JP2017141123A - 低温作動可能なペロブスカイト型酸化物吸着材およびその製造法 - Google Patents

低温作動可能なペロブスカイト型酸化物吸着材およびその製造法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来よりも非常に低い300〜400℃という作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物を提供する。
【解決手段】下記組成式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物であって、
{La1−x(Sr1−αCaα}{Co1−y(Fe1−ββ}O3−δ (1)
(式中、xは0.7≦x≦1、yは0<y≦0.4、αは0≦α≦0.5、βは0≦β≦0.25、δは0<δ<3であり、XはZrもしくはTi、またはZrとTiの両方である)
前記ペロブスカイト型酸化物の粒子が、比表面積6m/g以上、等価円直径1μm以上、且つ5μm以下であり、前記等価円直径に対して5%以上、且つ30%以下の厚みを有する板状構造を有し、立方晶ペロブスカイト相を60重量%以上含むこと、を特徴とするペロブスカイト型酸化物。
【選択図】図1

Description

本発明は、300〜400℃の低作動温度で酸素混合ガスから酸素分離が可能なペロブスカイト型酸化物、およびそのペロブスカイト型酸化物を低熱処理温度で合成するための製造法に関する。
空気のような酸素含有ガス流から酸素を分離し、除去し又は濃縮するプロセスは、重要な工業的技術である。このようなプロセスは通常原料を空気に求めるため、原料コストがかからないことから、酸素に付加される価格は、(1)分離・濃縮設備の設備費、(2)設備の稼動電力費、(3)分離媒体が必要な場合はその価格、に依存するのが通常である。
純酸素を分離し製造する場合、製造法の主流は深冷分離法である。深冷分離法は上記(1)設備費および(2)電力費が高いが、スケールメリットが大きいため、純酸素を多量に必要とする製鉄、化学工業などにおいて操業する場合に適している。
酸素富化空気(酸素濃度が20%以上、100%未満の空気)を少量必要とする場合には、吸着分離法が適している。現在、吸着分離法で通常用いられている吸着材はゼオライトである。
純酸素を少量必要とする場合に適応可能な酸素の製造法として、ペロブスカイト型酸化物を酸素分離用吸着材として用いる吸着分離法が記載されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1の酸素分離作動温度は200〜700℃と記載されている。下限の200℃および特許文献1の実施例で酸素吸着速度が最も優れると記載のある400℃は、それぞれペロブスカイト型酸化物を吸着材として用いる酸素分離作動温度としては低温であるものの、上限の700℃は高温であり、且つ、この特許文献1記載の酸素分離作動温度は、酸素分離を行う前の活性化処理としての800℃への加熱を前提としている。従って特許文献1記載の酸素分離は、800℃での活性化処理を含んでおり、酸素分離作動温度の下限が200℃であったとしても低作動温度での酸素分離を実現できているとは言えず、ペロブスカイト型酸化物を用いて、活性化処理無しに、300〜400℃の低作動温度で酸素を分離する方法は記載されていない。また活性化処理の効果はある程度時間が経つと減少するが、その効果がいつまで持続するかについても記載されていない。
また特許文献1記載の実施例には、酸素吸着特性の優れているペロブスカイト型酸化物として、La0.1Sr0.9Co0.9Fe0.13-δが挙げられている。この組成を有するペロブスカイト型酸化物の製造法において、特許文献1の実施例では金属硝酸塩を原料とし、水溶液を80℃で乾燥した後350℃で熱処理し、その後1000℃という高温で再度熱処理を行っている。特許文献1のペロブスカイト型酸化物の製造法では、最終的にペロブスカイト型酸化物が経験する熱処理の温度は1000℃という高温である。
一方、ペロブスカイト型酸化物を低温で合成する製造法が記載されている(例えば、特許文献2、特許文献3)。特許文献2は、希土類元素および遷移金属元素それぞれの塩の混合溶液に炭酸アンモニウムなどのアルカリを添加するアルカリ沈殿法によって、400〜700℃という低熱処理温度でペロブスカイト型酸化物を製造する方法に関する。特許文献3は、同様にアルカリ沈殿法によって、熱処理温度600〜1300℃でLa、Sr、Co、Feから成るペロブスカイト型酸化物を製造する方法に関する。1300℃という熱処理温度は低温でないが、600℃は低温であり、特許文献3によれば600℃でLa、Sr、Co、Feからなるペロブスカイト型酸化物を製造可能であるから、特許文献3にはペロブスカイト型酸化物を低温で合成する製造法が記載されている。これらの特許文献の請求項には、製造するペロブスカイト型酸化物の構成元素は記載されているが、その割合は記載されていない。特許文献2および3の実施例に記載のペロブスカイト型酸化物のうちSrおよびCoの割合が高いのは(La0.7Sr0.3)CoO3およびLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83であり、いずれも、Srの比率は、0.5よりも低い。
アルカリ沈殿法以外のペロブスカイト型酸化物の合成方法として、クエン酸を用いた方法がある(例えば、特許文献4)。特許文献4では、金属硝酸塩およびクエン酸を原料とし、それぞれの水溶液の混合物を乾燥後、真空中または不活性ガス中350〜500℃で仮焼成、続いて酸化雰囲気中700〜950℃以上で焼成を行うことにより、M12 1-x3 x3(ここで、M1はLa、Sr、Ce、Ba、Caのうち少なくとも一種、M2はCo、Feのうち少なくとも一種、M3はPt、Pdのうち少なくとも一種であり、0.005≦x≦0.2である)において、PtまたはPdの90%以上が結晶格子中に存在するペロブスカイト型酸化物を得る方法が示されている。
特許文献4のペロブスカイト型酸化物の製造法においては、仮焼成はクエン酸の加熱分解温度である350℃以上の温度で行うと記載されている。また分解反応を促進するため、仮焼成時の雰囲気は真空あるいは不活性ガスと記載されている。さらに焼成においては、ペロブスカイト構造を形成するため焼成温度は700℃以上とし、酸化物形成のため雰囲気は酸素を含むガスとすると記載されている。特許文献4記載の実施例5のSr0.9Ba0.1Co0.85Pd0.153は、真空中400℃で仮焼成、大気中700〜950℃で焼成することにより合成されている。従って特許文献4記載の方法では、SrおよびCo含有率の高い組成のペロブスカイト型酸化物を得るためには700〜950℃という高温での熱処理が必要と記載されている。また組成に関しては、特許文献4のペロブスカイト型酸化物の用途は排ガス浄化触媒やNOx吸着材であるため、PtまたはPdが構成元素として必須である。
特開2005−87941号公報 特開2005−187311号公報 特開2014−162706号公報 特開平6−100319号公報
長島弘三、富田功著「分析化学」、裳華房、2008年6月10日発行、p.303−306
本発明は、従来技術おけるペロブスカイト型酸化物の製造法における課題、および酸素製造プロセスにおける課題を解決するペロブスカイト型酸化物およびその製造法を提供する。
ペロブスカイト型酸化物の製造法における課題は、酸素吸着特性の優れるSrおよびCoを高い割合で含む組成のペロブスカイト型酸化物を製造するために、700℃を超える高温での熱処理が必要なことである。更にこうして出来上がった従来のペロブスカイト型酸化物は、酸素分離用吸着材として用いる際、酸素分離作動温度も400℃を超える高温とする必要があった。
本発明者は、上記課題の解決を目指して鋭意検討を行った。その結果、ペロブスカイト型酸化物を酸素吸着材として用いる場合、ペロブスカイト型酸化物の組成が酸素吸着特性に影響を及ぼすが、組成だけではなく、比表面積や粒子形状、立方晶ペロブスカイト相の割合も大きく影響を及ぼすことを見出した。具体的には、本発明の、300〜400℃の低作動温度でも酸素分離が可能な酸素吸着材とは、少なくともSr、Co、およびFeを含み、SrおよびCoを高い割合で含む組成のペロブスカイト型酸化物であって、比表面積が6m2/g以上、粒子の「等価円直径」が1μm以上、5μm以下の大きさであって、この大きさに対して5%以上、30%以下の厚みを有する板状の粒子構造を有し、立方晶ペロブスカイト相の割合が60重量%以上である、という要件を満たせばよいことを見出した。またこの要件を満たすペロブスカイト型酸化物を製造するためには、金属硝酸塩およびキレート剤の水溶液を混合し、水分を乾燥させた固体を180℃以上、300℃以下の温度で大気中にて仮焼後、600℃以上、700℃以下の温度で不活性ガスに対して水素を流量割合で5体積%以下含む雰囲気にて本焼成する、という要件を満たす製造方法で行えばよいことが分かった。
これらの検討に基づき、本発明は、SrおよびCoを高い割合で含む組成で、かつ、立方晶ペロブスカイト相の割合が高く、高比表面積であり、ガス拡散性の高い板状の粒子構造を有するため、従来のペロブスカイト型酸化物を用いた酸素分離作動温度と比較して非常に低い300〜400℃という作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物を提供し、さらにそのペロブスカイト型酸化物を低熱処理温度で製造する方法をも提供するものである。
かくして、本発明によれば、下記を提供する:
(1)酸素を選択的に吸着させる酸素分離に用いるための、下記組成式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物であって、
{La1−x(Sr1−αCaα}{Co1−y(Fe1−ββ}O3−δ (1)
(式中、xは0.7≦x≦1、yは0<y≦0.4、αは0≦α≦0.5、βは0≦β≦0.25、δは0<δ<3であり、XはZrもしくはTi、またはZrとTiの両方である)
前記ペロブスカイト型酸化物の粒子が、比表面積6m/g以上、等価円直径1μm以上、且つ5μm以下であり、前記等価円直径に対して5%以上、且つ30%以下の厚みを有する板状構造を有し、立方晶ペロブスカイト相を60重量%以上含むこと、を特徴とするペロブスカイト型酸化物。
(2)αが0であり、かつβが0でないことを特徴とする(1)に記載のペロブスカイト型酸化物。
(3)αが0でなく、かつβが0であることを特徴とする(1)に記載のペロブスカイト型酸化物。
(4)αが0であり、かつβが0であることを特徴とする(1)に記載のペロブスカイト型酸化物。
(5)下記組成式(1)、
{La1−x(Sr1−αCaα}{Co1−y(Fe1−ββ}O3−δ (1)
(式中、xは0.7≦x≦1、yは0<y≦0.4、αは0≦α≦0.5、βは0≦β≦0.25、δは0<δ<3であり、XはZrもしくはTi、またはZrとTiの両方である)
で表されるペロブスカイト型酸化物の製造方法であって、
La、Sr、Ca、Co、Zr、TiおよびFeの塩、ならびにキレート剤を含む混合水溶液を調製する第一工程、ここで前記混合水溶液に含まれる前記La、Sr、Ca、Co、Zr、TiおよびFeの金属元素の配合割合は、前記組成式(1)に規定する金属元素の割合である第一工程と、
前記混合水溶液を乾燥させて得られる固体を、大気中で、またはアルゴン、水素、もしくは窒素から成る雰囲気中で、前記キレート剤の酸化分解温度以下の温度で仮焼して、キレート錯体を形成する第二工程と、
前記キレート錯体を含む固体を、アルゴンまたは窒素から成る雰囲気に対して0<流量割合≦5体積%の水素を導入した還元性雰囲気中で、600℃以上、700℃以下で本焼成する第三工程と
を含むことを特徴とする、ペロブスカイト型酸化物の製造方法。
従来、ペロブスカイト型酸化物を酸素分離用吸着材として用いる場合、400℃〜700℃の高温を含む温度で作動させる必要があり、酸素分離を行う事前の熱処理として800℃の高温への加熱を前提としていることから、酸素を分離する際の電力費が高価であった。またSrおよびCoを高い割合で含むペロブスカイト型酸化物を製造する際には1000℃以上の高温での熱処理が必要であり、酸素分離媒体であるペロブスカイト型酸化物の製造コストが高価であった。さらにペロブスカイト型酸化物製造時に高温での熱処理を行うと、比表面積が低くガス拡散性の低い粒子形状のペロブスカイト型酸化物しか得られず、酸素吸着特性の低いペロブスカイト型酸化物しか得られなかった。
本発明によれば、特許文献1のような酸素分離前の事前の活性化処理が不要であり、300〜400℃というペロブスカイト型酸化物の酸素分離作動温度としては非常に低い温度で優れた酸素吸着特性を示すペロブスカイト型酸化物を、500〜700℃の低温での熱処理で安価に製造することが可能とあり、製造された本発明によるペロブスカイト型酸化物によって、純酸素を小規模な設備で安価に分離し製造することが可能となる。
本発明のペロブスカイト型酸化物粒子を表す電子顕微鏡写真。 本発明のペロブスカイト型酸化物粒子の模式図。
本明細書では複数の種類の温度について記載しているため、それぞれの意味を以下に示す。
作動温度とは、空気を原料として酸素を分離し製造する際に、吸着剤であるペロブスカイト型酸化物を加熱する温度である。すなわち、酸素を分離するときの温度を指す。熱処理温度とは、ペロブスカイト型酸化物製造時の温度である。仮焼温度、本焼成温度両者をまとめて、最終的にペロブスカイト型酸化物が経験する最も高い温度を熱処理温度とする。仮焼温度とは、ペロブスカイト型酸化物製造時の温度であって、一回目の熱処理(仮焼)を行う温度を指す。本焼成温度とは、ペロブスカイト型酸化物製造時の温度であって二回目の熱処理(本焼成)を行う温度を指し、この操作を行うことによって、ペロブスカイト型酸化物構造が形成される。仮焼温度よりも高温である。
本発明において酸素吸着特性とは、酸素吸着容量および酸素吸着速度の2つの要素を含む。酸素吸着容量は、ある時間内で酸素が吸着可能な量を示し、ペロブスカイト型酸化物の酸素空孔量δに依存するため、酸素吸着容量にはペロブスカイト型酸化物の組成が大きく影響する。酸素吸着容量が大きいほど、吸着可能な酸素量が多いことを表す。一方酸素吸着速度は、酸素吸着開始から1分経過時点での酸素吸着量を示し、酸素吸着速度が大きいほど、短時間で多量の酸素を吸着可能であることを表す。酸素吸着特性には、ペロブスカイト型酸化物の組成、立方晶ペロブスカイト相の純度、および比表面積や粒子形状が影響を及ぼす。
本発明で提供するペロブスカイト型酸化物は、La、Sr、Co、Feに加えて、Ca、Zr、Tiを含み、酸素吸着特性に優れるSrおよびCoを高い割合で含む組成であって、立方晶ペロブスカイト相の割合が高く、尚且つ酸素吸着特性に優れる比表面積および粒子形状を有する。
特許文献1では、La、Sr、Co、Feからなるペロブスカイト型酸化物の製造法として、1000℃という高温での熱処理を行う方法が記載されている。従って、500〜700℃の低い熱処理温度でLa0.1Sr0.9Co0.9Fe0.13-δペロブスカイト型酸化物を製造する方法は記載されていない。
特許文献2および3記載のペロブスカイト型酸化物は、SrおよびCoを高い割合で含む組成であることを必要としていない。特許文献2および3の実施例に記載のペロブスカイト型酸化物のうち、SrおよびCoの割合の比較的高い組成は(La0.7Sr0.3)CoO3およびLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.83であり、それぞれ熱処理温度700℃および600℃で製造可能と記載されている。これよりも高い割合でSrおよびCoを含む組成のペロブスカイト型酸化物の製造法については、記載されていない。従って本発明とは全く異なるペロブスカイト型酸化物に関するものである。
特許文献4記載のペロブスカイト型酸化物は、排ガス浄化触媒やNOx吸着材を用途として想定しているため、Pt、Pdを構成元素として含むことが必須であるのに対し、本発明のペロブスカイト型酸化物は、これらを構成元素として含まない。従って本発明のような、SrおよびCo含有率の高い組成のペロブスカイト型酸化物を低温での熱処理で得る方法は記載されていない。また特許文献4に記載のペロブスカイト型酸化物の製造方法は、金属硝酸塩およびクエン酸を原料としているものの、一回目の熱処理をクエン酸の分解温度以上である350℃以上、500℃以下、真空中あるいは不活性ガス中で行い、二回目の熱処理を700℃以上、950℃以下、大気中で行う製造法であり、当該製造方法では本発明の提供する300〜400℃の低作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物を製造することはできない。
(ペロブスカイト型酸化物の組成の説明)
本発明のペロブスカイト型酸化物はAサイト中にSrを0.7以上、1以下、Bサイト中にCoを0.6以上、1未満含む、SrおよびCoを高い割合で含む組成である。SrおよびCoの割合がこれより低い、つまりAサイト中Srが0.7未満、Bサイト中にCoが0.6未満の場合、酸素空孔量δが小さくなるため酸素吸着特性が悪い。酸素空孔はペロブスカイト型酸化物の結晶格子中に含まれる酸化物イオンの欠損で、この欠損(空孔)の量こそが吸着可能な酸素量であり、またこの空孔を介して酸素が拡散するため、酸素空孔量δが大きいと酸素吸着特性が高くなる。ペロブスカイト型酸化物中、LaおよびFeは3価、SrおよびCoは2価の陽イオンとしてそれぞれ存在している。2価のSrおよびCoによってAサイト、Bサイトがそれぞれ多量に置換されていると、Aサイト、Bサイトが低価数状態となる。すると酸化物イオンは、欠損することによって電気的に中性になろうとし、結晶格子中に多量の酸素空孔が生じる。以下に記載するようにSrの一部はCaで置換されていてもよい。この場合は、組成式(1)のAサイト中Sr対応部分は、(Sr1−αCaαとなり、Aサイト中でSrとCaとの合計比率が、0.7以上、1以下となる。
しかしSrおよびCoの割合が本発明の範囲より高いもののうち、ペロブスカイト型酸化物がAサイトにLaのみしか含まない場合には、Coの割合が高くとも酸素吸着特性は低下する。これはSrよりもイオン半径の小さいLaにAサイトが全量置き換わることで、ペロブスカイト型酸化物の単位胞が小さくなり、酸化物イオンが拡散しづらくなるためである。
またSrおよびCoの割合が本発明の範囲より高いもののうち、ペロブスカイト型酸化物の組成がSrCoO3-δの場合、ペロブスカイト型酸化物は六方晶ペロブスカイト構造となり、立方晶ペロブスカイト相の割合が非常に低くなる。酸素吸着特性に影響を及ぼすのは、ブラウンミラライト型や六方晶といったペロブスカイト類似構造を有する相ではなく、立方晶構造を有するペロブスカイト相である。従って立方晶ペロブスカイト相の割合が低い場合、酸素吸着特性が著しく低下する。結果として、300〜400℃という低作動温度での酸素分離が不可能となる。
本発明のペロブスカイト型酸化物では、Srの一部はCaで置換されていてもよい。置換する割合(α)は、Srに対して0以上、0.5以下である。Srはペロブスカイト型酸化物製造段階で周囲の二酸化炭素と容易に結合し、炭酸ストロンチウムを不純物として生ずる。またSrの原料である硝酸ストロンチウムはその他の金属硝酸塩と比較して融点が高い(硝酸ストロンチウムの融点570℃、その他La、Co、Feの融点は100℃以下)ため分解しづらく、熱処理しても硝酸塩が残留しやすい。残留すると金属イオンの均質性が低下し、金属イオンが均質な状態で一斉にペロブスカイト型酸化物を形成するのを阻害し、不純物を生じやすくなるため、立方晶ペロブスカイト相の純度が低下する。そこで硝酸ストロンチウムよりも融点の低い硝酸カルシウム(融点561℃)に一部置換することで、硝酸ストロンチウムの残留による金属イオンの均質性低下を抑え、立方晶相の生成を促進可能である。また硝酸カルシウムも周囲の二酸化炭素と結合し炭酸カルシウムを生ずるが、炭酸カルシウムの融点(825℃)は炭酸ストロンチウム(1497℃)よりも低く、炭酸塩が生成してしまったとしても分解しやすいことから、立方晶ペロブスカイト相の割合を向上させることが可能である。通常、CaはSrよりも酸素吸着特性を低下させるため、Srを置換する元素としては用いられなかった元素である。これは、CaはSrと価数は同じであるがイオン半径が小さく、SrがCaに置き換わるとペロブスカイト型酸化物の単位胞が小さくなり、酸化物イオンが拡散しづらくなるためである。しかしながら、置換する割合をSrの数の半分以下とすることで、酸化物イオンが拡散しづらくなる効果よりも立方晶ペロブスカイト相の割合を高める効果が勝り、酸素吸着特性を損なわずに立方晶ペロブスカイト相を高い割合で含むペロブスカイト型酸化物を得ることが可能である。置換する割合は、上述した範囲を下回っても、つまりCaを全く含まなくてもよい。しかし上回る場合、つまりCaの割合がSrに対して0.5を超える場合、立方晶ペロブスカイト相の割合を向上させる効果をCa置換による酸素吸着特性低下の効果が上回るため、得られるペロブスカイト型酸化物の酸素吸着特性が不足となり、300〜400℃という低作動温度での酸素分離が不可能となる。
また、本発明のペロブスカイト型酸化物では、Feの一部がZr、Tiで置換されていてもよい。置換する割合(β)は、Feの数に対して0以上、0.25以下である。高純度な立方晶ペロブスカイト相の生成を阻害する要因として、上述した炭酸ストロンチウム以外の不純物としては、立方晶以外の構造を有するペロブスカイト相が挙げられる。具体的には、ブラウンミラライト型、六方晶などのペロブスカイト類似構造を有する相である。Zr、Tiは立方晶ペロブスカイト相の安定化に寄与する元素であり、これらの元素を添加することにより、ペロブスカイト類似構造を有する相の生成を阻害することが可能である。置換する割合は、上述した範囲を下回っても、つまりZr、Tiを全く含まなくてもよい。上回る場合、つまりZr、Tiの割合がFeに対して0.25を超える場合は、酸素吸着能力が低下する。従って置換する割合はFeに対して0.25以下である。
上記の生成相の確認は、XRD測定により行った。
組成式(1)中のδは酸素空孔量を示す。本発明のペロブスカイト型酸化物がとりうるδの値の範囲は0<δ<3である。δ=0では単位格子中に酸素欠損を含まない。δ=0のペロブスカイト型酸化物は存在するが、本発明のペロブスカイト型酸化物の組成では酸素欠損を持たなければ電気的に中性になれないため、δ=0とはならない。δ≧3は酸化物イオンが過剰な状態である。そのようなペロブスカイト型酸化物は存在するが、本発明のペロブスカイト型酸化物の組成では陽イオンの価数の方が高いため、δ≧3とはならない。
(粒子形状の説明)
本発明のペロブスカイト型酸化物の粒子の比表面積は6m2/g以上である。6m2/g未満の場合、比表面積が低すぎるため、充分な酸素吸着速度が得られない。従って比表面積が6m2/g未満の場合、300〜400℃という低作動温度での酸素製造が不可能となる。ペロブスカイト型酸化物粒子の比表面積が大きいほど大きな酸素吸着速度が得られるため、比表面積の上限は問わないが、100m2/g以上の大きな比表面積では酸素吸着速度が飽和するため、これ以上の比表面積は不要である。比表面積は、BET測定によって確認した。
本発明のペロブスカイト型酸化物の粒子は板状構造を有する。本発明において板状構造とは、粒子の等価円直径に対して厚みが5%以上、30%以下であることを指す。等価円直径に対して厚みが5%未満の場合、機械的強度が低く粒子が割れてしまうため、等価円直径に対して5%未満の厚みを有する板状粒子は存在できない。厚みが30%を超える場合、厚みが大きく粒子内部で酸化物イオンが拡散しなければならない距離が長くなるため、ガス拡散性が低下し、また比表面積も低下してしまうため、酸素吸着速度が低下する。ここで用いる「等価円直径」とは、上から見た板状粒子の面積と同等の面積を有する円の直径をいう。粒子が板状構造であると、等価円直径と同等の直径を有する球状粒子の場合と比較して、粒子内部で酸素が拡散しなければならない距離が短くなり、ガス拡散性を高めることができる。従って粒子が板状構造を有する場合、ガス拡散性が高く、酸素吸着速度が大きくなる。粒子が板状構造を成さない場合、ガス拡散性が低下するため酸素吸着速度も低下する。等価円直径は1μm以上、5μm以下のサイズを有する。粒子が1μm未満の場合、微細な粒子となるため比表面積は高いが、微粒子化するゆえに、粒子を吸着材として用いる場合、粒子同士が密に充填されやすく、板状粒子である場合と比較して、粒子間のガス拡散性が低下するため、酸素吸着速度が低下する。等価円直径が5μmを超える場合、粒子が粗大となり比表面積が低下するため、吸着速度が低下する。
粒子のサイズはレーザー回折式粒子径分布測定装置で測定した。目的のペロブスカイト型酸化物粒子を超音波によって水溶媒に分散させた状態で測定を行い、粒径分布における最大出現比率をとる粒径(モード径)を粒子のサイズ、すなわち等価円直径とした。レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定されるサイズは、測定対象物を球体として近似したときの値である。本発明の粒子は球体ではなく板状構造であるものの、等価円直径はこの値と同じ程度と考えて差し支えないとし、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定されるサイズを等価円直径とした。
これに加えて、サイズおよび構造をSEM観察により確認した。10000〜50000倍で3視野以上観察し、1視野あたり5個以上の粒子の厚みおよび等価円直径をカウントすることにより粒子のサイズおよび構造を求めた。SEM観察においては、像から板状に見られるものをピックアップし、その等価円直径が上述のレーザー回折式粒子径分布測定装置で求めたモード径と±50%の精度で一致しているものを板状粒子とした。本発明のペロブスカイト型酸化物粒子が板状構造になる理由については、その詳細は不明であるが、仮焼段階ではなく本焼成段階で形成される構造であるため、本焼成時にキレート剤の酸化分解により生じる二酸化炭素の流通、ペロブスカイト型酸化物の生成・焼結、などの過程を経る結果、ペロブスカイト結晶粒がある程度焼結した板状の粒子を形成するのではないかと考えられる。
本発明のペロブスカイト型酸化物に含まれる立方晶ペロブスカイト相の割合は60重量%以上である。60重量%未満では、ペロブスカイト型酸化物製造段階で二酸化炭素とストロンチウムが反応することにより生ずる炭酸ストロンチウム、立方晶構造以外のブラウンミラライト型、六方晶などのペロブスカイト類似構造を有する相、といった不純物が過多となり、酸素吸着特性が不足するため、300〜400℃という低作動温度での酸素分離が不可能となる。立方晶ペロブスカイト相の割合は、100重量%となることが最も好ましい。
得られたペロブスカイト型酸化物中に含まれる立方晶ペロブスカイト相の割合も、XRD測定により算出した。まず、測定したいペロブスカイト型酸化物に、高温で熱処理したピュアな立方晶ペロブスカイト型酸化物を内部標準として添加した混合粉末を作成した。添加した立方晶ペロブスカイト相の割合に対して、直線性の良いピークを選んでX線積分強度をプロットし、非特許文献1記載の標準添加法を用いて定量した。
本発明のペロブスカイト型酸化物は、比表面積が6m2/g以上であり、粒子の等価円直径が1μm以上、5μm以下の大きさであって、この大きさに対して5%以上、30%以下の厚みを有する板状構造を有する。従って本発明のペロブスカイト型酸化物は比表面積が高く、ガス拡散性の高い構造であるため、300℃〜400℃というペロブスカイト型酸化物としては非常に低い作動温度であっても、優れた酸素吸着特性を示す。従って本発明のペロブスカイト型酸化物は、特許文献1にあるような高温(800℃)での活性化処理は不要であるため、本当の意味での低温作動での酸素製造が実現可能であり、酸素製造時の設備稼働電力費低減が可能である。
本発明のペロブスカイト型酸化物を用いる酸素吸着材においては、酸素分離特性として吸着容量だけではなく、吸着速度も重視している。これは酸素製造時、吸着/再生切り替え直後の吸着量の立ち上がりが速いほうが吸着、再生のサイクルを短時間で行うことが出来て単位時間当たりの酸素製造量を多くすることができるためである。本発明のペロブスカイト型酸化物は、酸素分離作動温度300℃において、酸素分圧切り替え後1分程度でほぼ飽和量の酸素を吸着させることが可能である。
上述したように、本発明の酸素分離作動温度は300〜400℃である。本発明のペロブスカイト型酸化物の酸素吸着速度は400℃で飽和するため、これ以上の高温に加熱しても意味がない。さらに本発明のペロブスカイト型酸化物は、低い作動温度域において、特に優れた酸素吸着速度を示す。400℃を超える温度では、特許文献1に記載されているような高い熱処理温度で製造したペロブスカイト型酸化物に対する優位性が失われてしまう。従って、酸素分離作動温度の上限は400℃である。
酸素分離作動温度を徐々に高めた場合、300℃付近までは酸素吸着速度が急激に増大し、その後の増加は比較的緩やかである。300℃を下回る温度では急激に酸素吸着速度が減少し、本発明で酸素吸着速度として定義している一分間の酸素吸着量が読み取れないほど小さくなってしまう。従って、酸素分離作動温度の下限は300℃である。
本発明のペロブスカイト型酸化物は、特許文献1に記載されているような高い熱処理温度で製造したペロブスカイト型酸化物と比べて優れた酸素吸着特性を示すが、特に両者の差が顕著に現れるのは低作動温度においてである。従って酸素分離作動温度の範囲は300〜400℃であるが、好ましくは300〜350℃、より好ましくは300〜320℃である。
特許文献1の酸素分離作動温度は200〜700℃と記載されているが、作動温度の下限が200℃という低温であったとしても、前処理で、800℃という高温で活性化処理を行うことを前提としており、低作動温度での酸素分離を実現できているとは言えない。
本発明のペロブスカイト型酸化物の酸素分離作動温度(300〜400℃、好ましくは300〜350℃、より好ましくは300〜320℃)は、特許文献1に記載されているような従来の酸素分離作動温度と比較して低温である。本発明のペロブスカイト型酸化物は、特許文献1のように800℃といった高温の活性化処理なしに、あるいは高温の事前処理なしに、低温(300〜400℃、好ましくは300〜350℃、より好ましくは300〜320℃)での酸素分離を実現できるものである。
なお、本発明のペロブスカイト型酸化物の組成に関して、Srの一部はCaで置換されていてもよいが、されていなくてもよい。またFeの一部はZrもしくはTi、またはZrとTiの両方で置換されていてもよいが、されていなくてもよい。それぞれの置換は片方のみでもよく、両方同時に行ってもよい。
以下に記載するように、本発明のペロブスカイト型酸化物の製造方法において、本焼成を行う温度は、600℃以上、700℃以下である。600℃未満では、硝酸ストロンチウムの分解温度(570℃)に対して温度が不足するため、硝酸ストロンチウムがそのまま残留してしまい、ペロブスカイト型構造を形成できない。従って本焼成温度の下限は600℃である。硝酸ストロンチウム自身の分解温度よりも高くするのであれば、570℃以上であれば600℃以下でも良いということになるが、本発明では、硝酸ストロンチウムはキレート剤とキレート錯体を形成した状態で存在している。キレート錯体化した場合、金属塩の分解温度は安定性が向上するため高まる傾向にあるため、本焼成温度の下限は570℃ではなく、600℃である。700℃を超える温度では、結晶粒の成長が進みすぎるため、粒子が粗大となり低比表面積化する。また粒子が粗大となるためガス拡散性が低下し、酸素吸着速度が低下する。従って本焼成温度の上限は700℃である。600〜700℃の間では、立方晶ペロブスカイト相の割合と比表面積がバランスし、優れた酸素吸着特性を得られる。
本発明のペロブスカイト型酸化物の酸素吸着速度は、300℃において15×10-32mmolg-1min-1以上である。酸素吸着速度が15×10-32mmolg-1min-1未満の場合、酸素吸着速度が低すぎる。特許文献1に記載されているような高温の熱処理を行う製造法によって得られたペロブスカイト型酸化物が示す酸素吸着速度と比較して、本発明のペロブスカイト型酸化物の酸素吸着速度15×10-32mmolg-1min-1は、10倍以上の非常に優れた値である。従って本発明のペロブスカイト型酸化物の酸素吸着速度未満の速度しか示さないペロブスカイト型酸化物では、300℃という低作動温度での安価な酸素製造が不可能となる。酸素吸着速度が大きいほど、短時間で多量の酸素を製造可能となるため、酸素吸着速度の上限は問わないが、現実的に得られる酸素吸着速度の上限としては、25×10-22mmolg-1min-1程度である。
本発明のペロブスカイト型酸化物の酸素吸着特性は、TG−DTAにより測定した。吸着ガスを空気、脱着ガスを窒素として酸素分圧を変化させ、雰囲気を30分毎に切り替えた際の、30分間での合計の質量変化を酸素吸着容量とした。また増加質量から、単位吸着材であるペロブスカイト型酸化物の質量当たりの酸素吸着速度を算出した。酸素吸着速度は、雰囲気切り替え後1分経過時点での質量変化から算出した。
(ペロブスカイト型酸化物の製造法の説明)
本発明のペロブスカイト型酸化物の製造法では、ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素の硝酸塩とキレート剤とを溶解した水溶液を調製し(第一工程)、該水溶液を乾燥して得られる固体を大気中、またはアルゴン、水素、もしくは窒素から成る雰囲気中で、前記キレート剤の酸化分解温度以下で仮焼し(第二工程)、その後該固体をアルゴンもしくは窒素に対して水素を5体積%以下の流量割合で導入した還元性雰囲気中で、600℃以上、700℃以下で本焼成する(第三工程)。
第一工程において、金属元素の硝酸塩とキレート剤とを溶解した水溶液を調製する。金属元素の硝酸塩は、{La1-x(Sr1-αCaαx}{Co1-y(Fe1-ββy}O3-δ(0.7≦x≦1、0≦α≦0.5、0<y≦0.4、0≦β≦0.25、0<δ<3)を形成するような配合割合である。
キレート剤の配合量としては、金属元素の合計モル数に対して1倍以上、5倍以下の範囲である。キレート剤は金属イオンに配位しキレート錯体を形成する。キレート錯体となることで、金属イオンの均質性が向上し、立方晶ペロブスカイト相の生成が促進される。該配合量が1倍未満では、全ての金属イオンにキレート剤が配位しきれず、金属イオンの均質性が低下し、立方晶ペロブスカイト相の割合が低下してしまう。5倍を超えると、不純物として炭酸ストロンチウムなどの炭酸塩を多量に生じてしまうため、立方晶ペロブスカイト相の割合が低下してしまう。
金属元素の塩とキレート剤とを溶解した水溶液を調製する方法としては、例えば、金属元素の塩をイオン交換水に溶解し、また、別のイオン交換水にキレート剤を溶解し、この両者を混合する方法がある。
本発明のペロブスカイト型酸化物の製造法で用いることができるキレート剤としては、クエン酸、シュウ酸、EDTA等から選択することができる。これらの中では、クエン酸が特に好ましいキレート剤である。
第二工程では、上記水溶液から水分を蒸発させることにより乾燥し、得られる固体を大気中、またはアルゴン、水素、もしくは窒素から成る雰囲気中で、180℃以上、300℃以下で仮焼する。
水分を蒸発させることにより乾燥する方法として、該水溶液をロータリーエバポレーターにより蒸発乾固する方法がある。クエン酸が分解しない温度範囲で速やかに水分を除去するため、例えば、温度は60〜90℃、時間は1〜3時間の範囲内がよい。
仮焼は、大気中180℃以上、300℃以下で行う。雰囲気としては、大気中でなくとも良く、例えばアルゴン、水素、窒素などを用いることができる。仮焼の後に行う本焼成と比べて、雰囲気の影響は非常に小さいため、いずれのタイプの雰囲気を用いてもよく、安価な大気中で行うことで充分であるが、金属硝酸塩が分解して生じるNOxを積極的に追い出し分解を促進するため、NOxを生じ得ないアルゴンや水素を用いてもよい。
仮焼温度としては、キレート剤の分解温度以下の180℃以上、300℃以下である。180℃未満では、温度が低すぎるため金属元素の塩からの残存物(硝酸根など)を加熱分解できず残存してしまう。300℃を超えると、キレート剤の分解温度を超えてしまう。キレート剤の分解温度以上で仮焼を行った場合、キレート剤の分解時に生ずるガス、例えば、二酸化炭素のために、仮焼後の時点で不純物である炭酸ストロンチウムが多量に生成してしまう。その場合、仮焼の後に行う二回目の熱処理である本焼成を行ったとしても、多量の炭酸ストロンチウムが残存してしまい、最終的に得られるペロブスカイト型酸化物は、立方晶ペロブスカイト相の割合が非常に低いものとなってしまう。従って、キレート剤の分解温度を超えない300℃以下の範囲で仮焼を行うことが非常に重要である。
乾燥および仮焼成を行う工程は、連続して行ってもよい。具体的には、第一工程で得られた水溶液を角サヤに直接入れ、これを2時間以上かけてゆっくり90℃まで昇温し、10時間以上キープして充分に水を蒸発させたあと、再び2時間以上かけてゆっくりと温度を降下させ、室温に戻ったところで、そのまま上記第二工程に記載の方法と同様に仮焼を行う、という方法がある。
本発明で提供するペロブスカイト型酸化物は、酸素分離特性の優れる組成(SrおよびCo含有率が高い)であって、高い比表面積とガス拡散性の高い構造を有するため、低作動温度(300〜400℃)でも優れた酸素分離特性を示す。作動温度を低下させることにより酸素分離時にかかる電力コストが低減し、安価な酸素分離が可能となることはこれまでも知られていたが、本発明で実現する300〜400℃という低温でも酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物は存在しなかった。さらに本発明のペロブスカイト型酸化物は300℃において15×10-32mmolg-1min-1という酸素吸着速度を有するが、これは、従来、酸素分離用吸着材として知られていたペロブスカイト型酸化物の酸素吸着速度と比較して10倍もの大きな値であり、従来の高温で熱処理することにより製造したペロブスカイト型酸化物を酸素分離用吸着材として用いた場合から予想され得ない非常に大きな値である。
さらに本発明では、上記のペロブスカイト型酸化物を低い熱処理温度で得る製造法をも提供している。従来知られていた製造法では困難であったSrおよびCo含有率の高い組成のペロブスカイト型酸化物を、今回低い熱処理温度で製造可能になったのは、キレート剤を加えキレート錯体化した金属をキレート剤の酸化分解温度以下である180℃以上、300℃以下で仮焼、その後還元性ガスを含む雰囲気下600℃以上、700℃以下で本焼成するという、従来存在しなかった製造法を見出したためである。特に還元性雰囲気での熱処理は、従来、ペロブスカイト型酸化物を製造する際ではなく、金属種を金属にまで還元し、ペロブスカイト構造を壊すために用いられる手法であった。従って、ペロブスカイト型酸化物を製造において、従来このような還元性雰囲気を用いる手法は考えられていなかった。本発明では、こうした検討されていなかった試みを鋭意検討することにより、上記の酸素分離特性の優れたペロブスカイト型酸化物を低い熱処理温度で製造する方法をも提供するに至った。
特許文献4記載のペロブスカイト型酸化物の製造法は、本発明の製造法とは全く異なり、クエン酸の分解温度以上で一回目の熱処理である仮焼成を行うことが肝要であるとされている。従って本発明のペロブスカイト型酸化物の製造法と、特許文献4記載のペロブスカイト型酸化物の製造法は、全く異なる製造法である。従って特許文献4記載のペロブスカイト型酸化物の製造法を用いて、本発明の構成金属元素からなるペロブスカイト型酸化物を合成しても、本発明記載の低作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物は得られない。
第三工程では、上記仮焼して得られたキレート錯体を含む固体を還元性雰囲気で、600℃以上、700℃以下で本焼成する。
本焼成時の雰囲気としては、アルゴンもしくは窒素に対して水素を流量割合で5体積%以下含むガスである。不純物として生ずる、例えば、炭酸ストロンチウムは、キレート剤が分解する際に生じる二酸化炭素に起因する。従って還元性雰囲気中で本焼成を行うことによって、キレート剤中の炭素を二酸化炭素としてではなく炭化水素として分解することが可能となる。これにより二酸化炭素の発生が抑えられるため、炭酸ストロンチウムの生成を抑制することが可能となる。しかしながら、還元性雰囲気は、通常、ペロブスカイト型酸化物を壊すために用いられるガスであって、還元性が強すぎると、CoやFeといった還元されやすい金属種は金属にまで還元されてしまいペロブスカイト構造を維持できない。従って、還元性ガスである水素の導入割合は、不活性ガスであるアルゴンもしくは窒素に対して0体積%より高く5体積%以下の割合である。0体積%では水素が全く含まれていないから、還元性が不足し二酸化炭素の発生を抑えられない。また0体積%より高くとも、水素の割合が低すぎると還元性が不足し効果が小さいから、水素の割合は0.1体積%を上回ると好ましい。5体積%を超えると、還元性が強すぎるため、CoやFeといった還元されやすい金属種が金属にまで還元されてしまい、ペロブスカイト構造を形成できず、本発明の立方晶ペロブスカイト相を60重量%以上含むペロブスカイト型酸化物が得られない。
還元性雰囲気の流量は、例えば100mL/min以上、300mL/min以下が好ましい。100mL/min未満では流量が少なすぎるため、キレート剤や硝酸ストロンチウムが分解して生じる炭化水素、硝酸根などのガスを充分に置換することができず、不純物である、例えば、炭酸ストロンチウムを生じやすくなってしまう。流量が300mL/minを超えると、ペロブスカイト型酸化物自身に問題は生じないが、流量が多すぎるため反応容器内で飛散するなどの問題が生ずる。
特許文献1では、酸素吸着特性の優れたペロブスカイト型酸化物の組成が開示されているが、そのペロブスカイト型酸化物を低温での熱処理で得る方法は開示されていない。本発明の製造法によれば、特許文献1に記載されているような酸素吸着特性の優れたペロブスカイト型酸化物を低温での熱処理によって得ることができるため、分離媒体であるペロブスカイト型酸化物の製造にかかるコストを減ずることが可能である。
特許文献2のペロブスカイト型酸化物の製造法において、水素発生性物質を還元剤として添加する、という工程がある。これは比表面積向上のために添加するものであって、本発明のように不純物の生成を抑えるために、熱処理の過程でガスとして用いるのとは、全く異なる手法である。従って本発明において、仮に水素発生性物質を還元剤として添加したとしても、立方晶ペロブスカイト相の割合を高めることはできない。また特許文献2および3で扱うペロブスカイト型酸化物の組成領域は、本発明のSrおよびCoを高い割合で含む組成とは全く異なるため、特許文献2および3記載のペロブスカイト型酸化物の製造法では、本発明記載の低作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物は得られない。
本焼成を行う温度は、600℃以上、700℃以下である。600℃未満では温度が低くて硝酸ストロンチウムが分解しないため、ペロブスカイト型構造を形成できず、立方晶ペロブスカイト相の割合が非常に低くなってしまう。700℃を超えると結晶粒の成長が進みすぎるため、粒子が粗大となり、低比表面積化する。また粒子が粗大となるため、ガス拡散性が低下する。従って、酸素分離特性が低下する。
特許文献4記載の製造法では、二回目の熱処理の温度は700℃以上、950℃以下とされており、本発明の製造法における熱処理温度とは異なる領域である。本発明記載の低作動温度で酸素分離可能なペロブスカイト型酸化物は、700℃以上、950℃以下の熱処理温度では得られない。
(実施例1〜15)
硝酸ランタン六水和物、硝酸ストロンチウム、硝酸カルシウム四水和物、硝酸コバルト六水和物、硝酸鉄九水和物、硝酸ジルコニル二水和物、塩化チタンを、実施例1〜15それぞれについて表1に示した質量で秤量し、イオン交換水35mLに溶解し混合した。また実施例1〜15それぞれについて、キレート剤としてクエン酸を表1に示した質量秤量し、イオン交換水60mLに溶解した。これら2種類の水溶液を混合し、約95mLの混合水溶液を作製した(第一工程)。
この混合水溶液をエバポレータで減圧しながら80℃の油浴中で約2時間かけて蒸発乾固させた。また、得られた固体を角サヤに入れて空気雰囲気で180〜300℃の温度範囲で2時間仮焼した(第二工程)。仮焼を行う温度は、実施例1〜15のそれぞれについて、表1に示す通りとした。
仮焼した固体を粉末にした後、反応管に入れ、熱処理雰囲気として水素を0.1〜5体積%の割合で含むアルゴンを流量300mL/minで流し雰囲気を制御した。この混合気体を流通させながら、600〜700℃の温度範囲で4時間本焼成した(第三工程)。本焼成を行う温度およびアルゴンに導入する水素の割合は、実施例1〜15のそれぞれについて、表1に示す通りとした。
これにより、実施例1〜15のペロブスカイト型酸化物を製造した。実施例1〜15それぞれの組成は、表1に記載の通りである。
(比較例1〜13)
実施例1〜15と同様にして、表1に示す組成で示される比較例1〜13のペロブスカイト型酸化物を製造した。第二工程における仮焼温度、第三工程における本焼成温度およびアルゴンに導入する水素の割合は、比較例1〜13のそれぞれについて、表1に示す通りとした。
上記実施例1〜15および比較例1〜13の焼成体について、(1)XRD測定による立方晶ペロブスカイト相の定量、(2)BET法による比表面積測定、(3)粒子径分布測定装置による粒子サイズ測定、SEM観察による粒子サイズおよび構造の確認、(4)TG−DTAによる300℃における酸素吸着速度測定を行った。これらの結果を表2に示す。
(1)生成相の確認および立方晶ペロブスカイト相の定量はXRD(Rigaku製Smart Lab)により測定した。立方晶ペロブスカイト相の定量方法は次の通りである。測定したいペロブスカイト型酸化物に、高温で熱処理したピュアな立方晶ペロブスカイト型酸化物を内部標準として添加した混合粉末を作成した。添加した立方晶ペロブスカイト相の割合に対して、直線性の良いピークを選んでX線積分強度をプロットし、非特許文献1(長島弘三、富田功著「分析化学」、裳華房、2008年6月10日発行、p.303−306)記載の標準添加法を用いて定量した。
(2)比表面積はガス吸着装置(マイクロトラック・ベル製、BELsorp−max)により測定した。測定結果はBET法によって解析し、比表面積を算出した。
(3)粒子のサイズはレーザー回折式粒子径分布測定装置(島津製作所製SALD−3000S)で測定した。目的のペロブスカイト型酸化物粒子を超音波によって水溶媒に分散させた状態で測定を行い、結果は粒径分布における最大出現比率をとる粒径(モード径)を粒子のサイズ、つまり「等価円直径」とした。ここで「等価円直径」とは、上から見た板状粒子の面積と同等の面積を有する円の直径をいう。レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定されるサイズは、測定対象物を球体として近似した値である。本発明の粒子は球体ではなく板状構造であるものの、等価円直径はこの値と同じ程度と考えて差し支えないとし、レーザー回折式粒子径分布測定装置で測定されるサイズを等価円直径とした。
これに加えて、粒子のサイズおよび構造をSEM(JEOL製JSM−6500F)により確認した。10000〜50000倍で3視野以上観察し、1視野あたり5個以上の粒子の厚みおよびサイズをカウントすることにより粒子の等価円直径および構造を求め、粒子径分布測定装置の結果との一致を確認した。なお、板状粒子の等価円直径を粒子のサイズとした。
(4)酸素吸着特性はTG−DTA(Rigaku製Thermo Plus2)により測定した。吸着ガスを空気、脱着ガスを窒素として酸素分圧を変化させ、雰囲気を30分毎に切り替えた際の、30分間での合計の質量変化を酸素吸着容量とした。また増加質量から、単位吸着材であるペロブスカイト型酸化物の質量当たりの酸素吸着速度を算出した。酸素吸着速度は、雰囲気切り替え後1分経過時点での質量変化から算出した。
実施例1〜3と比較例1を比べると、実施例1〜3の方が優れた酸素吸着速度を示す。CaおよびZr、Tiを導入することによって、立方晶ペロブスカイト相が生成しやすくなり安定となるため、酸素吸着速度が向上する。しかし比較例1ではCaおよびZr、Tiの導入量が過多となるため、逆に酸素吸着速度は低下する。
Ca導入量が多すぎる場合に酸素吸着速度が低下するのは、Caの方がSrと比較してイオン半径が小さいため、ペロブスカイト型酸化物の単位胞が小さくなり、酸化物イオンが拡散しづらくなるためである。
Zr、Ti導入量が多すぎる場合に酸素吸着速度が低下するのは、Zr,Tiの価数がCo,Feよりも高く、酸化物イオンが欠損せずとも電気的に中性となるため、酸素空孔量が小さくなってしまうためである。
実施例4〜6と比較例2を比べると、実施例4〜6の方が優れた酸素吸着速度を示す。理由は実施例1〜3と同様で、FeをZrで置換すると立方晶相が安定化し、立方晶ペロブスカイト相の割合が向上することにより、酸素吸着速度が向上するためである。比較例2ではZrの導入量が多すぎるため、酸素吸着速度は低下している。価数の高いZrを多量に導入すると、酸素空孔量が小さくなり、酸素吸着速度が低下する。
実施例7〜10と比較例3を比べると、実施例7〜10の方が優れた酸素吸着速度を示す。理由は実施例1〜3と同様で、SrをCaで置換すると立方晶ペロブスカイト相の割合が向上し、酸素吸着速度が向上するためである。比較例3ではCaの導入量が多すぎるため、酸素吸着速度は低下している。イオン半径の小さいCaを多量に導入すると、単位胞が小さく酸化物イオンが拡散しづらいため、酸素吸着速度が低下する。
実施例11〜13と比較例4〜6を比べると、実施例11〜13の方が優れた酸素吸着速度を示す。これは、比較例4の組成は異なる構造が生じてしまうものであり、比較例5〜6ではSrおよびCoの割合が低すぎるためである。
実施例11の組成は(La0.1Sr0.9)(Co0.9Fe0.1)O3-δで、SrおよびCoが非常に高い割合で含まれている。ペロブスカイト型酸化物中、LaおよびFeは3価、SrおよびCoは2価の陽イオンとしてそれぞれ存在している。酸素は2価の陰イオンとして存在している。2価のSrおよびCoでAサイト、Bサイトがそれぞれ多量に置換されていると、Aサイト、Bサイトが低価数状態となる。すると酸化物イオンは、欠損することによって電気的に中性になろうとし、結晶格子中に多量の酸素空孔が生じる。従って実施例11は酸素空孔を非常に多く含む組成であるため、酸素吸着速度が最も優れている。実施例12、13も、酸素空孔を多く含む組成であるため優れた酸素吸着速度を示す。
SrおよびCoの割合は高いほど酸素空孔ができやすく、酸素吸着速度が優れるが、比較例4のようにAサイトが全てSr、BサイトがすべてCoから成る場合、この組成のペロブスカイト型酸化物は立方晶ではなく、六方晶ペロブスカイト相となる。六方晶ペロブスカイト相は、酸素を頂点とする八面体が点共有ではなく面共有して連なる結晶構造を有し、立方晶ペロブスカイト相と比較して、酸化物イオンの空孔を介した移動が非常に起こりづらい。比較例4のペロブスカイト型酸化物は六方晶構造となるため、酸素吸着速度が低下している。比較例5および6は、立方晶ペロブスカイト相を形成するが、SrおよびCoの割合が不足のため、酸素空孔が小さく、酸素吸着速度が低下している。
実施例14〜15と比較例7〜8を比べると、実施例14〜15の方が優れた酸素吸着速度を示す。
実施例14〜15に示した本発明の範囲内の仮焼・本焼成温度およびアルゴンに対する水素導入割合の範囲内では、優れた酸素吸着速度を有するペロブスカイト型酸化物を得ることができる。
仮焼温度はクエン酸の酸化分解温度以下で行う必要がある。そうすることにより、クエン酸の酸化分解時に発生する多量の二酸化炭素が存在しない状態で硝酸根を充分分解させることができるため、不純物である炭酸ストロンチウムの発生が抑えられるためである。本焼成温度は、粗大粒が生じず高比表面積で、ガス拡散性の高い粒子形状が得られる600〜700℃が好ましい。水素は本焼成時にクエン酸中の炭素源を二酸化炭素ではなく炭化水素として分解させるために用いるが、割合が高いと還元性が強すぎるため、CoやFeが還元され金属として析出してしまい、ペロブスカイト型酸化物を得られないため、5体積%以下の割合が最適である。
比較例7は、仮焼温度および本焼成温度が本発明の範囲よりも低い。仮焼および本焼成では、硝酸塩の分解、クエン酸の分解、およびペロブスカイト型酸化物の形成が起こるが、仮焼温度および本焼成温度が低すぎるため、分解反応およびペロブスカイト型酸化物の形成反応が進行せず、生成する立方晶ペロブスカイト型酸化物の純度は非常に低いものとなる。また水素が導入されていないため、本焼成時の雰囲気は還元性がない。そのためクエン酸分解時に多量の二酸化炭素を生じてしまい、不純物である炭酸ストロンチウムを生じやすく、立方晶ペロブスカイト相の純度が低くなってしまう。従って、仮焼・本焼成温度の不足および本焼成時の雰囲気の還元性の不足のため、立方晶ペロブスカイト相の割合が低く、酸素吸着速度が低下している。
比較例8は、仮焼・本焼成温度および本焼成時の水素割合が本発明の範囲よりも高い。比較例8では仮焼温度が本発明の範囲を越えているため、クエン酸の熱分解温度以上となり、仮焼段階で多量の二酸化炭素が生じる。すると不純物である炭酸ストロンチウムが多量に生成するため、立方晶ペロブスカイト相の割合が低くなり、酸素吸着速度が低下する。また比較例8では、本焼成温度も本発明の範囲を超えているため、粒成長が促進され粗大な粒が生じ、粒子の比表面積は小さくなり、ガス拡散性の高い板状構造をとることができない。本焼成温度が高いため不純物は分解でき、立方晶ペロブスカイト相の純度は高いものの、粒子径、比表面積、粒子構造の影響から、酸素吸着速度が低下する。また水素割合も本発明の範囲を超えており、還元性が強すぎるため、CoおよびFeが一部金属として析出する。金属として析出した金属元素は酸素吸着に関与できないため、酸素吸着速度が低下する。従って以上から、仮焼・本焼成温度が高く、本焼成時の雰囲気の還元性が強すぎるため、酸素吸着速度が低下している。
比較例9〜13は、特許文献1〜4のペロブスカイト型酸化物の組成および製造法をトレースし、本発明で行った酸素吸着速度の測定法を適応したものである。
比較例9は特許文献1に対応している。比較例9の組成は(La0.1Sr0.9)(Co0.9Fe0.1)O3-δでSrおよびCo含有率が高く、酸素吸着特性の優れた組成である。しかしながら、本焼成を1000℃という高温で行っているため結晶粒が粗大化し、得られるペロブスカイト型酸化物は低比表面積である。従って、本発明の製造法で得た同様の組成のペロブスカイト型酸化物(実施例11,14〜15)と比較して、酸素吸着速度が非常に小さい。
比較例10〜11は特許文献2に対応している。比較例10は、特許文献2の実施例に記載のペロブスカイト型酸化物のうち、最もSrおよびCoの割合が高い組成である。比較例10のペロブスカイト型酸化物は、特許文献2記載の製造法により得られるが、本発明のペロブスカイト型酸化物と比較してSrの含有率が低く酸素吸着特性の劣る組成であるため、酸素吸着速度は非常に小さな値しか得ることができない。比較例11のペロブスカイト型酸化物は、実施例11,14〜15と同様にSrおよびCoの含有率が高い、酸素吸着特性の優れた組成であり、これを特許文献2記載の製造法により得たものである。特許文献2記載の製造法では、仮焼・本焼成という二段階の熱処理を行っていないため、不純物が残留しやすい。さらに本焼成温度は500℃と低く、加えて還元性雰囲気での熱処理も行っていないから、さらに不純物が残留しやすい。従って比較例11のペロブスカイト型酸化物は、立方晶ペロブスカイト相の割合が非常に低い。それゆえ、SrおよびCoの含有率の高い組成であったとしても、比較例11のペロブスカイト型酸化物では非常に小さな酸素吸着速度しか得ることができない。
比較例12〜13は特許文献3に対応している。上述した比較例10〜11と同様、比較例12は、特許文献3の実施例に記載のペロブスカイト型酸化物のうち、最もSrおよびCoの割合が高い組成である。比較例12のペロブスカイト型酸化物は、特許文献3記載の製造法により得られるが、本発明のペロブスカイト型酸化物と比較してSrおよびCoの含有率が低く酸素吸着特性の劣る組成であるため、酸素吸着速度は非常に小さな値しか得ることができない。比較例13のペロブスカイト型酸化物は、実施例11,14〜15と同様にSrおよびCoの含有率が高い、酸素吸着特性の優れた組成であり、これを特許文献3記載の製造法により得たものである。特許文献3記載の製造法では、仮焼・本焼成という二段階の熱処理を行っておらず、還元性雰囲気での熱処理も行っていないため、不純物が残留しやすい。従って比較例13のペロブスカイト型酸化物は、立方晶ペロブスカイト相の割合が非常に低い。それゆえ、SrおよびCoの含有率の高い組成であったとしても、比較例13のペロブスカイト酸化物では非常に小さな酸素吸着速度しか得ることができない。

Claims (5)

  1. 酸素を選択的に吸着させる酸素分離に用いるための、下記組成式(1)で表されるペロブスカイト型酸化物であって、
    {La1−x(Sr1−αCaα}{Co1−y(Fe1−ββ}O3−δ (1)
    (式中、xは0.7≦x≦1、yは0<y≦0.4、αは0≦α≦0.5、βは0≦β≦0.25、δは0<δ<3であり、XはZrもしくはTi、またはZrとTiの両方である)
    前記ペロブスカイト型酸化物の粒子が、比表面積6m/g以上、等価円直径1μm以上、且つ5μm以下であり、前記等価円直径に対して5%以上、且つ30%以下の厚みを有する板状構造を有し、立方晶ペロブスカイト相を60重量%以上含むこと、を特徴とするペロブスカイト型酸化物。
  2. αが0であり、かつβが0でないことを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型酸化物。
  3. αが0でなく、かつβが0であることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型酸化物。
  4. αが0であり、かつβが0であることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型酸化物。
  5. 下記組成式(1)、
    {La1−x(Sr1−αCaα}{Co1−y(Fe1−ββ}O3−δ (1)
    (式中、xは0.7≦x≦1、yは0<y≦0.4、αは0≦α≦0.5、βは0≦β≦0.25、δは0<δ<3であり、XはZrもしくはTi、またはZrとTiの両方である)
    で表されるペロブスカイト型酸化物の製造方法であって、
    La、Sr、Ca、Co、Zr、TiおよびFeの塩、ならびにキレート剤を含む混合水溶液を調製する第一工程、ここで前記混合水溶液に含まれる前記La、Sr、Ca、Co、Zr、TiおよびFeの金属元素の配合割合は、前記組成式(1)に規定する金属元素の割合である第一工程と、
    前記混合水溶液を乾燥させて得られる固体を、大気中で、またはアルゴン、水素、もしくは窒素から成る雰囲気中で、前記キレート剤の酸化分解温度以下の温度で仮焼して、キレート錯体を形成する第二工程と、
    前記キレート錯体を含む固体を、アルゴンまたは窒素から成る雰囲気に対して0<流量割合≦5体積%の水素を導入した還元性雰囲気中で、600℃以上、700℃以下で本焼成する第三工程と
    を含むことを特徴とする、ペロブスカイト型酸化物の製造方法。
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