JP2017101688A - 原子力設備用配管、原子力設備用配管継手構造および原子力設備用流体輸送装置 - Google Patents

原子力設備用配管、原子力設備用配管継手構造および原子力設備用流体輸送装置 Download PDF

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Abstract

【課題】
原子力設備特有の放射線に対する耐性が強く、放射性物質を含む流体の輸送、ならびに高放射線量下での流体の輸送を長期間、安全に実施できる配管の構成を提供し、それにより放射性物質を含む流体の輸送設備を提供する。
【解決手段】
原子力関連施設に用いる移送用配管としてポリエチレン管を用い、前記ポリエチレン管として放射性物質と接する内側には高密度架橋ポリエチレン管を、継手と接する外側には厚さ1mm以上3mm以下の非架橋ポリエチレン層を用い、前記非架橋ポリエチレン層を熱溶着させた二層構造とする原子力設備用冷却水輸送配管を使用する。これにより、高い放射線線量下でも高い耐圧性を維持することができ、継手とのエレクトロフュージョンによる接合も容易で、継手との接合不良もない。これによって原子力プラントの放射性物質の移送に係るシステム全体の信頼性と安全性の向上に資することができる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、ポリエチレン製の配管部材に関し、詳しくは原子力関連施設等において、放射性物質及び塩分を含む流体の輸送、もしくは高放射線量下での塩分を含む流体の輸送に用いる配管及び継手構造に関する。
原子力関連施設で、放射性物質を含む流体の輸送もしくは高放射線量下での流体の輸送を長期間、安全に実施できる樹脂製配管が求められている。従来、放射性物質を含む流体の輸送、もしくは高放射線量下での流体の輸送には鋼管が使用されてきたが、空間的、時間的制約が多い中では、工数の多さ、必要機材の多さから考えると鋼管敷設は必ずしも適切とはいえない。また、原子力設備で使用する場合、放射線の環境に置かれるため、高い耐放射線性が要求される。放射性物質を含む流体を輸送する場合、配管からの漏えい事象等を発生させてはならないからである。
長距離配管としては、水道用配管として使用されている高密度ポリエチレン配管が知られている。しかしながら、高密度ポリエチレンは鋼管とは異なり耐放射線性に劣る欠点を有している。一般に高分子材料は、放射線が作用すると分子が励起され、結合が切断して分解することが知られている。放射線が高密度ポリエチレンに作用すると、水素ラジカルや炭化水素ラジカルが生成する。このラジカルは反応性が高く、ラジカル同士が結合したり(再結合)、ラジカルが元素を引き抜いて別のラジカルを生成させたり(引き抜き反応)、ラジカルが二重結合の隣に付加したり(付加反応)、ラジカル同士が結合すると同時に分子鎖が切断されたり(不均化反応)する。
再結合や付加反応は架橋と呼ばれる分子量の増大をもたらすが、不均化反応は崩壊と呼ばれる分子量の減少をもたらす。崩壊も架橋も弾性が低下して、衝撃や屈曲に対する抵抗性が低下する、脆くなるなどの物性の変化が生じるため、配管として使用する場合、亀裂が入る、あるいは破裂するなどの不具合を生じる懸念がある。
配水管用ポリエチレンもまた、同様である。配水管用ポリエチレンは高分子量領域を増加、結晶構造を繋ぐタイ分子を増やすことで長期静水圧強度と耐環境応力き裂性を向上させている。放射線環境下では結晶領域の分子鎖はあまり影響を受けないが、非晶部、即ち、タイ分子鎖の酸化切断が進行する。タイ分子鎖の切断が進むと、外部応力が加えられた際に樹脂内で応力集中が起こり、長期静水圧強度や耐環境応力き裂性、衝撃特性が低下する。
また、配管は屋外の大気中で使用することが多い。酸素が存在する大気中では放射線が高密度ポリエチレンに作用すると、ラジカルが酸素に対して強い反応性をもつので、ラジカルと酸素が反応する。酸素は水素との親和性が高いので、これを引き抜いて過酸化ラジカル(ROO・)を生成し、酸化の伝播反応(連鎖反応)を開始する。例えば、化学反応式(1)のような反応が進行することが知られている。
Figure 2017101688
この過酸化ラジカルは反応性に富み、他の分子から水素を引き抜いて、化学反応式(2)のように過酸化物(ROOH)とラジカル(R・)に変化する。
Figure 2017101688
新たに発生したラジカル(R・)は酸素存在下で、化学反応式(1)によりまた新たなパーオキシラジカル(ROO・)を形成する。過酸化物(ROOH)も不安定なため、化学反応式(3)〜化学反応式(5)に示すように分解して結果的にパーオキシラジカル(ROO・)、オキシラジカル(RO・)やラジカル(R・)が形成される。
Figure 2017101688
Figure 2017101688
Figure 2017101688
この様に、最初に発生した一つのラジカル(R・)がパーオキシラジカル(ROO・)を経て、新たなラジカルを多数増殖させることとなり、連鎖的に酸化の伝播反応(連鎖反応)が進行する。これにより、益々、分子構造の分解(架橋や崩壊)が促進される。
原子力関連施設においては、移送用配管は多くの場合、放射性物質を含む水や海水を移送する。また、屋外で使用する場合、配管は雨が直接あたる環境に施工されている。そのため、配管の内部、及び外部からの水の影響も考慮しなければならない。一般に放射線環境下における水分の影響は、原子力ケーブルに使用される絶縁体のLOCA(Loss of Coolant Accident)の模擬試験でも検討されているように劣化が厳しいことが分かっている。
特に、雰囲気中に水分が存在する場合、前述の酸化により生成した過酸化物(ROOH)が水中のプロトン(水素イオン)の影響で解離してカルボニル基(>C=O)と水を生成し、分子鎖中の水素を遊離する触媒反応が進行することが知られている。生成したカルボニル基(>C=O)は分子鎖を切断してラジカルになり易いこと、さらにカルボニル基に隣接する水素が引き抜かれ易いことから、酸化劣化が促進されると考えられている。
さらに放射線環境下ではオゾンが生成することが知られている。オゾンは分子鎖に二重結合を持つ高密度ポリエチレンに対して強く作用する。例えば、二重結合部にオゾンが攻撃するとオゾナイドが形成され、これが不安定であるため、O−O結合が切断されてアルデヒドやケトン、エステル、ラクトン、過酸化物等を形成する。オゾンによる分子構造の分解は、微小のクラック(オゾンクラック)を形成させることが知られている。特に、1MPaの配管圧力がかかる場合、常に伸長された状態となっており、これがオゾンの浸透率を高めるとともに応力集中によってオゾンクラックが成長し、破裂につながる懸念がある。
移送用配管は高温の放射性物質を含む流体を移送する場合もある。前述した分子構造の分解をもたらす様々な素反応は、分子運動、即ち、振動や衝突確立と関係する。分子運動は高温になるほど激しくなるため、分解反応が加速され、劣化は著しい.特に、酸化反応を伴う系では、温度は試料中の酸化層厚さ、酸素の拡散速度、酸化分解の反応速度に影響を及ぼすことが分かっており、酸化による分解が益々加速される。一般に、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍になる。このように、高温の放射性物質を含む流体を移送すると酸化劣化が加速され、分子構造が容易に分解する。
前述のような分子構造の変化は、弾性率の低下、引張強さの低下、伸びの低下など種々な特性の低下に繋がる。これらの特性が低下すると、配管に亀裂や微小なクラックが入る、あるいは破裂するなどの不具合を生じる。原子力関連施設等において使用する場合、放射性物質の移送、並びにシステム全体に支障をもたらすなどの問題が発生する懸念がある。そのため、このような分子構造の分解を抑制する必要がある。
原子力関連施設における輸送設備では、移送用配管は、数十〜数百本の配管が張り巡らされ、複数の汚染水滞留エリアと接続されている。これらの配管の全長は約10km〜20km程度ある。このように長い距離を亀裂や微小なクラックが発生していないか点検するのは容易ではなく、膨大な時間を要する。また、点検漏れが発生する懸念もある。一旦、配管に不具合が認められた場合、配管全体を交換しなければならず、そのために多くの時間と労力を費やさねばならない。また、配管交換のためにシステムを停止せざるを得なくなり、全体のシステムに多大な支障をきたす。そのため、長寿命の移送配管を得ることは、システム全体の安定性を向上させる上でも非常に重要であり、そのような配管が求められていた。
また、原子力関連施設における輸送設備では、移送用配管の施工性も重要である。広い敷地内で地面のサポートなく、数十〜数百本の配管を施工するには、鋼管では難しく、可撓性(可とう性)に優れた樹脂製配管が施工性に優れていることから使用されている。樹脂製の配管と配管の接合部は、電極が埋め込まれた同種の樹脂製継手を使って継手と配管を加熱融着させるエレクトロフュージョン法が用いられる。しかし、漏えいで懸念される事象としては、継手の融着部が劣化して配管が抜ける、あるいは裂けるといった不具合である。特に高線量の放射線環境下では分子内に生成したラジカル同士が結合する再結合により、架橋が進行する。ポリエチレンの場合、架橋が進行すると溶解できなくなることが分かっており、高線量の放射線環境下では、エレクトロフュージョンによる継手の接合が極めて困難になる。そのため、高い放射線環境下においても、信頼性の高い配管と継手の接合精度が重要であり、そのような配管と継手構造が求められていた。
また、原子力設備で使用される配管では、水道配管で用いられているような耐圧性や硬度が必要となる。そのため、耐圧性や硬度の低い低密度ポリエチレンではなく、高密度ポリエチレンを使用する必要がある。しかし、高い線量の放射線に対する耐性を備える高密度ポリエチレン配管の構造がどのようなものであるか分かっていなかった。
本技術分野の背景技術として、特許文献1のような技術がある。特許文献1には、原子力発電プラントの海水系冷却配管が記載されている。配管内面の腐食を防止するため、ポリエチレン等の樹脂により配管内壁がライニングされて保護されている。しかしながら、基本的には鋼管であるため、工数がかかり、ポリエチレン管のような簡便な工事は難しい。また、継手の数が多いこと、継手が鋼管であることなどから、施工に時間がかかるため、作業者の被爆が懸念される。
また、特許文献2には、架橋熱可塑性樹脂からなる内層とこの内層の外側に一体的に形成され、かつカーボンブラックを配合した架橋または非架橋熱可塑性樹脂からなる外層とを有することを特徴とする温水配管用多層パイプが開示されている。これは外層にカーボンブラックを配合することで、太陽光の紫外線などによる樹脂の劣化を抑制すると同時に、内層にはカーボンブラックを配合しないため、塩水で剥離等の劣化が生じない。また、高温水への仕様が可能な点も特徴である。しかしながら、内層及び外層が放射性の環境に暴露されるとは想定されておらず、高い線量の放射線に対する耐性を備えているかは不明である。
また、特許文献3では、管状の架橋熱可塑性樹脂層およびこの熱可塑性樹脂層の外側に一体的に形成された非架橋熱可塑性樹脂層を有するパイプ本体とこのパイプ本体の外表面を被覆する非相溶性の樹脂からなる保護層との一体成型品からなることを特徴とするエレクトロフュージョン用パイプを使用することにより、大気あるいは太陽光などによるパイプ本体の表面の劣化が抑制できるとともに、汚れ、傷等から保護できる。しかしながら、内層、及び外層が放射性の環境に暴露されるとは想定されておらず、特許文献2同様に、高い線量の放射線に対する耐性を備えているかは分かっていない。さらに、この保護層は継手との溶着性は兼ね備えておらず、この保護層と継手とを直接、エレクトロフュージョンにより接合することはできない。
特開2000−199799号公報 特開平3−24393号公報 特開平3−24392号公報
本発明の課題は、原子力設備特有の放射線に対する耐性が強く、放射性物質を含む流体の輸送、ならびに高放射線量下での流体の輸送を長期間、安全に実施できるポリエチレン配管を提供し、それにより放射性物質を含む流体の輸送を可能とすることにある。
本発明は、原子力関連施設に用いる移送用配管として、
(1)高密度架橋ポリエチレン管の外表面に、厚さ1mm以上、3mm以下の非架橋ポリエチレン層を熱溶着した二重構造を有するポリエチレン管を用いることを特徴とする。
(2)高密度非架橋ポリエチレンからなる継手と前記ポリエチレン管の外表面の非架橋ポリエチレン層と120℃以上210℃以下の温度で融着して一体化させた原子力設備用流体輸送装置用ポリエチレン管及び継手であることを特徴とする。
(3)前記非架橋ポリエチレン層として低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれかを使用することを特徴とする原子力設備用冷却水輸送配管であることを特徴とする。
(4)上記のポリエチレン管を用いて、放射性物質及び塩分を含む、常温、且つ内圧1MPa以下の内部流体を輸送する、放射線環境下に設置される原子力設備用流体輸送装置であることを特徴とする。
これにより、長寿命の配管及び継手を提供するものである。さらに、原子力関連設備内で信頼性と安全性の高い輸送設備を提供するものである。
本発明により、放射性物質を含む流体の輸送もしくは高放射線量下での流体の輸送を長期間、安全に実施することが可能となる。
具体的には、高い放射線環境の下、大気中の酸素、雨や移送流体中の水分、放射線により発生するオゾン、高温の流体を移送することによってもたらされる高い温度条件においても、配管を構成しているポリエチレンが劣化し難く、亀裂や微小クラックが入る、あるいは破裂するなどの不具合を生じることなく、長期間使用することができる。
また、放射線によるタイ分子の切断が起こっても、長期静水圧強度や耐環境応力き裂性、衝撃特性が低下することなく、健全性が維持される。
さらに、配管の交換の必要がないため、原子力プラントの放射性物質の移送に係るシステム全体の信頼性と安全性の向上に資することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
本発明の一実施形態に係る原子力設備用配管の斜視図である。 図1AにおけるA−A’断面図である。 本発明の一実施形態に係る原子力設備用配管継手構造を示す図である。 本発明の一実施形態に係る二層構造の配管(パイプ)の熱融着温度とγ線吸収線量の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る二層構造の配管(パイプ)の外層の厚みとγ線吸収線量の関係を示すグラフである。 本発明の一実施形態に係る原子力設備用流体輸送装置の概要を示す図である。
本発明者らが鋭意検討した結果、放射線の高線量環境下では高密度ポリエチレン管は、タイ分子の酸化分解が進行してこの部分の結合が脆弱化し、内面と外面の表層に無数のクラックが生成して、これが破断の起点となること、特に、密度が高ければ高いほど、タイ分子が少なくなり、放射線に対する寿命を短くしていることが分かった。しかし、低密度の配管を用いると、強度が低いために1MPaの水圧に耐えられない。そこで、本発明では、高密度ポリエチレンの少ないタイ分子鎖の間を架橋構造で強化することにより、放射線による酸化分解を抑制し、寿命を延長させることに成功した。
一方、高密度架橋ポリエチレンは未架橋の状態で継手と熱融着させなければならないが、室温放置でも空気中の水分と反応して架橋が進み、融解し難くなる。加えて、高線量の放射線環境下では、発生するラジカルの再結合が原因で、通常よりも架橋が進行し易い。そのために原子炉建屋及びその周辺では、融着作業が円滑に進行しない、さらには、作業効率が上がらず、作業者の被爆量にも影響する等の不具合が生じる。本発明では、継手との熱融着作業が最も容易な非架橋のポリエチレン層を架橋ポリエチレンの外側に設けることにより、これを解決した。
さらに、継手は高密度非架橋ポリエチレンで構成されていることが好ましい。これにより、継手本体と継手の融着層、並びに、配管の外層が熱融着により、しっかり接合されるため、接合不良を回避することができる。
外層は継手の接合の際に融解出来ればよく、継手と接合していない部分は、外層を備えていなくてもよい。また、外層は継手の接合の際に融解出来る厚さ、即ち、1mmから3mmの極薄い層があればよい。外層の厚さが1mm未満場合には、継手との熱融着による接合が不十分となり、好ましくない。また、外層の厚さが3mmを超えた場合には、外層の可撓性(可とう性)が損なわれるため、高線量環境下で発生したクラックによる脆性割れを起こしやすい。
継手と接合していない部分の外層は、外気の酸素と接していることから、高線量環境下で酸化劣化が進行しやすいが、本発明の外層は、1mmから3mmの薄い層であるため、配管全体の強度を低下させるものではない。さらに、継手と接合していない部分の外層は、放射線により劣化しても架橋ポリエチレン管との界面でクラックの進展が止まるため、問題にならない。
以下、本発明の実施の態様を例示すると以下のとおりである。
本発明は、原子力関連施設に用いる移送用配管として高密度架橋ポリエチレン管の外表面に、厚さ1mm以上、3mm以下の非架橋ポリエチレン層を熱溶着した二重構造を有するポリエチレン管を用いる。架橋ポリエチレン管は高密度ポリエチレンよりも耐放射線性に優れる。これは、架橋ポリエチレンは複数の架橋分子によって3次元のネットワーク構造を作っているためであり、これが分子構造の安定性を高め、放射線によって一部の架橋分子が切断されても全体の構造の安定性には大きな影響を及ぼさない。反対に、放射線によって架橋が再形成されるものもあり、全般に耐放射性に優れることが分かっている。
これに対し、高密度ポリエチレンは結晶化度が高いため、結晶部が多く、結晶と結晶を繋ぐ非晶部は少ない。非晶部は結晶と結晶をつなぐ分子鎖の部分であり、放射線によって切断され易いために構造が弱くなることが分かっている。
高密度非架橋ポリエチレンからなる継手と高密度架橋ポリエチレン管の外表面の非架橋ポリエチレン層と120℃以上210℃以下の温度で融着して一体化させたポリエチレン管及び継手の接合構造が好ましい。放射性物質と接する内側には、架橋ポリエチレン管を使用することで耐放射線性を向上させることができる。ポリエチレンの融点は120℃〜130℃である。融点以上の温度に上げることで、継手とポリエチレン管の外表面のポリエチレン層を共に溶解させて熱融着させる。
これにより、継手と配管との接合強度を上げることができるため、配管のはずれ等の不具合を解消することができる。そのための温度として、120℃以上210℃以下が好ましい。210℃を超えると、ポリエチレン管の熱劣化が著しくなり、好ましくない。また、120℃未満では、融点よりも低いため、熱融着できず、好ましくない。
非架橋ポリエチレン層としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれかを使用することができる。これらはいずれも、非架橋であるため、熱融着が可能である。また、密度が低いほど耐放射線性に優れるため、好ましい。さらには、強度を担保する必要がないため、密度は低くてもよい。
放射性物質及び塩分を含む、常温、且つ内圧1MPa以下の内部流体を輸送する、放射線環境下に設置される原子力設備用流体輸送装置とする。
本発明のポリエチレン管は外気の高い放射線や紫外線、大気中の酸素や雨、放射線により発生するオゾンに対しても高い耐性を示し、分子構造の分解による亀裂やオゾンクラックが発生することがない。また、夏場の強い紫外線と放射線の複合作用に対しても高い耐性を示す。このような環境でのクラックの発生確率が低くなり、破断に繋がる危険性を下げることができる。
本発明のポリエチレン管は、継手との熱融着性に優れるため、接合不良がなく、継手及び配管の耐久性に優れる。
本発明のポリエチレン管は、高線量の放射性物質を含む水や海水、さらに高温の流体を移送している。タイ分子構造の分解が起こっても亀裂が発生することがない。また、冬場の低温環境において流体が凍結した場合にも、衝撃によるクラックの発生確率が低くなり、破断に繋がる危険性を下げることができる。
また、原子力関連設備内で、ポンプと配管からなる流体輸送設備において、本発明のポリエチレン管を使用した輸送設備の場合、ホース(配管)を交換することなく、5年間の連続使用が可能である。
これにより、当該設備を構築する上で、時間的、空間的制約による影響を配管施工に関しては最小限に抑えることができる上、放射性物質を扱う設備として、一定の安全性の担保ができる。
さらには、継手との接合作業が短時間で完了するため、作業者の被爆量の低減が図れる。
(実施形態)
表1に示す構成のポリエチレンを主材料とする配管に対して、放射線を照射して引張試験を実施した。引張試験は日本水道協会規格「水道配水用ポリエチレン管/JWWA K 144」に準拠した。
Figure 2017101688
以下に試験の詳細を示す。
[放射線照射試験]
照射試験は、Co60線源から放出されるγ線を1kGy/hの線量率で照射した。照射時間は50h、100h、150h、200h、250hである。吸収線量は50kGy、100kGy、150kGy、200kGy、250kGyとした。
[引張試験]
試験機は、最大の引張力を指示する装置を備え、ダンベル状の試験片を締めるつかみ具を備えるJIS B7721に記載の装置を使用した。試験片はパイプと継手をエレクトロフュージョン法により熱融着させた後に接合部分からダンベル試験片を切り出して使用した。ダンベル試験片の厚さと平行部の幅を測定し、さらに伸び測定用の標線を平行部分の中心部に付けた後に、20mm/minで引張試験機を用いて室温で引張試験を行った。標線間距離は20mmである。引張試験では破断時の伸びを測定した。破断時の伸びは、試験片が破断に至るまでの標線間の長さを測定した。また、破断時の伸びは次の式(1)によって算出した。
Figure 2017101688
EB:破断時の伸び(%),L0:標線間距離(mm),L1:破断時の標線間距離(mm)
機械的特性の指標として、破断時伸びで示した。また、合否判定基準は破断時伸びが初期値の50%以上とした。
以下、本発明のパイプ作製に好適な一実施の形態について説明する。
高密度ポリエチレンは、エチレンを槽状反応器に導入し、メタロセン触媒、チーグラー触媒、フィリップス触媒等を用いて、低圧(反応圧力:5〜200kgf/cm)、及び低温(反応温度:60〜100℃)下で重合させて得られた、結晶化度が62.1〜81.6%と高く、密度が0.94〜0.97g/cmの分岐を有さない重合体である。メルトフローレート(MFR)が0.1g/10mim以上3g/10mim以下、特に0.2〜0.5g/10mim以下のものが好ましい。
上記混練機としてはバンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸混練機、ロータ型二軸混練機、ブスコニーダー等が使用できるが、特に限定されない。混練温度は、120℃〜180℃が望ましい。この範囲であれば機械的負荷が大きくならず加工が容易であり、材料が分解することがない。
パイプ用ポリエチレン樹脂組成物の押出成形を行う。パイプ用ポリエチレン樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂100重量部に対して酸化チタンを0.1〜5重量部の範囲で含有している。パイプ製造装置のホッパーには、ポリエチレン樹脂ペレットをドライブレンドしながら供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押出し、冷却しパイプとする。
別の方法としては、事前に、マスターバッチペレットとポリエチレン樹脂ペレットを、ペレット製造装置のホッパーに投入し、溶融混練し、溶融樹脂組成物を多数の孔(直径3mm程度)が開けられているステンレス円盤を通過させ水中にうどん状に押出し、円盤面に平行に設置されている回転するナイフによって長さ3mm程度に切断し、パイプ用ポリエチレン樹脂組成物ペレットとして貯蔵する。しかる後、高密度ポリエチレン層を製造するとき、上記のパイプ用ポリエチレン樹脂組成物ペレットをパイプ製造装置のホッパーに供給し、押出機中で加熱溶融し、ダイスから円筒状に押出す。これを内側のパイプ本体と一体化させた後に冷却する。
上記パイプ用エチレン系樹脂組成物をパイプ形状に成形するには、該組成物を例えば150℃〜230℃の温度で押出機からダイスを通して押出し、サイジングを行った後、冷却水槽で冷却し、引取り機を通して切断または巻取る方法が挙げられる。押出機としては単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機等が挙げられる。ダイスはストレートヘッドダイス、クロスヘッドダイス、オフセットダイス等いずれのタイプのものも利用できる。サイジング方法は、サイジングプレート法、アウトサイドマンドレル法、サイジングボックス法、インサイドマンドレル法等のいずれの方法も利用できる。
架橋ポリエチレン樹脂には、シラン架橋ポリエチレン樹脂を使用した。シラン架橋ポリエチレンでは、蒸気槽またはパイプ内部に温水を通水させて架橋することができ非常に効率的である。ポリエチレン樹脂100重量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2重量部、ジクミルパーオキサイド0.2重量部を混合した樹脂組成物を200℃で押出成形した架橋ポリエチレン管のパイプ本体を得た。
以下、図面を用いて本発明の実施例をより具体的に説明する。なお、各図面および各実施例において同一又は類似の構成要素については同じ符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明を省略する。
マスターバッチペレット、又はポリエチレン樹脂ペレットに以下に示す添加剤を添加して高密度架橋ポリエチレンパイプを作製した。まず、チーグラー触媒を使用して製造された高密度ポリエチレン(密度0.95g/cm,メルトフローレート0.5g/10分)を100重量部として秤量する。これに、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジフォスフォナイト(サンド社−テトラキス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバガイギー社製,商品名:Irganox 1010)0.05重量部と酸化チタン0.5重量部を配合した。これをバンバリーミキサーで温度150℃、10分間混練してから造粒してペレットとする。これにビニルトリメトキシシラン2重量部、ジクミルパーオキサイド0.2重量部を加えて高密度架橋ポリエチレンパイプを成型した。
一方、マスターバッチペレット、又はポリエチレン樹脂ペレットに以下に示す添加剤を添加して薄型の高密度非架橋ポリエチレンパイプを作製した。まず、チーグラー触媒を使用して製造された高密度ポリエチレン(密度0.95g/cm,メルトフローレート0.5g/10分)を100重量部として秤量する。これに、テトラキス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジフォスフォナイト(サンド社−テトラキス〔3−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(チバガイギー社製,商品名:Irganox 1010)0.05重量部と酸化チタン0.5重量部を配合した。これをバンバリーミキサーで温度150℃、10分間混練してから造粒してペレットとする。
これを用いて内側のパイプよりも径の大きい外層パイプを成型した。高密度非架橋ポリエチレン層を成形した。前記の高密度架橋ポリエチレンパイプの上に、高密度非架橋ポリエチレンの外層パイプを押し出し成型して熱溶着させた二層構造のパイプを作製した。図1Aおよび図1Bにその構造を示す。図1Bは図1AにおけるA−A’断面を示している。符号1は上記で説明した高密度架橋ポリエチレンパイプ(内層パイプ)であり、符号2は高密度非架橋ポリエチレン層(外層パイプ)である。
さらに、高密度非架橋ポリエチレンからなる継手を用いてエレクトロフュージョン法によりパイプと継手を熱融着させる。図2にその構造を示す。得られた内層パイプ1および外層パイプ2と継手3の接合部からダンベル形状に切り出した試験片を作製し、これをγ線照射させて引張試験により破断伸びを測定した。図3はこのときの熱融着温度を横軸に、縦軸を引張試験の破断時伸びが初期の1/2に到達する吸収線量を縦軸にプロットした図である。図3では縦軸の吸収線量が高くなるほど、パイプ材料が伸びやすく破断し難い。従って、熱融着温度は120℃〜210℃の範囲がよく、より好ましくは180℃〜200℃である。
図4は横軸に高密度非架橋ポリエチレン層2(外層パイプ)の厚みを、縦軸を引張試験の破断時伸びが初期の1/2に到達する吸収線量をプロットしたグラフである。図4においても縦軸の吸収線量が高くなるほど、パイプ材料が伸びやすく破断し難い。従って、高密度非架橋ポリエチレン層2(外層パイプ)の厚みは1mm〜3mmの範囲とすることがより好ましい。
なお、図2では、2本の二層構造のパイプ同士を継手3により連結する例を示したが、継手により連結されるパイプの数はこれに限定されるものではなく、3本以上の二層構造のパイプ同士を連結する構成としてもよい。
実施例1の外層パイプ2の原料である高密度ポリエチレン(密度0.95g/cm)の代わりに中密度ポリエチレン(密度0.94g/cm)、低密度ポリエチレン(密度0.92g/cm)を用いて外層パイプ2を作製し、高密度架橋ポリエチレンパイプ本体に一体化させたパイプを作製した。表1に、外層の非架橋ポリエチレン層2として低密度、中密度、高密度のポリエチレンを使用した場合の引張試験の破断時伸びが初期の1/2に到達する吸収線量を示す。いずれも、外層の非架橋ポリエチレン層がない場合に比べて耐放射線性が優れていることを示している。
なお、外層パイプ2に加え、継手3も高密度ポリエチレンの代わりに上記の中密度ポリエチレンや低密度ポリエチレンを用いて図2に示すような配管継手構造を作製してもよい。
また、各ポリエチレンの密度は、低密度ポリエチレンの密度が0.91g/cm〜0.93g/cm(910kg/m〜930kg/m)程度、中密度ポリエチレンの密度が0.93g/cm〜0.942g/cm(930kg/m〜942kg/m)程度、高密度ポリエチレンの密度が0.942g/cm(942kg/m)程度以上である。
実施例1〜実施例2のパイプを用いた原子力設備用流体輸送装置の一例を図5に示す。本実施例の原子力設備用流体輸送装置9は、タンク13内に貯留された放射性物質を含んだ液体12を移送先設備15に移送するよう構成されている。タンク13と移送先設備15は、ポンプ11を介して実施例1或いは実施例2で説明した配管(放射性物質及び塩分を含む内部流体を輸送する配管10)により接続されている。また、配管同士を連結するフランジ14には、実施例1或いは実施例2で説明した配管継手構造を用いている。
図5に示すように、原子力関連施設内において、移送用配管や配管継手構造として組成と厚みの異なる二層のポリエチレンを使用することにより、高線量の内部流体を輸送する設備であっても高い耐圧性を維持することが可能である。また、5年以上の配管寿命が得られることを確認している。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
本発明は、原子力関連施設に用いる移送用配管として、組成と厚みの異なる二層のポリエチレンを使用することにより、高い放射線線量下でも高い耐圧性を維持することができ、かつ長寿命の配管を提供するものであり、これによって原子力プラントの放射性物質の移送に係るシステム全体の信頼性と安全性の向上に資することができる。
1…高密度架橋ポリエチレン管(内層パイプ)、2…高密度非架橋ポリエチレン層(外層パイプ)、3…継手、9…原子力設備用流体輸送装置、10…放射性物質及び塩分を含む内部流体を輸送する配管、11…ポンプ、12…放射性物質を含んだ液体、13…タンク、14…フランジ、15…移送先設備。

Claims (15)

  1. 原子力関連施設に用いられる原子力設備用配管であって、
    前記原子力設備用配管は、高密度架橋ポリエチレン管の外表面が非架橋ポリエチレン層で覆われた二層構造であることを特徴とする原子力設備用配管。
  2. 請求項1に記載の原子力設備用配管であって、
    前記非架橋ポリエチレン層は、当該非架橋ポリエチレン層の熱溶着により前記高密度架橋ポリエチレン管の外表面と接合されていることを特徴とする原子力設備用配管。
  3. 請求項1または2に記載の原子力設備用配管であって、
    前記非架橋ポリエチレン層の厚みは、1mm以上3mm以下であることを特徴とする原子力設備用配管。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の原子力設備用配管であって、
    前記非架橋ポリエチレン層は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれかであることを特徴とする原子力設備用配管。
  5. 請求項2に記載の原子力設備用配管であって、
    前記非架橋ポリエチレン層は、120℃以上210℃以下の温度による熱溶着で前記高密度架橋ポリエチレン管と接合されていることを特徴とする原子力設備用配管。
  6. 原子力関連施設に用いられる原子力設備用配管継手構造であって、
    前記原子力設備用配管継手構造は、高密度非架橋ポリエチレンからなる継手により、高密度架橋ポリエチレン管の外表面が非架橋ポリエチレン層で覆われた二層構造の配管を少なくとも2本以上連結することを特徴とする原子力設備用配管継手構造。
  7. 請求項6に記載の原子力設備用配管継手構造であって、
    前記原子力設備用配管継手構造は、前記継手の熱溶着により前記二層構造の配管同士を連結することを特徴とする原子力設備用配管継手構造。
  8. 請求項7に記載の原子力設備用配管継手構造であって、
    前記継手は、120℃以上210℃以下の温度による熱溶着で前記二層構造の配管を連結することを特徴とする原子力設備用配管継手構造。
  9. 請求項6から8のいずれか1項に記載の原子力設備用配管継手構造であって、
    前記継手は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれかにより形成されていることを特徴とする原子力設備用配管継手構造。
  10. 原子力関連施設に用いられる原子力設備用流体輸送装置であって、
    前記原子力設備用流体輸送装置は、放射性物質を含む流体を貯留するタンクと、
    前記放射性物質を含む流体を受容する移送先設備と、
    ポンプを介して、前記タンクと前記移送先設備を連結する原子力設備用配管と、を備え、
    前記原子力設備用配管は、高密度架橋ポリエチレン管の外表面が非架橋ポリエチレン層で覆われた二層構造であることを特徴とする原子力設備用流体輸送装置。
  11. 請求項10に記載の原子力設備用流体輸送装置であって、
    前記非架橋ポリエチレン層は、当該非架橋ポリエチレン層の熱溶着により前記高密度架橋ポリエチレン管の外表面と接合されていることを特徴とする原子力設備用流体輸送装置。
  12. 請求項10または11に記載の原子力設備用流体輸送装置であって、
    前記非架橋ポリエチレン層の厚みは、1mm以上3mm以下であることを特徴とする原子力設備用流体輸送装置。
  13. 請求項11に記載の原子力設備用流体輸送装置であって、
    前記非架橋ポリエチレン層は、120℃以上210℃以下の温度による熱溶着で前記高密度架橋ポリエチレン管と接合されていることを特徴とする原子力設備用流体輸送装置。
  14. 請求項10から13のいずれか1項に記載の原子力設備用流体輸送装置であって、
    前記原子力設備用配管は、少なくとも2本以上の前記二層構造の配管同士が高密度非架橋ポリエチレンからなる継手により連結されていることを特徴とする原子力設備用流体輸送装置。
  15. 請求項14に記載の原子力設備用流体輸送装置であって、
    前記継手は、120℃以上210℃以下の温度による熱溶着で前記二層構造の配管同士を連結することを特徴とする原子力設備用流体輸送装置。
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