすることができる。前記ゴム中間層の平均粒子径は130〜380nmであることが好ましく、150〜350nmがより好ましく、180〜300nmがさらに好ましく、200〜260nmが特に好ましい。ゴム中間層の平均粒子径は、硬質シェル層を重合する前のゴム中間層までを形成した重合体ラテックスの状態で、分光光度計を用いて546nmの波長の光散乱を測定することで算出できる。
前記多層構造重合体粒子は、ゲル分率が85%以上を示すものである。ゲル分率とは、多層構造重合体粒子の全量に対して、多層構造重合体粒子のメチルエチルケトンに不溶な成分が占める重量比率である。多層構造重合体粒子のゲル分率が85%未満であると、ドープ中の多層構造重合体粒子の分散性が十分ではなく、ドープ中に粗大粒子が多く生じる傾向がある。前記ゲル分率は85.5%以上が好ましく、87%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、92%以上が特に好ましい。前記ゲル分率の上限は特に限定されず100%以下であればよいが、99%以下であってもよく、98%以下であってもよい。
前記ゲル分率は次の手順により測定することができる。多層構造重合体粒子2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間遠心分離を合計3セット実施し、不溶分と可溶分を分離する。得られた不溶分と可溶分の重量を測定して、次式よりゲル分率を算出する。
ゲル分率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量)/(メチルエチルケトン不溶分の重量+メチルエチルケトン可溶分の重量)}×100
前記多層構造重合体粒子は、少なくとも硬質コア層、ゴム中間層、及び、硬質シェル層を含む。以下に各層を具体的に説明する。
(硬質コア層)
硬質コア層は、重合段階(I)により形成される層であり、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜35重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(a)、並びに、多官能性単量体0.1〜1.0重量部(単量体成分(a)100重量部に対して)から形成される硬質重合体(A)から構成される重合体粒子である。
単量体成分(a)は、メタクリル酸アルキルエステル70〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜25重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜30重量%を含むことが好ましく、メタクリル酸アルキルエステル80〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜15重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜20重量%を含むことがより好ましく、メタクリル酸アルキルエステル90〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜10重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜10重量%を含むことがさらに好ましい。
前記メタクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル等が挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステルとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、アルキル基の炭素数が1〜4のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチルが好ましい。特に、メタクリル酸メチルが好ましい。
前記アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステルとしては1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
前記共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、前記メタクリル酸アルキルエステル以外のメタクリル酸エステル、前記アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステル、芳香族ビニル系単量体、他の共重合性ビニル単量体が挙げられる。前記メタクリル酸アルキルエステル以外のメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記アクリル酸アルキルエステル以外のアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。前記芳香族ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、その他のスチレン誘導体等が挙げられる。前記他の共重合性ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β−不飽和カルボン酸類、酢酸ビニル、エチレンやプロピレン等のオレフィン系単量体、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル系単量体、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。これらはいずれも単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
しかしながら、ドープ中の粒子分散性や、製造されるフィルムの光学的特性から、単量体成分(a)において、後述する一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の使用量は少ないほうが好ましい。具体的には、単量体成分(a)における前記一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の合計含有量は0〜15重量%であることが好ましく、0〜12重量%であることがより好ましく、0〜8重量%であることがさらに好ましく、0〜5重量%であることが特に好ましい。
重合段階(I)では、単量体成分(a)の重合を、多官能性単量体の存在下で行う。当該多官能性単量体としては、架橋剤または架橋性単量体として知られているものを使用することができ、例えば、アリルメタクリレート、アリルアクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、モノアリルマレエート、モノアリルフマレート、ブタジエン、ジビニルベンゼン、トリアリルイソシアヌレート、アルキレングリコールジメタクリレート、アルキレングリコールジアクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。好ましくは、アリルメタクリレートである。
重合段階(I)で使用する多官能性単量体の量は、単量体成分(a)100重量部に対して0.1〜1.0重量部である。当該量が0.1重量部未満であると、ドープを用いて製造されるフィルムが十分なトリミング性を達成できない場合がある。また、1.0重量部を超えると、製造されるフィルムの外部ヘイズ値が大きくなり、また、該フィルムのトリミング性が十分ではない場合がある。前記量は、0.2〜0.8重量部が好ましく、0.3〜0.7重量部がより好ましく、0.4〜0.6重量部がより更に好ましい。
更に、重合段階(I)では、連鎖移動剤の存在下で、単量体成分(a)及び前記多官能性単量体の混合物を重合して硬質重合体(A)を形成してもよい。
前記連鎖移動剤としては特に限定されず、当該分野で知られている連鎖移動剤を使用することができる。具体的には、n−ブチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン等の1級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、s−ブチルメルカプタン、s−ドデシルメルカプタン等の2級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、t−ドデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン等の3級アルキルメルカプタン系連鎖移動剤、2−エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等のチオグリコール酸エステル、チオフェノール、テトラエチルチウラムジスルフィド、ペンタンフェニルエタン、アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、四塩化炭素、臭化エチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレンオリゴマー、テルピノレン等が挙げられる。これらは1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤に硫黄成分が含まれていると、得られる多層構造重合体粒子の熱安定性が向上することから、アルキルメルカプタン系連鎖移動剤およびチオフェノールが好ましく、アルキルメルカプタン系連鎖移動剤がより好ましい。
重合段階(I)における連鎖移動剤の使用量は、単量体成分(a)100重量部に対して0〜1.0重量部であることが好ましい。当該使用量が1.0重量部を超えると、前記ゲル分率が低い値となり、ドープ中の多層構造重合体粒子の分散性が十分ではなく、ドープ中に粗大粒子が多く生じる傾向がある。より好ましくは0.8重量部以下、さらに好ましくは0.6重量部以下、より更に好ましくは0.5重量部以下であり、特に好ましくは0.4重量部以下である。重合段階(I)では連鎖移動剤を使用しなくともよいが、使用する場合、その下限値は0.1重量部以上が好ましく、0.2重量部以上がより好ましい。
(ゴム中間層)
ゴム中間層は、重合段階(II)により形成される層であり、アクリル酸アルキルエステル40〜99重量%、一般式(4)で表される単量体1〜60重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(b)、並びに、多官能性単量体0.1〜1.6重量部(単量体成分(b)100重量部に対して)から形成される軟質重合体(B)から構成される層であり、その少なくとも一部は、硬質コア層にグラフト結合している。具体的には、ゴム中間層である軟質重合体(B)が、多層構造重合体粒子全体において内側に位置する粒子状の硬質コア層の少なくとも一部又は全体を被覆している構造を有する。軟質重合体(B)の一部は、粒子状の硬質コア層の内側に入り込んでいてもよい。ただし、軟質重合体(B)の全てが硬質コア層に結合していなくてもよい。
単量体成分(b)は、アクリル酸アルキルエステル50〜95重量%、一般式(4)で表される単量体5〜50重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜30重量%を含むことが好ましく、アクリル酸アルキルエステル50〜90重量%、一般式(4)で表される単量体10〜50重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜20重量%を含むことがより好ましく、アクリル酸アルキルエステル50〜85重量%、一般式(4)で表される単量体15〜45重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜10重量%を含むことがさらに好ましい。特に、ドープ中の粒子分散性の観点から、単量体成分(b)中の一般式(4)で表される単量体の含有量は20重量%以上であることが好ましく、25重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることがさらに好ましい。
単量体成分(b)に含まれるアクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1〜12のアクリル酸アルキルエステルが好ましい。具体的には、単量体成分(a)について上述したアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。中でも、アクリル酸n−ブチルが好ましい。また、アクリル酸n−ブチルとアクリル酸エチルとの組合せや、アクリル酸n−ブチルとアクリル酸2−エチルへキシルとの組合せも好ましい。単量体成分(b)に含まれるアクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸n−ブチルの含有比率が50〜100重量%であることが好ましく、70〜100重量%であることがより好ましく、80〜100重量%であることがさらに好ましい。
単量体成分(b)は、下記一般式(4)で表される単量体を含有する。この単量体を多層構造重合体粒子のゴム中間層で用いることによって、ドープ中の粒子分散性を良好にすることができ、更には、多層構造重合体粒子が有する配向複屈折及び光弾性定数を低減することもできる。
Figure 2021084912
は、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。RおよびR10が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基(ケトン構造)、アミノ基、アミド基、エポキシ基、炭素−炭素間の二重結合、エステル基(カルボキシル基の誘導体)、メルカプト基、スルホニル基、スルホン基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。なかでも、ハロゲン、水酸基、カルボキシル基、アルコキシ基、及びニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。lは1〜4の整数を示し、好ましくは1または2である。mは0〜1の整数である。nは0〜10の整数を示し、好ましくは0〜2の整数を示し、より好ましくは0または1である。
式(4)で表される単量体は、Rが置換または無置換の炭素数1のアルキル基である、(メタ)アクリル系単量体であることが好ましい。式(4)において、R10は、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の脂環式基であり、単素環式構造を有する、(メタ)アクリル系単量体であることがより好ましい。
式(4)において、lは1〜2の整数である、nは0〜2の整数である、(メタ)アクリル系単量体であることがより好ましい。
具体的には、脂環式基を有する単量体としては(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。また、芳香族基を有する単量体としては、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等を挙げることができる。複素環式構造を有する単量体としては、ペンタメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
式(4)で表される(メタ)アクリル系単量体の中でも、配向複屈折、透明性の点から(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが好ましい。前記式(4)で表される単量体のなかでも、(メタ)アクリル酸ベンジルが光学的等方性、熱可塑性アクリル系樹脂の配向複屈折を打ち消して小さくすること、および透明性の観点から最も好ましい。なかでも、耐熱性を高くしたい場合にはメタクリル酸ベンジルはガラス転移温度が高いため、好ましい。一方で、強度発現性を求める場合には、アクリル酸ベンジルはガラス転移温度が低いため、好ましい。
また(メタ)アクリル酸ベンジルは、比較的大きな正の光弾性定数を有するため、メタクリル酸メチルによる負の配向複屈折を打ち消すだけの量を配合すると、多層構造重合体粒子の光弾性定数が正に大きくなってしまう場合がある。しかし、(メタ)アクリル酸ベンジルを、室温でゴム状態であるゴム中間層に配合する実施形態によると、分子鎖の変形により応力が緩和され、光弾性が発現しにくいため、配向複屈折を打ち消しながら、光弾性定数も小さくすることが可能である。
単量体成分(b)に含まれる共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、アクリル酸アルキルエステルと一般式(4)で表される単量体のいずれにも該当しない単量体であって、単量体成分(a)について説明した単量体を適宜使用することができる。
重合段階(II)においても、単量体成分(b)の重合を、多官能性単量体の存在下で行う。前記多官能性単量体としては、重合段階(I)に関して説明したものと同様の化合物を使用することができるが、好ましくは、アリルメタクリレートである。
重合段階(II)で使用する多官能性単量体の量は、単量体成分(b)100重量部に対して0.1〜1.6重量部である。当該量が0.1重量部未満であると、ドープを用いて製造されるフィルムが十分なトリミング性を達成できない場合がある。また、1.6重量部を超えると、ドープ中の粒子分散性が不良となり、また、製造されるフィルムは外部ヘイズ値が大きくなり、更に、該フィルムのトリミング性が十分ではない場合がある。前記量は0.5〜1.5重量部が好ましく、1.0〜1.5重量部がより好ましい。
重合段階(II)では連鎖移動剤を使用してもよいし、使用しなくともよいが、使用しないことが好ましい。
(硬質シェル層)
硬質シェル層は、重合段階(III)により形成される層であり、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(c)、並びに、多官能性単量体0〜10重量部(単量体成分(c)100重量部に対して)から形成される硬質重合体(C)から構成される層であり、その少なくとも一部は、硬質コア層及び/又はゴム中間層にグラフト結合している。具体的には、硬質シェル層である硬質重合体(C)の全てが硬質コア層及び/又はゴム中間層にグラフト結合していてもよいし、硬質重合体(C)の一部は硬質コア層及び/又はゴム中間層にグラフト結合しているが、残部は、硬質コア層及び/又はゴム中間層のいずれにもグラフト結合していない重合体成分(フリーポリマー)として存在していてもよい。当該グラフト結合していない重合体成分も前記多層構造重合体粒子の一部を構成するものとする。
単量体成分(c)は、メタクリル酸アルキルエステル70〜98重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体2〜30重量%を含むことが好ましく、メタクリル酸アルキルエステル75〜96重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体4〜25重量%を含むことがより好ましい。
メタクリル酸アルキルエステル、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、単量体成分(a)について上述したものを使用することができる。但し、単量体成分(c)における共重合可能な二重結合を有する他の単量体には、アクリル酸アルキルエステルも含まれる。単量体成分(c)では、メタクリル酸アルキルエステルとしてメタクリル酸メチルが好ましく、共重合可能な二重結合を有する他の単量体としてはアクリル酸n−ブチルが好ましい。
ドープ中の粒子分散性や、製造されるフィルムの光学的特性から、単量体成分(c)において、上述した一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の使用量は少ないほうが好ましい。具体的には、単量体成分(c)における前記一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の合計含有量は0〜15重量%であることが好ましく、0〜12重量%であることがより好ましく、0〜8重量%であることがさらに好ましく、0〜5重量%であることが特に好ましい。
重合段階(III)では、多官能性単量体を使用してもよいし、使用しなくともよいが、優れた機械的特性をフィルムに付与するという観点から、使用しないことが好ましい。多官能性単量体を使用する場合、その使用量は単量体成分(c)100重量部に対して10重量部以下が好ましく、0.01〜5重量部がより好ましく、0.1〜1重量部がさらに好ましい。また、重合段階(III)では、連鎖移動剤を使用してもよいし、使用しなくともよいが、使用しないことが好ましい。また、単量体成分(c)は、単量体成分(a)と同一であっても良いし、異なっても良い。
硬質シェル層は、1段のみから構成される層であってもよいし、互いに単量体組成が同一又は異なる2段以上から構成される多段構造を有してもよい。硬質シェル層が2段以上から構成される多段構造を有する場合、硬質シェル層中の各単量体の含有量とは、前記多段構造の各段における単量体の含有量を指すものではなく、2段以上の硬質シェル層全体における単量体の含有量を指す。硬質シェル層を2段以上から構成すると、製造されるフィルムの外部ヘイズをより低下させる場合があり、また、フィルムのトリミング性も向上する場合があるため好ましい。
以上の単量体成分(a)、(b)、及び(c)の合計量は、前記多層構造重合体粒子を構成する単量体成分の総量100重量部中で、80〜100重量部を占めることが好ましく、90〜100重量部がさらに好ましく、95〜100重量部が特に好ましい。また、前記多層構造重合体粒子を構成する単量体成分は、単量体成分(a)、(b)、及び(c)のみから構成されてもよい。なお、「前記多層構造重合体粒子を構成する単量体成分」とは、多官能性単量体を除く単量体、即ち、共重合可能な二重結合を一分子に一つ有する単量体のみから構成されるものである。
単量体成分(a)、(b)、及び(c)の割合は特に限定されないが、ドープ中の粒子分散性、フィルムの外部ヘイズ及びトリミング性の観点から、単量体成分(a)、単量体成分(b)、及び単量体成分(c)の合計量に対して、単量体成分(a)の割合は15〜35重量%、単量体成分(b)の割合は30〜70重量%、単量体成分(c)の割合は15〜35重量%であることが好ましく、単量体成分(a)の割合は20〜30重量%、単量体成分(b)の割合は40〜60重量%、単量体成分(c)の割合は20〜30重量%であることがより好ましい。
前記多層構造重合体粒子は、公知の乳化剤を用いて通常の乳化重合により製造することができる。該乳化剤としては、例えば、アルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩等の陰イオン界面活性剤や、非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上併用しても良い。前記フィルムの熱安定性を向上させる観点から、特にはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩(アルカリ金属、又はアルカリ土類金属)を用いて重合することが好ましい。
前記多層構造重合体粒子を製造する際に使用される重合開始剤としては特に限定されないが、ドープを用いて製造されるフィルムの熱安定性向上の観点から、10時間半減期温度が100℃以下の重合開始剤が好ましい。当該重合開始剤としては特に限定されないが、過硫酸塩が好ましい。具体的には、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。なかでも、過硫酸カリウムが特に好ましい。
前記重合開始剤は、少なくとも重合段階(I)において添加することが好ましく、連鎖移動剤を用いる各重合段階において添加することがより好ましく、全ての重合段階において添加することが特に好ましい。
前記重合開始剤の総使用量としては特に限定されないが、前記多層構造重合体粒子を構成する単量体成分の総量100重量部に対して、0.01〜1.0重量部であることが好ましく、0.01〜0.6重量部であることがより好ましく、0.01〜0.2重量部であることが特に好ましい。各重合段階での前記重合開始剤の使用量は、重合段階(I)では単量体成分(a)100重量部に対して0.01〜1.85重量部、重合段階(II)では単量体成分(b)100重量部に対して0.01〜0.6重量部、重合段階(III)では単量体成分(c)100重量部に対して0.01〜0.90重量部であることが好ましく、重合段階(I)では0.01〜0.2重量部、重合段階(II)では0.01〜0.4重量部、重合段階(III)では0.01〜0.2重量部であることがより好ましい。また、重合段階(I)における重合開始剤の使用量が、重合開始剤の総使用量に対して1重量%を超えて29重量%以下であることが好ましい。
上述した乳化重合によって得られた多層構造重合体粒子ラテックスを、噴霧乾燥に付すことにより、あるいは、塩または酸等の水溶性電解質を添加して凝固させ、更に熱処理を実施した後に水相から樹脂成分を分離して乾燥を行なう等の公知の方法に付すことにより、固体状または粉末状の多層構造重合体粒子を取得することができる。中でも、塩を用いて凝固を行う方法が好ましい。当該塩としては特に限定されないが、2価の塩が好ましく、具体的には、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩等が挙げられる。中でも、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩が好ましい。凝固時に、老化防止剤や紫外線吸収剤等の、一般的に添加される添加剤を加えてもよい。
凝固操作前には、前記多層構造重合体粒子ラテックスを、フィルター、メッシュ等でろ過し、微細な重合スケールを取り除くことが好ましい。これにより、微細な重合スケールに起因するフィッシュアイや異物等を低減させることができ、また、ドープ中の粗大粒子を低減することもできる。
前記多層構造重合体粒子は、単独で測定した配向複屈折の絶対値及び光弾性定数の絶対値がそれぞれ小さいものであることが好ましい。本実施形態によると、ゴム中間層において前記一般式(4)で表される単量体を使用することで、多層構造重合体粒子の配向複屈折の絶対値及び光弾性定数の絶対値をそれぞれ小さいものにすることができる。具体的には、多層構造重合体粒子は、配向複屈折の絶対値が2×10−4以下であることが好ましく、1×10−4以下であることがより好ましく、5×10−5以下であることがさらに好ましい。また、前記多層構造重合体粒子は、光弾性定数の絶対値が3×10−12Pa−1以下であることが好ましく、2.5×10−12Pa−1以下であることがより好ましく、2×10−12Pa−1以下であることがさらに好ましい。前記多層構造重合体粒子の配向複屈折及び光弾性定数は、実施例に記載の方法によって測定することができる。
前記多層構造重合体粒子は、軟質のゴム中間層と、これを被覆する硬質シェル層を有するため、フィルム中において、前記軟質のゴム中間層(硬質コア層を内部に含む)が「島」、マトリックス樹脂である熱可塑性アクリル系樹脂と前記硬質シェル層が「海」となる、不連続な海島構造が形成される。このため、フィルムの機械的強度を向上させ、かつフィルムの耐熱性を低下させにくいという、優れた効果を奏することが可能である。また、前記多層構造重合体粒子は、マトリックス樹脂中に、軟質のゴム中間層を均一に分散させることを可能とする。
本願において「軟質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃未満であることを意味する。軟質層による衝撃吸収能力を高め、トリミング性等の耐衝撃性改良効果を高める観点から、軟質重合体のガラス転移温度は0℃未満であることが好ましく、−20℃未満であることがより好ましい。なお、層が2段以上からなる場合は、各段のガラス転移温度ではなく、層全体のガラス転移温度を基準とする。
また、本願において「硬質」とは、重合体のガラス転移温度が20℃以上であることを意味する。コア層やシェル層を形成する重合体のガラス転移温度が20℃未満である場合、フィルムの耐熱性が低下したり、多層構造重合体粒子を製造する際に該重合体の粗大化や塊状化が起こり易くなるなどの問題が発生する。なお、層が2段以上からなる場合は、各段のガラス転移温度ではなく、層全体のガラス転移温度を基準とする。
本願において、「軟質」および「硬質」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J.Brandrup,Interscience 1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメタクリル酸メチルは105℃であり、ポリアクリル酸ブチルは−54℃である)。
熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子との配合割合はフィルムの用途によって異なるが、両成分の配合量の合計100重量部に対して、熱可塑性アクリル系樹脂の配合量は30〜98重量部、多層構造重合体粒子の配合量は70〜2重量部であることが好ましく、熱可塑性アクリル系樹脂の配合量は50〜95重量部、多層構造重合体粒子の配合量は50〜5重量部がより好ましく、熱可塑性アクリル系樹脂の配合量は60〜90重量部、多層構造重合体粒子の配合量は40〜10重量部がより更に好ましく、熱可塑性アクリル系樹脂の配合量は70〜90重量部、多層構造重合体粒子の配合量は30〜10重量部が特に好ましい。熱可塑性アクリル系樹脂の配合量が30重量部以上であると熱可塑性アクリル系樹脂の持つ特性を発揮することができ、98重量部以下であると、多層構造重合体粒子の配合によって熱可塑性アクリル系樹脂の機械的強度を改善することができる。
(溶剤)
前記ドープに含まれる溶剤は、前記熱可塑性アクリル系樹脂及び前記多層構造重合体粒子を溶解または分散することができる溶剤である限り、特に限定されないが、ハンセン溶解度パラメーターにおける水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(1)を含むことが好ましい。このような溶剤を用いてドープを構成することで、前記熱可塑性アクリル系樹脂及び前記多層構造重合体粒子の溶剤への良好な溶解性または分散性を実現することができる。前記水素結合項δHが3以上10以下を示す溶剤が好ましく、5以上8以下を示す溶剤がより好ましい。
従来から、物質の溶解性を示す指標として溶解度パラメータ(SP値)が知られており、当該SP値の凝集エネルギーの項が、分子間に働く相互作用エネルギーの種類(London分散力、双極子間力、水素結合力)によって分割され、それぞれをLondon分散力項、双極子間力項、水素結合力項として表したハンセン溶解度パラメーターが提案されている。本願では、前記熱可塑性アクリル系樹脂及び前記多層構造重合体粒子が溶剤に溶解する際の溶解性を示す指標として、このハンセン溶解度パラメーターのうちの水素結合項δHを使用する。London分散力項や双極子間力項よりも、水素結合項δHの数値は、溶剤へのメタクリル系重合体(a)の溶解性との相関性が高く、水素結合項δHが前記溶解性を示す指標となり得ることが判明している。当該水素結合項δHの詳細は、例えば、山本秀樹著、「特集:ポリマー相溶化設計 1.Hansen溶解度パラメタ(HSP値)を用いた溶解性評価」、接着の技術、Vol.34 No.3 (2014) 通巻116号) 第1−8頁を参照することができる。
前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(1)としては、例えば、1,4−ジオキサン(9.0)、2−フェニルエタノール(11.2)、アセトン(7.0)、アセトニトリル(6.1)、クロロホルム(5.7)、二塩基酸エステル(8.4)、ジアセトンアルコール(10.8)、N,N−ジメチルホルムアミド(11.3)、ジメチルスルホキシド(10.2)、酢酸エチル(7.2)、γ−ブチロラクトン(7.4)、メチルエチルケトン(5.1)、メチルイソブチルケトン(4.1)、塩化メチレン(7.1)、酢酸n−ブチル(6.3)、N−メチル−2−ピロリドン(7.2)、炭酸プロピレン(4.1)、1,1,2,2−テトラクロロエタン(5.3)、テトラヒドロフラン(8.0)、トルエン(2.0)等が挙げられる。なお、カッコ内の数字は水素結合項δHを示す。これら溶剤は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。
これら溶剤のなかでも、前記熱可塑性アクリル系樹脂及び前記多層構造重合体粒子の溶解性に優れると共に、揮発速度も速いため、メチルエチルケトン、クロロホルム、塩化メチレンが好ましく、塩化メチレンがより好ましい。
前記ドープに含まれる溶剤は、前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(1)のみから構成されるものであってもよい。しかし、溶液流延実施時の成膜性、フィルムの離型性、ハンドリング性の改善等を考慮して、前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(1)と、δHが14以上24以下である溶剤(2)を含有するものが好ましい。
前記δHが14以上24以下である溶剤(2)としては、例えば、メタノール(22.3)、エタノール(19.4)、イソプロパノール(16.4)、ブタノール(15.8)、エチレングリコールモノエチルエーテル(14.3)等が挙げられる。これら溶剤は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を混合して使用してもよい。中でも、上述の効果が少量添加によって得られることから、δHが高い溶剤である、メタノール及びエタノールが好ましい。
前記δHが14以上24以下である溶剤(2)を併用する場合、前記水素結合項δHが1以上12以下である溶剤(1)の含有量は、ドープに含まれる溶剤全体に対して55重量%以上98重量%以下が好ましく、60重量%以上97重量%以下がより好ましく、65重量%以上96重量%以下がさらに好ましく、70重量%以上95重量%以下がよりさらに好ましい。
前記ドープ中の熱可塑性アクリル系樹脂及び多層構造重合体粒子の合計量の割合としては特に限定されず、用いた溶剤に対する熱可塑性アクリル系樹脂及び多層構造重合体粒子の溶解性または分散性や、溶液流延法の実施条件等を考慮して適宜決定することが可能であるが、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは6〜40重量%、さらに好ましくは7〜35重量%である。
(他の成分)
前記ドープは、適宜、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、帯電防止剤、熱線反射材、滑剤、可塑剤、紫外線吸収剤、安定剤、フィラー等の公知の添加剤、または、アクリロニトリルスチレン樹脂やスチレン無水マレイン酸樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化アルキル(メタ)アクリレート樹脂等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等その他の樹脂を含有するものであってもよい。
前記ドープは、形成されるフィルムの配向複屈折を調整する目的で、特許第3648201号や特許第4336586号に記載の複屈折性を有する無機微粒子や、特許第3696649号に記載の複屈折性を有する分子量5000以下、好ましくは1000以下の低分子化合物を適宜含有するものであってもよい。
(多層構造重合体粒子の溶剤への分散方法)
前記ドープは、溶剤中に、熱可塑性アクリル系樹脂および多層構造重合体粒子が溶解または分散したものである。多層構造重合体粒子においては、コアシェル型構造を有する一次粒子が、数ミクロン乃至数十ミリメートルの大きさに凝集あるいは溶着し得る。このため、前記ドープを製造する際には、多層構造重合体粒子を溶剤に均一に、好ましくは一次粒子までばらけた状態で、分散させることが好ましい。
多層構造重合体粒子の溶剤への分散方法としては、従来公知の方法を広く適用できる。例えば、多層構造重合体粒子のパウダーを溶剤に投入し、適宜剪断及び/または熱をかけながら攪拌し、直接分散させる方法、多層構造重合体粒子と熱可塑性アクリル系樹脂を同時に溶剤に投入して適宜剪断および/または熱をかけながら攪拌して分散または溶解させ、直接ドープを作製する方法、あるいは、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を予め混合し、好ましくは加熱溶融させた上で適宜剪断力を加えて溶融混練し、熱可塑性アクリル系樹脂に多層構造重合体粒子が分散した樹脂組成物(例えば、ペレット状の樹脂組成物)を作製した後に、該樹脂組成物を溶剤に分散させ、ドープを作製する方法、などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
多層構造重合体粒子を溶剤に分散させる際には、適宜、溶剤の作用(膨潤による可塑化)、熱による作用(可塑化)、そして剪断力により、凝集あるいは溶着した一次粒子を解砕させる作用を多層構造重合体粒子に付与することが好ましい。これらの作用を付与することにより、ドープ中で多層構造重合体粒子が良好に分散して、ドープからフィルムを製造する際に、異物やフィッシュアイの形成、透明性の低下等の悪影響を回避することができる。
(溶液流延法)
前記ドープは、溶液流延法によってフィルムを製造するのに使用される。具体的には、前記ドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させることにより、フィルムを製造することができる。このように溶液流延法によって製造された樹脂フィルムを、キャストフィルムともいう。
溶液流延法の実施形態を以下に説明するが、以下に限定されるものではない。まず、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子、場合によって前記他の成分を含むペレットを作製した後、該ペレットを溶剤と混合して、各成分を溶剤に溶解分散させたドープを作製する。あるいは、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子、場合によって前記他の成分を、同時に又は順次、溶剤に混合して、各成分を溶剤に溶解分散させたドープを作製する。あるいは、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を個別に溶剤に混合して、2以上のドープ準備液を作製し、これら準備液を混合することでドープを作製することもできる。これらの溶解工程は、温度および圧力を適宜調節して実施することができる。このうち、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子、場合によって前記他の成分を含むペレットを作製した後、これを溶剤に溶解分散させる方法が好ましい場合がある。以上の溶解工程の後、得られたドープをろ過したり、脱泡することもできる。
次いで、前記ドープを送液ポンプにより加圧ダイに送液し、加圧ダイのスリットから、金属製または合成樹脂製の無端ベルトやドラム等の支持体の表面(鏡面)に前記ドープを流延して、ドープ膜を形成する。
形成されたドープ膜を前記支持体上で加熱し、溶剤を蒸発させてフィルムを形成させる。このようにして得られたフィルムを支持体表面から剥離する。得られたフィルムは、適宜、乾燥工程や加熱工程、延伸工程等に付してもよい。
(フィルム)
前述したドープの溶液流延法により形成されるフィルムの厚みは特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。また、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。フィルムの厚みが上記範囲内であれば、光学特性が均一で、透明性が良好なフィルムを製造することができ、また、当該フィルムを用いて真空成形を実施する際に変形しにくく、深絞り部での破断が発生しにくいという利点がある。一方、フィルムの厚みが上記範囲を超えると、気泡が残りやすく、外観欠陥となる可能性がある。また、フィルムの厚みが上記範囲を下回ると、フィルムの取扱が困難になることがある。
前記フィルムは、膜厚40μmで測定した時に、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、88%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。全光線透過率が上述の範囲であれば、透明性が高いため、光透過性が要求される光学部材、加飾用途、インテリア用途、真空成形用途に好適に使用できる。
前記フィルムは、ガラス転移温度が90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、115℃以上がよりさらに好ましく、120℃以上が特に好ましく、124℃以上が最も好ましい。ガラス転移温度が上述の範囲であれば、耐熱性に優れたフィルムを得ることができる。
前記フィルムは、膜厚40μmで測定した時に、ヘイズが3.0%以下であることが好ましく、2.5%以下がより好ましく、2.0%以下がさらに好ましく、1.5%以下が特に好ましい。また、前記フィルムは、内部ヘイズが1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下が特に好ましい。さらに、前記フィルムは、外部ヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。ヘイズ、内部ヘイズ、及び外部ヘイズが上述の範囲であれば、透明性が高いため、光透過性が要求される光学部材、加飾用途、インテリア用途、真空成形用途に好適である。なお、ヘイズはフィルム内部とフィルム表面(外部)のヘイズからなり、それぞれを内部ヘイズ、外部ヘイズと表現する。
前記フィルムは光学用フィルムとして使用することもできる。特に偏光子保護フィルムとして使用する場合、光学異方性が小さいことが好ましい。特に、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが好ましい。つまり、面内位相差および厚み方向位相差の絶対値がともに小さいことが好ましい。より具体的には、面内位相差の絶対値は10nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることがさらに好ましく、3nm以下であることが特に好ましい。また、厚み方向位相差の絶対値は50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましく、10nm以下であることがよりさらに好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。このような位相差を有するフィルムは、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして好適に使用することができる。一方、フィルムの面内位相差の絶対値が10nmを超えたり、厚み方向位相差の絶対値が50nmを超えたりすると、液晶表示装置の偏光板が備える偏光子保護フィルムとして用いる場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する場合がある。
位相差は複屈折をベースに算出される指標値であり、面内位相差(Re)および厚み方向位相差(Rth)は、それぞれ、以下の式により算出することができる。3次元方向について完全光学等方である理想的なフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthがともに0となる。
Re=(nx−ny)×d
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
上記式中において、nx、ny、およびnzは、それぞれ、面内において伸張方向(ポリマー鎖の配向方向)をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率を表す。また、dはフィルムの厚さを表し、nx−nyは配向複屈折を表す。なお、フィルムのMD方向をX軸とするが、延伸フィルムの場合は延伸方向をX軸とする。
前記フィルムは、配向複屈折の値が、好ましくは−2.6×10−4〜2.6×10−4、より好ましくは−2.1×10−4〜2.1×10−4、さらに好ましくは−1.7×10−4〜1.7×10−4、なおさら好ましくは−1.6×10−4〜1.6×10−4、より一層好ましくは−1.5×10−4〜1.5×10−4、ことさら好ましくは−1.0×10−4〜1.0×10−4、特に好ましくは−0.5×10−4〜0.5×10−4、最も好ましくは−0.2×10−4〜0.2×10−4である。配向複屈折が上記範囲内であれば、成形加工時の複屈折が生じることなく、安定した光学特性を達成することができる。また液晶ディスプレイ等に使用される光学用フィルムとしても非常に適している。
(延伸)
前記フィルムは未延伸フィルムとしても靭性が高く柔軟性に富むものであるが、さらに延伸してもよく、これにより、フィルムの機械的強度の向上、膜厚精度の向上を図ることができる。
前記フィルムを延伸する場合は、前記ドープから一旦、未延伸状態のフィルムを成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、あるいは、フィルム成形中に、成膜及び溶剤脱気の工程の進展とともに適宜延伸操作を加えることにより、延伸フィルム(一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルム)を製造することができる。フィルム成形中の延伸と、フィルム成形後の延伸を適宜組みあわせても良い。
延伸フィルムの延伸倍率は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、厚み精度等の要素に応じて決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍〜5倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍〜4倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍〜3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。
(用途)
前記フィルムは、必要に応じて、公知の方法によりフィルム表面の光沢を低減させることができる。そのような方法としては、例えば、無機充填剤または架橋性高分子粒子を添加する方法が挙げられる。また、得られるフィルムにエンボス加工を施すことにより、プリズム形状やパターン、意匠、ナーリングなどの表面凹凸層を形成したり、フィルム表面の光沢を低減させることも可能である。
前記フィルムは、必要に応じて、粘着剤、接着剤等によるドライラミネート法及び/または熱ラミネート法などを用いて別のフィルムを積層したり、フィルムの表面あるいは裏面にハードコート層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、印刷加飾層、金属光沢層、表面凹凸層、艶消し層等の機能性層を形成して用いることができる。
前記フィルムは、耐熱性、透明性、柔軟性などの性質を利用して、各種用途に使用することができる。例えば、自動車内外装、パソコン内外装、携帯内外装、太陽電池内外装、太陽電池バックシート;カメラ、VTR、プロジェクター用の撮影レンズ、ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ、レンズカバーなどの映像分野、CDプレイヤー、DVDプレイヤー、MDプレイヤーなどにおける光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CD、DVD、MDなどの光ディスク用の光記録分野、有機EL用フィルム、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光子保護フィルム、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシートなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライト、テールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡、コンタクトレンズ、内視鏡用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路標識、浴室設備、床材、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓、カーポート、照明用レンズ、照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具などに使用することができる。また、転写箔シートを使用した成形品の代替用途としても使用できる。
前記フィルムは、金属、プラスチックなどの基材に積層して用いることができる。フィルムの積層方法としては、積層成形や、鋼板などの金属板に接着剤を塗布した後、金属板にフィルムを載せて乾燥させ貼り合わせるウエットラミネートや、ドライラミネート、エキストルージョンラミネート、ホットメルトラミネ−ト等が挙げられる。
プラスチック部品にフィルムを積層する方法としては、フィルムを金型内に配置しておき、射出成形にて樹脂を充填するインサート成形またはラミネートインジェクションプレス成形や、フィルムを予備成形した後に金型内に配置し、射出成形にて樹脂を充填するインモールド成形等が挙げられる。
前記フィルムの積層体は、自動車内装材、自動車外装材などの塗装代替用途、窓枠、浴室設備、壁紙、床材、採光・調光部材、防音壁、道路標識などの土木建築用部材、日用雑貨品、家具や電子電気機器のハウジング、ファクシミリ、ノートパソコン、コピー機などのOA機器のハウジング、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板や、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板などの光学部材、光学用素子、電気または電子装置の部品、滅菌処理の必要な医療用品、玩具またはレクリエーション品目、繊維強化樹脂複合材料などに使用することができる。
特に、前記フィルムは、耐熱性および光学特性に優れる点では、光学用フィルムに好適であり、各種光学部材に用いられ得る。例えば、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの端末の液晶画面の前面板、照明用レンズ、自動車ヘッドライト、光学レンズ、光ファイバ、光ディスク、液晶用導光板、拡散板、バックシート、反射シート、偏光フィルム透明樹脂シート、位相差フィルム、光拡散フィルム、プリズムシート、表面保護フィルム、光学的等方フィルム、偏光子保護フィルムや透明導電フィルム等液晶表示装置周辺や、有機EL装置周辺、光通信分野等の公知の光学的用途に適用できる。
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
(製造例1)
<多層構造重合体粒子(B1)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 175部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.002部
炭酸ナトリウム 0.04725部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、過硫酸カリウム0.03部を2%水溶液で入れ、次いで表1に示した(I)を81分かけて連続的に添加した。さらに60分重合を継続することにより、(I)の重合物を得た。重合転化率は99.5%であった。
その後、過硫酸カリウム0.08部を2%水溶液で添加し、次いで表1に示した(II)を150分かけて連続的に添加した。添加終了後、過硫酸カリウム純分0.015部を2%水溶液で添加し、120分重合を継続し、(II)の重合物を得た。重合転化率は99.7%であり、平均粒子径は220.0nmであった。
その後、過硫酸カリウム0.023部を2%水溶液で添加し、表1に示した(III−1)を45分かけて連続的に添加し、さらに30分重合を継続した。その後、表1に示した(III−2)を25分かけて連続的に添加し、さらに60分重合を継続する事により、多層構造重合体粒子ラテックスを得た。重合転化率は101.8%であった。得られたラテックスを塩化カルシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状の多層構造重合体粒子(B1)を得た。多層構造重合体粒子(B1)のゲル分率は92%であった。
(製造例2〜13)
<多層構造重合体粒子(B2)〜(B13)の製造>
使用原料の種類と量を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様にして、多層構造重合体粒子(B2)〜(B13)を製造した。
(多層構造重合体粒子のゴム中間層までの平均粒子径)
平均粒子径は、前記重合段階(II)までの重合で得られたラテックスの状態で測定した。測定装置として、株式会社 日立ハイテクノロジーズのU−5100形レシオビーム分光光度計を用いて、546nmの波長の光散乱を測定して求めた。
(重合転化率)
重合により得られた重合体の重合転化率を以下の方法で求めた。重合系から重合体を含む約2gの試料(重合体ラテックス)を採取・精秤し、それを熱風乾燥機中で120℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率を試料中の固形分比率として求めた。最後に、この固形分比率を用いて、以下の計算式により重合転化率を計算した。なお、この計算式において、多官能性単量体および連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
重合転化率(%)={(仕込み原料総重量×固形分比率−水および単量体以外の原料総重量)/仕込み単量体重量}×100
(ゲル分率)
得られた多層構造重合体粒子2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間遠心分離を合計3セット実施し、不溶分と可溶分を分離した。得られた不溶分と可溶分の重量を測定して、次式よりゲル分率およびグラフト率を算出した。
ゲル分率(%)={(メチルエチルケトン不溶分の重量)/(メチルエチルケトン不溶分の重量+メチルエチルケトン可溶分の重量)}×100
Figure 2021084912
(製造例14)
<熱可塑性アクリル系樹脂の製造>
H型撹拌機を備えた8リットルガラス製反応器に脱イオン水200部、懸濁助剤であるリン酸水素2ナトリウム0.5部を仕込んだ。次に300rpmで撹拌しながら、反応器にラウロイルパーオキサイド0.3部を溶解させたメタクリル酸メチル85部、N−フェニルマレイミド10部、メタクリル酸2−エチルヘキシル5部、連鎖移動剤であるチオグリコール酸2−エチルヘキシル(2−EHTG)0.046部からなる単量体混合液を加え、反応機内を窒素置換しながら60℃に昇温して重合を開始した。60℃到達後50分間経過時点で、懸濁安定剤としてノニオン系水溶性高分子であるアデカプルロニックF−68(株式会社ADEKA製、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体)を0.15部添加した。その後60℃でさらに200分間反応させたのち、80℃に昇温して3時間撹拌し、重合を完結させた。得られた重合体に対して、樹脂量の3倍量の脱イオン水を用いた水洗を4回実施し、乾燥させることで、ビーズ状の懸濁重合体粒子を得た。得られた重合体の重量平均分子量をGPCで確認したところ162万であった。これを熱可塑性アクリル系樹脂(A1)とする。
(実施例1〜6及び比較例1〜7)
(多層構造重合体粒子を含む樹脂ドープの作成)
スクリュー管容器に塩化メチレン92重量%、エタノール8重量%からなる混合溶媒を入れ、攪拌しながら、表2に記載の多層構造重合体粒子の粉末を少しずつ投入し、均一になるまでマグネチックスターラーで攪拌し、得られた多層構造重合体粒子の分散液を超音波バス(ヤマト科学社製 ブランソンニック1510J)でさらに15分間分散処理を行った後、分散液に、表2に記載の熱可塑性アクリル系樹脂を少しずつ添加し、完全に溶解するまで攪拌して、固形分濃度10%の樹脂ドープを作製した。
(レーザー回折式粒度分布計による分散性評価)
レーザー回折式粒度分布計(マルバーン社製 マスターサイザー3000)を用いて測定した。塩化メチレンとエタノールの混合溶媒を分散媒として用い、循環させながらドープを滴下して、レーザー散乱強度が0.5〜2.0%になるようにして測定を行った。
粒径1μm以上の粒子が粒子全体に対して1体積%未満を占める場合を◎、粒径1μm以上の粒子が粒子全体に対して1体積%以上10体積%未満を占める場合を○、粒径1μm以上の粒子が粒子全体に対して10体積%以上15体積%未満を占める場合を△、粒径1μm以上の粒子が粒子全体に対して15体積%以上を占める場合を×とした。
(キャストフィルムの作製)
上記のドープを、PETフィルム(東洋紡製 コスモシャインA4100)上に流延し、アプリケーターで均一な膜状に塗布した。乾燥後の厚みがおよそ30〜50μmとなるように、クリアランスを調整した。塗工後、40℃の乾燥雰囲気下で5分間乾燥させた後、PETフィルムから剥離した。得られたフィルムをステンレス製の枠に固定し、140℃の乾燥雰囲気にて30分間乾燥させて残存溶剤を除去し、キャストフィルムを得た。このキャストフィルムの厚みを表2に記載した。なお、トリミング性の評価用フィルムについては厚みを70〜90μmに設定した以外は、上記と同様に製膜した。
(全光線透過率及びヘイズ値)
キャストフィルムの全光線透過率及びヘイズ値は、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製 HZ−V3)を用い、JIS K7105に記載の方法にて測定した。一方、純水を入れた石英セルの中にフィルムをいれ、水中で測定を行った際の値を内部へイズ値とし、ヘイズ値−内部へイズ値=外部ヘイズ値とした。
(膜厚)
キャストフィルムの膜厚は、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
(トリミング性)
TD方向と平行の方向にカッター刃を入れた際のクラックの有無を、下記基準により5段階評価で評価した。評価点が4点以上をトリミング性良好と評価できる。
1:フィルムを定規で固定した状態でも、カッター刃を入れると、割れや微細なクラックが入る。
2:フィルムを定規で固定した状態では、カッター刃を入れても割れが発生しないが、フィルムを固定しない状態でカッター刃を入れると割れが発生する。
3:フィルムを定規で固定した状態では、カッター刃を入れても割れ、及び微細なクラックが発生せず切断面が平滑であるが、フィルムを固定しない状態でカッター刃を入れると割れが発生する。
4:フィルムを固定しない状態で、カッター刃を入れても割れが発生しない。
5:フィルムを固定しない状態で、カッター刃を入れても割れ、微細なクラックが発生せず切断面が平滑である。
(一軸延伸フィルムの作製)
実施例および比較例で得られた未延伸のフィルムから幅20mm、長さ100mmの試験片を切り出し、135℃で自由端一軸延伸を行った。延伸倍率は100%、延伸速度は200mm/minで実施した。
(一軸延伸フィルムの面内位相差Re、厚み方向位相差Rth、および配向複屈折)
実施例および比較例で得られた延伸フィルムの中央部から試験片を切り出した。この試験片の面内位相差Reを、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて波長590nm、入射角0゜で測定した。同時に入射角40°の測定を行い、厚み方向位相差Rthも算出した。また、上記の一軸延伸フィルムの面内位相差をフィルムの膜厚で除した値を、配向複屈折として表2に記載した。
(未延伸フィルムの光弾性定数)
実施例および比較例で得られた未延伸のフィルムからTD方向に15mm×90mmの短冊状に試験片を切断した(TD方向に長辺がくるように切り出す)。自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0°にて測定を行った。測定は、フィルムの長辺の一方を固定し、他方は無荷重から2kgfまで0.2kgfずつ荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から、単位応力による複屈折の変化量を算出した。結果を表2に記載した。
(多層構造重合体粒子の配向複屈折、及び光弾性定数)
多層構造重合体粒子単独の配向複屈折、及び光弾性定数に関しては、多層構造重合体粒子を180℃でプレスし、膜厚500μmのプレス成形シートを作製し、上記と同様の方法で配向複屈折と光弾性定数を測定した。なお、光弾性定数については上記と同様に一軸延伸を行った後、測定を行った。延伸時に破断してしまったものについては、延伸不可とした。結果を表1に示した。
Figure 2021084912
表2より、実施例1〜6では、熱可塑性アクリル系樹脂と多層構造重合体粒子を含むドープ中に粒径1μm以上の粗大粒子が少なく、粒子分散性が良好であり、また、該ドープから溶液流延法により作製したフィルムは、外部ヘイズ値が小さく、カッティングする際に割れが生じにくくトリミング性が良好であったことが分かる。
比較例1及び2は、多層構造重合体粒子におけるゲル分率が低かったもので、ドープ中に粒径1μm以上の粗大粒子がきわめて多く、粒子分散性が不良であった。
比較例3は、ゴム中間層を形成する重合段階(II)における多官能性単量体の使用量が多かったもので、ドープの粒子分散性が不良であり、また、作製されたフィルムは外部ヘイズ値が大きく、トリミング性は不十分であった。
比較例4は、硬質コア層を形成しなかったもので、ドープの粒子分散性が不良で、また、作製されたフィルムの外部ヘイズ値が大きいものとなった。
比較例5は、硬質シェル層を形成する重合段階(III)におけるメタクリル酸アルキルエステルの使用量が、硬質シェル層全体として57.2重量%と少なかったもので、ドープの粒子分散性が不良であった。
比較例6は、硬質コア層を形成する重合段階(I)における多官能性単量体の使用量が多かったもので、作製されたフィルムの外部ヘイズ値が大きく、また、トリミング性は不十分であった。
比較例7は、ゴム中間層を形成する重合段階(II)において、上述した一般式(4)で表される単量体を使用しなかったもので、ドープの粒子分散性が不良であった。また、複屈折の大きい多層構造重合体粒子を配合しているため、作製されたフィルムの複屈折も大きいものとなった。
比較例8は、多層構造重合体粒子を配合しなかったもので、フィルムのトリミング性が不十分であった。

Claims (15)

  1. 熱可塑性アクリル系樹脂、多層構造重合体粒子、及び、溶剤を含む、溶液流延法によるフィルム製造用ドープであって、
    前記熱可塑性アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチル単位60〜100重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体単位0〜40重量%から構成される重合体であり、
    前記多層構造重合体粒子は、少なくとも硬質コア層、ゴム中間層、及び、硬質シェル層を含み、
    前記硬質コア層は、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、アクリル酸アルキルエステル0〜35重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(a)、並びに、多官能性単量体0.1〜1.0重量部(単量体成分(a)100重量部に対して)から形成される硬質重合体(A)から構成され、
    前記ゴム中間層は、アクリル酸アルキルエステル40〜99重量%、下記一般式(4)で表される単量体1〜60重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(b)、並びに、多官能性単量体0.1〜1.6重量部(単量体成分(b)100重量部に対して)から形成される軟質重合体(B)から構成され、
    Figure 2021084912
    (式中、Rは、水素原子、または、置換もしくは無置換で直鎖状もしくは分岐状の炭素数1〜12のアルキル基を表す。R10は、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の芳香族基、または、置換もしくは無置換の炭素数5〜24の脂環式基であり、単素環式構造または複素環式構造を有する。lは1〜4の整数を示す。mは0〜1の整数を示す。nは0〜10の整数を示す。)
    前記硬質シェル層は、メタクリル酸アルキルエステル60〜100重量%、及び、共重合可能な二重結合を有する他の単量体0〜40重量%からなる単量体成分(c)、並びに、多官能性単量体0〜10重量部(単量体成分(c)100重量部に対して)から形成される硬質重合体(C)から構成され、
    前記多層構造重合体粒子のゲル分率が85%以上である、ドープ。
  2. 前記多層構造重合体粒子は、配向複屈折の絶対値が2×10−4以下である、請求項1に記載のドープ。
  3. 前記多層構造重合体粒子は、光弾性定数の絶対値が3×10−12Pa−1以下である、請求項1又は2に記載のドープ。
  4. 単量体成分(a)、単量体成分(b)、及び単量体成分(c)の合計量に対して、単量体成分(a)の割合が15〜35重量%、単量体成分(b)の割合が30〜70重量%、単量体成分(c)の割合が15〜35重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドープ。
  5. 前記単量体成分(b)中の前記一般式(4)で表される単量体の含有割合が、20重量%以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のドープ。
  6. 前記一般式(4)で表される単量体が、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシエチルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のドープ。
  7. 前記単量体成分(a)における前記一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の合計含有量が0〜15重量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のドープ。
  8. 前記単量体成分(c)における前記一般式(4)で表される単量体及び芳香族基を有するビニル系単量体の合計含有量が0〜15重量%である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のドープ。
  9. 前記熱可塑性アクリル系樹脂における前記他の単量体単位が、N−置換マレイミド単量体単位を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のドープ。
  10. 前記熱可塑性アクリル系樹脂中の前記N−置換マレイミド単量体単位の含有量が1〜25重量%の範囲である、請求項9に記載のドープ。
  11. 前記溶剤は、塩化メチレンとエタノールまたはメタノールの混合溶剤である、請求項1〜10のいずれか1項に記載のドープ。
  12. 溶液流延法によるフィルムの製造方法であって、請求項1〜11のいずれか1項に記載のドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させる工程を含む、フィルムの製造方法。
  13. 請求項1〜11のいずれか1項に記載のドープから形成されてなるフィルム。
  14. 前記フィルムは、外部ヘイズが1.0%以下である、請求項13に記載のフィルム。
  15. 前記フィルムは、延伸されたフィルムである、請求項13又は14に記載のフィルム。
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