JP2017118871A - 改良Fc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤 - Google Patents

改良Fc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤 Download PDF

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Abstract

【課題】Fc結合性タンパク質の安定性、特に熱や酸に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤の提供。【解決手段】ヒトFcγRIIIaのうち、細胞外領域中の特定位置にあるアミノ酸残基を他の特定のアミノ酸に置換することで、熱や酸に対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤により、前記課題を解決する。【選択図】図5

Description

本発明は、免疫グロブリンに親和性のあるFc結合性タンパク質に関する。より詳しくは、本発明は、熱や酸、アルカリに対する安定性が野生型よりも高いFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる抗体吸着剤に関する。
Fcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。個々の分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する認識ドメインによって、単一の、または同じグループの免疫グロブリンイソタイプをFcレセプター上の認識ドメインによって認識している。これによって、免疫応答においてどのアクセサリー細胞が動因されるかが決まってくる。Fcレセプターは、さらにいくつかのサブタイプに分類することができ、IgG(免疫グロブリンG)に対するレセプターであるFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある。また各レセプターは更に細かく分類されており、Fcγレセプターは、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb及びFcγRIIIa、FcγRIIIbの存在が報告されている(非特許文献1)。
Fcγレセプターの中でも、FcγRIIIaはナチュラルキラー細胞(NK細胞)やマクロファージなどの細胞表面に存在しており、ヒト免疫機構の中でも重要なADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に関与している重要なレセプターである。このFcγRIIIaとヒトIgGとの親和性は結合の強さを示す結合定数(KA)が10−1以下であることが報告されている(非特許文献2)。ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1)はUniProt(Accession number:P08637)などの公的データベースに公表されている。また、ヒトFcγRIIIaの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIIIaの構造略図を示す。なお、図1中の番号はアミノ酸番号を示しており、その番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から16番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、17番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までが細胞外領域(EC)、209番目のバリン(Val)から229番目のバリン(Val)までが細胞膜貫通領域(TM)および230番目のリジン(Lys)から254番目のリジン(Lys)までが細胞内領域(C)とされている。なおFcγRIIIaはIgG1からIgG4まであるヒトIgGサブクラスのうち、特にIgG1とIgG3に対し強く結合する一方、IgG2とIgG4に対する結合は弱いことが知られている。
Takai.T.,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318−326,2005 J.Galon等,Eur.J.Immunol.,27,1928−1932,1997
本発明の課題は、特に熱や酸、アルカリに対する安定性が向上したFc結合性タンパク質、当該タンパク質の製造方法、および当該タンパク質を用いた抗体吸着剤を提供することにある。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ヒトFcγRIIIaにおける安定性向上に関与したアミノ酸残基を特定し、当該アミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換した変異体が、熱や酸、アルカリに対して優れた安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願は以下の(A)から(M)に記載の態様を包含する:
(A)
配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(26)のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質。
(1)配列番号52の34番目のメチオニンがイソロイシンに置換
(2)配列番号52の36番目のスレオニンがセリンに置換
(3)配列番号52の38番目のアスパラギン酸がグリシンまたはバリンに置換
(4)配列番号52の41番目のリジンがアルギニンに置換
(5)配列番号52の43番目のグルタミン酸がバリンに置換
(6)配列番号52の66番目のアラニンがグルタミン酸に置換
(7)配列番号52の75番目のグルタミンがロイシンに置換
(8)配列番号52の80番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(9)配列番号52の81番目のセリンがアスパラギンまたはアルギニンに置換
(10)配列番号52の91番目のロイシンがアルギニンまたはイソロイシンに置換
(11)配列番号52の130番目のプロリンがロイシンに置換
(12)配列番号52の135番目のリジンがバリンに置換
(13)配列番号52の148番目のリジンがアルギニンに置換
(14)配列番号52の160番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(15)配列番号52の167番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(16)配列番号52の196番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(17)配列番号52の200番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(18)配列番号52の203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(19)配列番号52の45番目のイソロイシンがバリンに置換
(20)配列番号52の72番目のアスパラギンがアスパラギン酸またはチロシンに置換
(21)配列番号52の114番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(22)配列番号52の208番目のグルタミンがプロリンに置換
(23)配列番号52の90番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(24)配列番号52の92番目のイソロイシンがバリンに置換
(25)配列番号52の96番目のスレオニンがセリンに置換
(26)配列番号52の177番目のリジンがアスパラギンに置換
(B)
配列番号63、配列番号67、配列番号71、配列番号79、配列番号83、配列番号85、配列番号89、配列番号91、配列番号95、配列番号99、配列番号109、配列番号113、配列番号117のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含む、(A)に記載のFc結合性タンパク質。
(C)
配列番号63、配列番号67、配列番号71、配列番号79、配列番号83、配列番号85、配列番号89、配列番号91、配列番号95、配列番号99、配列番号109、配列番号113、配列番号117のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる、(A)又は(B)に記載のFc結合性タンパク質。
(D)
(A)〜(C)いずれかに記載のFc結合性タンパク質において、さらに以下の(27)から(29)のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質。
(27)配列番号52の82番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(28)配列番号52の163番目のバリンがアスパラギン酸に置換
(29)配列番号52の192番目のバリンがフェニルアラニンに置換
(E)
(A)から(D)のいずれかに記載のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤。
(F)
(E)に記載の吸着剤に、糖鎖を有する抗体を吸着させ、次いで溶出液により当該抗体を溶出させることを特徴とする、抗体の分離方法。
(G)
(F)に記載の方法において、抗体が有する糖鎖の違いにより溶出時間が異なる溶出液を用いて、吸着した抗体を糖鎖の違いにより順次溶出させることを特徴とする方法。
(H)
(F)または(G)に記載の分離方法を用いて抗体が有する糖鎖構造の違いを識別する方法。
(I)
(A)から(D)のいずれかに記載のFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(J)
(I)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(K)
(J)に記載の発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体。
(L)
宿主が大腸菌である、(K)に記載の形質転換体。
(M)
(K)または(L)に記載の形質転換体を培養することによりFc結合性タンパク質を発現させ、その培養物から発現されたFc結合性タンパク質を回収する、Fc結合性タンパク質の製造方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のFc結合性タンパク質は、抗体のFc領域に結合性を持つタンパク質であり、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるヒトFcγRIIIaの細胞外領域(図1のECの領域)のうち、少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含むタンパク質であって、但し当該17番目から192番目までのアミノ酸残基において特定位置におけるアミノ酸置換が生じたタンパク質である。したがって、本発明のFc結合性タンパク質は、細胞外領域のN末端側にあるシグナルペプチド領域(図1のS)の全てまたは一部を含んでもよいし、細胞外領域のC末端側にある細胞膜貫通領域(図1のTM)および細胞内領域(図1のC)の全てまたは一部を含んでもよい。
前記特定位置におけるアミノ酸置換は、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、Met18Ile(この表記は、配列番号1の18番目(配列番号52では34番目)のメチオニンがイソロイシンに置換されていることを表す、以下同様)、Thr20Ser、Asp22Gly、Asp22Val、Lys25Arg、Gln33Pro、Ala50Glu、Asn56Asp、Asn56Tyr、Gln59Leu、Glu64Gly、Ser65Asn、Ser65Arg、Tyr74Phe、Phe(Leu)75Arg(この表記は、配列番号1の75番目(配列番号52では91番目)のフェニルアラニンが一度ロイシンに置換され、さらにアルギニンに置換されたことを表す、以下同様)、Phe(Leu)75Ile、Ile76Val、Thr80Ser、Asp98Glu、Pro114Leu、Lys119Val、Lys132Arg、Asn144Asp、Phe151Ser、Lys161Asn、Asn180Asp、Glu184Gly、Asn(Asp)187Glu、Gln192Proのうち、少なくとも1つの置換である。なお、野生型FcγRIIIaには、Leu66His、Leu66Arg、Gly147Asp(配列番号52の163番目ではグリシンがバリンに置換されている)、Phe176Valのうち、1つ以上のアミノ酸置換が生じた変異体が知られているが、前記特定位置におけるアミノ酸置換以外にこれらのアミノ酸置換を含んでいてもよい。
アミノ酸置換を行なうことで本発明のFc結合性タンパク質を作製する際、特定位置のアミノ酸残基については、抗体結合活性を有する限り前述したアミノ酸以外のアミノ酸に置換してもよい。その一例として、両アミノ酸の物理的性質と化学的性質またはそのどちらかが類似したアミノ酸間で置換する保守的置換があげられる。保守的置換は、Fc結合性タンパク質に限らず一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、アスパラギン酸とグルタミン酸間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間に生じる置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。
本発明のFc結合性タンパク質において、置換するアミノ酸の数に特に制限はない。一例として、以下の(a)から(m)に示すFc結合性タンパク質があげられる。これらのFc結合性タンパク質は熱、酸またはアルカリに対する安定性が向上する点で好ましい。
(a)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、156番目のイソロイシンがメチオニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号63に記のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(b)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、156番目のイソロイシンがメチオニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号67に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(c)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、156番目のイソロイシンがメチオニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号71に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(d)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号79に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(e)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、78番目のヒスチジンがロイシンに、90番目のチロシンがヒスチジンに、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号83に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(f)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号85に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(g)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、80番目のグルタミン酸がグリシンに、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号89に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(h)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、72番目のアスパラギンがアスパラギン酸に、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンに、208番目のグルタミンがプロリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号91に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(i)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、72番目のアスパラギンがアスパラギン酸に、91番目のロイシンがイソロイシンに、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンに、208番目のグルタミンがプロリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号95に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(j)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、72番目のアスパラギンがアスパラギン酸に、91番目のロイシンがイソロイシンに、114番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンに、208番目のグルタミンがプロリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号99に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(k)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、72番目のアスパラギンがアスパラギン酸に、90番目のチロシンがフェニルアラニンに、91番目のロイシンがイソロイシンに、96番目のスレオニンがセリンに、114番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、135番目のリジンがグルタミン酸に、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンに、208番目のグルタミンがプロリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号109に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(l)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、72番目のアスパラギンがアスパラギン酸に、90番目のチロシンがフェニルアラニンに、91番目のロイシンがイソロイシンに、96番目のスレオニンがセリンに、114番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、135番目のリジンがバリンに、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンに、208番目のグルタミンがプロリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号113に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
(m)配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、56番目のリジンがグルタミンに、72番目のアスパラギンがアスパラギン酸に、81番目のセリンがアルギニンに、90番目のチロシンがフェニルアラニンに、91番目のロイシンがイソロイシンに、96番目のスレオニンがセリンに、114番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、135番目のリジンがバリンに、138番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、148番目のリジンがアルギニンに、156番目のイソロイシンがメチオニンに、157番目のチロシンがフェニルアラニンに、174番目のヒスチジンがバリンに、203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に、206番目のイソロイシンがバリンに、208番目のグルタミンがプロリンにそれぞれ置換されているFc結合性タンパク質(配列番号117に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質)。
本発明のFc結合性タンパク質は、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用なオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等があげられる。また本発明のFc結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する際に有用な、システインを含むオリゴペプチドを、本発明のFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側にさらに付加してもよい。Fc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加するオリゴペプチドの長さは、本発明のFc結合性タンパク質のIgG結合性や安定性を損なわない限り特に制限はない。前記オリゴペプチドを本発明のFc結合性タンパク質に付加させる際は、前記オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製後、当業者に周知の方法を用いて遺伝子工学的にFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加させてもよいし、化学的に合成した前記オリゴペプチドを本発明のFc結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に化学的に結合させて付加させてもよい。さらに本発明のFc結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドの例としては、PelB、DsbA、MalE(UniProt No.P0AEX9に記載のアミノ酸配列のうち1番目から26番目までの領域)、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる(特開2011−097898号公報)。
本発明のポリヌクレオチドの作製方法の一例として、
(I)本発明のFc結合性タンパク質のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換し、当該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成する方法や、
(II)Fc結合性タンパク質の全体または部分配列をコードするポリヌクレオチドを直接人工的に、またはFc結合性タンパク質のcDNA等からPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した当該ポリヌクレオチドを適当な方法で連結する方法、が例示できる。
前記(I)の方法において、アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際、形質転換させる宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
本発明のポリヌクレオチドへ変異を導入する場合、エラープローンPCR法を用いることができる。エラープローンPCR法における反応条件は、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに所望の変異を導入できる条件であれば特に限定はなく、例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnClを0.01から10mM(好ましくは0.1から1mM)の濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことで、ポリヌクレオチドに変異を導入することができる。またエラープローンPCR法以外の変異導入方法としては、Fc結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドに、変異原となる薬剤を接触・作用させたり、紫外線を照射したりして、ポリヌクレオチドに変異を導入して作製する方法があげられる。当該方法において変異原として使用する薬剤としては、ヒドロキシルアミン、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン等、当業者が通常用いる変異原性薬剤を用いればよい。
本発明のFc結合性タンパク質を発現させる宿主には特に制限はなく、一例として、動物細胞(CHO細胞、HEK細胞、Hela細胞、COS細胞等)、酵母(Saccharomyces cerevisiae、Pichia pastoris、Hansenula polymorpha、Schizosaccharomyces japonicus、Schizosaccharomyces octosporus、Schizosaccharomyces pombe等)、昆虫細胞(Sf9、Sf21等)、大腸菌(JM109株、BL21(DE3)株、W3110株等)や枯草菌があげられる。なお動物細胞や大腸菌を宿主として用いると生産性の面で好ましく、大腸菌を宿主として用いるとさらに好ましい。
本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主を形質転換する場合、本発明のポリヌクレオチドそのものを用いてもよいが、発現ベクター(例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドやプラスミド等)の適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入したものを用いると、より好ましい。なお当該発現ベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、大腸菌を宿主とする場合は、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクター、pCDFプラスミドベクター、pBBRプラスミドベクターを例示することができる。また前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性ポリヌクレオチドに連結される状態で挿入すると好ましい。当該プロモータの例として、宿主が大腸菌の場合は、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータがあげられ、宿主が動物細胞の場合は、SV40プロモーター、CMVプロモーター、CAGプロモーターがあげられる。
前記方法により作製した、本発明のポリヌクレオチドを挿入した発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターとする)を用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。例えば、宿主としてEscherichia属に属する微生物(大腸菌JM109株、大腸菌BL21(DE3)株、大腸菌W3110株等)を選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等により形質転換すればよい。なお宿主が動物細胞である場合にはエレクトロポレーションやリポフェクションを用いればよい。前述した方法で形質転換して得られた形質転換体は、適切な方法でスクリーニングすることにより、本発明のFc結合性タンパク質を発現可能な形質転換体(以下、本発明の形質転換体とする)を取得することができる。
本発明の形質転換体から本発明の発現ベクターを調製するには、形質転換に用いた宿主に適した方法で、本発明の形質転換体から本発明の発現ベクターを抽出し調製すればよい。例えば、本発明の形質転換体の宿主が大腸菌の場合、形質転換体を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)等の市販の抽出キットを用いて調製すればよい。
本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から本発明のFc結合性タンパク質を回収することで、本発明のFc結合性タンパク質を製造することができる。なお本明細書において培養物とは、培養された本発明の形質転換体の細胞そのもののほか、培養に用いた培地も含まれる。本発明のタンパク質製造方法で用いる形質転換体は、対象宿主の培養に適した培地で培養すればよく、宿主が大腸菌の場合は、必要な栄養源を補ったLB(Luria−Bertani)培地が好ましい培地の一例としてあげられる。なお、本発明の発現ベクターの導入の有無により本発明の形質転換体を選択的に増殖させるために、培地に当該ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子に対応した薬剤を添加して培養すると好ましい。例えば、当該ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加すればよい。また培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を添加してもよく、所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでもよい。
さらにグリシンといった前記形質転換体から培養液へのタンパク質分泌を促す試薬を添加してもよく、具体的には、宿主が大腸菌の場合、培地に対してグリシンを2%(w/v)以下で添加すると好ましい。培養温度は宿主が大腸菌の場合、一般に10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃、より好ましくは25℃前後であるが、発現させるタンパク質の特性により選択すればよい。培地のpHは宿主が大腸菌の場合、pH6.8からpH7.4、好ましくはpH7.0前後である。また本発明のベクターに誘導性のプロモータが含まれている場合は、本発明のFc結合性タンパク質が良好に発現できるような条件下で誘導をかけると好ましい。誘導剤としてはIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を例示することができる。宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定し、約0.5から1.0となったときに適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで、Fc結合性タンパク質の発現を誘導することができる。IPTGの添加濃度は0.005から1.0mMの範囲から適宜選択すればよいが、0.01から0.5mMの範囲が好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行なえばよい。
本発明の形質転換体を培養して得られた培養物から本発明のFc結合性タンパク質を回収するには、本発明の形質転換体における本発明のFc結合性タンパク質の発現形態に適した方法で、当該培養物から分離/精製して本発明のFc結合性タンパク質を回収すればよい。例えば、培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のFc結合性タンパク質を精製すればよい。また、細胞内(ペリプラズムを含む)に発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加したり、超音波やフレンチプレス等を用いて菌体を破砕して本発明のFc結合性タンパク質を抽出した後、精製すればよい。本発明のFc結合性タンパク質を精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィーを用いた分離/精製があげられる。液体クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等があり、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより、本発明のFc結合性タンパク質を高純度に調製することができる。
得られた本発明のFc結合性タンパク質のIgGに対する結合活性を測定する方法としては、例えばIgGに対する結合活性をEnzyme−Linked ImmunoSorbent Assay(以下、ELISAと表記)法や表面プラズモン共鳴法などを用いて測定すればよい。結合活性の測定に使用するIgGは、ヒトIgGが好ましく、ヒトIgG1やヒトIgG3が特に好ましい。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に結合させることで、本発明の吸着剤を製造することができる。前記不溶性担体には特に限定はなく、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプンといった多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタンといった合成高分子を原料とした担体や、シリカなどのセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー製)等の水酸基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(GEヘルスケア製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC製)等のセルロースゲルがあげられる。不溶性担体の形状については特に限定はなく、粒状物または非粒状物、多孔性または非多孔性、いずれであってもよい。
Fc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化するには、不溶性担体にN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシル基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミド等の活性基を付与し、当該活性基を介してヒトFc結合性タンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで固定化すればよい。活性基を付与した担体は市販の担体をそのまま用いてもよいし、適切な反応条件で担体表面に活性基を導入して調製してもよい。活性基を付与した市販の担体としてはTOYOPEARL AF−Epoxy−650M、TOYOPEARL AF−Tresyl−650M(いずれも東ソー製)、HiTrap NHS−activated HP Columns、NHS−activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy−activated Sepharose 6B(いずれもGEヘルスケア製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモサイエンティフィック製)が例示できる。
一方、担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在する水酸基やエポキシ基、カルボキシル基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。当該化合物の一例のうち、担体表面の水酸基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが例示できる。前記化合物により担体表面にエポキシ基を導入した後、担体表面にカルボキシル基を導入する化合物としては、2−メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、4−メルカプト酪酸、6−メルカプト酪酸、グリシン、3−アミノプロピオン酸、4−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸を例示できる。
担体表面に存在する水酸基やエポキシ基、カルボキシル基、アミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N−(ε−マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N−(ε−マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4−[4−N−マレイミドフェニル]酢酸ヒドラジド、2−アミノマレイミド、3−アミノマレイミド、4−アミノマレイミド、6−アミノマレイミド、1−(4−アミノフェニル)マレイミド、1−(3−アミノフェニル)マレイミド、4−(マレイミド)フェニルイソシアナート、2−マレイミド酢酸、3−マレイミドプロピオン酸、4−マレイミド酪酸、6−マレイミドヘキサン酸、(N−[α―マレイミドアセトキシ]スクシンイミドエステル)、(m−マレイミドベンゾイル)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、(スクシンイミジル−4−[マレイミドメチル]シクロヘキサンー1−カルボニル−[6−アミノヘキサン酸])、(スクシンイミジル−4−[マレイミドメチル]シクロヘキサンー1−カルボン酸)、(p−マレイミドベンゾイル)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m−マレイミドベンゾイル)N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
担体表面に存在する水酸基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2−(ヨードアセトアミド)酢酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、3−(ブロモアセトアミド)プロピオン酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、4−(ヨードアセチル)アミノ安息香酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。なお担体表面に存在する水酸基やアミノ基にω−アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω−アルケニル部位をハロゲン化し活性化する方法も例示できる。ω−アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3−ブテニルグリシジルエーテル、4−ペンテニルグリシジルエーテルを例示でき、ハロゲン化剤としてはN−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミドを例示できる。
担体表面に活性基を導入する方法の別の例として、担体表面に存在するカルボキシル基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性化基を導入する方法がある。縮合剤としては1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。また添加剤としてはN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4−ニトロフェノール、1−ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化する際用いる緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES緩衝液、HEPES緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、5℃から50℃までの温度範囲の中から活性基の反応性や本発明のFc結合性タンパク質の安定性を考慮の上、適宜設定すればよく、好ましくは10℃から35℃の範囲である。
本発明のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化して得られる本発明の吸着剤を用いて、糖鎖を有した抗体を分離するには、例えば、本発明の吸着剤を充填したカラムに糖鎖を有した抗体を含む緩衝液をポンプ等の送液手段を用いて添加することで、糖鎖を有した抗体を本発明の吸着剤に特異的に吸着させた後、適切な溶出液をカラムに添加することで、糖鎖を有した抗体を溶出すればよい。なお、糖鎖を有した抗体を含む緩衝液をカラムに添加する前に、適切な緩衝液を用いてカラムを平衡化すると、糖鎖を有した抗体をより高純度に分離できるため好ましい。緩衝液としてはリン酸緩衝液等、無機塩を成分とした緩衝液を例示することができる。なお緩衝液のpHは、pH3から10、好ましくはpH5から8である。本発明の吸着剤に吸着した、糖鎖を有した抗体を溶出させるには、糖鎖を有した抗体とリガンド(本発明のFc結合性タンパク質)との相互作用を弱めればよく、具体的には、緩衝液によるpH変化、カウンターペプチド、温度変化、塩濃度変化が例示できる。本発明の吸着剤に吸着した、糖鎖を有した抗体を溶出させるための溶出液の具体例として、本発明の吸着剤に糖鎖を有した抗体を吸着させる際に用いた溶液よりも酸性側の緩衝液があげられる。緩衝液の種類としては酸性側に緩衝能を有するクエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。緩衝液のpHは、抗体が有する機能を損なわない範囲で設定すればよく、好ましくはpH2.5から6.0、より好ましくはpH3.0から5.0、さらに好ましくはpH3.3から4.0である。
なお糖鎖を有した抗体を含む溶液から、本発明の吸着剤を用いて前記抗体を分離する際、前記抗体が有する糖鎖構造の違いにより、抗体を順次溶出させ、その結果、抗体の溶出位置(溶出フラクション)が異なる溶出液を用いることが好ましい。従って、本発明の吸着剤を用いて抗体を分離することで、抗体が有する糖鎖構造の違いを識別することができる。識別可能な糖鎖の構造に特に限定はなく、一例として、CHO細胞といった動物由来の細胞や、ピキア酵母やサッカロミセス酵母といった酵母を宿主として抗体を発現させたときに付加される糖鎖や、ヒト抗体が有する糖鎖や、化学合成法で抗体に付加した糖鎖があげられる。また本発明の吸着剤は、抗体が有する糖鎖構造の違いに基づき分離できる。
なお本発明の吸着剤により抗体の糖鎖構造の違いを識別できると前述したが、当該吸着剤に用いるFc結合性タンパク質として、FcγRIIIa以外のFcレセプター(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIb、FcRn)を用いた場合でも同様に糖鎖構造の違いを識別できる。
本発明の改良Fc結合性タンパク質は野生型のFc結合性タンパク質と比べて、熱、酸またはアルカリに対して優れた安定性を有する。本発明の改良Fc結合性タンパク質をアフィニティ・リガンドとして用いた場合、アルカリによるカラム洗浄への安定性が高い。
ヒトFcγRIIIaの概略図である。図中の数字は配列番号1に記載のアミノ酸配列の番号を示している。図中のSはシグナル配列、ECは細胞外領域、TMは細胞膜貫通領域、Cは細胞内領域を示している。 FcR5a固定化ゲルを用いた抗体の溶出パターンを示した図である。図中のFrA、FrBはそれぞれフラクションA、フラクションBの位置を示している。 FcR5a固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性を測定した結果を示した図である。 抗体に付加した糖鎖構造の一覧を示した図である。図中のN1からN6は表8のN1からN6に対応し、M1、M2およびD1は表9のM1、M2およびD1に対応している。 FcR9固定化ゲルを用いた抗体の溶出パターンを示した図である。図中のFrA、FrB、FrCはそれぞれフラクションA、フラクションB、フラクションCの位置を示している。 FcR9固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性を測定した結果を示した図である。
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1 Fc結合性タンパク質FcR5aへの変異導入およびライブラリーの作製
特開2015−086216号公報に記載の方法で作製したFc結合性タンパク質FcR5a(配列番号6)をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として特開2015−086216号公報に記載の方法で作製した発現ベクターpET−FcR5a(当該発現ベクターのうちFcR5aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号7に示す)を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、60℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
Figure 2017118871
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例2 熱安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例1で作製したランダム変異ライブラリー(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、30℃で一晩振とう培養した。
(2)培養後、5μLの培養液を500μLの0.05mMのIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)、0.3%のグリシンおよび50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地に植え継ぎ、96穴ディープウェルプレートを用いて、さらに20℃で一晩振とう培養した。
(3)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて20倍に希釈し、更に0.1Mの炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.0)で20倍に希釈した。その後、希釈した溶液を40℃で15分間熱処理を行ない、1Mのトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(4)(3)の熱処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(3)の熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、それぞれ下記に示すELISA法にて測定し、熱処理を行なった時のFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、熱処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4−1)ヒト抗体であるガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を、96穴マイクロプレートのウェルに1μg/wellで固定化し(4℃で18時間)、固定化終了後、2%(w/v)のSKIM MILK(BD製)および150mMの塩化ナトリウムを含んだ20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)によりブロッキングした。
(4−2)洗浄緩衝液(0.05%[w/v]のTween 20、150mMのNaClを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.4))で洗浄後、抗体結合活性を評価するFc結合性タンパク質を含む溶液を添加し、Fc結合性タンパク質と固定化ガンマグロブリンとを反応させた(30℃で1時間)。
(4−3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したAnti−6His抗体(Bethyl Laboratories製)を100μL/wellで添加した。
(4−4)30℃で1時間反応させ、前記洗浄緩衝液で洗浄した後、TMB Peroxidase Substrate(KPL製)を50μL/wellで添加した。1Mのリン酸を50μL/wellで添加することで発色を止め、マイクロプレートリーダー(テカン製)にて450nmの吸光度を測定した。
(5)(4)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR5aと比較して熱安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(6)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS read Reaction kit(ライフサイエンス製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(ライフサイエンス製)にてヌクレオチド配列を解析した。なお当該解析の際、配列番号2(5’−TAATACGACTCACTATAGGG−3’)または配列番号3(5’−TATGCTAGTTATTGCTCAG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
(5)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR5aに対するアミノ酸置換位置および熱処理後の残存活性(%)をまとめたものを表2に示す。配列番号6に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Phe29Ile(この表記は、配列番号1の29番目(配列番号6では45番目)のフェニルアラニンがイソロイシンに置換されていることを表す、以下同様)、Phe29Leu、Glu39Gly、Gln48Arg、Tyr51Ser、Phe61Tyr、Asp77Gly、Asp82Glu、Gln90Arg、Gln112Leu、Val117Glu、Lys119Asn、Lys119Glu、Thr140Ile、Leu142Gln、Phe171Ser、Leu175Arg、Asn180SerおよびIle188Valのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR5aと比較し熱安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
表2に示した、FcR5aからアミノ酸置換されたFc結合性タンパク質のうち、Phe29IleおよびVal117Gluのアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をFcR7aと命名し、FcR7aをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをpET−FcR7aと命名した。FcR7aのアミノ酸配列を配列番号8に、FcR7aをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号9に示す。なお配列番号8において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR7aのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号8において、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例3 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例2で判明した、Fc結合性タンパク質の熱安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR7aに集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(d)に示す4種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR7aに対し、さらにPhe171Serのアミノ酸置換を行なったFcR8
(b)FcR8に対し、さらにGln48Argのアミノ酸置換を行なったFcR9
(a)FcR8
実施例2で明らかとなった、熱安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Phe29Ile、Val117GluおよびPhe171Serを選択し、それらの置換をFcR5a(特開2015−086216号公報)に集積したFcR8を作製した。具体的には、FcR7aをコードするポリヌクレオチドに対して、Phe171Serを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR8を作製した。
(a−1)実施例2で取得した、pET−FcR7aを鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号2および配列番号10(5’−ACCAGCCCACGGCAGGAATAGCTGCCGCTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCRは、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm8Fとした。
Figure 2017118871
(a−2)実施例2で取得した、pET−FcR7aを鋳型とし、配列番号11(5’−GACAGCGGCAGCTATTCCTGCCGTGGGCTG−3’)および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様に行なった。精製したPCR産物をm8Rとした。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(m8F、m8R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m8Fとm8Rを連結したPCR産物m8pを得た。
Figure 2017118871
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物m8pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR7aに1箇所アミノ酸置換を導入したFcR8をコードするポリヌクレオチドを作製した。
Figure 2017118871
(a−5)(a−4)で得られたポリヌクレオチドを制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR5aに対して3箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して8箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR8をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR8を得た。
(a−7)pET−FcR8のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR8のアミノ酸配列を配列番号12に、前記FcR8をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号13に示す。なお配列番号12において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR8のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号12において、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Phe171Serのセリンは187番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR9
実施例2で明らかとなった、熱安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Phe29Ile、Gln48Arg、Val117GluおよびPhe171Serを選択し、それらの置換をFcR5a(特開2015−086216号公報)に集積したFcR9を作製した。具体的には、FcR8をコードするポリヌクレオチドに対して、Gln48Argを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR9を作製した。
(b−1)(a)で作製した、pET−FcR8を鋳型とし、配列番号3および配列番号14(5’−GTGACCCTTAAATGCCGGGGCGCGTATAGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm9Fとした。
(b−2)(a)で作製したpET−FcR8を鋳型とし、配列番号2および配列番号15(5’−CCGGGCTATACGCGCCCCGGCATTTAAGGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm9Rとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m9F、m9R)を混合後、(a−3)と同様の方法にてPCRを行ない、m9Fとm9Rを連結した。得られたPCR産物をm9pとした。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m9pを鋳型とし、配列番号16(5’―TAGCCATGGGCATGCGTACCGAAGATCTGCCGAAAGC―3’)および配列番号17(5’―CCCAAGCTTAATGATGATGATGATGATGGCCCCCTTGGGTAATGGTAATATTCACGGTCTCGCTGC―3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、(a−4)と同様の方法でPCRを行なった。これによりFcR9をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR5aに対して4箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して9箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR9をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR9を得た。
(b−7)pET−FcR9のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR9のアミノ酸配列を配列番号18に、前記FcR9をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号19に示す。なお、配列番号18において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR9のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号18において、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Phe171Serのセリンは187番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例4 Fc結合性タンパク質の酸安定性評価
(1)特開2015−086216号公報に記載の方法で作製した野生型Fc結合性タンパク質(配列番号4)、実施例2で選択したFc結合性タンパク質(FcR7a)、および実施例3で作製したFc結合性タンパク質(FcR8、FcR9)を発現する形質転換体を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含む3mLの2YT液体培地に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
(2)50μg/mLのカナマイシンを添加した20mLの2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)に前培養液を200μL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
(3)培養開始1.5時間後、培養温度を20℃に変更して30分間振とう培養した。その後、終濃度0.01mMとなるようIPTGを添加し、引き続き20℃で一晩、好気的に振とう培養した。
(4)培養終了後、遠心分離により集菌し、BugBuster Protein extraction kit(タカラバイオ製)を用いてタンパク質抽出液を調製した。
(5)(4)で調製したタンパク質抽出液中の野生型Fc結合性タンパク質、FcR7a、FcR8およびFcR9の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、市販のFcγRIIIaの細胞外領域(R&Dテクノロジーズ製:4325−FC−050)を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(6)各Fc結合性タンパク質の濃度が30μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液100μLと0.1Mのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)200μLとを混合し、30℃で2時間静置した。
(7)グリシン塩酸緩衝液(pH3.0)による酸処理を行なった後のタンパク質の抗体結合活性と、前記酸処理を行なわなかったときのタンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。その後、酸処理を行なった場合の抗体結合活性を、酸処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
結果を表6に示す。今回評価したFc結合性タンパク質(FcR7a、FcR8、FcR9)は、野生型Fc結合性タンパク質と比較し残存活性が高かった。このことから、当該改良Fc結合性タンパク質の酸安定性が野生型に比べて向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例5 システインタグを付加したFcR5a(FcR5aCys)の作製
(1)特開2015−086216号公報に記載の方法で作製したpET−FcR5aを鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号16および配列番号20(5’−CCCAAGCTTATCCGCAGGTATCGTTGCGGCACCCTTGGGTAATGGTAATATTCACGGTCTCGCTGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCRは、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル繰り返すことで実施した。
Figure 2017118871
(2)(1)で得られたポリヌクレオチドを精製し、制限酵素NcoIとHindIIIで消化後、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpET−FcR5aCysを抽出した。
(4)pET−FcR5aCysのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。発現ベクターpET−FcR5aCysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号21に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号22にそれぞれ示す。なお配列番号21において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR5aのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目のグリシン(Gly)から216番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
実施例6 システインタグを付加したFcR9(FcR9Cys)の作製
(1)実施例2(b)で作製したpET−FcR9を鋳型とし、配列番号16および配列番号20に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例5(1)と同様の方法でPCRを行なった。
(2)実施例5(2)と同様な方法で大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(3)得られた形質転換体を実施例5(3)と同様な方法で培養後、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて、発現ベクターpET−FcR9Cysを抽出した。
(4)pET−FcR9Cysのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
発現ベクターpET−FcR9Cysで発現されるポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号23に、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号24に、それぞれ示す。なお配列番号23において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR9のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目のグリシン(Gly)から216番目のグリシン(Gly)までがシステインタグ配列である。
実施例7 FcR5aCysの調製
(1)実施例5で作製したFcR5aCysを発現する形質転換体を2Lのバッフルフラスコに入った50μg/mLのカナマイシンを含む400mLの2YT液体培地(ペプトン16g/L、酵母エキス10g/L、塩化ナトリウム5g/L)に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
(2)グルコース10g/L、酵母エキス20g/L、リン酸三ナトリウム十二水和物3g/L、リン酸水素二ナトリウム十二水和物9g/L、塩化アンモニウム1g/Lおよび硫酸カナマイシン50mg/Lを含む液体培地1.8Lに、(1)の培養液180mLを接種し、3L発酵槽(バイオット製)を用いて本培養を行なった。温度30℃、pH6.9から7.1、通気量1VVM、溶存酸素濃度30%飽和濃度の条件に設定し、本培養を開始した。pHの制御には酸として50%リン酸、アルカリとして14%アンモニア水をそれぞれ使用し、溶存酸素の制御は撹拌速度を変化させることで制御し、撹拌回転数は下限500rpm、上限1000rpmに設定した。培養開始後、グルコース濃度が測定できなくなった時点で、流加培地(グルコース248.9g/L、酵母エキス83.3g/L、硫酸マグネシウム七水和物7.2g/L)を溶存酸素(DO)により制御しながら加えた。
(3)菌体量の目安として600nmの吸光度(OD600nm)が約150に達したところで培養温度を25℃に下げ、設定温度に到達したことを確認した後、終濃度が0.5mMになるようIPTGを添加し、引き続き25℃で培養を継続した。
(4)培養開始から約48時間後に培養を停止し、培養液を4℃で8000rpm、20分間の遠心分離により菌体を回収した。
(5)回収した菌体を20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)に5mL/1g(菌体)となるように懸濁し、超音波発生装置(インソネーター201M(商品名)、久保田商事製)を用いて、4℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。菌体破砕液は4℃で20分間、8000rpmの遠心分離を2回行ない、上清を回収した。
(6)(5)で得られた上清を、あらかじめ20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)で平衡化した140mLのTOYOPEARL CM−650M(東ソー製)を充填したVL32×250カラム(メルクミリポア製)に流速5mL/分でアプライした。平衡化に用いた緩衝液で洗浄後、0.5Mの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.0)で溶出した。
(7)(6)で得られた溶出液を、あらかじめ150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で平衡化したIgGセファロース(GEヘルスケア製)90mLを充填したXK26/20カラムカラム(GEヘルスケア製)にアプライした。平衡化に用いた緩衝液で洗浄後、0.1Mのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)で溶出した。なお溶出液は、溶出液量の1/4量の1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)を加えることでpHを中性付近に戻した。
前記精製により、高純度のFcR5aCysを約20mg得た。
実施例8 FcR5a固定化ゲルの作製と抗体分離
(1)2mLの分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー製:トヨパール)の表面の水酸基をヨードアセチル基で活性化後、実施例7で調製したFcR5aCysを4mg反応させることにより、FcR5a固定化ゲルを得た。
(2)(1)で調製したFcR5a固定化ゲル0.5mLをφ4.6mm×75mmのステンレスカラムに充填した。
(3)FcR5a固定化ゲルを充填したカラムをAKTA Explorer(GEヘルスケア製)につなげ、20mMの酢酸緩衝液(pH4.6)で平衡化した。
(4)20mMの酢酸緩衝液(pH4.6)で0.5mg/mLに希釈したモノクローナル抗体(リツキサン、全薬工業製)を流速0.2mL/minにて0.4mLアプライした。
(5)流速0.2mL/minのまま平衡化緩衝液で25分洗浄後、20mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)によるpHグラジエント(25分で20mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)が100%となるグラジエント)で吸着したモノクローナル抗体を溶出した。
結果(溶出パターン)を図2に示す。モノクローナル抗体はFcR5aと相互作用するため、ゲルろ過クロマトグラフイーのような単一のピークではなく、複数のピークに分離された。
実施例9 FcR5a固定化ゲルで分離した抗体のADCC(抗体依存性細胞傷害作用)活性測定
(1)実施例8に記載の溶出条件でモノクローナル抗体を分離し、図2に記載の溶出パターン中のフラクションA(FrA)およびフラクションB(FrB)の部分を分取した。
(2)分取したFrAおよびFrBを限外ろ過膜(メルクミリポア社)で濃縮しながら、PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)に緩衝液を交換した。
(3)濃縮、緩衝液交換したFrAおよびFrBに含まれる抗体、ならびに分離前のモノクローナル抗体の濃度を280nmの吸光度で測定した。
(4)以下に示す方法で、FrAおよびFrBに含まれる抗体が有するADCC活性を測定した。
(4−1)1.4mLのLow IgG Serumと33.6mLのRPMI1640培地とを混合して調製したADCC Assay Bufferを用いて、FrAおよびFrBに含まれる抗体ならびに分離前のモノクローナル抗体を3μg/mLから1/3希釈で8段階の希釈系列を調製した。
(4−2)Raji細胞をADCC Assay Bufferにて約5×10cells/mLに調製し、96wellプレート(3917:コーニング社)に25μL/wellで加えた。
(4−3)Raji細胞を加えたwellに(4−1)で調製したフラクションA、フラクションB、分離前のモノクローナル抗体、ブランク(ADCC Assay Bufferのみ)を25μL/well加えた。
(4−4)Effector細胞(プロメガ製)をADCC Assay Bufferにて約3.0×10cells/mLに調製し、Raji細胞および抗体を加えたwellに25μL/wellで加えた。その後、COインキュベーター(5%CO、37℃)にて6時間静置した。
(4−5)96wellプレートを室温で5分から30分静置した後、Luciferase Assay Reagent(プロメガ製)を75μL/wellで加えた。室温で30分反応させたのち、GloMax Multi Detection System(プロメガ製)で発光を測定した。
実施例8に記載の溶出条件で分取したFrAおよびFrBならびに分離前のモノクローナル抗体の発光強度を比較した結果を図3に示す。なお図3の結果は、測定した発光強度からブランクの発光強度を引いた値を示しており、発光強度が高いほど、ADCC活性が高いことを意味している。
FrAは分離前のモノクローナル抗体とほぼ同程度の発光強度であることからADCC活性はほぼ同等といえる。一方、FrBは分離前のモノクローナル抗体と比べて約3.2倍、FrAに比べても2.5倍に向上していた。つまり、FrBは分離前のモノクローナル抗体およびFrAと比べてADCC活性が高いことが分かる。
実施例10 FcR5a固定化ゲルで分離した抗体の糖鎖解析
(1)実施例9(1)で分取したFrAおよびFrB、ならびに分離前のモノクローナル抗体を100℃、10分の熱処理により変性後、グリコアミダーゼA/ペプシンおよびプロナーゼで順次処理し、ゲルろ過法による精製操作を経て糖鎖画分を取得した。
(2)(1)で得られた糖鎖をエバポレーターにて濃縮・乾燥後、酢酸溶媒下、2−アミノピリジン、次いでジメチルアミンボランを順次作用させて蛍光ラベル化糖鎖とし、ゲルろ過法により精製した。
(3)(2)で得られた蛍光ラベル化糖鎖を陰イオン交換カラム(TSKgel DEAE−5PW、φ7.5mm×7.5cm:東ソー製)にて、中性糖鎖画分とモノシアリル化糖鎖画分に分離した。
(4)(3)で得られた中性糖鎖画分とモノシアリル化糖鎖画分をODSカラムを用いて、個々の糖鎖に単離した。MALDI−TOF−MS分析により単離した糖鎖の分子量情報を取得後、ODSカラムクロマトグラフのリテンションタイムと照らし合わせて糖鎖構造を帰属した。
帰属した糖鎖構造(N1からN6、M1、M2およびD1)を図4に、中性糖鎖の組成比を表8に、モノシアリル化およびジシアリル化糖鎖の組成比を表9にそれぞれ示す。糖鎖構造N4+N4’およびN6を有した抗体は、分離前およびFrAと比較してFrBで増加していた。一方、N1、N2+N3’、N3およびN5を有した抗体は、分離前およびFrAと比較してFrBで減少していた。すなわちN4+N4’およびN6糖鎖を持つ抗体はFcR5aと強く結合し、N1、N2+N3’、N3およびN5を有した抗体はFcR5aとの結合が弱いことがわかる。またM1、M2およびD1を有した抗体は、分離前およびFrAと比較してFrBで増加していた。すなわちM1、M2およびD1糖鎖を持つ抗体はFcR5aと強く結合することがわかる。
Figure 2017118871
Figure 2017118871
前記結果と実施例9の結果とを合わせると、分離前およびFrAと比較してFrBで増加した糖鎖構造を有する抗体はADCC活性が高いことがわかる。すなわち、FcR5a固定化ゲルは、抗体が有する糖鎖構造の違いを識別でき、かつ前記識別に基づきADCC活性の高い抗体を分離することができることがわかる。
実施例11 FcR9固定化ゲルの作製と抗体分離
(1)実施例6で作製したFcR9Cysを発現する形質転換体を用いて、実施例7(1)から(4)と同様な方法で培養を行なった。
(2)実施例7と同様な方法で精製し、高純度のFcR9Cysを約10mg得た。
(3)実施例8(1)と同様な方法でFcR9Cys固定化ゲルを得た後、当該ゲル0.5mLをφ4.0mm×40mmのステンレスカラムに充填した。
(4)FcR9固定化ゲルを充填したカラムを高速液体クロマトグラフィー装置(東ソー製)につなげ、20mMの酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡化した。
(5)PBS(Phosphate Buffered Saline)(pH7.4)で4.0mg/mLに希釈したモノクローナル抗体(リツキサン、全薬工業製)を流速0.3mL/minにて0.15mLアプライした。
(6)流速0.3mL/minのまま平衡化緩衝液で2分洗浄後、10mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)によるpHグラジエント(38分で10mMのグリシン塩酸緩衝液(pH3.0)が100%となるグラジエント)で吸着したモノクローナル抗体を溶出した。
結果(溶出パターン)を図5に示す。モノクローナル抗体はFcR9と相互作用するため、ゲルろ過クロマトグラフィーのような単一のピークではなく、複数のピークに分離された。
実施例12 FcR9固定化ゲルで分離した抗体のADCC活性測定
(1)実施例11の溶出条件でモノクローナル抗体を分離し、図5に記載の溶出パターン中のフラクションA(FrA)、フラクションB(FrB)およびフラクションC(FrC)の部分を分取した。
(2)FrA、FrBおよびFrCに含まれる抗体、ならびに分離前のモノクローナル抗体の濃度を280nmの吸光度で測定し、実施例9(4)と同様な方法でADCC活性を測定した。
結果を図6に示す。なお図6の結果は、測定した発光強度からブランクの発光強度を引いた値を示しており、発光強度が高いほど、ADCC活性が高いことを意味している。
FrAおよびFrBは分離前のモノクローナル抗体よりADCC活性がやや低いといえる。一方、FrCは分離前のモノクローナル抗体と比べてADCC活性が約1.6倍に向上していた。つまり溶出の遅いFrCは溶出の早いFrAおよびFrBならびに分離前のモノクローナル抗体と比べてADCC活性が高いことがわかる。また実施例10より、本発明のFc結合性タンパク質を固定化したゲルは、抗体が有する糖鎖構造の違いを識別できることから、FrCに含まれるFcR9と強く結合する抗体は、高いADCC活性を有した糖鎖構造を有する抗体であることが示唆される。
実施例13 FcR9への変異導入およびライブラリーの作製
実施例3(b)で作製したFcR9をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例3(b)で作製した発現ベクターpET−FcR9を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR9を鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとした他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例14 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例13で作製したランダム変異ライブラリーを実施例2(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて10倍に希釈し、等量の60mMの水酸化ナトリウム溶液と混合し、30℃で1.5時間静置することでアルカリ処理した。その後、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定し、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR9と比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(5)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR9に対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表10に示す。配列番号18に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Met18Ile(この表記は、配列番号1の18番目(配列番号18では34番目)のメチオニンがイソロイシンに置換されていることを表す、以下同様)、Glu21Lys、Glu21Gly、Leu23Met、Gln33Pro、Lys46Glu、Phe61Tyr、Glu64Gly、Ser65Arg、Ser68Pro、Asp77Val、Asp77Glu、Val81Met、Asp82Ala、Gln101Leu、Glu103Val、His105Arg、Glu120Val、Ser178ArgおよびAsn180Lysのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR9と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
実施例15 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例14で判明した、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR9に集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)および(b)に示す2種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR9に対し、さらにGlu21Gly、Leu23Met、Gln33ProおよびSer178Argのアミノ酸置換を行なったFcR12
(b)FcR9に対し、さらにGlu21Gly、Leu23Met、Gln33Pro、Ser68ProおよびSer178Argのアミノ酸置換を行なったFcR13
以下、各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcR12
実施例14で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中からGlu21Gly、Leu23MetおよびSer178Argを選択し、それらの置換をFcR9(実施例3(b))に集積したFcR12を作製した。具体的には、実施例14で得られたGln33ProおよびSer178Argの変異を含んだポリヌクレオチドに対して、Glu21GlyおよびLeu23Metを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR12を作製した。
(a−1)実施例14で取得した、FcR9にGln33ProおよびSer178Argの変異を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型としてPCRを実施した。当該PCRにおけるプライマーは、配列番号3および配列番号25(5’−CTAGCCATGGGCATGCGTACCGGAGATATGCCGAAAGCGGAG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドを用いた。PCRは、鋳型とプライマー以外は表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm12pとした。
(a−2)(a−1)で得られたm12pを制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−3)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR9に対して4箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して13箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR12をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR12を得た。
(a−4)pET−FcR12のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR12のアミノ酸配列を配列番号26に、前記FcR12をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号27に示す。なお配列番号26において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR12のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号26において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Phe171Serのセリンは187番目およびSer178Argのアルギニンは194番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR13
実施例14で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Glu21Gly、Leu23Met、Gln33Pro、Ser68ProおよびSer178Argを選択し、それらの置換をFcR9(実施例3(b))に集積したFcR13を作製した。具体的には、FcR12をコードするポリヌクレオチドに対して、Ser68Proを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR13を作製した。
(b−1)(a)で作製した、pET−FcR12を鋳型とし、配列番号3および配列番号28(5’−CACAATGAAAGCCTGATTCCCAGCCAGGCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm13Fとした。
(b−2)(a)で作製したpET−FcR12を鋳型とし、配列番号2および配列番号29(5’−GTAGCTGCTCGCCTGGCTGGGAATCAGGCT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(b−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm13Rとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m13F、m13R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理するPCRを行ない、m13Fとm13Rを連結した。得られたPCR産物をm13pとした。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m13pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、PCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR12に2箇所アミノ酸置換を導入したFcR13をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR9に対して5箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して14箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR13をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR13を得た。
(b−7)pET−FcR13のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR13のアミノ酸配列を配列番号30に、前記FcR13をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号31に示す。なお、配列番号30において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR13のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号30において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Phe171Serのセリンは187番目およびSer178Argのアルギニンは194番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例16 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)特開2015−086216号公報に記載の方法で作製したFc結合性タンパク質(FcR5a)、実施例3(b)で作製したFc結合性タンパク質(FcR9)、および実施例15で作製したFc結合性タンパク質(FcR12、FcR13)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR5a、FcR9、FcR12およびFcR13を調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR5a、FcR9、FcR12およびFcR13の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR9を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が30μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと40mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表11に示す。実施例15で作製したFcR12、FcR13はFcR5a、FcR9と比較し残存活性が高いことから、FcR12およびFcR13のアルカリ安定性がFcR5a、FcR9に比べて向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例17 FcR13への変異導入およびライブラリーの作製
実施例15(b)で作製したFcR13をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例15(b)で作製した発現ベクターpET−FcR13を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR13を鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとした他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例18 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例17で作製したランダム変異ライブラリーを実施例2(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を以下に示す(i)または(ii)の方法でアルカリ処理した。なおアルカリ処理後は、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(i)純水にて5倍に希釈し、等量の80mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で2時間静置
(ii)純水にて20倍に希釈し、等量の60mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で2時間静置
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。その後、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR13と比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR13に対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表12(アルカリ処理は(i)の条件)および表13(アルカリ処理は(ii)の条件)に示す。配列番号30に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基(配列番号1の17番目から192番目に該当)を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Met18Lys(この表記は、配列番号1の18番目(配列番号30では34番目)のメチオニンがリジンに置換されていることを表す、以下同様)、Met18Thr、Leu(Met)23Arg(この表記は配列番号1番の23番目(配列番号30では39番目)のロイシンが一度メチオニンに置換されさらにアルギニンに置換されたことを表す、以下同様)、Lys46Ile、Gln(Arg)48Trp、Tyr51His、Tyr51Asn、Glu54Asp、Glu54Gly、Asn56Ser、Asn56Ile、Phe61Leu、Phe61Tyr、Glu64Gly、Ile67Leu、Ser69Asn、Ala71Thr、Tyr74Phe、Phe(Leu)75Arg、Ala78Glu、Val81Glu、Asp82Glu、Glu86Asp、Gln90Leu、Leu93Gln、Pro114Leu、Lys119Asn、Lys119Tyr、His125Gln、Ser130Thr、Lys138Arg、Gln143His、Gly147Val、Lys149Met、Phe151Tyr、His153Tyr、Tyr158Phe、Lys161Arg、Ser169Gly、Asn180Ser、Thr185Ala、Asn187Ile、Asn187LysおよびThr191Alaのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR13と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
Figure 2017118871
表12に示した、FcR13からアミノ酸置換されたFc結合性タンパク質のうち、Gly147Valのアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をFcR14と命名し、FcR14をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをpET−FcR14と命名した。FcR14のアミノ酸配列を配列番号32に、FcR14をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号33に示す。なお配列番号32において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR14のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号32において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Gly147Valのバリンは163番目、Phe171Serのセリンは187番目およびSer178Argのアルギニンは194番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例19 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例18で明らかとなった、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Tyr51HisおよびGlu54Aspを選択し、それらの置換をFcR14に集積することで、改良Fc結合性タンパク質(FcR16)を作製した。以下、作製方法を詳細に説明する。
(1)実施例18で得られた、pET−FcR14を鋳型とし、配列番号3および配列番号34(5’−TGCCGGGGCGCGCATAGCCCGGATGATAAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm16Fとした。
(2)実施例18で得られたpET−FcR14を鋳型とし、配列番号2および配列番号35(5’−GGTGCTGTTATCATCCGGGCTATGCGCGCC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm16Rとした。
(3)(1)および(2)で得られた2種類のPCR産物(m16F、m16R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行ない最後に72℃で5分間熱処理するPCRを行ない、m16Fとm16Rを連結したPCR産物m16pを得た。
(4)(3)で得られたPCR産物m16pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、PCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない最後に72℃で5分間熱処理するPCRを行なった。これによりFcR14に2箇所アミノ酸置換を導入したFcR16をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(5)(4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR14に対して2箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して17箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR16をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR16を得た。
(7)pET−FcR16のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR16のアミノ酸配列を配列番号36に、前記FcR16をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号37に示す。なお、配列番号36において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR13のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号36において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Gly147Valのバリンは163番目、Phe171Serのセリンは187番目およびSer178Argのアルギニンは194番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例20 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)実施例15(b)で作製したFc結合性タンパク質(FcR13)、実施例18で取得したFc結合性タンパク質(FcR14)、および実施例19で作製したFc結合性タンパク質(FcR16)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR13、FcR14およびFcR16を調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR13、FcR14およびFcR16の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR9を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと60mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表14に示す。実施例18で作製したFcR14、FcR16はFcR13と比較し残存活性が高いことから、FcR13に比べてアルカリ安定性が向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例21 FcR16への変異導入およびライブラリーの作製
実施例19で作製したFcR16をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例19で作製した発現ベクターpET−FcR16を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR16を鋳型とし、配列番号2および3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例22 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例21で作製したランダム変異ライブラリーを実施例2(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて20倍に希釈し、等量の80mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。アルカリ処理後は、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。その後、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR16と比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR16に対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表15に示す。配列番号36に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基(配列番号1の17番目から192番目に該当)を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Ala78Ser(この表記は、配列番号1の78番目(配列番号36では94番目)のアラニンがセリンに置換されていることを表す、以下同様)、Asp82Glu、Gln101Leu、Gln101Arg、Thr140Ile、Gln143His、Tyr158His、Lys161Arg、Lys165Glu、Thr185Ala、Asn187Asp、Asn187Tyrのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR16と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
実施例23 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例22で判明した、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR16に集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(c)に示す3種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR16に対し、さらにThr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluのアミノ酸置換を行なったFcR19
(b)FcR16に対し、さらにAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluのアミノ酸置換を行なったFcR21
(c)FcR16に対し、さらにAla78Ser、Asp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158His、Lys165Glu、Thr185AlaおよびAsn187Aspのアミノ酸置換を行なったFcR24
以下、各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcR19
実施例22で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluを選択し、それらの置換をFcR16(実施例19)に集積したFcR19を作製した。具体的には、実施例22で得られたThr140IleおよびTyr158Hisの変異を含んだポリヌクレオチドに対して、Lys165Gluを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR19を作製した。
(a−1)実施例22で取得した、FcR16にThr140IleおよびTyr158Hisの変異を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号3および配列番号38(5’−ATTCCCAAAGCGACGCTGGAGGACAGCGGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm19Fとした。
(a−2)実施例22で取得した、FcR16にThr140IleおよびTyr158Hisの変異を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号2および配列番号39(5’−ATAGCTGCCGCTGTCCTCCAGCGTCGCTTT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm19Rとした。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(m19F、m19R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m19Fとm19Rを連結したPCR産物m19pを得た。
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物m19pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR16に3箇所アミノ酸置換を導入したFcR19をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(a−5)(a−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR16に対して3箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して20箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR19をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR19を得た。
(a−7)pET−FcR19のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR19のアミノ酸配列を配列番号40に、前記FcR19をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号41に示す。なお、配列番号40において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR19のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号40において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asn92Serのセリンは108番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Thr140Ileのイソロイシンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Hisのヒスチジンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目およびSer178Argのアルギニンは194番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR21
実施例22で得られたAsp82Glu、Gln101LeuおよびAsn187Aspの変異を含んだポリヌクレオチドに対して、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluを生じさせる変異導入を行ない、改良Fc結合性タンパク質を得た。なお前記変異のうちAsn187Aspは後述の(b−9)の操作で欠失したため、本実験で実際に得られた改良Fc結合性タンパク質はAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluの置換をFcR16(実施例19)に集積したFc結合性タンパク質(FcR21)である。
(b−1)実施例22で取得した、FcR16にAsp82Glu、Gln101LeuおよびAsn187Aspの変異を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号3および配列番号42(5’−ACCGCCCTGCATAAAGTGATCTACCTGCAA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キ
アゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm21−2Fとした。
(b−2)実施例22で取得した、FcR16にAsp82Glu、Gln101LeuおよびAsn187Aspの変異を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号2および配列番号43(5’−TTGCAGGTAGATCACTTTATGCAGGGCGGT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(b−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm21−2Rとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m21−2F、m21−2R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m21−2Fとm21−2Rを連結したPCR産物m21−2pを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m21−2pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR16にAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140IleおよびAsn187Aspの変異を含んだFcR21−2をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で取得した、FcR16にAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140IleおよびAsn187Aspの変異を含んだFcR21−2をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号3および配列番号44(5’−CACCACAACTCCGACTTCCATATTCCCAAA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm21−1Fとした。
(b−6)(b−4)で取得した、FcR16にAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140IleおよびAsn187Aspの変異を含んだFcR21−2をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号2および配列番号45(5’−CAGCGTCGCTTTGGGAATATGGAAGTCGGA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(b−5)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm21−1Rとした。
(b−7)(b−5)および(b−6)で得られた2種類のPCR産物(m21−1F、m21−1R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m21−1Fとm21−1Rを連結したPCR産物m21−1pを得た。
(b−8)(b−7)で得られたPCR産物m21−1pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR16にAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびAsn187Aspの変異を含んだFcR21−1をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−9)(b−8)で取得した、FcR16にAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびAsn187Aspの変異を含んだFcR21−1をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号17および配列番号38に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm21Fとした(本操作によりAsn187Aspの変異が欠失している)。
(b−10)(b−8)で取得した、FcR16にAsp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびAsn187Aspの変異を含んだFcR21−1をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号25および配列番号39に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(b−9)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm21Rとした。
(b−11)(b−9)および(b−10)で得られた2種類のPCR産物(m21F、m21R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m21Fとm21Rを連結したPCR産物m21pを得た。
(b−12)(b−11)で得られたPCR産物m21pを鋳型とし、配列番号25および配列番号17に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR16に5箇所(Asp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Glu)(野生型Fc結合性タンパク質に対して22箇所)アミノ酸置換を導入したFcR21をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−13)(b−12)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−14)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR16に対して5箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR21をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR21を得た。
(b−15)pET−FcR21のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR21のアミノ酸配列を配列番号46に、前記FcR21をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号47に示す。なお、配列番号46において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR21のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号46において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目
、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Thr140Ileのイソロイシンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Hisのヒスチジンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目およびSer178Argのアルギニンは194番目の位置にそれぞれ存在する。
(c)FcR24
実施例22で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Ala78Ser、Asp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158His、Lys165Glu、Thr185AlaおよびAsn187Aspを選択し、それらの置換をFcR16(実施例19)に集積したFcR24を作製した。具体的には、FcR21をコードするポリヌクレオチドに対して、Ala78Ser、Thr185AlaおよびAsn187Aspを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR24を作製した。
(c−1)(b)で作製した、pET−FcR21を鋳型とし、配列番号3および配列番号48(5’−AGCAGCTACCTTATTGATTCGGCGACGGTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm24−2Fとした。
(c−2)(b)で作製した、pET−FcR21を鋳型とし、配列番号2および配列番号49(5’−GCTATCTTCCACCGTCGCCGAATCAATAAG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(c−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm24−2Rとした。
(c−3)(c−1)および(c−2)で得られた2種類のPCR産物(m24−2F、m24−2R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m21−2Fとm21−2Rを連結したPCR産物m24−2pを得た。
(c−4)(c−3)で得られたPCR産物m24−2pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR16にAla78Ser、Asp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluの変異を含んだFcR24−2をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−5)(c−4)で取得した、FcR16にAla78Ser、Asp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluの変異を含んだFcR24−2をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号3および配列番号50(5’−AAAAATGTGAGCAGCGAGGCCGTGGATATT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm24Fとした。
(c−6)(c−4)で取得した、FcR16にAla78Ser、Asp82Glu、Gln101Leu、Thr140Ile、Tyr158HisおよびLys165Gluの変異を含んだFcR24−2をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号25および配列番号51(5’−GGTAATGGTAATATCCACGGCCTCGCTGCT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(c−5)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm24Rとした。
(c−7)(c−5)および(c−6)で得られた2種類のPCR産物(m24F、m24R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m24Fとm24Rを連結したPCR産物m24pを得た。
(c−8)(c−7)で得られたPCR産物m24pを鋳型とし、配列番号25および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR16に8箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して24箇所)アミノ酸置換を導入したFcR24をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−9)(c−8)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(c−10)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR16に対して8箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR24をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR24を得た。
(c−11)pET−FcR24のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR24のアミノ酸配列を配列番号52に、前記FcR24をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号53に示す。なお、配列番号52において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR24のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。また配列番号52において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Thr140Ileのイソロイシンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Hisのヒスチジンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目およびAsn187Aspのアスパラギン酸は203番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例24 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)実施例19で作製したFc結合性タンパク質(FcR16)、ならびに実施例23で取得したFc結合性タンパク質(FcR19、FcR21およびFcR24)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR16、FcR19、FcR21およびFcR24を調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR16、FcR19、FcR21およびFcR24の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR13を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと80mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表16に示す。実施例23で作製したFcR19、FcR21およびFcR24はFcR16と比較し残存活性が高いことから、FcR16に比べてアルカリ安定性が向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例25 FcR24への変異導入およびライブラリーの作製
実施例23(c)で作製したFcR24をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例23(c)で作製した発現ベクターpET−FcR24を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR24を鋳型とし、配列番号2および3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例26 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例25で作製したランダム変異ライブラリーを実施例3(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて20倍に希釈し、等量の300mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。アルカリ処理後は、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。その後、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR24と比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR24に対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表17に示す。配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基(配列番号1の17番目から192番目に該当)を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Lys40Gln(この表記は、配列番号1の40番目(配列番号52では56番目)のリジンがグルタミンに置換されていることを表す、以下同様)、Lys46Asn、Ala50Thr、Asn56Tyr、His62Leu、Ser65Gly、Tyr74His、Asp77Val、Gln90Leu、Lys119Thr、Lys119Glu、Asp122Glu、His137Gln、Thr(Ile)140Met(この表記は、配列番号1の140番目(配列番号6では156番目)のスレオニンが一度イソロイシンに置換されさらにメチオニンに置換されたことを示す、以下同様)、Tyr141Phe、Tyr(His)158Leu、Leu175Arg、Asn180Lys、Asn180Ser、Ile190Val、Thr191Ileのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR24と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
実施例27 Thr140またはTyr158アミノ酸置換体の作製
実施例22で明らかになったFc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に寄与するアミノ酸置換のうち、配列番号1の140番目(配列番号52では156番目)のスレオニン(Thr140)がイソロイシン(Ile)に、158番目(配列番号52では174番目)のチロシン(Tyr158)がヒスチジンにそれぞれ置換されることでアルカリ安定性が特に向上した。そこで、Thr140およびTyr158の他のアミノ酸への置換の有用性を確認するため、実施例22(c)で作製したFcR24(配列番号52)のうちThr140(配列番号52では156番目)またはTyr158(配列番号52では174番目)を他のアミノ酸に置換したFc結合性タンパク質を作製した。
(a)Thr140アミノ酸置換体の作製
(a−1)実施例22(c)で作製した、pET−FcR24を鋳型とし、配列番号3および配列番号54(5’−CCTGCATAAAGTGNNKTACCTGCAAAACGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表3に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。得られたPCR産物をT140p1とした。
(a−2)実施例22(c)で作製した、pET−FcR24を鋳型とし、配列番号2および配列番号55(5’−CCGTTTTGCAGGTAMNNCACTTTATGCAGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表3に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。得られたPCR産物をT140p2とした。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(T140p1、T140p2)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、T140p1とT140p2を連結したPCR産物T140pを得た。
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物T140pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFc結合性タンパク質(FcR24)の140番目のアミノ酸が任意のアミノ酸に置換されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得た。得られたポリヌクレオチドをT140p3とした。
(a−5)(a−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。
回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出し、ポリヌクレオチド領域の配列を実施例1(5)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析したところ、Fc結合性タンパク質FcR24のThr140(配列番号52では156番目のイソロイシン)がAla、Arg、Gly、Leu、Lys、Phe、Thr、SerまたはValに置換されたFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を得た。
(b)Tyr158アミノ酸置換体の作製
(b−1)実施例22(c)で作製した、pET−FcR24を鋳型とし、配列番号3および配列番号56(5’−CAACTCCGACTTCNNKATTCCCAAAGCGAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表3に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。得られたPCR産物をY158p1とした。
(b−2)実施例22(c)で作製した、pET−FcR24を鋳型とし、配列番号2および配列番号57(5’−GTCGCTTTGGGAATMNNGAAGTCGGAGTTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表3に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。得られたPCR産物をY158p2とした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(Y158p1、Y158p2)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、Y140p1とY140p2を連結したPCR産物Y140pを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物Y140pを鋳型とし、配列番号23および配列番号24に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFc結合性タンパク質(FcR24)の158番目のアミノ酸が任意のアミノ酸に置換されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを得た。得られたポリヌクレオチドをY158p3とした。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。
回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出し、ポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析したところ、Fc結合性タンパク質FcR24のTyr158(配列番号52では174番目のヒスチジン)がAla、Arg、Asn、Cys、Gln、Glu、Gly、Ile、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValに置換されたFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を得た。
実施例28 Thr140またはTyr158アミノ酸置換体の評価
(1)実施例27で作製したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFc結合タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR24を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと、300mM(Thr140アミノ酸置換体の場合)または350mM(Tyr158アミノ酸置換体の場合)の水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
得られた結果を表18(Thr140アミノ酸置換体の結果)および表19(Tyr158アミノ酸置換体の結果)に示す。なお表18中のIleの結果、および表19中のHisの結果は、FcR24に相当する。Thr140の場合(表18)は、Ala、Arg、Ile、Leu、Lys、Phe、SerまたはValに置換することで、Tyr158の場合(表19)は、Cys、His、Ile、Lys、Phe、TrpまたはValに置換することで、それぞれアルカリ安定性が向上することを確認した。
Figure 2017118871
Figure 2017118871
表19に示した、Fc結合性タンパク質FcR24のTyr158アミノ酸置換体のうち、Tyr158Valのアミノ酸置換が生じたFc結合性タンパク質をFcR24bと命名し、FcR24bをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターをpET−FcR24bと命名した。FcR24bのアミノ酸配列を配列番号58に、FcR24bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号59に示す。なお配列番号58において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR24bのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号58において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Thr140Ileのイソロイシンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目およびAsn187Aspのアスパラギン酸は203番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例29 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例26で判明した、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR24bに集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(e)に示す4種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR24bに対し、さらにThr(Ile)140Met(この表記は、配列番号1の140番目(配列番号52では156番目)のスレオニンが一度イソロイシンに置換されさらにメチオニンに置換されたことを示す、以下同様)およびIle190Valのアミノ酸置換を行なったFcR25
(b)FcR24bに対し、さらにAsp122Glu、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valのアミノ酸置換を行なったFcR26
(c)FcR24bに対し、さらにLys40Gln、Asp122Glu、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valのアミノ酸置換を行なったFcR27
(d)FcR24bに対し、さらにLys40Gln、Lys119Glu、Asp122Glu、Thr(Ile)140Met、Tyr141PheおよびIle190Valのアミノ酸置換を行なったFcR29
(e)FcR24bに対し、さらにLys40Gln、His62Leu、Tyr74His、Lys119Glu、Asp122Glu、Thr(Ile)140Met、Tyr141PheおよびIle190Valのアミノ酸置換を行ったFcR31
以下、各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcR25
実施例26で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valを選択し、それらの置換をFcR24b(実施例28)に集積したFcR25を作製した。具体的には、実施例28で得られたFcR24bをコードするポリヌクレオチド(配列番号59)に対して、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR25を作製した。
(a−1)実施例26で取得した、FcR24にThr(Ile)140Metの変異を含んだFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号3および配列番号60(5’−CCCTGCATAAAGTGATGTACCTGCAAAACG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm24cFとした。
(a−2)実施例28で取得した、Fc結合性タンパク質FcR24bをコードするポリヌクレオチド(配列番号59)を鋳型とし、配列番号2および配列番号61(5’−CGTTTTGCAGGTACATCACTTTATGCAGGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a−1)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm24cRとした。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(m24cF、m24cR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m24cFとm24cRを連結したPCR産物m24cpを得た。
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物m24cpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR24cをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(a−5)(a−4)で取得した、FcR24bにThr(Ile)140Metの変異を含んだFcR24cをコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号25および配列番号62(5’−CCCAAGCTTAATGATGATGATGATGATGGCCCCCTTGGGTAACGGTAATATCCACGGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。これによりFcR24bに2箇所(Thr(Ile)140MetおよびIle190Val)(野生型Fc結合性タンパク質に対して26箇所)アミノ酸置換を導入したFcR25をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(a−6)(a−5)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−7)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR24に対して2箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR25をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR25を得た。
(a−8)pET−FcR25のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR25のアミノ酸配列を配列番号63に、前記FcR25をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号64に示す。なお、配列番号63において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)
から208番目のアミノ酸までがFcR25のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目のアミノ酸から210番目までのグリシン(Gly)までがリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号63において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Aspのアスパラギン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR26
実施例26で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asp122Glu、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valを選択し、それらの置換をFcR24b(実施例28)に集積したFcR26を作製した。具体的には、FcR25をコードするポリヌクレオチド(配列番号64)に対して、Asp122Gluを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR26を作製した。
(b−1)(a)で作製した、pET−FcR25を鋳型とし、配列番号3および配列番号65(5’−GTTCAAAGAGGGGGAACCGATTCATCTGCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm26Fとした。
(b−2)(a)で作製した、pET−FcR25を鋳型とし、配列番号2および配列番号66(5’−CGCAGATGAATCGGTTCCCCCTCTTTGAAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm26Rとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m26F、m26R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m26Fとm26Rを連結したPCR産物m26pを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m26pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR26をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR24bに対して3箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して27箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR26をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR26を得た。
(b−7)pET−FcR26のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR26のアミノ酸配列を配列番号67に、前記FcR26をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号68に示す。なお、配列番号67において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR26のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号67において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Aspのアスパラギン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目の位置にそれぞれ存在する。
(c)FcR27
実施例26で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys40Gln、Asp122Glu、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valを選択し、それらの置換をFcR24b(実施例28)に集積したFcR27を作製した。具体的には、FcR26をコードするポリヌクレオチド(配列番号68)に対して、Lys40Glnを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR27を作製した。
(c−1)(b)で作製した、pET−FcR26を鋳型とし、配列番号3および配列番号69(5’−TCGCGTGCTGGAGCAAGATTCAGTGACCCT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm27Fとした。
(c−2)(a)で作製した、pET−FcR26を鋳型とし、配列番号2および配列番号70(5’−AGGGTCACTGAATCTTGCTCCAGCACGCGA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm27Rとした。
(c−3)(c−1)および(c−2)で得られた2種類のPCR産物(m27F、m27R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m27Fとm27Rを連結したPCR産物m27pを得た。
(c−4)(c−3)で得られたPCR産物m27pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR27をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−5)(c−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(c−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR24bに対して4箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して28箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR27をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR27を得た。
(c−7)pET−FcR27のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR27のアミノ酸配列を配列番号71に、前記FcR27をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号72に示す。なお、配列番号71において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR27のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号71において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Aspのアスパラギン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目の位置にそれぞれ存在する。
(d)FcR29
実施例26で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys40Gln、Lys119Glu、Asp122Glu、Thr(Ile)140Met、Tyr141PheおよびIle190Valを選択し、それらの置換をFcR24b(実施例28)に集積したFcR29を作製した。具体的には、FcR27をコードするポリヌクレオチド(配列番号72)に対して、Lys119GluおよびTyr141Pheを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR29を作製した。
(d−1)(c)で作製した、pET−FcR27を鋳型とし、配列番号3および配列番号73(5’−ACGGTGGGAGTTCGAAGAGGGGGAACCGAT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm28Fとした。
(d−2)(c)で作製した、pET−FcR27を鋳型とし、配列番号2および配列番号74(5’−ATCGGTTCCCCCTCTTCGAACTCCCACCGT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm28Rとした。
(d−3)(d−1)および(d−2)で得られた2種類のPCR産物(m28F、m28R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m28Fとm28Rを連結したPCR産物m28pを得た。
(d−4)(d−3)で得られたPCR産物m28pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR24にLys40Gln、Lys119Glu、Asp122Glu、Thr(Ile)140MetおよびIle190Valの変異を含んだ、Fc結合性タンパク質FcR28をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(d−5)(d−4)で取得した、FcR28をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号75(5’−CGCATCCTCGCATTATCCGCATTAACGACG−3’)および配列番号77(5’−CCGTTTTGCAGGAACATCACTTTATGCAGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表7に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm29Fとした。
(d−6)(d−4)で取得した、FcR28をコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、配列番号76(5’−GCTTCCTTTCGGGCTTTGTTAGCAGCCGGA−3’)および配列番号78(5’−CCTGCATAAAGTGATGTTCCTGCAAAACGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(d−5)と同様の方法でPCRを行なった。精製したPCR産物をm29Rとした。
(d−7)(d−5)および(d−6)で得られた2種類のPCR産物(m29F、m29R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m29Fとm29Rを連結したPCR産物m29pを得た。
(d−8)(d−7)で得られたPCR産物m29pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR24bに6箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して30箇所)アミノ酸置換を導入したFcR29をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(d−9)(d−8)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(d−10)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR24bに対して6箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR29をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR29を得た。
(d−11)pET−FcR29のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR29のアミノ酸配列を配列番号79に、前記FcR29をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号80に示す。なお、配列番号79において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR29のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号79において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Aspのアスパラギン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目の位置にそれぞれ存在する。
(e)FcR31
実施例26で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys40Gln、His62Leu、Tyr74His、Lys119Glu、Asp122Glu、Thr(Ile)140Met、Tyr141PheおよびIle190Valを選択し、それらの置換をFcR24b(実施例28)に集積したFcR31を作製した。具体的には、FcR29をコードするポリヌクレオチド(配列番号80)に対して、His62LeuおよびTyr74Hisを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR31を作製した。
(e−1)(d)で作製した、pET−FcR29を鋳型とし、配列番号3および配列番号81(5’−CCAGTGGTTCCTCAATGAAAGCCTGATTCCCAGCCAGGCGAGCAGCCACCTTATTGATT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm31Fとした。
(e−2)(d)で作製した、pET−FcR29を鋳型とし、配列番号2および配列番号82(5’−AATCAATAAGGTGGCTGCTCGCCTGGCTGGGAATCAGGCTTTCATTGAGGAACCACTGG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm31Rとした。
(e−3)(e−1)および(e−2)で得られた2種類のPCR産物(m31F、m31R)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m31Fとm31Rを連結したPCR産物m31pを得た。
(e−4)(e−3)で得られたPCR産物m31pを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR31をコードするポリヌクレオチドを作製した。
(e−5)(e−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(e−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR24bに対して8箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して32箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR31をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR31を得た。
(e−7)pET−FcR31のヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR31のアミノ酸配列を配列番号83に、前記FcR31をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号84に示す。なお、配列番号83において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR31のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号83において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、His62Leuのロイシンは78番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Tyr74Hisのヒスチジンは90番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Aspのアスパラギン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例30 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)実施例23(c)で作製したFc結合性タンパク質(FcR24)、ならびに実施例29で取得したFc結合性タンパク質(FcR25、FcR26、FcR27、FcR29およびFcR31)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR24、FcR25、FcR26、FcR27、FcR29およびFcR31を調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR24、FcR25、FcR26、FcR27、FcR29およびFcR31の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR24を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと400mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表20に示す。実施例29で作製したFcR25、FcR26、FcR27、FcR29およびFcR31はFcR24と比較し残存活性が高いことから、FcR24に比べてアルカリ安定性が向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例31 FcR29への変異導入およびライブラリーの作製
実施例29(d)で作製したFcR29をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例29(d)で作製した発現ベクターpET−FcR29を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR29を鋳型とし、配列番号2および3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例32 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例31で作製したランダム変異ライブラリーを実施例2(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて20倍に希釈し、等量の550mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で1.5時間静置することでアルカリ処理した。アルカリ処理後は、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。その後、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR29と比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR29に対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表21に示す。配列番号79に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基(配列番号1の17番目から192番目に該当)を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Met18Ile(この表記
は、配列番号1の18番目(配列番号52では34番目)のメチオニンがイソロイシンに置換されていることを表す、以下同様)、Thr20Ser、Asp22Gly、Lys25Arg、Val(Glu)27Val(この表記は、配列番号1の27番目(配列番号52では43番目)のバリンが一度グルタミン酸に置換されさらにバリンに置換されたことを示す、以下同様)、Ala50Glu、Gln59Leu、Glu64Gly
、Ser65Asn、Ser65Arg、Phe(Leu)75Arg、Pro114Leu、Lys(Glu)119Val、Lys132Arg、Asn144Asp、Phe151Ser、Asn180Asp、Glu184Gly、Asn(Asp)187Gluのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR29と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
実施例32 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例31で判明した、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR29に集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(b)に示す2種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR29に対し、さらにLys132Arg(この表記は、配列番号1の132番目(配列番号52では148番目)のリジンがアルギニンに置換されたことを示す、以下同様)およびAsn(Asp)187Glu(この表記は、配列番号1の187番目(配列番号52では203番目)のアスパラギンが一度アスパラギン酸に置換されさらにグルタミン酸に置換されたことを示す、以下同様)のアミノ酸置換を行なったFcR30
(b)FcR29に対し、さらにGlu64Gly、Lys132ArgおよびAsn(Asp)187Gluのアミノ酸置換を行なったFcR31b
以下、各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcR30
実施例31で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Lys132ArgおよびAsn(Asp)187Gluを選択し、それらの置換をFcR29(実施例30)に集積したFcR30を作製した。具体的には、実施例31で得られた、Fc結合性タンパク質FcR29のLys132がArgおよびAsn(Asp)187Gluに置換体を発現する菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出した。これにより、FcR29に1箇所アミノ酸置換(野生型Fc結合性タンパク質に対して31箇所)アミノ酸置換を導入したFcR30をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR30を得た。シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR30のアミノ酸配列を配列番号85に、前記FcR30をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号86に示す。なお、配列番号85において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR29のアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号85において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valは206番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR31b
実施例31で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Glu64Gly、Lys132ArgおよびAsn(Asp)187Gluを選択し、それらの置換をFcR29(実施例29(d))に集積したFcR31bを作製した。具体的には、FcR30をコードするポリヌクレオチド(配列番号85)に対して、Glu64Glyを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR31bを作製した。
(b−1)(a)で作製した、pET−FcR30を鋳型とし、配列番号3および配列番号87(5’−GTGGTTCCACAATGGAAGCCTGATTCCCA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm31bFとした。
(b−2)(a)で作製した、pET−FcR30を鋳型とし、配列番号2および配列番号88(5’−TGGGAATCAGGCTTCCATTGTGGAACCAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm31bRとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m31bF、m31bR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m31bFとm31bRを連結したPCR産物m31bpを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m31bpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR31bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR29に対して3箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して32箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR31bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR31bを得た。
(b−7)pET−FcR31bのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR31bのアミノ酸配列を配列番号89に、前記FcR31bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号90に示す。なお、配列番号89において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までがFcR31bのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号89において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Glu64Glyのグリシンは80番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Ileのイソロイシンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Aspのアスパラギン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例33 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)実施例29で作製したFc結合性タンパク質(FcR29)、ならびに実施例32で取得したFc結合性タンパク質(FcR30およびFcR31b)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR29、FcR30およびFcR31bを調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR29、FcR30およびFcR31bの抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR29を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと650mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表22に示す。実施例32で作製したFcR30、FcR31bはFcR29と比較し残存活性が高いことから、FcR29に比べてアルカリ安定性が向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例34 FcR30への変異導入およびライブラリーの作製
実施例32(a)で作製したFcR30をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例32(a)で作製した発現ベクターpET−FcR30を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR30を鋳型とし、配列番号2および3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例35 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例34で作製したランダム変異ライブラリーを実施例2(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて25倍に希釈し、等量の800mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。アルカリ処理後は、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。その後、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR30と比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR30に対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表23に示す。配列番号85に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のグルタミンまでのアミノ酸残基(配列番号1の17番目から192番目に該当)を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Asp22Val(この表記は、配列番号1の22番目(配列番号52では38番目)のアスパラギン酸がバリンに置換されていることを表す、以下同様)、Phe(Ile)29Val(この表記は、配列番号1の29番目(配列番号52では45番目)のフェニルアラニンが一度イソロイシンに置換されさらにバリンに置換されたことを示す、以下同様)、Gln(Arg)48Gln、Asn56Asp、Asn56Tyr、Phe(Leu)75Ile、Asp98Glu、Gln192Proのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR30と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
実施例36 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例35で判明した、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR30に集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(c)に示す3種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR30に対し、さらにAsn56Asp(この表記は、配列番号1の56番目(配列番号52では72番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換されたことを示す、以下同様)およびGln192Proのアミノ酸置換を行なったFcR32c
(b)FcR30に対し、さらにAsn56Asp、Phe(Leu)75Ile(この表記は、配列番号1の75番目(配列番号52では91番目)のフェニルアラニンが一度ロイシンに置換されさらにイソロイシンに置換されたことを示す、以下同様)およびGln192Proのアミノ酸置換を行なったFcR32d
(c)FcR30に対し、さらにAsn56Asp、Phe(Leu)75Ile、Asp98GluおよびGln192Proのアミノ酸置換を行なったFcR33
以下、各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcR32c
実施例35で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn56AspおよびGln192Proを選択し、それらの置換をFcR30(実施例32(a))に集積したFcR32cを作製した。具体的には、実施例35で得られたFc結合性タンパク質FcR30のAsn56AspおよびGln192Pro置換体を発現する菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出した。これにより、FcR30に2箇所アミノ酸置換(野生型Fc結合性タンパク質に対して32箇所)アミノ酸置換を導入したFcR32cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR32cを得た。シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR32cのアミノ酸配列を配列番号91に、前記FcR32をコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号92に示す。
なお、配列番号91において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR32cのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号91において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Leuのロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR32d
実施例35で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn56Asp、Phe(Leu)75IleおよびGln192Proを選択し、それらの置換をFcR30(実施例32(a))に集積したFcR32cを作製した。具体的には、FcR32cをコードするポリヌクレオチド(配列番号92)に対して、Phe(Leu)75Ileを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR32dを作製した。
(b−1)(a)で作製した、pET−FcR32cを鋳型とし、配列番号3および配列番号93(5’−GGCGAGCAGCTACATTATTGATTCGGCGAC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm32dFとした。
(b−2)(a)で作製した、pET−FcR32cを鋳型とし、配列番号2および配列番号94(5’−GTCGCCGAATCAATAATGTAGCTGCTCGCC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm32dRとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m32dF、m32dR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m32dFとm32dRを連結したPCR産物m32dpを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m32dpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR32dをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR30に対して3箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して33箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR32dをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR32dを得た。
(b−7)pET−FcR32dのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR32dのアミノ酸配列を配列番号95に、前記FcR32dをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号96に示す。なお、配列番号95において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR32dのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号95において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Ileのイソロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
(c)FcR33c
実施例35で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn56Asp、Phe(Leu)75Ile、Asp98GluおよびGln192Proを選択し、それらの置換をFcR30(実施例32(a))に集積したFcR33cを作製した。具体的には、FcR32dをコードするポリヌクレオチド(配列番号96)に対して、Asp98Gluを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR33cを作製した。
(c−1)(b)で作製した、pET−FcR32dを鋳型とし、配列番号3および配列番号97(5’−GAGCACCCTGAGCGAACCGGTGCTGCTGGA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm33cFとした。
(c−2)(b)で作製した、pET−FcR32dを鋳型とし、配列番号2および配列番号98(5’−TCCAGCAGCACCGGTTCGCTCAGGGTGCTC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm33cRとした。
(c−3)(c−1)および(c−2)で得られた2種類のPCR産物(m33cF、m33cR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m33cFとm33cRを連結したPCR産物m33cpを得た。
(c−4)(c−3)で得られたPCR産物m33cpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR33cをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−5)(c−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(c−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR30に対して4箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して34箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR33cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR33cを得た。
(c−7)pET−FcR33cのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR33cのアミノ酸配列を配列番号99に、前記FcR33cをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号100に示す。なお、配列番号99において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR33cのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号99において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Ileのイソロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Asp98Gluのグルタミン酸は114番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例37 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)実施例32(a)で作製したFc結合性タンパク質(FcR30)、ならびに実施例36で取得したFc結合性タンパク質(FcR32c、FcR32dおよびFcR33c)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR30、FcR32c、FcR32dおよびFcR33cを調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR30、FcR32c、FcR32dおよびFcR33cの抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR30を用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと900mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で1時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表24に示す。実施例36で作製したFcR32c、FcR32dおよびFcR33cはFcR30と比較し残存活性が高いことから、FcR30に比べてアルカリ安定性が向上していることが確認された。
Figure 2017118871
実施例38 改良Fc結合性タンパク質の作製
FcR33cに対し、さらにThr(Met)140Thr(この表記は、配列番号1の140番目(配列番号52では156番目)のスレオニンが一度メチオニンに置換されさらにスレオニンに置換されたことを示す、以下同様)、Gly(Val)147GlyおよびSer(Arg)178Serのアミノ酸置換を行なったFcR30eを作製した。具体的には、FcR33cをコードするポリヌクレオチド(配列番号100)に対して、Thr(Met)140Thr、Gly(Val)147GlyおよびSer(Arg)178Serを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR30eを作製した。具体的な作製方法は以下に示した。
(1)実施例36(c)で作製した、pET−FcR33cを鋳型とし、配列番号3および配列番号101(5’−GCATAAAGTGACCTTCCTGCAAAACGGCAAGGGCCGCAAGTATT−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm31gFとした。
(2)実施例36(c)で作製した、pET−FcR33cを鋳型とし、配列番号2および配列番号102(5’−AATACTTGCGGCCCTTGCCGTTTTGCAGGAAGGTCACTTTATGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm31gRとした。
(3)(1)および(2)で得られた2種類のPCR産物(m31gF、m31gR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m31gFとm31gRを連結したPCR産物m31gpを得た。
(4)(3)で得られたPCR産物m31gpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR31gをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(5)(4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR33cに対して2箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して31箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR31gをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR31gを得た。
(7)pET−FcR31gのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行ない、FcR31gをコードするポリヌクレオチドの配列に問題がないことを確認した。
(8)(6)で作製した、pET−FcR31gを鋳型とし、配列番号3および配列番号103(5’−CGTGGGCTGGTGGGCAGCAAAAATGTGAGC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm30eFとした。
(9)(7)で作製した、pET−FcR31gを鋳型とし、配列番号2および配列番号104(5’−GCTGCTCACATTTTTGCTGCCCACCAGCCC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm30eRとした。
(10)(8)および(9)で得られた2種類のPCR産物(m30eF、m30eR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m30eFとm30eRを連結したPCR産物m30epを得た。
(11)(10)で得られたPCR産物m30epを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR30eをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(12)(11)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(13)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR33cに対して3箇所アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR30eをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR30eを得た。
(14)pET−FcR30eのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR30eのアミノ酸配列を配列番号105に、前記FcR30eをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号106に示す。なお、配列番号105において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR30eのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号105において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Phe75Ileのイソロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Asp98Gluのグルタミン酸は114番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例39 FcR30eへの変異導入およびライブラリーの作製
実施例38で作製したFcR30eをコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRによりランダムに変異導入を施した。
(1)鋳型として実施例38で作製した発現ベクターpET−FcR30eを用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、pET−FcR30eを鋳型とし、配列番号2および3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いた他は表1に示す組成と同様の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を35サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。この反応によりFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入された。
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ同制限酵素で消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションした。
(3)ライゲーション反応終了後、反応液をエレクトロポレーション法により大腸菌BL21(DE3)株に導入し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異ライブラリーとした。
実施例40 アルカリ安定化Fc結合性タンパク質のスクリーニング
(1)実施例39で作製したランダム変異ライブラリーを実施例2(1)から(2)に記載の方法で培養することでFc結合性タンパク質を発現させた。
(2)培養後、遠心操作によって得られた、Fc結合性タンパク質を含む培養上清を純水にて25倍に希釈し、等量の400mMの水酸化ナトリウム溶液と混合した後、30℃で2時間静置することでアルカリ処理した。アルカリ処理後は、4倍量の1Mトリス緩衝液(pH7.0)でpHを中性付近に戻した。
(3)(2)に記載のアルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性と、(2)に記載のアルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。その後、アルカリ処理を行なったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのFc結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで、残存活性を算出した。
(4)(3)の方法で約2700株の形質転換体を評価し、その中からFcR30eと比較して安定性が向上したFc結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。選択した形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを含む2YT液体培地にて培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン製)を用いて発現ベクターを調製した。
(5)得られた発現ベクターに挿入されたFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を実施例2(6)に記載の方法によりヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸の変異箇所を特定した。
(4)で選択した形質転換体が発現するFc結合性タンパク質の、FcR30eに対するアミノ酸置換位置およびアルカリ処理後の残存活性(%)をまとめたものを表25に示す。配列番号105に記載のアミノ酸配列のうち、33番目のグリシンから208番目のプロリンまでのアミノ酸残基(配列番号1の17番目から192番目に該当)を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において、Ser65Arg(この表記は、配列番号1の65番目(配列番号52では81番目)のセリンがアルギニンに置換されていることを表す、以下同様)、Tyr74Phe、Ile76Val、Thr80Ser、Lys(Glu)119Val(この表記は、配列番号1の119番目(配列番号52では135番目)のリジンが一度グルタミン酸に置換されさらにバリンに置換されたことを示す)のいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているFc結合性タンパク質は、FcR30eと比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
Figure 2017118871
実施例41 改良Fc結合性タンパク質の作製
実施例40で判明した、Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をFcR33cに集積することで、さらなる安定性向上を図った。置換アミノ酸の集積は、主にPCRを用いて行ない、以下の(a)から(c)に示す3種類の改良Fc結合性タンパク質を作製した。
(a)FcR33cに対し、さらにTyr74Phe(この表記は、配列番号1の74番目(配列番号52では90番目)のチロシンがフェニルアラニンに置換されたことを示す、以下同様)およびThr80Serのアミノ酸置換を行なったFcR35b
(b)FcR33cに対し、Tyr74Phe、Thr80SerおよびLys(Glu)119Val(この表記は、配列番号1の119番目(配列番号52では135番目)のリジンが一度グルタミン酸に置換されさらにバリンに置換されたことを示す、以下同様)のアミノ酸置換を行なったFcR35c
(c)FcR33cに対し、Ser65Arg、Tyr74Phe、Thr80SerおよびLys(Glu)119Valのアミノ酸置換を行なったFcR36b
以下、各改良Fc結合性タンパク質の作製方法を詳細に説明する。
(a)FcR35b
実施例40で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Tyr74PheおよびThr80Serを選択し、それらの置換をFcR33c(実施例36(c))に集積したFcR35bを作製した。具体的には、FcR33cをコードするポリヌクレオチド(配列番号100)に対して、Tyr74PheおよびThr80Serを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR35bを作製した。
(a−1)実施例36(c)で作製した、pET−FcR33cを鋳型とし、配列番号3および配列番号107(5’−CGAGCAGCTTCATTATTGATTCGGCGTCGGTGGAAGA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm35bFとした。
(a−2)実施例36(c)で作製した、pET−FcR33cを鋳型とし、配列番号2および配列番号108(5’−TCTTCCACCGACGCCGAATCAATAATGAAGCTGCTCG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm35bRとした。
(a−3)(a−1)および(a−2)で得られた2種類のPCR産物(m35bF、m35bR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m35bFとm35bRを連結したPCR産物m35bpを得た。
(a−4)(a−3)で得られたPCR産物m35bpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR35bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(a−5)(a−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(a−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR33cに対して2箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して35箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR35bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR35bを得た。
(a−7)pET−FcR35bのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR35bのアミノ酸配列を配列番号109に、前記FcR35bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号110に示す。なお、配列番号109において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR35bのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号109において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Tyr74Pheのフェニルアラニンは90番目、Phe75Ileのイソロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Thr80Serのセリンは96番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Asp98Gluのグルタミン酸は114番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Gluのグルタミン酸は135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
(b)FcR35c
実施例40で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Tyr74Phe、Thr80SerおよびLys(Glu)119Valを選択し、それらの置換をFcR33c(実施例36(c))に集積したFcR35cを作製した。具体的には、FcR35bをコードするポリヌクレオチド(配列番号110)に対して、Lys(Glu)119Valを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR35cを作製した。
(b−1)(a)で作製した、pET−FcR35bを鋳型とし、配列番号3および配列番号111(5’−CACGGTGGGAGTTCGTAGAGGGGGAACCGA−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm35cFとした。
(b−2)(a)で作製した、pET−FcR35bを鋳型とし、配列番号2および配列番号112(5’−TCGGTTCCCCCTCTACGAACTCCCACCGTG−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm35cRとした。
(b−3)(b−1)および(b−2)で得られた2種類のPCR産物(m35cF、m35cR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m35cFとm35cRを連結したPCR産物m35cpを得た。
(b−4)(b−3)で得られたPCR産物m35cpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR35cをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(b−5)(b−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(b−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR33cに対して3箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して36箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR35cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR35cを得た。
(b−7)pET−FcR35cのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR35cのアミノ酸配列を配列番号113に、前記FcR35cをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号114に示す。なお、配列番号113において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR35cのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号113において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Tyr74Pheのフェニルアラニンは90番目、Phe75Ileのイソロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Thr80Serのセリンは96番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Asp98Gluのグルタミン酸は114番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Valのバリンは135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
(c)FcR36b
実施例40で明らかとなった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Ser65Arg、Tyr74Phe、Thr80SerおよびLys(Glu)119Valを選択し、それらの置換をFcR33c(実施例36(c))に集積したFcR36bを作製した。具体的には、FcR35cをコードするポリヌクレオチド(配列番号114)に対して、Ser65Argを生じさせる変異導入を行なうことにより、FcR36bを作製した。
(c−1)(b)で作製した、pET−FcR35cを鋳型とし、配列番号3および配列番号115(5’−GGTTCCACAATGAACGCCTGATTCCCAGCC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm36bFとした。
(c−2)(b)で作製した、pET−FcR35cを鋳型とし、配列番号2および配列番号116(5’−GGCTGGGAATCAGGCGTTCATTGTGGAACC−3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。増幅したPCR産物をアガロースゲル電気泳動に供し、そのゲルからQIAquick Gel Extraction kit(キアゲン製)を用いて精製した。精製したPCR産物をm36bRとした。
(c−3)(c−1)および(c−2)で得られた2種類のPCR産物(m36bF、m36bR)を混合し、表4に示す組成の反応液を調製した。当該反応液を98℃で5分間熱処理後、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を5サイクル行なうPCRを行ない、m36bFとm36bRを連結したPCR産物m36bpを得た。
(c−4)(c−3)で得られたPCR産物m36bpを鋳型とし、配列番号2および配列番号3に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとしてPCRを行なった。PCRは、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で1分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行なった。これによりFcR36bをコードするポリヌクレオチドを作製した。
(c−5)(c−4)で得られたポリヌクレオチドを精製後、制限酵素NcoIとHindIIIで消化し、あらかじめ制限酵素NcoIとHindIIIで消化した発現ベクターpETMalE(特開2011−206046号公報)にライゲーションし、これを用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換した。
(c−6)得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養した。回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、FcR33cに対して4箇所(野生型Fc結合性タンパク質に対して37箇所)アミノ酸置換したポリペプチドである、FcR36bをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpET−FcR36bを得た。
(c−7)pET−FcR36bのヌクレオチド配列の解析を、実施例2(6)と同様の方法で行なった。
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したFcR36bのアミノ酸配列を配列番号117に、前記FcR36bをコードするポリヌクレオチドの配列を配列番号118に示す。なお、配列番号117において、1番目のメチオニン(Met)から26番目のアラニン(Ala)までがMalEシグナルペプチドであり、27番目のリジン(Lys)から32番目のメチオニン(Met)までがリンカー配列であり、33番目のグリシン(Gly)から208番目のプロリン(Pro)までがFcR36bのアミノ酸配列(配列番号1の17番目から192番目までの領域に相当)、209番目から210番目までのグリシン(Gly)がリンカー配列であり、211番目から216番目のヒスチジン(His)がタグ配列である。
また配列番号117において、Glu21Glyのグリシンは37番目、Leu23Metのメチオニンは39番目、Val27Gluのグルタミン酸は43番目、Phe29Ileのイソロイシンは45番目、Gln33Proのプロリンは49番目、Tyr35Asnのアスパラギンは51番目、Lys40Glnのグルタミンは56番目、Gln48Argのアルギニンは64番目、Tyr51Hisのヒスチジンは67番目、Glu54Aspのアスパラギン酸は70番目、Asn56Aspのアスパラギン酸は72番目、Ser65Argのアルギニンは81番目、Ser68Proのプロリンは84番目、Tyr74Pheのフェニルアラニンは90番目、Phe75Ileのイソロイシンは91番目、Ala78Serのセリンは94番目、Thr80Serのセリンは96番目、Asp82Gluのグルタミン酸は98番目、Asn92Serのセリンは108番目、Asp98Gluのグルタミン酸は114番目、Gln101Leuのロイシンは117番目、Val117Gluのグルタミン酸は133番目、Lys119Valのバリンは135番目、Glu121Glyのグリシンは137番目、Asp122Gluのグルタミン酸は138番目、Lys132Argのアルギニンは148番目、Thr140Metのメチオニンは156番目、Tyr141Pheのフェニルアラニンは157番目、Gly147Valのバリンは163番目、Tyr158Valのバリンは174番目、Lys165Gluのグルタミン酸は181番目、Phe171Serのセリンは187番目、Ser178Argのアルギニンは194番目、Thr185Alaのアラニンは201番目、Asn187Gluのグルタミン酸は203番目およびIle190Valのバリンは206番目、Gln192Proのプロリンは208番目の位置にそれぞれ存在する。
実施例42 Fc結合性タンパク質のアルカリ安定性評価
(1)実施例36(c)で作製したFc結合性タンパク質(FcR33c)、ならびに実施例41で取得したFc結合性タンパク質(FcR35b、FcR35cおよびFcR36b)を発現する形質転換体を、実施例4の(1)から(4)に記載の方法で培養し、タンパク質を抽出することでFcR33c、FcR35b、FcR35cおよびFcR36bを調製した。
(2)(1)で調製したタンパク質抽出液中のFcR33c、FcR35b、FcR35cおよびFcR36bの抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法を用いて測定した。この時、精製し定量したFcR33cを用いて検量線を作製し、濃度測定を行なった。
(3)各Fc結合性タンパク質の濃度が10μg/mLになるよう純水で希釈後、前記希釈した溶液50μLと950mMの水酸化ナトリウム溶液50μLとを混合し、30℃で1時間静置することでアルカリ処理した。その後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、Fc結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(4)に記載のELISA法によって測定した。
(4)アルカリ処理を行なった場合の抗体結合活性をアルカリ処理を行なわなかったときの抗体結合活性で除することで、残存活性を算出しアルカリ安定性を評価した。
結果を表26に示す。実施例41で作製したFcR35b、FcR35cおよびFcR36bはFcR33cと比較し残存活性が高いことから、FcR33cに比べてアルカリ安定性が向上していることが確認された。
Figure 2017118871

Claims (13)

  1. 配列番号52に記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含み、但し当該33番目から208番目までのアミノ酸残基において以下の(1)から(26)のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質。
    (1)配列番号52の34番目のメチオニンがイソロイシンに置換
    (2)配列番号52の36番目のスレオニンがセリンに置換
    (3)配列番号52の38番目のアスパラギン酸がグリシンまたはバリンに置換
    (4)配列番号52の41番目のリジンがアルギニンに置換
    (5)配列番号52の43番目のグルタミン酸がバリンに置換
    (6)配列番号52の66番目のアラニンがグルタミン酸に置換
    (7)配列番号52の75番目のグルタミンがロイシンに置換
    (8)配列番号52の80番目のグルタミン酸がグリシンに置換
    (9)配列番号52の81番目のセリンがアスパラギンまたはアルギニンに置換
    (10)配列番号52の91番目のロイシンがアルギニンまたはイソロイシンに置換
    (11)配列番号52の130番目のプロリンがロイシンに置換
    (12)配列番号52の135番目のリジンがバリンに置換
    (13)配列番号52の148番目のリジンがアルギニンに置換
    (14)配列番号52の160番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
    (15)配列番号52の167番目のフェニルアラニンがセリンに置換
    (16)配列番号52の196番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
    (17)配列番号52の200番目のグルタミン酸がグリシンに置換
    (18)配列番号52の203番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
    (19)配列番号52の45番目のイソロイシンがバリンに置換
    (20)配列番号52の72番目のアスパラギンがアスパラギン酸またはチロシンに置換
    (21)配列番号52の114番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
    (22)配列番号52の208番目のグルタミンがプロリンに置換
    (23)配列番号52の90番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
    (24)配列番号52の92番目のイソロイシンがバリンに置換
    (25)配列番号52の96番目のスレオニンがセリンに置換
    (26)配列番号52の177番目のリジンがアスパラギンに置換
  2. 配列番号63、配列番号67、配列番号71、配列番号79、配列番号83、配列番号85、配列番号89、配列番号91、配列番号95、配列番号99、配列番号109、配列番号113、配列番号117のいずれかに記載のアミノ酸配列のうち33番目から208番目までのアミノ酸残基を含む、請求項1に記載のFc結合性タンパク質。
  3. 配列番号63、配列番号67、配列番号71、配列番号79、配列番号83、配列番号85、配列番号89、配列番号91、配列番号95、配列番号99、配列番号109、配列番号113、配列番号117のいずれかに記載のアミノ酸配列からなる、請求項1又は2に記載のFc結合性タンパク質。
  4. 請求項1〜3いずれかに記載のFc結合性タンパク質において、さらに以下の(27)から(29)のうち少なくとも1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質。
    (27)配列番号52の82番目のロイシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
    (28)配列番号52の163番目のバリンがアスパラギン酸に置換
    (29)配列番号52の192番目のバリンがフェニルアラニンに置換
  5. 請求項1から4のいずれかに記載のFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤。
  6. 請求項5に記載の吸着剤に、糖鎖を有する抗体を吸着させ、次いで溶出液により当該抗体を溶出させることを特徴とする、抗体の分離方法。
  7. 請求項6に記載の方法において、抗体が有する糖鎖の違いにより溶出時間が異なる溶出液を用いて、吸着した抗体を糖鎖の違いにより順次溶出させることを特徴とする方法。
  8. 請求項6または7に記載の分離方法を用いて抗体が有する糖鎖構造の違いを識別する方法。
  9. 請求項1から4のいずれかに記載のFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
  10. 請求項9に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
  11. 請求項10に記載の発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体。
  12. 宿主が大腸菌である、請求項11に記載の形質転換体。
  13. 請求項11または12に記載の形質転換体を培養することによりFc結合性タンパク質を発現させ、その培養物から発現されたFc結合性タンパク質を回収する、Fc結合性タンパク質の製造方法。
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