JP2017111982A - 点火プラグ - Google Patents

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Abstract

【課題】接地電極母材からの接地電極チップの脱落を抑制する。【解決手段】点火プラグは、中心電極と、第1面と第2面とを有すると共に第1面から第2面まで貫通する貫通孔を有する接地電極母材と、放電面と放電面の裏面である大径面とを有し、大径面を含む一部が貫通孔内に配置され、放電面が貫通孔から中心電極側に露出する接地電極チップと、大径面から放電面に向かう方向を第1方向とし、その反対方向を第2方向としたとき、貫通孔内における大径面より第2方向側の部分に配置される固定部材と、を備える。固定部材のうち貫通孔内に配置された部分の第1方向に沿った最大長さは、固定部材の中心軸を通り、かつ、第1方向に沿う断面において、接地電極母材と固定部材との境界における溶融部の第1方向の端から第2面までの第1方向の長さは、固定部材のうち貫通孔内に配置された部分の第1方向に沿った最大長さの50%以上である。【選択図】 図2

Description

本明細書は、内燃機関等において燃料ガスに点火するための点火プラグに関する。
従来から、内燃機関に、点火プラグが用いられている。点火プラグは、間隙(ギャップ)を形成する接地電極を有している。接地電極には、例えば、接地電極母材と、接地電極母材に固定された貴金属製の接地電極チップと、を備える電極が利用されている。例えば、特許文献1には、接地電極母材の先端部に、チップ固定用の孔を設け、チップ固定用の孔内に接地電極チップを配置する技術が開示されている。この技術では、チップ固定用の孔において、接地電極チップの放電面とは反対側に固定部材を配置し、固定部材を接地電極母材に固定することによって、接地電極チップを接地電極母材に固定している。
特開昭62−268079号公報
しかしながら、上記の技術では、固定部材を接地電極母材に固定する具体的な構成について、十分な工夫がされているとは言えなかった。このために、固定部材を接地電極母材に十分な強度で固定することができず、接地電極チップが接地電極母材から脱落する可能性があった。
本明細書は、接地電極チップを接地電極母材に固定するための固定部材を備える点火プラグにおいて、固定部材が接地電極母材に固定される強度を向上して、接地電極母材からの接地電極チップの脱落を抑制する技術を開示する。
本明細書に開示される技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
[適用例1] 中心電極と、
前記中心電極に面する第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有すると共に、前記第1面から前記第2面まで貫通し、前記第2面における第2の径が前記第1面における第1の径より大きな貫通孔を有する接地電極母材と、
前記中心電極との間に間隙を形成し、前記第1の径より小さな径を有する放電面と、前記第1の径より大きく、前記第2の径より小さな径を有すると共に、前記放電面の裏面である大径面と、を有し、前記大径面を含む一部が前記貫通孔内に配置され、前記放電面が前記貫通孔から前記中心電極側に露出する接地電極チップと、
前記大径面から前記放電面に向かう方向を第1方向とすると共に、その反対方向を第2方向としたとき、前記貫通孔内における前記大径面より前記第2方向側の部分に配置される固定部材と、
を備え、
前記貫通孔を形成する前記接地電極母材の内面と、前記固定部材の前記第1方向側の面と、によって前記接地電極チップが保持される点火プラグであって、
前記固定部材のうち前記貫通孔内に配置された部分の、前記第1方向に沿った最大長さは、前記接地電極母材の前記貫通孔が形成されている部分の前記第1方向に沿った最大長さの50%以上であり、
前記固定部材の中心軸を通り、かつ、前記第1方向に沿う断面において、前記接地電極母材と前記固定部材とを跨ぐように設けられた溶融部を有し、
前記断面において、前記接地電極母材と前記固定部材との境界における前記溶融部の第1方向側の端から、前記第2面までの前記第1方向に沿った長さは、前記固定部材のうち前記貫通孔内に配置された部分の、前記第1方向に沿った最大長さの50%以上であることを特徴とする点火プラグ。
上記構成によれば、固定部材のうち貫通孔内に配置された部分の、第1方向に沿った最大長さは、接地電極母材の第1方向に沿った最大長さの50%以上であり、接地電極母材と固定部材との境界における溶融部の第1方向の端から、接地電極母材の第2面までの第1方向に沿った長さは、固定部材のうち貫通孔内に配置された部分の、第1方向に沿った最大長さの50%以上である。この結果、溶融部の第1方向に沿った長さを十分に確保できるので、固定部材が接地電極母材に固定される強度を向上することができる。したがって、接地電極母材からの接地電極チップの脱落を抑制することができる。
[適用例2]適用例1に記載の点火プラグであって、
前記接地電極チップは、前記放電面を含むチップ本体と、前記チップ本体の径より大きな径を有し、前記チップ本体より前記第2方向側に位置し、前記大径面を含む鍔部と、を有し、
前記貫通孔は、前記放電面より大きく、かつ、前記鍔部より小さな径を有する小径部分と、前記小径部分より前記第2方向側に位置し、前記鍔部より大きな径を有する大径部分と、を含み、
前記接地電極母材には、前記貫通孔内における前記小径部分と前記大径部分との間に位置する段部が形成され、
前記鍔部の前記第1方向側の面は、前記段部によって支持されることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、鍔部の第1方向側の面は、段部によって支持されるので、接地電極チップが接地電極母材に対して固定される強度を向上することができる。また、接地電極チップの放電面と中心電極との間に形成される間隙が、点火プラグの使用中等に変動することを抑制することができる。
[適用例3]適用例2に記載の点火プラグであって、
前記鍔部の径に対する前記チップ本体の前記第2方向の端の径の比率は、76%以上、かつ、95%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、鍔部の径に対するチップ本体の第2方向の端の径の比率が、76%以上であることによって、放電面の径が確保できるので、耐消耗性を向上できる。一方、鍔部の径に対するチップ本体の第2方向の端の径の比率が、95%以下であることによって、鍔部の径方向の幅が確保できるので、接地電極チップが接地電極母材に対して固定される強度をより向上することができる。
[適用例4]適用例1から3のいずれか一項に記載の点火プラグであって、
前記中心電極を保持する絶縁体と、
前記絶縁体の径方向の周囲に配置された主体金具と、
を有し、
前記接地電極母材は、前記主体金具に接続された端である接続端を有し、
前記接地電極チップの中心から前記接続端に向かう方向に延びる仮想線と交差する位置における前記溶融部は、前記接地電極チップに到達していることを特徴とする、点火プラグ。
接地電極母材の接続端側は、接続端が主体金具に接続されているので、熱引きが良い。上記構成によれば、接続端に向かう方向に延びる仮想線と交差する位置における溶融部は、接地電極チップに到達しているので、火花や火花によって着火される燃料ガスによって高温になった接地電極チップから接地電極母材の接続端側への熱引きをさらに向上することができる。
[適用例5]適用例4に記載の点火プラグであって、
前記接地電極母材は、前記接続端とは反対側に、前記主体金具に接続されない端である自由端を有し、
前記接地電極チップの中心から前記自由端に向かう方向に延びる仮想線と交差する位置における前記溶融部は、前記接地電極チップに到達していないことを特徴とする、点火プラグ。
接地電極母材の自由端側は、自由端が主体金具に接続されていないので、熱引きが悪く、高温になりがちである。高温になりがちな自由端に近い溶融部が、接地電極チップに到達していると、熱応力によって溶融部にクラックが発生しやすい。上記構成によれば、自由端に向かう方向に延びる仮想線と交差する位置における溶融部は、接地電極チップに到達していないので、熱応力によって溶融部にクラックが発生することを抑制できる。
[適用例6]適用例1から5のいずれか一項に記載の点火プラグであって、
前記接地電極チップは、イリジウム、および、イリジウム合金のうちのいずれかであることを特徴とする、点火プラグ。
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグや点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関や、その点火プラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
第1実施形態の点火プラグの一例の断面図である。 第1実施形態の接地電極の先端部の近傍を拡大して示す部分断面図である。 先端側から後端方向を向いて見た接地電極の先端部の近傍の概略図である。 レーザ溶接前の接地電極の先端部の断面図である。 点火プラグの製造方法の一例を示すフローチャートである。 接地電極30の製造方法の説明図である。 第2実施形態の点火プラグの接地電極の先端部の近傍を拡大して示す部分断面図である。
A.第1実施形態:
A−1.点火プラグの構成:
図1は、第1実施形態の点火プラグの一例の断面図である。図示されたラインCLは、点火プラグ100の軸線CL(中心軸CLとも呼ぶ)を示している。図示された断面は、軸線CLを含む断面である。以下、軸線CLと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。軸線CLと平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向LDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。先端方向LDは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、軸線CLを中心とし、軸線CLと垂直な面上に位置する円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の円周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。先端方向LDの端を、単に、先端とも呼び、後端方向BDの端を、単に、後端とも呼ぶ。
点火プラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、導電性の第1シール部60と、抵抗体70と、導電性の第2シール部80と、第1パッキン8と、タルク9と、第2パッキン6と、第3パッキン7と、を備えている。
絶縁体10は、軸線CLに沿って延びて絶縁体10を貫通する貫通孔である軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。絶縁体10は、後端方向BDに向かって順番に並ぶ、脚部13と、第1縮外径部15と、第1胴部17と、鍔部19と、第2縮外径部11と、第2胴部18と、を有している。第1縮外径部15の外径は、先端方向LDに向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の第1縮外径部15の近傍(図1の例では、第1胴部17)の内部には、先端方向LDに向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。第2縮外径部11の外径は、後端方向BDに向かって、徐々に小さくなる。
絶縁体10の軸孔12の先端側には、軸線CLに沿って延びる棒状の中心電極20が挿入されている。中心電極20は、先端側から後端方向BDに向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。脚部25の先端側の部分は、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。中心電極20の他の部分は、軸孔12内に配置されている。鍔部24の先端側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。また、中心電極20は、電極母材21と、電極母材21の内部に埋設された芯材22と、を有している。電極母材21は、例えば、ニッケル(Ni)またはニッケルを主成分として含む合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。ここで、「主成分」は、含有率が最も高い成分を意味している(以下、同様)。芯材22は、電極母材21よりも熱伝導率が高い材料(例えば、銅を含む合金)で形成されている。
絶縁体10の軸孔12の後端側には、端子金具40が挿入されている。端子金具40は、導電材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。端子金具40は、先端方向LDに向かって順番で並ぶ、キャップ装着部41と、鍔部42と、脚部43と、を有している。キャップ装着部41は、絶縁体10の後端側で、軸孔12の外に露出している。脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。
絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間には、電気的なノイズを抑制するための、円柱状の抵抗体70が配置されている。抵抗体70と中心電極20との間は、導電性の第1シール部60が配置され、抵抗体70と端子金具40との間には、導電性の第2シール部80が配置されている。中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70とシール部60、80とを介して、電気的に接続される。シール部60、80を用いることによって、積層される部材20、60、70、80、40間の接触抵抗が安定し、中心電極20と端子金具40との間の電気抵抗値を安定させることができる。なお、抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子(例えば、B23−SiO2系のガラス)と、セラミック粒子(例えば、TiO)と、導電性材料(例えば、Mg)と、を用いて形成されている。シール部60、80は、例えば、抵抗体70と同様のガラス粒子と、金属粒子(例えば、Cu)と、を用いて形成されている。
主体金具50は、軸線CLに沿って延びて主体金具50を貫通する挿入孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の挿入孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の径方向の周囲に配置された状態で、絶縁体10に固定されている。主体金具50の先端側では、絶縁体10の先端側の端部(本実施形態では、脚部13の先端側の部分)が、挿入孔59の外に露出している。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端側の端部(本実施形態では、第2胴部18の後端側の部分)が、挿入孔59の外に露出している。
主体金具50は、後端方向BDに向かって順番に並ぶ、胴部55と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54は、鍔状の部分である。胴部55の外周面には、内燃機関(例えば、ガソリンエンジン)の取付孔に螺合するためのネジ部52が形成されている。座部54とネジ部52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
主体金具50は、変形部58よりも先端側に配置された、縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、先端方向LDに向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の第1縮外径部15と、の間には、第1パッキン8が挟まれている。第1パッキン8は、鉄製のOリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。
工具係合部51の形状は、点火プラグレンチが係合する形状(例えば、六角柱)である。工具係合部51の後端側には、加締部53が設けられている。加締部53は、絶縁体10の第2縮外径部11よりも後端側に配置され、主体金具50の後端側の端を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。
主体金具50の後端側では、主体金具50の内周面と、絶縁体10の外周面と、の間に、環状の空間SPが形成されている。本実施形態では、この空間SPは、主体金具50の加締部53および工具係合部51と、絶縁体10の第2縮外径部11および第2胴部18と、に囲まれた空間である。この空間SP内の後端側には、第2パッキン6が配置されている。この空間SP内の先端側には、第3パッキン7が配置されている。本実施形態では、これらのパッキン6、7は、鉄製のCリングである(他の材料も採用可能である)。空間SP内における2つのパッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。
点火プラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。第1パッキン8は、第1縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との間を通って外に漏れることが、抑制される。また、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
接地電極30は、主体金具50の先端側の端に接合されている。接地電極30は、接地電極母材33と、接地電極チップ38と、固定部材39と、を有している。本実施形態では、接地電極母材33は、棒状の部材である。接地電極母材33の一端は、主体金具50の先端側の端に、電気的に導通するように、例えば、抵抗溶接によって、接続されている接続端332である。接地電極母材33の他端は、自由端333である。接地電極母材33は、主体金具50に接続された接続端332から先端方向LDに向かって延び、軸線CLに向かって曲がっている。そして、接地電極母材33は、軸線CLと垂直な方向に延びて自由端333に至る。
接地電極母材33のうち、軸線CLと垂直な方向に延びる部分を先端部331とも呼ぶ。先端部331には、接地電極チップ38と、固定部材39と、が固定されている。接地電極チップ38は、中心電極20の放電面20s1(先端側の表面)との間で間隙(ギャップ)gを形成する。接地電極母材33は、例えば、Ni又はNiを主成分として含む合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。なお、接地電極母材33は、表面を形成する表面部と、表面部に埋設された芯部と、を含む二層構造を有していても良い。この場合には、表面部は、例えば、Ni又はNiを主成分として含む合金を用いて形成され、芯部は、表面部よりも熱伝導率が高い材料(例えば、純銅)を用いて形成される。
図2は、第1実施形態の接地電極30の先端部331の近傍を拡大して示す部分断面図である。この断面は、固定部材39の軸線CLを通り、かつ、軸線方向に沿う断面である。図3は、先端側から後端方向BDを向いて見た接地電極30の先端部331の近傍の概略図である。図4は、第1実施形態のレーザ溶接前の接地電極30の先端部331の断面図である。図2に示すように、上述した先端部331は、軸線CLと垂直な方向に延びている。ここで、軸線CLと垂直な方向であって、軸線CLから自由端333に向かう方向を、自由端方向FDとも呼ぶ。また、軸線CLと垂直な方向であって、自由端方向FDとは反対方向、すなわち、軸線CLから接続端332に向かう方向を、接続端方向CDとも呼ぶ。
図2、4に示すように、接地電極母材33の先端部331は、後端側に位置する第1面33s1、すなわち、中心電極20と面する第1面33s1と、第1面33s1の裏面である第2面33s2、すなわち、先端側に位置する第2面33s2と、を有している。先端部331の中心電極20の放電面20s1と対向する位置には、第1面33s1から第2面33s2まで貫通する貫通孔335が形成されている。図4に示すように、貫通孔335は、第1の径R1を有する小径部分335aと、小径部分335aより先端側に位置し、第1の径R1より大きな第2の径R2を有する大径部分335bと、を有している。そして、接地電極母材33には、貫通孔335内における小径部分335aと大径部分335bとの間に位置する段部335cが形成されている。このように、貫通孔335では、第2面33s2における第2の径R2(図4)が、第1面33s1における第1の径R1(図4)より大きい。
図2、図4に示すように、接地電極チップ38は、後端側の放電面38s1と、放電面38s1の裏面である(すなわち、先端側の面である)の大径面38s2と、を有している。大径面38s2から放電面20s1に向かう方向(本実施形態では、後端方向BD)を第1方向とも呼び、その反対方向(本実施形態では、先端方向LD)を第2方向とも呼ぶ。
放電面38s1は、中心電極20の放電面20s1との間に、間隙gを形成する面である。接地電極チップ38は、放電面38s1を含むチップ本体381と、大径面38s2を含み、チップ本体381より先端側に位置する鍔部382と、を有している。チップ本体381の径は、中心電極20に向かって、すなわち、先端側から後端側に向かって、径R5から径R4まで直線的に縮径している。すなわち、チップ本体381は、いわゆるテーパ状の外側面381sを有する円錐台形状を有している。鍔部382の径は、チップ本体381の先端の径R5および後端の径R4より大きい。電極チップの軸線CLは、点火プラグ100の軸線CLと同じである。この説明から解るように、大径面38s2の径R3(図4)は、放電面38s1の径R4(チップ本体381の後端の径R4)より大きい。そして、放電面38s1の径R4は、貫通孔335の第1面33s1における第1の径R1(小径部分335aの径)より小さい。大径面38s2の径R3は、貫通孔335の第1面33s1における第1の径R1より大きく、第2面33s2における第2の径R2(大径部分335bの径R2)より僅かに小さい。
ここで、鍔部382の後端の径(放電面38s1側の径)をR7とする。なお、本実施形態では、鍔部382は、軸線方向に沿った位置によって径が変化しない円柱形状を有しているので、鍔部382の後端の径R7は、鍔部382の先端の径R3(大径面38s2の径R3)と、等しい。鍔部382の径R7に対するチップ本体381の先端の径R5の比率は、76%以上、かつ、96%以下である。図2、図4の例では、径R7に対するチップ本体381の先端の径R5の比率は、約80%である。チップ本体381の先端の径R5は、貫通孔335の小径部分335aの径R1と、ほぼ等しい。
接地電極チップ38は、火花消耗性に優れた貴金属を主成分として含む合金を用いて、形成されている。本実施形態では、主成分となる貴金属は、イリジウム(Ir)である。なお、Irは、貴金属の中でも融点が高く、そして、耐火花消耗性に優れている。従って、Ir、または、Irを主成分とするイリジウム合金を用いて、接地電極チップ38を形成することが好ましい。
図2に示すように、接地電極チップ38のうち、大径面38s2を含む一部は、貫通孔335内に配置され、放電面20s1は、貫通孔335から中心電極20側に露出している。具体的には、接地電極チップ38の鍔部382の全体は、貫通孔335の大径部分335b内の後端側に位置し、チップ本体381の先端側の大部分は、貫通孔335の小径部分335a内に位置している。そして、チップ本体381の放電面38s1を含む後端側の一部は、貫通孔335から後端側に突出している。鍔部382の後端面382sは、貫通孔335内の段部335cに当接しており、段部335cによって後端側から支持されている。
図2、図4に示すように、固定部材39は、略円柱状の外形を有している。接地電極チップ38、貫通孔335、固定部材39の軸線CLは、点火プラグ100の軸線CLと同じである。固定部材39は、貫通孔335の大径部分335b内において、接地電極チップ38の大径面38s2より先端側の部分に配置されている。固定部材39の後端面39s1は、接地電極チップ38の大径面38s2に当接している。すなわち、固定部材39は、接地電極チップ38(鍔部382)を先端側から支持している。固定部材39の先端面39s2は、接地電極母材33の第2面33s2と、ほぼ同じ平面上に位置している。なお、レーザ溶接前の固定部材39の径R6は、貫通孔335の大径部分335bの径R2と、ほぼ同じである。
以上の説明から解るように、接地電極チップ38は、貫通孔335を形成する接地電極母材33の内面と、固定部材39の後端側の面と、によって保持されている。
図2に示すように、固定部材39のうち、貫通孔335内に配置された部分の軸線方向に沿った最大長さL1は、接地電極母材33の貫通孔335が形成されている部分(すなわち、先端部331)の軸線方向に沿った最大長さL2の50%以上である。図2の例では、最大長さL1は、最大長さL2の約60%である。なお、最大長さL1は、最大長さL2の60%以上であることが、より好ましく、70%以上であることが、さらに、好ましい。最大長さL2に対する最大長さL1の比率が高いほど、固定部材39の接合強度を向上することができる。なお、最大長さL1は、必ず最大長さL2の100%未満であり、接地電極チップ38の厚みを考慮すれば、最大長さL2の90%未満である。
図2の例では、固定部材39のほぼ全体が、貫通孔335内に配置されているので、最大長さL1は、固定部材39の軸線方向に沿った長さにほぼ等しい。仮に、固定部材39の一部分が、第2面33s2より先端側に突出している場合には、固定部材39のうち、当該突出した部分を除いた部分の軸線方向に沿った最大長さが、最大長さL1とされる。最大長さL1は、固定部材39の後端から、接地電極母材33の先端部331の第2面33s2までの軸線方向に沿った最大長さ(距離)と言うこともできる。
接地電極母材33の貫通孔335が形成されている部分(すなわち、先端部331)の軸線方向に沿った最大長さL2は、先端部331の第1面33s1から第2面33s2までの軸線方向に沿った最大長さ(距離)と言うこともできる。
図3に示すように、固定部材39の外側面39s3と、貫通孔335の大径部分335bを形成する接地電極母材33の内側面と、の境界BLには、全周に亘って、溶融部82が形成されている。図3において、ハッチングされた部分は、溶融部82のうち、接地電極母材33の第2面33s2に露出している部分である。溶融部82は、接地電極母材33の第2面33s2に対して垂直に、レーザを照射することによって形成されている。
図2に示すように、溶融部82は、図2の断面において、固定部材39の外側面39s3と、貫通孔335の大径部分335bを形成する接地電極母材33の内側面と、の境界BLを跨ぐように設けられている。
溶融部82は、互いに溶融した、接地電極母材33の成分と、固定部材39の成分と、を含む部分である。接地電極母材33と、固定部材39と、は、溶融部82を介して接合されている。したがって、溶融部82は、接地電極母材33と固定部材39とを接合する接合部とも言うこともでき、接地電極母材33と固定部材39とを接合するビードとも言うことができる。
また、溶融部82は、接地電極母材33と固定部材39とが、同じ材料(例えば、NCF600)で形成されていたとしても、高温で溶融されて形成されていることによって、溶融部82は、接地電極母材33や固定部材39とは、例えば、粒径等の微細な構造が異なっている。このために、例えば、接地電極30を切断して、図2の断面を露出させて、当該断面にエッチング処理を施した後に観察することで、接地電極母材33と固定部材39と溶融部82との境界は明確に特定することができる。
図2の断面において、溶融部82の軸線方向に沿った長さ(深さ)L3は、固定部材39のうち、貫通孔335内に配置された部分の軸線方向に沿った最大長さL1の50%以上である。ここで、溶融部82の軸線方向に沿った長さ(深さ)L3は、接地電極母材33と固定部材39との境界BLにおける溶融部82の後端端から、接地電極母材33の先端部331の第2面33s2までの軸線方向に沿った長さ、と定義できる。
図2に波線の円C1、C2で囲んだ部分から解るように、図2の例では、接地電極母材33と固定部材39との境界BLは、僅かしか残っていない。溶融部82の軸線方向に沿った長さL3は、固定部材39の上述した最大長さL1の約95%である。なお、長さL3は、最大長さL1の70%以上であることが、より好ましく、80%以上であることが、さらに、好ましく、90%以上であることが特に好ましい。最大長さL1に対する長さL3の比率が高いほど、固定部材39の接合強度を向上することができる。なお、第1実施形態では、波線の円C1、C2で囲んだ部分から解るように、溶融部82は、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの全周に亘って、接地電極チップ38の鍔部382に到達していない。すなわち、溶融部82の後端は、全周に亘って、接地電極チップ38の大径面38s2より先端側に位置している。換言すれば、最大長さL1に対する長さL3の比率は、100%未満である。
以上説明した第1実施形態の点火プラグ100によれば、固定部材39のうち、貫通孔335内に配置された部分の軸線方向に沿った最大長さL1は、接地電極母材33の貫通孔335が形成されている部分の軸線方向に沿った最大長さL2の50%以上であり、かつ、接地電極母材33と固定部材39との境界BLにおける溶融部82の後端側の端から、接地電極母材33の先端部331の第2面33s2までの軸線方向に沿った長さL3は、固定部材39のうち、貫通孔335内に配置された部分の軸線方向に沿った最大長さL1の50%以上である。この結果、溶融部82の軸線方向に沿った長さを十分に確保できるので、固定部材39が接地電極母材33に固定される強度を向上することができる。特に、固定部材39が位置する点火プラグ100の先端は、燃焼室内の高温となる部分に最も近いために、点火プラグ100の使用時には極めて高温となるので、溶融部82や固定部材39が損傷を受けやすい。第1実施形態の点火プラグ100では、溶融部82の軸線方向に沿った長さを十分に確保することで、特に、高温環境下での強度を向上することができる。
さらには、接地電極チップ38の鍔部382の後端面382sは、貫通孔335内の段部335cによって支持されている。この結果、鍔部382の後端面382sと段部335cとが面で接触するので、接地電極チップ38が接地電極母材33に対して固定される強度を向上することができる。また、接地電極チップ38の放電面38s1と中心電極20の放電面20s1との間に形成される間隙(ギャップ)が、点火プラグ100の使用中に変動することを抑制することができる。
さらに、鍔部382の径R7に対するチップ本体381の先端の径R5の比率(R5/R7)は、76%以上、かつ、95%以下である。これによって、点火プラグ100の耐消耗性を向上できるとともに、接地電極チップ38が接地電極母材33に対して固定される強度をより向上することができる。具体的には、比率(R5/R7)が76%以上であることによって、放電面20s1の径R4が過度に小さくなることを抑制して、放電面20s1の径R4を確保できるので、点火プラグ100の耐消耗性を向上できる。また、比率(R5/R7)が95%以下であることによって、鍔部382の径方向の幅(鍔部382の後端面382sの幅)を確保できるので、接地電極チップ38が接地電極母材33に対して固定される強度をより向上することができる。
さらに、第1実施形態の点火プラグ100では、接地電極チップ38は、イリジウム、および、イリジウム合金のうちのいずれかである。このように、高温環境下で使用されるイリジウムやイリジウム合金が用いられる点火プラグ100において、接地電極チップ38が接地電極母材33に対して固定される強度をより向上することができる。
A−2.点火プラグの製造方法:
図5は、点火プラグの製造方法の一例を示すフローチャートである。図6は、接地電極30の製造方法の説明図である。ステップS120では、組立体が形成される。組立体は、図1に示す点火プラグ100の製造工程のうち、接地電極30の接地電極母材33の屈曲と、接地電極母材33上への接地電極チップ38と固定部材39との取り付けを行う前の状態のものである。図5のステップS120を示す箱の中には、組立体100xの中心電極20の近傍を示す部分断面図が示されている。組立体100xは、絶縁体10と、絶縁体10に固定された主体金具50と、絶縁体10の軸孔12に挿入された中心電極20と、を有している。また、主体金具50には、直線状の接地電極母材33xが、曲げる前の接地電極母材33として、接合されている。組立体100xを形成する方法としては、公知の種々の方法を採用可能であり、詳細な説明を省略する。
ステップS130では、接地電極30の接地電極母材33xに、貫通孔335が形成される。貫通孔335の形状は、図4を参照して説明した通りである。貫通孔335は、曲げる前の接地電極母材33xに、例えば、ドリル等の切削工具を用いて、形成される。
ステップS140では、図6(A)に示すように、形成済の貫通孔335内に、接地電極チップ38と固定部材39とが、この順序で、貫通孔335の先端側(図6(A)の上側)から、配置される。このとき、貫通孔335より後端側(図6(A)の下側)に、接地電極チップ38のチップ本体381が突出するので、接地電極母材33xは、凹部HLが形成された支持台ST上に配置された状態で、接地電極チップ38と固定部材39の配置が行われる。
S150では、ハンドプレスHPによって、固定部材39の先端面39s2が後端方向BDに向かってプレスされる。これによって、固定部材39の後端面39s1と、貫通孔335内の段部335cとによって、鍔部382が挟持される位置まで、固定部材39が後端方向BDに押し込まれる。この位置まで固定部材39が押し込まれた状態で、固定部材39の先端面39s2は、接地電極母材33の先端部331の第2面より先端側に僅か(例えば、0.1mm)だけ突出した状態になるように、固定部材39の軸線方向に沿った長さが決められている。これにより、ハンドプレスHPによって、固定部材39を所定の位置まで精度良く押し込むことができる。
ステップS160では、固定部材39と接地電極母材33とがレーザ溶接によって接合される。図6(B)の矢印LZは、レーザ溶接のためのレーザの照射を概念的に示している。レーザLZは、貫通孔335の内側面と固定部材39の外側面39s3との境界BL上に、接地電極母材33の第2面33s2に対して垂直に照射される。なお、レーザLZの照射は、図3に示すように、接地電極母材33と固定部材39との境界BLの全周に亘って行われる。例えば、レーザLZが、24カ所に、12Hzの速度で照射されることで、境界BLの全周に亘って、溶融部82が形成される。この結果、図2、図3の溶融部82が形成される。
ステップS170では、接地電極母材33xが曲げられて、間隙gが形成される。すなわち、図2に示すように、中心電極20の放電面20s1と、接地電極チップ38の放電面38s1とが、互いに対向するように、接地電極母材33xが中心電極20に向かって曲げられる。
A−3.評価試験:
A−3−1.第1評価試験
点火プラグ100のサンプルを用いて評価試験が行われた。第1評価試験では、表1に示すように、6種類の点火プラグのサンプル1〜6が作製された。このサンプルでは、接地電極チップ38を取り付けず、接地電極母材33に固定部材39だけが溶接された。各サンプルに共通な寸法は、以下の通りである。
鍔部382の軸線方向の長さL5:0.2mm
固定部材39の外径R6:3.3mm
接地電極母材33の第1面33s1から第2面33s2までの長さL2:1.5mm
固定部材39の材質:NCF600
接地電極母材33の材質:NCF600
Figure 2017111982
6種類のサンプル1〜6では、固定部材39の軸線方向に沿った長さと、貫通孔335の大径部分335bの軸線方向に沿った長さとは、それぞれ、1.2mm、1.1mm、1mm、0.9mm、0.75mm、0.6mmとされた。これによって、6種類のサンプル1〜6では、表1に示すように、固定部材39のうち、貫通孔335内に配置された部分の軸線方向に沿った最大長さL1が、それぞれ、1.2mm、1.1mm、1mm、0.9mm、0.75mm、0.6mmとされた。なお、溶融部82の軸線方向に沿った長さL3は、長さL1の50%に調整された。
6種類のサンプル1〜6では、上記のように、最大長さL1が調整されることで、長さL2に対する長さL1の比率(L1/L2)が、それぞれ、80%、73.3%、66.7%、60%、50%、40%に調整されている。
サンプル1〜6について、高温強度試験を行った。高温強度試験では、各サンプルの固定部材39の近傍が、高周波加熱装置を用いて摂氏1050度まで加熱された。そして、加熱された状態で、金属棒を用いて、固定部材39の後端面39s1に対して、先端方向LDに向かって1000N(ニュートン)の荷重を負荷した。
その後、各サンプルを接地電極母材33の第2面33s2側から観察して、溶融部82に破断が生じているか否かが確認された。溶融部82の破断が生じているサンプルの評価を「B」とし、溶融部82の破断が生じていないサンプルの評価を「A」とした。
評価の結果は、表1に示すとおりである。長さL2に対する長さL1の比率(L1/L2)が、50%未満であるサンプル、すなわち、(L1/L2)が40%であるサンプル6の評価は、「B」であった。(L1/L2)が、50%以上であるサンプル、すなわち、(L1/L2)が50%、60%、66.7%、73.3%、80%であるサンプル1〜5の評価は、「A」であった。(L1/L2)を50%以上とすることによって、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの軸線方向の長さを長くすることができ、これによって溶融部82の軸線方向の長さを長くすることができる。これによって、接地電極母材33に対して固定部材39が接合される強度を向上することができるためであると考えられる。
A−3−2.第2評価試験
第2評価試験では、表2に示すように、第1評価試験のサンプル4(L1=0.9mm)について、溶融部82の軸線方向に沿った長さL3を変更することで、5種類の点火プラグのサンプル7〜11が作製された。
Figure 2017111982
表2に示すように、5種類のサンプル7〜11では、溶融部82の軸線方向に沿った長さL3は、0.3mm、0.45mm、0.6mm、0.75mm、0.9mmとされた。これによって、5種類のサンプル7〜11では、長さL1に対する長さL3の比率(L3/L1)が、それぞれ、33.3%、50%、66.7%、83.3%、100%に調整されている。これらのサンプルの他の部分の構成は、第1評価試験のサンプル4と同じである。
サンプル7〜11について、接地電極母材33の先端部331の第2面33s2が凸状に曲率R=2.0mmで曲がるように、接地電極母材33を曲げる曲げ試験を行った。この曲げ試験は、常温で行われた。
その後、各サンプルを接地電極母材33の第2面33s2側から観察して、溶融部82に破断が生じているか否かが確認された。溶融部82の破断が生じているサンプルの評価を「B」とし、溶融部82の破断が生じていないサンプルの評価を「A」とした。
評価の結果は、表2に示すとおりである。長さL1に対する長さL3の比率(L3/L1)が、50%未満であるサンプル、すなわち、(L3/L1)が33.3%であるサンプル7の評価は、「B」であった。(L3/L1)が、50%以上であるサンプル、すなわち、(L3/L1)が50%、66.7%、83.3%、100%であるサンプル8〜11の評価は、「A」であった。(L3/L1)を50%以上とすることによって、溶融部82の軸線方向の長さを長くすることができる。これによって、接地電極母材33に対して固定部材39が接合される強度を向上することができるためであると考えられる。
第1評価試験と第2評価試験から、固定部材39のうち貫通孔335内に配置された部分の、軸線方向に沿った最大長さL1は、接地電極母材33の先端部331の軸線方向に沿った最大長さL2の50%以上であり、かつ、接地電極母材33と固定部材39との境界における溶融部82の後端から、接地電極母材33の第2面33s2までの軸線方向に沿った長さL3は、固定部材39のうち、貫通孔335内に配置された部分の、軸線方向に沿った最大長さL1の50%以上であることが、強度向上の観点から好ましいことが確認できた。
A−3−3.第3評価試験
第3評価試験では、鍔部382の径R7が共通の値3.3mmであり、表3に示すように、チップ本体381の先端の径R5が、それぞれ、2mm、2.3mm、2.5mm、2.7mm、2.9mm、3.15mm、3.2mmとされた7種類の接地電極チップ38のサンプル12〜18が作製された。なお、チップ本体381の軸線方向に沿った長さは、各サンプルで共通の値0.4mmとされた。
7種類のサンプル12〜18では、上記のように、チップ本体381の先端の径R5が調整されることで、鍔部382の径R7に対するチップ本体381の先端の径R5の比率(R5/R7)が、それぞれ、61%、70%、76%、82%、88%、95%、97%に調整されている。
Figure 2017111982
これらの接地電極チップ38のサンプル12〜18について、強度試験と、耐消耗性試験と、がそれぞれ行われた。
強度試験では、接地電極チップ38の各サンプルを、対応する形状の貫通孔335が形成された接地電極母材33に嵌合させた状態で、金属棒を用いて、各サンプル(接地電極チップ38)の大径面38s2に対して、後端方向BDに向かって150N(ニュートン)の荷重を負荷した。
当該荷重を負荷した結果、鍔部382に破断が生じたサンプルの評価を「B」とし、鍔部382に破断が生じないサンプルの評価を「A」とした。
評価の結果は、表3に示すとおりである。鍔部382の径R7に対するチップ本体381の先端の径R5の比率(R5/R7)が、95%より大きいサンプル、すなわち、(R5/R7)が97%であるサンプル18の評価は、「B」であった。(R5/R7)が、95%以下であるサンプル、すなわち、(R5/R7)が61%、70%、76%、82%、88%、95%であるサンプル12〜17の評価は、「A」であった。(R5/R7)を95%以下とすることによって、鍔部382が破断して接地電極チップ38が脱落することを抑制して、接地電極母材33に対して接地電極チップ38が固定される強度を向上することができるためであると考えられる。
耐消耗性試験では、接地電極チップ38の各サンプルを用いて、点火プラグ100を組み立てた。そして、気圧0.6MPaの窒素ガス雰囲気のチャンバ内にて、各サンプルの点火プラグを1秒間に60回の頻度で点火する試験が、500時間に亘って実施された。なお、各サンプルでは、初期のギャップは、0.3mmとされた。
試験後に、接地電極チップ38の各サンプルにおいて、初期の放電面38s1の全体が消耗のために残存していないサンプルの評価を「B」とし、初期の放電面38s1の少なくとも一部が消耗せずに残存しているサンプルの評価を「A」とした。
評価の結果は、表3に示すとおりである。(R5/R7)が、76%未満であるサンプル、すなわち、(R5/R7)が61%、70%であるサンプル12、13の評価は、「B」であった。(R5/R7)が、76%以上であるサンプル、すなわち、(R5/R7)が76%、82%、88%、95%、97%であるサンプル14〜18の評価は、「A」であった。(R5/R7)を76%以上とすることによって、放電面38s1の径が過度に小さくなることを抑制して、対消耗性を向上できるためであると考えられる。
第3評価試験から、鍔部382の径R7に対するチップ本体381の後端の径R5の比率は、76%以上、かつ、95%以下であることが強度向上と耐消耗性向上の観点から好ましいことが確認できた。
B.第2実施形態
図7は、第2実施形態の点火プラグの接地電極30bの先端部331bの近傍を拡大して示す部分断面図である。図7の部分断面図は、図2と同様に、固定部材39の軸線CLを通り、かつ、軸線方向に沿う断面である。第1実施形態では、溶融部82は、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの全周に亘って、接地電極チップ38の鍔部382に到達していない。第2実施形態では、溶融部82は、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの一部において、接地電極チップ38の鍔部382に到達しており、他の一部において、接地電極チップ38の鍔部382に到達していない。その他の第2実施形態の構成は、第1実施形態と同一である。以下、さらに、詳しく説明する。
ここで、図3に示すように、接地電極母材33の第2面33s2において、電極チップ38の軸線CLから自由端方向FDに延びる仮想線を第1の線VL1とし、電極チップ38の軸線CLから接続端方向CDに上る仮想線を第2の線VL2とする。このときに、接地電極母材33の第2面33s2において、図3においてハッチングで示す溶融部82のうち、第1の線VL1と交差する部分を第1部分PT1とし、溶融部82のうち、第2の線VL2と交差する部分を第2部分PT2とする。
第1実施形態では、第1部分PT1および第2部分PT2を含む溶融部82のいずれの部分においても、溶融部82は、接地電極チップ38の鍔部382に到達していない(図2)。第2実施形態では、図7の破線の円C1で囲んだ部分から解るように、第1部分PT1において溶融部82は、第1実施形態と同様に、接地電極チップ38の鍔部382に到達していない。そして、第2実施形態では、図7の破線の円C2で囲んだ部分から解るように、第2部分PT2において溶融部82は、第1実施形態とは異なり、接地電極チップ38の鍔部382に到達している。換言すれば、第2実施形態では、第1部分PT1において溶融部82の後端は、接地電極チップ38の大径面38s2より先端側に位置し、第2部分PT2において溶融部82の後端は、接地電極チップ38の大径面38s2より後端側に位置している。
さらに、詳しく述べると、図3において、溶融部82のうちの第2部分PT2を中心とした周方向の角度θの範囲内において、溶融部82は、電極チップ38の鍔部382に到達している。周方向の角度θの範囲外において、溶融部82は、電極チップ38の鍔部382に到達していない。この電極チップ38に到達している溶融部82の範囲を示す角度θは、例えば、0度を超え160度未満であることが好ましく、30度以上120度未満であることが、さらに、好ましい。
なお、図7の第2部分PT2における溶融部82のように、溶融部82の後端が、固定部材39の後端面39s1より後端側に達している場合には、その部分では、固定部材39と接地電極母材33との境界BLが、全て溶融して消滅している。このような部分では、溶融部82の軸線方向に沿った長さL3b(図7)は、固定部材39の最大長さL1の100%を越えている、と言うことができる。すなわち、第2実施形態では、上述した最大長さL1に対する長さL3bの比率(L3b/L1)は、100%を越えている。例えば、図7の例では、最大長さL1に対する長さL3bの比率(L3b/L1)は、100%を越え、120%未満である。
ここで、接地電極母材33の接続端332側は、接続端332が主体金具50に接続されているので、熱引きが良い。第2実施形態によれば、上述したように、接地電極チップ38の中心から接続端332に向かう接続端方向CDに延びる第1の線VL1と交差する位置における溶融部82は、接地電極チップ38に到達している。このために、火花や火花によって着火される燃料ガスによって高温になった接地電極チップ38から、溶融部82を介して、接地電極母材33の接続端332側へ熱が伝わり易くなる。例えば、仮に、接続端332側において、接地電極チップ38と接地電極母材33とが接合されていないと、接地電極チップ38と接地電極母材33との界面において、熱伝導性が低下して、第2実施形態と比べて、接地電極チップ38から接地電極母材33の接続端側へ熱が伝わりにくくなる。このように、第2実施形態によれば、点火プラグ100の熱引き性能が向上して、接地電極チップ38が過度に高温になることを抑制できる。この結果、例えば、接地電極チップ38は高温になるほど、耐消耗性が悪化するところ、第2実施形態によれば、接地電極チップ38の耐消耗性を向上することができる。
ここで、接地電極母材33の自由端333側は、自由端333が主体金具に接続されていないので、熱引きが悪く、高温になりがちである。高温になりがちな自由端333に近い溶融部82が、接地電極チップ38に到達していると、熱応力によって溶融部82にクラックが発生しやすい。接地電極チップ38と接地電極母材33とは、材料が互いに異なるので、互いに線膨張係数が異なるために、高温環境下では、接合部分に熱応力が発生するからである。第2実施形態の点火プラグでは、接地電極チップ38の中心から自由端333に向かう方向に延びる第2の線VL2と交差する位置における溶融部82は、接地電極チップ38に到達していない。この結果、熱応力によって溶融部82にクラックが発生することを抑制できる。この結果、例えば、点火プラグの高温環境下での耐久性を向上することができる。
I.変形例:
(1)上記各実施形態では、溶融部82は、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの全周に亘って形成されている。これに限らず、溶融部は、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの周方向の一部に形成され、他の一部に形成されていなくても良い。例えば、溶融部82は、固定部材39と接地電極母材33との境界BLの周方向に沿って、所定角度の間隔(例えば、30度間隔や、60度間隔)を空けて、複数個に分かれていても良い。
(2)上記各実施形態に示す接地電極チップ38の形状は、一例であり、これに限られない。例えば、接地電極チップ38の鍔部382は、無くても良く、接地電極チップ38は、テーパー形状(円錐台形状)を有するチップ本体381だけであっても良い。この場合には、例えば、貫通孔335の小径部分335aは、チップ本体381の外形に対応して、先端側から後端方向BDに向かって縮径していれば良い。
また、鍔部382がある場合には、チップ本体381は、テーパー形状ではなく、円柱形状であっても良い。
(3)上記各実施形態に示す固定部材39の形状は、一例であり、これに限られない。例えば、固定部材39の形状は、先端側から後端方向BDに向かって縮径するテーパー形状を有していても良い。この場合には、貫通孔335の大径部分335bの形状は、固定部材39の形状に対応して、テーパー形状を有していれば良い。また、溶融部82は、テーパー形状を有する固定部材39と大径部分335bとの境界に対応して、接地電極母材33の第2面33s2に対して斜めに延びるように、形成されていても良い。
固定部材39は、後端側から先端方向LDを向いて見た形状が、円でなくても良く、他の形状であっても良い。例えば、固定部材39は、後端側から先端方向LDを向いて見た形状が、自由端方向FDの長さが、自由端方向FDと直交する方向の長さより長い楕円であっても良い。
また、固定部材39は、NCF600やNCF601を用いて形成されているが、他の耐熱性を有する材料、例えば、NCF600やNCF601とは異なる耐熱ニッケル合金を用いて形成されてもよい。
(4)上記各実施形態では、接地電極チップ38は、イリジウム合金で形成されているが、イリジウムとは異なる貴金属、あるいは、該貴金属を主成分とする合金で形成されても良い。イリジウムとは異なる貴金属としては、たとえば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)が採用され得る。
(5)点火プラグの構成としては、図1で説明した構成に限らず、種々の構成を採用可能である。例えば、中心電極20のうちの間隙gを形成する部分に、電極チップを設けても良い。電極チップの材料としては、イリジウムや白金等の貴金属を含む合金を採用可能である。また、中心電極20の芯材22が省略されてもよい。
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
5...ガスケット、6...第2パッキン、7...第3パッキン、8...第1パッキン、9...タルク、10...絶縁体、11...第2縮外径部、12...軸孔、13...脚部、15...第1縮外径部、16...縮内径部、17...第1胴部、18...第2胴部、19...鍔部、20...中心電極、20s1...放電面、21...電極母材、22...芯材、23...頭部、24...鍔部、25...脚部、30、30b...接地電極、33...接地電極母材、33x...接地電極母材、33s1...第1面、33s2...第2面、38...接地電極チップ、38s1...放電面、38s2...大径面、39...固定部材、39s1...後端面、39s2...先端面、39s3...外側面、40...端子金具、41...キャップ装着部、42...鍔部、43...脚部、50...主体金具、51...工具係合部、52...ネジ部、53...加締部、54...座部、55...胴部、56...縮内径部、58...変形部、59...貫通孔、60...第1シール部、70...抵抗体、80...第2シール部、82...溶融部、100...点火プラグ、331、331b...先端部、332...接続端、333...自由端、335...貫通孔、335a...小径部分、335b...大径部分、335c...段部、381...チップ本体、381s...外側面、382...鍔部、g...間隙、LD...先端方向、BD...後端方向、FD...自由端方向、CD...接続端方向、BL...境界、CL...軸線、HL...凹部、PT1...第1部分、PT2...第2部分

Claims (6)

  1. 中心電極と、
    前記中心電極に面する第1面と前記第1面の裏面である第2面とを有すると共に、前記第1面から前記第2面まで貫通し、前記第2面における第2の径が前記第1面における第1の径より大きな貫通孔を有する接地電極母材と、
    前記中心電極との間に間隙を形成し、前記第1の径より小さな径を有する放電面と、前記第1の径より大きく、前記第2の径より小さな径を有すると共に、前記放電面の裏面である大径面と、を有し、前記大径面を含む一部が前記貫通孔内に配置され、前記放電面が前記貫通孔から前記中心電極側に露出する接地電極チップと、
    前記大径面から前記放電面に向かう方向を第1方向とすると共に、その反対方向を第2方向としたとき、前記貫通孔内における前記大径面より前記第2方向側の部分に配置される固定部材と、
    を備え、
    前記貫通孔を形成する前記接地電極母材の内面と、前記固定部材の前記第1方向側の面と、によって前記接地電極チップが保持される点火プラグであって、
    前記固定部材のうち前記貫通孔内に配置された部分の、前記第1方向に沿った最大長さは、前記接地電極母材の前記貫通孔が形成されている部分の前記第1方向に沿った最大長さの50%以上であり、
    前記固定部材の中心軸を通り、かつ、前記第1方向に沿う断面において、前記接地電極母材と前記固定部材とを跨ぐように設けられた溶融部を有し、
    前記断面において、前記接地電極母材と前記固定部材との境界における前記溶融部の第1方向側の端から、前記第2面までの前記第1方向に沿った長さは、前記固定部材のうち前記貫通孔内に配置された部分の、前記第1方向に沿った最大長さの50%以上であることを特徴とする点火プラグ。
  2. 請求項1に記載の点火プラグであって、
    前記接地電極チップは、前記放電面を含むチップ本体と、前記チップ本体の径より大きな径を有し、前記チップ本体より前記第2方向側に位置し、前記大径面を含む鍔部と、を有し、
    前記貫通孔は、前記放電面より大きく、かつ、前記鍔部より小さな径を有する小径部分と、前記小径部分より前記第2方向側に位置し、前記鍔部より大きな径を有する大径部分と、を含み、
    前記接地電極母材には、前記貫通孔内における前記小径部分と前記大径部分との間に位置する段部が形成され、
    前記鍔部の前記第1方向側の面は、前記段部によって支持されることを特徴とする、点火プラグ。
  3. 請求項2に記載の点火プラグであって、
    前記鍔部の径に対する前記チップ本体の前記第2方向の端の径の比率は、76%以上、かつ、95%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
  4. 請求項1から3のいずれか一項に記載の点火プラグであって、
    前記中心電極を保持する絶縁体と、
    前記絶縁体の径方向の周囲に配置された主体金具と、
    を有し、
    前記接地電極母材は、前記主体金具に接続された端である接続端を有し、
    前記接地電極チップの中心から前記接続端に向かう方向に延びる仮想線と交差する位置における前記溶融部は、前記接地電極チップに到達していることを特徴とする、点火プラグ。
  5. 請求項4に記載の点火プラグであって、
    前記接地電極母材は、前記接続端とは反対側に、前記主体金具に接続されない端である自由端を有し、
    前記接地電極チップの中心から前記自由端に向かう方向に延びる仮想線と交差する位置における前記溶融部は、前記接地電極チップに到達していないことを特徴とする、点火プラグ。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の点火プラグであって、
    前記接地電極チップは、イリジウム、および、イリジウム合金のうちのいずれかであることを特徴とする、点火プラグ。
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