JP2017112282A - 超音波センサー用の圧電デバイス - Google Patents

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Abstract

【課題】受信特性の向上化を図ることが可能な超音波センサー用の圧電デバイスを提供する。【解決手段】キャビティ(空間12)を有する基板10と、空間12の開口面を塞ぐように基板10上に設けられた振動板50と、振動板50の、空間12とは反対側の面上に設けられ、第1電極(第1電極層60)と、第1電極上に設けられた圧電体層70と、圧電体層70上に設けられた第2電極(第2電極層80)とを有する圧電素子300とを備えた圧電デバイス(超音波センサー1)であって、第2電極は、Pt層(下層側電極80a)と、Ir層(上層側電極80b)とを含む積層構造を有しており、Pt層は、圧電体層70と接しており、基板10の面と平行であり、且つ互いに直交する2つの方向をX方向及びY方向としたとき、Ir層は、XY平面視で、少なくともX方向に、キャビティの外側まで延設される。【選択図】図4

Description

本発明は、超音波センサー用の圧電デバイスに関する。
従来、圧電素子の電気機械変換特性を利用した超音波センサーがある。この超音波センサーでは、圧電素子に電気信号を供給して圧電素子を駆動することで、超音波(送信超音波)が送信される。また、測定対象物から反射された超音波(反射超音波)を圧電素子が受けることで、圧電素子が駆動して電気信号が得られる。超音波センサーを搭載する超音波デバイスでは、これらの電子信号、即ち、送信超音波や反射超音波の波形信号に基づき、測定対象物に関する情報(位置や形状等)が検出される。
この種の超音波センサーには、超音波の送信に最適化させた専用送信型、超音波の受信に最適化させた受信専用型、超音波の送信及び受信の両方に最適化させた送受信一体型等の分類がある。また、振動板の圧電素子側が超音波の通過領域となる型(所謂ACT面型)、振動板の圧電素子とは反対側が超音波の通過領域となる型(所謂CAV面型)等の分類もある。
ここで、超音波センサーの受信特性の向上化を図る場合には、高い変形効率と優れた強誘電性を得る観点から、振動板のCAV面側への初期撓みを抑制して、且つ残留分極量を増加することが求められる。即ち、引っ張り応力で、振動板の初期撓みをCAV面側ではなくACT面側にすることが望ましい。例えば、特許文献1には、上部電極にイリジウム(Ir)が使用されたCAV面型の超音波センサーが開示されている。このIrには、引っ張り応力が大きいという特性がある。かかる特性を利用して、振動板の初期撓みをCAV面側ではなくACT面側にすることが可能となる。しかしながら、電極材料としてIrを使用すると、圧電素子の残留分極量が減少して、超音波センサーの受信特性が低下してしまう可能性がある。
そこで、Irと同様に電極材料として利用され、圧電素子の残留分極量を大きく保持することが可能な白金(Pt)を適用することも考えられる。しかしながら、PtはIrよりも引っ張り応力が小さいため、振動板のCAV面側への初期撓みが大きくなる。特に、化学溶液(CSD:Chemical Solution Deposition)法により形成された圧電体層を有する圧電素子において、そのような傾向が強い。
従って、超音波センサーの電極材料としてIrを適用した場合には、Irの引っ張り応力により変形効率の向上が見込めるが、Ptを適用した場合よりも残留分極量が小さいため、結果として受信特性が低下する可能性がある。一方、電極材料としてPtを適用した場合には、Irより引っ張り応力が小さいため、高い受信特性を得ることは困難である。
特開2013−175879号公報
本発明は、このような実情に鑑みて提案されるものであり、受信特性の向上化を図ることが可能な超音波センサー用の圧電デバイスを提供することを目的とする。
上記の課題を解決する本発明の態様は、キャビティを有する基板と、前記キャビティの開口面を塞ぐように前記基板上に設けられた振動板と、前記振動板の、前記キャビティとは反対側の面上に設けられ、第1電極と、前記第1電極上に設けられた圧電体層と、前記圧電体層上に設けられた第2電極とを有する圧電素子とを備えた超音波センサー用の圧電デバイスであって、前記第2電極は、白金層と、イリジウム層とを含む積層構造を有しており、前記白金層は、前記圧電体層と接しており、前記基板の面と平行であり、且つ互いに直交する2つの方向をX方向及びY方向としたとき、前記イリジウム層は、XY平面視で、前記圧電素子及び前記キャビティを少なくともX方向に、前記キャビティの外側まで延設されていることを特徴とする超音波センサー用の圧電デバイスにある。
かかる態様によれば、白金層が圧電体層と接することで残留分極量が増加して強誘電性の向上が見込める。また、イリジウム層の引っ張り応力によって振動板のCAV面側への初期撓みを抑制して変形効率を向上させることが可能となる。従って、超音波センサー用の圧電デバイスの受信特性を向上させることができる。
前記超音波センサー用の圧電デバイスでは、前記圧電体層は、前記キャビティ内に存在し、前記白金層は、前記X方向において前記圧電体層上のみに存在してもよい。
これによれば、圧電素子において良好な界面を形成するための熱処理を行った際に、少なくとも白金電極上のイリジウム層の剥離を防ぐことができる。
ここで、前記超音波センサー用の圧電デバイスは、第2のイリジウム層が、XY平面視で、前記圧電素子及び前記キャビティをY方向に、前記キャビティの外側まで延設され、前記第2のイリジウム層は、前記圧電体層上において、前記イリジウム層と分離されていることが好ましい。
これによれば、X方向だけでなくY方向にもイリジウム層の引っ張り応力が働くため、振動板のCAV面側への初期撓みをより抑制することが可能となる。よって、超音波センサー用の圧電デバイスの受信特性をより向上させることができる。
また、前記超音波センサー用の圧電デバイスでは、前記圧電体層は、前記キャビティ内に存在し、前記第2のイリジウム層は、前記圧電体層上の両端部から前記Y方向に前記キャビティの外側まで延設され、前記圧電体層の両端部と前記第2のイリジウム層との間には、前記白金層とは分離された第2の白金層が存在してもよい。
これによれば、圧電素子の熱処理(RA(Recovery Anneal)処理)後における第2のイリジウム層の剥離を防いで、電極間の断線を防止することができる。
超音波デバイスの構成例を示す断面図。 超音波センサーの構成例を示す分解斜視図。 超音波センサーの構成例を示す平面図。 超音波センサーの構成例を示す断面図。 超音波センサーの構成例を示す断面図。 超音波センサーの製造例を示す平面図。 超音波センサーの製造例を示す断面図。 超音波センサーの製造例を示す断面図。 超音波センサーの製造例を示す平面図。 超音波センサーの製造例を示す断面図。 超音波センサーの製造例を示す断面図。 超音波センサーの製造例を示す平面図。 超音波センサーの製造例を示す断面図。 超音波センサーの製造例を示す断面図。 実施例1のP−E loopの測定結果。 実施例3のP−E loopの測定結果。 比較例2のP−E loopの測定結果。 比較例6のP−E loopの測定結果。 デバイス素子の凸撓みを示す模式図。 デバイス素子の凹撓みを示す模式図。 送受信特性の評価手法の説明図。 実施例2及び比較例3の送受信特性の測定結果。 実施例4及び比較例7の送受信特性の測定結果。 撓み形状と送受信特性の関係のシミュレーション結果。 超音波診断装置の一例を示す斜視図。 超音波プローブの一例を示す正面図。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更可能である。なお、各図において同じ符号を付したものは同一の部材を示しており、適宜説明が省略されている。また、図2〜図14において、X,Y及びZは、互いに直交する3つの空間軸を表している。本明細書では、これらの軸に沿った方向をそれぞれ第1の方向X(X方向)、第2の方向Y(Y方向)及び第3の方向Z(Z方向)として説明する。X方向及びY方向は、板、層及び膜の面内方向を表し、Z方向は、板、層及び膜の厚み方向又は積層方向を表す。
(実施形態1)
(超音波デバイス)
図1は、超音波センサーを搭載した超音波デバイスの構成例を示す断面図である。図示するように、超音波プローブIは、CAV面型の超音波センサー1、超音波センサー1に接続されたフレキシブルプリント基板(FPC基板2)、装置端末(不図示)から引き出されたケーブル3、FPC基板2及びケーブル3を中継ぎする中継基板4、超音波センサー1、FPC基板2及び中継基板4を保護する筐体5、筐体5及び超音波センサー1の間に充填された耐水性樹脂6等を具備して構成されている。
超音波センサー1からは、超音波が送信される。また、測定対象物から反射された超音波が、超音波センサー1によって受信される。これらの超音波の波形信号に基づき、超音波プローブIの装置端末において、測定対象物に関する情報(位置や形状等)が検出される。
超音波センサー1によれば、後述するように、構造の歪みが生じることを抑制でき、高い信頼性を確保できる。従って、超音波センサー1を搭載することで、各種特性に優れた超音波デバイスとなる。本発明は、超音波の送信に最適化された送信専用型、超音波の受信に最適化された受信専用型、超音波の送信及び受信に最適化された送受信一体型等の何れの超音波センサーにも適用できる。超音波センサー1を搭載可能な超音波デバイスは、超音波プローブIに限定されない。
(超音波センサー)
次に、超音波センサー1の構成例について説明する。図2は、超音波センサーの分解斜視図である。図3は、超音波センサーの基板の平面図である。図4は、図3のA−A´線断面図である。図5は、図3のB−B´線断面図である。
図1及び図2に示すように、超音波センサー1は、超音波センサー素子310と、音響整合層13と、レンズ部材20と、包囲板40とを含んで構成されている。超音波センサー素子310は、基板10と、振動板50と、圧電素子300とを含んで構成されている。超音波センサー素子310に、包囲板40に加え、音響整合層13及びレンズ部材20が設けられることで、超音波センサー1となる。図2において、包囲板40と支持部材41とが別体に示されているが、実際には両者は一体的に構成されている。
基板10には、複数の隔壁11が形成されている。複数の隔壁11によって、複数の空間12が区画されている。基板10は、Si単結晶基板を用いることができる。基板10は、前記の例に限定されず、SOI基板やガラス基板等を用いてもよい。
空間12は、Z方向に基板10を貫通するように形成されている。空間12は、二次元状、即ち、X方向に複数且つY方向に複数形成されている。X方向をスキャン方向とし、Y方向をスライス方向としたとき、超音波センサー1は、スキャン方向にスキャンしながら、スライス方向に延びる列毎に超音波の送受信を行う。これにより、スライス方向のセンシング情報を、スキャン方向に連続して取得することができる。空間12は、Z方向から見たときに正方形状(X方向とY方向との長さの比が1:1)である。
空間12の配列や形状は、種々に変形が可能である。例えば、空間12は、一次元状、即ち、X方向及びY方向の何れか一方の方向に沿って複数形成されてもよい。また、空間12は、Z方向から見たときに長方形状(X方向とY方向との長さの比が1:1以外)であってもよい。
振動板50は、空間12を塞ぐように基板10上に設けられている。以降、振動板50の基板10側の面を第1面50aと称し、第1面50aに対向する面を第2面50bと称する。振動板50は、基板10上に形成された弾性膜51と、弾性膜51上に形成された絶縁体層52によって構成されている。この場合、弾性膜51によって第1面50aが構成され、絶縁体層52によって第2面50bが構成される。
弾性膜51は、二酸化シリコン(SiO)等からなり、絶縁体層52は、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなる。弾性膜51は、基板10と別部材でなくてもよい。例えば、基板10の一部を薄く加工し、これを弾性膜51として使用してもよい。振動板50と基板10とを合わせた厚みは約50μmであるが、前記の値に限定されない。振動板50と基板10とを合わせた厚みは、可撓性や強度等を考慮して適宜選択可能である。
振動板50の第2面50b側のうち空間12に対応する部分には、超音波を発信及び/又は受信する圧電素子300が設けられている。ここで、振動板50の第2面50b側のうち空間12に対応する部分を可動部と称する。可動部は、圧電素子300の変位によって振動が生じる部分である。可動部に生じる振動に応じて、超音波センサー1から超音波が送信及び/又は受信される。
音響整合層13は、空間12内に設けられている。音響整合層13が設けられることで、圧電素子300及び測定対象物の間で音響インピーダンスが急激に変化することを防止でき、その結果、超音波の伝播効率が低下することを防止できる。音響整合層13は、例えばシリコーン樹脂から構成できるが、前記の例に限定されず、超音波センサーの用途等に応じた材料を適宜選択して用いることができる。
レンズ部材20は、基板10の振動板50とは反対側に設けられている。レンズ部材20は、超音波を収束させる役割を有している。超音波を電子フォーカス法で収束させる場合等に、レンズ部材20は省略可能である。ここでは、音響整合層13が、レンズ部材20と基板10との接着機能も有している。レンズ部材20と基板10(隔壁11)との間に音響整合層13を介在させ、超音波センサー1が構成されている。
レンズ部材20を超音波センサー素子310に実装する際や、レンズ部材20の実装後にレンズ部材20の密着性を確保する際に、レンズ部材20を音響整合層13側に押圧することがある。レンズ部材20を具備していない場合や、レンズ部材の代わりに他の部材を設けた場合にも、各部の密着性を確保するため、音響整合層13側から振動板50に押圧力を付すこともある。超音波センサー1では、支持部材41を具備して構成されているため、上記の通り、所定の外圧が振動板50に加わったとしても、構造歪みが生じることを抑制でき、高い信頼性を確保できる。
超音波センサー1では、振動板50の圧電素子300とは反対側が超音波の通過領域となるCAV面型に構成されている。これによれば、外部からの水分が圧電素子300に極めて到達し難い構成を実現できるため、使用時の電気的安全性に優れる超音波センサー1となる。しかも、圧電素子300と振動板50が薄膜である場合には、振動板50よりも十分厚みのある包囲板40の縁部40aと支持部材41が、圧電素子300を囲むように、振動板50と接合又は接着される。そのため、製造時のハンドリング性も向上させることができ、超音波センサー1の取り扱いが容易となる。
図3〜図5に示すように、圧電素子300は、第1電極層60と、圧電体層70と、第2電極層80とを含んで構成されている。各層の厚みは特に限定されず、適用する超音波センサー1に応じて適宜選択可能である。
第1電極層60は、Y方向に延設され、第2電極層80は、複数の圧電素子300に亘ってX方向に延設されている。これにより、圧電素子300は、第1電極層60の列毎に、また、第2電極層80の列毎に選択可能となり、上述したスキャン方向(X方向)にスキャンしながら、スライス方向(Y方向)に延びる列毎に超音波の送受信を行う。ここで、圧電素子300のうち、第1電極層60と第2電極層80とがZ方向で重なった部分を能動部と称する。能動部は、選択された第1電極層60と第2電極層80による電圧の印加により駆動される領域であり、上述した可動部内存在する。
また、本実施形態では、圧電体層70の変位によって、少なくとも振動板50及び第1電極層60が変位する。即ち、本実施形態では、少なくとも振動板50及び第1電極層60が、実質的に振動板としての機能を有している。ただし、弾性膜51及び絶縁体層52の何れか一方、又は両方を設けずに、第1電極層60のみが振動板として機能するようにしてもよい。基板10上に第1電極層60を直接設ける場合には、第1電極層60を絶縁性の保護膜等で保護することが好ましい。
圧電素子300を構成する圧電体層70は、Z方向から見たとき、空間12の内側の領域にある。即ち、圧電体層70のX方向及びY方向は、何れも空間12より短い。ただし、圧電体層70のX方向が空間12より長い場合や、圧電体層70のY方向が空間12より長い場合も、本発明に含まれる。圧電体層70のX方向及びY方向に基づき、X方向及びY方向が適宜変更された空間12も許容される。
図2〜図5に示すように、振動板50の第2面50b側には、包囲板40が設けられている。包囲板40の中央には凹部(圧電素子保持部32)が形成され、この圧電素子保持部32の周囲は、包囲板40の縁部40a及び面40bで囲われる。圧電素子保持部32によって、圧電素子300の周囲の領域(圧電素子300の上面及び側面を含む領域)が覆われる。従って、圧電素子300の上面は包囲板40の面40bで覆われ、側面は縁部40aで覆われることになる。
包囲板40は、縁部40aにおいて超音波センサー素子310側に接合されている。包囲板40の接合は、接着剤(不図示)を用いることができるが、前記の例に限定されない。圧電素子保持部32のZ方向の長さは、約80μmであるが、前記の値に限定されない。圧電素子保持部32の長さは、圧電素子300の駆動を阻害しない程度のスペースが確保される値であればよい。また、圧電素子保持部32は、空気で満たされていてもよく、樹脂で満たされていてもよい。包囲板40の厚さは、約400μmであるが、前記の値に限定されない。
超音波センサー1には、包囲板40の圧電素子300側の面40bと振動板50の第2面50bとの間に、支持部材41が設けられており、この支持部材41により振動板50を支持できる。このため、例えば、基板10にレンズ部材20を実装する際や、基板10とレンズ部材20の密着性を確保する際に、音響整合層13側から所定の圧力が振動板50に加わったとしても、振動板50が圧電素子保持部32内に大きく撓むことが防止される。よって、構造歪みが生じることを抑制でき、高い信頼性を確保できる。
更に、支持部材41は、圧電素子300と重ならない位置に設けられている。このため、圧電素子300が支持部材41によって過度に拘束されることが回避される。よって、支持部材41を設けていない場合と比べ、超音波の送信効率や受信効率が過度に低下することも防止される。
圧電素子300と重ならない位置とは、Z方向から見たとき、上記の能動部(第1電極層60と第2電極層80とで挟まれた部分)に重ならない位置である。特に、超音波センサー1では、隔壁11よりも狭い幅を有している支持部材41が、Y方向の隣り合う空間12の間に設けられている。つまり、Z方向から見たとき、支持部材41が、上記の可動部(振動板50の第2面50b側のうち空間12に対応する部分)にすら重なっていない。このため、支持部材41を設けていない場合と比べ、超音波の送信効率や受信効率が過度に低下することが確実に防止される。支持部材41は、接着剤(不図示)により超音波センサー素子310側に接合されているが、接合の手法は前記の例に限定されない。
支持部材41は、X方向に沿って延びる梁形状を有している。これによれば、X方向に亘る広い範囲で振動板50を支持できる。梁形状の支持部材41は、X方向ではなく、Y方向に沿って延在していてもよい。梁形状の支持部材41は、延在する片方の端部が、包囲板40の縁部40aから離れていてもよい。延在方向の少なくとも片方の端部が包囲板40の縁部40aに接していれば、梁形状の支持部材41に含まれる。
梁形状の支持部材41は、包囲板40をウェットエッチングすることで作製されたものである。このように、支持部材41は、包囲板40の構成材料を活かして作製されており、包囲板40と同一の構成を有している。ウェットエッチングは、例えばドライエッチングに比べ、加工精度は劣るものの、短時間で多くの領域を削ることができるため、梁形状の支持部材41を作製するのには好適な手法である。
圧電素子保持部32の中心部分は、包囲板40の縁部40aから比較的離れている。従って、振動板50において、圧電素子保持部32の中心部分に対応する中心箇所Cでは、支持部材41がない場合に剛性が低くなりやすい。そこで、支持部材41は、そのような振動板50の中心箇所Cを支持するように、圧電素子保持部32の中心部分に設けられている。これにより、より高い信頼性を確保できる。
本発明において、支持部材41の数、配置、形状等は種々に選択が可能である。例えば、支持部材41は複数であってもよい。その場合、支持部材41は、圧電素子保持部32内に、等間隔に設けられることが好ましい。これによれば、振動板50を万遍なく支持できる。従って、振動板50の数は、3つ以上の奇数であることが好ましい。これは、圧電素子保持部32内に支持部材41を等間隔に設けたとき、その中央の支持部材41が、振動板50の中心箇所Cの近傍に位置し得るためである。例えば、支持部材41の数は、3つ程度であるとバランスがよい。
支持部材41は、梁形状を有していなくてもよい。振動板50の中心箇所Cからずれた部分のみに設けられてもよい。支持部材41は、支持部材41は、延在方向に直線状でなくてもよい。支持部材41の作製手法によっては、支持部材41のXY平面の断面積がZ方向に応じて異なる態様となる場合がある。
圧電体層70は、空間12毎にパターニングして構成され、上記の第1電極層60及び第2電極層80に挟持されている。圧電体層70は、例えばABO型ペロブスカイト構造を有する複合酸化物を含んで構成されている。ABO型ペロブスカイト構造のAサイトは、酸素が12配位しており、また、Bサイトは酸素が6配位して8面体(オクタヘドロン)をつくっている。
圧電体層70を構成する複合酸化物としては、圧電特性が比較的高く、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)及びチタン(Ti)を含むPZT系の複合酸化物が挙げられる。PZT系の複合酸化物を用いることで、圧電素子300の変位の向上を図りやすくなる。また、この他に、鉛、マグネシウム(Mg)、ニオブ(Nb)及びチタンを含むPMN−PT系の複合酸化物等も適用できる。
また、圧電体層70を構成する複合酸化物として、鉛の含有量を抑えた非鉛系材料を用いることもできる。非鉛系材料としては、例えば、ビスマス(Bi)及び鉄(Fe)を含むBFO系の複合酸化物、ビスマス、バリウム(Ba)、鉄及びチタンを含むBF−BT系の複合酸化物、ビスマス、鉄、マンガン(Mn)、バリウム及びチタンを含むBFM−BT系の複合酸化物、カリウム(K)、ナトリウム(Na)及びニオブを含むKNN系の複合酸化物等が挙げられる。非鉛系材料を用いることで、圧電体層70の鉛含有量を抑えることができるため、環境への負荷が少ない超音波センサー1を構成できる。
これらの複合酸化物には、他の元素が含まれていてもよい。他の元素としては、圧電体層70のAサイトの一部と置換されるリチウム(Li)、ビスマス、バリウム、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)等や、圧電体層70のBサイトの一部と置換されるマンガン、亜鉛(Zn)、ジルコニウム、マグネシウム、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、チタン、ジルコニウム等が挙げられる。
また、ABO型ペロブスカイト構造を有する複合酸化物には、欠損や過剰により化学量論の組成からずれたものや、元素の一部が他の元素に置換されたものも含まれる。即ち、ペロブスカイト構造を取り得る限りにおいて、格子不整合、酸素欠損等による不可避な組成のずれは勿論、元素の一部置換等も許容される。
圧電体層70は、複数の複合酸化物や他の材料からなる積層構造を有していてもよい。例えば、最上層及び最下層に、Ti層等の密着層を設けて圧電体層70としてもよい。或いは、複合酸化物からなる下地層とメイン層とをそれぞれ設け、これらの層間に、例えば、結晶の配向性を向上させるための制御層が設けられてもよい。このような制御層は、例えば、酸化チタン(TiO)層等から構成できる。勿論、下地層やメイン層の最上層及び最下層に、それぞれ密着層を設けてもよい。
第1電極層60の材料は、導電性を有する材料であれば制限されない。第1電極層60の材料としては、金属材料、酸化スズ系導電材料、酸化亜鉛系導電材料、酸化物導電材料等が挙げられる。金属材料は、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、ステンレス鋼等である。酸化スズ系導電材料は、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等である。酸化物導電材料は、酸化亜鉛系導電材料、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)、ニッケル酸ランタン(LaNiO)、元素ドープチタン酸ストロンチウム等である。第1電極層60の材料は、導電性ポリマー等でもよい。また、第1電極層60は、複数の材料からなる積層構造を有していてもよい。例えば、最上層及び最下層に、Ti層等の密着層を設けて第1電極層60としてもよい。なお、圧電素子300と振動板50の間に設けられる最下層に密着層を設ける場合には、上記材料に限定されず、酸化チタン(TiOや窒化シリコン(SiN)等の材料を用いてもよい。
本発明では、第2電極層80は、白金(Pt)からなる下層側電極80aと、イリジウム(Ir)からなる上層側電極80bとを含む積層構造を有している。つまり、Ptからなる下層側電極80aが圧電体層70と接している。これにより、圧電体層70の残留分極量が増加して、強誘電性の向上が見込めるようになる。その結果、Ptからなる下層側電極80aが圧電体層70と接した圧電素子300を適用した超音波センサー1は、優れた受信特性を得ることが可能となる。
ここで、下層側電極80aは、圧電体層70上に存在し(図5参照)、上層側電極80bは、下層側電極80a上から圧電体層70の側面を覆い、各圧電体層70間の振動板50を構成する絶縁体層52上に連続的に設けられ、X方向に延設されている(図5参照)。なお、下層側電極80aは、X方向に連続的に設けてもよい。
また、下層側電極80a及び上層側電極80bは、図4に図示するように、Y方向においては、圧電体層70の中央部のみに設けられている。即ち、圧電体層70上の上層側電極80bは、下層側電極80aを介して形成されている。
これにより、詳細は後述するが、圧電素子300において良好な界面を形成するための熱処理を行った際に、少なくともPtからなる下層側電極80a上のIrからなる上層側電極80bの剥離を防ぐことができる。
更に、各圧電体層70のY方向の両端部上には、下層側電極80a及び上層側電極80bと同一の層で構成されるPt層81a及びIr層81bが設けられ、Ir層81bのみ、圧電体層70の側面を覆って圧電体層70間の第1電極層60上に延設され、隣接する圧電体層70の端部まで延びている。
このようなPt層81a及びIr層81bは、下層側電極80a及び上層側電極80bと同時に形成され、パターニングによって分離されたものである。即ち、かかるパターニングにより、Pt層81a及びIr層81bは、下層側電極80a及び上層側電極80bのY方向の両側端部から、間隔Lだけ離間している。この間隔Lは、約5μm程度であるが、これに限定されない。なお、Ir層81bは、必ずしも設けなくてもよい。
即ち、図3に示すように、第2電極層80のうち、少なくともIrからなる上層側電極80bは、少なくともX方向に圧電素子300及び空間12(キャビティ)の外側まで延設された形状にパターニングして構成されている。かかる構成により、Irからなる上層側電極80bの引っ張り応力によって振動板50のCAV面側への初期撓みを抑制して変形効率を向上させることができ、圧電素子300を適用した超音波センサー1は、優れた受信特性を得ることが可能となる。
また、変形効率の更なる向上化の観点から、Ir層81bは、Y方向に圧電素子300及び空間12の外側まで延設され、圧電体層70上において、その一部が上層側電極80bと分離された形状にパターニングして構成されていることが好ましい。即ち、X方向に圧電素子300及び空間12の外側まで延設された上層側電極80bの引っ張り応力に、Y方向に圧電素子300及び空間12の外側まで延設されたIr層81bの引っ張り応力が加わることになる。かかる構成により、圧電素子300に対し、X方向だけでなくY方向にもIrの引っ張り応力が働くため、振動板50のCAV面側への初期撓みをより抑制することができる。
なお、上述した通り、圧電体層70の両端部とIr層81bとの間には、下層側電極80aとは分離されたPt層81aが存在する。かかる構成により、後述する圧電素子300の熱処理(RA(Recovery Anneal)処理)後におけるIr層81bの剥離を防いで、電極間の断線を防止することができる。
下層側電極80aと上層側電極80bの層間には、上述の導電性を有する材料からなる他の層が設けられてもよい。積層構造の上層側電極80bを形成する場合には、上述の第1電極層60と同様にして、最上層及び最下層に、Ti層等の密着層を設けて上層側電極80bとしてもよい。なお、上層側電極80bの最上層に設けられる密着層は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、ニッケル−クロム(Ni−Cr)、チタン−タングステン(Ti−W)等による引き回し配線を重ねるために設けられる。また、当該配線をめっきで形成する場合には、密着層の替わりにパラジウム(Pd)等のシード層が形成されてもよい。或いは、酸化アルミニウム(Al)、酸化タンタル(Ta)、二酸化シリコン(SiO)等の保護膜が設けられてもよい。
本実施形態では、後述するRA処理を行う観点から、圧電体層70と第2電極層80の層間に、他の層が介在しないことが望ましい。ただし、RA処理の影響を受けない程度であれば、部分的な他の層の介在は許容される。他の層としては、金(Au)、銀(Ag)、チタン(Ti)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)等の金属層;ニッケル−クロム(Ni−Cr)、チタン−タングステン(Ti−W)等の合金層;ニッケル酸ランタン(LaNiO;LNO)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO;SRO)等の導電性酸化物層等が挙げられる。
(製造方法)
次に、超音波センサー1の製造方法の一例を説明する。図6〜図14は、主に超音波センサー素子側の製造方法の工程を示している。図6、図9及び図12は、超音波センサー素子をZ方向から見た平面図である。図7は図6のC−C′線断面図であり、図8は図6のD−D′線断面図である。図10は図9のE−E′線断面図であり、図11は図9のF−F′線断面図である。図13は図12のG−G′線断面図であり、図14は図12のH−H′線断面図である。
まず、図6〜図8に示すように、シリコン製の基板10(以下、「ウェハー110」という。)の表面に、熱酸化等によって二酸化シリコン(SiO)からなる弾性膜51を形成する。その後、弾性膜51上にスパッタリング法等にてジルコニウム(Zr)を成膜し、熱酸化等によって酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体層52を形成して振動板50とする。そして、絶縁体層52上に、第1電極層60をスパッタリング法や蒸着法等で形成する。このとき、同種又は異種の電極層からなる積層構造を有する第1電極層60を形成してもよい。
次いで、図9〜図11に示すように、第1電極層60上に圧電体層70を形成し、これらを所定形状にパターニングする。圧電体層70は、例えば金属錯体を溶媒に溶解・分散した溶液を塗布乾燥し、更に高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電材料を得る、化学溶液法(CSD(Chemical Solution Deposition)法)を用いて形成できる。CSD法に限定されず、例えば、ゾル−ゲル法や、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、パルス・レーザー・デポジション法(PLD法)、CVD法、エアロゾル・デポジション法等を用いてもよい。
圧電体層70をCSD法で形成する場合の具体的な形成手順例は、以下の通りである。即ち、金属錯体を含むMOD(Metal−Organic Decomposition)溶液やゾルからなり、圧電体層70を形成するための前駆体溶液を作成する。そして、この前駆体溶液を、第1電極層60上に、スピンコート法等を用いて塗布して前駆体膜(不図示)を形成する(塗布工程)。この前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間乾燥させ(乾燥工程)、更に乾燥した前駆体膜を所定温度に加熱して一定時間保持することによって脱脂する(脱脂工程)。前駆体膜を所定温度に加熱して保持することによって結晶化させ、圧電体層70を形成する(焼成工程)。CSD法によって形成された圧電体層70は、塗布工程から焼成工程までの一連の工程によって形成された圧電体膜を複数有する。即ち、圧電体層70は、塗布工程から焼成工程までの一連の工程を複数回繰り返すことによって形成される。なお、塗布工程から焼成工程までの一連の工程において、塗布工程から脱脂工程までを複数回繰り返した後に、焼成工程を実施してもよい。
CSD法によって形成された層や膜は、界面を有する。CSD法によって形成された層や膜には、塗布又は焼成の形跡が残り、このような形跡は、その断面を観察したり、層内(或いは膜内)における元素の濃度分布を解析したりすることによって確認可能な「界面」となる。「界面」とは、厳密には層間或いは膜間の境界を意味するが、ここでは、層或いは膜の境界付近を意味するものとする。湿式法によって形成された層や膜の断面を観察した場合、このような界面は、隣の層や膜との境界付近に、他よりも色が濃い部分、あるいは他よりも色が薄い部分として確認される。また、元素の濃度分布を解析した場合、このような界面は、隣の層や膜との境界付近に、他よりも元素の濃度が高い部分、或いは他よりも元素の濃度が低い部分として確認される。圧電体層70は、塗布工程や焼成工程を複数繰り返して形成される(複数の圧電体膜によって構成される)ため、各圧電体膜に対応して、複数の界面を有することとなる。
なお、この工程では、同種又は異種の電極層からなる積層構造を有する圧電体層70を形成することもできる。例えば、圧電体の下地層上に、高配向化を図る観点から制御層を形成し、更に圧電体のメイン層を形成して圧電体層70を作製してもよいし、圧電体層70の最下層及び最上層に密着層をそれぞれ設けてもよい。
次いで、振動板50及び圧電体層70上に下層側電極80aを構成するPt層82aを形成し、熱処理(RA(Recovery Anneal)処理)を施した後に、圧電体層70及びPt層82aを圧電素子300(図3参照)毎にパターニングする。Pt層82aは、スパッタリング法や蒸着法等で形成する。また、RA処理は、赤外線ランプの照射により加熱するRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を用いる。ここで、Pt層82aは、高い化学安定性と熱処理により酸化物を生じない電極材料、即ち白金(Pt)により形成されている。このため、RA処理による電気抵抗率の上昇を防止しつつ、後述する上層側電極80b(図13,14参照)との良好な界面を形成することができる。
また、Pt層82aからなる下層側電極80aは、RA処理によって電気特性が損なわれないことから、圧電体層70の残留分極量が増加して強誘電性が向上する。その結果、Pt層82aからなる下層側電極80aが圧電体層70と接した圧電素子300を超音波センサー1に適用した場合において、優れた受信特性を得ることができる。
次いで、図12〜図14に示すように、振動板50、第1電極層60及び下層側電極80a上に、上層側電極80bを構成するIr層82bをスパッタリング法や蒸着法等で形成する。その後、Ir層82bを、X方向に圧電素子300及び空間12(キャビティ)の外側まで延設した形状にパターニングし、上層側電極80bとする。また、図14に示すように、圧電体層70上において、Y方向においては上層側電極80bと分離され、圧電体層70の両端部から圧電体層70の側面を覆い、圧電体層70の間に延設されるIr層81bをパターニングする。第2電極層80と、Pt層81a及びIr層81bとの間隔Lの部分はPt層82aが切断され、圧電体層70の両端部上にPt層81aが残る。
ここで、上層側電極80bは、電気抵抗率が低く、受信特性を向上させるための引っ張り応力を有する電極材料、即ちイリジウム(Ir)により形成されている。例えばIrは、RA処理により酸化イリジウム(IrO)が生じて電気抵抗率が上昇し、下層側電極80aであるPt界面における密着性が低下して電極の剥離が発生するが、下層側電極80aの形成後であって上層側電極80bの形成前にRA処理を行うことによって、これらの問題を解決することができる。
また、一方の圧電体層70の端部からY方向に他方の圧電体層70の端部にIr層81bを設けたので、Ir層81bによって振動板50のCAV面側への初期撓みを抑制して変形効率を向上させることができる。その結果、かかる構成の圧電素子300を超音波センサー1に適用することにより、優れた受信特性を得ることが可能となる。
更に、図13及び図14に示すように、ウェハー110の圧電素子300とは反対側の表面にレジスト(不図示)を設け、このレジストを所定形状にパターニングしてマスク膜(不図示)を形成する。そして、このマスク膜を介して、ウェハー110を、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)する。これにより、基板10(ウェハー110)の圧電素子300に対向する領域に空間12を形成する。
また、ウェハー140(包囲板40)の表面にレジスト(不図示)を設け、このレジストを所定形状にパターニングしてマスク膜(不図示)を形成する。ここでは、図2に示すように、ウェハー140の縁部40aにマスク膜(不図示)を形成するとともに、このマスク膜から連続してX方向に延びるマスク膜(不図示)を形成している。そして、これらのマスク膜を介して、ウェハー140を、KOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)する。これにより、支持部材41及び圧電素子保持部32が形成された包囲板40が作製される。なお、ウェットエッチングは、例えばドライエッチングに比べ、加工精度は劣るものの、短時間で多くの領域を削ることができる。
その後は、各部材を順次設けて、図2に示す超音波センサー1を作製する。即ち、包囲板40及び支持部材41を、支持部材41が圧電素子300と重ならないように、接着剤(不図示)により、超音波センサー素子310と接合する。そして、空間12内に音響整合層13を設けてレンズ部材20を接合する。音響整合層13及びレンズ部材20を接合した後に、包囲板40及び支持部材41を超音波センサー素子310に接合してもよい。
以下、実施例を示し、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<PZT前駆体溶液の調製>
容器に酢酸及び水を量り取り、次いで酢酸鉛、ジルコニウムブトキシド、チタニウムテトラ−i−プロポキシド、及びポリエチレングリコールを量り取って、これらを90℃で加熱撹拌を行うことでPZT前駆体溶液を作製した。
<振動板の作製>
6inchシリコン基板(ウェハー110)を熱酸化することで、当該基板上に二酸化シリコン膜(弾性膜51)を形成した。次に、スパッタリング法にてジルコニウム膜を形成し、熱酸化させることで酸化ジルコニウム膜(絶縁体層52)を得た。これらの工程により、二酸化シリコン膜と酸化ジルコニウム膜を含む振動板50を作製した。
<第1電極層の作製>
上記の振動板50上(酸化ジルコニウム膜(絶縁体層52)上)に、スパッタリング法にてチタン層、白金層、イリジウム層、及びチタン層の順番で形成し、第1電極層60を作製した。なお、実施例1では、層間又は膜間の密着性を高めるための密着層としてチタン層を形成した。
<圧電体層(下地層)の作製>
第1電極層60上に、上記のPZT前駆体溶液をスピンコート法で塗布した後、140℃及び370℃で乾燥/脱脂を行って脱脂膜を作製した。この脱脂膜に対しRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を使用し737℃で加熱処理を行ってPZTからなる圧電体層(下地層)を作製した。
<第1電極層及び圧電体層(下地層)のパターニング>
上記の圧電体層(下地層)上に、フォトリソグラフィーにより所定形状のレジストパターンを形成し、ドライエッチングにより第1電極層60及び圧電体層(下地層)をパターニングした。
<制御層の作製>
パターニング後の圧電体層(下地層)及び振動板50上に、スパッタリング法にて4nmのチタン層を形成した。なお、このチタン層は、後述する圧電体層(メイン層)の結晶の配向性を向上させるための制御層である。
<圧電体層(メイン層)の作製>
圧電体層(下地層)と同様の条件で塗布/乾燥/脱脂を2回行い、圧電体層(下地層)と同様の条件でRTA装置による加熱処理を行った。これらの操作を4回繰り返して行うことで、制御層であるチタン層上に圧電体層(メイン層)を形成した。これにより、実施例1では、圧電体層(下地層)、チタン層及び圧電体層(メイン層)を含む圧電体層70を得た。
<下層側電極の作製>
上記の圧電体層70上(圧電体層(メイン層)上)に、スパッタリング法にて20nmの白金層(下層側電極80a)を形成した。次に、RTA装置を使用して600℃、5分間のRA(Recovery Anneal)処理を行った。
<チタン層、圧電体層(メイン層)及び下層側電極のパターニング>
上記の白金層(下層側電極80a)上に、フォトリソグラフィーにより所定形状のレジストパターンを形成し、ドライエッチングによりチタン層、圧電体層(メイン層)及び白金層をパターニングした。
<上層側電極の作製>
パターニング後の白金層(下層側電極80a)上に、スパッタリング法にて30nmのイリジウム層(上層側電極80b)を形成した。次に、イリジウム層上に、スパッタリング法にて15nmのチタン層を形成した。これにより、実施例1では、白金層、チタン層及びイリジウム層を含む第2電極層80を得た。なお、このチタン層は、金等による引き回し配線を重ねるための密着層である。
<上層側電極及びチタン層のパターニング>
上記のチタン層上に、フォトリソグラフィーにより所定形状のレジストパターンを形成し、ドライエッチングによりイリジウム層(上層側電極80b)及びチタン層をパターニングした。
実施例1では、以上の工程により、第1電極層60と、圧電体層70と、白金層(下層側電極80a)及びイリジウム層(上層側電極80b)を含む第2電極層80とを備えた圧電素子300が完成した。
<CAV構造の形成>
シリコン基板(ウェハー110)の振動板50を挟んで圧電素子300とは反対側の面上に形成された二酸化シリコン膜を、研削処理によって除去するとともに、基板厚みが400μmとなるように基板を研削研磨した。次に、研削した面に所定形状のクロム(Cr)膜を形成することで、Crハードマスクを作製した。次に、圧電素子300を防水した状態で、KOHを含むエッチング液に基板を浸漬することで、シリコン基板の振動板50を挟んで圧電素子300とは反対側の面に、所定形状のキャビティ(CAV)を形成した。
実施例1では、以上の工程により、第1電極層60と、圧電体層70と、白金層(下層側電極80a)及びイリジウム層(上層側電極80b)を含む第2電極層80とを備えた圧電素子300を有し、更にCAVが形成されたデバイス素子Aを得た。ここでは、デバイス素子Aのデバイス構造を「a」とし、デバイス構造aにおける能動部(第1電極層60と第2電極層80とで挟まれた部分)のアスペクト比(X方向とY方向との比)を1:25とした。
(実施例2)
実施例2では、実施例1とは異なるパターニング形状により、第1電極層60、圧電体層70及び第2電極層80のパターニングを行い、第1電極層60と、圧電体層70と、白金層(下層側電極80a)及びイリジウム層(上層側電極80b)を含む第2電極層80とを備えた圧電素子300が完成した。
その後、シリコン基板(ウェハー110)の振動板50を挟んで圧電素子300とは反対側の面上に形成された二酸化シリコン膜を、研削処理により除去するとともに、シリコン基板のSiを150μmまで研削し、ドライエッチングにより所定形状のキャビティ(CAV)を形成した。次に、CAVを覆うように、研削した面上に接着剤にて金属のバックプレートを接着した。次に、シリコン基板の振動板50側の面上に、音響整合層13を介してレンズ部材20を接合した。次に、フレキシブルケーブルによって、基板上の端子(第1電極層60及び第2電極層80)と、制御回路が設けられた外部回路基板上の端子とを接続し、更にプラスチックケースで防水パッケージすることで、デバイス素子Bを得た。ここでは、デバイス素子Bのデバイス構造を「b」とし、デバイス構造bにおける能動部(第1電極層60と第2電極層80とで挟まれた部分)のアスペクト比(X方向とY方向との比)を1:2とした。
(比較例1)
比較例1では、第2電極層80における下層側電極80aを20nmのPt層とし、上層側電極80bを40nmとした以外は、実施例1と同様にしてデバイス素子を作製した。
(比較例2)
比較例2では、第2電極層80における下層側電極80aを4nmのIr層上に5nmTi層を形成した電極層とし、740℃、7分間のRA処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてデバイス素子を作製した。
(比較例3)
比較例3では、第2電極層80における下層側電極80aを4nmのIr層上に5nmTi層を形成した電極層とし、740℃、7分間のRA処理を行ったこと以外は、実施例2と同様にしてデバイス素子を作製した。
(比較例4)
比較例4では、第2電極層80における下層側電極80aを4nmのIr層上に5nmTi層を形成し、740℃、7分間のRA処理を行った電極層としたこと、及び上層側電極80bを20nmのPt層としたこと以外は、実施例1と同様にしてデバイス素子を作製した。
(実施例3)
実施例3では、PZT前駆体溶液に替えてPMN−PT前駆体溶液を用いたこと、及び圧電体層の作製条件が異なること以外は実施例1と同様にしてデバイス素子を作製した。つまり、実施例3のデバイス素子は、圧電体層70におけるメイン層がPMN−PTからなり、デバイス構造aを有するものである。
<PMN−PT前駆体溶液の調製>
PMN−PT前駆体溶液は、次の通りに作製した。まず、容器に2−ブトキシエタノールとジメチルアミノエタノールを量り取り混合溶液を作製した。次に、乾燥窒素を充填したグローブボックス中でチタニウムテトラ−i−プロポキシドとニオブペンタ−n−ブトキシドとを量り取り、上記の混合溶液に混合した。その後、室温にて十分撹拌した後に、大気下で酢酸マグネシウム及び酢酸鉛をそれぞれ量り取り、室温にて混合/撹拌を行うことで、PMN−PT前駆体溶液を作製した。
<圧電体層(下地層A)の作製>
第1電極層60上に、上記のPZT前駆体溶液をスピンコート法で塗布した後、140℃及び370℃で乾燥/脱脂を行うことで脱脂膜を作製した。この脱脂膜に対しRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を使用し737℃で加熱処理を行うことで、PZTからなる圧電体層(下地層A)を作製した。
<第1電極層及び圧電体層(下地層A)のパターニング>
上記の圧電体層(下地層A)上に、フォトリソグラフィーにより所定形状のレジストパターンを形成し、ドライエッチングにより第1電極層60及び圧電体層(下地層A)をパターニングした。
<制御層の作製>
パターニング後の圧電体層(下地層A)及び振動板50上に、スパッタリング法にて4nmのチタン層を形成した。なお、このチタン層は、後述する圧電体層(メイン層)の結晶の配向性を向上させるための制御層である。
<圧電体層(下地層B)の作製>
圧電体層(下地層A)と同様の条件で塗布/乾燥/脱脂を行い、圧電体層(下地層A)と同様の条件でRTA装置による加熱処理を行い、上記のチタン層上に、圧電体層(下地層B)を形成した。
<圧電体層(メイン層)の作製>
上記の圧電体層(下地層B)上に、上記のPMN−PT前駆体溶液をスピンコート法で塗布した後、180℃及び350℃で乾燥/脱脂を行うことで脱脂膜を作製した。この脱脂膜に対しRTA(Rapid Thermal Annealing)装置を使用し750℃で加熱処理を行うことで、PMN−PTからなる圧電体膜を作製した。この圧電体膜の作製工程を6回繰り返して行うことで、圧電体層(下地層B)上に圧電体層(メイン層)を形成した。これにより、実施例1では、圧電体層(下地層A)、チタン層、圧電体層(下地層B)及び圧電体層(メイン層)を含む圧電体層70を得た。
(実施例4)
実施例4では、圧電体層の作製条件が実施例3と同様であること以外は実施例2と同様にしてデバイス素子を作製した。つまり、実施例4のデバイス素子は、圧電体層70におけるメイン層がPMN−PTからなり、デバイス構造bを有するものである。
(比較例5)
比較例5では、圧電体層の作製条件が実施例3と同様であること以外は比較例1と同様にしてデバイス素子を作製した。
(比較例6)
比較例6では、圧電体層の作製条件が実施例3と同様であること以外は比較例2と同様にしてデバイス素子を作製した。
(比較例7)
比較例7では、圧電体層の作製条件が実施例3と同様であること以外は比較例3と同様にしてデバイス素子を作製した。
(評価内容)
<形状観察>
実施例1〜4及び比較例1〜7の外観形状(積層状態、断線、剥離等の外観上の異常の有無)を、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察した。その結果、比較例4のデバイス素子において、第2電極層80の剥離が確認され、このデバイス素子以外では、特性に影響を及ぼす特異な外観上の異常は観測されなかった。
<P−E loop測定>
実施例1,3及び比較例2,6について、東陽テクニカ社製「FCE−1A」を用い、φ=500μmの電極パターンを使用し、室温で周波数1kHzの三角波を印加して、分極量P(μC cm−2)と電圧E(V)の関係(P−E loop)を求めた。図15に、実施例1を±25Vで測定したP−E loopを示す。同様に、図16に実施例3、図17に比較例2、及び図18に比較例6の測定結果をそれぞれ示す。また、各P−E loopの測定結果より求めた残留分極量Pr(μC cm−2)を表1に示す。
表1に示す通り、第2電極層80の下層側電極80aとしてPtを用いた実施例1では、残留分極量Prが25μC cm−2であったのに対し、下層側電極80aとしてTi/Irを用いた比較例2では、残留分極量Prが22.7μC cm−2であった。即ち、実施例1は比較例2と比較して残留分極量Prが1割程度増加していた。
また、表1に示す通り、第2電極層80の下層側電極80aとしてPtを用いた実施例3では、残留分極量Prが14.6μC cm−2であったのに対し、下層側電極80aとしてTi/Irを用いた比較例6では、残留分極量Prが4.3μC cm−2であった。即ち、実施例3は比較例6と比較して残留分極量Prが3倍程度増加していた。
以上のことから、下層側電極80aにPtを使用することで、デバイス素子の強誘電性を向上できることが明らかとなった。また、強誘電性の向上効果は、素子構造によらずに享受できることが明らかとなった。
<初期撓み測定>
実施例1〜4及び比較例1〜7について、電圧無印加状態での撓み量(初期撓み量)を、Veeco社製の光干渉型表面形状粗さ測定システム「NT9300DMEMS」を用いて測定した。図19に、デバイス素子のCAV(空間12)に対して凸状に撓んだ状態(以下、「凸撓み」という。)の模式図を示し、図20に、デバイス素子のCAV(空間12)に対して凹状に撓んだ状態(以下、「凹撓み」という。)の模式図を示す。また、各初期撓み測定結果を表1に示す。表1では、撓みがない場合をゼロとし、凸撓みの場合(図19参照)の初期撓み量dをプラス、凹撓みの場合(図20参照)の初期撓み量dをマイナスと表記した。
表1に示す通り、第2電極層80の下層側電極80a及び上層側電極80bの両方でTi/Irを使用した比較例2では、初期撓み量dが+11nmの凸撓みとなった。即ち、比較例2では、主にIrが圧電素子300及び振動板50に対して面内方向に引っ張り応力を付与し、圧電素子300が振動板50に対して与える圧縮応力との釣り合いが取れるため、+11nmの凸撓みとなる。
一方、下層側電極80aでPtを使用し、上層側電極80bを形成しなかった比較例1では、初期撓み量dが−214nmの凹撓みとなった。即ち、比較例1では、Ptが圧電素子300及び振動板50に与える面内応力が小さく、圧電素子300が振動板50に対して与える圧縮応力が支配的となるため、−214nmの凹撓みとなる。
これに対し、下層側電極80aでPt、上層側電極80bでTi/Irを使用した実施例1では、初期撓み量dが0nmとなり、比較例1に対して初期撓み位置が大きく改善された。
また、表1に示す通り、第2電極層80の下層側電極80a及び上層側電極80bの両方でTi/Irを使用した比較例6では、初期撓み量dが−57nmの凹撓みとなった。即ち、比較例6では、主にIrが圧電素子300及び振動板50に対して面内方向に引っ張り応力を付与し、圧電素子300が振動板50に対して与える圧縮応力との釣り合いが取れるため、−57nmの凹撓みとなる。
一方、下層側電極80aでPtを使用し、上層側電極80bを形成しなかった比較例5では、初期撓み量dが−159nmの凹撓みとなった。即ち、比較例5では、Ptが圧電素子300及び振動板50に与える面内応力が小さく、圧電素子300が振動板50に対して与える圧縮応力が支配的となるため、−159nmの凹撓みとなる。
これに対し、下層側電極80aでPt、上層側電極80bでTi/Irを使用した実施例3では、初期撓み量dが−76nmの凹撓みとなり、比較例5に対して初期撓み位置が大きく改善された。
以上の結果から、下層側電極80aをPtのまま上層側電極80bをTi/Irとすることで、初期撓みは大きく改善することが明らかとなった。また、初期撓みの改善効果は、素子構造によらずに享受できることが明らかとなった。なお、上述した通り、上層側電極80bのTiは、Au等による引き回し配線を重ねるための密着層であり、Tiの形成がIrの引っ張り応力に悪影響を及ぼすことは無い。
また、パターン形状の問題で、実施例2,4及び比較例3,7の初期撓み量dを測定することはできなかったが、外観の観察により、実施例2は実施例1に、実施例4は実施例3に、比較例3は比較例2に、比較例7は比較例6に準じる撓み形状となっていることがわかった。
<送受信特性>
図21に、送受信特性の評価手法について説明するための図を示す。図示するように、送受信特性は、評価機400、超音波素子401及びSUS板402を用いて測定した。実施例1,2及び比較例1〜4では、水中における6MHzの送受信特性の評価を行い、実施例3,4及び比較例5〜8では、水中における5.5MHzの送受信特性の評価を行った。
ここで、送受信特性とは、水中に入れた超音波素子401がDC10V印加下で±6Vの波形を挿入することで発信した縦波W1を、20mm先に設置されたSUS製の板(SUS板402)で反射させ、その反射波W2を同一素子(超音波素子401)で受信した時に生じる受信電圧の特性である。
図22に、実施例2と比較例3の送受信電圧を示し、図23に、実施例4と比較例7の送受信電圧を示す。図22に示す通り、下層側電極80aにTi/Irを使用した比較例3の送受信電圧が32.3mVであるのに対し、下層側電極80aにPtを使用した実施例2の送受信電圧は36.6mVとなり、約13%向上することが明らかとなった。同様にして、図23に示す通り、下層側電極80aにTi/Irを使用した比較例7と比較して、下層側電極80aにPtを使用した実施例4の送受信電圧は、大幅に向上して良好な送受信感度を示すことが明らかとなった。
この結果から、下層側電極80aにPtを使用することで強誘電性を向上させ、上層側電極80bにTi/Irを使用し、且つX及びY方向に跨いで圧電素子300及び空間12(キャビティ)の外側まで伸びるように設けられることで初期撓みを改善した実施例2及び実施例4のデバイス素子の構成は、超音波デバイスに好適であることが明らかとなった。
<撓み形状と送受信特性の関係>
図24に、シミュレーションにより算出した撓み形状と送受信特性の関係について示す。図24に示す通り、初期撓み量dが0nm〜+200nmの範囲では、送受信感度に殆ど影響を及ぼさないのに対し、初期撓み量dが0nm未満では、その量に応じて送受信感度が低下することがわかった。即ち、実施例1及び同様の第2電極層80の構成である実施例2と、比較例2及び同様の構成である比較例3との比較においては、初期撓みの差は考慮する必要がないことが明らかとなった。
また、実施例2と比較例3では初期撓み量を測定できなかったが、P−E loop測定において、実施例2と対応する実施例1は、比較例3と対応する比較例2に比べ残留分極量Prが1割向上していることを考慮すると、実施例2において送受信感度が13%向上したのは、比較例3に比べ残留分極量Prが向上したためであるといえる。
加えて、比較例1のように、下層側電極80aでPtを使用し、上層側電極80bを形成しなかった場合、表1に示す通り、初期撓み量dが−214nmであるので、図24より、初期撓みが送受信感度に悪影響を及ぼすと考えられる。
従って、下層側電極80aをPtとし、上層側電極80bをTi/Irとすることで、初期撓みが凹になることによる悪影響を回避できることが明らかとなった。
以上より、実施例1〜4の圧電素子300によれば、下層側電極80aであるPt層が圧電体層70と接することで残留分極量が増加して強誘電性が向上した。更に、X及びY方向に跨いで圧電素子300及び空間12(キャビティ)の外側まで伸びるように設けられた上層側電極80bであるTi/Ir層のIrの引っ張り応力によって、振動板50のCAV面側への初期撓みを抑制して変形効率を向上させることができた。その結果、実施例1〜4の圧電素子300は、受信特性に優れた超音波デバイスとなることが明らかとなった。
(他の実施形態)
上記の実施形態では、振動板の圧電素子とは反対側が超音波の通過領域となる型(所謂CAV面型)のレンズ構造を適用したが、かかる構造はこれに限定されない。例えば、振動板の圧電素子側が超音波の通過領域となる型(所謂ACT面型)等のレンズ構造を、用途に応じて適用してもよい。
上記の本実施形態の他、本発明の圧電素子300と、圧電素子300により発信される超音波、及び圧電素子300により受信される超音波の少なくとも一方に基づく信号を利用して検出対象を測定する制御手段とを具備することで超音波測定装置を構成することもできる。
このような超音波測定装置は、超音波を発信した時点から、その発信した超音波が測定対象物に反射されて戻ってくるエコー信号を受信する時点までの時間に基づいて、測定対象物の位置、形状及び速度等に関する情報を得るものであり、超音波を発生するための素子や、エコー信号を検知するための素子として、圧電素子300が用いられることがある。このような超音波発生素子やエコー信号検知素子として、圧電定数の向上が図られた本発明の圧電素子300が用いられれば、超音波発生効率やエコー信号検地効率が高められた超音波測定装置を提供できる。
上記の本実施形態では説明は省略したが、例えば、振動板50の圧電素子300とは反対側が、測定対象物に向けて発信される超音波や測定対象物から反射した超音波(エコー信号)の通過領域となる構成とすることができる。これによれば、振動板50の圧電素子300とは反対側の構成を簡素化させ、超音波等の良好な通過領域を確保できる。また、電極や配線等の電気的領域や各部材の接着固定領域を測定対象物から遠ざけて、これらと測定対象物との間での汚染や漏れ電流を防止しやすくなる。従って、汚染や漏れ電流を特に嫌う医療用の機器、例えば超音波診断装置、血圧計及び眼圧計にも好適に適用できる。
また、上記の本実施形態では省略したが、圧電素子300を含む領域を封止する封止板を基板10に接合するのが好ましい。これによれば、圧電素子300を物理的に保護でき、また超音波センサー1の強度も増加するため、構造安定性を高めることができる。更に、圧電素子300が薄膜として構成される場合には、その圧電素子300を含む超音波センサー1のハンドリング性も向上させることができる。
上記の本実施形態では、空間12は、圧電素子300毎に形成した例を示したが、これに限定されず、複数の圧電素子300に対応して空間12を形成してもよい。例えば、スキャン方向に亘って並設される圧電素子300の列に共通する空間12を設けてもよく、又は全体に1つの空間12としてもよい。なお、このような複数の圧電素子300に対して共通する空間12を設けた場合には、圧電素子300の振動状態が異なるようになるが、振動板50の基板10とは反対側から、各圧電素子300の間を押さえ込む部材等を設けて、独立した空間12を設けた場合と同様な振動を行うようにしてもよい。
ここで、上述した超音波センサーを用いた超音波診断装置の一例について説明する。図25は超音波診断装置の一例の概略構成を示す斜視図であり、図26は超音波プローブを示す側面図である。
図示するように、超音波診断装置101は、装置端末102と超音波プローブ(プローブ)103とを備える。装置端末102と超音波プローブ103とはケーブル104で接続される。装置端末102と超音波プローブ103とはケーブル104を通じて電気信号をやり取りする。装置端末102にはディスプレイパネル(表示装置)105が組み込まれる。ディスプレイパネル105の画面は、装置端末102の表面に露出する。装置端末102では、超音波プローブ103の超音波センサー1から送信され、検出された超音波に基づき画像が生成される。画像化された検出結果は、ディスプレイパネル105の画面に表示される。
図26に示すように、超音波プローブ103は、筐体106を有する。筐体106内には、複数の超音波センサー素子310(図2参照)がX方向及びY方向の二次元に配列された超音波センサー1が収納される。超音波センサー1は、その表面が筐体106の表面に露出するように設けられる。超音波センサー1は、表面から超音波を出力すると共に、超音波の反射波を受信する。また、超音波プローブ103は、プローブ本体103aに着脱自在となるプローブヘッド103bを備えることができる。このとき、超音波センサー1はプローブヘッド103bの筐体106内に組み込まれることができる。なお、超音波センサー1は、超音波センサー素子310が、X方向及びY方向に二次元に配列されて構成される。
I…超音波プローブ、 1…超音波センサー、 2…FPC基板、 3…ケーブル、 4…中継基板、 5…筐体、 6…耐水性樹脂、 10…基板、 11…隔壁、 12…空間、 13…音響整合層、 20…レンズ部材、 32…圧電素子保持部、 40…包囲板、 40a…縁部、 40b…面、 41…支持部材、 50…振動板、 50a…第1面、 50b…第2面、 51…弾性膜、 52…絶縁体層、 60…第1電極層、 70…圧電体層、 80…第2電極層、 80a…下層側電極、 80b…上層側電極、 81a,82a…Pt層、 81b,82b…Ir層、 101…超音波診断装置、 102…装置端末、 103…超音波プローブ、 103a…プローブ本体、 103b…プローブヘッド、 104…ケーブル、 105…ディスプレイパネル、 106…筐体、 110,140…ウェハー、 300…圧電素子、 310…超音波センサー素子、 400…評価機、 401…超音波素子、 402…SUS板

Claims (4)

  1. キャビティを有する基板と、
    前記キャビティの開口面を塞ぐように前記基板上に設けられた振動板と、
    前記振動板の、前記キャビティとは反対側の面上に設けられ、第1電極と、前記第1電極上に設けられた圧電体層と、前記圧電体層上に設けられた第2電極とを有する圧電素子と
    を備えた超音波センサー用の圧電デバイスであって、
    前記第2電極は、白金層と、イリジウム層とを含む積層構造を有しており、
    前記白金層は、前記圧電体層と接しており、
    前記基板の面と平行であり、且つ互いに直交する2つの方向をX方向及びY方向としたとき、前記イリジウム層は、XY平面視で、前記圧電素子及び前記キャビティを少なくともX方向に、前記キャビティの外側まで延設されていることを特徴とする超音波センサー用の圧電デバイス。
  2. 前記圧電体層は、前記キャビティ内に存在し、
    前記白金層は、前記X方向において前記圧電体層上のみに存在することを特徴とする請求項1に記載の超音波センサー用の圧電デバイス。
  3. 第2のイリジウム層が、XY平面視で、前記圧電素子及び前記キャビティをY方向に、前記キャビティの外側まで延設され、
    前記第2のイリジウム層は、前記圧電体層上において、前記イリジウム層と分離されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波センサー用の圧電デバイス。
  4. 前記圧電体層は、前記キャビティ内に存在し、
    前記第2のイリジウム層は、前記圧電体層上の両端部から前記Y方向に前記キャビティの外側まで延設され、前記圧電体層の両端部と前記第2のイリジウム層との間には、前記白金層とは分離された第2の白金層が存在することを特徴とする請求項3に記載の超音波センサー用の圧電デバイス。
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